(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】支保工構造
(51)【国際特許分類】
E02D 17/04 20060101AFI20240105BHJP
E01C 9/10 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
E02D17/04 Z
E01C9/10 A
(21)【出願番号】P 2020106993
(22)【出願日】2020-06-22
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】向井 寿
(72)【発明者】
【氏名】西畑 進二
(72)【発明者】
【氏名】加藤 暢英
(72)【発明者】
【氏名】細尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】岩上 進也
(72)【発明者】
【氏名】中山 絋紀
(72)【発明者】
【氏名】永井 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷澤 史剛
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-247194(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0753021(KR,B1)
【文献】特開2003-147712(JP,A)
【文献】特開2001-152406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 1/00-17/00
E02D 17/04
17/08
29/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土留め壁の間で地盤を掘削する際に用いられる土留め壁の支保工構造であって、
地盤の掘削部の上方に配置される覆工板を受けるため、土留め壁の間に架け渡される受桁と、
前記受桁の下面に固定された反力受け部材と、
前記土留め壁の内面に固定されたブラケット上で前記土留め壁の内面に設けられた腹起しと、
前記反力受け部材の側方に設けられ、前記土留め壁に作用する地盤の側圧を
前記腹起しから前記反力受け部材に伝達する伝達部と、
を具備
し、
前記反力受け部材は、前記受桁の延伸方向に沿って前記受桁の下面と直交するように配置される板材を、前記受桁の幅方向に複数枚有し、
各板材の上辺が前記受桁の下面に直接溶接
されることを特徴とする支保工構造。
【請求項2】
前記板材は鉛直方向の側辺を有する台形状であり、上辺より下辺が短く、
前記側辺が、前記反力受け部材を前記伝達部に連結するための連結板に固定されたことを特徴とする請求項
1記載の支保工構造。
【請求項3】
前記伝達部としてジャッキが用いられることを特徴とする請求項1
または請求項
2のいずれかに記載の支保工構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留め壁の支保工構造に関する。
【背景技術】
【0002】
道路等の下方の地盤に構造物を構築する方法として、地表から地盤を掘削し、その掘削部に構造物を構築する開削工法がある。施工時は、必要に応じて掘削部の上方に覆工板を配置し、路面の交通を確保する。
【0003】
開削工法では、地盤の掘削予定箇所の両側で土留め壁を設置し、土留め壁の間で地盤の掘削を行う。この際、土留め壁の間に支保工として切梁等を設けることにより、土留め壁の背後の地盤からの側圧に対して土留め壁が支持される(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来の支保工構造では、切梁の本数が多くなることがあり、施工性の低下、コスト増などの問題が生じる。また地下工事を行う際の作業空間も狭くなる。
【0006】
