(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】ツルーイング完了判定装置
(51)【国際特許分類】
B24B 49/18 20060101AFI20240105BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20240105BHJP
B24B 53/053 20060101ALI20240105BHJP
B24B 53/07 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B24B49/18
B24B49/10
B24B53/053
B24B53/07
(21)【出願番号】P 2020051890
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】五十君 智
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-233369(JP,A)
【文献】特開昭61-100348(JP,A)
【文献】特開2000-288947(JP,A)
【文献】特開平08-090410(JP,A)
【文献】特開2019-030963(JP,A)
【文献】特開2003-236749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 49/18
B24B 49/10
B24B 53/053
B24B 53/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツルーイング工具を用いて研削砥石の研削面を整形するツルーイングの完了を判定するツルーイング完了判定装置であって、
前記研削砥石のツルーイング中に発生するAE信号を検出するAEセンサと、
前記AEセンサから出力されるAE信号をデジタル信号に変換するA/D変換器と、
前記A/D変換器によりデジタル信号に変換されたAE信号を周波数解析してパワースペクトラムを得る周波数解析部と、
前記周波数解析部により得られたパワースペクトラムの100kHz以下の周波数帯のうち、第1周波数帯の第1信号強度、および前記第1周波数帯よりも高周波数の第2周波数帯の第2信号強度の少なくとも一方の信号強度積分値を逐次算出し、前記信号強度積分値が飽和することに基づいて、前記研削砥石のツルーイングの完了を判定するツルーイング完了判定部とを、含む
ことを特徴とするツルーイング完了判定装置。
【請求項2】
前記第1周波数帯は、25から40kHzの周波数帯の少なくとも一部を含む周波数帯であり、
前記第2周波数帯は、45から65kHzの周波数帯の少なくとも一部を含む周波数帯である
ことを特徴とする請求項1のツルーイング完了判定装置。
【請求項3】
前記第1周波数帯は、25から40kHzの周波数帯であり、
前記第2周波数帯は、45から65kHzの周波数帯である
ことを特徴とする請求項1または2のツルーイング完了判定装置。
【請求項4】
前記A/D変換器のサンプリング周期は、10μ秒以下である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1のツルーイング完了判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削砥石の研削面の形直しを行なうツルーイングの完了を判定するツルーイング完了判定装置、およびそのツルーイング完了判定装置を備えたツルーイング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
研削砥石を用いて被削材を加工する研削加工装置において、研削加工の精度を継続的に維持するために、たとえばダイヤモンドドレッサ等の工具をツルーイング工具として用いたツルーイングを実施することで、研削砥石の研削面の形状について周期的に形直しを行なうことが知られている。たとえば、特許文献1に記載された研削加工装置がそれである。このような研削加工装置では、周期的なツルーイングによって研削砥石の研削面の全体が真円形状に整えられるので、それ以後の研削加工における研削精度が維持される。
【0003】
上記ツルーイングのうち、ツルーイング工具を研削砥石の回転中心線に沿って走査(トラバース)するツルーイングに際しては、ツルーイングを行なうツルーイング工具の研削砥石に対して切込量が予め設定され、研削砥石に対してツルーイング工具を相対移動させる走査回数が予め設定されており、その予め設定された切込量でツルーイングを行なうツルーイング工具が予め設定された走査回数だけ走査されることにより、ツルーイングが完了させられる。また、上記ツルーイングのうち、ツルーイング工具を研削砥石の回転中心線に直交する方向に切り込むプランジによるツルーイングに際しては、ツルーイングを行なうツルーイング工具の研削砥石に対する切込速度が予め設定され、その切込速度による切込みが予め設定された総切込量に到達すると、ツルーイングが完了させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-167331号公報
【文献】特開2000-233369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記ツルーイング工具の切込量および走査回数や総切込量は、種々のばらつきを考慮して、充分にツルーイングが行なわれるように余裕を以て予め設定されている。このため、研削砥石の研削面が必要以上に無駄に削られることになり、研削砥石の寿命が損なわれるという問題があった。
【0006】
これに対して、特許文献2には、砥粒の破砕などに関連して発生する破砕振動を表すAE信号(acoustic emission signal:周波数がたとえば100kHz以上の超音波領域である振動波)を検出し、そのAE信号を用いて研削砥石のドレッシング状態を監視する装置が提案されている。このドレッシング状態監視装置では、ビトリファイド研削砥石に関して、研削砥石側AEセンサから出力される研削砥石側AE信号は、砥粒と無機結合材との界面剥離(100kHzから2MHz)、砥粒自体のクラック(100kHzから2MHz)、無機結合材自体のクラック(100kHzから2MHz)を表し、被削材側AEセンサから出力される被削材側AE信号は、被削材の塑性変形(100kHzから800kHz)、被削材の脆性破壊(200kHzから700kH)を表すとされており、それら研削砥石側AE信号および被削材側AE信号から周波数解析により得られた本来のAE信号がニューラルネットワークに入力されることで、たとえば研削砥石のドレッシング状態が判定されるとされている。
