(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20240105BHJP
【FI】
H02M3/28 C
H02M3/28 H
(21)【出願番号】P 2020180041
(22)【出願日】2020-10-27
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一馬
(72)【発明者】
【氏名】倉内 修司
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-287195(JP,A)
【文献】特開2014-138451(JP,A)
【文献】特開2015-035865(JP,A)
【文献】特開2012-152043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力側端子(CH1,CL1)と、前記入力側端子と並列接続され、スイッチング素子を含む入力側電力変換回路(50)とを含む入力側回路と、
出力側端子(CH2,CL2,CH3,CL3)と、前記出力側端子と並列接続され、スイッチング素子を含む出力側電力変換回路(60,70)とを含む出力側回路と、
前記入力側端子と、前記出力側端子との間を絶縁するトランス(80)と、を備える回路部と、
前記入力側電力変換回路のスイッチング素子を制御する入力側制御装置(110,210,310)と、前記出力側電力変換回路のスイッチング素子を制御する出力側制御装置(120,220,320)と、を含む制御部と、を備え、前記入力側端子から入力される電力を前記出力側端子に出力される電力に変換する電力変換装置(140,150,240,340)であって、
前記回路部は、前記入力側回路の電流を検出する入力側電流センサ(94,97)と、前記出力側回路の電流を検出する出力側電流センサ(95,96,98,99)と、を備え、
前記制御部は
、
前記入力側電流センサの検出値または前記出力側電流センサの検出値に基づいて、前記電力変換回路における異常の発生を検出した場合に、前記入力側電力変換回路と、前記出力側電力変換回路とを所定の優先順位に基づいて停止さ
せ、
前記入力側電流センサの検出値が入力側電流閾値を超えた場合に、前記入力側電力変換回路を停止し、前記出力側電流センサの検出値が出力側電流閾値を超えた場合に、前記出力側電力変換回路を停止し、
前記入力側電流閾値は、前記出力側電流閾値と、前記トランスの入力側コイル巻数に対する出力側コイルの巻数の比である巻数比との積以下の値に設定される電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記電力変換回路における異常の発生を検出した場合に、前記入力側電力変換回路を、前記出力側電力変換回路よりも優先的に停止する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記入力側電流閾値および前記出力側電流閾値は、前記回路部についての回路定数と、前記制御部が前記回路部を制御する際の制御定数との少なくともいずれか一方に基づいて、前記トランスを流れるトランス電流を推定し、前記トランス電流の推定値に基づいて、前記入力側電力変換回路を、前記出力側電力変換回路よりも優先的に停止するように設定される請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
入力側端子(CH1,CL1)と、前記入力側端子と並列接続され、スイッチング素子を含む入力側電力変換回路(50)とを含む入力側回路と、
出力側端子(CH2,CL2,CH3,CL3)と、前記出力側端子と並列接続され、スイッチング素子を含む出力側電力変換回路(60,70)とを含む出力側回路と、
前記入力側端子と、前記出力側端子との間を絶縁するトランス(80)と、を備える回路部と、
前記入力側電力変換回路のスイッチング素子を制御する入力側制御装置(110,210,310)と、前記出力側電力変換回路のスイッチング素子を制御する出力側制御装置(120,220,320)と、を含む制御部と、を備え、前記入力側端子から入力される電力を前記出力側端子に出力される電力に変換する電力変換装置(140,150,240,340)であって、
前記回路部は、前記入力側回路の電流を検出する入力側電流センサ(94,97)と、前記出力側回路の電流を検出する出力側電流センサ(95,96,98,99)と、を備え、
前記制御部は
、
前記入力側電流センサの検出値または前記出力側電流センサの検出値に基づいて、前記電力変換回路における異常の発生を検出した場合に、前記入力側電力変換回路と、前記出力側電力変換回路とを所定の優先順位に基づいて停止さ
せ、
前記入力側電流センサの検出値が入力側電流閾値を超えた場合に、前記入力側電力変換回路を停止し、前記出力側電流センサの検出値が出力側電流閾値を超えた場合に、前記出力側電力変換回路を停止し、
前記入力側電流閾値および前記出力側電流閾値は、前記回路部についての回路定数と、前記制御部が前記回路部を制御する際の制御定数との少なくともいずれか一方に基づいて、前記トランスを流れるトランス電流を推定し、前記トランス電流の推定値に基づいて、前記入力側電力変換回路を、前記出力側電力変換回路よりも優先的に停止するように設定される電力変換装置。
【請求項5】
前記入力側電力変換回路および前記出力側電力変換回路は、フルブリッジ回路またはハーフブリッジ回路である請求項1~4のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記入力側電流センサは、前記入力側端子から入力される入力電流を検出し、
前記出力側電流センサは、前記出力側端子に出力される出力電流を検出する請求項1~5のいずれかに記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力側端子から入力される電力を出力側端子に出力される電力に変換する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のとおり、入力側の電力変換回路を制御するマイコンと、出力側の電力変換回路を制御するマイコンとを別個に備え、複数のマイコン間で通信して電力変換を行う電力変換装置が知られている。特許文献1では、コンバータマイコンは、コンバータ部で発生した異常の度合いに応じた異常信号または注意報信号をインバータマイコンに送信し、インバータマイコンは、受信した異常信号または注意報信号に基づいて、インバータ部について停止等の制御を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、複数の電力変換回路をそれぞれ制御する複数のマイコン間での通信を行う電力変換装置では、複数のマイコン間における通信遅延等により、電力変換回路の停止制御等が滞ることが懸念される。通信遅延等の通信の不具合により、複数の電力変換回路の停止処理が適切に実行できない場合には、過電流が発生して電力変換装置を構成する機器が破損する等により、電力変換回路の異常状態が悪化することが懸念される。
【0005】
