IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プリベイル セラピューティクス,インコーポレーテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】神経変性疾患の遺伝子治療
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20240105BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20240105BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240105BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20240105BHJP
   C12N 15/866 20060101ALI20240105BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240105BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240105BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240105BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240105BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20240105BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240105BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240105BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240105BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240105BHJP
   C12N 15/35 20060101ALN20240105BHJP
   A61K 31/713 20060101ALN20240105BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALN20240105BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/85 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/56
C12N15/866 Z
C12N7/01
C12N5/10
A61P25/28
A61P21/00
A61P25/02
A61P43/00 111
A61P25/16
A61K48/00
A61K35/76
C12N15/35
A61K31/713
A61K31/7105
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2020523011
(86)(22)【出願日】2018-10-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 US2018057187
(87)【国際公開番号】W WO2019084068
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-10-18
(31)【優先権主張番号】62/742,723
(32)【優先日】2018-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/575,795
(32)【優先日】2017-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520118865
【氏名又は名称】プリベイル セラピューティクス,インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】PREVAIL THERAPEUTICS, INC.
【住所又は居所原語表記】Suite 940,430 East 29th Street,New York,NY 10016,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】アベリオビッチ,アサ
(72)【発明者】
【氏名】ヘックマン,ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】リーン,エルベ
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-508220(JP,A)
【文献】特表2007-525415(JP,A)
【文献】特表2015-514418(JP,A)
【文献】特表2017-510298(JP,A)
【文献】特表2016-503405(JP,A)
【文献】Molecular Therapy,24(Suppl.1),2016年,S291,738
【文献】Mol. Neurobiol.,2017年,54(6),pp.4466-4476,Epub 2016 Jun 28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/113
C12N 15/85
C12N 15/864
C12N 15/56
C12N 15/866
C12N 7/01
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
A61P 25/28
A61P 21/00
A61P 25/02
A61P 43/00
A61P 25/16
A61K 48/00
A61K 35/76
C12N 15/35
A61K 31/713
A61K 31/7105
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)(a)配列番号51に記載の配列によりコードされるC9orf72タンパク質;および
(b)配列番号39に記載の配列を含む、阻害性核酸
をコードする導入遺伝子を含む発現構築物、ならびに
(ii)発現構築物に隣接している2つのアデノ随伴ウイルス逆方向末端反復(ITR)配列
を含む、単離された核酸。
【請求項2】
導入遺伝子が、プロモーターに作動可能に連結されている、請求項1に記載の単離された核酸。
【請求項3】
プロモーターが、ニワトリベータ-アクチン(CBA)プロモーターである、請求項2に記載の単離された核酸。
【請求項4】
CMVエンハンサーをさらに含む、請求項3に記載の単離された核酸。
【請求項5】
ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の単離された核酸。
【請求項6】
ウシ成長ホルモンポリAシグナルテールをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の単離された核酸。
【請求項7】
各ITR配列が、野生型AAV2 ITR配列である、請求項1~6のいずれか一項に記載の単離された核酸。
【請求項8】
(i)配列番号51に記載の配列によりコードされる、C9orf72タンパク質;および
(ii)配列番号39に記載の配列を含む、阻害性核酸
をコードする導入遺伝子を含む発現構築物を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって;
発現構築物は、2つのアデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)に隣接している、
前記組換えAAVベクター。
【請求項9】
導入遺伝子が、プロモーターに作動可能に連結されている、請求項8に記載のrAAVベクター。
【請求項10】
プロモーターが、ニワトリベータ-アクチン(CBA)プロモーターである、請求項9に記載のrAAVベクター。
【請求項11】
CMVエンハンサーをさらに含む、請求項10に記載のrAAVベクター。
【請求項12】
ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)をさらに含む、請求項8~11のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項13】
ウシ成長ホルモンポリAシグナルテールをさらに含む、請求項8~12のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項14】
各ITR配列が、野生型AAV2 ITR配列である、請求項8~13のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項15】
5’から3’へ順番に、
(a)5’AAV逆方向末端反復(ITR);
(b)サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー;
(c)ニワトリベータ-アクチン(CBA)プロモーター;
(d)導入遺伝子であって、
配列番号51に記載の核酸配列によりコードされる、C9orf72タンパク質、ならびに、
配列番号39に記載の配列を含む、阻害性核酸
をコードする、前記導入遺伝子;
(e)ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE);
(f)ウシ成長ホルモン(BGH)ポリAシグナルテール;および
(g)3’AAV(ITR)
を含む核酸を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター。
【請求項16】
(i)AAVカプシドタンパク質;および
(ii)請求項8~15のいずれか一項に記載のrAAVベクター
を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
【請求項17】
AAVカプシドタンパク質が、AAV9カプシドタンパク質である、請求項16に記載のrAAV。
