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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】スクロール流体機械及びその設計方法
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20240105BHJP
   F01C 1/02 20060101ALI20240105BHJP
   F01C 21/08 20060101ALI20240105BHJP
   F01C 21/10 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
F04C18/02 311Q
F01C1/02 A
F01C21/08
F01C21/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020009245
(22)【出願日】2020-01-23
(62)【分割の表示】P 2018028959の分割
【原出願日】2018-02-21
(65)【公開番号】P2020060195
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-02-10
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 創
(72)【発明者】
【氏名】木全 央幸
(72)【発明者】
【氏名】濱野 真史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆英
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】関口 哲生
【審判官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第204003446(CN,U)
【文献】特開昭61-236442(JP,A)
【文献】特開2001-82359(JP,A)
【文献】特開2010-196663(JP,A)
【文献】特公昭60-17956(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端板上に渦巻状の第1壁体が設けられた第1スクロール部材と、
前記第1端板に向かい合うように配置された第2端板上に渦巻状の第2壁体が設けられ、該第2壁体が前記第1壁体と旋回半径分だけオフセットされて噛み合って相対的に公転旋回運動を行う第2スクロール部材と、
を備えたスクロール流体機械であって、
前記第1壁体および前記第2壁体の少なくともいずれか一方は、外周側から内周側に向かって該壁体の高さが連続的に減少する壁体傾斜部を有し、
前記第1端板および前記第2端板の少なくともいずれか一方は、前記壁体傾斜部の歯先に対向する歯底面が該壁体傾斜部の傾斜に応じて傾斜する端板傾斜部を有し
記壁体傾斜部及び前記端板傾斜部は、向かい合う前記第1端板と前記第2端板との対向面間距離が、前記第1壁体及び前記第2壁体の外周側から内周側に向かって、連続的に減少する傾斜部を構成し、
前記傾斜部は、渦巻きの中心回りに180°以上の範囲にわたって設けられ、
前記第1壁体および前記第2壁体の最外周部および/または最内周部には、高さが変化しない壁体平坦部が設けられ、
前記第1端板および前記第2端板には、前記壁体平坦部に対応した端板平坦部が設けられ、
前記端板傾斜部には、該端板傾斜部と前記端板平坦部とが接続される端板傾斜接続部と前記壁体との交点を接点とする1つの円弧が等高線として形成され、
前記端板傾斜接続部に対して、前記壁体傾斜部と前記壁体平坦部とが接続される壁体傾斜接続部が、前記旋回運動時の渦巻き方向における旋回中央位置で一致するように配置され、
前記端板傾斜部の歯底幅をTg、旋回運動の旋回半径をρ、前記壁体傾斜部及び前記端板傾斜部の傾きをφとした場合に、前記等高線の幅中央と前記壁体の幅中央位置が一致するときの前記端板傾斜接続部と前記壁体の幅方向における中心線との交点において、前記第2スクロール部材の中心軸線と平行な方向におけるチップクリアランスTが、
{(Tg/2-ρ)×tanφ}
とされ、
前記傾斜部の角度が0.2°以上4°以下であることを特徴とするスクロール流体機械。
【請求項2】
第1端板上に渦巻状の第1壁体が設けられた第1スクロール部材と、
前記第1端板に向かい合うように配置された第2端板上に渦巻状の第2壁体が設けられ、該第2壁体が前記第1壁体と噛み合って相対的に公転旋回運動を行う第2スクロール部材と、
を備えたスクロール流体機械であって、
前記第1壁体および前記第2壁体の少なくともいずれか一方は、外周側から内周側に向かって該壁体の高さが連続的に減少する壁体傾斜部を有し、
前記第1端板および前記第2端板の少なくともいずれか一方は、前記壁体傾斜部の歯先に対向する歯底面が該壁体傾斜部の傾斜に応じて傾斜する端板傾斜部を有し、
前記壁体傾斜部及び前記端板傾斜部は、向かい合う前記第1端板と前記第2端板との対向面間距離が、前記第1壁体及び前記第2壁体の外周側から内周側に向かって、連続的に減少する傾斜部を構成し、
前記傾斜部は、渦巻きの中心回りに180°以上の範囲にわたって設けられ、
前記第1壁体および前記第2壁体の最外周部および/または最内周部には、高さが変化しない壁体平坦部が設けられ、
前記第1端板および前記第2端板には、前記壁体平坦部に対応した端板平坦部が設けられ、
前記端板傾斜部には、該端板傾斜部と前記端板平坦部とが接続される端板傾斜接続部と前記壁体との交点を接点とする複数の円弧が等高線として形成され、