上記を鑑み、本発明は、複数のマイコン間での通信の不具合があった場合にも、適切に電力変換回路の停止処理を実行可能な電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、入力側端子と、前記入力側端子と並列接続され、スイッチング素子を含む入力側電力変換回路とを含む入力側回路と、出力側端子と、前記出力側端子と並列接続され、スイッチング素子を含む出力側電力変換回路とを含む出力側回路と、前記入力側端子と、前記出力側端子との間を絶縁するトランスと、を備える回路部と、前記入力側電力変換回路のスイッチング素子を制御する入力側制御装置と、前記出力側電力変換回路のスイッチング素子を制御する出力側制御装置と、を含む制御部と、を備え、前記入力側端子から入力される電力を前記出力側端子に出力される電力に変換する電力変換装置を提供する。前記電力変換装置では、前記回路部は、前記入力側回路の電流を検出する入力側電流センサと、前記出力側回路の電流を検出する出力側電流センサと、を備える。前記制御部は、前記入力側電流センサの検出値または前記出力側電流センサの検出値に基づいて、前記電力変換回路における異常の発生を検出した場合に、前記入力側電力変換回路と、前記出力側電力変換回路とを所定の優先順位に基づいて停止させる。
【0007】
本発明によれば、電力変換装置の制御部は、入力側電流センサの検出値または出力側電流センサの検出値に基づいて、電力変換回路における異常の発生を検出する。そして、異常の発生を検出した場合に、入力側電力変換回路と出力側電力変換回路とを、所定の優先順位に基づいて停止させる。所定の優先順位は、例えば、電力変換回路の異常状態の悪化を抑制するように設定でき、これによって、複数のマイコン間での通信の不具合があった場合にも、適切に電力変換回路の停止処理を実行することができる。その結果、電力変換装置およびこれに接続する機器の故障や破損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】制御部が実行する電力変換処理のフローチャート。
【
図4】制御部が実行する電流閾値設定処理の一例を示すフローチャート。
【
図5】制御部が実行する電力変換処理を説明するためのタイムチャート。
【
図6】制御部が実行する電力変換処理を説明するためのタイムチャート。
【
図7】制御部が実行する電力変換処理を説明するためのタイムチャート。
【
図8】制御部が実行する電力変換処理を説明するためのタイムチャート。
【
図11】第2実施形態に係る電力変換装置を示す図。
【
図12】
図1に示す電力変換装置の制御部を示す図。
【
図13】制御部が実行する電力変換処理のフローチャート。
【
図14】制御部が実行する電流閾値設定処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
図1に示すように、電源システムは、第1蓄電池10と、第2蓄電池20と、電力変換装置140と、を備えている。各蓄電池10,20は、充放電可能な2次電池であり、例えば、リチウムイオン蓄電池またはニッケル水素蓄電池である。第1蓄電池10の定格電圧は例えば300Vであり、第2蓄電池20の定格電圧は例えば400Vである。
図1に示す電源システムは、例えば、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)や電気自動車(EV)等の電動化車両に搭載されている。
【0010】
電力変換装置140は、第1インバータ50を備えている。第1インバータ50は、第1~第4スイッチQ1~Q4を含むフルブリッジ回路である。本実施形態において、第1~第4スイッチQ1~Q4は、NチャネルMOSFETである。第1スイッチQ1および第3スイッチQ3の高電位側端子であるドレインには、電力変換装置140の第1高電位側端子CH1が接続されている。第1スイッチQ1の低電位側端子であるソースには、第2スイッチQ2のドレインが接続され、第3スイッチQ3のソースには、第4スイッチQ4のドレインが接続されている。第2スイッチQ2および第4スイッチQ4のソースには、電力変換装置140の第1低電位側端子CL1が接続されている。第1高電位側端子CH1には、第1コンデンサ51の第1端と、第1蓄電池10の正極端子とが接続され、第1低電位側端子CL1には、第1コンデンサ51の第2端と、第1蓄電池10の負極端子とが接続されている。
【0011】
なお、第1高電位側端子CH1および第1低電位側端子CL1には、第1蓄電池10に代えて、外部電源から入力される交流電力を直流電力に変換して出力するACDCコンバータの出力側が接続されていてもよい。
【0012】
電力変換装置140は、第2インバータ60を備えている。第2インバータ60は、第5~第8スイッチQ5~Q8を含むフルブリッジ回路である。本実施形態において、第5~第8スイッチQ5~Q8は、NチャネルMOSFETである。第5スイッチQ5および第7スイッチQ7のドレインには、電力変換装置140の第2高電位側端子CH2が接続されている。第5スイッチQ5のソースには、第6スイッチQ6のドレインが接続され、第7スイッチQ7のソースには、第8スイッチQ8のドレインが接続されている。第6スイッチQ6および第8スイッチQ8のソースには、電力変換装置140の第2低電位側端子CL2が接続されている。第2高電位側端子CH2には、第2コンデンサ61の第1端と、第2蓄電池20の正極端子とが接続され、第2低電位側端子CL2には、第2コンデンサ61の第2端と、第2蓄電池20の負極端子とが接続されている。
【0013】
電力変換装置140は、第1コイル81および第2コイル82を有するトランス80を備えている。第1コイル81の第1端には、第1スイッチQ1のソースおよび第2スイッチQ2のドレインが接続され、第1コイル81の第2端には、第3スイッチQ3のソースおよび第4スイッチQ4のドレインが接続されている。第2コイル82の第1端には、第5スイッチQ5のソースおよび第6スイッチQ6のドレインが接続され、第2コイル82の第2端には、第7スイッチQ7のソースおよび第8スイッチQ8のドレインが接続されている。
【0014】
第1コイル81および第2コイル82は、例えばトランス80が備えるコアを介して、互いに磁気結合する。第1コイル81の第2端に対する第1端の電位が高くなる場合、第2コイル82には、その第2端よりも第1端の電位が高くなるような誘起電圧が発生する。一方、第1コイル81の第1端に対する第2端の電位が高くなる場合、第2コイル82には、その第1端よりも第2端の電位が高くなるような誘起電圧が発生する。
【0015】
電力変換装置140は、第1電圧センサ91および第2電圧センサ92を備えている。第1電圧センサ91は、第1コンデンサ51の端子電圧である第1電圧Vdc1を検出し、第2電圧センサ92は、第2コンデンサ61の端子電圧である第2電圧Vdc2を検出する。
【0016】
電力変換装置140は、第1トランス電流センサ97および第2トランス電流センサ98を備えている。第1トランス電流センサ97は、第1コイル81に流れる電流である第1トランス電流IL1を検出し、第2トランス電流センサ98は、第2コイル82に流れる電流である第2トランス電流IL2を検出する。電力変換装置140では、入力側電流センサとして第1トランス電流センサ97が用いられ、出力側電流センサとして第2トランス電流センサ98が用いられる。なお、本実施形態では、第1コイル81の第1端から第2端へと向かう方向に第1コイル81に流れる第1トランス電流IL1の符号を正と定義し、第2コイル82の第1端から第2端へと向かう方向に第2コイル82に流れる第2トランス電流IL2の符号を正と定義する。
