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  • 特許-圧縮機、ピストン、およびコンロッド 図1
  • 特許-圧縮機、ピストン、およびコンロッド 図2
  • 特許-圧縮機、ピストン、およびコンロッド 図3A
  • 特許-圧縮機、ピストン、およびコンロッド 図3B
  • 特許-圧縮機、ピストン、およびコンロッド 図4
  • 特許-圧縮機、ピストン、およびコンロッド 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】圧縮機、ピストン、およびコンロッド
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20240105BHJP
【FI】
F04B39/00 107F
F04B39/00 107Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020001880
(22)【出願日】2020-01-09
(65)【公開番号】P2021110274
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】成澤 伸之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(72)【発明者】
【氏名】梅田 憲
(72)【発明者】
【氏名】後藤 翔
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3121989(JP,U)
【文献】特開昭64-012078(JP,A)
【文献】特開平05-099146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を往復動するピストンと、
前記シリンダの端部を閉鎖するバルブプレートと、
前記ピストンを支持するコンロッドと、
前記コンロッドの端部に回転力を与えるクランクシャフトと、
前記クランクシャフトを回転可能に支持するクランクケースと、を備え、
前記ピストンは、前記クランクシャフトの回転に伴い前記シリンダ内を揺動しながら往復動する揺動式であって、
前記ピストンは、
少なくとも、前記シリンダの内周側に接触する面、および前記バルブプレート側の面が耐摩耗性を有する樹脂によって構成され
前記バルブプレート側の面を構成する部材にはインサートを有しており、
前記ピストンの外周面は、前記シリンダの直径より小さい直径の球面となっており、
前記インサートが前記コンロッドに対して前記クランクケース側から固定部材で固定されている
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
シリンダ内を往復動するピストンと、
前記シリンダの端部を閉鎖するバルブプレートと、
前記ピストンを支持するコンロッドと、
前記コンロッドの端部に回転力を与えるクランクシャフトと、
前記クランクシャフトを回転可能に支持するクランクケースと、を備え、
前記ピストンは、前記クランクシャフトの回転に伴い前記シリンダ内を揺動しながら往復動する揺動式であって、
前記ピストンは、
少なくとも、前記シリンダの内周側に接触する面、および前記バルブプレート側の面が耐摩耗性を有する樹脂によって構成され、かつ
前記コンロッド側に固定される端部側には、前記クランクケース側に開口したメネジ穴を有しており、
前記ピストンの外周面は、前記シリンダの直径より小さい直径の球面となっており、
前記ピストンの内部には、前記メネジ穴を有するインサートを有しており、
前記インサートが前記コンロッドに対して前記クランクケース側からネジで固定されている
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項3】
請求項2に記載の圧縮機において、
前記インサートは、金属で構成され、
前記ピストンは、前記インサートを除いて前記樹脂で構成されている
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
シリンダ内を往復動するピストンと、
前記シリンダの端部を閉鎖するバルブプレートと、
前記ピストンを支持するコンロッドと、
前記コンロッドの端部に回転力を与えるクランクシャフトと、
前記クランクシャフトを回転可能に支持するクランクケースと、を備え、
前記ピストンは、前記クランクシャフトの回転に伴い前記シリンダ内を揺動しながら往復動する揺動式であって、