前記端板傾斜接続部に対して、前記壁体傾斜部と前記壁体平坦部とが接続される壁体傾斜接続部が、前記旋回運動時の渦巻き方向における旋回中央位置で一致するように配置され、
前記等高線を形成する円弧の直径をDeとし、前記端板傾斜部の歯底幅をTg、旋回運動の旋回半径をρとした場合に、
{Tg+(2ρ)}/(2Tg)≦De≦Tg
とされ、
前記傾斜部の角度が0.2°以上4°以下であることを特徴とするスクロール流体機械。
【請求項3】
De={Tg+(2ρ)}/(2Tg)とされていることを特徴とする請求項2に記載のスクロール流体機械。
【請求項4】
第1端板上に渦巻状の第1壁体が設けられた第1スクロール部材と、
前記第1端板に向かい合うように配置された第2端板上に渦巻状の第2壁体が設けられ、該第2壁体が前記第1壁体と旋回半径分だけオフセットされて噛み合って相対的に公転旋回運動を行う第2スクロール部材と、
を備えたスクロール流体機械の設計方法であって、
前記第1壁体および前記第2壁体の少なくともいずれか一方に、外周側から内周側に向かって該壁体の高さが連続的に減少する壁体傾斜部を設け、
前記第1端板および前記第2端板の少なくともいずれか一方に、前記壁体傾斜部の歯先に対向する歯底面が該壁体傾斜部の傾斜に応じて傾斜する端板傾斜部を設け、
前記壁体傾斜部及び前記端板傾斜部は、向かい合う前記第1端板と前記第2端板との対向面間距離が、前記第1壁体及び前記第2壁体の外周側から内周側に向かって、連続的に減少する傾斜部を構成し、
前記傾斜部を、渦巻きの中心回りに180°以上の範囲にわたって設け、
前記第1壁体および前記第2壁体の最外周部および/または最内周部に、高さが変化しない壁体平坦部を設け、
前記第1端板および前記第2端板に、前記壁体平坦部に対応した端板平坦部を設け、
前記端板傾斜部に、前記壁体の渦巻き方向に直交する方向に、該端板傾斜部と前記端板平坦部とが接続される端板傾斜接続部と前記壁体との交点を接点とする等高線を形成し、
前記第1スクロール部材と前記第2スクロール部材とを、前記端板傾斜接続部に対して、前記壁体傾斜部と前記壁体平坦部とが接続される壁体傾斜接続部が、遠ざかる方向に前記旋回半径分だけ位相がずれるように配置することを特徴とするスクロール流体機械の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール流体機械及びその設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、端板上に渦巻状の壁体が設けられた固定スクロール部材と旋回スクロール部材とを噛み合わせ、公転旋回運動を行わせて流体を圧縮または膨張するスクロール流体機械が知られている。
【0003】
このようなスクロール流体機械として、特許文献1に示すようないわゆる段付きスクロール圧縮機が知られている。この段付きスクロール圧縮機は、固定スクロールおよび旋回スクロールの渦巻状の壁体の歯先面および歯底面の渦巻き方向に沿う位置に各々段部が設けられ、各段部を境に壁体の外周側の高さが内周側の高さよりも高くされている。段付きスクロール圧縮機は、壁体の周方向だけでなく、高さ方向にも圧縮(三次元圧縮)されるため、段部を備えていない一般的なスクロール圧縮機(二次元圧縮)に比べ、押しのけ量を大きくし、圧縮機容量を増加することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-55173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、段付きスクロール圧縮機は、段部における流体漏れが大きいという問題がある。また、段部の根元部分に応力が集中して強度が低下するという問題がある。
【0006】
これに対して、発明者等は、壁体及び端板に設けられた段部に代えて連続的な傾斜部を設けることを検討している。
しかし、傾斜部を設けるとしても、壁体の歯先と端板の歯底との間のチップクリアランスに起因する流体漏れの低減が望まれる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、壁体の歯先と端板の歯底との間のチップクリアランスを小さくすることが可能な壁体及び端板に傾斜部を有するスクロール流体機械及びその設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のスクロール流体機械及びその設計方法は以下の手段を採用する。
【0009】
すなわち、本発明にかかるスクロール流体機械の設計方法は、第1端板上に渦巻状の第1壁体が設けられた第1スクロール部材と、前記第1端板に向かい合うように配置された第2端板上に渦巻状の第2壁体が設けられ、該第2壁体が前記第1壁体と旋回半径分だけオフセットされて噛み合って相対的に公転旋回運動を行う第2スクロール部材とを備えたスクロール流体機械の設計方法であって、前記第1壁体および前記第2壁体の少なくともいずれか一方に、外周側から内周側に向かって該壁体の高さが連続的に減少する壁体傾斜部を設け、前記第1端板および前記第2端板の少なくともいずれか一方に、前記壁体傾斜部の歯先に対向する歯底面が該壁体傾斜部の傾斜に応じて傾斜する端板傾斜部を設け、前記壁体傾斜部及び前記端板傾斜部は、向かい合う前記第1端板と前記第2端板との対向面間距離が、前記第1壁体及び前記第2壁体の外周側から内周側に向かって、連続的に減少する傾斜部を構成し、前記傾斜部を、渦巻きの中心回りに180°以上の範囲にわたって設け、前記第1壁体および前記第2壁体の最外周部および/または最内周部に、高さが変化しない壁体平坦部を設け、前記第1端板および前記第2端板に、前記壁体平坦部に対応した端板平坦部を設け、前記端板傾斜部に、前記壁体の渦巻き方向に直交する方向に、該端板傾斜部と前記端板平坦部とが接続される端板傾斜接続部と前記壁体との交点を接点とする等高線を形成し、前記第1スクロール部材と前記第2スクロール部材とを、前記端板傾斜接続部に対して、前記壁体傾斜部と前記壁体平坦部とが接続される壁体傾斜接続部が、遠ざかる方向に前記旋回半径分だけ位相がずれるように配置することを特徴とする。