【0017】
各センサ91,92,97,98の検出値は、電力変換装置140が備える制御部に入力される。制御部は、主制御装置(M:Master)100と、第1従制御装置(S1:Slave1)110と、第2従制御装置(S2:Slave2)120と、閾値演算装置(LIM)170とを備え、第1~第8スイッチQ1~Q8をオンオフする。主制御装置100、第1従制御装置110と、第2従制御装置120と、閾値演算装置170は、それぞれ、互いに通信可能な別個のマイコンによって構成されている。
【0018】
図2に示すように、閾値演算装置170は、回路定数や制御定数等に基づいて、第1電流閾値Ilim1および第2電流閾値Ilim2を算出し、それぞれ、第1従制御装置110および第2従制御装置120に出力する。回路定数としては、例えば、第1電圧Vdc1、第2電圧Vdc2、第1トランス巻数N1、第2トランス巻数N2、第1インダクタンスL1、第2インダクタンスL2等を用いることができる。制御定数としては、例えば、第1電流指令値dc1*、第2電流指令値dc2*等を用いることができる。
【0019】
第1従制御装置110は、第1インバータ50に第1ダイオード整流信号DRS1を出力することにより、第1インバータ50の第1~第4スイッチQ1~Q4を制御する。例えば、第1従制御装置110は、第1インバータ50から取得した第1トランス電流IL1の絶対値と、閾値演算装置170から取得した第1電流閾値Ilim1との比較に基づいて第1ダイオード整流信号DRS1を作成する。また、例えば、第1従制御装置110は、主制御装置100から入力される第1シャットダウン信号SD1に基づいて、第1ダイオード整流信号DRS1を作成する。
【0020】
第2従制御装置120は、第2インバータ60に第2ダイオード整流信号DRS2を出力することにより、第2インバータ60の第5~第8スイッチQ5~Q8を制御する。例えば、第2従制御装置120は、第2インバータ60から取得した第2トランス電流IL2の絶対値と、閾値演算装置170から取得した第2電流閾値Ilim2との比較に基づいて第2ダイオード整流信号DRS2を作成する。また、例えば、第2従制御装置120は、主制御装置100から入力される第2シャットダウン信号SD2に基づいて、第2ダイオード整流信号DRS2を作成する。
【0021】
主制御装置100は、第1従制御装置110から、第1インバータ50の故障検出結果を示す第1故障検出信号FT1を受信する。また、主制御装置100は、第2従制御装置120から、第2インバータ60の故障検出結果を示す第2故障検出信号FT2を受信する。主制御装置100は、第1故障検出信号FT1および第2故障検出信号FT2に基づいて、第1シャットダウン信号SD1および第2シャットダウン信号SD2を作成する。
【0022】
図3に、制御部によって実行される処理のフローチャートを示す。
図3に示す処理は、所定の周期で繰り返し実行される。
【0023】
まず、ステップS100では、第1電流閾値Ilim1および第2電流閾値Ilim2が設定される。第1電流閾値Ilim1および第2電流閾値Ilim2は、閾値演算装置170に予め記憶されていてもよいし、所定のパラメータの入力に基づいて、閾値演算装置170によって算出されてもよい。ステップS100において設定された第1電流閾値Ilim1は、第1従制御装置110に送信され、第2電流閾値Ilim2は、第2従制御装置120に送信される。
【0024】
ステップS100においては、例えば、
図4に示すフローチャートに従って、第1電流閾値Ilim1および第2電流閾値Ilim2が算出されてもよい。まず、ステップS201では、回路定数や、制御定数等に基づいて、第1トランス電流IL1の最大値であるIL1(max)と、第2トランス電流IL2の最大値であるIL2(max)とを算出する。その後、ステップS202に進む。
【0025】
ステップS202では、下記式(1)および(2)に基づいて、第1電流閾値Ilim1および第2電流閾値Ilim2を算出する。なお、Am1、Bm1は、第1インバータ50における電流マージンであり、Am2、Bm2は、第2インバータ60における電流マージンである。例えば、Am1>1、Bm1>0、Am2>1、Bm2>0を満たす所定の数値に設定することができる。
【0026】
Ilim1=Am1×IL1(max)+Bm1 … (1)
Ilim2=Am2×IL2(max)+Bm2 … (2)
【0027】
ステップS100において、第1電流閾値Ilim1および第2電流閾値Ilim2が設定された後、ステップS101に進む。
【0028】
ステップS101では、第1トランス電流IL1の絶対値が、第1電流閾値Ilim1を超えているか否かを判定する。ステップS101の処理は、第1インバータ50の故障判定処理に相当し、第1従制御装置110において実行される。|IL1|>Ilim1である場合には、第1インバータ50が故障していると判定することができる。|IL1|>Ilim1である場合には、ステップS102に進む。|IL1|≦Ilim1である場合には、ステップS111に進む。
【0029】
ステップS102では、第1従制御装置110は、第1インバータ50の第1~第4スイッチQ1~Q4を停止するための第1ダイオード整流信号DRS1を出力する。ステップS101,S102に示すように、|IL1|>Ilim1である場合には、第1インバータ50が故障していると判定され、第1インバータ50の第1~第4スイッチQ1~Q4をオフにして接続を停止する制御が実行される。その後、ステップS103に進む。
【0030】
ステップS103では、第1従制御装置110から主制御装置100に、第1インバータ50の故障を示す第1故障検出信号FT1が送信される。その後、ステップS104に進む。
【0031】
ステップS104では、主制御装置100から第2従制御装置120に、第2インバータ60の停止を指示する第2シャットダウン信号SD2が送信される。ステップS103,S104に示すように、主制御装置100は、第1インバータ50の故障を示す第1故障検出信号FT1を受信した場合に、第2シャットダウン信号SD2の送信を実行する。その後、ステップS105に進む。
【0032】
ステップS105では、第2従制御装置120は、第2インバータ60の第5~第8スイッチQ5~Q8を停止するための第2ダイオード整流信号DRS2を出力する。これにより、第2インバータ60の第5~第8スイッチQ5~Q8をオフにして接続を停止する制御が実行される。ステップS101~S105に示すように、第1インバータ50の故障判定があった場合には、まず、第1インバータ50の停止制御が実行され、その後、第2インバータ60の停止制御が実行される。その後、処理を終了する。
【0033】
一方、ステップS111では、第2トランス電流IL2の絶対値が、第2電流閾値Ilim2を超えているか否かを判定する。ステップS111の処理は、第2インバータ60の故障判定処理に相当し、第2従制御装置120において実行される。|IL2|>Ilim2である場合には、第2インバータ60が故障していると判定することができる。|IL2|>Ilim2である場合には、ステップS112に進む。|IL2|≦Ilim2である場合には、処理を終了する。
