(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】フォトマスクブランク、フォトマスクブランクの製造方法、フォトマスクの製造方法及び表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/32 20120101AFI20240105BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
G03F1/32
C23C14/06 N
(21)【出願番号】P 2020042741
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】田辺 勝
(72)【発明者】
【氏名】浅川 敬司
(72)【発明者】
【氏名】安森 順一
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-061106(JP,A)
【文献】特開2014-194531(JP,A)
【文献】特開2019-174791(JP,A)
【文献】特開2019-148789(JP,A)
【文献】特開平09-096898(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0146326(US,A1)
【文献】特開2020-095248(JP,A)
【文献】特開2012-042983(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0076621(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/20-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上にパターン形成用薄膜を有するフォトマスクブランクであって、
前記フォトマスクブランクは、前記パターン形成用薄膜をウェットエッチングにより前記透明基板上に転写パターンを有するフォトマスクを形成するための原版であって、
前記パターン形成用薄膜は、遷移金属と、ケイ素とを含有し、
前記パターン形成用薄膜は、柱状構造を有しており、
前記パターン形成用薄膜は、上層及び下層を含み、
前記上層における柱状構造を構成する
柱状の粒子の平均サイズは、前記下層における柱状構造を構成する
柱状の粒子の平均サイズよりも小さいことを特徴とするフォトマスクブランク。
【請求項2】
前記パターン形成用薄膜に含まれる前記遷移金属と前記ケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であることを特徴とする請求項1記載のフォトマスクブランク。
【請求項3】
前記パターン形成用薄膜は、少なくとも窒素または酸素を含有していることを特徴とする請求項1または2に記載のフォトマスクブランク。
【請求項4】
前記遷移金属は、モリブデンであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【請求項5】
前記パターン形成用薄膜は、露光光の代表波長に対して透過率が1%以上80%以下、位相差が160°以上200°以下の光学特性を備えた位相シフト膜であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【請求項6】
前記パターン形成用薄膜上に、該パターン形成用薄膜に対してエッチング選択性が異なるエッチングマスク膜を備えていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【請求項7】
前記エッチングマスク膜は、クロムを含有し、実質的にケイ素を含まない材料からなることを特徴とする請求項6記載のフォトマスクブランク。
【請求項8】
透明基板上に、遷移金属と、ケイ素とを含有するパターン形成用薄膜をスパッタリング法により形成するフォトマスクブランクの製造方法であって、
前記パターン形成用薄膜は、成膜室内に遷移金属とケイ素を含む遷移金属シリサイドターゲットを使用し、スパッタリングガスを供給した前記成膜室内のスパッタリングガス圧力が0.8Pa以上3.0Pa以下であって、
前記パターン形成用薄膜は、上層及び下層を含み、
前記上層を成膜する際における前記成膜室内のスパッタリングガス圧力は、前記下層を成膜する際における前記成膜室内のスパッタリングガス圧力よりも低いことを特徴とするフォトマスクブランクの製造方法。
【請求項9】
前記遷移金属シリサイドターゲットの前記遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であることを特徴とする請求項8記載のフォトマスクブランクの製造方法。
【請求項10】
前記パターン形成用薄膜上に、該パターン形成用薄膜に対してエッチング選択性が異なる材料からなるスパッタターゲットを使用し、エッチングマスク膜を形成することを特徴とする請求項8または9に記載のフォトマスクブランクの製造方法。
【請求項11】
前記パターン形成用薄膜および前記エッチングマスク膜は、インライン型スパッタリング装置を使用して形成することを特徴とする請求項10に記載のフォトマスクブランクの製造方法。
【請求項12】
請求項1から5のいずれかに記載のフォトマスクブランク、または請求項8若しくは9に記載のフォトマスクブランクの製造方法によって製造されたフォトマスクブランクを準備する工程と、
前記パターン形成用薄膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジスト膜パターンをマスクにして前記パターン形成用薄膜をウェットエッチングして、前記透明基板上に転写パターンを形成する工程と、を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【請求項13】
請求項6若しくは7に記載のフォトマスクブランク、または請求項10若しくは11に記載のフォトマスクブランクの製造方法によって製造されたフォトマスクブランクを準備する工程と、
前記エッチングマスク膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジスト膜パターンをマスクにして前記エッチングマスク膜をウェットエッチングして、前記パターン形成用薄膜上にエッチングマスク膜パターンを形成する工程と、
前記エッチングマスク膜パターンをマスクにして、前記パターン形成用薄膜をウェットエッチングして、前記透明基板上に転写パターンを形成する工程と、を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載のフォトマスクの製造方法により得られたフォトマスクを露光装置のマスクステージに載置し、前記フォトマスク上に形成された前記転写パターンを、表示装置基板上に形成されたレジストに露光転写する露光工程を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクブランク、フォトマスクブランクの製造方法、フォトマスクの製造方法及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LCD(Liquid Crystal Display)を代表とするFPD(Flat Panel Display)等の表示装置では、大画面化、広視野角化とともに、高精細化、高速表示化が急速に進んでいる。この高精細化、高速表示化のために必要な要素の1つが、微細で寸法精度の高い素子や配線等の電子回路パターンの作製である。この表示装置用電子回路のパターニングにはフォトリソグラフィが用いられることが多い。このため、微細で高精度なパターンが形成された表示装置製造用の位相シフトマスクやバイナリマスクといったフォトマスクが必要になっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、透明基板上に位相反転膜が備えられた位相反転マスクブランクが開示されている。このマスクブランクにおいて、位相反転膜は、i線(365nm)、h線(405nm)、g線(436nm)を含む複合波長の露光光に対して35%以下の反射率及び1%~40%の透過率を有するようにするとともに、パターン形成時にパターン断面の傾斜が急激に形成されるように酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)の少なくとも1つの軽元素物質を含む金属シリサイド化合物からなる2層以上の多層膜で構成され、金属シリサイド化合物は、上記軽元素物質を含む反応性ガスと不活性ガスが0.5:9.5~4:6の比率で注入して形成されている。
また、特許文献2には、透明基板と、露光光の位相を変える性質を有しかつ金属シリサイド系材料から構成される光半透過膜と、クロム系材料から構成されるエッチングマスク膜と、を備えた位相シフトマスクブランクが開示されている。この位相シフトマスクブランクにおいて、光半透過膜とエッチングマスク膜との界面に組成傾斜領域が形成されている。組成傾斜領域では、光半透過膜のウェットエッチング速度を遅くする成分の割合が、深さ方向に向かって増加する。そして、組成傾斜領域における酸素の含有量は、10原子%以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】韓国登録特許第1801101号
【文献】特許第6101646号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の高精細(1000ppi以上)のパネル作製に使用される位相シフトマスクとしては、高解像のパターン転写を可能にするために、位相シフトマスクであって、かつホール径で、6μm以下、ライン幅で4μm以下の微細な位相シフト膜パターンが形成された位相シフトマスクが要求されている。具体的には、ホール径で1.5μmの微細な位相シフト膜パターンが形成された位相シフトマスクが要求されている。
また、より高解像のパターン転写を実現するため、露光光に対する透過率が15%以上の位相シフト膜を有する位相シフトマスクブランクおよび、露光光に対する透過率が15%以上の位相シフト膜パターンが形成された位相シフトマスクが要求されている。なお、位相シフトマスクブランクや位相シフトマスクの洗浄耐性(化学的特性)においては、位相シフト膜や位相シフト膜パターンの膜減りや表面の組成変化による光学特性の変化が抑制された洗浄耐性を有する位相シフト膜が形成された位相シフトマスクブランクおよび洗浄耐性を有する位相シフト膜パターンが形成された位相シフトマスクが求められている。
露光光に対する透過率の要求と洗浄耐性の要求を満たすため、位相シフト膜を構成する金属シリサイド化合物(金属シリサイド系材料)における金属とケイ素の原子比率におけるケイ素の比率を高くすることが効果的であるが、ウェットエッチング速度が大幅に遅く(ウェットエッチング時間が長く)なるとともに、ウェットエッチング液による基板へのダメージが発生し、透明基板の透過率が低下する等の問題があった。
そして、遷移金属とケイ素とを含有する遮光膜を備えたバイナリマスクブランクにおいて、ウェットエッチングによって遮光膜に遮光パターンを形成する際にも、洗浄耐性についての要求があり、上記と同様の問題があった。
【0006】
