(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】タイヤのプライステア残留コーナリングフォースを推定するシステム、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20240105BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
(21)【出願番号】P 2019215780
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 明大
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-294709(JP,A)
【文献】特開2003-194673(JP,A)
【文献】特開2005-049113(JP,A)
【文献】特開2017-150897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00 -19/12 、
G01M17/00 -17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一試験機による本試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースPS、コーナリングスティフネスCS、プライステアアライニングトルクAP、及び、アライニングトルクスティフネスATSの計測値を取得する取得部と、
コーナリングフォースがゼロになるスリップ角の試験機間での角度差Dc、及び、セルフアライニングトルクがゼロになるスリップ角の試験機間での角度差Dsを用いて、式(1)により、第二試験機による前記本試験タイヤのプライステア残留コーナリングフォースPRCFを推定する推定部と、
を備
え、
前記角度差Dcは、前記第一試験機による予備試験タイヤのコーナリングフォースがゼロになるスリップ角θ1cと、前記第二試験機による前記予備試験タイヤのコーナリングフォースがゼロになるスリップ角θ2cとの差(θ1c-θ2c)であり、
前記角度差Dsは、前記第一試験機による前記予備試験タイヤのセルフアライニングトルクがゼロになるスリップ角θ1sと、前記第二試験機による前記予備試験タイヤのセルフアライニングトルクがゼロになるスリップ角θ2sとの差(θ1s-θ2s)であり、
前記スリップ角θ1cが、前記第一試験機による前記予備試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースのコーナリングスティフネスに対する比として取得され、
前記スリップ角θ1sが、前記第一試験機による前記予備試験タイヤの、プライステアアライニングトルクのアライニングトルクスティフネスに対する比として取得され、
前記スリップ角θ2cが、前記第二試験機による前記予備試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースのコーナリングスティフネスに対する比として取得され、
前記スリップ角θ2sが、前記第二試験機による前記予備試験タイヤの、プライステアアライニングトルクのアライニングトルクスティフネスに対する比として取得され、
前記角度差Dc及び前記角度差Dsは、それぞれプライステア残留コーナリングフォースの異なる複数の前記予備試験タイヤにおける平均値に基づいて求められる、タイヤのプライステア残留コーナリングフォースを推定するシステム。
PRCF=PS-CS(AP/ATS)-CS(Ds-Dc) ・・・(1)
【請求項2】
第一試験機による本試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースPS、コーナリングスティフネスCS、プライステアアライニングトルクAP、及び、アライニングトルクスティフネスATSの計測値を取得し、
コーナリングフォースがゼロになるスリップ角の試験機間での角度差Dc、及び、セルフアライニングトルクがゼロになるスリップ角の試験機間での角度差Dsを用いて、式(1)により、第二試験機による前記本試験タイヤのプライステア残留コーナリングフォースPRCFを
推定し、
前記角度差Dcは、前記第一試験機による予備試験タイヤのコーナリングフォースがゼロになるスリップ角θ1cと、前記第二試験機による前記予備試験タイヤのコーナリングフォースがゼロになるスリップ角θ2cとの差(θ1c-θ2c)であり、
前記角度差Dsは、前記第一試験機による前記予備試験タイヤのセルフアライニングトルクがゼロになるスリップ角θ1sと、前記第二試験機による前記予備試験タイヤのセルフアライニングトルクがゼロになるスリップ角θ2sとの差(θ1s-θ2s)であり、
前記スリップ角θ1cが、前記第一試験機による前記予備試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースのコーナリングスティフネスに対する比として取得され、
