(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
B62D 1/18 20060101AFI20240105BHJP
B62D 1/184 20060101ALI20240105BHJP
B62D 1/187 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B62D1/18
B62D1/184
B62D1/187
(21)【出願番号】P 2020163725
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】P 2020041207
(32)【優先日】2020-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 智之
(72)【発明者】
【氏名】和田 竜祈
(72)【発明者】
【氏名】大谷 直矢
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 飛大
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-013688(JP,A)
【文献】特開2011-080606(JP,A)
【文献】特開2014-108721(JP,A)
【文献】特開2013-163460(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102010013522(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/18
B62D 1/184
B62D 1/187
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームと、
前記車体フレームに支持される軸と、
前記軸に沿って揺動可能な状態で前記車体フレームに軸支されるステアリング支持台と、
前記ステアリング支持台に回動可能な状態で支持されるステアリング軸と、
前記ステアリング軸に固定されるステアリングホイールと、
前記ステアリング支持台に設けられる支持部と、
一端に環状部材を有し、前記ステアリング支持台の揺動が許可される解放状態と揺動が禁止される固定状態との間で状態変化するロック機構と、
前記ロック機構を解放状態または固定状態に状態変化させるチルトレバーとを備え、
前記環状部材は、
第1面から前記第1面に対する裏面となる第2面にわたって貫通し、内面が凹状曲面である第1貫通孔と、
前記第1貫通孔内に設けられ、外面が前記第1貫通孔の前記内面に沿う凸状曲面である筒状の球面内輪とを有し、前記球面内輪は、前記第1貫通孔の前記内面に沿って回動および傾斜し、
前記ロック機構は、一端の前記環状部材の前記球面内輪に前記支持部が固定される態様で前記環状部材が前記ステアリング支持台に支持され、他端が前記車体フレームに軸支されると共に前記チルトレバーを支持
し、
前記球面内輪は内面が平滑な第2貫通孔を備え、
前記支持部と前記球面内輪とはボルトにより螺合され、
前記ボルトは前記球面内輪の前記第2貫通孔に挿通され、
前記ボルトの前記第2貫通孔の内面との接触部が平滑で、前記ボルトと前記第2貫通孔の内面とが密着する作業車両。
【請求項2】
車体フレームと、
前記車体フレームに支持される軸と、
前記軸に沿って揺動可能な状態で前記車体フレームに軸支されるステアリング支持台と、
前記ステアリング支持台に回動可能な状態で支持されるステアリング軸と、
前記ステアリング軸に固定されるステアリングホイールと、
前記ステアリング支持台の揺動が許可される解放状態と揺動が禁止される固定状態との間で状態変化し、
一端が前記車体フレームに対して揺動軸芯に沿って揺動可能な状態で支持さ
れ、他端が前記ステアリング支持台に支持されるロック機構と、
前記揺動軸芯において、前記車体フレームと前記ロック機構との間に設けられる弾性体と、
前記ロック機構を解放状態または固定状態に状態変化させるチルトレバーとを備える作業車両。
【請求項3】
前記弾性体は、1または複数の皿ばねである請求項
2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記ロック機構はダンパである請求項1から
