(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】鋼材の組合せ構造体,土留め壁の構築方法,及び土留め壁用上杭の撤去方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/06 20060101AFI20240105BHJP
E02D 5/08 20060101ALI20240105BHJP
E02D 17/04 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
E02D5/06
E02D5/08
E02D17/04 E
(21)【出願番号】P 2020040371
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2019065835
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391014550
【氏名又は名称】丸藤シートパイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】平形 義明
(72)【発明者】
【氏名】小野 貴司
(72)【発明者】
【氏名】福原 俊久
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-063813(JP,A)
【文献】特開2005-200994(JP,A)
【文献】特開2010-222944(JP,A)
【文献】特開2016-151114(JP,A)
【文献】実開昭51-144912(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/06
E02D 5/08
E02D 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上杭(10)と下杭(20)が連結手段(30)によって解除可能に連結された土留め壁用の芯材(100)であって,
前記連結手段(30)は,
前記上杭と前記下杭の一方又は両方に取り付けられた鞘部材(31)と,
前記鞘部材によって画定される空間に差し込まれる柱部材(32)と,を備え,
前記柱部材は,前記上杭と前記下杭の両方に取り付けられた前記鞘部材によって画定される空間に差し込まれるか,又は前記鞘部材が取り付けられていない前記上杭と前記下杭の他方に固定されて
おり,
前記鞘部材によって画定される空間に差し込まれた状態の前記柱部材をその長手方向に貫通し,前記柱部材と前記鞘部材とを連結する方向に軸力が付与される棒状部材(33)をさらに備える
芯材。
【請求項2】
前記棒状部材は,ネジ節鉄筋である
請求項
1に記載の芯材。
【請求項3】
上杭(10)と下杭(20)が連結手段(30)によって解除可能に連結された土留め壁用の芯材(100)であって,
前記連結手段(30)は,
前記上杭と前記下杭の一方又は両方に取り付けられた鞘部材(31)と,
前記鞘部材によって画定される空間に差し込まれる柱部材(32)と,を備え,
前記柱部材は,前記上杭と前記下杭の両方に取り付けられた前記鞘部材によって画定される空間に差し込まれるか,又は前記鞘部材が取り付けられていない前記上杭と前記下杭の他方に固定されており,
前記上杭及び前記下杭は,対向する一対のフランジプレート(11,21)の面に直交するようにウェブプレート(22,23)が形成されたH形鋼であり,
前記鞘部材(31)は,前記上杭と前記下杭の一方又は両方の前記ウェブプレートの両面側にそれぞれ少なくとも1箇所ずつ取り付けられてい
る
芯材。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれかに記載の芯材(100)を地中に埋設する工程を含む
土留め壁の構築方法。
【請求項5】
請求項1から請求項
3のいずれかに記載の芯材(100)のうち,前記下杭(20)を地中に残して,前記上杭(10)及び前記柱部材(32)を引き抜く工程を含む