【請求項18】
請求項8~15のいずれか一項に記載のrAAVベクターを含む、プラスミド。
【請求項19】
請求項8~15のいずれか一項に記載のrAAVベクターを含む、バキュロウイルスベクター。
【請求項20】
(i)1種以上のアデノ随伴ウイルスrepタンパク質および/または1種以上のアデノ随伴ウイルスcapタンパク質をコードする、第1のベクター;ならびに
(ii)請求項8~15のいずれか一項に記載のrAAVベクターを含む、第2のベクター
を含む、細胞。
【請求項21】
第1のベクターがプラスミドであり、および第2のベクターがプラスミドである、請求項20に記載の細胞。
【請求項22】
細胞が、哺乳動物細胞である、請求項20または21に記載の細胞。
【請求項23】
哺乳動物細胞が、HEK293細胞である、請求項22に記載の細胞。
【請求項24】
第1のベクターがバキュロウイルスベクターであり、および第2のベクターがバキュロウイルスベクターである、請求項20に記載の細胞。
【請求項25】
細胞が、昆虫細胞である、請求項24に記載の細胞。
【請求項26】
請求項16または17に記載のrAAVを生成する方法であって、
(i)1種以上のアデノ随伴ウイルスrepタンパク質および/または1種以上のアデノ随伴ウイルスcapタンパク質をコードする、第1のベクター、ならびに請求項8~15のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターを、細胞に送達すること;
(ii)rAAVのパッケージングが可能になる条件下で、細胞を培養すること;および
(iii)rAAVの回収のために、培養した宿主細胞または培養培地をハーベストすること
を含む、前記方法。
【請求項27】
対象において筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置するための医薬組成物であって、請求項1~7のいずれか一項に記載の単離された核酸、請求項8~15のいずれか一項に記載のrAAVベクター、あるいは請求項16または17に記載のrAAVを含む、前記医薬組成物。
【請求項28】
CNSへの直接注射により対象へ投与される、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
直接注射が、脳内注射、実質内注射、髄腔内注射、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項30】
直接注射が、対象の脳脊髄液(CSF)への直接注射である、請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項31】
CSFへの直接注射が、槽内注射、脳室内注射、腰椎内注射、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項30に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、35 U.S.C. 119(e)の下で、2018年10月8日に提出された米国仮出願第62/742,723号、表題「神経変性疾患の遺伝子治療」、および2017年10月23日に提出された第62/575,795号、表題「神経変性疾患の遺伝子治療」の利益を主張する;これら各出願の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
筋萎縮性側索硬化症(ALS)および前頭側頭型認知症(FTD)は、ヒトのC9orf72遺伝子におけるヘキサヌクレオチドリピート領域の伸長に関連する神経変性疾患である。一般に、C9orf72リピート領域の伸長に関連する病理は、C9orf72タンパク質の発現低下および有毒なRNA病巣の蓄積による機能獲得に起因する。現在、ALS/FTDの処置の選択肢は限られている。
【発明の概要】
【0003】
本開示の側面は、神経変性疾患、例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)および/または前頭側頭型認知症(FTD)、アルツハイマー病、ゴーシェ病、パーキンソン病、レビー小体型認知症、またはライソゾーム病などの処置に有用な、組成物および方法に関する。いくつかの態様において、本明細書に記載の方法および組成物は、C9orf72遺伝子のジペプチドリピート領域の伸長を特徴とするALS/FTDを有する対象を処置するために有用である。
【0004】
いくつかの側面において、本開示は、C9orf72および/またはアタキシン2(ATXN2)および/またはリボソームタンパク質25(RPS25)の発現または活性を阻害する阻害性核酸をコードする発現カセットを含む、単離された核酸を提供する。いくつかの態様において、ATXNを標的とする阻害性核酸は、配列番号10~25のいずれか1つに示される配列を含むか、またはそれからなる。いくつかの態様において、C9orf72を標的とする阻害性核酸は、配列番号37~50のいずれか1つに示される配列を含むか、またはそれからなる。
【0005】
いくつかの側面において、本開示は、コドン最適化C9orf72タンパク質(またはその一部)をコードする発現カセットを含む、単離された核酸を提供する。いくつかの態様において、コドン最適化C9orf72タンパク質は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、コドン最適化C9orf72タンパク質は、配列番号51に示される配列を有する核酸によってコードされる。
【0006】
いくつかの側面において、本開示は、C9orf72および/またはATXN2および/またはRPS25の発現または活性を阻害する阻害性核酸、ならびに野生型C9orf72タンパク質(例えば、病原性ジペプチドリピート伸長を欠くC9orf72タンパク質)をコードする発現カセットを含む、単離された核酸を提供する。いくつかの態様において、野生型C9orf72タンパク質は、配列番号3またはその一部によってコードされる。いくつかの態様において、野生型C9orf72タンパク質は、配列番号4に示される配列またはその一部を含むか、またはそれからなる。
【0007】
いくつかの側面において、本開示は、C9orf72の発現または活性を阻害する第1の阻害性核酸、およびアタキシン2(ATXN2)の発現または活性を阻害する第2の阻害性核酸をコードする発現カセットを含む、単離された核酸を提供する。いくつかの側面において、本開示は、C9orf72の発現または活性を阻害する第1の阻害性核酸、および膜貫通タンパク質106B(TMEM106B)の発現または活性を阻害する第2の阻害性核酸をコードする発現カセットを含む、単離された核酸を提供する。いくつかの側面において、本開示は、C9orf72の発現または活性を阻害する第1の阻害性核酸、およびRPS25の発現または活性を阻害する第2の阻害性核酸をコードする発現カセットを含む、単離された核酸を提供する。いくつかの態様において、単離された核酸はさらに、野生型C9orf72タンパク質(例えば、配列番号3に示されるような)をコードする核酸配列を含む。
【0008】
いくつかの側面において、本開示は、C9orf72の発現または活性を阻害する阻害性核酸およびβ-グルコセレブロシダーゼ(GBA)タンパク質をコードする発現カセットを含む、単離された核酸を提供する。いくつかの態様において、GBAタンパク質は、GBA1タンパク質(例えば、GBA1遺伝子またはその一部によってコードされるタンパク質)である。いくつかの側面において、本開示は、ATXN2の発現または活性を阻害する阻害性核酸およびβ-グルコセレブロシダーゼ(GBA)タンパク質をコードする発現カセットを含む、単離された核酸を提供する。いくつかの態様において、GBAタンパク質は、GBA1タンパク質(例えば、GBA1遺伝子またはその一部によってコードされるタンパク質)である。いくつかの側面において、本開示は、TMEM106Bの発現または活性を阻害する阻害性核酸およびβ-グルコセレブロシダーゼ(GBA)タンパク質をコードする発現カセットを含む、単離された核酸を提供する。いくつかの態様において、GBAタンパク質は、GBA1タンパク質(例えば、GBA1遺伝子またはその一部によってコードされるタンパク質)である。
【0009】
いくつかの態様において、阻害性核酸(例えば、第1の阻害性核酸、第2の阻害性核酸、第3の阻害性核酸など)は、C9orf72のジペプチドリピート領域(例えば、ジペプチドリピート領域を含むC9orf72 mRNA転写物)をコードする核酸に結合する。いくつかの態様において、ジペプチドリピート領域は、1つ以上のGGGGCCリピート、または1つ以上のCCCCGGリピート(例えば、C9orf72のジペプチドリピート領域)を含む。いくつかの態様において、ジペプチドリピート領域は、23以上(例えば、23~10,000の間の任意の整数、例えば、24、25、30、50、100、1000、5000、または10,000)のGGGGCCリピート(例えば、C9orf72のセンス鎖ジペプチドリピート領域)、または23以上(例えば、23と10,000の間の任意の整数、例えば、24、25、30、50、100、1000、5000、または10,000)のCCCCGGリピート(例えば、C9orf72のアンチセンス鎖ジペプチドリピート領域)を含む。
【0010】
いくつかの態様において、阻害性核酸は、ジペプチドリピート領域ではないC9orf72の領域をコードする核酸(例えば、C9orf72ジペプチドリピート領域の外側にある核酸の一部)に結合する。いくつかの態様において、阻害性核酸は、ジペプチドリピート領域の1つの核酸(例えば、ジペプチドリピート領域に隣接するもの)と約500個の核酸との間にある単離された核酸配列に結合する。いくつかの態様において、阻害性核酸は、C9orf72タンパク質をコードする遺伝子のイントロン領域を標的とする。
【0011】
いくつかの態様において、阻害性核酸(例えば、第1の阻害性核酸、第2の阻害性核酸、第3の阻害性核酸など)は、ATXN2(例えば、ATXN2 mRNA転写物)をコードする核酸配列、例えば、配列番号9に示されるようなものに結合する。いくつかの態様において、ATXN2を標的とする阻害性核酸は、ATXN2をコードする核酸配列の非翻訳領域(例えば、5’UTR、3’UTRなど)に結合する。