3のいずれか一項に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中の操舵操作が可能な作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように、UV(Utility Vechicle)等の作業車両は、走行する際に、ハンドル(ステアリングホイール)等による操舵操作が行われる。操作性が快適となる位置に調整するため、チルト機構が備わったハンドルがある。このようなハンドルは、ハンドルの回転軸に交差する軸(チルト軸)周りに位置調整されることが可能で、運転者に対する距離や高さが調整されることにより、運転者が操作する際に快適な位置に調整される。
【0003】
チルト機構は、操作レバー(チルトレバー)と、ロック機能付きのガスシリンダー(ダンパ)とを備える。操作レバーは、ハンドルの位置調整が可能なチルト可能位置と、ハンドルの位置調整が阻止されるチルト不能位置との間で操作される。ガスシリンダーは、一端が機体のフレーム(車体フレーム)に固定され、他端がハンドルを支持するハンドル支持台(ステアリング支持台)にボールジョイント等を介して揺動可能な状態で支持される。ガスシリンダーを、ボールジョイントを介して支持することにより、ガスシリンダーの組付けが容易となる。操作レバーがチルト不能位置に操作された際にはロック機能が機能してハンドルの位置調整が阻止され、操作レバーがチルト可能位置に操作された際にはロック機能が解除されてハンドルの位置調整が許容される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガスシリンダー(ダンパ)の他端はハンドル支持台(ステアリング支持台)に揺動可能な状態で支持されるため、支持部分にガタが生じる場合がある。また、ガスシリンダー(ダンパ)の一端は、チルト時の揺動抵抗が大きくなることを抑制するために、車体フレームとの間に隙間が設けられており、この隙間によって支持部分にガタが生じる場合がある。支持部分に生じたこれらのガタはハンドル部分では増幅される。増幅度合は、支持部分とチルト軸との距離に対する、ハンドル(ステアリングホイール)とチルト軸との距離の比に応じたリンクで決まる。そのため、支持部分のガタに起因してハンドルに大きなガタが生じ、ハンドルの操作性が阻害される場合がある。そのため、ダンパとステアリング支持台または車体フレームとを低抵抗で揺動可能な状態で支持しながら、ステアリングホイールに生じるガタを抑制して、ステアリングホイールの操作性を良好にすることが求められている。
【0006】
本発明は、良好な操作性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る作業車両は、車体フレームと、前記車体フレームに支持される軸と、前記軸に沿って揺動可能な状態で前記車体フレームに軸支されるステアリング支持台と、前記ステアリング支持台に回動可能な状態で支持されるステアリング軸と、前記ステアリング軸に固定されるステアリングホイールと、前記ステアリング支持台に設けられる支持部と、一端に環状部材を有し、前記ステアリング支持台の揺動が許可される解放状態と揺動が禁止される固定状態との間で状態変化するロック機構と、前記ロック機構を解放状態または固定状態に状態変化させるチルトレバーとを備え、前記環状部材は、第1面から前記第1面に対する裏面となる第2面にわたって貫通し、内面が凹状曲面である第1貫通孔と、前記第1貫通孔内に設けられ、外面が前記第1貫通孔の前記内面に沿う凸状曲面である筒状の球面内輪とを有し、前記球面内輪は、前記第1貫通孔の前記内面に沿って回動および傾斜し、前記ロック機構は、一端の前記環状部材の前記球面内輪に前記支持部が固定される態様で前記環状部材が前記ステアリング支持台に支持され、他端が前記車体フレームに軸支されると共に前記チルトレバーを支持し、前記球面内輪は内面が平滑な第2貫通孔を備え、前記支持部と前記球面内輪とはボルトにより螺合され、前記ボルトは前記球面内輪の前記第2貫通孔に挿通され、前記ボルトの前記第2貫通孔の内面との接触部が平滑で、前記ボルトと前記第2貫通孔の内面とが密着する。
【0008】
