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特許7413141転造圧監視装置および転造圧監視装置の作動プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】転造圧監視装置および転造圧監視装置の作動プログラム
(51)【国際特許分類】
   B21H 3/02 20060101AFI20240105BHJP
   B23G 7/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B21H3/02
B23G7/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020081453
(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公開番号】P2021175576
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆一
(72)【発明者】
【氏名】柴田 洋延
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-259771(JP,A)
【文献】特開2016-223819(JP,A)
【文献】特開平07-132339(JP,A)
【文献】特開2004-290994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21H 3/02
B23G 7/00
B21H 1/00
B23Q 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外縁の曲率半径が部分的に異なる断面形状をなす母材に転造処理を施した際の、該母材に加わる転造圧を監視する転造圧監視装置であって、
転造時における圧力の検出情報を用いて転造圧の時間変化を示す転造圧波形を生成し、前記転造圧波形の周期、振幅および位相を推定し、推定した前記周期、前記振幅および前記位相に基づいて転造圧波形を補正する解析部と、
前記解析部によって補正された前記転造圧波形が、予め設定された転造圧の範囲内を推移しているか否かを判定する判定部と、
を備えることを特徴とする転造圧監視装置。
【請求項2】
前記解析部は、
前記検出情報に基づいて生成される前記転造圧波形に高速フーリエ変換を施して周波数解析することによって周波数スペクトルを算出し、
前記周波数スペクトルに基づいて前記周期を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の転造圧監視装置。
【請求項3】
前記解析部は、
前記検出情報に基づいて生成される前記転造圧波形を微分することによって得られる波形に基づいて前記周期を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の転造圧監視装置。
【請求項4】
前記解析部は、
前記検出情報に基づいて生成される前記転造圧波形を二回微分することによって得られる波形に基づいて前記周期を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の転造圧監視装置。
【請求項5】
前記解析部は、
前記検出情報に基づいて生成される前記転造圧波形に高速フーリエ変換を施して周波数解析することによって周波数スペクトルを算出し、
前記周波数スペクトルに基づいて前記振幅を推定する、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の転造圧監視装置。
【請求項6】
前記解析部は、
推定した周波数に基づいて前記転造圧波形を区切り、区切られた区間において抽出される最大値をもとに前記振幅を推定する、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の転造圧監視装置。
【請求項7】
前記解析部は、
前記転造圧波形を二回微分して得られる波形を、推定した周波数に基づいて区切り、区切られた区間において抽出される最大値をもとに前記振幅を推定する、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の転造圧監視装置。
【請求項8】
前記解析部は、
前記検出情報に基づいて生成される前記転造圧波形と、予め設定される基準sin波形とをフィッティングすることによって前記位相を推定する、
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一つに記載の転造圧監視装置。
【請求項9】
前記解析部は、
推定した周波数に基づいて前記転造圧波形を区切り、区切られた区間において振幅が最大となる時刻をもとに前記位相を推定する、
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一つに記載の転造圧監視装置。
【請求項10】
前記解析部は、