前記ピストンは、前記バルブプレート側の面を構成するピストンカバー、および外周面を構成する外周部と、を有しており、
少なくとも、前記シリンダの内周側に接触する面、および前記バルブプレート側の面が耐摩耗性を有する樹脂によって構成され、かつ
前記コンロッド側に固定される端部側には、前記クランクケース側に開口したメネジ穴を有しており、
前記ピストンの前記外周面は、前記シリンダの直径より小さい直径の球面となっており、
前記ピストンカバーの内部には、前記メネジ穴を有するインサートを有しており、
前記インサートが前記コンロッドに対して前記クランクケース側からネジで固定されている
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項5】
請求項に記載の圧縮機において、
前記インサートは、金属で構成され、
前記ピストンカバーは、耐熱性を有する樹脂で構成され、
前記外周部は、前記耐摩耗性を有する樹脂で構成される
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項6】
請求項2または3に記載の圧縮機において、
前記メネジ穴が前記クランクシャフトと直交する方向に2つ以上配置されている
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項7】
請求項2または3に記載の圧縮機において、
前記メネジ穴が前記シリンダの中心軸に対して傾斜して配置されている
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項8】
請求項2またはに記載の圧縮機において、
前記ピストンと前記コンロッドの間に、中空部が形成されている
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項9】
請求項に記載の圧縮機において、
前記中空部の前記バルブプレート側の面は、前記インサートに覆われている
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項10】
請求項2に記載の圧縮機において、
前記インサートは、前記ピストンの周方向に延びている縁部を有している
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項11】
クランクシャフトの回転に伴いシリンダ内を揺動しながら往復動する揺動式のピストンであって、
少なくとも、前記シリンダの内周側に接触する面、およびバルブプレート側の面が耐摩耗性を有する樹脂によって構成され、
コンロッド側に固定される端部側には、クランクケース側に開口したメネジ穴を有しており、
外周面は、前記シリンダの直径より小さい直径の球面となっており、
前記ピストンの内部には、前記メネジ穴を有するインサートを有しており、
前記インサートが前記コンロッドに対して前記クランクケース側からネジで固定されている
ことを特徴とするピストン。
【請求項12】
クランクシャフトの回転に伴いシリンダ内を揺動しながら往復動する揺動式のピストンであって、
少なくとも、前記シリンダの内周側に接触する面、およびバルブプレート側の面が耐摩耗性を有する樹脂によって構成され、
前記バルブプレート側の面を構成するピストンカバー、および外周面を構成する外周部と、を有しており、
コンロッド側に固定される端部側には、クランクケース側に開口したメネジ穴を有しており、
前記外周面は、前記シリンダの直径より小さい直径の球面となっており、
前記ピストンカバーの内部には、前記メネジ穴を有するインサートを有しており、
前記インサートが前記コンロッドに対して前記クランクケース側からネジで固定されている
ことを特徴とするピストン。
【請求項13】
請求項11または12に記載のピストンを支持する座面、および前記座面の前記メネジ穴と一致する箇所にネジ用の孔を有する
ことを特徴とするコンロッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機、ピストン、およびコンロッドに関する。
【背景技術】
【0002】