【0034】
ステップS112では、第2従制御装置120は、第2インバータ60の第5~第8スイッチQ5~Q8を停止するための第2ダイオード整流信号DRS2を出力する。ステップS111,S112に示すように、|IL2|>Ilim2である場合には、第2インバータ60が故障していると判定され、第2インバータ60の第5~第8スイッチQ5~Q8をオフにして接続を停止する制御が実行される。その後、ステップS113に進む。
【0035】
ステップS113では、第2従制御装置120から主制御装置100に、第2インバータ60の故障を示す第2故障検出信号FT2が送信される。その後、ステップS114に進む。
【0036】
ステップS114では、主制御装置100から第1従制御装置110に、第1インバータ50の停止を指示する第1シャットダウン信号SD1が送信される。ステップS113,S114に示すように、主制御装置100は、第2インバータ60の故障を示す第2故障検出信号FT2を受信した場合に、第1シャットダウン信号SD1の送信を実行する。その後、ステップS115に進む。
【0037】
ステップS115では、第1従制御装置110は、第1インバータ50の第1~第4スイッチQ1~Q4を停止するための第1ダイオード整流信号DRS1を出力する。これにより、第1インバータ50の第1~第4スイッチQ1~Q4をオフにして接続を停止する制御が実行される。第ステップS101,S111~S115に示すように、第1インバータ50において故障判定がなく、第2インバータ60の故障判定があった場合には、まず、第2インバータ60の停止制御が実行され、その後、第1インバータ50の停止制御が実行される。その後、処理を終了する。なお、ステップS111~S115に示す処理は、第1トランス電流の絶対値|IL1|が十分に低く、ステップS101において否定判定された場合に実行される処理である。このため、第1インバータの第1~第4スイッチQ1~Q4はオン状態のままで、第2インバータ60の第5~第8スイッチQ5~Q8が先にオフ状態に制御されても、通信遅延により過電流が発生することを、ある程度は抑制できる。
【0038】
図1~4に示すように、電力変換装置140によれば、入力側電流センサの検出値としての第1トランス電流IL1または出力側電流センサの検出値としての第2トランス電流IL2に基づいて、第1インバータ50または第2インバータ60における異常の発生を検出した場合に、入力側電力変換回路に相当する第1インバータ50と、出力側電力変換回路に相当する第2インバータ60とを所定の優先順位に基づいて停止させることができる。所定の優先順位は、例えば、電力変換回路の異常状態の悪化を抑制するように設定された優先順位である。
【0039】
より具体的には、電力変換装置140の制御部は、第1インバータ50を、第2インバータ60よりも優先的に停止するように構成されていることが好ましい。入力側電力変換回路に相当する第1インバータ50を停止させると、出力側電力変換回路に相当する第2インバータ60電力が流れ込まなくなるため、マイコン間の通信遅延により第2インバータ60の停止が遅れても、過電流が発生することを抑制できる。その結果、過電流により電力変換装置を構成する機器が破損する等により、電力変換回路の異常状態が悪化することを抑制できる。
【0040】
例えば、ステップS101に示す第1インバータ50の故障判定を、ステップS111に示す第2インバータ60の故障判定よりも優先的に実行することにより、第1インバータ50を、第2インバータ60よりも優先的に停止するように構成してもよい。第1、第2インバータ50,60の双方が故障状態となった場合には、第1インバータ50の故障判定が優先的に実行されて、第1インバータ50の停止制御を先に実行することができる。
【0041】
また、例えば、上記式(1)、(2)に示す電流マージンAm1、Bm1、Am2,Bm2を、第1インバータ50を第2インバータ60よりも優先的に停止するように調整してもよい。具体的には、下記式(3)に示すように、入力側電流閾値に相当する第1電流閾値Ilim1は、出力側電流閾値に相当する第2電流閾値Ilim2と、第1コイル81の巻数N1に対する第2コイル82の巻数N2の比である巻数比(N2/N1)との積以下の値に設定する。これにより、入力側電力変換回路に相当する第1インバータ50を出力側電力変換回路に相当する第2インバータ60よりも優先的に停止させることができる。下記式(3)の左辺を右辺に対して小さく設定するほど、より確実に、第1インバータ50を第2インバータ60に優先させて停止できる。例えば、ステップS101に示す第1インバータ50の故障判定を、ステップS111に示す第2インバータ60の故障判定よりも優先的に実行しなくても、第1インバータ50を第2インバータ60に優先させて停止させることが可能となる。
【0042】
Ilim1≦(N2/N1)×Ilim2 … (3)
【0043】
また、第1電流閾値Ilim1および第2電流閾値Ilim2は、回路定数と、制御定数との少なくともいずれか一方に基づいて推定される第1、第2トランス電流IL1、IL2の推定値に基づいて、上記式(1)、(2)から算出されることが好ましい。トランス電流を推定することにより、電力変換装置140の動作状態に影響されることなく、第1インバータ50を第2インバータ60よりも優先的に停止可能な第1、第2電流閾値Ilim、Ilim2を設定できる。すなわち、上記式(1)~(3)に基づいて、第1、第2電流閾値Ilim1,Ilim2を設定することにより、電力変換装置140の動作状態に影響されることなく、より確実に、第1インバータ50を、第2インバータ60よりも優先的に停止するように設定できる。
【0044】
入力側電力変換回路を、出力側電力変換回路よりも優先的に停止することにより得られる効果について、
図5~8を用いて説明する。
図5~8は、電力変換装置140に示す電力変換回路に係るパラメータのタイムチャートを例示するものである。
図5~8における縦軸は、上から順に、第1トランス電圧Vt1、第2トランス電圧Vt2、第1トランス電流IL1、第2トランス電流IL2、第1ダイオード整流信号DRS1、第2ダイオード整流信号DRS2を示しており、横軸は、経過時間を示している。
【0045】
図5,6は、制御部を構成する4つのマイコン間の通信遅延が殆ど無い場合を示しており、
図7,8は、マイコン間の通信遅延がある場合を示している。また、
図5,7は、出力側電流センサの検出値に基づいて、停止制御を実行した場合を示しており、
図6,7は、入力側電流センサの検出値に基づいて、停止制御を実行した場合を示している。
【0046】
図5は、時刻t1において、電力変換装置140の第2インバータ60側に故障が検出された場合を示している。具体的には、時刻t1以前においては、第1トランス電流IL1が経時的に上昇するとともに、第2トランス電流IL2が経時的に下降する。時刻t1において、第2トランス電流IL2が、IL2<-Ilim2まで下降すると、ステップS111に示すように、|IL2|>Ilim2と判定され、第2インバータ60が故障していると判定される。その結果、ステップS112~S115に示す処理が順次進行する。
【0047】