【0007】
しかしながら、上記従来のドレッシング状態監視装置では、研削砥石のツルーイングに適用しようとすると、砥粒自体の破砕および無機結合材自体の破砕は、研削砥石側AE信号中の同じ周波数成分(100kHzから2MHz)として検出されるものであるため、上記砥粒自体の破砕および無機結合材自体の破砕を精度よく検出することができず、研削砥石の研削面のツルーイング状態やそのツルーイング完了判定を高精度に行なうことができなかった。
【0008】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、研削砥石の寿命を可及的に損なわないツルーイングを可能とするツルーイング完了判定装置を提供することにある。
【0009】
本発明者は、以上の事情を背景として種々検討を重ねた結果、ツルーイング中にAEセンサから出力されるAE信号を、従来よりも高速且つ高分解能であるサンプリング周期が10μsec程度以下であるA/D変換器を用いてデジタル化した後、周波数解析(FFT)すると、パワースペクトラムのうち100kHzよりも低い周波数帯において、相対的に低周波数の第1周波数帯のピーク信号群と、第1周波数帯よりも相対的に高周波の第2周波数帯のピーク信号群とが、周波数軸上において明確に現れた。そして、上記第1周波数帯のピーク信号群は研削砥石の砥粒の破砕に由来するものであり、上記第2周波数帯のピーク信号群は砥粒とドレッサとの接触(擦れ)により生じる摩擦振動や弾性振動に由来するものであるという事実を見いだした。また、それらの第1周波数帯のピーク信号群または第2周波数帯のピーク信号群の信号強度積分値は、ツルーイングの完了に同期してその増加が飽和する現象を示すことを見いだした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、第1発明の要旨とするところは、(a)ツルーイング工具を用いて研削砥石の研削面を整形するツルーイングの完了を判定する研削砥石のツルーイング完了判定装置であって、(b)前記研削砥石のツルーイング中に発生するAE信号を検出するAEセンサと、(c)前記AEセンサから出力されるAE信号をデジタル信号に変換するA/D変換器と、(d)前記A/D変換器によりデジタル信号に変換されたAE信号を周波数解析してパワースペクトラムを得る周波数解析部と、(e)前記周波数解析部により得られたパワースペクトラムの100kHz以下の周波数帯のうち、第1周波数帯の第1信号強度、および前記第1周波数帯よりも高周波数の第2周波数帯の第2信号強度の少なくとも一方の信号強度積分値を逐次算出し、前記信号強度積分値が飽和することに基づいて、前記研削砥石のツルーイングの完了を判定するツルーイング完了判定部とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0011】
第1発明のツルーイング完了判定装置によれば、第1周波数帯の第1信号強度、および前記第1周波数帯よりも高周波数の第2周波数帯の第2信号強度の少なくとも一方の信号強度積分値を逐次算出し、前記信号強度積分値が飽和することに基づいて、前記研削砥石のツルーイングの完了を判定するツルーイング完了判定部が備えられている。これにより、上記ツルーイング工具の切込量および走査回数や総切込量はツルーイングの完了のために必要且つ充分な値とされるので、研削砥石の研削面が必要以上に無駄に削られることがなく、研削砥石の寿命がツルーイングにより損なわれることが抑制される。
【0012】
ここで、好適には、前記第1周波数帯は、25から40kHzの周波数帯の少なくとも一部を含む周波数帯であり、前記第2周波数帯は、45から65kHzの周波数帯の少なくとも一部を含む周波数帯であることにある。これにより、研削砥石のツルーイング面の砥粒破砕に由来する第1周波数帯の第1信号強度、および、前記研削砥石のツルーイング面の砥粒とツルーイング工具との接触(擦れ)に由来する第2周波数帯の第2信号強度の少なくとも一方を用いて、前記研削砥石のツルーイングの完了を適切に且つ正確に行なうことができる。
【0013】
また、好適には、前記第1周波数帯は、25から40kHzの周波数帯であり、前記第2周波数帯は、45から65kHzの周波数帯であることにある。これにより、前記研削砥石のツルーイング面の砥粒破砕に由来する第1周波数帯の第1信号強度、および、前記研削砥石のツルーイング面の砥粒とツルーイング工具との接触に由来する第2周波数帯の第2信号強度の少なくとも一方を用いて、前記研削砥石のツルーイング完了の判定を適切に且つ正確に行なうことができる。
【0014】
また、好適には、前記A/D変換器のサンプリング周期は、10μ秒以下、好適には5μ秒以下、さらに好適には1μ秒以下である。このように分解能が高められたA/D変換器によりA/D変換されたAE信号を周波数解析することで、100kHz以下の領域において、研削砥石のツルーイング面の砥粒破砕に由来する第1周波数帯の第1信号強度および前記研削砥石の砥粒とツルーイング工具との接触に由来する第2周波数帯の第2信号強度の少なくとも一方が得られるとともに、それら第1信号強度の信号強度積分値および第2信号強度の信号強度積分値の少なくとも一方の変化に基づいて、ツルーイング完了判定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施例のツルーイング完了判定装置を備える研削加工装置の構成を説明する図である。
【
図2】
図1の研削加工装置による研削面状態におけるビトリファイド砥石から得られるAE信号の発生メカニズムを説明する図である。
【
図3】研削面状態を示す信号強度比SR(=SP1/SP2)を、
図1の面状態表示装置に表示した表示例を示す図である。
【
図4】ツルーイングの進行に伴って増加する、第1信号強度SP1の信号強度積分値および第2信号強度SP2の信号強度積分値を、
図1の面状態表示装置に表示した表示例を示す図である。
【
図5】本発明者が行なった周速度比が相違する3種類のツルーイング試験のうち、周速度比Vd/Vgが1.0でダウンカットである場合のツルーイング試験において得られたパワースペクトラムを示す図である。
