IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ミツバの特許一覧

<>
  • 特許-モータ制御装置 図1
  • 特許-モータ制御装置 図2
  • 特許-モータ制御装置 図3
  • 特許-モータ制御装置 図4
  • 特許-モータ制御装置 図5
  • 特許-モータ制御装置 図6
  • 特許-モータ制御装置 図7
  • 特許-モータ制御装置 図8
  • 特許-モータ制御装置 図9
  • 特許-モータ制御装置 図10
  • 特許-モータ制御装置 図11
  • 特許-モータ制御装置 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/08 20160101AFI20240105BHJP
   H02P 6/08 20160101ALI20240105BHJP
【FI】
H02P25/08
H02P6/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020192769
(22)【出願日】2020-11-19
(65)【公開番号】P2022081313
(43)【公開日】2022-05-31
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁田原 知明
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-088907(JP,A)
【文献】特開2014-220985(JP,A)
【文献】特開平05-049283(JP,A)
【文献】特開2018-019544(JP,A)
【文献】特開2013-233071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/08
H02P 6/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相のSRモータの各相に対応するコイルの通電を切り替えることにより、前記SRモータの駆動を制御するモータ制御装置であって、
前記SRモータに要求される負荷から前記各相のコイルに流す電流の目標値の最大値である最大電流指令値を生成する電流指令値生成部と、
前記各相のコイルに流す電流を制御する電流制御部と、を備え、
前記電流制御部は、前記最大電流指令値に応じて、前記各相のコイルに流す電流波形が正弦波状に変化する場合、通電角を180度より小さくするよう前記電流波形を補正する波形補正部を備える
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のモータ制御装置であって、
前記最大電流指令値毎の周波数補正係数を記憶するマップ記憶部をさらに備え、
前記波形補正部は、生成された前記最大電流指令値に応じた前記周波数補正係数を用いて前記正弦波状に変化する前記電流波形の周波数を補正し、補正後の前記各相のコイルに流す前記正弦波状に変化する電流の位相差を、前記SRモータの相数により定まる基本位相差に補正する
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項2記載のモータ制御装置であって、
前記波形補正部は、前記位相差補正後の前記各相のコイルに流す電流波形の、通電範囲外の波形を電流値が0の波形にする
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項2記載のモータ制御装置であって、
前記SRモータは励磁コイルが3相設けられた3相のSRモータであり、
前記基本位相差は、120度である
ことを特徴とするモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御技術に関する。特に、スイッチトリラクタンスモータ(SRモータ)の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータに永久磁石や巻き線が不要なSRモータに関し、使用状態に応じてモータ特性を変更可能な制御技術が知られている。例えば、特許文献1には、「通電相を一方の相から他方の相に切り替える場合に、前記一方の相と前記他方の相との両方の相に通電するオーバーラップ区間を設ける通電タイミング出力部と、前記オーバーラップ区間の少なくとも一部の区間において、前記一方の相と前記他方の相との少なくともいずれかの相に流す電流を徐々に変化させる電流制御部と、を備える(要約抜粋)」モータ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-10576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の技術では、SRモータの各相のコイルに流す電流を矩形波に基づいて制御する矩形波通電制御を行っているため、トルク特性はよいが騒音の面で課題が残る。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、トルク特性の向上と静音化とを両立させるモータ制御技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、多相のSRモータの各相に対応するコイルの通電を切り替えることにより、前記SRモータの駆動を制御するモータ制御装置であって、要求負荷から前記各相のコイルに流す電流の目標値の最大値である最大電流指令値を生成する電流指令値生成部と、前記各相のコイルに流す電流を正弦波に基づいて制御する電流制御部と、を備え、前記電流制御部は、前記最大電流指令値に応じて前記正弦波を補正する波形補正部を備え、前記波形補正部は、前記正弦波の通電角を小さくするよう補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、トルク特性の向上と静音化とを両立させるモータ制御技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(a)および(b)は、本発明の実施形態の概要を説明するための説明図である。
