IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許7413039液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法
<>
  • 特許-液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法 図1
  • 特許-液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法 図2
  • 特許-液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法 図3
  • 特許-液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240105BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B41J2/14 501
B41J2/14 607
B41J2/16 509
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2020008035
(22)【出願日】2020-01-22
(65)【公開番号】P2021115698
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀内 勇
(72)【発明者】
【氏名】石塚 一成
(72)【発明者】
【氏名】筒井 暁
(72)【発明者】
【氏名】浜出 陽平
(72)【発明者】
【氏名】石井 美穂
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-104877(JP,A)
【文献】特開2011-161761(JP,A)
【文献】特開2016-095373(JP,A)
【文献】特開2011-180586(JP,A)
【文献】特開2009-226862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体供給口及び液体吐出用のエネルギー発生素子を有する基板と、
前記基板上に、液体を吐出する吐出口及び前記液体供給口と前記吐出口とに連通する液体の流路を有する流路部材と、を備えた液体吐出ヘッドであって、
前記流路部材が、前記液体と接触する面を有さない流路部材(1)と、前記液体と接触する面を有する流路部材(2)を含んでなり、
前記流路部材(1)の膜応力Sと前記流路部材(2)の膜応力SがS<Sであり、
前記基板に対して垂直な方向における、前記流路部材(1)の膜厚Lと前記流路部材(2)の膜厚LがL<Lであり、
前記膜応力S及びS、前記膜厚L及びLが、下記式(I)の関係を満たす、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
470MPa・μm<〔L×S+(L-L)×S〕<1200MPa・μm
(I)
【請求項2】
前記膜応力S及びS、前記膜厚L及びLが、下記式(I’)の関係を満たす、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
650MPa・μm<〔L×S+(L-L)×S〕<900MPa・μm
(I’)
【請求項3】
前記流路部材(1)が、前記液体の流路の側壁の少なくとも一部を構成し、
前記流路部材(2)が、前記液体の流路の側壁の少なくとも一部を構成する前記流路部材(1)の側壁を、前記液体と接しないように覆っている、請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記流路部材(1)の膜応力Sが、20MPa以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記流路部材(2)の膜応力Sが、20MPa以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記流路部材(1)が、光分解性のポジ型感光性樹脂組成物を含んでなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記光分解性のポジ型感光性樹脂組成物が、ポリメタクリル酸メチル及びメタクリル酸メチルとケトン部分を有するビニルモノマーの共重合体、ポリメタクリル酸メチルとスチレン、ポリビニルアセテート又はポリカーボネートとの混合物、メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体、ポリメチルイソプロペニルケトン、又はポリフェニルビニルケトンを含む、請求項6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記流路部材(2)が、3官能以上のエポキシ基を有するカチオン重合型多官能エポキシ樹脂、及び、光重合開始剤を含むネガ型感光性樹脂組成物の硬化物を含んでなる、請求項1~7のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記カチオン重合型多官能エポキシ樹脂が、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、及びビスフェノールA型ノボラック型からなる群より選ばれる少なくとも一の多官能エポキシ樹脂を含む、請求項8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記カチオン重合型多官能エポキシ樹脂が、ジシクロペンタジエン骨格、ビフェニル骨
格、及びナフタレン骨格からなる群より選ばれる少なくとも一の骨格を有する、請求項8又は9に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記膜厚L及び前記膜厚Lが、L-L>4μmの関係を満たす、請求項1~10のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記膜厚Lが、30μm以上である、請求項1~11のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