【
図6】本発明者が行なった周速度比が相違する3種類のツルーイング試験のうち、周速度比Vd/Vgが0.3でダウンカットである場合のツルーイング試験において得られたパワースペクトラムを示す図である。
【
図7】本発明者が行なった周速度比が相違する3種類のツルーイング試験のうち、周速度比Vd/Vgが1.0でアップカットである場合のツルーイング試験において得られたパワースペクトラムを示す図である。
【
図8】
図5、
図6、
図7の3種類のパワースペクトラムの各ピーク波形に対して各ピーク波形の発生を判定するための所定の判定閾値を設け、発生したピーク波形のうちその判定閾値を超えるものを発生と判定した発生マップを示す図である。
【
図9】取付時に、砥石軸中心に対して一定の振れがある研削ホイールの砥石部に対して、研削ホイールの回転中心線に平行な方向に、ドレッサを移動させて行うツルーイングを説明する図である。
【
図10】
図9のツルーイングにおいてAEセンサから出力される出力信号を示す図であって、(a)は研削ホイールの振れが除去されないときの出力信号を示し(b)は研削ホイールの振れが除去された後の出力信号を示している。
【
図11】
図9のツルーイングにおいて、第1信号強度SP1の信号強度積分値および第2信号強度SP2の信号強度積分値がツルーイングの切込量の増加にともなって増加するが、所定の切込量に到達した以後は一定値に飽和する性質を示す図である。
【
図12】研削ホイールの砥石部に対して、総型ドレッサを用いたプランジツルーイングを説明する図である。
【
図13】
図13は、研削ホイールの砥石部の研削面の一部に形成されたダメージ領域Dを説明する図である。
【
図14】
図12のプランジツルーイングにおいてAEセンサから出力される出力信号を示す図である。
【
図15】
図12のプランジツルーイングにおいて、第1信号強度SP1の信号強度積分値および第2信号強度SP2の信号強度積分値がツルーイングの切込量の増加にともなって増加するが、所定の切込量に到達した以後は一定値に飽和する性質を示す図である。
【
図16】
図1の演算制御装置およびツルーイング制御部の、トラバースによるツルーイング制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【
図17】
図1の演算制御装置およびツルーイング制御部の、プランジによるツルーイング制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明の一実施例の研削面評価装置としても機能するツルーイング完了判定装置10を備える、ツルーイング装置としても機能する研削加工装置12の構成を説明する図である。
図1において、研削加工装置12には、溶融アルミナ系砥粒、炭化珪素系砥粒、セラミックス砥粒などの一般砥粒や、CBN砥粒、ダイヤモンド砥粒などの超砥粒などを含む、ビトリファイド砥石、レジノイド砥石、メタルボンド砥石、電着砥石等の研削砥石が用いられる。本実施例においては、研削砥石として、
図1に示す研削ホイール14が用いられる。研削ホイール14は、円筒状或いはドラム状の金属コアすなわち本体18の外周面に固設された砥石部16を有しており、主軸駆動モータ62により回転駆動される回転軸に装着される。研削ホイール14は、たとえば80m/秒程度以上の比較的高い周速度で駆動され、たとえば柱状の被削材44の表面を研削する。この研削ホイール14に対し、
図1に示すロータリドレッサ46がツルーイング工具として用いられてツルーイングが行われる。
【0018】
ツルーイング完了判定装置10は、AEセンサ22と、プリアンプ24と、プリアンプ24により増幅されたAE信号SAEを所定の搬送波を用いて送信する送信回路26と、送信回路26から送信されたAE信号SAEを受信するためのアンテナ28を有する受信回路30と、バンドパスフィルタ32と、A/D変換器34と、演算制御装置36とを、備えている。AEセンサ22は、砥石部16に含まれる砥粒38の破砕時に発生し且つ砥石部16内を伝播するたとえば20kHz以上の超音波領域である極めて周波数の高い破砕振動(acoustic emission)を砥石部16の内周面から検出し、その破砕振動を表すアナログ信号であるAE信号SAEを出力する。プリアンプ24は、AEセンサ22から出力されたAE信号SAEを増幅する。バンドパスフィルタ32は、受信回路30により受信された搬送波を通過させる所定の通過周波数帯を備える。A/D変換器34は、搬送波から復調されたAE信号SAEをデジタル信号に変換する。演算制御装置36は、デジタル信号に変換されたAE信号SAEを処理する。
【0019】
上記のAEセンサ22、プリアンプ24、および、送信回路26は、研削ホイール14の本体18内に設けられている。A/D変換器34は、高分解能を有し、たとえば10μ秒(マイクロ秒)以下のサンプリング周期、好適には5μ秒以下のサンプリング周期、さらに好適には1μ秒以下のサンプリング周期で、AE信号SAEをデジタル信号に変換する。A/D変換器34のサンプリング周期は、短くなるほど(高速となるほど)、研削ホイール14の砥粒破砕に関連する第1周波数帯B1と研削ホイール14の砥粒38とロータリドレッサ46との接触に由来するに関連する第2周波数帯B2とが明確となる。なお、本実施例では、A/D変換器34のサンプリング周期として1μ秒が用いられている。
【0020】
研削ホイール14の砥石部16は、たとえば
図2に示すように、砥粒38と、それら砥粒38を結合する無機結合材(ビトリファイドボンド)40と、気孔42とから成るよく知られたビトリファイド砥石組織から構成されており、被削材(ワーク)44或いはロータリドレッサ46との摺接によって、砥粒38自体のクラックCaすなわち破砕の発生に由来する第1周波数帯B1の振動、砥粒38と被削材44或いはロータリドレッサ46との接触すなわち擦れCbによって発生する摩擦振動或いは弾性振動に由来する第2周波数帯B2の振動が発生し、それらの振動を含む研削振動すなわちAE波が、AEセンサ22によって検出される。
【0021】
図1の演算制御装置36は、CPU、ROM、RAM、インターフェースなどを含む所謂マイクロコンピュータであって、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って入力信号を処理することにより、ツルーイング面状態を判定するための、研削面状態を表す数値、グラフ、或いは図形などを算出し、研削面状態表示装置としても機能する面状態表示装置48から出力させるとともに、研削制御装置72へ送信する。