土留め壁用上杭の撤去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,土留め壁用の芯材などに用いられる鋼材の組合せ構造体に関する。また,本発明は,この組合せ構造体を用いた土留め壁の構築方法や,土留め壁用の上杭の撤去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から,トンネル構造物等の地下構造物を地中に建設するにあたり,事前にその周囲に土留め壁を構築して,施工場所周囲の土壁の崩落や地下水の流入を防ぎながら,地下の作業空間を掘削する工事が行われている。土留め壁の構築方法としては,例えばSMW(Soil Mixing Wall)工法やTRD(Trench cutting Re-mixing Deep wall)工法が一般的に知られている。これらの工法では,地表面から地中を掘削し,掘削孔にH形鋼などからなる複数の芯材を間隔をあけて並列に挿入した後,その掘削孔にセメントミルクを流し込んで固化させることで,地表面から不透水層に達するソイルセメント製の土留め壁を構築する。
【0003】
図1には,土留め壁の構築工法を模式的に示している。土留め壁の構築では,H形鋼等の芯材を複数建て込で土留め壁の構築した後,施工場所の掘削を進める掘削された施工場所にて地下構造物の構築を行う。地下構造物の構築後は,掘削場所の埋め戻しを行う。また,地下構造物の施工場所付近において,将来的に道路トンネルの構築工事や,通信ケーブル,水道管,ガス管等の埋設工事が行われる可能性があるため,埋め戻し時に,地中に埋設した芯材のうち,地表面から将来的に工事が予想される深さまでの範囲(要撤去範囲)については,芯材の部分的な撤去が求められる場合がある。つまり,
図1に示されるように,芯材のうちの要撤去範囲に位置する上杭を,それより下方に位置する下杭から切り離して撤去することで,道路トンネルや通信ケーブル等を埋設できるスペースを確保する。
【0004】
ところで,土留め壁用の芯材として単純なH形鋼を用いた場合,芯材の上杭(上部)を撤去する際に,H形鋼を切断する作業が必要となるため,撤去作業に時間がかかるという問題がある。このような問題を解決するために,例えば特許文献1及び特許文献2では,別体の上杭と下杭を連結した組合せ構造体を土留め壁用の芯材として利用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-222944号公報
【文献】特開2015-063812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2に開示された土留め壁用の芯材は,上杭と下杭の連結手段として,基本的に,上杭と下杭の継ぎ目部分に充てがう鋼材と,この鋼材と各杭とを締結するためのボルトを用いることとしている。また,このボルトは,水平方向(芯材の長手方向と直交する方向)に差し込まれることとなる。
【0007】
しかしながら,ボルトを水平方向に差し込んで上杭と下杭を連結すると,上杭の撤去作業を行うときには,上杭と下杭の連結を解除するために,少なくともボルトが露出する位置まで地面を掘り返さなければならない。さらに,ボルトを外して上杭と下杭を切り離した後に,再度地面を埋め戻す作業も必要となる。このことは,例えば特許文献2でも説明されている。このような上下杭の連結形態では,上杭の撤去作業に時間がかかるという問題があった。
【0008】
また,上下杭の継ぎ目をボルト締めする場合,ボルトやナットが地中に位置することとなる。このとき,地中に含まれる小石や砂がボルトとナットの間やボルト穴に入り込み,上杭の撤去作業時にこれらの小石や砂が障害となって,ボルトを回転させることが困難になる場合がある。また,地中に含まれる水分によってボルトやナットに錆が生じて,この錆がボルトの回転の障害となることも考えられる。
【0009】
そこで,本発明は,例えば土留め壁用の芯材として用いられる鋼材の組合せ構造体において,上杭の撤去作業を迅速かつ簡単に実施できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者は,従来発明の問題点を解決する手段について鋭意検討した結果,例えば筒状又は断面L字形の鞘部材とこの鞘部材によって画定された空間に差し込まれる柱部材とを上下杭の連結手段として利用して,上下杭を垂直方向(芯材の長手方向)に連結することとした。これにより,ボルトを水平方向に差し込む必要がなくなるため,上杭の撤去作業を迅速かつ簡単に実施できるようになる。そして,本発明者は,上記知見に基づけば従来技術の課題を解決できることに想到し,本発明を完成させた。具体的に説明すると,本発明は以下の構成又は工程を有する。
【0011】
