IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東邦化成株式会社の特許一覧

特許7413053積層体、積層体用中間体および積層体の製造方法
<>
  • 特許-積層体、積層体用中間体および積層体の製造方法 図1
  • 特許-積層体、積層体用中間体および積層体の製造方法 図2
  • 特許-積層体、積層体用中間体および積層体の製造方法 図3
  • 特許-積層体、積層体用中間体および積層体の製造方法 図4
  • 特許-積層体、積層体用中間体および積層体の製造方法 図5
  • 特許-積層体、積層体用中間体および積層体の製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】積層体、積層体用中間体および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20240105BHJP
   B32B 25/14 20060101ALI20240105BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B32B27/30 D
B32B25/14
B32B1/08 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020017761
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2021122490
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390005050
【氏名又は名称】ダイキンファインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(72)【発明者】
【氏名】前田 佳志子
(72)【発明者】
【氏名】松井 良平
(72)【発明者】
【氏名】川戸 進
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-202675(JP,A)
【文献】特開2004-025491(JP,A)
【文献】国際公開第2014/122986(WO,A1)
【文献】特開2009-190171(JP,A)
【文献】特開2006-205151(JP,A)
【文献】特開平8-160795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
A61M 25/00-25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1表面および第1裏面を有する第1塗工層と、
第2表面および第2裏面を有し、前記第2裏面が前記第1表面に接する状態で前記第1塗工層に積層された第2塗工層と、を備える積層体であって、
前記第1塗工層は、フッ素樹脂を含み、
前記第2塗工層は、フッ素ゴムおよびフッ素樹脂を含む、積層体。
【請求項2】
前記第1塗工層は、前記第1裏面が径方向内方に位置し且つ前記第1表面が径方向外方に位置するチューブ形状をなし、
前記第2塗工層は、前記第2裏面が径方向内方に位置し且つ前記第2表面が径方向外方に位置するチューブ形状をなす、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
第3表面および第3裏面を有し、前記第3裏面が前記第2表面に対向する状態で前記第2塗工層に積層された、樹脂からなる第3層を更に備える、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記第2塗工層と前記第3層との間に、第4塗工層を更に備える、請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記第2塗工層は、フィラーを含む、請求項1ないしのいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
基材と、
前記基材の表面に積層された第1塗工層と、
前記第1塗工層に積層された第2塗工層と、を備え
前記第1塗工層は、フッ素樹脂を含み、
前記第2塗工層は、フッ素ゴムおよびフッ素樹脂を含む、積層体用中間体。
【請求項7】
基材にフッ素樹脂を含む第1材料を塗布する処理を含む、第1塗工層形成工程と、
前記第1塗工層にフッ素ゴムおよびフッ素樹脂を含む第2材料を塗布する処理を含む、第2塗工層形成工
程と、