いくつかの態様において、阻害性核酸(例えば、第1の阻害性核酸、第2の阻害性核酸、第3の阻害性核酸など)は、TMEM106B(例えば、TMEM106B mRNA転写物)をコードする核酸配列に、例えば、配列番号7に示されるようなものに結合する。いくつかの態様において、TMEM106Bを標的とする阻害性核酸は、TMEM106Bをコードする核酸配列の非翻訳領域(例えば、5’UTR、3’UTRなど)に結合する。
【0012】
いくつかの態様において、阻害性核酸(例えば、第1の阻害性核酸、第2の阻害性核酸、第3の阻害性核酸など)は、RPS25をコードする核酸配列(例えば、RPS25 mRNA転写物)に、例えば、配列番号60に示されるようなものに結合する。いくつかの態様において、RPS25を標的とする阻害性核酸は、RPS25をコードする核酸配列の非翻訳領域(例えば、5’UTR、3’UTRなど)に結合する。
いくつかの態様において、阻害性核酸(例えば、第1の阻害性核酸および/または第2の阻害性核酸)は、siRNA、shRNA、miRNA、およびdsRNAである。いくつかの態様において、miRNAは、miRNA足場配列、例えば、miR-155足場配列が隣接する阻害性核酸配列を含む、人工miRNA(amiRNA)である。
【0013】
いくつかの態様において、阻害性核酸(例えば、第1の阻害性核酸および/または第2の阻害性核酸)は、発現構築物の非翻訳領域に位置する。いくつかの態様において、非翻訳領域は、イントロン、5’非翻訳領域(5’UTR)、または3’非翻訳領域(3’UTR)である。
いくつかの態様において、単離された核酸は、1つ以上のプロモーターを含む。いくつかの態様において、プロモーターは、RNA pol IIIプロモーター(例えば、U6またはH1)、RNA pol IIプロモーター、ニワトリベータアクチン(CBA)プロモーター、CAGプロモーター、CD68プロモーター、またはJeTプロモーターである。
いくつかの態様において、発現構築物は、2つのアデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)配列に隣接している。いくつかの態様において、発現構築物に隣接するITR配列の1つは、機能的な末端分解部位を欠く。
【0014】
本開示は、いくつかの側面において、修飾された「D」領域(例えば、野生型AAV2 ITR、配列番号32と比べて修飾されたD配列)を有するITRを含む、rAAVベクターに関する。いくつかの態様において、修飾D領域を有するITRは、rAAVベクターの5’ITRである。いくつかの態様において、修飾「D」領域は、例えば配列番号29に示されるような「S」配列を含む。いくつかの態様において、修飾「D」領域を有するITRは、rAAVベクターの3’ITRである。いくつかの態様において、修飾「D」領域は3’ITRを含み、ここで「D」領域は、ITRの3’末端(例えば、ベクターの導入遺伝子インサートに対してITRの外側または末端)に位置する。いくつかの態様において、修飾「D」領域は、配列番号29または30に示されるような配列を含む。
いくつかの態様において、単離された核酸(例えば、rAAVベクター)は、TRY領域を含む。いくつかの態様において、TRY領域は、配列番号31に示される配列を含む。
【0015】
いくつかの態様において、単離された核酸は、配列番号1~62のいずれか1つに示される配列またはその一部を含む(またはそれに示されるアミノ酸配列をコードする)。
いくつかの側面において、本開示は、本開示に記載の単離された核酸を含むベクターを提供する。いくつかの態様において、ベクターは、プラスミドまたはウイルスベクターである。いくつかの態様において、ウイルスベクターは、組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)(例えば、AAV ITRが隣接した、1つ以上の阻害性核酸をコードする単離された核酸配列および/または1つ以上のタンパク質、例えば野生型C9orf72および/またはGBA1をコードする単離された核酸を含む、導入遺伝子)、またはバキュロウイルスベクターである。いくつかの態様において、rAAVベクターは一本鎖(例えば、一本鎖DNA)である。
【0016】
いくつかの側面において、本開示は、本開示に記載の単離された核酸またはベクターを含む、組成物を提供する。いくつかの態様において、組成物はさらに、薬学的に許容し得る担体を含む。
いくつかの側面において、本開示は、本開示に記載の単離された核酸またはベクターを含む、宿主細胞を提供する。いくつかの態様において、宿主細胞は、真核細胞(例えば、哺乳動物細胞、昆虫細胞など)または原核細胞(例えば、細菌細胞)である。
いくつかの側面において、本開示は、カプシドタンパク質および本開示に記載の単離された核酸またはベクターを含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を提供する。いくつかの態様において、カプシドタンパク質は、血液脳関門を通過することができる。いくつかの態様において、カプシドタンパク質は、AAV9カプシドタンパク質、AAVrh.10カプシドタンパク質、またはAAV-PHP.Bカプシドタンパク質である。いくつかの態様において、rAAVは、中枢神経系(CNS)の神経細胞および/または非神経細胞を形質導入する。
【0017】
いくつかの側面において、本開示は、神経変性疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)および/または前頭側頭型認知症(FTD)、アルツハイマー病、ゴーシェ病、パーキンソン病、レビー小体型認知症、またはライソゾーム病)を有するかまたは有することが疑われる対象を処置する方法を提供し、該方法は、対象に、本開示に記載の単離された核酸、ベクター、組成物、またはrAAVを投与することを含む。
【0018】
いくつかの態様において、投与は、対象のCNSへの直接注射を含む。いくつかの態様において、CNSへの直接注射は、対象の脳脊髄液(CSF)への直接注射、例えば、槽内注射、脳室内注射、腰椎内注射、またはそれらの任意の組み合わせを含む。いくつかの態様において、直接注射は、脳内注射、実質内注射、髄腔内注射、大槽内注射、またはそれらの任意の組み合わせである。いくつかの態様において、直接注射は、対流強化送達(CED)を含む。
【0019】
いくつかの態様において、対象は、哺乳動物、例えばヒト対象である。いくつかの態様において、対象は、約30~約5000(例えば、30から5000までの任意の整数)のGGGGCCジペプチドリピートおよび/または約30~5000(例えば、30から5000までの任意の整数)のCCCCGGリピートを有することを特徴とする。いくつかの態様において、対象は、5000を超えるGGGGCCジペプチドリピートおよび/またはCCCCGGリピートを有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、C9orf72のリピート伸長を標的とする阻害性核酸、膜貫通タンパク質106B(TMEM106B)を標的とする阻害性核酸および野生型C9orf72コード配列をコードする発現構築物を含むrAAVベクターを含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。rAAVベクターは、発現構築物に隣接するAAV逆方向末端反復をさらに含む。
図2図2は、C9orf72のリピート伸長を標的とする阻害性核酸およびβ-グルコセレブロシダーゼ(GBA1)コード配列をコードする発現構築物を含むrAAVを含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。rAAVベクターは、発現構築物に隣接するAAV逆方向末端反復をさらに含む。
【0021】
図3図3は、C9orf72のリピート伸長を標的とする阻害性核酸および野生型C9orf72コード配列をコードする発現構築物を含むrAAVベクターを含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。rAAVベクターは、発現構築物に隣接するAAV逆方向末端反復をさらに含む。
図4図4は、pol III(H1)プロモーターに作動可能に連結されたATXN2(例えば、ATNX2をコードする遺伝子)を標的とする阻害性核酸をコードする発現構築物を含むrAAVベクターを含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。rAAVベクターは、発現構築物に隣接するAAV逆方向末端反復をさらに含む。3’UTRの「D」配列は、「外側」の位置にある。
【0022】
図5図5は、pol II(CBA)プロモーターに作動可能に連結されたATXN2(例えば、ATNX2をコードする遺伝子)を標的とする阻害性核酸をコードする発現構築物を含むrAAVベクターを含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。rAAVベクターは、発現構築物に隣接するAAV逆方向末端反復をさらに含む。3’UTRの「D」配列は、「外側」の位置にある。
図6図6は、pol II(CBA)プロモーターに作動可能に連結されたATXN2(例えば、ATNX2をコードする遺伝子)を標的とする阻害性核酸をコードする発現構築物を含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。
【0023】
図7図7は、pol II(CBA)プロモーターに作動可能に連結された、それぞれがATXN2(例えば、ATNX2をコードする遺伝子)を標的とする2つの阻害性核酸をコードする発現構築物を含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。
図8図8は、pol II(CBA)プロモーターに作動可能に連結されたATXN2(例えば、ATNX2をコードする遺伝子)を標的とする阻害性核酸をコードする発現構築物を含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。
