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特許7413097フィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】フィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/20 20060101AFI20240105BHJP
   B29C 63/02 20060101ALI20240105BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20240105BHJP
   B29C 59/04 20060101ALI20240105BHJP
   B29C 43/22 20060101ALI20240105BHJP
   B32B 37/10 20060101ALI20240105BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B29C65/20
B29C63/02
B29C59/02 Z
B29C59/04 Z
B29C43/22
B32B37/10
B32B27/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020044240
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2020157763
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2019056972
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】今泉 卓三
(72)【発明者】
【氏名】後藤 直美
(72)【発明者】
【氏名】芝 尚紀
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-158731(JP,A)
【文献】特開平10-282315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/20
B29C 63/02
B29C 59/02
B29C 59/04
B29C 43/22
B32B 37/10
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一面に対してフィルム状樹脂組成物が積層された被加工材の両面側に金型を配置して前記金型外面から挟圧して前記基材と前記フィルム状樹脂組成物とを一体に形成する方法において、
セット部のセット装置により前記被加工材の両面側に前記金型を配置した金型保持構造体を作成するセット工程と、
加熱部の加熱装置により前記金型保持構造体の作成後に前記金型全体を前記フィルム状樹脂組成物の熱変形温度に加熱する加熱工程と、
前記加熱された金型が配置された金型保持構造体を加圧部の挟圧ロール装置の2つの加圧ロール間に導入し前記加圧ロールの回転により前記金型外面から挟圧して前記フィルム状樹脂組成物と前記基材とを一体に熱圧着してフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物に形成する加圧工程とを有し、
前記金型保持構造体が前記セット部と、前記加熱部と、前記加圧部との間を移動可能に構成される
ことを特徴とするフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法。
【請求項2】
基材の少なくとも一面に対してフィルム状樹脂組成物が積層された被加工材の両面側に金型を配置して前記金型外面から挟圧して前記基材と前記フィルム状樹脂組成物とを一体に形成する方法において、
加熱部の加熱装置により前記金型を前記フィルム状樹脂組成物の熱変形温度に加熱する加熱工程と、
セット部のセット装置により前記加熱工程で加熱された金型を前記被加工材の両面側に配置して金型保持構造体を作成するセット工程と、
前記加熱された金型が配置された金型保持構造体を加圧部の挟圧ロール装置の2つの加圧ロール間に導入し前記加圧ロールの回転により前記金型外面から挟圧して前記フィルム状樹脂組成物と前記基材とを一体に熱圧着してフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物に形成する加圧工程とを有し、
前記金型保持構造体が前記セット部と、前記加熱部と、前記加圧部との間を移動可能に構成される
ことを特徴とするフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法。
【請求項3】
前記製造装置が冷却装置を有する冷却部を備え、前記金型保持構造体が前記冷却部に移動可能に構成され、前記冷却装置により前記加圧ロールで挟圧された前記金型を冷却する冷却工程を有する請求項1又は2に記載のフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法。
【請求項4】
前記基材が厚さ1mm以下の薄板状物で前記フィルム状樹脂組成物の厚みが500μm以下である請求項1ないしのいずれか1項に記載のフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法。
【請求項5】
前記基材の両面に対してフィルム状樹脂組成物がそれぞれ積層された請求項1ないしのいずれか1項に記載のフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法。
【請求項6】
前記被加工材が複数配置され前記各被加工材の両面側に金型が配置されている請求項1ないしのいずれか1項に記載のフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法。
【請求項7】
前記フィルム状樹脂組成物が装飾性又は接着性もしくは導電性の機能性樹脂組成物からなる請求項1ないしのいずれか1項に記載のフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法。
【請求項8】
前記金型の金型面が微細な凹凸面形状を有する請求項1ないしのいずれか1項に記載のフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルムは、成形性や耐食性等の機械特性等に優れており、軽量かつ加工しやすく、他の樹脂材料とも融合しやすい等の利点から、装飾材料、包装材料、接着性フィルム、光学部材等、極めて広汎な用途に利用されている。
【0003】
例えば、半導体の基板等の薄板状積層物を製造する場合、基材表面にフィルム状の樹脂層が積層される。この薄板状積層物は、薄板状基材上の樹脂層に所定の凹凸形状が転写され、エッチングすることにより、基材表面に樹脂層の凹凸形状に対応した凹凸構造が形成される(例えば、特許文献1参照)。上記薄板状積層物の樹脂層への転写では、例えば、図1に示すように、基材221に樹脂層222が積層された被加工材220に対し、凹凸面形状の金型面211を有する金型210を樹脂層222側に配置して、金型210を介して加圧することにより、樹脂層222に凹凸形状223が形成される。なお、図の符号200はプレス装置等の加圧手段、201は加圧手段200の機台を表す。
【0004】