前記流路部材(2)が、前記基板上に設けられ、前記液体の流路の側壁を形成する流路形成部材(2-1)と、前記流路形成部材(2-1)上に設けられ、前記液体を吐出する吐出口を有する流路部材(2-2)と、を備えた流路部材であって、
前記流路形成部材(2-1)と前記流路部材(2-2)が、異なるネガ型感光性樹脂組成物の硬化物で形成される、請求項1~12のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
液体供給口及び液体吐出用のエネルギー発生素子を有する基板と、
前記基板上に、液体を吐出する吐出口及び前記液体供給口と前記吐出口とに連通する液体の流路を有する流路部材と、を備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記流路部材が、前記液体と接触する面を有さない流路部材(1)と、前記液体と接触する面を有する流路部材(2)を含んでなり、
前記基板の上に、感光性樹脂組成物をパターニングして、前記液体の流路の側壁の一部となる流路部材(1)を形成する工程と、
前記流路部材(1)を覆うように感光性樹脂組成物をパターニングし、前記液体を吐出する吐出口及び前記液体供給口と前記吐出口とに連通する前記液体の流路を有する流路部材(2)を形成する工程と、を有し、
前記流路部材(1)の膜応力Sと前記流路部材(2)の膜応力SがS<Sであり、
前記基板に対して垂直な方向における、前記流路部材(1)の膜厚Lと前記流路部材(2)の膜厚LがL<Lであり、
前記膜応力S及びS、前記膜厚L及びLが、下記式(I)の関係を満たす、
ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
470MPa・μm<〔L×S+(L-L)×S〕<1200MPa・μm
(I)
【請求項15】
前記膜応力S及びS、前記膜厚L及びLが、下記式(I’)の関係を満たす、請求項14に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
650MPa・μm<〔L×S+(L-L)×S〕<900MPa・μm
(I’)
【請求項16】
前記流路部材(1)の膜応力Sが、20MPa以下である、請求項14又は15に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項17】
前記流路部材(2)の膜応力Sが、20MPa以上である、請求項14~16のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項18】
前記流路部材(1)が、光分解性のポジ型感光性樹脂組成物を含んでなる、請求項14~17のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項19】
前記光分解性のポジ型感光性樹脂組成物が、ポリメタクリル酸メチル及びメタクリル酸メチルとケトン部分を有するビニルモノマーの共重合体、ポリメタクリル酸メチルとスチ
レン、ポリビニルアセテート又はポリカーボネートとの混合物、メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体、ポリメチルイソプロペニルケトン、又はポリフェニルビニルケトンを含む、請求項18に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項20】
前記流路部材(2)が、3官能以上のエポキシ基を有するカチオン重合型多官能エポキシ樹脂、及び、光重合開始剤を含むネガ型感光性樹脂組成物の硬化物を含んでなる、請求項14~19のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項21】
前記カチオン重合型多官能エポキシ樹脂が、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、及びビスフェノールA型ノボラック型からなる群より選ばれる少なくとも一の多官能エポキシ樹脂を含む、請求項20に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項22】
前記カチオン重合型多官能エポキシ樹脂が、ジシクロペンタジエン骨格、ビフェニル骨格、及びナフタレン骨格からなる群より選ばれる少なくとも一の骨格を有する、請求項20又は21に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項23】
前記膜厚L及び前記膜厚Lが、L-L>4μmの関係を満たす、請求項14~22のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項24】
前記膜厚Lが、30μm以上である、請求項14~23のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項25】
前記流路部材(1)が、光分解性のポジ型感光性樹脂組成物を含んでなり、
前記吐出口形成後に、前記流路部材(1)に、深紫外線を照射して前記ポジ型感光性樹脂組成物の分子量を低下させる、請求項14~24のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項26】
前記流路部材(1)が、光分解性のポジ型感光性樹脂組成物を含んでなり、
前記ポジ型感光性樹脂組成物を、前記液体の流路の側壁の一部及び前記液体の流路の一部を構成するようにパターニングし、前記吐出口形成後に、前記液体の流路の一部を構成するようにパターニングした前記ポジ型感光性樹脂組成物のみを溶解除去して、前記液体の流路の一部を形成する、請求項14~25のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項27】
前記流路部材(2)を形成する工程が、
前記流路部材(1)を覆うようにネガ型感光性樹脂組成物1をパターニングし、前記液体の流路の側壁を形成する流路形成部材(2-1)を形成する工程と、
前記流路形成部材(2-1)上に、ネガ型感光性樹脂組成物2を積層し、前記液体を吐出する吐出口を形成するように前記ネガ型感光性樹脂組成物2をパターニングし、流路部材(2-2)を形成する工程と、を含み、
前記ネガ型感光性樹脂組成物1と前記ネガ型感光性樹脂組成物2が、異なるネガ型感光性樹脂組成物である、請求項14~26のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項28】
