(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】分散電源制御システム、分散電源制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/38 20060101AFI20240105BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20240105BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20240105BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
H02J3/38 110
H02J3/00 170
H02J3/32
H02J3/38 130
H02J3/38 160
H02J13/00 311R
H02J13/00 311U
(21)【出願番号】P 2020090058
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 一徳
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 道彦
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-187091(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098083(WO,A1)
【文献】特開平11-299099(JP,A)
【文献】特開2019-030151(JP,A)
【文献】特開2009-284723(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0137482(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/38
H02J 3/32
H02J 3/00
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の運用順位に基づく複数の分散電源の出力配分を示す基準出力指令値と、前記分散電源毎の発電特性を示す分散電源特性情報とに基づき、前記複数の分散電源の各出力を合計したシステム出力値の予測値を示すシステム予測値を演算し、前記システム出力値の目標値を示すシステム目標値と、前記システム予測値との差が小さくなるように、前記分散電源毎の出力の目標値を示す制御指令値を所定の制御周期毎に演算する演算部、
を備える分散電源制御システム。
【請求項2】
前記演算部は、前記システム出力値が前記システム目標値に達するまでの前記システム出力値の所定の経時変化を示す目標軌道と、前記システム予測値の経時変化を示す予測軌道との差が所定範囲内となるように、前記制御指令値を演算する、
請求項1に記載の分散電源制御システム。
【請求項3】
前記分散電源の実際の出力を示す分散電源出力値と、当該分散電源に対応する前記分散電源特性情報に基づき演算される当該分散電源の出力の予測値を示す分散電源予測値との差が小さくなるように、前記演算部により演算された前記制御指令値を補正する補正部、
を更に備える請求項1又は2に記載の分散電源制御システム。
【請求項4】
前記システム目標値と、前記運用順位を示す運用順位情報とに基づき、前記基準出力指令値を演算する出力配分演算部、
を更に備える請求項1~3のいずれか1項に記載の分散電源制御システム。
【請求項5】
前記出力配分演算部は、更に、前記分散電源の出力を変動させる要因に関する出力変動情報に基づき、前記基準出力指令値を演算する、
請求項4に記載の分散電源制御システム。
【請求項6】
前記発電特性は、出力要求に対する応答性を示す応答性情報、出力変化の制約を示す出力変化制約情報、出力の上限値を示す最大出力情報、出力の下限値を示す最小出力情報の少なくとも何れかを含む、
請求項1~5のいずれか1項に記載の分散電源制御システム。
【請求項7】
前記演算部は、二次計画法又は凸最適化法を用いて前記制御指令値を演算する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の分散電源制御システム。
【請求項8】
前記システム目標値は、所定時間経過後に必要となる前記システム出力値の予測値を示す需要予測値である、
請求項1~7のいずれか1項に記載の分散電源制御システム。
【請求項9】
所定の運用順位に基づく複数の分散電源の出力配分を示す基準出力指令値と、前記分散電源毎の発電特性を示す分散電源特性情報とに基づき、前記複数の分散電源の各出力を合計したシステム出力値の予測値を示すシステム予測値を演算する工程と、