前記転造圧波形から、推定した前記周期、前記振幅および前記位相に基づいてsin成分を減算する、
ことを特徴とする請求項1~9のいずれか一つに記載の転造圧監視装置。
【請求項11】
外縁の曲率半径が部分的に異なる断面形状をなす母材に転造処理を施した際の、該母材に加わる転造圧を監視する転造圧監視装置に、
転造時における圧力の検出情報を用いて転造圧の時間変化を示す転造圧波形を生成し、前記転造圧波形の周期、振幅および位相を推定し、推定した前記周期、前記振幅および前記位相に基づいて転造圧波形を補正し、
補正された前記転造圧波形が、予め設定された転造圧の範囲内を推移しているか否かを判定する、
ことを実行させることを特徴とする転造圧監視装置の作動プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転造圧監視装置および転造圧監視装置の作動プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、雄ねじの製造において、ねじ山は、転造加工によって形成される。転造加工は、一対のダイスによって雄ねじの母材を挟み込み、押圧しながら母材を送ることによって、母材の表面に凹凸形状を形成する(例えば、特許文献1を参照)。転造加工では、転造時に母材に加わる圧力(以下、単に「転造圧」ともいう)を測定することによって、母材にねじ山が適切に形成されたか否かを判定している。転造工程では、母材が一対のダイスに挟み込まれる直前から、一対のダイスから離脱するまでの間、基準位置からの通過時間に対する転造圧が定期的に測定される。転造の成否は、基準位置からの通過時間と、その際の許容範囲(最大転造圧および最小転造圧)との関係が予め設定されており、得られた転造圧が許容範囲から外れているか否かによって判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-290994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ねじを製造するための母材として、断面が、外縁の曲率が一様な真円とは異なる、外縁の曲率半径が部分的に異なる形状をなす異形の母材を用いる場合がある。母材の形状が変わると、転造圧の時間変化も変わるが、特許文献1では、母材の形状による転造圧の変化については考慮されていなかった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、母材の形状によらず、転造圧を適切に判定することができる転造圧監視装置および転造圧監視装置の作動プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る転造圧監視装置は、外縁の曲率半径が部分的に異なる断面形状をなす母材に転造処理を施した際の、該母材に加わる転造圧を監視する転造圧監視装置であって、転造時における圧力の検出情報を用いて転造圧の時間変化を示す転造圧波形を生成し、前記転造圧波形の周期、振幅および位相を推定し、推定した前記周期、前記振幅および前記位相に基づいて転造圧波形を補正する解析部と、前記解析部によって補正された前記転造圧波形が、予め設定された転造圧の範囲内を推移しているか否かを判定する判定部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る転造圧監視装置は、上記発明において、前記解析部は、前記検出情報に基づいて生成される前記転造圧波形に高速フーリエ変換を施して周波数解析することによって周波数スペクトルを算出し、前記周波数スペクトルに基づいて前記周期を推定することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る転造圧監視装置は、上記発明において、前記解析部は、前記検出情報に基づいて生成される前記転造圧波形を微分することによって得られる波形に基づいて前記周期を推定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る転造圧監視装置は、上記発明において、前記解析部は、前記検出情報に基づいて生成される前記転造圧波形を二回微分することによって得られる波形に基づいて前記周期を推定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る転造圧監視装置は、上記発明において、前記解析部は、前記検出情報に基づいて生成される前記転造圧波形に高速フーリエ変換を施して周波数解析することによって周波数スペクトルを算出し、前記周波数スペクトルに基づいて前記振幅を推定することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る転造圧監視装置は、上記発明において、前記解析部は、推定した周波数に基づいて前記転造圧波形を区切り、区切られた区間において抽出される最大値をもとに前記振幅を推定することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る転造圧監視装置は、上記発明