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特許7413020保護された硫黄カソードを含むアルカリ金属-硫黄二次電池及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】保護された硫黄カソードを含むアルカリ金属-硫黄二次電池及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240105BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240105BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240105BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240105BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20240105BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240105BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20240105BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240105BHJP
   H01M 10/056 20100101ALI20240105BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240105BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240105BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20240105BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240105BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240105BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240105BHJP
   H01M 4/56 20060101ALI20240105BHJP
   H01M 4/42 20060101ALI20240105BHJP
   H01M 4/52 20100101ALI20240105BHJP
   H01M 4/50 20100101ALI20240105BHJP
   H01M 4/44 20060101ALI20240105BHJP
   H01M 4/46 20060101ALI20240105BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240105BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240105BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240105BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M10/052
H01M10/054
H01M10/0562
H01M10/0565
H01M10/0566
H01M10/056
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M4/40
H01M4/48
H01M4/485
H01M4/505
H01M4/56
H01M4/42
H01M4/52
H01M4/50
H01M4/44
H01M4/46
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/058
【請求項の数】 53
(21)【出願番号】P 2019545736
(86)(22)【出願日】2018-02-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 US2018016418
(87)【国際公開番号】W WO2018156328
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】15/440,151
(32)【優先日】2017-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】パン,バオフェイ
(72)【発明者】
【氏名】ホー,フイ
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-006742(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0087266(US,A1)
【文献】特開2015-043300(JP,A)
【文献】特開2002-319400(JP,A)
【文献】特表2013-539193(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0329559(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0294000(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0029014(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0315100(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105140447(CN,A)
【文献】国際公開第2015/110333(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-4/62
H01M 10/05-10/0587
H01M 50/449-50/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム-硫黄セル、ナトリウム-硫黄セル、又はカリウム-硫黄セルから選択される充電式アルカリ金属-硫黄セルであって、前記アルカリ金属-硫黄セルは、
(a)アノード活物質層及び前記アノード活物質層を支持する任意選択のアノード集電体と、
(b)カソード活物質層及び前記カソード活物質層を支持する任意選択のカソード集電体と、
(c)前記アノード活物質層及び前記カソード活物質層とイオン接触する任意選択の多孔質セパレータ層を有する電解質と、
を含み、前記カソード活物質層は、硫黄-炭素ハイブリッド、導電性ポリマー-硫黄ハイブリッド、金属スルフィド、硫黄化合物、又はこれらの組み合わせから選択される硫黄含有材料の複数の微粒子を含み、前記微粒子の少なくとも1つは、添加剤又は補強材なしで測定した場合に10%~700%の回復可能な引張り歪み、室温で10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率、及び0.5nm~10μmの厚さを有する高弾性ポリマーの薄層によって包まれている又はカプセル化されている1つ以上の硫黄含有材料粒子からなることを特徴とするリチウム-硫黄セル、ナトリウム-硫黄セル、又はカリウム-硫黄セルから選択される充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項2】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記硫黄-炭素ハイブリッド又は導電性ポリマー-硫黄ハイブリッドは、混合物、ブレンド、複合体、或いは硫黄又は硫化物と、炭素又は導電性ポリマー材料との化学的又は物理的に結合した物体であることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項3】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記高弾性ポリマーは、ポリマー鎖の架橋ネットワークにおいて、エーテル結合、ニトリル由来結合、過酸化ベンゾイル由来結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ-樹脂結合、トリアクリレートモノマー由来結合、テトラアクリレートモノマー由来結合、又はこれらの組み合わせを有するポリマー鎖の前記架橋ネットワークを含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項4】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記高弾性ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリスリトールテトラアクリレート鎖、ペンタエリスリトールトリアクリレート鎖、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖、又はこれらの組み合わせから選択されるポリマー鎖の架橋ネットワークを含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項5】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記金属スルフィドはMを含み、xは1~3の整数であり、yは1~10の整数であり、Mは、アルカリ金属、Mg又はCaから選択されるアルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、或いはこれらの組み合わせから選択される金属元素であることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項6】
請求項5に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記金属元素Mは、Li、Na、K、Mg、Zn、Cu、Ti、Ni、Co、Fe、又はAlから選択されることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項7】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記金属スルフィドは、Li、Li、Li、Li、Li、Li、Li、Li、Li、Li10、Na、Na、Na、Na、Na、Na、Na、Na、Na、Na10、K、K、K、K、K、K、K、K、K、又はK10を含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項8】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記カソード活物質層の前記炭素材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張黒鉛フレーク、人工黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、高配向熱分解黒鉛、軟質炭素粒子、硬質炭素粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、黒鉛ナノファイバー、黒鉛繊維、炭化ポリマーファイバー、活性炭、カーボンブラック、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項9】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記炭素は、純粋なグラフェン、酸化グラフェン、還元グラフェン酸化物(RGO)、フッ化グラフェン、窒素化グラフェン、水素化グラフェン、ドープトグラフェン、官能化グラフェン、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項10】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記導電性ポリマー-硫黄ハイブリッドは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、二環式ポリマー、これらのスルホン化誘導体、又はこれらの組み合わせから選択される本質的に導電性のポリマーを含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項11】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記高弾性ポリマーは、0.1重量%~50重量%のその中に分散されたリチウムイオン伝導性添加剤を含む、或いはカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、又はこれらの組み合わせから選択される0.1重量%~10重量%の補強ナノフィラメントをその中に含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項12】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記高弾性ポリマーは、リチウムイオン伝導性添加剤と混合されて複合体を形成し、前記リチウムイオン伝導性添加剤は、前記高弾性ポリマーに分散され、LiCO、LiO、Li、LiOH、LiX、ROCOLi、HCOLi、ROLi、(ROCOLi)、(CHOCOLi)、LiS、LiSO、又はこれらの組み合わせから選択され、X=F、Cl、I、又はBr、R=炭化水素基、x=0~1、y=1~4であることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項13】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記高弾性ポリマーは、リチウムイオン伝導性添加剤と混合されて複合体を形成し、前記リチウムイオン伝導性添加剤は、前記高弾性ポリマーに分散され、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF )、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸(LiPF(CFCF)、リチウムビスベルフルオロ-エチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、イオン液体系リチウム塩、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項14】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記高弾性ポリマーは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、二環式ポリマー、これらのスルホン化誘導体、又はこれらの組み合わせから選択される導電性ポリマーと混合されることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項15】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記高弾性ポリマーは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)、ポリビス-メトキシエトキシエトキシド-ホスファゼネックス、ポリ塩化ビニル、ポリジメチルシロキサン、ポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)、これらのスルホン化誘導体、又はこれらの組み合わせから選択されるリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合物又はブレンドを形成することを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項16】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記高弾性ポリマーは、室温で10-5S/cm~5×10-2S/cmのリチウムイオン伝導率を有することを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項17】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記電解質は、ポリマー電解質、ポリマーゲル電解質、複合電解質、イオン液体電解質、非水性液体電解質、ソフトマター相電解質、固体電解質、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項18】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記電解質は、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸(LiPF(CFCF)、リチウムビスペルフルオロエチルスルホニルイミド(LiBETI)、イオン液体塩、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、過塩素酸カリウム(KClO)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)、ヘキサフルオロリン酸カリウム(KPF)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF)、ホウフッ化カリウム(KBF)、ヘキサフルオロヒ化ナトリウム、ヘキサフルオロヒ化カリウム、トリフルオロメタスルホン酸ナトリウム(NaCFSO)、トリフルオロメタスルホン酸カリウム(KCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドナトリウム(NaN(CFSO)、トリフルオロメタンスルホンイミドナトリウム(NaTFSI)、及びビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドカリウム(KN(CFSO)、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項19】
請求項18に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記電解質の溶媒は、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、トルエン、キシレン又は酢酸メチル(MA)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、炭酸ビニレン(VC)、炭酸アリルエチル(AEC)、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、スルホン、スルホラン、室温イオン液体、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項20】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記アノード活物質層は、リチウム金属、ナトリウム金属、カリウム金属、リチウム金属合金、ナトリウム金属合金、カリウム金属合金、リチウムインターカレーション化合物、ナトリウムインターカレーション化合物、カリウムインターカレーション化合物、リチウム化化合物、ナトリウム化化合物、カリウムドープト化合物、リチウム化二酸化チタン、チタン酸リチウム、マンガン酸リチウム、リチウム遷移金属酸化物、LiTi12、又はこれらの組み合わせから選択されるアノード活物質を含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項21】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記セルは、リチウムイオン-硫黄セルであり、前記アノード活物質層は、
