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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】原子炉建屋構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240105BHJP
   E04H 5/02 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
E04H9/02 341C
E04H5/02 E
E04H9/02 331A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020100305
(22)【出願日】2020-06-09
(65)【公開番号】P2021195730
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】栗野 治彦
(72)【発明者】
【氏名】兼近 稔
(72)【発明者】
【氏名】中井 武
(72)【発明者】
【氏名】矢口 友貴
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-169895(JP,A)
【文献】特開昭62-095496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
E04H 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底版部と、前記底版部の上に立設された本体部と、前記本体部の上に設けられた屋根部とを有する原子炉建屋と、
前記原子炉建屋の上に被せられた付加構造体と、
を具備し、
前記付加構造体が、弾性支承とダンパを有する制御層を介して前記原子炉建屋の前記屋根部の両側方から支持され、
前記付加構造体の総重量が、前記原子炉建屋の前記底版部より上方の部分の総重量の10%以上であることを特徴とする原子炉建屋構造。
【請求項2】
底版部と、前記底版部の上に立設された本体部と、を有する原子炉建屋と、
前記原子炉建屋の上に被せられた付加構造体と、
を具備し、
前記付加構造体が、弾性支承とダンパを有する制御層を介して前記原子炉建屋から支持され、
前記付加構造体の総重量が、前記原子炉建屋の前記底版部より上方の部分の総重量の10%以上であり、
前記原子炉建屋は、前記本体部の上に設けられた屋根部を有し、
前記付加構造体は、前記屋根部の上に被せられることを特徴とする原子炉建屋構造。
【請求項3】
前記付加構造体は、前記屋根部の側方に配置される側壁部を有し、
前記側壁部は、前記屋根部から外側に向かって複数層の壁体を有し、前記壁体の間に室が設けられることを特徴とする請求項1または請求項2記載の原子炉建屋構造。
【請求項4】
前記側壁部が、前記屋根部の両側に設けられることを特徴とする請求項3記載の原子炉建屋構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉建屋構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子炉建屋は、原子炉圧力容器及び原子炉格納容器を囲うように設けられる建屋本体等から構成され、地震等に対し構造体としての健全性を保つことが重要である。
【0003】
例えば特許文献1では、建屋本体と建屋屋根の間に制震装置を設けて建屋屋根をマスダンパーとして機能させ、地震時に生じる建屋屋根と建屋本体の間の相対変位(動的相互作用)により地震エネルギーを吸収し、地震時の揺れを抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-297854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、原子炉建屋を設計する際に考慮すべき地震力は大きく、原子炉建屋の設計を行う場合には壁の大幅な増厚,建屋幅の増大等により対応せざるを得ない状況となっている。特に沸騰水型原子炉(BWR;Boiling Water Reactor)の場合、燃料取換床より上部の応答が相対的に大きくなり、その傾向は顕著である。
【0006】
この点、特許文献1では建屋屋根の建屋本体に対する相対変位により揺れを低減する手法が開示されているが、一般的に建屋屋根の重量は建屋本体に対して小さくならざるを得ず、マスダンパーである建屋屋根の相対変位により高い制震効果を得るのが難しい構成となっている。
【0007】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、原子炉建屋の揺れを好適に低減できる原子炉建屋構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するための第1の発明は、底版部と、前記底版部の上に立設された本体部と、前記本体部の上に設けられた屋根部とを有する原子炉建屋と、前記原子炉建屋の上に被せられた付加構造体と、を具備し、前記付加構造体が、弾性支承とダンパを有する制御層を介して前記原子炉建屋の前記屋根部の両側方から支持され、前記付加構造体の総重量が、前記原子炉建屋の前記底版部より上方の部分の総重量の10%以上であることを特徴とする原子炉建屋構造である。