高圧にも対応することができる多段圧縮機の一例として、特許文献1には、低圧用圧縮機と高圧用圧縮機とを連結した多段圧縮機であって、低圧用圧縮機のシリンダ内に揺動自在かつ摺動自在に配置されたロッキングピストンと、高圧用圧縮機のシリンダ内に揺動自在かつ摺動自在に配置されたロッキングピストンと、を備え、高圧用圧縮機のロッキングピストンの揺動角を低圧用圧縮機のロッキングピストンの揺動角よりも小さくした、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-132267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、流体を圧縮する往復動圧縮機においては、コンロッドの圧縮室側端部に軸受が設けられ、その軸受で以って首振り可能に支持されたピストンを有する通常ピストン方式と、コンロッドの圧縮室側に軸受を持たず、コンロッドと一体になったピストンに、弾性的に変形して圧縮流体をシールするシールリングを有する揺動ピストン方式と、がある。
【0005】
後者の揺動ピストン方式は、通常ピストン方式と比較して軸受やピストンピンを持たない分だけ構造が簡素であり、軸受温度による設計的な制限がないこと、往復動質量を低減可能である、といった多数のメリットを持っている。
【0006】
このような揺動ピストンでは、特許文献1に記載されているように、ピストンを座面側からコンロッドにネジ止めする構造を採用することがある。
【0007】
しかしながら、このネジ止め構造では、座面となるピストンの上面に金属部品が露出してしまうため、圧縮熱がその部品を経由してコンロッド側へ伝達されてしまう、との問題がある。圧縮熱がコンロッド側へ伝達してしまうと、大端部軸受の潤滑状態を悪化させる懸念が生じるため、異なる対策が求められている。
【0008】
これに対し、本発明者らが鋭意検討した結果、揺動ピストン方式において、ピストンを耐摩耗性に優れる樹脂などによって構成し、かつピストンの外周面をシリンダの直径より小さい直径の球面とすることを発想した。
【0009】
そしてこの構造によれば、ピストンストロークが長く、コンロッドの傾き角(揺動角)が大きい往復動圧縮機においても、ピストン外周面とシリンダ内壁面との隙間が微小に維持されることで、滑らかに摺動可能であるという効果が得られることが明らかとなった。
【0010】
しかしながら、このような構造においても、座面となる樹脂がネジの締結に伴う軸力を直接受けることになるため、樹脂からなるピストンのクリープ変形によるネジの緩みを改善する余地がある、との課題が存在することが本発明者らの検討により明らかとなった。
【0011】
特に、圧縮機運転中は、ピストンの上面は圧縮熱によって高温に晒されるため、クリープ変形は急速に進行する。そして、一旦ネジの緩みが生じると往復動慣性力およびシリンダとの摩擦力によってピストンはガタつき、ネジの破断やピストンの破損が連鎖的に生じる、との問題が生じかねない。
【0012】
この破損モードは最終的にコンロッドの折損、クランクケースの破壊といった圧縮機の運転に支障をきたす可能性があることから、対策が不可欠である。
【0013】
このような樹脂のクリープ対策の一環として、耐クリープ性に優れる樹脂材料を選択することが一案として考えられる。しかしながら、そういった樹脂は一般に高価である。上記の構造において摺動部品となるピストンは摩耗により定期交換を要するため、そのコストアップは直接ユーザの負担増につながる。したがって、より簡易かつ安価な対策を講じることが望まれる。
【0014】
本発明は、樹脂製の揺動ピストンをネジ止め固定する構造において、樹脂のクリープ変形によるネジの緩みを抑制することが可能な圧縮機、ピストン、およびコンロッドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、シリンダ内を往復動するピストンと、前記シリンダの端部を閉鎖するバルブプレートと、前記ピストンを支持するコンロッドと、前記コンロッドの端部に回転力を与えるクランクシャフトと、前記クランクシャフトを回転可能に支持するクランクケースと、を備え、前記ピストンは、前記クランクシャフトの回転に伴い前記シリンダ内を揺動しながら往復動する揺動式であって、前記ピストンは、少なくとも、前記シリンダの内周側に接触する面、および前記バルブプレート側の面が耐摩耗性を有する樹脂によって構成され、前記バルブプレート側の面を構成する部材にはインサートを有しており、前記ピストンの外周面は、前記シリンダの直径より小さい直径の球面となっており、前記インサートが前記コンロッドに対して前記クランクケース側から固定部材で固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、樹脂製の揺動ピストンをネジ止め固定する構造において、樹脂のクリープ変形によるネジの緩みを抑制することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1における圧縮機全体の構成例を示す図である。
