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特許7413057シート搬送装置、画像読取装置及び画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】シート搬送装置、画像読取装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 3/06 20060101AFI20240105BHJP
   G03G 21/14 20060101ALI20240105BHJP
   H04N 1/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B65H3/06 350A
B65H3/06 340E
G03G21/14
H04N1/00 567L
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020020196
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2021123494
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相原 涼
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-124651(JP,A)
【文献】特開2005-231844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 3/06
G03G 21/14
H04N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源から入力される駆動力を伝達する伝達機構と、
前記伝達機構を介して伝達される駆動力によって回動するアーム部材と、
前記アーム部材が所定位置を超えて回動することを規制する規制手段と、
前記伝達機構を制御する制御手段と、
シートを支持する支持部と、
前記アーム部材に支持され、前記支持部に支持されたシートを給送する給送部材と、
を有し、
前記伝達機構は、
バネを有するバネクラッチであって、前記伝達機構に第1方向の回転が入力された場合に前記バネが締まり、前記支持部に支持されているシートに前記給送部材を当接させる方向に前記アーム部材を回動させるように前記アーム部材に駆動力を伝達し、前記伝達機構に前記第1方向とは反対の第2方向の回転が入力された場合に、前記給送部材を前記支持部に支持されているシートから離間させる方向であって且つ前記所定位置に向かう方向に前記アーム部材を回動させるように前記アーム部材に駆動力を伝達し、前記アーム部材が前記所定位置に到達した後は前記バネが緩んで空転するように構成されたバネクラッチと、
前記伝達機構における駆動伝達経路の少なくとも一部について、駆動伝達を可能とする接続状態と、駆動伝達を切断する切断状態と、をとり得る電磁クラッチと、
を備え、
前記制御手段は、前記伝達機構に前記第2方向の回転が入力されることで前記アーム部材が前記所定位置に到達した後に、前記電磁クラッチを、前記接続状態から前記接続状態と前記切断状態との間の中間状態を経て前記切断状態に変化させる処理を実行する、
ことを特徴とするシート搬送装置。
【請求項2】
前記制御手段は、パルス幅変調によりパルス幅を変化させることで、前記電磁クラッチを前記中間状態とする、
ことを特徴とする請求項に記載のシート搬送装置。
【請求項3】
前記中間状態の期間の長さは、前記電磁クラッチのコイルについての通電停止時の時定数より長い、
ことを特徴とする請求項又はに記載のシート搬送装置。
【請求項4】
前記電磁クラッチは、前記バネクラッチを介して前記駆動源の駆動力を被駆動部に伝達する伝達経路上に設けられている、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のシート搬送装置。
【請求項5】
前記電磁クラッチは、前記バネクラッチと同軸上に設けられている、
ことを特徴とする請求項に記載のシート搬送装置。
【請求項6】
前記伝達機構は、前記バネクラッチを介して第1の被駆動部に前記駆動源の駆動力を伝達する第1の伝達経路と、前記バネクラッチを介さずに第2の被駆動部に前記駆動源の駆動力を伝達する第2の伝達経路と、を含み、
前記電磁クラッチは、前記第2の伝達経路上に設けられている、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のシート搬送装置。
【請求項7】