を備える、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、積層体用中間体および積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異なる材質からなる複数の層が積層された積層体は、種々の目的や用途に応じて広く用いられている。特許文献1には、積層体の一形態である積層体の従来例が開示されている。同文献に開示された積層体は、内層および外層を有する。内層は、PTFEからなり、外層は、ポリアミド等の樹脂からなる。この積層体は、医療機関におけるカテーテルチューブに用いられることが意図されている。カテーテルチューブは、血管に挿入されるものであるため、細径であることが好ましい。また、挿入後に薬液等を注入するために、内層は、潤滑性を向上させる材質が選択されている。さらに、血管への挿入において屈曲等を受ける場合があり、外層によって剛性の補強が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-45428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
積層体の製造後から使用までの間に、積層体が不当に変形したり破損したりすることを避けるために、金属等からなる基材が内層の内側に挿入された状態で積層体が製造される場合がある。この基材は、積層体をカテーテルチューブとして使用する前に、積層体から引き抜かれる。この基材の引き抜きにより、内層と外層とを剥離させる力が作用する。たとえば、同文献に開示された積層体の製造においては、内層の表面を、アルカリ金属溶液を用いて表面処理した後に外層を形成することにより、内層と外層との剥離強度の向上が図られている。
【0005】
しかしながら、表面処理が施された内層の表面は、フッ素原子が引き抜かれることにより、顕著に活性化された状態となる。このような表面は、大気雰囲気下で意図しない反応を起こしやすい等、不安定な状態となりやすい。このため、内層と外層との剥離強度が、箇所によってばらついたり、経年変化が生じたりしやすいという問題があった。また、積層体において、隣り合う層の剥離強度が不安定であることは、好ましくない。
【0006】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、剥離強度をより安定させることが可能な積層体、積層体用中間体および積層体の製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面によって提供される積層体は、第1表面および第1裏面を有する第1塗工層と、第2表面および第2裏面を有し、前記第2裏面が前記第1表面に接する状態で前記第1塗工層に積層された第2塗工層と、を備える積層体であって、前記第1塗工層は、フッ素樹脂を含み、前記第2塗工層は、フッ素ゴムを含む。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第1塗工層は、前記第1裏面が径方向内方に位置し且つ前記第1表面が径方向外方に位置するチューブ形状をなし、前記第2塗工層は、前記第2裏面が径方向内方に位置し且つ前記第2表面が径方向外方に位置するチューブ形状をなす。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、第3表面および第3裏面を有し、前記第3裏面が前記第2表面に対向する状態で前記第2塗工層に積層された、樹脂からなる第3層を更に備える。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第2塗工層と前記第3層との間に、第4塗工層を更に備える。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第2塗工層は、フッ素樹脂を含む。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第2塗工層は、フィラーを含む。
【0013】
本発明の第2の側面によって提供される積層体用中間体は、基材と、前記基材の表面に積層された第1塗工層と、前記第1塗工層に積層された第2塗工層と、を備える。
【0014】
本発明の第3の側面によって提供される積層体の製造方法は、基材にフッ素樹脂を含む第1材料を塗布する処理を含む、第1塗工層形成工程と、前記第1塗工層にフッ素ゴムを含む第2材料を塗布する処理を含む、第2塗工層形成工程と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、剥離強度をより安定させることができる。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る積層体の一例を示す断面図である。
図2】本発明に係る積層体の他の例を示す断面図である。
図3】本発明に係る積層体の製造方法の一例を示すフロー図である。
図4】本発明に係る積層体用中間体の一例を示す断面図である。