前記スリップ角θ1sが、前記第一試験機による前記予備試験タイヤの、プライステアアライニングトルクのアライニングトルクスティフネスに対する比として取得され、
前記スリップ角θ2cが、前記第二試験機による前記予備試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースのコーナリングスティフネスに対する比として取得され、
前記スリップ角θ2sが、前記第二試験機による前記予備試験タイヤの、プライステアアライニングトルクのアライニングトルクスティフネスに対する比として取得され、
前記角度差Dc及び前記角度差Dsを、それぞれプライステア残留コーナリングフォースの異なる複数の前記予備試験タイヤにおける平均値に基づいて求める、タイヤのプライステア残留コーナリングフォースを推定する方法。
PRCF=PS-CS(AP/ATS)-CS(Ds-Dc) ・・・(1)
【請求項3】
請求項2に記載の方法を、1又は複数のプロセッサに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤのプライステア残留コーナリングフォースを推定するシステム、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両の直進性及び片流れ現象は、タイヤの残留コーナリングフォースの影響を受けることが知られている(例えば、特許文献1参照)。残留コーナリングフォースは、プライステア残留コーナリングフォースと、コニシティ残留コーナリングフォースとの二つの成分で構成される。本明細書では、プライステア残留コーナリングフォースを「PRCF(Ply steer Residual Cornering Force)」と呼ぶことがある。PRCFは、主にトレッドパターンやベルト角度に起因して生じる。
【0003】
PRCFは、公知のタイヤ試験機を用いて測定できる。しかし、同一形式の試験機を用いて同一のタイヤのPRCFを計測した場合でも、その結果が試験機間でばらつくことがある。即ち、或る試験機(第一試験機)を用いて計測したPRCFが、別の試験機(第二試験機)を用いて計測したPRCFと異なることがある。そのため、第一試験機で得られたPRCFを第二試験機で得られたPRCFと単純に比較することができず、タイヤ特性を評価する際の利便性が損なわれる。
【0004】
このような試験機間でのPRCFのばらつきは、一応の機差の調整(アライメント)を施しても避けられないものであった。プライステアコーナリングフォース(PS)とコーナリングスティフネス(CS)との大小関係からすると、試験機に取り付けたタイヤの僅かな(例えば0.01°レベルの)角度ずれがPRCFに影響を及ぼすと考えられ、これが理由の一つとして挙げられる。よって、0.001°レベルで角度を調整すれば対処できないこともないが、非常に煩雑な作業を強いられるため現実的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、第一試験機で得られた計測値に基づいて第二試験機で得られるPRCFを推定するシステム、方法及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のタイヤのプライステア残留コーナリングフォースを推定するシステムは、
第一試験機による本試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースPS、コーナリングスティフネスCS、プライステアアライニングトルクAP、及び、アライニングトルクスティフネスATSの計測値を取得する取得部と、
コーナリングフォースがゼロになるスリップ角の試験機間での角度差Dc、及び、セルフアライニングトルクがゼロになるスリップ角の試験機間での角度差Dsを用いて、式(1)により、第二試験機による前記本試験タイヤのプライステア残留コーナリングフォースPRCFを推定する推定部と、を備える。
PRCF=PS-CS(AP/ATS)-CS(Ds-Dc) ・・・(1)
【0008】
本開示のタイヤのプライステア残留コーナリングフォースを推定する方法は、
第一試験機による本試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースPS、コーナリングスティフネスCS、プライステアアライニングトルクAP、及び、アライニングトルクスティフネスATSの計測値を取得する取得し、
コーナリングフォースがゼロになるスリップ角の試験機間での角度差Dc、及び、セルフアライニングトルクがゼロになるスリップ角の試験機間での角度差Dsを用いて、式(1)により、第二試験機による前記本試験タイヤのプライステア残留コーナリングフォースPRCFを推定する。
PRCF=PS-CS(AP/ATS)-CS(Ds-Dc) ・・・(1)
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示におけるタイヤのPRCFを推定するシステムを示すブロック図