(a)シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、及びカドミウム(Cd)、並びにこれらのリチウム化バージョン、
(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、又はCdの他の元素との合金又は金属間化合物、並びにこれらのリチウム化バージョン、前記合金又は化合物は化学量論的又は非化学量論的である、
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ni、Co、Ti、Mn、又はCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、及びテルル化物、並びにこれらの混合物又は複合体、並びにこれらのリチウム化バージョン、
(d)Snの塩及び水酸化物、並びにこれらのリチウム化バージョン、
(e)炭素材料及びこれらのプレリチウム化バージョン、並びに
これらの組み合わせからなる群から選択されるアノード活物質を含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項22】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記セルは、ナトリウムイオン-硫黄セル又はカリウムイオン-硫黄セルであり、前記アノード活物質層は、
(a)ナトリウム又はカリウムをドープしたシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、カドミウム(Cd)、及びこれらの混合物、
(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びこれらの混合物のナトリウム又はカリウム含有合金又は金属間化合物、
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びこれらの混合物又は複合体のナトリウム又はカリウム含有酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、テルル化物、又はアンチモン化物、
(d)ナトリウム又はカリウム塩、
(e)硬質炭素又は軟質炭素粒子、及びこれらのプレナトリウム化バージョン、並びに
(f)これらの組み合わせ
からなる群から選択されるアノード活物質を含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項23】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記微粒子は、前記高弾性ポリマー、及び前記硫黄、金属スルフィド、又は金属化合物を合わせた総重量に基づいて、80重量%~99重量%の硫黄、金属スルフィド、又は金属化合物を含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項24】
充電式アルカリ金属-硫黄セルにおけるカソード活物質層であって、前記カソード活物質層は、硫黄-炭素ハイブリッド、導電性ポリマー-硫黄ハイブリッド、金属スルフィド、硫黄化合物、又はこれらの組み合わせから選択される硫黄含有材料の複数の微粒子を含み、前記粒子の少なくとも1つは、添加剤又は補強材なしで測定した場合に10%以上の回復可能な引張り歪み、室温で10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率、及び0.5nm~10μmの厚さを有する高弾性ポリマーの薄層によって完全に包まれている又はカプセル化されている1つ以上の硫黄含有材料粒子からなることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セルにおけるカソード活物質層。
【請求項25】
請求項24に記載のカソード活物質層において、前記硫黄-炭素ハイブリッド又は導電性ポリマー-硫黄ハイブリッドは、混合物、ブレンド、複合体、或いは硫黄又は硫化物と、炭素又は導電性ポリマー材料との化学的又は物理的に結合した物体であることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項26】
請求項24に記載のカソード活物質層において、前記高弾性ポリマーは、ポリマー鎖の架橋ネットワークにおいて、エーテル結合、ニトリル由来結合、過酸化ベンゾイル由来結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ-樹脂結合、トリアクリレートモノマー由来結合、テトラアクリレートモノマー由来結合、又はこれらの組み合わせを有するポリマー鎖の前記架橋ネットワークを含むことを特徴とするカソード活物質層。
【請求項27】
請求項24に記載のカソード活物質層において、前記高弾性ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリスリトールテトラアクリレート鎖、ペンタエリスリトールトリアクリレート鎖、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖、又はこれらの組み合わせから選択されるポリマー鎖の架橋ネットワークを含むことを特徴とするカソード活物質層。
【請求項28】
請求項24に記載のカソード活物質層において、前記金属スルフィドはMを含み、xは1~3の整数であり、yは1~10の整数であり、Mは、アルカリ金属、Mg又はCaから選択されるアルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、又はこれらの組み合わせから選択される金属元素であることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項29】
請求項24に記載のカソード活物質層において、前記カソード活物質層の前記炭素材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張黒鉛フレーク、人工黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、高配向熱分解黒鉛、軟質炭素粒子、硬質炭素粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、黒鉛ナノファイバー、黒鉛繊維、炭化ポリマーファイバー、活性炭、カーボンブラック、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項30】
請求項24に記載のカソード活物質層において、前記金属スルフィドはMを含み得、xは1~3の整数であり、yは1~10の整数であり、Mは、アルカリ金属、Mg又はCaから選択されるアルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、又はこれらの組み合わせから選択される金属元素であることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項31】
請求項24に記載のカソード活物質層において、前記複数の微粒子をともに結合して前記カソード活物質層を形成するバインダー樹脂を更に含み、前記バインダー樹脂は、前記複数の微粒子の一部ではなく、前記複数の微粒子の外部にあることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項32】
充電式アルカリ金属-硫黄セルにおけるカソード活物質層であって、前記カソード活物質層は、樹脂バインダー、任意選択の導電性添加剤、及び硫黄-炭素ハイブリッド、導電性ポリマー-硫黄ハイブリッド、金属スルフィド、硫黄化合物、又はこれらの組み合わせから選択される硫黄含有材料の複数の粒子を含み、前記硫黄含有材料粒子は、前記樹脂バインダーによって結合されて統合固体層を形成し、前記統合固体層は、添加剤又は補強材なしで測定した場合に10%以上の回復可能な引張り歪み、室温で10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率、及び0.5nm~10μmの厚さを有する高弾性ポリマーの薄層で覆われ保護されることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セルにおけるカソード活物質層。
【請求項33】
請求項32に記載のカソード活物質層において、前記統合固体層は、前記樹脂バインダーによってカソード集電体に結合されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項34】
リチウム-硫黄セル、ナトリウム-硫黄セル、又はカリウム-硫黄セルから選択される充電式アルカリ金属-硫黄セルであって、前記アルカリ金属-硫黄セルは、(a)アノード活物質層及び前記アノード活物質層を支持する任意選択のアノード集電体と、(b)請求項33に記載のカソード活物質層を含むカソードと、(c)前記アノード活物質層及び前記カソード活物質層とイオン接触する任意選択の多孔質セパレータ層を有する電解質とを含むことを特徴とするリチウム-硫黄セル、ナトリウム-硫黄セル、又はカリウム-硫黄セルから選択される充電式アルカリ金属硫黄セル。
【請求項35】
リチウム-硫黄電池のカソードにおける粉末塊であって、前記粉末塊は、硫黄-炭素ハイブリッド、導電性ポリマー-硫黄ハイブリッド、金属スルフィド、硫黄化合物、又はこれらの組み合わせから選択される硫黄含有材料の複数の微粒子を含み、前記微粒子の少なくとも1つは、添加剤又は補強材なしで測定した場合に10%以上の回復可能な引張り歪み、室温で10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率、及び0.5nm~10μmの厚さを有する高弾性ポリマーの薄層によって包まれている又はカプセル化されている1つ以上の硫黄含有材料粒子からなることを特徴とするリチウム-硫黄電池のカソードにおける粉末塊。
【請求項36】
請求項35に記載の粉末塊において、前記硫黄-炭素ハイブリッド又は導電性ポリマー-硫黄ハイブリッドは、混合物、ブレンド、複合体、硫黄又は硫化物と、炭素又は導電性ポリマー材料との化学的又は物理的に結合した物体であることを特徴とする粉末塊。
【請求項37】
請求項35に記載の粉末塊において、前記高弾性ポリマーは、ポリマー鎖の架橋ネットワークにおいて、エーテル結合、ニトリル由来結合、過酸化ベンゾイル由来結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ-樹脂結合、トリアクリレートモノマー由来結合、テトラアクリレートモノマー由来結合、又はこれらの組み合わせを有するポリマー鎖の前記架橋ネットワークを含むことを特徴とする粉末塊。
【請求項38】
請求項35に記載の粉末塊において、前記高弾性ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリスリトールテトラアクリレート鎖、ペンタエリスリトールトリアクリレート鎖、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖、又はこれらの組み合わせから選択されるポリマー鎖の架橋ネットワークを含むことを特徴とする粉末塊。
【請求項39】
請求項35に記載の粉末塊において、前記金属スルフィドはMを含み、xは1~3の整数であり、yは1~10の整数であり、Mは、アルカリ金属、Mg又はCaから選択されるアルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、又はこれらの組み合わせから選択される金属元素であることを特徴とする粉末塊。
【請求項40】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルを製造する方法であって、前記方法は、
(a)カソード及び前記カソードを支持する任意選択のカソード集電体を提供する工程と、
(b)Li、Na、K、又はこれらの組み合わせから選択されるアルカリ金属アノード及び前記アノードを支持する任意選択のアノード集電体を提供する工程と、
(c)前記アノードと前記カソードに接触する電解質と、前記アノードと前記カソードを電気的に分離する任意選択のセパレータを提供する工程と、
を備え、前記カソードは、硫黄含有材料の複数の微粒子を含み、前記微粒子の少なくとも1つは、添加剤又は補強材なしで測定した場合に10%以上の回復可能な引張り歪み、室温で10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率、及び0.5nm~10μmの厚さを有する高弾性ポリマーの薄層によって包まれている又はカプセル化されている1つ以上の硫黄含有材料粒子からなることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セルを製造する方法。
【請求項41】
請求項40に記載の製造方法において、前記硫黄含有材料は、硫黄-炭素ハイブリッド、導電性ポリマー-硫黄ハイブリッド、金属スルフィド、硫黄化合物、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする製造方法。
【請求項42】
請求項41に記載の製造方法において、前記硫黄-炭素ハイブリッド又は導電性ポリマー-硫黄ハイブリッドは、混合物、ブレンド、複合体、硫黄又は硫化物と、炭素又は導電性ポリマー材料との化学的又は物理的に結合した物体であることを特徴とする製造方法。
【請求項43】
請求項40に記載の製造方法において、前記高弾性ポリマーは、ポリマー鎖の架橋ネットワークにおいて、エーテル結合、ニトリル由来結合、過酸化ベンゾイル由来結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ-樹脂結合、トリアクリレートモノマー由来結合、テトラアクリレートモノマー由来結合、又はこれらの組み合わせを有するポリマー鎖の前記架橋ネットワークを含むことを特徴とする製造方法。
【請求項44】
請求項40に記載の製造方法において、前記高弾性ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリスリトールテトラアクリレート鎖、ペンタエリスリトールトリアクリレート鎖、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖、又はこれらの組み合わせから選択されるポリマー鎖の架橋ネットワークを含むことを特徴とする製造方法。
【請求項45】
請求項40に記載の製造方法において、前記高弾性ポリマーは、1nm~100nmの厚さを有することを特徴とする製造方法。
【請求項46】
請求項40に記載の製造方法において、前記高弾性ポリマーは、1×10-5S/cm~5×10-2S/cmのリチウムイオン伝導性を有することを特徴とする製造方法。
【請求項47】
請求項40に記載の製造方法において、前記高弾性ポリマーは、30%~300%の回復可能な引張り歪みを有することを特徴とする製造方法。
【請求項48】
請求項40に記載の製造方法において、前記複数の微粒子は、パンコーティング、エアサスペンション、遠心押し出し、振動ノズル、噴霧乾燥、超音波噴霧、コアセルベーション相分離、界面重縮合、その場重合、マトリックス重合、又はこれらの組み合わせから選択される手順を使用して、前記高弾性ポリマーの薄層によって包まれている又はカプセル化されている、硫黄含有材料粒子からなることを特徴とする製造方法。
【請求項49】
請求項40に記載の製造方法において、前記複数の微粒子は、エラストマーを有する前記高弾性ポリマー、導電性ポリマー、リチウムイオン伝導性材料、補強材、又はこれらの組み合わせの混合物によって包まれている又はカプセル化されている、硫黄含有材料粒子からなることを特徴とする製造方法。
【請求項50】
請求項49に記載の製造方法において、前記リチウムイオン伝導性材料は、前記高弾性ポリマーに分散され、LiCO、LiO、Li、LiOH、Li、ROCOLi、HCOLi、ROLi、(ROCOLi)、(CHOCOLi)、LiS、LiSO、又はこれらの組み合わせから選択され、X=F、Cl、I、又はBr、R=炭化水素基、x=0~1、y=1~4であることを特徴とする製造方法。
【請求項51】
請求項49に記載の製造方法において、前記リチウムイオン伝導性材料は、前記高弾性ポリマーに分散され、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF )、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸(LiPF(CFCF)、リチウムビスベルフルオロ-エチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、イオン液体系リチウム塩、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする製造方法。
【請求項52】
リチウム-硫黄セル、ナトリウム-硫黄セル、又はカリウム-硫黄セルから選択される充電式アルカリ金属-硫黄セルを製造する方法であって、前記方法は、(a)アノード活物質層及び前記アノード活物質層を支持する任意選択のアノード集電体を含むアノードを提供する工程と、(b)請求項32に記載のカソード活物質層を含むカソードを提供する工程と、(c)前記アノード活物質層及び前記カソード活物質層とイオン接触する任意選択の多孔質セパレータ層を電解質に提供する工程と、(d)前記アノード、前記カソード、及び前記電解質を組み合わせて電池ユニットを形成し、前記電池ユニットを保護筐体に入れて前記充電式アルカリ金属-硫黄セルを形成する工程とを備えることを特徴とするリチウム-硫黄セル、ナトリウム-硫黄セル、又はカリウム-硫黄セルから選択される充電式アルカリ金属-硫黄セルを製造する方法。
【請求項53】
リチウム-硫黄セル、ナトリウム-硫黄セル、又はカリウム-硫黄セルから選択される充電式アルカリ金属-硫黄セルを製造する方法であって、前記方法は、(a)アノード活物質層及び前記アノード活物質層を支持する任意選択のアノード集電体を含むアノードを提供する工程と、(b)任意選択によりカソード集電体に支持されたカソード活物質層を含むカソードを提供する工程と、(c)前記アノード活物質層及び前記カソード活物質層とイオン接触する多孔質セパレータ層及び電解質を提供する工程と、(d)前記カソード活物質層と前記多孔質セパレータ層の間に高弾性ポリマーの層を実装する工程とを備え、前記高弾性ポリマーは、添加剤又は補強材なしで測定した場合に10%以上の回復可能な引張り歪み、室温で10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率、及び0.5nm~10μmの厚さを有することを特徴とするリチウム-硫黄セル、ナトリウム-硫黄セル、又はカリウム-硫黄セルから選択される充電式アルカリ金属-硫黄セルを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用する、どちらも2017年2月23日に出願された米国特許出願第15/440,151号明細書に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、リチウム-硫黄電池、ナトリウム-硫黄電池、及びカリウム-硫黄電池を含む、二次又は充電式アルカリ金属-硫黄電池における特異的なカソード組成及び構造を提供する。リチウム-硫黄電池は、リチウム金属-硫黄電池(アノード活物質としてリチウム金属、及びカソード活物質として硫黄を有する)並びにリチウムイオン-硫黄電池(例えば、アノード活物質としてSi又は黒鉛、及びカソード活物質として硫黄)を含み得る。ナトリウム-硫黄電池は、ナトリウム金属-硫黄電池(アノード活物質としてナトリウム金属、及びカソード活物質として硫黄を有する)並びにナトリウムイオン-硫黄電池(例えば、アノード活物質として硬質炭素、及びカソード活物質として硫黄)を含み得る。
【背景技術】
【0003】