具体的には、時刻t1において、第2ダイオード整流信号DRS2が出力されて第2インバータ60の第5~第8スイッチQ5~Q8を停止する制御が実行された後、第2従制御装置120から主制御装置100への第2故障検出信号FT2の送信、主制御装置100から第1従制御装置110への第1シャットダウン信号SD1の送信が実行される。主制御装置100、第1従制御装置110、第2従制御装置120の間に通信遅延は殆ど無いため、時刻t1に殆ど遅れることなく、第1ダイオード整流信号DRS1が送信されて、第1インバータ50の第1~第4スイッチQ1~Q4を停止する制御が実行される。時刻t1において、ほぼ同時に第1、第2ダイオード整流信号DRS1、DRS2の出力が実行されるため、第1~第8スイッチQ1~Q8をほぼ同時に停止制御することができる。時刻t1において、第1トランス電流IL1は下降に転じ、第2トランス電流IL2は上昇に転じて、時刻t1以降は、それぞれ零に収束する。
【0048】
図6は、時刻t1において、電力変換装置140の第1インバータ50側に故障が検出された場合を示している。具体的には、時刻t1以前においては、第1トランス電流IL1が経時的に上昇するとともに、第2トランス電流IL2が経時的に下降する。時刻t1において、第1トランス電流IL1が、IL1>Ilim1まで上昇すると、ステップS101に示すように、|IL1|>Ilim1と判定され、第1インバータ50が故障していると判定される。その結果、ステップS102~S105に示す処理が順次進行する。
【0049】
具体的には、時刻t1において、第1ダイオード整流信号DRS1が出力されて第1インバータ50の第1~第4スイッチQ1~Q4を停止する制御が実行された後、第1従制御装置110から主制御装置100への第1故障検出信号FT1の送信、主制御装置100から第2従制御装置120への第2シャットダウン信号SD2の送信が実行される。主制御装置100、第1従制御装置110、第2従制御装置120の間に通信遅延は殆ど無いため、時刻t1に殆ど遅れることなく、第2ダイオード整流信号DRS2が送信されて、第2インバータ60の第5~第8スイッチQ5~Q8を停止する制御が実行される。時刻t1において、ほぼ同時に第1、第2ダイオード整流信号DRS1、DRS2の出力が実行されるため、第1~第8スイッチQ1~Q8をほぼ同時に停止制御することができる。時刻t1において、第1トランス電流IL1は下降に転じ、第2トランス電流IL2は上昇に転じて、時刻t1以降は、それぞれ零に収束する。
【0050】
図7は、
図5と同様に、時刻t1において、電力変換装置140の第2インバータ60側に故障が検出された場合を示している。
図5と同様に、時刻t1において、IL2<-Ilim2まで下降すると、第2ダイオード整流信号DRS2が出力されて第2インバータ60の第5~第8スイッチQ5~Q8を停止する制御が実行された後、第2従制御装置120から主制御装置100への第2故障検出信号FT2の送信、主制御装置100から第1従制御装置110への第1シャットダウン信号SD1の送信が実行される。
図7の場合には、主制御装置100、第1従制御装置110、第2従制御装置120の間に通信遅延があるため、時刻t1よりも遅延時間Tdだけ遅い時刻t2において、第1ダイオード整流信号DRS1が送信される。
【0051】
図7に示すように、遅延時間Tdの間に、第2トランス電流IL2はさらに下降し、第1トランス電流IL1はさらに上昇する。時刻t2において、第1インバータ50の第1~第4スイッチQ1~Q4を停止する制御が実行されることにより、第1トランス電流IL1は下降に転じ、第2トランス電流IL2は上昇に転じて、時刻t2以降は、それぞれ零に収束する。
【0052】
遅延時間Tdの間に、第2トランス電流IL2はさらに下降し、第1トランス電流IL1はさらに上昇するため、第1トランス電流IL1が高い状態(例えば|IL1|>Ilim1の状態)で遅延が発生すると、過電流により機器が破損することが懸念される。
図3に示す電力変換処理によれば、ステップS111~S115に示す処理は、ステップS101において否定判定された場合に実行する。このため、
図7に示すように、出力側電力変換回路を先に停止する場合にも、第1トランス電流IL1が高くなり過ぎることを抑制することができる。すなわち、マイコン間の通信遅延の影響を緩和できる。
【0053】
図8は、
図6と同様に、時刻t1において、電力変換装置140の第2インバータ60側に故障が検出された場合を示している。
図6と同様に、時刻t1において、第1トランス電流IL1が、IL1>Ilim1まで上昇すると、第1ダイオード整流信号DRS1が出力されて第1インバータ50の第1~第4スイッチQ1~Q4を停止する制御が実行された後、第1従制御装置110から主制御装置100への第1故障検出信号FT1の送信、主制御装置100から第2従制御装置120への第2シャットダウン信号SD2の送信が実行される。
【0054】
図8の場合には、主制御装置100、第1従制御装置110、第2従制御装置120の間に通信遅延があるため、時刻t1よりも遅延時間Tdだけ遅い時刻t2において、第2ダイオード整流信号DRS2が送信される。
図7の場合と同様に、第1ダイオード整流信号DRS1の出力時刻と第2ダイオード整流信号DRS2の出力時刻とが遅延時間Tdだけずれる一方で、
図7の場合とは異なり、時刻t1において、第1トランス電流IL1は下降に転じ、第2トランス電流IL2は上昇に転じて、時刻t1以降は、それぞれ零に収束する。時刻t1に第1インバータ50に停止されることにより、第2インバータ60に電力が流れ込まなくなるため、遅延時間Tdの経過を待つことなく、第1、第2トランス電流IL1、IL2を収束させることができる。
図8に示すように、入力側電力変換回路を、出力側電力変換回路よりも優先的に停止するように構成することにより、マイコン間の通信遅延の影響を解消できる。このため、
図8に示すように第1インバータ50を先に停止させる場合には、
図7に示すように第2インバータ60を先に停止する場合よりも、速やかにダイオード整流モードに移行することができる。
【0055】
(変形例)
図9に示す電力変換装置150は、第1トランス電流センサ97および第2トランス電流センサ98に代えて、第1電流センサ94および第2電流センサ95を備える点において、
図1に示す電力変換装置140と相違している。
図9に示すその他の構成は、
図1と同様であるため、説明を省略する。
【0056】
第1電流センサ94は、第1高電位側端子CH1に流れる電流である第1電流Idc1を検出し、第2電流センサ95は、第2高電位側端子CH2に流れる電流である第2電流Idc2を検出する。電力変換装置150では、入力側電流センサとして第1電流センサ94が用いられ、出力側電流センサとして第2電流センサ95が用いられる。なお、本実施形態では、第1インバータ50から第1蓄電池10の正極端子へと向かう方向に第1高電位側端子CH1に流れる第1電流Idc1の符号を正と定義し、第2インバータ60から第2蓄電池20へと向かう方向に第2高電位側端子CH2に流れる第2電流Idc2の符号を正と定義する。
【0057】