前記バネクラッチが空転するまで前記第2方向に回転された場合において、前記電磁クラッチが前記接続状態である間は前記バネの緩みが維持され、前記電磁クラッチが前記切断状態に切り替わったときに前記バネの緩みが復元する、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のシート搬送装置。
【請求項8】
前記接続状態では第1レベルの信号が前記電磁クラッチに伝えられ、
前記制御手段は、前記中間状態において前記第1レベルの信号を前記電磁クラッチに伝える期間が徐々に少なくなるように制御し、前記切断状態では前記第1レベルの信号を伝えない、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のシート搬送装置。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか1項に記載のシート搬送装置と、
前記シート搬送装置によって搬送されるシートから画像情報を読み取る読取手段と、
を備えることを特徴とする画像読取装置。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれか1項に記載のシート搬送装置と、
シートに画像を形成する画像形成手段と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートを搬送するシート搬送装置、シートから画像情報を読み取る画像読取装置、及び、記録材に画像を形成する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機やファクシミリ装置、複合機等の画像形成装置に設けられる画像読取装置には、原稿トレイに載置されたシートをイメージセンサへ向けて自動的に給送するための、自動原稿搬送装置と呼ばれるシート搬送装置を備えたものがある。自動原稿搬送装置(以下、ADF:Auto Document Feederと呼ぶ)には、電磁クラッチ等を用いて給送ユニットへの駆動伝達を接続及び切断するものがある。
【0003】
また、シート搬送装置では、一定以上の負荷が作用した場合に駆動伝達を遮断する機構としてバネクラッチを用いる場合がある。特許文献1には、バネクラッチを介してアームが揺動する構成においてアームの回動範囲を規制するストッパを設けて、アームがストッパに当接したときはバネクラッチのバネが緩んでモータからの駆動伝達が遮断される構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-227952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バネクラッチを含む駆動系を備えるシート搬送装置において、モータの停止後もバネが緩んでいる状態が維持されると、バネの復元力によって駆動系に対して持続的な機械的ストレスが作用する。これに対し、電磁クラッチ等によってバネクラッチと駆動系の主な負荷との接続を遮断すれば、バネの復元力は解放される。しかし、バネクラッチと負荷との接続を遮断した際にバネの復元力が一度に解放されることで、バネクラッチ又はその周辺の機械要素が動いて衝撃音が発生する場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、衝撃音の発生を抑制可能なシート搬送装置、画像読取装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、駆動源から入力される駆動力を伝達する伝達機構と、前記伝達機構を介して伝達される駆動力によって回動するアーム部材と、前記アーム部材が所定位置を超えて回動することを規制する規制手段と、前記伝達機構を制御する制御手段と、シートを支持する支持部と、前記アーム部材に支持され、前記支持部に支持されたシートを給送する給送部材と、を有し、前記伝達機構は、バネを有するバネクラッチであって、前記伝達機構に第1方向の回転が入力された場合に前記バネが締まり、前記支持部に支持されているシートに前記給送部材を当接させる方向に前記アーム部材を回動させるように前記アーム部材に駆動力を伝達し、前記伝達機構に前記第1方向とは反対の第2方向の回転が入力された場合に、前記給送部材を前記支持部に支持されているシートから離間させる方向であって且つ前記所定位置に向かう方向に前記アーム部材を回動させるように前記アーム部材に駆動力を伝達し、前記アーム部材が前記所定位置に到達した後は前記バネが緩んで空転するように構成されたバネクラッチと、前記伝達機構における駆動伝達経路の少なくとも一部について、駆動伝達を可能とする接続状態と、駆動伝達を切断する切断状態と、をとり得る電磁クラッチと、を備え、前記制御手段は、前記伝達機構に前記第2方向の回転が入力されることで前記アーム部材が前記所定位置に到達した後に、前記電磁クラッチを、前記接続状態から前記接続状態と前記切断状態との間の中間状態を経て前記切断状態に変化させる処理を実行する、ことを特徴とするシート搬送装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、衝撃音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る画像形成装置の正面図(a)及び画像形成エンジンの模式図(b)。