前記システム出力値の目標値を示すシステム目標値と、前記システム予測値との差が小さくなるように、前記分散電源毎の出力の目標値を示す制御指令値を所定の制御周期毎に演算する工程と、
を含む分散電源制御方法。
【請求項10】
コンピュータに、
所定の運用順位に基づく複数の分散電源の出力配分を示す基準出力指令値と、前記分散電源毎の発電特性を示す分散電源特性情報とに基づき、前記複数の分散電源の各出力を合計したシステム出力値の予測値を示すシステム予測値を演算する処理と、
前記システム出力値の目標値を示すシステム目標値と、前記システム予測値との差が小さくなるように、前記分散電源毎の出力の目標値を示す制御指令値を所定の制御周期毎に演算する処理と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、分散電源制御システム、分散電源制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力システムにおいて、電源の多様化及び分散化が進んでいる。例えば、VPP(Virtual Power Plant)等において、各地に分散した複数の分散電源を総合的に制御するための技術が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数の分散電源を利用する電力システムにおいては、分散電源毎に異なる発電特性を考慮する必要があるため、システム全体としての出力を高精度で制御することが困難である。
【0005】
そこで、本発明の実施形態は、互いに異なる発電特性を有する複数の分散電源の出力を高精度で制御可能にする分散電源制御システム、分散電源制御方法及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の分散電源制御システムは、演算部を備える。演算部は、所定の運用順位に基づく複数の分散電源の出力配分を示す基準出力指令値と、分散電源毎の発電特性を示す分散電源特性情報とに基づき、複数の分散電源の各出力を合計したシステム出力値の予測値を示すシステム予測値を演算する。また、演算部は、システム出力値の目標値を示すシステム目標値と、システム予測値との差が小さくなるように、分散電源毎の出力の目標値を示す制御指令値を所定の制御周期毎に演算する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電力システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る分散電源制御システムのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る分散電源制御システムの機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る基準出力指令値の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る分散電源特性情報の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る制御指令値の経時変化の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態の第1補正部の構成の一例を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係る補正前後の制御指令値と補正前後の分散電源出力値との関係の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係る制御指令値とシステム出力値との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付の図面を用いて、実施形態に係る分散電源制御システム、分散電源制御方法、及びプログラムについて説明する。
【0009】
<システム構成>
図1は、実施形態に係る電力システム1の構成の一例を示す図である。電力システム1は、需給管理システム11、分散電源制御システム12、分散電源21、通信ネットワーク25、及び送配電ネットワーク26を含む。
【0010】
需給管理システム11は、電力システム1の需給を管理するための処理を行うシステムである。本実施形態に係る需給管理システム11は、電力の需要に基づき、発生させるべき電力の目標値、すなわち複数の分散電源21の各出力を合計したシステム出力値の目標値であるシステム目標値の演算、分散電源制御システム12に対する制御指令の出力等を行う。
【0011】
分散電源制御システム12は、分散電源21を制御するための処理を行うシステムである。本実施形態に係る分散電源制御システム12は、需給管理システム11から出力された制御指令等に応じて、分散電源21-1~21-n毎の出力の目標値である分散電源目標値の演算、各分散電源21-1~21-nに対する制御指令の出力等を行う。