このような基板表面の凹凸構造等は、所定の機能性を発揮するものであることから、高い精密さが要求される。しかしながら、薄板状積層物のフィルム状樹脂層は極めて肉薄であることから、樹脂層に凹凸形状を高精度で安定して形成することは困難である。特に、基板表面の凹凸は微細であった場合には、加工精度の良し悪しが機能性に大きな影響を及ぼすことになるため、加工精度の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-200931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記状況に鑑み提案されたものであり、薄板状基材に積層されたフィルム状樹脂層に高精度で安定して凹凸形状を形成することができるフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、請求項1の発明は、基材の少なくとも一面に対してフィルム状樹脂組成物が積層された被加工材の両面側に金型を配置して前記金型外面から挟圧して前記基材と前記フィルム状樹脂組成物とを一体に形成する方法において、セット部のセット装置により前記被加工材の両面側に前記金型を配置した金型保持構造体を作成するセット工程と、加熱部の加熱装置により前記金型保持構造体の作成後に前記金型全体を前記フィルム状樹脂組成物の熱変形温度に加熱する加熱工程と、前記加熱された金型が配置された金型保持構造体を加圧部の挟圧ロール装置の2つの加圧ロール間に導入し前記加圧ロールの回転により前記金型外面から挟圧して前記フィルム状樹脂組成物と前記基材とを一体に熱圧着してフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物に形成する加圧工程とを有し、前記金型保持構造体が前記セット部と、前記加熱部と、前記加圧部との間を移動可能に構成されることを特徴とするフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法に係る。
【0008】
請求項2の発明は、基材の少なくとも一面に対してフィルム状樹脂組成物が積層された被加工材の両面側に金型を配置して前記金型外面から挟圧して前記基材と前記フィルム状樹脂組成物とを一体に形成する方法において、加熱部の加熱装置により前記金型を前記フィルム状樹脂組成物の熱変形温度に加熱する加熱工程と、セット部のセット装置により前記加熱工程で加熱された金型を前記被加工材の両面側に配置して金型保持構造体を作成するセット工程と、前記加熱された金型が配置された金型保持構造体を加圧部の挟圧ロール装置の2つの加圧ロール間に導入し前記加圧ロールの回転により前記金型外面から挟圧して前記フィルム状樹脂組成物と前記基材とを一体に熱圧着してフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物に形成する加圧工程とを有し、前記金型保持構造体が前記セット部と、前記加熱部と、前記加圧部との間を移動可能に構成されることを特徴とするフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法に係る。
【0009】
請求項の発明は、前記製造装置が冷却装置を有する冷却部を備え、前記金型保持構造体が前記冷却部に移動可能に構成され、前記冷却装置により前記加圧ロールで挟圧された前記金型を冷却する冷却工程を有する請求項1又は2に記載のフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法に係る。
【0010】
請求項の発明は、前記基材が厚さ1mm以下の薄板状物で前記フィルム状樹脂組成物の厚みが500μm以下である請求項1ないしのいずれか1項に記載のフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法。
【0011】
請求項の発明は、前記基材の両面に対してフィルム状樹脂組成物がそれぞれ積層された請求項1ないしのいずれか1項に記載のフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法に係る。
【0012】
請求項の発明は、前記被加工材が複数配置され前記各被加工材の両面側に金型が配置されている請求項1ないしのいずれか1項に記載のフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法に係る。
【0013】
請求項の発明は、前記フィルム状樹脂組成物が装飾性又は接着性もしくは導電性の機能性樹脂組成物からなる請求項1ないしのいずれか1項に記載のフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法。
【0014】
請求項の発明は、前記金型の金型面が微細な凹凸面形状を有する請求項1ないしのいずれか1項に記載のフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に係るフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法によると、基材の少なくとも一面に対してフィルム状樹脂組成物が積層された被加工材の両面側に金型を配置して前記金型外面から挟圧して前記基材と前記フィルム状樹脂組成物とを一体に形成する方法において、セット部のセット装置により前記被加工材の両面側に前記金型を配置した金型保持構造体を作成するセット工程と、加熱部の加熱装置により前記金型保持構造体の作成後に前記金型全体を前記フィルム状樹脂組成物の熱変形温度に加熱する加熱工程と、前記加熱された金型が配置された金型保持構造体を加圧部の挟圧ロール装置の2つの加圧ロール間に導入し前記加圧ロールの回転により前記金型外面から挟圧して前記フィルム状樹脂組成物と前記基材とを一体に熱圧着してフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物に形成する加圧工程とを有し、前記金型保持構造体が前記セット部と、前記加熱部と、前記加圧部との間を移動可能に構成されるため、金型の過剰な加熱が不要で経済的に有利であり、金型に対して均一に加圧力が作用して加圧むらの発生が抑制され、薄板状基材に積層されたフィルム状樹脂層に高精度で安定して凹凸形状を形成することができる。
【0016】
請求項2の発明に係るフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法によると、基材の少なくとも一面に対してフィルム状樹脂組成物が積層された被加工材の両面側に金型を配置して前記金型外面から挟圧して前記基材と前記フィルム状樹脂組成物とを一体に形成する方法において、加熱部の加熱装置により前記金型を前記フィルム状樹脂組成物の熱変形温度に加熱する加熱工程と、セット部のセット装置により前記加熱工程で加熱された金型を前記被加工材の両面側に配置して金型保持構造体を作成するセット工程と、前記加熱された金型が配置された金型保持構造体を加圧部の挟圧ロール装置の2つの加圧ロール間に導入し前記加圧ロールの回転により前記金型外面から挟圧して前記フィルム状樹脂組成物と前記基材とを一体に熱圧着してフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物に形成する加圧工程とを有し、前記金型保持構造体が前記セット部と、前記加熱部と、前記加圧部との間を移動可能に構成されるため、短時間で高温に加熱することができて作業時間の短縮を図ることができるとともに、加熱による被加工材のフィルム状樹脂組成物の酸化が抑制されて高品質の成形が可能となり、金型に対して均一に加圧力が作用して加圧むらの発生が抑制され、薄板状基材に積層されたフィルム状樹脂層に高精度で安定して凹凸形状を形成することができる。
【0017】
請求項の発明に係るフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法によると、請求項1又は2の発明において、前記製造装置が冷却装置を有する冷却部を備え、前記金型保持構造体が前記冷却部に移動可能に構成され、前記冷却装置により前記加圧ロールで挟圧された前記金型を冷却する冷却工程を有するため、薄板状積層物の凹凸面の形状を安定させることができる。
【0018】
請求項の発明に係るフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法によると、請求項1ないしの発明において、前記基材が厚さ1mm以下の薄板状物で前記フィルム状樹脂組成物の厚みが500μm以下であるため、軽量で精密な製品を得ることができる。
【0019】
請求項の発明に係るフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法によると、請求項1ないしの発明において、前記基材の両面に対してフィルム状樹脂組成物がそれぞれ積層されたため、多様な機能性を備えた製品を容易に製造することができる。
【0020】
請求項の発明に係るフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法によると、請求項1ないしの発明において、前記被加工材が複数配置され前記各被加工材の両面側に金型が配置されているため、同種または異種の薄板状積層物を同時に複数成形することが可能となって、作業効率や生産効率の向上を図ることができる。
