(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】水溶性シート状色材、水溶性シート状色材セット、および絵の具セット
(51)【国際特許分類】
C09D 5/06 20060101AFI20240105BHJP
C08B 30/20 20060101ALN20240105BHJP
C08B 37/00 20060101ALN20240105BHJP
【FI】
C09D5/06
C08B30/20
C08B37/00 D
(21)【出願番号】P 2019216908
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100206265
【氏名又は名称】遠藤 逸子
(72)【発明者】
【氏名】三宅 充人
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-225076(JP,A)
【文献】特開昭59-084955(JP,A)
【文献】特開昭54-038535(JP,A)
【文献】特開2007-009198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 5/06
C08B 30/20
C08B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プルラン、
非イオン性水溶性鎖状ポリマー、および
着色剤
を含んでなる、水溶性シート状色材。
【請求項2】
前記
プルランの質量平均分子量が1000~600万である、請求項1に記載の水溶性シート状色材。
【請求項3】
前記非イオン性水溶性鎖状ポリマーがポリビニルアルコールである、請求項1または2に記載の水溶性シート状色材。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコールの平均重合度が200~1,400である、請求項3に記載の水溶性シート状色材。
【請求項5】
体質材をさらに含んでなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の水溶性シート状色材。
【請求項6】
前記体質材が、カオリン、タルク、マイカ、クレー、ベントナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および水酸化アルミニウムからなる群から選択される、請求項5に記載の水溶性シート状色材。
【請求項7】
多価アルコールをさらに含んでなる、請求項1~6のいずれか一項に記載の水溶性シート状色材。
【請求項8】
平均膜厚が、5~300μmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の水溶性シート状色材。
【請求項9】
プルラン、
非イオン性水溶性鎖状ポリマー、および
第一着色剤
を含んでなる第一水溶性シート色材と
プルラン、
非イオン性水溶性鎖状ポリマー、および
第二着色剤
を含んでなる第二水溶性シート色材と
の組み合わせを具備してなり、前記第一着色剤と第二着色剤とが異なる、水溶性シート状色材セット。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の水溶性シート状色材と、筆とを具備してなる、絵の具セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性シート状色材および製造方法に関するものである。この水溶性シート状色材は、水に溶かすことにより、水彩絵の具として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
水彩絵の具としては、液状、またはペースト状のものが一般的であるが、その他の形態として、粉末状、もしくは顆粒状のもの、またはパレット等に固体状態で固定されたものも存在する。さらには、シート状の絵の具についても提案されている(特許文献1および2)。シート状の絵の具は、特に、シートどうしがはりつきにくいこと、適度な自立性や柔軟性を有すること、および水へ溶かしたときに速やかに均一な状態になることが求められており、これらの点の改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭59-84955号公報
【文献】特開平4-225076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の課題に鑑みて、シートどうしがはりつきにくいこと、適度な自立性や柔軟性を有すること、および水へ溶かしたときに速やかに均一な状態になることが可能な、水溶性シート状色材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による水溶性シート状色材は、
α-グルカン、
非イオン性水溶性鎖状ポリマー、および
着色剤
を含んでなる。
【0006】
本発明による水溶性シート状色材セットは、
α-グルカン、
非イオン性水溶性鎖状ポリマー、および
第一着色剤
を含んでなる第一水溶性シート色材と
α-グルカン、
非イオン性水溶性鎖状ポリマー、および
第二着色剤
を含んでなる第二水溶性シート色材と
の組み合わせを具備してなり、前記第一着色剤と第二着色剤とが異なる。