【0012】
分散電源21は、それぞれ独立して発電(電力の出力)を行うことができる複数の分散電源21-1~21-nを含む。各分散電源21-1~21-nは、それぞれ発電特性が異なるものであってもよく、設置位置や電力系統への連系点は地理的に離れていてもよく、制御情報や計測情報を伝送するための通信手段はそれぞれ異なってもよい。
図1においては、n個の分散電源21-1,21-2,21-3,21-4,21-5,…,21-nが存在する例が示されている。以下、複数の分散電源21-1~21-nを総称して分散電源21と記載する場合がある。分散電源21の種類は特に限定されるべきものではないが、分散電源21には、例えば、太陽光、風力等の再生可能エネルギーを利用して発電する設備、蓄電池(電気自動車のバッテリ等を含む)等が含まれてもよい。
【0013】
図1に示す例では、需給管理システム11、分散電源制御システム12、及び各分散電源21が通信ネットワーク25を介して通信可能に接続されている。通信ネットワーク25は、所定の通信プロトコルを用いて複数のコンピュータ間で情報の送受信を可能にするネットワークであり、例えばインターネット、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等を含んで構成される。各分散電源21は、送配電ネットワーク26に接続されている。送配電ネットワーク26は、電力の送配電を可能にする設備を含むネットワークであり、分散電源21からの電力を所定の需要家に向けて供給可能にする。
【0014】
なお、
図1に示した構成は一例であり、電力システム1の構成は上記に限定されるものではない。
【0015】
<分散電源制御システムのハードウェア構成>
図2は、実施形態に係る分散電源制御システム12のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。本実施形態に係る分散電源制御システム12は、CPU(Central Processing Unit)31、RAM(Random Access Memory)32、ROM(Read Only Memory)33、補助記憶装置34、通信I/F(Interface)35、ユーザI/F36、及びバス37を有する。
【0016】
CPU31は、分散電源制御システム12全体の制御を司るユニットであり、ROM33や補助記憶装置34に記憶されたプログラム(ファームウェア、ドライバ等を含む)に基づきRAM32を作業領域として各種の演算処理及び制御処理を行う。通信I/F35は、外部装置との間で情報の送受を可能にするデバイスであり、
図1に示すシステム構成例においては、通信ネットワーク25を介して需給管理システム11及び各分散電源21との間で各種情報の送受を行う。ユーザI/F36は、ユーザ(分散電源制御システム12の管理者等)による入力操作の受付、ユーザに対する情報の出力等を可能にするデバイスであり、例えば、キーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル機構、ディスプレイ、スピーカ、マイク等であり得る。CPU31、RAM32、ROM33、補助記憶装置34、通信I/F35、及びユーザI/F36は、バス37を介して接続されており、互いに情報の送受が可能となっている。
【0017】
なお、
図2に示した構成は一例であり、分散電源制御システム12のハードウェア構成は上記に限定されるものではない。
【0018】
<分散電源制御システムの機能構成>
図3は、実施形態に係る分散電源制御システム12の機能構成の一例を示すブロック図である。本実施形態に係る分散電源制御システム12は、出力配分演算部51、制御指令演算部52(演算部)、補正部53、及び記憶部54を有する。これらの機能部51~54は、
図2に示すような分散電源制御システム12のハードウェア構成要素31~37、ROM33や補助記憶装置34に記憶されたプログラム等の協働により実現される。
【0019】
出力配分演算部51は、需給管理システム11等から出力されるシステム指令値rsと、所定の運用順位(メリットオーダー)を示す運用順位情報61とに基づき、複数の分散電源21の出力配分を示す基準出力指令値r1~rNr(以下、これらの値を総称してriと記載する場合がある。)を生成する。システム指令値rsは、複数の分散電源21の各出力を合計したシステム出力値ysの目標値を示す「システム目標値」の一例である。運用順位とは、所定の基準(例えば、運用コスト、環境負荷等)に基づき定められる運用上の優先順位である。
【0020】
また、出力配分演算部51は、