電力変換装置150の制御部は、第1実施形態において、第1トランス電流センサ97および第2トランス電流センサ98により検出される第1トランス電流IL1および第2トランス電流IL2に代えて、第1電流Idc1および第2電流Idc2を用いることにより、電力変換装置140と同様の制御を実行可能に構成されている。すなわち、電力変換装置150によれば、入力側電流センサとして第1電流センサ94を用い、出力側電流センサとして第2電流センサ95を用いることにより、
図2~4に示す電力変換装置140と同様の処理を実行でき、入力側電流センサの検出値または出力側電流センサの検出値に基づいて、電力変換回路における異常の発生を検出した場合に、入力側電力変換回路と、出力側電力変換回路とを所定の優先順位に基づいて停止させることができる。
【0058】
なお、電力変換装置150では、第1トランス電流センサ97および第2トランス電流センサ98に代えて、第1電流センサ94および第2電流センサ95を備えるように構成されているが、これら全てを備える電力変換装置として構成されていてもよい。この場合、入力側電流センサとしては、第1電流センサ94と第1トランス電流センサ97とのいずれか一方を用いてもよいし、双方を用いてもよい。同様に、出力側電流センサとしては、第2電流センサ95と第2トランス電流センサ98とのいずれか一方を用いてもよいし、双方を用いてもよい。
【0059】
(第2実施形態)
図10に示す電力変換装置240は、ハーフブリッジ回路である点において、フルブリッジ回路である
図1、9に示す電力変換装置140,150と相違している。具体的には、電力変換装置240では、第1インバータ50は、直列に接続された第1、第2スイッチQ1、Q2を備える一方で、
図1に示す第3、第4スイッチQ3,Q4を備えていない。また、第2インバータ50は、直列に接続された第5、第6スイッチQ5、Q6を備える一方で、
図1に示す第7、第8スイッチQ7,Q8を備えていない。また、電力変換装置240は、入力側電流センサとして、第1電流センサ94と第1トランス電流センサ97との双方を備え、出力側電流センサとして、第2電流センサ95と第2トランス電流センサ98との双方を備えている。電力変換装置240は、第1コンデンサ51に代えて、直列に接続された第1コンデンサ52,53を備え、第1コンデンサ52,53の間に第1コイル81の第2端が接続されている。電力変換装置240は、第2コンデンサ61に代えて、直列に接続された第2コンデンサ62,63を備え、第2コンデンサ62,63の間に第2コイル82の第2端が接続されている。
【0060】
制御部は、主制御装置200と、第1従制御装置210と、第2従制御装置220と、閾値演算装置270とを備え、第1、第2、第5、第6スイッチQ1,Q2,Q5,Q6をオンオフする。第1インバータ50または第2インバータ60がハーフブリッジ回路によって構成される電力変換装置240では、第1、第2ダイオード整流信号DRS1,DRS2により制御されるスイッチQ1等の個数が減少しているのみである。このため、第1実施形態において説明した電力変換装置140の制御部における処理を同様に実施でき、同様に、過電流を抑制する効果を得ることができる。
【0061】
(第3実施形態)
図11に示す電力変換装置340は、3ポートの電力変換装置である点において、2ポートの電力変換装置である、
図1、9に示す電力変換装置140,150と相違している。
図11に示すように、電力変換装置340は、第3インバータを備えている。なお、
図11において、先の
図1等に示した構成と同一の構成については、同一の符号を付している。
【0062】
第3インバータ70は、第9~第12スイッチQ9~Q12と、第3コンデンサ71とを備えている。本実施形態において、第9~第12スイッチQ9~Q12は、NチャネルMOSFETである。第9スイッチQ9及び第11スイッチQ11のドレインには、電力変換装置140の第3高電位側端子CH3が接続されている。第9スイッチQ9のソースには、第10スイッチQ10のドレインが接続され、第11スイッチQ11のソースには、第12スイッチQ12のドレインが接続されている。第10スイッチQ10及び第12スイッチQ12のソースには、電力変換装置140の第3低電位側端子CL3が接続されている。第3高電位側端子CH3には、第3コンデンサ71の第1端と、抵抗性負荷30の第1端とが接続され、第3低電位側端子CL3には、第3コンデンサ71の第2端と、抵抗性負荷30の第2端とが接続されている。
【0063】
抵抗性負荷30は、第3高電位側端子CH3と第3低電位側端子CL3とを電気的に接続する抵抗体を有している。抵抗性負荷30は、例えば、その抵抗体への通電による発熱を利用するヒータである。なお、抵抗性負荷30は、ヒータに限らない。また、第3高電位側端子CH3と第3低電位側端子CL3に接続される機器は、抵抗性負荷に限らず、例えば蓄電池であってもよい。
【0064】
トランス80は、第3コイル83を有している。第3コイル83の第1端には、第9スイッチQ9のソース及び第10スイッチQ10のドレインが接続され、第3コイル83の第2端には、第11スイッチQ11のソース及び第12スイッチQ12のドレインが接続されている。
【0065】
第1コイル81、第2コイル82及び第3コイル83は、例えばトランス80が備えるコアを介して、互いに磁気結合する。第1コイル81の第2端に対する第1端の電位が高くなる場合、第2コイル82及び第3コイル83それぞれには、その第2端よりも第1端の電位が高くなるような誘起電圧が発生する。一方、第1コイル81の第1端に対する第2端の電位が高くなる場合、第2コイル82及び第3コイル83それぞれには、その第1端よりも第2端の電位が高くなるような誘起電圧が発生する。
【0066】
電力変換装置340は、第3電圧センサ93、第3電流センサ96及び第3トランス電流センサ99を備えている。第3電圧センサ93は、第3コンデンサ71の端子電圧である第3電圧V3rを検出する。第3電流センサ96は、第3高電位側端子CH3を流れる電流である第3電流I3rを検出する。本実施形態では、第3インバータ70から抵抗性負荷30へと向かう方向に第3高電位側端子CH3に流れる第3電流Idc3の符号を正と定義する。
【0067】
第3トランス電流センサ99は、第3コイル83に流れる電流である第3トランス電流IL3を検出する。本実施形態では、第3コイル83の第1端から第2端へと向かう方向に第3コイル83に流れる第3トランス電流IL3の符号を正と定義する。
【0068】
第3電圧センサ93、第3電流センサ96及び第3トランス電流センサ99の検出値は、電力変換装置340が備える制御部に入力される。制御部は、主制御装置300と、第1従制御装置310と、第2従制御装置320と、第3従制御装置(S3:Slave3)330と、閾値演算装置370とを備え、第1~第12スイッチQ1~Q12をオンオフする。
【0069】
図12に示すように、閾値演算装置370は、回路定数や制御定数等に基づいて、第1電流閾値Ilim1、第2電流閾値Ilim2、および第3電流閾値Ilim3を算出し、それぞれ、第1従制御装置310、第2従制御装置320、および第3従制御装置330に出力する。回路定数としては、例えば、第1電圧Vdc1、第2電圧Vdc2、第3電圧Vdc3、第1トランス巻数N1、第2トランス巻数N2、第3トランス巻数N3、第1インダクタンスL1、第2インダクタンスL2、第3インダクタンスL3等を用いることができる。制御定数としては、例えば、第1電流指令値dc1*、第2電流指令値dc2*、第3電流指令値dc3*等を用いることができる。