充電式リチウムイオン(Liイオン)及びリチウム金属電池(Li-硫黄及びLi金属-空気電池を含む)が、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、及びポータブル電子デバイス、例えばラップトップコンピュータ及び携帯電話用の有望な電源とみなされている。金属元素としてのリチウムは、アノード活性材料としての任意の他の金属又は金属インターカレーション化合物(4,200mAh/gの比容量を有するLi4.4Siを除く)と比較して最高の容量(3,861mAh/g)を有する。したがって、一般に、Li金属電池は、リチウムイオン電池よりも大幅に高いエネルギー密度を有する。
【0004】
歴史的には、充電式リチウム金属電池は、リチウム金属アノードと結合されたカソード活性材料として、TiS、MoS、MnO、CoO、及びVなど、比較的高い比容量を有する非リチウム化化合物を使用して製造された。電池が放電されると、リチウム金属アノードから電解質を通ってカソードにリチウムイオンが移動され、カソードがリチウム化された。残念ながら、充放電を繰り返すと、リチウム金属がアノードでデンドライトを形成し、このデンドライトは、最終的にはセパレータを貫通して成長し、内部短絡及び爆発を引き起こした。この問題に関連した一連の事故の結果、1990年代初頭にこれらのタイプの二次電池の生産が中止され、リチウムイオン電池に取って代わられた。
【0005】
リチウムイオン電池では、純粋なリチウム金属のシート又はフィルムが、アノードとしての炭素質材料によって置換された。炭素質材料は、(例えば、グラフェン面間でのリチウムイオン又は原子のインターカレーションにより)リチウムを吸収し、リチウムイオン電池動作のそれぞれ再充電段階中及び放電段階中にリチウムイオンを脱着する。炭素質材料は、リチウムとインターカレートすることができる黒鉛を主に含むことがあり、得られる黒鉛インターカレーション化合物は、Liとして表すことができ、ここで、xは典型的には1未満である。
【0006】
リチウムイオン(Liイオン)バッテリは、電気駆動車用の有望なエネルギー貯蔵デバイスであるが、現況技術のLiイオン電池は、コスト面及び性能面での目標をまだ満たしていない。Liイオンセルは、典型的には、炭素負極(アノード)に対して高電位でLi+を脱/再インターカレートする正極(カソード)としてリチウム遷移金属酸化物又はリン酸塩を使用する。リチウム遷移金属酸化物又はリン酸塩ベースのカソード活性材料の比容量は、典型的には140~170mAh/gの範囲内である。その結果、市販のLiイオンセルの比エネルギーは、典型的には120~220Wh/kg、最も典型的には150~180Wh/kgの範囲内である。これらの比エネルギー値は、バッテリ駆動式電気自動車が広く受け入れられるために必要とされるよりも2~3倍低い。
【0007】
ハイブリッド(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(HEV)、全電池電気自動車(EV)の急速な発展に伴って、大幅に高い比エネルギー、より高いエネルギー密度、より高いレート性能、長いサイクル寿命、及び安全性を備える充電式電池を提供するアノード及びカソード材料が緊急で必要である。最も有望なエネルギー貯蔵デバイスの1つは、リチウム-硫黄(Li-S)セルである。これは、Liの理論容量が3,861mAh/gであり、Sの理論容量が1,675mAh/gであるからである。Li-Sセルは、その最も単純な形態では、正極としての元素硫黄と、負極としてのリチウムとからなる。リチウム-硫黄セルは、Li/Liに対して2.2Vに近い反応S+16Li⇔8LiSで表される酸化還元対で動作する。この電気化学電位は、従来の正極(例えば、LiMnO)によって示される電位の約2/3である。しかし、この欠点は、LiとSの両方の非常に高い理論容量によって相殺される。したがって、従来のインターカレーションに基づくLiイオン電池と比較して、Li-Sセルは、大幅に高いエネルギー密度(容量と電圧の積)を提供する可能性を有する。LiSへの完全な反応を仮定すると、エネルギー密度値は、Li及びSの合計重量又は体積に基づいて、それぞれ2,500Wh/kg及び2,800Wh/Lに近づき得る。総セル重量又は体積に基づく場合、エネルギー密度はそれぞれ約1,000Wh/kg及び1,100Wh/Lに達し得る。しかし、硫黄カソード技術の業界リーダーによって報告された現在のLi硫黄セルは、(総セル重量に基づいて)250~400Wh/kgの最大セル比エネルギーを有しており、これは、可能な値よりもかなり低い。
【0008】
要約すると、図2にて概略的に示すように、かなりの利点があるにもかかわらず、Li-Sセルには、いくつかの主な技術的問題があり、したがってそれらがLi-Sセルの広範な商業化を妨げている。
(1)従来のリチウム金属セルは、デンドライト形成及び関連の内部短絡の問題を依然として有する。
(2)硫黄又は硫黄含有有機化合物は、電気的にもイオン的にも高い絶縁性を有する。高い電流密度又は充放電レートで可逆電気化学反応を可能にするために、硫黄は、導電性添加剤との密接な接触を維持しなければならない。この目的のために様々な炭素-硫黄複合体が利用されているが、接触面積のスケールが限られているため、限られた成功しか収めていなかった。報告されている典型的な容量は、中程度のレートで、(カソード炭素-硫黄複合体重量に基づいて)300~550mAh/gである。
(3)このセルは、放電-充電サイクル中に大幅な容量減衰を示す傾向がある。これは主に、電解質に使用される極性有機溶媒中での放電プロセスと充電プロセスの両方において反応中間体として形成されるポリ硫化リチウムアニオンの高い可溶性によるものである。サイクリング中、ポリ硫化リチウムアニオンは、セパレータを通ってLi負極に移動することがあり、そこで還元されて固体の沈殿物(Li及び/又はLiS)となり、活性質量損失を引き起こす。さらに、放電中に正極の表面に析出する固体生成物が電気化学的に不可逆的になり、これも活性質量損失の一因となる。
(4)より一般的に言えば、元素硫黄、有機硫黄、及び炭素-硫黄材料を含むカソードを含むセルの大きな欠点は、カソードからセルの残りの部分への、可溶性硫化物、ポリ硫化物、オルガノスルフィド、硫化炭素、及び/又はポリ硫化炭素(本明細書では以後、アニオン性還元生成物と呼ぶ)の溶解及び過剰な外方拡散に関する。この現象は一般的にシャトル効果と呼ばれる。このプロセスは、以下のようないくつかの問題を生じる:高い自己放電率、カソード容量の損失、活性セル構成要素への電気的接触の喪失をもたらす集電体及び電気的リードの腐食、アノードの機能不全をもたらすアノード表面の汚れ、並びに、イオン輸送の喪失及びセル内の内部抵抗の大きな増加をもたらすセル膜セパレータの細孔の目詰まり。
【0009】
これらの課題に対応して、新規の電解質、リチウムアノード用の保護フィルム、及び固体電解質が開発されている。いくつかの興味深いカソードの開発が最近報告されており、ポリ硫化リチウムを含む。しかし、それらの性能は、まだ実用的な用途に必要な性能に至っていない。
【0010】
例えばJiらは、ナノ構造化硫黄/メソポーラス炭素材料に基づくカソードがこれらの課題を大幅に克服でき、安定した高い可逆容量を示し、レート特性とサイクリング効率が優れていることを報告した[Xiulei Ji,Kyu Tae Lee,& Linda F.Nazar,“A highly ordered nanostructured carbon-sulphur cathode for lithium-sulphur batteries,”Nature Materials 8,500-506(2009)]。しかし、提案されている高度に秩序化されたメソポーラス炭素構造の作製には、単調であり高い費用がかかるテンプレート支援プロセスが必要である。また、物理気相成長法又は溶液沈殿法を使用して、これらのメソスケールの細孔に高比率の硫黄を装填することも困難である。
【0011】
Zhangら(米国特許公開第2014/0234702号明細書;2014年8月21日)は、単離された酸化グラフェン(GO)シートの表面上に微細S粒子を堆積させる化学反応法を利用する。しかし、この方法は、GO表面上に高比率のS粒子(すなわち、典型的にはGO-Sナノコンポジット組成物中で66%未満のS)を作成することができない。得られるLi-Sセルはまた、レート性能が低い;例えば、0.02Cのレートで(Sの重量に基づいて)1,100mAh/gの比容量が、1.0Cのレートで<450mAh/gに低下される。実現可能な最高の比容量1,100mAh/gは、そのような低い充放電レートでさえ、1,100/1,675=65.7%の硫黄利用効率を示すことに留意されたい(0.02Cは、1/0.02=50時間で充電又は放電プロセスを完了することを意味する。同様に、1C=1時間、2C=1/2時間、3C=1/3時間などである)。さらに、そのようなS-GOナノコンポジットカソードベースのLi-Sセルは、非常に短いサイクル寿命を示し、容量は、典型的には、40回未満の充放電サイクルでその元の容量の60%未満に低下する。そのような短いサイクル寿命のため、このLi-Sセルは実用的な用途には有用でない。酸化グラフェン表面上にS粒子を堆積させる別の化学反応法をWangらが開示している(米国特許出願公開第2013/0171339号明細書;2013年7月4日)。このLi-Sセルも依然として同じ問題を抱えている。
【0012】
Li-Sセル中のカソード材料として使用するための(GO表面上に吸着された硫黄粒子を有する)グラフェン-硫黄ナノコンポジットを調製するための溶液沈殿法をLiuらが開示している(米国特許出願公開第2012/0088154号明細書;2012年4月12日)。この方法は、GOシートと溶媒(CS)中のSとを混合して懸濁液を形成することを含む。次いで溶媒を蒸発させて固体ナノコンポジットを得て、次いでこれを粉砕して、平均直径が約50nm未満の一次硫黄粒子を有するナノコンポジット粉末を得る。残念ながら、この方法は、40nm未満のS粒子を生成することはできないようである。得られたLi-Sセルは、サイクル寿命が非常に短い(わずか50サイクル後に50%の容量減衰)。これらのナノコンポジット粒子がポリマーにカプセル化されているときでさえ、Li-Sセルは、100サイクル後にその元の容量の80%未満しか保たない。また、このセルは、レート性能が低い(0.1Cのレートで1,050mAh/g(S重量)の比容量。1.0Cのレートで<580mAh/gに低下)を示す。ここでも、これは、高比率のSがリチウム貯蔵に寄与せず、その結果、S利用効率が低いことを示唆する。
【0013】
更に、前述の方法は全て、単離されたグラフェンシートの表面に対してS粒子を堆積させることを伴う。グラフェン表面に付着したS粒子(最も絶縁性の高い材料の1つ)が存在すると、複数のSが結合したグラフェンシートがともに詰め込まれたときに、得られる電極構造が非導電性になる。これらのS粒子は、グラフェンシートが互いに接触するのを防ぎ、それ以外ではグラフェンシートを導電してカソードに電子導電経路の3-Dネットワークを形成することを不可能にする。この意図せず予期しない結果は、これらの従来技術のLi-Sセルの性能が非常に低いもう1つの理由である。
【0014】
高エネルギー密度のLi-Sセルの製造に様々な手法が提案されているが、これらのセルにおける、カソードコンパートメントから他のコンポーネントへのS又はリチウムポリスルフィドの外方拡散を遅らせるカソード材料、製造プロセス、及びセル操作方法の必要性が残っており、電気活性カソード材料の利用効率(S利用効率)を改善し、多数のサイクルにわたって高容量の充電式Li-Sセルを提供する。
【0015】
最も重要なことに、リチウム金属(純リチウム、他の金属元素との高いリチウム含有量のリチウム合金、又は高いリチウム含有量を有するリチウム含有化合物を含む;例えば、>80重量%以上、又は好ましくは>90重量%のLi)は、実質的に全ての他のアノード活性材料(純粋なシリコンを除く。しかし、シリコンは粉末化の問題を有する)と比較して、最高のアノード比容量を依然として提供する。デンドライト関連の問題に対処することができれば、リチウム金属は、リチウム-硫黄二次電池における理想的なアノード材料となる。
【0016】
ナトリウム金属(Na)とカリウム金属(K)は、Liと同様の化学的特性を有し、室温ナトリウム-硫黄セル(RT Na-S電池)又はカリウム-硫黄セル(K-S)での硫黄カソードは、(i)低い活性材料利用率、(ii)低いサイクル寿命、及び(iii)低いクーロン効率など、Li-S電池で観察される同じ問題に直面する。ここでも、これらの欠点は、主にSの絶縁性、液体電解質中のS及びポリ硫化Na又はK中間体の溶解(及び関連するシャトル効果)、並びに充放電中の大きな体積変化により生じる。
【0017】
したがって、本発明の目的は、並外れて高い比エネルギー又は高いエネルギー密度を示す充電式アルカリ金属電池(例えば、Li-S、Na-S、及びK-S電池)を提供することである。本発明の1つの特定の技術的目標は、400Wh/kgを超える、好ましくは500Wh/kgを超える、より好ましくは600Wh/kgを超えるセル比エネルギー(全てセルの総重量に基づく)を有するアルカリ金属-硫黄又はアルカリイオン-硫黄セルを提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、高いカソード比容量(硫黄重量に基づいて1,200mAh/gより高い、或いは、硫黄、導電性添加剤又は基材、及びバインダーの重量を組み合わせたものを含むが、カソード集電体の重量を除く、カソード複合体重量に基づいて1,000mAh/gより高い)を示すアルカリ金属-硫黄セルを提供することである。比容量は、硫黄重量のみに基づいて1,400mAh/gより高い、又はカソード複合体重量に基づいて1,200mAh/gより高いことが好ましい。これには、高い比エネルギー、デンドライト形成に対する良好な耐性、及び長く安定したサイクル寿命が伴わなければならない。
【0019】
公開されている文献レポート(科学論文)及び特許文献のほとんどにおいて、科学者ら又は発明者らは、(カソード複合体の総重量ではなく)硫黄又はポリ硫化リチウムの重量のみに基づいてカソード比容量を表現することを選択しているが、残念ながら、典型的にはそれらのLi-Sセルでは高比率の非活性材料(導電性添加剤及びバインダーなど、リチウムを貯蔵することができない材料)が使用されることに留意されたい。実用の目的では、カソード複合体の重量に基づく容量値を使用することがより有意義である。
【0020】
したがって、本発明の特定の目的は、従来のLi-Sセルに一般的に関連する以下の問題を克服又は大幅に低減する合理的な材料及び電池設計に基づく充電式のアルカリ金属-硫黄セルを提供することである:(a)デンドライト形成(内部短絡);(b)硫黄の非常に低い電気及びイオン伝導度。これは、大きな比率(典型的には30~55%)の非活性導電性フィラーを必要とし、且つかなりの比率のアクセス不可能な又は到達不可能な硫黄又はアルカリ金属ポリ硫化物を有する;(c)電解質中へのS及びアルカリ金属ポリ硫化物の溶解、並びに(d)カソードからアノードへのポリ硫化物の移動(これは、アノードでリチウム又はNa又はKと不可逆反応する)。これは、活性材料の喪失及び容量減衰(シャトル効果)をもたらす;及び(e)短いサイクル寿命。
【発明の概要】
【0021】
本発明は、アルカリ金属-硫黄セル(例えば、リチウム-硫黄セル、ナトリウム-硫黄セル、及びカリウム-硫黄セル)を提供する。アルカリ金属-硫黄セルは、(a)アノード活物質層及びアノード活物質層を支持する任意選択のアノード集電体と、(b)カソード活物質層及びカソード活物質層を支持する任意選択のカソード集電体と、(c)アノード活物質層及びカソード活物質層とイオン接触する任意選択の多孔質セパレータ層を有する電解質とを含み、この場合に、カソード活物質層は、硫黄-炭素ハイブリッド、硫黄-黒鉛ハイブリッド、硫黄-グラフェンハイブリッド、導電性ポリマー-硫黄ハイブリッド、金属スルフィド、硫黄化合物、又はこれらの組み合わせから選択される硫黄含有材料の複数の微粒子を含み、微粒子の少なくとも1つは、添加剤又は補強材なしで測定した場合に10%以上の回復可能な引張り歪み、10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率(典型的には、室温で測定される10-5S/cm~5×10-2S/cm)、及び0.5nm~10μmの厚さ(典型的には1nm~1μmであるが、好ましくは<100nm、より好ましくは<10nm)を有する高弾性ポリマーの薄層によって包まれている又はカプセル化されている1つ以上の硫黄含有材料粒子からなる。
【0022】
硫黄-炭素ハイブリッド、硫黄-黒鉛ハイブリッド、硫黄-グラフェンハイブリッド、又は導電性ポリマー-硫黄ハイブリッドは、混合物、ブレンド、複合体、或いは硫黄又は硫化物の炭素、黒鉛、グラフェン、又は導電性ポリマー材料との化学的又は物理的に結合した物体であり得る。例えば、硫黄-グラフェンハイブリッドは、ボールミル粉砕によって調製された硫黄とグラフェンの単純な混合物(粒子形態)であり得る。このようなハイブリッドは、酸化グラフェンシート等の表面で結合した硫黄を含み得る。別の例として、硫黄-炭素ハイブリッドは、硫黄とカーボンナノチューブの単純な混合物(粒子形態)であり得る、又は活性炭粒子の細孔に存在する硫黄を含み得る。
【0023】
本発明の充電式アルカリ金属-硫黄セルでは、高弾性ポリマーは、ポリマー鎖の架橋ネットワークにおいて、エーテル結合、ニトリル由来結合、過酸化ベンゾイル由来結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ-樹脂結合、トリアクリレートモノマー由来結合、テトラアクリレートモノマー由来結合、又はこれらの組み合わせを有するポリマー鎖の前述の架橋ネットワークを含み得る。
【0024】
いくつかの好ましい実施形態では、高弾性ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリスリトールテトラアクリレート鎖、ペンタエリスリトールトリアクリレート鎖、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖、又はこれらの組み合わせから選択されるポリマー鎖の架橋ネットワークを含む。
【0025】
充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、金属スルフィドは、Mで表される材料を含み得、この場合に、xは1~3の整数であり、yは1~10の整数であり、Mは、アルカリ金属、Mg又はCaから選択されるアルカリ金属、遷移金属、周期表の13族~17族の金属、或いはこれらの組み合わせから選択される金属元素である。好ましくは、金属元素Mは、Li、Na、K、Mg、Zn、Cu、Ti、Ni、Co、Fe、又はAlから選択される。
【0026】
いくつかの好ましい実施形態では、カソード層の金属スルフィドは、Li、Li、Li、Li、Li、Li、Li、Li、Li、Li10、Na、Na、Na、Na、Na、Na、Na、Na、Na9、Na10、K、K、K、K、K、K、K、K、K、又はK10を含む。
【0027】
充電式アルカリ金属-硫黄セルでは、カソード活物質層の炭素又は黒鉛材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張黒鉛フレーク、人工黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、高配向熱分解黒鉛、軟質炭素粒子、硬質炭素粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、黒鉛ナノファイバー、黒鉛繊維、炭化ポリマーファイバー、活性炭、カーボンブラック、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。グラフェンは、純粋なグラフェン、酸化グラフェン、還元グラフェン酸化物(RGO)、フッ化グラフェン、窒素化グラフェン、水素化グラフェン、ドープトグラフェン、官能化グラフェン、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。
【0028】
導電性ポリマー-硫黄ハイブリッドは、好ましくは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、二環式ポリマー、これらのスルホン化誘導体、又はこれらの組み合わせから選択される本質的に導電性のポリマーを含み得る。
