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特許7413037スピニング加工装置、スピニング加工用加工ローラ、スピニング加工方法、及び熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法
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  • 特許-スピニング加工装置、スピニング加工用加工ローラ、スピニング加工方法、及び熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】スピニング加工装置、スピニング加工用加工ローラ、スピニング加工方法、及び熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 67/00 20170101AFI20240105BHJP
【FI】
B29C67/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020006384
(22)【出願日】2020-01-17
(65)【公開番号】P2021112861
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-07-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229047
【氏名又は名称】日本スピンドル製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】木嶋 敬昌
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 孝二
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-335049(JP,A)
【文献】特開2012-030234(JP,A)
【文献】特開2016-016433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と熱可塑性樹脂とを複合させた熱可塑性樹脂複合材を塑性加工するスピニング加工装置であって、前記熱可塑性樹脂複合材を加熱する加熱部と、
加熱された前記熱可塑性樹脂複合材に当接して塑性加工させる加工ローラと、を備え、
前記加熱部と前記加工ローラが一体であることを特徴とする、スピニング加工装置。
【請求項2】
複数の加工ローラを備え、前記複数の加工ローラが連動して塑性加工することを特徴とする、請求項1に記載のスピニング加工装置。
【請求項3】
繊維と熱可塑性樹脂とを複合させた熱可塑性樹脂複合材を加熱する加熱部を備えることを特徴とする、スピニング加工用加工ローラ。
【請求項4】
繊維と熱可塑性樹脂とを複合させた熱可塑性樹脂複合材を塑性加工するスピニング加工方法であって、
前記熱可塑性樹脂複合材を加熱するステップと、
加熱された前記熱可塑性樹脂複合材を加工ローラにより塑性加工するステップと、を備え、
前記加熱するステップ及び前記塑性加工するステップは、加熱部と一体化した加工ローラを用いて同時に行うことを特徴とする、スピニング加工方法。
【請求項5】
繊維と熱可塑性樹脂とを複合させた熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂複合材を加熱するステップと、
加熱された前記熱可塑性樹脂複合材を加工ローラにより塑性加工するステップと、を備え、
前記加熱するステップ及び前記塑性加工するステップは、加熱部と一体化した加工ローラを用いて同時に行うことを特徴とする、熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピニング加工装置、スピニング加工用加工ローラ、スピニング加工方法、及び熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な産業分野において、樹脂素材が活用されている。このような樹脂素材としては、樹脂単体からなるもののほか、樹脂に繊維を複合させ、高強度化した強化プラスチックなどの樹脂複合材が知られている。また、このような樹脂素材の加工品を安価かつ容易に得ることができる技術に係る需要が高まっている。
【0003】
強化プラスチックの一つである繊維強化プラスチックは、軽量かつ強度の面から金属に代わる軽量化材料として着目されている。この繊維強化プラスチックは、熱硬化性樹脂を使用しているものが汎用されているが、熱硬化性樹脂は硬化させるまでの時間を要し、成形時間が長いこと等から、加工品の量産には向かないという課題がある。
【0004】