において、前記解析部は、前記転造圧波形を二回微分して得られる波形を、推定した周波数に基づいて区切り、区切られた区間において抽出される最大値をもとに前記振幅を推定することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る転造圧監視装置は、上記発明において、前記解析部は、前記検出情報に基づいて生成される前記転造圧波形と、予め設定される基準sin波形とをフィッティングすることによって前記位相を推定することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る転造圧監視装置は、上記発明において、前記解析部は、推定した周波数に基づいて前記転造圧波形を区切り、区切られた区間において振幅が最大となる時刻をもとに前記位相を推定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る転造圧監視装置は、上記発明において、前記解析部は、前記転造圧波形から、推定した前記周期、前記振幅および前記位相に基づいてsin成分を減算することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る転造圧監視装置の作動プログラムは、外縁の曲率半径が部分的に異なる断面形状をなす母材に転造処理を施した際の、該母材に加わる転造圧を監視する転造圧監視装置に、転造時における圧力の検出情報を用いて転造圧の時間変化を示す転造圧波形を生成し、前記転造圧波形の周期、振幅および位相を推定し、推定した前記周期、前記振幅および前記位相に基づいて転造圧波形を補正し、補正された前記転造圧波形が、予め設定された転造圧の範囲内を推移しているか否かを判定することを実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、母材の形状によらず、転造圧を適切に判定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施の形態において製造される雄ねじの構成の一例を示す側面図である。
図2図2は、本発明の一実施の形態に係る雄ねじの製造方法について説明するフローチャートである。
図3図3は、本発明の一実施の形態に係る雄ねじの製造方法について説明する図である。
図4図4は、図3に示す矢視A方向からみた母材端面の平面図である。
図5図5は、本発明の一実施の形態に係る転造圧監視装置の概略構成、および、ローリング処理の概要を説明する図である。
図6図6は、図5に示す転造圧監視装置の機能構成を示すブロック図である。
図7図7は、断面が真円の母材に転造処理を施した際の転造圧の時間変化の一例を示す図である。
図8図8は、転造処理時の第1成形物および移動側ダイスの動きを説明する図(その1)である。
図9図9は、転造処理時の第1成形物および移動側ダイスの動きを説明する図(その2)である。
図10図10は、転造処理時の第1成形物および移動側ダイスの動きを説明する図(その3)である。
図11図11は、転造処理時の第1成形物および移動側ダイスの動きを説明する図(その4)である。
図12図12は、転造処理時の第1成形物および移動側ダイスの動きを説明する図(その5)である。
図13図13は、転造圧の許容範囲について説明する図である。
図14図14は、断面が真円とは異なる形状の母材を転造して得られる転造圧のsin波形成分の一例を示す図である。
図15図15は、図7に示す真円の転造圧波形と、図13に示すsin波形とを合成した合成波形を示す図である。
図16図16は、図15に示す合成波形にFFTを施して周波数解析することによって得られる周波数スペクトルを示す図である。
図17図17は、sin波形成分の位相推定について説明する図である。
図18図18は、sin波形成分を低減後の転造圧波形を示す図である。
図19図19は、図15に示す合成波形を微分して得られる波形を示す図である。
図20図20は、図19に示す波形をさらに微分して得られる波形を示す図である。
図21図21は、本発明の変形例3に係る転造圧波形の振幅の推定を説明するための図である。
図22図22は、本発明の変形例4に係る転造圧波形の振幅の推定を説明するための図である。
図23図23は、本発明の変形例5に係る転造圧波形の位相の推定を説明するための図である。
図24図24は、本発明の変形例6に係る転造圧波形の位相の推定を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、図面は模式的なものであって、各部分の厚みと幅との関係、それぞれの部分の厚みの比率などは現実のものとは異なる場合があり、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる場合がある。
【0020】
