(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】電池容器用金属板およびこの電池容器用金属板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 7/00 20060101AFI20240105BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20240105BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20240105BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20240105BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20240105BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20240105BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20240105BHJP
H01M 50/128 20210101ALI20240105BHJP
H01M 50/133 20210101ALI20240105BHJP
H01M 50/145 20210101ALI20240105BHJP
【FI】
C25D7/00 W
C23C28/00 A
C25D5/12
C25D5/26 A
C25D5/26 D
C25D5/50
H01M50/119
H01M50/121
H01M50/128
H01M50/133
H01M50/145
(21)【出願番号】P 2020539627
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034121
(87)【国際公開番号】W WO2020045627
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2018164020
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小柳 利文
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 興
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/179492(WO,A1)
【文献】特開平09-171802(JP,A)
【文献】特開平02-265740(JP,A)
【文献】国際公開第2016/080344(WO,A1)
【文献】特開平11-001779(JP,A)
【文献】国際公開第2007/072604(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/00-15/20
C23C 28/00
C25D 5/00-7/12
H01M 50/10-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池容器として用いられる電池容器用金属板であって、
鉄又は鉄の合金からなり、厚みが10~80μmであり、引張強度が280~450MPaであり、且つ伸びが
46%以上55%以下であり、且つ、Crが10.5%未満である基材と、
前記基材の少なくとも片方の面上に形成される、4.5~50.0g/m
2のNiめっき層、および、Cr水和酸化物の割合よりも金属Crの割合が大である0.05~10.0g/m
2のCrめっき層の少なくとも1つを含有する電気めっき層と、
を有することを特徴とする電池容器用金属板。
【請求項2】
前記電気めっき層は、Niのみで構成されるNiめっき層、Feが拡散したFe-Ni拡散層、及びFeとNiとが共に電析したFe-Ni合金めっき層の中から選択される1つを含む請求項1に記載の電池容器用金属板。
【請求項3】
前記基材のうち前記電池容器の内面側となる面は、ポリオレフィン系樹脂で被覆されている請求項1又は2に記載の電池容器用金属板。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系樹脂はポリプロピレン樹脂であって、
前記基材と前記ポリプロピレン樹脂との間には酸変性ポリオレフィン層が介在する請求項3に記載の電池容器用金属板。
【請求項5】
前記基材のうち前記電池容器の外面側となる面は、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂のいずれかで被覆されている請求項1~4のいずれか一項に記載の電池容器用金属板。
【請求項6】
前記基材の平面方向と厚み方向における結晶粒径の比が0.8~8である請求項1~5のいずれか一項に記載の電池容器用金属板。
【請求項7】
前記基材のうち前記電池容器の内面側となる面には、前記Niめっき層および前記Crめっき層の少なくとも1つを含有する電気めっき層が形成されているとともに、
前記基材のうち前記電池容器の外面側となる面には、3~30g/m
2のZnめっき層又はZn合金めっき層を含有する電気めっき層が形成されている請求項1~6のいずれか一項に記載の電池容器用金属板。
【請求項8】
鉄又は鉄の合金であってCrが10.5%未満の基材からなる電池容器用金属板の製造方法であって、
前記基材を冷間圧延してその厚みを10~80μm、引張強度が280~450MPaであり、且つ伸びが
46%以上55%以下とする工程と、
前記基材の少なくとも片方の面上に、4.5~50.0g/m
2のNiめっき層、および、Cr水和酸化物の割合よりも金属Crの割合が大である0.05~10.0g/m
2のCrめっき層の少なくとも1つを含有する電気めっき層を形成する工程と、
を有することを特徴とする電池容器用金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などの電池容器として好適な金属板およびこの電池容器用金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における電子機器の小型化は目覚ましく、携帯電話や携帯情報端末などの携帯型電子機器が広く普及している。かような携帯型電子機器においては、その電力源として充電が可能な二次電池が搭載されている。
また、二次電池は、上記した携帯型電子機器に搭載されるに留まらず、ガソリンの枯渇問題や環境問題などが相俟ってハイブリッド自動車や電気自動車などの車両へも徐々に搭載されてきている。
【0003】
上記した携帯型電子機器あるいは車両に搭載される二次電池においては、高出力で長寿命な高性能電池としてリチウムイオン二次電池(以下、「LiB」とも称する)が着目されている。
リチウムイオン二次電池は用途によって様々な種類があり、非水系電解液と正極活物質や負極活物質などを収容する電池容器も円筒形や角型など様々な形態をとる。このうち特許文献1では、薄板状金属板に樹脂を被覆したラミネート金属板を用いたパウチ内に電極などを収容する技術が開示されている。また、この特許文献1によれば、鉄又は鉄の合金を金属箔芯材として用いる旨が言及されている。
【0004】
また、特許文献2や特許文献3では、厚さ200μm以下の圧延金属板を用い、この圧延金属板上にNiめっきを施した後で圧延および熱処理を施すことで、この圧延金属板の表面にNiおよびFeを含む拡散合金層を形成する技術が開示されている。電解液などに対する耐食性向上を図るため圧延金属板上にポリオレフィン系樹脂が形成されることがあるが、この特許文献2によれば上記拡散合金層を用いることで圧延金属板とポリオレフィン系樹脂との密着性を向上させる旨が言及されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-202932号公報
【文献】国際公開第2016/013572号
【文献】国際公開第2016/013575号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した車両や電子機器に搭載可能な二次電池は、高出力であることに加えて高容量であることも要求されている。ここで、単純に容量を増加させるだけでよい場合には、比較的大きな容器に相応の電極活物質を収容すれば事足りるかもしれない。しかしながら特に車両に搭載される二次電池においては、電池自体の重量増は燃費の悪化に即刻でつながるため、高容量を実現するためであっても重量の増加は極力抑制せねばならない。