【0021】
請求項の発明に係るフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法によると、請求項1ないしの発明において、前記フィルム状樹脂組成物が装飾性又は接着性もしくは導電性の機能性樹脂組成物からなるため、極めて広汎な用途に利用可能な製品を提供することができる。
【0022】
請求項の発明に係るフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法によると、請求項1ないしの発明において、前記金型の金型面が微細な凹凸面形状を有するため、フィルム状樹脂層に高精度で安定して微細な凹凸形状を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】薄板状積層物の概略断面図である。
図2】被加工材の成形状態を表す概略断面図である。
図3】薄板状積層物の製造装置全体の模式図である。
図4】金型保持構造体の斜視図である。
図5】金型保持構造体のバリエーションを表す概略平面図である。
図6】加圧部の側面視の模式図である。
図7】加圧部の加工時の側面視の模式図である。
図8】金型保持構造体作成工程の模式図である。
図9】被加工材の挟圧加工の工程を表す第1の模式図である。
図10】被加工材の挟圧加工の工程を表す第2の模式図である。
図11】薄板状積層物の製造装置の各部の配列の組み合わせを表す第1の概略図である。
図12】薄板状積層物の製造装置の各部の配列の組み合わせを表す第2の概略図である。
図13】被加工材の積層構造と金型との関係のバリエーションを表す第1の概略断面図である。
図14】被加工材の積層構造と金型との関係のバリエーションを表す第2の概略断面図である。
図15】被加工材の積層構造と金型との関係のバリエーションを表す第3の概略断面図である。
図16】従来の薄板状積層物の加工工程を表す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、図1に示す表面に所定の凹凸形状が形成されたフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物(80)の製造方法である。薄板状積層物80は、薄板状基材81の少なくとも一面にフィルム状樹脂層82が積層された積層物であって、フィルム状樹脂層82に所定の凹凸形状83を有する。図1(a)は薄板状基材81の一面側にフィルム状樹脂層82が形成された薄板状積層物80Aであり、図1(b)は薄板状基材81の両面側にフィルム状樹脂層82が形成された薄板状積層物80Bである。薄板状積層物80は、表面に所定の凹凸形状83が形成されることにより、半導体の基板、光学レンズや光学フィルム等の光学部材、燃料電池用セパレータ、ウエラブル電極、センサー、静電吸着材、抵抗発熱体、電磁波シールド材、コネクター、太陽電池部材、水電解装置用セパレータ等の種々の製品として製造される。
【0025】
この薄板状積層物80は、図2に示すように、薄板状基材81の少なくとも一面に対してフィルム状樹脂組成物84を積層した被加工材85に対し、所定の金型110によりフィルム状樹脂組成物84の表面に所定の凹凸形状83を形成して得られる。薄板状積層物80において、薄板状基材81及びフィルム状樹脂組成物84の形状や厚さ等は、目的とする製品の種類等に応じて決定されるが、例えば、薄板状基材81の厚さが1mm以下でフィルム状樹脂組成物84の厚さが500μm以下、より好ましくは薄板状基材81の厚さが100μm以下でフィルム状樹脂組成物84の厚さが50~150μmである。薄板状基材81及びフィルム状樹脂組成物84を上記の厚さとすることにより、軽量で精密な製品を得ることができる。特に、後述する導電性の機能を付与する場合には、適切な導電性を備えることができる。
【0026】
薄板状基材81は、チタン、アルミニウム、ステンレス鋼(SUS)等の耐腐食性や耐熱性を有する材料からなる薄板部材である。
【0027】
フィルム状樹脂組成物84は、薄板状基材81の一面または両面に積層されて、表面に所定の凹凸形状83が形成されてフィルム状樹脂層82として構成される。フィルム状樹脂層82の凹凸形状83の形状や大きさ等は、薄板状積層物80の用途等に応じて決定されるが、微細な凹凸とすることも可能である。微細な凹凸としては、例えば、溝深さ(H)が50~300μm、溝上面幅(W1)が50~400μm、溝内面幅(W2)が100~400μmである。
【0028】
フィルム状樹脂組成物84を構成する材料としては、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、エチレンとプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等の1種または2種以上のα-オレフィンとのランダム共重合体、あるいは前記組成のブロック共重合体等が挙げられる。さらに前記したこれら重合体の混合物等のポリオレフィン系樹脂、ポリオレフィンエラストマー、酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリエチレン、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂、炭化水素系樹脂である。フッ素樹脂、フッ素ゴム等もあげられる。また、これらの材料に、炭素材料や導電性セラミックスの少なくとも1種以上の導電材料を添加してもよい。炭素材料は、カーボンナノチューブ、粒状黒鉛、炭素繊維等があげられる。
【0029】
フィルム状樹脂組成物84は、製造する目的の製品に応じて、装飾性又は接着性もしくは導電性の機能性樹脂組成物として構成される。装飾性の機能性樹脂組成物は、微細な凹凸にシボ加工(しわ模様)、エンボス加工(浮き出し模様)、反射加工(マット調)等の表面加工が施された樹脂層である。接着性の機能性樹脂組成物は、ポリエチレン系樹脂等で構成された高接着強度の樹脂層である。導電性の機能性樹脂組成物は、樹脂材料に炭素材料が添加された通電可能な樹脂層である。薄板状積層物80は、これら機能性樹脂組成物を備えることにより、極めて広汎な用途に利用することができる。
【0030】
金型110は、被加工材85の基材81の両面側に配置されて被加工材85を挟持する部材であって、被加工材85が載置される下型120と、被加工材85の上面側に配置される上型125とを有する。この金型110では、下型120または上型125のいずれか一方または双方の金型面121,126に所定の凹凸面形状122,127が形成される。図示の例は、双方の金型面121,126に凹凸面形状122,127が形成されている。金型面121(126)の凹凸面形状122(127)は、特に微細な凹凸面形状とすることにより、フィルム状樹脂層に微細な凹凸形状を高精度で安定して形成することができる。この下型120と上型125の凹凸面形状122,127は同一であってもよいし、異なる形状であってもよい。また、図2(a)に示すように、必要に応じて、金型110の金型面121,126と被加工材85との間に、成形後の被加工材(薄板状積層物80)を離型しやすくするための合紙(離型紙)115を介在させてもよい。なお、図2(b)では合紙は省略している。
【0031】
本発明の薄板状積層物の製造方法は、金型保持構造体作成工程と、加圧工程と、取出工程とを有し、必要に応じて、冷却工程が行われる。この薄板状積層物の製造方法は、例えば、図3に示す薄板状積層物の製造装置10を用いて実施することができる。薄板状積層物の製造装置10は、セット装置31を有するセット部30と、加熱装置41を有する加熱部40と、挟圧ロール装置51を有する加圧部50と、取出装置61を有する取出部60とを有する。以下、薄板状積層物の製造装置10とともに、本発明の薄板状積層物の製造方法について説明する。
【0032】
図示の製造装置10は、セット部30、加熱部40、加圧部50、取出部60をレール部20によって接続する機台11を備える。レール部20は、セット部30、加熱部40、加圧部50、取出部60間に配設された一対の棒状部材からなるレール本体21を有し、セット部30、加熱部40、加圧部50、取出部60を直列状に接続する。このレール本体21には、金型110が金型保持構造体100によってセット部30、加熱部40、加圧部50、取出部60間を移動可能に設置される。図の符号12はレール部20を支持する機台11の脚部である。
