(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】レーダ装置及びレーダ信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/58 20060101AFI20240105BHJP
G01S 7/32 20060101ALI20240105BHJP
G01S 13/10 20060101ALI20240105BHJP
G01S 13/72 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
G01S13/58 210
G01S13/58 200
G01S7/32 220
G01S13/10
G01S13/72
(21)【出願番号】P 2020047984
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
(72)【発明者】
【氏名】山下 遼
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-205175(JP,A)
【文献】特開2017-096868(JP,A)
【文献】特開平08-313621(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0111731(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信パルスの受信信号からCPI(Coherent Pulse Interval)信号を抽出するCPI信号抽出部と、
前記CPI信号からレンジ-ドップラ範囲を出力するレンジ-ドップラ出力部と、
前記レンジ-ドップラ範囲内のクラッタ成分を抑圧する前処理を行い、目標が存在するレンジ-ドップラセル反射点を抽出するCFAR(Constant False Alarm Rate)処理を行うCFAR処理部と、
前記CFAR処理部の出力から目標とクラッタを弁別する第1弁別処理部と、
前記目標とクラッタの弁別結果からCPIによる観測値を出力する観測値出力部と、
前記観測値を捜索範囲内の全空間について所定周期の相関処理及び追跡処理を行う相関追跡部と、
前記相関処理及び追跡処理の出力から誤検出を抑圧してクラッタと目標を弁別して目標信号を出力する第2弁別処理部とを具備し、
前記CFAR処理部は、前記前処理を行った後、
0ドップラ近傍の第1領域とそれ以外の第2領域に分割し、前記第1領域では1次元または2次元の第1種のCFARを適用し、前記第2領域では1次元または2次元の第2種のCFARを適用し、
前記第1弁別処理部は、前記第1領域と前記第2領域を統合した第3領域の検出値に対して、クラッタと目標に対する弁別処理を行い、
前記第2弁別処理部は、前記相関処理及び追跡処理した結果を用いて目標の胴体またはブレードを弁別するレーダ装置。
【請求項2】
前記前処理として、0ドップラ近傍のクラッタ成分を抑圧する請求項1のレーダ装置。
【請求項3】
前記前処理として、クラッタレベルの強いレンジ-ドップラ範囲を抽出し、slow-time軸のセル毎に、fast-time軸の振幅信号から、M(M≧1)次の近似曲線を算出し、元の信号を除算することにより、クラッタ振幅信号を振幅平坦化する請求項1のレーダ装置。
【請求項4】
前記第1弁別処理部は、前記前処理の適用前のレンジ-ドップラ信号において、各レンジ軸のセル毎にドップラ軸の振幅最大値を算出し、振幅最大値がクラッタ強度に対する所定のスレショルドを超えるレンジセルについては、検出禁止とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記第1弁別処理部は、前記第3領域のCFAR検出結果について、各レンジ軸のセル毎にドップラ軸の検出数を加算し、加算した検出数が所定のスレショルドを超えるレンジセルについては、検出禁止とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記第1弁別処理部は、前記第3領域のCFAR検出結果において、各検出セルを中心に所定のレンジ-ドップラ範囲内の検出セル数が所定のスレショルド以下の検出セルは削除する請求項1記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記第1弁別処理部は、さらに、残留した検出セルを中心に、所定のレンジ-ドップラ範囲内のセルを1個に統合する請求項6記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記第1弁別処理部は、前記第3領域のCFAR検出結果について、各レンジ軸のセル毎にドップラ軸の検出数を加算し、加算した検出数が所定のスレショルドを超えるレンジセルについては、目標として、レンジセルを出力する請求項1記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記第2弁別処理部は、前記観測値を用いて、相関処理及び追跡処理した平滑値または予測値を用いて、速度0以外の平滑値を目標として出力する請求項1記載のレーダ装置。