【0024】
図9図9は、pol II(CBA)プロモーターに作動可能に連結されたATXN2(例えば、ATNX2をコードする遺伝子)を標的とする阻害性核酸をコードする発現構築物を含むrAAVベクターおよび野生型C9orf72タンパク質をコードするコドン最適化核酸配列を含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。rAAVベクターは、発現構築物に隣接するAAV逆方向末端反復をさらに含む。3’UTRの「D」配列は、「外側」の位置にある。
図10図10は、pol II(CBA)プロモーターに作動可能に連結されたC9orf72を標的とする阻害性核酸をコードする発現構築物および野生型C9orf72タンパク質をコードするコドン最適化核酸配列を含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。
【0025】
図11図11は、pol II(CBA)プロモーターに作動可能に連結されたC9orf72を標的とする阻害性核酸をコードする発現構築物および野生型C9orf72タンパク質をコードするコドン最適化核酸配列を含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。
図12図12は、pol II(CBA)プロモーターに作動可能に連結されたC9orf72を標的とする阻害性核酸をコードする発現構築物および野生型C9orf72タンパク質をコードするコドン最適化核酸配列を含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。
【0026】
図13図13は、RNA pol III(例えば、H1)プロモーターに作動可能に連結されたC9orf72を標的とする阻害性核酸をコードする発現構築物を含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。
図14図14は、pol II(CBA)プロモーターに作動可能に連結されたC9orf72を標的とする阻害性核酸をコードする発現構築物を含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。
図15図15は、pol II(CBA)プロモーターに作動可能に連結されたC9orf72を標的とする2つの阻害性核酸をコードする発現構築物および野生型C9orf72タンパク質をコードするコドン最適化核酸配列を含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。
【0027】
図16図16は、pol II(CBA)プロモーターに作動可能に連結されたC9orf72を標的とする2つの阻害性核酸をコードする発現構築物および野生型C9orf72タンパク質をコードするコドン最適化核酸配列を含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。
図17図17は、pol II(CBA)プロモーターに作動可能に連結されたC9orf72を標的とする2つの阻害性核酸をコードする発現構築物および野生型C9orf72タンパク質をコードするコドン最適化核酸配列を含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。
【0028】
図18図18は、ITRの「外側」(例えば、導入遺伝子インサートまたは発現構築物に対してITRの末端の近位)に位置する「D」領域を含むrAAVベクター(上)、およびITRをベクターの「内側」(例えば、ベクターの導入遺伝子インサートの近位)に有する野生型rAAVベクターを示す概略図である。
図19A図19A~19Bは、in vitroのC9orf72発現およびノックダウンアッセイの代表的なデータを示す。図19Aは、rAAVベクターによる内因性C9orf72の統計的に有意なサイレンシングを示す代表的なデータを示す。
図19B図19A~19Bは、in vitroのC9orf72発現およびノックダウンアッセイの代表的なデータを示す。図19Bは、rAAVベクターでのトランスフェクション後の、野生型C9orf72発現の統計的に有意な増加を示す代表的なデータを示す。
【0029】
図20図20は、pol II(CBA)プロモーターに作動可能に連結されたRPS25を標的とする阻害性核酸をコードする発現構築物および野生型C9orf72タンパク質をコードするコドン最適化核酸配列を含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。
図21図21は、pol II(CBA)プロモーターに作動可能に連結されたRPS25を標的とする阻害性核酸をコードする発現構築物および野生型C9orf72タンパク質をコードするコドン最適化核酸配列を含むプラスミドの、一態様を示す概略図である。
【0030】
詳細な説明
本開示の側面は、神経変性疾患、例えばALS/FTD、パーキンソン病、アルツハイマー病、ライソゾーム病、およびレビー小体型認知症などを処置するための、組成物および方法に関する。本開示は部分的に、対象における、ALS/FTD関連遺伝子産物(例えば、C9orf72、ATXN2、TMEM106B、前述の遺伝子を標的とする阻害性核酸など)およびそれらの組み合わせをコードする発現構築物に基づく。遺伝子産物は、タンパク質、タンパク質の断片(例えば、一部)、ALS/FTD関連遺伝子を阻害する干渉核酸などであり得る。いくつかの態様において、遺伝子産物は、ALS/FTD関連遺伝子によりコードされる、タンパク質またはタンパク質断片である。いくつかの態様において、遺伝子産物は、ALS/FTD関連遺伝子を阻害する干渉核酸(例えば、shRNA、siRNA、miRNA、amiRNAなど)である。
【0031】
ALS/FTD関連遺伝子とは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、またはALSおよびFTD(ALS/FTD)と遺伝的、生化学的または機能的に関連する遺伝子産物をコードする遺伝子を指す。例えば、C9orf72遺伝子に23を超えるGGGGCCヘキサヌクレオチドリピートを有する個人は、リピート領域伸長を有しない個人と比較して、ALS/FTDを発症するリスクが高いことが観察されている。いくつかの態様において、本明細書に記載の発現カセットは、野生型または非変異型のALS/FTD関連遺伝子(またはそのコード配列)をコードする。一般に、遺伝子の「野生型」または「非変異」形態とは、正常なまたは非病原性の活性に関連するタンパク質(例えば、神経変性疾患の発症または進行をもたらすリピート領域伸長等の変異または変化のないタンパク質)をコードする核酸を指す。例えば、いくつかの態様において、野生型C9orf72タンパク質は、配列番号4に示される配列を含むかまたはそれからなる。
【0032】
単離された核酸およびベクター
単離された核酸は、DNAまたはRNAであり得る。いくつかの側面において、本開示は、1つ以上のALS/FTD関連遺伝子、例えばC9orf72(例えば、C9orf72のジペプチドリピート領域)、ATXN2、TMEM106B、RPS25などを標的とする1つ以上の阻害性核酸をコードする、単離された核酸(例えばrAAVベクター)を提供する。阻害性核酸は、遺伝子のセンス鎖(例えば、遺伝子から転写されたmRNA)、遺伝子のアンチセンス鎖(例えば、遺伝子から転写されたmRNA)、または遺伝子のセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方(例えば、遺伝子から転写されたmRNA)を標的とし得る。
【0033】
一般に、本明細書に記載の単離された核酸は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上の阻害性核酸(例えば、dsRNA、siRNA、shRNA、miRNA、amiRNAなど)をコードし得る。いくつかの態様において、単離された核酸は、10を超える阻害性核酸をコードする。いくつかの態様において、1つ以上の阻害性核酸のそれぞれは、異なる遺伝子または遺伝子の一部を標的とする(例えば、第1のmiRNAは遺伝子の第1の標的配列を標的とし、第2のmiRNAは、第1の標的配列とは異なる、遺伝子の第2の標的配列を標的とする)。いくつかの態様において、1つ以上の阻害性核酸のそれぞれは、同じ遺伝子の同じ標的配列を標的とする(例えば、単離された核酸は、同じmiRNAの複数のコピーをコードする)。
【0034】
本開示の側面は、C9orf72タンパク質(例えば、C9orf72 mRNA転写産物のジペプチドリピート領域)を標的とする1つ以上の干渉核酸(例えば、dsRNA、siRNA、miRNA、amiRNAなど)をコードする発現構築物を含む、単離された核酸に関する。いくつかの態様において、ジペプチドリピート領域は、ヘキサヌクレオチドリピート配列GGGGCCの5つ以上のポリマー単位(例えば、GGGGCCリピート配列の5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、100、200、500、1000、またはそれ以上の反復を含む領域)によってコードされる。
【0035】
一般に、C9orf72タンパク質は、Rabなどの小さなGTPaseの交換因子として関与すると考えられている、ニューロンの細胞質およびシナプス前終末に見られるタンパク質を指す。ヒトにおいて、C9orf72遺伝子は9番染色体上に位置する。いくつかの態様において、C9orf72遺伝子は、NCBI参照配列NP_060795.1によって表されるペプチドをコードする。いくつかの態様において、C9orf72遺伝子は、配列番号3に示される配列を含むか、または配列番号4に示されるアミノ酸配列をコードする。
【0036】