【0007】
可能な限り重量増を避けつつ高容量を実現する手法として、より厳しい条件下における成形加工を行って、電池容器の内容量を増加させることが想定される。しかしながら、上記した特許文献1乃至3を含む従来の技術では、かような成形加工に適しているとは言えず改善の余地は大きい。
さらに例えば携帯電話では既に一部で流通しているが、内蔵バッテリーとして利用されるパウチ型の二次電池では特に耐食性が問題となる。すなわち、かようなパウチ型の二次電池では電解液と接触する内面側はフィルムに被覆されているため容器の基材側(金属面)が電解液と接することは想定されていない。しかしながら高容量化などの要請から容積を最大化するため厳しい加工をせざるを得ない場合も想定できる。すると、このような難加工によって上記内面側のフィルムに損傷が発生した場合や、そもそもフィルム自体にピンホールなどの欠陥があった場合には、基材側が電解液と接触してしまう可能性が生じることになる。
以上のごとき状況を鑑みれば、基材側に形成される表面処理層(めっき層)には厳しい加工に耐え得る特性だけに留まらず耐内容物性とフィルムとの密着性がさらに希求される。
このように電池容器用としての金属板においては、優れた加工性(成形性)、フィルムとの密着性およびリチウム塩を有機溶媒に溶解した有機電解液などの非水電解液に対する耐内容物性を向上させることは、商品競争力の向上を得る上で非常に重要となる。
本発明は上記した課題を一例として解決することを目的としており、例えば電池用途として金属板を用いて成形加工を行う場合でも基材の割れや樹脂の剥離を抑制可能であって、且つ被覆される樹脂フィルムとの密着性に優れ、さらに容器内部に充填される非水電解液に対する耐内容物性に優れた電池容器用金属板およびこの電池容器用金属板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態における電池容器用金属板は、(1)電池容器として用いられる電池容器用金属板であって、鉄又は鉄の合金からなり、厚みが10~80μmであり、引張強度が280~450MPaであり、且つ伸びが46%以上55%以下であり、且つ、Crが10.5%未満である基材と、前記基材の少なくとも片方の面上に形成される、4.5~50.0g/m2のNiめっき層、および、Cr水和酸化物の割合よりも金属Crの割合が大である0.05~10.0g/m2のCrめっき層の少なくとも1つを含有する電気めっき層と、を有することを特徴とする。
【0010】
また上記した(1)に記載の電池容器用金属板においては、(2)前記電気Niめっき層は、Niのみで構成されるNiめっき層、Feが拡散したFe-Ni拡散層、及びFeとNiとが共に電析したFe-Ni合金めっき層の中から選択される1つを含むことが好ましい。
【0011】
また上記した(1)又は(2)に記載の電池容器用金属板においては、(3)前記基材のうち前記電池容器の内面側となる面は、ポリオレフィン系樹脂で被覆されていることが好ましい。
【0012】
また上記した(3)に記載の電池容器用金属板においては、(4)前記ポリオレフィン系樹脂はポリプロピレン樹脂であって、前記基材と前記ポリプロピレン樹脂との間には酸変性ポリオレフィン層が介在することが好ましい。
【0013】
また上記した(1)~(4)のいずれかに記載の電池容器用金属板においては、(5)前記基材のうち前記電池容器の外面側となる面は、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂のいずれかで被覆されていることが好ましい。
【0015】
また上記した(1)~(5)のいずれかに記載の電池容器用金属板においては、(6)前記基材の平面方向と厚み方向における結晶粒径の比が0.8~8であることが好ましい。
【0016】
また上記した(1)~(6)のいずれかに記載の電池容器用金属板においては、(7)前記基材のうち前記電池容器の内面側となる面には、前記Niめっき層および前記Crめっき層の少なくとも1つを含有する電気めっき層が形成されているとともに、前記基材のうち前記電池容器の外面側となる面には、3~30g/m2のZnめっき層又はZn合金めっき層を含有する電気めっき層が形成されていることが好ましい。
【0017】
さらに上記した課題を解決するため、本発明の一実施形態における電池容器用金属板の製造方法は、鉄又は鉄の合金であってCrが10.5%未満の基材からなる電池容器用金属板の製造方法であって、前記基材を冷間圧延してその厚みを10~80μm、引張強度が280~450MPaであり、且つ伸びが46%以上55%以下とする工程と、前記基材の少なくとも片方の面上に、4.5~50.0g/m2のNiめっき層、および、Cr水和酸化物の割合よりも金属Crの割合が大である0.05~10.0g/m2のCrめっき層の少なくとも1つを含有する電気めっき層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電池用途としての厳しい成形加工にも耐えることができ且つ被覆される樹脂フィルムとの密着性に優れ、さらに容器内部に充填される非水電解液に対する耐内容物性に優れた電池容器用金属板を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態にかかる電池容器用金属板10を示す模式図である。
【
図2】実施形態にかかる電池容器用金属板10の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】顕微鏡で撮影した基材1における断面写真(その1)である。
【
図4】実施形態にかかる電池容器用金属板10を用いて成形される電池容器の概要を示す図である。
【
図5】顕微鏡で撮影した基材1における断面写真(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1を用いて本実施形態の電池容器用金属板10について説明する。なお
図1においては、便宜上、電池容器用金属板10の厚み方向をZ方向とし、さらに電池容器用金属板10の圧延方向をX方向として説明する。しかしながらこれら方向の定義付けは本発明の権利範囲を減縮するものではない。
【0021】
<電池容器用金属板>
本実施形態に係る電池容器用金属板10は、鉄又は鉄の合金からなる基材1上に、表面処理層2(電気めっき層2)を有する。
基材1において、鉄の合金としては、電池容器の基材として適用可能な種々の鋼板などが例示でき、例えば炭素鋼として低炭素アルミキルド鋼(炭素量0.01~0.15重量%)、炭素量が0.003重量%以下の極低炭素鋼、または、極低炭素鋼にさらにTiやNbを添加してなる非時効性極低炭素鋼なども含むものとする。
【0022】
また、本実施形態に係る基材1の厚さは、10~100μmであることが好ましく、より好ましくは15~60μmである。厚みが10μmより小さいと、冷間圧延工程においてピンホールが発生する、あるいは板厚勾差が不安定になるなど品質が不安定となりやすい。また、成型工程において割れが発生し、本願の目的とする効果が得られないおそれがある。一方で厚みが100μmを超えると、軽量化の効果が得られないからである。
なお後述するとおり、成形加工中の基材1の割れや基材1からの樹脂フィルムの剥離を抑制する観点からは、基材1としては極低炭素鋼が望ましく、その厚みとしては20~80μm、さらに30~60μmであることがより好適である。
【0023】
ここで、基材1が鉄の合金である場合における成分組成の一例を次に示す。
(C:0.0001~0.1重量%)
Cは、基材1の強度を高める元素である。Cの含有量が過剰であると強度が上昇し過ぎて圧延性が低下することから、Cの含有量の上限値を0.1重量%とする。一方でCの含有量の下限値は特に制限はないが、コストを考慮してCの含有量の下限値は0.0001重量%とする。なお、Cの含有量は、より好ましくは0.0005~0.03重量%、さらに好ましくは0.001~0.01重量%である。
【0024】
(Si:0.001~0.5重量%)