【0029】
特定の実施形態では、高弾性ポリマーは、0.1重量%~50重量%のその中に分散されたリチウムイオン伝導性添加剤を含む、或いはカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、又はこれらの組み合わせから選択される0.1重量%~10重量%の補強ナノフィラメントをその中に含む。
【0030】
特定の実施形態では、高弾性ポリマーは、リチウムイオン伝導性添加剤と混合されて複合体を形成し、この場合に、前述のリチウムイオン伝導性添加剤は、前述の高弾性ポリマーに分散され、LiCO、LiO、Li、LiOH、LiX、ROCOLi、HCOLi、ROLi、(ROCOLi)、(CHOCOLi)、LiS、LiSO、又はこれらの組み合わせから選択され、この場合に、X=F、Cl、I、又はBr、R=炭化水素基、x=0~1、y=1~4である。
【0031】
特定の実施形態では、高弾性ポリマーは、リチウムイオン伝導性添加剤と混合されて複合体を形成し、この場合に、リチウムイオン伝導性添加剤は、高弾性ポリマーに分散され、過塩素酸リチウム、LiClO、ヘキサフルオロリン酸リチウム、LiPF、ホウフッ化リチウム、LiBF、六フッ化ヒ化リチウム、LiAsF、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSO、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム、LiN(CFSO、リチウムビス(オキサラト)ボレート、LiBOB、リチウムオキサリルジフルオロボレート、LiBF、リチウムオキサリルジフルオロボレート、LiBF、硝酸リチウム、LiNO、Li-フルオロアルキル-リン酸、LiPF(CFCF、リチウムビスベルフルオロ-エチルスルホニルイミド、LiBETI、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド、LiTFSI、イオン液体系リチウム塩、又はこれらの組み合わせから選択される。
【0032】
特定の好ましい実施形態では、高弾性ポリマーは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、二環式ポリマー、これらのスルホン化誘導体、又はこれらの組み合わせから選択される導電性ポリマーと混合される。
【0033】
特定の実施形態では、高弾性ポリマーは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)、ポリビス-メトキシエトキシエトキシド-ホスファゼネックス、ポリ塩化ビニル、ポリジメチルシロキサン、ポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)、これらのスルホン化誘導体、又はこれらの組み合わせから選択されるリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合物又はブレンドを形成する。
【0034】
典型的には、高弾性ポリマーは、室温で1×10-5S/cm~5×10-2S/cmのリチウムイオン伝導率を有する。
【0035】
充電式アルカリ金属-硫黄セルは、80%~99%、より一般的には85%~97%の硫黄利用効率を有する。
【0036】
充電式アルカリ金属-硫黄セルでは、電解質は、ポリマー電解質、ポリマーゲル電解質、複合電解質、イオン液体電解質、非水性液体電解質、ソフトマター相電解質、固体電解質、又はこれらの組み合わせから選択される。電解質は、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸(LiPF(CFCF)、リチウムビスパーフルオロエチルスルホニルイミド(LiBETI)、イオン液体塩、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、過塩素酸カリウム(KClO)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)、六フッ化リン酸カリウム(KPF)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF)、ホウフッ化カリウム(KBF)、六フッ化ヒ化ナトリウム、ヘキサフルオロヒ化カリウム、トリフルオロメタスルホン酸ナトリウム(NaCFSO)、トリフルオロメタスルホン酸カリウム(KCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドナトリウム(NaN(CFSO)、ナトリウムトリフルオロメタンスルホンイミド(NaTFSI)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドカリウム(KN(CFSO)、又はこれらの組み合わせから選択される塩を含んでもよい。
【0037】
溶媒は、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、トルエン、キシレン又は酢酸メチル(MA)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、炭酸ビニレン(VC)、炭酸アリルエチル(AEC)、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、スルホン、スルホラン、室温イオン液体、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。
【0038】
特定の実施形態では、アノード活物質層は、リチウム金属、ナトリウム金属、カリウム金属、リチウム金属合金、ナトリウム金属合金、カリウム金属合金、リチウムインターカレーション化合物、ナトリウムインターカレーション化合物、カリウムインターカレーション化合物、リチウム化化合物、ナトリウム化化合物、カリウムドープト化合物、リチウム化二酸化チタン、チタン酸リチウム、マンガン酸リチウム、リチウム遷移金属酸化物、LiTi12、又はこれらの組み合わせから選択されるアノード活物質を含む。
【0039】
充電式アルカリ金属-硫黄セルは、リチウムイオン-硫黄セルであってもよく、この場合には、アノード活物質層は、(a)シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、及びカドミウム(Cd)、並びにこれらのリチウム化バージョン、(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、又はCdと他の元素との合金又は金属間化合物、並びにこれらのリチウム化バージョン、この場合に、前述の合金又は化合物は化学量論的又は非化学量論的である、(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ni、Co、Ti、Mn、又はCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、及びテルル化物、並びにこれらの混合物又は複合体、並びにこれらのリチウム化バージョン、(d)Snの塩及び水酸化物、並びにこれらのリチウム化バージョン、(e)炭素又は黒鉛材料及びこれらのプレリチウム化バージョン、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択されるアノード活物質を含む。
【0040】
充電式アルカリ金属-硫黄セルは、ナトリウムイオン-硫黄セル又はカリウムイオン-硫黄セルであってもよく、この場合には、前述のアノード活物質層は、(a)ナトリウム又はカリウムをドープしたシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、カドミウム(Cd)、及びこれらの混合物、(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びこれらの混合物のナトリウム又はカリウム含有合金又は金属間化合物、(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びこれらの混合物又は複合体のナトリウム又はカリウム含有の、酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、テルル化物、又はアンチモン化物、(d)ナトリウム又はカリウム塩、(e)黒鉛の粒子、硬質炭素、軟質炭素又は炭素粒子、及びこれらのプレナトリウム化バージョン、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択されるアノード活物質を含む。
【0041】
好ましくは、充電式アルカリ金属-硫黄セルでは、微粒子は、高容量ポリマー及び硫黄、金属スルフィド、又は金属化合物を合わせた総重量に基づいて、80重量%~99重量%の硫黄、金属スルフィド、又は金属化合物を含む。
【0042】
又、本発明は、充電式アルカリ金属-硫黄セルにおけるカソード活物質層を提供する。このカソード活物質層は、硫黄-炭素ハイブリッド、硫黄-黒鉛ハイブリッド、硫黄-グラフェンハイブリッド、導電性ポリマー-硫黄ハイブリッド、金属スルフィド、硫黄化合物、又はこれらの組み合わせから選択される硫黄含有材料の複数の微粒子を含み、前記微粒子の少なくとも1つは、添加剤又は補強材なしで測定した場合に10%以上の回復可能な引張り歪み、室温で10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率(典型的には5×10-2S/cmまで)、及び0.5nm~10μm(好ましくは典型的には1nm~1μm、より好ましくは<100nm)の厚さを有する高弾性ポリマーの薄層によって包まれている又はカプセル化されている1つ以上の硫黄含有材料粒子からなる。
【0043】
この生成物(カソード層)では、硫黄-炭素ハイブリッド、硫黄-黒鉛ハイブリッド、硫黄-グラフェンハイブリッド、又は導電性ポリマー-硫黄ハイブリッドは、硫黄又は硫化物と、炭素、黒鉛、グラフェン、又は導電性ポリマー材料との混合物、ブレンド、複合体、化学的又は物理的に結合した物体である。
【0044】
このカソード活物質層生成物において、高弾性ポリマーは、好ましくは、ポリマー鎖の架橋ネットワークにおいて、エーテル結合、ニトリル由来結合、過酸化ベンゾイル由来結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ-樹脂結合、トリアクリレートモノマー由来結合、テトラアクリレートモノマー由来結合、又はこれらの組み合わせを有するポリマー鎖の架橋ネットワークを含む。好ましくは、高弾性ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリスリトールテトラアクリレート鎖、ペンタエリスリトールトリアクリレート鎖、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖、又はこれらの組み合わせから選択されるポリマー鎖の架橋ネットワークを含む。
【0045】
カソード活物質層において、金属スルフィドはMを含み得、この場合に、xは1~3の整数であり、yは1~10の整数であり、Mは、アルカリ金属、Mg又はCaから選択されるアルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、又はこれらの組み合わせから選択される金属元素である。
【0046】
カソード活物質層の炭素又は黒鉛材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張黒鉛フレーク、人工黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、高配向熱分解黒鉛、軟質炭素粒子、硬質炭素粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、黒鉛ナノファイバー、黒鉛繊維、炭化ポリマーファイバー、活性炭、カーボンブラック、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。
【0047】
このカソード活物質層は、カソード活物質層を形成するために複数の微粒子(カプセル化された硫黄含有粒子)をともに結合するバインダー樹脂を更に含み、この場合に、バインダー樹脂は、複数の微粒子の一部ではなく(即ち、微粒子のコア部分の内側に含まれない)複数の微粒子の外部にある。言い換えれば、高弾性ポリマーはバインダー樹脂を包まない。
【0048】
或いは又、本発明は、充電式アルカリ金属-硫黄セルにおけるカソード活物質層を提供し、この場合に、カソード活物質層は、樹脂バインダー、任意選択の導電性添加剤、及び硫黄-炭素ハイブリッド、硫黄-黒鉛ハイブリッド、硫黄-グラフェンハイブリッド、導電性ポリマー-硫黄ハイブリッド、金属スルフィド、硫黄化合物、又はこれらの組み合わせから選択される硫黄含有材料の複数の粒子を含み、硫黄含有材料粒子は樹脂バインダーによって結合されて統合固体層(自立することができる適切な構造的完全性の層)を形成し、統合固体層は、添加剤又は補強材なしで測定した場合に10%以上の回復可能な引張り歪み、室温で10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率、及び0.5nm~10μmの厚さを有する高弾性ポリマーの薄層で覆われ保護される。いくつかの実施形態では、統合固体層は、樹脂バインダーによってカソード集電体に結合される。
【0049】
このような高弾性ポリマー保護層は、前駆体の塊(必要な開始剤又は硬化剤を有するモノマー又はオリゴマー)を事前に作成されたカソード活物質層に噴霧し、次いで重合及び架橋されることによって形成できる。
【0050】
本発明は又、高弾性ポリマーにより保護されたこのようなカソード活物質層を含む充電式アルカリ金属-硫黄セルを提供する。このアルカリ金属-硫黄セルは、(a)アノード活物質層及びアノード活物質層を支持する任意選択のアノード集電体と、(b)このカソード活物質層を含むカソードと、(c)アノード活物質層及びカソード活物質層とイオン接触する任意選択の多孔質セパレータ層を有する電解質とを含む。
【0051】
本発明は又、リチウム-硫黄電池のカソードで使用する粉末塊生成物を提供する。粉末塊は、硫黄-炭素ハイブリッド、硫黄-黒鉛ハイブリッド、硫黄-グラフェンハイブリッド、導電性ポリマー-硫黄ハイブリッド、金属スルフィド、硫黄化合物、又はこれらの組み合わせから選択される硫黄含有材料の複数の微粒子を含み、前述の微粒子の少なくとも1つは、添加剤又は補強材なしで測定した場合に10%以上の回復可能な引張り歪み、室温で10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率、及び0.5nm~10μmの厚さを有する高弾性ポリマーの薄層によって包まれている又はカプセル化されている1つ以上の硫黄含有材料粒子からなる。
【0052】
粉末塊では、硫黄-炭素ハイブリッド、硫黄-黒鉛ハイブリッド、硫黄-グラフェンハイブリッド、又は導電性ポリマー-硫黄ハイブリッドは、混合物、ブレンド、複合体、或いは硫黄又は硫化物と、炭素、黒鉛、グラフェン、又は導電性ポリマー材料との化学的又は物理的に結合した物体である。高弾性ポリマーは、ポリマー鎖の架橋ネットワークにおいて、エーテル結合、ニトリル由来結合、過酸化ベンゾイル由来結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ-樹脂結合、トリアクリレートモノマー由来結合、テトラアクリレートモノマー由来結合、又はこれらの組み合わせを有するポリマー鎖の前述の架橋ネットワークを含む。好ましくは、高弾性ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリスリトールテトラアクリレート鎖、ペンタエリスリトールトリアクリレート鎖、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖、又はこれらの組み合わせから選択されるポリマー鎖の架橋ネットワークを含む。
【0053】
粉末塊において、金属スルフィドはMを含み得、この場合に、xは1~3の整数であり、yは1~10の整数であり、Mは、アルカリ金属、Mg又はCaから選択されるアルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、又はこれらの組み合わせから選択される金属元素である。
【0054】
本発明は又、充電式アルカリ金属-硫黄セルを製造する方法を提供する。この方法は、(a)カソード及びカソードを支持する任意選択のカソード集電体を提供する工程と、(b)Li、Na、K、又はこれらの組み合わせから選択されるアルカリ金属アノード及びアノードを支持する任意選択のアノード集電体を提供する工程と、(c)アノードとカソードに接触する電解質及びアノードとカソードを電気的に分離する任意選択のセパレータを提供する工程とを含み、この場合に、カソードは、硫黄含有材料の複数の微粒子を含み、微粒子の少なくとも1つは、添加剤又は補強材なしで測定した場合に10%~700%の回復可能な引張り歪み(より一般的には30%~300%)、室温で10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率(典型的には1×10-5S/cm~5×10-2S/cm)、及び0.5nm~10μm(好ましくは1nm~1μm、より好ましくは1nm~100nm、最も好ましくは1nm~10nm)の厚さを有する高弾性ポリマーの薄層によって包まれる又はカプセル化される1つ以上の硫黄含有材料粒子からなる。
【0055】
上記製造方法において、硫黄含有材料は、好ましくは、硫黄-炭素ハイブリッド、硫黄-黒鉛ハイブリッド、硫黄-グラフェンハイブリッド、導電性ポリマー-硫黄ハイブリッド、金属スルフィド、硫黄化合物、又はこれらの組み合わせから選択される。硫黄-炭素ハイブリッド、硫黄-黒鉛ハイブリッド、硫黄-グラフェンハイブリッド、又は導電性ポリマー-硫黄ハイブリッドは、混合物、ブレンド、複合体、或いは硫黄又は硫化物と、炭素、黒鉛、グラフェン、又は導電性ポリマー材料との化学的又は物理的に結合した物体である。
【0056】
本発明の製造方法において、高弾性ポリマーは、ポリマー鎖の架橋ネットワークにおいて、エーテル結合、ニトリル由来結合、過酸化ベンゾイル由来結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ-樹脂結合、トリアクリレートモノマー由来結合、テトラアクリレートモノマー由来結合、又はこれらの組み合わせを有するポリマー鎖の前述の架橋ネットワークを含む。好ましくは、高弾性ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリスリトールテトラアクリレート鎖、ペンタエリスリトールトリアクリレート鎖、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖、又はこれらの組み合わせから選択されるポリマー鎖の架橋ネットワークを含む。
【0057】
製造方法において、複数の微粒子を提供する操作は、パンコーティング、エアサスペンション、遠心押し出し、振動ノズル、噴霧乾燥、超音波噴霧、コアセルベーション相分離、界面重縮合、その場重合、マトリックス重合、又はこれらの組み合わせから選択される手順を使用して、高弾性ポリマーの前述の薄層で1つ以上の硫黄含有材料粒子をカプセル化する又は包むことを含み得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、複数の微粒子を提供する操作は、エラストマーを有する前述の高弾性ポリマー、導電性ポリマー、リチウムイオン伝導性材料、補強材、又はこれらの組み合わせの混合物で前述の1つ以上の硫黄含有材料粒子をカプセル化する又は包むことを含む。好ましくは、リチウムイオン伝導性材料は、前述の高弾性ポリマーに分散され、LiCO、LiO、Li、LiOH、LiX、ROCOLi、HCOLi、ROLi、(ROCOLi)、(CHOCOLi)、LiS、LiSO、又はこれらの組み合わせから選択され、この場合に、X=F、Cl、I、又はBr、R=炭化水素基、x=0~1、y=1~4である。