前記ネガ型感光性樹脂組成物1と前記ネガ型感光性樹脂組成物2が、異なる露光量で硬化するネガ型感光性樹脂組成物である、請求項27に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項29】
前記流路部材(2)を形成する工程の後に、170℃~250℃で、ベーク(熱)処理する、請求項14~28のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドは、例えば、インクジェットヘッドとして、インクジェット記録装置においてインクを吐出するために用いられる。インクジェットヘッドに適用される液体吐出ヘッドは、一般に、微細な液体の吐出口及び流路、吐出口と流路を連結するノズル、流路に液体を供給する供給口、液体を吐出するためのエネルギー発生素子を複数備えている。
このような液体吐出ヘッドを作製する方法として特許文献1では、以下のように記載されている。
エネルギー発生素子を有する基板上に、現像剤で溶解可能なポジ型感光性樹脂で流路のパターンを形成し、この流路のパターン上にノズルを形成するネガ型のエポキシ樹脂組成物を塗布する。
エポキシ樹脂組成物を吐出口の形状に露光した後、エポキシ樹脂組成物の未硬化部とポジ型感光性樹脂を別々に除去し、流路、ノズル、吐出口を形成する。その後、基板の背面側からエッチングによりインクの供給口を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-286149号公報
【文献】特開2007-186685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年のインクジェット記録技術には、これら吐出口や流路の微細化、高密度化が印刷の高精細化と高速化に大きく寄与している。しかしながら、吐出口や流路を構成するエポキシ樹脂組成物にはインクの液体成分が浸透するため、微細化、高密度化が進むほど浸透による体積膨張の影響が大きくなる。その結果、印刷の安定性や樹脂組成物の密着性に与える影響が大きくなる。さらに、インク組成において有機溶剤比率が増えた場合、エポキシ樹脂組成物の体積膨張がさらに増加する懸念がある。
一般的に、ベンゼン骨格を有し、酸素当量が大きいエポキシ樹脂を組成物の主材とすることで、体積膨張を抑制させる効果が期待できる。さらに、これらエポキシ樹脂を3次元的に結合させることで機械強度に優れた硬化物を形成させることが可能である。
また、特許文献2ではエポキシ樹脂組成物の体積膨張を抑制するため、液体の浸透性が低いジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂をネガ型のエポキシ樹脂組成物に添加している。
しかしながら、ベンゼン骨格やジシクロペンタジエン骨格のように剛直な構造を有する3官能以上のエポキシ樹脂の硬化物は、耐浸透性や機械強度に優れるほど膜応力が大きくなる傾向がある。
また、膜応力の増加は、エポキシ樹脂組成物が成膜された基板の変形を大きくし、基板からエポキシ樹脂組成物を剥離させたり、基板を破損させたりすることがあるという知見を得た。
本開示は、基板や流路部材の変形、及び基板からの流路部材の剥がれ、が抑制された液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一の態様は、
液体供給口及び液体吐出用のエネルギー発生素子を有する基板と、
前記基板上に、液体を吐出する吐出口及び前記液体供給口と前記吐出口とに連通する液体の流路を有する流路部材と、を備えた液体吐出ヘッドであって、
前記流路部材が、前記液体と接触する面を有さない流路部材(1)と、前記液体と接触する面を有する流路部材(2)を含んでなり、
前記流路部材(1)の膜応力Sと前記流路部材(2)の膜応力SがS<Sであり、
前記基板に対して垂直な方向における、前記流路部材(1)の膜厚Lと前記流路部材(2)の膜厚LがL<Lであり、
前記膜応力S及びS、前記膜厚L及びLが、下記式(I)の関係を満たす、
ことを特徴とする液体吐出ヘッドに関する。
470MPa・μm<〔L×S+(L-L)×S〕<1200MPa・μm
(I)
【0006】
本開示の他の態様は、
液体供給口及び液体吐出用のエネルギー発生素子を有する基板と、
前記基板上に、液体を吐出する吐出口及び前記液体供給口と前記吐出口とに連通する液体の流路を有する流路部材と、を備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記流路部材が、前記液体と接触する面を有さない流路部材(1)と、前記液体と接触する面を有する流路部材(2)を含んでなり、
前記基板の上に、感光性樹脂組成物をパターニングして、前記液体の流路の側壁の一部となる流路部材(1)を形成する工程と、
前記流路部材(1)を覆うように感光性樹脂組成物をパターニングし、前記液体を吐出する吐出口及び前記液体供給口と前記吐出口とに連通する前記液体の流路を有する流路部材(2)を形成する工程と、を有し、
前記流路部材(1)の膜応力Sと前記流路部材(2)の膜応力SがS<Sであり、
前記基板に対して垂直な方向における、前記流路部材(1)の膜厚Lと前記流路部材(2)の膜厚LがL<Lであり、
前記膜応力S及びS、前記膜厚L及びLが、下記式(I)の関係を満たす、
ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
470MPa・μm<〔L×S+(L-L)×S〕<1200MPa・μm
(I)
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、基板や流路部材の変形、及び基板からの流路部材の剥がれ、が抑制された液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(A)は液体吐出ヘッドの構成の一例を示す模式斜視図、(B)は図1(A)のA-B線における模式断面図。
図2】液体吐出ヘッドの製造工程の例を示す模式断面図。
図3】吐出口の形状を説明する平面図。