(実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態において製造される雄ねじの構成の一例を示す側面図である。図1に示す雄ねじ1は、ボルト(雄ねじの一種)である。雄ねじ1は、例えばアルミニウム(Al)合金からなる母材を用いて形成される。雄ねじ1は、円柱状をなす軸部2と、軸部2の軸線方向(図1の左右方向)の一端に設けられる頭部3と、軸部2と頭部3との境界をなす首部4とを備える。軸部2は、表面にねじ山21が形成されたねじ部22を有する。なお、頭部3の形状(六角トリム型)はあくまでも一例に過ぎず、その他の形状(六角フランジ型、なべ型、皿型、トラス型、平型等)を有していても構わない。なお、軸部2の軸線方向において隣り合うねじ山21間には、ねじ谷23が形成される。頭部3は必ずしも必要ではなく、頭部を有さない植込みボルト(例えば、JIS規格:JIS B 1173)でも構わない。
【0021】
雄ねじ1は、棒状の母材に加工等を施すことによって成形される。図2は、本発明の一実施の形態に係る雄ねじの製造方法について説明するフローチャートである。図3は、本発明の一実施の形態に係る雄ねじの製造方法について説明する図である。
【0022】
まず、棒状の母材を用意する(図3の(a)参照)。母材としては、断面が真円をなすものや、部分的に曲率半径が異なるもの、矩形や三角形等の角形をなすものがある。本実施の形態では、長手方向と直交する平面で切断した断面のなす外縁が、部分的に曲率半径が異なる形状をなす母材100を例に説明する。図4は、図3に示す矢視A方向からみた母材端面の平面図である。例えば、図4に示すように、母材100は、断面のなす外縁の形状が、同じ曲率半径の三つの曲線からなる曲線群であって、組間で曲率半径が互いに異なる二組の曲線群の各曲線を交互に繋げた、部分的に曲率半径が異なる外縁形状をなす。
【0023】
母材100にヘッダー処理を施す(ステップS101)。このヘッダー処理では、母材100を金型で挟み込んで加圧する。ヘッダー処理によって、母材100の一端が押し潰されて、ねじ部22を除く軸部2に相当する軸部102、頭部3および首部4に相当する頭部103および首部104を有する第1成形物110が作製される(図3の(b)参照)。
【0024】
その後、第1成形物110にローリング処理(転造処理)を施す(ステップS102)。このローリング処理では、ねじ山21に対応する凹凸が形成された一対のダイスによって第1成形物を挟み込んで加圧し、第1成形物110を回転させつつ、一方のダイスを他方のダイスに対して移動させることによって、ねじ山21およびねじ谷23に相当するねじ山106およびねじ谷108が形成される。転造処理によって、ねじ山106およびねじ谷108からなるねじ部107が形成された軸部105を有する第2成形物120が得られる。
【0025】
転造処理後、第2成形物120に熱処理を施す(ステップS103)。熱処理では、第2成形物120を高温下で処理して溶体化(溶体化処理)した後、時効処理を施す。溶体化処理における設定温度は、例えば500℃~570℃に設定され、時効処理における設定温度は、例えば140℃~200℃に設定される。熱処理によって、成形物の硬度が高くなる。
転造処理時、転造の成否を判定する判定処理が、後述する転造圧監視装置によって実施される。
【0026】
その後、熱処理後の第2成形物120に表面処理を施す(ステップS104)。表面処理では、第2成形物120に防錆のための表面処理を施す。表面処理によって、図1に示す雄ねじ1が作製される。
【0027】
上述した流れで雄ねじ1が作製される。なお、ステップS102の転造処理よりも前にステップS103の熱処理を行ってもよい。
【0028】
続いて、転造処理時に実施する判定処理について、説明する。図5は、本発明の一実施の形態に係る転造圧監視装置の概略構成、および、ローリング処理の概要を説明する図である。転造処理では、ねじ部を形成するためのパターンを有する一対のダイス(固定側ダイス201および移動側ダイス202)を用いる。具体的には、固定側ダイス201に沿って第1成形物110を移動させ、該固定側ダイス201と移動側ダイス202とによって第1成形物110を挟み込んで押圧しながら固定側ダイス201の一方から他方に移動させる。この際、第1成形物110は、長手軸のまわりに自転しながら移動する。
【0029】
ここで、固定側ダイス201には、第1成形物110が通過する側と反対側の表面に、転造圧を検出する検出センサ203が設けられる。検出センサ203は、例えば圧力センサを用いて構成され、固定側ダイス201に加わる荷重を定期的に検出する。検出センサ203は、圧力に応じた検出値を、転造圧監視装置10に出力する。
【0030】
図6は、図5に示す転造圧監視装置の機能構成を示すブロック図である。図5および図6に示す転造圧監視装置10は、検出情報取得部11と、解析部12と、判定部13と、入力部14と、出力部15と、記憶部16と、制御部17とを有する。
【0031】
検出情報取得部11は、検出センサ203と通信可能に接続される。検出情報取得部11は、取得した検出センサ203からの検出値を含む検出情報を、制御部17に出力する。検出情報取得部11は、通信インタフェースを用いて構成される。
【0032】