【0059】
特定の実施形態では、リチウムイオン伝導性材料は、前述の高弾性ポリマーに分散され、過塩素酸リチウム、LiClO、ヘキサフルオロリン酸リチウム、LiPF、ホウフッ化リチウム、LiBF、六フッ化ヒ化リチウム、LiAsF、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSO、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム、LiN(CFSO、リチウムビス(オキサラト)ボレート、LiBOB、リチウムオキサリルジフルオロボレート、LiBF、リチウムオキサリルジフルオロボレート、LiBF、硝酸リチウム、LiNO、Li-フルオロアルキル-リン酸、LiPF(CFCF、リチウムビスベルフルオロ-エチルスルホニルイミド、LiBETI、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド、LiTFSI、イオン液体系リチウム塩、又はこれらの組み合わせから選択される。
【0060】
本Li-Sセルでは、硫黄カソードの可逆的比容量は、典型的には且つ好ましくは、グラム当たり1000mAh以上であり、多くの場合にカソード層全体のグラム当たり1200mAh又は1500mAhさえ超える。本発明のカソードの高い比容量は、リチウムアノードと組み合わせると、典型的には、アノード、カソード、電解質、セパレータ、及び集電体を含む合わせた総セル重量に基づいて、400Wh/kgを大幅に超えるセル比エネルギーをもたらす。この特定のエネルギー値は、カソード活物質の重量又はカソード層の重量のみに基づいていなく(公開文献又は特許出願で行われることがあった)、代わりに、これはセルの重量全体に基づいている。多くの場合、セル固有エネルギーは500Wh/kgより高く、一部の例では600Wh/kgを超える。
【0061】
本発明は又、リチウム-硫黄セル、ナトリウム-硫黄セル、又はカリウム-硫黄セルから選択される充電式アルカリ金属-硫黄セルを製造する別の方法を提供する。この方法は、(a)アノード活物質層及びアノード活物質層を支持する任意選択のアノード集電体を含むアノードを提供する工程と、(b)高弾性ポリマーで保護され覆われたカソード活物質層を含むカソードを提供する工程と、(c)アノード活物質層及びカソード活物質層とイオン接触する任意選択の多孔質セパレータ層を電解質に提供する工程と、(d)アノード、カソード、及び電解質を組み合わせて電池ユニットを形成し、電池ユニットを保護筐体に入れて充電式アルカリ金属-硫黄セルを形成する工程とを含む。
【0062】
又、リチウム-硫黄セル、ナトリウム-硫黄セル、又はカリウム-硫黄セルから選択される充電式アルカリ金属-硫黄セルを製造する方法が提供される。この方法は、(a)アノード活物質層及びアノード活物質層を支持する任意選択のアノード集電体を含むアノードを提供する工程と、(b)任意選択によりカソード集電体に支持されたカソード活物質層を含むカソードを提供する工程と、(c)アノード活物質層及びカソード活物質層とイオン接触する多孔質セパレータ層及び電解質を提供する工程と、(d)カソード活物質層とセパレータの間に高弾性ポリマーの層を実装する工程とを含む。この高弾性ポリマーは、添加剤又は補強材なしで測定した場合に10%以上の回復可能な引張り歪み、室温で10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率、及び0.5nm~10μmの厚さを有する。この層は、カソードに溶解した硫黄又は金属ポリスルフィド(例えば、リチウムポリスルフィド又はナトリウムポリスルフィド)の拡散がアノード側に移動するのを防ぐ働きをする。これにより、シャトル効果が効果的に低減又は排除される。
【0063】
本発明のこれら及び他の利点及び特徴は、以下の最良の形態の実施及び例示的な例の説明によってより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1A図1(A)は、従来技術のアルカリ金属-硫黄電池セルの概略図。
図1B図1(B)は、別の従来技術のアルカリ金属-硫黄電池セルの概略図。
図2図2は、従来技術のアルカリ金属電池のカソード活物質に関連する問題、例えば、コア-シェル構造の保護シェル(例えば、炭素シェル)でカプセル化された金属スルフィド粒子は、必然的にシェルの破損につながり、保護層でカプセル化された金属スルフィド粒子は、電池充電中の収縮した金属スルフィド粒子と剛性の保護シェルの間の接触不良につながる。
図3図3は、カソード活物質の本発明の高弾性ポリマーでカプセル化された粒子の概略図。ポリマーシェルの高い弾性変形により、シェルはコア粒子と一致し共形して膨張及び収縮できる。
図4図4は、4種類の高弾性ポリマーに包まれたS含有カソード活物質粒子の概略図。
図5図5は、4つのBPOで開始し架橋されたETPTAポリマーの代表的な引張り応力-歪み曲線。
図6図6は、4つのPF5で開始し架橋されたPVA-CNポリマーの代表的な引張り応力-歪み曲線。
図7図7は、3つの架橋されたPETEAポリマーの代表的な引張り応力-歪み曲線。
図8図8は、(1)ETPTAポリマーでカプセル化されたS/CNT粒子、(2)炭素でカプセル化されたC/CNT粒子、及び(3)非保護S/CNT粒子をそれぞれ備えたS/CNTカソード活物質を有する3つのLi-S電池の比容量値。
図9図9は、それぞれ(1)高弾性ポリマーでカプセル化されたS/グラフェンハイブリッド粒子及び(2)非保護S/グラフェンハイブリッド粒子をそれぞれ備えたカソード活物質層を有する2つのLi-S電池の特定値。
図10図10は、(1)高弾性架橋ETPTAポリマーでカプセル化された硫黄-MCMB(活性化)複合粒子、及び(2)非保護硫黄-MCMB(活性化)複合粒子をそれぞれ備えたカソード活物質層を有する2つのNa-Sセルの特定値。
図11図11は、2つのLi金属-硫黄セルのラゴーンプロット(セルの出力密度対セルのエネルギー密度):1つは、Sコーティングされたグラフェンシートの高弾性ポリマーでカプセル化された粒子からなるカソード層を備え、もう1つは、非カプセル化粒子からなるカソード層を備える。
図12図12は、4つのアルカリ金属-硫黄セルのラゴーンプロット(セルのエネルギー密度対セルのエネルギー密度):硫黄を電気化学的に含浸させた剥離した黒鉛ワームの高弾性ポリマーでカプセル化された粒子を備えたNa-Sセル、硫黄を電気化学的に含浸させた剥離した黒鉛ワームの非カプセル化粒子を備えたNa-Sセル、硫黄を電気化学的に含浸させた剥離した黒鉛ワームの高弾性ポリマーでカプセル化された粒子を備えたK-Sセル、及び非保護S含浸黒鉛ワームを備えたK-Sセル。
【発明を実施するための形態】
【0065】
便宜上、好ましい実施形態の以下の考察は、主にLi-Sセルに基づいているが、同じ又は類似の化合物、構造及び方法が、Na-S及びK-Sセルに適用可能である。Li-Sセル、室温のNa-Sセル、K-Sセルの例を示す。
【0066】
A.アルカリ金属-硫黄セル(例としてリチウム-硫黄セルを使用)
Li-Sセル(又はNa-S、又はK-Sセル)の比容量及び比エネルギーは、カソード活性層に実装できる硫黄の実際の量(他の非活性成分と比較して、バインダー樹脂及び導電性フィラーなど)、並びにこの硫黄量の利用効率(即ち、カソード活物質の利用効率又はリチウムイオンの貯蔵と放出に積極的に関与するSの実際の比率)によって決まる。Li-Sセルを例示的な例として使用すると、高容量及び高エネルギーのLi-Sセルは、カソード活性層における大量のS(即ち、バインダー樹脂、導電性添加剤、及びその他の改質又は支持材料などの非活性材料の量に対して)並びに高いS利用効率を必要とする。本発明は、このようなカソード活性層、その構成粉末塊生成物、得られたLi-Sセル、並びにこのようなカソード活性層及び電池を製造する方法を提供する。
【0067】
アルカリ金属-硫黄セルは、(a)アノード活物質層及びアノード活物質層を支持する任意選択のアノード集電体と、(b)カソード活物質層及びカソード活物質層を支持する任意選択のカソード集電体と、(c)アノード活物質層及びカソード活物質層とイオン接触する任意選択の多孔質セパレータ層を有する電解質とを含み、この場合に、カソード活物質層は、硫黄-炭素ハイブリッド、硫黄-黒鉛ハイブリッド、硫黄-グラフェンハイブリッド、導電性ポリマー-硫黄ハイブリッド、金属スルフィド、硫黄化合物、又はこれらの組み合わせから選択される硫黄含有材料の複数の微粒子を含み、粒子の少なくとも1つは、添加剤又は補強材なしで測定した場合に10%以上の回復可能な引張り歪み、10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率(典型的には、室温で測定される10-5S/cm~5×10-2S/cm)、及び0.5nm~10μmの厚さ(典型的には1nm~1μmであるが、好ましくは<100nm、より好ましくは<10nm)を有する高弾性ポリマーの薄層によって包まれている又はカプセル化されている1つ以上の硫黄含有材料粒子からなる。
【0068】
硫黄-炭素ハイブリッド、硫黄-黒鉛ハイブリッド、硫黄-グラフェンハイブリッド、又は導電性ポリマー-硫黄ハイブリッドは、混合物、ブレンド、複合体、或いは硫黄又は硫化物と、炭素、黒鉛、グラフェン、又は導電性ポリマー材料との化学的又は物理的に結合した物体であり得る。例えば、硫黄-グラフェンハイブリッドは、ボールミル粉砕によって調製された硫黄とグラフェンの単純な混合物(粒子形態で)であり得る。このようなハイブリッドは、酸化グラフェンシートなどの表面に結合した硫黄を含み得る。別の例として、硫黄-炭素ハイブリッドは、硫黄とカーボンナノチューブの単純な混合物(粒子形態で)であり得る、又は活性炭粒子の細孔に存在する硫黄を含み得る。
【0069】
本発明の充電式アルカリ金属-硫黄セルでは、高弾性ポリマーは、ポリマー鎖の架橋ネットワークにおいて、エーテル結合、ニトリル由来結合、過酸化ベンゾイル由来結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ-樹脂結合、トリアクリレートモノマー由来結合、テトラアクリレートモノマー由来結合、又はこれらの組み合わせを有するポリマー鎖の前述の架橋ネットワークを含み得る。いくつかの好ましい実施形態では、好ましくは、高弾性ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリスリトールテトラアクリレート鎖、ペンタエリスリトールトリアクリレート鎖、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖、又はこれらの組み合わせから選択されるポリマー鎖の架橋ネットワークを含む。
【0070】
充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、金属スルフィドはMで表される材料を含み得、xは1~3の整数であり、yは1~10の整数であり、Mは、アルカリ金属、Mg又はCaから選択されるアルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、又はこれらの組み合わせから選択される金属元素である。好ましくは、金属元素Mは、Li、Na、K、Mg、Zn、Cu、Ti、Ni、Co、Fe、又はAlから選択される。いくつかの好ましい実施形態では、カソード層の金属スルフィドは、Li、Li、Li、Li、Li、Li、Li、Li、Li、Li10、Na、Na、Na、Na、Na、Na、Na、Na、Na9、Na10、K、K、K、K、K、K、K、K、K、又はK10を含む。
【0071】
充電式アルカリ金属-硫黄セルでは、カソード活物質層の炭素又は黒鉛材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張黒鉛フレーク、人工黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、高配向熱分解黒鉛、軟質炭素粒子、硬質炭素粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、黒鉛ナノファイバー、黒鉛繊維、炭化ポリマーファイバー、活性炭、カーボンブラック、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。グラフェンは、純粋なグラフェン、酸化グラフェン、還元グラフェン酸化物(RGO)、フッ化グラフェン、窒素化グラフェン、水素化グラフェン、ドープトグラフェン、官能化グラフェン、又はこれらの組み合わせから選択することができる。
【0072】
導電性ポリマー-硫黄ハイブリッドは、好ましくは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、二環式ポリマー、これらのスルホン化誘導体、又はこれらの組み合わせから選択される本質的に導電性のポリマーを含み得る。これは、硫黄又は金属スルフィドと導電性ポリマーの単純な混合物であり得る。
【0073】
特定の実施形態では、高弾性ポリマーは、0.1重量%~50重量%のその中に分散されたリチウムイオン伝導性添加剤を含む、又はカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、又はこれらの組み合わせから選択される0.1重量%~10重量%の補強ナノフィラメントをその中に含む。リチウムイオン伝導性添加剤は複合体を形成し、この場合に、前述のリチウムイオン伝導性添加剤は、前述の高弾性ポリマーに分散され、LiCO、LiO、Li、LiOH、LiX、ROCOLi、HCOLi、ROLi、(ROCOLi)、(CHOCOLi)、LiS、LiSO、又はこれらの組み合わせから選択され、この場合に、X=F、Cl、I、又はBr、R=炭化水素基、x=0~1、y=1~4である。
【0074】
リチウムイオン伝導性添加剤は、高弾性ポリマーに分散され得、過塩素酸リチウム、LiClO、ヘキサフルオロリン酸リチウム、LiPF、ホウフッ化リチウム、LiBF、六フッ化ヒ化リチウム、LiAsF、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSO、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム、LiN(CFSO、リチウムビス(オキサラト)ボレート、LiBOB、リチウムオキサリルジフルオロボレート、LiBF、リチウムオキサリルジフルオロボレート、LiBF、硝酸リチウム、LiNO、Li-フルオロアルキル-リン酸、LiPF(CFCF、リチウムビスベルフルオロ-エチルスルホニルイミド、LiBETI、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド、LiTFSI、イオン液体系リチウム塩、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。
【0075】
高弾性ポリマーとは、一軸引張りで測定した場合(ポリマーに添加剤又は補強材がない)に少なくとも10%の弾性変形を示すポリマー、典型的には軽度に架橋したポリマーを指す。材料科学及び工学の分野では、「弾性変形」とは、本質的に完全に回復可能であり、回復は負荷の解放時に本質的に瞬間である材料の変形(機械的応力を受ける場合)として定義される。弾性変形は、好ましくは30%より大きく、より好ましくは50%より大きく、更により好ましくは100%より大きく、更により好ましくは150%より大きく、最も好ましくは200%より大きい。高容量ポリマーの好ましい種類については後で説明する。
【0076】
図4に示すように、本発明は、高容量ポリマーでカプセル化されたカソード活物質粒子の4つの主要な種類の微粒子を提供する。第1は、高容量ポリマーシェル12でカプセル化されたカソード活物質コア10(例えば、硫黄-CNT混合物の粒子)を含む単一粒子微粒子である。第2は、高容量ポリマー16でカプセル化されている、任意選択により他の活物質(例えば、黒鉛又は硬質炭素の粒子、図示せず)又は導電性添加剤とともに、複数のカソード活物質粒子14(例えば、硫黄-グラフェン混合物、硫黄-カーボンブラック混合物の粒子、Sが含浸された細孔を有する活性炭粒子、ポリスルフィドリチウム粒子等)を含む複数粒子微粒子である。第3は、炭素又はグラフェン層20(又は他の導電性材料)でコーティングされ、更に高弾性ポリマー22でカプセル化されたカソード活物質コア18を含む単一粒子微粒子である。第4は、高弾性ポリマーシェル28でカプセル化されている、任意選択により他の活物質(例えば、黒鉛又は硬質炭素の粒子、図示せず)又は導電性添加剤とともに、導電保護層26(炭素、グラフェン等)でコーティングされた複数のカソード活物質粒子24を含む複数粒子微粒子である。これらのカソード活物質粒子は、純粋な硫黄の代わりに、硫黄化合物、金属ポリスルフィド等に基づくことができる
【0077】
図3の上部に概略的に示されているように、硫黄系粒子は、大容量ポリマーシェルによってカプセル化されて、コア-シェル構造(この例では硫黄コアとポリマーシェル)を形成することができる。リチウム-硫黄電池が放電されると、カソード活物質(例えば、高容量ポリマーでカプセル化されたS/CNT粒子の硫黄)がリチウムイオンと反応して体積が膨張するポリスルフィドリチウムを形成する。カプセル化シェル(高容量ポリマー)の高い弾性により、シェルはセグメントに分割されることはない(破損したカーボンシェルとは対照的に)。高容量ポリマーシェルが無傷のままであるため、下にあるリチウムスルフィドが電解質に曝されるのを防止し、従って電池の繰り返し充電/放電中にリチウムスルフィドが電解質に溶解するのを防止する。この戦略は、リチウムと反応し、カソードに戻ることができないアノード側へのポリスルフィドリチウムの継続的な移動を防止する(シャトル効果)。このシャトル効果は、主に従来のLi-S、Na-S、又はK-Sセルの継続的な容量減衰の原因である。
【0078】
或いは、図3の下部を参照すると、リチウムスルフィドがカソード活物質として使用される。高容量ポリマーの層をリチウムポリスルフィド粒子の周りにカプセル化して、コア-シェル構造を形成することができる。Li-S電池が充電され、リチウムイオンがカソードから放出されると、カソード活物質粒子が収縮する。しかしながら、高容量ポリマーは、共形の様式で弾性収縮することができ、従って、保護シェルと硫黄の間に隙間はない。このような構成は、その後の硫黄とのリチウムの反応の影響を受けやすい。高容量ポリマーシェルは、カプセル化されたコアカソード活物質粒子の膨張と収縮に合わせて膨張及び収縮し、リチウム電池の長期サイクル安定性を可能にする。
【0079】
B.高弾性ポリマー
好ましくは且つ典型的には、高容量ポリマーは、10-5S/cm以上、より好ましくは10-4S/cm以上、更に好ましくは10-3S/cm以上、最も好ましくは10-2S/cm以上のリチウムイオン伝導性を有する。いくつかの実施形態では、高容量ポリマーは、添加剤又は充填剤がその中に分散されていない純粋なポリマーである。他の実施形態では、高容量ポリマーは、高容量ポリマーマトリックス材料に分散されたリチウムイオン伝導性添加剤を0.1重量%~50重量%(好ましくは1重量%~35重量%)含むポリマーマトリックス複合体である。高容量ポリマーには、高い弾性を有する必要がある(弾性変形歪み値>10%)。弾性変形は、完全に回復可能な変形であり、回復プロセスは本質的に瞬間的である(大きな時間遅延はない)。高容量ポリマーは、10%~1,000%まで(元の長さの10倍)、より典型的には10%~800%、更により典型的には50%~500%、最も典型的には且つ望ましくは70%~300%の弾性変形を示し得る。典型的には、金属は高い延性を有する(即ち、破損することなく大幅に拡張できる)が、変形の大部分は、塑性変形(回復不能)であり、わずかな量の弾性変形(典型的には<1%、より典型的には<0.2%)である。
【0080】