そこで本発明は、上述の問題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、遷移金属とケイ素とを含有する位相シフト膜や遮光膜といったパターン形成用薄膜に転写パターンをウェットエッチングにより形成する際に、ウェットエッチング時間を短縮でき、良好な断面形状を有し、パターン形成用薄膜または転写パターンにおいて要求される洗浄耐性を満たし、要求されるラインエッジラフネスを満たす転写パターンが形成できるフォトマスクブランク、フォトマスクブランクの製造方法、フォトマスクの製造方法及び表示装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこれらの問題点を解決するための方策を鋭意検討した。まず、パターン形成用薄膜における遷移金属とケイ素の原子比率を、遷移金属:ケイ素が1:3以上である材料とし、パターン形成用薄膜におけるウェットエッチング液によるウェットエッチング時間を短縮するため、パターン形成用薄膜に酸素(O)が多く含まれるように成膜室内に導入するスパッタリングガス中に含まれる酸素ガスを調整してパターン形成用薄膜を形成した。その結果、転写パターンを形成するためのウェットエッチング速度は速くなったものの、位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜においては、露光光に対する屈折率が低下するために、所望の位相差(例えば180°)を得るための必要な膜厚が厚くなってしまう。また、バイナリマスクブランクにおける遮光膜においては、露光光に対する消衰係数が低下するために、所望の遮光性能(例えば、光学濃度(OD)が3以上)を得るための必要な膜厚が厚くなってしまう。パターン形成用薄膜の膜厚が厚くなることは、ウェットエッチングによるパターン形成においては不利であるとともに、膜厚が厚くなるため、ウェットエッチング時間の短縮効果としては限界があった。一方で、上述した遷移金属とケイ素の原子比率(遷移金属:ケイ素=1:3以上)とすると、パターン形成用薄膜の洗浄耐性を高められる等の有利な点があるため、この点においても、上述した遷移金属とケイ素の組成比から外れるようにすることは好ましくない。
【0008】
そこで、本発明者は発想を転換し、成膜室内におけるスパッタリングガスの圧力を調整して、膜構造を変えることを検討した。基板上にパターン形成用薄膜を成膜する際には、成膜室内におけるスパッタリングガス圧力を0.1~0.5Paとすることが通常である。しかしながら、本発明者は、スパッタリングガス圧力をあえて0.5Paよりも大きくして、パターン形成用薄膜を成膜した。そして、0.8Pa以上3.0Pa以下のスパッタリングガス圧力でパターン形成用薄膜を成膜したところ、薄膜としての好適な特性を備えたうえで、パターン形成用薄膜に転写パターンをウェットエッチングにより形成する際に、エッチング時間を大幅に短縮でき、良好な断面形状を有する転写パターンが形成できることを見出した。そして、このようにして成膜されたパターン形成用薄膜は、通常のパターン形成用薄膜には見られない、柱状構造を有していた。
本発明者はさらに鋭意検討を行い、パターン形成用薄膜を上層及び下層を含む複数層とし、上述した0.8Pa以上3.0Pa以下のスパッタリングガス圧力を満たしたうえで、上層を成膜する際におけるスパッタリングガス圧力を、下層を成膜する際におけるスパッタリングガス圧力よりも低くすることを試みた。すなわち、上層を成膜する際における成膜室内の真空度を、下層を成膜する際における成膜室内の真空度を良くすることを試みた。このようにして、上層及び下層を含むパターン形成用薄膜を成膜したところ、上述した薄膜としての好適な特性を備えたうえで、パターン形成用薄膜または転写パターンにおいて要求される洗浄耐性を満たし、要求されるラインエッジラフネスを満たす転写パターンが形成できることを見出した。そして、このようにして成膜されたパターン形成用薄膜の上層及び下層は、いずれも上述した柱状構造を有しており、上層における柱状構造を構成する粒子のサイズは、前記下層における柱状構造を構成する粒子のサイズよりも小さいものであった。
本発明は、以上のような鋭意検討の結果なされたものであり、以下の構成を有する。
【0009】
(構成1)透明基板上にパターン形成用薄膜を有するフォトマスクブランクであって、
前記フォトマスクブランクは、前記パターン形成用薄膜をウェットエッチングにより前記透明基板上に転写パターンを有するフォトマスクを形成するための原版であって、
前記パターン形成用薄膜は、遷移金属と、ケイ素とを含有し、
前記パターン形成用薄膜は、柱状構造を有しており、
前記パターン形成用薄膜は、上層及び下層を含み、
前記上層における柱状構造を構成する粒子の平均サイズは、前記下層における柱状構造を構成する粒子の平均サイズよりも小さいことを特徴とするフォトマスクブランク。
【0010】
(構成2)前記パターン形成用薄膜に含まれる前記遷移金属と前記ケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であることを特徴とする構成1記載のフォトマスクブランク。
【0011】
(構成3)前記パターン形成用薄膜は、少なくとも窒素または酸素を含有していることを特徴とする構成1または2に記載のフォトマスクブランク。
(構成4)前記遷移金属は、モリブデンであることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【0012】
(構成5)前記パターン形成用薄膜は、露光光の代表波長に対して透過率が1%以上80%以下、位相差が160°以上200°以下の光学特性を備えた位相シフト膜であることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【0013】
(構成6)前記パターン形成用薄膜上に、該パターン形成用薄膜に対してエッチング選択性が異なるエッチングマスク膜を備えていることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
(構成7)前記エッチングマスク膜は、クロムを含有し、実質的にケイ素を含まない材料からなることを特徴とする構成6記載のフォトマスクブランク。
【0014】
(構成8)透明基板上に、遷移金属と、ケイ素とを含有するパターン形成用薄膜をスパッタリング法により形成するフォトマスクブランクの製造方法であって、
前記パターン形成用薄膜は、成膜室内に遷移金属とケイ素を含む遷移金属シリサイドターゲットを使用し、スパッタリングガスを供給した前記成膜室内のスパッタリングガス圧力が0.8Pa以上3.0Pa以下であって、
前記パターン形成用薄膜は、上層及び下層を含み、
前記上層を成膜する際における前記成膜室内のスパッタリングガス圧力は、前記下層を成膜する際における前記成膜室内のスパッタリングガス圧力よりも低いことを特徴とするフォトマスクブランクの製造方法。
【0015】
(構成9)前記遷移金属シリサイドターゲットの前記遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であることを特徴とする構成8記載のフォトマスクブランクの製造方法。
【0016】
(構成10)前記パターン形成用薄膜上に、該パターン形成用薄膜に対してエッチング選択性が異なる材料からなるスパッタターゲットを使用し、エッチングマスク膜を形成することを特徴とする構成8または9に記載のフォトマスクブランクの製造方法。
(構成11)前記パターン形成用薄膜および前記エッチングマスク膜は、インライン型スパッタリング装置を使用して形成することを特徴とする構成10に記載のフォトマスクブランクの製造方法。
【0017】
(構成12)構成1から5のいずれかに記載のフォトマスクブランク、または構成8若しくは9に記載のフォトマスクブランクの製造方法によって製造されたフォトマスクブランクを準備する工程と、
前記パターン形成用薄膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジスト膜パターンをマスクにして前記パターン形成用薄膜をウェットエッチングして、前記透明基板上に転写パターンを形成する工程と、を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【0018】
(構成13)構成6若しくは7に記載のフォトマスクブランク、または構成10若しくは11に記載のフォトマスクブランクの製造方法によって製造されたフォトマスクブランクを準備する工程と、
前記エッチングマスク膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジスト膜パターンをマスクにして前記エッチングマスク膜をウェットエッチングして、前記パターン形成用薄膜上にエッチングマスク膜パターンを形成する工程と、
前記エッチングマスク膜パターンをマスクにして、前記パターン形成用薄膜をウェットエッチングして、前記透明基板上に転写パターンを形成する工程と、を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
(構成14)構成12または13に記載のフォトマスクの製造方法により得られたフォトマスクを露光装置のマスクステージに載置し、前記フォトマスク上に形成された前記転写パターンを、表示装置基板上に形成されたレジストに露光転写する露光工程を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るフォトマスクブランクまたはフォトマスクブランクの製造方法によれば、転写パターン用薄膜をウェットエッチングにより要求される微細な転写パターンを形成する際に、パターン形成用薄膜を洗浄耐性等の視点からケイ素リッチな金属シリサイド化合物にした場合であっても、ウェットエッチング液による基板へのダメージを起因とした透明基板の透過率の低下がなく、短いエッチング時間で、良好な断面形状を有し、パターン形成用薄膜または転写パターンにおいて要求される洗浄耐性を満たし、要求されるラインエッジラフネスを満たす転写パターンが形成できるフォトマスクブランクを得ることができる。
【0020】
また、本発明に係るフォトマスクの製造方法によれば、上述したフォトマスクブランクを用いてフォトマスクを製造する。このため、パターン形成用薄膜を洗浄耐性等の視点からケイ素リッチな金属シリサイド化合物にした場合であっても、ウェットエッチング液による基板へのダメージを起因とした透明基板の透過率の低下がなく、転写精度の良好な、そして、パターン形成用薄膜または転写パターンにおいて要求される洗浄耐性を満たし、要求されるラインエッジラフネスを満たす転写パターンを有するフォトマスクを製造することができる。このフォトマスクは、ラインアンドスペースパターンやコンタクトホールの微細化に対応することができる。
【0021】
また、本発明に係る表示装置の製造方法によれば、上述したフォトマスクブランクを用いて製造されたフォトマスクまたは上述したフォトマスクの製造方法によって得られたフォトマスクを用いて表示装置を製造する。このため、微細なラインアンドスペースパターンやコンタクトホールを有する表示装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施の形態1にかかる位相シフトマスクブランクの膜構成を示す模式図である。
【
図2】実施の形態2にかかる位相シフトマスクブランクの膜構成を示す模式図である。
【
図3】実施の形態3にかかる位相シフトマスクの製造工程を示す模式図である。
【
図4】実施の形態4にかかる位相シフトマスクの製造工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施の形態1.2.