【請求項10】
送信パルスの受信信号からCPI(Coherent Pulse Interval)信号を抽出し、
前記CPI信号からレンジ-ドップラ範囲を出力し、
前記レンジ-ドップラ範囲内のクラッタ成分を抑圧する前処理を行い、目標が存在するレンジ-ドップラセル反射点を抽出するCFAR(Constant False Alarm Rate)処理を行い、
前記CFAR処理の出力から目標とクラッタを弁別する第1弁別処理を行い、
前記目標とクラッタの弁別結果からCPIによる観測値を出力し、
前記観測値を捜索範囲内の全空間について所定周期の相関処理及び追跡処理を行い、
前記相関処理及び追跡処理の出力から誤検出を抑圧してクラッタと目標を弁別して目標信号を出力する第2弁別処理を行い、
前記CFAR処理は、前記前処理を行った後、
0ドップラ近傍の第1領域とそれ以外の第2領域に分割し、前記第1領域では1次元または2次元の第1種のCFARを適用し、前記第2領域では1次元または2次元の第2種のCFARを適用し、
前記第1弁別処理は、前記第1領域と前記第2領域を統合した第3領域の検出値に対して、クラッタと目標に対する弁別処理を行い、
前記第2弁別処理は、前記相関処理及び追跡処理した結果を用いて目標の胴体またはブレードを弁別するレーダ信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、レーダ装置及びレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置にあっては、クラッタによる誤検出を抑圧し、目標を低速から高速まで高精度に検出する必要がある。また、胴体にブレードを結合した小型飛翔体等の目標では、低速で飛翔する際に、胴体やブレード等の部位を検出することが要望されている。
【0003】
しかしながら、従来のレーダ装置では、低速の目標にクラッタ(近接反射波を含む)の影響を大きく受けるため、強クラッタの環境下ではクラッタと目標を弁別することが困難になり、目標の部位のみならず、目標そのものも検出することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】MTI、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.67-77 (1996)
【文献】FIRフィルタ、三谷、ディジタルフィルタデザイン、昭晃堂、pp.82-86 (1987)
【文献】CFAR(CA-CFAR、SO-CFAR、GO-CFAR)、関根、レーダ信号処理技術、電子情報通信学会、pp.96-103 (1991)
【文献】2次元CFAR、Guy Morris, Airborne Pulsed Doppler Radar 2nd edition, Artech House, pp.399-417 (1996)
【文献】相関追尾、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.254-259 (1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上述べたように、従来のレーダ装置では、強クラッタの環境下において、目標が低速の場合にクラッタによる影響を排除できず、目標または目標の部位を検出することができないという問題が生じている。
【0006】