そのため、熱可塑性樹脂を用いた熱可塑性繊維強化プラスチックを、樹脂素材として活用するための加工技術に関する検討が行われている。
例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂と強化繊維を含む被成形材を成形する成型装置であって、第1及び第2の金型と、2つの金型の相対的な位置関係を規定するラムを備えるプレス装置を備えるものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-202784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のプレス加工では、樹脂素材の形状は金型の形状によって決定される。このため、精度の高い局所加工を行うことは、金型の設計精度や金型の作製コスト等の面から困難である。また、一度成形した加工品に対し、プレス加工による追加工を行うことも困難である。このため、熱可塑性樹脂を用いた加工品として作製できる形状が限定され、熱可塑性樹脂のうち、特に繊維と熱可塑性樹脂とを複合させた熱可塑性樹脂複合材(以下、単に「熱可塑性樹脂複合材」とも呼ぶ)が有する樹脂素材としての利点を、様々な分野で十分に活用することができないという課題がある。
そのため、熱可塑性樹脂複合材の加工に際し、プレス加工によらない加工技術の確立が求められている。
【0007】
本発明の課題は、熱可塑性樹脂のうち、特に熱可塑性樹脂複合材の加工において、局所加工や追加工に優れたプレスレス加工を行うためのスピニング加工装置、スピニング加工ローラ、スピニング加工方法を提供することである。また、プレスレス加工による熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂複合材の塑性加工において、熱可塑性樹脂複合材を加熱した状態で加工ローラを用いた加工を行うことにより、局所加工が容易となることを見出して本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のスピニング加工装置、スピニング加工用加工ローラ、スピニング加工方法、又は熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法である。
【0009】
上記課題を解決するための本発明のスピニング加工装置は、繊維と熱可塑性樹脂とを複合させた熱可塑性樹脂複合材を塑性加工するスピニング加工装置であって、熱可塑性樹脂複合材を加熱する加熱部と、加熱された前記熱可塑性樹脂複合材に当接して塑性加工させる加工ローラと、を備えることを特徴とする。
このスピニング加工装置によれば、金型を用いたプレス成形によらず、熱可塑性樹脂複合材の塑性加工を行うことが可能となる。特に、加工ローラを備え、塑性加工を行うことで、テーパ形状化や溝入れなどの局所加工や追加工を容易に行うことが可能となる。これにより、熱可塑性樹脂複合材が有する樹脂素材としての利点を生かしつつ、用途に応じて様々な形状の塑性加工品を容易に作製することが可能となる。
【0010】
また、本発明のスピニング加工装置の一実施態様としては、加熱部と加工ローラが一体であることを特徴とする。
この特徴によれば、加熱処理と押圧処理を1つの構成で同時に行うことができ、樹脂全体ではなく、特定範囲の箇所のみに対して加熱処理と押圧処理を行うことによる塑性加工が可能となる。
一般に、プレス成形においては、塑性加工対象となる樹脂全体を加熱処理する必要があるが、プレス時に樹脂全体の温度低下を抑制する必要があるとともに、樹脂全体の温度が均等に変化するような制御を行う必要がある。この温度管理が適切に行われないと、結果として塑性加工品の品質にばらつきが生じるという問題がある。一方、本発明の特徴によれば、塑性加工箇所以外に余分な熱や圧力をかけることなく塑性加工することができるため、樹脂の温度管理が容易となり、塑性加工品の品質を均一に保つことが容易となる。
【0011】
また、本発明のスピニング加工装置の一実施態様としては、複数の加工ローラを備え、複数の加工ローラは連動して駆動することを特徴とする。
この特徴によれば、複数の加工ローラを連動状態で駆動させて塑性加工することで、塑性加工箇所に対する押圧処理や加熱処理の効率を高め、塑性加工の成形時間を短縮することができる。また、塑性加工の成形時間が短くなることで、塑性加工時における樹脂の温度低下を抑制することも可能となる。これにより、塑性加工の精度を高め、安定した品質の塑性加工品を作製することが容易となる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明のスピニング加工用加工ローラは、繊維と熱可塑性樹脂とを複合させた熱可塑性樹脂複合材を加熱する機能を備えることを特徴とする。