【0022】
ツルーイング完了判定装置10の演算制御装置36は、周波数解析部50、研削面状態出力部51、およびツルーイング面状態出力部52を機能的に備えている。周波数解析部50は、被削材44の研削加工中或いは研削ホイール14のツルーイング中において、A/D変換器34から入力されたAE信号SAEの周波数解析(FFT)を行なって、信号パワーを示す縦軸と周波数を示す横軸との二次元座標において、周波数成分の大きさを示す種々の信号パワーを周波数毎にピーク波形で周波数軸(横軸)上に示すパワースペクトラムを生成する。
【0023】
研削面状態出力部51は、被削材44の研削加工中において、上記パワースペクトラムから、たとえば32.5kHzを中心部に含む予め設定された第1周波数帯B1、たとえば25から40kHzの第1周波数帯B1についての第1信号強度SP1、および、たとえば55kHzを中心部に含む予め設定された第2周波数帯B2、たとえば45から65kHzの第2周波数帯B2についての第2信号強度SP2と、信号強度比SR(=SP1/SP2)とをそれぞれ算出し、面状態表示装置48に出力する。
図3は、面状態表示装置48が液晶画面或いは計器に表示されるレベルメータである場合の、被削材44の研削面状態を表す信号強度比SRの表示例を示している。
【0024】
ツルーイング面状態出力部52は、ロータリドレッサ46をツルーイング工具として用いた研削ホイール14のツルーイング中において、上記パワースペクトラムから、たとえば32.5kHzを中心部に含む予め設定された第1周波数帯B1、たとえば25から40kHzの第1周波数帯B1についての第1信号強度SP1の信号強度積分値、および、たとえば55kHzを中心部に含む予め設定された第2周波数帯B2、たとえば45から65kHzの第2周波数帯B2についての第2信号強度SP2の信号強度積分値を、それぞれ算出し、面状態表示装置48へ出力する。
図4は、面状態表示装置48が液晶画面或いは計器に表示されるレベルメータである場合の、被削材44のツルーイング面状態を表す第1信号強度SP1の信号強度積分値、および第2信号強度SP2の信号強度積分値の表示例を、それぞれ示している。ここで、上記の信号強度積分値は、各周波数における振幅の実効値を周波数軸に対して積分した値である。
【0025】
また、ツルーイング完了判定部53は、ロータリドレッサ46をツルーイング工具として用いた研削ホイール14のツルーイング中において、ツルーイング面状態出力部52からの第1信号強度SP1の信号強度積分値、および/または、第2信号強度SP2の信号強度積分値がツルーイング完了に近づくと飽和する性質に基づいて、それら第1信号強度SP1の信号強度積分値、または、第2信号強度SP2の信号強度積分値が、予め設定されたツルーイング完了判定閾値TF1を超えたことに基づいてツルーイングの完了を判定し、出力する。ツルーイング完了判定閾値TF1は、第1信号強度SP1の信号強度積分値の飽和値のたとえば90%程度に相当する値、または、第2周波数帯B2の第2信号強度SP2の信号強度積分値の飽和値のたとえば90%程度に相当する値に予め設定される。
【0026】
ここで、AEセンサ22によって検出されるAE波から高速で高分解能のA/D変換器34を用いてデジタル信号に変換されたAE信号SAEの周波数解析により得られるパワースペクトラムにおいて、第1周波数帯B1内のピーク波形信号群および第2周波数帯B2内のピーク波形信号群の発生について、所定の研削砥石について本発明者が行なった試験を、以下に説明する。試験1は、ビトリファイド砥石が用いられた研削ホイール14のツルーイング時にそれぞれ得られるパワースペクトラムにおいて、ピーク波形信号群で構成される第1周波数帯B1および第2周波数帯B2の発生状態の検証試験である。
【0027】
(試験1)
図5、
図6、
図7は、本発明者が以下のツルーイング条件1において、周速度比Vd/Vgおよびロータリドレッサ46の回転方向(ダウンカットは研削ホイール14の回転方向と逆方向の回転、アップカットは研削ホイール14の回転方向と同じ方向の回転)が異なる3種類のビトリファイド砥石が用いられた研削ホイール14のツルーイング試験(Vd/Vg=1.0のダウンカット、Vd/Vg=0.3のダウンカット、Vd/Vg=1.0のアップカット)により得られたパワースペクトラムをそれぞれ示す図である。また、
図8は、その3種類のパワースペクトラムの各ピーク波形に対して各ピーク波形の発生を判定するための所定の判定閾値を設け、発生したピーク波形のうちその判定閾値を超えるものを発生と判定した発生マップを示す図である。
【0028】
(ツルーイング条件1)
研削ホイール: AEセンサ内蔵の研削ホイール
研削ホイールの砥石部: CB 80 N 200 V
(粒度80のCBN砥粒がビトリファイド結合材により結合され、結合度N、集中度200を有するもの)
研削盤: 汎用円筒研削盤
研削ホイールの周速度Vg: 45m/秒(時計回り)
ツルーイング工具: ダイヤモンドロータリドレッサ
ロータリドレッサの周速度
・Vd:45m/秒 (反時計回りダウンカット)
周速度比Vd/Vg=1.0
・Vd:13.5m/秒 (反時計回りダウンカット)
周速度比Vd/Vg=0.3
・Vd:45m/秒 (時計回りアップカット)
周速度比Vd/Vg=1.0
【0029】
図5は、上記ツルーイング条件1のうちのVd/Vg=1.0のダウンカットでのツルーイング条件にて得られたパワースペクトラムを示している。この
図5のツルーイング条件は、
図1に示すように、時計回りの研削ホイール14の周速度Vgと反時計回りのロータリドレッサ46の周速度Vdとが回転方向が逆方向で一致しており、接触点における研削ホイール14とロータリドレッサ46の相対周速度がゼロとなる、専ら研削ホイール14の砥粒38および無機結合材40の破砕が顕著となるツルーイング条件である。
図5のパワースペクトラムでは、機械振動などの低域雑音を除いて、25から40kHzの第1周波数帯B1および45から65kHzの第2周波数帯B2においてそれぞれ複数のピーク波形が集中的に発生しており、第1周波数帯B1におけるピーク波形の高さ(信号強度)が第2周波数帯B2におけるピーク波形の高さ(信号強度)よりも大きいという現象が観察された。