図2】実施形態に係る画像読取装置の斜視図(a)及び断面図(b)。
図3】実施例1に係る画像読取装置の駆動系を表す模式図。
図4】実施例1に係る電磁クラッチに対する入力電圧の波形を表す図。
図5】実施例1に係る画像読取装置の制御系を表すブロック図(a)及び搬送シーケンス終了時の処理を表すフローチャート(b)。
図6】実施例2に係る画像読取装置の駆動系を表す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための例示的な形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
まず、本実施形態の画像形成装置の概略構成について、図1を用いて説明する。図1(a)は、電子写真方式の画像形成装置100の正面図であり、図1(b)は、画像形成装置100が備える画像形成エンジンの模式図である。
【0012】
[画像形成装置]
図1(a)に示すように、画像形成装置100は、記録材に画像を形成する画像形成部103と、画像形成部103の下部に装着され、記録材を積載する給送カセット104と、を備えている。正面から見て画像形成部103の略中央部に、画像形成手段としての画像形成エンジン60が配置されている。また、画像形成装置100は、画像形成部103の上部に装着され、原稿から画像情報を読み取る画像読取装置102を備えている。画像形成装置100は、上下方向(鉛直方向)における画像読取装置102と画像形成部103との間に、画像形成部103で画像形成された記録材が排出積載される空間である本体排出部105が設けられた、いわゆる胴内排紙型の構成である。
【0013】
画像形成エンジン60は、図1(b)に示すように、電子写真方式の画像形成ユニットPU及び定着装置7によって構成される。画像形成動作の開始が指令されると、感光体(像担持体)としての感光ドラム1が回転し、ドラム表面が帯電装置2によって一様に帯電される。すると、露光装置3が、画像読取装置102又は外部のコンピュータから送信された画像情報に基づいてレーザ光を変調して出力し、感光ドラム1の表面を走査して静電潜像を形成する。この静電潜像は、現像装置4から供給されるトナーによって可視化(現像)されてトナー像となる。
【0014】
このような画像形成動作に並行して、給送カセット104又は不図示の手差しトレイに積載された記録材を画像形成エンジン60へ向けて給送する給送動作が実行される。給送された記録材は、画像形成ユニットPUによる画像形成動作の進行に合わせて搬送される。そして、感光ドラム1に担持されたトナー像は、転写ローラ5によって記録材に転写される。トナー像転写後に感光ドラム1上に残ったトナーは、クリーニング装置6によって回収される。未定着のトナー像が転写された記録材は、定着装置7へと受け渡されて、ローラ対に挟持されて加熱及び加圧される。トナーが記録材に対して溶融及び固着して画像が定着した記録材は、排出ローラ対等の排出手段によって、本体排出部105に排出される。
【0015】
画像形成エンジン60は画像形成手段の一例であり、感光体に形成したトナー像を中間転写ベルト等の中間転写体を介して記録材に転写する中間転写方式の電子写真ユニットを用いてもよい。また、電子写真方式に限らず、インクジェット式やオフセット印刷式の印刷機構を画像形成手段として用いてもよい。
【0016】
[画像読取装置]
図2(a)は、本実施形態の画像読取装置102の斜視図であり、図2(b)は画像読取装置102の断面図である。図2(a)に示すように、画像読取装置102は、複数枚の原稿を分離給送し、原稿に印字された画像を読み取るためのADF201を備えている。ADF201には、給送対象のシートを載置するための支持部である給送トレイ203と、給送トレイ203から給送された後、画像情報の読み取りが終わった原稿を排出するための排出トレイ204と、が設けられている。また、画像読取装置102は、画像形成部103の上部に取付けられる本体部202を有し、ADF201は本体部202に対して開閉可能に設けられている。画像読取装置102は、ADF201によって原稿を自動的に給送しながら画像情報を読み取る流し読み動作と、ADF201を開いて本体部202の上面にセットした静止原稿から画像情報を読み取る固定読み動作と、を実行可能である。