第2の発明は、底版部と、前記底版部の上に立設された本体部と、を有する原子炉建屋と、前記原子炉建屋の上に被せられた付加構造体と、を具備し、前記付加構造体が、弾性支承とダンパを有する制御層を介して前記原子炉建屋から支持され、前記付加構造体の総重量が、前記原子炉建屋の前記底版部より上方の部分の総重量の10%以上であり、前記原子炉建屋は、前記本体部の上に設けられた屋根部を有し、前記付加構造体は、前記屋根部の上に被せられることを特徴とする原子炉建屋構造である。
【0009】
本発明では、原子炉建屋と付加構造体の動的相互作用を利用して制震効果を得るにあたり、付加構造体の総重量を原子炉建屋の底版部の上方部分の総重量の10%以上と大重量にすることで、付加構造体の原子炉建屋に対する相対変位によって高い制震効果を得ることができ、地震等が生じた際の原子炉建屋の揺れを好適に低減できる。また、原子炉建屋に被せられる付加構造体は航空機の衝突、竜巻による飛来物の衝突等に対する原子炉建屋の防護としても機能する。
【0010】
加構造体は、前記した従来技術のように原子炉建屋の屋根部の相対変位により制震を行うものでなく、原子炉建屋の屋根部の上に設けられる大重量のものであり、これにより効果的な制震を実現することができる。また第2の発明では、二重屋根構造により航空機の衝突、竜巻による飛来物の衝突等に対して原子炉建屋の防護を好適に行うこともできる。
【0011】
前記付加構造体は、前記屋根部の側方に配置される側壁部を有し、前記側壁部は、前記屋根部から外側に向かって複数層の壁体を有し、前記壁体の間に室が設けられることが望ましい。
付加構造体の側壁は原子炉建屋の防護として機能し、且つ壁体間の室に重大事故に対処する冷却用水源、復水貯蔵槽、非常用電源などの設備を配置することで、付加構造体の重量確保と空間利用を同時に実現することができる。
【0012】
前記側壁部が、前記屋根部の両側に設けられることが望ましい。
これにより、航空機の衝突、竜巻による飛来物の衝突等により一方の側壁部の室に配置した設備の機能が喪失しても、他方の側壁部の室に配置した設備を利用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、原子炉建屋の揺れを好適に低減できる原子炉建屋構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】原子炉建屋構造1を示す図。
図2】原子炉建屋構造1を示す図。
図3】付加構造体4を示す図。
図4】原子炉建屋2の高さと最大変位について示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る原子炉建屋構造1を示す図である。図1に示すように、原子炉建屋構造1は原子炉建屋2、制御層3、付加構造体4等を有し、図2はこれら原子炉建屋2、制御層3、付加構造体4を分解して示す図である。
【0017】
原子炉建屋2は、底版部21、屋根部22、本体部23等を有し、底版部21の上に立設された本体部23の内部に原子炉圧力容器や原子炉格納容器(不図示)が設置される。本体部23の最上階は燃料取換床となっており、その上には屋根部22が設けられる。本実施形態の原子炉建屋2は沸騰水型原子炉(BWR)の建屋であるが、これに限ることはない。
【0018】
ここで、屋根部22の平面における第1の方向(図1、2の左右方向に対応する)の長さは本体部23よりも短い。上記第1の方向と平面において直交する第2の方向(図1、2の紙面法線方向に対応する)の屋根部22の長さは、本体部23と略同じである。以下、上記第1の方向を幅方向、第2の方向を長さ方向というものとする。
【0019】
付加構造体4は、原子炉建屋2に被せるように設けられるコンクリート製の構造体である。図3は付加構造体4の水平断面を示す図であり、図には原子炉建屋2の屋根部22の平面位置も鎖線で表示している。
【0020】
図1図3に示すように、付加構造体4は、側壁部41、妻壁部42、頂板部43等を有し、全体として下面を開放した函型の形状となっている。
【0021】
側壁部41は、付加構造体4の幅方向の両側で、屋根部22の両側方に設けられる。側壁部41の間隔W(図2、3参照)は屋根部22の幅よりやや大きく、各側壁部41は屋根部22から隙間を空けて配置される。
【0022】
側壁部41は、屋根部22から外側に向かって複数層(図の例では2層)の防護壁(壁体)411を有し、これらの防護壁411の下端部同士が床版413によって接続され、防護壁411の間に室412が設けられる。
【0023】
本実施形態では、両側壁部41の室412が、重大事故に対処する冷却用水源として用いられる。しかしながら室412の用途はこれに限らず、重大事故に対処する設備である復水貯蔵槽、非常用電源などを配置することも可能である。
【0024】
妻壁部42は、付加構造体4の長さ方向の両側で、屋根部22の両側方に設けられる。妻壁部42の間隔L(図3参照)は屋根部22の長さよりやや大きく、各妻壁部42は屋根部22から隙間を空けて配置される。
【0025】
頂板部43は、側壁部41および妻壁部42の上部に接続され、屋根部22の上方に配置されるスラブ状の部材である。
【0026】
原子炉建屋2では、立地の条件により航空機の衝突や竜巻による飛来物の衝突など、外部飛来物の衝突に対する防護が必要な場合がある。本実施形態では、上記の付加構造体4の構成により、原子炉建屋2を航空機衝突等に対して防護できる。また2つの室412に同種の設備(本実施形態では重大事故に対処する冷却用水源)を設け、多重性を確保することにより、航空機衝突等により一方の設備の機能が喪失しても、他方の設備を利用することができ、原子炉の安全性が向上する。
【0027】