本発明の第1の側面は,土留め壁の芯材などに利用される鋼材の組合せ構造体100に関する。本発明に係る組合せ構造体100は,上杭10,下杭20,及び連結手段30を備え,上杭10と下杭20が連結手段30によって解除可能に連結されたものである。上杭10及び下杭20は,例えばH形鋼,L形鋼(山形鋼),T形鋼,I形鋼など,公知の形鋼材料を用いることができる。ここで,連結手段30は,鞘部材31と柱部材32を備える。鞘部材31は,柱部材32を差し込むための空間を画定するための部材であり,上杭10と下杭20の一方又は両方にその長手方向に沿って取り付けられている。例えば,鞘部材31としては,例えば,角形鋼管や円形鋼管などの筒状部材や,断面L字形や断面コの字形などのアングル部材を用いることができる。鞘部材31として筒状部材を用いた場合,その筒状部材によって画定された内部空間に柱部材32を差し込むことができる。また,鞘部材31として例えば断面L形のアングル部材を用いた場合,H形鋼からなる上杭10又は下杭20のフランジプレートとウェブプレートに接するようにアングル部材を取り付けることで,これらのアングル部材,フランジプレート,及びウェブプレートによって,柱部材32を差し込むための空間が画定される。柱部材32は,鞘部材31によって画定された空間に差し込まれる部材である。柱部材32としては,鞘部材31によって画定された空間より一回り径の小さい鋼管を用いることができる。また,柱部材32は,上杭10と下杭20の両方に取り付けられた鞘部材31によって画定された空間に差し込まれるか,又は鞘部材31が取り付けられていない上杭10と下杭20の他方に固定されている。このように, 鞘部材31と柱部材32を利用して上杭10と下杭20を垂直方向に連結する。これにより,地表面から上杭10を上方に向かって引き上げることで,上杭10を撤去することができる。従って,本発明によれば,上杭10の撤去のために地面を掘り返したり地面を埋め戻す作業を省略することができる。
【0012】
本発明に係る組合せ構造体100は,棒状部材33をさらに備えることが好ましい。棒状部材33は,鞘部材31によって画定された空間に差し込まれた状態の柱部材32をその長手方向に貫通し,上杭10と下杭20を連結する方向に軸力が付与される部材である。すなわち,棒状部材33によって,上杭10と下杭20との当接面に圧縮荷重が付与されることとなる。棒状部材33の例は,ネジ節鉄筋であるが,鞘部材31と柱部材32を互いに近づける方向に引張力を加えることのできる部材であれば,例えばスチールワイヤーやその他の鉄筋を用いることもできる。このように,鞘部材31と柱部材32を長手方向に貫通する棒状部材33を利用することで,鞘部材31と柱部材32の連結を強固に維持することができ,さらに上杭10及び下杭20に軸力を与えることで組合せ構造体100全体の強度を高めることができる。また,上杭10の撤去時には棒状部材33を垂直方向に引き抜けば済むため,上杭10の撤去作業を迅速かつ簡単に実施することができる。
【0013】
本発明に係る組合せ構造体100において,棒状部材33はネジ節鉄筋であることが特に好ましい。この場合,棒状部材33は,鞘部材31と柱部材32に対して螺合される。これにより,例えば地表面から棒状部材33をねじ込むことで鞘部材31と柱部材32を連結することができる。また,棒状部材33を反対方向に回すことで,鞘部材31と柱部材32の連結状態を簡単に解除できる。
【0014】
本発明に係る組合せ構造体100において,上杭10及び下杭20は,対向する一対のフランジプレート11,21の面に直交するようにウェブプレート12,22が形成されたH形鋼であってもよい。この場合,鞘部材31は,上杭10と下杭20の一方又は両方のウェブプレート12,22の両面側にそれぞれ少なくとも1箇所ずつ取り付けられていることが好ましい。このように,H形鋼の両面にそれぞれ鞘部材31を固定しておくことで,上杭10及び下杭20の連結状態を強固に維持できる。
【0015】
本発明の第2の側面は,土留め壁の構築方法に関する。本発明に係る土留め壁の構築方法は,上記した第1の側面に係る組合せ構造体100を地中に埋設する工程を含む。その他の工程は,公知の工程に従えばよい。すなわち,公知のSMW工法やTRD工法では,地面を掘削する工程,掘削孔に組合せ構造体を挿入する工程,掘削孔にセメントミルクを流し込んで固化させる工程などが含まれる。
【0016】