このスピニング加工用加工ローラによれば、金型を用いたプレス成形によらず、熱可塑性樹脂複合材の塑性加工を行うことが可能となる。特に、テーパ形状化や溝入れなどの局所加工や追加工を容易に行うことが可能となる。これにより、熱可塑性樹脂複合材が有する樹脂素材としての利点を生かしつつ、用途に応じて様々な形状の塑性加工品を容易に作製することが可能となる。
また、このスピニング加工用加工ローラを、既設のスピニング加工装置における加工ローラとして適用することで、既設のスピニング加工装置を、プレス成形によらない熱可塑性樹脂複合材の塑性加工を行うスピニング加工装置として更新することが可能となる。
【0013】
上記課題を解決するための本発明のスピニング加工方法は、繊維と熱可塑性樹脂とを複合させた熱可塑性樹脂複合材を塑性加工するスピニング加工方法であって、熱可塑性樹脂複合材を加熱するステップと、加熱された熱可塑性樹脂複合材を加工ローラにより塑性加工するステップと、を備えることを特徴とする。
このスピニング加工方法によれば、金型を用いたプレス成形によらず、熱可塑性樹脂複合材を塑性加工することが可能となる。特に、加工ローラによる塑性加工を行うことで、テーパ形状化や溝入れなどの局所加工や追加工を容易に行うことが可能となる。これにより、熱可塑性樹脂複合材が有する樹脂素材としての利点を生かしつつ、用途に応じて様々な形状の塑性加工品を容易に作製することが可能となる。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法は、繊維と熱可塑性樹脂とを複合させた熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法であって、熱可塑性樹脂複合材を加熱するステップと、加熱された前記熱可塑性樹脂複合材を加工ローラにより塑性加工するステップと、を備えることを特徴とする。
この熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法によれば、金型を用いたプレス成形によらず、熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品を得ることが可能となる。特に、加工ローラによる塑性加工を行うことで、テーパ形状化や溝入れなどの局所加工や追加工を容易に行うことが可能となる。これにより、熱可塑性樹脂複合材が有する樹脂素材としての利点を生かしつつ、局所加工の精度が高く、かつ追加工が容易な塑性加工品を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱可塑性樹脂のうち、特に熱可塑性樹脂複合材の加工において、局所加工や追加工に優れたプレスレス加工を行うためのスピニング加工装置、スピニング加工用加工ローラ、スピニング加工方法を提供することができる。また、プレスレス加工による熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施態様の加工装置の構造を示す概略説明図である。
図2】本発明の第1の実施態様の加工装置における加熱部の別態様を示す概略説明図である。
図3】本発明の第1の実施態様の加工装置における加熱部の別態様を示す概略説明図である。
図4】本発明の第2の実施態様の加工装置の構造を示す概略説明図である。
図5】本発明の第3の実施態様の加工装置の構造を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るスピニング加工装置、スピニング加工用加工ローラ、スピニング加工方法、及び熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法を詳細に説明する。
なお、実施態様に記載するスピニング加工装置、スピニング加工用加工ローラ、スピニング加工方法、及び熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法については、本発明に係るスピニング加工装置、スピニング加工用加工ローラ、スピニング加工方法、及び熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法を説明するために例示したに過ぎず、本発明は、これに限定されるものではない。
【0018】
本発明の加工対象は、加熱により軟化し、冷却により硬化する性質を持つ熱可塑性樹脂を含むものである。なお、熱可塑性樹脂が状態変化する温度は、ガラス転移温度(ガラス転移点)や軟化点として表され、熱可塑性樹脂ごとに固有の温度である。
このような熱可塑性樹脂の一例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などが挙げられる。
【0019】