【0010】
第1端板と第2端板との対向面間距離が壁体の外周側から内周側に向かって連続的に減少する傾斜部が設けられているので、外周側から吸い込まれた流体は内周側に向かうにしたがい、壁体の渦巻形状に応じた圧縮室の減少によって圧縮されるだけでなく、端板間の対向面間距離の減少によって更に圧縮されることになる。
端板傾斜部すなわち歯底に、壁体の渦巻き方向に直交する方向に等高線が形成されている。この場合に、前記第1スクロール部材と前記第2スクロール部材とを渦巻き方向における旋回中央位置で一致させておくと、両スクロール部材が旋回運動を行った際に歯底と歯先が干渉するおそれがある。そこで、前記第1スクロール部材と前記第2スクロール部材とを対向する傾斜部同士が遠ざかる方向に旋回半径分だけ位相をずらされて配置するようにした。これにより、歯底と歯先が干渉することを回避できる。また、旋回半径分だけ位相が進んだ場合に、傾斜部の位置が一致するように噛み合うので、歯先と歯底との間のチップクリアランスを小さくすることができる。
【0011】
さらに、本発明にかかるスクロール流体機械は、前記第1端板および前記第2端板の少なくともいずれか一方は、前記壁体傾斜部の歯先に対向する歯底面が該壁体傾斜部の傾斜に応じて傾斜する端板傾斜部を有し、前記第1壁体および前記第2壁体の最外周部および/または最内周部には、高さが変化しない壁体平坦部が設けられ、前記第1端板および前記第2端板には、前記壁体平坦部に対応した端板平坦部が設けられ、前記端板傾斜部と前記端板平坦部とが接続される端板傾斜接続部に対して、前記壁体傾斜部と前記壁体平坦部とが接続される壁体傾斜接続部が、前記旋回半径分だけ位相が遅れて配置されていることを特徴とする。
【0012】
端板傾斜部すなわち歯底に、壁体の渦巻き方向に直交する方向に等高線が形成されている。この場合に、端板傾斜部と端板平坦部とが接続される端板傾斜接続部と、壁体傾斜部と壁体平坦部とが接続される壁体傾斜接続部とを渦巻き方向における旋回中央位置で一致させておくと、両スクロール部材が旋回運動を行った際に歯底と歯先が干渉するおそれがある。そこで、端板傾斜接続部に対して壁体傾斜接続部を旋回半径分だけ位相を遅らせて配置するようにした。これにより、歯底と歯先が干渉することを回避できる。また、端板傾斜接続部に対して壁体傾斜接続部が旋回半径分だけ位相が進んだ場合に、端板傾斜接続部と壁体傾斜接続部との位置が一致するように噛み合うので、歯先と歯底との間のチップクリアランスを小さくすることができる。
【0013】
また、本発明にかかるスクロール流体機械は、第1端板上に渦巻状の第1壁体が設けられた第1スクロール部材と、前記第1端板に向かい合うように配置された第2端板上に渦巻状の第2壁体が設けられ、該第2壁体が前記第1壁体と旋回半径分だけオフセットされて噛み合って相対的に公転旋回運動を行う第2スクロール部材とを備えたスクロール流体機械であって、向かい合う前記第1端板と前記第2端板との対向面間距離が、前記第1壁体及び前記第2壁体の外周側から内周側に向かって、連続的に減少する傾斜部が設けられ、前記傾斜部は、渦巻きの中心回りに180°以上の範囲にわたって設けられ、前記第1壁体および前記第2壁体の少なくともいずれか一方は、前記傾斜部を形成するように外周側から内周側に向かって該壁体の高さが連続的に減少する壁体傾斜部を有し、前記第1端板および前記第2端板の少なくともいずれか一方は、前記壁体傾斜部の歯先に対向する歯底面が該壁体傾斜部の傾斜に応じて傾斜する端板傾斜部を有し、前記端板傾斜部には、前記壁体との交点を接点とする1又は複数の円弧が等高線として形成され、前記第1スクロール部材と前記第2スクロール部材とが、前記旋回運動時の渦巻き方向における旋回中央位置で一致する位相となるように配置されていることを特徴とする。
【0014】
第1端板と第2端板との対向面間距離が壁体の外周側から内周側に向かって連続的に減少する傾斜部が設けられているので、外周側から吸い込まれた流体は内周側に向かうにしたがい、壁体の渦巻形状に応じた圧縮室の減少によって圧縮されるだけでなく、端板間の対向面間距離の減少によって更に圧縮されることになる。
端板傾斜部に、壁体との交点を接点とする1又は複数の円弧が等高線として形成されている。この場合には、第1スクロール部材と前記第2スクロール部材とが、旋回運動時の渦巻き方向における旋回中央位置で一致する位相となるように、すなわち第1スクロール部材と前記第2スクロール部材とが同位相となるように配置すれば、旋回運動時に歯先と歯底が干渉することがなく、また歯先と歯底との間のチップクリアランスを小さくすることができる。
端板傾斜部に、前記壁体との交点を接点とする1又は複数の円弧を等高線として形成するには、端板傾斜部の歯底幅と同等かそれ以下の直径を有するエンドミルを用いて加工することが好ましい。
【0015】