ロック機構は車体フレームに支持され、ステアリングホイールのチルト動作に伴って、ロック機構の一端の環状部材でステアリング支持台に対して揺動し、ロック機構の他端で車体フレームに対して揺動する。また、ロック機構は、両端がそれぞれステアリング支持台および車体フレームに軸支されるため、ロック機構の取付作業が容易となることが求められる。
【0009】
ロック機構が環状部材でステアリング支持台に軸支されることにより、ロック機構はステアリング支持台に対して軸心を中心に揺動することが可能となると共に、軸心に対して傾斜することが可能となる。そして、ロック機構がステアリング支持台に対して傾斜することが可能であるため、ロック機構の取付が容易となる。
【0010】
さらに、環状部材は、貫通孔の内面と球面内輪の外面とが密着し、球面内輪が支持部に固定されるため、環状部材においてガタが生じることが抑制され、結果的にステアリングホイールに生じるガタが抑制され、ステアリングホイールの操作性が良好となる。
【0011】
【0012】
また、ロック機構の揺動と傾斜が可能であり、環状部材においてガタが生じることが抑制されると共に、環状部材をステアリング支持台に支持することが容易となる。
【0013】
本発明の一実施形態に係る作業車両は、車体フレームと、前記車体フレームに支持される軸と、前記軸に沿って揺動可能な状態で前記車体フレームに軸支されるステアリング支持台と、前記ステアリング支持台に回動可能な状態で支持されるステアリング軸と、前記ステアリング軸に固定されるステアリングホイールと、前記ステアリング支持台の揺動が許可される解放状態と揺動が禁止される固定状態との間で状態変化し、一端が前記車体フレームに対して揺動軸芯に沿って揺動可能な状態で支持され、他端が前記ステアリング支持台に支持されるロック機構と、前記揺動軸芯において、前記車体フレームと前記ロック機構との間に設けられる弾性体と、前記ロック機構を解放状態または固定状態に状態変化させるチルトレバーとを備える。
【0014】
このような構成により、ロック機構が車体フレームに対して揺動する際の抵抗を抑制しながら、ロック機構と車体フレームとの間の隙間を弾性体で埋めることができるため、ロック機構が揺れ動くことを抑制して、ステアリングホイールがガタつくことを抑制することができる。
【0015】
【0016】
また、チルト動作において、ステアリングホイールが、ロック機構およびステアリング支持台と一体となって位置調整され、この際に、ロック機構が車体フレームに対して揺動する際の抵抗を抑制しながら、ロック機構が揺れ動くことを抑制して、ステアリングホイールがガタつくことを抑制することができる。
【0017】
また、前記弾性体は、1または複数の皿ばねであっても良い。
【0018】
このような構成により、皿ばねがつぶれることによって弾性力が発生し、簡易な構成で、ロック機構が車体フレームに対して揺動する際の抵抗を抑制しながら、ロック機構が揺れ動くことを抑制して、ステアリングホイールがガタつくことを抑制することができる。
【0019】
また、前記ロック機構はダンパであっても良い。
【0020】
ダンパを用いることにより、簡単な構成でロック機構を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】チルト機構の要部構成を例示する左断面図である。
【
図4】チルト機構の要部構成を例示する背面断面図である。
【
図7】別実施形態におけるチルト機構の要部構成を例示する左断面図である。
【
図8】別実施形態におけるチルト機構の要部構成を例示する背面断面図である。
【
図9】ダンパの支持部分に隙間が残る構成を例示する図である。
【
図10】ダンパの支持部分に皿ばねを備えるチルト機構の構成を例示する要部斜視図である。
【
図11】ダンパの支持部分に皿ばねを備える構成を例示する図である。
【
図12】ダンパの支持部分に皿ばねを備える構成を例示する分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の作業車両について、多目的作業車(UV)を例として図面に基づいて説明する。
【0023】
なお、以下の説明では、多目的作業車の走行車体に関し、