また、本発明の加工対象としては、上記した熱可塑性樹脂単体と繊維とを複合させた熱可塑性樹脂複合材を用いることが挙げられる。このような熱可塑性樹脂複合材としては、いわゆる繊維強化プラスチックと呼ばれ、繊維として炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維等を用い、上記した熱可塑性樹脂と複合させたものが挙げられる。特に、軽量かつ高強度を有することから、樹脂素材として様々な分野での活用が期待されている繊維強化プラスチックを用いることが好ましい。このような熱可塑性樹脂複合材の具体的な一例としては、熱可塑性樹脂と炭素繊維とを複合させた熱可塑性炭素繊維強化プラスチック(CFRTP)が挙げられる。
【0020】
さらに、本発明の加工対象である熱可塑性樹脂複合材の加工前の形状は、特に限定されない。例えば、筒状、柱状などの立体形状を有するものであってもよく、平板状、シート状などの平面形状を有するものであってもよい。また、熱可塑性樹脂複合材の加工前の形状(初期形状)としては、所望する塑性加工品の形状に基づき、加工処理の工程数が最小となるような形状を選択することや、熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品を量産するために、安価かつ大量供給が可能となる単純な形状を選択すること等が挙げられる。
【0021】
〔第1の実施態様〕
(スピニング加工装置)
図1は、本発明の第1の実施態様におけるスピニング加工装置1Aの構造を示す概略説明図である。本発明の第1の実施態様におけるスピニング加工装置1Aは、図1に示すように、加工ローラ2と、加熱部3を備えるものである。また、スピニング加工装置1Aは、加工対象である熱可塑性樹脂複合材T1を固定する固定手段4を備えている。なお、本実施態様においては、図1に示すように、円筒状の熱可塑性樹脂複合材T1に対し、塑性加工を行うものについて例示しているが、熱可塑性樹脂複合材T1の形状は、これに限定されるものではない。
【0022】
スピニング加工装置1Aは、回転軸R1を軸として回転する回転機構(不図示)と、この回転機構に連結された主軸5と、その主軸5に熱可塑性樹脂複合材T1を固定するための固定手段4を備えている。熱可塑性樹脂複合材T1は、固定手段4により主軸5に固定され、回転軸R1を中心に回転するように取り付けられる。なお、主軸5は、回転軸R1以外に、移動軸を有するものとしてもよい。これにより、塑性加工時に、熱可塑性樹脂T1複合材自体を移動させて加工を行うものとしてもよい。
【0023】
また、スピニング加工装置1Aは、加工ローラ2を取り付けるための加工ローラホルダ6を備えている。加工ローラ2は、加工ローラホルダ6に取り付けられ、回転軸R2を軸として回転する。なお、図1においては、回転軸R2は、主軸5の回転軸R1と平行となるように配置されているが、これに限定されるものではない。回転軸R2の配置方向(回転軸R2の角度)は、加工ローラ2自体の形状や、加工ローラ2による加工の種類に応じて、適宜決定することが可能である。なお、加工ローラホルダ6は、回転軸R2以外に、移動軸を有し、移動可能とすることが好ましい。これにより、塑性加工時に、熱可塑性樹脂複合材T1の加工箇所Pに加工ローラ2を配置することができるとともに、加工ローラ2を移動させることで連続的に塑性加工を実施することが可能となる。
【0024】
以下に、各部材について、詳細に説明する。
<固定手段>
固定手段4は、回転機構に連結された主軸5に、熱可塑性樹脂複合材T1を固定するための手段である。本実施態様の固定手段4としては、加工ローラ2の駆動範囲に干渉することなく、主軸5に対して熱可塑性樹脂複合材T1を固定することができるものであればよい。
固定手段4としては、熱可塑性樹脂複合材T1の外周面から作用するものや、熱可塑性樹脂複合材T1の内周面から作用するものが挙げられる。このような固定手段4としては、治具やチャックと呼ばれる固定装置等を用いることが挙げられる。
【0025】
固定手段4としては、例えば、図1に示すように、主軸5に設けられ、熱可塑性樹脂複合材T1の外周面を挟持して固定することができる固定装置(チャック)を用いることが挙げられる。また、固定手段4の他の例としては、熱可塑性樹脂複合材T1の内部に挿入し、熱可塑性樹脂複合材T1の外周側に向かって押し当てることにより、主軸5に熱可塑性樹脂複合材T1を固定することができる芯棒を用いることなどが挙げられる。
【0026】
なお、図1に示した熱可塑性樹脂複合材T1は、開口した筒状の形状のものを用いているが、例えば、有底のものであってもよい。また、熱可塑性樹脂複合材T1として、筒状の形状は、特に制限されず、円筒形状、楕円筒形状、多角筒形状でもよい。安定した回転を実現するという観点からは、円筒形状であることが好ましい。