また、本発明にかかるスクロール流体機械は、第1端板上に渦巻状の第1壁体が設けられた第1スクロール部材と、前記第1端板に向かい合うように配置された第2端板上に渦巻状の第2壁体が設けられ、該第2壁体が前記第1壁体と旋回半径分だけオフセットされて噛み合って相対的に公転旋回運動を行う第2スクロール部材とを備えたスクロール流体機械であって、向かい合う前記第1端板と前記第2端板との対向面間距離が、前記第1壁体及び前記第2壁体の外周側から内周側に向かって、連続的に減少する傾斜部が設けられ、前記傾斜部は、渦巻きの中心回りに180°以上の範囲にわたって設けられ、前記第1壁体および前記第2壁体の少なくともいずれか一方は、前記傾斜部を形成するように外周側から内周側に向かって該壁体の高さが連続的に減少する壁体傾斜部を有し、前記第1端板および前記第2端板の少なくともいずれか一方は、前記壁体傾斜部の歯先に対向する歯底面が該壁体傾斜部の傾斜に応じて傾斜する端板傾斜部を有し、前記第1壁体および前記第2壁体の最外周部および/または最内周部には、高さが変化しない壁体平坦部が設けられ、前記第1端板および前記第2端板には、前記壁体平坦部に対応した端板平坦部が設けられ、前記端板傾斜部には、該端板傾斜部と前記端板平坦部とが接続される端板傾斜接続部と前記壁体との交点を接点とする1又は複数の円弧が等高線として形成され、前記端板傾斜接続部に対して、前記壁体傾斜部と前記壁体平坦部とが接続される壁体傾斜接続部が、前記旋回運動時の渦巻き方向における旋回中央位置で一致するように配置されていることを特徴とする。
【0016】
端板傾斜部に、端板傾斜部と端板平坦部とが接続される端板傾斜接続部と前記壁体との交点を接点とする1又は複数の円弧が等高線として形成されている。この場合には、端板傾斜接続部に対して、壁体傾斜接続部が、旋回運動時の渦巻き方向における旋回中央位置で一致するように、すなわち端板傾斜接続部と壁体傾斜接続部とが同位相となるように配置すれば、旋回運動時に歯先と歯底が干渉することがなく、また歯先と歯底との間のチップクリアランスを小さくすることができる。
端板傾斜部に、端板傾斜接続部と前記壁体との交点を接点とする1又は複数の円弧を等高線として形成するには、端板傾斜部の歯底幅と同等かそれ以下の直径を有するエンドミルを用いて加工することが好ましい。
【0017】
さらに、本発明のスクロール流体機械によれば、前記等高線を形成する円弧の直径をDeとし、前記端板傾斜部の歯底幅をTg、旋回運動の旋回半径をρとした場合に、
{Tg+(2ρ)}/(2Tg)≦De≦Tg
とされていることを特徴とする。
【0018】
上式の関係式を満たすことにより、旋回運動時に歯先と歯底が近づいて互いに干渉することを回避することができる。
【0019】
さらに、本発明のスクロール流体機械によれば、
De={Tg+(2ρ)}/(2Tg)
とされていることを特徴とする。
【0020】
De={Tg+(2ρ)}/(2Tg)とすることにより、旋回運動時に歯先と歯底が最も近づいたときに等高線と壁体傾斜接続部と間におけるチップクリアランスをゼロに近づけることができる。
【発明の効果】
【0021】
端板傾斜部すなわち歯底に、渦巻き方向に直交する方向に等高線が形成されている場合に、端板傾斜接続部に対して壁体傾斜接続部を旋回半径分だけ位相が遅れて配置されるようにした。これにより、旋回運動時に歯先と歯底が干渉することがなく、また歯先と歯底との間のチップクリアランスを小さくすることができる。
【0022】
端板傾斜部に、端板傾斜接続部と前記壁体との交点を接点とする1又は複数の円弧が等高線として形成されている場合に、端板傾斜接続部に対して、壁体傾斜接続部が、旋回運動時の渦巻き方向における旋回中央位置で一致するように配置されるようにした。これにより、旋回運動時に歯先と歯底が干渉することがなく、また歯先と歯底との間のチップクリアランスを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態にかかるスクロール圧縮機の固定スクロール及び旋回スクロールを示し、(a)は縦断面図、(b)は固定スクロールの壁体側から見た平面図である。
図2図1の旋回スクロールを示した斜視図である。
図3】固定スクロールに設けた端板平坦部を示した平面図である。
図4】固定スクロールに設けた壁体平坦部を示した平面図である。
図5】渦巻き方向に伸ばして表示した壁体を示す模式図である。
図6図1(b)の符号Zの領域を拡大して示した部分拡大図である。
図7図6で示した部分のチップシール隙間を示し、(a)はチップシール隙間が相対的に小さい状態を示した側面図であり、(b)はチップシール隙間が相対的に大きい状態を示した側面図である。
図8】端板傾斜接続部周りを示した部分拡大平面図である。
図9】比較例として歯先と歯底の位置関係を示し、(a)は接触位置、(b)は幅中央位置、(c)は幅中央位置から180°進んだ位置における側面図である。
図10】第1実施形態における歯先と歯底の位置関係を示し、(a)は接触位置、(b)は幅中央位置、(c)は幅中央位置から180°進んだ位置における側面図である。
図11】第2実施形態に係る歯底及び壁体側面の加工方法を示し、(a)は歯底を平面視した平面図であり、(b)は側面図である。
図12】端板傾斜接続部周りを示した部分拡大平面図である。
図13】比較例として歯先と歯底の位置関係を示し、(a)は接触位置、(b)は幅中央位置、(c)は幅中央位置から180°進んだ位置における側面図である。
図14】第2実施形態における歯先と歯底の位置関係を示し、(a)は接触位置、(b)は幅中央位置、(c)は幅中央位置から180°進んだ位置における側面図である。
図15】チップクリアランス周りを示した部分拡大縦断面図である。
図16】第3実施形態に係る歯底及び壁体側面の加工方法を示した平面図である。
図17】端板傾斜接続部周りを示した部分拡大平面図である。
図18】第3実施形態に係る等高線の幾何学的関係を表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1実施形態]