図5】本発明に係る積層体用中間体の他の例を示す断面図である。
図6】本発明に係る積層体用中間体のさらに他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0019】
本開示における「第1」、「第2」、「第3」等の用語は、単に用語の識別に用いたものであり、必ずしもそれらの対象物に順列を付することを意図していない。
【0020】
<積層体C1>
図1は、本発明に係る積層体の一例を示している。本例の積層体C1は、第1塗工層、第2塗工層2および第3層3を有する。また、本例の積層体C1は、第1塗工層、第2塗工層および第3層3がチューブ形状をなす。なお、本発明に係る積層体は、チューブ形状の構成に限定されず、たとえば各層が平坦な層であったり、緩やかな屈曲部分や湾曲部分を有する層である構成であったりしてもよい。
【0021】
第1塗工層1は、第1表面11および第1裏面12を有しており、略円環形状の断面を有するチューブ形状をなす。第1表面11は、径方向の外方に位置し、第1裏面12は、径方向の内方に位置している。後述するように、第1塗工層1は、塗布を用いて形成されている。積層体C1がたとえばカテーテルチューブとして用いられる場合、第1塗工層1の孔は、薬液の注入経路として用いられる。
【0022】
第1塗工層1は、フッ素樹脂を含む。フッ素樹脂は、フッ素を含むモノマーを重合して得られる合成樹脂であり、たとえば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、変性PTFE(変性ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体)、ECTFE(エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PVF(ポリフッ化ビニル)等が挙げられる。フッ素樹脂は、一種又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
第2塗工層2は、第2表面21および第2裏面22を有しており、略円環形状の断面を有するチューブ形状をなす。第2表面21は、径方向の外方に位置し、第2裏面22は、径方向の内方に位置している。第2塗工層2は、第2裏面22が第1表面11に接する状態で、第1塗工層1に積層されている。後述するように、第2塗工層2は、塗布を用いて形成されている。
【0024】
第2塗工層2は、フッ素ゴムを含む。フッ素ゴムは、フッ素を組成に含むゴム状弾性体であり、たとえば、FKM(フッ化ビニリデン系)、FEPM(テトラフルオロエチレン-プロピレン系)、FFKM(テトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系)等が挙げられる。また、第2塗工層2は、フィラーを含むことが好ましい。フィラーとしては、たとえば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等のカーボン粒子、金属酸化物、金属窒化物等が挙げられ、金属酸化物が好ましく、粒径が1~15μm程度のシリカ粒子が特に好ましい。また、第2塗工層2は、上述のフッ素樹脂であって、たとえば第1塗工層1に含まれたフッ素樹脂を含むことが好ましい。これらフィラー及びフッ素樹脂の少なくとも一種を含むことで、各層の密着性を向上させることができる。
【0025】
第3層3は、第3表面31および第3裏面32を有しており、略円環形状の断面を有するチューブ形状をなす。第3表面31は、径方向の外方に位置し、第3裏面32は、径方向の内方に位置している。第3層3は、第3裏面32が第2表面21に対向する状態で第2塗工層2に積層されている。積層体C1においては、第2塗工層2は、第1塗工層1と第3層3とを接合する接合層の機能を果たしている。また、本例においては、第2表面21と第3裏面32とは、直接接している。
【0026】
第3層3は、積層体用中間体B1の剛性を補強するために設けられている。第3層3としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、一種単層又は二種以上を積層して用いてもよい。さらには、第3層3は、より補強効果を高めるために、繊維、樹脂、金属等からなるワイヤー、網線等を含んでいてもよい。
【0027】
第1塗工層1、第2塗工層2および第3層3の厚さは、特に限定されない。第1塗工層1の厚さは、たとえば1~10μmであり、好ましくは、3~50μm、特に好ましくは5~30μmである。第2塗工層2の厚さは、たとえば、1~50μmであり、好ましくは、2~30μm、特に好ましくは3~15μmである。第3層3の厚さは、積層体C1に許容される最外径の大きさや求められる剛性に応じて、適宜決定される。本発明においては、後述するように、第1塗工層1及び第2塗工層2を塗布により設けるため特に膜厚を薄く形成することができる。これにより、たとえば積層体C1をチューブ形状としたときに、外径が制限される場合であっても内孔径を大きく設計することが可能となる。