【0027】
<加工ローラ>
加工ローラ2は、熱可塑性樹脂複合材T1の塑性加工に用いるものである。
本実施態様における加工ローラ2としては、熱可塑性樹脂複合材T1に当接して塑性加工を行うことができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。
本実施態様の加工ローラ2の具体例としては、例えば、スピニング加工に用いられる加工ローラを用いることが挙げられる。スピニング加工とは、回転する加工対象に、ローラ等を当接させて成形を行う塑性加工の手法の一つである。
【0028】
加工ローラ2は、回転軸R2を中心に回転可能な構造物である。加工ローラ2の形状としては、どのような形状でもよく、図1に示したような円盤状のほかにも、円柱状、楕円柱状、多角柱状などでもよい。安定して回転するという観点からは、円柱状や円盤状であることが好ましい。
【0029】
また、加工ローラ2は、例えば、加工内容に応じた形状を選択するものとしてもよい。例えば、加工対象の端部を縮径する縮径処理に使用する縮径処理面を有するもの、加工対象の端部の面を押圧する端面押し処理に使用する端面押し処理面を有するもの、加工対象の内周面又は外周面に溝部を形成する溝入れ処理に使用する溝入れ処理面を有するものなどが挙げられる。
【0030】
また、図1には、加工ローラ2は、熱可塑性樹脂複合材T1の外周面側に配置したものを示しているが、これに限定されない。加工ローラ2の配置は、熱可塑性樹脂複合材T1の塑性加工内容に応じて適宜変更することができ、例えば、熱可塑性樹脂複合材T1の内周面側に加工ローラ2を配置し、熱可塑性樹脂複合材T1の内周面の加工を行うものとしてもよい。
【0031】
<加熱部>
加熱部3は、熱可塑性樹脂複合材T1を加熱するためのものである。
本実施態様の加熱部3としては、熱可塑性樹脂複合材T1自体あるいは熱可塑性樹脂複合材T1に含まれる熱可塑性樹脂をガラス転移温度あるいは軟化点以上に加熱することができるものであればよく、特に限定されない。なお、一般的な熱可塑性樹脂のガラス転移温度あるいは軟化点は300度以下であることが知られている。このことから、加熱部3としては300度まで昇温可能なものを用いることが好ましいが、加熱部3の昇温範囲は、加工対象である熱可塑性樹脂複合材T1自体又は熱可塑性樹脂複合材T1に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度あるいは軟化点に応じて適宜設定することができる。したがって、加熱部3の昇温範囲の上限は300度以下としてもよい。
【0032】
加熱部3としては、熱可塑性樹脂複合材T1において塑性加工を行う箇所のみを加熱するものが好ましい。これにより、熱可塑性樹脂複合材T1の温度制御を容易とし、安定した品質の塑性加工品を得ることが可能となる。
【0033】
熱可塑性樹脂複合材T1において塑性加工を行う箇所のみを加熱する加熱部3の例としては、図1に示すように、加工ローラ2と加熱部3を一体化することが挙げられる。なお、加工ローラ2と加熱部3の一体化は、加工ローラ2と加熱部3が構造上一体化するものだけではなく、加工ローラ2自身が熱可塑性樹脂複合材T1の塑性加工に必要な温度となるよう、直接あるいは間接的に加工ローラ2に熱を与える機構として加熱部3を備えるものを含んでいる。これにより、熱可塑性樹脂複合材T1は、加工ローラ2が当接した箇所(加工箇所P)のみが加熱され、塑性加工が行われることになる。このとき、加工箇所P以外の熱可塑性樹脂複合材T1には、余分な熱や圧力をかけることなく塑性加工することができるため、熱可塑性樹脂複合材T1の温度管理が容易となり、塑性加工品の品質を均一に保つことが容易となる。
【0034】
加工ローラ2と加熱部3を一体化する例としては、図1に示すように、加熱部3として、加工ローラ2に加熱用回路30を接続し、電圧印加により加工ローラ2を加熱するものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
図2及び図3は、本実施態様における加熱部3の別態様を示す概略説明図である。
加熱部3の例としては、図2に示すように、加熱部3としてバーナーやヒーター等の加熱装置31を設け、加熱装置31であらかじめ加工ローラ2を加熱することが挙げられる。さらに、加熱部3の他の例としては、図3に示すように、加工ローラ2に対し、外部から供給されるエネルギーを熱に変換することができるような表面処理を行う表面処理手段32を設け、エネルギー供給源33からのエネルギー供給により加工ローラ2を加熱することが挙げられる。なお、表面処理手段32の一例としては、電磁波(マイクロ波)を吸収して温度が上昇する剤を塗布すること等が挙げられる。また、このときのエネルギー供給源33の一例としては、電磁波発生装置等が挙げられる。これにより、表面処理手段32によって、電磁波による昇温が可能となった加工ローラ2に対し、エネルギー供給源33(電磁波発生装置)から電磁波照射をすることで、加工ローラ2を加熱することが可能となる。