図3に示すように、分散電源21の出力を変動させる要因に関する出力変動情報f
rを更に考慮して基準出力指令値r
iを演算してもよい。出力変動情報f
rは、例えば、太陽光発電、風力発電等に影響を与える天候に関する情報等であり得る。このような出力変動情報f
rを考慮することにより、天候等の状況に応じて各分散電源21に対する出力配分を適切に設定することが可能となる。なお、基準出力指令値r
iは、出力変動情報f
rがなくても演算され得るものである。
【0021】
制御指令演算部52は、出力配分演算部51により生成された基準出力指令値riと、各分散電源21の実際の出力を示す分散電源出力値y1~yNr(以下、これらの値を総称してyiと記載する場合がある。)と、分散電源21毎の発電特性を示す分散電源特性情報62とに基づき、システム出力値ysの予測値を示すシステム予測値yeを演算する。また、制御指令演算部52は、システム指令値rsとシステム予測値yeとの差が小さくなるように、各分散電源21の出力の目標値を示す制御指令値u1~uNr(以下、これらの値を総称してuiと記載する場合がある。)を所定の制御周期毎に演算する。
【0022】
分散電源特性情報62は、例えば、出力要求に対する応答性を示す応答性情報、出力変化の制約を示す出力変化制約情報、出力の上限値を示す最大出力情報、出力の下限値を示す最小出力情報等を含む情報であり得る。
【0023】
制御指令値uiの具体的演算方法は特に限定されるべきものではないが、例えば、制御指令演算部52は、システム出力値ysがシステム指令値rsに達するまでのシステム出力値ysの所定の経時変化を示す目標軌道と、システム予測値yeの経時変化を示す予測軌道との差が所定範囲内となるように、各制御指令値uiを演算してもよい。また、制御指令演算部52は、上記出力変動情報frを更に考慮して制御指令値uiを演算してもよい。
【0024】
補正部53は、各分散電源21の実際の出力(分散電源出力値yi)と、分散電源特性情報62に基づき演算される分散電源予測値ye1~yeNr(以下、これらの値を総称してyeiと記載する場合がある。)との差が小さくなるように、制御指令演算部52が演算した制御指令値uiを補正する。分散電源予測値yeiは、分散電源特性情報62に含まれる各分散電源21の発電特性に基づき演算される各分散電源21の出力の予測値である。補正部53は、制御指令値uiを所定の補正周期毎に補正し、補正後の制御指令値u1´~uNr´(以下、これらの値を総称してui´と記載する場合がある。)を各分散電源21に出力する。補正周期は、制御指令演算部52が制御指令値uiを演算する周期である制御周期以下の期間である。
【0025】
補正部53は、必ずしも全ての分散電源21に対して備えられていなくてもよい。例えば、制御指令演算部52が生成した制御指令値uiに対して安定して早い応答が可能な分散電源21については、補正部53が備えられていなくてもよい。
【0026】
記憶部54は、分散電源制御システム12の機能を実現するための各種データを記憶し、本実施形態においては運用順位情報61及び分散電源特性情報62を記憶している。
【0027】
なお、
図3に示した構成は一例であり、分散電源制御システム12の機能構成は上記に限定されるものではない。
【0028】
<基準出力指令値r
iの演算>
図4を参照して出力配分演算部51の処理例を説明する。出力配分演算部51は、システム指令値r
sの更新に合わせて、基準出力指令値r
iを更新し、更新された基準出力指令値r
iを制御指令演算部52に出力する。
【0029】
図4は、実施形態に係る基準出力指令値r
iの一例を示す図である。
図4に示すグラフの横軸はシステム出力値y
sに対応し、縦軸は運用コスト(単位電力量あたりのコスト)に対応している。
図4に示す例では、第5分散電源21-5、第4分散電源21-4、第3分散電源21-3、第2分散電源21-2、第1分散電源21-1の順に運用コストが低く(運用順位が高く)なっている。このような場合、横軸上に各分散電源21-1~21-5の最大出力値ymax
1~ymax
5を運用コストが低い順に配列し、これらの最大出力値ymax
1~ymax
5の合計がシステム指令値r
sに達する点Xに基づき各分散電源21-1~21-5の基準出力指令値r
1~r
5を決定する。
図4に示す例では、r
5=y
max5、r
4=y
max4、r
3=y
max3、r
2=r
s-r
5-r
4-r
3(r
2≦y
max2)、r
1=0となる。ここで、r
2が第2分散電源21-2の最小出力値より小さくなる場合には、r
2を当該最低出力値に一致させる。また、第2分散電源21-2が運用可能な出力帯が連続でなく離散的である場合には、繰り上げた出力帯をr
2とする。
【0030】
<制御指令値u