【0028】
<積層体C2>
図2は、本発明に係る積層体の他の例を示している。本例の積層体C2は、第1塗工層1、第2塗工層2、第3層3に加えて、第4塗工層4をさらに備える。
【0029】
第4塗工層4は、第2塗工層2と第3層3との間に介在している。第4塗工層4は、たとえばカップリング樹脂層等からなり、第2塗工層2と第3層3との接合強度を向上させるための層である。このカップリング樹脂層は、たとえば、第2塗工層2を2液硬化型フッ素ゴム水性塗料によって構成する場合に、第2塗工層2の第2表面21にカップリング液(硬化剤液)のみを塗布することによって形成される。第4塗工層4の厚さは、たとえば0.1~5μmである。また、第4塗工層4は、フィラーを含んでいてもよい。フィラーとしては、たとえば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等のカーボン粒子、金属酸化物、金属窒化物等が挙げられ、金属酸化物が好ましく、粒径が1~15μm程度のシリカ粒子が特に好ましい。第4塗工層4にフィラーを含むことで、各層の密着性をより向上させることができる。
【0030】
<積層体の製造方法>
図3は、積層体C1の製造方法の一例を示すフロー図である。本発明に係る積層体の製造方法は、第1塗工層形成工程および第2塗工層形成工程を備える。また、積層体C1の製造方法は、第3層形成工程を更に備える。
【0031】
第1塗工層形成工程は、塗布処理、加熱処理および冷却処理を含む。なお、本発明の第1塗工層形成工程は、塗布処理を含んでいればよく、塗布処理の前後に任意の処理を行ってもよい。塗布処理とは、基材91の表面に第1材料を塗布する処理である。基材91は、目的とする積層体の用途、目的、形状に応じて適宜設定でき、その形状は特に限定させず、円形、矩形等の板形状、ワイヤー形状等が挙げられる。また、その材質も特に限定されず、アルミニウム板、SUS板等の金属板、銅線、銀線、SUS線等の金属線もしくはそれらが種々の金属でメッキされた金属メッキ金属線、熱可塑性樹脂線が種々の金属でメッキされた金属メッキ樹脂線等が挙げられる。第1材料は、上述したフッ素樹脂を含む塗料であり、その一例としてフッ素樹脂含有水性塗料が挙げられる。これらフッ素樹脂含有水性塗料は、通常公知の市販品を適宜用いることができる。塗布処理の手法はなんら限定されず、粉体塗装方式、ディップコート方式、スプレー塗装方式等種々の手法を用いることができる。
【0032】
次いで、加熱処理を行う。加熱処理は、たとえば、第1材料を塗布した基材91を炉に挿入した後に、第1材料に含まれるフッ素樹脂の融点以上の温度で、所定時間保持する。次いで、冷却処理を行う。これにより、基材91の表面に第1塗工層1が形成される。
【0033】
第1塗工層形成工程の後、第1塗工層1が形成された基材91をたとえばロールに一旦巻き取り、その後にいわゆるバッチ方式で第2塗工層形成工程を行ってもよい。あるいは、第1塗工層形成工程に引き続いて、第2塗工層形成工程を連続的に行ってもよい。
【0034】
第2塗工層形成工程は、塗布処理、加熱処理および冷却処理を含む。なお、本発明の第2塗工層形成工程は、塗布処理を含んでいればよく、塗布処理の前後に任意の処理を行ってもよい。塗布処理では、第1塗工層1の第1表面11に第2材料を塗布する。第2材料は、上述したフッ素ゴムを含む塗料であり、その一例として2液硬化型フッ素ゴム水性塗料が挙げられる。具体的にはたとえばフッ素ゴムを含む水溶液とカップリング剤(硬化剤)とを含む水溶液(カップリング液)とを混合したものが挙げられる。また、第2材料には、種々の添加材料が加えられてもよい。後述の実施例においては、添加材料として、たとえばフィラーやフッ素樹脂が加えられている。塗布処理の手法はなんら限定されず、粉体塗装方式、ディップコート方式、スプレー塗装方式等種々の手法を用いることができる。
【0035】
次いで、加熱処理を行う。加熱処理は、たとえば、第1塗工層1に第2材料を塗布した基材91を炉に挿入した後に、第2材料に含まれるフッ素ゴムの融点以上の温度で、室温から昇温し、所定時間保持する。次いで、冷却処理を行う。これにより、第1塗工層1の第1表面11に第2塗工層2が形成される。以上の工程により、図4に示す積層体用中間体A1が得られる。積層体用中間体A1は、基材91に第1塗工層1および第2塗工層2が積層された構成である。なお、第2塗工層形成工程の後に、積層体用中間体A1から基材91を引き抜くと、第1塗工層1および第2塗工層2のみが積層された積層体が得られる。