【0070】
第1実施形態と同様に、第1従制御装置310は、第1インバータ50に第1ダイオード整流信号DRS1を出力することにより、第1インバータ50の第1~第4スイッチQ1~Q4を制御する。また、第2従制御装置120は、第2インバータ60に第2ダイオード整流信号DRS2を出力することにより、第2インバータ60の第5~第8スイッチQ5~Q8を制御する。
【0071】
第3従制御装置330は、第1従制御装置310等と同様に、第3インバータ70に第3ダイオード整流信号DRS3を出力することにより、第3インバータ70の第9~第12スイッチQ9~Q12を制御する。例えば、第3従制御装置330は、第3インバータ70から取得した第3トランス電流IL3の絶対値と、閾値演算装置370から取得した第3電流閾値Ilim3との比較に基づいて第3ダイオード整流信号DRS3を作成する。また、例えば、第3従制御装置330は、主制御装置300から入力される第3シャットダウン信号SD3に基づいて、第3ダイオード整流信号DRS3を作成する。
【0072】
第1実施形態と同様に、主制御装置300は、第1~第3従制御装置310、320、330から、それぞれ、第1~第3インバータ50、60,70の故障検出結果を示す第1~第3故障検出信号FT1~FT3を受信する。また、主制御装置300は、第1~第3故障検出信号FT1~FT3に基づいて、第1~第3シャットダウン信号SD1~SD3を作成する。
【0073】
図13に、制御部によって実行される処理のフローチャートを示す。
図13に示す処理は、所定の周期で繰り返し実行される。
【0074】
まず、ステップS300では、第1~第3電流閾値Ilim1~Ilim3が設定される。第1実施形態と同様に、第1~第3電流閾値Ilim1~Ilim3は、閾値演算装置370に予め記憶されていてもよいし、所定のパラメータの入力に基づいて、閾値演算装置370によって算出されてもよい。ステップS300において設定された第1~第3電流閾値Ilim1~Ilim3は、それぞれ、第1~第3従制御装置310、320、330に送信される。
【0075】
ステップS300においては、例えば、
図14に示すフローチャートに従って、第1~第3電流閾値Ilim1~Ilim3が算出されてもよい。まず、ステップS401では、回路定数や、制御定数等に基づいて、第1~第3トランス電流IL1~IL3の最大値であるIL1(max)、IL2(max)、IL3(max)を算出する。その後、ステップS402に進む。
【0076】
ステップS402では、上記式(1)、(2)および下記式(4)に基づいて、第1~第3電流閾値Ilim1~Ilim3を算出する。なお、Am3、Bm3は、第3インバータ70における電流マージンであり、第1実施形態において説明したAm1,Bm1等と同様に、例えば、Am3>1、Bm3>0を満たす所定の数値に設定することができる。
【0077】
Ilim3=Am3×IL3(max)+Bm3 … (4)
【0078】
また、第1インバータ50を、第2インバータ60および第3インバータ70よりも優先的に停止させるように、各電流マージンが設定されることが好ましい。
【0079】
ステップS300において、第1~第3電流閾値Ilim1~Ilim3が設定された後、ステップS301に進む。ステップS301~S303の処理は、第1実施形態に係る
図3に示すステップS101~S103と同様であるため、説明を省略する。
ステップS301,S302に示すように、|IL1|>Ilim1である場合には、第1インバータ50が故障していると判定され、第1インバータ50の第1~第4スイッチQ1~Q4をオフにして接続を停止する制御が実行される。その後、ステップS303では、第1従制御装置310から主制御装置300に、第1インバータ50の故障を示す第1故障検出信号FT1が送信され、ステップS304に進む。
【0080】
ステップS304では、主制御装置300から、第2従制御装置320に第2インバータ60の停止を指示する第2シャットダウン信号SD2が送信され、第3従制御装置330に第3インバータ70の停止を指示する第3シャットダウン信号SD3が送信される。ステップS303,S304に示すように、主制御装置300は、第1インバータ50の故障を示す第1故障検出信号FT1を受信した場合に、第2、第3シャットダウン信号SD2、SD3の送信を実行する。その後、ステップS305に進む。
【0081】
ステップS305では、第2従制御装置320は、第2インバータ60の第5~第8スイッチQ5~Q8を停止するための第2ダイオード整流信号DRS2を出力する。また、第3従制御装置330は、第3インバータ70の第9~第12スイッチQ9~Q12を停止するための第3ダイオード整流信号DRS3を出力する。これにより、第2インバータ60の第5~第8スイッチQ5~Q8をオフにして接続を停止する制御と、第3インバータ70の第9~第12スイッチQ9~Q12をオフにして接続を停止する制御との双方が実行される。ステップS301~S305に示すように、第1インバータ50の故障判定があった場合には、まず、第1インバータ50の停止制御が実行され、その後、第2、第3インバータ60、70の停止制御が実行される。その後、処理を終了する。
【0082】
一方、ステップS311~ステップS315に示すように、第2インバータ60の故障判定があった場合には、まず、第2インバータ60の停止制御が実行され、その後、第1、第3インバータ50、70の停止制御が実行される。
【0083】
ステップS311では、第2トランス電流IL2の絶対値が、第2電流閾値Ilim2を超えているか否かを判定する。|IL2|>Ilim2である場合には、ステップS112に進む。|IL2|≦Ilim2である場合には、ステップS321に進む。ステップS312、S313の処理は、第1実施形態に係る
図3に示すステップS112、S113の処理と同様であるため、説明を省略する。
【0084】
その後、ステップS314では、主制御装置300から、第1、第3従制御装置310,330に、それぞれ、第1、第3インバータ50、70の停止を指示する第1、第3シャットダウン信号SD1,SD3が送信される。
【0085】
ステップS315では、第1、第3従制御装置310,330は、それぞれ、第1、第3インバータ50,70の第1~第4スイッチQ1~Q4、第9~第12スイッチQ9~Q12を停止するための第1、第3ダイオード整流信号DRS1,DRS3を出力する。これにより、第1インバータ50の第1~第4スイッチQ1~Q4をオフにして接続を停止する制御と、第3インバータ70の第9~第12スイッチQ9~Q12をオフにして接続を停止する制御との双方が実行される。
【0086】
また、ステップS321~ステップS325に示すように、第3インバータ70の故障判定があった場合には、まず、第3インバータ70の停止制御が実行され、その後、第1、第2インバータ50、60の停止制御が実行される。
【0087】
