(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】移動端末試験装置、及び移動端末試験方法
(51)【国際特許分類】
H04B 17/17 20150101AFI20240105BHJP
H04B 17/29 20150101ALI20240105BHJP
H04W 88/02 20090101ALI20240105BHJP
H04M 1/24 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
H04B17/17
H04B17/29 200
H04W88/02 150
H04M1/24 B
H04M1/24 J
(21)【出願番号】P 2021008455
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓海
(72)【発明者】
【氏名】呉 志輝
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-092546(JP,A)
【文献】特開2020-085784(JP,A)
【文献】特開2011-019031(JP,A)
【文献】3GPP TS 38.521-2 Technical Specification,3GPP TS 38.521-2,2020年12月,V16.6.0,インターネット<https://www.3gpp.org/ftp/specs/archive/38_series/38.521-2/38521-2-g60.zip>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/17
H04B 17/29
H04W 88/02
H04M 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波暗箱(50)の内部空間(51)内に設けられたポジショナ(56)と、
被試験対象である移動端末(100)が球座標系の所定のステップ間隔で規定された第1の方位(PSa)を順次向く第1の回転制御と、前記移動端末が前記所定のステップよりも細かいステップ間隔で規定された第2の方位(PSb)を順次向く第2の回転制御と、を前記ポジショナに対して実行する回転制御手段(16)と、
試験用アンテナから試験信号を送信し、該試験信号を受信した前記移動端末から送信される被測定信号を前記試験用アンテナで受信させて該被測定信号に基づきスループットを測定する受信感度試験を、前記試験信号の出力レベルをノンリニアに変更しながら前記第1の方位、及び前記第2の方位ごとに繰り返し実施し、所定のスループット測定終了条件を満たすことにより受信感度を算出する受信感度試験実行手段(18、18-1、18-2)と、
前記第1の方位、及び前記第2の方位ごとに、前記受信感度試験を実行させることにより、前記第1の方位、及び前記第2の方位ごとに、前記移動端末からの無線信号を前記内部空間内の試験用アンテナ(5)で受信して受信電力を測定する測定制御手段(10)と、
測定された前記受信電力に基づき、最大の前記受信電力をピーク電力として測定するピーク電力測定手段(19)と、を備え、
前記ピーク電力測定手段は、
前記第1の方位ごとに測定された前記受信電力のうちの最大の受信電力から所定の電力幅(ΔPw)の範囲内にある受信電力を有する前記第1の方位をピーク電力候補として選出する候補選出手段(19b)と、
前記ピーク電力候補にそれぞれ対応する前記第1の方位を中心とする所定範囲内の領域を対象に前記第2の回転制御を実施して該第2の方位ごとに前記受信電力を測定させ、該測定結果に基づいて前記ピーク電力を判定する判定手段(19c)と、
を有し、
前記スループット測定終了条件は、前記試験信号の出力レベルのステップを順次減少させる設定を繰り返し実行していくうちに、測定されたスループットが所定の閾値を初めて下回ったと判定されることであり、
前記受信感度試験実行手段は、前記判定が得られた回の一つ手前の回の前記出力レベルを受信感度として検出することを特徴とする移動端末試験装置。
【請求項2】
前記第1の方位を規定する第1のグリッドパターンと、前記第2の方位を規定する第2のグリッドパターンの各データを保持する保持手段(16a)を有し、
前記回転制御手段は、前記第1のグリッドパターンと前記第2グリッドパターンに基づいて、それぞれ、前記第1の回転制御と前記第2の回転制御を実施することを特徴とする請求項1に記載の移動端末試験装置。
【請求項3】
前記第1のグリッドパターン、及び第2のグリッドパターンは、前記第1の方位、及び前記第2の方位の角度距離がそれぞれ一定である角度距離一定(Constant Step)タイプ、または前記第1の方位、及び前記第2の方位の密度がそれぞれ一定である密度一定(Constant Density)タイプのいずれかであることを特徴とする請求項2に記載の移動端末試験装置。
【請求項4】
電波暗箱(50)の内部空間(51)内に設けられたポジショナ(56)と、
被試験対象である移動端末(100)が球座標系の所定のステップ間隔で規定された第1の方位(PSa)を順次向く第1の回転制御と、前記移動端末が前記所定のステップよりも細かいステップ間隔で規定された第2の方位(PSb)を順次向く第2の回転制御と、を前記ポジショナに対して実行する回転制御手段(16)と、
試験用アンテナから試験信号を送信し、該試験信号を受信した前記移動端末から送信される被測定信号を前記試験用アンテナで受信させて該被測定信号に基づきスループットを測定する受信感度試験を、前記試験信号の出力レベルをノンリニアに変更しながら前記第1の方位、及び前記第2の方位ごとに繰り返し実施し、所定のスループット測定終了条件を満たすことにより受信感度を算出する受信感度試験実行手段(18、18-1、18-2)と、
前記第1の方位、及び前記第2の方位ごとに、前記受信感度試験を実行させることにより、前記移動端末からの無線信号を前記内部空間内の試験用アンテナ(5)で受信して受信電力を測定する処理ステップを実行する測定制御手段(10)と、
測定された前記受信電力に基づき、最大の前記受信電力をピーク電力として測定する処理ステップを実行するピーク電力測定手段(19)と、備え、
前記スループット測定終了条件は、前記試験信号の出力レベルのステップを順次減少させる設定を繰り返し実行していくうちに、測定されたスループットが所定の閾値を初めて下回ったと判定されることであり、
前記受信感度試験実行手段は、前記判定が得られた回の一つ手前の回の前記出力レベルを受信感度として検出する移動端末試験装置を用いて前記移動端末の試験を行う移動端末試験方法であって、
前記ピーク電力として測定する処理ステップは、
前記第1の方位ごとに測定された前記受信電力のうちの最大の受信電力から所定の電力幅(ΔPw)の範囲内にある受信電力を有する前記第1の方位をピーク電力候補として選出する候補選出ステップ(S4、S11、S12)と、
前記ピーク電力候補にそれぞれ対応する前記第1の方位を中心とする所定範囲内の領域を対象に前記第2の回転制御を実施して該第2の方位ごとに前記受信電力を測定させ、該測定結果に基づいて前記ピーク電力を判定する判定ステップ(S6)と、
を含むことを特徴とする移動端末試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被試験対象からの無線信号の受信電力を複数の方位ごとに測定して最大の受信電力をピーク電力として探索し、該ピーク電力に基づいて被試験対象である移動端末を試験する移動端末試験装置、及び移動端末試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年開発が進んでいる、ミリ波帯の広帯域な信号を使用するIEEE802.11adや5Gセルラ等に対応した無線信号を送受信する無線端末については、無線端末が備えている無線通信用のアンテナに対して、通信規格ごとに定められた送信電波の出力レベルや受信感度を測定し、所定の基準を満たすか否かを判定する性能試験が行われる。
【0003】
例えば、5G NRシステム(New Radio System)用の無線端末(以下、5G無線端末)を被試験対象(Device Under Test:DUT)とする性能試験においては、周囲の電波環境に影響されないコンパクト・アンテナ・テスト・レンジ(Compact Antenna Test Range:以下、CATR)と称する電波暗箱(OTAチャンバ)を用いたOTA試験が実施される。
【0004】
5G無線端末などを対象とするOTA環境下での各種試験については、例えば、3GPP(3rd Generation Partnership Project)の仕様書(非特許文献1)に記載された規格に則った試験を行うことが義務付けられているものがある。
【0005】
例えば、OTA環境下で球座標系の全ての方位を順次向くように回転されるDUTの等方等価感度(Equivalent Isotropic Sensitivity:EIS)を測定するEIS測定について、3GPPの章38521-2K.1.4には、「受信信号のビームピーク方向の探索、EISにおける球面カバレッジ(Spherical coverage)」の定義に関する記載がある。これによれば受信信号のビームピーク方向の探索、EIS球面カバレッジ(所要放射電力に到達している部分の面積比率)については、測定結果として球面上の各測定ポジション(θ、φ)のaveraged EIS、つまり、EISの累積分布(EIS-CDF(Cumulative Distribution Function))が必要である。
【0006】
3GPPの章38521-2K.1.6には、EIS-CDF測定についての記載がある。EIS-CDFを求めるためには、測定ポジションごとに、θ偏波、φ偏波それぞれで試験用信号の出力レベルを変更しながら、その試験用信号の受信に応じてDUTが送出する被測定信号を受信させつつデータ転送レートを示すスループットを測定するDUTの受信感度試験を所定の終了条件を満たすまで何度も行うようになっている。受信感度試験については、3GPPの章38.521-2の7.3.2に、試験用信号の最低限許容される出力レベル[dB]などの規定に関しての記載がある。
【0007】
また、EIS-CDF測定においては、上述した規則(章38521-2K.1.4参照)に則り、DUTからの無線信号の受信電力を複数の方位(測定ポジション)ごとに測定し、その中の最大の受信電力を有する方位を探索するビームピークサーチの処理を合わせ実行するようなっている。
【0008】
さらに3GPPの章38521-2Annex M、章38810には、全放射電力(TRP)、等価等方輻射電力(EIRP)の累積分布(EIRP-CDF)、EIS-CDF測定の測定ポジションを規定するグリッドタイプの定義について記載されている。ここで定義されるグリッドタイプとしては、角度間隔が一定のConstant Stepタイプと、密度が一定のConstant Densityタイプが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】3GPP 技術仕様書 章38521-2k.1.4/章38521-2k.1.6/章38521-2-7.3.2/章38521-2 Annex M/章38810
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
3GPPに定義される規格に則り、例えば、LTE/5G NRのミリ波帯測定に合わせてDUTからの受信電力のピークを探索するビームピークサーチを行う場合を考える。この場合、グリッドタイプとしてConstant Stepタイプ(
図12、
図13参照)を用いるものとすると、最低限、7.5°ステップでの測定が必要である。また、Constant Densityタイプ(
図17、
図18、
図19参照)を用いるものとすると800ポイントでの測定が最低限必要となる。
【0011】
いずれのグリッドタイプを用いる場合も測定ポジションの数が非常に多いことから、この種の従来の移動端末試験装置では、測定に長い時間(例えば、2~3日)がかかっていた(
図16、
図20参照)。このため、DUTの充電がきれてしまうこともあり、そのような場合には正確な測定が困難であった。
【0012】
これを解消するため、従来から、測定ポジションの数(測定ポイント数)を間引いて測定時間を短縮化する方法が知られている。測定ポジション数を間引く処理の具体例として、3GPPの章38521-2M.2.2 Coarse and fine measurement gridsにはCoarse & fine grid測定の定義に関する記載がある。
【0013】
Coarse & fine grid測定とは、上述した2種類のグリッドタイプごとに、それぞれ、測定ポジションの間隔が所定の間隔のものと所定の間隔よりも細かい間隔のものの2種類のパターンを用意し、ポジショナの回転を所定の間隔のグリッドタイプに沿って実施しながらDUTからの無線信号の受信電力の測定(ピークリサーチ)を行ったうえで、複数のピーク電力候補がある場合には、該ピーク電力候補の周辺エリアを対象により細かいグリッドタイプに沿ってポジショナを回転させながらピークリサーチを続行するものである。
【0014】
従来の移動端末試験装置におけるCoarse & fine grid測定の原理と問題点について
図38を参照して説明する。
図38(a)はDUT150のビームのイメージを示している。このようなイメージのDUT150からのビーム(無線信号)を、所定のステップ間隔を有するグリッド(粗いグリッド)を用いて試験用アンテナ5で受信しつつビームピークサーチを行うときのビームピークサーチ点(黒丸で示している)の配置イメージを
図38(b)に示している。
図38(c)では、
図38(b)に示す粗いグリッドによるビームサーチの結果を小さい黒丸で示している。大きい黒丸が粗いグリッドでの測定ポジション、小さい黒丸が粗いグリッドで実際に測定された点である。
【0015】
図38に示す態様のビームピークサーチによれば、
図38(b)に示すように粗いグリッドで探索すると、本来のピークを見逃してしまうことが発生する可能性がある。
図38(b)の例においては、上方右のビームbm2が本来のピークであるところ、粗いグリッドで測定したため、当該ビームbm2のピーク部分が測定ポジション(黒丸で示す)間の位置に介在してしまい、本来のピークが検出されなかった(見逃されてしまった)状態となっている。
【0016】
図38(b)に示す粗いグリッドによるビームサーチの結果に基づいてピーク検索を行った場合には、
図38(c)に示す態様のサーチ結果が得られることになる。
図38(c)の例においては、本来のピークであるビームbm2に代わって、それより低い上方左のビームbm1の最も大きな検出点がピークとして探索されている様子が示されている。
【0017】
この場合本来のピークではないビームbm1周辺でのピーク探索が実施され、本来のピークであるビームbm2周辺の探索が行われず、その結果、本来のピークであるビームbm2を探索不能となり、ビームピークの測定精度が低下せざるを得なかった。
【0018】
また、EIS-CDF測定に合わせて測定ポジションごとに実施される受信感度試験について、従来の移動端末試験装置では、試験用信号の出力レベルを非特許文献1に記載されている規格に則った値に保つべく、初回の受信感度試験で設定した出力レベルから測定回数が増えるごとに順次一定レベルずつ変化(リニアに変化)させていく方法(
図26の特性C2参照)を採用しているものが一般的であった。ビームピークサーチに際してこの方法を採用した場合、ビームピークサーチのために必要とされる極めて多数の測定ポジションごとに受信感度試験を行う必要性から受信感度試験そのものに長い時間を要し、このこともEIS-CDF測定時間の短縮化を阻害する大きな要因となっていた。
【0019】
このように、従来の移動端末試験装置では、Coarse & fine grid測定を適用することでビームピークサーチに関する測定時間をある程度短縮できるものの、ビームピークサーチに合わせて行うDUTの受信感度試験に長時間を要し、該受信感度試験を含む全体の測定時間の短縮化には限界があるという問題点があった。
【0020】
また、従来の移動端末試験装置でのCoarse & fine grid測定においては、粗いグリッドを使った回転で受信電力のピークが見落とされた場合、その後、より細かいグリッドを使った回転で見逃されたピークを正確に探索不能となって受信電力のピークを正しく測定できず、ビームピークサーチの検出精度が低下することを免れなかった。