【0036】
また、積層体C1の製造方法においては、第2塗工層形成工程の後に第3層形成工程を行う。一方、積層体C2の製造方法においては、第2塗工層形成工程の後に、第4塗工層形成工程を行う。なお、第2塗工層形成工程の後、第2塗工層2が形成された基材91をたとえばロールに一旦巻き取り、その後にいわゆるバッチ方式で第3層形成工程または第4塗工層形成工程を行ってもよい。あるいは、第2塗工層形成工程に引き続いて、第3層形成工程または第4塗工層形成工程を連続的に行ってもよい。
【0037】
第4塗工層形成工程は、たとえば、塗布処理、加熱処理および冷却処理を含む。塗布処理では、第2材料に用いたカップリング液を第2塗工層2の第2表面21に塗布する。なお、カップリング液にフィラー等の添加材料が加えられていてもよい。塗布処理の手法はなんら限定されず、粉体塗装方式、ディップコート方式、スプレー塗装方式等種々の手法を用いることができる。次いで、炉内において、所定温度(通常200℃以上)で加熱処理を行う。その後、冷却処理を行う。これにより、第2表面21上に第4塗工層4が形成される。カップリング液に添加材料としてフィラーを加えたものを塗布した場合、第2表面21にフィラーが付着した形態となる。
【0038】
次いで、第3層形成工程を行う。第3層形成工程では、第2塗工層2の第2表面21上または第4塗工層上に第3層3を形成する。第3層3を形成する手法は何ら限定されず、第3層3の材質や厚さ、求められる機械的特性等に応じて種々の手法が適宜採用される。これにより、図5に示す第3層3を備える積層体用中間体B1または図6に示す第4塗工層4上に第3層3を備える積層体用中間体B2が得られる。積層体用中間体B1は、基材91に第1塗工層1、第2塗工層2および第3層3が積層された構成である。また、積層体用中間体B2は、基材91に第1塗工層1、第2塗工層2、第4塗工層4および第3層3が積層された構成である。
【0039】
この後に、積層体用中間体B1に対して、基材除去工程を行う。たとえば、カテーテルチューブとして用いることを目的として、積層体用中間体B1から基材91を引き抜く。これにより、図1に示す積層体C1が得られる。また、積層体用中間体B2から基材91を引き抜く。これにより、図2に示す積層体C2が得られる。
【0040】
実施例1
SUS304板(10cm×10cm)(基材)上に、PTFE水性塗料(ダイキン工業株式会社製ポリフロン(登録商標)PTFE EK-3700C21R)を、アプリケーターを用いて塗工し、360℃、5分加熱後、冷却することを2回繰り返し、PTFE層(第1塗工層)を形成した。次いでPTFE層上に2液硬化型フッ素ゴム水性塗料(ダイキン工業株式会社製ダイエルラテックス)を、アプリケーターを用いて塗工し、360℃、5分加熱後、冷却してフッ素ゴム層(第2塗工層)を形成した。その後、溶融したナイロン樹脂をフッ素ゴム層上にラミネート加工し、ナイロン樹脂層(第3層)を形成した。その後、得られた積層体を基材から外して、実施例1の積層体の試験用サンプルを得た。得られた実施例1の積層体の各層厚みは、それぞれPTFE層20μm、フッ素ゴム層10μm、ナイロン樹脂層1500μmであった。
【0041】
実施例2
実施例1の2液硬化型フッ素ゴム水性塗料に実施例1で用いたPTFE水性塗料を2液硬化型フッ素ゴム水性塗料1質量部に対して0.1質量部添加して用いた以外は、実施例1と同様にして行い、実施例2の積層体の試験用サンプルを得た。
【0042】
実施例3
実施例2のフッ素ゴム層塗工後、2液硬化型フッ素ゴム水性塗料のカップリング液を、アプリケーターを用いて塗工し、250℃、5分加熱後、冷却してカップリング樹脂層(第4塗工層)を形成し、その後にナイロン樹脂をラミネートした以外は、実施例2と同様にして行い、実施例3の積層体の試験用サンプルを得た。得られた積層体におけるカップリング樹脂層の厚みは2μmであった。
【0043】
実施例4
実施例3のカップリング液にシリカ粒子(富士シリシア化学株式会社製)をカップリング液1質量部に対して0.1質量部添加して用いた以外は、実施例3と同様にして行い、実施例4の積層体の試験用サンプルを得た。
【0044】
実施例5
実施例3の2液硬化型フッ素ゴム水性塗料に、更にシリカ粒子(富士シリシア化学株式会社製)を2液硬化型フッ素ゴム水性塗料1質量部に対して0.05質量部添加して用いた以外は、実施例3と同様にして行い、実施例5の積層体の試験用サンプルを得た。
【0045】
実施例6
実施例5のカップリング液にシリカ粒子(富士シリシア化学株式会社製)をカップリング液1質量部に対して0.1質量部添加して用いた以外は、実施例5と同様にして行い、実施例6の積層体の試験用サンプルを得た。