図2】(a)は、本発明の実施形態のモータ制御装置が適用される車両制御システムを、(b)は、本発明の実施形態のSRモータを、それぞれ説明するための説明図である。
図3】本発明の実施形態のモータ制御装置の構成図である。
図4】本発明の実施形態の電流制御部とマップ記憶部のブロック図である。
図5】(a)~(c)は、本発明の実施形態の通電角補正処理を説明するための説明図である。
図6】(a)は、本発明の実施形態のオフセット値マップの他の例を説明するための説明図であり、(b)は、本発明の実施形態の範囲外除去処理を説明するための説明図である。
図7】本発明の実施形態の電流制御処理のフローチャートである。
図8】ベクトル制御を適用した場合のモータ制御装置のブロック図である。
図9】本発明の実施形態の変形例のベクトル制御を適用したモータ制御装置のブロック図である。
図10】本発明の実施形態の変形例のモータ制御処理のフローチャートである。
図11】(a)および(b)は、本発明の実施形態の変形例の通電角補正を説明するための説明図である。
図12】(a)~(d)は、本発明の実施形態の他の変形例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。以下、本実施形態では、3相のSRモータを例にあげて説明する。しかしながら、SRモータの相数は、これに限定されない。
【0010】
本実施形態のモータ制御装置は、正弦波駆動方式でSRモータを駆動制御する。正弦波駆動方式は、ロータの回転位置(ロータ電気角)に応じて電流指令値が正弦波状に変化する正弦波電流を、3相の励磁コイルに流して、ロータを駆動(回転駆動)する駆動方式である。正弦波駆動方式によれば、電流の変化が滑らかでトルク脈動が少ないため、静音化を図ることができる。
【0011】
さらに、本実施形態のモータ制御装置は、要求負荷(トルク)に応じて、正弦波電流の通電角を制御する。これは、高トルク化を実現するためであり、本実施形態のモータ制御装置は、各相の電流が流れている区間が重なって生じるトルクが負の値となる領域を低減することにより実現する。
【0012】
具体的には、モータ制御装置は、図1(a)に示す正弦波電流の周波数を、図1(b)に示すように高くし、通電角を小さくする補正を行う。通電角を小さくするため、モータ制御装置は、補正後の正弦波電流に対し、各相の位相差を、SRモータの相数により定まる基準位相差に補正する。さらに、モータ制御装置は、通電領域以外の領域の相電流値を0とする。
【0013】
[車両制御システム]
以下、SRモータが電気自動車(以下、車両と呼ぶ。)の原動機として用いられる場合を例に本実施形態を説明する。まず、本実施形態のモータ制御装置が適用される車両制御システム100について、図2(a)を用いて説明する。
【0014】
車両制御システム100は、車両を操作するための操作子の操作量や操作状態に応じてSRモータの駆動力を制御する。操作子は、例えば、運転者が車両に種々の挙動を与えるための操作対象物であり、車両の速度調整を行うためのアクセルペダルやドライブ、後退、ニュートラル、パーキングなどの車両状態のレンジを選択するためのシフトレバーが含まれる。これらの操作子には、例えば、操作子の操作量や操作状態に連動して電気的な出力値を出力するセンサが設けられている。各センサの出力値は、モータ制御装置に入力される。以下、本実施形態の車両制御システム100は、操作子としてアクセルペダルに取り付けられたセンサからの出力値を用いる。
【0015】
図2(a)に示すように、車両制御システム100は、モータ制御装置200と、SRモータ120と、レゾルバ121と、アクセル操作検出部112と、を備える。
【0016】
アクセル操作検出部112は、アクセル信号を検出し、モータ制御装置200に出力する。アクセル信号は、スロットルポジションセンサからの出力値である。スロットルポジションセンサは、アクセルペダル111に設けられ、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)によって変化する回転角を検出するセンサである。スロットルポジションセンサは、例えば、ポテンショメータであり、アクセルペダル111の回転軸等に設けられ、アクセルペダル111の回転角に応じて抵抗値が変化する。スロットルポジションセンサからの出力値は、アクセル開度と比例する。アクセル操作検出部112は、スロットルポジションセンサに電圧を与えて、この抵抗値を検出する。そして、アクセル操作検出部112は、検出した抵抗値をAD変換してモータ制御装置200に出力する。
【0017】
SRモータ120は、リアギア114を介して後輪115を駆動する多相の駆動用モータである。例えば、図2(b)に示すように、SRモータ120は、複数の励磁コイルを有するステータ122と、ステータ122内に回転自在に配置されたロータ123とを備える。ロータ123は、4つの突極部を備える。各突極部は、回転軸124から径方向の外方に向かって突出するよう形成される。ステータ122は、ロータ123の回転軸124と同芯にロータ123の周囲を覆うように設けられ、6つの突極を備える。各突極は、ロータ123の回転軸124に向かって径方向の内方に突出するよう形成される。
【0018】
ステータ122の6つの突極には、それぞれ導線が巻かれて励磁コイルが形成される。6つの突極のうち、対向する突極を対として励磁コイルLu,Lv,Lwが形成される。ロータ123の回転位置は、レゾルバ121によって検知される。
【0019】
レゾルバ121は、SRモータ120のロータ123の位置(ロータ回転角)を検出する回転角センサである。レゾルバ121は、検出結果を回転角信号としてモータ制御装置200に出力する。
【0020】
モータ制御装置200は、SRモータ120の駆動を制御する。本実施形態では、モータ制御装置200は、アクセル操作検出部112から取得するアクセル信号とレゾルバ121から取得する回転角信号とに基づいて、SRモータ120の駆動を制御する。具体的には、モータ制御装置200は、アクセル信号に基づいて、SRモータ120に流す電流の目標値の最大値である最大電流指令値を算出する。そして、モータ制御装置200は、SRモータ120に流れる電流値が、最大電流指令値と回転角信号に応じたロータ回転角とで定まる電流指令値になるようにフィードバック制御を行う。