【0021】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、EIS測定におけるピーク電力の測定精度を向上させつつ、受信感度試験も含めた測定時間を短縮可能な移動端末試験装置、及び移動端末試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る移動端末試験装置は、電波暗箱(50)の内部空間(51)内に設けられたポジショナ(56)と、被試験対象である移動端末(100)が球座標系の所定のステップ間隔で規定された第1の方位(PSa)を順次向く第1の回転制御と、前記移動端末が前記所定のステップよりも細かいステップ間隔で規定された第2の方位(PSb)を順次向く第2の回転制御と、を前記ポジショナに対して実行する回転制御手段(16)と、試験用アンテナから試験信号を送信し、該試験信号を受信した前記移動端末から送信される被測定信号を前記試験用アンテナで受信させて該被測定信号に基づきスループットを測定する受信感度試験を、前記試験信号の出力レベルをノンリニアに変更しながら前記第1の方位、及び前記第2の方位ごとに繰り返し実施し、所定のスループット測定終了条件を満たすことにより受信感度を算出する受信感度試験実行手段(18、18-1、18-2)と、前記第1の方位、及び前記第2の方位ごとに、前記受信感度試験を実行させることにより、前記移動端末からの無線信号を前記内部空間内の試験用アンテナ(5)で受信して受信電力を測定する測定制御手段(10)と、測定された前記受信電力に基づき、最大の前記受信電力をピーク電力として測定するピーク電力測定手段(19)と、備え、前記ピーク電力測定手段は、前記第1の方位ごとに測定された前記受信電力のうちの最大の受信電力から所定の電力幅(ΔPw)の範囲内にある受信電力を有する前記第1の方位をピーク電力候補として選出する候補選出手段(19b)と、前記ピーク電力候補にそれぞれ対応する前記第1の方位を中心とする所定範囲内の領域を対象に前記第2の回転制御を実施して該第2の方位ごとに前記受信電力を測定させ、該測定結果に基づいて前記ピーク電力を判定する判定手段(19c)と、を有し、前記スループット測定終了条件は、前記試験信号の出力レベルのステップを順次減少させる設定を繰り返し実行していくうちに、測定されたスループットが所定の閾値を初めて下回ったと判定されることであり、前記受信感度試験実行手段は、前記判定が得られた回の一つ手前の回の前記出力レベルを受信感度として検出する構成である。
【0023】
この構成により、本発明の請求項1に係る移動端末試験装置は、所定のステップごとの粗い測定と、所定のステップより細かいステップごとの細かい測定の2段階で移動端末のピーク電力の値を測定する、いわゆる、Coarse & fine grid測定を基本としつつ、粗い測定で得た受信電力から所定の電力幅の範囲内にある受信電力をピーク電力候補として選出したうえで、これらピーク電力候補を対象にして細かいステップごとのピーク電力の測定を行うため、粗い測定で見逃したピーク電力を細かい測定では確実にサーチすることができ、ピーク電力の測定精度を向上させることができる。また、Coarse & fine grid測定による測定時間の短縮効果に加え、試験信号の出力レベルをノンリニアに変更しながら行う受信感度試験の時間短縮効果も期待でき、測定時間の短縮が可能となる。
また、本発明の請求項1に係る移動端末試験装置によれば、スループット測定終了条件(試験信号の出力レベルのステップを順次減少させる設定を繰り返し実行していくうちに、測定されたスループットが所定の閾値を初めて下回ったと判定されること)を満たした回の一つ手前の回の試験信号の出力レベルを受信感度として正しく検出することが可能になる。
【0024】
また、本発明の請求項2に係る移動端末試験装置において、前記第1の方位を規定する第1のグリッドパターンと、前記第2の方位を規定する第2のグリッドパターンの各データを保持する保持手段(16a)を有し、前記回転制御手段は、前記第1のグリッドパターンと前記第2グリッドパターンに基づいて、それぞれ、前記第1の回転制御と前記第2の回転制御を実施する構成であってもよい。
【0025】
この構成により、本発明の請求項2に係る移動端末試験装置は、保持手段が保持する第1のグリッドパターンと第2グリッドパターンの各データに基づき、粗いステップとより細かいステップの2段階の測定を容易に実行できるようになる。
【0026】
また、本発明の請求項3に係る移動端末試験装置において、前記第1のグリッドパターン、及び第2のグリッドパターンは、前記第1の方位、及び前記第2の方位の角度距離がそれぞれ一定である角度間隔一定(Constant Step)タイプ、または前記第1の方位、及び前記第2の方位の密度がそれぞれ一定である密度一定(Constant Density)タイプのいずれかである構成としてもよい。
【0027】
この構成により、本発明の請求項3に係る移動端末試験装置は、Constant Stepタイプのグリッドパターンか、Constant Densityタイプかを選択的に用いてユーザが望む運用形態での測定が容易に実現できる。
【0034】
また、上記課題を解決するために、本発明の請求項4に係る移動端末試験方法は、電波暗箱(50)の内部空間(51)内に設けられたポジショナ(56)と、被試験対象である移動端末(100)が球座標系の所定のステップ間隔で規定された第1の方位(PSa)を順次向く第1の回転制御と、前記移動端末が前記所定のステップよりも細かいステップ間隔で規定された第2の方位(PSb)を順次向く第2の回転制御と、を前記ポジショナに対して実行する回転制御手段(16)と、試験用アンテナから試験信号を送信し、該試験信号を受信した前記移動端末から送信される被測定信号を前記試験用アンテナで受信させて該被測定信号に基づきスループットを測定する受信感度試験を、前記試験信号の出力レベルをノンリニアに変更しながら前記第1の方位、及び前記第2の方位ごとに繰り返し実施し、所定のスループット測定終了条件を満たすことにより受信感度を算出する受信感度試験実行手段(18、18-1、18-2)と、前記第1の方位、及び前記第2の方位ごとに、前記受信感度試験を実行させることにより、前記移動端末からの無線信号を前記内部空間内の試験用アンテナ(5)で受信して受信電力を測定する処理ステップを実行する測定制御手段(10)と、測定された前記受信電力に基づき、最大の前記受信電力をピーク電力として測定する処理ステップを実行するピーク電力測定手段(19)と、備え、前記スループット測定終了条件は、前記試験信号の出力レベルのステップを順次減少させる設定を繰り返し実行していくうちに、測定されたスループットが所定の閾値を初めて下回ったと判定されることであり、前記受信感度試験実行手段は、前記判定が得られた回の一つ手前の回の前記出力レベルを受信感度として検出する移動端末試験装置を用いて前記移動端末の試験を行う移動端末試験方法であって、前記ピーク電力として測定する処理ステップは、前記第1の方位ごとに測定された前記受信電力のうちの最大の受信電力から所定の電力幅(ΔPw)の範囲内にある受信電力を有する前記第1の方位をピーク電力候補として選出する候補選出ステップ(S4、S11、S12)と、前記ピーク電力候補にそれぞれ対応する前記第1の方位を中心とする所定範囲内の領域を対象に前記第2の回転制御を実施して該第2の方位ごとに前記受信電力を測定させ、該測定結果に基づいて前記ピーク電力を判定する判定ステップ(S6)と、を含む構成を有する。
【0035】
この構成により、本発明の請求項4に係る移動端末試験方法は、所定のステップごとの粗い測定と、所定のステップより細かいステップごとの細かい測定の2段階で移動端末のピーク電力の値を測定する、いわゆる、Coarse & fine grid測定を基本としつつ、粗い測定で得た受信電力から所定の電力幅の範囲内にある受信電力をピーク電力候補として選出したうえで、これらピーク電力候補を対象にして細かいステップごとのピーク電力の測定を行うため、粗い測定で見逃したピーク電力を細かい測定では確実にサーチすることができ、ピーク電力の測定精度を向上させることができる。また、Coarse & fine grid測定による測定時間の短縮効果に加え、試験信号の出力レベルをノンリニアに変更しながら行う受信感度試験の時間短縮効果も期待でき、測定時間の短縮が可能となる。
また、本発明の請求項6に係る移動端末試験方法によれば、スループット測定終了条件(試験信号の出力レベルのステップを順次減少させる設定を繰り返し実行していくうちに、測定されたスループットが所定の閾値を初めて下回ったと判定されること)を満たした回の一つ手前の回の試験信号の出力レベルを受信感度として正しく検出することが可能になる。
【発明の効果】
【0036】
本発明は、EIS測定におけるピーク電力の測定精度を向上させつつ、受信感度試験も含めた測定時間を短縮可能な移動端末試験装置、及び移動端末試験方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る測定装置全体の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る測定装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る測定装置の統合制御装置とその被制御要素の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る測定装置におけるNRシステムシミュレータの機能構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る測定装置のOTAチャンバ内におけるDUTの全球面走査イメージを示す図であり、(a)は球座標系の中心に対するDUTの配置態様を示し、(b)はConstant StepタイプのCoarseグリッドに対応する角度標本点PSの配置態様を示している。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る測定装置のOTAチャンバ内での試験用アンテナ5の配置態様を
図5に示す球座標系(r,θ,φ)系を用いて説明するための図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係る測定装置におけるDUTの全球面走査に係るポジショナのアジマス軸及びロール軸周りの回転駆動イメージを示す図である。
【
図8】本発明の第1の実施形態に係る測定装置におけるビームピークサーチ制御動作を示すフローチャートである。
【
図9】
図8のステップS4におけるピーク電力候補選出処理の詳細動作を示すフローチャートである。
【
図10】
図8のステップS3における第1のEIS測定処理及び同ステップS5における第2のEIS測定処理の詳細動作を一まとめで示すフローチャートである。
【
図11】
図10のステップS22~S23の処理に合わせて実施されるEIS-CDF測定の測定状況表示処理動作を示すフローチャートである。
【
図12】
図8のステップS3における第1のEIS測定処理で用いられるConstant StepタイプのCoarseグリッドによる測定ポジションPSaの配置態様を示すグラフである。
【
図13】
図8のステップS5における第2のEIS測定処理で用いられるConstant StepタイプのFineグリッドによる測定ポジションPSbの配置態様を示す図である。
【
図14】本発明の第1の実施形態に係る測定装置におけるビームピークサーチの動作イメージを示す図であり、(a)はCoarseグリッドによるビームピークサーチ動作イメージを示し、(b)はFineグリッドによるビームピークサーチ動作イメージを示し、(c)はCoarseグリッドに対応する測定ポジション周辺のFineグリッドに対応する測定ポジションの配置イメージを示している。
【
図15】本発明の第1の実施形態に係る測定装置の統合制御装置によるEIS-CDF測定時における測定進捗状況表示画面の表示例を示す図である。
【
図16】本発明の第1の実施形態に係る測定装置のCoarse & fine grid測定によるEIS-CDF測定の測定時間短縮効果を説明するための表図である。
【
図17】本発明の第2の実施形態に係る測定装置のOTAチャンバ内におけるDUTの全球面走査に用いる球座標系におけるConstant DensityタイプのCoarseグリッドに対応する角度標本点PSの配置態様を示す図である。
【
図18】本発明の第2の実施形態に係る測定装置で用いられるConstant StepタイプのCoarseグリッドによる測定ポジションPSaの配置態様を示すグラフである。
【
図19】本発明の第2の実施形態に係る測定装置で用いられるConstant StepタイプのFineグリッドによる測定ポジションPSbの配置態様を示す図である。
【
図20】本発明の第2の実施形態に係る測定装置のCoarse&fineビームピークサーチによるEIS-CDF測定の測定時間短縮効果を説明するための表図である。
【
図21】本発明の第3の実施形態に係る測定装置の統合制御装置とその被制御要素の機能構成を示すブロック図である。
【
図22】本発明の第3の実施形態に係る測定装置によるDUTの受信感度試験に係る試験用信号の出力レベル可設定制御動作を示すフローチャートである。
【
図23】
図22のステップS47におけるステップレベルのレベルダウン処理の詳細を示すフローチャートであり、(a)はレベルダウン処理(A)を示し、(b)はレベルダウン処理(B)を示している。
【
図24】
図22のステップS48におけるステップレベルのレベルアップ処理の詳細を示すフローチャートであり、(a)はレベルアップ処理(A)を示し、(b)はレベルアップ処理(B)を示している。
【
図25】
図22に示す出力レベル可設定制御により測定回数に応じて設定される可変試験用信号の出力レベルと関連するパラメータのデータ例を示す表図である。
【
図26】本発明の第3の実施形態に係る測定装置でのDUTの受信感度試験に係る
図25に示すデータ例に基づく測定回数対試験用信号の出力レベルの特性を示す図である。
【
図27】本発明の第3の実施形態に係る測定装置の統合制御装置によるDUTの受信感度試験結果の表示例を示す図である。
【
図28】従来装置におけるDUTの受信感度試験結果の表示例を示す図である。
【
図29】本発明の第4の実施形態に係る測定装置の統合制御装置とその被制御要素の機能構成を示すブロック図である。
【
図30】本発明の第4の実施形態に係る測定装置によるDUTの受信感度試験に係るCPを導入した試験用信号の出力レベル可変設定制御動作を示すフローチャートである。
【
図31】
図30のステップS58での処理の詳細を示すフローチャートであり、(a)はレベルダウン処理(A)を示し、(b)はレベルダウン処理(B)を示している。
【
図32】
図30に示す出力レベル可変設定制御により測定回数に応じて設定される試験用信号の出力レベルと関連するパラメータの関係を示すデータ構成例を示す表図である。
【
図33】本発明の第4の実施形態に係る測定装置のDUTの受信感度試験に係る測定回数と試験用信号の出力レベル及びスループットの各測定値との関係を示す表図である。
【
図34】本発明の第4の実施形態に係る測定装置のDUTの受信感度試験に係る測定回数と試験用信号の出力レベル及びスループットの各測定値との関係を示すグラフである。
【
図35】本発明の第4の実施形態に係る測定装置のDUTの受信感度試験に係る試験用信号の出力レベルと測定されたスループットに関する特性の一例を示すグラフである。
【
図36】従来装置のDUTの受信感度試験に係るスループット測定値対試験用信号出力レベルの関係を示すグラフである。
【
図37】本発明の第4の実施形態に係る測定装置によるCPを導入した試験用信号の出力可変設定制御に基づくDUTの受信感度試験結果の表示例を示す図である。
【
図38】従来の測定装置のEIS-CDF測定におけるビームピークサーチの動作イメージを示す図であり、(a)はDUTのビームのイメージを示し、(b)はCoarseグリッドによるビームピークサーチ動作イメージを示し、(c)は(b)に示すビームピークサーチの結果に基づくピーク電力候補の選定時にビームbm2が見逃される動作イメージを示している。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明に係る移動端末試験装置及びこれを用いた移動端末試験方法の実施形態について図面を用いて説明する。
【0039】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係る測定装置1の構成について、