【0046】
比較例1
SUS板(10cm×10cm)(基材)上に、PTFE水性塗料(ダイキン工業株式会社製ポリフロン(登録商標)PTFE EK-3700C21R)を、アプリケーターを用いて塗工し、360℃、5分加熱後、冷却することを2回繰り返し、PTFE層(第1塗工層)を形成した。次いでPTFE層上にフッ素樹脂表面処理剤(株式会社テクノス製フロロボンダー(登録商標))に浸漬後、イソプロパノール、水で順次洗浄してPTFE塗工層の表面をエッチング処理した。その後、溶融したナイロン樹脂をエッチング処理されたPTFE塗工層上にラミネート加工し、ナイロン樹脂層(第3層)を形成した。その後、得られた積層体を基材から外して、比較例1の積層体の試験用サンプルを得た。
【0047】
得られた実施例1ないし6及び比較例1の各試験サンプルの剥離強度試験を行った。その結果を表1に示す。なお、剥離強度試験は、次の手順で行った。
[剥離強度試験]
試験装置は、フォースゲージZP50-N(株式会社イマダ製)を用いた。
実施例1ないし6及び比較例1の各試験サンプルの側部領域サンプル(10mm×50mm。以下、サンプルAという)と中央部領域サンプル(10mm×50mm。以下、サンプルBという)をそれぞれ作成した。次いで、各サンプルA、Bの長手側端縁を、ナイロン樹脂層とPTFE層との間で10mm剥離させて、各サンプルA、Bの当該端縁剥離部分をチャッキングし、180°の角度、速度50mm/minで剥離応力を加え、その時の剥離にかかる力を剥離強度(N)として測定した。なお、実施例6及び比較例1は、加湿雰囲気(40℃、湿度90%)下で113時間保持後の各サンプルA、Bについても、剥離試験を行った。
【0048】
【表1】
【0049】
比較例1の剥離強度は、サンプルや部位によって、剥離強度のばらつきが見られ、剥離強度の最大値と最小値の差4.2Nに達するものがある。これは、PTFE層(第1塗工層1)の第1表面11をエッチング処理したことに起因して、密着性が局所的にばらついていることを示唆している。
【0050】
一方、実施例1~6では、剥離強度自体は比較例よりも小さい例が見られるものの、各部位での剥離強度の最大値と最小値の差は、比較例に比べて概ね縮小され、いずれも1.0N以下であった。従って、フッ素ゴム層(第2塗工層)を用いる本発明に係る積層体は、部位にかかわらず均一で安定した剥離強度を備えることがわかる。
【0051】
実施例7
SUS304線(線径0.35φ)(基材)上に、PTFE水性塗料(ダイキン工業株式会社製ポリフロン(登録商標)PTFE EK-3700C21R)を、ディップコート法を用いて塗工し、360℃、5分加熱後、冷却し、PTFE層(第1塗工層1)を形成した。次いでPTFE層上に実施例6で用いた2液硬化型フッ素ゴム水性塗料(ダイキン工業株式会社製ダイエルラテックス)を、ディップコート法を用いて塗工し、360℃、5分加熱後、冷却してフッ素ゴム層(第2塗工層2)を形成した。次いで、実施例6で用いた2液硬化型フッ素ゴム水性塗料のカップリング液を、ディップコート法を用いて塗工し、250℃、5分加熱後、冷却してカップリング樹脂層(第4塗工層4)を形成した。次いで、溶融したナイロン樹脂を押出成形してナイロン樹脂層(第3層3)を形成した。その後、得られた積層体用中間体からSUS304線を引き抜いて、実施例7のチューブ形状の積層体C2を得た。得られた実施例7の積層体C2の各層厚みは、それぞれPTFE層10μm、フッ素ゴム層5μm、カップリング樹脂層2μm、ナイロン樹脂層1000μmであった。
【0052】
以上に述べたとおり、本発明に係る積層体によれば、剥離強度をより安定させることが可能である。これにより、たとえば、基材91を有する積層体用中間体から基材91を引き抜いて、積層体を製造する際に、第1塗工層1と第3層3との剥離強度のばらつきに起因して剥離が生じてしまうことを抑制することができる。
【0053】
本発明に係る積層体、積層体用中間体および積層体の製造方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る積層体、積層体用中間体および積層体の製造方法の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0054】
A1,B1:積層体用中間体
C1,C2:積層体
1 :第1塗工層
2 :第2塗工層
3 :第3層
4 :第4塗工層
11 :第1表面
12 :第1裏面
21 :第2表面
22 :第2裏面
31 :第3表面
32 :第3裏面
91 :基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6