【0030】
図6は、上記ツルーイング条件1のうちのVd/Vg=0.3のダウンカットでのツルーイング条件、すなわち研削ホイール14の周速度Vgがロータリドレッサ46の周速度Vdと逆の回転方向であるが3倍程度で、専ら研削ホイール14の砥粒38の大きな破砕が起こりにくく、接触する砥粒38の増加が顕著となるツルーイング条件において得られたパワースペクトラムを示している。このパワースペクトラムでも、機械振動などの低域雑音を除いて、25から40kHzの第1周波数帯B1および45から65kHzの第2周波数帯B2においてそれぞれ複数のピーク波形が集中的に発生しており、第2周波数帯B2におけるピーク波形の高さ(信号強度)が第1周波数帯B1におけるピーク波形の高さ(信号強度)よりも大きいという現象が観察された。
【0031】
図7は、上記ツルーイング条件1のうちのVd/Vg=1.0のアップカットでのツルーイング条件、すなわち研削ホイール14の周速度Vgがロータリドレッサ46の周速度Vdと同じであるが
図5の場合と逆回転方向で、専ら研削ホイール14の砥粒38の大きな破砕が起こりにくく、接触する砥粒38の増加が顕著となるツルーイング条件において得られたパワースペクトラムを示している。このパワースペクトラムでも、機械振動などの低域雑音を除いて、25から40kHzの第1周波数帯B1および45から65kHzの第2周波数帯B2においてそれぞれ複数のピーク波形が集中的に発生しており、第2周波数帯B2におけるピーク波形の高さ(信号強度)が第1周波数帯B1におけるピーク波形の高さ(信号強度)よりも大きいという現象が観察された。
【0032】
図8は、
図5、
図6、
図7にそれぞれ示された周速度比Vd/Vgが異なる3種類のパワースペクトラムの各ピーク値に対して各ピーク値の発生を判定するための所定の判定閾値を設け、発生したピーク値のうちその判定閾値を超えるものを発生と判定して黒色領域で示したピーク波形発生マップを示す図である。
【0033】
図8によれば、上記判定閾値を超える大きさのピーク値は、周速度比Vd/Vgが1.0のダウンカットでは、主として25から40kHzの第1周波数帯B1において発生し、周速度比Vd/Vgが0.3のダウンカット、および周速度比Vd/Vgが1.0のアップカットでは、45から65kHzの第2周波数帯B2において発生している。これにより、AE信号SAEを周波数解析したパワースペクトラムにおいて、第1周波数帯B1内における少なくとも一部の周波数のピーク波形の高さ(信号強度)が、研削ホイール14の砥石表面における砥粒38の破砕を反映し、第2周波数帯B2内における少なくとも一部の周波数のピーク波形の高さ(信号強度)が、研削ホイール14の砥石表面における砥粒38とロータリドレッサ46との接触により発生する摩擦振動或いは弾性振動を反映していることが確認された。すなわち、第1周波数帯B1は砥粒破砕周波数帯に対応し、第2周波数帯B2は砥粒38とロータリドレッサ46との接触による弾性振動周波数帯に対応している。
【0034】
(試験2)
本発明者は、研削ホイール14の取付時に発生する外周振れ(回転中心線C1と砥石中心のずれによる砥石外周の振れ)を整形するために、以下のツルーイング条件2を用いて、
図9に示すトラバースによるツルーイングを行ない、第1周波数帯B1の第1信号強度SP1の信号強度積分値、および第2周波数帯B2の第2信号強度SP2の信号強度積分値を、それぞれ観測した。
【0035】
(ツルーイング条件2)
研削ホイールの仕様: CB 80 N 200 VN1
外径409mm×幅30mm×内径127mm
クーラント流量: 20L/min
ツルーイング工具の仕様: SD 40 Q 75 MW7
直径100mm×砥材層厚み1mm
ツルーイング工具周速度: Vg=45m/s、Vd=13.5m/s (Vd/Vg=0.3)
ツルーイング工具のリード: 0.10mm/r.o.w.
ツルーイング工具の切込量: R0.004mm/pass
【0036】
図9において、研削ホイール14の回転中心線C1に平行な方向に、ツルーイング工具としての単石またはブレード型のドレッサ80を往復走査させつつ、研削ホイール14の砥石部16に対し、走査毎に切込量の増加を行なって、繰り返しツルーイングを行なった。なお、ドレッサ80に替えて、ロータリドレッサ46が用いられてもよい。AEセンサ22の出力信号であるAE信号SAEは、
図10(a)に示される時間軸波形であり、研削ホイール14の振れが除去された後でも、
図10(b)に示される時間軸波形であった。このため、従来では、
図10(b)の時間軸波形は
図10(a)の時間軸波形と区別がつき難いものであったため、ツルーイングの終了判定が困難であった。
【0037】
これに対して、
図11は、上記トラバースによるツルーイングにおいて、第1信号強度SP1の信号強度積分値の変化、および、第2信号強度SP2の信号強度積分値の変化をそれぞれ示している。
図11に示すように、第1信号強度SP1の信号強度積分値、および第2信号強度SP2の信号強度積分値は、研削ホイール14の振れをあらかじめダイヤルゲージで測定した振れ量である80~100μmの領域Rに到達するまでは、ツルーイング切込量の増加すなわち時間経過と共に増加するが、その後は一定値で飽和する性質がある。このため、たとえば、第1信号強度SP1の信号強度積分値について言えば、2.0×10
9をツルーイング完了判定閾値TF1として設定すれば、ツルーイング制御において、必要かつ充分なツルーイング進行状態において自動的にツルーイング完了判定を行なうことができることを示している。
【0038】
(試験3)
本発明者は、研削ホイール14の外周面の一部が研削加工により脱落して荒れた部分であるダメージ領域Dを整形するために、以下のツルーイング条件3を用いて、
図12に示すプランジ(突き入れ)によるツルーイングを行ない、第1信号強度SP1の信号強度積分値、および第2信号強度SP2の信号強度積分値を、それぞれ観測した。
【0039】
(ツルーイング条件3)
研削ホイールの仕様: CB 80 N 200 VN1
外径409mm×幅30mm×内径127mm
クーラント流量: 20L/min
ツルーイング工具の仕様: SD 40 Q 75 MW7
直径100mm×砥材層厚み1mm
ツルーイング工具周速度: Vg=45m/s、Vd=13.5m/s (Vd/Vg=0.3)
ツルーイング工具のリード: 0.10mm/r.o.w.