解析部12は、検出情報取得部11が取得した検出情報を用いて、転造圧の解析を行う。
【0033】
判定部13は、解析部12によって解析された転造圧に関する情報を用いて、監視対象の第1成形物110の転造の成否を判定する。
【0034】
入力部14は、転造圧監視装置10の動作に関する各種信号の入力を受け付ける。入力部14は、キーボード、マウス、スイッチ、タッチパネル等を用いて構成される。
【0035】
出力部15は、制御部17の制御のもと、画像を表示させたり、音や光を出力させたりする。出力部15は、ディスプレイ(例えば図5に示すディスプレイ10a)や、スピーカー、光源等を用いて構成される。
【0036】
記憶部16は、制御部17が各種動作を実行するためのプログラム(例えば後述する転造圧を監視するためのプログラム)や、転造の判定処理に関する閾値(許容範囲)等を記憶する。記憶部16は、揮発性メモリや不揮発性メモリを用いて構成されるか、またはそれらを組み合わせて構成される。例えば、記憶部16は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を用いて構成される。
【0037】
制御部17は、転造圧監視装置10の各構成部品の動作処理を制御する。制御部17は、例えば、検出情報取得部11が検出センサ203から検出情報を取得した際に、解析部12に転造圧の解析を実施させ、判定部に転造の成否を判定させる。また、制御部17は、判定部13の判定結果に基づいて、出力部15に判定結果に関する出力動作を実施させる。
【0038】
解析部12、判定部13および制御部17は、それぞれ、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサや、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の機能を実行する各種演算回路等のプロセッサを用いて構成される。
【0039】
続いて、転造処理時の転造圧監視処理について、図7図17を参照して説明する。図7は、断面が真円の母材に転造処理を施した際の転造圧の時間変化の一例を示す図である。図7は、断面が真円の母材をダイス間に導入し、転造処理をした際の転造圧波形を示す。横軸は時間、縦軸は転造圧を示す。また、図8図12は、転造処理時の第1成形物および移動側ダイスの動きを説明する図である。以下、図5に示す一対のダイス(固定側ダイス201および移動側ダイス202)に第1成形物110を導入した場合を例として説明する。断面が真円の母材では、母材に対する加圧位置によらず、一定の圧力(転造圧)が加わるため、転造圧は各期間において線形に変化する。
【0040】
転造圧がゼロの期間T1は、第1成形物が固定側ダイスと移動側ダイスによって挟まれる前の状態である。この状態では、図8に示すように、第1成形物110の軸部102が固定側ダイス201に配置され、移動側ダイス202とは接触していない。
【0041】
転造圧がゼロから増大する期間T2は、第1成形物が移動側ダイスとの接触を開始し、該移動側ダイスからの荷重が増大する状態である。この状態では、図9に示すように、軸部102が移動側ダイス202との接触し、固定側ダイス201とによって挟まれる。
【0042】
転造圧が最大値を維持する期間T3は、第1成形物が移動側ダイスと固定側ダイスとに挟まれて転造される状態である。この状態では、図10に示すように、軸部102が、固定側ダイス201と移動側ダイス202とに挟まれて回転しながら移動する。
【0043】
転造圧が最大値からゼロに減少する期間T4は、第1成形物と移動側ダイスとが徐々に離れていく状態である。この状態では、図11に示すように、軸部102が、固定側ダイス201と移動側ダイス202とに挟まれて回転しながら移動側ダイス202から離れていく。
【0044】
転造圧が再びゼロを維持する期間T5は、第1成形物が移動側ダイスから完全に離れた状態である。この状態では、図12に示すように、転造処理によって形成された軸部105が移動側ダイス202から完全に離れる。
【0045】
転造処理の成否は、処理中の転造圧が許容範囲内であるか否かによって判定される。解析部12は、検出センサ203から取得した検出値に基づいて、転造圧を算出する。その後、判定部13によって転造圧が適切な値であるか否かが判定される。
【0046】
図13は、転造圧の許容範囲について説明する図である。許容範囲は、理論的な転造圧波形(例えば図7参照)に対して上限値と下限値とが設定される。例えば、図13に示すように、処理時間に対する上限値を示す上限値波形LHと、処理時間に対する下限値を示す下限値波形LLとが設定される。判定部13は、各時刻において測定された転造圧が、上限値と下限値との間を推移している否かを判定する。判定部13によって転造圧が不適切な値になっていると判定した場合、制御部17は、出力部15に、転造圧が異常値となっている旨を報知する。この際、出力部15は、画像表示、光、音等の少なくとも一つによって、異常値である旨を報知する。なお、制御部17は、正常と判定された場合、出力部17に、その判定結果を表現する出力を行わせてもよい。