iの演算>
図5及び
図6を参照して制御指令演算部52の処理例を説明する。
【0031】
図5は、実施形態に係る分散電源特性情報62の一例を示す図である。本実施形態に係る制御指令演算部52は、分散電源特性情報62に基づき、各分散電源21の出力の目標値を示す制御指令値u
iを生成する。ここで例示する分散電源特性情報62は、第1分散電源21-1~第5分散電源21-5のそれぞれについての発電特性を示すものである。本例では、第1分散電源21-1が蓄電池であり、第5分散電源21-5が太陽光発電施設である。ここで例示する分散電源特性情報62は、状態空間モデル情報65、最大出力変化速度情報66、出力上下限情報67、及び運用順位情報68を含む。状態空間モデル情報65は、出力要求に対する応答性を示す応答性情報の一例である。最大出力変化速度情報66は、出力変化の制約を示す出力変化制約情報の一例である。
【0032】
状態空間モデル情報65は、例えば、下記式(1)及び(2)の1入力1出力の離散時間状態空間モデルで表現される。下記において、kは制御周期に一致した離散時間のステップを示し、xMi(k)は状態変数を示し、ui(k)は制御指令値を示す。
【0033】
【0034】
【0035】
最大出力変化速度情報66は、例えば、下記式(3)で表現される。
【0036】
【0037】
出力上下限情報67、例えば、下記式(4)で表現される。
【0038】
【0039】
状態空間モデル情報65は、例えば、分散電源21へのステップ制御指令に対する出力応答から同定する。制御指令に対して無視できない通信遅延がある場合は、その状態空間モデルにむだ時間のモデルを加えてよい。分散電源21の出力応答特性が式(1)及び(2)の状態空間モデルのみで表現できる場合は、最大出力変化速度Δymaxiを大きい値とする。一方、最大出力変化速度Δymaxiのみで表現できる場合は、式(1)及び(2)の状態空間モデルは時定数の小さい一次遅れモデルとする。分散電源特性情報62は、オフライン状態において予め構築されていることが好ましい。
【0040】
図6は、実施形態に係る制御指令値u
iの経時変化の一例を示す図である。
図6中、上部に位置するグラフは、目標軌道101と予測軌道102との関係を例示している。目標軌道101は、システム出力値y
sがシステム指令値r
s(システム指令値r
sに近接した定常状態を含む)に達するまでのシステム出力値y
sの所定の経時変化を示している。目標軌道101は、ユーザにより任意に設定され得るものであるが、例えば、電力システム1に求められる応答性に基づくシステム出力値ysの理想的な経時変化を示す軌道等であり得る。
図6に例示する目標軌道101は、システム出力値y
sが所定の時定数τに基づきシステム指令値r
sに達するまでの軌道である。時定数τは、所望する応答速度等に応じて任意に設定され得るものである。例えば、早い応答速度が必要な場合には時定数τを比較的小さい値とし、それほど早い応答速度が必要でない場合には時定数τを比較的大きい値とすればよい。予測軌道102は、分散電源特性情報62に基づき演算されるシステム出力値y
sの予測値であるシステム予測値y
eの経時変化を示している。
【0041】
図6中、下部に位置するグラフは、第1分散電源21-1~第5分散電源21-5のそれぞれに対する制御指令値u
1~u
5の経時変化を例示している。本実施形態に係る制御指令値u
1~u
5は、上述した各基準出力指令値r
1~r
5を分散電源特性情報62(分散電源21-1~21-5毎の発電特性)に基づき修正した値であると言える。各制御指令値u
1~u
5は、システム指令値r
sとシステム予測値y
e(予測軌道102上の値)との差が小さくなるように、制御周期Δt毎に(制御ステップk,k+1,k+2,k+3,k+4,k+5,…毎に)演算される。
図6に示す例においては、各制御指令値u
1~u
5は、目標軌道101と予測軌道102との差ΔVが所定範囲内となるように演算される。
【0042】
上述したように、本実施形態においては、第1分散電源21-1に対応する基準出力指令値r
1は0であり(
図4参照)、第2分散電源21-2に対応する基準出力指令値r
2はr
s-r
5-r
4-r
3である。しかし、
図6に示す例においては、起動初期時に相当する制御ステップk~k+4において、第1分散電源21-1に対応する制御指令値u
1が基準出力指令値r
1(0)より大きい値となっており、第2分散電源21-2に対応する制御指令値u
2が基準出力指令値r
2より大きい値となっている。これは、各分散電源21の発電特性に応じて各分散電源21の出力配分を調整した結果である。すなわち、