図1に示される矢印Fの方向を「車体前方」、矢印Bの方向を「車体後方」、矢印Uの方向を「車体上方」、矢印Dの方向を「車体下方」、紙面表側の方向を「車体左方」、紙面裏側の方向を「車体右方」とする。
【0024】
〔多目的作業車の全体の構成〕
図1に示すように、多目的作業車は、走行装置として、操向可能かつ駆動可能な左右一対の前輪1、および、駆動可能な左右一対の後輪2を備える。多目的作業車は、前輪1と後輪2との間に運転部7を備える。運転部7は、運転座席5、前輪1を操向操作するステアリングホイール6を備える。運転部7には、搭乗空間を覆うロプス8が設けられる。多目的作業車は、車体フレーム3の後部に荷台9を備える。多目的作業車は、荷台9の下方にエンジン4を備え、エンジン4の動力が前輪1および後輪2に伝達されることにより走行を行う。
【0025】
〔運転パネル〕
図1,
図2に示すように、運転部7の運転座席5の前方には運転パネル11が設けられる。運転パネル11には、ステアリングホイール6、ステアリングホイール6をチルト操作するチルトレバー25、前進および後進に操作するシフトレバー12、各種情報を表示するモニタ13等が設けられる。
【0026】
〔ステアリングホイール〕
ステアリングホイール6は、運転パネル11から突出するステアリング軸14の端部に固定される。ステアリングホイール6を回転操作すると、ステアリングホイール6の回転動作に伴って、ステアリング軸14は回転する。ステアリング軸14の回転動作に応じて、ステアリングシャフト15(
図4参照)等を介して前輪1の向きが操作され、ステアリングホイール6を操作することにより前輪1の方向を操作して、操向操作を行うことができる。
【0027】
ステアリングホイール6は、運転パネル11に対する高さ位置を調整するチルト操作が可能である。具体的には、ステアリング軸14は、運転パネル11内に位置する車体の左右方向の軸芯周りに揺動可能に軸支され、揺動位置がチルト機構20(
図3参照)によって固定可能な構成である。ステアリングホイール6をチルト動作させる際には、運転者は、チルトレバー25を操作してチルト機構20(
図3参照)によるステアリング軸14の固定を解除した状態(解放状態)で、ステアリングホイール6が固定されたステアリング軸14を揺動させてステアリングホイール6を位置決めし、チルトレバー25を操作してチルト機構20(
図3参照)によってステアリング軸14を固定する(固定状態)。このようにして、運転者は、ステアリングホイール6を好みの位置に調整して、操作性を向上させることができる。
【0028】
〔チルト機構〕
以下、
図3~
図6を用いてチルト機構20の構成について説明する。
【0029】
チルト機構20は、車体フレーム3に支持され、ステアリングホイール6が固定されたステアリング軸14を揺動可能に支持する。チルト機構20は、車体フレーム3に支持されるステー21と、ステアリング支持台22と、ダンパ30と、アーム24とを備える。
【0030】
ステー21は、車体フレーム3ののうちの車体左右方向に設けられた部分に、車体左右方向に並んで固定される2つの左ステー21aと右ステー21bとを備える。また、ステー21は、左ステー21aと右ステー21bとにわたって設けられる軸21cを備える。軸21cは、軸芯方向に沿って回転可能である。
【0031】
ステアリング支持台22は、軸21cに固定され、ステー21に対して軸21cと共に軸21cの軸芯周りに揺動可能に支持される。ステアリング支持台22は、ステアリングホイール6が固定されたステアリング軸14を支持する。そのため、ステアリングホイール6およびステアリング軸14はステアリング支持台22の軸21cの軸芯周りに揺動可能である。
【0032】
上述のように、チルト機構20はダンパ30を備える。ダンパ30は、ステアリング支持台22をステー21に固定してステアリング支持台22の揺動を禁止する固定状態と、ステー21に対してステアリング支持台22が揺動することが許可される解放状態とに状態変化するロック機構である。チルトレバー25は、ダンパ30を固定状態と解放状態との間で状態変化させる。
【0033】
ダンパ30は、一端が左ステー21aに揺動可能な状態で軸支され、他端がステアリング支持台22に揺動可能な状態で軸支される。