以下に、本発明にかかる第1実施形態について、図面を参照して説明する。
図1には、スクロール圧縮機(スクロール流体機械)1の固定スクロール(第1スクロール部材)3と旋回スクロール(第2スクロール部材)5が示されている。スクロール圧縮機1は、例えば空調機等の冷凍サイクルを行うガス冷媒(流体)を圧縮する圧縮機として用いられる。
【0025】
固定スクロール3及び旋回スクロール5は、アルミ合金製や鉄製等の金属製の圧縮機構とされ、図示しないハウジング内に収容されている。固定スクロール3及び旋回スクロール5は、ハウジング内に導かれた流体を外周側から吸い込み、固定スクロール3の中央の吐出ポート3cから外部へと圧縮後の流体を吐出する。
【0026】
固定スクロール3は、ハウジングに固定されており、図1(a)に示されているように、略円板形状の端板(第1端板)3aと、端板3aの一側面上に立設された渦巻状の壁体(第1壁体)3bとを備えている。旋回スクロール5は、略円板形状の端板(第2端板)5aと、端板5aの一側面上に立設された渦巻状の壁体(第2壁体)5bとを備えている。各壁体3b,5bの渦巻形状は、例えば、インボリュート曲線やアルキメデス曲線を用いて定義されている。
【0027】
固定スクロール3と旋回スクロール5は、その中心を旋回半径ρだけ離し、壁体3b,5bの位相を180°ずらして噛み合わされ、両スクロールの壁体3b、5bの歯先と歯底間に常温で僅かな高さ方向のクリアランス(チップクリアランス)を有するように組み付けられている。これにより、両スクロール3,5間に、その端板3a,5aと壁体3b、5bとにより囲まれて形成される複数対の圧縮室がスクロール中心に対して対称に形成される。旋回スクロール5は、図示しないオルダムリング等の自転防止機構によって固定スクロール3の周りを公転旋回運動する。
【0028】
図1(a)に示すように、向かい合う両端板3a,5a間の対向面間距離Lが、渦巻状の壁体3b,5bの外周側から内周側に向かって、連続的に減少する傾斜部が設けられている。
【0029】
図2に示すように、旋回スクロール5の壁体5bには、外周側から内周側に向かって高さが連続的に減少する壁体傾斜部5b1が設けられている。この壁体傾斜部5b1の歯先が対向する固定スクロール3の歯底面には、壁体傾斜部5b1の傾斜に応じて傾斜する端板傾斜部3a1(図1(a)参照)が設けられている。これら壁体傾斜部5b1及び端板傾斜部3a1によって、連続的な傾斜部が構成されている。同様に、固定スクロール3の壁体3bにも高さが外周側から内周側に向かって連続的に傾斜する壁体傾斜部3b1が設けられ、この壁体傾斜部3b1の歯先に対向する端板傾斜部5a1が旋回スクロール5の端板5aに設けられている。
【0030】
なお、本実施形態でいう傾斜部における連続的という意味は、滑らかに接続された傾斜に限定されるものではなく、加工時に不可避的に生じるような小さな段差が階段状に接続されており、傾斜部を全体としてみれば連続的に傾斜しているものも含まれる。ただし、いわゆる段付きスクロールのような大きな段差は含まれない。
【0031】
壁体傾斜部3b1,5b1及び/又は端板傾斜部3a1,5a1には、コーティングが施されている。コーティングとしては、例えば、リン酸マンガン処理やニッケルリンめっき等が挙げられる。
【0032】
図2に示されているように、旋回スクロール5の壁体5bの最内周側と最外周側には、それぞれ、高さが一定とされた壁体平坦部5b2,5b3が設けられている。これら壁体平坦部5b2,5b3は、旋回スクロール5の中心O2(図1(a)参照)まわりに180°の領域にわたって設けられている。壁体平坦部5b2,5b3と壁体傾斜部5b1とが接続される位置には、それぞれ、屈曲部となる壁体傾斜接続部5b4,5b5が設けられている。
旋回スクロール5の端板5aの歯底についても同様に、高さが一定とされた端板平坦部5a2,5a3が設けられている。これら端板平坦部5a2,5a3についても、旋回スクロール5の中心まわりに180°の領域にわたって設けられている。端板平坦部5a2,5a3と端板傾斜部5a1とが接続される位置には、それぞれ、屈曲部となる端板傾斜接続部5a4,5a5が設けられている。
【0033】
図3及び図4にハッチングにて示すように、固定スクロール3についても、旋回スクロール5と同様に、端板平坦部3a2,3a3、壁体平坦部3b2,3b3、端板傾斜接続部3a4,3a5及び壁体傾斜接続部3b4,3b5が設けられている。
【0034】
図5には、渦巻き方向に伸ばして表示した壁体3b,5bが示されている。同図に示されているように、最内周側の壁体平坦部3b2,5b2が距離D2にわたって設けられ、最外周側の壁体平坦部3b3,5b3が距離D3にわたって設けられている。距離D2及び距離D3は、それぞれ、各スクロール3,5の中心O1,O2まわりに180°(180°以上360°以下、好ましくは210°以下)とされた領域に相当する長さとなっている。最内周側の壁体平坦部3b2,5b2と最外周側の壁体平坦部3b3,5b3との間に、壁体傾斜部3b1,5b1が距離D1にわたって設けられている。最内周側の壁体平坦部3b2,5b2と最外周側の壁体平坦部3b3,5b3との高低差をhとすると、壁体傾斜部3b1,5b1の傾きφは下式とされる。
φ=tan-1(h/D1) ・・・(1)
このように、傾斜部における傾きφは、渦巻状の壁体3b,5bが延在する周方向に対して一定とされている。距離D1は、距離D2よりも長く、また、距離D3よりも長い。
例えば、本実施形態において、スクロール3,5の諸元は以下の通りである。
(1)旋回半径ρ[mm]:2以上15以下、好ましくは3以上10以下