図6に示す例においては、第2分散電源21-2及び第3分散電源21-3の出力応答性が比較的低いことによる起動初期時における出力不足を補うために、運用順位が低くとも出力応答性が比較的高い第1分散電源21-1に出力させている。すなわち、本実施形態によれば、運用順位に基づき設定された基準出力指令値r
iが、分散電源21毎の発電特性に起因する問題を回避するように修正され、その結果として各制御指令値u
iが生成される。これにより、互いに異なる発電特性を有する複数の分散電源21を利用する電力システム1の出力制御を高精度で行うことが可能となる。
【0043】
システム予測値yeを算出する予測ステップ数をh、時定数をτ、制御ステップkに対応するシステム指令値をrs(k)、制御ステップkに対応するシステム出力値をys(k)とすると、目標軌道rsf(k+j)(j=1,…,h)は、制御周期Δt毎に下記式(5)から算出される。
【0044】
【0045】
次に、式(1)及び(2)で示される分散電源21の状態空間モデルを用いて、次の状態変数ベクトルをX、制御入力ベクトルをU、出力変数ベクトルをYとする、下記式(6)~(10)で示される拡大状態空間モデルを構築する。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
評価関数を下記式(11)及び(12)で定義する。
【0052】
【0053】
【0054】
ここで、Q,Rは、それぞれ出力ベクトルYの目標値ベクトルYrefへの追従偏差に対する重み、制御入力差ΔU分に対する重みである。
【0055】
式(6)及び(7)の状態空間モデルに関して、式(3)及び(4)の制約下で、式(11)の評価関数JをΔUについて最小化する問題は、線形制約付き二次計画問題であり、最小化する制御入力ベクトルΔU*は、一般に知られる凸最適化法のアルゴリズムで求められる。これより下記式(13)のとおり分散電源21の制御指令値ui(i=1,…,Nr)を算出する。
【0056】
【0057】
フィードバックする分散電源出力値yi(k)から、分散電源21の状態変数xi(k)を算出できない場合は、当該分散電源21の別の計測情報をフィードバックして利用してよい。また、オブザーバでyi(k)からxi(k)を推定してもよい。
【0058】
<制御指令値u
iの補正>
図7及び
図8を参照して、補正部53の処理例を説明する。
【0059】
図7は、実施形態の第1補正部53-1の構成の一例を示すブロック図である。ここでは第1分散電源21-1に備えられる第1補正部53-1について説明するが、他の補正部53-2~53-nについても同様である。第1補正部53-1は、制御指令演算部52から出力された制御指令値u
1を補正し、補正後の制御指令値u
1´を第1分散電源21-1に出力する。第1補正部53-1は、第1分散電源21-1の実際の出力値(フィードバック値)である分散電源出力値y
1と、分散電源特性情報62に基づき演算される第1分散電源21-1の出力の予測値である分散電源予測値y
eiとの差分に基づき、制御指令値u
1を制御指令値u
1´に補正する。
【0060】
図7に例示する第1補正部53-1は、分散電源モデル71及び補正制御器72を有する。分散電源モデル71は、制御指令演算部52から出力された制御指令値u
1と、分散電源特性情報62に含まれる第1分散電源21-1の発電特性を示す情報とに基づき、第1分散電源21-1の出力の予測値である分散電源予測値y
e1を演算する。補正制御器72は、第1分散電源21-1から出力された分散電源出力値y
1と、分散電源モデル71により演算された分散電源予測値y
e1との比較結果に基づき、y
1とy
e1との差(モデル誤差)が小さくなるように、制御指令値u
1の補正量を所定の補正周期毎にオンライン(リアルタイム)で算出する。
【0061】
分散電源モデル71は、モデル誤差の範囲や分散電源予測値yeiの変動範囲の大きさを示す重み関数Wi(s)を用い、下記式(14)~(16)に示すロバスト安定性の条件を満たすように、補正制御器Ki(s)を設定する。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
上記のように、制御指令値uiを分散電源21毎に補正することにより、各分散電源21のモデル誤差や特性変動の影響を十分に低減することができる。
【0066】
図8は、実施形態に係る補正前後の制御指令値u
1,u
1´と補正前後の分散電源出力値y
1,y
1´との関係の一例を示す図である。
図8中、下部に位置するグラフには、第1分散電源21-1に対する補正前の制御指令値u
1及び補正後の制御指令値u
1´の経時変化が例示されている。
図8中、上部に位置するグラフには、第1分散電源21-1の補正前の分散電源出力値y
1及び補正後の分散電源出力値y
1´の経時変化が例示されている。
【0067】
図8には、制御指令値u