図2】実施例1における圧縮機本体の構成例を示す図である。
図3A】実施例1におけるピストンの構成例を示す図である。
図3B】実施例1におけるピストンの断面構成例を示す図である。
図4】実施例1におけるピストンの他の断面構成例を示す図である。
図5】本発明の実施例2におけるピストンの断面構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の圧縮機、ピストン、およびコンロッドの実施例を、図面を用いて説明する。
【0019】
まず、本発明の圧縮機は空気や冷媒などの各種流体を圧縮する圧縮機のうち、揺動ピストン方式を採用しうる様々な圧縮機に適用可能であり、その種類や型式、用途は特に限定されない。
【0020】
<実施例1>
本発明の圧縮機、ピストン、およびコンロッドの実施例1について図1乃至図4を用いて説明する。
【0021】
最初に、本実施例の圧縮機の全体構成について図1および図2を用いて説明する。図1は、実施例1における圧縮機の概略図である。また、図2は、図1における圧縮機本体1の内部構造を示す図である。
【0022】
図1に示す圧縮機10は、圧縮機本体1と、それを駆動する電動機2と、圧縮機本体1が吐出す流体を貯留するためのタンク3と、を備えている。
【0023】
圧縮機本体1は流体を圧縮するものであり、その内部構造は図2に示すように、クランクケース21と、クランクケース21から鉛直方向に突出するひとつのシリンダ22と、このシリンダ22の端部(上部の端部)を閉鎖するバルブプレート26と、シリンダヘッド23と、クランクシャフト24を回転可能に、中央において支持するクランクケース21と、を有している。
【0024】
圧縮機本体1では、クランクケース21内のクランクシャフト24が回転することでコンロッド32の一端部側に回転力を与え、シリンダ22内に設置されたピストン33が鉛直方向に往復動し、その結果としてシリンダ22外部から流体を吸引し圧縮してタンク3へ吐出する。
【0025】
なお、図1および図2では説明の簡略化のため、圧縮機形状はピストン・シリンダを1対しか持たない1気筒1段圧縮機としているが、クランクシャフトに対して直列あるいは放射状に複数のピストン・シリンダを有する圧縮機であってもよい。
【0026】
圧縮機本体1では、クランクシャフト24が電動機2の回転軸と平行に配置された状態でタンク3上に配置して固定されている。また、クランクシャフト24には圧縮機プーリ4が固定されており、電動機2の回転軸には電動機プーリ5が固定されている。圧縮機本体1に付設された圧縮機プーリ4は羽根を有しており、その回転に伴い冷却風を圧縮機本体1に向けて発生させることで、圧縮機本体1の放熱を促す。
【0027】
圧縮機プーリ4および電動機プーリ5には、圧縮機プーリ4および電動機プーリ5の間で動力伝達するための伝動ベルト6が巻回されている。これにより、電動機2の回転に従って、電動機プーリ5、伝動ベルト6および圧縮機プーリ4を介して圧縮機本体1のクランクシャフト24が回転駆動され、圧縮機本体1が流体を圧縮する。
【0028】
なお、図1では説明の簡略化のため、圧縮機本体1は電動機2と伝動ベルト6を介して接続された構成としているが、圧縮機本体1のクランクシャフト24と電動機2の回転軸をカップリングなどの結合手段を用いて直接に接合することで、両者を一体化した構成であってもよい。
【0029】
次に、ピストンの周辺構造について図2を用いて説明する。図2に示すピストン33は、ピストン33がコンロッド32と一体で構成された揺動ピストン方式である。この方式では、クランクシャフト24の回転に伴い、ピストン33がシリンダ22内を揺動しながら往復動する。
【0030】
次いで、ピストン33とコンロッド32との詳細構造について図3A乃至図4を用いて説明する。図3Aはピストンの構成例を示す図、図3Bはピストンの断面構成例を示す図、図4はピストンの他の断面構成例を示す図である。
【0031】
図3Aおよび図3Bに示しているピストン33は、ピストン33を支持するコンロッド32と別部品であり、少なくとも、シリンダ22の内周側に接触する外周面33a、およびバルブプレート26側の上面33cが耐摩耗性を有する樹脂によって構成されている。本実施例では、ピストン33は、後述するピストンインサート41を除いて耐摩耗性に優れる樹脂により構成されている。
【0032】