C9orf72を標的とする阻害性核酸は、長さが6~50ヌクレオチドの相補性の領域(例えば、C9orf72などの標的遺伝子にハイブリダイズする阻害性核酸の領域、または標的遺伝子の一部、例えばC9orf72のジペプチドリピート領域またはジペプチドリピート領域の外側の領域)を含み得る。いくつかの態様において、阻害性核酸は、長さが約6~30、約8~20、または約10~19ヌクレオチドの、C9orf72と相補的な領域を含む。いくつかの態様において、阻害性核酸は、C9orf72配列の少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25個の連続したヌクレオチドと相補的である。いくつかの態様において、阻害性核酸によって標的化される(例えば、結合される)C9orf72配列は、C9orf72のジペプチドリピート領域から、1ヌクレオチドから500ヌクレオチド(例えば、1から500ヌクレオチドまでの任意の整数)、離れている(5’または3’いずれかに対して)。いくつかの態様において、阻害性核酸は、C9orf72タンパク質をコードする遺伝子のイントロン領域(例えば、非タンパク質コード領域)を標的とする。
【0037】
本開示の側面は、TMEM106Bタンパク質(例えば、TMEM106B遺伝子の遺伝子産物)を標的とする1つ以上の干渉核酸(例えば、dsRNA、siRNA、miRNA、amiRNAなど)をコードする発現構築物を含む、単離された核酸に関する。TMEM106Bタンパク質は、樹状突起の形態形成およびリソソーム輸送の調節に関与するタンパク質である、膜貫通タンパク質106Bを指す。ヒトにおいて、TMEM106B遺伝子は7番染色体上に位置する。いくつかの態様において、TMEM106B遺伝子は、NCBI参照配列NP_060844.2で表されるペプチドをコードする。いくつかの態様において、TMEM106B遺伝子は、配列番号7に示される配列を含むか、または配列番号6に示されるアミノ酸配列をコードする。
【0038】
TMEM106Bを標的とする阻害性核酸は、長さが6~50ヌクレオチドの相補性の領域(例えば、TMEM106Bなどの標的遺伝子にハイブリダイズする阻害性核酸の領域)を含み得る。いくつかの態様において、阻害性核酸は、長さが約6~30、約8~20、または約10~19ヌクレオチドの、TMEM106Bと相補的な領域を含む。いくつかの態様において、阻害性核酸は、TMEM106B配列の少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25個の連続したヌクレオチドと相補的である。
【0039】
本開示の側面は、ATXN2タンパク質(例えば、SCA2遺伝子とも呼ばれる、ATXN2遺伝子の遺伝子産物)を標的とする1つ以上の干渉核酸(例えば、dsRNA、siRNA、miRNA、amiRNAなど)をコードする発現構築物を含む、単離された核酸に関する。ATXN2タンパク質は、ポリ(A)結合タンパク質との相互作用を介してmRNAの翻訳を調節することに関与するタンパク質である、アタキシン2を指す。ヒトにおいて、ATXN2遺伝子は12番染色体上に位置する。いくつかの態様において、ATXN2遺伝子は、NCBI参照配列NP_002964.3で表されるペプチドをコードする。いくつかの態様において、ATXN2遺伝子は、配列番号9に示される配列を含むか、または配列番号8に示されるアミノ酸配列をコードする。
【0040】
ATXN2を標的とする阻害性核酸は、長さが6~50ヌクレオチドの相補性の領域(例えば、ATXN2などの標的遺伝子にハイブリダイズする阻害性核酸の領域)を含み得る。いくつかの態様において、阻害性核酸は、長さが約6~30、約8~20、または約10~19ヌクレオチドの、ATXN2と相補的な領域を含む。いくつかの態様において、阻害性核酸は、ATXN2配列の少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25個の連続したヌクレオチドと相補的である。
【0041】
本開示の側面は、リボソームタンパク質s25(RPS25)(例えば、RPS25の遺伝子産物)を標的とする1つ以上の干渉核酸(例えば、dsRNA、siRNA、miRNA、amiRNAなど)をコードする発現構築物を含む、単離された核酸に関する。RPS25タンパク質は、タンパク質合成に関与するタンパク質複合体である、s40リボソームのサブユニットであるリボソームタンパク質を指す。ヒトにおいて、RPS25遺伝子は11番染色体上に位置する。いくつかの態様において、RPS25遺伝子は、NCBI参照配列NP_001019.1によって表されるペプチドをコードする。いくつかの態様において、RPS25遺伝子は、配列番号60に示される配列を含む。
【0042】
RPS25を標的とする阻害性核酸は、長さが6~50ヌクレオチドである相補性の領域(例えば、RPS25などの標的遺伝子にハイブリダイズする阻害性核酸の領域)を含み得る。いくつかの態様において、阻害性核酸は、長さが約6~30、約8~20、または約10~19ヌクレオチドの、RPS25と相補的な領域を含む。いくつかの態様において、阻害性核酸は、RPS25配列の少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25個の連続したヌクレオチドと相補的である。
【0043】
本開示の側面は、1つ以上の阻害性核酸(例えば、C9orf72のジペプチドリピート領域を標的とする阻害性核酸、C9orf72の非ジペプチドリピート領域を標的とする阻害性核酸、および/またはTMEM106Bを標的とする阻害性核酸、および/またはATXN2を標的とする阻害性核酸、および/またはRPS25を標的とする阻害性核酸、等)をコードする第1の遺伝子産物、および野生型C9orf72タンパク質またはGBAタンパク質などのタンパク質をコードする第2の遺伝子産物を含む、発現構築物に関する。
【0044】
いくつかの態様において、単離された核酸は、C9orf72の発現または活性を阻害する第1の阻害性核酸、およびTMEM106Bの発現または活性を阻害する第2の阻害性核酸をコードする、発現カセットを含む。
いくつかの態様において、単離された核酸は、C9orf72の発現または活性を阻害する第1の阻害性核酸、およびATXN2の発現または活性を阻害する第2の阻害性核酸をコードする、発現カセットを含む。
【0045】
いくつかの態様において、単離された核酸は、C9orf72の発現または活性を阻害する第1の阻害性核酸、およびRPS25の発現または活性を阻害する第2の阻害性核酸をコードする、発現カセットを含む。
いくつかの態様において、単離された核酸は、C9orf72およびβ-グルコセレブロシダーゼ(GBA)タンパク質の発現または活性を阻害する阻害性核酸をコードする、発現カセットを含む。いくつかの態様において、GBAタンパク質は、GBA1タンパク質(例えば、GBA1遺伝子またはその一部によってコードされるタンパク質)である。
【0046】
いくつかの態様において、単離された核酸は、C9orf72および野生型C9orf72タンパク質(例えば、病原性ジペプチドリピート伸長を欠くC9orf72タンパク質)の発現または活性を阻害する阻害性核酸をコードする、発現カセットを含む。いくつかの態様において、野生型C9orf72タンパク質をコードする核酸配列またはその一部は、コドン最適化された核酸配列である。いくつかの態様において、野生型C9orf72タンパク質は、配列番号3に示される核酸配列またはその一部によってコードされる。いくつかの態様において、野生型C9orf72タンパク質は、配列番号4に示される配列またはその一部を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様において、コドン最適化C9orf72をコードする単離された核酸は、配列番号51に示される配列を含むかまたはそれからなる。
【0047】
当業者は、第1の遺伝子産物(例えば、C9orf72タンパク質またはGBAタンパク質をコードする核酸配列)および第2の遺伝子産物(例えば、C9orf72、ATXN2、TMEM106Bなどを標的とする阻害性RNA)の発現の順序は、一般的に逆転され得ることを認識する(例えば、阻害性RNAは第1の遺伝子産物であり、タンパク質コード配列は2番目の遺伝子産物である)。いくつかの態様において、遺伝子産物は、遺伝子(例えば、C9orf72、TMEM106B、ATXN2、GBA1など)の断片(例えば、一部)である。タンパク質断片は、タンパク質(例えば、C9orf72タンパク質、GBAタンパク質など)の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%または約99%を含み得る。いくつかの態様において、タンパク質断片は、C9orf72タンパク質またはGBAタンパク質の、50%~99.9%(例えば、50%~99.9%の間の任意の値)を含む。いくつかの態様において、遺伝子産物(例えば、阻害性RNA)は、標的遺伝子の一部にハイブリダイズする(例えば、C9orf72、ATXN2、またはTMEM106Bなどの標的遺伝子の、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、またはそれ以上の連続したヌクレオチドに相補的である)。
【0048】
いくつかの態様において、発現構築物はモノシストロニックである(例えば、発現構築物は、第1の遺伝子産物および第2の遺伝子産物を含む単一の融合タンパク質をコードする)。いくつかの態様において、発現構築物はポリシストロニックである(例えば、発現構築物は、2つの異なる遺伝子産物、例えば2つの異なるタンパク質またはタンパク質断片をコードする)。
【0049】