1を補正しないと分散電源出力値y
1が目標値(分散電源予測値y
e1)より大きくなってしまう場合が例示されている。このような場合、下部のグラフに示されるように、制御指令値u
1は補正周期Δq毎に小さくするように補正され、第1分散電源21-1は補正後の制御指令値u
1´に基づき制御される。これにより、補正後の分散電源出力値y
1´は、補正前の分散電源出力値y
1より目標値に近づくこととなる。補正周期Δqは、制御指令値u
1を演算する制御周期Δt以下の期間である。
【0068】
上記のように、制御指令値uiは、分散電源21の実際の出力値(分散電源出力値yi)と分散電源特性情報62とに基づき補正される。換言すれば、制御指令値uiは、分散電源特性情報62を利用して生成された後、更に、分散電源特性情報62を利用して補正される。これにより、複数の分散電源21を利用する電力システム1の出力制御の精度を更に向上させることが可能となる。
【0069】
<全体的動作例>
【0070】
図9は、実施形態に係る制御指令値u
iとシステム出力値y
sとの関係の一例を示す図である。
図9の第1段目(最上部)に位置するグラフは、システム指令値r
s及びシステム出力値y
sの経時変化を例示している。
図9の第2段目~第6段目のグラフは、第1分散電源21-1~第5分散電源21-5のそれぞれについて、基準出力指令値r
1~r
5、制御指令値u
1~u
5(補正後の制御指令値u
1´~u
5´を含む)、及び分散電源出力値y
1~y
5(補正後の分散電源出力値y
1´~y
5´を含む)の経時変化を例示している。以下、「制御指令値」は、上記補正部53による補正が行われた場合には補正後の制御指令値u
1´~u
5´を示し、補正が行われなかった場合には補正前の制御指令値u
1~u
5を示すものとする。また、「分散電源出力値」は、上記補正部53による補正が行われた場合には補正後の分散電源出力値y
1´~y
5´を示し、補正が行われなかった場合には補正前の分散電源出力値y
1~y
5を示すものとする。
【0071】
図9に示す例は、第2分散電源21-2及び第3分散電源21-3の出力応答性が比較的低く、第3分散電源21-3の出力応答速度に制約があり、第4分散電源21-4に通信むだ時間がある場合におけるシミュレーション結果である。例えば、
図5に示すように、第2分散電源21-2の時定数が30sであり、第3分散電源21-3の時定数が20sであり、第3分散電源21-3の最大出力変化速度が0.5%/sであり、第4分散電源21-4の入力むだ時間が40sである場合である。
【0072】
図9の第1段目のグラフにおいて、5minの時点でシステム指令値r
sが2000kWから4000kWに増加し、システム出力値y
sがこれに追従するように徐々に増加し、10minまでの間にシステム指令値r
sに到達することが示されている。
【0073】
第4~第6段目のグラフに示されるように、5min~10minの期間において、第3分散電源21-3~第5分散電源21-5の基準出力指令値r3~r5が高い値に設定されている。なお、第5分散電源21-5は太陽光発電であるため、基準出力指令値r5は常時最大値に設定されている。また、第2段目及び第3段目のグラフに示されるように、5min~10minの期間において、第1分散電源21-1及び第2分散電源21-2の基準出力指令値r1,r2が略0となっている。このような基準出力指令値r1~r5は、上述したように、各分散電源21の運用順位(運用コスト等)に基づいて設定される。すなわち、各分散電源21の出力の目標値を運用順位に基づき設定する段階においては、運用順位が比較的高い第3分散電源21-3~第5分散電源21-5の出力のみでシステム指令値rsを得るように設定される。
【0074】
また、第4~第6段目のグラフに示されるように、5min~10minの期間において、第3分散電源21-3~第5分散電源21-5の制御指令値u
3~u
5が基準出力指令値r
3~r
5に追従するように変化している。その結果、第3分散電源21-3~第5分散電源21-5の分散電源出力値y
3~y
5が制御指令値u
3~u
5に追従するように増加している。このとき、各分散電源21-3~21-5の出力応答性(
図5に示す時定数等)に起因して、上述したように、基準出力指令値r
3~r
5と制御指令値u
3~u
5との間に差が生じる。本例では、高い出力応答性を有する第5分散電源21-5については、基準出力指令値r
5と制御指令値u
5との間に差はほとんど生じていない。しかし、出力応答性が比較的低い第3分散電源21-3及び第4分散電源21-4については、基準出力指令値r
4,r
5と制御指令値u
4,u