耐摩耗性に優れる樹脂材料としては、例えばピストン33の主体にポリテトラフルオロエチレン(Poly Tetra Fluoro Ethylene、PTFE)を使用したものが挙げられる。更に、熱膨張率を考慮した場合は、ピストン33の樹脂材としては、ポリエーテルサルフォン(Poly Ether Sulfone、PES)等が挙げられる。
【0033】
また、ピストン33の外周面33aは、シリンダ22の内周側の直径よりわずかに小さい直径を持つ球面となっている。
【0034】
ピストン33のコンロッド32側の面のうち、外周部分には凸部33eが形成されており、コンロッド32の凸部32dと嵌め合い構造となっている。
【0035】
更に、ピストン33はその内部に、アルミニウム合金などの金属からなるピストンインサート41が埋め込まれた状態で成型されている。このピストンインサート41は、ピストン33が往復動慣性力や摩擦力によってシリンダヘッド23側に引き上げ荷重を受けた場合でも抜け出すことがないよう、その縁部41aがピストン33の周方向に食い込んだ形状となっている。
【0036】
このピストンインサート41には、コンロッド32側に固定される端部側であるクランクケース21側に開口したメネジ穴41cが1つ以上、本実施例では2つ形成されており、コンロッド32に対してクランクケース21側からクランクシャフト24と直交する方向にネジ35で締結(固定)されている。
【0037】
これに対応するように、本実施例では、図3Aおよび図3Bに示しているコンロッド32では、ピストン33を支持する座面のうち、メネジ穴41cと一致する箇所にネジ35用の孔32cを有している。
【0038】
本実施例のピストンインサート41は、図3Bに示すように、シリンダヘッド23側を底にした皿型をしているとともに、コンロッド32の座面も、ピストンインサート41の皿型の中央の凹部に対応する位置に凹部32bが形成されている。この構造により、ピストンインサート41の下面とコンロッド32の上面との間に、中空部41bが形成されている。この中空部41bは、バルブプレート26側の面がピストンインサート41に覆われている。
【0039】
ピストン33は、圧縮ガスをシールするシールリングとしてピストンリング34を用いており、ピストンリング34は、ピストン33の外周面33aに設けられたリング(環状)溝33bに対してある隙間をもって嵌合している。なお、ピストンリング34およびリング溝33bを用いずに構成してもよい。
【0040】
なお、本実施例では、ピストンインサート41のメネジ穴41cをクランクシャフト24と直交する方向に2ヵ所設けている場合について説明しているが、本発明はこの配置に限定されるものではない。例えば、クランクシャフト24の方向に複数並べて設けることができるとともに、クランクシャフト24に対して斜め方向に少なくとも一本以上設けることもできる。
【0041】
ただし、ピストン33が下降するとき、その外周面33aとシリンダ内壁面22aとの摩擦力によりピストン33を引きはがそうとするモーメントの方向を考慮すると、メネジ穴41cはクランクシャフト24と直交する方向に2か所以上設ける方が、ネジ35に加わる引抜力を低減することができるようになる。
【0042】
また、ピストンインサート41の形状について、本実施例ではシリンダヘッド23側を底にした皿型としている場合について説明しているが、図4に示すピストン33Aのように、金属で構成されるインサートナット42とするだけでもよい。このインサートナット42についても、クランクシャフト24と直交する方向に2つ以上のメネジ穴42cが配置されており、インサートナット42がコンロッド32Aに対してクランクケース21側からネジ35で固定されている。
【0043】
この場合、市販のインサートナットを使用することが可能となり、コストメリットが得られるほか、樹脂成型後にインサートナットを打ち込むなどの方法によって製造工程の簡略化を行うことができる。
【0044】
なお、この図4に示す形態の場合、往復動質量低減のために図3Bに示すような中空部41bを形成する際には、往復動の際にピストン33を構成する樹脂自体がガス荷重を受けることになってしまうため、強度確保の面で何かしらの対策をとることが望ましい。
【0045】
図4に示す形態においても、ピストン33Aは、インサートナット42を除いて耐摩耗性を有する樹脂で構成されている。
【0046】