図1~
図4を参照して説明する。測定装置1は、後述の第2~第4の各実施形態に係る測定装置1A、1B、1Cとともに、本発明の移動端末試験装置を構成する。本実施形態に係る測定装置1は、全体として
図1に示すような外観構造を有し、かつ、
図2に示すような機能ブロックにより構成されている。
図1、
図2において、OTAチャンバ50についてはその側面から透視した状態における各構成要素の配置態様を示している。
【0040】
測定装置1は、例えば、
図1に示す構造を有するラック構造体90の各ラック90aに前述したそれぞれの構成要素を載置した態様で運用される。
図1においては、ラック構造体90の各ラック90aに、それぞれ、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、OTAチャンバ50を載置した例を示している。
【0041】
図2に示すように、測定装置1は、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、信号処理部23、OTAチャンバ50を有している。
【0042】
OTAチャンバ50の構成から先に説明する。
図1、
図2に示すように、OTAチャンバ50は、例えば、長方体形状の内部空間51を有する金属製の筐体本体部52により構成され、内部空間51に、アンテナ110を有するDUT100、試験用アンテナ5、リフレクタ7、DUT走査機構56を収容している。
【0043】
OTAチャンバ50の内面全域、つまり、筐体本体部52の底面52a、側面52b及び上面52c全面には、電波吸収体55が貼り付けられている。これにより、OTAチャンバ50は、内部空間51内に配置される各要素(DUT100、試験用アンテナ5、リフレクタ7、DUT走査機構56)が外部からの電波の侵入及び外部への電波の放射を抑止する機能が強化されている。このように、OTAチャンバ50は、周囲の電波環境に影響されない内部空間51を有する電波暗箱を実現している。本実施形態で用いる電波暗箱は、例えば、Anechoic型のものである。
【0044】
OTAチャンバ50の内部空間51に収容されるもののうち、DUT100は、例えばスマートフォンなどの無線端末である。DUT100の通信規格としては、例えば、セルラ(LTE、LTE-A、W-CDMA(登録商標)、GSM(登録商標)、CDMA2000、1xEV-DO、TD-SCDMA等)、無線LAN(IEEE802.11b/g/a/n/ac/ad等)、Bluetooth(登録商標)、GNSS(GPS、Galileo、GLONASS、BeiDou等)、FM、及びデジタル放送(DVB-H、ISDB-T等)が挙げられる。また、DUT100は、IEEE802.11adや5Gセルラ等に対応したミリ波帯の無線信号を送受信する無線端末であってもよい。
【0045】
本実施形態において、DUT100のアンテナ110は、例えば、LTE、あるいは5G NRの通信規格に準拠したそれぞれの規定の周波数帯の無線信号に対応するものである。DUT100は、本発明における被試験対象、移動端末を構成する。
【0046】
OTAチャンバ50の内部空間51において、DUT100は、DUT走査機構56の一部機構により保持されている。DUT走査機構56は、OTAチャンバ50の内部空間51における筐体本体部52の底面52aに、鉛直方向に延在して設けられている。DUT走査機構56は、性能試験を行うDUT100を保持しつつ、該DUT100に対する後述の全球面走査(
図5~
図6参照)を実施するものである。
【0047】
DUT走査機構56は、
図1に示すように、ターンテーブル56a、支柱部材56b、DUT載置部56c、駆動部56eを有している。ターンテーブル56aは、円盤形状を有する板部材で構成され、アジマス軸(鉛直方向の回転軸)を中心に回転する構成(
図3、
図7参照)を有する。支柱部材56bは、ターンテーブル56aの板面上に垂直方向に延びるように配置される柱状部材により構成されている。
【0048】
DUT載置部56cは、支柱部材56bの上端近傍にターンテーブル56aと平行に配置され、DUT100を載置する載置トレイ56dを有している。DUT載置部56cは、ロール軸(水平方向の回転軸)を中心に回転可能な構成(
図3、
図7参照)を有している。
【0049】
駆動部56eは、例えば、
図3に示すように、アジマス軸を回転駆動する駆動モータ56fと、ロール軸を回転駆動する駆動モータ56gと、を有する。駆動部56eは、駆動モータ56fと駆動モータ56gとによって、アジマス軸とロール軸とをそれぞれの軸中心に回転させる機構を備えた2軸ポジショナにより構成されている。このように、駆動部56eは、載置トレイ56dに載置されたDUT100を、載置トレイ56dごと2軸(アジマス軸とロール軸)方向に回転させることができるものである。以下、駆動部56eを含むDUT走査機構56全体をポジショナと称することもある(
図3参照)。
【0050】
DUT走査機構56は、載置トレイ56dに載置(保持)されているDUT100を、例えば、球体(
図5の球体B参照)の中心O1に配置したと仮定し、球体表面の全ての方位に対してアンテナ110が向く状態にDUT100の姿勢を順次変化させる全球面走査を行うものである。DUT走査機構56におけるDUT走査の制御は、後述するDUT走査制御部16よって行われる。DUT走査機構56は、本発明におけるポジショナを構成する。
【0051】
試験用アンテナ5は、OTAチャンバ50の筐体本体部52の底面52aの所要位置に、適宜な保持具(図示せず)を用いて取り付けられている。試験用アンテナ5の取り付け位置は、底面52aに設けられた開口67aを介してリフレクタ7からの見通しが確保できる位置となっている。試験用アンテナ5は、DUT100のアンテナ110と同じ規定(NR規格)の周波数帯の無線信号に対応するものである。
【0052】
試験用アンテナ5は、OTAチャンバ50内でのDUT100のNRに関連する測定に際し、NRシステムシミュレータ20からDUT100に対する試験信号の送信、及び該試験信号を受信したDUT100から送信される被測定信号の受信を行う。試験用アンテナ5は、その反射面がリフレクタ7の焦点位置Fとなるように配置されている。なお、試験用アンテナ5をその指向性パターンがDUT100に向き適切な送受信ができるように配置できる場合には、リフレクタ7は必ずしも必要とされない。
【0053】
リフレクタ7は、OTAチャンバ50の側面52bの所要位置にリフレクタ保持具58を用いて取り付けられている。リフレクタ7は、DUT100のアンテナ110により送受信される無線信号(試験信号、及び被測定信号)を、試験用アンテナ5の反射面へと折り返す電波経路を実現する。
【0054】
次に、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20の構成について説明する。
【0055】
図2に示すように、統合制御装置10は、NRシステムシミュレータ20に対して、例えばイーサネット(登録商標)等のネットワークNWを介して相互に通信可能に接続されている。また、統合制御装置10は、OTAチャンバ50における被制御系要素、例えば、DUT走査制御部16にもネットワークNWを介して接続されている。
【0056】
統合制御装置10は、ネットワークNWを介して、NRシステムシミュレータ20、及びDUT走査制御部16を統括的に制御するものであり、例えば、パーソナル・コンピュータ(PC)により構成される。なお、DUT走査制御部16は、OTAチャンバ50に付随して独立に設けられる(
図2参照)他、
図3に示すように、統合制御装置10に設けられていてもよい。以下では、統合制御装置10が
図3に示す構成を有するものとして説明する。統合制御装置10は、NRシステムシミュレータ20とともに、本発明の測定制御手段を構成している。
【0057】
図3に示すように、統合制御装置10は、制御部11、操作部12、表示部13を有している。制御部11は、例えば、コンピュータ装置によって構成される。このコンピュータ装置は、測定装置1の機能を実現するための所定の情報処理や、NRシステムシミュレータ20、及びDUT走査制御部16を対象とする統括的な制御を行うCPU(Central Processing Unit)11aと、CPU11aを立ち上げるためのOS(Operating System)やその他のプログラム及び制御用のパラメータ等を記憶するROM(Read Only Memory)11bと、CPU11aが動作に用いるOSやアプリケーションの実行コードやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)11c、外部I/F部11d、入出力ポート(図示せず)等を有する。
【0058】
外部I/F部11dは、ネットワークNWを介して、NRシステムシミュレータ20、及びポジショナ(DUT走査機構56)の駆動部56eとそれぞれ通信可能に接続されている。入出力ポートには、操作部12、表示部13が接続されている。操作部12は、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部13は、上記各種情報の入力画面や測定結果など、各種情報を表示する機能部である。本実施形態において、表示部13は、EIS-CDF測定における測定進捗表示画面130a(
図15参照)を表示する機能を有している。
【0059】
上述したコンピュータ装置は、CPU11aがRAM11cを作業領域としてROM11bに格納されたプログラムを実行することにより制御部11として機能する。制御部11は、
図3に示すように、呼接続制御部14、信号送受信制御部15、DUT走査制御部16、信号解析制御部17、受信感度試験制御部18、ピーク電力測定制御部19、測定状況表示制御部13aを有している。呼接続制御部14、信号送受信制御部15、DUT走査制御部16、信号解析制御部17、受信感度試験制御部18、ピーク電力測定制御部19、測定状況表示制御部13aも、CPU11aがRAM11cの作業領域でROM11bに格納された所定のプログラムを実行することにより実現されるものである。
【0060】
呼接続制御部14は、NRシステムシミュレータ20、信号処理部23を介して試験用アンテナ5を駆動してDUT100との間で制御信号(無線信号)を送受信させることにより、NRシステムシミュレータ20とDUT100との間に呼(無線信号を送受信可能な状態)を確立する制御を行う。
【0061】
信号送受信制御部15は、操作部12におけるユーザ操作を監視し、ユーザによりDUT100の送信及び受信特性の測定に係る所定の測定開始操作が行われことを契機に、呼接続制御による呼の確立後のNRシステムシミュレータ20に対して信号送信指令を送信し、NRシステムシミュレータ20から試験用アンテナ5を介して試験信号を送信させる制御、及び信号受信指令を送信し、試験用アンテナ5を介して被測定信号を受信させる制御を行う。
【0062】
DUT走査制御部16は、DUT走査機構56の駆動モータ56f及び56gを駆動制御することにより、DUT載置部56cの載置トレイ56dに載置されているDUT100の全球面走査を行わせるものである。
【0063】
ここで、DUT100の全球面走査について
図5~
図7を参照して説明する。一般に、DUT100が放射する信号の電力測定(放射電力測定)に関しては、等価等方輻射電力(EIRP)を測定する方法と、全放射電力(TRP)を測定する方法が知られている。EIRPは、例えば、
図5(a)に示す球座標系(r,θ,φ)の各測定点(θ,φ)で測定した電力値である。これに対し、TRPは、上記球座標系(r,θ,φ)の全ての方位、すなわち、DUT100の全球面走査の中心O1(以下、基準点)から等距離にある球面上の予め規定した複数の角度標本点PS(
図5(b)参照)でのEIRPを測定し、その総和を求めたものである。
【0064】
DUT100の全球面走査とは、載置トレイ56dに載置されているDUT100を、例えば、球体B(
図5参照)の中心O1を基準(中心)に、球体Bの表面の全ての方位、つまり角度標本点(以下、測定ポジション)PSに対してアンテナ110が向く状態にDUT100の姿勢を順次変化させる制御動作のことをいう。
【0065】
DUT100の全球面走査に合わせて各測定ポジションPSでのEIRPを測定するため、
図6に示すように、上記球座標系(r,θ,φ)系における特定の測定ポジションPS(1点)の位置には、
図6に示すように、DUT100が放射する信号を受信するための試験用アンテナ5が配置されている。
【0066】
全球面走査において、DUT100は、アンテナ110のアンテナ面が試験用アンテナ5の受光面に順次に向くように駆動(走査)される。これにより、試験用アンテナ5は、全球面走査が行われるDUT100のアンテナ110との間でTRP測定のための信号の送受信を行うことが可能となる。ここで送受信される信号は、NRシステムシミュレータ20から試験用アンテナ5を介して送信される試験信号と、該試験信号を受信したDUT100がアンテナ110より送信する信号であって、試験用アンテナ5を介して受信される被測定信号である。
【0067】
DUT100の全球面走査は、DUT走査機構56を構成する駆動モータ56f及び56gによりアジマス軸及びロール軸を回転駆動することにより実現される。測定装置1におけるDUT100の全球面走査に係るポジショナ(DUT走査機構56)のアジマス軸及びロール軸周りの回転駆動イメージを
図7に示している。
図7に示すように、本実施形態に係る測定装置1のDUT走査機構56では、アジマス軸をその軸中心にφの角度方向に例えば180度の範囲内で移動させる一方で、ロール軸をその軸中心にθの角度方向に例えば360度の範囲内で移動させることによって、DUT100をその中心O1を基準に全方位向けに回転させる全球面走査(
図5、
図6参照)を行うことができる。
【0068】
図7において、φ0は、アジマス軸の回転方向(φの角度方向)の全移動角度(180度)中の単位移動角度を示し、θ0は、ロール軸の回転方向(θの角度方向)の全移動角度(360度)中の単位移動角度(以下、ステップ角度)を示している。φ0、θ0は、例えば、予め規定された複数の異なる値のステップ角度のうちから所望の値のステップ角度を選択的に設定できるようになっている。設定されたφ0、θ0は、
図5(b)に示す隣り合う測定ポジションPS間の角度を規定し、結果として測定ポジションPSの数を規定するものとなる。
【0069】
DUT走査制御部16によるDUT100の全球面走査の制御を実現するために、例えば、ROM11bには、予め、DUT走査制御テーブル16aが用意されている。DUT走査制御テーブル16aは、例えば、DUT100の全球面走査に係る球座標系(
図5(a)参照)における各測定ポジションPS(
図5(b)参照)の座標、各測定ポジションPSの座標に対応付けられた駆動モータ56f及び56gの駆動データ、及び各測定ポジションPSでの停止時間(測定時間)などが関係付けられた制御データを格納している。駆動モータ56f及び56gが例えばステッピングモータの場合には、上記駆動データとして例えば駆動パルス数が格納される。
【0070】
DUT走査制御部16は、DUT走査制御テーブル16aをRAM11cの作業領域に展開し、該DUT走査制御テーブル16aに記憶されている制御データに基づき、DUT走査機構56の駆動モータ56f及び56gを駆動制御する。これにより、DUT載置部56cに載置されるDUT100の全球面走査が行われる。全球面走査では、球座標系における測定ポジションPSごとにDUT100のアンテナ110のアンテナ面が該測定ポジションPSに向いて規定の時間(上記停止時間)だけ停止し、その後、次の測定ポジションPSに移動する動作(DUT100の走査)が、全ての測定ポジションPSを対象にして順次実施される。
【0071】
本実施形態に係るビームピークサーチ(ピーク電力探索)に係るCoarse & fine grid測定を実現すべく、DUT走査制御部16は、ポジショナ(DUT走査機構56)を第1のステップ(所定のステップ)間隔で回転させてDUT100を球座標系の第1のステップ間隔ずつ離間する方位(第1の方位)を順次向くように回転させる第1の回転制御と、ポジショナを第1のステップ間隔よりも細かい第2のステップ間隔で回転させてDUT100を球座標系の第2のステップ間隔ずつ離間する方位(第2の方位)を順次向くように回転させる第2の回転制御と、を選択的に実行可能な構成を有している。本実施形態において、第1のステップ、及び第2のステップは、それぞれ、Coarseグリッドに基づく測定ポジションPSa(