実施の形態1、2では、位相シフトマスクブランクについて説明する。実施の形態1の位相シフトマスクブランクは、エッチングマスク膜に所望のパターンが形成されたエッチングマスク膜パターンをマスクにして、位相シフト膜をウェットエッチングにより透明基板上に位相シフト膜パターンを有する位相シフトマスクを形成するための原版である。また、実施の形態2の位相シフトマスクブランクは、レジスト膜に所望のパターンが形成されたレジスト膜パターンをマスクにして、位相シフト膜をウェットエッチングにより透明基板上に位相シフト膜パターンを有する位相シフト膜を形成するための原版である。
【0024】
図1は実施の形態1にかかる位相シフトマスクブランク10の膜構成を示す模式図である。
図1に示す位相シフトマスクブランク10は、透明基板20と、透明基板20上に形成された位相シフト膜30と、位相シフト膜30上に形成されたエッチングマスク膜40とを備える。
図2は実施の形態2にかかる位相シフトマスクブランク10の膜構成を示す模式図である。
図2に示す位相シフトマスクブランク10は、透明基板20と、透明基板20上に形成された位相シフト膜30とを備える。
そして、
図1、
図2に示すように、位相シフト膜30は、上層31と、下層32とを含むものである。
以下、実施の形態1および実施の形態2の位相シフトマスクブランク10を構成する透明基板20、位相シフト膜30およびエッチングマスク膜40について説明する。
【0025】
透明基板20は、露光光に対して透明である。透明基板20は、表面反射ロスが無いとしたときに、露光光に対して85%以上の透過率、好ましくは90%以上の透過率を有するものである。透明基板20は、ケイ素と酸素を含有する材料からなり、合成石英ガラス、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO2-TiO2ガラス等)などのガラス材料で構成することができる。透明基板20が低熱膨張ガラスから構成される場合、透明基板20の熱変形に起因する位相シフト膜パターンの位置変化を抑制することができる。また、表示装置用途で使用される透明基板20は、一般に矩形状の基板であって、該透明基板の短辺の長さは300mm以上であるものが使用される。本発明は、透明基板の短辺の長さが300mm以上の大きなサイズであっても、透明基板上に形成される例えば2.0μm未満の微細な位相シフト膜パターンを安定して転写することができる位相シフトマスクを提供可能な位相シフトマスクブランクである。
【0026】
位相シフト膜30は、遷移金属と、ケイ素とを含有する遷移金属シリサイド系材料で構成される。遷移金属として、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)などが好適であり、特に、モリブデン(Mo)であるとさらに好ましい。
また、位相シフト膜30は、少なくとも窒素または酸素を含有していることが好ましい。上記遷移金属シリサイド系材料において、軽元素成分である酸素は、同じく軽元素成分である窒素と比べて、消衰係数を下げる効果があるため、所望の透過率を得るための他の軽元素成分(窒素など)の含有率を少なくすることができるとともに、位相シフト膜30の表面および裏面の反射率も効果的に低減することができる。また、上記遷移金属シリサイド系材料において、軽元素成分である窒素は、同じく軽元素成分である酸素と比べて、屈折率を下げない効果があるため、所望の位相差を得るための膜厚を薄くできる。また、位相シフト膜30に含まれる酸素と窒素を含む軽元素成分の合計含有率は、40原子%以上が好ましい。さらに好ましくは、40原子%以上70原子%以下、50原子%以上65原子%以下が望ましい。また、位相シフト膜30に酸素が含まれる場合は、酸素の含有率は、0原子%超25原子%以下であることが、欠陥品質、耐薬品性に於いて望ましい。また、上述の軽元素成分の合計含有率の範囲内において、位相シフト膜30の上層31における軽元素成分の合計含有率は、下層32における軽元素成分の合計含有率よりも小さいことが好ましい。上層31と下層32の軽元素成分の合計含有率の関係を上述の関係のようにすることによって、露光光の代表波長における下層32の屈折率n2、消衰係数k2を上層31の屈折率n1、消衰係数k1よりも小さくすることができるので、露光光の代表波長における裏面反射率を低くすることができる。具体的には、上層31と下層32の屈折率、消衰係数、膜厚を適宜調整することにより、露光光の代表波長(例えば、h線(波長405nm))における位相シフト膜30の裏面反射率を15%以下にすることができる。位相シフト膜30の裏面反射率を15%以下にすることによって、位相シフトマスクを露光装置にセットした時の裏面反射率を抑え、露光装置の光学系への戻り光を抑えることができる。従って、位相シフトマスクを用いたパターン転写特性も有利になるので好ましい。パターン転写特性の観点から、露光光の代表波長における位相シフト膜30の裏面反射率は、好ましくは10%以下、更に好ましくは、5%以下にすることが望ましい。
遷移金属シリサイド系材料としては、例えば、遷移金属シリサイドの窒化物、遷移金属シリサイドの酸化物、遷移金属シリサイドの酸化窒化物、遷移金属シリサイドの酸化窒化炭化物が挙げられる。また、遷移金属シリサイド系材料は、モリブデンシリサイド系材料(MoSi系材料)、ジルコニウムシリサイド系材料(ZrSi系材料)、モリブデンジルコニウムシリサイド系材料(MoZrSi系材料)であると、ウェットエッチングによる優れたパターン断面形状が得られやすいという点で好ましく、特にモリブデンシリサイド系材料(MoSi系材料)であると好ましい。
また、位相シフト膜30には、上述した酸素、窒素の他に、膜応力の低減やウェットエッチングレートを制御する目的で、炭素やヘリウム等の他の軽元素成分を含有してもよい。
位相シフト膜30は、透明基板20側から入射する光に対する反射率(以下、裏面反射率と記載する場合がある)を調整する機能と、露光光に対する透過率と位相差とを調整する機能とを有する。
位相シフト膜30は、スパッタリング法により形成することができる。
【0027】
この位相シフト膜30は柱状構造を有している。この柱状構造は、位相シフト膜30の断面SEM観察により確認することができる。すなわち、本発明における柱状構造は、位相シフト膜30を構成する遷移金属とケイ素とを含有する遷移金属シリサイド化合物の粒子が、位相シフト膜30の膜厚方向(上記粒子が堆積する方向)に向かって伸びる柱状の粒子構造を有する状態をいう。なお、本願においては、膜厚方向の長さがその垂直方向の長さよりも長いものを柱状の粒子としている。すなわち、位相シフト膜30は、膜厚方向に向かって伸びる柱状の粒子が、透明基板20の面内に渡って形成されている。また、位相シフト膜30は、成膜条件(スパッタリング圧力など)を調整することにより、柱状の粒子よりも相対的に密度の低い疎の部分(以下、単に「疎の部分」ということもある)も形成されている。なお、位相シフト膜30は、ウェットエッチングの際のサイドエッチングを効果的に抑制し、パターン断面形状をさらに良化するために、位相シフト膜30の柱状構造の好ましい形態としては、膜厚方向に伸びる柱状の粒子が、膜厚方向に不規則に形成されているのが好ましい。さらに好ましくは、位相シフト膜30の柱状の粒子は、膜厚方向の長さが不揃いな状態であるのが好ましい。そして、位相シフト膜30の疎の部分は、膜厚方向において連続的に形成されていることが好ましい。また、位相シフト膜30の疎の部分は、膜厚方向に垂直な方向おいて断続的に形成されていることが好ましい。位相シフト膜30を上記に説明した柱状構造とすることにより、ウェットエッチング液を用いたウェットエッチングの際、位相シフト膜30の膜厚方向にウェットエッチング液が浸透しやすくなるので、ウェットエッチング速度が速くなり、ウェットエッチング時間を大幅に短縮することができる。従って、位相シフト膜30が、ケイ素リッチな金属シリサイド化合物であっても、ウェットエッチング液による基板へのダメージを起因とした透明基板の透過率の低下がない。また、位相シフト膜30が膜厚方向に伸びる柱状構造を有しているので、ウェットエッチングの際のサイドエッチングが抑制されるので、パターン断面形状も良好となる。
【0028】
また、位相シフト膜30の上層31における柱状構造の粒子の平均サイズは、下層32における柱状構造の粒子の平均サイズよりも小さくなっている。ここでいう柱状構造の粒子の平均サイズとは、位相シフト膜30の膜厚方向に対して垂直方向(面内方向)のサイズを平均したサイズをいう。柱状構造の粒子の平均サイズは、位相シフト膜30を有する位相シフトマスクブランク10の断面SEM写真を80000倍で観察した際の位相シフト膜30の膜厚中心付近における面内方向300nmの領域における柱状構造の粒子のサイズを測定して求められる。換言すれば、位相シフト膜30の上層31における疎の部分の出現頻度は、下層32における柱状構造の疎の部分よりも全体的に少なくなっている。このような位相シフト膜30の構成により、上層31における柱状構造の粒子の平均サイズが下層32と比べて小さい(柱状構造の疎の部分が少ない)ので、位相シフト膜30において要求される洗浄耐性を満たし、さらに、位相シフト膜30をパターニングした際のラインエッジラフネスも要求特性を満たすことができる。また一方で、下層32における柱状構造の粒子の平均サイズが上層31と比べて大きい(柱状構造の疎の部分が多い)ので、ウェットエッチングの際のサイドエッチングを効果的に抑制でき、位相シフト膜30をウェットエッチングした後の位相シフト膜パターンの断面形状を良好にすることができる。すなわち、このような上層31及び下層32を備えた位相シフト膜30は、位相シフト膜30または位相シフト膜パターン30aにおいて要求される洗浄耐性を満たし、要求されるラインエッジラフネスを満たすとともに良好な断面形状を有する位相シフト膜パターンを、形成することができる。
ここで、上層31における柱状構造の主な粒子の平均サイズは5~30nmであることが好ましく、下層32における柱状構造の粒子の平均サイズは10~40nmであることが好ましい。
【0029】
位相シフト膜30に含まれる遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であることが好ましい。この範囲であると、位相シフト膜30のパターン形成時におけるウェットエッチングレート低下を、柱状構造により抑制する効果を大きくすることができる。また、位相シフト膜30の洗浄耐性を高めることができ、透過率を高めることも容易となる。位相シフト膜30の洗浄耐性を高める視点からは、位相シフト膜30に含まれる遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:4以上1:15以下、さらに好ましくは、遷移金属:ケイ素=1:5以上1:15以下が望ましい。
【0030】