本発明は上記した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、施工性やコスト面で優れた支保工構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するための本発明は、土留め壁の間で地盤を掘削する際に用いられる土留め壁の支保工構造であって、地盤の掘削部の上方に配置される覆工板を受けるため、土留め壁の間に架け渡される受桁と、前記受桁の下面に固定された反力受け部材と、前記土留め壁の内面に固定されたブラケット上で前記土留め壁の内面に設けられた腹起しと、前記反力受け部材の側方に設けられ、前記土留め壁に作用する地盤の側圧を前記腹起しから前記反力受け部材に伝達する伝達部と、を具備し、前記反力受け部材は、前記受桁の延伸方向に沿って前記受桁の下面と直交するように配置される板材を、前記受桁の幅方向に複数枚有し、各板材の上辺が前記受桁の下面に直接溶接されることを特徴とする支保工構造である。
【0008】
本発明では、土留め壁に作用する地盤の側圧を反力受け部材に伝え、反力受け部材を介して覆工板の受桁に伝達し、受桁により抵抗させることができる。これにより受桁を切梁として機能させ、土留め壁の間に設ける切梁の量を低減でき、施工性およびコスト面で優れ、掘削部内に広い作業空間を確保することができる。
【0009】
本発明の反力受け部材は、前記受桁の延伸方向に沿って前記受桁の下面と直交するように配置される板材を、前記受桁の幅方向に複数枚有し、各板材の上辺が前記受桁の下面に溶接される。例えば、前記板材は鉛直方向の側辺を有する台形状であり、上辺より下辺が短く、前記側辺が、前記反力受け部材を前記伝達部に連結するための連結板に固定される。
反力受け部材は受桁の幅方向に複数枚の板材を有し、これらの板材を受桁に溶接して反力受け部材を受桁に固定することにより、土留め壁に作用する側圧を受桁に伝達するのに必要な溶接長を複数枚の板材で確保でき、受桁の溶接範囲を小さくできる。そのため、受桁の再利用可能部分の長さが増え、受桁の材料を有効利用することができる。また板材を上記の台形状とすることで、反力受け部材を必要最小限の合理的形状とできる。
【0010】
前記伝達部としてジャッキが用いられることが望ましい。
ジャッキの伸縮を調整することにより、土留め壁に作用する地盤の側圧を反力受け部材に好適に伝えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、施工性やコスト面で優れた支保工構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明の実施形態に係る支保工構造1を示す図である。また
図2は
図1の範囲Aを示す図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態では地盤11に一対の土留め壁2が形成され、土留め壁2の間で地盤11を掘削することで掘削部12が形成される。また車両等の通行のため、掘削部12の上方に覆工板13が配置される。
【0016】
土留め壁2は、例えばH形鋼とソイルセメントとで構成されるソイルセメント壁体であるが、土留め壁2が特に限定されることはない。
【0017】
土留め壁2の内面には、土留め壁2の延伸方向(
図1、2の紙面法線方向に対応する)に沿って腹起し3が設けられる。腹起し3には例えばH形鋼が用いられる。腹起し3は、土留め壁2に固定されたブラケット9上に設置され、腹起し3と土留め壁2との間には裏込材31が配置される。
【0018】
地盤掘削時、土留め壁2には背後の地盤11から土圧や水圧が作用する。これらの側圧による土留め壁2の変形を防止するため、本実施形態では土留め壁2の上端付近に支保工構造1が形成される。
【0019】
支保工構造1は、受桁4、反力受け部材5、ジャッキ6等を有する。
【0020】
受桁4は、覆工板13を受ける桁材であり、土留め壁2の頂部の間に架け渡される。本実施形態では受桁4にH形鋼が用いられるが、これに限ることはない。また土留め壁2の背後には受桁4を支持するための桁受け材10等も設置される。
【0021】
反力受け部材5は、受桁4の下面のフランジ41に溶接により固定される。反力受け部材5は、受桁4の設置前に予め受桁4に固定される。
【0022】
ジャッキ6は、反力受け部材5の側方に配置され、土留め壁2に作用する側圧を反力受け部材5に伝達する伝達部としての機能を有する。ジャッキ6の一方の端部は、予め連結ピース7に連結される。ジャッキ6の他方の端部を反力受け部材5に連結するとともに、腹起し3と連結ピース7の間に間詰め材8を配置することで、ジャッキ6の設置が行われる。
【0023】
図3は反力受け部材5を示す図である。
図3に示すように、反力受け部材5は、フランジプレート51とウェブプレート52を有する。
【0024】