本実施形態の課題は、強クラッタの環境下でも、目標または目標の部位を低速から高速まで精度よく検出することのできるレーダ装置及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本実施形態に係るレーダ装置は、送信パルスの受信信号からCPI(Coherent Pulse Interval)信号を抽出し、前記CPI信号からレンジ-ドップラ範囲を出力し、前記レンジ-ドップラ範囲内のクラッタ成分を抑圧する前処理を行い、目標が存在するレンジ-ドップラセル反射点を抽出するCFAR(Constant False Alarm Rate)処理を行い、前記CFAR処理の出力から目標とクラッタを弁別する第1弁別処理を行い、前記目標とクラッタの弁別結果からCPIによる観測値を出力し、前記観測値を捜索範囲内の全空間について所定周期の相関処理及び追跡処理を行い、前記相関処理及び追跡処理の出力から誤検出を抑圧してクラッタと目標を弁別して目標信号を出力する第2弁別処理を行い、前記CFAR処理は、前記前処理を行った後、0ドップラ近傍の第1領域とそれ以外の第2領域に分割し、前記第1領域では1次元または2次元の第1種のCFARを適用し、前記第2領域では1次元または2次元の第2種のCFARを適用し、前記第1弁別処理は、前記第1領域と前記第2領域を統合した第3領域の検出値に対して、クラッタと目標に対する弁別処理を行い、前記第2弁別処理部は、前記相関処理及び追跡処理した結果を用いて目標の胴体またはブレードを弁別する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係るレーダ装置の送信部、受信部、信号処理部の構成を示すブロック図。
【
図2】
図1の信号処理部の処理内容を示すフローチャート。
【
図3】
図1の信号処理部の前処理1の処理の流れを示すフローチャート。
【
図4】
図3の前処理1によりクラッタを抑圧する様子を示す概念図。
【
図5】
図1の信号処理部の前処理2の処理の流れを示すフローチャート。
【
図6】
図5の前処理2で抽出されるレンジ-ドップラ範囲を示す図。
【
図7】
図1の前処理2の処理内容を示す一例を示す図。
【
図8】
図1の前処理2の処理内容を示す他の例を示す図。
【
図9】
図1のCFAR適用時のレンジ-ドップラ軸の目標周辺領域において、0ドップラ付近のA領域と0ドップラ付近以外のB領域を定義する図。
【
図10】
図1のCFAR処理に適用されるCA-CFARを示す図。
【
図11】
図1のCFAR処理に適用されるGO-CFARを示す図。
【
図12】
図1のCFAR処理に適用されるSO-CFARを示す図。
【
図13】
図1のCFAR処理に適用されるレンジ-ドップラ軸の2次元CFARを示す図。
【
図14】
図1の第1弁別処理で、検出禁止範囲を抽出するための第1の実施例の処理内容を示すフローチャート。
【
図15】
図14の第1の実施例の第1弁別処理の様子を示す図。
【
図16】
図1の第1弁別処理で、検出禁止範囲を抽出するための第2の実施例の処理内容を示すフローチャート。
【
図17】
図16の第2の実施例の第1弁別処理の様子を示す図。
【
図18】
図1の第1弁別処理で、検出禁止範囲を抽出するための第3の実施例の処理内容を示すフローチャート。
【
図19】
図18の第3の実施例の第1弁別処理の様子を示す図。
【
図20】
図1の第1弁別処理で、ブレード信号を弁別するための第4の実施例の処理内容を示すフローチャート。
【
図21】
図20の第4の実施例の第1弁別処理の様子を示す図。
【
図22】
図1の第2弁別処理の処理内容を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
図1は実施形態に係るレーダ装置の送信部、受信部、信号処理部の構成を示すブロック図である。
図1において、送信部では、送信信号生成器11でPRI(Pulse Repetition Interval)パルスによる送信信号を生成し、DA変換器12でアナログ信号に変換し、周波数変換器13で高周波(RF)信号に変換し、高出力増幅器14で電力増幅し、サーキュレータ15を介して、アンテナ16から送信する。
【0011】
受信部では、目標等からの反射信号をアンテナ16で捕捉し、サーキュレータ15で送受分離して、低雑音増幅器17でノイズを低減して増幅し、周波数変換器18でベースバンドに周波数変換し、AD変換器19でデジタル信号に変換する。
【0012】