【0033】
金型保持構造体100は、金型110が被加工材85を挟持したまま各部30,40,50,60を移動可能な構造であれば、特に限定されない。例えば、下型120と上型125とを挟持するクリップ部材等を有する構造等の適宜の構造とすることができる。
【0034】
図4に示す金型保持構造体100は、被加工材85を挟持する金型110を保持する枠型構造の例であり、レール本体21に沿ってセット部30、加熱部40、加圧部50、取出部60間を移動する。この金型保持構造体100は、下部開口部104を有しレール本体21に載置されて摺動可能な保持本体101と、金型110の下型120を保持する一対の金型保持部105,105とを備える。また、金型保持構造体100に保持される金型110では、下型120の複数個所に合着凸部123が設けられるとともに、上型125に下型120の合着凸部123に対応する複数の合着孔部128が設けられ、下型120の各合着凸部123と上型125の各合着孔部128とが係合することにより、下型120に対して上型125が適切な位置で重ね合わされる。
【0035】
図5は、金型保持構造体100及び金型110のバリエーションを表す概略平面図である。図5(a)は、単一の被加工材85を加工するための金型110Aが保持された金型保持構造体100Aの例である。金型保持構造体100Aは、レール本体21に摺動可能に載置される一対の側縁部102,102と各側縁部102,102の両端にそれぞれ架設される端縁部103,103とからなる枠形状の保持本体101Aと、各端縁部103,103間に架設される一対の金型保持部105A,105Aとを有し、金型保持部105A,105A間に金型110A(下型120)がネジ部材等の固定部材(図示せず)によって固定される。
【0036】
図5(b)は、同一の金型面で複数の被加工材85を加工するための金型110Bが保持された金型保持構造体100Bの例である。金型保持構造体100Bでは、平面視長方形状の金型110Bが保持本体101Aの各端縁部103,103間に配置されて、各端縁部103,103を金型保持部105,105としてネジ部材等の固定部材(図示せず)によって固定される。
【0037】
図5(c)は、比較的大型の被加工材85を加工するための金型110Cが保持された金型保持構造体100Cの例である。金型保持構造体100Cでは、下部開口部104全体の大きさに相当する金型110Cが保持本体101Aの下部開口部104に配置されて、保持本体101Aの各側縁部102,102や各端縁部103,103を金型保持部105,105,105,105としてネジ部材等の固定部材(図示せず)によって固定される。
【0038】
金型保持構造体の枠型構造は、上記構造体100A~100Cのみに限定されず、被加工材85の数や大きさ、金型の形状等に応じて適宜の構造とすることができる。例えば、金型保持構造体の金型保持部に金型と嵌合可能な凹部を設けて金型を所定位置で保持可能とする構造や、適宜の金型の位置決め部材を設ける構造等である。また、レール本体21上を移動可能な移動装置を別途用意し、金型保持構造体を移動装置に設置して移動可能に構成してもよい。
【0039】
セット部30は、金型110がセットされた金型保持構造体100を作成するセット装置31を備える。セット装置31は、保持本体101、金型110、被加工材85を適宜に設置可能な公知のロボットアーム等の搬送手段が好適に用いられる。実施例のセット装置31では、作業台とレール部20との間で、保持本体101や金型110、被加工材85の搬送を行うとともに、金型保持構造体100の作成が行われる。
【0040】
加熱部40は、金型110をフィルム状樹脂組成物84の熱変形温度に加熱する加熱装置41を備える。加熱装置41は、金型110を効率よく加熱可能であれば特に限定されない。実施例の加熱装置41は、レール本体21の上下に配置された昇降可能な熱板42,43を有し、上側の熱板42と下側の熱板43とにより金型110を挟持して加熱するように構成される。
【0041】
熱変形温度は、金型110に挟持された被加工材85のフィルム状樹脂組成物84を熱変形させて適切に加工することができる十分な温度であり、フィルム状樹脂組成物84の種類に応じて適宜に設定される。例えば、フィルム状樹脂組成物84の融点より50℃以上高い温度に金型110が加熱される。なお、上限は特に限定されないが、過剰な加熱により被加工材85のフィルム状樹脂組成物84が大気中の酸素と反応して酸化し劣化が生じるおそれがあることから、フィルム状樹脂組成物84に熱による酸化劣化が生じにくい温度であればよい。
【0042】
加熱装置41による金型110の加熱は、被加工材85を挟持した状態の金型110に対して行ってもよいし、被加工材85を挟持していない状態の金型110に対して行ってもよい。被加工材85を挟持した金型110を加熱する場合は、金型110の過剰な加熱が不要で経済的に有利である。また、被加工材85を挟持していない金型110を加熱する場合は、金型110のみを加熱するため、短時間で高温に加熱することができて作業時間の短縮を図ることができるともに、加熱による被加工材85のフィルム状樹脂組成物84の酸化が抑制されて高品質の成形が可能となる。
【0043】
加圧部50は、図6,7に示すように、加熱された後の金型110を外面から挟圧して薄板状積層物80に形成する挟圧ロール装置51を備える。挟圧ロール装置51は、金型111の下面側に当接する位置に回転可能に配置される下側加圧ロール52と、下側加圧ロール52の直上位置であって金型保持構造体100の上側に回転可能に配置される上側加圧ロール54と、上側加圧ロール54を昇降させる加圧シリンダ装置等からなる加圧部昇降手段56とを有する。また、図示しないが、挟圧ロール装置51は、下側加圧ロール52と上側加圧ロール54のいずれか一方又は双方の温度を調節する調温手段を有する。図において、符号53は下側加圧ロール52を回転駆動させる下側回転駆動装置、55は上側加圧ロール54を回転駆動させる上側回転駆動装置、57は加圧部昇降手段56のロッド部である。
【0044】
この挟圧ロール装置51では、図7に示すように、金型110が加熱された後の金型保持構造体100を2つの加圧ロール間に導入し加圧ロールの回転により金型110外面から挟圧してフィルム状樹脂組成物84と基材81とを一体に熱圧着してフィルム状樹脂層82を有する薄板状積層物80に形成する。実施例の挟圧ロール装置51は、下側加圧ロール52と上側加圧ロール54の回転を制御する駆動制御装置(図示せず)を有し、金型111に対する挟圧時に2つの加圧ロール52,54の回転と金型保持構造体100の搖動とが同期するように制御される。
【0045】
取出部60は、挟圧後の金型保持構造体100から金型110や被加工材85を取り出す取出装置61を備える。取出装置61は、公知のロボットアーム等の搬送手段が好適に用いられ、加工後の金型等が載置される作業台とレール部20との間で、金型保持構造体100や金型110、被加工材85の搬送を行うとともに、金型保持構造体100から金型110や被加工材85の取り出しを行う。
【0046】
薄板状積層物の製造装置10では、本発明の製造方法において冷却工程を行う場合に、機台11に冷却部70が配置される。冷却部70は、挟圧ロール装置51で挟圧された金型110を冷却する冷却装置71を備える。冷却装置71は、金型110を介して薄板状積層物80を冷却可能であれば特に限定されない。例えば、図1に示す冷却装置71は、レール本体21の上下に配置された昇降可能な冷却板72,73を有し、上側の冷却板72と下側の冷却板73とにより金型保持構造体100に保持された金型110を挟持して冷却するように構成される。冷却部70において挟圧後の金型を冷却することにより、薄板状積層物80の凹凸面の形状を安定させることができる。
【0047】
次に、上記薄板状積層物の製造装置10を用いて、本発明の薄板状積層物の製造方法について具体的に説明する。
【0048】