露光光に対する位相シフト膜30の透過率は、位相シフト膜30として必要な値を満たす。位相シフト膜30の透過率は、露光光に含まれる所定の波長の光(以下、代表波長という)に対して、好ましくは、1%以上80%以下であり、より好ましくは、15%以上65%以下であり、さらに好ましくは20%以上60%以下である。すなわち、露光光が313nm以上436nm以下の波長範囲の光を含む複合光である場合、位相シフト膜30は、その波長範囲に含まれる代表波長の光に対して、上述した透過率を有する。例えば、露光光がi線、h線およびg線を含む複合光である場合、位相シフト膜30は、i線、h線およびg線のいずれかに対して、上述した透過率を有する。
透過率は、位相シフト量測定装置などを用いて測定することができる。
【0031】
露光光に対する位相シフト膜30の位相差は、位相シフト膜30として必要な値を満たす。位相シフト膜30の位相差は、露光光に含まれる代表波長の光に対して、好ましくは、160°以上200°以下であり、より好ましくは、170°以上190°以下である。この性質により、露光光に含まれる代表波長の光の位相を160°以上200°以下に変えることができる。このため、位相シフト膜30を透過した代表波長の光と透明基板20のみを透過した代表波長の光との間に160°以上200°以下の位相差が生じる。すなわち、露光光が313nm以上436nm以下の波長範囲の光を含む複合光である場合、位相シフト膜30は、その波長範囲に含まれる代表波長の光に対して、上述した位相差を有する。例えば、露光光がi線、h線およびg線を含む複合光である場合、位相シフト膜30は、i線、h線およびg線のいずれかに対して、上述した位相差を有する。
位相差は、位相シフト量測定装置などを用いて測定することができる。
【0032】
また、位相シフト膜30の上層31の屈折率及び消衰係数は、下層32の屈折率及び消衰係数よりもいずれも大きくし、上層31及び下層32の膜厚を適宜設定することにより、位相シフト膜30の裏面反射率を小さくすることができる。
位相シフト膜30の裏面反射率は、365nm~436nmの波長域における代表波長において15%以下であり、10%以下であると好ましい。また、位相シフト膜30の裏面反射率は、露光光にj線が含まれる場合、313nm~436nmの波長域における代表波長において20%以下であると好ましく、17%以下であるとより好ましい。さらに好ましくは15%以下であることが望ましい。位相シフト膜30の裏面反射率は、望ましくは、365nm~436nmの波長域の全域において15%以下、さらに好ましくは10%以下が好ましい。また、位相シフト膜30の裏面反射率は、365nm~436nmの波長域における代表波長において0.2%以上であり、313nm~436nmの波長域における代表波長において0.2%以上であると好ましい。位相シフト膜30の裏面反射率は、望ましくは365nm~436nmの波長域の全域において0.2%以上、または、313nm~436nmの波長域の全域において0.2%以上が好ましい。
裏面反射率は、分光光度計などを用いて測定することができる。
【0033】
なお、これらの実施形態においては、位相シフト膜30が上層31及び下層32の2層で構成される場合について説明したが、この構成に限定されるものではなく、3層以上で構成してもよい。その場合、上側の層における柱状構造の粒子のサイズは、下側の層における柱状構造の粒子の平均サイズよりも小さくなるものであることが好ましい。
【0034】
エッチングマスク膜40は、位相シフト膜30の上側に配置され、位相シフト膜30をエッチングするエッチング液に対してエッチング耐性を有する(位相シフト膜30とエッチング選択性が異なる)材料からなる。また、エッチングマスク膜40は、露光光の透過を遮る機能を有してもよいし、さらに、位相シフト膜30側より入射される光に対する位相シフト膜30の膜面反射率が350nm~436nmの波長域において15%以下となるように膜面反射率を低減する機能を有してもよい。エッチングマスク膜40は、クロム(Cr)を含有するクロム系材料から構成される。クロム系材料として、より具体的には、クロム(Cr)、又は、クロム(Cr)と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)のうちの少なくともいずれか1つを含有する材料が挙げられる。又は、クロム(Cr)と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)のうちの少なくともいずれか1つとを含み、さらに、フッ素(F)を含む材料が挙げられる。例えば、エッチングマスク膜40を構成する材料として、Cr、CrO、CrN、CrF、CrCO、CrCN、CrON、CrCON、CrCONFが挙げられる。また、エッチングマスク膜40は、実質的にケイ素を含まない材料からなることが好ましい。ここで、実質的にケイ素を含まない材料とは、エッチングマスク膜40に含まれるケイ素の含有率が2原子%以下である材料のことをいう。また、エッチングマスク膜40は、ケイ素の含有率が測定装置の検出下限値以下であることが好ましい。
エッチングマスク膜40は、スパッタリング法により形成することができる。
【0035】
エッチングマスク膜40が露光光の透過を遮る機能を有する場合、位相シフト膜30とエッチングマスク膜40とが積層する部分において、露光光に対する光学濃度は、好ましくは3以上であり、より好ましくは、3.5以上、さらに好ましくは4以上である。
光学濃度は、分光光度計またはODメーターなどを用いて測定することができる。
【0036】
エッチングマスク膜40は、機能に応じて組成が均一な単一の膜からなる場合であってもよいし、組成が異なる複数の膜からなる場合であってもよいし、厚さ方向に組成が連続的に変化する単一の膜からなる場合であってもよい。
【0037】
なお、
図1に示す位相シフトマスクブランク10は、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜40を備えているが、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜40を備え、エッチングマスク膜40上にレジスト膜を備える位相シフトマスクブランクについても、本発明を適用することができる。
【0038】
次に、この実施の形態1および2の位相シフトマスクブランク10の製造方法について説明する。
図1に示す位相シフトマスクブランク10は、以下の位相シフト膜形成工程とエッチングマスク膜形成工程とを行うことによって製造される。
図2に示す位相シフトマスクブランク10は、位相シフト膜形成工程を行うことによって製造される。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0039】
1.位相シフト膜形成工程
先ず、透明基板20を準備する。透明基板20は、露光光に対して透明であれば、合成石英ガラス、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO2-TiO2ガラス等)などのいずれのガラス材料で構成されるものであってもよい。
【0040】
次に、透明基板20上に、スパッタリング法により、位相シフト膜30を形成する。
位相シフト膜30の成膜は、位相シフト膜30を構成する材料の主成分となる遷移金属とケイ素を含む遷移金属シリサイドターゲット、又は遷移金属とケイ素と酸素及び/又は窒素を含む遷移金属シリサイドターゲットをスパッタターゲットに使用して、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスからなるスパッタガス雰囲気、又は、上記不活性ガスと、酸素ガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガスからなる群より選ばれて酸素及び窒素を少なくとも含む活性ガスとの混合ガスからなるスパッタガス雰囲気で行われる。そして、位相シフト膜30は、スパッタリングガスを供給した成膜室内のガス圧力が0.8Pa以上3.0Pa以下の雰囲気で形成する。ガス圧力の範囲をこのように設定することで、位相シフト膜30に柱状構造を形成することができる。この柱状構造により、後述するパターン形成時におけるサイドエッチングを抑制できるとともに、高エッチングレートを達成することができる。ここで、遷移金属シリサイドターゲットの遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であることが、ウェットエッチング速度の低下を柱状構造によって抑制する効果が大きく、位相シフト膜30の洗浄耐性を高めることができ、透過率を高めることも容易となる等の点で、好ましい。
この位相シフト膜30を成膜する際に、上述した0.8Pa以上3.0Pa以下のスパッタリングガス圧力を満たしたうえで、位相シフト膜30の上層31を成膜する際におけるスパッタリングガス圧力を、位相シフト膜30の下層32を成膜する際におけるスパッタリングガス圧力よりも低くして(すなわち、上層31を成膜する際における成膜室内の真空度を、下層32を成膜する際における成膜室内の真空度を良くして)、上層31及び下層32を含む位相シフト膜30を形成する。ここで、上層31を成膜する際におけるスパッタリングガス圧力は、0.8Pa以上1.5Pa以下であることが好ましく、下層32を成膜する際におけるスパッタリングガス圧力は、1.2Pa以上3.0Pa以下であることが好ましい。スパッタリングガス圧力は、成膜室に接続された真空ポンプのメインバルブの開口量を制御することで、調整することができる。
このように上層31及び下層32の成膜時における真空度をそれぞれ調整することで、上層31における柱状構造を構成する粒子のサイズを、下層32における柱状構造を構成する粒子のサイズよりも小さくすることができる。これにより、良好な断面形状を有し、位相シフト膜30または位相シフト膜パターン30aにおいて要求される洗浄耐性を満たし、要求されるラインエッジラフネスを満たす位相シフト膜パターン30aが形成できる位相シフトマスクブランク10を得ることができる。
上層31を成膜する際におけるスパッタリングガス圧力と、下層32を成膜する際におけるスパッタリングガス圧力との差は、0.3Pa以上1.2Pa以下が好ましい。さらに好ましくは、0.4Pa以上1.0Pa以下が望ましい。上層31を成膜する際におけるスパッタリングガス圧力と下層32を成膜する際におけるスパッタリングガス圧力の差が0.3Pa未満の場合、位相シフト膜30が単層若しくは、同一の成膜条件で複数層成膜した位相シフト膜30と、本願発明における位相シフト膜30との効果の差(良好な断面形状、要求される洗浄耐性やラインエッジラフネス)が小さくなる。また、上層31を成膜する際におけるスパッタリングガス圧力と下層32を成膜する際におけるスパッタリングガス圧力の差が1.2Pa超の場合、位相シフト膜30をウェットエッチングでパターニングする際の上層31と下層32のサイドエッチング量に差が生じるので、位相シフト膜パターンの断面形状に段差が生じやすくなるので好ましくない。
【0041】