図4】液体吐出ヘッドの製造工程の例を示す模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、この開示を実施するための形態を、具体的に例示する。ただし、この形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、開示が適用される部材の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この開示の範囲を以下の形態に限定する趣旨のものではない。
また、本開示において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
また、数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
また、以下の説明では、同一の機能を有する構成には図面中に同一の番号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0010】
液体吐出ヘッドへの適用例として、インクジェットヘッドを例に挙げて説明するが、液体吐出ヘッドの適用範囲はこれに限定されるものではない。
図1(A)は、本開示の実施形態に係わる液体吐出ヘッド(インクジェットヘッド)の構成の一例を示す模式斜視図である。また、図1(B)は、図1(A)のA-B線における、基板に垂直な面で見た、液体吐出ヘッド(インクジェットヘッド)の模式断面図の一例である。
【0011】
インクジェットヘッドは、液体(例えば、インク)を吐出させるエネルギーを発生するエネルギー発生素子1(液体吐出用のエネルギー発生素子)が所定のピッチで形成された基板2を有している。また、基板2にはインクを供給する液体供給口3が開口されている。
さらに、基板2上には、液体の流路4の側壁の少なくとも一部を構成する流路部材(1)5、及び、液体の流路の側壁の少なくとも一部を構成する流路部材(1)5を、液体と接しないように覆う。これによって、ノズル6を含む液体の流路4を構成する流路部材(2)7が形成されている。
すなわち、流路部材は、液体と接触する面を有さない流路部材(1)5と、液体と接触する面を有する流路部材(2)7を含んで構成されている。
さらに、必要に応じて撥水層8が積層されており、インク滴が吐出する、流路部材のオリフィスとしての吐出口9が形成されている。液体の流路4は、液体供給口3と吐出口9とに連通する。
また、基板2に対して垂直の方向おける、流路部材(1)5の膜厚をLとし、流路部材(2)7の膜厚をLとしている。
【0012】
インクと接触する面を有する流路部材(2)7は、フォトリソグラフィー性能を有する感光性樹脂組成物の硬化物であることが好ましい。ただし、感光性樹脂組成物の硬化物は機械的強度、液体に対する耐浸透性に優れていることが好ましい。
上記特性を満足するために、感光性樹脂組成物が、カチオン重合型のエポキシ樹脂を含むことが好ましい。また、該エポキシ樹脂は末端に反応性のエポキシ基を持つ光硬化型の樹脂であることが好ましい。
【0013】
また、感光性樹脂組成物が、3官能以上のエポキシ基を有するカチオン重合型多官能エポキシ樹脂を含有することが好ましい。さらに、該エポキシ樹脂が、1分子中にベンゼン骨格、ジシクロペンタジエン骨格、ナフタレン骨格、及びビフェニル骨格からなる群より選択される一の骨格を有するエポキシ樹脂であることが好ましい。該多官能エポキシ樹脂を含む感光性樹脂組成物の硬化物は、特に機械的強度と耐浸透性に優れた特性を持つ。
一方で、これらの硬化物は、剛直な構造により、2官能のエポキシ基を有するカチオン重合型エポキシ樹脂や、ベンゼン骨格を有さないエポキシ樹脂、を含む感光性樹脂組成物の硬化物と比較して膜応力が大きくなる傾向がある。なお、本開示において、「X官能以上のエポキシ基を有する」とは、「1分子中にX個以上のエポキシ基を有する」ことを意味する。
【0014】
本開示において、流路部材(1)の膜応力Sと流路部材(2)の膜応力SがS<Sである。従って、流路部材(1)を構成する材料は、上記膜応力S<膜応力S
関係を満たすのであれば、特に限定されることはなく、公知の材料を用いることができる。
具体的には、流路部材(1)を形成するために、フォトリソグラフィー性能を有する公知のポジ型感光性樹脂組成物や、カチオン重合型のエポキシ樹脂組成物の硬化物などが挙げられる。
流路部材(1)の膜応力を流路部材(2)の膜応力よりも下げることで、流路部材(2)のみで流路の側壁を形成する場合よりも応力による基板の変形や、流路部材(2)の基板からの剥離を抑制することができる。
【0015】
膜応力は、東朋テクノロジー社製の薄膜応力測定装置(例えば、FLX-2320)で測定することが可能である。シリコン基板上に任意の厚みで測定対象の膜を形成し、所望のプロセスを経験させた後に薄膜応力測定装置でシリコン基板の反りを計測することで、下記式(1)により膜応力を算出することが可能である。
S=Eh/(1-ν)6Rt (1)
(E/(1-ν);シリコン基板の2軸弾性係数(Pa)、h;シリコン基板の厚さ(m)、t;測定対象の膜の厚さ(m)、R;基板の曲率半径(m)、S;膜応力の平均値(Pa)、1/R=1/R-1/R、R;成膜前の曲率半径、R;成膜後に所望のプロセスを経験させた後の曲率半径)
【0016】
流路部材(2)を構成する、感光性樹脂組成物の硬化物の膜応力Sは、20MPa以上、22MPa以上、25MPa以上であることが好ましい。一方、膜応力Sの上限値は特に限定されないが、35MPa以下、33MPa以下、30MPa以下であることが好ましい。
一方、膜応力による流路部材(2)の剥離を抑制するために、流路部材(1)の膜応力Sは、20MPa以下、18MPa以下、17MPa以下であることが好ましい。一方、膜応力Sの下限値は特に限定されないが、8MPa以上、9MPa以上、10MPa以上であることが好ましい。
【0017】
本開示では、流路部材の基板からの剥離抑制、及び、流路部材の変形抑制の観点から、基板に対して垂直な方向における、流路部材(1)の膜厚Lと流路部材(2)の膜厚Lをも考慮して考察を重ね、以下の知見を得た。
すなわち、膜応力S及びS、膜厚L及びLは、下記式(I)の関係を満たす。
470MPa・μm<〔L×S+(L-L)×S〕<1200MPa・μm
(I)
また、膜応力S及びS、膜厚L及びLは、下記式(I’)の関係を満たすことが好ましい。
650MPa・μm<〔L×S+(L-L)×S〕<900MPa・μm
(I’)