金型保持構造体作成工程は、被加工材85の両面側にフィルム状樹脂組成物84の熱変形温度に加熱された金型110を配置した金型保持構造体を作成する工程である。この金型保持構造体作成工程は、例えば、図8(a)に示すように、セット部30にて行われるセット工程後、加熱部40にて加熱工程を行うように構成される。
【0049】
図8(a)に示すセット工程は、セット部30において、セット装置31(図示省略)を用いて、被加工材85の両面側に金型110を配置した金型保持構造体100を作成する工程(加熱前セット工程)である。このセット工程では、ロボットアーム等のセット装置31により、金型保持構造体100をレール部20のレール本体21上に搬送したり、金型110の下型120や上型125を金型保持構造体100へ搬送して保持させたり、被加工材85を金型へ搬送したりする等の処理が行われる。実施例では、予め金型保持構造体100の保持本体101に金型110の下型120を保持させ、下型120に被加工材85を載置した後、下型120を保持した金型保持構造体100をレール本体21上へ搬送し、上型125を下型120に重ね合わせるセット処理が行われる。
【0050】
図8(a)に示す加熱工程は、加熱部40において、加熱装置41を用いて、金型保持構造体100の作成後に金型110全体をフィルム状樹脂組成物84の熱変形温度に加熱する工程(セット後加熱工程)である。この加熱工程では、セット部30から加熱部40に移動された金型保持構造体100に対し、加熱装置41により金型110の下型120及び上型125を加熱して、この金型110に挟持された被加工材85を熱変形温度に加熱する処理が行われる。これにより、後述の加圧工程において被加工材85の適切な加工が可能となる。実施例では、加熱装置41の上下の熱板42,43それぞれ昇降させて、レール本体21上の金型保持構造体100に保持された金型110を熱板42,43で挟んで加熱する処理が行われる。なお、加熱温度は、被加工材のフィルム状樹脂組成物の材料に応じて決定される。
【0051】
上記のように、被加工材85を金型110に挟持させて金型保持構造体100をセットした後に金型110の加熱を行う金型保持構造体作成工程では、金型110の過剰な加熱が不要で経済的に有利である。
【0052】
また、金型保持構造体作成工程は、上記セット工程後に加熱工程を行う場合の代わりに、図8(b)に示すように、加熱部40にて行われる加熱工程後、セット部30にてセット工程を行うように構成してもよい。
【0053】
図8(b)に示す加熱工程は、加熱部40において、加熱装置41を用いて、金型をフィルム状樹脂組成物84の熱変形温度に加熱する工程(セット前加熱工程)である。この加熱工程では、保持本体101に保持されたかつ被加工材85を挟持していない金型110に対し、加熱装置41により金型110の下型120及び上型125を加熱する処理が行われる。これにより、金型110を短時間で高温に加熱でき、加熱による被加工材85のフィルム状樹脂組成物84の酸化が抑制されて高品質の成形が可能となる。
【0054】
図8(b)に示すセット工程は、セット部30において、セット装置31(図示省略)を用いて、加熱後の金型110に被加工材85を挟持させて金型保持構造体100を作成する工程(加熱後セット工程)である。このセット工程では、ロボットアーム等のセット装置31により、保持本体101に保持された金型110の上型125を一旦外し、下型120に被加工材85を載置した後、上型125を下型120に重ね合わせるセット処理が行われる。
【0055】
上記のように、金型110を加熱した後に金型110に被加工材85を挟持させて金型保持構造体100をセットする金型保持構造体作成工程では、金型110のみを加熱するため、短時間で高温に加熱することができて作業時間の短縮を図ることができるとともに、加熱による被加工材85のフィルム状樹脂組成物84の酸化が抑制されて高品質の成形が可能となる。
【0056】
加圧工程は、図6,7,9,10に示すように、加圧部50において、加熱された金型110が配置された金型保持構造体100を挟圧ロール装置51の2つの加圧ロール52,54間に導入し加圧ロール52,54の回転により金型111外面から挟圧してフィルム状樹脂組成物を基材とを一体に熱圧着してフィルム状樹脂層82を有する薄板状積層物80に形成する工程である。加圧工程では、セット部30又は加熱部40から加圧部50に移動された金型保持構造体100の加熱後の金型111に対し、金型保持構造体100を搖動させながら金型111に挟持された被加工材85全体をロールプレスする処理が行われる。
【0057】
実施例において、加圧部50に移動された金型保持構造体100の金型111は、図9(a)に示すように、下側加圧ロール52の上端部が金型111の下面と同じ高さに位置するため、下側加圧ロール52と金型111の下面とが当接状態(当接位置P1)となる。次に、金型保持構造体100上方の上側加圧ロール54が加圧部昇降手段56により下降され、金型保持構造体100に保持された加熱後の金型111の上面側に上側加圧ロール54が圧接され、2つの加圧ロール52,54による金型111の挟圧が行われる(図7参照)。2つの加圧ロール52,54による挟圧では、図9(b)に示すように、上側加圧ロール54が、下側加圧ロール52と金型111との当接位置P1の直上位置において金型111と当接(P2)して押圧する。そのため、金型111には、下側加圧ロール52との当接位置P1と上側加圧ロール54との当接位置P2間に2つの加圧ロール52,54からの加圧力が作用する。
【0058】
ここで、図16に示すような従来の転写成形等の加工方法では、金型210全体がプレス装置等の加圧手段200により押圧されるため、金型210に対して2次元的(面状)に加圧力が作用する。面状に加圧する場合、圧力が金型210全体に作用するように分散し、さらに金型210全体において加圧力が必ずしも均一には作用せず、加圧むらが生じることがある。これに対し、図9(b)に示す2つの加圧ロール52,54による挟圧では、金型保持構造体100が保持する金型111に対して当接位置P1,P2間の1次元的(線状)な加圧力が作用する。そのため、2次元的(面状)に作用する従来方法と比較して、圧力が集中して大きな加圧力を作用させやすくなり、しかも金型111の加圧部分が当接位置P1,P2間に限定されるため、比較的均一に加圧力が作用して加圧むらの発生が抑制される。
【0059】
そして、2つの加圧ロール52,54による挟圧が行われると、図10に示すように、挟圧が保持された状態で、金型111の加圧部分(当接位置P1,P2間)が、少なくとも金型保持構造体100の金型111に挟持される被加工材85全体(被加工材85の各端部の位置86,86間)に作用するように、金型保持構造体100が搖動される。金型保持構造体100の搖動では、金型保持構造体100が一方(例えば図10(a)の後退方向)へ移動されるのに伴って2つの加圧ロール52,54が挟圧状態で同一方向(例えば図10(a)の下側加圧ロール52が反時計回り方向かつ上側加圧ロール54が時計回り方向)に回転され、さらに金型保持構造体100が他方(例えば図10(b)の前進方向)へ移動されるのに伴って2つの加圧ロール52,54が挟圧状態で同一方向(例えば図10(b)の下側加圧ロール52が時計回り方向かつ上側加圧ロール54が反時計回り方向)に回転される。
【0060】
この時、加圧部50の駆動制御装置(図示せず)により、金型保持構造体100の搖動と各加圧ロール52,54の回転駆動とが同期して行われるように制御される。すなわち、金型保持構造体100の移動のタイミング(搖動のタイミング)と各加圧ロール52,54の回転のタイミング、金型保持構造体100の移動方向(搖動方向)と各加圧ロール52,54の回転方向、金型保持構造体100の移動距離(搖動範囲)と各加圧ロール52,54の回転量等を一致させる制御が行われる。そのため、金型保持構造体100は、2つの加圧ロール52,54からの金型111に対する所定の加圧が保持された状態での円滑な移動が可能となる。このように金型保持構造体100を挟圧状態で搖動させることにより、2つの加圧ロール52,54による加圧位置(P1,P2間)が金型111の全面に及ぶため、金型111の全面を略均一に加圧することができる。なお、金型保持構造体100の搖動は、樹脂層の種類や凹凸形状の細かさ、目的とする製品等に応じて1回(1往復)を含む必要回数実施される。また、2つの加圧ロール52,54による挟圧の開始位置や終了位置等は被加工材85の大きさや凹凸形状の種類等に応じて適宜である。金型保持構造体100の搖動が停止されると、加圧が完了して上側加圧ロール54が上昇されて金型111に対する挟圧状態が解除される。