【0035】
なお、加熱部3と一体化した加工ローラ2に係る構成は、本発明におけるスピニング加工用加工ローラとして独立したものとすることができる。このスピニング加工用加工ローラは、金型を用いたプレス成形によらず、熱可塑性樹脂複合材の塑性加工を行うことが可能となる。また、既設のスピニング加工装置に、本発明のスピニング加工用加工ローラを適用することで、熱可塑性樹脂複合材の塑性加工が可能なスピニング加工装置に容易に更新することが可能となる。
【0036】
(スピニング加工方法(熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法))
本実施態様のスピニング加工方法は、熱可塑性樹脂複合材T1の塑性加工として、熱可塑性樹脂複合材T1を加熱するステップと、加熱された熱可塑性樹脂複合材T1を加工ローラ2により塑性加工するステップとを備えている。
【0037】
各処理ステップの順は、最初に熱可塑性樹脂複合材T1を加熱するステップを行い、次いで、加工ローラ2により熱可塑性樹脂複合材T1を塑性加工するステップを行うものとすることが挙げられる。また、上述したように、加工ローラ2と加熱部3を一体化している場合、両ステップを同時に行うものとすることができる。
【0038】
熱可塑性樹脂複合材T1を加熱するステップは、上述した加熱部3を用いて実施されるものである。
また、加工ローラ2により熱可塑性樹脂複合材T1を塑性加工するステップは、主軸5に固定した熱可塑性樹脂複合材T1を、回転軸R1を軸として回転させるとともに、回転軸R2を軸として回転する加工ローラ2を、熱可塑性樹脂複合材T1の加工箇所Pに押圧することで塑性変形するものである。なお、図1では、塑性変形の例として、加工ローラホルダ6を回転軸R2に沿って移動させることにより、回転軸R2を軸として回転する加工ローラ2を、回転軸R1の軸方向に沿って駆動させ、筒状の熱可塑性樹脂複合材T1に対する溝入れ加工を行うものを示しているが、これに限定されるものではなく、加工ローラ2の形状のほか、回転軸R2の角度や加工ローラホルダ6の移動方向を適宜選択することで、他の様々な塑性加工を行うものとしてもよい。
以上のステップを実行することにより、プレス加工によらず、熱可塑性樹脂複合材T1の塑性加工を行うことが可能となる。
【0039】
特に、加工対象として、CFRTPのように、熱可塑性樹脂と繊維とを複合した熱可塑性樹脂複合材T1を用いる場合、プレス加工のように加工対象である熱可塑性樹脂複合材T1全体を加熱する加工を行うと、繊維間の樹脂含浸率が低下して繊維がバラバラになるなど、樹脂素材の強度低下が生じやすく、塑性加工品の品質にばらつきが出ることが知られている。
一方、本実施態様におけるスピニング加工方法では、加工ローラ2と加熱部3を一体化し、熱可塑性樹脂複合材T1を加熱するステップと、加工ローラ2により熱可塑性樹脂複合材T1を塑性加工するステップを同時に行うこともできる。これにより、熱可塑性樹脂複合材T1において塑性加工を行う加工箇所Pのみに対し、加熱処理、押圧処理を行うため、熱可塑性樹脂複合材T1の強度低下が生じにくく、安定した品質の塑性加工品を製造することが可能となる。したがって、本実施態様のスピニング加工方法は、熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法としても活用されるものである。
【0040】
〔第2の実施態様〕
図4は、本発明の第2の実施態様におけるスピニング加工装置1Bの構造を示す概略説明図である。本発明の第2の実施態様におけるスピニング加工装置1Bは、図4に示すように、平板状の熱可塑性樹脂複合材T2を用いている。また、熱可塑性樹脂複合材T2を主軸5に固定するための固定手段40として、熱可塑性樹脂複合材T2を挟持する第1部材40a及び第2部材40bからなるものを備えている。なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0041】
本実施態様における固定手段40は、熱可塑性樹脂複合材T2を主軸5に固定するものであるとともに、熱可塑性樹脂複合材T2を塑性加工する際の金型としても機能させるものとしてもよい。例えば、図4に示すように、加工ローラ2が熱可塑性樹脂複合材T2を押圧する際、熱可塑性樹脂複合材T2は第1部材40aの側面に沿って塑性加工される。これにより、平板状の熱可塑性樹脂複合材T2についても、プレス加工によらず、安定した塑性加工を行うことが容易となる。また、固定手段40の第1部材40aあるいは第2部材40bの側面形状を適宜設計することで、精度の高い熱可塑性樹脂複合材T2の局所加工を行うことが可能となる。