また、図3B図4に示すようにピストンインサート41のメネジ穴41cやインサートナット42のメネジ穴42cをシリンダ22の軸方向に平行に設けているが、本発明はこの配置に限定されるものではない。たとえばメネジ穴をシリンダ22の中心軸に対して傾斜して配置させることができる。
【0047】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0048】
上述した本発明の実施例1のピストン33,33Aは、クランクシャフト24の回転に伴いシリンダ22内を揺動しながら往復動する揺動式のものであって、少なくとも、シリンダ22の内周側に接触する外周面33a、およびバルブプレート26側の上面33cが耐摩耗性を有する樹脂によって構成され、コンロッド32側に固定される端部側には、クランクケース21側に開口したメネジ穴41c,42cを有しており、外周面33aは、シリンダ22の直径より小さい直径の球面となっている。
【0049】
これによって、ピストン33をコンロッド32に固定するネジ35の軸力は、コンロッド32の座面32aで受けるため、ネジ35での締結固定において樹脂のクリープ変形による緩みなどの問題がより生じない構造とすることができる。従って、揺動ピストン方式において、ピストン33,33A外周面とシリンダ22内壁面との隙間が微小に維持されることで滑らかに摺動可能であるという効果が得られるとともに、樹脂のクリープ対策を簡易かつ安価に講じたものとすることができる。これらの効果から、長時間にわたって安定して圧縮機を運転することができる。
【0050】
また、ピストン33,33Aの内部には、メネジ穴41c,42cを有するピストンインサート41あるいはインサートナット42を有しており、ピストンインサート41あるいはインサートナット42がコンロッド32に対してクランクケース21側からネジ35で固定されているため、ピストンインサート41あるいはインサートナット42により樹脂製のピストン33,33Aをコンロッド32に対して強固に固定することができるため、より安定した運転を行うことができる。
【0051】
更に、ピストンインサート41あるいはインサートナット42は、金属で構成され、ピストン33,33Aは、ピストンインサート41あるいはインサートナット42を除いて樹脂で構成されていることで、ピストン33,33Aをコンロッド32に対してより強固に固定するとともに、滑らかな摺動運動が可能となる。
【0052】
また、メネジ穴41c,42cがクランクシャフト24と直交する方向に2つ以上配置されていることにより、球面上に形成されているピストン33,33Aの周方向でコンロッド32に対して安定して固定することが可能となり、コンロッド32に対してより強固に固定できるため、更に安定した運転を行うことができる。
【0053】
更に、メネジ穴41c,42cがシリンダ22の中心軸に対して傾斜して配置されていることで、ネジ35の締め付け作業において工具の入り込むスペースが広く確保できるため、組立性を向上させることができる。
【0054】
また、ピストン33とコンロッド32の間に、中空部41bが形成されていることにより、ピストン33をはじめとする往復動部分の質量を低減できるため、往復動慣性力に起因する圧縮機本体の振動を改善することができる。
【0055】
更に、中空部41bのバルブプレート26側の面は、ピストンインサート41に覆われていることで、ピストンインサート41によりピストン33を内側から保持することができ、中空部41bが形成されている場合においても、ピストン33の成型時の収縮や、運転時の圧縮熱による膨張といった変形量を低減することが可能となる。
【0056】
また、ピストンインサート41は、ピストン33の周方向に延びている縁部41aを有していることによって、往復動慣性力や摩擦力によってシリンダヘッド23側に引き上げ荷重を受けた場合でもピストンインサート41がピストン33から抜け出すことを防ぐことができるため、より安定してピストン33をコンロッド32に対して固定することができる。
【0057】
<実施例2>
本発明の実施例2の圧縮機、ピストン、およびコンロッドについて図5を用いて説明する。実施例1と同じ構成には同一の符号を示し、説明は省略する。以下の実施例においても同様とする。図5は本実施例2におけるピストンの断面構成例を示す図である。
【0058】
本実施例は、実施例1に対してピストンの材料費を更に低減した構成である。以下図6を用いて説明する。
【0059】