【0034】
ダンパ30の一端にはアーム支持部26が設けられ、アーム支持部26が左ステー21aに揺動可能な状態で軸支される。アーム支持部26は、貫通孔26aとアーム支持穴26bを有する。左ステー21aには軸21dが設けられ、貫通孔26aに軸21dが貫通する態様で、ダンパ30が左ステー21aに揺動可能な状態で軸支される。軸21dが貫通孔26aから外れないように、ピン21g等により軸21dが保持される。
【0035】
アーム24はL字状のロッドであり、長辺部24aと短辺部24bとからなる。アーム24の短辺部24bはアーム支持穴26bに挿入される。アーム支持穴26bの開口径はアーム24の短辺部24bの太さより大きく、アーム24の短辺部24bはアーム支持穴26b内で上下に揺動可能である。アーム24の長辺部24aには、チルトレバー25が装着される。チルトレバー25は、軸21cを中心に揺動可能な状態で軸支され、後端部分がアーム24の長辺部24aと接続される。後述のように、チルトレバー25を上下方向に揺動させることにより、アーム24の屈曲部を支点にアーム24が上下方向に揺動し、後述のように、アーム24はダンパ30を固定状態と解放状態との間で状態変化させる。
【0036】
ダンパ30の他端にはピロボール27(「環状部材」に相当)が装着される。
図5に示すように、ピロボール27は、第1面から第1面に対する裏面となる第2面にわたって貫通し、内面が凹状曲面である貫通孔27a(「第1貫通孔」に相当)と、貫通孔27a内に設けられ、外面が貫通孔27aの内面に沿う凸状曲面である筒状の球面内輪27bとを有する。球面内輪27bは断面が円形で筒状の貫通孔27c(「第2貫通孔」に相当)を備える。球面内輪27bは、貫通孔27aの内面に沿って貫通方向を中心に回動すると共に貫通方向に対して傾斜することができる。
【0037】
図3,
図4に示すように、ステアリング支持台22はナット状の支持部28を備える。ピロボール27と支持部28とはボルト29によって固定される。支持部28の内面にはメネジが設けられる。ボルト29は、先端部分にオネジが設けられ、基端部分に平滑部が設けられる。平滑部は円筒形状であり、その径は球面内輪27bの貫通孔27cと略一致またはわずかに小さい。ボルト29は、ピロボール27の貫通孔27cおよび支持部28にわたって挿通され、ボルト29は支持部28に螺合される。この時、貫通孔27cとボルトの平滑部が密接する。ピロボール27の球面内輪27bは貫通孔27aの内面に沿って貫通方向を中心に回動すると共に貫通方向に対して傾斜することができるため、ダンパ30はボルト29の軸方向に対して傾斜できると共に回転することができる。
【0038】
このような構成により、ダンパ30は装着された状態でステアリング支持台22に対して回動できると共に、ダンパ30を装着する際には、ダンパ30を傾斜させながら容易に取付することができる。さらに、ピロボール27の貫通孔27aと球面内輪27bとは、密着しながら互いに摺動するため、貫通孔27aと球面内輪27bとの隙間はないに等しい。また、貫通孔27cとボルトの平滑部も密接しているため、貫通孔27cとボルトの平滑部の隙間もないに等しい。その結果、ダンパ30とステアリング支持台22との間のガタは小さくなり、ステアリングホイール6に生じるガタも大きくならず、ステアリングホイール6の操作性が良好となる。
【0039】
チルト機構20は、ダンパ30が伸縮可能な状態では解放状態となり、ダンパ30の伸縮が制限されている状態では固定状態となる。
【0040】
図6に示すように、ダンパ30は、両端部が閉じた筒状のシリンダ31と、シリンダ31内にはめ込まれたピストン32と、一端がピストン32と接続されてシリンダ31の底部31aを貫通するピストンロッド33とを備える。シリンダ31の内部は、ピストン32がシリンダ31内を摺動することにより体積が変わる第1室31Aと第2室31Bとに区画される。ピストンロッド33には操作ロッド32aが挿通されており、操作ロッド32aの一端は第1室31Aに至り、一端の先端に弁体32bが設けられる。
【0041】