ポリシストロニックな発現ベクターは、1つ以上(例えば、1、2、3、4、5、またはそれ以上)のプロモーターを含み得る。任意の適切なプロモーター、例えば、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、内因性プロモーター、組織特異的プロモーター(例えば、CNS特異的プロモーター)などを使用することができる。いくつかの態様において、プロモーターは、ニワトリベータ-アクチンプロモーター(CBAプロモーター)、CAGプロモーター(例えば、Alexopoulou et al. (2008) BMC Cell Biol. 9:2; doi: 10.1186/1471-2121-9-2に記載のもの)、CD68プロモーター、またはJeTプロモーター(例えばTornoe et al. (2002) Gene 297(1-2):21-32、またはKarumuthil-Melethil et al. (2016) Human Gene Therapy 27(7):509-521に記載のもの)である。いくつかの態様において、プロモーターは、RNA pol IIプロモーターまたはRNA pol IIIプロモーター(例えば、U6、H1など)である。いくつかの態様において、プロモーターは、第1の遺伝子産物、第2の遺伝子産物、または第1の遺伝子産物と第2の遺伝子産物をコードする核酸配列に、作動可能に連結されている。いくつかの態様において、発現カセットは1つ以上の追加の調節配列を含み、これには、限定することなく、転写因子結合配列、イントロンスプライス部位、ポリ(A)付加部位、エンハンサー配列、リプレッサー結合部位、またはこれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0050】
いくつかの態様において、第1の遺伝子産物をコードする核酸配列と第2の遺伝子産物をコードする核酸配列は、内部リボソーム進入部位(IRES)をコードする核酸配列によって分離されている。IRES部位の例は、例えば、Mokrejs et al. (2006) Nucleic Acids Res. 34(Database issue):D125-30に記載されている。いくつかの態様において、第1の遺伝子産物をコードする核酸配列と第2の遺伝子産物をコードする核酸配列は、自己切断型ペプチドをコードする核酸配列によって分離されている。自己切断型ペプチドの例には、限定はされないが、T2A、P2A、E2A、F2A、BmCPV 2A、およびBmIFV 2A、およびLiu et al. (2017) Sci Rep. 7: 2193に記載されたものが含まれる。いくつかの態様において、自己切断型ペプチドはT2Aペプチドである。
【0051】
病理学的にはALSやFTDなどの疾患は、C9orf72遺伝子に由来するリピート関連非ATG(RAN)翻訳タンパク質で主に構成されるタンパク質凝集体の蓄積に関連する。したがって、いくつかの態様において、本明細書に記載の単離された核酸は、C9orf72タンパク質(例えば、病原性ジペプチドリピート伸長を有する遺伝子によってコードされるC9orf72タンパク質)の発現を低減または防止する阻害性核酸を含む。阻害性核酸をコードする配列は、発現構築物の非翻訳領域(例えば、イントロン、5’UTR、3’UTRなど)に配置され得る。
【0052】
いくつかの態様において、阻害性核酸は、発現構築物のイントロン、例えば、第1の遺伝子産物をコードする配列の上流のイントロンに配置される。阻害性核酸は、二本鎖RNA(dsRNA)、siRNA、マイクロRNA(miRNA)、人工miRNA(amiRNA)、またはRNAアプタマーであることができる。一般に阻害性核酸は、標的RNA(例えば、mRNA)の約6~約30(例えば、6から30までの任意の整数)個の連続したヌクレオチドに結合する(例えば、ハイブリダイズする)。いくつかの態様において、阻害性核酸分子は、miRNAまたはamiRNA、例えば、例えばC9orf72(病原性C9orf72タンパク質をコードする遺伝子)を標的とするmiRNAである。いくつかの態様において、miRNAは、それがハイブリダイズするC9orf72 mRNAの領域とのいかなるミスマッチも含まない(例えば、miRNAは「完全」である)。いくつかの態様において、miRNAは、それがハイブリダイズするC9orf72 mRNAの領域と、2~20(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20)のミスマッチ、例えば「バルジ」など、を含む。いくつかの態様において、miRNAは、それがハイブリダイズするC9orf72 mRNAの領域と20を超えるミスマッチを含む。
【0053】
いくつかの態様において、阻害性核酸は、shRNA(例えば、C9orf72を標的とするshRNA)である。いくつかの態様において、阻害性核酸は、miRNA(例えば、C9orf72を標的とするmiRNA)である。いくつかの態様において、発現構築物の1つ以上の阻害性RNAの発現は、1つ以上のRNA pol IIIプロモーター、例えばH1プロモーターまたはU6プロモーターによって駆動される。各阻害性RNAは、異なるプロモーターまたは同じプロモーターによって駆動され得る。
【0054】
いくつかの態様において、阻害性核酸は、人工マイクロRNA(amiRNA)である。マイクロRNA(miRNA)は典型的には、植物および動物に見られる小さな非コードRNAを指し、遺伝子発現の転写および翻訳後調節に機能する。miRNAは、RNAポリメラーゼによって転写されて、プリmiRNAと呼ばれるヘアピンループ構造を形成する;これは、その後酵素(Drosha、Pasha、スプライセオソームなど)によって処理されてプレmiRNAヘアピン構造を形成し、これは次にダイサーにより処理されて、miRNA/miRNA二重鎖(はmiRNA二重鎖のパッセンジャー鎖を示す)を形成し、その一方の鎖は次にRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に組み込まれる。いくつかの態様において、本明細書に記載の阻害性RNAは、C9orf72(例えば、C9orf72のジペプチドリピート領域またはC9orf72の非ジペプチドリピート領域)、ATXN2、またはTMEM106Bを標的とするmiRNAである。
【0055】
いくつかの態様において、C9orf72を標的とする阻害性核酸は、miRNA/miRNA二重鎖を含む。いくつかの態様において、miRNA/miRNA二重鎖のmiRNA鎖は、配列番号24または25、37または38、40または41のいずれか1つに示される配列もしくはその一部を含むか、またはそれからなる。いくつかの態様において、miRNA/miRNA二重鎖のmiRNA鎖は、配列番号24または25、37または38、40または41に示される配列もしくはその一部を含むか、またはそれからなる。
【0056】
いくつかの態様において、TMEM106Bを標的とする阻害性核酸は、miRNA/miRNA二重鎖を含む。いくつかの態様において、miRNA/miRNA二重鎖のmiRNA鎖は、配列番号1または7に示される配列もしくはその一部を含むか、またはそれからなる。いくつかの態様において、miRNA/miRNA二重鎖のmiRNA鎖は、配列番号1または7に示される配列もしくはその一部を含むか、またはそれからなる。
いくつかの態様において、ATXN2を標的とする阻害性核酸は、miRNA/miRNA二重鎖を含む。いくつかの態様において、miRNA/miRNA二重鎖のmiRNA鎖は、配列番号10~23のいずれか1つに示される配列もしくはその一部を含むか、またはそれからなる。いくつかの態様において、miRNA/miRNA二重鎖のmiRNA鎖は、配列番号10~23のいずれか1つに示される配列もしくはその一部を含むか、またはそれからなる。
【0057】
人工マイクロRNA(amiRNA)は、天然のmiRNAを修飾して、プレmRNAの天然の標的化領域を目的の標的化領域で置き換えることにより誘導される。例えば、天然に発現するmiRNAを足場または骨格(例えば、プリmiRNA足場)として使用でき、ステム配列を、目的遺伝子を標的とするmiRNAのそれに置き換える。人工前駆体マイクロRNA(プレamiRNA)は、通常、単一の安定した低分子RNAが優先的に生成されるように処理される。いくつかの態様において、本明細書に記載のscAAVベクターおよびscAAVは、amiRNAをコードする核酸を含む。いくつかの態様において、amiRNAのプリmiRNA足場は、プリMIR-21、プリMIR-22、プリMIR-26a、プリMIR-30a、プリMIR-33、プリMIR-122、プリMIR-375、プリMIR-199、プリMIR-99、プリMIR-194、プリMIR-155、およびプリMIR-451からなる群から選択されるプリmiRNAに由来する。いくつかの態様において、amiRNAは、例えばFowler et al. Nucleic Acids Res. 2016 Mar 18; 44(5): e48に記載されているように、C9orf72、ATNX2、またはTMEM106Bを標的とする核酸配列、およびeSIBR amiRNA足場を含む。
【0058】
いくつかの側面において、本開示は、神経変性疾患(例えば、ALS/FTD)の処置のための阻害性RNAの組み合わせを含む、発現構築物に関する。例えば、いくつかの態様において、本開示に記載の発現構築物は、C9orf72を標的とする阻害性RNAおよび膜貫通タンパク質106B(TMEM106B)を標的とする阻害性RNAを含む。単離された核酸が阻害性核酸の配列をコードする順序は、変化し得る。例えば単離された核酸は、5’末端から3’末端まで、C9orf72とTMEM106Bを、またはTMEM106BとC9orf72を標的とするshRNAのいずれかをコードする。
【0059】
本明細書に記載の単離された核酸は、それ自体で、またはベクターの一部として存在し得る。一般にベクターは、プラスミド、コスミド、ファージミド、細菌人工染色体(BAC)、またはウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レトロウイルスベクター、バキュロウイルスベクターなど)である。いくつかの態様において、ベクターは、プラスミド(例えば、本明細書に記載の単離された核酸を含むプラスミド)である。いくつかの態様において、ベクターは、組換えAAVベクター(例えば、AAV ITRが隣接した導入遺伝子をコードする発現構築物)である。いくつかの態様において、rAAVベクターは、一本鎖である(例えば、一本鎖DNA)。いくつかの態様において、ベクターは、バキュロウイルスベクター(例えば、Autographa californica核多角体病(AcNPV)ベクター)である。
【0060】