フランジプレート51は、反力受け部材5をジャッキ6に連結するための矩形状の連結板であり、受桁4の幅方向(
図3の奥行方向に対応する)に沿って、受桁4のフランジ41に直交するように配置される。フランジプレート51の上辺は溶接によって受桁4の下面のフランジ41に固定される。ジャッキ6とフランジプレート51の連結はボルトやナットを用いて行われ、フランジプレート51にはボルトを通すための孔(不図示)も設けられる。
【0025】
ウェブプレート52は台形状の板材であり、鉛直方向に沿って延びる一方の側辺が、フランジプレート51に溶接等によって固定される。他方の側辺は、上方に行くにつれフランジプレート51から離れるように傾斜する。
【0026】
ウェブプレート52は、受桁4の延伸方向(
図3の左右方向に対応する)に沿って、受桁4のフランジ41に直交するように配置される。ウェブプレート52は、受桁4の幅方向に間隔を空けて複数枚設けられる。
図3の例ではウェブプレート52が3枚設けられるが、ウェブプレート52の枚数は2以上であれば特に限定されない。
【0027】
各ウェブプレート52の下辺は上辺より短くなっており、各ウェブプレート52の上辺がフランジ41の下面に溶接される。溶接については、例えばウェブプレート52の上辺の隅肉溶接が行われる。
【0028】
支保工構造1では、両土留め壁2に作用する地盤11からの側圧を、腹起し3からジャッキ6を介して反力受け部材5に伝え、反力受け部材5の受桁4への溶接範囲d(
図1、2参照)のせん断力として受桁4に伝達させ、受桁4により抵抗させる。これにより、受桁4が土留め壁2の変形を防止する最上段の切梁として機能する。
【0029】
土留め壁2の下部では他の切梁も設置されるが、本実施形態のように受桁4を切梁として利用することで、土留め壁2の間の切梁を一部省略して切梁の間隔を広げることが可能となり、施工性やコスト面で優れ、掘削部12に広い作業空間を確保することができる。また土留め壁2に作用する側圧を反力受け部材5に伝達する伝達部としてジャッキ6を用いることで、ジャッキ6の伸縮の調整により好適に側圧の伝達を行うことができる。
【0030】
しかしながら、本発明が上記の実施形態に限られることはない。例えば土留め壁2に作用する側圧を反力受け部材5に伝達する伝達部の構成は、側圧を伝達できれば特に限定されない。
【0031】
また反力受け部材5の構成も特に限定されず、土留め壁2に作用する側圧を受桁4に伝達できるものであればよい。例えば
図4の支保工構造1aの反力受け部材5aに示すように、エンドプレート51aにH形鋼52aを設けたものであってもよい。
【0032】
エンドプレート51aは、反力受け部材5aをジャッキ6に連結するための連結板であり、前記したフランジプレート51と略同様の構成を有する。
【0033】
H形鋼52aは、その軸方向が受桁4の延伸方向に沿って延びるように配置される。H形鋼52aの軸方向の一端はエンドプレート51aに固定され、H形鋼52aの上面のフランジ53は受桁4の下面のフランジ41に溶接して固定される。なお、
図4の例では前記の連結ピース7と間詰め材8が省略されており、ジャッキ6の反力受け部材5aと反対側の端部は腹起し3に直接連結される。
【0034】
これによっても、土留め壁2に作用する側圧を受桁4に伝達して受桁4を最上段の切梁として機能させることができる。ただしこの場合、土留め壁2に作用する側圧を受桁4に伝達するのに必要な反力受け部材5aの溶接長を、1個のH形鋼52aで確保する必要があり、溶接範囲dが長くなる。
【0035】
この点では、
図3のように複数枚のウェブプレート52により必要な溶接長を確保し、ウェブプレート52一枚当たりの溶接長を短くして溶接範囲dを小さくできる前記の反力受け部材5の方が優れており、受桁4の再利用可能部分(
図1の溶接範囲dの内側の部分)の長さが増え、受桁4の材料を有効利用することができる。またウェブプレート52を前記の台形状とすることで、反力受け部材5を必要最小限の合理的形状とできる。
【0036】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0037】
1、1a:支保工構造
2:土留め壁
4:受桁
5、5a:反力受け部材
6:ジャッキ
11:地盤
12:掘削部
13:覆工板
41、53:フランジ
51:フランジプレート
51a:エンドプレート
52:ウェブプレート
52a:H形鋼