【0007】
本発明による絵具セットは、上記した水溶性シート状色材と、筆とを具備してなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明による水溶性シート状色材は、粘着性が低く、適度な自立性や柔軟性を有し、取り扱い性に優れている。また、シート状であるために、溶解する前に手でちぎったり、はさみで切るなどして適当量を分取して、濃度調整などが容易である。本発明による水溶性シート状色材は、強度が高いが、ちぎれるときは伸びずにちぎれ、また表面のべたつきも少ないので、特に取り扱い性に優れている。また、本発明による水溶性シート状色材は水への溶解性に優れており、水に溶かしたとき速やかに均一な状態になるため、筆を用いて描画した際に、色むらのない良好な筆跡を得られ、発色性も優れている。また、本発明による水溶性シート状色材は、異なる色のシート状色材と組み合わせて用いることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、特に断らない限り、配合を示す「部」、「%」、「比」などは質量基準であり、含有量は水溶性シート状色材の質量を基準としたときの構成成分の質量%である。
【0010】
<水溶性シート状色材>
本発明による水溶性シート状色材(以下、単にシート状色材ということがある)は、α-グルカン、非イオン性水溶性鎖状ポリマー、および着色剤を含んでなる。
【0011】
本発明によるシート状色材は、適度な自立性や柔軟性を有する固体である。シート状であるために、切断が容易であり、また収容する容器が必要なく、それ自体を1枚ごとに取り扱うことができるので、取り扱い性にも優れている。シート状形状として、厚さが均一なフィルムが代表的なものとして挙げられるが、部分的に厚みを変化させて、厚みの薄い部分で切断を容易にしていてもよい。ただし、本発明によるシート状色材は発色性が高いので、比較的薄い形状であっても十分な発色が得られるため、厚さが均一な薄膜形状でも十分な特性を発揮できる。このようなシート状色材の平均膜厚は、特に限定されないが、好ましくは5~300μmであり、より好ましくは10~150μmである。バーコーターを用いるような製造方法の場合は、平均膜厚が、10~60mμであることが好ましい。ここで平均膜厚は、マイクロゲージによって測定することができる。このような平均膜厚を有するシート状色材は、乾燥状態でも柔軟性を有し、また取り扱いに十分な強度を実現できる。また、本発明によるシート状色材は、粘着性が低いものであり、手で持った際に、手に成分が付着しにくい。また、複数のシートを重ねて保管しても、相互に付着しづらいものである。
【0012】
本発明によるシート状色材は、水に接触すると、溶解して、液状組成物になる。この液状組成物は、一般的に使用される絵の具を水に分散させたものや塗料などと同様に使用することができる。用いる水の温度は特に限定されないが、室温程度の水に溶解可能であればよい。水への接触方法は、特に限定されないが、例えば、水を含ませた筆をシート状色材に接触させて擦過すること、シート状色材にスポイト等で水を滴下すること、水に適当な大きさのシート状色材を浸漬すること、等が挙げられる。必要に応じて、シート状色材を水中に投入し、筆等を用いて撹拌してもよい。
【0013】
本発明によるシート状色材は、着色剤が均一に分散されているため、水に接触したときに、速やかに均一な液状の絵の具にすることができる。その絵の具を筆等に含浸させ、描画すると、色むらのない良好な筆跡(描画跡)が得られる。
【0014】
以下に、本発明による水溶性シート状色材に用いられる成分について、説明する。
【0015】
<α-グルカン>
本発明に用いられるα-グルカンは、上記のようなシート状色材の形状を維持するための主材料となるものであり、かつ皮膜形成後に、水に溶解することができるものである。また、シート状色材を水に溶かして、描画した際に、着色された皮膜を形成する役割を果たすこともできる。
本発明において、α-グルカンとは、グルコースがα-1,4-結合で鎖状に結合した構造を基本とし、一部のグルコースの6位から分岐した構造を有していてもよい構造を有するポリマーのことを意味する。α-グルカンとしては、アミロース、プルランなどが挙げられ、その中で、プルランが好ましい。
【0016】
α-グルカンの質量平均分子量は、好ましくは1,000~600万、より好ましくは10万~150万、さらに好ましくは20万~60万である。この範囲にあると、自立性の高い皮膜を形成することができ、水での再溶解性が高いものとなる。ここで、本発明において、質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィを用いて通常の方法で測定することができる。
α-グルカンの含有量は、シート状色材の総質量を基準として、好ましくは0.05~10質量%であり、より好ましくは0.1~5質量%であり、特に好ましくは0.5~3質量%である。
【0017】
<非イオン性水溶性鎖状ポリマー>
本発明に用いられる非イオン性水溶性鎖状ポリマーは、シート状色材を水に接触させたときの溶解を促進する作用を有すると共に、シート状色材を水に溶解させたときに着色剤を均一に分散させる作用も有すると考えられる。