【0017】
なお、画像形成装置100において原稿又は記録材として用いられる「シート」には、サイズ・形状・材質の異なる種々のシート材が含まれる。例えば、普通紙の他にも、コート紙等の特殊紙、封筒やインデックス紙等の特殊形状からなる記録材、及びオーバーヘッドプロジェクタ用のプラスチックフィルムや布などが含まれる。
【0018】
図2(b)に示すように、ADF201には、給送トレイ203に載置された複数枚の原稿205を1枚ずつ分離しながら給送するためのピックアップローラ206及び分離ローラ208が設けられている。給送ローラとしてのピックアップローラ206は給送トレイ203に載置される原稿の上方に位置し、アーム部材としてのアーム207によって回転可能に支持されている。アーム207は、分離ローラ208の回転軸を中心に上下に揺動可能であり、下降することでピックアップローラ206を原稿の上面に当接させ、上昇することでピックアップローラ206を原稿から離間させる。ピックアップローラ206は、原稿の上面に当接している状態で、後述のモータ302に駆動されて回転することで、給送トレイ203から分離ローラ208へ向けて原稿を送り出す。
【0019】
分離ローラ208は、分離部材の例である摩擦ローラ208aに当接している。摩擦ローラ208aは、ADF201の枠体に固定された軸部材にトルクリミッタを介して支持されたものや、トルクリミッタを介して原稿の搬送方向に逆らう回転方向の駆動入力を受けるもの(リタードローラ)を用いることができる。分離ローラ208と摩擦ローラ208aとの間のニップ部(分離ニップ)に複数枚の原稿が侵入すると、摩擦ローラ208aから原稿に作用する摩擦力によって、分離ローラ208に接触している最上位原稿以外の原稿の搬送が阻止される。一方、分離ニップを原稿1枚のみが通過するときは、摩擦ローラ208aは原稿を介して分離ローラ208に連れ回る。なお、分離部材としてパッド状の摩擦部材を用いてもよい。
【0020】
また、ADF201には、分離ローラ208によって分離された原稿205を搬送するための複数の搬送ローラ対209,210,211,212が設けられている。搬送ローラ対209~212は、原稿205の搬送方向(ADF201における原稿205の搬送経路に沿った方向。以下、単に「搬送方向」とする。)において分離ローラ208の下流側で、この順に配置されている。各搬送ローラ対209~212は、後述のモータ302に駆動される駆動ローラ209a,210a,211a,212aと、駆動ローラに連れ回って回転する従動ローラ209b,210b,211b,212bを有する。
【0021】
搬送ローラ対209~212による搬送経路上に、読取手段としてのイメージセンサ214,215の走査位置がある。イメージセンサ214,215は、例えば主走査方向(原稿の搬送方向に垂直な原稿幅方向)に並ぶ撮像素子と、等倍光学系を構成するレンズアレイと、を有する密着型イメージセンサ(CIS)を用いることができる。ただし、縮小光学系を用いる電荷結合素子(CCD)方式のイメージセンサを読取手段として用いてもよい。本体部202に配置されたイメージセンサ214は、搬送ローラ対209~212によって流し読みガラス213に沿って搬送される原稿の一方の面(第1面)から画像情報を読み取る。ADF201に配置されたイメージセンサ215は、搬送ローラ対209~212によって搬送される原稿の他方の面(第2面)から画像情報を読み取る。イメージセンサ214,215を通過した原稿は、搬送ローラ対212によって排出トレイ204に排出される。
【0022】
[ピックアップローラの昇降]
図2(b)に示すように、分離ローラ208の回転軸には加圧手段216が取り付けられている。加圧手段216は、分離ローラ208の回転軸が正転方向(分離ニップにおけるローラ表面の移動方向が原稿搬送方向となる回転方向)へ回転したときに、アーム207に対して下方向の力を作用させる部材である。ADF201が原稿の搬送シーケンスを開始する場合、加圧手段216によりアーム207が下方に揺動してピックアップローラ206がシートに所定の圧力で押し付けられることで、ピックアップローラ206が原稿を搬送可能な状態となる。
【0023】