【
図2】システムで実行されるPRCF推定処理ルーチンを示すフローチャート
【
図3】タイヤのコーナリング特性を示すSA-CF,SA-SAT線図
【
図4】(A)第一試験機及び(B)第二試験機による予備試験タイヤのコーナリング特性を示すSA-CF,SA-SAT線図
【
図5】第一試験機によるPRCFの計測値と、第二試験機によるPRCFの計測値との関係を示すグラフ
【
図6】第二試験機で得られるPRCFの推定値と、第二試験機によるPRCFの計測値との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0011】
[タイヤのPRCFを推定するシステム]
図1に示すシステム1は、或る試験機(第一試験機)による計測値を受け付け、その計測値に基づいて、別の試験機(第二試験機)で得られるタイヤのPRCF(プライステア残留コーナリングフォース)を推定する。
【0012】
システム1は、本試験により第一試験機で得られた計測値を外部から取得する取得部10と、その計測値に基づいて第二試験機で得られるPRCFを推定する推定部11とを有する。また、本実施形態のシステム1は、第一試験機で得られた計測値に基づいてPRCFを算出するPRCF算出部12と、予備試験で得られた計測値を外部から取得する取得部13と、その取得部13が取得した計測値に基づいて角度差Dc,Dsを算出する角度差算出部14とを有する。これら各部10~14は、プロセッサ2、メモリ3、各種インターフェイスなどを備えたコンピュータにおいて、予め記憶されているPRCF推定処理ルーチン(
図2参照)をプロセッサ2が実行することにより、ソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。
【0013】
取得部10は、第一試験機による本試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースPS、コーナリングスティフネスCS、プライステアアライニングトルクAP、及び、アライニングトルクスティフネスATSの計測値を、ユーザによる操作またはネットワーク経由で取得する。取得部10は、取得した計測値のデータ(計測データ)をメモリ3に記憶する。これらの計測値は、第一試験機を用いたコーナリング試験により計測される。コーナリング試験は、所定の試験荷重とスリップ角を与えながらタイヤ軸を駆動し、試験路面上でタイヤを転動することにより実施される。
【0014】
図3に、コーナリング試験で得られるSA-CF曲線及びSA-SAT曲線の一例を示す。かかる線図は、コーナリングフォースCF[N]及びセルフアライニングトルクSAT[Nm]が、それぞれスリップ角SA[°]に略比例する範囲、例えばスリップ角SAが-0.5°~+0.5°の範囲で得られる。コーナリングフォースCFは、コニシティ成分を取り除いた値とするために、タイヤ回転方向を正転(例えば左回転)と逆転(例えば右回転)のそれぞれで計測し、それらの平均値が採られている。
図3では、コニシティ成分を含んだコーナリングフォースCFを破線で示している。セルフアライニングトルクSATも同様である。尚、本明細書において、中括弧内は単位を示す。
【0015】
プライステアコーナリングフォースPS[N]は、スリップ角SAがゼロのときのコーナリングフォースCFである。コーナリングスティフネスCS[N/°]は、コーナリングフォースCFの立ち上がり勾配であり、スリップ角SAが1°のときのコーナリングフォースCFとして求まる。プライステアアライニングトルクAP[Nm]は、スリップ角SAがゼロのときのセルフアライニングトルクSATである。アライニングトルクスティフネスATS[Nm/°]は、セルフアライニングトルクSATの立ち上がり勾配であり、セルフアライニングトルクSATがゼロになるスリップ角+1°のときのセルフアライニングトルクSATとして求まる。
【0016】
プライステア残留コーナリングフォースPRCF[N]は、セルフアライニングトルクSATがゼロになるスリップ角θs(=-AP/ATS)でのコーナリングフォースCFとして求まる。PRCF算出部12は、取得部10が取得した計測値を用いて、式(2)により、第一試験機による本試験タイヤのPRCFを算出する。
PRCF=PS-CS(AP/ATS) ・・・(2)
【0017】
このようにして第一試験機による本試験タイヤのPRCFが得られるものの、この本試験タイヤのPRCFを第二試験機で計測すると、その結果が試験機間でばらつくことがある(
図5参照)。そのため、複数の試験機で得られたPRCFを単純に比較することができず、タイヤ特性を評価する際の利便性が損なわれる。しかも、このような試験機間でのPRCFのばらつきは、一応の機差の調整(アライメント)を施しても避けられないものであった。そこで、このシステム1では、第一試験機で得られた計測値に基づいて、第二試験機で得られるPRCFを推定する。