【0021】
また、モータ制御装置200は、各励磁コイルLu,Lv,Lwへの通電を切り替えることにより、SRモータ120を駆動する。ここでは、モータ制御装置200は、レゾルバ121の検出結果に基づいて、ロータ回転角を得、それに応じて、一対の各励磁コイルLu,Lv,Lwに対して選択的に順次通電するよう制御する。これにより、ステータ122の突極にロータ123の突極が磁気吸引されながら回転を繰り返し、ロータ123に回転トルクが発生してSRモータ120に回転駆動力が発生する。
【0022】
その他、車両制御システム100は、シフトポジションセンサ等を備えてもよい。シフトレバーには、シフトポジションセンサが設けられており、シフトレバーのレンジの切替位置を検出する。シフトポジションセンサは、例えば、各レンジに設けられたスイッチにより、いずれのレンジにシフトレバーが位置しているか検出する。シフトポジションセンサは、シフトレバーのポジションの位置を検出し、検出した検出値をモータ制御装置200に出力する。シフトポジションセンサは、シフトレバーのレンジに応じて異なる抵抗値をモータ制御装置200に出力する。
【0023】
[モータ制御装置]
次に、モータ制御装置200の構成について説明する。図3に示すように、モータ制御装置200は、駆動回路210と、駆動回路制御装置240と、を備える。
【0024】
駆動回路210は、バッテリ113からSRモータ120へ入力される電力をスイッチングして各相の励磁コイルLu,Lv,Lwに供給する。スイッチングは、駆動回路制御装置240からのゲート信号(駆動信号)に従って行われる。
【0025】
駆動回路制御装置240は、ステータ122の各相の励磁コイルLu,Lv,Lwへの通電や切替えを制御する。本実施形態では、駆動回路制御装置240は、ゲート信号を生成し、駆動回路210に出力する。
【0026】
[駆動回路]
駆動回路210は、駆動回路制御装置240から出力されるゲート信号に基づいて、スイッチング動作を行い、バッテリ113の電源電圧を、3相(U相、V相、W相)の交流電圧として、励磁コイルLu,Lv,Lwに通電信号として供給する。
【0027】
駆動回路210は、例えば、バッテリ113に接続される。駆動回路210は、コンデンサ211、スイッチング素子221~226およびダイオード231~236を備える。スイッチング素子221~226は、例えば、n型チャネルのFETである。例えば、スイッチング素子221~226は、IGBT(Insulated gate bipolar transistor)、FET(Field Effective Transistor)、およびBJT(bipolar junction transistor)のいずれか一つで構成されてもよい。
【0028】
コンデンサ211は、一端がバッテリ113の正極に接続され、他端がバッテリ113の負極に接続される。コンデンサ211は、平滑用コンデンサであり、バッテリ113の電圧変動に対して電源を安定化させる。
【0029】
スイッチング素子221は、ドレインがバッテリ113の正極に接続され、ソースがダイオード231のカソードに接続される。ダイオード231のアノードは、バッテリ113の負極に接続される。ダイオード232は、カソードがバッテリ113の正極に接続され、アノードがスイッチング素子222のドレインに接続される。スイッチング素子222のソースは、バッテリ113の負極に接続される。
【0030】
スイッチング素子223は、ドレインがバッテリ113の正極に接続され、ソースがダイオード233のカソードに接続される。ダイオード233のアノードは、バッテリ113の負極に接続される。ダイオード234は、カソードがバッテリ113の正極に接続され、アノードがスイッチング素子224のドレインに接続される。スイッチング素子224のソースは、バッテリ113の負極に接続される。
【0031】
スイッチング素子225は、ドレインがバッテリ113の正極に接続され、ソースがダイオード235のカソードに接続される。ダイオード235のアノードは、バッテリ113の負極に接続される。ダイオード236は、カソードがバッテリ113の正極に接続され、アノードがスイッチング素子226のドレインに接続される。スイッチング素子226のソースは、バッテリ113の負極に接続される。
【0032】
すなわち、コンデンサ211と、直列に接続されたスイッチング素子221およびダイオード231と、直列に接続されたスイッチング素子222およびダイオード232と、直列に接続されたスイッチング素子223およびダイオード233と、直列に接続されたスイッチング素子224およびダイオード234と、直列に接続されたスイッチング素子225およびダイオード235と、直列に接続されたスイッチング素子226およびダイオード236とは、それぞれバッテリ113に対して並列に接続される。
【0033】
また、スイッチング素子221とダイオード231との接続点には、SRモータ120の励磁コイルLuの一端が接続され、スイッチング素子222とダイオード232との接続点には、励磁コイルLuの他端が接続される。スイッチング素子223とダイオード233との接続点には、SRモータ120の励磁コイルLvの一端が接続され、スイッチング素子224とダイオード234との接続点には、励磁コイルLwの他端が接続される。スイッチング素子225とダイオード235との接続点には、SRモータ120の励磁コイルLwの一端が接続され、スイッチング素子226とダイオード236との接続点には、励磁コイルLwの他端が接続される。
【0034】
スイッチング素子221,222、ダイオード231,232でHブリッジ回路を構成し、スイッチング素子221,222のオンオフにより励磁コイルLuに磁性を発生することができる。スイッチング素子223,224、ダイオード233,234でHブリッジ回路を構成し、スイッチング素子223,224のオンオフにより励磁コイルLvに磁性を発生することができる。スイッチング素子225,226、ダイオード235,236でHブリッジ回路を構成し、スイッチング素子225,226のオンオフにより励磁コイルLwに磁性を発生することができる。