ステップS321では、第3トランス電流IL3の絶対値が、第3電流閾値Ilim3を超えているか否かを判定する。ステップS321の処理は、第3インバータ70の故障判定処理に相当し、第3従制御装置330において実行される。|IL3|>Ilim3である場合には、第3インバータ70が故障していると判定することができる。|IL3|>Ilim3である場合には、ステップS322に進む。|IL3|≦Ilim3である場合には、処理を終了する。
【0088】
ステップS322では、第3従制御装置330は、第3インバータ70の第9~第12スイッチQ9~Q12を停止するための第3ダイオード整流信号DRS3を出力する。ステップS321,S322に示すように、|IL3|>Ilim3である場合には、第3インバータ70が故障していると判定され、第3インバータ70の第9~第12スイッチQ9~Q12をオフにして接続を停止する制御が実行される。その後、ステップS323に進む。
【0089】
ステップS323では、第3従制御装置330から主制御装置300に、第3インバータ70の故障を示す第3故障検出信号FT3が送信される。その後、ステップS324に進む。
【0090】
ステップS324では、主制御装置300から、第1、第2従制御装置310,320に、それぞれ、第1、第2インバータ50、60の停止を指示する第1、第2シャットダウン信号SD1,SD2が送信される。
【0091】
ステップS325では、第1、第2従制御装置310,320は、それぞれ、第1、第2インバータ50,60の第1~第4スイッチQ1~Q4、第5~第8スイッチQ5~Q8を停止するための第1、第2ダイオード整流信号DRS1,DRS2を出力する。これにより、第1インバータ50の第1~第4スイッチQ1~Q4をオフにして接続を停止する制御と、第2インバータ60の第5~第8スイッチQ5~Q8をオフにして接続を停止する制御との双方が実行される。その後、処理を終了する。
【0092】
図11~14に示すように、電力変換装置340によれば、入力側電流センサの検出値としての第1トランス電流IL1、または、出力側電流センサの検出値としての第2、第3トランス電流IL2、IL3に基づいて、電力変換回路における異常の発生を検出した場合に、入力側電力変換回路に相当する第1インバータ50と、出力側電力変換回路に相当する第2、第3インバータ60,70とを、所定の優先順位に基づいて停止させることができる。また、第1実施形態と同様に、第1インバータ50を、第2、第3インバータ60,70よりも優先的に停止するように構成することができ、マイコン間の通信遅延により出力側電力変換回路の停止が遅れても、過電流が発生することを抑制できる。
【0093】
また、
図12~
図14に示すように、電力変換装置140に対して第3インバータ70および第3従制御装置330が追加された場合には、追加された構成に係る同様のパラメータについて同様の処理を実行するように、電力変換処理を構成することができる。すなわち、4ポート以上の電力変換装置についても、上記の各実施形態において説明した2ポートまたは3ポートの電力変換装置における制御部の構成や電力変換処理の構成を適宜変更して用いることができる。
【0094】
上記の各実施形態によれば、下記の効果を得ることができる。
【0095】
電力変換装置140,150,240,340は、回路部と、制御部(例えば、とを備え、入力側端子から入力される電力を出力側端子に出力される電力に変換する。
【0096】
回路部は、入力側端子(CH1,CL1)と、入力側端子と並列接続され、スイッチング素子を含む入力側電力変換回路とを含む入力側回路と、出力側端子(CH2,CL2,CH3,CL3)と、出力側端子と並列接続され、スイッチング素子を含む出力側電力変換回路とを含む出力側回路と、入力側端子と、出力側端子との間を絶縁するトランス80と、を備える。
【0097】
制御部は、入力側電力変換回路のスイッチング素子を制御する入力側制御装置と、出力側電力変換回路のスイッチング素子を制御する出力側制御装置と、を含む制御部と、を備える。
【0098】
回路部は、さらに、入力側回路の電流を検出する入力側電流センサと、出力側回路の電流を検出する出力側電流センサと、を備える。そして、制御部は、入力側電流センサの検出値または出力側電流センサの検出値に基づいて、電力変換回路における異常の発生を検出した場合に、入力側電力変換回路と、出力側電力変換回路とを所定の優先順位に基づいて停止させる。所定の優先順位は、例えば、電力変換回路の異常状態の悪化を抑制するように設定でき、これによって、複数のマイコン間での通信の不具合があった場合にも、適切に電力変換回路の停止処理を実行することができる。その結果、電力変換装置およびこれに接続する機器の故障や破損を防止できる。
【0099】
所定の優先順位は、具体的には、下記のように設定してもよい。例えば、制御部は、電力変換回路における異常の発生を検出した場合に、入力側電力変換回路を、出力側電力変換回路よりも優先的に停止するように構成されていてもよい。入力側電力変換回路を停止すると出力側電力変換回路に電力が流れ込まなくなるため、マイコン間の通信遅延により出力側電力変換回路の停止が遅れても、過電流が発生することを抑制できる。その結果、過電流により電力変換装置を構成する機器が破損する等により、電力変換回路の異常状態が悪化することを抑制できる。
【0100】
また、例えば、制御部は、入力側電流センサの検出値が入力側電流閾値を超えた場合に、入力側電力変換回路を停止し、出力側電流センサの検出値が出力側電流閾値を超えた場合に、出力側電力変換回路を停止するように構成されていてもよい。この場合、入力側電流閾値は、出力側電流閾値と、トランスの入力側コイル巻数に対する出力側コイルの巻数の比である巻数比との積以下の値に設定されてもよい。このように入力側電流閾値および出力側電流閾値を設定することにより、2ポートの電力変換装置において、より確実に、入力側電力変換回路を、出力側電力変換回路よりも優先的に停止させることができる。
【0101】
また、入力側電流閾値および出力側電流閾値は、回路部についての回路定数と、制御部が回路部を制御する際の制御定数との少なくともいずれか一方に基づいて、トランスを流れるトランス電流を推定し、トランス電流の推定値に基づいて、入力側電力変換回路を、出力側電力変換回路よりも優先的に停止するように設定されてもよい。トランス電流を推定することにより、電力変換装置の動作状態に影響されることなく、入力側電力変換回路を、出力側電力変換回路よりも優先的に停止するように精度よく入力側電流閾値を設定できる。
【0102】
上記の電力変換装置では、入力側電力変換回路および出力側電力変換回路は、フルブリッジ回路またはハーフブリッジ回路であってもよい。
【0103】
また、入力側電流センサは、入力側端子から入力される入力電流を検出し、出力側電流センサは、出力側端子に出力される出力電流を検出するように構成されていてもよい。
【0104】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0105】
50…第1インバータ、60…第2インバータ、70…第3インバータ、80…トランス、94…第1電流センサ、95…第2電流センサ、96…第3電流センサ、97…第1トランス電流センサ、98…第2トランス電流センサ、99…第3トランス電流センサ、 100,200,300…主制御装置、110,210,310…第1従制御装置、120,220,320…第2従制御装置、140,150,240,340…電力変換装置