図13参照)間の間隔、及びFineグリッドに基づく測定ポジションPSb(
図13参照)間の間隔に相当する。DUT走査制御部16は、本発明の回転制御手段を構成する。
【0072】
信号解析制御部17は、DUT100の全球面走査時に、試験用アンテナ5が受信したNRに関連する無線信号を、NRシステムシミュレータ20を介して取り込み、EIS-CDF測定に係る信号として解析処理(測定処理)するものである。
【0073】
上述したDUT100の全球面走査に合わせて、測定装置1では、球座標系(r,θ,φ)の各測定ポジションPSでEIS(等価等方感度)の測定を行うことも可能である。EISの測定は、NRシステムシミュレータ20から試験用アンテナ5を介して試験信号を送信し、該試験信号を受信したDUT100がアンテナ110より送信する信号(被測定信号)を受信してDUT100の受信感度を評価するものである。
【0074】
各測定ポジションPSでのEISの測定においては、試験信号の出力レベルを変更しながら送信し、その試験信号を受信したDUT100が送信する信号(被測定信号)のスループットを測定し、該スループットの測定結果に応じてEISの累積分布関数(CDF)を算出する受信感度試験が複数回実施される。
図6において、試験用アンテナ5とDUT100との間に介在する複数の楕円形状は、EIS測定に係る受信感度試験における試験信号の出力レベルの変更設定イメージを示している。
【0075】
受信感度試験制御部18は、EISの測定に際し、NRシステムシミュレータ20の信号発生部21aから送信した試験用信号をDUT100で受信させて被測定信号を応答送信させ、該被測定信号をNRシステムシミュレータ20の信号測定部21bに入力させる受信感度試験に係る制御を行うものである。受信感度試験制御部18は、本発明の受信感度試験実行手段を構成する。
【0076】
受信感度試験制御部18は、EIS測定に係る受信感度試験を実現するために、試験条件設定部18a、スループット測定部18b、出力レベル可変設定部18d、測定結果出力部18eを有している。
【0077】
試験条件設定部18aは、受信感度試験の試験条件(ステップ角度等)を設定する機能部である。スループット測定部18bは、受信感度試験ごとにDUT100から応答送信される被測定信号のスループットを測定する機能部である。出力レベル可変設定部18dは、スループット測定部18bによるスループットの測定結果と予め設定された所定の閾値(スループット閾値)との比較結果に応じて、次回の受信感度試験における試験用信号の出力レベルを可変設定する(例えば、順次レベルダウンさせる)機能部である。出力レベル可変設定部18dは、本発明の出力レベル設定手段を構成する。
【0078】
測定結果出力部18eは、可変設定後の出力レベルを有する試験用信号による今回の受信感度試験の試験結果(スループットの測定結果)が予め設定されたスループット測定終了条件を満たすか否かを判定し、該スループット測定終了条件を満たすと判定された場合に当該試験結果を出力する機能部である。測定結果出力部18eは、例えば、出力レベル可変設定部18dの制御により、試験信号の出力レベルのステップを順次減少させる出力レベル可変設定を繰り返し実行していくなかで、スループットの結果が初めて否判定(予め設定されている所定の閾値を下回った旨の判定:否判定)となったことをスループット測定終了条件として保持し、上記否判定となった出力レベルの一つ手前の出力レベルを受信感度として出力させる機能構成によって実現されていてもよい。測定結果出力部18eは、本発明の測定結果出力手段を構成している。
【0079】
ピーク電力測定制御部19は、EIS-CDF測定に合わせてDUT100からの無線信号の受信電力を複数の方位ごとに測定して最大の受信電力を有する方位をビームピーク(ピーク電力)として探索する機能部であり、受信電力測定部19a、ピーク電力候補選出部19b、ピーク電力判定部19cを有している。ピーク電力測定制御部19は、本発明のピーク電力測定手段を構成する。
【0080】
受信電力測定部19aは、試験用アンテナ5で受信したDUT100からの無線信号(DUT100が試験用信号の受信に対応して送出する被測定信号)の受信電力を測定する機能部である。
【0081】
ピーク電力候補選出部19bは、受信電力測定部19aにより上記第1のステップ間隔で規定された方位ごとに測定した無線信号の受信電力のうちの最大の受信電力から所定の電力幅ΔPwの範囲内にある受信電力、及び該受信電力の方位をピーク電力候補として選出する機能部である。なお、電力幅ΔPwは、Fineグリットに対応するステップ(第2のステップ)間隔のレンジ(Fineサーチレンジ)に対応して設定される所定の値とすることができる。ピーク電力候補選出部19bは、本発明の候補選出手段を構成する。
【0082】
ピーク電力判定部19cは、ピーク電力候補選出部19bにより選出されたピーク電力候補にそれぞれ対応する方位(第1の方位)の周辺領域を対象に、第2の回転制御を行わせて第2のステップ間隔で規定された方位(第2の方位)ごとに無線信号の受信電力を測定させ、該測定された受信電力のうちの最大の受信電力と該受信電力の方位をピーク電力と判定する判定処理機能を有している。ピーク電力判定部19cは、本発明の判定手段を構成している。
【0083】
測定状況表示制御部13aは、EIS測定に係る受信感度試験における測定の進捗状況を示す測定進捗表示画面130a(
図15参照)を表示部13に表示させる表示制御機能を担っている。
【0084】
NRシステムシミュレータ20は、
図4に示すように、信号発生部21a、信号測定部21b、送受信部21c、制御部21d、操作部21e、表示部21fを有している。
【0085】
信号発生部21aは、試験信号の元となる信号(ベースバンド信号)を発生する。送受信部21cは、信号発生部21aが発生した信号から各通信規格の周波数に対応した試験信号を生成して信号処理部23に送出するとともに、信号処理部23から送られてくる被測定信号からベースバンド信号を復元するRF部の機能を果たす。信号測定部21bは、送受信部21cで復元されたベースバンド信号に基づいて被測定信号の測定処理を行う。
【0086】
制御部21dは、信号発生部21a、信号測定部21b、送受信部21c、操作部21e、表示部21fの各機能部を統括的に制御する。操作部21eは、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部21fは、各種情報の入力画面や測定結果など、各種情報を表示する機能部である。
【0087】
上述した構成を有する測定装置1では、OTAチャンバ50の内部空間51内で、ポジショナ(DUT走査機構56)の載置トレイ56dにDUT100を載置し、該DUT100を、載置トレイ56dごと2軸(アジマス軸とロール軸)方向に予め設定されたステップ角度ずつ移動(回転)させながら、各測定ポジションPSでのEIRPの測定、全ての測定ポジションPSに亘るTRPの測定の他、各測定ポジションPSでのEISの測定、全ての測定ポジションPSに亘るEIS-CDFの測定を行うことができる。
【0088】
本実施形態では、EIS-CDF測定における測定ポジションPSの間隔を規定するグリッドタイプとして各測定ポジションPS間の角度間隔が一定であるConstant Step(角度間隔一定)タイプが採用されている。これにより、DUT走査制御部16は、DUT100が球座標系上に等角度間隔で配置された測定ポジションPSを順次向くようにポジショナの回転駆動を行い、信号解析制御部17、及び受信電力測定部19aでは、各測定ポジションPSで受信された無線信号の受信電力を測定する処理を実施する。
【0089】
また、本実施形態では、Constant Stepタイプのグリッドとして、測定ポジションPSの間隔が所定の間隔であるグリッド(粗いグリッド:以下、Coarseグリッドという)と、所定の間隔よりも細かい間隔を有するグリッド(より細かいグリッド:以下、Fineグリッドという)との2種類のものが用意されている。これにより、ピーク電力測定制御部19は、ポジショナの回転をCoarseグリッドによって規定される所定の間隔で実施しながらDUT100からの無線信号の受信電力の測定(ピークリサーチ)を行ったうえで、複数のピーク電力候補がある場合には、これらピーク電力候補の周辺エリアを対象によりFineグリッドによって規定される所定の間隔より細かい間隔でポジショナを回転させながらピークリサーチを続行する、いわゆる、Coarse & fine grid測定の制御を実現している。
【0090】
なお、本実施形態に係る測定装置1では、第1のグリッドパターン、及び第2のグリッドパターンは、第1の方位、及び第2の方位の密度がそれぞれ一定であるConstant Density(密度一定)タイプのものが採用されていてもよい(第2の実施形態参照)。
【0091】
Coarseグリットは、例えば、
図5(b)に示すステップ間隔での測定ポジションPSの配置を規定するものである。DUT走査制御部16は、Coarseグリットを用いて、例えば、
図12のグラフ及び
図13に示すように、ロール方向とアジマス方向とに15度間隔で180度または360度の範囲の測定ポジション(以下、符号PSaを付して識別する)を順次経由する回転制御(第1の回転制御)を実現している。
【0092】
一方、Fineグリットは、例えば、
図13に小さい丸で示すステップ間隔での測定ポジションPSの配置を規定するものである。DUT走査制御部16は、Fineグリットを用いて、ロール方向とアジマス方向とに例えば7.5(15/2=7.5)間隔で180度または360度の範囲の測定ポジション(以下、PSbを付して識別する)を順次経由する回転制御(第2の回転制御)をさらに実現可能としている。
【0093】
本実施形態に係る測定装置1では、測定ポジションPSa(第1の方位)を規定するCoarseグリッドのグリッドパターン(第1のグリッドパターン)のデータと、測定ポジションPSb(第2の方位)を規定するFineグリッドのグリッドパターン(第2のグリッドパターン)のデータを、例えば、DUT走査制御テーブル16aに保持しておく構成としてもよい。これにより、DUT走査制御部16は、第1のグリッドパターンと第2グリッドパターンに基づいて、それぞれ、上述した第1の回転制御と第2の回転制御を実施することができるようになる。このように、DUT走査制御テーブル16aは、本発明の保持手段を構成している。
【0094】
(ビームピークサーチ制御の概要)
本実施形態に係る測定装置1では、Coarse & fine grid測定によるビームピークサーチを基本としている。ビームピークサーチにおいては、まず、
図8に示すフローチャートに沿ってCoarseグリットに基づく各方位でのEIS測定(第1のEIS測定)を実施し(ステップS3参照)、その後、ピーク電力候補の選定(ステップS4参照)を経てFineグリットに基づく特定範囲内の各方位でのEIS測定(第2のEIS測定)が実施する(ステップS5参照)。
【0095】
第1のEIS測定と第2のEIS測定とでは測定ポジションPS(前者は測定ポジションPSa、後者は測定ポジションPSb)間の角度間隔が互いに異なる(前者はCoarseグリットに対応し、後者はFineグリットに対応する)一方で、いずれの場合も、例えば、
図5(b)に示すように、測定ポジションPS(丸で囲まれた部分)ごとにEIS測定を実施し、各測定ポジションPSでのESI測定の結果を用いて累積分布関数(CDF)を求める(丸で囲まれた測定ポジションPS間の矢印)処理が行われる点では共通している。
【0096】
第1のEIS測定及び第2のEIS測定のいずれにおいても、事前にDUT100の受信感度試験が実施される(ステップS3、S5参照)。受信感度試験の試験結果に基づいてそれぞれのEIS値が求められるようになっている。
【0097】
Coarseグリットに対応する方位(測定ポジションPSa)ごとの第1のEIS測定が行われた後、該第1のEIS測定に係る受信感度試験によって測定されたDUT100からの無線信号の受信電力のなかからピーク電力候補となる方位が幾つか選出され(ステップS4参照)、さらにそのピーク電力候補の中から、Fineグリットに対応する方位(測定ポジションPSb)ごとの第2のEIS測定に係る受信感度試験によって測定された受信電力のうちの最大のものに対応する方位がピーク電力(ビームピーク)として検出(測定)される(ステップS6)ようになっている。
【0098】
次に、本実施形態に係る測定装置1のビームピークサーチ制御動作について
図8に示すフローチャートを参照して説明する。
図8に示すように、ビームピークサーチ制御は、統合制御装置10により、EIS-CDF測定制御に合わせて実施される。
【0099】
測定装置1において、EIS-CDF測定を行うためには、まず、OTAチャンバ50のポジショナ(DUT走査機構56)のDUT載置部56cに試験対象となるDUT100をセットしたうえで、操作部12より測定パラメータの設定を行う(ステップS1)。ここで統合制御装置10の制御部11における試験条件設定部18aは、操作部12での操作入力を受け付けて、測定項目をEIS-CDF測定とする設定を行い、さらには測定ポジションPS間のステップ角度を設定する。ステップ角度については、Coarseグリットに対応する第1のステップに対応する角度間隔と、Fineグリットに対応する第2のステップに対応するステップ間隔を設定する必要がある。
【0100】
測定パラメータの設定終了後、統合制御装置10は、操作部12において測定開始操作が行われたか否かを監視する(ステップS2)。ここで測定開始操作が行われると(ステップS2でYES)、制御部11は、第1の回転制御を実施させ、該第1の回転制御に基づくCoarseグリットに対応する方位(測定ポジションPSa)ごとに第1のEIS測定を行わせるようにDUT走査制御部16、ポジショナ及びNRシステムシミュレータ20を制御する(ステップS3)。
【0101】
第1のEIS測定の制御動作について
図10を参照してより詳しく説明する。なお、
図10のフローチャートは測定状況表示制御部13aによる測定進捗表示画面130a(
図15参照)の表示制御(ステップS21、S23における括弧書きの部分)の流れも含んでいる。
【0102】
図10に示すように、
図8のステップS3での第1のEIS測定処理において、DUT走査制御部16は、
図8のステップS1で設定されたCoarseグリットに対応するステップ角度に基づき、ポジショナを、
図5(a)に示す球座標系(r,θ,φ)における初期測定ポジションPSaに対応する(θ,φ)の角度位置まで回転(移動)させるように駆動モータ56f、56gを回転駆動する(ステップS21)。
【0103】
引き続き、受信感度試験制御部18は、NRシステムシミュレータ20を駆動制御し、ステップS21におけるポジショナの角度位置に対応する測定ポジションPSa(初回の測定は、初期測定ポジション)でのEIS測定を行わせるように制御する(ステップS23)。
【0104】
EIS測定に先立ち、受信感度試験制御部18は、NRシステムシミュレータ20の信号発生部21aから発生させた信号を信号処理部23に入力して試験信号を生成し、該試験信号を試験用アンテナ5によりDUT100に送信させる。次いで、受信感度試験制御部18は、上記試験信号を受信したDUT100が送信する被測定信号を試験用アンテナ5で受信させ、さらに信号処理部23、送受信部21c、信号測定部21bを介して被測定信号のスループットを測定させ、試験信号の出力レベルを変更しながらスループットの測定を複数回繰り返す受信感度試験を行わせる(ステップS22)ようにスループット測定部18b、出力レベル可変設定部18dを制御する。
【0105】
受信感度試験を複数回実施させる間にスループットの測定値が閾値以下となった場合、受信感度試験制御部18は、次の回のスループット測定を行わないように制御する。すなわち、ステップS22における受信感度試験は、試験信号の出力レベルを等間隔のステップで減少させる処理を繰り返し実行していくなかで、初めてスループットの結果が閾値よりも小さいとする判定(否判定)となったことをスループット測定終了条件としている。受信感度試験制御部18は、受信感度試験がスループット測定終了条件を満たしたとき(スループットの測定結果が否判定となったとき)の試験用信号の出力レベルの一つ手前(1回前)の出力レベルを受信感度とするようになっている。
【0106】
ステップS22での受信感度試験は、互いに直交する直線偏波であるθ偏波とφ偏波の試験信号ついてそれぞれ1回ずつ実施される(