原稿の搬送シーケンスが終わると、後述のモータ302が逆転することで、分離ローラ208の回転軸は原稿搬送時とは逆の逆転方向に回転する。このとき、加圧手段216は、アーム207に対して上方向の力を作用させ、ピックアップローラ206を原稿搬送時の位置より上方の待機位置まで上昇させて給送トレイ203から離間させる。
【0024】
ピックアップローラ206が待機位置まで上昇すると、ストッパ217によってアーム207及びピックアップローラ206の上昇が規制される。即ち、規制手段としてのストッパ217は、アーム207が所定位置を超えて揺動することを規制する。また、ADF201は、ピックアップローラ206が待機位置に上昇した状態でアーム207を保持する保持手段218を備える。保持手段218は、ソレノイド等の電磁アクチュエータ、磁力によってアーム207に設けた磁石又は鉄板を吸着する磁石、又は機械的な保持機構等、モータ302の停止状態でピックアップローラ206を待機位置に保持できるものであれば特に限定されない。
【0025】
加圧手段216としては、分離ローラ208の回転軸とアーム207との間に介在するトルクリミッタを用いることができる。また、加圧手段216として、分離ローラ208の回転軸とアーム207との間に介在するワンウェイクラッチを用いてもよく、ワンウェイクラッチとトルクリミッタを組み合わせてもよい。さらに、加圧手段216として、分離ローラ208の回転軸とアーム207とをバネクラッチによって接続してもよい。
【0026】
いずれの場合も、加圧手段216は、分離ローラ208の回転軸が逆転方向に回転する場合にピックアップローラ206を待機位置まで上昇させるようにアーム207を回転軸に連動させる。また、回転軸の回転方向によって加圧手段216がアーム207に伝達可能なトルク値が異なる場合、回転軸が逆転方向に回転する場合のトルク値が正転方向に回転する場合より大きくなるように構成すると好適である。例えば、回転軸の逆転方向がロック方向となるように取り付けたワンウェイクラッチや、回転軸の逆転方向がバネの締まり方向となるように取り付けたバネクラッチを加圧手段216として用いることができる。
【実施例1】
【0027】
[駆動系列]
次に、図3を用いてADF201の駆動系列301について説明する。「駆動系列」とは、1つの駆動源から供給される駆動力によって動作する機構の全体を指し、被駆動部(駆動対象)である負荷(搬送ローラや揺動するアーム等)と、駆動源から供給される駆動力を各負荷に伝達する伝達機構を含む。図3に示すように、駆動系列301は、駆動源としてのモータ302から供給される駆動力を、被駆動部である各ローラ(206,208,209a,210a,211a,212a)及びアーム207に伝達して動作する。本実施例の駆動系列301の伝達機構は、複数の伝動ベルト303,304,310、複数のギア311,312,313,314、電磁クラッチ305及びバネクラッチ306を含んでいる。
【0028】
電磁クラッチ305及びバネクラッチ306は、モータ302の駆動力を、ピックアップローラ206、分離ローラ208及びアーム207からなる給送ユニット(第1の被駆動部)に伝達する第1の伝達経路上に配置されている。具体的には、電磁クラッチ305及びバネクラッチ306は、駆動軸307上に取付けられることで同軸上に配置されている。
【0029】
モータ302の出力軸は、伝動ベルト303及びギア311,312を介して電磁クラッチ305の入力側と駆動連結されている。電磁クラッチ305の出力側は駆動軸307に取り付けられている。バネクラッチ306は、駆動軸307と、駆動軸307と同軸上に駆動軸307に対して相対回転可能に設けられたギア313とを接続している。ギア313は、分離ローラ208の回転軸208bに設けられたギア314と噛み合っている。分離ローラ208の回転軸208b上には、分離ローラ208が取り付けられている。また、回転軸208bは、伝動ベルト304を介してピックアップローラ206と接続されると共に、上述の加圧手段216を介してアーム207と接続されている。
【0030】
なお、「駆動伝達の接続」(駆動連結)とは、駆動伝達経路上の2つの部材が直接又は間接に接続されており、かつ、一方の部材の動作に他方の部材が連動することで、装置の本来の動作を実現するための駆動力を伝達可能であることを指す。また、駆動伝達の切断(連結解除)とは、例えばクラッチ機構の解放(切断)により被駆動部の負荷が駆動源に伝わらないことを指す。
【0031】