【0047】
ここで、外縁の曲率半径が部分的に異なる断面形状をなす母材(以下、異形母材ということがある)を転造する場合の転造圧の処理について説明する。断面が真円とは異なる場合、測定された転造圧の時間変化におけるsin成分を低減することによって、真円において使用される判定用の許容範囲(図13参照)を共用することができる。sin成分の低減には、母材に対する転造圧の周期(周波数)、振幅および位相の情報が必要である。母材の転造圧の周期(周波数)、振幅および位相に基づいて、得られた転造圧を減算することによって、疑似的に真円の転造圧波形を生成し、この転造圧波形と許容範囲とを比較することによって転造処理の成否が判定される。
【0048】
図14は、断面が真円とは異なる形状の母材を転造して得られる転造圧のsin波形成分の一例を示す図である。例えば、一対のダイスによって母材を挟み込んで一様な荷重を加えながら、自転する母材を移動させた場合に、転造圧が図14に示す周期性を有する母材について考える。図14に示すsin波形成分は、周期が0.360秒(≒2.778Hz)、振幅が0.05である。
【0049】
図15は、図7に示す真円の転造圧波形と、図14に示すsin波形とを合成した合成波形を示す図である。図14に示す異形母材のsin波形と、真円の転造圧波形とを合成すると、図15に示す合成波形を得る。図14に示すsin波形を示す母材を使用して転造処理を実施した場合、実測値に基づいて生成される転造圧波形は、理論的には、図15に示す合成波形となる。なお、本実施の形態では、図14に示すsin波形成分を有する異形母材の理想的な転造圧波形が不明であり、当該異形母材のsin波形と、真円の母材の転造圧波形とを合成した合成波形を、異形母材の理想的な転造圧波形とする例について説明するが、製造前試験等によって当該異形母材を転造して得た転造圧波形を、当該異形母材の理想的な転造圧波形としてもよい。
【0050】
まず、母材の転造圧の周期(周波数)の推定について説明する。図16は、図14に示す転造圧波形に高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)を施して周波数解析することによって得られる周波数スペクトルを示す図である。図15に示す合成波形にFFTを施すと、図16に示す周波数スペクトルが得られる。図16の横軸は周波数(Hz)、縦軸は強度を示す。この場合の強度はその周波数における振幅に相当する。図16に示すように、ある波形にFFTを施すと、その波形において支配的な周波数成分を推定することができる。図16に示す周波数スペクトルでは、2.778Hz辺りの強度が高くなっていることが分かる。これは、この母材のsin波形の周期に相当する。このように、母材の転造圧波形にFFTを施すことによって、その母材の周波数を推定できる。
【0051】
続いて、母材の転造圧の振幅の推定について説明する。図16に示す周波数スペクトルの強度をデータ点数/2の値で割ると、振幅値に近い値が得られる。例えば、図16に示す周波数スペクトルが4096のデータ点数でFFTを施した結果である場合、4096/2=2048となる。sin波形の2.778Hz付近の強度である102.983を2048で割ると、およそ0.05となる。このように、合成波形にFFTを施して得られるスペクトルから、振幅を算出することができる。
【0052】
次に、母材の転造圧の位相の推定について説明する。図17は、sin波形成分の位相推定について説明する図である。なお、図17に示す転造圧波形S1は、実測値に基づいて生成される波形の一例であり、説明のために、図15に示す合成波形の位相を90°だけ進めたものである。解析部12は、上述したようにして推定された周波数と振幅とを用いて、実測値に基づく転造圧波形S1と、フィッティング用のsin波形S2とのフィッティングを行う。
【0053】
ここで、フィッティング用のsin波形S2は、時刻をt、周期をf、振幅をA、位相をφとして、下式(1)で表現することができる。
f(t)=A・sin(2πft-φ) ・・・(1)
解析部12は、上式(1)を用いて転造圧波形とフィッティング用のsin波形との差(残差二乗和)が最小となる位相を求めることによって、位相を推定する。
【0054】
解析部12は、上述したようにして推定した周波数、振幅および位相を用いて、実測値に基づく転造圧波形(例えば図17に示す転造圧波形S1)から、sin波形成分を低減する。解析部12は、転造圧の時間変化から、位相を揃えて、振幅を減算することによって、sin成分を低減する。具体的には、解析部12は、推定した周波数、振幅および位相を用いてsin波形を生成する。この際に生成されるsin波形のデータは、時間(測定間隔)およびデータ数を、実際に測定した転造圧波形の時間およびデータ数と同じにする。解析部12は、実測値に基づく転造圧波形の各時間のデータ点(転造圧)に対し、生成したsin波形の対応する時間の値を引き算することによってsin成分を低減する。転造圧波形からsin波形成分を低減すると、断面形状に起因する転造圧波形の揺らぎが除去され、理論的には、図7に示す、断面が真円をなす母材の場合と同様の転造圧波形を得ることができる。