上記膜応力S<膜応力Sの関係を満たし、かつ、式(I)の関係を満たすことで、基板や流路部材の変形、及び、基板からの流路部材の剥がれ、を抑制することが可能となる。
【0018】
流路部材(1)は、ポジ型感光性樹脂組成物を含んでなることが好ましい。該ポジ型感光性樹脂組成物は、光を照射することで主鎖が切断される光分解性のポジ型感光性樹脂組成物であることが好ましい。
光分解性のポジ型感光性樹脂組成物は非水溶性であり、光分解後も有機溶剤に可溶であるが水への溶解性が極めて低い。また、熱可塑性の性質を有しており膜応力も低いため、水溶性のインクを用いる場合には耐浸透性と合わせて流路部材(1)を形成させる材料として適している。
さらに、主鎖が切断されることで分子量が低下し、より膜応力をより下げることが可能
である。これら材料を、流路部材(1)を形成させる材料として用いることで、上記膜応力S<膜応力Sの関係や、式(I)の関係を満たすべく、流路部材の設計を行うことができる。
これら光分解性のポジ型感光性樹脂組成物としては、ポリメタクリル酸エステル系ポジ型レジストや、ポリアクリル酸エステル系ポジ型レジスト、ポリメチルイソプロペニルケトンなどが挙げられる。すなわち、光分解性のポジ型感光性樹脂組成物は、ポリメタクリル酸メチル及びメタクリル酸メチルとケトン部分を有するビニルモノマーの共重合体;ポリメタクリル酸メチルとスチレン、ポリビニルアセテート又はポリカーボネートとの混合物;メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体;ポリメチルイソプロペニルケトン;ポリフェニルビニルケトン;などを含むことが好ましい。
ポリメチルイソプロペニルケトンとしては、東京応化工業社製「ODUR-1010」(商品名)を好適に用いることができる。
【0019】
また、流路部材(1)を形成させるための感光性樹脂組成物として、流路部材(2)を形成させるための感光性樹脂組成物と同様の組成物を用いてもよい。この場合、上記膜応力S<膜応力Sの関係を満たすべく、その樹脂組成物を適宜選択するとよい。
カチオン重合型のエポキシ樹脂組成物の硬化物を用いる場合、上記膜応力S<膜応力Sの関係を満足させることが好ましい。このために、エポキシ樹脂組成物として、ベンゼン骨格を有さず、下記式(a)で示される脂環式エポキシ構造を有する重合体を主として含有してなる組成物を用いることが例示できる。該エポキシ樹脂組成物は、酸素当量が低いため、その硬化物の耐浸透性は若干劣るが、柔軟性と吸湿性のため、該硬化物の膜応力は低くなり、流路部材(1)として適している。
市販の、脂環式エポキシ樹脂を有する重合体としては、ダイセル化学社製「EHPE-3150」(商品名)が挙げられる。
【0020】
【化1】

(式(a)中、Rは、水素原子、又は、炭素数1~3のアルキル基を示し、nは自然数を示す。)
【0021】
また、流路部材(1)を形成させるための、カチオン重合型のエポキシ樹脂組成物として、主材となる3官能以上のエポキシ樹脂に、2官能以下のエポキシ樹脂や直鎖の樹脂が配合されたエポキシ樹脂組成物を用いることも好ましい態様である。これにより、該エポキシ樹脂組成物の硬化物の膜応力を低下させることも可能である。
2官能以下のエポキシ樹脂を配合した場合、主材となる3官能以上のエポキシ樹脂との架橋密度が制限されるため、膜応力が上昇することを抑制することが可能である。また、直鎖の樹脂は柔軟性に優れているため、配合された場合、硬化物の膜応力を抑えるのに適している。
これら、膜応力を低減するために配合される樹脂組成物としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
市販の樹脂組成物としては、三菱化学社製「jER1004」、「jER1007」、「jER1010」、「jER1256」(商品名)、東邦化学工業社製「ポリエチレングリコール600」、「ポリエチレングリコール1000」、「ポリエチレングリコール
2000」(商品名)などが挙げられる。
【0022】
以下、具体的な製造方法を説明するがこれらに限定されるわけではない。
図2は液体吐出ヘッド(具体的には、インクジェットヘッド)の製造方法の一例を示す模式断面図である。また、図2は、完成した状態で図1(B)と同じく、基板に垂直な面で見た、断面構造を示す。
まず、インクを吐出するエネルギーを発生するエネルギー発生素子1を配置した基板2に、樹脂組成物10としてポジ型感光性樹脂組成物を成膜する(図2(A))。
次に、流路形成マスク(1)11を用いてポジ型感光性樹脂組成物を露光する(図2(B))。
さらに露光部を有機溶剤で溶解除去して、流路部材(1)5及び流路パターン12を形成する(図2(C))。
【0023】
次に、樹脂組成物10上に、硬化して流路部材(2)7となるエポキシ樹脂組成物(1)13を成膜し、必要に応じて、エポキシ樹脂組成物(1)13上に撥水層8を成膜する(図2(D))。成膜方法としては、溶剤を含む樹脂組成物をスピン塗布やスリットコート塗布した後、ベーク工程にて溶剤を揮発させる方法や、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリイミドなどから成るフィルム基材上に一旦成膜した後に転写するラミネート法などがある。これら成膜方法は樹脂材料や溶剤の種類によって適宜使い分けることができる。
撥水層8は、インクに対する撥水性が求められ、カチオン重合性を有するパーフルオロアルキル組成物やパーフルオロポリエーテル組成物が好適に用いられる。一般に、パーフルオロアルキル組成物やパーフルオロポリエーテル組成物は、塗布後のベーク処理によってフッ化アルキル鎖が、組成物と空気の界面に偏析することが知られており、組成物の表面の撥水性を高めることが可能である。
【0024】
エポキシ樹脂組成物(1)、及び、後述するエポキシ樹脂組成物(2)は、その硬化物の特性として機械的強度、液体に対する耐浸透性、基板との密着性を有することが要求される。
また、これらエポキシ樹脂組成物の機械的強度及び耐浸透性を確保するために、基板に対して垂直な方向における、流路部材(1)の膜厚Lと流路部材(2)の膜厚LがL<Lである。また、膜厚Lと膜厚Lは、L-L>4μmの関係を満たすことが好ましい。また、L-Lは、5μm以上、10μm以上、15μm以上であることが好ましく、その上限値は特に限定されないが、40μm以下、35μm以下であることが好ましい。L-Lが4μm以下の場合には、吐出口の形状が変形しやすくなる。