いくつかの好ましい実施形態では、高弾性ポリマーは、ポリマー鎖の架橋ネットワークにおいて、エーテル結合、ニトリル由来結合、過酸化ベンゾイル由来結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ-樹脂結合、トリアクリレートモノマー由来結合、テトラアクリレートモノマー由来結合、又はこれらの組み合わせを有する、軽度に架橋したネットワークポリマー鎖を含む。これらのネットワーク又は架橋ポリマーは、高弾性(高弾性変形歪み)及び高リチウムイオン伝導性の特異的な組み合わせを示す。
【0081】
特定の好ましい実施形態では、高弾性ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETEA)鎖、ペンタエリスリトールトリアクリレート鎖、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖、又はこれらの組み合わせから選択される軽度に架橋したネットワークポリマー鎖を含む。
【0082】
典型的には、高弾性ポリマーは、元来、硬化して高弾性の架橋ポリマーを形成できるモノマー又はオリゴマー状態である。硬化の前に、これらのポリマー又はオリゴマーは、有機溶媒に可溶でありポリマー溶液を形成する。カソード活物質の粒子(例えば、硫黄-炭素ハイブリッド粒子、硫黄-黒鉛ハイブリッド粒子、硫黄-グラフェンハイブリッド粒子、硫黄化合物粒子、金属スルフィド粒子等)をこのポリマー溶液に分散して、活物質粒子-ポリマー(モノマー又はオリゴマー)混合物の懸濁液(分散液又はスラリー)を形成できる。次いで、個々の粒子が互いに実質的に分離されたままで、この懸濁液を溶媒除去処理に供することができる。ポリマー(又はモノマー又はオリゴマー)が沈殿して、これらの活物質粒子の表面に堆積する。これは、例えば、噴霧乾燥、超音波噴霧、空気補助噴霧、エアロゾル化、及び他の二次粒子形成手順により達成することができる。
【0083】
例えば、エトキシ化トリメチロプロパントリアクリレートモノマー(ETPTA、Mw=428、以下の化学式)は、開始剤とともに、炭酸エチレン(EC)や炭酸ジエチル(DEC)などの有機溶媒に溶解できる。次いで、アノード活物質粒子(Si、Sn、SnO、及びCo粒子等)をETPTAモノマー/溶媒/開始剤溶液に分散させてスラリーを形成することができ、これを噴霧乾燥してETPTAモノマー/開始剤が包まれたアノード粒子を形成することができる。次いで、これらの包まれたアノード粒子を熱硬化させて、高弾性ポリマーの薄層でカプセル化されたアノード粒子からなる微粒子を得ることができる。このモノマーの重合及び架橋反応は、開始剤分子の熱分解により過酸化ベンゾイル(BPO)又はAIBNから誘導されるラジカル開始剤によって開始できる。ETPTAモノマーは、以下の化学式
を有する。
【0084】
別の例として、カプセル化における高弾性ポリマーは、スクシノニトリル(SN)におけるシアノエチルポリビニルアルコール(PVA-CN、式2)のカチオン重合と架橋に基づくことができる。
【0085】
手順は、PVA-CNをスクシノニトリル(NCCHCHCN)に溶解して混合溶液を形成することから開始できる。その後、開始剤を混合溶液に加える。例えば、LiPFをPVA-CN/SN混合溶液に重量比(20:1~2:1の好ましい範囲から選択)で加えて、前駆体溶液を形成することができる。次いで、選択されたアノード活物質の粒子が混合溶液に導入されてスラリーを形成する。次いで、スラリーをマイクロカプセル化手順に供して、反応塊、PVA-CN/LiPFの包まれた層でコーティングされたアノード活物質粒子を生成することができる。次いで、これらの包まれた粒子を2~8時間温度(例えば、75~100℃)で加熱して、高弾性ポリマーでカプセル化されたアノード活物質粒子を得ることができる。このプロセス中、カチオン重合とPVA-CNにおけるシアノ基の架橋は、このような高温でのLiPFの熱分解から誘導されるPFによって開始することができる。
【0086】
これらの材料は、ポリマー鎖の軽度に架橋したネットワークを形成することが不可欠である。言い換えれば、ネットワークポリマー又は架橋ポリマーは、高い弾性変形を付与するために比較的低い架橋度又は低い架橋密度を有さなければならない。
【0087】
ポリマー鎖の架橋ネットワークの架橋密度は、架橋間の分子量の逆数(Mc)として定義できる。架橋密度は、方程式、Mc=ρRT/Geで決定でき、式中、Geは動的機械分析の温度掃引で決定される平衡弾性率であり、ρは物理密度であり、RはJ/モルK単位の普遍的ガス定数であり、TはK単位の絶対温度である。Geとρが実験的に決定されると、Mcと架橋密度を計算できる。
【0088】
Mcの大きさは、Mc値を架橋鎖又は鎖結合の特徴的な繰り返し単位の分子量で除算することにより標準化され、2つの架橋点間の繰り返し単位の数であるNcが得られる。弾性変形歪みはMc及びNcと非常によく相関することが判明した。架橋ポリマーの弾性は、架橋間の多数の繰り返し単位(大きなNc)に由来する。繰り返し単位は、ポリマーに応力がかかっていない場合、より緩和な立体構造(例えば、ランダムコイル)を想定できる。しかしながら、ポリマーに機械的な応力がかかると、結合鎖がほどける、又は伸長して大きな変形が生じる。架橋点間の長い結合鎖(より大きなNc)は、より大きな弾性変形を可能にする。負荷が解放されると、結合鎖はより緩和な状態又はコイル状態に戻る。ポリマーの機械的負荷の間、架橋は、さもなければ塑性変形(回復不能)を形成する鎖の滑りを防止する。
【0089】
好ましくは、高弾性ポリマーのNc値は、5より大きく、より好ましくは10より大きく、更により好ましくは100より大きく、更により好ましくは200より大きい。これらのNc値は、様々な機能性を持つ様々な架橋剤を使用することにより、且つ様々な温度で様々な期間進行する重合及び架橋反応を設計することにより、様々な弾性変形値を達成するために容易に制御及び変動することができる。
【0090】
或いは、ムーニー-リブリン(Mooney-Rilvin)法を使用して、架橋度を決定することができる。架橋は膨潤実験でも測定できる。膨潤実験では、架橋した試料を特定の温度で対応する直鎖型ポリマーのための良溶媒に入れ、質量の変化又は体積の変化を測定する。架橋度が高いほど、膨潤は少なくなる。膨潤の度合い、フローリー相互作用パラメーター(溶媒の試料との相互作用に関連する、フローリー・ハギンズ方程式(Flory Huggins Eq.)、及び溶媒の密度に基づいて、フローリー(Flory)のネットワーク理論に従って理論的な架橋度を計算できる。フローリー-レーナー(Flory-Rehner)方程式は、架橋の決定に有用であり得る。
【0091】
カプセル化における高弾性ポリマーには、2つの架橋鎖が互いに絡み合う同時相互浸透ネットワーク(SIN)ポリマー、又は架橋ポリマー及び直鎖型ポリマーを含む半相互浸透ネットワークポリマー(半IPN)を含み得る。半IPNの例は、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)及びエチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)オリゴマーからなるUV硬化性/重合性三価/一価アクリレート混合物である。ETPTAは、三価のビニル基を持ち、光(UV)架橋可能なモノマーであり、架橋鎖のネットワークを形成できる。又、一価のビニル基を有するEGMEAは、UV重合可能であり、オリゴマーのエチレンオキシド単位の存在により柔軟性の高い直鎖型ポリマーになる。ETPTAの架橋度が中程度又は低い場合、得られるETPTA/EGMEA半IPNポリマーは、良好な機械的柔軟性又は弾性及び妥当な機械的強度をもたらす。このポリマーのリチウムイオン伝導性は、典型的には10-4~5×10-3S/cmの範囲である。
【0092】
高弾性ポリマーは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、二環式ポリマー、これらの誘導体(例えば、スルホン化バージョン)、又はこれらの組み合わせから選択される導電性ポリマーとの混合物又はブレンドを形成することができる。
【0093】
いくつかの実施形態では、高弾性ポリマーは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリビス-メトキシエトキシエトキシド-ホスファゼネックス、ポリ塩化ビニル、ポリジメチルシロキサン、ポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)、これらの誘導体(スルホン化バージョンなど)、又はこれらの組み合わせから選択されるリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合物を形成し得る。
【0094】
高弾性ポリマーは、従来のエラストマー又はゴムとのポリマーブレンドを形成することができる。加硫してエラストマーになることができる不飽和ゴムとしては、天然ポリイソプレン(例えば、シス-1,4-ポリイソプレン天然ゴム(NR)及びトランス-1,4-ポリイソプレンガッタパーチャ)、合成ポリイソプレン(イソプレンゴムではIR)、ポリブタジエン(ブタジエンゴムではBR)、クロロプレンゴム(CR)、ポリクロロプレン(例えば、ネオプレン、ベイプレンなど)、ハロゲン化ブチルゴム(クロロブチルゴム(CIIR)及びブロモブチルゴム(BIIR)を含むブチルゴム(イソブチレンとイソプレンのコポリマー、IIR)、スチレンブタジエンゴム(スチレンとブタジエンのコポリマー、SBR)、ニトリルゴム(ブタジエンとアクリロニトリルのコポリマー、NBR)が挙げられる。
【0095】
一部のエラストマーは、硫黄加硫により硬化できない飽和ゴムであり、様々な手段で、例えば、他の直鎖型鎖をともに保持するコポリマードメインを有することによって、ゴム状又はエラストマー状の材料に作製される。これらのエラストマーはそれぞれ、いくつかの手段:溶融混合(例えば、ペレット化及びボールミル粉砕が続く)、乾燥(例えば、噴霧乾燥)がその後続く溶液混合(有機溶媒を有する又は有さない、未硬化ポリマー、モノマー、又はオリゴマーへのアノード活物質粒子の溶解)、界面活性重合、又はアノード活物質粒子の存在下でのエラストマーのその場重合の1つによってアノード活物質の粒子をカプセル化するために使用できる。
【0096】
この範疇の飽和ゴム及び関連するエラストマーとしては、EPM(エチレンプロピレンゴム、エチレンとプロピレンのコポリマー)、EPDMゴム(エチレンプロピレンジエンゴム、エチレン、プロピレン及びジエン成分のターポリマー)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、ポリアクリルゴム(ACM、ABR)、シリコーンゴム(SI、Q、VMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)、フルオロエラストマー(FKM、及びFEPM、Viton、Tecnoflon、Fluorel、Aflas、及びDai-Elなど)、ベルフルオロエラストマー(FFKM:Tecnoflon PFR、Kalrez、Chemraz、Perlast)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM、例えばHypalon)、及びエチレン酢酸ビニル(EVA)、熱可塑性エラストマー(TPE)、タンパク質レシリン、及びタンパク質エラスチンが挙げられる。ポリウレタンとそのコポリマー(例えば、尿素-ウレタンコポリマー)は、アノード活物質粒子をカプセル化するための特に有用なエラストマーシェル材料である。
【0097】
C.高弾性ポリマーによるカソード活物質粒子のカプセル化
いくつかのマイクロカプセル化プロセスでは、高弾性ポリマー又はその前駆体(モノマー又はオリゴマー)が溶媒に溶解可能である必要がある。幸いなことに、本明細書で使用される全ての高弾性ポリマー又はその前駆体は、いくつかの一般的な溶媒に可溶である。未硬化ポリマー又はその前駆体は、一般的な有機溶媒に容易に溶解して溶液を形成できる。次いで、この溶液を使用して、以下で説明されるいくつかのマイクロカプセル化方法を介して固体粒子をカプセル化できる。カプセル化すると、次いでポリマーシェルが重合し架橋する。
【0098】
カソード活物質の高弾性ポリマーでカプセル化された粒子を生成するために実施できるマイクロカプセル化方法は、3つの広い範疇がある:物理的方法、物理化学的方法、及び化学的方法。物理的方法としては、パンコーティング、エアサスペンションコーティング、遠心押し出し、振動ノズル、及び噴霧乾燥法が挙げられる。物理化学的方法としては、イオンチャネル型ゲル化法及びコアセルベーション相分離法が挙げられる。化学的方法としては、界面重縮合、界面架橋、その場重合、及びマトリックス重合が挙げられる。
【0099】
パンコーティング法:パンコーティングプロセスは、カプセル化材料(例えば、モノマー/オリゴマー、ポリマー溶融物、ポリマー/溶媒溶液)が、所望のカプセル化シェルの厚さに達するまで、パン又は同様の器具において活物質粒子を回転させることを伴う。
【0100】
エアサスペンションコーティング法:エアサスペンションコーティングプロセスでは、固体粒子(コア材料)がカプセル化チャンバ内の支持する空気流に分散される。ポリマー-溶剤溶液の制御された流れ(溶剤に溶解したポリマー又はそのモノマー又はオリゴマー、或いは液体状態でのそのモノマー又はオリゴマーのみ)を、同時にこのチャンバに導入し、溶液が懸濁粒子に衝突してコーティングできるようにする。これらの懸濁粒子は、揮発性溶媒が除去されている間にポリマー又はその前駆体分子でカプセル化(完全にコーティング)され、これらの粒子の表面に非常に薄いポリマー(又は、その後に硬化/硬化されるその前駆体)の層が残る。このプロセスは、完全コーティングの厚さ(即ち、カプセル化シェル又は壁の厚さ)などの必要なパラメーターが達成されるまで、数回繰り返されることができる。又、粒子を支持する空気流が粒子の乾燥に役立ち、乾燥速度は空気流の温度に直接比例し、シェルの厚さを最適化するために調整できる。
【0101】
好ましい態様では、カプセル化ゾーン部分の粒子は、繰り返しコーティングのために再循環に供されることができる。好ましくは、カプセル化チャンバは、粒子がカプセル化ゾーンを上方に通過し、その後ゆっくりと移動する空気に分散され、カプセル化チャンバの底部に沈むように配置され、所望のカプセル化シェルの厚さが達成されるまで、粒子がカプセル化ゾーンを繰り返し通過できるようにする。
【0102】
遠心押し出し:活物質粒子は、同心ノズルを含む回転押し出しヘッドを使用してカプセル化できる。このプロセスでは、コア流体(溶媒に分散した材料の粒子を含むスラリー)の流れは、シェル溶液又は溶融物の鞘に囲まれている。器具が回転し、流れが空気中を移動すると、レイリー不安定性により崩壊し、それぞれがシェル溶液でコーティングされたコアの液滴になる。液滴が飛行中に、溶融シェルが硬化する、又は溶媒がシェル溶液から蒸発する場合がある。必要に応じて、カプセルを硬化浴で捕捉することにより、形成後にカプセルを硬化させることができる。液滴は液体の流れの崩壊によって形成されるため、このプロセスは液体又はスラリーにのみ適している。高い生成率を達成できる。1時間あたり1ノズルあたり22.5kgまでのマイクロカプセルを生成でき、16のノズルを含む押し出しヘッドが容易に入手できる。
【0103】
振動ノズル法:活物質のコアシェルカプセル化又はマトリックスカプセル化は、ノズルを通る層流と、ノズル又は液体の振動を使用して行うことができる。振動は、レイリー不安定性と同調して行われる必要があり、非常に均一な液滴をもたらす。液体は、限られた粘度(1~50,000mPa・s)の任意の液体からなることができる:活物質を含むエマルジョン、懸濁液、又はスラリー。固化は、内部ゲル化(例えば、ゾルゲル処理、溶融)又は外部ゲル化(例えば、スラリーにおける更なるバインダーシステム)で使用されたゲル化システムに従って行うことができる。
【0104】
噴霧乾燥:活物質が溶融物又はポリマー溶液に溶解又は懸濁されている場合、噴霧乾燥を使用して活物質の粒子をカプセル化することができる。噴霧乾燥では、液体原料(溶液又は懸濁液)を霧化して液滴を形成し、高温ガスと接触すると、溶媒が蒸発し薄いポリマーのシェルが活物質の固体粒子を完全に包む。
【0105】
コアセルベーション相分離:このプロセスは、連続攪拌下で実行される3つの工程からなる。
(a)3つの非混和性化学相の形成:液体作成ビヒクル相、コア材料相、及びカプセル化材料相。コア材料は、カプセル化ポリマー(又はそのモノマー又はオリゴマー)の溶液に分散される。液体状態の非混和性ポリマーであるカプセル化材料相は、(i)ポリマー溶液の温度の変化、(ii)塩の添加、(iii)非溶媒の添加、又は(iv)ポリマー溶液における不適合ポリマーの添加により形成される。
(b)カプセル化シェル材料の堆積:カプセル化ポリマー溶液に分散されたコア材料、コア粒子の周りにコーティングされたポリマー材料のカプセル化、及びコア材料とビヒクル相の間に形成された界面に吸着したポリマーによるコア粒子の周りを包む液体ポリマーの堆積。
(c)カプセル化シェル材料の硬化:シェル材料は、ビヒクル相で不混和性であり、熱、架橋、又は溶解技術により剛性になる。
【0106】
界面重縮合及び界面架橋:界面重縮合では、2つの反応物を導入して相互に反応する界面で接触することを伴う。これは、酸塩化物と、活性水素原子を含む化合物(アミン又はアルコールなど)、ポリエステル、ポリ尿素、ポリウレタン、又は尿素-ウレタン縮合との間のショッテン-バウマン反応の概念に基づく。適切な条件下では、薄い柔軟なカプセル化シェル(壁)が界面で急速に形成する。活物質と二酸塩化物の溶液を水に乳化し、アミンと多官能性イソシアネートを含む水溶液を加える。反応中に形成された酸を中和するために、塩基を添加することができる。エマルジョンの液滴の界面で、凝縮したポリマーシェルが瞬時に形成する。界面架橋は界面重縮合に由来し、成長するポリマー鎖と多官能性化学基の間で架橋が起こり、エラストマーシェル材料を形成する。
【0107】
その場重合:一部のマイクロカプセル化プロセスでは、最初に活物質粒子がモノマー又はオリゴマーで完全にコーティングされる。次いで、モノマー又はオリゴマーの直接重合及び架橋が、これらの材料粒子の表面で実行される。
【0108】
マトリックス重合:この方法では、粒子の形成中にポリマーマトリックスにコア材料を分散させ埋め込むことを伴う。これは、マトリックス材料からの溶媒の蒸発により粒子が形成される噴霧乾燥により達成されることができる。別の可能性のある経路は、マトリックスの固化が化学変化によって引き起こされるという概念である。
【0109】
D.カプセル化された微粒子、カソード層、並びにLi-S、Na-S、及びK-Sセルの構造についての更なる詳細
アルカリ金属-硫黄セルのアノード活物質層は、従来技術のLi-Sセルの図1(A)の左側部分に示されるように、集電体(例えば、Cu箔)によって支持されるLi、Na、又はKの箔又はコーティングを含み得る。或いは、アノード活物質は、例えば、図1(B)の左側部分に示されるように、プレリチウム化されたSi粒子又は表面安定化されたLi粒子の粒子を含み得る。しかしながら、すでに上記で説明したように、本セルのカソード層が異なる。
【0110】
アルカリ金属-硫黄セルにおける電解質は、有機電解質、イオン液体電解質、ゲルポリマー電解質、固体電解質(例えば、ポリマー固体電解質又は無機固体電解質)、準固体電解質又はこれらの組み合わせであり得る。電解質は、典型的には、溶媒に溶解したアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、及び/又はカリウム塩)を含む。
【0111】
溶媒は、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、スルホン、スルホラン、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、炭酸ビニレン(VC)、炭酸アリルエチル(AEC)、ハイドロフルオロエーテル、室温イオン液体溶媒、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。
【0112】