本発明の第3の側面は,土留め壁用上杭の撤去方法に関する。本発明に係る上杭の撤去方法は,上記した第1の側面に係る組合せ構造体100のうち,下杭20を地中に残して,上杭10及び柱部材32を引き抜く工程を含む。なお,組合せ構造体100に棒状部材33が含まれる場合には,上杭10及び柱部材32とともに棒状部材33が引き抜かれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば,例えば土留め壁用の芯材を構成する上杭を迅速かつ簡単に撤去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は,土留め壁用の芯材の埋設工程と上杭の撤去工程の概要を示した模式図である。
【
図2】
図2は,第1の実施形態に係る組合せ構造体の構成物品を示した分解斜視図である。
【
図3】
図3は,
図2に示した組合せ構造体の組み立て方法を示している。
【
図4】
図4は,第1の実施形態に係る組合せ構造体を示した断面図である。
【
図5】
図5は,第2の実施形態に係る組合せ構造体を示した断面図である。
【
図6】
図6は,第3の実施形態に係る組合せ構造体を示した断面図である。
【
図7】
図7は,第4の実施形態に係る組合せ構造体を示した断面図である。
【
図8】
図8は,第5の実施形態に係る組合せ構造体を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
【0020】
図2から
図4を参照して,本発明に係る組合せ構造体100の第1の実施形態について説明する。
図2は組合せ構造体100の構成物品を示し,
図3は組合せ構造体100の組み立て方法を示し,
図4は,組合せ構造体100の長手方向断面図と幅方向断面図(A-A,B-B)を示している。組合せ構造体100の用途例は,SMW工法等で利用する土留め壁の芯材であるが,これに限定されず,例えば一般的な建築資材として使用することも可能である。
【0021】
組合せ構造体100は,基本的に,上杭10と,下杭20と,これらの連結手段30を備える。図示した例において,上杭10及び下杭20としては公知のH形鋼を用いている。H形鋼は,対向する一対のフランジプレート11,21と,これらのフランジプレート11,21の面に直交するウェブプレート12,22とからなり,断面形状がH形となる。連結手段30は,上杭10と下杭20を長手方向に連結する。すなわち,連結手段30は,上杭10のH形の下端面と下杭20のH形の上端面とを当接させた状態で両者を連結する。本発明はこの連結手段30に特徴を有するものである。
【0022】
第1の実施形態において,連結手段30は,鞘部材31,柱部材32,棒状部材33,及びナットプレート34を含む。本実施形態において,鞘部材31は,上杭10と下杭20の両方に,それぞれ4箇所ずつ(合計8箇所)に固定されている。また,柱部材32は,上杭10と下杭20には固定されずに,これらの杭10,20の内部に挿入される。
【0023】
本実施形態において,鞘部材31は,柱部材32を挿入可能な筒状の部材であり,その内部空間が各杭10,20の長手方向(すなわち垂直方向)に沿って延在するように各杭10,20に固定されている。鞘部材31の断面形状は,四角筒状であることが好ましいが,円筒状(楕円筒状含む)であってもよいし,五角筒状,六角筒状,その他多角筒状であってもよい。鞘部材31としては,一般的な角形鋼管を用いると良い。鞘部材31は,各杭10,20に解離不能に固着される。例えば,鞘部材31を各杭10,20に溶接すればよい。H形鋼からなる各杭10,20には,フランジプレート11,21とウェブプレート12,22が直交することで4つの角部が形成されているが,図示した例において,各鞘部材31は,4つの角部のそれぞれに固定されている。このため,各鞘部材31は,それぞれフランジプレート11,21とウェブプレート12,22に当接した状態で固定(溶接)されている。これにより,鞘部材31の接合強度を高めることができる。また,各鞘部材31の長さは,それが固定される杭10,20の長さに対して,50~100%とすればよく,70~100%であることが特に好ましい。
【0024】
柱部材32は,鞘部材31の内部空間に挿入される部材であり,上杭10と下杭20の継ぎ目を中心にして上下に延びるように配置される。上杭10と下杭20を上下に連結して地中に埋設すると,それらの継ぎ目には土圧や水圧に応じた剪断力が加わることとなる。柱部材32はこの剪断力に耐え得るものを採用すればよい。柱部材32の断面形状は,鞘部材31と同様に四角筒状であることが好ましいが,円筒状,五角筒状,六角筒状,その他多角筒状であってもよい。また,柱部材32は,鞘部材31と相似形の断面形状を持つものを採用することが好ましいが,鞘部材31の内部に挿入可能なものであれば,鞘部材31と異なる断面形状を持つものを利用することもできる。なお,ここでは,柱部材32としては,鞘部材31と同様に,一般的な角形鋼管を用いると良い。ただし,柱部材32の外径サイズは,鞘部材31の内形サイズ以下とする。また,柱部材32を鞘部材31に挿入して,両者の中心軸を揃えたときに,柱部材32の外面と鞘部材31の内面の間に多少のクリアランス(隙間)が設けられていると良い。例えばクリアランス幅は,1mm~50mmであることが好ましく,5mm~20mmであることが特に好ましい。柱部材32は,上杭10と下杭20に設けられた鞘部材31と同じ本数用意すればよい。本実施形態では,4本の柱部材32が必要となる。