位相シフト膜30の組成及び厚さは、位相シフト膜30が上記の位相差及び透過率となるように調整される。位相シフト膜30の組成は、スパッタターゲットを構成する元素の含有比率(例えば、遷移金属の含有率とケイ素の含有率との比)、スパッタガスの組成及び流量などにより制御することができる。位相シフト膜30の厚さは、スパッタパワー、スパッタリング時間などにより制御することができる。また、位相シフト膜30は、インライン型スパッタリング装置を使用して形成することが好ましい。スパッタリング装置がインライン型スパッタリング装置の場合、基板の搬送速度によっても、位相シフト膜30の厚さを制御することができる。このように、位相シフト膜30の酸素と窒素を含む軽元素成分の含有率が40原子%以上70原子%以下となるように制御を行う。
そして、位相シフト膜30の上層31は、下層32よりも薄いことが好ましい。上層31は、位相シフト膜30の洗浄耐性の向上やラインエッジラフネスを低減させる機能を主として有しており、下層32は、ウェットエッチング時間の短縮や断面形状を良好にする機能を主として有しているためである。より具体的には、位相シフト膜30全体の厚さは、120nm~250nmであることが好ましく、その上で、上層31の厚さは、10nm~50nmであることが好ましく、下層32の厚さは、70nm~240nmであることが好ましい。
【0042】
位相シフト膜30が、組成の異なる複数の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、スパッタガスの組成及び流量を適宜調整して複数回行う。スパッタターゲットを構成する元素の含有比率が異なるターゲットを使用して位相シフト膜30を成膜してもよい。成膜プロセスを複数回行う場合、スパッタターゲットに印加するスパッタパワーを成膜プロセス毎に変更してもよい。
【0043】
2.表面処理工程
位相シフト膜30が、遷移金属と、ケイ素と、酸素を含有する遷移金属シリサイド酸化物や、遷移金属と、ケイ素と、酸素と、窒素を含有する遷移金属シリサイド酸化窒化物などの酸素を含有する遷移金属シリサイド材料からなる場合、この位相シフト膜30の表面について、遷移金属の酸化物の存在によるエッチング液による浸み込みを抑制するため、位相シフト膜30の表面酸化の状態を調整する表面処理工程を行うようにしてもよい。なお、位相シフト膜30が、遷移金属と、ケイ素と、窒素を含有する遷移金属シリサイド窒化物からなる場合、上述の酸素を含有する遷移金属シリサイド材料と比べて、遷移金属の酸化物の含有率が小さい。そのため、位相シフト膜30の材料が、遷移金属シリサイド窒化物の場合は、上記表面処理工程を行うようにしてもよいし、行わなくてもよい。
位相シフト膜30の表面酸化の状態を調整する表面処理工程としては、酸性の水溶液で表面処理する方法、アルカリ性の水溶液で表面処理する方法、アッシング等のドライ処理で表面処理する方法などが挙げられる。
このようにして、実施の形態2の位相シフトマスクブランク10が得られる。実施の形態1の位相シフトマスクブランク10の製造には、以下のエッチングマスク膜形成工程をさらに行う。
【0044】
3.エッチングマスク膜形成工程
位相シフト膜形成工程の後、必要に応じて、位相シフト膜30の表面の表面酸化の状態を調整する表面処理を必要に応じて行い、その後、スパッタリング法により、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜40を形成する。エッチングマスク膜40は、インライン型スパッタリング装置を使用して形成することが好ましい。スパッタリング装置がインライン型スパッタリング装置の場合、透明基板20の搬送速度によっても、エッチングマスク膜40の厚さを制御することができる。
エッチングマスク膜40の成膜は、クロム又はクロム化合物(酸化クロム、窒化クロム、炭化クロム、酸化窒化クロム、酸化窒化炭化クロム等)を含むスパッタターゲットを使用して、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスからなるスパッタガス雰囲気、又は、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスと、酸素ガス、窒素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、二酸化炭素ガス、炭化水素系ガス、フッ素系ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む活性ガスとの混合ガスからなるスパッタガス雰囲気で行われる。炭化水素系ガスとしては、例えば、メタンガス、ブタンガス、プロパンガス、スチレンガス等が挙げられる。そして、スパッタリングを行う際における成膜室内のガス圧力を調整することにより、位相シフト膜30と同様にエッチングマスク膜40を柱状構造にすることができる。これにより、後述するパターン形成時におけるサイドエッチ
ングを抑制できるとともに、高エッチングレートを達成することができる。
【0045】
エッチングマスク膜40が、組成の均一な単一の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、スパッタガスの組成及び流量を変えずに1回だけ行う。エッチングマスク膜40が、組成の異なる複数の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、成膜プロセス毎にスパッタガスの組成及び流量を変えて複数回行う。エッチングマスク膜40が、厚さ方向に組成が連続的に変化する単一の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、スパッタガスの組成及び流量を成膜プロセスの経過時間と共に変化させながら1回だけ行う。
このようにして、実施の形態1の位相シフトマスクブランク10が得られる。
【0046】
なお、
図1に示す位相シフトマスクブランク10は、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜40を備えているため、位相シフトマスクブランク10を製造する際に、エッチングマスク膜形成工程を行う。また、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜40を備え、エッチングマスク膜40上にレジスト膜を備える位相シフトマスクブランクを製造する際は、エッチングマスク膜形成工程後に、エッチングマスク膜40上にレジスト膜を形成する。また、
図2に示す位相シフトマスクブランク10において、位相シフト膜30上にレジスト膜を備える位相シフトマスクブランクを製造する際は、位相シフト膜形成工程後に、レジスト膜を形成する。
【0047】
この実施の形態1の位相シフトマスクブランク10は、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜40が形成されており、少なくとも位相シフト膜30は、柱状構造を有している。また、実施の形態2の位相シフトマスクブランク10は、位相シフト膜30が形成されており、この位相シフト膜30は柱状構造を有している。
【0048】
この実施の形態1および2の位相シフトマスクブランク10は、ウェットエッチングにより位相シフト膜30をパターニングする際に、膜厚方向のエッチングが促進される一方でサイドエッチングが抑制されるので、断面形状が良好であり、所望の透過率を有する(例えば、透過率の高い)とともに、位相シフト膜または位相シフト膜パターンにおいて要求される洗浄耐性を満たし、要求されるラインエッジラフネスを満たす位相シフト膜パターンを、短いエッチング時間で形成することができる。従って、ウェットエッチング液による基板へのダメージを起因とした透明基板の透過率の低下がなく、高精細な位相シフト膜パターンを精度よく転写することができる位相シフトマスクを製造することができる位相シフトマスクブランクが得られる。
【0049】
実施の形態3.4.
実施の形態3、4では、位相シフトマスクの製造方法について説明する。
【0050】
図3は実施の形態3にかかる位相シフトマスクの製造方法を示す模式図である。
図4は実施の形態4にかかる位相シフトマスクの製造方法を示す模式図である。
図3に示す位相シフトマスクの製造方法は、
図1に示す位相シフトマスクブランク10を用いて位相シフトマスクを製造する方法であり、以下の位相シフトマスクブランク10のエッチングマスク膜40上にレジスト膜を形成する工程と、レジスト膜に所望のパターンを描画・現像を行うことにより、レジスト膜パターン50を形成し(第1のレジスト膜パターン形成工程)、該レジスト膜パターン50をマスクにしてエッチングマスク膜40をウェットエッチングして、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜パターン40aを形成する工程(第1のエッチングマスク膜パターン形成工程)と、記エッチングマスク膜パターン40aをマスクにして、位相シフト膜30をウェットエッチングして透明基板20上に位相シフト膜パターン30aを形成する工程(位相シフト膜パターン形成工程)と、を含む。そして、第2のレジスト膜パターン形成工程と、第2のエッチングマスク膜パターン形成工程とをさらに含む。
【0051】
図4に示す位相シフトマスクの製造方法は、
図2に示す位相シフトマスクブランク10を用いて位相シフトマスクを製造する方法であり、以下の位相シフトマスクブランク10の上にレジスト膜を形成する工程と、レジスト膜に所望のパターンを描画・現像を行うことにより、レジスト膜パターン50を形成し(第1のレジスト膜パターン形成工程)、該レジスト膜パターン50をマスクにして位相シフト膜30をウェットエッチングして、透明基板20上に位相シフト膜パターン30aを形成する工程(位相シフト膜パターン形成工程)と、を含む。
以下、実施の形態3および4にかかる位相シフトマスクの製造工程の各工程を詳細に説明する。
【0052】
実施の形態3にかかる位相シフトマスクの製造工程
1.第1のレジスト膜パターン形成工程
第1のレジスト膜パターン形成工程では、先ず、実施の形態1の位相シフトマスクブランク10のエッチングマスク膜40上に、レジスト膜を形成する。使用するレジスト膜材料は、特に制限されない。例えば、後述する350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光に対して感光するものであればよい。また、レジスト膜は、ポジ型、ネガ型のいずれであっても構わない。
その後、350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光を用いて、レジスト膜に所望のパターンを描画する。レジスト膜に描画するパターンは、位相シフト膜30に形成するパターンである。レジスト膜に描画するパターンとして、ラインアンドスペースパターンやホールパターンが挙げられる。
その後、レジスト膜を所定の現像液で現像して、
図3(a)に示されるように、エッチングマスク膜40上に第1のレジスト膜パターン50を形成する。
【0053】