【0035】
上述のように、駆動回路210は、3つのHブリッジ回路により構成される。そして、駆動回路制御装置240から出力されるゲート信号がスイッチング素子221~226のゲートに入力され、入力される制御信号に応じて、スイッチング素子221~226のオンとオフとが切り替えられる。これにより、バッテリ113からの電流が、SRモータ120が有する励磁コイルLu,Lv,Lwそれぞれに通電される。なお、スイッチング素子221~226がオフ状態となった場合、ダイオード231~236は、励磁コイルLu,Lv,Lwの電流の逆流を防止する。
【0036】
電流センサ212は、SRモータ120が有する励磁コイルLu,Lv,Lwそれぞれに流れる電流を検出して駆動回路制御装置240に出力する。駆動回路制御装置240は、これを受け、駆動回路210にゲート信号を出力し、スイッチング素子221~226を制御して励磁コイルLu,Lv,Lwにそれぞれ通電するタイミングによりロータ123の回転方向、回転速度、トルクを制御する。
【0037】
[駆動回路制御装置]
駆動回路制御装置240は、多相のSRモータ120の各相に対応する励磁コイルLu,Lv,Lwの通電を切り替えることにより、前記SRモータの駆動を制御する。駆動回路制御装置240は、ゲート信号を駆動回路210に出力することで、励磁コイルLu,Lv,Lwを、通電信号により通電し、SRモータ120のロータ123を駆動する。
【0038】
本実施形態の駆動回路制御装置240は、正弦波電流により駆動する正弦波駆動を行う。そして、駆動回路制御装置240は、要求負荷に応じて、正弦波電流の通電角を制御する。具体的には、要求負荷の増加に応じて、通電角を360°から小さくする。以下、本明細書では、SRモータ120のロータ123の駆動に用いる電流の波形を「駆動電流波形」と呼ぶ。
【0039】
以下、本実施形態における駆動回路制御装置240について説明する。図3に示すように、駆動回路制御装置240は、電流指令値生成部241と、電流検出部242と、位置検出部243と、回転速度検出部244と、電流制御部245と、PWM(Pulse Width Modulation)出力部246と、進角設定部247と、通電タイミング出力部248と、ゲート駆動部249と、マップ記憶部250と、を備える。
【0040】
電流指令値生成部241は、要求負荷からSRモータ120の各相の励磁コイルLu,Lv,Lwに流す電流の目標値の最大値(以下、「最大電流指令値」)を生成する。具体的には、電流指令値生成部241は、アクセル操作検出部112から出力されたアクセル信号を取得し、アクセル信号の値に応じて、最大電流指令値を生成する。そして、電流指令値生成部241は、生成した最大電流指令値を電流制御部245と、進角設定部247と、に出力する。
【0041】
例えば、電流指令値生成部241は、アクセルペダル111の操作量と最大電流指令値とが関連付けられたテーブルを備え、アクセル操作検出部112から出力されたアクセル信号が示すアクセルペダル111の操作量に対応する最大電流指令値を、そのテーブルから読み出すことで、最大電流指令値を生成する。また、電流指令値生成部241は、アクセル操作検出部112から出力されたアクセル信号が示すアクセルペダル111の操作量から、実験的に最大電流指令値を決定してもよい。
【0042】
なお、シフトポジションセンサを備え、シフト信号の入力がある場合は、電流指令値生成部241は、シフト信号に基づいてシフトレバーのシフトポジションがリバースのレンジに入れられており、後進走行ポジションであると判定した場合には、SRモータ120の回転方向が逆回転であると判定する。そして、電流指令値生成部241は、SRモータ120の回転方向が逆回転であることを示す回転方向指令信号を電流制御部245に出力してもよい。
【0043】
電流検出部242は、電流センサ212より出力されるSRモータ120の励磁コイルLu,Lv,Lwそれぞれに流れる電流値を検出し、電流検出値として電流制御部245に出力する。電流検出部242は、例えば、各電流センサ212から出力される各相電流(巻線電流)の検出信号に基づき、SRモータ120に通電されている相電流を検出し、この相電流の検出値を電流制御部245に出力する。
【0044】
位置検出部243は、レゾルバ121が出力する信号に基づいて、ロータ電気角を検出して、回転速度検出部244、電流制御部245および通電タイミング出力部248に出力する。
【0045】
回転速度検出部244は、ロータ123の回転速度(ロータ回転速度)を算出し、電流制御部245および進角設定部247に出力する。本実施形態では、回転速度検出部244は、位置検出部243が出力するロータ電気角の単位時間あたりの変化量を検出し、検出した変化量からロータ回転速度(回転数)を算出する。
【0046】
電流制御部245は、SRモータ120の各相の励磁コイルLu,Lv,Lwに流す電流を所定の波形(駆動電流波形)に基づいて制御する通電制御を行う。電流制御部245は、電流指令値生成部241から出力される最大電流指令値と、位置検出部243が検出したロータ電気角と、回転速度検出部244から出力されるロータ回転速度と、電流検出部242が検出した各励磁コイルLu,Lv,Lwの電流検出値と、を用いて、電流差分値を算出する。算出した電流差分値は、PWM出力部246に出力される。ここで算出される電流差分値は、最大電流指令値、駆動電流波形およびロータ電気角により定まる電流指令値と電流検出値との偏差である。
【0047】
また、本実施形態の電流制御部245は、正弦波電流に基づいて通電制御を行う。ただし、電流制御部245は、最大電流指令値に応じて、正弦波電流の通電角を変化させる。本実施形態の電流制御部245は、これを、駆動電流波形である正弦波の周波数を変化させる等の補正を行うことにより実現する。このため、本実施形態の電流制御部245は、図4に示すように、波形補正部255を備える。
【0048】