Siは、基材1の強度を高める元素である。Siの含有量が過剰であると強度が上昇し過ぎて圧延性が低下することから、Siの含有量の上限値を0.5重量%とする。一方でSiの含有量の下限値は特に制限はないが、コストを考慮してSiの含有量の下限値は0.001重量%とする。なお、Siの含有量は、より好ましくは0.001~0.02重量%である。
【0025】
(Mn:0.01~1.0重量%)
Mnは、基材1の強度を高める元素である。Mnの含有量が過剰であると強度が上昇し過ぎて圧延性が低下することから、Mnの含有量の上限値を1.0重量%とする。一方でMnの含有量の下限値は特に制限はないが、コストを考慮してMnの含有量の下限値は0.01重量%とする。なお、Mnの含有量は、より好ましくは0.01~0.5%重量%である。
【0026】
(P:0.001~0.05重量%)
Pは、基材1の強度を高める元素である。Pの含有量が過剰になると強度が上昇し過ぎて圧延性が低下することから、Pの含有量の上限値を0.05重量%とする。一方、Pの含有量の下限値は特に制限はないが、コストを考慮してPの含有量の下限値は0.001重量%とする。なお、Pの含有量は、より好ましくは0.001~0.02重量%である。
【0027】
(S:0.0001~0.02重量%)
Sは、基材1の耐腐食性を低下させる元素である。そのため、Sの含有量は少ないほど好ましい。特に、Sの含有量が0.02重量%を超えると耐腐食性の低下が顕著となることから、Sの含有量の上限値を0.02重量%とする。一方でSの含有量の下限値は特に制限はないが、コストを考慮してSの含有量の下限値は0.0001重量%とする。なお、Sの含有量は、より好ましくは0.001~0.01重量%である。
【0028】
(Al:0.0005~0.20重量%)
Alは、例えば基材1の脱酸元素として添加される。脱酸による効果を得るためには、Alの含有量を0.0005重量%以上とすることが好ましい。しかしながら、Alの含有量が過剰になると圧延性が低下することから、Alの含有量の上限値を0.20重量%とする。一方で、Alの含有量の下限値は特に制限はないが、コストを考慮してAlの含有量の下限値は0.0005重量%とする。なお、Alの含有量は、より好ましくは0.001~0.10%である。
【0029】
(N:0.0001~0.0040重量%)
Nは、基材1の加工性を低下させる元素である。そのため、Nの含有量は少ないほど好ましい。特に、Nの含有量が0.0040重量%を超えると加工性の低下が顕著となることから、Nの含有量の上限値を0.0040重量%とする。一方でNの含有量の下限値は特に制限はないが、コストを考慮してNの含有量の下限値は0.0001重量%とする。なお、Nの含有量は、より好ましくは0.001~0.0040重量%である。
【0030】
(残部:Fe及び不可避的不純物)
基材1の残部のうち主要な元素はFeであり、その他は製造時に不可避的に混入してしまう不純物である。
【0031】
その他、付加成分として、Ti、Nb、B、Cu、Ni、Sn、及びCrなどが含有されていてもよい。特にTi及びNbは、基材1中のC及びNを炭化物及び窒化物として固定して、基材1の加工性を向上させる効果を有するので、Ti:0.01~0.8重量%、Nb:0.005~0.05重量%の範囲で1種または2種を含有させてもよい。また、本実施形態に係る基材1はCrが10.5%未満の鋼板がより好ましい。
【0032】
なお本実施形態に係る基材1は、冷間圧延された後で焼鈍されることで、以下の特性の少なくともいずれか1つを備えていることが好ましい。なお、本実施形態の焼鈍に必要な温度と時間は、450℃~650℃(より好ましくは500~600℃)で行う場合は2~9時間、さらに好ましくは2~6時間である。また、700~800℃で焼鈍を行う場合、その所要時間は20~120秒である。
【0033】
(引張強度)
本実施形態に係る基材1の引張強度は、260~700MPaであることが好ましい。引張強度が260MPaより小さいと、電池容器として用いた際に外部からの力で変形してしまうことにより割れ・孔が発生し、これにより電解液の漏れなどが発生してしまう問題がある。また、引張強度が700MPaを超えると加工性が乏しくなってしまうためである。なお、基材1の引張強度は、より好ましくは、270~650MPaである。より加工性を必要とする場合には、更に好ましくは280~450MPaである。
なお基材1の引張強度は、JIS規格のZ2241に記載された「金属材料引張試験方法」に準じて行った。
【0034】
(伸び)
本実施形態に係る基材1の伸びは、5~55%であることが好ましい。基材1の伸びが5%未満だと角(隅)部において加工性が乏しくなり、加工の際に割れが生じるおそれがあるためである。また、伸びが55%を超えるとこのような特性を出すための焼鈍条件として高い温度・長い時間が必要となるため、生産性が悪くなるためである。なお、基材1の伸びは、より好ましくは15~55%であり、さらに好ましくは20~50%である。
なお基材1の伸びは、JIS規格のZ2241に記載された「金属材料引張試験方法」の「20:破断伸び(%)Aの測定の式(7)」に準じて行った。
なお後述するとおり、成形加工中の基材1の割れや基材1からの樹脂フィルムの剥離を抑制する観点からは、基材1の伸びは20%以上が好ましく、さらには30%以上であることがなお望ましい。
【0035】
(結晶粒径の比)
本実施形態に係る基材1の平面方向(圧延方向)と厚み方向における結晶粒径の比(平面方向/厚み方向)は、0.8~8であることが好ましい。なお本実施形態の「結晶粒径」は、単位面積(例えば1μm×1μm)当たりに存在する結晶粒径の平均値である。この平均結晶粒径を測定する方法に特に制限はないが、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)で金属板の断面写真の撮影を行った上でJIS G0551(附属書BまたはC)に準拠して測定することができる。平面方向(圧延方向)と厚み方向における比を求めるには、平面方向に沿った試験線と厚み方向に沿った試験線のそれぞれに基づいて結晶粒径を求め、その比を計算する。なお、測定対象となる複数の粒子それぞれにおいて、圧延方向における最長の長さ値と、厚み方向における最長の長さ値とを対比することで上述した結晶粒径の比を算出してもよい。
基材1の上記した結晶粒径の比が0.8未満となるようなものは一般的な製造方法において困難である。また、上記した結晶粒径の比が8を超えると加工の際に割れが生じやすい。なお、基材1の上記した結晶粒径の比は、より好ましくは0.8~5である。より加工性が求められる場合、基材1の上記した結晶粒径の比は、更に好適には0.8~4である。
【0036】
<表面処理層>
本実施形態に係る基材1上の少なくとも電池容器の内面側となる面には、電気めっきによる表面処理層2(電気めっき層とも称する)が形成される。なお、基材1の電池容器の外面側となる面についても、酸化防止と製造の容易性を確立するなどの観点から、上記した内面側となる面と同じである又は少なくとも一層が同じである表面処理層2が形成されていてもよい。この表面処理層2としては、例えば電解液に浸漬した際の樹脂フィルムとの密着性向上のため、および、上記樹脂フィルムに欠損が生じた場合における電解液への耐食性確保のため、電気めっきによって形成されるCrめっき層、並びにNiめっき層及びFe-Ni合金めっき層に例示されるNiの合金めっきが挙げられる。また、これらのめっき層を複数有していてもよく、例えば基材1上にNiめっき層を形成した後、Crめっき層を形成してもよい。
なお本実施形態の表面処理層は、例えば基材1が冷間圧延後に焼鈍された後に形成してもよいし、基材1が冷間圧延された後であって焼鈍される前に形成することも可能である。このうち焼鈍される前にNiめっきを施した際には、熱処理によってFe-Ni拡散層が形成されていてもよい。このとき、Niめっき層と基材1との間にFe-Ni拡散層が形成されていてもよく、または、基材1の鉄がNiめっき層の全体に拡散し、基材1の上に直接Fe-Ni拡散層が形成されていてもよい。
【0037】
また、
図1においては基材1の両面に表面処理層2が形成されているが、少なくとも電池容器の内面側となる面に表面処理層2が形成される態様でもよい。