また、駆動系列301は、モータ302の駆動力を上述した搬送ローラ対209,210,211,212(図2(b))の第2の被駆動部としての駆動ローラ209a,210a,211a,212aに伝達する第2の伝達経路を有している。各ローラ(209a~212a)は、複数の伝動ベルト310及び上述の伝動ベルト303を介してモータ302の出力軸に駆動連結されている。言い換えると、第2の伝達経路は、モータ302から供給される駆動力の一部をベルト伝動によって複数のローラに分配する経路である。
【0032】
電磁クラッチ305及びバネクラッチ306について詳細をさらに説明する。電磁クラッチ305が接続状態(連結状態)であるとき、モータ302が供給する駆動力の一部は駆動軸307を介してバネクラッチ306に入力される。電磁クラッチ305が切断状態(連結解除状態)であるとき、駆動軸307は駆動系列301の駆動源側から切り離された状態となり、モータ302の駆動力はバネクラッチ306に入力されない。
【0033】
バネクラッチ306は、例えば、駆動軸307に設けられたプレート307aとギア313との間に圧縮状態で設置されたねじりコイルバネであるバネ306aを有する。バネ306aの一端は駆動軸307又はギア313のいずれか一方に固定され、他端側の端面は駆動軸307又はギア313の他方に摺動可能に接している。また、バネ306aは、駆動軸307又はギア313の他方に設けられた円柱部の外周に巻き回された状態で取り付けられている。
【0034】
さらに、バネ306aは、モータ302が正転する場合に締まって円柱部を締め付け、モータ302が逆転する場合に緩んで(内径が大きくなって)所定値以上の負荷に対して空転するように構成されている。ただし、モータ302の正転とは、ピックアップローラ206及び分離ローラ208に原稿を搬送させるときのモータ302の回転であり、モータ302の逆転とは原稿搬送時とは逆方向の回転である。
【0035】
言い換えると、バネクラッチ306は、第1方向(モータ正転時の駆動軸307の回転方向)の回転を伝達する場合にバネ306aが締まって第1トルク値以下のトルクを伝達可能な第1状態となる。また、バネクラッチ306は、第1方向とは反対の第2方向(モータ逆転時の駆動軸307の回転方向)の回転を伝達する場合には、第1トルク値より小さい第2トルク値以下のトルクを伝達可能な第2状態となる。バネクラッチ306に対して第2方向の回転が入力されている状態でバネクラッチ306の出力側に第2トルク値より大きな負荷が作用すると、バネ306aが緩んで駆動軸307又はギア313の他方に摺動することで、バネクラッチ306は空転する。
【0036】
[原稿搬送時の動作]
ADF201が原稿を搬送する際の駆動系列301の挙動について説明する。本実施例のピックアップローラ206と分離ローラ208は、モータ302が回転していても、電磁クラッチ305の接続又は切断を電気的に制御することによって回転状態か停止状態かを変更できる。このため、原稿の搬送を実行する場合、ADF201はピックアップローラ206を給送位置に降ろしたままの状態で電磁クラッチ305を制御することで原稿の給送間隔を制御可能である。
【0037】
具体的には、ユーザの指示に基づいて原稿の搬送シーケンスを開始する場合、ADF201の動作を制御する制御部50(図5(a))は、電磁クラッチ305を接続状態(ON)とし、モータ302を正転させる。これにより、分離ローラ208の回転軸208bが正転するため、加圧手段216の作用によってアーム207が下方に揺動してピックアップローラ206が最上位の原稿に当接する。また、回転軸208bの正転に伴ってピックアップローラ206及び分離ローラ208が回転するため、最上位の原稿が1枚給送される。
【0038】
最上位原稿の先端(搬送方向の下流端)が最上流の搬送ローラ対209に到達した後のタイミングで電磁クラッチ305は切断状態(OFF)に変更され、ピックアップローラ206及び分離ローラ208の回転駆動は停止する。原稿は、モータ302の正転によって駆動されている搬送ローラ対209~212によって、ADF内部の搬送路をイメージセンサ214,215(図2(b))の走査位置へ向けて搬送される。なお、電磁クラッチ305を切断した後もピックアップローラ206は給送位置に留まっている。ピックアップローラ206及び分離ローラ208は、搬送ローラ対209~212による最上位原稿の搬送に伴って空転し、最上位原稿の後端が通過した後は回転を停止する。
【0039】
その後、原稿の搬送経路上に設けられたセンサの検知結果等に基づいて、次の原稿の給送を開始すべきタイミングと判断すると、制御部50は電磁クラッチ305を再び接続状態とする。これにより、ピックアップローラ206及び分離ローラ208の回転が再開するため、次の原稿が1枚給送される。その後、搬送中の原稿の先端が最上流の搬送ローラ対209に到達した後のタイミングで電磁クラッチ305は切断状態に変更される。このように、モータ302を継続的に回転させている状態で電磁クラッチ305のON/OFFを繰り返すことで、所望の給送間隔で複数枚の原稿を順に給送することができる。