波形補正部255は、電流制御部245が制御に用いる駆動電流波形(所定の波形)である正弦波を最大電流指令値に応じて補正する通電角補正処理を行う。本実施形態では、要求負荷が大きくなるほど、予め用意された基本となる正弦波(基本正弦波)の通電角が小さくなるよう補正する。補正は、マップ記憶部250に記憶される補正項である周波数補正係数とオフセット値とを用いて、予め定めた電流制御周期(例えば、25μ秒)毎に行われる。通電角補正処理の詳細は、後述する。
【0049】
なお、本実施形態では、電流制御周期は、電流指令値生成部241による最大電流指令値生成周期より短く設定される。電流制御部245は、電流指令値生成部241から出力された最大電流指令値を、一時的に保存し、処理時に最新の値を用いる。
【0050】
PWM出力部246は、電流制御部245が生成した電流差分値が減少するように、スイッチング素子221~226のデューティ比を決定する。PWM出力部246は、算出したデューティ比をゲート駆動部249に出力する。なお、PWM出力部246は、電流差分値に基づいて、公知のPI(Proportional Integral)制御、または、PID(Proportional Integral Derivative)制御等を用いて上述のデューティ比を算出してもよい。
【0051】
進角設定部247は、電流指令値生成部241から出力された最大電流指令値と、回転速度検出部244から出力されたロータ回転速度と、に応じて、進角を決定し、通電タイミング出力部248に出力する。進角は、マップ記憶部250から取得する。
【0052】
通電タイミング出力部248は、位置検出部243から出力されるロータ電気角と、進角設定部247から出力される進角とに基づいて、SRモータ120の各相の各励磁コイルLu,Lv,Lwそれぞれに通電する通電タイミングを決定する。そして、通電タイミング出力部248は、決定した通電タイミングをゲート駆動部249に出力する。
【0053】
ゲート駆動部249は、は、通電タイミング出力部248から出力されたタイミング信号と、PWM出力部246から出力されたデューティ比とに基づいて、駆動回路210が備えるスイッチング素子221~226をオン状態またはオフ状態にする制御信号(PWM信号)を、スイッチング素子221~226のゲートに出力する。
【0054】
マップ記憶部250には、進角マップ251と、周波数補正係数マップ252と、オフセット値マップ253と、が記憶される。
【0055】
進角マップ251は、最大電流指令値とロータ回転速度との組み合わせごとに進角の値を対応付けたマップである。ここで、進角は、SRモータ120の各相の励磁コイルLu,Lv,Lwそれぞれに対する通電開始位相および通電終了位相を各相のインダクタンス変化に応じた所定位置(例えば、インダクタンスの増大開始位相および減少開始位相等)から通電角を進角側に変化させる角度を表す。なお、進角は、最大電流指令値とロータ回転速度との増加に対して増加傾向にある。進角マップ251は、例えば、シミュレーションの結果に基づいて設定される。進角マップ251は、シミュレーションの結果だけでなく、実機を測定した測定結果に基づいて設定されてもよい。
【0056】
周波数補正係数マップ252は、アクセル開度により定まる最大電流指令値に対応づけて周波数補正係数を記憶するマップである。周波数補正係数は、波形補正部255が通電角補正時に用いる補正項であり、補正対象の波形の周波数を変えるために用いられる。この周波数補正係数は、最大電流指令値の増加に対し、最適な通電角が得られるよう設定される。また、最適な通電角は、トルクが一番高くなる通電角である。なお、基本正弦波をそのまま用いる場合は、周波数補正係数は1が記憶される。
【0057】
オフセット値マップ253は、周波数補正係数に対応付けてオフセット値を記憶するマップである。オフセット値は、波形補正部255が通電角補正時に用いる補正項であり、補正対象の波形の位相を変えるために用いられる。このオフセット値は、周波数補正係数に応じた値が設定される。具体的には、周波数が変わっても、各相の電流指令値が最大となるロータ電気角間の差の値が維持されるよう設定される。なお、基本正弦波をそのまま用いる場合は、オフセット値は0が記憶される。
【0058】
[通電角補正処理]
次に、本実施形態の、波形補正部255による通電角補正処理について、図と式とを用いて説明する。駆動回路制御装置240から出力される、U相、V相、W相の電流指令値は、図5(a)に示すように、それぞれ120°の位相差を有する。なお、本図では、U相電流指令値を実線で、V相電流指令値を破線で、W相電流指令値を一点鎖線で、それぞれ示す。
【0059】
図5(a)に示される電流指令値は、駆動電流波形が基本正弦波の場合のロータ電気角に応じた各相の電流指令値である。これらを式で表すと以下の通りである。
Iu_ref = (Imax × SINθ + Imax)/2
Iv_ref = (Imax × SIN(θ+(120 × (π/180))) + Imax)/2
Iw_ref = (Imax × SIN(θ-(120 × (π/180))) + Imax)/2
・・・(1)
ここで、Iu_ref、Iv_ref、Iw_ref、Imax、θは、それぞれ、以下を表す。
Iu_ref:U相電流指令値[A]、
Iv_ref:V相電流指令値[A]、
Iw_ref:W相電流指令値[A]、
Imax:最大電流指令値[A]、
θ:ロータ電気角[rad]
【0060】
まず、波形補正部255は、図5(b)に示すように、各相の電流指令値(正弦波電流)の周波数を増加させる周波数補正を行う。波形補正部255は、この周波数補正に、マップ記憶部250に記憶される、最大電流指令値に対応付けられた周波数補正係数を用いる。
【0061】
ここでは、ロータ電気角θに周波数補正係数を乗算することにより補正する。補正後の各相の正弦波電流(ロータ電気角θ毎の電流指令値)は、以下の式(2)で表される。
Iu_ref = (Imax × SIN(fa×θ) + Imax)/2
Iv_ref = (Imax × SIN(fa×(θ+(120×(π/180)))) + Imax)/2
Iw_ref = (Imax × SIN(fa×(θ-(120×(π/180)))) + Imax)/2