または、基材1の両面でそれぞれ異なる種類の表面処理層2(電気めっき層)が形成されていてもよい。例えば基材1のうち電池容器の内面側となる面には、Niめっき層およびCrめっき層の少なくとも1つを含有する電気めっき層(第1電気めっき層)が形成されるとともに、電池容器の外面側となる面には異なる耐食メカニズム(犠牲防食層として)のZnめっき層又はZn合金層(例えば、Zn-Ni、Zn-Co、Zn-Co-Mo、Zn-Fe、Zn-Snなど)を含有する電気めっき層(第2電気めっき層)が形成されてもよい。この場合、犠牲防食層としてのZnめっき層又はZn合金めっき層を含有する電気めっき層は、例えばZnが3~30g/m
2のめっき量であることが好ましく、さらに5~25g/m
2のめっき量であることが尚好ましい。Znめっきは電解液に溶解するので、常に接触する内面側としては使用できないが、電池容器の外面側に使用することで、電解液が少量付着した際の犠牲防食に有効である。特に、端面に電解液が少量付着した際には、上記のごとく片面(外面側)がZnめっきである場合には、端面においてZnが優先的に溶けることにより、基材である鉄の腐食を抑制することができ、以って電解液の漏出を防ぐことができるので効果的である。
【0038】
なお、基材1上に表面処理層2としてNiめっきを施す場合には、冷間圧延した金属板を通常の方法で電解脱脂、酸洗した後、例えば一例として以下に示すNiめっき浴を用いることができる。なおNiめっき浴としてはワット浴と称される硫酸ニッケル浴が主と用いられるが、この他、スルファミン酸浴、ほうフッ化物浴、塩化物浴などを用いてもよい。
(Niめっき浴組成、条件)
硫酸ニッケル:200~350g/l
塩化ニッケル:20~60g/l
ほう酸:10~50g/l
pH:1.5~5.0
浴温度:40~70℃
電流密度:1~40A/dm2
【0039】
また、基材1上に形成される表面処理層2としてのNiめっきは、純粋なNiだけでなく、Ni-Co合金や、Fe-Ni合金などのようにNiを含む合金を用いて形成されたものであってもよい。換言すれば、表面処理層2は、Niのみで構成されるNiめっき層、Feが拡散したFe-Ni拡散層、及びFeとNiとが共に電析したFe-Ni合金めっき層のいずれかを含んでいてもよい。なお本明細書で「Niのみで構成される」とは、金属元素としてはNiのみを有する意味であり、めっき浴添加剤に由来する物質あるいはめっき形成過程で不回避的に混入される0.1%未満の炭素や0.05%未満の硫黄などの不純物は含有することを許容するものである。
【0040】
また、本実施形態のNiめっきは、めっき量として0.5~50.0g/m2のNiめっきであることが好ましい。Niめっきのめっき量が0.5g/m2未満では、表面の被覆が不十分で基材の露出が極端に増え、耐内容物性が不足するという問題が生じてしまう。一方でNiめっきのめっき量が50.0g/m2を超えると、めっき層の厚みが厚くなる事によって金属板10の厚みも厚くなり重量増加につながってしまう。また、めっきの処理時間やめっき量の増加は生産性の悪化や製造コストの増大を招くという問題が生じるからである。
また、表面処理層2としてNiめっきを基材1上に形成した後、熱処理を施す場合、Fe-Ni拡散層を形成することができる。加工性向上の観点から、このFe-Ni拡散層は0.2μm以上であって3.0μm以下の厚さであることが好ましい。
【0041】
また、基材1上に表面処理層2としてCrめっきを施す場合には、冷間圧延した金属板を通常の方法で電解脱脂、酸洗した後、例えば一例として以下に示すCrめっき浴を用いることができる。
(Crめっき浴組成、条件)
CrO3:30~200g/l
NaF:1~10g/l
pH:1.0以下
浴温度:35~65℃
電流密度:5~50A/dm2
【0042】
この場合、表面処理層2としてのCrめっきは、めっき量として0.05~10.0g/m2のCrめっきであることが好ましい。Crめっきのめっき量が0.05g/m2未満では、表面の被覆が不十分で基材1の露出が極端に増えてしまい、耐内容物性が不足するという問題が生じてしまう。一方でCrめっきのめっき量が10.0g/m2を超えると、上記と同様に重量の増加、生産性の悪化や製造コストの増大という問題が生じるからである。
【0043】
また、表面処理層2としてCrめっきを施す場合には、Cr水和酸化物(CrOx)の割合よりも金属Crの割合が大であるCrめっき層であることが更に好ましい。ここで金属CrとCr水和酸化物(CrOx)の算出方法としては、例えば以下に示す方法で実施できる。まずステップ1として、基材上に施したCrめっきの全Cr量を測定する。次いでステップ2として、このCrめっきが施された基材を高温アルカリで溶解処理することで、Cr水和酸化物を溶解させ、基材に残ったCr量を金属Cr量として測定する。最後にステップ3として、Cr水和酸化物量を計算(Cr水酸化物量=全Cr量-金属Cr量)で算出する。なお上記測定は、全て市販の蛍光X線測定器によって実施することができる。
【0044】
<熱可塑性樹脂>
本実施形態に係る電池容器用金属板10は、少なくとも一方の面が熱可塑性樹脂3で被覆されていてもよい。なお、本実施形態の電池容器用金属板10においては、電池容器用樹脂被覆金属板として表面処理層2上を熱可塑性樹脂で被覆していてもよい。換言すれば、電池容器用金属板10は、表面処理層2上が熱可塑性樹脂で被覆されたラミネート板として構成されていてもよく、あるいは表面処理層2が形成されるに留まる構成であってもよい。
かような熱可塑性樹脂3の厚みは、10~100μmであり、より好ましくは10~50μmである。
また、本実施形態の熱可塑性樹脂3としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂又はポリアミド樹脂が例示される。そしてこのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂又はポリアミド樹脂は、電池容器用金属板10の両面を被覆していることが好ましい。この場合においては、電池容器用金属板10のうち一方の面(電池缶の内面側)はポリオレフィン系樹脂(特にポリプロピレン樹脂)で被覆されることが好ましい。
【0045】
かようなポリプロピレン樹脂としては、ランダムプロピレン樹脂、ホモプロピレン樹脂、およびブロックプロピレン樹脂などの各種のポリプロピレン樹脂を単層で使用してもよいし、これらを重ね合わせて多層化して使用してもよい。
また、本実施形態では、ポリプロピレン樹脂に公知の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、例えば、低結晶性のエチレンーブテン共重合体、低結晶性のプロピレンーブテン共重合体、エチレンとブテンとプロピレンの3成分共重合体からなるターポリマー、シリカ、ゼオライト、アクリル樹脂ビーズ等のアンチブロッキング剤、脂肪酸アマイド系のスリップ剤などが例示できる。さらには、例えばスリップ剤(材料の物理的な安定性向上のため)や酸化防止剤なども上記した添加剤として添加してよい。
【0046】
一方で、電池容器用金属板10のうち他方の面(電池缶の外面側)は、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂のいずれかで被覆されていることが好ましい。このうちポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートで被覆することが好ましい。なおポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートの他に例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等を使用することができる。また、ウレタン変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂などの変性樹脂を用いても良い。
【0047】
なお、電池容器用金属板10のうち一方の面(例えば電池缶の内面側)を被覆する樹脂の厚みと、他方の面(例えば電池缶の外面側)を被覆する樹脂の厚みは、要求される耐食性・加工性により上記厚み範囲の間で適宜調整すればよく、両面の厚みは同じでも異なっていてもよい。
また、ポリエステル樹脂を使用する場合、このポリエステル樹脂は無配向であることが好ましい。