【0018】
本発明に用いられる非イオン性水溶性鎖状ポリマーとしては、主鎖に環状構造を含まないものである。具体的にはポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド等が挙げられ、好ましくはポリビニルアルコールである。
非イオン性水溶性鎖状ポリマーは、重合度が200~1,400であることが特に好ましく、200~800であることが最も好ましい。
【0019】
非イオン性水溶性鎖状ポリマーの含有量は、シート状色材の総質量を基準として、好ましくは1~40質量%であり、より好ましくは5~35質量%であり、さらに好ましくは10~35質量%である。
【0020】
また、本発明において、水溶性シート状色材が乾燥状態でも柔軟性を有し、また取り扱いに十分な強度を有しながらも、優れた再溶解性を得ることを考慮すると、αグルカンに対する、非イオン性水溶性鎖状ポリマーの含有比(非イオン性水溶性鎖状ポリマー/αグルカン)は、質量基準で、0.1~30が好ましく、1~25がより好ましく、10~25がさらに好ましい。
【0021】
<着色剤>
本発明には、従来公知の顔料、染料であればいずれも用いることができる。
【0022】
着色剤は顔料であることが好ましい。顔料としては、特に制限されるものではなく、例えば、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、キノフタロン系顔料、スチレン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、さらには、アルミ顔料、パール顔料、マイクロカプセル顔料、着色樹脂粒子顔料等が挙げられる。尚、顔料は予め、界面活性剤などの顔料分散剤を用いて媒体に分散された水分散顔料製品などを用いてもよい。
【0023】
酸化チタンは、一般に白色の顔料として用いられるが、同時に描画によって形成される筆跡の隠蔽性を向上させことができる。したがって、隠蔽材としての機能も有する。よって、その他の顔料に、さらに酸化チタンを含むことにより、それを用いて描画した際に、筆跡濃度を向上させることができる。
また、シート状色材そのものの色と、シート状色材を水に溶かして描画した際の色が、反射や吸収などの影響で、異なって認識されることがあるが、酸化チタンを含ませることで、シート状色材そのものの色と、シート状色材を水に溶かした際の色とを近づけることができる。この結果、描画に際して使用者が意図した色材を容易に選択することができる。この目的で酸化チタンを含む場合は、その他の顔料に対して、酸化チタンの含有量が0.1~50質量%であることが好ましい。
【0024】
また、染料としては、例えば、フタロシアニン系染料、ピラゾロン系染料、ニグロシン系染料、アントラキノン系染料、アゾ系染料などが挙げられる。
【0025】
着色剤は、透明性、隠蔽性など、目的とする品質に応じて、適宜単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
着色剤の含有量は、その種類によって異なるが、発色および描画性より、シート状色材の総質量を基準として、5~70質量%が好ましく、より好ましくは10~65質量%であり、さらに好ましくは20~65質量%である。
【0027】
<体質材>
本発明によるシート状色材は、体質材を含んでなる。ここで、本発明において、体質材とは、それ自体の着色性や隠蔽性は低いが、着色剤が紙繊維等の間に沈むことを抑制し、また体質材自体が光を散乱することができるものであり、着色剤と組み合わせることで、隠蔽性や発色性を高めることができるものをいう。さらに、体質材を含むことで、膜の強度を高めたり、膜厚を厚くしたり、シート状色材を水に接触させたときの溶解を促進することもできる。体質材としては、具体的には、カオリン、タルク、マイカ、クレー、ベントナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられ、好ましくはカオリンである。特に、本発明において、酸化チタンなどの白色顔料を用いた場合、白色顔料とカオリンとを組み合わせることで、白色度が向上するため、好ましい。なお、これらの体質材の一部は無色ではないので、着色剤としての機能を併せ持っている。
体質材の含有量は、シート状色材の総質量を基準として、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、20~35質量%であることがさらに好ましい。
また、体質材の含有量は、体質材および着色剤の総質量を基準として、10~70質量%であることが好ましく、20~60質量%であることが好ましい。
【0028】
さらに、優れた水溶性状シートの発色性、膜強度、さらには再溶解性を考慮すると、非イオン性水溶性鎖状ポリマーの含有量は、着色剤と体質材の総質量を基準として、5~500質量%であることが好ましく、5~300質量%であることがより好ましく、10~150質量%であることがさらに好ましい。
【0029】
<その他>
本発明によるシート状色材は、必要に応じてその他の材料を含むことができる。用いることができる添加剤としては、例えば、脂肪酸金属塩、多価アルコール、界面活性剤、水、粘度調整剤、塗布性能改善剤、防腐剤、消泡剤等が挙げられる。その他通常水性絵の具に使用できるものも含むことができる。