実施例1では、図3Bに示したように、ピストンインサート41あるいはインサートナット42の周辺全体を耐摩耗性に優れる樹脂によって構成するものとしている。しかし、耐摩耗性に優れ、特に圧縮機の摺動・シール部品に使用される樹脂材料は、PTFEをはじめ、一般に高価であり、前述の定期交換部品としてのユーザ負担を考慮すると、可能な限りその体積を削減することが望まれる。
【0060】
ピストンの機能を部位ごとに考えた場合、摺動性能が必要となるのは、シリンダ内壁面22aと摺動する外周面のみであり、それ以外の部位については、特に上面33cにおいて断熱性があればよい。
【0061】
このことから、本実施例では、図5に示すように、ピストン33Bは、バルブプレート26側の面を構成するピストンカバー43と、このピストンカバー43とは別部品であり、ピストン33Bの外周面45aを構成する外周部45と、を有する構造としている。
【0062】
ピストンカバー43は、耐摩耗性を有する樹脂で構成される外周面45aと異なり、たとえばフェノール樹脂などの耐熱性に優れる安価な樹脂で構成されている。外周面45aを構成する樹脂は、上述の実施例1のピストン33を構成する樹脂と同様の材料を用いることが望ましい。
【0063】
ピストン33Bのうち、ピストンカバー43の内部には、クランクケース21側の面にメネジ穴43cを設けた金属で構成されるピストンインサート44が鋳込まれており、このピストンインサート44のクランクケース21側の面がピストン33B内周面の凸部33eを挟むようにコンロッド32にネジ止めされている。
【0064】
本実施例においても、ピストンインサート44はシリンダヘッド23側を底にした皿型をしているとともに、コンロッド32の座面も、ピストンインサート44の皿型の中央の凹部に対応する位置に凹部32bが形成されており、中空部43bが形成されている。
【0065】
中空部43bのバルブプレート26側の面は、ピストンインサート44に覆われている。
【0066】
なおネジ35の軸力は、ピストン33の中心33dを締め付けるように働くが、この構造では単純にネジ35で固定するよりも受圧面積をはるかに広く確保できるため、クリープ変形は大幅に低減され、ネジ35の緩みを防止することができる。
【0067】
その他の構成・動作は前述した実施例1の圧縮機、ピストン、およびコンロッドと略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0068】
本発明の実施例2のバルブプレート26側の面を構成するピストンカバー43、および外周面45aを構成する外周部45と、を有しているピストン33Bを備えた圧縮機においても、前述した実施例1の圧縮機とほぼ同様な効果が得られる。
【0069】
また、ピストンカバー43の内部には、メネジ穴43cを有するピストンインサート44を有しており、ピストンインサート44がコンロッド32に対してクランクケース21側からネジ35で固定されていることによっても、ピストンインサート44により樹脂製のピストン33Bをコンロッド32に対して強固に固定することができるため、より安定した運転を行うことができる。
【0070】
更に、ピストンインサート44は、金属で構成され、ピストンカバー43は、耐熱性を有する樹脂で構成され、外周部45は、耐摩耗性を有する樹脂で構成されることで、高価な耐摩耗性に優れる樹脂の体積を低減することができ、ピストン33B全体のコストを実施例1よりも抑制できるというメリットが得られる。
【0071】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0072】
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0073】
1…圧縮機本体
2…電動機
3…タンク
4…圧縮機プーリ
5…電動機プーリ
6…伝動ベルト
10…圧縮機
21…クランクケース
22…シリンダ
22a…シリンダ内壁面
23…シリンダヘッド
24…クランクシャフト
26…バルブプレート
32,32A…コンロッド
32a…座面
32b…凹部
32c…孔
32d…凸部
33,33A,33B…ピストン
33a…外周面
33b…リング溝
33c…上面
33d…中心
33e…凸部
34…ピストンリング
35…ネジ
41…ピストンインサート
41a…縁部
41b…中空部
41c…メネジ穴
42…インサートナット
42c…メネジ穴
43…ピストンカバー
43b…中空部
43c…メネジ穴
44…ピストンインサート
45…外周部
45a…外周面
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5