【0055】
図18は、sin波形成分を低減後の転造圧波形を示す図である。sin波形成分が低減された転造圧波形LSは、転造処理が適切に実施されている場合、上限値波形LHと下限値波形LLとの間を推移する。この転造圧波形が、上限値を超えるか、下限値を下回るかを、検出センサが検出した測定時刻ごとに判定部13が判定することによって、転造処理の成否を判定することができる。制御部17は、判定部13の判定結果に応じて、出力部15に判定結果を出力させる。
【0056】
以上説明した本発明の実施の形態によれば、断面形状に対応する周波数、振幅、位相に応じて転造圧波形を補正することによって、断面形状に起因する転造圧波形の揺らぎを除去した転造圧波形を生成し、この波形に基づいて転造処理の成否を判定するようにしたので、母材の形状によらず、転造圧を適切に判定することができることができる。例えば、転造圧波形のsin成分を低減せずに許容範囲を設定する場合、sin波形の時間変化は、母材の個体差や、ダイス間に投入する母材の位置によって変わる可能性があるため、仮に母材の種類ごとに共通の許容範囲を設定したとしても、その時刻で取りうる最大振幅に設定する必要があり、許容範囲が不要に大きくなる。本実施の形態では、周期、振幅および位相を推定してsin成分を減算することによって、断面形状に起因する転造圧波形の揺らぎを除去することができ、その結果、許容範囲を必要以上に大きくすることなく設定しても、適切に転造圧の判定を実施することができる。
【0057】
なお、実施の形態では、合成波形にFFTを施して周波数および振幅を推定する例について説明したが、母材を用いて事前に製造テストを行って、該テストの結果から周波数および振幅を予め指定するようにしてもよい。使用する母材の断面形状が同じであれば、得られる転造圧波形やスペクトルも同じものとなる。したがって、同じ形状の母材についてはsin波形、振幅は同じになると考えられる。
【0058】
(変形例1)
次に、上述した実施の形態の変形例1について、図19を参照して説明する。変形例1では、転造圧波形のsin成分の周波数の推定の他の例について説明する。上述した実施の形態では、周波数解析を行って転造圧波形の周波数を推定する例について説明したが、変形例1では、転造圧波形を微分することによって周波数を推定する。図19は、図15に示す合成波形を微分して得られる波形を示す図である。図19の横軸は時間、縦軸は振幅の変化量を示す。図15に示す合成波形を微分すると、sin成分がcos成分として残った波形が得られる。この際、sin成分以外の成分は一次関数的に推移する場合は定数成分に変化する。ここで、微分によって得られる波形は、転造圧がピーク値を示す際にゼロに近付くため、ゼロ付近の時刻を抽出して、その間隔から周波数を推定することができる。なお、時間的に隣り合う時刻は、半周期となるため、時間を2倍にするか、周波数を1/2周期にするかのどちらかとする必要がある。このことから、解析部12は、実測値に基づく転造圧波形を微分することによって、転造圧波形のsin成分の周波数を推定することができる。
【0059】
(変形例2)
次に、上述した実施の形態の変形例2について、図20を参照して説明する。変形例2では、転造圧波形のsin成分の周波数の推定の他の例について説明する。図20は、図19に示す波形をさらに微分して得られる波形を示す図である。図20の横軸は時間、縦軸は変化量を示す。ここで、転造圧波形の二回微分することによって、sin成分を再抽出した波形となる。解析部12は、変形例1と同様に、解析部12は、ゼロ付近の時刻を抽出して、その間隔から周波数を推定することができる。
【0060】
(変形例3)
次に、上述した実施の形態の変形例3について、図21を参照して説明する。変形例3では、転造圧波形のsin成分の振幅の推定の他の例について説明する。上述した実施の形態では、周波数解析を行って転造圧波形の振幅を推定する例について説明したが、変形例3では、推定された周期(周波数)から振幅を推定する。図21は、本発明の変形例3に係る転造圧波形の振幅の推定を説明するための図である。図21に示す波形は、図15に示す転造圧波形(合成波形)と同等の波形である。解析部12は、得られた転造圧波形から推定した周波数をもとに、転造圧波形の横軸を区切る。例えば、解析部12は、推定した周波数に基づいて、転圧波形の一部を、区間T11、T12として区切る。解析部12は、区間の最大値を抽出して、その転造圧波形の振幅とする。例えば、解析部12は、区間T11、T12との最大値P11、P12を抽出する。この際、解析部12は、複数の区間に区切った場合、代表の区間を設定して、その区間の最大値を抽出してもよいし、各区間の最大値から代表値を算出してもよい。代表値は、最大値、最小値、平均値および最頻値のうちのいずれかとする。このようにして、解析部12は、推定された周期で区切った区間から、転造圧波形の振幅を推定することができる。