【0061】
この加圧工程では、必要に応じて、挟圧ロール装置51の挟圧時に、調温手段(図示せず)により下側加圧ロール52と上側加圧ロール54のいずれか一方又は双方の温度を調節するように構成してもよい。調温手段による温度調整は、加熱、冷却、保温等、適宜である。例えば、多数の製品を連続的に加工する場合等では、金型110と加圧ロール52,54との温度に差があると、挟圧時に金型110の温度が変化して適切な加工が困難となる場合がある。そこで、この温度調整では、金型110の温度が低下している場合等に加熱や保温をしたり、過剰に高い場合等に冷却したりする等により、挟圧時の金型110の温度を適正に保持することができる。
【0062】
取出工程は、取出部60において、取出装置61を用いて金型保持構造体100から挟圧後の金型110を取り出す工程である。この取出工程では、加圧部50から取出部60に移動された金型保持構造体100に対し、ロボットアーム等の取出装置61により、金型保持構造体100をレール部20のレール本体21から搬送したり、金型110の下型120や上型125を金型保持構造体100から取り外したり、金型110から被加工材85を取り出したりする等の処理が行われる。実施例では、金型保持構造体100に保持された金型110の上型125を下型120から取り外し、下型120を保持した金型保持構造体100をレール本体21から作業台等の他の載置場所へ搬送して下型120に載置された薄板状積層物80(加工後の被加工材)を取り出す処理が行われる。金型110から薄板状積層物80が取り出されることにより、当該製造方法は終了される。
【0063】
上記取出工程を行う場合、加工直後の薄板状積層物80は、加熱部40での加熱により変形しやすい状態となっている。そこで、取出工程を行う前に、薄板状積層物80が不用意な変形が発生しない程度の温度まで下げられる。その際、薄板状積層物80を金型110から取り出さずに所定時間放置する等の徐冷を行うことも可能であるが、薄板状積層物の製造装置10に冷却部70を設けて冷却工程を行うことが好ましい。
【0064】
冷却工程は、冷却部70において、冷却装置71を用いて金型保持構造体100に保持された挟圧後の金型110全体を冷却する工程である。この冷却工程では、加圧部50から冷却部70に移動された金型保持構造体100に対し、冷却装置71により金型110の下型120及び上型125を冷却して、この金型110に挟持された加工後の薄板状積層物80を不用意な変形が発生しない程度の温度まで冷却する処理が行われる。これにより、薄板状積層物80の凹凸面の形状が安定化して、金型110内において薄板状積層物80の成形が完了する。実施例では、冷却装置71の上下の冷却板72,73それぞれ昇降させて、レール本体21上の金型保持構造体100に保持された金型110を冷却板72,73で挟んで冷却する処理が行われる。冷却工程を行った後、冷却部70から取出部60に金型保持構造体100が移動されて前記の取出工程が行われる。なお、冷却温度はフィルム状樹脂組成物84の熱変形温度より20℃以上低い温度である。
【0065】
ここで、薄板状積層物の製造装置10におけるセット部30、加熱部40、加圧部50、取出部60、冷却部70の配列の組み合わせについて説明する。図11は、セット部30において被加工材が金型に挟持されて金型保持構造体が作成された後、加熱部40において被加工材を挟持した金型が加熱される薄板状積層物の製造装置のバリエーション(10A~10D)を表す。また、図12は、加熱部40において被加工材を挟持していない金型が加熱された後、セット部30において被加工材が金型に挟持されて金型保持構造体が作成される薄板状積層物の製造装置のバリエーション(10E~10H)を表す。
【0066】
図11(a)に示す薄板状積層物の製造装置10Aは、レール部20に、セット部30、加熱部40、加圧部50、取出部60が直列状に配置された例である。この薄板状積層物の製造装置10Aでは、被加工材がレール部20の下流側(セット部30側)から搬送されて加工され、加工された薄板状積層物がレール部20の上流側(取出部60側)に搬送される。そのため、薄板状積層物を用いた各種製品の製造ラインのライン工程に当該装置10Aを組み込むことが可能となり、取出部60で取り出された薄板状積層物を連続して他の処理工程に移送することができる。
【0067】
図11(b)に示す薄板状積層物の製造装置10Bは、加圧部50と取出部60との間に冷却部70を設け、レール部20に、セット部30、加熱部40、加圧部50、冷却部70、取出部60の順番で直列状に配置した例である。この薄板状積層物の製造装置10Bでは、冷却部70により薄板状積層物の凹凸面の形状の安定化を図ることができ、前記製造装置10Aと同様に製造ラインのライン工程に組み込むことができる。
【0068】
図11(c)に示す薄板状積層物の製造装置10Cは、セット部30と取出部60とを共通させかつセット装置31と取出装置61とを共通する装置とし、レール部20に、取出部60を兼ねるセット部30、加熱部40、加圧部50、冷却部70の順番で直列状に配置した例である。この薄板状積層物の製造装置10Cでは、セット部30と取出部60とが共通して構成されるため、当該製造装置10Cの省スペース化を図ることができるとともに、使用する機材が省略されてコスト低減を図ることができる。また、セット部30から搬送された被加工材が、加圧部50で加工された後、再度セット部30(取出部60を兼ねる)に戻されて取り出されるため、バッチ作業に際して工数を減らすことが可能となって作業効率の向上を図ることができる。
【0069】
図11(d)に示す薄板状積層物の製造装置10Dは、セット部30と取出部60とを共通させかつセット装置31と取出装置61とを共通する装置とし、レール部20に、取出部60を兼ねるセット部30、冷却部70、加熱部40、加圧部50の順番で直列状に配置した例である。この薄板状積層物の製造装置10Dでは、加圧部50が当該製造装置10Dの最外部に配置されているため、加圧部50の挟圧ロール装置の調製等のメンテナンス作業がやりやすくなる。また、前記製造装置10Cと同様に省スペース化によるコスト低減や、バッチ作業に際しての作業効率の向上を図ることができる。
【0070】
図12(a)に示す薄板状積層物の製造装置10Eは、レール部20に、加熱部40、セット部30、加圧部50、取出部60の順番で直列状に配置された例である。すなわち、薄板状積層物の製造装置10Eは、薄板状積層物の製造装置10Aに対してセット部30と加熱部40とを入れ替えて構成されたものである。したがって、被加工材がレール部20の下流側(加熱部40側)から上流側(取出部60側)に搬送されながら加工される。そのため、薄板状積層物の製造装置10Aと同様に、各種製品の製造ラインのライン工程に組み込んで、製造した薄板状積層物を連続して他の処理工程に移送することができる。
【0071】
図12(b)に示す薄板状積層物の製造装置10Fは、薄板状積層物の製造装置10Bに対してセット部30と加熱部40とを入れ替えて構成されたものであって、レール部20に、加熱部40、セット部30、加圧部50、冷却部70、取出部60の順番で直列状に配置した例である。この薄板状積層物の製造装置10Fでは、薄板状積層物の製造装置10Bと同様に、冷却部70により薄板状積層物の凹凸面の形状の安定化を図るとともに、製造ラインのライン工程に組み込むことができる。
【0072】
図12(c)に示す薄板状積層物の製造装置10Gは、薄板状積層物の製造装置10Cに対してセット部30と加熱部40とを入れ替えて構成されたものであって、レール部20に、加熱部40、取出部60を兼ねるセット部30、加圧部50、冷却部70の順番で直列状に配置した例である。この薄板状積層物の製造装置10Gでは、薄板状積層物の製造装置10Cと同様に、当該製造装置10Gの省スペース化や、使用する機材を省略したコスト低減、バッチ作業に際して工数を減らした作業の効率化を図ることができる。
【0073】