また、電池容器用金属板10のうち他方の面(電池缶の外面側)は、上記したポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート)に限られず、電池容器用金属板10の両面共にポリプロピレン樹脂で被覆してもよい。あるいは、電池容器用金属板10の両面共にポリエステル樹脂で被覆してもよい。
【0048】
また、熱可塑性樹脂3は、公知の接着剤を介して電池容器用金属板10を被覆している形態であってもよい。なお公知の接着剤としては、例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、ポリイソブチレン系樹脂、フッ素樹脂、或いは水ガラス等の無機接着剤などを用いることができる。
特に本実施形態の電池容器用金属板10では、基材1と上記した熱可塑性樹脂3との間に酸変性ポリオレフィン層を介在させることが好ましい。なおこの場合、基材1から順に、表面処理層2、酸変性ポリオレフィン層、熱可塑性樹脂3、のように形成される。このような酸変性ポリオレフィン層は、特に熱可塑性樹脂3がポリプロピレン樹脂である場合に、電池容器用金属板10における当該ポリプロピレン樹脂との密着性を向上させるために有効となる。酸変性ポリオレフィン層の具体例としては、例えば不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレンや、プロピレンに対してアクリル酸又はメタクリル酸を共重合させた共重合体などが例示できる。さらにこれらの酸変性ポリオレフィン層に対し、さらに必要に応じてブテン成分、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体等を5%以上添加してもよい。なお、酸変性ポリオレフィン層は、異常発熱の防止および溶融押出し時におけるサージングやネックイン防止の観点から、融点が145℃~165℃の酸変性ポリプロピレンが好ましい。
【0049】
前記熱可塑性樹脂3は、フィルムを形成した後に、表面処理層2を形成した基材1上にラミネートするものであってもよいし、加熱溶融した前記熱可塑性樹脂3を押し出し成形機の押し出し幅のスリットによってフィルム状に押し出し、表面処理層2を形成した基材1上に直接的にラミネートする押し出しラミネート法によるものであってもよい。上記フィルムを形成した後でラミネートする場合、上記フィルムの延伸の有無は特に限定されず、たとえば、無延伸フィルムであっても一軸延伸フィルムであっても二軸延伸フィルムであってもよい。
【0050】
一例として、電池容器用金属板10のうち一方の面(電池缶の内面側)と他方の面(電池缶の外面側)とで、熱可塑性樹脂3のラミネート方法を異ならせることもできる。
例えば、基材1のうち他方の面(電池缶の外面側)については、表面処理層2の上にさらに、例えば2液硬化型のポリウレタン系接着剤を介して、延伸した熱可塑性樹脂3からなるフィルム(例えば延伸PETフィルムや延伸ポリアミドフィルム)をドライラミネートしてもよい。
一方で、電池容器用金属板10のうち一方の面(電池缶の内面側)については、表面処理層2を形成した基材1において、該表面処理層2と熱可塑性樹脂3としてのポリプロピレンフィルムとの間に酸変性ポリプロピレンを溶融押出しして、この溶融押し出しを行った酸変性ポリプロピレンを基材1とポリプロピレンフィルムとの間でサンドイッチしてラミネート処理することができる。さらに内面側のラミネートについてはこの他、ポリプロピレンと酸変性ポリプロピレンを多層フィルム状に押出成形して表面処理層2上に直接ラミネートする方法、予めポリプロピレンと酸変性ポリプロピレンの多層フィルムを用意してこれを表面処理層2上に熱ラミネートする方法、等を採用することもできる。
【0051】
<電池容器用金属板の製造方法>
次いで、
図2を参照しつつ本実施形態の電池容器用金属板10の製造方法について説明する。
まず、鉄又は鉄の合金からなる金属板を準備し、プレス加工を行う圧延機に当該金属板を投入することによって冷間圧延を行う(ステップ1)。これにより、厚さが10~100μmの冷間圧延された基材1が形成される。この冷間圧延は必要に応じて多段階で行ってもよく、間に熱処理を行ってもよい。
【0052】
次いで、得られた基材1に対して焼鈍処理を行う(ステップ2)。このとき、焼鈍処理における基材1の温度は、450℃~650℃、より好ましくは500~600℃である。また、この焼鈍処理における所要時間は、2~9時間、より好ましくは2~6時間行われる。また、700~800℃で焼鈍処理を行う場合は20~120秒で行うこともできるが、加工性向上の観点から前者の温度範囲で行うのが好ましい。
【0053】
ステップ2の後、基材1に表面処理(めっき処理)を施して当該基材1の少なくとも片方の面上に、Niめっき層およびCrめっき層の少なくとも1つを含有する表面処理層2(電気めっき層)を形成する(ステップ3)。
なお、ステップ3で形成される表面処理層2(電気めっき層)としては、例えばNiめっき層であればめっき量を0.5~50.0g/m2とし、Crめっき層であればめっき量を0.05~10.0g/m2であることが好適である。なお、ステップ2の焼鈍は表面処理層2を形成した後に行ってもよい。また、ステップ2の焼鈍を行った後で表面処理層2を形成した後に、例えば加工性向上を狙いとして熱処理(拡散処理)をさらに施してもよい。このときの熱処理条件としては、ステップ2で記載される焼鈍条件と同様の条件で行うことが可能である。なお、ステップ1の圧延工程をめっき処理の後に行うと、Niめっき皮膜の表面にクラックが生じて密着性、耐食性が低下する可能性があり、好ましくない。
【0054】
なお、ステップ2、3を経た後の基材1は、引張強度が260~700MPa、伸びが5~55%、且つ基材1の平面方向(圧延方向)と厚み方向における結晶粒径の比が0.8~8という特性の少なくとも1つを備えていることが好ましい。
上記のようにステップ2、3を経た後で、電池容器用金属板10を得ることができる。
【0055】
次にステップ4では、表面処理層2が形成された基材1に対して、上記で説明した熱可塑性樹脂3を10~50μm程度の厚みで被覆する処理(樹脂被覆処理)を行う。なお、このステップ4は、本実施形態の電池容器用金属板10の製造方法においては必須の工程ではなく、ラミネート板(電池容器用樹脂被覆金属板)として構成しない限りは適宜省略してもよい。
ステップ4についてより具体的には、表面処理層2が形成された基材1のうち容器内面側となる一方の面にはポリプロピレン樹脂を形成するとともに、容器外面側となる一方の面にはポリエチレンテレフタレート樹脂又はポリプロピレン樹脂を形成することが例示できる。
【0056】
樹脂の形成方法としては、上述したように、表面処理層2が形成された基材1のうち容器外面側となる側はウレタン系接着剤を介してドライラミネート法を採用しつつ、容器内面側となる側には溶融した酸変性ポリプロピレンを介した押し出しラミネート法を採用できる。ラミネート法は上記に限られず、表面処理層2が形成された基材1のうちいずれの側であってもフィルムラミネートでも良いし、押し出しラミネートによる方法でも良い。なお、この熱可塑性樹脂3を被覆する際の表面処理層2が形成された基材1の温度は、例えばラミネートの態様に応じて常温~280℃、好ましくは250℃以下に調整される。上記のようにステップ4を経た後で、電池容器用樹脂被覆金属板を得ることができる。なおドライラミネート法を採用した場合には、例えば30~100℃の温度環境下で1~7日間の期間でドライラミネート後のエージングを行うことが好ましい。
【0057】
そしてステップ5では、深絞り加工を行って、電池容器用金属板10を
図4に示すような容器形状に成形する。より具体的には、本実施形態の容器形状は、矩形の電極板が収容可能なように四隅に曲率半径Rc(周方向のコーナーであるためRcと称する)の隅部が形成された深さDの矩形状の凹部を有している。また、この凹部の側壁と凹部の底面との間は曲率半径Rp(パンチのRで規定されるためRpと称する)でつながっている。なお、
図4の容器では上述した凹部の四隅のコーナーRが等しくなっているが、このRc及びRpはそれぞれ異なった値としてもよい。
ここで、かような曲率半径Rc及びRpと深さDの形状を有する電池容器の形状に対して本実施形態の電池容器用金属板10が非常に有効である理由について以下に詳述する。