なお、膜厚Lは、10μm以上、15μm以上、20μm以上、40μm以下、30μm以下であることが好ましい。
一方、膜厚Lは、20μm以上、30μm以上、40μm以上、80μm以下、70μm以下であることが好ましい。
【0025】
微小な吐出口を精度良く形成するためにフォトリソグラフィー材料としての解像性を考慮する必要もある。これらの特性を満足させるための一つの態様として、流路部材(2)は、3官能以上のエポキシ基を有するカチオン重合型多官能エポキシ樹脂、及び、光重合開始剤を含むネガ型感光性樹脂組成物の硬化物を含んでなることが挙げられる。
また、該カチオン重合型多官能エポキシ樹脂は、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型及びビスフェノールA型ノボラック型からなる群より選ばれる少なくとも一の多官能エポキシ樹脂を含むことが好ましい。
さらに、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型及びビスフェノールA型ノボラック型からなる群より選ばれる少なくとも一のカチオン重合型多官能エポキシ樹脂は、ジシクロペンタジエン骨格、ビフェニル骨格、及びナフタレン骨格からなる群より選ば
れる少なくとも一の骨格を有することが好ましい。これらのエポキシ樹脂は光重合開始剤と共に感光性樹脂組成物を構成することで、多官能エポキシ樹脂を主材とするネガ型光カチオン重合性エポキシ樹脂組成物として用いることができる。これらネガ型光カチオン重合性エポキシ樹脂組成物の硬化物は3次元架橋することが可能となり、所望の特性を得るのに適している。
【0026】
市販のエポキシ樹脂としては、三菱化学社製「jER157S70」、「jER154」(商品名)、大日本インキ化学工業社製「エピクロンN-695」、「エピクロンN-865」、「エピクロンHP-7200」(商品名)、日本化薬社製「NC-2000」、「NC-3000」、「NC-7000」、「NC-7300」(商品名)などが挙げられる。
【0027】
上記光重合開始剤としては、スルホン酸化合物、ジアゾメタン化合物、スルホニウム塩化合物、ヨードニウム塩化合物、ジスルホン系化合物などが好ましい。市販品ではADEKA社製「アデカアークルズ SP-170」、「アデカアークルズ SP-172」、「アデカアークルズSP-150」(商品名)、みどり化学社製「BBI-103」、「BBI-102」(商品名)、三和ケミカル社製「IBPF」、「IBCF」、「TS-01」、「TS-91」(商品名)、サンアプロ社製、「CPI-210」、「CPI-300」、「CPI-410」(商品名)、BASFジャパン社製「Irgacure290」、「GSID-26-1」(商品名)などが挙げられる。
【0028】
さらに、上記エポキシ樹脂組成物には、フォトリソグラフィー性能、密着性能などの向上を目的に、添加物を添加することができる。例えば、シランカップリング剤、アントラセン誘導体などの光増感物質、アミン類などの塩基性物質や弱酸性(pKa=-1.5~3.0)のトルエンスルホン酸を発生させる酸発生剤などである。市販のトルエンスルホン酸を発生させる酸発生剤としては、みどり化学社製「TPS-1000」(製品名)や和光純薬工業社製「WPAG-367」(製品名)などが挙げられる。
【0029】
次に、フォトマスクであるノズル形成マスク14を介してエポキシ樹脂組成物(1)13をパターン露光(パターニング)する(図2(E))。フォトマスクは露光波長の光を透過するガラスや石英などの材質からなる基板に、吐出口などのパターンに合わせてクロム膜などの遮光膜が形成されたものである。露光装置はI線露光ステッパー、KrFステッパーなどの単一波長の光源や、キヤノン社製マスクアライナーMPA-600Super(商品名)などの水銀ランプを光源に持つ投影露光装置を用いることができる。さらにそれらブロード波長の露光機に特定波長を透過するフィルターを組み合せて用いてもよい。
【0030】
吐出口パターン、すなわちノズル6及び吐出口9の平面形状は必ずしも円形状である必要はなく、図3(a)~(c)に示す形をはじめとして、吐出特性などを考慮して適宜に定めることができる。図3(a)は楕円形状の吐出口を示しており、図3(b)は端部が半円状の形状とされた細長い開口からなる吐出口を示している。特に図3(c)は、円形の吐出口において中心部に向かう1対の突起15を設けた形状を示している。
図3(c)に示すような形状の吐出口を用いることで、突起15間で液体を保持することができ、これにより、液滴吐出時に液滴が複数(主滴とサテライト)に分割することを大幅に低減することができる。したがって、液体吐出ヘッドがインクジェットヘッドである場合、図3(c)に示すような平面形状を有する吐出口を用いることで、高画質印字を実現することができる。
【0031】
次に、ベーク(熱)処理(Post Exposure Bake)することで露光部を硬化させた後、エポキシ樹脂組成物(1)13の未硬化部を有機溶剤で除去し、ノズル
6、吐出口9を形成する(図2(F))。
次に、アルカリ系エッチング液を用いたウェットエッチング法、又はドライエッチング法を用いて供給口3を形成する。また、吐出口形成後などに、流路パターン12にDeepUV(深紫外線)を照射してポジ型感光性樹脂組成物の分子量を低下させ、供給口3又は吐出口9から溶解除去させることで液体の流路4を形成する(図2(G))。この際、ポジ型感光性樹脂組成物から成る流路部材(1)5にDeepUVを照射することでさらに膜応力を下げることも可能である。流路部材(1)5への光の照射はノズル6形成後から供給口3形成までに行うことができる。
【0032】
さらに、エポキシ樹脂組成物の硬化物である流路部材(2)をベーク(熱)処理することで機械的強度、耐浸透性、基板との密着性を大きく向上させてインクジェットヘッドを完成させる。撥水層がある場合は、熱処理することでフッ化アルキル鎖を空気の界面に偏析させて撥水性能を向上させることが可能である。
ベーク(熱)処理は未反応のエポキシ樹脂を追加で反応させることで架橋密度を向上させることや、熱収縮により樹脂の密度を向上させることが目的である。