図12(d)に示す薄板状積層物の製造装置10Hは、レール部20に、加熱部40、取出部60を兼ねるセット部30、冷却部70、加圧部50の順番で直列状に配置した例である。この薄板状積層物の製造装置10Hでは、加圧部50の挟圧ロール装置の調製等のメンテナンス作業がやりやすくなる。また、前記製造装置10Gと同様に省スペース化によるコスト低減や、バッチ作業に際しての作業効率の向上を図ることができる。
【0074】
次に、被加工材の積層構造とその金型との関係のバリエーションについて、図13~15を用いて説明する。図13(a)は、基材81の一面側(図の例では上面側)にフィルム状樹脂組成物84Aが積層された被加工材85Aに対し、片面加工用の金型112Aを配置した金型構造150Aの例である。金型112Aは、平滑面である金型面121Aを有する下型120Aと、凹凸面形状127が形成された金型面126Aを有する上型125Aとを備える。この金型構造150Aでは、平滑な下型120Aが被加工材85Aの基材81の他側(下面側)に当接され、基材81の一側(上面側)の樹脂組成物84Aに対して凹凸面形状127が形成された上型125Aが当接されて、基材81の一面側(上面側)の樹脂組成物84Aのみに凹凸形状を形成することができる。
【0075】
図13(b)は、基材81の両面にフィルム状樹脂組成物84A,84Bが積層された被加工材85Bに対し、片面加工用の金型112Aを配置した金型構造150Bの例である。この金型構造150Bでは、平滑な下型120Aが被加工材85Aの基材81の他側(下面側)の樹脂組成物84Bに当接され、基材81の一側(上面側)の樹脂組成物84Aに対して凹凸面形状127が形成された上型125Aが当接される。そして、下型120Aにより基材81の他側(下面側)の樹脂組成物84Bを平滑な樹脂層とし、一側(上面側)の樹脂組成物84Aのみに凹凸形状を形成することができる。
【0076】
図13(c)は、基材81の両面にフィルム状樹脂組成物84A,84Bが積層された被加工材85Bに対し、両面加工用の金型112Bを配置した金型構造150Cの例である。金型112Bは、凹凸面形状122が形成された金型面121Bを有する下型120Bと、凹凸面形状127が形成された金型面126Aを有する上型125Aとを備える。この金型構造150Cでは、基材81の他側(下面側)の樹脂組成物84Bに対して凹凸面形状122が形成された下型120Bが当接され、基材81の一側(上面側)の樹脂組成物84Aに対して凹凸面形状127が形成された上型125Aが当接される。そして、下型120Bと上型125Aとにより、基材81の両側の樹脂組成物84B,84Aに対して凹凸形状を形成することができる。
【0077】
図13(a)に示す金型構造150Aによれば、基材81に凹凸形状を有する単一の樹脂層を適切に形成することができる。一方、図13(b),13(c)に示す金型構造150B,150Cは、基材81の両面に対してフィルム状樹脂組成物84A,84Bが積層された被加工材85Bへの加工の例である。金型構造150Bでは、基材81の一側に凹凸形状を有する所定の機能性を備えた樹脂層を形成するとともに、他側に平滑な接着層等の樹脂層を形成することができる。また、金型構造150Cでは、基材81の両面に凹凸形状を有する所定の機能性を備えた樹脂層を形成することができる。特に、金型構造150Cでは、下型120Bと上型125Aの凹凸形状を異ならせることにより、基材81の各面で異なるパターンの凹凸形状を形成することができる。このように、基材81の両面に樹脂組成物84A,84Bを積層することにより、多様な機能性を備えた製品を容易に製造することができる。
【0078】
図14,15は、それぞれ複数(各図の例ではそれぞれ2つ)の被加工材に対して同時に加工を行う金型構造150D,150Eの例である。図14に示す金型構造150Dでは、基材81の一面側(図の例では上面側)にフィルム状樹脂組成物84Aが積層された一の被加工材85Cと、基材81の両面にフィルム状樹脂組成物84A,84Bが積層された他の被加工材85Dとに対して、複数の被加工材の加工が可能な金型112Cが配置される。金型112Cは、凹凸面形状122が形成された金型面121Bを有する下型120Bと、凹凸面形状127が形成された金型面126Aを有する上型125Aと、両面が平滑面の金型面131A,136Aを有する中型130Aとを備える。
【0079】
この金型構造150Dでは、他の被加工材85Dの基材81の他側(下面側)の樹脂組成物84Bに対して凹凸面形状122が形成された下型120Bが当接され、一の被加工材85Cの基材81の一側(上面側)の樹脂組成物84Aに対して凹凸面形状127が形成された上型125Aが当接され、さらに一の被加工材85Cと他の被加工材85Dとの間に中型130Aが介在されかつ一の被加工材85Cの基材81の他側(下面側)に対して中型130Aの平滑な上側の金型面131Aが当接されるとともに他の被加工材85Dの基材81の一側(上面側)の樹脂組成物84Aに対して中型130Aの平滑な下側の金型面136Aが当接される。そして、一の被加工材85Cに対しては、上型125Aにより一側(上面側)の樹脂組成物84Aにのみ凹凸形状を形成するとともに、他の被加工材85Dに対しては、下型120Aにより基材81の他側(下面側)の樹脂組成物84Bのみに凹凸形状を形成し、一側(上面側)の樹脂組成物84Aを平滑な樹脂層として形成することができる。
【0080】
図15に示す金型構造150Eでは、基材81の両面にフィルム状樹脂組成物84A,84Bが積層された一の被加工材85Eと、同じく基材81の両面にフィルム状樹脂組成物84A,84Bが積層された他の被加工材85Fとに対して、複数の被加工材の加工が可能な金型112Dが配置される。金型112Dは、凹凸面形状122が形成された金型面121Bを有する下型120Bと、凹凸面形状127が形成された金型面126Aを有する上型125Aと、両面に凹凸面形状132,137が形成された金型面131B,136Bを有する中型130Bとを備える。
【0081】
この金型構造150Eでは、他の被加工材85Fの基材81の他側(下面側)の樹脂組成物84Bに対して凹凸面形状122が形成された下型120Bが当接され、一の被加工材85Eの基材81の一側(上面側)の樹脂組成物84Aに対して凹凸面形状127が形成された上型125Aが当接され、さらに一の被加工材85Eと他の被加工材85Fとの間に中型130Bが介在されかつ一の被加工材85Eの基材81の他側(下面側)に対して中型130Bの上側の凹凸面形状132が形成された上側の金型面131Bが当接されるとともに他の被加工材85Fの基材81の一側(上面側)の樹脂組成物84Aに対して中型130Bの下側の凹凸面形状137が形成された下側の金型面136Bが当接される。そして、一の被加工材85Eに対しては、上型125Aにより一側(上面側)の樹脂組成物84Aに凹凸形状を形成するとともに中型130Bの上側の金型面131Bにより他側(下面側)の樹脂組成物84Bに凹凸形状を形成し、他の被加工材85Fに対しては、下型120Bにより基材81の他側(下面側)の樹脂組成物84Bに凹凸形状を形成するとともに中型130Bの下側の金型面136Bにより一側(上面側)の樹脂組成物84Aに凹凸形状を形成することができる。
【0082】
図14に示す金型構造150Dによれば、異なる被加工材の間に中型130Aを介在させることにより、種類の異なる薄板状積層物を複数成形することができる。一方、図15に示す金型構造150Eは、同一の被加工材の間に中型130Bを介在させることにより、同一の薄板状積層物を複数成形することができる。このように、被加工材が複数配置されて各被加工材の両面側に上型、中型、下型の各金型を配置させることにより、同種または異種の薄板状積層物を同時に複数成形することが可能となり、作業効率や生産効率の向上を図ることができる。なお、金型構造150D,150Eの中型130A,130Bは、両面を同一の金型面として構成したが、例えば一方を平滑な金型面として他方を凹凸形状を有する金型面とする等、異なる金型面で構成することによって、異種の薄板状積層物を複数成形することも可能である。また、同時に加工する被加工材の数は特に限定されないが、加工精度等の観点から2~3個程度が好ましい。
【実施例
【0083】
[薄板状積層物の作製]