図11のステップS31~S36、S37参照)。合計2回の受信感度試験が終了すると、受信感度試験制御部18は、それぞれの回の受信感度試験の終了時に保持しておいた、閾値以下となる直前のスループットの測定値(θ偏波に対応する測定値とφ偏波に対応する測定値)から両者の平均値をEIS値として算出する処理(ステップS23におけるEIS測定処理に相当)を実行する。
【0107】
ステップS23における初期測定ポジションPSaでのEIS測定(EIS値=EIS(Totalの算出))が終了すると、次いで、DUT走査制御部16は、残りの測定ポジションPSaが存在するか否かを判定する(ステップS24)。
【0108】
ここで残りの測定ポジションPSaが存在すると判定された場合(ステップS24でYES)、DUT走査制御部16は、ポジショナを、球座標系(r,θ,φ)における次の測定ポジションPSaに対応する(θ,φ)の角度位置まで移動させるように駆動モータ56f、56gを回転駆動する(ステップS21)。ここでポジショナを移動させる角度(前回の測定ポジションPSaから次の測定ポジションPSaまでの角度)は、
図8のステップS1で設定を受け付けたCoarseグリットに対応するステップ角度に相当する。
【0109】
ポジショナのステップ角度の移動が終了して次の測定ポジションPSaで停止すると、受信感度試験制御部18は、ステップS24におけるポジショナの角度位置に対応する次(2回目)の測定ポジションPSaでの受信感度試験、及びEIS測定を実施させるようにNRシステムシミュレータ20を駆動制御する(ステップS22、S23)。
【0110】
その後、ステップS24で残りの測定ポジションPSaが存在すると判定されている(ステップS24でYES)間、DUT走査制御部16、信号解析制御部17は、ステップS21からステップS24の処理繰り返し実施することで、残りの測定ポジションPSaでの受信感度試験、及びEIS測定を実施させる。
【0111】
測定ポジションPSaを更新させつつその更新された測定ポジションPSaでの受信感度試験、及びEIS測定を行う制御を繰り返している間、ステップS24において残りの測定ポジションPSaが存在しないと判定されると(ステップS24でNO)、このビームピークサーチ制御は
図8のステップS4へ移行する。
【0112】
ステップS4において、ピーク電力測定制御部19は、試験用アンテナ5によるDUT100からの試験用信号の受信電力のピーク電力候補となる方位を選出する処理を行う。ここでピーク電力候補の選出対象となる受信電力は、Coarseグリットに対応する全ての方位(測定ポジションPSa)でのEIS測定(ステップS3参照)に合わせて、それぞれの方位ごとに、例えば、受信電力測定部19aにより測定されている。ステップS4において、ピーク電力測定制御部19は、例えば、
図9に示すように、受信電力に関する所定の電力幅ΔPwをまず設定し(ステップS11)、次いで、既に受信電力測定部19aにより測定されている受信電力の値が最大の方位を特定するとともに、該特定した方位からステップS11で設定された電力幅ΔPwの範囲内の受信電力を有する各方位をピーク電力候補として選出する(ステップS12)。
【0113】
ステップS4(
図9のステップS11、S12)でのビーム候補の選出処理が終了すると、ビームピークサーチ処理はステップS5へ移行する。ここで制御部11は、DUT走査制御部16によって第2の回転制御を実施させ、該第2の回転制御に基づくFineグリットに対応する方位(測定ポジションPSb)ごとに受信感度試験と第2のEIS測定を行わせるようにポジショナ、受信感度試験制御部18及びNRシステムシミュレータ20を制御する(ステップS5)。ここでの受信感度試験及び第2のEIS測定の測定対象となる測定ポジションPSbは、Fineグリットに対応する角度間隔を有し、かつ、ステップS4で選出されたビーム候補に対応する方位を中心とする予め決められた一定の範囲内に配置されているもの(
図13の例においては、小さい黒丸で示される測定ポジションPSb)である。
【0114】
ステップS5における第2のEIS測定及び受信感度試験は、対象となる方位(測定ポジションPSb)の角度間隔及び測定エリアが異なるだけで、ステップS3における第1のEIS測定及び受信感度試験と同等の手順(
図10のステップS21~S23参照)で実現可能である。
【0115】
第2のEIS測定及び受信感度試験が終了すると、引き続き、ピーク電力測定制御部19はピーク判定処理を実行する(ステップS6)。ここでピーク電力判定部19cは、ステップS5の第2のEIS測定の対象の測定ポジションPSb、つまり、ピーク電力候補に対応する方位ごとに測定された受信電力のうちの最大の受信電力とその方位をビームピーク(ピーク電力)として判定し、その後、一連のビームピークサーチ制御を終了する。
【0116】
ステップS4におけるピーク電力候補選出処理、及びステップS6におけるピーク判定処理の具体例について、
図14を参照して説明する。
図14に示す本実施形態に係る測定装置1におけるCoarse & fine grid測定においては、
図14(a)に示すCoarseサーチ段階では、Coarseグリットに基づく各方位(測定ポジションPSa参照)でのビームピークサーチを行い、そのサーチ結果に基づいてそのうちの最大の受信電力bm2から所定の電力幅ΔPwの範囲内にある受信電力(bm1を含む)がピーク電力候補として選出される。次いで、
図14(b)に示すFineサーチ段階では、これらピーク電力候補のそれぞれ対応する各方位の周辺を対象にFineグリットに基づく各方位(測定ポジションPSb参照)でのビームピークサーチを行わせ、そのサーチ結果に基づいてそのうちの最大の受信電力(bm1)がビームピークとして判定されるようになっている。
図14(c)では、Coarseグリットに基づく方位(測定ポジションPSa)が網掛けの大きな丸で示され、Fineグリットに基づく方位(測定ポジションPSb)が小さな黒丸で示されている。
【0117】
本実施形態に係る測定装置1では、ビームピークサーチ制御(
図8参照)の実行中、第1のEIS測定と第2のEIS測定に際し、測定進捗表示画面130aを用いてEIS-CDF測定の測定状況を表示部13に表示する表示制御が実施される。
【0118】
より具体的には、統合制御装置10において、測定状況表示制御部13aは、
図10のステップS21において、ポジショナの初期測定ポジションPSへの移動制御が行われるのに合わせて測定進捗表示画面130aの初期画面を表示し、同ステップS23でのEIS測定の進行に合わせて測定進捗表示画面130aの各項目の値を測定結果に合わせて更新表示させる制御を行う。
【0119】
測定進捗表示画面130aは、例えば、
図15に示すように、項目選択ツール表示領域131a、EIS-CDF測定状況表示領域132a、EIS測定状況表示領域133aを有して構成されている。項目選択ツール表示領域131aは、測定進捗表示画面130a上に表示する表示項目(以下、項目)を選択するために用いる各種の項目選択ツールを表示する領域である。EIS-CDF測定状況表示領域132aは、上述したEIS測定が終了した測定ポジションPSまでのEIS-CDFの測定結果を表示する表示領域である。EIS測定状況表示領域133aは、EIS測定におけるスループット測定を開始した測定ポジションPSでのEIS測定の進捗状況を表示する表示領域である。
【0120】
EIS-CDF測定状況表示領域132aは、測定の順番を示すインデックス番号の項目130の他、EISの測定対象の測定ポジションPSに対応するポジショナのロール軸周りの回転角度θ、同アジマス軸周りの回転角度φ、当該測定ポジションPSにおけるEISの測定結果(単位:dBm)の各項目131、132、133を有している。測定状況表示制御部13aは、EIS-CDF測定状況表示領域132aの各項目130、131、132、133について、累積分布測定の進行に合わせてそれぞれの値(インデックス番号、回転角度θ、回転角度φ、EISの測定結果)を更新して表示する表示制御を行う。
【0121】
EIS測定状況表示領域133aは、累積分布測定に係る試験回数(Test Counts:テストカウント)を示す項目134の他、試験信号の偏波(Polarization)、試験信号の出力レベル(Output Level:単位:dBm)、試験信号の伝送レート(Rate:単位:%)、試験信号を受信したDUT100が送信する被測定信号のスループット(Throughput)の測定値(単位:Mbps)、スループットの測定値が予め設定し閾値を超えているか否かの判定結果(Judge:成功(Pass)、または失敗(Fail))の各項目135、136、137、138、139を有している。測定状況表示制御部13aは、EIS測定状況表示領域133aの各項目134、135、136、137、138、139について、EIS測定の進行に合わせて、それぞれの値(テストカウント、試験信号の偏波、試験信号の出力レベル、試験信号の伝送レート、スループットの測定値、判定結果の値)を更新して表示する。
【0122】
なお、測定進捗表示画面130aの初期画面(
図10のステップS21参照)は、例えば、EIS-CDF測定状況表示領域132aにインデックス番号(0,1)に対応する上記各項目131、132、133の表示領域が確保され、EIS測定状況表示領域133aにテストカウント「12」に対応する上記各項目135、136、137、138、139の表示領域が確保される表示形態を有している。
【0123】
次に、本実施形態に係る測定装置1の統合制御装置10によるEIS-CDF測定時おける測定状況表示処理動作について
図11に示すフローチャートを参照して説明する。
図11において、ステップS31、S32、S34、S37は
図8におけるステップS3、S5における受信感度試験を構成する各処理ステップである。この測定状況表示処理は、
図8におけるステップS3、S5(すなわち、
図10のステップS21~S23)でのEISの測定に合わせて実施され、ステップS21で表示された測定進捗表示画面130a(初期画面)の各項目について、EIS-CDF測定の進行に合わせて当該各項目の値を更新する表示制御形態をとる。
【0124】
この測定状況表示処理を実行するにあたり、受信感度試験制御部18は、当該測定ポジションPSでのEIS測定のための受信感度試験の最初の処理として、まず受信感度試験対象をθ偏波に切り替え、出力レベル可変設定部18dにより試験用信号の出力レベルを当初の出力レベルから1段階レベルダウンさせたうえで(但し、初回の出力レベルは規定値)、当該θ偏波の試験信号を試験用アンテナ5から送信させる(ステップS31)。
【0125】
引き続き、受信感度試験制御部18は、上記試験信号を受信したDUT100が送出する被測定信号を試験用アンテナ5によりを受信させ、当該受信された被測定信号のスループットをスループット測定部18bで測定させる制御を行う(ステップS32)。
【0126】
次いで、測定状況表示制御部13aは、ステップS32で測定されたスループットの値(測定値)を、測定進捗表示画面130aのEIS測定状況表示領域133a(第2の表示領域)に確保したテストカウント「12」に対応するリスト表示領域の項目136として表示させるように制御する(ステップS33)。
【0127】
さらに、スループット測定部18bは、ステップS32で測定されたスループットの値が予め設定された閾値を超えているか否かを判定する(ステップS34)。ここで、測定されたスループットの値が閾値を超えている、つまり「Pass」であると判定されると(ステップS34でYES)、測定状況表示制御部13aは、EIS測定状況表示領域133aのテストカウント「12」に対応する表示領域の項目139の値として判定結果「Pass」を表示させるように制御する(ステップS35)。
【0128】
その後、制御部11は、ステップS31に戻り、2回目以降の受信感度試験のためのステップS31~S34の処理を継続させるように制御する。この制御の間に、例えばn回目の受信感度試験の際にステップS32で測定されたスループットの値が閾値以下である、つまり「Fail」であると判定されると(ステップS34でNO)、測定状況表示制御部13aは、EIS測定状況表示領域133aのテストカウント「n」に対応する表示領域の項目139の値として判定結果「Fail」を表示させるように制御する(ステップS36)。
【0129】
次に、受信感度試験制御部18は、受信感度試験対象をθ偏波からφ偏波に切り替え、当該φ偏波についての上記ステップS31~S36までの処理を実行するようにスループット測定部18b、出力レベル可変設定部18d、測定状況表示制御部13aを制御する(ステップS37)。
【0130】
これにより、ステップS37では、当該測定ポジションPSにおいて、φ偏波の試験用信号の出力レベルが当初の出力レベルから1段階レベルダウンされてその試験信号が試験用アンテナ5から送信され(ステップS31参照)、該試験信号を受信したDUT100が送出する被測定信号が試験用アンテナ5によりを受信され、当該被測定信号のスループット測定が行われる(ステップS32参照)。
【0131】
ここでスループットの値(測定値)は測定進捗表示画面130aのEIS測定状況表示領域133aのテストカウント「12」に対応するリスト表示領域の項目136として表示される。このとき、項目135のPolarizationはφ偏波を示すPhiという表示に切り替えられている。
【0132】
さらに、測定されたスループットの値が閾値を超えているか否かが判定される(ステップS34参照)。ここで、スループットの値が閾値を超えていることにより「Pass」であることが判定されると、EIS測定状況表示領域13dのテストカウント「12」に対応する表示領域の項目139の値として判定結果「Pass」を表示される(ステップS35)。
【0133】
その後、2回目以降の受信感度試験のためのステップS31~S34と同等の処理が行われる。この間、例えばn回目の受信感度試験で測定されたスループットの値が閾値以下であることにより「Fail」であると判定されると、EIS測定状況表示領域133aのテストカウント「n」に対応する表示領域の項目139の値として判定結果「Fail」を表示させる(ステップS36)。
【0134】
ここまでの処理において、ステップS31~S36でθ偏波の受信感度試験がスループットの測定値が「Fail」判定となるまで複数回実施され、次いでステップS37においてφ偏波の受信感度試験が複数回実施されて何回目かでスループットの測定値が「Fail」判定されることで当該φ偏波の受信感度試験が終了する。
【0135】
引き続き、測定状況表示制御部13aは、測定進捗表示画面130aのEIS-CDF測定状況表示領域132aのこのときのインデックス番号に対応する項目133の値(EIS(Total))を更新表示する(ステップS38)。
【0136】
ここで測定状況表示制御部13aは、測定ポジションPSごとに、それぞれ、スループットの測定値が「Fail」判定される一つ前のθ偏波のEIS値とφ偏波のEIS値の平均値を(EIS(Total))として算出し表示する制御機能を有している。
【0137】
ステップS38でのEIS(Total))の更新表示の後、一連の測定状況表示処理動作を終了させる制御が行われる。測定状況表示処理動作の終了に際しては、EIS-CDF測定状況表示領域132aの項目133の値(EIS(Total))は、測定中であること示す「measuring」から、1つ前の回の受信感度試験でスループットの値が「Pass」であると判定されたときの試験信号の出力レベルの値(θ偏波とφ偏波のEIS値の平均値)に変更表示される。
【0138】
本実施形態に係る測定装置1は、Coarse & fine grid測定を基本とするビームピークサーチを行うのに加えて、試験用信号の出力レベルをノンリニアに制御することにより受信感度試験回数を低減するようにしたために、既存のCoarse & fine grid測定を採用しただけで、試験用信号の出力レベルをリニアに制御していた従来装置に比べて、受信感度試験回数の低減に応じた測定時間の短縮効果が期待できる。
【0139】
具体例を挙げると、例えば、
図16に示す表図中のCoarse & Fine Peak Searchの欄に記載されるように、本実施形態に係る測定装置1においては、Coarse & fine grid測定によるビームピークサーチと、受信感度試験における試験用信号の出力レベルのノンリニア制御との併用によって、試験用信号の出力レベルをリニアに制御していたときには1.5日を超える時間を要していたものが、5時間にまで短縮されることが確認された。なお、別の検証結果としては、