5との間に比較的大きな差が生じている。このような分散電源21-3,21-4の出力応答性に起因する出力遅延は、電力システム1全体の制御性を低下させる要因となる。
【0075】
第2段目及び第3段目のグラフには、5min~10minの期間において、第1分散電源21-1及び第2分散電源21-2の基準出力指令値r1,r2が0又は略0であるにもかかわらず、制御指令値u1,u2が増加していることが示されている。これは、上記制御指令演算部52の処理によるものである。すなわち、制御指令演算部52は、基準出力指令値r1~r5と分散電源特性情報62とに基づき演算したシステム予測値yeと、システム指令値rsとの差が小さくなるように、制御周期Δt毎に各分散電源21-1~21-5に対する制御指令値u1~u5を演算する。このような処理により、第3分散電源21-3及び第4分散電源21-4の出力遅延を補うように、第1分散電源21-1及び第2分散電源21-2に対する制御指令値u1,u2が設定される。これにより、第1段目のグラフに示されるように、システム出力値ysが5min以内にシステム指令値rsに追従できる結果となる。また、上述した補正部53による処理を行うことにより、システム出力値ysの制御を更に高い精度で行うことが可能となる。
【0076】
以上のように、本実施形態によれば、互いに異なる発電特性を有する複数の分散電源21を利用するシステム(例えば、マイクログリッド、離島等の電力系統)において、高精度な出力制御を実現することが可能となる。
【0077】
<変形例及び応用例>
【0078】
上記実施形態においては、システム目標値の一例としてシステム指令値r
sが用いられているが、システム目標値はこれに限定されるものではない。例えば、システム目標値は、所定時間経過後に必要となるシステム出力値y
sの予測値を示す需要予測値であってもよい。所定時間は、特に限定されるべきものではないが、十分な予測精度が期待できる時間であることが好ましく、例えば、10分以内であり得る。この場合、制御指令演算部52は、時系列の需要予測値f
d(k+j)(j=1,…,h)から目標軌道(
図6中、101参照)r
sf(k+j)(j=1,…,h)を算出する。需要予測値の時系列と、制御指令演算部52が算出する目標軌道のサンプリング周期とが異なる場合は、需要予測値の時系列を補間して目標軌道を算出する。これにより、所定の精度がある需要予測情報を利用して高精度な出力制御を行うことが可能となる。
【0079】
また、太陽光、風力等の再生エネルギーを利用する出力変動電源のモデルについて、分散電源の出力上限及び出力基準を発電出力予測情報に一致するように逐次に設定することで、出力抑制を可能とする出力変動電源を含めた複数電源による出力調整が可能となる。
【0080】
また、太陽光発電や風力発電の他、水力発電やバイオガス発電を協調して制御することで、再生可能エネルギーを利用したVPP等における柔軟な出力調整が可能となる。
【0081】
また、類似する応答特性を持つ分散電源を協調運用するようにした電源群を1つの分散電源とみなしてもよい。
【0082】
また、多種の分散電源で構成する発電バランシンググループの運用計画をシステム目標値としてもよい。
【0083】
上記実施形態における各種機能を実現するための処理をコンピュータに実行させるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disc)-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R(Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供することが可能なものである。また、当該プログラムは、インターネット等のネットワーク経由で提供又は配布され得るものである。
【符号の説明】
【0084】
1…電力システム、11…需給管理システム、12…分散電源制御システム、21,21-1~21-n…分散電源、25…通信ネットワーク、26…送配電ネットワーク、31…CPU、32…RAM、33…ROM、34…補助記憶装置、35…通信I/F、36…ユーザI/F、37…バス、51…出力配分演算部、52…制御指令演算部、53,53-1~53-n…補正部、54…記憶部、61…運用順位情報、62…分散電源特性情報、65…状態空間モデル情報、66…最大出力変化速度情報、67…出力上下限情報、68…運用順位情報、71…分散電源モデル、72…補正制御器、fr…出力変動情報、ri,r1~rNr…基準出力指令値、rs…システム指令値、ui,u1~uNr…制御指令値、ui´,u1´~uNr´…(補正後)制御指令値、ye…システム予測値、yi,y1~yNr…分散電源出力値、yi´,y1´~yNr´…(補正後)分散電源出力値、ys…システム出力値、Δt…制御周期、Δq…補正周期