【0040】
[搬送シーケンス終了時のバネクラッチの動作]
ここで、原稿搬送シーケンスの実行中はモータ302が正転しており、電磁クラッチ305を接続状態としたときにバネクラッチ306に対して締まり方向の力が作用する。そのため、バネクラッチ306が空転することなく、モータ302から供給される駆動力がピックアップローラ206及び分離ローラ208に伝達される。
【0041】
一方、原稿搬送シーケンスの終了時は、モータ302を逆転することで上述した通り加圧手段216を介してアーム207を上昇させる。ピックアップローラ206が待機位置まで上昇すると、アーム207がストッパ217に当接することで、バネクラッチ306に作用する駆動負荷が急激に上昇する。これにより、バネ306aが緩んで空転し、モータ302とアーム207との駆動連結がバネクラッチ306によって切断されるため、アーム207のそれ以上の揺動は規制される。また、アーム207が保持手段218によって保持されることで、バネ306aの復元力によってアーム207が受ける下向きの力に抗して、ピックアップローラ206が待機位置に留まる。
【0042】
ここで、バネクラッチ306が切断状態のまま、モータ302の駆動が停止すると、バネクラッチ306はバネ306aの復元力によって締まり状態へと戻ろうとする方向のトルクが駆動系列301に作用する。駆動系列301の停止時トルクがバネクラッチ306の戻りトルクより大きい構成である場合、バネクラッチ306の駆動軸307が回転できないのでバネ306aの緩み状態が維持される。この場合、アーム207の位置を規制するストッパ217及び保持手段218から駆動系列301までの範囲にバネ306aの復元力に起因する機械的ストレスが持続的に作用する。このようなストレスは、部材の変形(クリープ変形等)の原因となったり、メンテナンス時に部材がポップアップする等作業の妨げとなる可能性があるため、好ましくない。
【0043】
モータ302の停止後に電磁クラッチ305を切断(OFF)すればバネ306aの復元力は解放される。しかし、電磁クラッチ305を一度に切断すると、バネクラッチ306及びその周辺の機械要素が急激に回転して衝突音が発生するおそれがある。なお、電磁クラッチ305を一度に切断するとは、電磁クラッチ305を係合させるための所定の電流値(定格電流が規定されている場合は、その電流値)で通電している状態から矩形波状に電流値を0に落として通電を停止することを指す。
【0044】
そこで、本実施形態では、モータ302の停止後に切断手段としての電磁クラッチ305を接続状態から切断状態へと漸次的に変化させる。「漸次的に」とは、段階的であるか連続的であるかを問わず、切断手段を、接続状態から、接続状態と切断状態との間の中間状態の期間を経て、切断状態に移行させることを表す。「中間状態」は、電磁クラッチ305等の切断手段が、駆動系列301の入力側と出力側を接続状態に比べて弱い強度で接続している状態を表す。
【0045】
本実施例では、電磁クラッチ305に、図4に示すようなPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)により時間的に変化する電圧を入力することで、電磁クラッチ305を接続状態から切断状態へと漸次的に変化させる。つまり、電圧ONの状態から、パルスのON-Duty比を100%から0%に徐々に減少させていき(電圧ONの時間を徐々に短くしていき)、最終的に電圧OFFの状態となる波形とする。Dutyを10%刻みで変化させる場合、Dutyが90%~10%である期間が本実施例の中間状態である。
【0046】
図5(a)は本実施例の制御に関する制御系のブロック図である。ADF201の動作を制御する制御手段としての制御部50は、中央処理装置(CPU)51と、メモリ52とを有する。CPU51は、メモリ52に格納されたプログラムを読み出して実行し、ADF201のモータ302及び電磁クラッチ305並びにその他のアクチュエータを制御する。メモリ52は、読取専用メモリ(ROM)のような不揮発性の記憶領域及びランダムアクセスメモリ(RAM)のような揮発性の記憶領域を含み、プログラム及びデータの保管場所となると共にCPU51がプログラムを実行する際の作業スペースとなる。メモリ52は、画像読取装置を制御するためのプログラムを格納したコンピュータで読み取り可能な非一過性記憶媒体の例である。なお、制御部50は、ADF201とは別の筐体(例えば本体部202)に格納されたものであってもよい。