典型的には、rAAVベクターは、2つのAAV逆方向末端反復(ITR)配列が隣接した導入遺伝子を含む。いくつかの態様において、rAAVベクターの導入遺伝子は、本開示に記載の単離された核酸を含む。いくつかの態様において、rAAVベクターの2つのITR配列のそれぞれは、完全長ITR(例えば、長さが約145bpであり、機能的Rep結合部位(RBS)および末端分解部位(trs)を含む)である。いくつかの態様において、rAAVベクターのITRの1つは、切断されている(例えば、短縮されているかまたは完全長ではない)。いくつかの態様において、切断型ITRは、機能的末端分解部位(trs)を欠き、自己相補的AAVベクター(scAAVベクター)の生成のために使用される。いくつかの態様において、切断型ITRは、例えば、McCarty et al. (2003) Gene Ther. 10(26):2112-8に記載のΔITRである。
【0061】
本開示の側面は、野生型AAV ITRと比べて、例えば野生型AAV2 ITR(例えば、配列番号32)と比べて、1つ以上の修飾(例えば、核酸の追加、欠失、置換など)を有するITRを含む、単離された核酸(例えば、rAAVベクター)に関する。野生型AAV2 ITRの構造を、図18に示す。一般に野生型ITRは、自己アニーリングして回文構造の二本鎖T型ヘアピン構造(これは、2つのクロスアーム(それぞれB/B’およびC/C’と呼ばれる配列によって形成される)、より長いステム領域(配列A/A’によって形成される)、および「D」領域と呼ばれる一本鎖末端領域からなる)を形成する、125ヌクレオチドの領域を含む(図18)。一般に、ITRの「D」領域は、A/A’配列によって形成されるステム領域と、rAAVベクターの導入遺伝子を含むインサートの間に配置される(例えば、ITRの末端に対してITRの「内側」に配置されるか、またはrAAVベクターの導入遺伝子インサートもしくは発現構築物の近位に配置される)。いくつかの態様において、「D」領域は、配列番号30に示される配列を含む。「D」領域は、例えば、Ling et al. (2015) J Mol Genet Med 9(3)に開示されるように、カプシドタンパク質によるrAAVベクターのカプシド形成において、重要な役割を果たすことが観察されている。
【0062】
本開示は、部分的に、ITRの「外側」に位置する「D」領域(例えば、導入遺伝子インサートまたは発現構築物に対してITRの末端に近い)を含むrAAVベクターが、修飾されていない(例えば、野生型の)ITRを有するrAAVベクターよりも、AAVカプシドタンパク質によって効率的にカプシド化されるという、驚くべき発見に基づいている。いくつかの態様において、修飾された「D」領域を有するrAAVベクターは、野生型ITR配列を有するrAAVベクターと比べて毒性が減少している。
【0063】
いくつかの態様において、修飾「D」配列は、野生型「D」配列(例えば、配列番号30)と比べて、少なくとも1つのヌクレオチド置換を含む。修飾「D」配列は、野生型「D」配列(例えば、配列番号30)と比べて、少なくも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上のヌクレオチド置換を有し得る。いくつかの態様において、修飾「D」配列は、野生型「D」配列(例えば、配列番号30)と比べて、少なくも10、11、12、13、14、15、16、17、18、または19のヌクレオチド置換を含む。いくつかの態様において、修飾「D」配列は、野生型「D」配列(例えば、配列番号30)と、約10%~約99%(例えば、10%、15%、20%、25%、30%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%)同一である。いくつかの態様において、修飾「D」配列は、Wang et al. (1995) J Mol Biol 250(5):573-80に記載のように、「S」配列とも呼ばれる配列番号29に示される配列を含む。
【0064】
本開示に記載の単離された核酸またはrAAVベクターはさらに、例えば、配列番号31に示されるような、またはFrancois, et al. 2005. The Cellular TATA Binding Protein Is Required for Rep-Dependent Replication of a Minimal Adeno-Associated Virus Type 2 p5 Element. J Virolに記載のような「TRY」配列を含み得る。いくつかの態様において、TRY配列は、単離された核酸またはrAAVベクターのITR(例えば、5’ITR)と発現構築物(例えば、導入遺伝子をコードするインサート)との間に配置される。
【0065】
いくつかの側面において、本開示は、本開示に記載の単離された核酸またはrAAVベクターを含む、バキュロウイルスベクターに関する。いくつかの態様において、バキュロウイルスベクターは、例えばUrabe et al. (2002) Hum Gene Ther 13(16):1935-43およびSmith et al. (2009) Mol Ther 17(11):1888-1896に記載されるような、Autographa californica核多角体病(AcNPV)ベクターである。
【0066】
いくつかの側面において、本開示は、本明細書に記載の単離された核酸またはベクターを含む、宿主細胞を提供する。宿主細胞は、原核細胞または真核細胞であり得る。例えば宿主細胞は、哺乳動物細胞、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞などであり得る。いくつかの態様において、宿主細胞は哺乳動物細胞、例えば、HEK293T細胞である。いくつかの態様において、宿主細胞は細菌細胞、例えば大腸菌細胞である。
【0067】
rAAV
いくつかの側面において、本開示は、本明細書に記載の核酸をコードする導入遺伝子を含む、組換えAAV(rAAV)に関する(例えば、本明細書に記載のrAAVベクター)。「rAAV」という用語は一般に、1つ以上のAAVカプシドタンパク質によってカプシド化されたrAAVベクターを含む、ウイルス粒子を指す。本開示に記載のrAAVは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9およびAAV10から選択される血清型を有するカプシドタンパク質を含み得る。いくつかの態様において、rAAVは、非ヒト宿主由来のカプシドタンパク質、例えば、AAVrh.10、AAVrh.39などのアカゲザルAAVカプシドタンパク質を含む。いくつかの態様において、本開示に記載のrAAVは、野生型カプシドタンパク質のバリアントであるカプシドタンパク質を含み、これは例えば、それが由来する野生型AAVカプシドタンパク質に対して、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または10より多く(例えば、15、20、25、50、100など)のアミノ酸置換(例えば、変異)を含む、カプシドタンパク質バリアントである。
【0068】
いくつかの態様において、本開示に記載のrAAVは、特にCSF空間にまたは直接脳実質に導入された場合に、CNSを通して容易に広がる。したがって、いくつかの態様において、本開示に記載のrAAVは、血液脳関門(BBB)を通過することができるカプシドタンパク質を含む。例えば、いくつかの態様において、rAAVは、AAV9またはAAVrh.10血清型を有するカプシドタンパク質を含む。いくつかの態様において、rAAVは、血液脳関門を通過するAAV9バリアント、例えばDeverman et al. (2016) Nature Biotechnology 34:204-209に記載のようなAAV-PHP.B血清型を含む。一般にrAAVの生成は、例えば、Samulski et al. (1989) J Virol. 63(9):3822-8およびWright (2009) Hum Gene Ther. 20(7): 698-706に記載されている。
【0069】
いくつかの態様において、本開示に記載のrAAV(例えば、AAVカプシドタンパク質によってカプシド化されてrAAVカプシド粒子を形成する、組換えrAAVゲノムを含むもの)は、バキュロウイルスベクター発現系(BEVS)で生成される。BEVSを使用したrAAVの生成は、例えば以下に記載されている:Urabe et al. (2002) Hum Gene Ther 13(16):1935-43、Smith et al. (2009) Mol Ther 17(11):1888-1896、米国特許第8,945,918号、米国特許第9,879,282号、および国際PCT公開WO 2017/184879。しかしながらrAAVは、任意の適切な方法を使用して(例えば、組換えrepおよびcap遺伝子を使用して)生成され得る。
【0070】
医薬組成物
いくつかの側面において、本開示は、本明細書に記載の単離された核酸またはrAAVおよび薬学的に許容し得る担体を含む、医薬組成物を提供する。本明細書で使用する場合、「薬学的に許容し得る」という用語は、化合物の生物活性または特性を無効にせず、また比較的非毒性である、担体または希釈剤などの材料を指し、例えば材料は、望ましくない生物学的影響を引き起こしたり、またはそれが含まれている組成物の任意の成分と有害な様式で相互作用したりすることなく、個体に投与し得る。
【0071】
本明細書で使用する場合、用語「薬学的に許容し得る担体」とは、薬学的に許容し得る材料、組成物または担体、例えば、液体または固体の充填剤、安定剤、分散剤、懸濁剤、希釈剤、賦形剤、増粘剤、溶媒または封入材料などであって、本発明内で有用な化合物をそれが意図する機能を果たすことができるように患者内にまたは患者に運ぶかまたは輸送することに関連するものを、意味する。本発明の実施において使用される医薬組成物に含まれ得るさらなる成分は、当該分野で知られており、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences (Genaro, Ed., Mack Publishing Co., 1985, Easton, PA)に記載されている;これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0072】