【0018】
本発明者が研究を重ねたところ、
図3のようなSA-CF,SAT線図におけるスリップ角θc(=-PS/CS)からスリップ角θsまでの距離L(即ち、コーナリングフォースCFがゼロになるスリップ角θcの大きさと、セルフアライニングトルクSATがゼロになるスリップ角θsの大きさとの和)は、本来であれば試験機に関係なく不変のはずであるが、実際には機差(試験機の個体差)により試験機間で幾分か変化することが判明した。そして、この距離Lの変化(試験機間での角度差)が、プライステアコーナリングフォースPSやプライステアアライニングトルクAPを増減させ、試験機間でのPRCFのばらつきの原因になることを見出した。
【0019】
推定部11は、コーナリングフォースがゼロになるスリップ角(
図3ではスリップ角θc)の試験機間での角度差Dc、及び、セルフアライニングトルクがゼロになるスリップ角(
図3ではスリップ角θs)の試験機間での角度差Dsを用いて、式(1)により、第二試験機による本試験タイヤのプライステア残留コーナリングフォースPRCFを推定する。
PRCF=PS-CS(AP/ATS)-CS(Ds-Dc) ・・・(1)
この式(1)は、上述した式(2)に補正項「-CS(Ds-Dc)」を加えたものに相当する。かかる補正項を加えることにより、距離Lの変化(試験機間での角度差)による影響が抑えられ、第二試験機で得られる本試験タイヤのPRCFを精度良く推定できる。試験機間で距離Lが変化しない場合は、補正項の括弧内の値がゼロになる。
【0020】
角度差Dc及び角度差Dsは予備試験によって事前に得られており、メモリ3に記憶されている。即ち、角度差Dc及び角度差Dsは、第二試験機で得られる本試験タイヤのPRCF推定処理に先駆けて、予め取得されている。後述するように、角度差Dc及び角度差Dsは、第一及び第二試験機による予備試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースPS、コーナリングスティフネスCS、プライステアアライニングトルクAP、及び、アライニングトルクスティフネスATSに基づいて算出される。取得部13は、これらの計測値をユーザによる操作またはネットワーク経由で取得し、その計測データをメモリ3に記憶する。
図1では、取得部13を取得部10とは別個に示しているが、これらを一本化してもよく、したがって取得部10が取得部13を兼ねていてもよい。
【0021】
角度差Dcは、第一試験機による予備試験タイヤのコーナリングフォースがゼロになるスリップ角θ1cと、第二試験機による前記予備試験タイヤのコーナリングフォースがゼロになるスリップ角θ2cとの差(θ1c-θ2c)である。角度差Dsは、第一試験機による前記予備試験タイヤのセルフアライニングトルクがゼロになるスリップ角θ1sと、第二試験機による前記予備試験タイヤのセルフアライニングトルクがゼロになるスリップ角θ2sとの差(θ1s-θ2s)である。推定部11は、差(θ1c-θ2c)としての角度差Dcと、上記差(θ1s-θ2s)としての角度差Dsとを用いて、PRCFの推定を行う。
【0022】
スリップ角θ1c、スリップ角θ2c、スリップ角θ1s及びスリップ角θ2sは、それぞれコニシティ成分を取り除いたSA-CF,SAT曲線において
図4のように示される。コーナリングフォースCFがゼロになるスリップ角θ1cは、第一試験機による予備試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースPSのコーナリングスティフネスCSに対する比(-PS/CS)として取得できる。セルフアライニングトルクSATがゼロになるスリップ角θ1sは、第一試験機による予備試験タイヤの、プライステアアライニングトルクAPのアライニングトルクスティフネスATSに対する比(-AP/ATS)として取得できる。スリップ角θ2c及びスリップ角θ2sは、第二試験機による予備試験タイヤにおいて、それぞれスリップ角θ1c及びスリップ角θ1sと同じ要領で取得できる。
【0023】
角度差算出部14は、取得部13が取得した計測値(即ち、第一及び第二試験機による予備試験で計測されたPS,CS,AP,ATSの計測値)に基づき、上記の要領で角度差Dc,Dsを算出する。角度差算出部14は、得られた算出データをメモリ3に記憶する。角度差Dc,Dsが既知である場合は、それらの情報を取得してメモリ3に記憶しておくことにより、かかる角度差の算出処理を省略できる。相関が検討される試験機と、荷重や空気圧などの試験条件が変わらない限り、角度差Dc,Dsのデータは次回以降も使い回すことが可能である。
【0024】