2.第1のエッチングマスク膜パターン形成工程
第1のエッチングマスク膜パターン形成工程では、先ず、第1のレジスト膜パターン50をマスクにしてエッチングマスク膜40をエッチングして、第1のエッチングマスク膜パターン40aを形成する。エッチングマスク膜40は、クロム(Cr)を含むクロム系材料から形成される。エッチングマスク膜40が柱状構造を有している場合、エッチング速度が速く、サイドエッチングを抑制できる点で好ましい。エッチングマスク膜40をエッチングするエッチング液は、エッチングマスク膜40を選択的にエッチングできるものであれば、特に制限されない。具体的には、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むエッチング液が挙げられる。
その後、レジスト剥離液を用いて、又は、アッシングによって、
図3(b)に示されるように、第1のレジスト膜パターン50を剥離する。場合によっては、第1のレジスト膜パターン50を剥離せずに、次の位相シフト膜パターン形成工程を行ってもよい。
【0054】
3.位相シフト膜パターン形成工程
第1の位相シフト膜パターン形成工程では、第1のエッチングマスク膜パターン40aをマスクにして上層31及び下層32を含む位相シフト膜30をウェットエッチングして、
図3(c)に示されるように、上層パターン31a及び下層パターン32aを含む位相シフト膜パターン30aを形成する。位相シフト膜パターン30aとして、ラインアンドスペースパターンやホールパターンが挙げられる。位相シフト膜30をエッチングするエッチング液は、位相シフト膜30を選択的にエッチングできるものであれば、特に制限されない。例えば、フッ化アンモニウムとリン酸と過酸化水素とを含むエッチング液、フッ化水素アンモニウムと過酸化水素とを含むエッチング液が挙げられる。
ウェットエッチングは、位相シフト膜パターン30aの断面形状を良好にするために、位相シフト膜パターン30aにおいて透明基板20が露出するまでの時間(ジャストエッチング時間)よりも長い時間(オーバーエッチング時間)で行うことが好ましい。オーバーエッチング時間としては、透明基板20への影響等を考慮すると、ジャストエッチング時間に、そのジャストエッチング時間の20%の時間を加えた時間内とすることが好ましく、ジャストエッチング時間の10%の時間を加えた時間内とすることがより好ましい。
【0055】
4.第2のレジスト膜パターン形成工程
第2のレジスト膜パターン形成工程では、先ず、第1のエッチングマスク膜パターン40aを覆うレジスト膜を形成する。使用するレジスト膜材料は、特に制限されない。例えば、後述する350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光に対して感光するものであればよい。また、レジスト膜は、ポジ型、ネガ型のいずれであっても構わない。
その後、350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光を用いて、レジスト膜に所望のパターンを描画する。レジスト膜に描画するパターンは、位相シフト膜30にパターンが形成されている領域の外周領域を遮光する遮光帯パターンや、位相シフト膜パターンの中央部を遮光する遮光帯パターンなどである。なお、レジスト膜に描画するパターンは、露光光に対する位相シフト膜30の透過率によっては、位相シフト膜パターン30aの中央部を遮光する遮光帯パターンがないパターンの場合もある。
その後、レジスト膜を所定の現像液で現像して、
図3(d)に示されるように、第1のエッチングマスク膜パターン40a上に第2のレジスト膜パターン60を形成する。
【0056】
5.第2のエッチングマスク膜パターン形成工程
第2のエッチングマスク膜パターン形成工程では、第2のレジスト膜パターン60をマスクにして第1のエッチングマスク膜パターン40aをエッチングして、
図3(e)に示されるように、第2のエッチングマスク膜パターン40bを形成する。第1のエッチングマスク膜パターン40aは、クロム(Cr)を含むクロム系材料から形成される。第1のエッチングマスク膜パターン40aをエッチングするエッチング液は、第1のエッチングマスク膜パターン40aを選択的にエッチングできるものであれば、特に制限されない。例えば、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むエッチング液が挙げられる。
その後、レジスト剥離液を用いて、又は、アッシングによって、第2のレジスト膜パターン60を剥離する。
このようにして、位相シフトマスク100が得られる。
なお、上記説明ではエッチングマスク膜40が、露光光の透過を遮る機能を有する場合について説明したが、エッチングマスク膜40が単に、位相シフト膜30をエッチングする際のハードマスクの機能のみを有する場合においては、上記説明において、第2のレジスト膜パターン形成工程と、第2のエッチングマスク膜パターン形成工程は行われず、位相シフト膜パターン形成工程の後、第1のエッチングマスク膜パターンを剥離して、位相シフトマスク100を作製する。
【0057】
この実施の形態3の位相シフトマスクの製造方法によれば、実施の形態1の位相シフトマスクブランクを用いるため、エッチング時間を短縮でき、断面形状が良好な位相シフト膜パターンを形成することができる。従って、高精細な位相シフト膜パターンを精度よく転写することができる位相シフトマスクを製造することができる。このように製造された位相シフトマスクは、ラインアンドスペースパターンやコンタクトホールの微細化に対応することができる。
【0058】
実施の形態4にかかる位相シフトマスクの製造工程
1.レジスト膜パターン形成工程
レジスト膜パターン形成工程では、先ず、実施の形態2の位相シフトマスクブランク10の位相シフト膜30上に、レジスト膜を形成する。使用するレジスト膜材料は、実施の形態3で説明したのと同様である。なお、必要に応じてレジスト膜を形成する前に、位相シフト膜30と密着性を良好にするため、位相シフト膜30に表面改質処理を行うようにしても構わない。上述と同様に、レジスト膜を形成した後、350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光を用いて、レジスト膜に所望のパターンを描画する。その後、レジスト膜を所定の現像液で現像して、
図4(a)に示されるように、位相シフト膜30上にレジスト膜パターン50を形成する。
2.位相シフト膜パターン形成工程
位相シフト膜パターン形成工程では、レジスト膜パターンをマスクにして上層31及び下層32を含む位相シフト膜30をエッチングして、
図4(b)に示されるように、上層パターン31a及び下層パターン32aを含む位相シフト膜パターン30aを形成する。位相シフト膜パターン30aや位相シフト膜30をエッチングするエッチング液やオーバーエッチング時間は、実施の形態3で説明したのと同様である。
その後、レジスト剥離液を用いて、又は、アッシングによって、レジスト膜パターン50を剥離する(
図4(c))。
このようにして、位相シフトマスク100が得られる。
この実施の形態4の位相シフトマスクの製造方法によれば、実施の形態2の位相シフトマスクブランクを用いるため、ウェットエッチング液による基板へのダメージを起因とした透明基板の透過率の低下がなく、エッチング時間を短くでき、断面形状が良好な位相シフト膜パターンを形成することができる。従って、高精細な位相シフト膜パターンを精度よく転写することができる位相シフトマスクを製造することができる。このように製造された位相シフトマスクは、ラインアンドスペースパターンやコンタクトホールの微細化に対応することができる。
【0059】
実施の形態5.
実施の形態5では、表示装置の製造方法について説明する。表示装置は、上述した位相シフトマスクブランク10を用いて製造された位相シフトマスク100を用い、または上述した位相シフトマスク100の製造方法によって製造された位相シフトマスク100を用いる工程(マスク載置工程)と、表示装置上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程(露光工程)とを行うことによって製造される。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0060】
1.載置工程
載置工程では、実施の形態3で製造された位相シフトマスクを露光装置のマスクステージに載置する。ここで、位相シフトマスクは、露光装置の投影光学系を介して表示装置基板上に形成されたレジスト膜に対向するように配置される。
【0061】
2.パターン転写工程
パターン転写工程では、位相シフトマスク100に露光光を照射して、表示装置基板上に形成されたレジスト膜に位相シフト膜パターンを転写する。露光光は、365nm~436nmの波長域から選択される複数の波長の光を含む複合光や、365nm~436nmの波長域からある波長域をフィルターなどでカットし選択された単色光である。例えば、露光光は、i線、h線およびg線を含む複合光や、i線の単色光である。露光光として複合光を用いると、露光光強度を高くしてスループットを上げることができるため、表示装置の製造コストを下げることができる。
【0062】
この実施の形態3の表示装置の製造方法によれば、高解像度、微細なラインアンドスペースパターンやコンタクトホールを有する、高精細の表示装置を製造することができる。
なお、以上の実施形態においては、パターン形成用薄膜を有するフォトマスクブランクや転写パターンを有するフォトマスクとして、位相シフト膜を有する位相シフトマスクブランクや位相シフト膜パターンを有する位相シフトマスクを用いる場合を説明したが、これらに限定されるものではない。例えば、パターン形成用薄膜として遮光膜を有するバイナリマスクブランクや遮光膜パターンを有するバイナリマスクにおいても、本発明を適用することが可能である。
【実施例】
【0063】
実施例1.
A.位相シフトマスクブランクおよびその製造方法
実施例1の位相シフトマスクブランクを製造するため、先ず、透明基板20として、1214サイズ(1220mm×1400mm)の合成石英ガラス基板を準備した。
【0064】
その後、合成石英ガラス基板を、主表面を下側に向けてトレイ(図示せず)に搭載し、インライン型スパッタリング装置のチャンバー内に搬入した。
透明基板20の主表面上に位相シフト膜30の下層32を形成するため、まず、第1チャンバー内のスパッタリングガス圧力を1.6Paにした状態で、アルゴン(Ar)ガスと、窒素(N2)ガスとで構成される不活性ガス(Ar:18sccm、N2:13sccm)を導入した。そして、モリブデンとケイ素を含む第1スパッタターゲット(モリブデン:ケイ素=11:89)に7.6kWのスパッタパワーを印加して、反応性スパッタリングにより、透明基板20の主表面上にモリブデンとケイ素と窒素を含有するモリブデンシリサイドの窒化物を堆積させて、厚さ115nmの下層32を形成した。そして、第1チャンバーに接続された真空ポンプのメインバルブの開口量を調整して第1チャンバー内のスパッタリングガス圧力を1.2Paにした点以外は下層32と同一の条件で、反応性スパッタリングにより下層32の上に厚さ30nmの上層31を形成した。このようにして、膜厚145nmの位相シフト膜30を成膜した。