【0025】
棒状部材33は,鞘部材31に差し込まれた状態の柱部材32をその長手方向に貫通するように配置される部材であり,上杭10と下杭20とを連結する方向(すなわち垂直方向)に軸力が付与される。本実施形態において,棒状部材33として,外表面全体にネジ節を有するネジ節鉄筋が用いられる。また,上杭10に固定された鞘部材31の上端部と下杭20に固定された鞘部材31の下端部に,それぞれ棒状部材33(ネジ節鉄筋)が螺合するナットプレート34が固定されている。このため,上方から下方に向かって棒状部材33を挿入すると,棒状部材33は,まず上側のナットプレート34にねじ込まれ,その後柱部材32と鞘部材31の内部空間を通過して,下側のナットプレート34に到達して再びねじ込まれるようになっている。これにより,棒状部材33に垂直方向に軸力が付与されて,上杭10と下杭20とがより強く締結される。また,棒状部材33は,上杭10と下杭20の継ぎ目を超えて上下に延在するものであるため,柱部材32と共に上杭10と下杭20の継ぎ目に加わる剪断力を負担する。棒状部材33はこのように使用されるものであるため,棒状部材33の長さは柱部材32よりも長くなる。より具体的には,上杭10に取り付けられた鞘部材31と下杭20に取り付けられた鞘部材31の長さを合わせた長さよりも,棒状部材33は長いものとなる。
【0026】
上記のようにして組み立てられた組合せ構造体100は,一般的な方法で地中に埋設されて,SMW工法等の土留め壁用の芯材として利用できる。また,組合せ構造体100の上杭10を撤去する際には,まず,各棒状部材33(ネジ節鉄筋)を軸回転させながら上方に引き抜き,これにより上杭10と下杭20の連結状態を緩める。このとき,地表面をある程度掘削して,棒状部材33の引き抜きの障害となる土砂を排除してもよい。次に,上杭10とこれに固定された鞘部材31を地上へ引き上げ,その後柱部材32も同様に地上へ引き上げる。最後に,掘削孔を埋め戻して地表面を元に戻す。これにより,地中には下杭20とこれに固定された鞘部材31のみが残留することとなる。このようにすれば,上杭10を撤去する際に,上杭10と下杭20の継ぎ目付近まで地表を掘削する必要がなくなるため,上杭10の撤去作業を迅速かつ効率的に行うことができる。また,本発明では,上杭10と下杭20を連結するために垂直方向に延びる棒状部材33を利用しており,この棒状部材33の大部分は鞘部材31及び柱部材32の内部空間に保管される。このため,棒状部材33に土砂が直接付着することを抑制でき,棒状部材33を軸回転させて引き抜き易い状態を維持できる。このように,本発明では上杭10と下杭20の連結状態を比較的簡単に解除することができる。
【0027】
図5は,本発明に係る組合せ構造体100の第2の実施形態を示している。以下の実施形態については,第1の実施形態と同じ構造について説明を割愛し,第1の実施形態と異なる点を中心に説明を行う。
図5に示されるように,第2の実施形態は,上杭10と下杭20の継ぎ目に補強手段40を配置するとともに,上杭10と下杭20に固定する鞘部材31の一部をH形鋼の中心部分に据えている点で,第1の実施形態と異なる。
【0028】
補強手段40は,上杭10と下杭20の継ぎ目に覆設された鋼板41と,この鋼板41を上杭10と下杭20のフランジプレート11,21に取り付けるためのボルト42及びナット43で構成されている。このような補強手段40は,地下構造物を構築する際に掘削する作業空間側に設けると良い。すなわち,H形鋼からなる各杭10,20は,一対のフランジプレート11,21を有しており,一方のプレートが作業空間に面し,他方のプレートと土壁と面するように配置される。このとき,作業空間に面するフランジプレート11,21に対して補強手段40を設置すればよい。これにより,補強手段40を脱着しやすくなる。また,補強手段40を設けることで,上杭10と下杭20の継ぎ目に生じる剪断力に対する組合せ構造体100全体の強度を高めることができる。