基材としてカーボンコーティング処理を施したステンレス鋼(SUS316L)、フィルム状樹脂組成物としてポリプロピレン系樹脂とカーボンナノチューブ(CNT)と黒鉛との混合物をそれぞれ使用した被加工材について、下記の条件で試作例1~3の薄板状積層物を作製した。
【0084】
[試作例1]
薄板状積層物の製造装置のセット部にて上記被加工材を金型に挟持させて金型保持構造体を作成し(作業時間約10秒)、加熱部にて加熱温度200℃、加熱時間120秒で加熱を行い、加圧部にて加圧力40kN、加圧時間20秒、加圧時温度200℃で挟圧ロールによる熱圧着を行った後、徐冷して試作例1の薄板状積層物を得た。
【0085】
[試作例2]
薄板状積層物の製造装置のセット部にて上記被加工材を金型に挟持させて金型保持構造体を作成し(作業時間約10秒)、加熱部にて加熱温度300℃、加熱時間30秒で加熱を行い、加圧部にて加圧力40kN、加圧時間20秒、加圧時温度200℃で挟圧ロールによる熱圧着を行った後、徐冷して試作例2の薄板状積層物を得た。
【0086】
[試作例3]
薄板状積層物の製造装置の加熱部にて金型に対し加熱温度300℃、加熱時間30秒で加熱を行い、セット部にて上記被加工材を加熱後の金型に挟持させて金型保持構造体を作成し(作業時間約10秒)、加圧部にて加圧力40kN、加圧時間20秒、加圧時温度200℃で挟圧ロールによる熱圧着を行った後、徐冷して試作例3の薄板状積層物を得た。
【0087】
試作例1~3の薄板状積層物について、目視にて成形状態の品質を評価した。評価の基準は、成形部分(フィルム状樹脂層)が製品として許容できる状態の場合を「〇(良)」、より良好な状態の場合を「◎(優良)」とした。この結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
[結果と考察]
試作例1は、被加工材を挟持した金型を緩やかに加熱して加工を行ったものである。試作例2は、被加工材を挟持した金型を試作例1よりも高温かつ短時間で加熱して加工を行ったものである。試作例3は、被加工材を挟持していない金型を試作例1よりも高温かつ短時間で加熱し、直後に加熱されていない被加工材を加熱後の金型に挟持させて加工を行ったものである。その結果、表1に示すように、試作例2の薄板状積層物では、製品として問題ない品質で成形することができた。一方、試作例1,3の薄板状積層物では、試作例2と比較して成形部分が極めて良好な状態であった。
【0090】
試作例1と試作例2との対比から理解されるように、被加工材を挟持した金型を加熱する場合は、高温で短時間の加熱よりも比較的低温で緩やかな加熱の方が高品質の製品が得られることがわかった。これは、試作例2では、試作例1と比較して被加工材が金型とともに高温で加熱されることから、試作例1よりも被加工材のフィルム状樹脂組成物が酸化しやすくなって品質が向上しにくくなるためと考えられる。
【0091】
これに対し、試作例3では、被加工材を挟持していない金型を加熱した後に被加工材を挟持させたことにより、試作例1と同様に高品質の製品が得られた。これは、試作例3では金型の加熱時に被加工材が高温にさらされなかったため、試作例2よりも被加工材のフィルム状樹脂組成物の酸化が抑制されて、高品質の成形が可能となったと考えられる。また、試作例3は、試作例1よりも短時間で金型を加熱することができるため、試作例1と比較して作業時間を短縮することができる。
【0092】
以上図示し説明したように、本発明のフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法は、被加工材の両面側にフィルム状樹脂組成物の熱変形温度に加熱された金型を配置した金型保持構造体を作成する工程と、加熱された金型が配置された金型保持構造体を2つの加圧ロール間に導入し加圧ロールの回転により金型外面から挟圧してフィルム状樹脂組成物と基材とを一体に熱圧着してフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物に形成する工程とを有するため、金型に対して均一に加圧力が作用して加圧むらの発生が抑制され、薄板状基材に積層されたフィルム状樹脂層に高精度で安定して凹凸形状を形成することができる。特に、薄板状基材に積層されたフィルム状樹脂層に対して微細な凹凸形状も精度よく安定して形成することができる。
【0093】
なお、本発明のフィルム状樹脂層を有する薄板状積層物の製造方法は、前述の実施例のみに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の一部を適宜に変更して実施することができる。前述の実施例では、セット部と加熱部とにおいて金型保持構造体を作成する工程について、前述の実施例では、被加工材を挟持した金型を配置した金型保持構造体を作成後、金型をフィルム状樹脂組成物の熱変形温度に加熱する工程、または被加工材を挟持していない金型をフィルム状樹脂組成物の熱変形温度に加熱した後、加熱後の金型に被加工材を挟持させて金型保持構造体を作成する工程としたが、これらに限定されない。例えば、保持本体に保持されていないかつ被加工材を挟持した金型を加熱した後に金型保持構造体を作成する工程や、保持本体に保持されていないかつ被加工材を挟持していない金型を加熱した後に金型に被加工材を挟持させて金型保持構造体を作成する工程等、セット部と加熱部とにおいて最終的に被加工材を挟持した加熱された金型を配置した金型保持構造体が作成される工程であれば、適宜の手順で行うことができる。
【0094】
また、薄板状積層物の製造装置のセット部、加熱部、加圧部、取出部の配列の組み合わせは、前述の各実施例のみに限定されず、用途や設置場所等に応じて適宜に構成することができる。
【0095】
さらに、前述の実施例では、薄板状積層物の製造装置の機台に設けられたレール部によりセット部、加熱部、加圧部、取出部を直列状に接続して、レール部上を金型保持構造体が移動可能に構成したが、レール部を設けずに公知のトランスファー装置等により金型保持構造体を移動させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の薄板状積層物の製造方法は、金型に対して均一な加圧が可能で薄板状基材に積層されたフィルム状樹脂層に高精度で安定して凹凸形状を形成することができる。そのため、薄板状積層物の従来の製造方法の代替として有望である。
【符号の説明】
【0097】
10,10A~10H 薄板状積層物の製造装置
11 機台
12 機台の脚部
20 レール部
21 レール本体
30 セット部
31 セット装置
40 加熱部
41 加熱装置
42 上側の熱板
43 下側の熱板
50 加圧部
51 挟圧ロール装置
52 下側加圧ロール
53 下側回転駆動装置
54 上側加圧ロール
55 上側回転駆動装置
56 加圧部昇降手段
57 加圧部昇降手段のロッド部
60 取出部
61 取出装置
70 冷却部
71 冷却装置
72 上側の冷却板
73 下側の冷却板
80 薄板状積層物
81 薄板状基材
82 フィルム状樹脂層
83 フィルム状樹脂層の凹凸形状
84,84A,84B フィルム状樹脂組成物
85,85A,85B,85C,85D,85E,85F 被加工材
86 被加工材の端部の位置
100,100A,100B,100C 金型保持構造体
101 保持本体
102 側縁部
103 端縁部
104 下部開口部
105 金型保持部
110,110A,110B,110C 金型
111 加熱後の金型
112A,112B,112C,112D 金型
115 合紙
120,120A,120B 下型
121,121A,121B 下型の金型面
122 下型の凹凸面形状
123 合着凸部
125,125A 上型
126,126A 上型の金型面
127 上型の凹凸面形状
128 合着孔部
130A,130B 中型
131A,131B 中型の上側の金型面
132 中型の上側の凹凸面形状
136A,136B 中型の下側の金型面
137 中型の下側の凹凸面形状
150A,105B,150C,150D,150E 金型構造
H 凹凸の溝深さ
P1 下側加圧ロールと金型との当接位置
P2 上側加圧ロールと金型との当接位置
W1 凹凸の溝上面幅
W2 凹凸の溝内面幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16