本明細書で提供される組成物(例えば、医薬組成物)は、以下を含む任意の経路で投与することができる:経腸(例えば、経口)、非経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、髄腔内、大槽内、皮下、脳室内、経皮、皮内、直腸、膣内、腹腔内、局所的(粉末、軟膏、クリーム、および/または滴剤による)、粘膜、鼻腔、頬側、舌下;気管内注入、気管支注入、および/または吸入;および/または経口スプレー、鼻スプレー、および/またはエアロゾルとして。具体的に企図される経路は、経口投与、静脈内投与(例えば、全身静脈内注射)、血液および/またはリンパ供給による局所投与、および/または罹患部位への直接投与である。一般に、最も適切な投与経路は、様々な因子、例えば薬剤の性質(例えば、胃腸管の環境におけるその安定性)、および/または対象の状態(例えば、対象が経口投与に耐えることができるかどうか)などに依存するであろう。
【0073】
方法
本開示は部分的に、神経変性疾患(例えば、ALS/FTDなど)を処置するために一緒に(例えば、相乗的に)作用する、対象における1つ以上のALS-FTD関連遺伝子産物(またはそれらの組み合わせ)の発現のための組成物に基づく。本明細書で使用される「処置する」または「処置すること」とは、(a)神経変性疾患(例えば、ALS/FTD、アルツハイマー病、ゴーシェ病、パーキンソン病、レビー小体型認知症、ライソゾーム病など)の発症を予防または遅延させること;(b)神経変性疾患の重症度を軽減すること;(c)神経変性疾患に特徴的な症状の発症を軽減または防止すること;(d)および/または、神経変性疾患に特徴的な症状の悪化を防止すること、を指す。例えば、ALS/FTDの症状には、例えば、運動機能障害(例えば、麻痺、震え、硬直、動きの鈍さ、歩行困難)、認知機能障害(例えば、認知症、うつ病、不安症)、感情的および行動的機能障害が含まれる。
【0074】
したがって、いくつかの側面において、本開示は、神経変性疾患を有するかまたは有することが疑われる対象を処置する方法を提供し、該方法は、対象に、本開示に記載の組成物(例えば、単離された核酸またはベクターまたはrAAVを含む組成物)を投与することを含む。いくつかの態様において、神経変性疾患は、ALS/FTD、アルツハイマー病、ゴーシェ病、パーキンソン病、レビー小体型認知症、またはライソゾーム病である。
【0075】
いくつかの態様において、組成物は、対象のCNSに直接的に、例えば対象の脳および/または脊髄への直接注射によって、投与される。CNS直接投与法の例には、限定はされないが、脳内注射、脳室内注射、槽内注射、実質内注射、髄腔内注射、および前述の任意の組み合わせが含まれる。いくつかの態様において、対象のCNSへの直接注射は、対象の中脳、線条体および/または大脳皮質における、導入遺伝子発現(例えば、第1の遺伝子産物、第2の遺伝子産物、および該当する場合は第3の遺伝子産物の発現)をもたらす。
【0076】
いくつかの態様において、本開示に記載の組成物は、対象の脳脊髄液(CSF)に直接投与される。いくつかの態様において、CSFへの直接注入は、対象の脊髄および/またはCSFにおける導入遺伝子発現(例えば、第1の遺伝子産物、第2の遺伝子産物、および該当する場合は第3の遺伝子産物の発現)をもたらす。対象のCSFへの直接投与の例には、限定はされないが、槽内注射、脳室内注射、腰椎内注射、またはそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0077】
いくつかの態様において、対象のCNSへの直接注射は、対流強化送達(CED)を含む。対流強化送達は、脳の外科的露出および小径カテーテルを脳の標的領域に直接配置し、続いて治療剤(例えば、本明細書に記載の組成物またはrAAV)を対象の脳に直接注入することを含む、治療戦略である。CEDは、例えば、Debinski et al. (2009) Expert Rev Neurother. 9(10):1519-27に記載されている。
いくつかの態様において、組成物は、例えば末梢注射により、対象の末梢に投与される。末梢注射の例には、皮下注射、静脈内注射、動脈内注射、腹腔内注射、またはこれらの任意の組み合わせが含まれる。いくつかの態様において、末梢注射は、動脈内注射、例えば対象の頸動脈への注射である。
【0078】
いくつかの態様において、本開示に記載の組成物(例えば、単離された核酸またはベクターまたはrAAVを含む組成物)は、対象の末梢および直接的にCNSの両方で投与される。例えば、いくつかの態様において、対象は、動脈内注射(例えば、頸動脈への注射)および実質内注射(例えば、CEDによる実質内注射)によって、組成物を投与される。いくつかの態様において、CNSへの直接注射および末梢注射は同時である(例えば、同時に起こる)。いくつかの態様において、直接注射は、末梢注射の前(例えば、1分から1週間の間、またはそれより前)に行われる。いくつかの態様において、直接注射は、末梢注射の後(例えば、1分から1週間の間、またはその後)に行われる。
【0079】
対象に投与される本開示に記載の組成物(例えば、単離された核酸またはベクターまたはrAAVを含む組成物)の量は、投与方法に応じて変化するであろう。例えば、いくつかの態様において、本明細書に記載のrAAVは、対象に、約10ゲノムコピー(GC)/kgと約1014GC/kgの間(例えば、約10GC/kg、約1010GC/kg、約1011GC/kg、約1012GC/kg、約1012GC/kg、または約1014GC/kg)の力価で投与される。いくつかの態様において、対象は、高力価(例えば、>1012ゲノムコピーGC/kgのrAAV)を、CSF空間への注射により、または実質内注射により投与される。
【0080】
本開示に記載の組成物(例えば、単離された核酸またはベクターまたはrAAVを含む組成物)は、対象に1回または複数回(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、またはそれ以上)投与され得る。いくつかの態様において、組成物は対象に継続的に(例えば、慢性的に)、例えば注入ポンプを介して、投与される。
【実施例
【0081】
例1:rAAVベクター
AAVベクターは、トリプルプラスミドトランスフェクション用のHEK293細胞などの細胞を使用して生成される。ITR配列は、目的の各導入遺伝子のプロモーター/エンハンサー要素、3’ポリAシグナル、およびWPRE要素等の翻訳後シグナルを含む発現構築物に隣接している。複数の遺伝子産物、例えばC9orf72タンパク質またはGBA1タンパク質、および1つ以上の阻害性核酸(例えば、C9orf72および/またはTMEM106Bを標的とする阻害性核酸)などを、例えば単一の発現カセットまたは別々の発現カセットでの発現により、同時に発現させることができる。発現された遺伝子の上流で効率的にスプライシングされる短いイントロン配列の存在は、発現レベルを改善することができる。阻害性RNA(例えば、miRNA、shRNAなど)および他の調節RNAは、これらの配列内に含まれる可能性がある。本開示に記載の発現構築物の例を、図1~17および20~21、および以下の表1に示す。
【0082】
【表1-1】

【表1-2】
【0083】
例2:ALS/FTD細胞へのウイルス導入の細胞ベースのアッセイ
C9orf72のリピート伸長を特徴とする細胞は、例えば、ALS/FTD患者からの線維芽細胞、単球、またはhES細胞、または患者由来の人工多能性幹細胞(iPSC)として得られる。これらの細胞は、RNA病巣およびRAN翻訳タンパク質を蓄積する。
かかる細胞モデルを使用して、細胞の病理を、RANタンパク質などのタンパク質凝集体の蓄積に関して抗RANタンパク質抗体を用いて定量化し、その後、蛍光顕微鏡を使用して画像化する。ウエスタンブロッティングおよび/またはELISAを使用して、RANタンパク質の異常な蓄積を定量化する。
治療のエンドポイント(ALS/FTD関連の病状の軽減など)は、AAVベクターの形質導入の発現の状況で測定し、活動と機能を確認および定量化する。内因性(例えば、病原性リピート伸長を含有する)C9orf72 mRNAレベルの減少は、例えば、定量的RT-PCT(qRT-PCR)を使用して定量化することができる。
【0084】
例3:in vitro研究
この例は、本開示に記載のC9orf72 rAAVベクターのin vitro試験を説明する。C9orf72ノックダウンおよび過剰発現の影響を、哺乳類細胞で調べた。試験した構築物の例を表2に示す。
【表2】
【0085】
遺伝子ノックダウンおよび過剰発現は、定量的PCR(qPCR)およびELISAによって分析した。図19Aは、rAAVベクターによるC9orf72の統計的に有意なサイレンシングを示す、代表的なデータを示す。図19Bは、rAAVベクターでのトランスフェクション後の野生型C9orf72発現の統計的に有意な増加を示す、代表的なデータを示す。
【0086】
配列
いくつかの態様において、1つ以上の遺伝子産物(例えば、第1、第2および/または第3の遺伝子産物)をコードする発現カセットは、配列番号1~62のいずれか1つに示される配列を含むか、またはそれからなる(またはそれをコードする)。いくつかの態様において、遺伝子産物は、配列番号1~62のいずれか1つの一部(例えば、断片)を含むか、またはそれからなる(またはそれによってコードされる)。いくつかの態様において、以下の配列中の「T」ヌクレオチドは、例えばRNA分子の文脈において、「U」ヌクレオチドによって置き換えられる。
当業者は、前述の配列の「一部」が、プラスミド骨格(例えば、複製配列の起点、選択マーカー配列など)を欠く発現カセット(例えば、ITRをコードする配列、干渉RNA、コード配列、調節配列など)の配列であり得ることを理解するであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19A
図19B
図20
図21
【配列表】
0007413256000001.app