【0029】
図6は,本発明に係る組合せ構造体100の第3の実施形態を示している。第3の実施形態では,上杭10に鞘部材31が取り付けられておらず,その代わりに,柱部材32がスペーサ35を介して上杭10に固定されている点で,前述した第1の実施形態とは異なる。なお,
図6に示した例では,柱部材32を上杭10に固定することとしているが,柱部材32を下杭20にスペーサ35を介して固定することも可能である。
【0030】
第3の実施形態では,柱部材32を上杭10(又は下杭20)に固定することで,上杭10に取り付ける鞘部材31を省略できるため,その分,資材コストを抑えることができる。なお,上杭10に固定された柱部材32を下杭20に固定された鞘部材31に円滑に挿入できるようにしておく必要があるが,下杭20の鞘部材31には厚みがあるため,柱部材32を上杭10の内面に直接固定してしまうと,その厚みの分だけ挿入位置がずれて,下杭20の鞘部材31に柱部材32を挿入できなくなる。このため,鞘部材31には厚みと略同じ厚みのスペーサ35を上杭10にまず固定し,そのスペーサ35に柱部材32を固定することで,柱部材32と鞘部材31の位置ずれを解消することとしている。
【0031】
図7は,本発明に係る組合せ構造体100の第4の実施形態を示している。第4の実施形態は,第3の実施形態の変形例である。第4の実施形態では,第3の実施形態と同様に,上杭10に鞘部材31が取り付けずに,その代わりとして,柱部材32をスペーサ35を介して上杭10に固定している。さらに,第4の実施形態では,H形鋼からなる上杭10と下杭20のウェブプレート12,22から鞘部材31や柱部材32を離間させている。このため,鞘部材31や柱部材32とウェブプレート12,22との間には一定の空間が生じている。つまり,上杭10において,柱部材32はスペーサ35を介してH形鋼のフランジプレート11に固定され,下杭20において,鞘部材31はH形鋼のフランジプレート21に固定されている。
【0032】
ただし,第4の実施形態のように構成した場合,各杭10,20と鞘部材31又は柱部材32との接合強度が低下する懸念がある。そこで,本実施形態では,各杭10,20のウェブプレート12,22と鞘部材31又は柱部材32とを繋ぐために,断面L形の抑えプレート36を設けている。抑えプレート36は,一面がウェブプレート12,22に固定され,これに直交する他面が鞘部材31又は柱部材32に固定される。このように,抑えプレート36を設置して固定強度を向上させることとしてもよい。
【0033】
図8は,本発明に係る組合せ構造体100の第5の実施形態を示している。本実施形態では,鞘部材31として,角形鋼管の代わりに,断面L字形のアングル部材を用いている。
図8に示されるように,H形鋼からなる下杭20には,フランジプレート21とウェブプレート22が直交することで4つの角部が形成されているが,アングル部材31は,4つの角部のそれぞれに固定されている。断面L字形のアングル部材31は、フランジプレート21とウェブプレート22の両方に接するように配置されてている。このため、アングル部材31,フランジプレート21,及びウェブプレート22によって,上杭10に固定された柱部材22を差し込むための空間が画定されている。このようにアングル部材31を用いることで,例えば
図6に示した実施形態のように,上杭10に柱部材22を固定する際にスペーサ35を用いる必要がなくなる。つまり,
図8に示した実施形態では,柱部材22は,スペーサなしで,上杭10に対して直接固定されている。このように,鞘部材31は,角形鋼管などの筒状部材に限られず,断面L字形(あるいは断面コの字形)のアングル部材を用いることも可能である。
【0034】
以上,本願明細書では,本発明の内容を表現するために,図面を参照しながら本発明の実施形態の説明を行った。ただし,本発明は,上記実施形態に限定されるものではなく,本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。
【符号の説明】
【0035】
10…上杭 11…フランジプレート
12…ウェブプレート 20…下杭
21…フランジプレート 22…ウェブプレート
30…連結手段 31…鞘部材
32…柱部材 33…棒状部材
34…ナットプレート 35…スペーサ
36…抑えプレート 40…補強手段
41…鋼板 42…ボルト
43…ナット 100…組合せ構造体