信号処理部では、PCI信号抽出器21で、AD変換器19から出力されるN(N≧1)ヒットの送信パルス(以下、Nパルス)のレーダ受信信号(PRI信号)からCPI信号を抽出し、レンジ-ドップラ出力器22でCPI信号からレンジセル毎のfast-timeとPRI間のslow-timeの2次元データを取得する。続いて、前処理器23でクラッタ成分を抑圧し、CFER(Constant False Alarm Rate:一定誤警報率)24で目標が存在するレンジ-ドップラセル反射点を抽出し、第1弁別処理器25で目標とクラッタとを弁別し、観測値出力器26で弁別結果からCPIによる観測値を出力し、相関追跡器27で捜索範囲内の全空間について所定周期の相関処理及び追跡処理を行い、第2弁別処理器28で目標胴体とブレードとを弁別し、低速の目標信号を出力する。
【0013】
上記信号処理部の処理内容について、
図2に示す処理フローに沿って説明する。
レーダ装置において、目標検出処理が開始されると、PCI信号抽出処理(21)でレーダ受信信号から抽出されたCPI信号を入力する(ステップS11)。このCPI信号は、レンジセル毎のfast-time(レンジ軸)とPRI間のslow-time(ドップラ軸)の2次元データである。このCPI信号には、目標信号やクラッタ成分が含まれる。クラッタ成分は、特に地上固定レーダで受信されるグランドクラッタの場合は、ドップラ0付近の低周波数成分である。一方、目標信号は、固定目標で無い限り、速度によるドップラ成分を持つ。
【0014】
次に、レンジ-ドップラ出力処理(22)でCPI信号からRD(レンジ-ドップラ)信号を取り出し出力する(ステップS12)。RD信号における目標信号とクラッタ成分の例を
図3に示す。
図3において、横軸はレンジ(fast-time)軸、縦軸はドップラ(slow-time)軸で、目標信号は胴体の信号成分とドップラ軸方向に広がるブレードの信号成分がある。一方、クラッタ成分には、ドップラ軸のメインローブの他に、強度が強い場合には、ドップラ軸方向にサイドロ-ブ(SL)が広がる信号になる。
【0015】
次に、前処理(23)により極力クラッタ成分を抑圧し(ステップS13)、その後、CFAR処理(24)により目標が存在するレンジ-ドップラセルの反射点を抽出する(ステップS14,S15,S16)。この反射点には、クラッタ成分と目標信号が含まれる。CFAR処理の詳細については後述する。次に、弁別処理(25)により、目標信号とクラッタ成分を弁別し(ステップS17)、観測値出力処理(26)により、CPIによる観測値を出力する(ステップS18)。
【0016】
次に、捜索範囲内の全空間を1フレームとして、同一空間(同一方向のビーム)のフレーム間の処理として、相関処理と追跡処理(27)を行う(非特許文献5参照)(ステップS19)。ここで、相関処理は、前フレームにおける観測値と現フレームにおける観測値との間で、ゲートを用いて同一目標か否かを判定する処理である。また、追跡処理は、前サイクルの予測値と現サイクルの観測値を用いて、平滑値や次フレームの予測値を算出する追跡フィルタ処理である。次に、相関追跡処理結果の平滑値(予測値)を用いて、クラッタ成分と目標信号を弁別する処理(28)を行う(ステップS20)。以上の処理の結果、目標信号のみを出力することができる。
【0017】
上記の処理において、本実施形態の特徴とする点を説明する。
まず、CFAR適用前の前処理(23)について述べる(
図2のステップS13)。前処理には、ドップラ軸のフィルタを用いてクラッタを抑圧する前処理1と、クラッタ強度を平坦化してクラッタを抑圧する前処理2がある。
【0018】
前処理1について、
図3及び
図4を用いて説明する。
図3は前処理1の処理の流れを示すフローチャート、
図4は前処理1によりクラッタを抑圧する様子を示す概念図である。
【0019】
前処理1では、
図3に示すように、レンジ-ドップラデータを入力すると(ステップS21)、所定のスレショルドを設定して、このスレッショルドを超えるクラッタ強度の強いレンジ-ドップラ範囲を抽出する(ステップS22)。次に、抽出レンジ範囲のslow-time軸の複素信号を用いて、ドップラ軸で強クラッタの範囲(0ドップラ)にヌルを形成する周波数フィルタを適用する(ステップS23)。この周波数フィルタとしては、MTI(非特許文献1参照)や、周波数軸逆サンプリング法(非特許文献2参照)によるFIRフィルタ等が適用できる。最後に、0ドップラ抑圧後のレンジ-ドップラデータを出力する(ステップS24)。この様子を
図4に示す。
図4(a)は周波数応答特性においてヌルを形成した様子を示し、
図4(b)はスレッショルドを超えるクラッタ強度が含まれるレンジ-ドップラ範囲を抽出した状態を示し、
図4(c)は
図4(b)に示すクラッタ領域が
図4(a)のヌル形成により除去されてドップラヌル範囲が特定された状態を示している。