・・・(2)
ここで、faは周波数補正係数である。例えば、fa=1の時lu_refの周波数が50Hzであれば、fa=2の時は、100Hzになる。
【0062】
次に、波形補正部255は、各相の正弦波電流の位相差(同じ電流指令値のロータ電気角の差)が補正前と同じになるよう位相差補正を行う。補正前の位相差(基本位相差)は、SRモータ120の相数で定まる。例えば、3相のSRモータ120では、図5(a)に示すように、基本位相差は120°である。
【0063】
周波数補正係数faを用いて周波数補正を行うと、位相差は、図5(b)に示すように小さくなる。ここでは、一例として各相の正弦波電流の位相差が80°になる場合を示す。
【0064】
波形補正部255は、各相の正弦波電流の位相差が、基本位相差(120°)になるよう補正する。この場合の補正後の各相の正弦波電流(ロータ電気角θ毎の電流指令値)は、以下の式で表される。
Iu_ref = (Imax × SIN((fa ×θ) + fo_u) + Imax)/2
Iv_ref = (Imax × SIN((fa ×θ) + (120 ×(π/180)) + fo_v) + Imax)/2
Iw_ref = (Imax × SIN((fa ×θ) - (120 ×(π/180)) + fo_w) + Imax)/2
・・・・(3)
ここで、fo_u、fo_v、fo_wは、各相のオフセット値であり、周波数補正係数faとSRモータ120の相数とにより定まる。例えば、U相の電流指令値が最大となるロータ電気角を特定し、その後、各相の電流指令値が最大となるロータ電気角を決定する。
【0065】
U相の電流指令値が最大となるロータ電気角(通電角中心;θu_max)は、以下の式(4)を満たすロータ電気角として算出できる。
Imax = (Imax × SIN(fa×θu_max)+Imax)/2 ・・・(4)
V相の電流指令値が最大となるロータ電気角(θv_max)およびW相の電流指令値が最大となるロータ電気角(θw_max)は、以下の式で算出される。
θv_max = θu_max+(120×(π180))) ・・・(5)
【0066】
なお、通電角が基本波形(通電角180°)より小さい場合、通電角中心となる解が2つ以上存在する。このような場合は、周波数補正前の通電角中心に最も近い値を採用する。
【0067】
また、波形補正部255は、図6(a)に示すように、通電角毎のオフセット値(fo)のマップを作成することにより、オフセット値を得てもよい。
【0068】
最後に、波形補正部255は、図6(b)に示すように、通電領域外の電流指令値を0とする範囲外除去処理を行う。ここでは、本図に示すように、波形補正部255は、通電角中心を中心とし、通電角の幅(ここでは、360度)範囲を通電領域とする。各相について、通電角中心を求め、本処理を行う。
【0069】
[電流制御処理]
次に、上記波形補正部255による通電角補正処理を含む、電流制御部245による電流制御処理の流れを説明する。本処理は、予め定めた電流制御周期S毎に行われる。図7は、本実施形態の電流制御処理の処理フローである。
【0070】
電流制御部245は、各相の電流検出値I_u*、I_v*、I_w*と、ロータ電気角θ*と、最新の最大電流指令値Imax*とを取得する(ステップS1101)。
【0071】
波形補正部255は、最新の最大電流指令値Imax*に対応づけてマップ記憶部250に記憶される周波数補正係数fa(Imax*)と、取得した周波数補正係数fa(Imax*)に対応づけてマップ記憶部250に記憶されるオフセット値(fo_u(fa),fo_v(fa),fo_w(fa))とを取得する(ステップS1102)。
【0072】
波形補正部255は、取得した周波数補正係数およびオフセット値を用い、各相の電流指令値に対し、それぞれ、周波数補正および位相差補正を行う(ステップS1103)。ここでは、波形補正部255は、上記式(3)に基づき、ロータ電気角θ*における電流指令値Iu_ref、Iv_ref、Iw_refを、それぞれ算出する(ステップS1103)。
【0073】
そして、波形補正部255は、各相の電流指令値それぞれについて、ロータ電気角θ*が通電範囲内であるか否かを判別する(ステップS1104)。そして、通電範囲内であれば、そのままとし、一方、通電範囲外であれば、通電をOFFにする(ステップS1105)。なお、通電をOFFにするとは、電流指令値を0にすることである。
【0074】
最後に、電流制御部245は、波形補正部255が得た各相の電流指令値について、電流検出値との差分を電流差分値として算出し(ステップS1106)、処理を終了する。
【0075】
以上説明したように、本実施形態のモータ制御装置200は、3相のSRモータ120の各相に対応するコイル(励磁コイルLu,Lv,Lw)の通電を切り替えることにより、SRモータ120の駆動を制御するモータ制御装置200であって、要求負荷から各相のコイルに流す電流の目標値の最大値である最大電流指令値を生成する電流指令値生成部241と、各相のコイルに流す電流を正弦波に基づいて制御する電流制御部245と、を備える。そして、電流制御部245は、最大電流指令値に応じて正弦波を補正する波形補正部255を備える。この波形補正部255は、正弦波の通電角を小さくするよう補正する。
【0076】
このように、本実施形態の波形補正部255は、アクセル信号により定まる最大電流指令値に応じて、正弦波電流の通電角を補正する。アクセル信号は、要求トルクに比例して値が変化するため、本実施形態では、要求トルクに応じて、正弦波電流の通電角を変化させることができる。このため、高いトルクが必要となる高回転高負荷領域において、通電角を小さくすることにより、高いトルク特性を得ることができる。
【0077】
また、本実施形態によれば、波形補正部255は、基本とする正弦波形を、予め記憶された補正項を用いて補正する。このため、計算のみで必要なトルクに応じた通電角を有する正弦波電流に補正することができる。すなわち、本実施形態によれば、駆動音の小さい正弦波駆動方式を維持しながら、トルク特性を向上でき、トルク特性の向上と静音化とを両立させることができる。