その為には150℃~250℃で処理することが好ましく、170℃~250℃で処理することがより好ましく、200℃~250℃がさらに好ましい。150℃未満では硬化物の軟化点に到達しない可能性があり、樹脂密度を向上させにくい場合があり、基板との密着性や耐浸透性が低下する場合がある。また、250℃より高い場合にはエポキシ樹脂組成物の硬化物の熱分解が発生する可能性がある。
【0033】
本開示のインクジェットヘッドの別の製造方法を以下に説明する。
図4は液体吐出ヘッド(具体的には、インクジェットヘッド)の製造方法の一例を示す模式断面図である。また、図4は、完成した状態で図1(B)と同じく、基板に垂直な面で見た、断面構造を示す。
まず、インクを吐出するエネルギーを発生するエネルギー発生素子1を配置した基板2に、樹脂組成物10としてカチオン重合型のエポキシ樹脂組成物を成膜する(図4(A))。
次に流路形成マスク(1)11を用いてエポキシ樹脂組成物をパターン露光(パターニング)する(図4(B))。さらに未露光部を有機溶剤で溶解除去して流路部材(1)5を形成する(図4(C))。
【0034】
次に、流路部材(1)5上に、硬化して流路部材(2-1)18となるエポキシ樹脂組成物(2)16を成膜する(図4(D))。
さらに、流路形成マスク(2)17を介してエポキシ樹脂組成物(2)16をパターン露光し、流路部材(2-1)18を形成する(図4(E))。
次に、エポキシ樹脂組成物(2)16上に、硬化して流路部材(2-2)7となるエポキシ樹脂組成物(1)13と、必要に応じて、エポキシ樹脂組成物(1)13上に撥水層8を成膜する(図4(F))。
さらに、ノズル形成マスク14を介してエポキシ樹脂組成物(1)13をパターン露光する(図4(G))。
この際、エポキシ樹脂組成物(2)はエポキシ樹脂組成物(1)と感度差(硬化に必要な露光量差)又は感光波長差(硬化に必要な露光波長が異なる)を設けている。この為、エポキシ樹脂組成物(1)のパターニング時にエポキシ樹脂組成物(2)が硬化することが抑制されている。
次に、ベーク(熱)処理(Post Exposure Bake)することで露光部を硬化させる。この後、エポキシ樹脂組成物(1)13とエポキシ樹脂組成物(2)16の未硬化部を有機溶剤で除去して、液体の流路4、ノズル6、吐出口9を形成する(図4(H))。
次に、供給口3を形成し、エポキシ樹脂組成物の硬化物である流路部材(2-2)7及
び流路部材(2-1)18を熱処理することでインクジェットヘッドを完成させる(図4(I))。
【0035】
本例は、流路部材(2)が、基板上に設けられ、液体の流路の側壁を形成する流路形成部材(2-1)18と、流路形成部材(2-1)18上に設けられ、液体を吐出する吐出口を有する流路部材(2-2)7と、を備えた流路部材である。また、流路形成部材(2-1)18と流路部材(2-2)7が、異なるネガ型感光性樹脂組成物の硬化物で形成されている。
また、流路部材(2)を形成する工程が、流路部材(1)を覆うようにネガ型感光性樹脂組成物1をパターニングし、液体の流路の側壁を形成する流路形成部材(2-1)を形成する工程を含む。また、流路形成部材(2-1)上に、ネガ型感光性樹脂組成物2を積層し、液体を吐出する吐出口を形成するようにネガ型感光性樹脂組成物2をパターニングし、流路部材(2-2)を形成する工程を含む。
【実施例
【0036】
以下、実施例及び比較例により本開示を詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例に具現化された構成に限定されるものではない。また、実施例及び比較例中で使用する「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0037】
表1に記載の流路部材を形成するエポキシ樹脂組成物、表2に記載の流路部材を形成するエポキシ樹脂組成物、及び表3に記載の流路部材を形成するエポキシ樹脂組成物を調合した。
【0038】
表中のエポキシ樹脂は、三菱化学社製「jER157S70」、「jER1004」、「JER1007」(いずれも商品名)、日本インキ化学工業社製「エピクロンN-695」、「エピクロンHP-7200」(いずれも商品名)、ダイセル社製「EHPE-3150」(商品名)、日本化薬社製「NC-3000」、「NC-7000」(いずれも商品名)である。
添加剤は、東邦化学工業社製「ポリエチレングリコール1000」、「ポリエチレングリコール2000」(商品名)である。
光重合開始剤は、ADEKA社製「アデカオプトマー SP-172」(商品名)、サンアプロ社製「CPI-410」(商品名)である。
感度調整剤は、みどり化学社製「TPS-1000」(商品名)である。
シランカップリング剤は、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製「A-187」(商品名)である。
【0039】
各表において、組成は質量部を示す。
「アデカオプトマー SP-172」は固形分50%のブロピレンカーボネート溶液であるが、各表の組成は溶液の質量部を表している。
樹脂を溶解させる溶剤には酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル(PGMEA)又はキシレンを用い、膜厚に合わせて添加量を調整した。さらに、調合したエポキシ樹脂組成物はそれぞれ硬化物の膜応力を測定した。
【0040】
まず、樹脂組成物をシリコン基板に塗布し、90℃で熱処理して成膜した。次に、任意の露光量で露光し、90℃で熱処理(Post Exposure Bake)後に200℃で熱処理して硬化物を作製し、膜応力を東朋テクノロジー社製の薄膜応力測定装置(FLX-2320)で測定した。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
<実施例1~6、及び、比較例1~4>
図2(A)~(G)の工程によりインクジェットヘッドを作製した。ただし、撥水層8は省略した。
まず、インクを吐出するエネルギーを発生するエネルギー発生素子1を配置した基板2に、樹脂組成物10としてポジ型感光性樹脂組成物であるポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化工業社製、商品名:ODUR-1010)をスピン塗布法で塗布した。塗布