【0020】
次に、前処理2について、
図5~
図8を用いて説明する。
図5は前処理2の処理の流れを示すフローチャート、
図6は前処理2で抽出されるレンジ-ドップラ範囲を示す図、
図7は前処理2の処理内容を示す一例を示す図、
図8は前処理2の処理内容を示す他の例を示す図である。
【0021】
前処理2では、
図5に示すように、レンジ-ドップラデータを入力すると(ステップS31)、所定のスレショルドを設定して、このスレッショルドを超えるクラッタ強度の強いレンジ-ドップラ範囲を抽出する(ステップS32)。次に、抽出したレンジ-ドップラ範囲において、ドップラ軸のセル毎にレンジ(fast-time)軸の振幅信号を用いて、低次の近似曲線を算出する(ステップS33)。これを定式化すると、次の通りである。近似曲線は、例えば次式に示す多項式近似式を用いて、最小2乗法等により係数を決めればよい。
【0022】
【0023】
この際、次数Mを大きくすると、クラッタ成分以上の目標信号まで近似するため、想定する目標信号まで抑圧しないように、低次の次数(例えば1~3程度)に設定する必要がある。この近似曲線を用いて、元の信号を除算する(ステップS33)。これにより、全体レベルを平坦化することができる。この様子を
図7に示す。
図7(a)は、レンジ-ドップラ軸のセル毎に抽出したレンジ軸の振幅信号から低次の近似曲線を算出する様子を示し、
図7(b)は
図7(a)で算出した低次の近似曲線を示し、
図7(c)は元の信号を
図7(b)に示した低次の近似曲線で除算してクラッタ成分を平坦化した結果を示している。
【0024】
上記のクラッタ平坦化のためには、低次の近似曲線の他に、移動平均による近似曲線で除算する方法もある。この様子を
図8に示す。
図8(a)は、レンジ-ドップラ軸のセル毎に抽出したレンジ軸の振幅信号をfast-time軸に沿ってLセル単位で移動平均値を算出した様子を示し、
図8(b)は
図8(a)で算出した移動平均値による近似曲線を示し、
図8(c)は元の信号を
図8(b)に示した近似曲線で除算してクラッタ成分を平坦化した結果を示している。この場合、移動平均は、fast-time軸で1セルずつずらせたL(L≧2)セルの範囲の振幅平均値を用いて、近似曲線を算出するものである。これにより、元の信号を除算することにより、クラッタレベルを平坦化することができる。
【0025】
次に、前処理適用後の信号に対してCFAR(非特許文献3参照)を適用する(
図2のステップS14~S16)。以降の処理を述べる上で、
図9に示すように、レンジ(fast-time)軸、ドップラ(slow-time)軸の目標周辺領域について、0ドップラ付近のA領域と、0ドップラ付近以外のB領域を定義する。CFARには、
図10乃至
図12に示すレンジ軸またはドップラ軸の1次元CFARと、
図13に示すレンジ-ドップラ軸の2次元CFAR(非特許文献4参照)がある。2次元CFARでは、1次元CFARに比べてリファレンスセル数が増えるため、安定したCFAR出力が得られやすく、誤検出を低減できる。
【0026】
各種1次元CFARについて
図10~
図12に示す。
図10~
図12において、CFARは、対称軸で検出対象のテストセルを1セルずつずらしてスレショルドと比較して、スレッショルドを超えるセルを検出する処理である。このテストセルの周囲にはガードセルを設定し、その周囲にリファレンスセルを設定する。
図10のCA-CFAR(非特許文献3参照)ではリファレンスセルの振幅平均値、
図11のGO-CFAR(非特許文献3参照)ではリファレンスセルの振幅最大値、
図12のSO-CFAR(非特許文献3参照)ではリファレンスセルの振幅最小値を用いて、それぞれ入力信号を除算したCFAR出力を所定のスレショルドと比較し、スレッショルドを超える場合に検出バンクをあげる。
図13に示す2次元CFARの場合も同様である。
【0027】
CA-CFARを基準すると、GO-CFARは誤検出を低減しやすいが、検出確率が低下しやすい。一方、SO-CFARでは、密集した近接目標を検出できるが、誤検出が増える。ここで、テストセルとリファレンスセルの間のガードセルの幅により、検出できる目標の幅が決まり、目標幅とクラッタ幅が異なる場合には、弁別が可能である。
【0028】