予備試験では、PRCFの異なる複数(例えば、五本以上)の予備試験タイヤを用いることが望ましい。推定部11は、その複数の予備試験タイヤにおける平均値に基づいて求められた角度差Dc及び角度差Dsを用いることが望ましい。例えば、複数の予備試験タイヤにおける各々の差(θ1c-θ2c)を算出し、その平均値を採って角度差Dcとして用いてもよい。或いは、複数の予備試験タイヤにおける各々のスリップ角θ1cの平均値と、スリップ角θ2cの平均値とを算出し、それらの差(θ1c-θ2c)を採って角度差Dcとして用いてもよい。角度差Dsについても、これと同様である。
【0025】
第一及び第二試験機の形式は、特に限定されるものではない。後述する実施例では、第一及び第二試験機としてフラットベルト式のコーナリング試験機が使用されているが、これに限られず、例えばドラム式や平板式(フラットテーブル式)など、他の形式のコーナリング試験機を使用することが可能である。PRCFを精度良く推定するうえで、第一試験機との相関が検討される第二試験機は、第一試験機と同一形式の試験機であることが望ましいが、これに限られない。
【0026】
[タイヤのPRCFを推定する方法]
本実施形態のシステム1が行う、タイヤのPRCFを推定する方法につき、
図2を参照して説明する。この方法は、システム1に含まれる1又は複数のプロセッサによって実行される。本試験として、第一試験機による本試験タイヤのコーナリング試験が行われる。その際に、第一試験機による本試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースPS、コーナリングスティフネスCS、プライステアアライニングトルクAP、及び、アライニングトルクスティフネスATSの計測値を取得する(ステップS1)。このステップS1は、システム1の取得部10によって行われる。
【0027】
必要であれば、本試験で得られた計測値に基づいて、第一試験機による本試験タイヤのPRCFを算出する(ステップS2)。このステップS2は、システム1のPRCF算出部12によって行われる。ステップS2は、必須ではなく、省略することが可能である。
【0028】
次に、コーナリングフォースがゼロになるスリップ角の試験機間での角度差Dc、及び、セルフアライニングトルクがゼロになるスリップ角の試験機間での角度差Dsを用いて、上記の式(1)により、第二試験機による本試験タイヤのPRCFを推定する(ステップS3)。ステップS2の算出結果を式(1)に適用しても構わない。この推定ステップS3は、システム1の推定部11によって行われる。
【0029】
角度差Dc及び角度差Dsを得るための予備試験は、本試験に先駆けて、延いてはステップS3に先駆けて実施される。予備試験では、第一及び第二試験機による予備試験タイヤのコーナリング試験が行われる。その際に、第一及び第二試験機の各々による予備試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースPS、コーナリングスティフネスCS、プライステアアライニングトルクAP、及び、アライニングトルクスティフネスATSの計測値を取得する(ステップS11)。このステップS11は、システム1の推定部13によって行われる。
【0030】
次に、予備試験で得られた計測値に基づいて、試験機間での角度差Dc,Dsを算出する(ステップS12)。具体的には、第一試験機での計測値から比(-PS/CS)としてのスリップ角θ1cを取得し、同じく比(-AP/ATS)としてのスリップ角θ1sを取得し、第二試験機での計測値から比(-PS/CS)としてのスリップ角θ2cを取得し、同じく比(-AP/ATS)としてのスリップ角θ2sを取得して、スリップ角θ1cとスリップ角θ2cとの差(θ1c-θ2c)である角度差Dcを算出し、スリップ角θ1sとスリップ角θ2sとの差(θ1s-θ2s)である角度差Dsを算出する。このステップS12は、システム1の角度差算出部14によって行われる。
【0031】
[実施例]
本実施形態による効果を具体的に示すため、PRCFの異なる複数の試験タイヤを用いてPRCFを計測した実施例を示す。
図5は、第一試験機としての試験機AによるPRCFの計測値と、第二試験機としての試験機BによるPRCFの計測値との関係を示す参考例のグラフである。
図6は、試験機Bで得られるPRCFの推定値と、試験機BによるPRCFの計測値との関係を示す実施例のグラフである。
図6の横軸の推定値は、試験機Aの計測値に基づいて式(1)により算出した。この推定値は、試験機AによるPRCFの計測値(即ち、
図5の横軸の値)を上記補正項で補正して得られる補正値でもある。
図6の縦軸は、
図5と同じである。
【0032】
図5に示す参考例では、試験機Aと試験機Bとの間でPRCFがばらついており、回帰式(回帰直線)が原点を通らずにオフセットずれを生じている。これに対し、
図6に示す実施例では、そのようなオフセットずれが解消されている。また、実施例では、参考例に比べて、回帰式のばらつきσが小さいうえ、決定係数R
2が大きい(1に近い)。このばらつきσは、回帰式から各プロットまでの距離の平均値として求めた。このように、実施例では、試験機Aで得られた計測値に基づいて試験機Bで得られるPRCFを精度良く推定できている。