【0030】
脂肪酸金属塩は、シート状色材を水に接触させたときの溶解を促進したり、シート状色材を水に溶解させたときに、顔料粒子を均一に分散させる作用を有すると考えられる。
脂肪酸金属塩としては、炭素数12以上の脂肪酸の金属塩であることが好ましく、具体的には、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、ミリスチン酸リチウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ラウリン酸リチウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、オレイン酸リチウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、イソステアリン酸リチウム、イソステアリン酸ナトリウム、イソステアリン酸カリウムなどが挙げられ、好ましくはオレイン酸カリウムである。
脂肪酸金属塩の含有量は、シート状色材の総質量を基準として、好ましくは0.5~40質量%であり、より好ましくは1~30質量%である。ただし、脂肪酸金属塩を含むことで、水に溶解させたときに泡立ちが起こることもあるので、脂肪酸金属塩を含まないことも好ましい一態様である。
【0031】
多価アルコールは、シート状色材の過乾燥を抑制し、適度に湿らせておくことを目的に用いることができる。また、シート状色材中の着色剤の凝集を防ぎ、被膜に塑性を与える作用も有すると考えられる。多価アルコールとしてはジオールまたはトリオールが好ましく、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられ、特に好ましくはグリセリンである。
シート状色材が十分な強度を有するシート形状を維持するために、多価アルコールの含有量は、シート状色材の総質量を基準として、0.5~30質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましい。
【0032】
界面活性剤は、描画時の塗れ性改良剤として、用いることができる。界面活性剤としては、ノニオン性、カチオン性、アニオン性、または両性イオン性のものが知られているが、適宜選択して用いることができる
また、界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤などが挙げられるが、本発明においては、描画時の塗れ性の向上を考慮すると、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤の中から1種以上選択して用いることがより好ましく、中でも、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤を用いることがさらに好ましい。
また、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤としては、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤が挙げられ、中でも、アセチレングリコール系界面活性剤を用いることが特に好ましい。
【0033】
本発明によるシート状色材は、水を含むことができる。このような水は、溶媒として添加することのほか、着色剤や界面活性剤などの溶媒や分散媒として添加されてもよい。そのような水は後述する製造方法において、蒸発除去されてもよいし、その一部が水溶性シート状色材に残留していてもよい。
【0034】
<水溶性シート状色材の製造方法>
本発明による水溶性シート状色材の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下のように製造することができる。
【0035】
α-グルカン、非イオン性水溶性鎖状ポリマー、着色剤、および必要に応じてその他の材料を含んでなる混合物を撹拌し、均一な分散液を調製する。着色剤が顔料であるときは、あらかじめ、分散媒に分散された状態であるものを用いることが好ましい。
次に、分散液をベースとなる樹脂フィルム上に、バーコーターやアプリケーターなどにより塗工した後、乾燥し、ベースとなる樹脂フィルムから剥がすことなどにより、シート状色材を製造することができる。
【0036】
また、他の方法としては、α-グルカン、非イオン性水溶性鎖状ポリマー、着色剤、および必要に応じてその他の材料を含んでなる混合物をニーダーなどで混練し、混練物を押し出し成形し、必要に応じて、カレンダー処理、圧延処理などにより、均一なシート状色材を製造することができる。
【0037】
<水溶性シート状色材セット>
本発明による水溶性色材セットは、
α-グルカン、非イオン性水溶性鎖状ポリマー、および第一着色剤を含んでなる第一水溶性シート色材と
α-グルカン、非イオン性水溶性鎖状ポリマー、および第二着色剤を含んでなる第二水溶性シート色材と
の組み合わせを具備してなり、前記第一着色剤と第二着色剤とが異なる。
第一および第二水溶性シート状色材は、上記に記載の本発明によるシート状色材である。