【0047】
図5(b)は、搬送シーケンス終了時の制御内容を表している。原稿搬送シーケンスの終了時、制御部50は、電磁クラッチ305を接続状態としてモータ302を逆転することで(S1)、アーム207を上昇させる。所定時間が経過すると、制御部50はモータ302の駆動を終了させる(S2)。所定時間の長さは、モータ302の逆転開始からアーム207がストッパ217に当接するまでの見込み時間に、アーム207をストッパ217に確実に当接させるためのマージンを加算した長さとする。その後、制御部50は上述のPWM制御により電磁クラッチ305を漸次的に接続状態(ON)から切断状態(OFF)に切り替える(S3)。
【0048】
このようなPWM制御により、緩んだ状態のバネ306aの復元力は徐々に解放されていき、衝突音の発生が低減される。即ち、PWM制御により電磁クラッチ305が接続状態から切断状態へと漸次的に変化するいずれかの時点で、電磁クラッチ305の接続作用がバネクラッチ306の復元力を下回ってバネクラッチ306が中立状態へと戻り始める。しかし、この時点での電磁クラッチ305とバネクラッチ306の力の差はわずかであるため、バネクラッチ306の動き出しは緩やかなものとなる。その後も、電磁クラッチ305が抵抗となってバネクラッチ306の動きが抑制されるため、機械要素の衝突音の発生が抑制される。
【0049】
なお、Dutyが90%~10%である期間の長さは、衝突音の発生をより確実に抑制するため、電磁クラッチの励磁電流の立ち上がりの速さを表す時定数よりも長い(例えば3倍以上、好ましくは10倍以上)であることが望ましい。
【0050】
また、本実施例では切断手段として電磁クラッチ305を用いたが、摩擦クラッチなど、他のクラッチを切断手段として用いることもできる。
【実施例2】
【0051】
次に、図6を用いて実施例2の形態について説明する。上述の実施例1では、切断手段としての電磁クラッチ305を、駆動系列301においてバネクラッチ306と直列の位置であって、バネクラッチ306と同軸上に設けていたが、駆動系列301の他の位置に電磁クラッチ305が配置されていてもよい。
【0052】
本実施例では、切断手段を駆動系列301においてバネクラッチ306とは別の伝達経路上に配置する例として、電磁クラッチ305を搬送ローラ対209~212の駆動ローラ209a~212aへの伝達経路上(第2の伝達経路上)に配置する。具体的には、電磁クラッチ305の切断によって、搬送ローラ対209,210,211,212の停止時トルクはバネクラッチ306に影響を及ぼさなくなる。そのため、モータ停止状態において、電磁クラッチ305が接続されていればバネクラッチ306の緩み状態が維持されるが、電磁クラッチ305が切断されるとバネクラッチ306は緩み状態から中立状態へと遷移可能になる。
【0053】
この場合、実施例1と同様、搬送シーケンス終了時に電磁クラッチ305を切断する際に、電磁クラッチ305に入力する電圧を図4に示すようなPWMの波形とすることで、衝撃音の発生を低減することができる。
【0054】
電磁クラッチ305の設置場所はこの限りでなく、バネクラッチ306の設置軸から、バネクラッチ306の戻りトルクを超える停止トルクを発生させる駆動系列301までの間であればいずれでもよい。
【0055】
(その他の実施例)
本実施例では、シート搬送装置の例として画像読取装置に組み込まれるADF201を挙げて説明したが、他のシート搬送装置に適用してもよい。例えば、画像形成装置において記録材として用いられるシートを給送するシート搬送装置(給送装置)に適用してもよい。
【0056】
(その他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0057】
また、本技術は、画像形成装置又は画像読取装置に用いられるシート搬送装置に限らず、自動車や産業用機械など、任意の機械に適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
50…制御手段(制御部)/60…画像形成手段(画像形成エンジン)/100…画像形成装置/102…画像読取装置/201…シート搬送装置(ADF)/203…支持部(給送トレイ)/206…給送ローラ(ピックアップローラ)/207…アーム部材(アーム)/217…規制手段(ストッパ)/301…伝達機構(駆動系列)/305…切断手段(電磁クラッチ)/306…バネクラッチ/306a…バネ
図1
図2
図3
図4
図5
図6