以上を踏まえて、RDデータ上で、クラッタと目標の形状がドップラ軸のメインローブ(ML)付近で明確に異なっていれば、ガードセル数を変えることにより、通常のCA-CFARまたはGO-CFARにより検出して、クラッタと目標を弁別できるが、ドップラ軸のメインローブMLの目標とクラッタの形状は類似であり、メインローブMLのみでは区分できない。したがって、ドップラ軸サイドローブ(SL)の情報が必要になる。これをCFARにより検出するには、近接反射点を抽出するためのCFAR検出が必要になる。この検出にはSO-CFARを用いる。
【0029】
以上により、A領域では、CA-CFAR(GO-CFAR)、B領域ではSO-CFARを適用する。
【0030】
また、1次元CFARを用いる場合、レンジ軸またはドップラ軸の選定には、CFAR処理に必要なセル数と反射点の広がりを考慮する必要がある。クラッタの強度が強い場合は、クラッタのレンジでドップラ軸にサイドローブSLが広がるため、クラッタを抑圧して目標を検出するには、ドップラ軸を選定するのが望ましい。ただし、PRI数(パルスヒット数)がCFAR処理に必要なリファレンスセル数に比べて少ない場合には、ドップラ軸を選定できないため、レンジ軸を選定することになる。この場合は、強クラッタではドップラ軸で多数のクラッタのサイドローブSLを検出する場合があるため、レンジセル毎のドップラ軸の検出セル数をカウントして、検出セル数の和が所定のスレショルドを超える場合には、そのレンジセルは、クラッタとして検出を棄却する等の処理を行う(弁別処理28、ステップS20)。
【0031】
A領域、B領域それぞれのCFAR検出結果に対して、以下に目標とクラッタの第1弁別処理(25、ステップS17)について述べる。
【0032】
第1弁別処理では、クラッタの強度が強い場合に、ドップラ軸のサイドローブSLも高く、そのレンジ範囲は誤検出が増えるので、検出を禁止する。この範囲を抽出するための第1の実施例の処理フローを
図14に示す。
図14において、処理前のレンジ-ドップラデータを入力し(ステップS41)、レンジセル毎にドップラ軸の振幅最大値を抽出する(ステップS42)。この振幅最大値に対して、強クラッタ範囲に対する所定の振幅スレショルドを設定して、これを超える範囲を抽出し(ステップS43)、その振幅スレッショルドを超える範囲を検出禁止範囲とし、それ以外を検出可能範囲とする(ステップS44)。
【0033】
上記第1弁別処理の様子を
図15に示す。
図15(a)はレンジ-ドップラ範囲内の強クラッタ成分(艦船、航空機等を含む)と目標(目標胴体、ブレード)を示し、
図15(b)はレンジセル毎のドップラ軸の振幅最大値とスレッショルドとを比較し、スレッショルドを超える範囲を検出禁止範囲、それ以外を検出可能範囲とした様子を示している。
【0034】
次に、上記検出禁止範囲を特定する第2の実施例の処理フローを
図16に示す。
図16において、CFAR処理後の検出結果を入力し(ステップS51)、レンジセル毎にドップラ軸の検出セル数の加算結果を出力する(ステップS52)。この加算結果に対して、強クラッタ範囲に対する所定の検出数のスレショルドを設定し、これを超えるレンジセルを抽出し(ステップS53)、スレッショルドを超える範囲を検出禁止範囲とし、それ以外を検出可能範囲とする(ステップS54)。この様子を
図17に示す。
図17(a)はレンジ-ドップラ範囲内の強クラッタ成分(艦船、航空機等を含む)と目標(目標胴体、ブレード)を示し、
図17(b)はレンジセル毎のドップラ軸の検出セル数の加算結果とスレッショルドとを比較し、スレッショルドを超える範囲を検出禁止範囲、それ以外を検出可能範囲とした様子を示している。所定のスレッショルドとしては、ドップラ軸のクラッタSLを抽出し、ブレードは残す必要があるため、両者を考慮して決める。
【0035】
次に、上記検出禁止範囲を特定する第3の実施例の処理フローを
図18に示す。第3の実施例では、CFAR検出結果にはクラッタによる誤検出が含まれ、この誤検出と目標検出を比べると、目標の方が検出点の周囲に複数の検出セルがある場合が多いという特徴差を用いて、クラッタの誤検出を抑圧する。
図18において、CFAR処理後の検出結果を入力し(ステップS61)、各検出レンジセルの周囲に所定のレンジードップラセル範囲を設定し、その範囲内のセル数を算出する(ステップS62)。このセル数が所定のスレショルドを超えるセルを抽出する(ステップS63)。さらに、抽出したセル毎に、所定のレンジ-ドップラ範囲を設定し、その範囲内の目標、クラッタのセルをそれぞれ1個に統合する(ステップS64)。これにより、検出点数を削減し、以降の相関処理及び追跡処理の処理負荷を軽減することができる。この様子を