ピストン32には第1室31Aと第2室31Bとを連通させるオリフィス34が設けられる。オリフィス34は、操作ロッド32aがダンパ30から引き出される方向に操作されることにより、弁体32bによって第1室31A側の端部が閉塞されて第1室31Aと第2室31Bとの連通が遮断され、操作ロッド32aがダンパ30の内部方向に押し込まれることにより弁体32bがピストン32から離れて第1室31Aと第2室31Bとが連通される。弁体32bがピストン32から離れて第1室31Aと第2室31Bとが連通される状態では、ピストン32はシリンダ31内を摺動可能な状態になり、ダンパ30は伸縮可能な状態となる(
図6の右側の図の状態)。一方、第1室31Aと第2室31Bとの連通が遮断された状態では、第1室31A内の内圧と第2室31B内の内圧とが均衡して、ピストン32はシリンダ31内を摺動できない状態となり、ダンパ30の伸縮は制限される(
図6の左側の図の状態)。
【0042】
図3,
図6に示すように、操作ロッド32aの弁体32bが設けられた一端に対する他端は、アーム支持部26のアーム支持穴26bに至り、アーム支持穴26bに挿入されるアーム24に支持される。アーム24は、チルトレバー25の操作位置に応じて揺動する。この時、アーム24は、アーム支持穴26b内でアーム24の先端とアーム支持部26とが接する部分を支点として揺動する。そして、アーム24は操作ロッド32aと接するため、操作ロッド32aはアーム24の揺動に応じて、ピストンロッド33およびピストン32に対して抜き差しされ、弁体32bはオリフィス34を開閉する。その結果、チルトレバー25を操作することにより、弁体32bがオリフィス34を開閉することを制御し、ダンパ30の伸縮の可否が制御され、チルト機構20は、解放状態と固定状態との間で状態変化する。
【0043】
以上のように、チルトレバー25を操作してチルト機構20を解放状態にしてステアリングホイール6の位置を調整し、チルトレバー25を操作してチルト機構20を固定状態にしてステアリングホイール6を位置決め固定することができる。チルト機構20が解放状態となると、ダンパ30の伸縮が許容され、ステアリングホイール6を位置調整するチルト動作が可能となる。チルト動作の際に、ダンパ30は、軸21dの軸芯を揺動中心として揺動する。また、ダンパ30は、支持部28のボルト29の軸芯を回転中心としてステアリング支持台22に対して回動する。そして、軸21dの軸芯を揺動軸芯として、ダンパ30およびステアリング支持台22が揺動することにより、ステアリングホイール6の位置調整が行われる。
【0044】
〔別実施形態〕
(1)ダンパ30とチルトレバー25との支持構成は、上記構成に限らず、チルトレバー25でダンパ30の伸縮を制限できる他の構成であっても良い。
【0045】
例えば、
図6,
図7,
図8に示すように、本実施形態に係るチルト機構40において、ダンパ41は、上記実施形態と同様に、シリンダ31と、ピストン32と、ピストンロッド33と、操作ロッド32aと弁体32bと、ピロボール27とを備える。また、ダンパ41は、アーム支持部42を備える。ピロボール27はステー21に支持され、アーム支持部42はステアリング支持台22に支持される。
【0046】
アーム支持部42は、有底円筒状の保持部42aと、チルトレバー43が接続される摺動部42bとを備える。保持部42aはステアリング支持台22に固定される。摺動部42bは、操作ロッド32aと接続され、保持部42aの内面に沿って摺動可能な態様で保持部42aに挿通される。このような構成により、チルトレバー43を操作することにより、摺動部42bが摺動して操作ロッド32aが抜き差しされる。その結果、チルトレバー43は弁体32bの開閉を制御することができ、チルト機構40を解放状態と固定状態との間で状態変化させることができる。
【0047】
(2)上記各実施形態において、
図3,
図4に示すダンパ30のアーム支持部26をステー21に支持する構造、および、
図7,
図8に示すダンパ41のアーム支持部42をステアリング支持台22に支持する構造は、他の構造にすることができる。
【0048】
まず、上記各実施形態における詳細な支持構造を、
図3,
図4に示すダンパ30のアーム支持部26を左ステー21aに支持する構造を例として、
図9を用いて説明する。
【0049】