【0058】
<高容量化のための曲率半径Rc及びRpと深さD>
まず電池容器用金属板10を電池容器として用いて高容量化するためには、成形加工の際の上記した凹部における四隅のRcと、凹部の側壁と底面との間のRp、および深さDのいずれも重要だが、特にRpと深さDのバランスが重要になる。なお、かようなバランスを確立することは、個々の電池を大型化させて、これまでの電池の複数個分の電池特性を一つの電池で担保できるようにすることが理想的になることから車載用途の電池容器として特に重要となる。また単セルの電池に限らず、複数の電池を集合させモジュール化して使用するような場合においても重要である。
そして上記したRcとRpは、電極が配置される面積をより広げ、さらに電池内のデッドスペースを少なくする観点などから可能な限り双方とも曲率半径を小さくすることが望ましい。
かような曲率半径Rpの値としては、好ましくは2mm未満、より好ましくは1.5mm以下である。
また、かような曲率半径Rcの値としては、使用される用途及び電池サイズにより異なるが、好ましくは10mm未満、より好ましくは8mm以下、更に好ましくは5mm以下であり、特に容器の短辺の長さが50mmを下回る場合は3mm以下が好ましい。
【0059】
一方で電池容器として用いて高容量化のためには、積層して収容する電極の数が増えることで電池全体としての容量増が図れることから、深さDを大きくすることも有効となる。かような深さDの値としては、5mm以上が好ましく、より好ましくは6mm以上である。
このような背景の下で本発明者らが望ましい曲率半径Rpと深さDの関係について鋭意検討したところ、高容量化のために電池容器用金属板10を上記のような条件で加工を施す場合には成形性、成形後の樹脂フィルムとの密着性および成形後の耐内容物性の3面で課題があることに帰結した。
【0060】
すなわち、まず曲率半径Rpが小さくなればなるほど成形加工の難易度があがり、特に曲率半径Rpを1.5mm以下とすれば難易度が飛躍的にあがってしまう。さらに、深さDについては深い成形加工をしようとすればするほど、電池容器用金属板10の材料に対する加工条件が厳しくなってくる。特に曲率半径Rpが2mm未満という条件と、深さDが5mm以上という条件とを組み合わせた場合には、下記のような3つ課題が生じることが新たに判明した。
【0061】
まず一つ目の課題としては、成形加工中の基材1の割れが生じやすくなることである。そもそも上記のような加工条件においては、従来のアルミニウムを基材1とした場合には、厚みを厚くしなければならなかったり、安定的な成形が難しかったりするため、実用には至っていない。安定的な成形が難しいという点において、例えば、絞り加工を行った際のフランジ部の波打ちやシワが大きくなり、容器の封止が不確実となるおそれがあった。
一方で、本実施形態で説明したように基材1として鉄または鉄合金を用いる場合には、アルミニウムに比して比重が大きいため、電池重量の増加を抑制するために基材1の厚みを薄くする必要がある。このように基材1の厚みを薄くした場合には、基材1の割れなどが発生しやすくなることが分かった。
次に二つ目の課題としては、成形加工後の基材1と樹脂フィルムとの密着性が挙げられる。上記のように基材1の厚みを薄くした場合には、成形加工時における基材1の変形の影響で樹脂フィルムの基材1からの剥離を誘発することが分かった。
【0062】
次に三つ目の課題としては、成形加工後の耐内容物性(電解液に対する耐性)が挙げられる。かような成形加工後の耐内容物としては、電解液に浸漬した際の基材1と樹脂フィルムとの密着性の維持という課題の他、上記のような加工条件においては基材1そのものの耐内容物性が必要となる。すなわち、上記のごとく厳しい加工条件でプレス成形を行った場合には、基材1を被覆する樹脂フィルムにおいて損傷を受ける可能性がある。また、樹脂フィルム自体にそもそもピンホールなどの欠陥があった場合にも、当該欠陥が厳しい成形加工の中で広がりやすくなってしまう。
このような場合には、電解液と基材1の表面とが接触することとなってしまうため、基材1の表面を溶出しにくい形態とする必要が生じてくる。なお、従来のようにアルミニウムを基材として採用しようとする場合、そもそもアルミニウムの成形性が悪いために上記のような厳しい加工条件での加工はそもそも不可能となる。
【0063】
以上で詳述した各課題に対し、本実施形態においては、上記したとおり0.5g/m2以上のNiめっき層および0.05g/m2以上のCrめっき層の少なくとも1つを含有する表面処理層2(電気めっき層)を有することにより、基材が電解液に溶出してしまうことを防ぐことが可能となり、さらに厳しい成形加工における樹脂フィルムとの密着性も十分に担保できることを見出したのである。
【0064】
なお電池容器は、電極板や電解液などの電池要素を収容した後で密封されるが、本実施形態の電池容器用金属板10は密封に用いられる電池容器の蓋部材としても適用できる。かような電池容器の構成部材である蓋部材は、
図4に示した電池容器本体と同様な収容空間が形成されていてもよいし、平板のまま用いることもできる。また、電池容器の密封に際しては、絞り加工された収容部を有する電池容器本体の周縁のフランジ部で、上記した蓋部材とヒートシールするのが好ましい。この場合、電池容器本体と蓋部材の向かい合う面の被覆樹脂が、ポリプロピレン樹脂同士またはポリエステル樹脂同士のように同種類の樹脂が向き合うよう構成することが好ましい。なお上記した密封方法は一例であってこれに限らず、例えば公知の接着剤を用いてもよい。
【0065】
本実施形態で得られた電池容器は、上述した本実施形態の電池容器用金属板10を用いて形成されるものであるため、ニッケルめっき金属板またはクロムめっき金属板と、樹脂との密着性が高く、それでいて量産加工性に優れるものであるため、アルカリ電池、ニッケル水素電池、ニッケル・カドミウム電池、リチウムイオン電池など種々の一次電池または二次電池の電池容器として好適に用いることができる。
【実施例】
【0066】
次に実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。
【0067】
<実施例1>
まず基材1となる金属板(金属箔)として、下記に示す化学組成を有する極低炭鋼の冷間圧延板(厚さ80μm)を準備した。
C:0.01重量%、Mn:0.22重量%、Si:0.01重量%、P:0.012重量%、S:0.014重量%、残部:Feおよび不可避的不純物
【0068】
次に、準備した金属板(金属箔)について焼鈍を650℃3時間行うことで、以下の特性を有する基材1を得た。
・引張強度(TS):293MPa
・伸び(EL):46%
・平面(圧延)方向と厚み方向の結晶粒径の比:1.2
なお、結晶粒径は、
図3に示すように、走査型電子顕微鏡(SEM)で電池容器用金属板10の断面写真の撮影を行った上でJIS G0551(附属書C)に準拠して、平面方向及び厚み方向のそれぞれについて測定した。
【0069】
(表面処理層2の形成)
そしてこの焼鈍後の基材1に対し、電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にて電気めっきを行って、Niのめっき量が4.5g/m2である電気めっき層2(Niめっき層)を形成した。なお、上記のNiめっき層の形成条件は、以下の通りとした。
(Niめっき層の形成条件)
浴組成:硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸、ピット抑制剤
pH:4.3
浴温:55℃
電流密度:10A/dm2
【0070】
(熱可塑性樹脂3の形成)
まず、熱可塑性樹脂3として、厚み25μmの延伸ポリアミドフィルムを準備した。該延伸ポリアミドフィルムの片面に、ウレタン系接着剤をグラビアロールにより塗布した。その後、塗布したウレタン系接着剤を加熱して乾燥させた。
次に、表面処理層2が形成された基材1と、ウレタン系接着剤を塗布した延伸ポリアミドフィルムとを、表面処理層2とウレタン系接着剤とが接するように巻き戻して圧着し、ドライラミネート法により熱可塑性樹脂3を形成した。なお、延伸ポリアミドフィルムは表面処理層2が形成された基材1の片面にのみラミネートした。
このようにして、電池容器用金属板10を得た。
【0071】