【0078】
[ベクトル制御]
なお、上記実施形態によるSRモータ制御には、ベクトル制御を適用することも可能である。ベクトル制御は、電流指令値を、磁束発生成分とトルク発生成分とに分け、各成分を独立して制御する手法である。ベクトル制御では、3相駆動の場合、モータ制御装置は、まず、U,V,Wの各相の電流指令値を取得し、それを、別の3軸の電流指令値(磁束発生成分:d軸電流Idと、トルク発生成分:q軸電流Iqと、0軸電流I0)に変換し、この3軸で電流制御処理と同等の処理を行う。以下、U,V,W各相を、「各相」と、d、q、0各軸を、「各軸」と、それぞれ略記する。
【0079】
ベクトル制御では、モータ制御装置は、一連のベクトル演算を、予め定めた制御周期毎に実行し、モータを駆動する。本変形例では、このベクトル演算を実行する電流制御周期内で、上記波形補正も行う。
【0080】
図8は、上記実施形態の波形補正処理を行わない場合の、ベクトル制御を適用したモータ制御装置201の構成を示すブロック図である。モータ制御装置201は、3相のSRモータ120に対してベクトル制御を行い、電気角で120°位相がずれた正弦波状の波形の3相電流を供給し、SRモータ120を駆動させる。このモータ制御装置201では、レゾルバ121で検出されたロータ123回転角を示す回転角信号と、電流センサ212で検出した各相に供給される電流値とに基づいて、SRモータ120をベクトル制御する。
【0081】
モータ制御装置201は、座標変換部311と、電圧指令生成部312と、電圧指令算出部313と、PWM出力部314と、を備える。
【0082】
座標変換部311は、電流センサ212で検出した各相の電流値(U相電流値Iu,V相電流値Iv,W相電流値Iw)を、各軸の電流(d軸電流Id,q軸電流Iq,0軸電流I0)に変換する。変換には、レゾルバ121からの信号を用いる。
【0083】
電圧指令生成部312は、電流指令信号(Id_ref,Iq_ref,I0_ref)とdq0電流(Id,Iq,I0)との差(偏差)に基づき、比例演算(P演算)を実施し、3軸(d,q,0)の電圧指令値(d軸電圧Vd,q軸電圧Vq,0軸電圧V0)を算出する。
【0084】
電圧指令算出部313は、電圧指令生成部312の後段には設けられ、各軸の電圧指令値(Vd,Vq,V0)を、各相の電圧信号(U相制御電圧Vu,V相制御電圧Vv,W相制御電圧Vw)に変換する。変換には、レゾルバ121からの回転角信号を用いる。
【0085】
PWM出力部314は、電圧指令算出部313の後段に設けられ、各相の制御電圧Vu,Vv,Vwから、各相のPWMduty値を算出する。そして、PWM出力部314は、各相のPWMduty値に応じて各相に適宜電力を供給する。
【0086】
これにより、SRモータ120は、各相の電流値をフィードバックしつつ、モータ制御装置201によってベクトル制御される。
【0087】
図9は、上記実施形態の通電角補正処理を適用する場合のモータ制御装置202の構成図である。また、図10は、通電角補正処理を含むベクトル制御によるモータ制御処理の流れを説明するための処理フローである。ここでは、モータ制御装置202は、電流指令値のうち、d、q軸の値(Id_ref,Iq_ref)に対し、各相について、通電角補正処理(周波数補正、位相差補正、および範囲外除去処理)を行う。そして、処理後の値と、各軸の電流(Id*、Iq*)との差(偏差)を算出する。なお、0軸の値(I0_ref)については、そのまま偏差を算出する。
【0088】
モータ制御装置202は、座標変換部311と、電圧指令生成部312aと、電圧指令算出部313aと、PWM出力部314と、波形補正部315と、を備える。各部の処理について、処理の流れとともに説明する。
【0089】
まず、波形補正部315は、d軸q軸の電流指令値を、それぞれ、U相、V相、W相の電流値に変換し(ステップS2101)、各相で周波数補正を行う(ステップS2102)。
【0090】
次に、波形補正部315は、各相の周波数補正後の電流指令値について、位相差補正を行う(ステップS2103)。
【0091】
波形補正部315は、各相の位相差補正後の電流値について、範囲外除去処理を行い、各相それぞれについて、d軸q軸の電流指令値(Id_u、Iq_u、Id_v、Iq_v、Id_w、Iq_w)を算出する(ステップS2104)。なお、波形補正部315は、0軸の電流指令値については、そのままI0_refを用いる。
【0092】
次に、波形補正部315は、各相の処理後の電流指令値(Id_u、Iq_u、Id_v、Iq_v、Id_w、Iq_w)および0軸の電流指令値(I0_ref)について、座標変換部311で変換後のdq0電流(Id,Iq,I0*)との偏差(電流差分値)を算出する(ステップS2105)。
【0093】
その後、電圧指令生成部312aは、dq軸については、各相の偏差に基づいて、0軸については、得られた偏差に基づいて、比例演算を実施し(P制御)、3相2軸の電圧指令値(Vd_u*,Vq_u*、Vd_v*,Vq_v*、Vd_w*,Vq_w*)と0軸の電圧指令値V0*と、を生成する(ステップS2106)。
【0094】
電圧指令算出部313aは、電圧指令生成部312aでの処理後の各相の電圧指令値を、各相の電圧信号(U相制御電圧Vu*,V相制御電圧Vv*,W相制御電圧Vw*)に変換する(ステップS2107)。変換には、レゾルバ121からの回転角信号を用いる。
【0095】
PWM出力部314は、各相の電圧信号Vu*,Vv*,Vw*から、各相のPWMduty値を算出する(ステップS2108)。そして、各相のPWMduty値に応じて各相U,V,Wに電力を供給し、処理を終了する。
【0096】
上記通電角補正処理および位相差補正を式で表すと、以下のとおりである。
まず、U,V,W各相の電流指令値(Iu_ref,Iv_ref,Iw_ref)を、d、q、0各軸の電流指令値(Id_ref,Iq_ref,I0_ref)に変換する際の式を以下の式(6)~式(11)に示す。
Id_ref =(Ia×cosθ)+(Ib×sinθ) ・・・(6)
Iq_ref =(Ia×cosθ)+(Ib×sinθ) ・・・(7)