【0061】
(変形例4)
次に、上述した実施の形態の変形例4について、図22を参照して説明する。変形例4は、転造圧波形のsin成分の振幅の推定の他の例について説明する。変形例4は、転造圧波形を二回微分した波形から振幅を推定する。図22は、本発明の変形例4に係る転造圧波形の振幅の推定を説明するための図である。図22に示す波形は、図20に示す二回微分後の波形と同等の波形である。解析部12は、推定した周波数をもとに、転造圧波形を二回微分して得られた波形の横軸を区切る。例えば、解析部12は、推定した周波数に基づいて、二回微分後の波形の一部を、区間T21、T22として区切る。解析部12は、区間の最大値を抽出して、その転造圧波形の振幅とする。例えば、解析部12は、区間T21、T22との最大値P21、P22を抽出する。この際、解析部12は、複数の区間に区切った場合、代表の区間を設定して、その区間の最大値を抽出してもよいし、各区間の最大値から代表値を算出してもよい。代表値は、変形例3と同様である。このようにして、解析部12は、推定された周期で区切った区間から、転造圧波形の振幅を推定することができる。ここで、上述した変形例3のような一回微分の波形では、区間によってはsin成分以外の成分を含んで相対的に高い値となる場合があるが、本変形例4のように二回微分した場合はsin成分のみとして振幅を推定することが可能である。
【0062】
(変形例5)
次に、上述した実施の形態の変形例5について、図23を参照して説明する。変形例5では、転造圧波形のsin成分の位相の推定の他の例について説明する。上述した実施の形態では、周波数解析を行って転造圧波形の振幅を推定する例について説明したが、変形例5では、推定された周期(周波数)から振幅を推定する。図23は、本発明の変形例5に係る転造圧波形の位相の推定を説明するための図である。なお、図23に示す転造圧波形S1と、フィッティング用のsin波形S2とは、図17と同様である。解析部12は、sin波形S2を転造圧波形S1に重ねて、最も一致度が高くなるsin波形S2´を求める。このように、波形からフィッティングさせることによって、転造圧波形の位相を推定してもよい。
【0063】
(変形例6)
次に、上述した実施の形態の変形例6について、図24を参照して説明する。変形例6では、転造圧波形のsin成分の位相の推定の他の例について説明する。上述した実施の形態では、周波数解析を行って転造圧波形の振幅を推定する例について説明したが、変形例6では、推定された周期(周波数)から位相を推定する。図24は、本発明の変形例6に係る転造圧波形の位相の推定を説明するための図である。図24に示す波形は、図15に示す転造圧波形(合成波形)と同等の波形である。解析部12は、得られた転造圧波形から推定した周波数をもとに、転造圧波形の横軸を区切る。例えば、解析部12は、推定した周波数に基づいて、転圧波形の一部を、区間T31、T32として区切る。解析部12は、区間の最大値を抽出して、その時刻から位相を推定する。例えば、解析部12は、区間T31、T32との最大値P31、P32を抽出する。この際、解析部12は、例えば、最大値P31の時刻を抽出し、その時刻から転造圧波形の位相を推定する。なお、抽出される時刻から求められる時間は、1/4周期となるため、時間を4倍にするか、周波数を1/4周期にするかのどちらかとする必要がある。このことから、解析部12は、実測値に基づく転造圧波形を周波数に基づいて時間を区切り、区切った区間から最大値に対応する時刻を抽出することによって、転造圧波形のsin成分の位相を推定することができる。
【0064】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。例えば、転造処理を施して製造する製品に対して適用可能である。
【0065】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【0066】
以上説明したように、本発明に係る転造圧監視装置および転造圧監視装置の作動プログラムは、母材の形状によらず、転造圧を適切に判定するのに好適である。
【符号の説明】
【0067】
1 雄ねじ
2 軸部
3 頭部
4 首部
10 転造圧監視装置
11 検出情報取得部
12 解析部
13 判定部
14 入力部
15 出力部
16 記憶部
17 制御部
21 ねじ山
22 ねじ部
23 ねじ谷
201 固定側ダイス
202 移動側ダイス
203 検出センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
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図19
図20
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図22
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図24