図19に示す。
図19(a)はレンジ-ドップラ範囲でCFAR処理後の検出レンジセルの分布と各検出レンジセルの周囲に設定される所定のレンジ-ドップラセル範囲を示し、
図19(b)は所定範囲内のセル数がスレッショルドを超えるセルを示し、
図19(c)は所定範囲内の目標、クラッタのセルをそれぞれ1個に統合した様子を示している。
【0036】
第1乃至第3の実施例のような種々の弁別処理を行った後、ブレードの回転による信号(以下、ブレード信号)があれば、それを抽出する必要がある。これは、目標胴体が周波数フィルタにより抑圧された場合でも、所定の目標を検出できるメリットがある。ブレード信号は、同じレンジセル付近のドップラ軸に広がるため、これを利用して抽出することができる。
【0037】
第1弁別処理において、ブレード信号を弁別するための第4の実施例の処理フローを
図20に示す。
図20において、CFAR処理後の検出結果を入力し(ステップS71)、レンジセル毎にドップラ軸の検出セル数の加算結果を出力する(ステップS72)。この加算結果に対して、ブレード信号に対する所定の検出数のスレショルドを設定し、これを超えるレンジセルを抽出し(ステップS73)、抽出したセルのレンジ範囲をブレード信号として抽出する(ステップS74)。この様子を
図21に示す。
図21(a)はレンジ-ドップラ範囲内のクラッタ成分と目標(目標胴体、ブレード)を示し、
図21(b)はレンジセル毎のドップラ軸の検出セル数の加算結果とスレッショルドとを比較し、スレッショルドを超える範囲をブレードと判定し、それ以外を除去する様子を示している。
【0038】
以上の処理の結果、観測値出力処理(26)でCPI内の処理である観測値を出力できる(
図2のステップ18)。次に、捜索範囲内の全空間を1フレームとして、同一空間(同一方向のビーム)のフレーム間の処理として、相関処理及び追跡処理(27)を行う(
図2のステップ19)。相関処理は、前フレームにおける観測値と、現フレームにおける簡観測値の間で、ゲートを用いて同一目標か否かを判定する処理である。追跡処理は、前サイクルの予測値と現サイクルの観測値を用いて、平滑値や次フレームの予測値を算出するフィルタ処理である。この平滑値(予測値)を用いて、第2弁別処理(28、ステップS20)によりクラッタと目標を弁別する処理を行う。
【0039】
第2弁別処理の処理フローを
図22に示す。
図22において、観測値から平滑値(予測値)の速度を抽出し(ステップS81)、ブレード信号は目標とする(ステップS82)。ここで、ステップS81で抽出された速度が所定のスレッショルドを超えるセルを目標として抽出する(ステップS83)。ステップS83で抽出された目標とステップS82で得られた目標を抽出目標として出力する(ステップS84)。すなわち、観測値には、第1弁別処理で抽出したブレード信号とそれ以外がある。ブレード信号については、所定の目標とする。それ以外については、平滑値(予測値)の速度を用いる、クラッタは速度0付近であり、目標はそれ以外の速度をもつため、所定の速度スレショルドを設定することで、目標信号を抽出することができる。これにより、胴体速度が0以外の場合に加えて、胴体速度0の場合でも、ブレ-ド信号により目標を抽出することができる。
【0040】
以上のように、上記の実施形態に係るレーダ装置は、レンジ-ドップラ軸の信号(RD信号)において、CFARの前処理を行った後、ドップラ近傍のA領域とそれ以外のB領域に分割し、A領域では1次元または2次元のCA-CFARを適用し、B領域では1次元または2次元のSO-CFARを適用し、A領域とB領域を統合したAB領域の検出値に対して、クラッタと目標に対する弁別処理を行い、更に信号処理した観測値を用いて相関及び追跡した結果を用いて誤検出を低減するようにしているので、クラッタを抑圧し、目標胴体またはブレード信号を高精度に検出することができる。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0042】
11…送信信号生成器、12…DA変換器、13…周波数変換器、14…高出力増幅器、15…サーキュレータ、16…アンテナ、17…低雑音増幅器、18…周波数変換器、19…AD変換器、21…PCI信号抽出器、22…レンジ-ドップラ出力器、23…前処理器、24…CFER、25…第1弁別処理器、26…観測値出力器、27…相関追跡器、28…第2弁別処理器。