【0065】
次に、位相シフト膜30付きの透明基板20を第2チャンバー内に搬入し、第2チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガス(Ar:65sccm、N2:15sccm)を導入した。そして、クロムからなる第2スパッタターゲットに1.5kWのスパッタパワーを印加して、反応性スパッタリングにより、位相シフト膜30上にクロムと窒素を含有するクロム窒化物(CrN)を形成した(膜厚15nm)。次に、第3チャンバー内を所定の真空度にした状態で、アルゴン(Ar)ガスとメタン(CH4:4.9%)ガスの混合ガス(30sccm)を導入し、クロムからなる第3スパッタターゲットに8.5kWのスパッタパワーを印加して、反応性スパッタリングによりCrN上にクロムと炭素を含有するクロム炭化物(CrC)を形成した(膜厚60nm)。最後に、第4チャンバー内を所定の真空度にした状態で、アルゴン(Ar)ガスとメタン(CH4:5.5%)ガスの混合ガスと窒素(N2)ガスと酸素(O2)ガスとの混合ガス(Ar+CH4:30sccm、N2:8sccm、O2:3sccm)を導入し、クロムからなる第4スパッタターゲットに2.0kWのスパッタパワーを印加して、反応性スパッタリングによりCrC上にクロムと炭素と酸素と窒素を含有するクロム炭化酸化窒化物(CrCON)を形成した(膜厚30nm)。以上のように、位相シフト膜30上に、CrN層とCrC層とCrCON層の積層構造のエッチングマスク膜40を形成した。
このようにして、透明基板20上に、位相シフト膜30とエッチングマスク膜40とが形成された位相シフトマスクブランク10を得た。
【0066】
得られた位相シフトマスクブランク10の位相シフト膜30(位相シフト膜30の表面について、レーザーテック社製のMPM-100により透過率、位相差を測定した。位相シフト膜30の透過率、位相差の測定には、同一のトレイにセットして作製された、合成石英ガラス基板の主表面上に位相シフト膜30が成膜された位相シフト膜付き基板(ダミー基板)を用いた。位相シフト膜30の透過率、位相差は、エッチングマスク膜40を形成する前に位相シフト膜付き基板(ダミー基板)をチャンバーから取り出し、測定した。その結果、透過率は25.1%(波長:405nm)位相差は176°(波長:405nm)、裏面反射率は9.4%(波長:405nm)であった。
さらに、位相シフト膜30における上層31および下層32の各光学特性を分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製 M-2000D)を用いて測定したところ、上層31において、屈折率は2.49であり、消衰係数は0.32であった。そして、下層32において、屈折率は2.37であり、消衰係数は0.24であった。なお、上層31については、別の透明基板に上層31のみを形成したものに対して、各光学特性を測定した(実施例2においても同様)。
【0067】
また、得られた位相シフトマスクブランク10について、X線光電子分光法(XPS)による深さ方向の組成分析を行った。
位相シフトマスクブランク10に対するXPSによる深さ方向の組成分析結果において、位相シフト膜30は、透明基板20と位相シフト膜30との界面の組成傾斜領域、および、位相シフト膜30とエッチングマスク膜40との界面の組成傾斜領域を除いて、深さ方向に向かって、モリブデンとケイ素の原子比率は、ほぼ一定であり、1:5.6であり、1:3以上1:15以下の範囲内であった。また、各構成元素の含有率は、上層31において、Moが7原子%、Siが39原子%、Nが51原子%、Oが3原子%であり、下層32において、Moが7原子%、Siが39原子%、Nが46原子%、Oが8原子%であった。また、軽元素である酸素、窒素の合計含有率は、上層31において54原子%であり、下層32において54原子%であり、いずれも50原子%以上65原子%以下の範囲内であった。なお、位相シフト膜30に酸素が含有されているのは、スパッタリングガス圧力が0.8Pa以上と高く、成膜時のチャンバー内に微量の酸素が存在していたものと考えられる。
【0068】
次に、得られた位相シフトマスクブランク10の転写パターン形成領域の中央の位置において、80000倍の倍率で断面SEM(走査型電子顕微鏡)観察を行った結果、位相シフト膜30は、柱状構造を有していることが確認できた。すなわち、位相シフト膜30を構成するモリブデンシリサイド化合物の粒子が、位相シフト膜30の膜厚方向に向かって伸びる柱状の粒子構造を有していることが確認できた。そして位相シフト膜30の柱状の粒子構造は、膜厚方向の柱状の粒子が不規則に形成されており、かつ、柱状の粒子の膜厚方向の長さも不揃いな状態であることが確認できた。また、位相シフト膜30の疎の部分は、膜厚方向において連続的に形成されていることも確認できた。さらに、位相シフト膜30の上層31における柱状構造の粒子の平均サイズは、下層32における柱状構造の粒子の平均サイズよりも小さくなっていることも確認できた。上層31における柱状構造の粒子の平均サイズは、14nm、下層32における柱状構造の粒子の平均サイズは、22nmであった。
【0069】
B.位相シフトマスクおよびその製造方法
上述のようにして製造された位相シフトマスクブランク10を用いて位相シフトマスク100を製造するため、先ず、位相シフトマスクブランク10のエッチングマスク膜40上に、レジスト塗布装置を用いてフォトレジスト膜を塗布した。
その後、加熱・冷却工程を経て、膜厚520nmのフォトレジスト膜を形成した。
その後、レーザー描画装置を用いてフォトレジスト膜を描画し、現像・リンス工程を経て、エッチングマスク膜上に、ホール径が1.5μmのホールパターンのレジスト膜パターンを形成した。
【0070】
その後、レジスト膜パターンをマスクにして、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むクロムエッチング液によりエッチングマスク膜をウェットエッチングして、第1のエッチングマスク膜パターン40aを形成した。
【0071】
その後、第1のエッチングマスク膜パターン40aをマスクにして、フッ化水素アンモニウムと過酸化水素との混合溶液を純水で希釈したモリブデンシリサイドエッチング液により位相シフト膜30をウェットエッチングして、位相シフト膜パターン30aを形成した。このウェットエッチングは、断面形状を垂直化するためかつ要求される微細なパターンを形成するために、110%のオーバーエッチング時間で行った。実施例1におけるジャストエッチング時間は、後述する比較例におけるジャストエッチング時間に対して、0.15倍となり、エッチング時間を大幅に短縮することができた。
その後、レジスト膜パターンを剥離した。
【0072】
その後、レジスト塗布装置を用いて、第1のエッチングマスク膜パターン40aを覆うように、フォトレジスト膜を塗布した。
その後、加熱・冷却工程を経て、膜厚520nmのフォトレジスト膜を形成した。
その後、レーザー描画装置を用いてフォトレジスト膜を描画し、現像・リンス工程を経て、第1のエッチングマスク膜パターン40a上に、遮光帯を形成するための第2のレジスト膜パターン60を形成した。
【0073】
その後、第2のレジスト膜パターン60をマスクにして、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むクロムエッチング液により、転写パターン形成領域に形成された第1のエッチングマスク膜パターン40aをウェットエッチングした。
その後、第2のレジスト膜パターン60を剥離した。
【0074】
このようにして、透明基板20上に、転写パターン形成領域にホール径が1.5μmの位相シフト膜パターン30aと、位相シフト膜パターン30aとエッチングマスク膜パターン40bの積層構造からなる遮光帯が形成された位相シフトマスク100を得た。
【0075】
得られた位相シフトマスクの断面を走査型電子顕微鏡により観察した。位相シフト膜パターンの断面は、位相シフト膜パターンの上面、下面および側面から構成される。この位相シフト膜パターンの断面の角度は、位相シフト膜パターンの上面と側面とが接する部位(上辺)と、側面と下面が接する部位(下辺)とのなす角度をいう。得られた位相シフトマスクの位相シフト膜パターン30aの断面の角度は75°以上であり、良好な断面形状を有していた。実施例1の位相シフトマスクに形成された位相シフト膜パターン30aは、位相シフト効果を十分に発揮できる断面形状を有していた。位相シフト膜30が柱状構造とすることにより、位相シフト膜パターン30aが良好な断面形状となったのは、以下のメカニズムによるものと考える。位相シフト膜30は、上層31及び下層32のいずれにおいても、柱状の粒子構造(柱状構造)を有しており、膜厚方向に伸びる柱状粒子が不規則に形成されている。また、位相シフト膜30は、上層31及び下層32のいずれにおいても、相対的に密度の高い各柱状の粒子部分と、相対的に密度の低い疎の部分とで形成されている。これらの事実から、位相シフト膜30をウェットエッチングによってパターニングする際に、位相シフト膜30における疎の部分にエッチング液が浸透することにより、膜厚方向にエッチングが進行しやすくなる一方、膜厚方向に対して垂直な方向(基板面内の方向)には柱状の粒子が不規則に形成されていてこの方向の疎の部分が断続的に形成されているのでこの方向へのエッチングが進行しづらくてサイドエッチングが抑制されることから、位相シフト膜パターン30aが、垂直に近い良好な断面形状が得られたと考えられる。また、位相シフト膜パターンには、エッチングマスク膜パターンとの界面と、基板との界面とのいずれにも浸み込みは見られなかった。そのため、300nm以上500nm以下の波長範囲の光を含む露光光、より具体的には、i線、h線およびg線を含む複合光の露光光において、優れた位相シフト効果を有する位相シフトマスクが得られた。
また、実施例1において得られた位相シフトマスクにおける位相シフト膜パターンのラインエッジラフネスを測定したところ、30nm以下であり、要求される水準を満たすものであった。また、実施例1において得られた位相シフトマスクブランク及び位相シフトマスクに洗浄試験を行ったところ、要求される洗浄耐性を満たすものであった。
このため、実施例1の位相シフトマスクを露光装置のマスクステージにセットし、表示装置上のレジスト膜に露光転写した場合、2.0μm未満の微細パターンを高精度に転写することができるといえる。
【0076】
なお、位相シフト膜パターン30aは、位相シフト膜30の柱状構造を維持しており、また、位相シフト膜30を除去した後の露出した透明基板20の表面はスムースで、透明基板20の表面荒れによる透過率低下は無視できる状態であった。
【0077】
実施例2.