【0033】
以上のように、本実施形態のタイヤのPRCFを推定するシステム1は、
第一試験機による本試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースPS、コーナリングスティフネスCS、プライステアアライニングトルクAP、及び、アライニングトルクスティフネスATSの計測値を取得する取得部10と、
コーナリングフォースがゼロになるスリップ角の試験機間での角度差Dc、及び、セルフアライニングトルクがゼロになるスリップ角の試験機間での角度差Dsを用いて、式(1)により、第二試験機による本試験タイヤのPRCFを推定する推定部11と、を備える。
PRCF=PS-CS(AP/ATS)-CS(Ds-Dc) ・・・(1)
これにより、第一試験機で得られた計測値に基づいて、第二試験機で得られるPRCFを推定できる。
【0034】
また、本実施形態のタイヤのPRCFを推定する方法は、
第一試験機による本試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースPS、コーナリングスティフネスCS、プライステアアライニングトルクAP、及び、アライニングトルクスティフネスATSの計測値を取得し、
コーナリングフォースがゼロになるスリップ角の試験機間での角度差Dc、及び、セルフアライニングトルクがゼロになるスリップ角の試験機間での角度差Dsを用いて、式(1)により、第二試験機による本試験タイヤのプライステア残留コーナリングフォースPRCFを推定する推定する。
PRCF=PS-CS(AP/ATS)-CS(Ds-Dc) ・・・(1)
これにより、第一試験機で得られた計測値に基づいて、第二試験機で得られるPRCFを推定できる。
【0035】
本実施形態において、角度差Dcは、第一試験機による予備試験タイヤのコーナリングフォースがゼロになるスリップ角θ1cと、第二試験機による予備試験タイヤのコーナリングフォースがゼロになるスリップ角θ2cとの差(θ1c-θ2c)であり、
角度差Dsは、第一試験機による予備試験タイヤのセルフアライニングトルクがゼロになるスリップ角θ1sと、第二試験機による予備試験タイヤのセルフアライニングトルクがゼロになるスリップ角θ2sとの差(θ1s-θ2s)であることが好ましい。
【0036】
本実施形態において、スリップ角θ1cは、第一試験機による予備試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースのコーナリングスティフネスに対する比として取得されることが好ましく、
スリップ角θ1sは、第一試験機による予備試験タイヤの、プライステアアライニングトルクのアライニングトルクスティフネスに対する比として取得されることが好ましく、
スリップ角θ2cは、第二試験機による予備試験タイヤの、プライステアコーナリングフォースのコーナリングスティフネスに対する比として取得されることが好ましく、
スリップ角θ2sは、第二試験機による予備試験タイヤの、プライステアアライニングトルクのアライニングトルクスティフネスに対する比として取得されることが好ましい。
【0037】
本実施形態において、角度差Dc及び角度差Dsを、それぞれ複数の予備試験タイヤにおける平均値に基づいて求めることが好ましい。かかる構成によれば、角度差Dc及び角度差Dsを精度良く求めて、第二試験機で得られるPRCFをより正確に推定できる。
【0038】
本実施形態に係るプログラムは、上記方法を1又は複数のプロセッサに実行させるプログラムである。このプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。言い換えると、上記方法を使用しているとも言える。
【0039】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0040】
例えば、特許請求の範囲、明細書及び図面において示した、装置、システム、プログラム、並びに、方法における動作、手順、ステップ及び段階などの各処理の実行順序は、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現できる。特許請求の範囲、明細書及び図面内のフローに関して、便宜上「まず」や「次に」などを用いて説明したとしても、この順で実行することが必須であることを意味するものではない。
【0041】
例えば、
図1に示す各部10~14は、所定のプログラムをコンピュータのCPUで実行することで実現されているが、各部を専用回路で構成してもよい。本実施形態では1つのコンピュータにおけるプロセッサが各部10~14を実装しているが、少なくとも1又は複数のプロセッサに分散して実装してもよい。
【0042】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1・・・システム、10・・・取得部、11・・・推定部、12・・・PRCF算出部