(2)壁体3b、5bの巻数:1.5以上4.5以下、好ましくは2.0以上3.5以下
(3)高低差h[mm]:2以上20以下、好ましくは5以上15以下
(4)h/Lout(最外周側の壁体高さ):
0.05以上0.35以下、好ましくは0.1以上0.25以下
(5)傾斜部の角度範囲(距離D1に相当する角度範囲)[°]:
180以上1080以下、好ましくは360以上720以下
(6)傾斜部の角度φ[°]:0.2以上4以下、好ましくは0.5以上2.5以下
【0035】
図6には、図1(b)の符号Zで示した領域の拡大図が示されている。図6に示されているように、固定スクロール3の壁体3bの歯先には、チップシール7が設けられている。チップシール7は樹脂製とされており、対向する旋回スクロール5の端板5aの歯底に接触して流体をシールする。チップシール7は、壁体3bの歯先に周方向にわたって形成されたチップシール溝3d内に収容されている。このチップシール溝3d内に圧縮流体が入り込み、チップシール7を背面から押圧して歯底側に押し出すことで対向する歯底に接触させるようになっている。なお、旋回スクロール5の壁体5bの歯先に対しても、同様にチップシールが設けられている。
【0036】
両スクロール3,5が相対的に公転旋回運動を行うと、旋回直径(旋回半径ρ×2)分だけ歯先と歯底の位置が相対的にずれる。この歯先と歯底の位置ずれに起因して、傾斜部では、歯先と歯底との間のチップクリアランスが変化する。チップクリアランス変化量Δh[mm]は、例えば、0.05以上1.0以下、好ましくは0.1以上0.6以下とされる。例えば、図7(a)ではチップクリアランスTが小さく、図7(b)ではチップクリアランスTが大きいことを示している。チップシール7は、このチップクリアランスTが旋回運動によって変化しても、背面から圧縮流体によって端板5aの歯底側に押圧されるので、追従してシールできるようになっている。
【0037】
上述したスクロール圧縮機1は、以下のように動作する。
図示しない電動モータ等の駆動源によって、旋回スクロール5が固定スクロール3回りに公転旋回運動を行う。これにより、各スクロール3,5の外周側から流体を吸い込み、各壁体3b,5b及び各端板3a,5aによって囲まれた圧縮室に流体を取り込む。圧縮室内の流体は外周側から内周側に移動するに従い順次圧縮され、最終的に固定スクロール3に形成された吐出ポート3cから圧縮流体が吐出される。流体が圧縮される際に、端板傾斜部3a1,5a1及び壁体傾斜部3b1,5b1によって形成された傾斜部では壁体3b,5bの高さ方向にも圧縮されて、三次元圧縮が行われる。
【0038】
図8には、固定スクロール3の端板傾斜接続部3a5周りを示した部分拡大平面図が示されている。なお、他の端板傾斜接続部3a4,5a4,5a5周りについても同様の説明となるので、以下では固定スクロール3の端板傾斜接続部3a5周りについて説明する。
【0039】
同図において、固定スクロール3の外周側の壁体3bの内側3b-inと内周側の壁体3bの外側3b-outとの間に、最外周側の端板平坦部3a3と端板傾斜部3a1とが設けられている。また、同図中には旋回スクロール5の壁体5bが示されている。壁体5bは、固定スクロール3の外周側の壁体3bの内側3b-inに接した接触位置P1に位置した状態と、壁体3bの内側3b-inと外側3b-outとの間の寸法である歯底幅Tg方向の中央に位置する幅中央位置P2に位置した状態とが示されている。接触位置P1は、旋回運動時の渦巻き方向(図8において左右方向)における旋回中央位置となる。なお、符号W1は、壁体5bの幅方向における中心線である。
【0040】
端板傾斜接続部3a5の位置には、等高線Ct1が示されている。等高線Ct1は、壁体3bの渦巻き方向に直交する方向に形成された線分となっている。等高線Ct1の歯底幅Tg方向における中間位置を中心O3として、旋回半径ρとされた旋回軌跡Trが示されている。この旋回軌跡Trは、壁体5bが接触位置P1に位置しているときの等高線Ct1と壁体5bの中心線W1とが交わる交点Cpの軌跡である。
【0041】
壁体5bの壁体傾斜接続部5b5は、接触位置P1から分かるように、端板傾斜接続部3a5に対して、旋回半径ρ分だけ位相が遅れて配置されている。この理由は以下の通りである。
仮に破線で示した壁体傾斜接続部5b5’を接触位置P1にて等高線Ct1と一致するように配置すると、換言すると壁体傾斜接続部5b5’と端板傾斜接続部3a5とを同位相とすると、図9(a)に示すように、接触位置P1では歯底(端板3a側)と歯先(壁体5b側)との形状が一致した状態となっているが、旋回が進み幅中央位置P2となると、図9(b)に示すように歯底と歯先とが干渉してしまうことになる。なお、図9(c)は、幅中央位置P2から更に位相が180°進んだ位置である。
したがって、等高線Ct1が壁体3bの渦巻き方向に直交する方向に形成された線分となっている場合には、壁体傾斜接続部5b5’と端板傾斜接続部3a5とを同位相に配置することができない。
【0042】
そこで、本実施形態では、図8に示したように、壁体傾斜接続部5b5を、接触位置P1にて端板傾斜接続部3a5に対して旋回半径ρ分だけ位相を遅らせて配置している。これにより、図10(a)に示すように、接触位置P1では旋回半径ρ分だけオフセットされた位置となり、端板傾斜接続部3a5におけるチップクリアランスTが(ρ×tanφ)となってしまうが、図10(b)に示すように幅中央位置P2まで旋回が進んだときにチップクリアランスを最小にすることができる。なお、φは傾斜部の傾きである(図5参照)。
【0043】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