ツルーイング工具の切込量: R0.004mm/pass
【0040】
図13は、研削ホイール14の砥石部16の研削面の一部に形成されたダメージ領域Dが示されており、ダメージ領域Dが無くなるように必要かつ充分な深さの表層SLの除去には、
図12に示す、総型ドレッサ82を用いたプランジによるツルーイングが行なわれる。
図12に示すように、研削ホイール14の砥石部16に対して、研削ホイール14の回転中心線C1に直角な方向に、回転中心線C1と平行な回転中心線C2まわりに回転する総型ドレッサ82を移動させつつプランジによるツルーイングを行なう場合において、研削ホイール14の表面にダメージがある場合、AEセンサ22の出力信号であるAE信号SAEは、
図14に示されるように、ダメージ除去前とダメージ除去後では、相互に区別がつき難いものであり、ツルーイングの終了判定が困難であった。
【0041】
これに対して、
図15は、上記プランジによるツルーイングにおいて、第1信号強度SP1の信号強度積分値、および、第2信号強度SP2の信号強度積分値の変化を、それぞれ示している。
図15に示すように、第1信号強度SP1の信号強度積分値、および第2信号強度SP2の信号強度積分値は、ツルーイング切込量の増加すなわち時間経過と共に増加するが、その後は一定値で飽和する性質がある。このため、たとえば、第1信号強度SP1の信号強度積分値について言えば、2.0×10
9をツルーイング完了判定閾値TF2として設定すれば、ツルーイング制御において、必要かつ充分なツルーイング進行状態において自動的にツルーイング完了判定を行なうことができることを示している。
【0042】
図1に戻って、研削加工装置12は、研削ホイール14が取り付けられた図示しない主軸を回転駆動する主軸駆動モータ62と、円柱状の被削材44を回転駆動する被削材回転駆動モータ64と、研削ホイール14を円柱状の被削材44の外周面に押し当てるために被削材44を径方向に移動させる被削材移動モータ66と、ツルーイング工具として用いるロータリドレッサ46を回転駆動するツルーイング工具回転駆動モータ68と、ロータリドレッサ46をその回転中心線C2方向に送るツルーイング工具送りモータ70と、研削制御装置72とを備えている。
【0043】
研削制御装置72は、演算制御装置36と同様のマイクロコンピュータから構成されており、研削自動制御部74およびツルーイング制御部76を機能的に備えている。研削自動制御部74は、研削開始指令信号を受けると、予め設定された動作で研削ホイール14および被削材44をそれぞれ回転駆動しつつ相対移動させることで被削材44を研削し、被削材44の研削が完了すると被削材44の回転を停止させるとともに原位置へ戻す。
【0044】
研削自動制御部74は、被削材44の研削加工の過程において、研削面状態出力部51から出力された実際の第1信号強度SP1、第2信号強度SP2、或いは信号強度比SR(=SP1/SP2)に基づいて、被削材44に対する実際の評価値が示す研削面状態が予め設定された目標評価値が示す研削面状態となるように、主軸駆動モータ62、被削材回転駆動モータ64と、被削材移動モータ66を自動制御する。
【0045】
たとえば、研削自動制御部74は、目標信号強度比SRTを研削バランス、例えば目つぶれおよび目こぼれのバランスのよい値に設定し、研削面状態出力部51からリアルタイムで逐次出力される実際の信号強度比SRがたとえば0.55程度に予め設定された目標信号強度比SRTと一致するように、研削条件を自動調節する。そして、たとえば、実際の信号強度比SRが予め設定された目標信号強度比SRTを超える場合には砥粒破砕傾向であるので、その砥粒破砕を抑制するために、加工能率(切込速度)の下降、研削ホイール14の周速度Vgの上昇(回転数の上昇)、被削材44の周速度の下降のうちの少なく1つを実行し、実際の信号強度比SRを目標信号強度比SRTへ向かって変化させる。反対に、実際の信号強度比SRが予め設定された目標信号強度比SRTを下まわる場合には砥粒38と被削材44或いはロータリドレッサ46との擦れ傾向であるので、その擦れを抑制するために、加工能率(切込速度)の上昇、研削ホイール14の周速度Vgの下降(回転数の下降)、被削材44の周速度の上昇のうちの少なく1つを実行し、実際の信号強度比SRを目標信号強度比SRTへ向かって変化させる。
【0046】
研削自動制御部74は、たとえば、目標信号強度比SRTを研削バランスのよい値として0.55に設定した場合に、実際の信号強度比SRが予め設定された目標信号強度比SRT(=0.55)と一致するように研削条件を調節する自動研削制御例を実行する。なお、研削自動制御部74による自動研削制御は、実際の第1信号強度SP1又は第2信号強度SP2を、研削バランスのよい値に設定された目標第1信号強度SP1Tまたは目標第2信号強度SP2Tと一致するように、研削条件を調節するものであってもよい。
【0047】
演算制御装置36は、ツルーイング開始条件に到達すると、ツルーイング制御部76にツルーイングを開始させる指令を出力する。このツルーイング開始条件は、たとえば、第2信号強度SP2に対する第1信号強度SP1の比(=SP1/SP2)が所定値を上回ったことである。
【0048】
ツルーイング制御部76は、トラバースによるツルーイングの場合は、
図9に示すように、ツルーイング工具として用いるドレッサ80を、研削ホイール14の円柱状の砥石部16の外周面に予め設定された切込量で切り込ませ且つ研削ホイール14の回転中心線C1に沿って走査させ、ツルーイング完了判定部53からのツルーイング完了判定出力を受けるまで、この動作を繰り返し実行させる。
【0049】
また、ツルーイング制御部76は、プランジによるツルーイングの場合は、
図12に示すように、ツルーイング工具として用いる総型ドレッサ82を、研削ホイール14の円柱状の砥石部16の外周面に予め設定された切込速度で研削ホイール14の回転中心線C1に直交する方向に移動させ、ツルーイング完了判定部53からのツルーイング完了判定を受けるまで、この動作を継続し実行させる。
【0050】