(成形性の評価)
上記で得られた電池容器用金属板10に対し、外形が80mm×120mmの大きさに切断した上で、33mm×54mmの金型を用いて上記した凹部の成形後における深さDがそれぞれ5mm及び6mmとなるようにプレス成形(成形圧:0.9MPa)を行った。プレス成形は、延伸ポリアミドフィルムの側が電池容器外面側となるようにして行った。
【0072】
なお、プレス成形した後における電池容器用金属板10に対する成形性の評価は、電池容器の四隅で基材1の割れや熱可塑性樹脂3の浮きや割れを目視にて観察し、次の基準で行った。
[評価基準]
○:目視で判定した結果、基材の割れや熱可塑性樹脂の浮き/割れが認められなかった。
△:目視で判定した結果、実用には供せるが一部に割れや浮きが認められた。
×:目視で判定した結果、実用に供せない程度の基材の割れや熱可塑性樹脂の浮き/割れが認められた。
【0073】
(耐内容物性の評価その1)
耐内容物性に用いる電解液として、多くの使用が一般的に想定される下記の電解液を用いた。
[耐内容物性の評価に用いた電解液]
エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)を重量比で1対1対1にした電解液に1mol/lの6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を加え、その後、6フッ化リン酸リチウムに対し1000ppmの水分を添加。
【0074】
この電解液に幅15mm×長さ100mmのサイズでカットした電池容器用金属板10を浸漬し、85℃の環境下で浸漬めっき材として所定の日数(一例として14日間)だけ保管した。なお、本評価における電池容器用金属板10としては、Niめっき層が形成され、熱可塑性樹脂3は被覆されていないものを使用した。また、深さDのプレス加工は未実施の状態で評価を行った。さらに電池容器用金属板10のうち評価を実施しない側についてはシーリングを行った。
そしてこの浸漬めっき材に対し、所定の日数(例えば1日、7日又は14日)が経過した時点において常温に戻した後に目視により外観を観察した。
【0075】
なお浸漬めっき材に対する耐内容物性評価その1は以下の基準で行った。
[評価基準]
○:目視で判定した結果、外観の変化が無かった。
△:目視で判定した結果、変色するなど一部に外観の変化が有った。
×:目視で判定した結果、実用に供せない程度の基材の露出が認められた。
【0076】
<実施例2>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
表面処理層2(電気めっき層)としてのNiのめっき量が17.8g/m2である点以外は、上記した実施例1と同様に行った。
【0077】
<実施例3>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
表面処理層2(電気めっき層)としてのNiのめっき量が44.5g/m2である点以外は、上記した実施例1と同様に行った。
【0078】
<実施例4>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
この基材に対してめっき量が8.9g/m2のNiめっきを形成した後で、この表面処理層2(電気めっき層)に対して700℃で1分間の熱処理を施した。それ以外は、上記した実施例1と同様に行った。
【0079】
<実施例5>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
この焼鈍後の基材に対し、電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にて電気めっきを行った。正確なめっき量を測定するため、まずは銅板の上にFe-Ni合金めっきを実施し、蛍光X線にてNiとFeの付着量を求めた。その後、同条件にて鉄基材の上にFe-Ni合金めっきを実施した。本実施例においては、FeとNiの合計が8.9g/m2であった。なお、上記の電気めっきの条件は、以下の通りとした。
(Fe-Ni合金めっきの条件)
浴組成:硫酸第一鉄、硫酸ニッケル、ホウ酸、サッカリン、塩化ニッケル、ピット抑制剤、クエン酸類
pH:2.0~3.0
浴温:50℃
電流密度:20~50A/dm2
上記した点以外については、実施例1と同様に行った。
【0080】
<実施例6>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
そしてこの基材に対し、電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にて電気めっきを行って、Crのめっき量が0.05g/m2である電気めっき層2(Crめっき層)を形成した。なお、上記の電気めっきの条件は、以下の通りとした。
(Crめっきの条件)
CrO3:50g/l
NaF:1.7g/l
浴温度:45℃
電流密度:30A/dm2
上記で得られた電池容器用金属板10に対し、実施例1と同様にして成形性の評価および耐内容物性の評価を行った。
【0081】
<実施例7>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
表面処理層2(電気めっき層)としてのCrめっき量が0.36g/m2である点以外は、上記した実施例6と同様に行った。
【0082】
<実施例8>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
表面処理層2(電気めっき層)としてのCrめっき量が3.6g/m2である点以外は、上記した実施例6と同様に行った。
【0083】
<実施例9>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
表面処理層2(電気めっき層)としてのCrめっき量が7.19g/m2である点以外は、上記した実施例6と同様に行った。
【0084】
<比較例1>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
表面処理層2(電気めっき層)としてのNiのめっき量が0.1g/m2である点以外は、上記した実施例1と同様に行った。
【0085】
<比較例2>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
そしてこの基材に対し、電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にて電気めっきを行って、Znのめっき量が3.6g/m2である電気めっき層2(Znめっき層)を形成した。なお、上記の電気めっきの条件は、以下の通りとした。
(Znめっきの条件)
ZnSO4・7H2O:220~300g/L
硫酸アンモニウム:25~35g/L
pH:1.0~2.0
浴温 :50~60 ℃
電流密度 :10 A/dm2
上記で得られた電池容器用金属板10に対し、実施例1と同様にして成形性の評価および耐内容物性の評価を行った。
【0086】
<比較例3>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
表面処理層2(電気めっき層)としてのZnのめっき量が7.14g/m2である点以外は、上記した比較例2と同様に行った。
【0087】
<比較例4>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
そしてこの基材に対し、電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にて電気めっきを行って、Snのめっき量が1.4g/m2である電気めっき層2(Snめっき層)を形成した。なお、上記の電気めっきの条件は、以下の通りとした。
(Snめっきの条件)
硫酸第一錫:30~80g/L
フェノールスルフォン酸:30~60g/L
エトキシ化-αナフトール:2~6g/L
エトキシ化-αナフトールスルフォン酸:4~12g/L
pH:1.0~2.0
浴温:40~55℃
電流密度:2.5~10A/dm2
上記で得られた電池容器用金属板10に対し、実施例1と同様にして成形性の評価および耐内容物性の評価を行った。
【0088】
<比較例5>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