非水性電解質に組み込まれる電解質塩は、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CFSO]、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸(LiPF(CFCF)、リチウムビスペルフルオロエチルスルホニルイミド(LiBETI)、イオン液体塩、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、過塩素酸カリウム(KClO)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)、ヘキサフルオロリン酸カリウム(KPF)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF)、ホウフッ化カリウム(KBF)、ナトリウムヘキサフルオロヒ素、ヘキサフルオロヒ化カリウム、トリフルオロメタスルホン酸ナトリウム(NaCFSO)、トリフルオロメタスルホン酸カリウム(KCFSO)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドナトリウム(NaN(CFSO)、ナトリウムトリフルオロメタンスルホンイミド(NaTFSI)、及びビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドカリウム(KN(CFSO)などのリチウム塩から選択できる。なかでも、Li-SセルにはLiPF、LiBF、及びLiN(CFSO、Na-SセルにはNaPF及びLiBF、並びにK-SセルにはKBFが好ましい。非水溶媒中の上記電解質塩の含有量は、カソード側で0.5~3.0M(モル/L)、及びアノード側で3.0から>10Mであることが好ましい。
【0113】
イオン液体はイオンのみから構成されている。イオン液体は、所望の温度を超えたときには融解状態又は液体状態になる低融解温度の塩である。例えば、塩は、その融点が100℃未満である場合にイオン液体とみなされる。融解温度が室温(25℃)以下である場合、塩は室温イオン液体(RTIL)と呼ばれる。IL塩は、大きなカチオンと電荷非局在化アニオンとの組合せによる弱い相互作用によって特徴付けられる。これは、可撓性(アニオン)及び非対称性(カチオン)による結晶化の傾向を低減する。
【0114】
1-エチル-3-メチル-イミダゾリウム(EMI)カチオンとN,N-ビス(トリフルオロメタン)スルホンアミド(TFSI)アニオンとの組合せによって、典型的なよく知られたイオン液体が生成される。この組合せにより、最大約300~400℃で、多くの有機電解質溶液と同等のイオン導電率、並びに低い分解性及び低い蒸気圧を有する流体が得られる。これは、一般に低い揮発性及び非引火性、したがって電池に関してはるかに安全な電解質を示唆する。
【0115】
イオン液体は、基本的には、多様な成分の調製が容易であることにより、本質的に無制限の数の構造変化を生じる有機イオンから構成される。したがって、様々な種類の塩を使用して、所与の用途に合わせて所望の特性を有するイオン液体を設計することができる。これらは、とりわけ、カチオンとしてのイミダゾリウム、ピロリジニウム、及び第四級アンモニウム塩と、アニオンとしてのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、及びヘキサフルオロホスフェートとを含む。有用なイオン液体ベースのナトリウム塩(溶媒ではない)は、カチオンとしてのナトリウムイオンと、アニオンとしてのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、又はヘキサフルオロリン酸塩とから構成することができる。その組成に基づいて、イオン液体は、基本的に非プロトン性、プロトン性、両性イオン型を含む様々な部類に分類され、それぞれが特定の用途に適している。
【0116】
室温イオン液体(RTIL)の一般的なカチオンとしては、限定はしないが、テトラアルキルアンモニウム、ジ-、トリ-、及びテトラ-アルキルイミダゾリウム、アルキルピリジニウム、ジアルキルピロリジニウム、ジアルキルピペリジニウム、テトラアルキルホスホニウム、並びにトリアルキルスルホニウムが挙げられる。RTILの一般的なアニオンとしては、限定はしないが、BF 、B(CN) 、CHBF 、CH2CHBF 、CFBF 、CBF 、n-CBF 、n-CBF 、PF 、CFCO 、CFSO 、N(SOCF 、N(COCF)(SOCF、N(SOF) 、N(CN) 、C(CN) 、SCN、SeCN、CuCl 、AlCl 、F(HF)2.3 などが挙げられる。相対的に言えば、イミダゾリウム又はスルホニウムベースのカチオンと、AlCl 、BF 、CFCO 、CFSO 、NTf 、N(SOF) 、又はF(HF)2.3 などの錯体ハロゲン化物アニオンとの組合せが、良好な動作伝導率を有するRTILをもたらす。
【0117】
RTILは、高い固有のイオン導電率、高い熱安定性、低い揮発性、低い(実質的にゼロの)蒸気圧、非引火性、室温よりも上及び下の広い温度範囲で液体を維持する機能、高い極性、高い粘度、及び広い電気化学的窓など、典型的な特性を有することができる。高い粘度を除いて、これらの特性は、Li-Sセルにおける電解質成分(塩及び/又は溶媒)としてRTILを使用する際に望ましい特性である。
【0118】
本発明の生成物(アルカリ金属セル、カソード活性層、及びカソード活物質粉末を含む)では、コア材料(高弾性ポリマーの薄層でカプセル化される)は、硫黄-炭素ハイブリッド、硫黄-黒鉛ハイブリッド、硫黄-グラフェンハイブリッド、導電性ポリマー-硫黄ハイブリッド、金属スルフィド、硫黄化合物等を含む。これらのハイブリッド又は化合物材料は、硫黄又は硫化物と炭素、黒鉛、グラフェン、又は導電性ポリマー材料との混合物、ブレンド、複合体、又は結合した物体を含む粒子の形態で作製される。金属スルフィド(例えば、ポリスルフィドリチウム、ポリスルフィドナトリウムなど)及び硫黄化合物は、微粒子の形で容易に入手できる。硫黄を導電性材料(炭素、黒鉛、グラフェン、及び/又は導電性ポリマー)と組み合わせて、複合体、混合物、又は結合した物体(例えば、酸化グラフェン表面に結合した硫黄)を形成できる。
【0119】
前述の硫黄含有材料を粒子にするために使用できる多くの周知の手順が存在する。例えば、固体硫黄を炭素又は黒鉛材料と混合して、ボールミル粉砕を使用して複合粒子を形成することができる。得られる粒子は、典型的には、1~20μmのサイズを有する楕円形又はジャガイモ状の形状である。又、気相浸透、溶液浸透、化学浸透、又は電気化学浸透を使用して、S又は硫化物を多孔質炭素又は黒鉛粒子(例えば、活性炭、メソポーラスカーボン、活性炭繊維など)の細孔に浸透させることができる。或いは、グラフェンシート、CNT、カーボンナノファイバー等の表面に硫黄を堆積させ、その後、高強度のボールミル粉砕、(懸濁液の)噴霧乾燥、エアロゾルの形成等を使用して、これらのSコーティングされたナノ材料を球形又は楕円形に形成することができる。次いで、これらの粒子は、上記で説明したマイクロカプセル化プロセスを使用して、高弾性ポリマーでカプセル化される。
【0120】
従来のLi-Sセルのカソードは、典型的には、硫黄と導電性添加剤/支持体からなる複合カソードにおける70重量%未満の硫黄を有する。従来技術の複合カソードの硫黄含有量が70重量%に達する、又はこれを超える場合でも、複合カソードの比容量は、典型的には、理論的予測に基づいて予想されるものよりも著しく低い。例えば、硫黄の理論比容量は1,675mAh/gである。70%の硫黄(S)と30%のカーボンブラック(CB)からなり、バインダーがない複合カソードは、1,675×70%=1,172mAh/gまでを貯蔵できる必要がある。残念ながら、観測された比容量は、典型的には、達成できるものの75%又は879mAh/g未満(この例では多くの場合に50%又は586mAh/g未満)である。言い換えれば、活物質(S)の利用率は、典型的には75%未満(又は50%未満)である。これは、Li-Sセルの従来技術における大きな問題であり、この問題に対する解決策はなかった。
【0121】
従って、硫黄の利用効率、エネルギー密度、及び出力密度を大幅に向上させるために、高い硫黄の充填を得ると同時に、硫黄の極く薄い/小さい厚さ/直径を維持することが非常に有利である。例えば、化学、電気化学、又は蒸着を使用してグラフェン表面にナノスケールの硫黄(厚さ1~5nm)を堆積させ、Sコーティングされた又はS結合されたグラフェンシートを形成できる。次いで、これらのSコーティングされた又はS結合されたグラフェンシートは、タンブリング混合、ボールミル粉砕、又は噴霧手順を使用してともに凝集される。これらの工程により、硫黄を85%~99%含むS導電性材料ハイブリッドの調製が可能になるが、コーティングの厚さ又は粒子径は1nm~5nmに維持される。この極小の寸法により、速いリチウム拡散とリチウム-硫黄反応が可能になり、高い充放電速度でも高いS利用効率(従って、高いエネルギー密度)が得られる。これらのハイブリッド粒子又は硫黄化合物/硫化物粒子の周りに高弾性ポリマーを実装することにより、シャトル効果を大幅に削減し更には排除し、長いサイクル寿命を有するアルカリ金属電池を実現した。
【0122】
繰り返すが、シャトル効果は、カソードで形成する硫黄又はアルカリ金属ポリスルフィドが溶媒に溶解する傾向、及び溶解したリチウムポリスルフィド種がカソードからアノードに移動する傾向に関連しており、この場合に、リチウムと不可逆的に反応して、Li-Sセルのその後の放電動作中に硫化物がカソードに戻るのを防止する種を形成する(有害なシャトル効果)。高弾性ポリマーを包むことは、その中に硫黄及び金属ポリスルフィドを効果的に捕捉し、これによりこのような溶解及び移動の問題を防止又は低減するように思われる。我々は、アルカリ金属-硫黄電池の最も重要で長年の問題を解決した。
【0123】
このカソード活物質層は、(カプセル化された硫黄含有粒子の)複数の微粒子をともに結合してカソード活物質層を形成するバインダー樹脂を更に含み得る。前述のカソード活物質層において、バインダー樹脂は、複数の微粒子の一部ではなく(即ち、微粒子のコア部分の内側に含まれない)、複数の微粒子の外部にある。高弾性ポリマーは、バインダー樹脂を包まず、バインダー樹脂は、高弾性ポリマーに埋め込まれていない。
【0124】
別の構造では、充電式アルカリ金属-硫黄セルのカソード活物質層は、樹脂バインダー、任意選択の導電性添加剤、硫黄含有材料の複数の粒子を含み得、この場合に、バインダー樹脂は、硫黄含有粒子をともに結合するのに役立ち、構造的完全性の固体層を形成する。この固体層は、カソード集電体(例えば、Al箔)によって支持されることができる。この固体層は、高弾性ポリマーの層で覆われ保護される。
【0125】
この固体層において、硫黄含有材料は、硫黄-炭素ハイブリッド、硫黄-黒鉛ハイブリッド、硫黄-グラフェンハイブリッド、導電性ポリマー-硫黄ハイブリッド、金属スルフィド、硫黄化合物、又はこれらの組み合わせから選択される。繰り返すが、より具体的には、硫黄含有材料粒子が、樹脂バインダーによって結合されて、統合固体層(自立できるように適切な構造的完全性の層)を形成し、添加剤又は補強材なしで測定した場合に10%以上の回復可能な引張り歪み、室温で10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率、及び0.5nm~10μmの厚さを有する高弾性ポリマーの薄層によって、統合固体層が覆われ保護される。統合固体層は、樹脂バインダーによってカソード集電体に結合されることができる。
【0126】
このような高弾性ポリマー保護層は、前駆体の塊(必要な開始剤又は硬化剤を有するモノマー又はオリゴマー)を予備作製されたカソード活物質層にわたり噴霧し、次いで重合及び架橋することによって形成できる。
【0127】
又、本発明は、このようなカソード活物質層を含む充電式アルカリ金属-硫黄セルを提供し、この場合に、層全体が高弾性ポリマーで覆われ保護される。このアルカリ金属-硫黄セルは、(a)アノード活物質層及びアノード活物質層を支持する任意選択のアノード集電体と、(b)このカソード活物質層を含むカソードと、(c)アノード活物質層及びカソード活物質層とイオン接触する任意選択の多孔質セパレータ層を有する電解質とを含む。効果的に、この高弾性ポリマー保護層は、カソード活性層と多孔質セパレータの間に実装される。
【0128】
上記のアルカリ金属-硫黄セルの全てのバージョンでは、アノード活物質は、例として、大量のリチウムを貯蔵することができるリチウム金属箔又は大容量のSi、Sn、又はSnOを含み得る。カソード活物質は、純粋な硫黄(アノード活物質がリチウムを含む場合)、リチウムポリスルフィド、又は任意選択の硫黄含有化合物、分子、又はポリマーを含み得る。セルの作製時にカソード活物質がリチウム含有化学種(例えば、リチウムポリスルフィド)を含む場合、アノード活物質は、大量のリチウムを貯蔵できる任意選択の材料(例えば、Si、Ge、Sn、SnO等)であり得る。
【0129】
アノード側では、リチウム金属がLi-Sセルの唯一のアノード活物質として使用される場合、リチウムデンドライトの形成が懸念され、これは内部短絡と熱暴走を引き起こす可能性がある。本明細書では、このデンドライトの形成の課題に対処するために、2つの手法を別々に又は組み合わせて使用した。1つはアノード側に高濃度電解質を使用することを伴い、もう1つは導電性ナノフィラメントからなるナノ構造体を使用することを伴う。後者の場合、複数の導電性ナノフィラメントを処理して、好ましくは密集したウェブ、マット、又は紙の形態の統合された凝集構造を形成し、これらのフィラメントが交差、重なり、又は何らかの方法で相互に結合して(例えば、バインダー材料を使用して)、電子導電経路のネットワークを形成することを特徴とする。統合された構造は、電解質を収容するために実質的に相互接続された細孔を有する。ナノフィラメントは、例として、カーボンナノファイバー(CNF)、黒鉛ナノファイバー(GNF)、カーボンナノチューブ(CNT)、金属ナノワイヤ(MNW)、エレクトロスピニングにより得られた導電性ナノファイバー、導電性エレクトロスピニング複合ナノファイバー、ナノスケール化グラフェンプレートレット(NGP)、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。ナノフィラメントは、ポリマー、コールタールピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、コークス、又はこれらの誘導体から選択されるバインダー材料によって結合されることができる。
【0130】
ナノファイバーは、導電性エレクトロスピニングポリマーファイバー、導電性フィラーを含むエレクトロスピニングポリマーナノコンポジットファイバー、エレクトロスピニングポリマーファイバーの炭化から得られたナノ炭素繊維、エレクトロスピニングピッチファイバー、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されることができる。例えば、ナノ構造電極は、ポリアクリロニトリル(PAN)をポリマーナノファイバーにエレクトロスピニングし、続いてPANを炭化することで得られることができる。炭化された構造の細孔のいくつかは、100nmより大きく、いくつかは100nmより小さいことに留意されたい。
【0131】
本発明のカソード活性層は、少なくとも4つの広範な部類の充電式リチウム金属セル(又は同様に、ナトリウム金属又はカリウム金属セルにおいて)の1つに組み込まれることができる:
(A)従来のアノード構成を有するリチウム金属-硫黄:セルは、任意選択のカソード集電体、本発明のカソード層、セパレータ/電解質、及びアノード集電体を含む。潜在的なデンドライトの形成は、アノードで高濃度電解質又は固体電解質を使用することにより克服できる。
(B)ナノ構造アノード構成を有するリチウム金属-硫黄電池:セルは、任意選択のカソード集電体、本発明のカソード、セパレータ/電解質、任意選択のアノード集電体、及び充電又は再充電動作中にアノードに堆積されるリチウム金属を収容するナノ構造を含む。ナノフィラメントのこのナノ構造(ウェブ、マット、又は紙)は、均一なリチウム金属の堆積を可能にする均一な電界を提供し、デンドライトを形成する傾向を低減する。この構成は、長く安全なサイクル挙動のためのデンドライトのないセルを提供できる。
(C)従来のアノードを有するリチウムイオン-硫黄セル:例えば、セルは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)又はスチレンブタジエンゴム(SBR)などのバインダーで結合されたアノード活性黒鉛粒子からなるアノードを含む。又、セルは、カソード集電体、本発明のカソード、セパレータ/電解質、及びアノード集電体を含む。
(D)ナノ構造アノードを有するリチウムイオン-硫黄セル:例えば、セルは、Siコーティングでコーティングされた、又はSiナノ粒子で結合されたナノファイバーのウェブを含む。又、セルは、任意選択のカソード集電体、本発明のカソード、セパレータ/電解質、及びアノード集電体を含む。この構成は、超高容量、高エネルギー密度、及び安全で長いサイクル寿命を提供する。
【0132】
リチウムイオン硫黄セル(例えば、上記の(C)及び(D)に記載される)では、アノード活物質は、(a)シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、及びカドミウム(Cd)、並びにこれらのリチウム化バージョン、(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、又はCdの他の元素との合金又は金属間化合物、及びこれらのリチウム化バージョン、この場合に、前述の合金又は化合物は化学量論的又は非化学量論的である、(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ni、Co、Ti、Mn、又はCd、及びこれらの混合物又は複合体の酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、及びテルル化物、並びにこれらのリチウム化バージョン、(d)Snの塩及び水酸化物、並びにこれらのリチウム化バージョン、(e)炭素又は黒鉛材料及びこれらのプレリチウム化バージョン、並びにこれらの組み合わせを含む、広範囲の高容量材料から選択されることができる。リチウムイオン化されていないバージョンは、セルの作製時にカソード側がリチウムポリスルフィド又はその他のリチウム源を含む場合に使用できる。
【0133】
考えられるリチウム金属セルは、アノード集電体、電解質相(任意選択によりしかし好ましくは、多孔質ポリエチレン-ポリプロピレンコポリマーフィルムなどの多孔質セパレータで支持される)、本発明のカソード、及び任意選択のカソード集電体からなることができる。
【0134】
ナトリウムイオン-硫黄セル又はカリウムイオン-硫黄セルの場合、アノード活物質層は、以下からなる群から選択されるアノード活物質を含み得る:(a)ナトリウム又はカリウムをドープしたシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、カドミウム(Cd)、及びこれらの混合物、(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びこれらの混合物のナトリウム又はカリウム含有合金又は金属間化合物、(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びこれらの混合物又は複合体のナトリウム又はカリウム含有酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、テルル化物、又はアンチモン化物、(d)ナトリウム又はカリウム塩、(e)黒鉛の粒子、硬質炭素、軟質炭素又は炭素粒子、及びこれらのプレナトリウム化バージョン(プレドープ又はNaで予備充填された)、並びにこれらの組み合わせ。
【0135】
以下の実施例は、主に本発明の最良の形態の実施を例示する目的で提示され、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0136】