また、第一水溶性シート状色材および第二水溶性シート状色材は、それぞれα-グルカンおよび非イオン性鎖状ポリマーを含んでなる。これらは、第一水溶性シート状色材および第二水溶性シート状色材で同一であっても異なっていてもよい。第一水溶性シート状色材および第二水溶性シート状色材を混合したときの相溶性や製造容易性の観点から、同一のα-グルカンおよび非イオン性鎖状ポリマーを用いることが一般的であるが、用いられる着色剤などとの相溶性や安定性などを考慮して、異なったものを採用することもできる。
この第一および第二水溶性シート状色材を組み合わせて用いることによって、新たな色を有する絵具を形成できる。
さらに、3枚以上のシート状色材を組み合わせることもできる。
【0038】
<絵具セット>
本発明による絵具セットは、本発明によるシート状色材または本発明によるシート状色材セットと、筆とを具備してなる。さらに、水を入れる容器、パレット等を組み合わせることができる。本発明による絵具セットは、描画のみならず書画にも用いることができる。例えば、本発明によるシート状色材が黒色の場合に、墨汁として用いることができ、筆と合わせて、書道用途で用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
<実施例1>
(1a)シート状色材製造用着色組成物の製造
・プルラン 10質量%水溶液 5.0質量部
(プルラン 質量平均分子量約40万)
・ポリビニルアルコール 20質量%水溶液 30質量部
(ポリビニルアルコール 重合度500、ケン化度87.0~89.0モル%)
・黒色顔料分散体:ピグメントブラック7 20質量%水分散体、10質量%ジエチレングリコール含有、
・オレイン酸カリウム水溶液 10質量部
(20質量%オレイン酸カリウム水溶液)
・グリセリン 1.0質量部
・水 4.0質量部
上記配合物を室温で1時間攪拌混合することにより、シート状色材製造用着色組成物を得た。
(1b)シート状色材の製造
上記(1a)で得られた着色組成物を、100μmのポリプロピレンフィルム上に、バーコーターを用いて塗布し、50℃で12時間乾燥して、ポリプロピレンフィルム上に前記組成物が膜状となった膜状物を得た。この膜状物をポリプロピレンフィルムから剥離することにより、黒色のシート状色材を得た。
【0041】
<実施例2~9および比較例1、2>
(a)シート状色材製造用着色組成物の製造
以下の表1に示した配合とした以外は実施例1と同じ方法により、シート状色材製造用着色組成物を作製した。得られた着色組成物を用いて、実施例1と同じ方法で、シート状色材を得た。なお、表中の組成の数値は、質量部を示す。
【表1】
表中、
・プルラン水溶液:プルラン10質量%水溶液、プルラン 質量平均分子量約40万、
・アルギン酸ナトリウム水溶液:アルギン酸ナトリウム5質量%水溶液 分子量約100万、
・ポリビニルアルコール水溶液A:ポリビニルアルコール20質量%水溶液、ポリビニルアルコール 重合度500、ケン化度87.0~89.0モル%、
・ポリビニルアルコール水溶液B:ポリビニルアルコール10質量%水溶液、ポリビニルアルコール 重合度3,300、ケン化度86.5~89.5モル%、
・ポリビニルアルコール水溶液C:ポリビニルアルコール10質量%水溶液、ポリビニルアルコール 重合度300、ケン化度86.0~90.0モル%、
・ポリビニルピロリドン水溶液:ポリビニルピロリドン20質量%水溶液、ポリビニルピロリドン 質量平均分子量45,000、
・黒色顔料分散体:ピグメントブラック7 20質量%水分散体、10質量%ジエチレングリコール含有、
・青色顔料分散体:ピグメントブルー15 25質量%水分散体、10質量%ジエチレングリコール含有、
・白色顔料:ルチル型酸化チタン、平均粒子径0.27μm
・カオリン:「ASP-600」、BASF社、
・オレイン酸カリウム水溶液:20質量%オレイン酸カリウム水溶液、
・界面活性剤:アセチレングリコール系界面活性剤「ダイノール604」、日信化学工業株式会社
【0042】
得られたシート状色材の膜厚を測定した。膜厚の測定は、マイクロゲージにより行った。得られた結果は表1に記載のとおりである。
【0043】
得られたシート状色材の膜の状態を触診により評価した。実施例および比較例のシート状色材は、全て、成膜性が良好で、シート同士のはりつきもなかった。実施例のシート状色材は、比較例のシート状色材よりも、表面のべたつきがさらに抑えられており、また手でちぎるときに伸びずにちぎれやすく、取り扱い性にさらに優れていた。
【0044】
実施例および比較例のシート状色材は、全て、適度な自立性や柔軟性を有していた。実施例3~9のシート状色材は、実施例1および2のシート状色材と比較すると、膜厚が厚く、膜の強度も高く、さらに適度な自立性を有しており、例えば、シート状色材製造時にポリプロピレンフィルムから剥離するときに破損等がより起こりにくく、製造が容易であった。一方、これらは、手によるちぎれやすさやはさみ等を用いた切りやすさも備えていた。
【0045】
また、実施例および比較例のシート状色材は、水に接触させると、速やかに均一な状態となり、常温の水を含ませた筆を、それぞれ、得られたシート状色材に接触させて擦過すると、顔料が均一に分散した液状組成物になった。実施例7および8は、シート状色材の製造時や、シート状色材を水に接触させるときに、他の実施例と比較して、泡立ちがより少なかった。