付加構造体4の側壁部41は、原子炉建屋2の本体部23の幅方向の両端部の上面に設けられた制御層3を介して、原子炉建屋2から支持される。制御層3は弾性支承とダンパを有する。弾性支承は例えば積層ゴムであり、ダンパは例えばオイルダンパであるが、これに限ることはない。
【0028】
原子炉建屋構造1では、地震等が生じた際、制御層3の弾性支承の変形により付加構造体4の原子炉建屋2に対する相対変位が生じ、この相対変位に伴う付加構造体4と原子炉建屋2の間の動的相互作用により原子炉建屋2の揺れが低減される。
【0029】
本実施形態では、付加構造体4の総重量を、原子炉建屋2の底版部21より上方の部分A(図2参照)の総重量の10%以上100%以下と大重量のものとし、より望ましくは30%以上40%以下とする。ここで、付加構造体4の総重量は、付加構造体4に設置される設備等を含む全体の重量である。原子炉建屋2の底版部21より上方の部分Aの総重量も、原子炉建屋2の当該部分Aに配置される設備等を含む全体の重量である。
【0030】
なお、制御層3の変形を過大とすることなく前記の動的相互作用を好適に得るという観点から、付加構造体4の固有周期は、原子炉建屋2の固有周期の1倍を超える3倍以下の値とし、より望ましくは原子炉建屋2の固有周期の1.5倍以上2倍以下とする。また付加構造体4の減衰定数は0.4以上0.5以下とする。ただし固有周期や減衰定数がこれらに限ることはない。
【0031】
図4は、本実施形態の原子炉建屋構造1に検討用の地震動を入力した時の原子炉建屋2の高さと最大変位との関係を示す図である。図4において、高さ0mは底版部21の上面の高さに、高さ40mは制御層3の高さに対応する。
【0032】
この例では、付加構造体4の総重量を原子炉建屋2の底版部21より上方の部分Aの総重量の30%程度とし、付加構造体4の固有周期を原子炉建屋2の2倍程度、減衰定数を0.5程度とした。図4の○で示すデータ点は付加構造体4を被せた場合の原子炉建屋2の高さと最大変位との関係を示し、△で示すデータ点は原子炉建屋2に被せた付加構造体4の高さと最大変位との関係を示す。
【0033】
一方、図4の□で示すデータ点は、付加構造体4を設けない場合の原子炉建屋2の高さと最大変位との関係を示したものであり、原子炉建屋2に付加構造体4を被せた場合、付加構造体4を設けない場合と比較して、原子炉建屋2の最大変位が全ての高さにおいて小さくなる。特に原子炉建屋2の上半部では最大変位が1/2以下となり、原子炉建屋2の揺れを大幅に低減することができる。
【0034】
また、付加構造体4の最大変位は4cm強であることから、制御層3の弾性支承の変形が小さくても十分な制震効果が得られており、付加構造体4の相対変位が建築計画や設備計画に与える影響は小さいことがわかる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態では、原子炉建屋2と付加構造体4の動的相互作用を利用して制震効果を得るにあたり、付加構造体4の総重量を原子炉建屋2の底版部21の上方部分の総重量の10%以上と大重量にすることで、付加構造体4の原子炉建屋2に対する相対変位によって高い制震効果を得ることができ、地震等が生じた際の原子炉建屋2の揺れを好適に低減できる。また制御層3の弾性支承の変形が小さくても十分な制震効果が得られることから、付加構造体4の相対変位が建築計画や設備計画に与える影響も小さい。
【0036】
さらに、本実施形態の付加構造体4は、前記した従来技術のように原子炉建屋の屋根部の相対変位により制震を行うものでなく、原子炉建屋2の屋根部22の上に設けられる大重量のものであり、これにより効果的な制震を実現することができる。また、原子炉建屋2に被せられる付加構造体4は航空機衝突等に対する原子炉建屋2の防護としても機能し、二重屋根構造により航空機の衝突や竜巻による飛来物の衝突等に対して原子炉建屋2の防護を好適に行うことができる。
【0037】
また、原子炉建屋構造1では、付加構造体4の側壁部41が原子炉建屋2の防護として機能し、且つ側壁部41の防護壁411間の室412に重大事故に対処する冷却用水源などの設備を配置することで、付加構造体4の重量確保と空間利用を同時に実現させることができる。
【0038】
さらに、上記の側壁部41は屋根部22の両側に設けられるので、一方の側壁部41の室412の設備が航空機の衝突や竜巻による飛来物の衝突等により機能喪失しても、他方の側壁部41の室412の設備を利用することができる。
【0039】
しかしながら、本発明の原子炉建屋構造が上記の実施形態に限られることはない。例えば付加構造体4の形状、寸法等は必要な重量が得られるように様々に定めることができ、妻壁部42を側壁部41と同様複数層の防護壁による構成とすることも可能である。また側壁部41を一体の壁体により構成し、室412を省略することも可能である。
【0040】
その他、付加構造体4の頂板部43もスラブ状のものに限定されず、例えば三角屋根状のものとしてもよい。また原子炉建屋2の本体部23の一部が地下に埋設されていてもよいし、本体部23の全体が地上に設けられていてもよい。
【0041】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0042】
1:原子炉建屋構造
2:原子炉建屋
3:制御層
4:付加構造体
21:底版部
22:屋根部
23:本体部
41:側壁部
42:妻壁部
43:頂板部
411:防護壁
412:室
413:床版
図1
図2
図3
図4