表面処理層2(電気めっき層)としてのSnのめっき量が2.8g/m2である点以外は、上記した比較例4と同様に行った。
【0089】
<比較例6>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
表面処理層2(電気めっき層)としてのSnのめっき量が11.2g/m2である点以外は、上記した比較例4と同様に行った。
【0090】
<比較例7>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
この基材に対して表面処理層2(電気めっき層)は形成せずに電池容器用金属板10を得た。そしてこの電池容器用金属板10(表面処理ナシ)に対し、実施例1と同様にして成形性の評価および耐内容物性の評価を行った。
【0091】
<比較例8>
板厚を50μmに変更した以外は、比較例7と同様に行った。
【0092】
<実施例10>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
この基材に対し、実施例1と同様の手法にて、Niのめっき量が8.9g/m2である電気めっき層2(Niめっき層)を形成した。
次いで、このようにして得られた基材に対し、容器内面側となる一方の面(Niめっき層上)には溶融した酸変性ポリプロピレンを介してポリプロピレンフィルムを押し出しラミネート法で形成した。さらに容器外面側となる一方の面にはウレタン系接着剤を介して延伸ポリアミドフィルムをドライラミネート法で形成し、これにより電池容器用金属板10を得た。なお、このときのラミネート温度(基材の温度)は、250℃とした。
【0093】
(成形性の評価)
上記で得られた電池容器用金属板10に対し、実施例1と同様の手法にてプレス加工を施した後に、成形性の評価を行った。
【0094】
(耐内容物性の評価その2)
耐内容物性に用いる電解液としては、上記した実施例1と同じ電解液を用いた。この電解液に、上記のプレス加工を施した電池容器用金属板10を浸漬し、85℃の環境下で浸漬ラミネート材として所定の日数(一例として14日間)だけ保管した。
そしてこの浸漬ラミネート材に対し、それぞれ所定の日数(1日、7日又は14日)が経過した時点において常温に戻し、ORIENTEC社製 TENSILON RTC-1210A基材1と接着剤(酸変性ポリプロピレン)間のラミネート強度を測定した。測定の方法としては、T型剥離で、引張速度100mm/分の条件で行った。
そして、基材がアルミニウムの場合(比較例12)における初日時点でのラミネート強度の値を100%とした場合の、各サンプルでそれぞれ上記日数経過時点でのラミネート強度の割合を算出し、ピール強度残存率とした。
【0095】
なお浸漬ラミネート材に対する耐内容物性評価は、上記ピール強度残存率を用いて以下の基準で行った。
[評価基準]
○:浸漬試験後のピール強度残存率100~60%
△:浸漬試験後のピール強度残存率60~40%
×:浸漬試験後のピール強度残存率40~0%
【0096】
<実施例11>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
表面処理層2(電気めっき層)として実施例6と同様のCrめっき浴を用いてCrめっき量が0.1g/m2のCrめっき層とした点以外は、上記した実施例10と同様に行った。
【0097】
<比較例9>
上記した比較例8と同じ厚み(50μm)として焼鈍を行わない硬質の基材を用いた。
この基材に対して比較例2で示したZnめっき浴を用いてZnめっき量が5.0g/m
2のZnめっき層を表面処理層2(電気めっき層)とした点以外は、上記した実施例10と同様に行った。
なお、結晶粒径は、
図5に示すように、走査型電子顕微鏡(SEM)で電池容器用金属板10の断面写真の撮影を行った上でJIS G0551(附属書C)に準拠して、平面方向及び厚み方向のそれぞれについて測定した。
【0098】
<比較例10>
板厚が80μmと変更した以外は比較例9と同じ硬質の基材を用いた。
この基材に対して比較例9と同様の手法でZnめっきを形成し、さらにこのZnめっき層上に以下の条件でCrめっき量が0.01g/m2となるようにクロメート処理を行って表面処理層2(電気めっき層)を形成した。
(クロメート処理の浴組成、条件)
無水クロム酸:25g/l
全クロム量:5mg/m2
上記のようにして得られた電池容器用金属板10に対し、実施例10と同様の手法にて成形性の評価と耐内容物性の評価をそれぞれ行った。
【0099】
<比較例11>
実施例1と同様の基材を用い、表面処理層2を形成する前に基材に対して焼鈍を行ったこと以外は、比較例10と同様にして行った。
【0100】
<比較例12>
基材として厚さ40μmのアルミニウムの冷間圧延板(O材)を準備した。
この基材に対し、実施例10と同様に、容器内面側となる一方の面には溶融した酸変性ポリプロピレンを介してポリプロピレンフィルムを押し出しラミネート法で形成するとともに、容器外面側となる一方の面にはウレタン系接着剤を介して延伸ポリアミドフィルムをドライラミネート法でそれぞれ形成して電池容器用金属板10を得た。なお、表面処理層2は形成しなかった。
上記で得られた電池容器用金属板10に対し、実施例10と同様の手法にて成形性の評価と耐内容物性の評価をそれぞれ行った。
【0101】
<実施例12>
上記した実施例1と同じ基材を用いた。
この基材の一方の面に対して、上記した実施例4と同様の手法でNi-Fe拡散層(Niめっき層)からなる表面処理層2を形成した。
次いで、この基材の他方の面に、上記した比較例11と同様の手法でZnめっき層及びクロメート処理からなる表面処理層2を形成した。
【0102】
このように表面処理して得られた基材に対し、Ni-Fe拡散層からなる面を内面側に、Znめっき層及びクロメート処理からなる面を外面側になるようにして、上記した実施例10と同様に、内面側となる面にポリプロピレンフィルムを、外面側となる面に延伸ポリアミドフィルムをラミネートし、これにより電池容器用金属板10を得た。そしてこの電池容器用金属板10に対し、プレス加工を施した後、上記した成形性及び耐内容物性の評価を行った。
上記した評価の結果、内面側および外面側ともに成形性は問題なく、耐内容物性に関しても14日目まで「○」であった。
【0103】
上記した実施例1~11及び比較例で用いた各サンプルの材料仕様を表1に示す。さらに、各実施例1~9及び比較例1~12で用いたサンプルに対する表面処理の仕様と各めっき量、並びに耐内容物性1と成形性の評価を表2に示す。さらに実施例10~11および比較例9~12で用いたサンプルに対する表面処理の仕様と各めっき量、並びに耐内容物性2と成形性の評価を表3に示す。
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
表2に示した各種の電池容器用金属板(熱可塑性樹脂3の被覆ナシ)に対する評価において、実施例1~9では電池缶用途として耐え得る耐内容物性と成形性を兼ね備えた結果を得ることができた。これは鉄又は鉄の合金がベースとなった本実施形態における電池容器用金属板において、電池容器としての加工性(成形性)に適した空間を確保するに留まらず電解液に対する耐食性(耐内容物性)をも兼ね備えていることを意味する。一方で比較例1~8ではそもそも電池容器としての使用に耐え得るだけの充分な耐内容物性を具備していないことが判明した。
【0108】
また、表3に示すように、表面処理層2上に熱可塑性樹脂3(オレフィン系樹脂の一例としてのポリプロピレン樹脂)が被覆された実施例10及び11においても、アルミニウムを用いた比較例12と同等程度に、電池缶用途として耐え得る耐内容物性と成形性を兼ね備えた結果を得ることができた。一方で比較例10及び11ではやはり電池容器としての使用に耐え得る耐内容物性を具備していないことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の電池容器用金属板およびその製造方法は、リチウムイオン二次電池などの電池容器の用途として充分な成形性と耐内容物性を示すことができ、電池を使用する幅広い分野の産業への適用が可能である。
【符号の説明】
【0110】
1 基材
2 表面処理層
3 熱可塑性樹脂
10 電池容器用金属板