実施例1:エトキシ化トリメチルプロパントリアクリレートモノマー由来の高弾性ポリマー
代表的な手順では、エトキシ化トリメチルプロパントリアクリレートモノマー(ETPTA、Mw=428、Sigma-Aldrich)を、3/97(重量/重量)のETPTA/溶媒の重量に基づいた組成比で、炭酸エチレン(EC)/炭酸ジエチル(DEC)の溶媒混合物に溶解した。その後、過酸化ベンゾイル(BPO、ETPTA含有量に対して1.0重量%)をラジカル開始剤として添加して、カソード粒子と混合した後に熱架橋反応を可能にした。次いで、カソード活物質粒子(例えば、S-グラフェン粒子)をETPTAモノマー/溶媒/開始剤溶液に分散させてスラリーを形成し、これを噴霧乾燥してETPTAモノマー/開始剤で包まれたS-グラフェン粒子を形成した。次いで、これらの包まれた粒子を60℃で30分間熱硬化させて、高弾性ポリマーの薄層でカプセル化されたS-グラフェン粒子からなる微粒子を得た。ETPTAポリマーシェルの厚さは、1.3nm~115nmまで変動した。
【0137】
別に、ETPTAモノマー/溶媒/開始剤溶液の一部の量を、ガラス表面にキャストして湿潤フィルムを形成し、これを熱乾燥し次いで60℃で30分間硬化させて架橋ポリマーのフィルムを形成した。この実験では、BPO/ETPTA重量比を0.1%~4%変動させ、いくつかの異なるポリマーフィルムの架橋度を変動させた。架橋度を特徴付ける手段として、2つの架橋点及び対応する繰り返し単位の数(Nc)の間の数平均分子量(Mc)を決定するために、硬化したポリマー試料の一部を動的機械試験にかけ、平衡動的弾性率Geを取得た。
【0138】
それぞれの架橋フィルムからいくつかの引張り試験片を切り取り、標準的試験機で試験した。4つのBPOで開始し架橋されたETPTAポリマーの代表的な引張り応力-歪み曲線を図5に示し、これはこの一連のネットワークポリマーが約230%~700%の弾性変形を有することを示している。これらのデータは、添加剤を含まない純粋なポリマーに関するものである。リチウム塩を30重量%まで添加すると、典型的にはこの弾性が10%~100%の可逆的引張り歪みまで低下する。
【0139】
こうしたポリマーの薄いフィルム(1nm~10μm)は、多孔質セパレータとカソード活物質層の間に実装されることができる。
【0140】
実施例2:シアノ-エチルポリビニルアルコール由来の高弾性ポリマーの調製
いくつかの硫黄系及びリチウムポリスルフィド系カソード粒子をカプセル化するための高弾性ポリマーは、スクシノニトリル(SN)におけるシアノエチルポリビニルアルコール(PVA-CN)のカチオン重合及び架橋に基づいた。手順は、PVA-CNをスクシノニトリルに溶解して混合溶液を形成することから始まった。この工程の後に、開始剤を溶液に添加した。一部のリチウム種を高弾性ポリマーに組み込む目的で、LiPFを開始剤として使用することを選択した。LiPF及びPVA-CN/SN混合溶液の比は、重量で1/20~1/2まで変動させて、一連の前駆体溶液を形成した。その後、選択されたカソード活物質とこのグラフェンに包まれたバージョンの粒子がこれらの溶液に導入され、一連のスラリーを形成した。次いで、スラリーを個別にマイクロカプセル化手順に供して、反応塊、PVA-CN/LiPFの包まれた層で外面全体がコーティングされたカソード活物質粒子を生成した。次いで、これらの包まれた粒子を75~100℃の温度で2~8時間加熱して、高弾性ポリマーでカプセル化された活物質粒子を得た。
【0141】
これとは別に、反応塊、PVA-CN/LiPFをガラス表面にキャストして、いくつかのフィルムを形成し、これらを重合及び硬化して、異なる架橋度を有する架橋ポリマーを得た。又、引張り試験がこれらのフィルムで実施され、いくつかの試験結果を図6に要約する。この一連の架橋ポリマーは、約80%(より高い架橋度)から400%(より低い架橋度)まで弾性的に引き伸ばすことができる。このようなポリマーの薄いフィルム(1nm~10μm)は、多孔質セパレータとカソード活物質層の間に実装されることができる。
【0142】
実施例3:ペンタエリスリトールテトラアクリレート由来の高弾性ポリマーの調製
硫黄-炭素、硫黄-黒鉛、及び硫黄-ポリマーハイブリッド粒子のカプセル化には、モノマーとしてペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETEA)、式3を使用した。
【0143】
前駆体溶液は、典型的には1.5重量%のPETEA(C1720)モノマーと、1,2-ジオキソラン(DOL)/ジメトキシメタン(DME)の溶媒混合物(体積で1:1)に溶解した0.1重量%のアゾジイソブチロニトリル(AIBN、C12)開始剤からなった。異なる硫黄系のハイブリッド粒子を前駆体溶液に添加し、噴霧乾燥法によりPETEA/AIBN/溶媒前駆体溶液の薄層でカプセル化した(一部の溶媒は蒸発したが、一部は残留した)。前駆体溶液を重合し、70℃で30分硬化させて、高弾性ポリマーでカプセル化された粒子からなる微粒子を得た。
【0144】
反応塊、PETEA/AIBN(カソード粒子なし)をガラス表面にキャストしていくつかのフィルムを形成し、これらを重合及び硬化して、異なる架橋度を有する架橋ポリマーを得た。又、引張り試験をこれらのフィルムで実施し、いくつかの試験結果を図7に要約する。この一連の架橋ポリマーは、約25%(より高い架橋度)から80%(より低い架橋度)まで弾性的に引き伸ばすことができる。このようなポリマーの薄いフィルム(1nm~10μm)は、多孔質セパレータとカソード活物質層の間に実装されることができる。
【0145】
実施例4:ETPTA系高弾性半IPNポリマーの調製
ETPTA半IPNポリマーによる様々なアノード粒子のカプセル化において、ETPTA(Mw=428g/モル、3価アクリレートモノマー)、EGMEA(Mw=482g/モル、一価アクリレートオリゴマー)、及び2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン(HMPP、光開始剤)を、溶媒(プロピレンカーボネート、PC)に溶解して溶液を形成した。HMPPとETPTA/EGMEA混合物の重量比を0.2%~2%まで変動させた。異なるカプセル化層の厚さを生じさせるために、溶液中のETPTA/EGMEAの割合を1%~5%変動させた。アクリレート混合物のETPTA/EGMEA比を10/0~1/9まで変動させた。
【0146】
エアサスペンションコーティング法を用いて、アノード活物質粒子をコア-シェル構造にカプセル化した。次いで、ETPTA/EGMEA/HMPPの反応塊を有するコア-シェル微粒子の粉末を20秒間UV照射に曝した。UV重合/架橋は、粉末試料の表面に約2000mW/cmの放射ピーク強度を有する水銀UVランプ(100W)を使用して実施した。
【0147】
上記の手順により、架橋ETPTA/EGMEAポリマーシェルでカプセル化された様々なS導電性材料粒子からなるS系微粒子が生成した。又、比較の目的で、非保護S導電性材料粒子と炭素コーティングで保護された(高弾性ポリマーのカプセル化なし)導電性材料粒子をそれぞれ別のリチウム-硫黄セルにおいて調製し実装した。
【0148】
実施例5:高弾性ポリマーのリチウムイオン伝導性に対するリチウムイオン伝導性添加剤の効果
アノード活物質のコア粒子を保護するためのカプセル化シェル材料を調製するために、幅広い様々なリチウムイオン伝導性添加剤を、いくつかの異なるポリマーマトリックス材料に添加した(表1)。室温でのリチウムイオン伝導率が10-6S/cm以上であれば、これらのポリマー複合材料が適切なカプセル化シェル材料であることを発見した。これらの材料では、リチウムイオンは、1μm以下の厚さを有するカプセル化シェルの内外に容易に拡散できるように見える。厚いシェル(例えば10μm)の場合、室温で10-4S/cm以上のリチウムイオン伝導度が必要となる。
【0149】
実施例6:硫黄含有粒子を形成するためのボールミル粉砕による硫黄と炭素/黒鉛粒子の混合
硫黄粒子と軟質炭素の粒子(即ち、黒鉛化可能な無秩序炭素)、天然黒鉛、メソフェーズカーボン、膨張黒鉛フレーク、カーボンナノファイバー、及びグラフェンシート(得られた複合材料のSの重量で0%~95%)を物理的にブレンドし、次いで2~24時間ボールミル粉砕して、S含有複合粒子(典型的には、ボール又はジャガイモの形状)を得た。次いで、様々なS含有量を含む1~10μmの典型的なサイズの粒子を高弾性ポリマーの薄層で包んだ。次いで、得られた微粒子の一部をカソードの層に形成した。
【0150】
実施例7:単純な硫黄溶融物又は液体溶液の混合
硫黄を導電性材料(例えば、炭素/黒鉛粒子)と組み合わせる1つの方法は、溶液又は溶融物混合プロセスを使用することである。高い多孔性の活性炭粒子、化学エッチングしたメソカーボンマイクロボール(活性化MCMB)、及び剥離した黒鉛ワームを、177~120℃(Sの融点、115.2℃をわずかに上回る)で10~60分間硫黄溶融物と混合して硫黄が含浸されたカーボン粒子を得た。
【0151】
実施例8:硫黄をコーティングしたグラフェンシートとその二次粒子(微粒子)の調製
この工程は、元素硫黄の蒸気を生成し、単層又は数層のグラフェンシートの表面にS蒸気を堆積させる工程を伴う。液体媒体(例えば、水における酸化グラフェン又はNMPにおけるグラフェン)に懸濁したグラフェンシートを、基材(例えば、ガラス表面)に噴霧してグラフェンシートの薄層を形成した。次いで、グラフェンのこの薄層を、昇華によって生じた物理蒸着に曝した。固体硫黄の昇華は40℃を超える温度で生じるが、典型的には、温度が100℃を超えるまで、顕著な実際に有用な昇華速度は生じない。典型的には、グラフェン表面に硫黄の薄いフィルムを堆積させるために、10~120分の堆積時間で117~160℃を使用した(硫黄の厚さは約1nm~10nmである)。次いで、硫黄の薄いフィルムが堆積されたグラフェンのこの薄層は、エアジェットミルを使用して、Sコーティングされたグラフェンシートの片に容易に砕かれた。これらのSコーティングされたグラフェンシートの一部は、高弾性ポリマーに直接包まれた。これらのシートのいくつかは、直径が約5~15μmの二次粒子に作製され(例えば、噴霧乾燥によって)、次いで高弾性ポリマーによってカプセル化された。
【0152】
実施例9:様々な多孔質炭素/黒鉛粒子へのSの電気化学的含浸
活性化炭素繊維、活性化カーボンナノチューブ、及び活性化人工黒鉛粒子の細孔へのSの電気化学的含浸は、これらの粒子/繊維をゆるく詰まった層に凝集させることによって実施した。この手法では、アノード、電解質、及びこうしたゆるく詰まった構造の層(カソード層として機能)が、リチウム-硫黄セルの外側の外部容器に配置される。必要とされる装置は、当技術分野でよく知られている電気めっきキシステムに類似している。
【0153】
典型的な手順では、金属ポリ硫化物(M)を溶媒(例えば、1:3~3:1の体積比でのDOL/DMEの混合物)に溶解して電解質溶液を生成する。任意選択で、ある量のリチウム塩を添加してもよいが、これは外部電気化学的堆積に必要ではない。この目的のために広範な溶媒を利用することができ、どのような種類の溶媒を用いることができるかについての理論上の制限はない。この所望の溶媒への金属ポリ硫化物のいくらかの可溶性があれば、任意の溶媒を使用することができる。より大きな可溶性は、より多量の硫黄を電解液から導出することができることを意味する。
【0154】
次に、電解液を、乾燥した制御雰囲気下(例えば、He又は窒素ガス)のチャンバ又は反応器に注入する。アノードとして金属箔を使用し、カソードとして多孔質構造の層を使用することができ、どちらも電解液に浸漬されている。この構成は、電気化学的含浸及び堆積システムを構成する。硫黄を細孔に電気化学的に含浸させる工程は、多孔質炭素/黒鉛粒子/繊維の層重量に基づいて、1mA/g~10A/gの範囲の電流密度で行われる。
【0155】
この反応器で起こる化学反応は、以下の式で表されることができる:M→My-z+zS(典型的にはz=1-4)。硫黄コーティングの厚さ又は粒子径、及び含浸させるSコーティング/粒子の量は、電気化学反応電流密度、温度及び時間によって制御できる。典型的には、電流密度と反応温度が低いほど、Sの含浸がより均一になり、反応の制御がより容易になる。反応時間が長くなると、細孔内に大量のSが飽和する。更に、電気化学的方法は、含浸されたSを金属ポリスルフィド(ポリスルフィド、ポリスルフィドナトリウム、及びポリスルフィドカリウム等)に迅速に変換することができる。
【0156】
実施例10:化学反応で誘発された硫黄の含浸
本明細書では、化学的含浸法を利用して、化学的に活性化されたS含浸炭素繊維を調製する。この手順は、25mlの蒸留水で満たされたフラスコに0.58gのNaSを加えてNaS溶液を生成することから始めた。次いで、S元素0.72gをNaS溶液中に懸濁させ、室温で約2時間、マグネチックスターラで撹拌した。硫黄が溶解するにつれて、溶液の色はゆっくりとオレンジ-黄色に変化した。硫黄の溶解後、ポリ硫化ナトリウム(Na)溶液が得られた(x=4~10)。
【0157】
その後、硫黄を含浸させた炭素繊維試料を、水溶液での化学的含浸法によって調製した。最初に、180mgの膨張処理した炭素繊維を、界面活性剤を有する180mlの超純水に懸濁し、次いで50℃で5時間超音波処理して安定した炭素繊維分散液を形成した。その後、上記のように調製した分散液に、5重量%の界面活性剤セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)の存在下でNa溶液を添加し、調製後の炭素繊維/Na混合溶液をさらに2時間超音波処理し、次いで2mol/L HCOOH溶液100mlを30~40滴/分の割合で滴定し、2時間撹拌した。最後に、沈殿物を濾過し、アセトン及び蒸留水で数回洗浄して塩及び不純物を除去した。濾過後、沈殿物を乾燥オーブン内で50℃で48時間乾燥させた。この反応は、反応:S 2-+2H→(x-1)S+HSで表すことができる。
【0158】
実施例11:活性化MCMB及び活性化ニードルコークスにおける酸化還元化学反応により誘導された硫黄の含浸
この化学反応に基づく堆積プロセスでは、硫黄源としてチオ硫酸ナトリウム(Na)を、反応物として塩酸を使用した。活性化MCMB-水又は活性化ニードルコークス-水懸濁液を調製し、次いで2つの反応物(塩酸及びNa)をこの懸濁液に注いだ。反応を25~75℃で1~3時間進行させ、Sを活性化構造の細孔に含浸させた。この反応は、以下の反応で表すことができる:2HCl+Na→2NaCl+S↓+SO↑+H
【0159】
実施例12:様々な充電式リチウム電池セルのサイクル安定性
本調製されたカソード層を使用して、いくつかの一連のLi金属硫黄及びLiイオン硫黄セルを調製した。第1のシリーズは、アノード集電体として銅箔を含むLi金属セルであり、又、第2のシリーズは、導電性フィラメントのナノ構造アノード(エレクトロスピニング炭素繊維又はCNFに基づく)を含むLi金属セルである。第3のシリーズは、導電性フィラメントのナノ構造アノード(CVDを使用してSiの薄層でコーティングされたエレクトロスピニング炭素繊維に基づく)と銅箔集電体を有するLiイオンセルである。第4のシリーズは、より一般的なアノードの例として、プレリチウム化された黒鉛に基づくアノード活物質を有するLiイオンセルである。多数の充電/放電サイクルの後、ナノ構造アノードを含むセルは本質的にデンドライトを含まないことがわかった。
【0160】
電荷貯蔵容量を定期的に測定しサイクル数の関数として記録した。本明細書で言及される比放電容量は、複合カソードの単位質量当たり、放電中にカソードに挿入される総電荷である(カソード活物質、導電性添加剤又は支持体、バインダー、及び任意の任意選択の添加剤を組み合わせた重量をカウントする)。比電荷容量は、複合カソードの単位質量当たりの電荷量を指す。このセクションに示される比エネルギー及び比出力値は、総セル重量に基づく。透過型電子顕微鏡(TEM)及び走査型電子顕微鏡(SEM)の両方を使用して、所望の回数の充電及び再充電サイクルを繰り返した後、選択した試料の形態学的又は微細構造の変化が認められた。
【0161】
実施例4で調製した3つのセルのサイクル挙動を図8に示し、これは、炭素コーティングの有無にかかわらず、S系粒子の高弾性ポリマーカプセル化が最も安定したサイクル応答をもたらすことを示している。炭素コーティングだけでは、サイクルの安定性を大幅に改善するのに役立たない。
【0162】
実施例2で調製した2つのLi-Sセルのサイクル挙動を図9に示す。1つのセルは、架橋PVA-CNポリマーでカプセル化した硫黄-CNT複合ボールの微粒子を含むカソードを有し、もう1つのセルは、非保護硫黄-CNT複合ボールの微粒子を含むカソードを有する。高弾性ポリマーは、最も劇的な方法でLi-Sセルにサイクル安定性を付与した。
【0163】
図10は、2つの室温Na-Sセルのサイクル挙動を示している。1つのセルは、架橋ETPTAポリマーでカプセル化された硫黄-MCMB(活性化)複合粒子の微粒子を含むカソードを有し、もう1つのセルは、非保護硫黄-MCMB(活性化)複合粒子の微粒子を含むカソードを有する。繰り返すが、高弾性ポリマーは、Na-Sセルのサイクル安定性を大幅に改善した。
【0164】
上記のサイクル安定性データは、Li-S又はNa-Sセルに一般的に関連するシャトル効果が、本発明の高弾性ポリマーカプセル化手法によって大幅に減少又は本質的に排除されたことを明確に実証した。
【0165】
図11及び図12は、硫黄系カソードを包む高弾性ポリマーの存在が、このポリマーシェルが通常炭素コーティングよりも電子導電性が低く、液体電解質よりもイオン伝導性が低いという考えに基づいて、アルカリ金属-硫黄セルのエネルギー密度を損なわないことを示す。対照的に、材料科学者の予想に反し、セルのエネルギー密度は実際に改善される。
【0166】
リチウム電池業界では、電池のサイクル寿命を、必要な電気化学的形成後に測定された初期容量に基づいて、電池の容量が20%減衰する充放電サイクル数として定義するのが一般的である。以下の表2に、本発明の高弾性ポリマーでカプセル化された硫黄カソード粒子対他の種類のカソード活物質を備える幅広い電池のサイクル寿命データを要約する。
【0167】
以下の考察は、表2及び図9~12のデータから行うことができる。
1)本発明の手法により、Li-S、Na-S、及びK-S電池は、高いサイクル安定性又は長いサイクル寿命を実現できる。
2)又、本発明の手法は、並外れたエネルギー密度及び出力密度を有するアルカリ金属-硫黄セルをもたらす。高弾性ポリマーでカプセル化されたカソード活物質を備えるLi-Sセルで、605Wh/kgという高いセルレベルのエネルギー密度が達成された。又、非常に驚くべきことに、このセルは2875W/kgという高い出力密度を実現し、リチウムイオン電池の及び従来のLi-S電池の典型的な出力密度の4~5倍である。この出力密度の改善は、変換型セルであるLi-S電池が充電/放電中にいくつかの化学反応で作動するため、典型的には、非常に低い出力密度(典型的には<<500W/kg)を実現するという概念に照らすことが非常に重要である。
3)又、同様の有利な特徴は、Na-Sセル及びK-Sセルで認められる。これは、図12によって証明され、4つのアルカリ金属-硫黄セルのラゴーンプロット(セル出力密度対セルエネルギー密度)を示す。
【0168】
要約すると、本発明は、優れたアルカリ金属-硫黄充電式電池の設計及び製造を可能にする革新的で多用途で驚くほど効果的なプラットフォーム材料技術を提供する。高弾性ポリマーでカプセル化された硫黄導電性材料ハイブリッド粒子の微粒子を含むカソード層を備えるアルカリ金属-硫黄セルは、高いカソード活物質利用率、高い比容量、高い比エネルギー、高い出力密度、シャトル効果がほとんどない又はまったくないこと、及び長いサイクル寿命を示す。ナノ構造カーボンフィラメントウェブがアノードに実装されて、リチウムフィルム(例えば、箔)を支持する場合、リチウムデンドライトの問題も抑制又は解消される。
図1A-1B】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12