A.位相シフトマスクブランクおよびその製造方法
実施例2の位相シフトマスクブランクを製造するため、実施例1と同様に、透明基板として、1214サイズ(1220mm×1400mm)の合成石英ガラス基板を準備した。
実施例1と同じ方法により、合成石英ガラス基板を、インライン型のスパッタリング装置のチャンバーに搬入した。第1スパッタターゲット、第2スパッタターゲット、第3スパッタターゲット、第4スパッタターゲットとして、実施例1と同じスパッタターゲット材料を用いた。そして、第1チャンバー内のスパッタリングガス圧力を1.6Paにした状態で、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスで構成される不活性ガスと、反応性ガスである一酸化窒素ガス(NO)と、の混合ガス(Ar:18sccm、N2:13sccm、NO:4sccm)を導入した。そして、モリブデンとケイ素を含む第1スパッタターゲット(モリブデン:ケイ素=8:92)に8.2kWのスパッタパワーを印加して、反応性スパッタリングにより、透明基板20の主表面上にモリブデンとケイ素と酸素と窒素を含有するモリブデンシリサイドの酸化窒化物を堆積させて、厚さ140nmの下層32を形成した。そして、第1チャンバーに接続された真空ポンプのメインバルブの開口量を調整して第1チャンバー内のスパッタリングガス圧力を1.2Paにした点以外は下層32と同一の条件で、反応性スパッタリングにより下層32の上に厚さ40nmの上層31を形成した。このようにして、膜厚180nmの位相シフト膜30を成膜した。
そして、透明基板に位相シフト膜を形成した後、チャンバーから取り出して、位相シフト膜の表面を、純水で洗浄を行った。純水洗浄条件は、温度30度、洗浄時間60秒とした。
その後、実施例1と同じ方法により、エッチングマスク膜40を成膜した。
このようにして、透明基板20上に、位相シフト膜30とエッチングマスク膜40とが形成された位相シフトマスクブランク10を得た。
【0078】
得られた位相シフトマスクブランク10の位相シフト膜(位相シフト膜の表面を純水洗浄した位相シフト膜)について、レーザーテック社製のMPM-100により透過率、位相差を測定した。位相シフト膜の透過率、位相差の測定には、同一のトレイにセットして作製された、合成石英ガラス基板の主表面上に位相シフト膜30が成膜された位相シフト膜付き基板(ダミー基板)を用いた。位相シフト膜30の透過率、位相差は、エッチングマスク膜を形成する前に位相シフト膜付き基板(ダミー基板)をチャンバーから取り出し、測定した。その結果、透過率は45%(波長:405nm)位相差は188度(波長:405nm)、裏面反射率は0.7%(波長:405nm)であった。
また、実施例1と同様にして、位相シフト膜30における上層31および下層32の各光学特性を分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製 M-2000D)を用いて測定したところ、上層31において、屈折率は2.30であり、消衰係数は0.17であった。そして、下層32において、屈折率は2.15であり、消衰係数は0.11であった。
【0079】
また、得られた位相シフトマスクブランクについて、X線光電子分光法(XPS)による深さ方向の組成分析を行った。
その結果、実施例1と同様に、位相シフト膜30は、透明基板20と位相シフト膜30との界面の組成傾斜領域、および、位相シフト膜30とエッチングマスク膜40との界面の組成傾斜領域を除いて、深さ方向に向かって、各構成元素の含有率はほぼ一定であり、モリブデンとケイ素の原子比率は、1:8であり、1:3以上1:15以下の範囲内であった。また、各構成元素の含有率は、上層31において、Moが5原子%、Siが40原子%、Nが47原子%、Oが8原子%であり、下層32において、Moが5原子%、Siが40原子%、Nが45原子%、Oが10原子%であった。また、軽元素である酸素、窒素の合計含有率は、上層31において55原子%であり、下層32において55原子%であり、いずれも55原子%であり、50原子%以上65原子%以下の範囲内であった。
次に、得られた位相シフトマスクブランク10の転写パターン形成領域の中央の位置において、80000倍の倍率で断面SEM観察を行った結果、位相シフト膜30が柱状構造を有していることが確認できた。すなわち、位相シフト膜30を構成するモリブデンシリサイド化合物の粒子が、位相シフト膜30の膜厚方向に向かって伸びる柱状の粒子構造を有していることが確認できた。そして位相シフト膜30の柱状の粒子構造は、膜厚方向の柱状の粒子が不規則に形成されており、かつ、柱状の粒子の膜厚方向の長さも不揃いな状態であることが確認できた。また、位相シフト膜30の疎の部分は、膜厚方向において連続的に形成されていることも確認できた。さらに、位相シフト膜30の上層31における柱状構造の粒子の平均サイズは、下層32における柱状構造の粒子の平均サイズよりも小さくなっていることも確認できた。上層31における柱状構造の粒子の平均サイズは、15nm、下層32における柱状構造の粒子の平均サイズは、25nmであった。
【0080】
B.位相シフトマスクおよびその製造方法
上述のようにして製造された位相シフトマスクブランクを用いて、実施例1と同じ方法により、ホール径が1.5μmの位相シフト膜パターンを有する位相シフトマスクを製造した。位相シフト膜30へのウェットエッチングは、断面形状を垂直化するためかつ要求される微細なパターンを形成するために、110%のオーバーエッチング時間で行った。実施例2におけるジャストエッチング時間は、後述する比較例におけるジャストエッチング時間に対して、0.07倍となり、エッチング時間を大幅に短縮することができた。
【0081】
得られた位相シフトマスクの断面を走査型電子顕微鏡により観察した。位相シフトマスクの位相シフト膜パターン30aの断面の角度は75°以上であり、良好な断面形状を有していた。また、位相シフト膜パターンには、エッチングマスク膜パターンとの界面と、基板との界面とのいずれにも浸み込みは見られなかった。そのため、300nm以上500nm以下の波長範囲の光を含む露光光、より具体的には、i線、h線およびg線を含む複合光の露光光において、優れた位相シフト効果を有する位相シフトマスクが得られた。
また、実施例2において得られた位相シフトマスクにおける位相シフト膜パターンのラインエッジラフネスを測定したところ、30nm以下であり、要求される水準を満たすものであった。また、実施例2において得られた位相シフトマスクブランク及び位相シフトマスクに洗浄試験を行ったところ、要求される洗浄耐性を満たすものであった。
このため、実施例2の位相シフトマスクを露光装置のマスクステージにセットし、表示装置上のレジスト膜に露光転写した場合、2.0μm未満の微細パターンを高精度に転写することができるといえる。
【0082】
位相シフト膜パターン30aは、位相シフト膜30の柱状構造を維持しており、また、位相シフト膜30を除去した後の露出した透明基板20の表面はスムースで、透明基板20の表面荒れによる透過率低下は無視できる状態であった。
【0083】
なお、上述の実施例では、遷移金属としてモリブデンを用いた場合を説明したが、他の遷移金属の場合でも上述と同等の効果が得られる。
また、上述の実施例では、表示装置製造用の位相シフトマスクブランクや、表示装置製造用の位相シフトマスクの例を説明したが、これに限られない。本発明の位相シフトマスクブランクや位相シフトマスクは、半導体装置製造用、MEMS製造用、プリント基板用等にも適用できる。また、パターン形成用薄膜として遮光膜を有するバイナリマスクブランクや遮光膜パターンを有するバイナリマスクにおいても、本発明を適用することが可能である。
また、上述の実施例では、透明基板のサイズが、1214サイズ(1220mm×1400mm×13mm)の例を説明したが、これに限られない。表示装置製造用の位相シフトマスクブランクの場合、大型(Large Size)の透明基板が使用され、該透明基板のサイズは、一辺の長さが、300mm以上である。表示装置製造用の位相シフトマスクブランクに使用する透明基板のサイズは、例えば、330mm×450mm以上2280mm×3130mm以下である。
また、半導体装置製造用、MEMS製造用、プリント基板用の位相シフトマスクブランクの場合、小型(Small Size)の透明基板が使用され、該透明基板のサイズは、一辺の長さが9インチ以下である。上記用途の位相シフトマスクブランクに使用する透明基板のサイズは、例えば、63.1mm×63.1mm以上228.6mm×228.6mm以下である。通常、半導体製造用、MEMS製造用は、6025サイズ(152mm×152mm)や5009サイズ(126.6mm×126.6mm)が使用され、プリント基板用は、7012サイズ(177.4mm×177.4mm)や、9012サイズ(228.6mm×228.6mm)が使用される。
【0084】
比較例1.
A.位相シフトマスクブランクおよびその製造方法
比較例1の位相シフトマスクブランクを製造するため、実施例1と同様に、透明基板として、1214サイズ(1220mm×1400mm)の合成石英ガラス基板を準備した。
実施例1と同じ方法により、合成石英ガラス基板を、インライン型のスパッタリング装置のチャンバーに搬入した。そして、第1チャンバー内のスパッタリングガス圧力を0.5Paにした状態で、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスの混合ガス(Ar:30sccm、N2:30sccm)を導入した。そして、モリブデンとケイ素を含む第1スパッタターゲット(モリブデン:ケイ素=1:9)に7.6kWのスパッタパワーを印加して、反応性スパッタリングにより、透明基板の主表面上にモリブデンとケイ素と窒素を含有するモリブデンシリサイドの窒化物を堆積させた。このようにして、膜厚144nmの位相シフト膜を成膜した。
その後、実施例1と同じ方法により、エッチングマスク膜を成膜した。
このようにして、透明基板上に、位相シフト膜とエッチングマスク膜とが形成された位相シフトマスクブランクを得た。
【0085】
得られた位相シフトマスクブランクの位相シフト膜について、レーザーテック社製のMPM-100により透過率、位相差を測定した。位相シフト膜の透過率、位相差の測定には、同一のトレイにセットして作製された、合成石英ガラス基板の主表面上に位相シフト膜が成膜された位相シフト膜付き基板(ダミー基板)を用いた。位相シフト膜の透過率、位相差は、エッチングマスク膜を形成する前に位相シフト膜付き基板(ダミー基板)をチャンバーから取り出し、測定した。その結果、透過率は29%(波長:405nm)位相差は172度(波長:405nm)、裏面反射率は11%(波長:405nm)であった。
【0086】
また、得られた位相シフトマスクブランクについて、X線光電子分光法(XPS)による深さ方向の組成分析を行った。その結果、位相シフト膜30は、透明基板20と位相シフト膜30との界面の組成傾斜領域、および、位相シフト膜30とエッチングマスク膜40との界面の組成傾斜領域を除いて、深さ方向に向かって、各構成元素の含有率はほぼ一定であり、Moが8原子%、Siが39原子%、Nが52原子%、Oが1原子%であった。また、モリブデンとケイ素の原子比率は、1:4.9であり、1:3以上1:15以下の範囲内であった。また、軽元素である酸素、窒素、炭素の合計含有率は、53原子%であり、50原子%以上65原子%以下の範囲内であった。
【0087】
次に、得られた位相シフトマスクブランク10の転写パターン形成領域の中央の位置において、80000倍の倍率で断面SEM観察を行った結果、位相シフト膜において、柱状構造は確認できず、超微細な結晶構造もしくはアモルファス構造であることが確認できた。
【0088】
B.位相シフトマスクおよびその製造方法
上述のようにして製造された位相シフトマスクブランクを用いて、実施例1と同じ方法により、位相シフトマスクを製造した。位相シフト膜へのウェットエッチングは、断面形状を垂直化するためかつ要求される微細なパターンを形成するために、110%のオーバーエッチング時間で行った。比較例1におけるジャストエッチング時間は142分であり、長い時間であった。
位相シフト膜30を除去した後の露出した透明基板20の表面は荒れており、目視においても白濁した状態であった。従って、透明基板20の表面荒れによる透過率の低下は著しかった。
このため、比較例1の位相シフトマスクを露光装置のマスクステージにセットし、表示装置上のレジスト膜に露光転写した場合、2.0μm未満の微細パターンを転写することはできないことが予想される。
【符号の説明】
【0089】
10…位相シフトマスクブランク、20…透明基板、30…位相シフト膜、30a…位相シフト膜パターン、31…上層、32…下層、
31a…上層パターン、32a…下層パターン、40…エッチングマスク膜、
40a…第1のエッチングマスク膜パターン、
40b…第2のエッチングマスク膜パターン、50…第1のレジスト膜パターン、
60…第2のレジスト膜パターン、100…位相シフトマスク