図9に示すように、左ステー21aには軸21dが設けられ、軸21dは、アーム支持部26の貫通孔26aに挿通される。軸21dは、互いに外径が異なる、基端部21eと挿通部21fとからなる。基端部21eの外径は挿通部21fの外径より大きく、貫通孔26aの内径よりも大きい。また、挿通部21fの外径は基端部21eの外径より小さく、貫通孔26aの内径よりも小さい。そのため、軸21dは、挿通部21fが貫通孔26aに挿通される。軸21dの挿通部21fが貫通孔26aから抜け出さないように、挿通部21fの貫通孔26aから突出した部分にピン21gが設けられる。
【0050】
基端部21eとアーム支持部26とが接すると、ステアリングをチルトさせる際に、アーム支持部26と軸21dとの間に抵抗が生じ、ダンパ30が軸21dに対して揺動する際の抵抗となり、スムーズにチルト動作を行うことができない。そのため、軸21dは、基端部21eとアーム支持部26との間に隙間ができる状態で、アーム支持部26の貫通孔26aに挿通される。
【0051】
ただし、基端部21eとアーム支持部26との間に隙間があると、ダンパ30が軸21dに沿って揺れ動くことにより、ステアリングホイール6がガタつく原因となる。
【0052】
このようにダンパ30が軸21dに沿って揺れ動くことを抑制し、ステアリングホイール6がガタつくことを抑制するために、本実施形態に係るチルト機構20,40では、基端部21eとアーム支持部26との間の隙間に皿ばね70を設ける。
【0053】
以下、本実施形態における支持構造について、
図3,
図4に示すダンパ30のアーム支持部26を左ステー21aに支持する構造を例として、
図10~
図12を用いて説明する。なお、
図11において、皿ばね70の拡大断面が合わせて記載されている。
【0054】
上述のように、ダンパ30のアーム支持部26は左ステー21aに支持される。この際、左ステー21aに設けられる軸21dは、ダンパ30のアーム支持部26に設けられた貫通孔26aに挿通される。軸21dは基端部21eと挿通部21fとからなり、基端部21eの外径は挿通部21fの外径より大きい。また、基端部21eの外径は貫通孔26aの内径より大きく、挿通部21fの外径は貫通孔26aの内径より小さい。そのため、軸21dが貫通孔26aに挿通される際、挿通部21fは貫通孔26aに挿通されるが、基端部21eは貫通孔26aに挿通されない。
【0055】
上述のように、上記各実施形態における支持構造では、アーム支持部26と軸21dとの間に抵抗が生じることを抑制するために、基端部21eとアーム支持部26との間に隙間を設け、基端部21eとアーム支持部26とが接触しないようにしていた。本実施形態では、基端部21eとアーム支持部26との間の隙間を埋める態様で皿ばね70が設けられる。
【0056】
基端部21eとアーム支持部26との間の隙間を皿ばね70で埋めることにより、皿ばね70がつぶれることで生じる弾性力によりアーム支持部26と軸21dとの間の抵抗が抑制され、ダンパ30が軸21dに対して揺動する際の抵抗が抑制される。さらに、基端部21eとアーム支持部26との間に隙間がないため、ダンパ30が軸21dに沿って揺れ動くことが抑制され、ステアリングホイール6がガタつくことが抑制される。
【0057】
皿ばね70は、外縁部70aが反り、穴70bを備える。穴70bの内径は、軸21dの挿通部21fの外径より大きく、基端部21eの外径より小さい。皿ばね70は、基端部21eとアーム支持部26との間に、穴70bに挿通部21fを挿通させる態様で配置される。
【0058】
軸21dには、基端部21e側から順に、皿ばね70とダンパ30のアーム支持部26とが配置される。軸21dに配置された皿ばね70およびアーム支持部26は、ナット71によって位置決めされる。軸21dの挿通部21fの先端領域にはナット71が螺合される螺合部21hが設けられる。螺合部21hに螺合されたナット71と基端部21eとは、皿ばね70およびアーム支持部26を挟み込んで位置決めする。
【0059】
アーム支持部26が左ステー21aに支持される際には、まず、軸21dの挿通部21fが皿ばね70の穴70bに挿通される。次に、軸21dの挿通部21fがアーム支持部26の貫通孔26aに挿通される。最後に、ナット71が軸21dの螺合部21hに螺合される。
【0060】