図16に示す表図中のDefault Peak Searchの欄に記載されるように、Coarse & fine grid測定を採用しない従来装置にあっては、試験用信号の出力レベルをリニアに制御していたときには3日を超える時間を要し、これをノンリニアの制御に切り替えたとしても、10時間まで時間短縮するのに留まることが確認された。
【0140】
なお、上記実施形態では、測定装置1の外部に統合制御装置10を設けたシステム構成例を開示しているが、本発明は、測定装置1に統合制御装置10の制御機能を設けた構成であってもよい。この構成は、以下に説明する各実施形態でも同様に適用可能である。
【0141】
上述したように、本実施形態に係る測定装置1は、OTAチャンバ50の内部空間51内に設けられたDUT走査機構56(ポジショナ)と、DUT100が球座標系の所定のステップ間隔で規定された第1の方位(PSa)を順次向く第1の回転制御と、DUT100が所定のステップよりも細かいステップ間隔で規定された第2の方位(PSb)を順次向く第2の回転制御と、をポジショナに対して実行するDUT走査制御部16と、第1の方位、及び第2の方位ごとに、DUT100からの無線信号を内部空間51内の試験用アンテナ5で受信して受信電力を測定する統合制御装置10と、測定された受信電力に基づき、最大の受信電力をピーク電力として測定するピーク電力測定制御部19と、備え、統合制御装置10は、試験用アンテナ5から試験信号を送信し、該試験信号を受信したDUT100から送信される被測定信号を試験用アンテナ5で受信させて該被測定信号に基づきスループットを測定する受信感度試験を、試験信号の出力レベルをノンリニアに変更しながら第1の方位、及び第2の方位ごとに繰り返し実施し、所定のスループット測定終了条件を満たすことにより受信感度を算出する受信感度試験制御部18を有し、ピーク電力測定制御部19は、第1の方位ごとに測定された受信電力のうちの最大の受信電力から所定の電力幅(ΔPw)の範囲内にある受信電力を有する第1の方位をピーク電力候補として選出するピーク電力候補選出部19bと、ピーク電力候補にそれぞれ対応する第1の方位を中心とする所定範囲内の領域を対象に第2の回転制御を実施して該第2の方位ごとに受信電力を測定させ、該測定結果に基づいてピーク電力を判定するピーク電力判定部19cと、を有する構成である。
【0142】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、所定のステップごとの粗い測定と、所定のステップより細かいステップごとの細かい測定の2段階でDUT100のピーク電力の値を測定する、いわゆる、Coarse & fine grid測定を基本としつつ、粗い測定で得た受信電力から所定の電力幅の範囲内にある受信電力をピーク電力候補として選出したうえで、これらピーク電力候補を対象にして細かいステップごとのピーク電力の測定を行うため、粗い測定で見逃したピーク電力を細かい測定では確実にサーチすることができ、ピーク電力の測定精度を向上させることができる。また、Coarse & fine grid測定による測定時間の短縮効果に加え、試験信号の出力レベルをノンリニアに変更しながら行う受信感度試験の時間短縮効果も期待でき、測定時間の短縮が可能となる。
【0143】
また、本実施形態に係る測定装置1において、第1の方位を規定する第1のグリッドパターンと、第2の方位を規定する第2のグリッドパターンの各データを保持するDUT走査制御テーブル16aを有し、DUT走査制御部16は、第1のグリッドパターンと第2グリッドパターンに基づいて、それぞれ、第1の回転制御と第2の回転制御を実施する構成である。
【0144】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、DUT走査制御テーブル16aが保持する第1のグリッドパターンと第2グリッドパターンの各データに基づき、粗いステップとより細かいステップの2段階の測定を容易に実行できるようになる。
【0145】
また、本実施形態に係る測定装置1において、第1のグリッドパターン、及び第2のグリッドパターンは、第1の方位、及び第2の方位の角度距離がそれぞれ一定である角度間隔一定(Constant Step)タイプ、または第1の方位、及び第2の方位の密度がそれぞれ一定である密度一定(Constant Density)タイプのいずれかの構成である。
【0146】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、Constant Stepタイプのグリッドパターンか、Constant Densityタイプかを選択的に用いてユーザが望む運用形態での測定が容易に実現できる。
【0147】
また、本実施形態に係る測定装置1において、スループット測定終了条件は、試験信号の出力レベルのステップを順次減少させる設定を繰り返し実行していくうちに、測定されたスループットが所定の閾値を初めて下回ったと判定されることであり、受信感度試験制御部18は、上記判定が得られた回の一つ手前の回の出力レベルを受信感度として検出する構成を有している。
【0148】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、スループット測定終了条件を満たした回の一つ手前の回の試験用信号の出力レベルを受信感度として正しく検出することが可能になる。
【0149】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る測定装置(便宜的に、測定装置1Aと呼称する。)は、Coarse & fine grid測定によるビームピークサーチを基本とし、Coarseグリッドに基づくビームピークサーチで測定されたビームを電力幅ΔPw低い領域までマージンをとってピーク電力候補を選出する機能を有するとともに、試験用信号の出力レベルのノンリニア制御による受信感度試験機能を有する点において第1の実施形態に係る測定装置1と共通している。これを実現すべく、本実施形態に係る測定装置1Aは、その基本構成が、第1の実施形態に係る測定装置1と同等(
図3参照)のものとなっている。
【0150】
本実施形態に係る測定装置1Aが第1の実施形態に係る測定装置1と異なる点は、Coarse & fine grid測定に適用するグリッドタイプとして、Constant Densityタイプを採用している点にある。
【0151】
具体的に言及すると、Coarseグリットは、例えば、
図5(a)に示す球座標系を前提として、
図17に示す態様での測定ポジションPSの配置を規定するものである。DUT走査制御部16は、このCoarseグリットを用いて、例えば、
図18のグラフに示すように、ロール方向とアジマス方向とに所定の密度の離間間隔の測定ポジションPSaを経由した回転制御(第1の回転制御)を実現している。
【0152】
これに対し、Fineグリットは、例えば、
図19に示すようなより高い密度で配置される測定ポジションPSの配置を規定するものである。DUT走査制御部16は、このFineグリットを用いて、ロール方向とアジマス方向とにCoarseグリットに比べてより細かい密度で配置される測定ポジションPSbを経由した回転駆動をさらに実現可能としている。なお、
図19において、大きな白丸はCoarseグリットに対応する測定ポジションPSaを表し、網掛けの小さな丸がFineグリットに対応する測定ポジションPSbを表している。
【0153】
本実施形態に係る測定装置1Aは、第1の実施形態に係る測定装置1と同様、
図8に示すフローチャートに沿ったビームピークサーチ制御を実行可能である。すなわち、測定装置1Aでは、
図8に示すフローチャートに沿って、まず、Coarseグリットに基づく各方位でのEIS測定(第1のEIS測定)を実施し(ステップS3参照)、その後、ピーク電力候補の選定(ステップS4参照)を経てFineグリットに基づく特定範囲内の各方位でのEIS測定(第2のEIS測定)が実施する(ステップS5参照)。
【0154】
第1のEIS測定及び第2のEIS測定のいずれの場合も、事前にDUT100の受信感度試験が実施される(ステップS3、S5参照)。受信感度試験の試験結果に基づいてそれぞれのEIS値が求められるようになっている。
【0155】
Coarseグリットに対応する方位ごとの第1のEIS測定が行われた後、該第1のEIS測定に係る受信感度試験によって測定されたDUT100からの無線信号の受信電力のなかからピーク電力候補となる方位が幾つか選出され(ステップS4参照)、さらにそのピーク電力候補の中から、Fineグリットに対応する方位ごとの第2のEIS測定に係る受信感度試験によって測定された受信電力のうちの最大の受信電力、及び該最大の受信電力に対応する方位がビームピークとして検出(測定)される(ステップS6)。
【0156】
本実施形態に係る測定装置1Bは、グリッドタイプ(Constant Densityタイプ)が第1の実施形態に係る測定装置1Aとは異なるものの、Coarse & fine grid測定を基本とするビームピークサーチを行うのに加えて、試験用信号の出力レベルをノンリニアに制御することにより受信感度試験回数を低減する制御機能については第1の実施形態に係る測定装置1Aと同じである。これにより、本実施形態に係る測定装置1Bは、第1の実施形態に係る測定装置1Aと同様の作用効果を得ることができる。
【0157】
本実施形態に係る測定装置1における測定時間の短縮効果について
図20を参照して説明する。本実施形態に係る測定装置1においては、
図20に示す表図中のCoarse & Fine Peak Searchの欄に記載されるように、Constant DensityタイプのCoarseグリッド及びFineグリッドを用いたCoarse & fine grid測定によるビームピークサーチと、受信感度試験における試験用信号の出力レベルのノンリニア制御との併用によって、試験用信号の出力レベルをリニアに制御していたときには1日を超える時間を要していたものが、5時間にまで短縮されることが確認された。また、
図20に示す表図中のDefault Peak Searchの欄に記載されるように、この種のCoarse & fine grid測定を採用しない従来装置にあっては、試験用信号の出力レベルをリニアに制御していたときには2日を超える時間を要し、これをノンリニアの制御に切り替えたとしても、9時間まで時間短縮するのに留まることが合わせて確認された。
【0158】
(第3の実施形態)
図21は、本発明の第3の実施形態に係る測定装置1Bの統合制御装置10Bとその被制御要素の機能構成を示すブロック図である。統合制御装置10Bにおいて、第1の実施形態に係る測定装置1の統合制御装置10(
図3参照)と同一の機能を有するものには同一の符号を付している。統合制御装置10Bにおいて、制御部11Bは、第1の実施形態、及び第2の実施形態に係る受信感度試験制御部18に代えて受信感度試験制御部18-1を有する点で第1の実施形態に係る制御部11とは異なり、他の部分は制御部11と同様の構成である。受信感度試験制御部18-1は、本発明の受信感度試験実行手段を構成する。
【0159】
測定装置1Bにおいて、制御部11Bは、第1の実施形態、第2の実施形態に係る制御部11と同様のピーク電力測定制御部19を有し、第1の実施形態に係る測定装置1、または第2の実施形態に係る測定装置1Bと同等のビームピークサーチ制御を実行可能な構成となっている。
【0160】
また、本実施形態に係る測定装置1Bは、統合制御装置10Bの制御部11Bに受信感度試験制御部18-1を設けた構成により、第1の実施形態に係る測定装置1、または第2の実施形態に係る測定装置1Bとは異なる受信感度試験を実施可能である。以下、本実施形態に係る測定装置1Bの受信感度試験のための構成及び制御動作について説明する。
【0161】
本実施形態に係る測定装置1Bにおいて、受信感度試験制御部18-1は、
図21に示すように、試験条件設定部18a、スループット測定部18b、出力レベル可変設定部18d1、測定結果出力部18eを有している。出力レベル可変設定部18d1は、本発明の出力レベル設定手段を構成している。
【0162】
試験条件設定部18aは、受信感度試験の試験条件を設定する機能部である。本実施形態において、試験条件設定部18aが設定する試験条件として、初期ステップレベル(initial step level)SL0、スタート出力レベル(Starting output level)OL0、エラートレランスレベルEL(Error tolerance of boundary level)、接続断判定用閾値DT(Connection drop threshold)などが挙げられる。初期ステップレベルSL0は受信感度試験に際してステップ的に変動させる試験用信号の出力レベルのステップ変動幅の初期値を示す。スタート出力レベルOL0は、受信感度試験を開始する際のDUT100の出力レベル(1回目の送受信の際の出力レベル)を示す。エラートレランスレベルELは、受信感度試験を次回も継続して行うか否かを判定するための所定の試験用信号の出力レベルを示す。DTは、この値よりも値を下げてしまうと呼接続の切断をきたす(Call Dropしてしまう)という、底の値の設定値である。
図21におけるアルゴリズムでは、大きなステップで出力レベルを下げていくので、これ以上行くとCall Dropしてしまうから下げない、という閾値が必要になる。この値は、ユーザが事前に設定することが可能である。
【0163】
スループット測定部18bは、受信感度試験ごとにDUT100の受信能力に関するスループットを測定する機能部である。本実施形態において、スループット測定部18bは、例えば、試験用信号の送信に合わせてその伝送レートもDUT100に送信し、その後、DUT100が試験用信号の受信結果(受信伝送レート)をNRシステムシミュレータ20側に報知してくるのに合わせ当該受信伝送レートからスループットを測定する構成であってもよい。
【0164】
出力レベル可変設定部18d1は、スループット測定部18bによるスループットの測定結果と予め設定された所定の閾値(スループット閾値)との比較結果に応じて、次回の前記受信感度試験における試験用信号の出力レベルを上昇または下降方向に、かつ、前後する回数の受信感度試験間での試験用信号の出力レベルが異なるように可変設定する機能部である。
【0165】
測定結果出力部18eは、可変設定後の出力レベルを有する試験用信号による今回の受信感度試験の試験結果(スループットの測定結果)と前回の受信感度試験の試験結果間の試験結果変動幅が試験条件設定部18aにより設定された変動幅(EL)の範囲を超えているときには次回の受信感度試験(スループット測定)に進み、試験結果変動幅が変動幅(EL)内となったときには当該試験結果を出力する機能部である。
【0166】
以下、本実施形態に係る測定装置1Bの統合制御装置10BによるDUT100の受信感度試験に係る試験用信号の出力レベル可設定制御動作について
図22に示すフローチャートを参照して説明する。
【0167】
DUT100の受信感度試験を開始するにはまず、統合制御装置10Bの制御部11Bにおける受信感度試験制御部18-1によって試験条件の設定を行う(ステップS41)。具体的に、試験条件設定部18aは、操作部12での操作入力を受け付けることにより、例えば、上述した初期ステップレベルSL0、スタート出力レベルOL0、エラートレランスレベルEL、接続断判定閾値DTのそれぞれの値を設定する。
【0168】
ステップS41における設定内容は、DUT100がスタート出力レベルOL0で動作している状態から1回目のスループットの測定を開始し、次回以降は前回の出力レベルから変動幅を初期ステップレベルの幅だけ低下させた出力レベルでスループットを測定していき、測定されたスループットが閾値(スループット閾値)より大きい場合は試験用信号の出力レベルを下げていく処理(出力レベルダウン処理(A)、(B)参照)と、スループットがスループット閾値以上の場合には試験用信号の出力レベルを上げていく処理(出力レベルアップ処理(A)、(B)参照)と、を繰り返し実施しながら、n回目の測定で試験用信号のステップレベルSL(n)がエラートレランスレベルEL以下となった状態を判定して測定を終了させる運用を想定したものである。
【0169】
スタート出力レベルOL0、初期ステップレベルSL0としては、それぞれ、例えば、-60dBm、20dBを想定している。エラートレランスレベルELは、例えば、1.0dBを想定している。接続断判定閾値DTは、例えば、-90dBmを想定している。