I0_ref =Ic ・・・(8)
ここで、Ia,Ib,Icは、以下の式で表される。
【数9】
【数10】
【数11】
【0097】
本実施形態では、各相の電流指令値(Iu_ref,Iv_ref,Iw_ref)から、d、q、0各軸の電流指令値(Id_ref,Iq_ref,I0_ref)を算出する際、同時に周波数補正と、位相差補正とを行い、d軸q軸の電流指令値(Id_u、Iq_u、Id_v、Iq_v、Id_w、Iq_w)を算出する。周波数補正と位相差補正とは、各軸の電流指令値に対し、各相について行われる。両処理を含めた式は、以下のとおりである。ここでは、U相のみを示す。
Id_u=(Ia×cos((fa×θ)+fo_u))+(Ib×sin((fa×θ)+fo_u)) ・・・(12)
Iq_u=(Ia×cos((fa×θ)+fo_u))-(Ib×sin((fa×θ)+fao_u)) ・・・(13)
なお、例えば、補正を行わない場合、すなわち、周波数補正係数faが1であり、オフセット値が0の場合、上記式(6)~式(8)の電流指令値(Id_ref,Iq_ref,I0_ref)が、そのまま、各軸の電流指令値として偏差算出処理に用いられる。
【0098】
<変形例>
なお、上記実施形態では、通電角補正時、最大電流指令値は変化させていない。しかしながら、最大電流指令値を変化させてもよい。例えば、図11(a)に示すように、通電角を小さくする際に、電流密度が維持されるよう、最大電流指令値を大きくする。これにより、図11(b)に示すように、電流密度を維持した状態で、高いトルク化を実現できる。
【0099】
一般に、各励磁コイルの発熱量が電流密度により変化するため、SRモータ120に流すことができる電流の最大値(制限値)は、電流密度により定まる。図11(a)に示すように、電流密度を維持して通電角を小さくすることにより、SRモータ120に流す電流の最大値を変化させることなく、トルク特性を向上させることができる。
【0100】
さらに、図12(a)~図12(d)に示すように、目的に応じて、上記実施形態の通電角補正の手法(以下、第一手法と呼ぶ。)と、図11(a)で説明した通電角補正の手法(以下、第二手法と呼ぶ。)と、使い分けるよう構成してもよい。
【0101】
例えば、静音化重視である場合は、通電角補正を行わない。一方、より高トルク化を目指す場合は、図12(a)に示すように、第二手法で通電角補正を行う。これにより、図12(b)に示すように、正弦波駆動方式で、トルク特性を向上させることができる。また、静音化と高トルク化とを両立させたい場合は、図12(c)に示すように、第一手法で通電角補正を行う。これにより、図12(d)に示すように、マイナストルクの発生が低減するため、SRモータ120の効率が改善される。なお、第一手法によれば、通電角補正を行わない場合に比べてトルク特性が向上し、かつ、第二手法による場合に比べ、静音化を図ることができる。
【0102】
このように、各手法を使い分ける場合、例えば、ユーザによる選択を受け付ける受付部を設け、ユーザによる選択に応じて、切り替えて、処理を行う。
【0103】
<変形例>
上記実施形態では、モータ制御装置200を、SRモータ120の制御に適用する場合を例にあげて説明したが、制御対象のモータは、これに限定されない。例えば、ブラシレスモータにも適用できる。
【0104】
また、上述の実施形態において、ダイオード231~236は、IGBT、FETおよびBJT等のスイッチング素子に代替されてもよい。
【0105】
また、モータ制御装置200,202の各部は、ハードウェアにより実現されてもよく、ソフトウェアにより実現されてもよく、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせにより実現されてもよい。ソフトウェアで実現される場合、モータ制御装置200は、CPUと、メモリと、記憶装置とを備える。そして、CPUが、記憶装置に予め記憶されたプログラムを、メモリにロードして実行することにより、各機能を実現する。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な媒体に記憶されていてもよく、ネットワークに接続された記憶装置に記憶されていてもよい。なお、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体等のことをいう。また上記プログラムは、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。なお、マップ記憶部250は、記憶装置に構築される。
【0106】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0107】
100:車両制御システム、111:アクセルペダル、112:アクセル操作検出部、113:バッテリ、114:リアギア、115:後輪、120:SRモータ、121:レゾルバ、122:ステータ、123:ロータ、124:回転軸、
200:モータ制御装置、201:モータ制御装置、202:モータ制御装置、210:駆動回路、211:コンデンサ、212:電流センサ、221:スイッチング素子、222:スイッチング素子、223:スイッチング素子、224:スイッチング素子、225:スイッチング素子、226:スイッチング素子、231:ダイオード、232:ダイオード、233:ダイオード、234:ダイオード、235:ダイオード、236:ダイオード、
240:駆動回路制御装置、241:電流指令値生成部、242:電流検出部、243:位置検出部、244:回転速度検出部、245:電流制御部、246:PWM出力部、247:進角設定部、248:通電タイミング出力部、249:ゲート駆動部、250:マップ記憶部、251:進角マップ、252:周波数補正係数マップ、253:オフセット値マップ、255:波形補正部、
311:座標変換部、312:電圧指令生成部、312a:電圧指令生成部、313:電圧指令算出部、313a:電圧指令算出部、314:PWM出力部、315:波形補正部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12