端板傾斜部3a1,5a1すなわち歯底に、壁体3b,5bの渦巻き方向に直交する方向に等高線Ct1が形成されている場合に、端板傾斜接続部3a4,3a5,5a4,5a5と壁体傾斜接続部3b4,3b5,5b4,5b5とを、渦巻き方向における旋回中央位置(接触位置P1)で一致させておくと、両スクロール3,5が旋回運動を行った際に歯底と歯先が干渉するおそれがある。そこで、端板傾斜接続部3a4,3a5,5a4,5a5に対して壁体傾斜接続部3b4,3b5,5b4,5b5を旋回半径ρ分だけ位相を遅らせて配置することとした。これにより、歯底と歯先が干渉することを回避できる。また、端板傾斜接続部3a4,3a5,5a4,5a5に対して壁体傾斜接続部3b4,3b5,5b4,5b5が旋回半径ρ分だけ位相が進んだ場合に、端板傾斜接続部3a4,3a5,5a4,5a5と壁体傾斜接続部3b4,3b5,5b4,5b5との位置が一致するように噛み合うので、歯先と歯底との間のチップクリアランスTを最小にすることができる。
【0044】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して図8に示した端板傾斜接続部3a5周りの形状が異なり、その他の構成は第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態との相違点について説明し、同様の構成については同一符号を付しその説明を省略する。
【0045】
第1実施形態では等高線Ct1が壁体3bの渦巻き方向に直交する方向に形成された線分とされていたが、本実施形態では等高線が円弧とされている点で相違する。
【0046】
円弧とされた等高線を端板傾斜部3a1,5a1に形成するには、図11に示すように、エンドミル10での加工によって行う。エンドミル10の直径Deを歯底幅Tgと同等として、傾斜を上る一方向に1パスで歯底と壁体側面の加工を行う。エンドミル10の回転軸線を端板平坦部3a2,3a3,5a2,5a3の平坦面に対して垂直に位置するようにして加工する。これにより、図11(a)に示したような半円弧となる等高線が形成される。
【0047】
図12には、上述した加工法によって得られた円弧とされた等高線Ct2が示されている。同図は、第1実施形態の図8に対応する図である。
図12に示されているように、等高線Ct2は、歯底幅Tgを直径とし、端板傾斜部3a1側(同図において左側)に凸とされた半円弧となっている。つまり、等高線Ct2の半径はTg/2となる。等高線Ct2は、壁体3bの内側3b-inと端板傾斜接続部3a5との交点Cp0と、壁体3bの外側3b-outと端板傾斜接続部3a5との交点Cp0とを接点としている。
【0048】
壁体5bの壁体傾斜接続部5b5は、接触位置P1にて、旋回運動時の渦巻き方向(図12において左右方向)における旋回中央位置で一致するように配置されている。すなわち、壁体傾斜接続部5b5と端板傾斜接続部3a5とを同位相としている。この理由は以下の通りである。
仮に破線で示した壁体傾斜接続部5b5’を幅中央位置P2にて等高線Ct2と一致するように配置すると、図13(b)のように、同位相とされる位置からTg/2-ρだけ位相を進めた位置となる。しかし、接触位置P1となると図13(a)に示すように歯底と歯先とが干渉してしまうことになる。なお、図13(c)は、幅中央位置P2から更に位相が180°進んだ位置である。
したがって、等高線Ct2が歯底幅Tgと同等の直径を有する半円弧となっている場合には、壁体傾斜接続部5b5’を端板傾斜接続部3a5よりも位相を進めることができない。
【0049】
そこで、本実施形態では、図14に示したように、壁体傾斜接続部5b5を、接触位置P1にて端板傾斜接続部3a5に対して同位相となるように配置している。これにより、図14(a)に示すように、接触位置P1では、歯先の側面形状と歯底の側面形状とが一致した位置となる。旋回運動により位相が進むと、図14(b)に示すように幅中央位置P2では、等高線Ct2の幅中央におけるチップクリアランスTが{(Tg/2-ρ)×tanφ}となる。
【0050】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
端板傾斜部3a1に、端板傾斜接続部3a5と壁体3bとの交点Cp0を接点とする1つの半円弧を等高線Ct2として形成することとした。そして、端板傾斜接続部3a5に対して、壁体傾斜接続部5b5が、旋回運動時の渦巻き方向における旋回中央位置(接触位置P1)で一致するように、すなわち同位相となるように配置すれば、旋回運動時に歯先と歯底が干渉することがなく、チップクリアランスを可及的に小さくできる。
また、接触位置P1にあるときに、接触する壁体3b,5b間において歯先と歯底のチップクリアランスTが最も小さくなるので、壁体3bの渦巻き方向の漏れを小さくできる。すなわち、図15に示すように、壁体5bの歯先と、チップシール7と、端板3aの歯底と、壁体3bの側面とで囲まれた領域Aが渦巻き方向の漏れ隙間となるが、チップクリアランスTを最小にできるので、壁体3bの渦巻き方向の漏れを小さくできる。なお、符号5dは、壁体5bの先端に形成されたチップシール溝である。
【0051】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態は、第2実施形態に対して図12に示した端板傾斜接続部3a5周りの形状が異なり、その他の構成は第2実施形態と同様である。したがって、第2実施形態との相違点について説明し、同様の構成については同一符号を付しその説明を省略する。
【0052】