なお、第1の実施態様における固定手段4においても、筒状の熱可塑性樹脂複合材T1を塑性加工する金型として機能するものを設けるものとしてもよい。これにより、熱可塑性樹脂複合材T1の塑性加工においても、局所加工の精度を高めることが可能となる。
【0042】
〔第3の実施態様〕
図5は、本発明の第3の実施態様におけるスピニング加工装置1Cの構造を示す概略説明図である。本発明の第3の実施態様におけるスピニング加工装置1Cは、図5に示すように、第1の実施態様におけるスピニング加工装置1Aの加工ローラ2として、複数の加工ローラ2A、2Bを用いているものである。また、加工ローラ2A、2Bは連動して駆動するものである。なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0043】
本実施態様のスピニング加工装置1Cは、2以上の加工ローラを備えるものであればよく、図5に示すように、2つの加工ローラ2A、2Bを設けることのみに限定されるものではない。
加工ローラ2A、2Bは、図5に示すように、熱可塑性樹脂複合材T1を同一平面上で挟み込むように配置することが好ましい。これにより、加工ローラ2A、2Bにより熱可塑性樹脂複合材T1を挟持しながら押圧処理を行うことになるため、安定した塑性加工が可能となる。なお、図5では、加工ローラ2A、2Bは同一形状を有するものを示しているが、これに限定されない。加工ローラ2A、2Bを異なる形状を有するものとし、複数種類の塑性加工を一度に行うことができるようにするものとしてもよい。
【0044】
また、本実施態様のスピニング加工装置1Cにおいて、加熱部3としては、上述した第1の実施態様のスピニング加工装置1Aの構成と同様のものを用いることができる。例えば、加工ローラ2A、2Bの少なくとも一つ以上が加熱部3と一体化したものとすることが挙げられる。特に、図5に示すように、複数の加工ローラ2A、2B全てに加熱用回路30を設ける等、加熱部3と一体化させた加工ローラ2A、2Bを複数設けることで、熱可塑性樹脂複合材T1に対する加熱効率が向上し、塑性加工の成形時間を短縮できるとともに、塑性加工の精度を高めることが可能となる。
【0045】
本実施態様のスピニング加工装置1Cは、複数の加工ローラ(加工ローラ2A、2B)を連動状態で駆動させて塑性加工することで、熱可塑性樹脂複合材T1の塑性加工箇所に対する押圧処理や加熱処理の効率を高め、塑性加工の成形時間を短縮することができる。また、塑性加工の成形時間が短くなることで、塑性加工時における熱可塑性樹脂複合材T1の温度低下を抑制することも可能となる。これにより、塑性加工の精度を高め、安定した品質の塑性加工品を作製することが容易となる。また、塑性加工品の量産化も可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のスピニング加工装置及びスピニング加工方法は、繊維と熱可塑性樹脂とを複合させた熱可塑性樹脂複合材の塑性加工のために利用することができる。より具体的には、局所加工を要する熱可塑性樹脂複合材の塑性加工に利用することができる。
【0047】
また、本発明のスピニング加工用加工ローラは、スピニング加工装置に適用して、熱可塑性樹脂複合材の塑性加工のために利用することができる。さらに、本発明のスピニング加工用加工ローラは、既設のスピニング加工装置に適用することにより、熱可塑性樹脂複合材の塑性加工を行うことが可能なスピニング加工装置に容易に更新することが可能である。
【0048】
また、本発明の熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品の製造方法は、局所加工の精度が高く、安定した品質の熱可塑性樹脂複合材の塑性加工品を得るために利用することができる。例えば、ブレーキ部品(ディスクブレーキ用のブレーキピストン等)、エンジン部品、タイヤホイール、家庭用容器、装飾工芸品、照明器具、通信機器、ボイラ、タンク、ノズルなどの部品・製品の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1A,1B,1C…スピニング加工装置、2,2A,2B…加工ローラ、3…加熱部、30…加熱用回路、31…加熱装置、32…表面処理手段、33…エネルギー供給源、4,40…固定手段、40a…第1部材、40b…第2部材、5…主軸、6…加工ローラホルダ、P…加工箇所、R1…主軸の回転軸、R2…加工ローラの回転軸、T1…筒状の熱可塑性樹脂複合材、T2…平板状の熱可塑性樹脂複合材
図1
図2
図3
図4
図5