この際、ナット71と基端部21eとの間に隙間ができないように、ナット71と基端部21eとで皿ばね70およびアーム支持部26が挟み込まれるようにナット71が螺合される。これにより、ダンパ30が軸21dに沿って揺れ動くことが抑制され、ステアリングホイール6がガタつくことが抑制される。
【0061】
また、ナット71と基端部21eとで皿ばね70およびアーム支持部26が挟み込まれることにより、皿ばね70の反り量が減る方向に皿ばね70の外縁部70aが変形する(つぶれる)。これによって、皿ばね70に弾性力が生じ、アーム支持部26と軸21dとの間の抵抗が抑制され、ダンパ30が軸21dに対して揺動する際の抵抗が抑制される。なお、ダンパ30が軸21dに対して揺動する際の抵抗となる皿ばね70の弾性力は、皿ばね70の外縁部70aのつぶれ量で決まる。皿ばね70の外縁部70aのつぶれ量は、ナット71の締め込み量によって、皿ばね70が配置される基端部21eとアーム支持部26との間隔t、言い換えると、基端部21eとナット71との間隔Tで決まる。以上のように、ダンパ30が軸21dに沿って揺れ動くことが抑制され、アーム支持部26と軸21dとの間の抵抗が適度に抑制されるように、ナット71が螺合される。
【0062】
なお、基端部21eとアーム支持部26との間に設けられる皿ばね70は、1つでも複数でも良く、図に示す例では4つの皿ばね70が設けられている。複数の皿ばね70が設けられる場合、隣り合う皿ばね70は、外縁部70aが反る方向が互いに逆となるように配置されることが好ましい。例えば、4つの皿ばね70は、基端部21e側から、反る方向が基端部21e側、アーム支持部26側、基端部21e側、アーム支持部26側となるように設けられる。これにより、効率的に弾性力を生じさせることができる。
【0063】
また、基端部21eとアーム支持部26との間には、皿ばね70に限らず、所定の弾性力を有する弾性体が設けられても良い。この場合の弾性体も、ダンパ30が軸21dに沿って揺動する際の抵抗が適度に抑制され、ダンパ30が軸21dに沿って揺れ動くことが抑制されるように調整できる構成で設けられる。
【0064】
また、軸21dは必ずしも基端部21eが設けられなくても良い。この場合、皿ばね70は、左ステー21aとアーム支持部26との間に設けられる。また、皿ばね70とアーム支持部26との位置決めは、ナット71によって行われる構成に限らず、任意の固定具で、皿ばね70とアーム支持部26とを位置決めしても良い。
【0065】
また、ダンパ30がステー21に支持されない場合、ダンパ30を支持する車体フレーム3等のダンパ30を支持する部位と、アーム支持部26との間に皿ばね70が設けられても良い。また、皿ばね70は、左ステー21a(基端部21e)とアーム支持部26との間に設けられる構成に限らず、
図7,
図8に示す、ステアリング支持台22とアーム支持部42との間や、左ステー21aとピロボール27との間に設けられても良い。つまり、皿ばね70は、ダンパ30,41を支持する車体フレーム3と、ダンパ30,41の揺動軸芯となる部分との間に設けられれば良く、ダンパ30,41が揺動軸芯に沿って揺動する際に抵抗が生じることが適度に抑制され、ダンパ30,41が揺動軸芯に沿って揺れ動くことが抑制されるように調整できれば良い。
【0066】
(3)上記各実施形態において、ロック機構としてダンパ30またはダンパ41を例示したが、ロック機構は、チルト機構20またはチルト機構40を解放状態と固定状態との間で状態変化させることができる構成であれば任意である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、多目的作業車に限らず、ステアリングホイールにより操向操作が可能な種々の作業車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
3 車体フレーム
6 ステアリングホイール
14 ステアリング軸
21c 軸
22 ステアリング支持台
25 チルトレバー
27 ピロボール(環状部材)
27a 貫通孔(第1貫通孔)
27b 球面内輪
27c 貫通孔(第2貫通孔)
28 支持部
29 ボルト
30 ダンパ(ロック機構)
70 皿ばね(弾性体)