第2実施形態では等高線Ct2が1つの半円弧とされていたが、本実施形態では等高線が2つの同径の円弧とされている点で相違する。
【0053】
2つの円弧とされた等高線を端板傾斜部3a1,5a1に形成するには、図16に示すように、エンドミル10での加工によって行う。図16は、図11(a)に対応する図であり、エンドミル10を壁体3b,5b渦巻き方向に傾斜を上るように2回切削する(2パス)ことによって加工する。すなわち、1回目の切削で片方の壁体3bの側壁とこれに連なる歯底を加工し、2回目の切削で他方の壁体3bの側壁とこれに連なる歯底を加工する。これにより、2つの半円弧が幅中央にて接続された形状が等高線Ct3となる。
したがって、本実施形態では、(エンドミル直径De<歯底幅Tg)という関係になる。
【0054】
図17には、上述した加工法によって得られた円弧とされた等高線Ct3が示されている。同図は、第2実施形態の図12に対応する図である。
図17に示されているように、等高線Ct3は、エンドミル直径Deを直径とした二つの円弧が歯底の幅中央で接続された形状となっており、各円弧は端板傾斜部3a1側(同図において左側)に凸とされている。等高線Ct3は、壁体3bの内側3b-inと端板傾斜接続部3a5との交点Cp0と、壁体3bの外側3b-outと端板傾斜接続部3a5との交点Cp0とを接点としている。
【0055】
壁体5bの壁体傾斜接続部5b5は、接触位置P1にて、旋回運動時の渦巻き方向(図17において左右方向)における旋回中央位置で一致するように配置されている。すなわち、壁体傾斜接続部5b5と端板傾斜接続部3a5とを同位相としている。その理由は、第2実施形態にて説明したように、歯先と歯底が接触せず、かつチップクリアランスを可及的に小さくするためである。
【0056】
旋回軌跡Trの中心O3から、渦巻き方向でかつ端板傾斜部3a1方向における等高線Ct3までの距離Rが旋回半径ρよりも小さくなると歯底と歯先が干渉することになるので、下式を満たすことが必要である。
{Tg+(2ρ)}/(2Tg)≦De≦Tg ・・・(2)
なお、距離Rは、図18の幾何学関係を参照すれば、下式で表される。
R=(1/2)×{De-(Tg-De)1/2 ・・・(3)
【0057】
また、本実施形態では、第2実施形態に比べて、壁体5bが幅中央位置P2に進んだ場合のチップクリアランスが小さくなるので有利である。なぜなら、図17を見れば明らかなように、旋回軌跡Trの中心O3から等高線Ct3までの距離Rは、第2実施形態の対応する距離Tg/2(図12参照)よりも短くなるからである。
【0058】
チップクリアランスを最も小さくするためには、距離Rが旋回半径ρに等しくする。R=ρを上式(3)に代入して解くと、下式が導かれる。
De={Tg+(2ρ)}/(2Tg) ・・・(4)
すなわち、上式を満たすようにエンドミル直径Deで形成される等高線Ct3とすれば良い。
【0059】
本実施形態によれば、第2実施形態の作用効果に加えて、以下の作用効果を奏する。
等高線Ct3を2つの円弧で構成することとしたので、距離RをTg/2よりも短くできるので、第2実施形態に比べてチップクリアランスを小さくして漏れを小さくすることができる。
【0060】
また、式(4)を満たすようなエンドミル直径Deを有する2つの円弧で等高線Ct3を形成することで、旋回運動時に歯先と歯底が最も近づいたときに等高線Ct3と壁体傾斜接続部5b5と間におけるチップクリアランスをゼロに近づけることができる。
【0061】
なお、本実施形態では、2つの同径の円弧から構成された等高線Ct3としたが、3つ以上の円弧から構成された等高線としてもよい。
【0062】
また、上述した各実施形態では、平坦部3a2,3a3,3b2,3b3,5a2,5a3,5b2,5b3を有する構成としたが、最外周側および/または最内周側に平坦部を備えていない構成に対しても適用できる。例えば、第1実施形態の場合には、固定スクロール3と旋回スクロール5とを、対向する傾斜部同士が遠ざかる方向に旋回半径分だけ位相をずらして配置する。第2実施形態や第3実施形態の場合には、固定スクロール3と旋回スクロール5とを、旋回運動時の渦巻き方向における旋回中央位置で一致する位相となるように配置する。
【0063】
また、上述した各実施形態では、スクロール圧縮機として説明したが、膨張機として用いるスクロール膨張機に対しても本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 スクロール圧縮機(スクロール流体機械)
3 固定スクロール(第1スクロール部材)
3a 端板(第1端板)
3a1 端板傾斜部
3a2 端板平坦部(内周側)
3a3 端板平坦部(外周側)
3a4 端板傾斜接続部(内周側)
3a5 端板傾斜接続部(外周側)
3b 壁体(第1壁体)
3b1 壁体傾斜部
3b2 壁体平坦部(内周側)
3b3 壁体平坦部(外周側)
3b4 壁体傾斜接続部(内周側)
3b5 壁体傾斜接続部(外周側)
3c 吐出ポート
5 旋回スクロール(第2スクロール部材)
5a 端板(第2端板)
5a1 端板傾斜部
5a2 端板平坦部(内周側)
5a3 端板平坦部(外周側)
5b 壁体(第2壁体)
5b1 壁体傾斜部
5b2 壁体平坦部(内周側)
5b3 壁体平坦部(外周側)
5b4 壁体傾斜接続部(内周側)
5b5 壁体傾斜接続部(外周側)
5d チップシール溝
7 チップシール
10 エンドミル
Ct1,Ct2,Ct3 等高線
L 対向面間距離
T チップクリアランス
Tg 歯底幅
Tr 旋回軌跡
W1 壁体の中心線
φ 傾き
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18