本実施例においては、ツルーイング完了判定装置10は、AEセンサ22と、A/D変換器34と、周波数解析部50と、ツルーイング完了判定部53とを、含むことにより構成される。AEセンサ22は、研削ホイール14のツルーイング中に発生するAE信号SAEを検出する。A/D変換器34は、AEセンサ22から出力されるAE信号SAEをデジタル信号に変換する。周波数解析部50は、A/D変換器34によりデジタル信号に変換されたAE信号SAEを周波数解析してパワースペクトラムを得る。ツルーイング完了判定部53は、周波数解析部50により得られたパワースペクトラムのうち、第1周波数帯B1の第1信号強度SP1、および第2周波数帯B2の第2信号強度SP2の少なくとも一方の信号強度積分値を逐次算出し、信号強度積分値が飽和することに基づいて、研削ホイール14のツルーイング完了を判定する。
【0051】
図16は、演算制御装置36およびツルーイング制御部76の、ドレッサ80を用いたトラバース(走査)によるツルーイング制御作動の要部を説明するフローチャートであり、所定の制御周期で繰り返し実行される。
図16において、ステップS1(以下、ステップを省略する)では、ツルーイング完了判定閾値TF1が設定済であるか否かが判断される。
【0052】
S1の判断が肯定される場合は、S4以下が実行されるが、否定される場合は、S2において、予め行われた予備的な正常なツルーイングの時において計測されたAE信号SAEが周波数解析されることにより得られたパワースペクトラムから第1周波数帯B1の第1信号強度SP1、および第2周波数帯B2の第2信号強度SP2のうちの少なくとも一方の信号強度積分値が逐次算出される。
【0053】
続くS3では、その第1信号強度SP1および第2信号強度SP2のうちの少なくとも一方の信号強度積分値の飽和値の、その飽和に至る直前の比率たとえば90%に相当する値がツルーイング完了判定閾値TF1として予め決定される。
【0054】
次に、ツルーイング制御部76に対応するS4では、トラバースによるツルーイング制御作動が開始される。続いて、ツルーイング面状態出力部52に対応するS5、S6、S7、S8が実行される。
【0055】
S5では、ツルーイングの進行に伴ってAEセンサ22により検出され且つA/D変換器34によりデジタル信号に変換されたAE信号SAEが逐次読み込まれ、S6では、S5により読み込まれたAE信号SAEが逐次周波数解析され、S7では、第1周波数帯B1の第1信号強度SP1、および第2周波数帯B2の第2信号強度SP2のうちの少なくとも一方、すなわち、特定周波数帯の信号強度が逐次算出される。
【0056】
そして、S8では、ドレッサ80の走査毎すなわち1パス毎の第1信号強度SP1および第2信号強度SP2のうちの少なくとも一方の平均信号強度が算出されるとともに、その平均信号強度のツルーイング開始からの信号強度積分値が算出される。
【0057】
次いで、ツルーイング完了判定部53に対応するS9において、上記第1信号強度SP1および第2信号強度SP2のうちの少なくとも一方の1パス毎に蓄積された信号強度積分値が予め決定されたツルーイング完了判定閾値TF1を超えたか否かが判断される。
【0058】
このS9の判断が否定された場合は、S5以下が繰り返し実行される。しかし、S9の判断が肯定された場合は、S10においてツルーイング完了判定の出力が実行されると同時に、S11において、ツルーイング制御部76によるツルーイング作動が終了させられる。
【0059】
図17は、演算制御装置36およびツルーイング制御部76の、総型ドレッサ82を用いたプランジによるツルーイング制御作動の要部を説明するフローチャートであり、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0060】
図17において、ステップS21(以下、ステップを省略する)では、ツルーイング完了判定閾値TF2が設定済であるか否かが判断される。このS21の判断が肯定される場合は、S24以下が実行されるが、否定される場合は、S22において、予め行われた予備的な正常なツルーイングの時において計測されたAE信号SAEが周波数解析されることにより得られたパワースペクトラムから第1周波数帯B1の第1信号強度SP1、および第2周波数帯B2の第2信号強度SP2のうちの少なくとも一方の信号強度積分値が逐次算出される。
【0061】
続くS23において、その第1信号強度SP1および第2信号強度SP2のうちの少なくとも一方の信号強度積分値の飽和値の、その飽和に至る直前の比率たとえば90%に相当する値がツルーイング完了判定閾値TF2として予め決定される。
【0062】
次に、ツルーイング制御部76に対応するS24では、プランジによるツルーイング制御作動が開始される。続いて、ツルーイング面状態出力部52に対応するS25、S26、S27では、S5、S6、S7と同様に、ツルーイングの進行に伴ってAEセンサ22により検出され且つA/D変換器34によりデジタル信号に変換されたAE信号SAEが逐次読み込まれ、読み込まれたAE信号SAEが逐次周波数解析される。
【0063】
次いで、S28では、たとえば1秒以下に設定した単位時間毎の第1信号強度SP1および第2信号強度SP2のうちの少なくとも一方の信号強度の移動平均値が算出されるとともに、その移動平均値のツルーイング開始からの信号強度積分値が算出される。
【0064】
次いで、ツルーイング完了判定部53に対応するS29において、上記第1信号強度SP1および第2信号強度SP2のうちの少なくとも一方の移動平均値の信号強度積分値が予め決定されたツルーイング完了判定閾値TF2を超えたか否かが判断される。
【0065】
このS29の判断が否定された場合は、S25以下が繰り返し実行される。しかし、S29の判断が肯定された場合は、S30においてツルーイング完了判定の出力が実行されると同時に、S31において、ツルーイング制御部76によるツルーイング作動が自動停止させられる。
【0066】