後、塗布したポジ型感光性樹脂組成物を120℃で加熱処理して成膜した(図2(A))。
次に、露光装置UX3000(商品名、ウシオ電機)を用いて流路形成マスク(1)11を介して樹脂組成物10を露光した(図2(B))。
さらに露光部を、溶剤メチルイソブチルケトン(MIBK)で除去して流路部材(1)5及び流路パターン12を形成した(図2(C))。
次に、前記ポジ型感光性樹脂組成物上に表2に示すエポキシ樹脂組成物(1)13をスピン塗布法で塗布し、90℃で熱処理して成膜した(図2(D))。
次に、ノズル形成マスク14を介してエポキシ樹脂組成物(1)13を、I線露光ステッパーを用いて5000J/mで露光した(図2(E))。
次に、90℃でベーク(熱)処理(Post Exposure Bake)することで露光部を硬化させた後、エポキシ樹脂組成物(1)13の未硬化部を溶剤PGMEAで除去し、図3(c)に示す形状のノズル6、吐出口9を形成した(図2(F))。
【0045】
次に、アルカリ系エッチング液を用いてウェットエッチング法で供給口3を形成した。さらに、ポジ型感光性樹脂組成物に対して、露光装置UX3000(商品名、ウシオ電機)を用いて光照射し、溶剤MIBKで現像除去することで液体の流路4を形成した(図2(G))。さらに、200℃でベーク(熱)処理してインクジェットヘッドを完成させた。
別途、200℃でベーク(熱)処理をしたポリメチルイソプロペニルケトンの膜応力を測定した結果は10MPaであった。
各実施例比較例で使用した、ポジ型感光性樹脂組成物及びエポキシ樹脂組成物(1)、並びに、膜厚、単膜の硬化後の膜応力を表4及び表5に示す。
膜応力の測定方法は、上述した通りであるが、単膜の膜厚を25μm、エポキシ樹脂組成物(1)へ露光量5000J/mで、全面露光した後、90℃で熱処理(Post Exposure Bake)した後、200℃で熱処理を1時間した。
【0046】
【表4】
【0047】
【表5】
【0048】
<実施例8~16、及び、比較例5~9>
図4(A)~(I)の工程によりインクジェットヘッドを作製した。ただし、撥水層8は省略した。
まず、インクを吐出するエネルギーを発生するエネルギー発生素子1を配置した基板2に、樹脂組成物10として表1に示すエポキシ樹脂組成物をスピン塗布法で塗布し、90℃で熱処理して25μmに成膜した(図4(A))。
次に流路形成マスク(1)11を介して、I線露光ステッパーを用いて5000J/mで樹脂組成物10を露光した(図4(B))。さらに、未露光部を溶剤PGMEAで除去して流路部材(1)を形成した(図4(C))。
次に、基板2及び流路部材(1)上に、硬化して流路部材(2-1)となる、表3に示すエポキシ樹脂組成物(2)16を塗布し、90℃で加熱処理して26μmに成膜した(図4(D))。
さらに、流路形成マスク(2)17を介してエポキシ樹脂組成物(2)16を、I線露光ステッパーを用いて18000J/mで露光し、50℃でベーク(熱)処理して流路形成部材(2-1)を形成した(図4(E))。
【0049】
次に、表1又は表2に示すエポキシ樹脂組成物(1)13を、厚さ100μmのPETフィルム上に塗布し、70℃でベーク(熱)処理して成膜した。次に、エポキシ樹脂組成物(2)16上に、成膜したエポキシ樹脂組成物(1)13を、ラミネート法を用いて80℃の熱を加えながらドライフィルム形態で転写し、PETフィルムは剥離テープにより剥離した(図4(F))。
さらに、ノズル形成マスク14を介してエポキシ樹脂組成物(1)13を、I線露光ステッパーを用いて3000J/mで露光した(図4(G))。
次に、90℃でベーク(熱)処理(Post Exposure Bake)して露光部を硬化させた。この後、エポキシ樹脂組成物(1)13とエポキシ樹脂組成物(2)16の未硬化部を溶剤PGMEAで除去して、液体の流路4、ノズル6、及び図3(c)に示す形状の吐出口9を形成した(図4(H))。
さらに、供給口3の形成及び200℃でベーク(熱)処理してインクジェットヘッドを完成させた(図4(I))。
各実施例で使用した、エポキシ樹脂組成物(1)及び(2)、並びに、膜厚、単膜の硬化後の膜応力を表6及び表7に示す。
膜応力の測定方法は、上述した通りであるが、流路部材(1):単膜の膜厚を25μm、エポキシ樹脂組成物(1)への露光量を5000J/mとした。また、流路部材(2)については、流路部材(2-1):膜厚25μm、エポキシ樹脂組成物(2)へ露光量
18000J/m、流路部材(2-2):膜厚25μm、エポキシ樹脂組成物(1)へ露光量3000J/mで、全面露光した。この後、90℃で熱処理(Post Exposure Bake)した後、200℃で熱処理を1時間した。
【0050】
【表6】
【0051】
【表7】
【0052】
<剥がれの評価>
作製された液体吐出ヘッドに2-ピロリドンの30%水溶液を充填し、121℃、2気圧の環境で20時間保管した後(PCT試験)、60℃の環境に2時間保管した。これを計10サイクル実施した後、光学顕微鏡(NIKON社製)を用い、拡大率20倍で液体吐出ヘッドを観察し、流路部材(2)の基板からの剥がれを確認し、下記基準で評価した。
(評価基準)
A:流路部材(2)に基板との剥がれは見られない。
B:流路部材(2)に僅かに基板との剥がれが見られるが、印字には影響ない範囲。
C:流路部材(2)に基板との剥がれが大きい。
【0053】
<突起変形の評価>
また、前記水溶液の浸透による吐出口の突起15の変形を表面形状計測システム(日立
ハイテクサイエンス社製)で撮影し、印字品位が低下する変形の有無を確認し、下記基準で評価した。
(評価基準)
A:突起に大きな変形はみられない。
B:突起が僅かにエネルギー発生素子側に落ち込んでいるが、印字には影響ない範囲。
C:突起が大きくエネルギー発生素子側に落ち込んでいる。
【符号の説明】
【0054】
1:エネルギー発生素子、2:基板、3:液体供給口、4:液体の流路、5:流路部材(1)、6:ノズル、7:流路部材(2)、8:撥水層、9:吐出口、10:樹脂組成物、11:流路形成マスク(1)、12:流路パターン、13:エポキシ樹脂組成物(1)、14:ノズル形成マスク、15:突起、16:エポキシ樹脂組成物(2)、17:流路形成マスク(2)、18:流路部材(2-1)
図1
図2
図3
図4