【0170】
ステップS41での試験条件の設定が完了した後、統合制御装置10Bの受信感度試験制御部18-1は、測定回数nを+1インクリメントしたうえで(ステップS42)、N回目の測定に係るパラメータの設定、及びそれ以前に例えばステップS47(ステップS47a、S47b、S47cを含む)やステップS48(ステップS48a、S48b、S48cを含む)で設定された出力レベルOLの値などの読み込む処理を行う(ステップS43)。引き続き、受信感度試験制御部18-1は、ステップS43で設定された測定に係るパラメータに基づいて試験用信号を送信させつつDUT100のスループットに関するn回目の測定を行うように制御する(ステップS44)。
【0171】
ステップS43、S44の制御(スループット測定制御)の具体例として、受信感度試験制御部18-1は、1回目の測定に関するパラメータとしては、ステップS41での試験条件の設定に基づいて、例えば、スタート出力レベルOL0を設定し、DUT100をスタート出力レベルOL0で駆動制御させつつスループット測定を実施する(ステップS44)。
【0172】
次いで受信感度試験制御部18-1は、今回のスループット測定に係る前の回(前回)のスループット測定のときに対するステップレベルの間隔、すなわち、ステップレベルSL(n)がステップS41で設定されたエラートレランスレベルELよりも大きいかをチェックする(ステップS46)。ここでステップレベルSL(n)がエラートレランスレベルELよりも大きいと判定された場合(ステップS46でYES)、受信感度試験制御部18-1は、ステップS47へ移行し、スループット測定及びステップレベルのサーチ制御を続行する。なお、1回目のスループット測定に際しては、上述したようにスタート出力レベルOL0の試験用信号の送信から開始されており、前回の測定に対するSLの変化幅を有しないため、ステップS46の処理がスルーされてステップS47へと進む。
【0173】
ステップS47において、受信感度試験制御部18-1は、ステップS44で測定したDUT110のスループットと予め設定したスループット閾値(Throughput threshold)とを比較し、スループットがスループット閾値以上か否かを判定する。ここではスループット閾値を95%とし、スループットが95%以上は許容範囲内(PASS)、95%を下回った場合を許容範囲外(FAIL)とする。
【0174】
ここで、スループットがスループット閾値以上であると判定されると(ステップS47で「PASS」の状態)、受信感度試験制御部18-1は、DUT100の出力レベルを段階的に下げていく処理を実行する(ステップS47)。
【0175】
ステップS47において、受信感度試験制御部18-1はまず、FAIL前であるか否かを判定する(ステップS47a)。ここでFAIL前であると判定された場合(ステップS47aでYES)、受信感度試験制御部18-1は、OLレベル(出力レベル)ダウン処理(A)を実行する(ステップS47b)。OLレベルダウン処理(A)では、
図23(a)に示すように、次の回の出力レベルOL(n+1)を前の回のOL(OL(n)から初期ステップレベルSL0のステップで出力レベルを下げる処理(ステップS47b1)を実行する。なお、1回目の出力レベルOL(1)としては、OL(1)=OL0が設定される。
【0176】
また、ステップS47において、以前にFAILであると判定された後の場合(ステップS47aでNO)、受信感度試験制御部18-1は、OLレベルダウン処理(B)を実行する(ステップS47c)。OLレベルダウン処理(B)では、
図23(b)に示すように、次回のスループット測定で用いる出力レベルOL(n+1)を前の回のOL(n)から前の回のステップレベルSL(n)の1/2(半分)のステップ(1/2・SL(n))で出力レベルを下げる処理(ステップS47c1)を実行する。
【0177】
なお、OLレベルダウン処理(A)(ステップS47b)、及びOLレベルダウン処理(B)(ステップS47c)では、接続断判定閾値DTの判定結果に応じて、次のステップにその値を採用してよいかどうかを判定する処理を合わせ実行する。
【0178】
ステップS47b、またはステップS47cの後、受信感度試験制御部18-1は、測定回数nを+1インクリメントしたうえで(ステップS42)、n回目の測定に係るパラメータの設定及び読み込みを実施する(ステップS43)。これにより、ステップS47bの後には、測定回数nが増えるごとに順次半減するステップレベルが設定されるとともに、ステップS47cの後には、測定回数Nが増えるごとに設定された出力レベルを有する試験用信号に基づくスループットの測定がn回順繰りに実施される。
【0179】
一方、上記ステップS46でスループット(測定値)がスループット閾値以下であると判定されると(ステップS46で「FAIL」の状態)、受信感度試験制御部18-1は、試験用信号の出力レベルを上げていく処理を実行する(ステップS48)。
【0180】
ステップS48において、受信感度試験制御部18-1はまず、前回もFAILであったか否かを判定する(ステップS48a)。ここで前回もFAILであったと判定された場合(ステップS48aでYES)、受信感度試験制御部18-1は、OLレベルアップ処理(A)を実行する(ステップS48b)。OLレベルアップ処理(A)では、
図24(a)に示すように、前の回のOL(n)に対してステップレベルSL0のステップで出力レベルを上げる処理(ステップS48b1)を実行する。例えば、開始時の出力レベルがFAILであった場合には、PASSになるまでOLレベルアップ処理(A)行う。
【0181】
また、ステップS48において、前回はFAILでなかったと判定された場合(ステップS48aでNO)受信感度試験制御部18-1は、OLレベルアップ処理(B)を実行する(ステップS48c)。OLレベルアップ処理(B)では、
図24(b)に示すように、前回の出力レベルOL(n)に前回のステップレベルSL(n)の半分の値を増加させる処理を実行する(ステップS48c1)。
【0182】
ステップS48b、またはステップS48cの実行後、受信感度試験制御部18-1は、測定回数nを+1インクリメントしたうえで(ステップS42)、n回目の測定に係るパラメータの設定及び読み込みを実施する(ステップS43)。これにより、ステップS48b、あるいはステップS48cの後には、測定回数nが増えるごとに設定された出力レベルを有する試験用信号に基づくスループットの測定がn回順繰りに実施される。
【0183】
ステップS44でのn回目のスループットの測定を実行した後、この回のDUT100のスループット測定に係るステップレベルSL(n)がステップS1で設定されたエラートレランスレベルELよりも大きいかをチェックする(ステップS46)。ここでステップレベルSL(n)がエラートレランスレベルEL以下であると判定された場合(ステップS46でNO)、受信感度試験制御部18-1は、スループット測定及びステップレベルのサーチを停止し(ステップS49)、その後、一連の測定動作を終了する。測定動作を終了したときのスループット測定回数をN回として、1回目からN回目までのPASSと判定された出力レベルの値のうち、最も低い値を最小受信感度の測定結果として表示部13に表示する。あるいは、PASSと判定された出力レベルのうちの最後の値を受信感度としてもよい。
【0184】
図22に示した一連の測定制御によれば、DUT100に対してはN回のスループット測定が行われ、測定回数が増えるとステップレベルSL(n)が小さくなっていき、当該ステップレベルSL(n)が予め設定したエラートレランスレベルEL以下に収束したときに測定が終了する。また、出力レベルの変動方向については、受信感度試験の試験結果が所定の閾値(スループット閾値)を上回っている間は下げる方向に向けて一方向に推移し、試験結果がスループット閾値を下回った後は上がる方向と下がる方向の双方向に推移するようになっている。
【0185】
図25は、本実施形態に係る測定装置1による
図22に示すフローチャートに基づく出力レベル可設定制御により測定回数に応じて設定される可変試験用信号の出力レベルと関連パラメータのデータ例を示している。
図25の例においては、例えば全部で7回の測定回数のそれぞれに対応して、その回の試験用信号の出力レベル、測定されたスループット、前回の測定と今回の測定間の出力レベルの変動幅、次の回の出力レベルの設定処理種別、次の回の試験用信号の出力レベルとの関係が示されている。
【0186】
図26は、本実施形態に係る測定装置1によるDUT100の受信感度試験に係る測定回数対試験用信号の出力レベルの特性C1を示す図である。特性C1は、特に、
図25に示すデータ例に基づくものである。すなわち、
図26において、特性C1は、P1~P7の符号で示す全部で7回のスループット測定(出力レベル可変設定)が行われて受信感度試験が終了した例を挙げている。より具体的に言及すると、この特性C1は、初期ステップレベルSL0=-20dB(SL(1)=SL0)、スタート出力レベルOL0=-60dB(OL(1)=OL0)、DTを-90dB、エラートレランスレベルEL=1.0dBに設定する。1回目はDUT100を出力レベルOL(1)=-60dBとして試験を開始し、このとき測定されたスループットはスループット閾値よりも高い値となって許容範囲内(PASS)の判定であったため、次の2回目の出力レベルOL(2)はレベルダウン処理(A)により、-80dBとなる。
【0187】
2回目のスループット測定は、DUT100の出力レベル-80dBに対して、スループットの値がPASSの判定であったため、次の出力レベルはレベルダウン処理(A)により設定する。ここで-100dBの値を算出するが、出力レベルの設定値が接続断判定閾値DTの値以下の場合には、接続断判定閾値DTの値を設定する。したがって、次の3回目の出力レベルOL(3)は-90dBとなる。
【0188】
3回目のスループット測定は、DUT100の出力レベル-90dBに対して、スループットの値がスループット閾値以下となって許容範囲外(FAIL)の判定であったため、次の出力レベルはレベルアップ処理(B)により設定する。2回目と3回目の出力レベルの変動幅10dBをSL(3)として、その半分の値5dBを3回目の出力レベルに加えた-85dBを次の4回目の出力レベルOL(4)とする。
【0189】
4回目のスループット測定は、DUT100の出力レベル-85dBに対して、スループットの値が許容範囲内であるPASSの判定であった。3回目のスループット測定で既にFAIL判定がされているので、次の出力レベルはレベルダウン処理(B)により設定する。3回目と4回目の出力レベルの変動幅5dBをSL(4)として、その半分の値を4回目の出力レベルから引いた-87.5dBを次の5回目の出力レベルOL(5)とする。
【0190】
5回目のスループット測定は、DUT100の出力レベル-87.5dBに対して、スループットの値がPASSの判定であった。3回目のスループット測定で既にFAIL判定がされているので、次の出力レベルはレベルダウン処理(B)により設定する。4回目と5回目の出力レベルの変動幅をSL(5)として、その半分の値を5回目の出力レベルから引いた-88.7dBを次の6回目の出力レベルOL(6)とする。
【0191】
6回目のスループット測定は、DUT100の出力レベル-88.7dBに対して、スループットの値がFAILの判定であった。前回の5回目のスループット測定はPASS判定であったため、次の出力レベルはレベルアップ処理(B)により設定する。5回目と6回目の出力レベルの変動幅をSL(6)として、その半分の値を5回目の出力レベルの加えた-88.1dBを次の7回目の出力レベルOL(7)とする。
【0192】
7回目のスループット測定は、DUT100の出力レベル-88.1dBに対して、スループットの値がFAILの判定であった。ここで前の回である6回目の出力レベルとの変動幅が0.6dBとなり、エラートレランスレベルEL(=1.0dB)の範囲内になったことにより測定を終了した。
【0193】
図26には、DUT100の出力レベルを等間隔のステップでリニアに変動させて実施する従来の受信感度試験の試験結果の特性C2も合わせ開示している。特性C2によれば、従来の受信感度試験においては50数回のステップを必要としていた。これに対して、本実施形態に係る測定装置1Bでは、特性C1に示すように、DUT100の受信感度試験を7回のステップのみで終えることができ、測定時間の大幅な短縮が可能となっている。
【0194】
また、
図26に示す特性C1は、本実施形態に係る測定装置1BでのDUT100の受信感度試験の制御動作に関する以下の特徴を反映している。すなわち、
図22において、DUT100の受信感度試験の開始時(試験用信号の送受信の開始時)の試験用信号の出力レベルをOL(1)、7回目の送受信の終了時の試験用信号の出力レベルをOL(7)として、スループットの測定結果が所定の閾値を下回りFAILと判定された時点を3回目とした場合に、FAILと判定された時点の次の4回目以降の試験用信号の出力レベルの変動幅を減少させながらレベルアップ処理、レベルダウン処理を繰り返してスループット測定を繰り返し、7回目の出力レベルの変動幅SL(7)が所定の閾値を下回ったときに測定を終了していることを示している。
【0195】
図27は、本実施形態に係る測定装置1BによるDUT100の受信感度試験結果の表示例を示す図である。
図22に示すフローチャートに沿ったDUT100の受信感度試験動作制御中、統合制御装置10Bの表示部13には、例えば、
図27に示す画面構成を有するにおけるメイン画面130bが表示されている。メイン画面130bは、DUT100のスループット(受信感度)の測定結果を測定回数に対応して表示する試験結果表示領域131bが設けられている。本実施形態に係る測定装置1Bによれば、表示部13に表示されるメイン画面130b上の試験結果表示領域131bには、例えば
図26に示す7回のスループット測定の測定結果が、図中上から下方向への時間経過に合わせて時間順に配列された態様で表示されている。ここで、メイン画面130b上の試験結果表示領域131bに対するDUT100の受信感度測定結果の表示態様については、
図26に示す特性C1のステップレベルSLの変動を伴う7回に亘るスループット測定結果(
図25、
図26参照)が表示されている。
【0196】
本実施形態に係る測定装置1BによるDUT100の受信感度試験結果の表示例と比較する意味で、従来装置におけるDUT100の受信感度試験結果の表示例を
図28に示している。
図28に示すように、従来装置においては、DUT100の受信感度試験動作制御中、表示部に表示されるメイン画面130b上には試験結果表示領域131bが設けられ、当該試験結果表示領域131bには、
図26に示す特性C2のステップレベルSLのリニアな変動を伴う50数回に及ぶスループット測定結果が時間順に配列されて表示されている。
【0197】
従来装置でのDUT100の受信感度試験結果の表示例(
図28参照)と、本実施形態に係る測定装置1BによるDUT100の受信感度試験結果の表示例(
図27参照)を比較すると、本実施形態に係る測定装置1Bの方が、限られた試験結果表示領域131bを利用し、少ないスループット測定結果全てを一括に表示可能であることを理解することができる。
【0198】
このように、本実施形態に係る測定装置1Bにおいて、受信感度試験制御部18-1は、送受信を次回も行うか否かを判定するための所定の試験用信号の出力レベルの変動幅(エラートレランスレベルEL)を設定する試験条件設定部18aと、送受信ごとにDUT100の受信能力に関するスループットを測定するスループット測定部18bと、スループットの測定結果と予め設定された所定の閾値との比較結果に応じて、試験用信号の出力レベルを前の回よりも異なるように設定する出力レベル可変設定部18d1と、前の回との出力レベルとの変動幅が試験条件設定部18aにより設定されたエラートレランスレベルELの範囲を超えているときには送受信を続行し、前の回との出力レベルとの変動幅がエラートレランスレベルELの範囲内となったときには当該試験結果を出力する測定結果出力部18eと、を有する構成である。
【0199】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1Bは、スループットの測定結果に応じて試験用信号の出力レベルをダウンまたはアップさせて前の回とは異なるように設定することで、試験用信号の出力レベルをリニアに変化させる場合に比べて送受信の実行回数を大幅に低減でき、試験用信号の出力レベルを短時間で目的とするレベルに設定し、移動端末の受信感度試験を効率よく実行可能となる。