上述のように、本実施例のツルーイング完了判定装置10によれば、ツルーイング工具46,80,82を用いて研削ホイール(研削砥石)14の研削面を整形するツルーイングの完了を判定するツルーイング完了判定装置10であって、研削ホイール14のツルーイング中に発生するAE信号SAEを検出するAEセンサ22と、AEセンサ22から出力されるAE信号SAEをデジタル信号に変換するA/D変換器34と、A/D変換器34によりデジタル信号に変換されたAE信号SAEを周波数解析してパワースペクトラムを得る周波数解析部50と、周波数解析部50により得られたパワースペクトラムの100kHz以下の周波数帯のうち、第1周波数帯B1の第1信号強度SP1、および第1周波数帯B1よりも高周波数の第2周波数帯B2の第2信号強度SP2の少なくとも一方の信号強度積分値を逐次算出し、前記信号強度積分値が飽和することに基づいて、前記研削ホイール14のツルーイングの完了を判定するツルーイング完了判定部53とを、含む。これにより、ツルーイング工具46,80,82の切込量および走査回数や総切込量はツルーイングの完了のために必要且つ充分な値とされるので、研削ホイール14の研削面が必要以上に無駄に削られることがなく、研削ホイール14の寿命がツルーイングにより損なわれることが抑制される。
【0067】
また、本実施例のツルーイング完了判定装置10によれば、研削ホイール14の砥粒38の破砕に関連する第1周波数帯B1の第1信号強度SP1、および第2周波数帯B2の第2信号強度SP2の少なくとも一方の信号強度積分値を逐次算出し、その信号強度積分値が飽和することに基づいて、研削ホイール14のツルーイング完了を判定するツルーイング完了判定部53が備えられている。これにより、ツルーイング工具46,80,82の切込量および走査回数や総切込量はツルーイングの完了のために必要且つ充分な値とされるので、研削ホイール14の研削面が必要以上に無駄に削られることがなく、研削ホイール14の寿命がツルーイングにより損なわれることが抑制される。
【0068】
また、本実施例のツルーイング完了判定装置10において、第1周波数帯B1は、25から40kHzの周波数帯の少なくとも一部を含む周波数帯、好適には30から40kHzの周波数帯であり、第2周波数帯B2は、45から65kHzの周波数帯の少なくとも一部を含む周波数帯、好適には45から65kHzである。これにより、研削ホイール14のツルーイング面の砥粒破砕に由来する第1周波数帯B1の第1信号強度SP1、および/または、研削ホイール14のツルーイング面の砥粒38とツルーイング工具46,80,82との接触に由来する第2周波数帯B2の第2信号強度SP2の時間成分値を用いて、研削ホイール14のツルーイング完了の判定を適切に且つ正確に行なうことができる。
【0069】
また、本実施例のツルーイング完了判定装置10において、A/D変換器34のサンプリング周期は、10μ秒以下、好適には5μ秒以下、さらに好適には1μ秒以下である。このように分解能が高められたA/D変換器34によりA/D変換されたAE信号SAEを周波数解析することで、100kHz以下の周波数領域において、研削ホイール14のツルーイング面の砥粒破砕に由来する第1周波数帯B1の第1信号強度SP1、および/または研削ホイール14のツルーイング面の砥粒38とツルーイング工具46,80,82との接触に由来する第2周波数帯B2の第2信号強度SP2が得られるとともに、それら第1信号強度SP1の信号強度積分値、および/または第2信号強度SP2の信号強度積分値の変化に基づいて、ツルーイング完了判定が可能となる。
【0070】
以上、本発明の一実施例を図面を用いて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0071】
たとえば、前述の実施例において、周波数解析部50によりAE信号SAEから生成されたパワースペクトラムから、第1周波数帯B1の第1信号強度SP1と第2周波数帯B2の第2信号強度SP2が用いられている。第1周波数帯B1としては25から40kHzが用いられ、第2周波数帯B2としては45から65kHzが用いられていた。しかし、パワースペクトラムのうちの砥粒破砕を主として表す周波数帯および砥粒38とツルーイング工具46,80,82との接触による弾性振動を主として表す周波数帯が用いられればよいので、第1周波数帯B1としては、25から40kHzに含まれる周波数或いは周波数帯の一部を含む周波数帯の信号強度が用いられ、第2周波数帯B2としては45から65kHzに含まれる周波数或いは周波数帯の一部を含む周波数帯の信号強度が用いられればよい。たとえば、第1周波数帯B1としては、25から40kHzの周波数帯の一部たとえば32.5kHzを中心部に含む相対的に狭い周波数帯が、第2周波数帯B2としては、45から65kHzの周波数帯の一部たとえば55kHzを中心部に含む相対的に狭い周波数帯が用いられてもよい。このようにしても、研削ホイール14の砥粒破壊の傾向および/または擦れの傾向などのツルーイング面状態を定量的に評価することができる。
【0072】
前述の実施例では、AEセンサ22は研削ホイール14に内蔵されていたが、たとえば直方体状であるために被削材44が非回転状態で研削ホイール14によって研削される場合には、被削材44を支持する支持台に設けられていてもよい。
【0073】
また、前述の実施例では、本体18の外周面にビトリファイド砥石から成る砥石部16が固着された形式の研削ホイール14が用いられていたが、その研削ホイール14に替えて、金属コアすなわち本体18を用いない一般砥石が用いられる場合には、AEセンサ22が内蔵されていれば、全体がビトリファイド砥石などから構成されていてもよい。また、全体がビトリファイド砥石から構成されている場合には、その一般砥石を主軸に固定するフランジと一般砥石との間に挟持されるスペーサ内に、AEセンサ22、プリアンプ24、送信回路26が設けられていてもよい。
【0074】
なお、上述したのはあくまでも本発明の一実施例であり、本発明はその主旨を逸脱しない範囲において種々の変更が加えられ得るものである。
【符号の説明】
【0075】
10:ツルーイング完了判定装置
14:研削ホイール(研削砥石)
22:AEセンサ
34:A/D変換器
46:ロータリドレッサ(ツルーイング工具)
50:周波数解析部
53:ツルーイング完了判定部
80:ドレッサ(ツルーイング工具)
82:総型ドレッサ(ツルーイング工具)
SAE:AE信号
SP1:第1信号強度
SP2:第2信号強度