【0200】
また、本実施形態に係る測定装置1Bにおいて、出力レベル可変設定部18d1は、送受信の開始時の試験用信号の信号レベルをOL(1)、N回目の送受信の終了時の試験用信号の信号レベルをOL(N)として、スループットの測定結果が所定の閾値を下回りFAILと判定された時点の後では、試験用信号の出力レベルの変動幅を減少させながらレベルアップ処理を行うようにしている。
【0201】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1Bは、スループットの測定結果が所定の閾値を下回りFAILと判定された時点までは出力レベルを下げる処理を行い、その後に出力レベルを上げる処理を行う。出力レベルを上げる場合は、前の回よりも小さくなるように制御することで、DUT100の受信感度試験時間をより効率的に短縮することができる。また、再びスループットの測定結果が所定の閾値の範囲内となりPASSと判定された場合には、出力レベルを下げる処理を行い、その後に出力レベルの変動幅がより小さくなるようにする制御を併用することによってさらなる効率化が図れる。
【0202】
(第4の実施形態)
図29は、本発明の第4の実施形態に係る測定装置1Cの統合制御装置10Cとその被制御要素の機能構成を示すブロック図である。統合制御装置10Cにおいて、第1の実施形態に係る測定装置1の統合制御装置10(
図3参照)と同一の機能を有するものには同一の符号を付している。統合制御装置10Cにおいて、制御部11Cは、第1の実施形態に係る受信感度試験制御部18に代えて受信感度試験制御部18-2を有する点で第1の実施形態に係る制御部11とは異なり、他の部分は制御部11と同様の構成である。受信感度試験制御部18-2は、本発明の受信感度試験実行手段を構成する。
【0203】
本実施形態に係る測定装置1Cにおいて、制御部11Cは、第1~第3の各実施形態と同様のピーク電力測定制御部19を有し、第1~第3の各実施形態に係る測定装置1、1A、1Bと同等のビームピークサーチ制御を実行可能な構成となっている。
【0204】
また、本実施形態に係る測定装置1Cは、統合制御装置10Cの制御部11Cに受信感度試験制御部18-2を設けた構成により、第1~第3の各実施形態に係る測定装置1、1A、1Bとは異なる受信感度試験を実施可能である。以下、本実施形態に係る測定装置1Cの受信感度試験のための構成及び制御動作について説明する。
【0205】
本実施形態に係る測定装置1Cにおいて、受信感度試験制御部18-2は、
図29に示すように、試験条件設定部18a1、スループット測定部18b、低下状態判定部18c、出力レベル可変設定部18d2、測定結果出力部18eを有している。低下状態判定部18c、出力レベル可変設定部18d2は、それぞれ、本発明の低下判定手段、出力レベル設定手段を構成している。
【0206】
スループット測定部18b、測定結果出力部18eは、それぞれ、第3の実施形態に係るものと同等のものである。
【0207】
試験条件設定部18a1は、受信感度試験の試験条件を設定する機能部であり、第3の実施形態に係る試験条件設定部18aと同等の設定機能を備えている。加えて試験条件設定部18a1は、本実施形態に係る特有の設定機能として、後述するチェックポイント(Check Point:CP)において、スループットの測定結果が急峻に低下する特性(
図36参照)に関する急峻低下領域内の予め設定した割合まで低下した状態であるか否かを判定するために用いる判定条件を設定する機能をさらに有している。
【0208】
低下状態判定部18cは、スループット測定部18bによるスループットの測定結果が急峻に低下する特性(
図36参照)に関する急峻低下領域内の予め設定した割合まで低下した状態であるか否かを判定する機能を有する。この機能を実現するために、スループットの測定結果が急峻低下領域内のある割合まで低下した状態であるか否かを判定するための判定条件が、例えば、試験条件設定部18a1によって予め設定されている。低下状態判定部18cは、測定されたスループットが判定条件によって示される急峻低下領域内にあるか否かに応じて低下した状態であるか否かを判定するようになっている。低下した状態であるか否かを判定する判定条件としては、例えば、1回目の試験信号の送受信によりスループット測定部18bにより測定されたスループットの値を100%とするときに、95%を超えて99%以下の範囲を設定する例が挙げられる。これにより、測定されたスループットが設定した範囲内にあるときに低下した状態であると判定することができ、上記範囲よりも高い割合である場合には低下した状態ではないと判定することができる。ここで上記判定条件は、前述の如く1回目の試験信号の送受信により測定されたスループットの値を100%(基準値)とし、該基準値に対して95%を超えて99%以下の割合の範囲とするのに限らず、基準値に対する他の割合範囲を設定するようにしてもよい。
【0209】
出力レベル可変設定部18d2は、試験用信号の出力レベルを可変設定する機能部であり、第3の実施形態に係る出力レベル可変設定部18d1と同等の設定機能を備えている。さらに出力レベル可変設定部18d2は、スループットの測定結果が閾値を超えているとの比較結果が得られたときには、低下状態判定部18cによるスループットが急峻に低下する急峻低下領域内の予め設定した割合まで低下した状態であるか否かの判定結果に応じて試験用信号の出力レベルを可変設定する機能を有している。
【0210】
以下、本実施形態に係る測定装置1Cの統合制御装置10CによるDUT100の受信感度試験に係る試験用信号の出力レベル可設定制御動作について
図30に示すフローチャートを参照して説明する。
【0211】
DUT100の受信感度試験を開始するにはまず、統合制御装置10Cの制御部11Cにおける受信感度試験制御部18-2によって試験条件の設定を行う(ステップS51)。具体的に、試験条件設定部18a1は、操作部12での操作入力を受け付けることにより、例えば、上述した初期ステップレベルSL0、スタート出力レベルOL0、エラートレランスレベルEL、接続断判定閾値DTのそれぞれの値を設定する。
【0212】
次に、本実施形態に係る測定装置1Cにおける受信感度試験の時間短縮手法について説明する。
(受信感度試験の時間短縮手法について)
統合制御装置10Cにおいて、受信感度試験制御部18-2は、信号発生器であるNRシステムシミュレータ20とDUT100との間で試験用信号を複数回送受信することによりDUT100の受信感度試験の制御を実施する。この制御においては、受信感度試験中の各回の試験用信号の送受信に合わせてスループットが測定され、該スループットの測定値とスループット閾値との比較結果に応じて試験用信号の出力レベルをレベルダウン、若しくはレベルアップさせていきながら、適宜なスループットの値(測定結果)が得られる出力レベルに収束させていくようになっている。
【0213】
このような受信感度試験の試験時間を短縮する方法の一例としては、初回に設定した出力レベルから測定回数が増えるごとに順次一定レベルずつ変化(リニアに変化)させていく(
図28の試験結果表示領域151a参照)のではなく、試験用信号の出力レベルに関してレベルダウン、若しくはレベルアップを繰り返し実行しながら、該出力レベルをノンリニアに変動させるように制御する方法が考えられる。
【0214】
本実施形態に係る測定装置1Cは、DUT100の受信感度試験に係る試験用信号の出力レベルをノンリニアに制御することが前提であり、その制御に係る測定回数と試験用信号の出力レベル及びスループットのそれぞれの測定値との関係を
図33の表図、及び
図34のグラフとして示している。
【0215】
図33に示す表図において、左から1、3~5列目には本実施形態に係る試験用信号の出力レベル制御のデータ例を示している。また、この表図において、左から1、2列目には本実施形態と比較する意味での既存の試験用信号の出力レベル制御のデータ例を示している。同様に、
図34に示すグラフでは、
図32における本実施形態に係る試験用信号の出力レベル制御のデータ例に対応するグラフを符号C1(測定回数と出力レベルの関係を示すグラフ)、符号C2(測定回数とスループットの関係を示すグラフ)で示し、
図32における既存の試験用信号の出力レベル制御のデータ例に対応するグラフを符号C3(測定回数と出力レベルの関係を示すグラフ)で示している。
【0216】
図33に示す表図の左から1、2列目のデータ例と、
図34に示すグラフの特性C13に着目すると、既存の試験用信号の出力レベル制御においては、例えば、1回目から3回目までは試験用信号の出力レベルを測定1回ごとに10dB間隔で順次下げていき、4回目以降は、それぞれ、出力レベルを前の回の半分のレベルに順次上げる、または下げるパターンでのレベル可変制御が行われている。そして、前回との出力レベル差が予め設定したエラートレランスレベルELより小さくなる試験終了条件(
図30のステップS55参照)を満足するまで、試験回数として図中P31~P39で示す合計9回のステップ数を費やすようになっている。このことは、上述した試験終了条件を満たすようになるまで、単に、スループットの測定結果とスループット閾値を比較し、その比較結果だけで試験用信号の出力レベルをノンリニアに制御するだけでは、所望の出力レベルを達成するまでの時間の時間短縮効果には限界があることを明示している。
【0217】
(受信感度試験において新た採用するパラメータ)
そこで本実施形態では、受信感度試験に採用するパラメータとして、スループットの測定結果とスループット閾値との比較結果に加え、該測定されたスループットの値が基準として定めた値(100パーセント)に対してどの割合まで低下した状態にあるかをさらに加味してから出力レベルの可変設定を実施することで受信感度試験の測定回数を低減するようにしている。
【0218】
従来装置のDUTの受信感度試験に係るスループットの測定値の試験用信号の出力レベルに対する変動特性のグラフを
図36に示している。
図36にグラフによって示す変動特性は、
図30に示す出力レベル可変設定制御において、チェックポイント(Check Point:CP)として導入するステップS57でのスループット測定値の低下状態判定条件を採用する根拠となるものである。
図36において、符号a1はスループットの急峻に低下する急峻低下領域を示している。
図36に示すグラフは、従来装置におけるDUT100の受信感度試験結果(
図28参照)から導き出されたものであり、急峻低下領域a1においてはスループットの測定値が急峻に低下することを表している。この例では、例えば、1回目のスループットの測定値を100%とするときに、スループットの測定値が99%以下になると、その後のスループットの測定値は急峻に低下することを表している。
【0219】
このようなスループットの変動特性に鑑み、本実施形態では、DUT100の受信感度試験中のスループット測定値を監視し、スループット測定値が急峻に低下する状況にあるか否かを予め設定した判定条件を用いてチェックするチェックポイント(CP)を設けている。そして、このCP(
図30のステップS57に相当する)において上記判定条件を満たしている場合、つまりスループットの測定値が急峻低下領域a1内の値であるときには、次の回の試験用信号の出力レベルの設定(同、ステップS58b参照)において、スループット測定値が急峻に低下する状況下での設定パターン(同、ステップS58a参照)とは異なる特有の設定パターンを適用するようにしている。
【0220】
本実施形態で適用する特有の設定パターンは、スループットの測定値が
図36のグラフにおける急峻低下領域a1内の値まで低下した状態にあっては、受信感度試験に係る試験用信号の送受信の回数を極力低減し、エラートレランスレベルELによる受信感度試験の終了条件(
図30のステップS55参照)にいち早く到達し得るような設定パターンであることが条件となる。
【0221】
本実施形態では、上述した特有の設定パターンの一例として、CPにおいて上記判定条件を満たしている場合(
図30のステップS57でYES)には、前の回の出力レベルOL(OLpre)からエラートレランスレベルELの2倍の値(2EL)をレベルダウンさせた値を次の回の試験用信号の出力レベルOL(OL(n))として設定するパターン(同、ステップS58b参照)を採用している。
【0222】
この特有の設定パターンに基づく出力レベルの設定は、スループットの測定結果が閾値を超えているとの比較結果が得られ、かつ、該スループットの測定結果(測定値)が急峻低下領域a1内の値であるときの例である。この特有の設定パターンに基づく出力レベルの設定に関連して、本実施形態では、その後、スループットの測定結果が閾値より小さいとの比較結果が得られたときには、前の回の出力レベルOL(OLpre)からエラートレランスレベルELの値をレベルアップさせた値を次の回の試験用信号の出力レベルOL(OL(n))として設定するパターン(
図31(b)参照)も併用するようになっている。
【0223】
以上に述べたDUT100の受信感度試験の時間短縮手法、該受信感度試験において新たに加味するパラメータ(スループット測定値の変動特性)を踏まえ、以下、本実施形態に係る測定装置1の統合制御装置10CによるDUT100の受信感度試験に係る試験用信号の出力レベル可変設定制御動作について
図30~
図35を参照して説明する。
【0224】
図30は、上記出力レベル可変設定制御動作の流れを示すフローチャートである。
図30において、ステップS57の処理は、上述したCPに対応するタイミングで実施されるものであり、ステップS54で測定されたスループットが急峻に低下する状態(
図36の急峻低下領域a1参照)にあるか否かを判断するための判定条件として、例えば、スループット測定値が基準値(例えば、1回目の送受信により測定されたスループットの値。1回目の送受信の際には測定されたスループットの値を100%として記憶しておく。)に対して95%を超えて99%以下であるという条件を適用している。また、ステップS58bは、ステップS57で上記判定条件を満足すると判定された場合(ステップS57でYES)に上述した特有の設定パターンを適用して行う次の回の出力レベルの設定処理、すなわちレベルダウン処理(B)に相当している。レベルダウン処理(B)の詳細は、
図31(b)に示されている。
【0225】
また、
図30において、ステップS59aの処理は、試験用信号のレベルアップ処理(
図30のステップS59参照)に際して上述したCPに準じたチェック箇所にて実施されるものであり、ステップS54で測定されたスループットが上述のレベルダウン処理とは別の判定条件を用いて急峻に低下する状態にあるか否かを判断するための処理ステップである。ステップS59aにおいては、急峻に低下する状態にあるか否かを判断するための判定条件として、例えば、スループット測定値が上記基準値に対して80%を超えているという条件を適用している。この判定条件を満たす場合(ステップS9aでYES)には、レベルアップ処理(A)が行われ、この判定条件を満たしていないとき(ステップS59aでNO)には、出力レベル(OL)のレベルアップ処理(B)、またはレベルアップ処理(C)が実施されるようになっている。
【0226】
図30に示すフローチャットに沿ったDUT100の受信感度試験を開始するにはまず、統合制御装置10Cの制御部11Cにおける受信感度試験制御部18-2によって試験条件の設定を行う(ステップS51)。具体的に、試験条件設定部18a1は、操作部12での操作入力を受け付けることにより、例えば、上述した初期ステップレベルSL0、スタート出力レベルOL0、エラートレランスレベルEL、接続断判定閾値DT、スループットの急峻低下領域の判定条件(ステップS57、S59a参照)のそれぞれの値を設定する。
【0227】
ステップS51における試験条件の設定内容は、DUT100がスタート出力レベルOL0で動作している状態から1回目のスループットの測定を開始し、次回以降は前回の出力レベルから変動幅を初期ステップレベルの幅だけ低下させた出力レベルでスループットを測定し、測定されたスループットが閾値(スループット閾値)より大きい場合は試験用信号の出力レベルを下げる処理(出力レベル(OL)ダウン処理(A)、(B)参照)と、スループットがスループット閾値以上の場合には試験用信号の出力レベルを上げる処理(OLレベルアップ処理(A)、(B)、(C))と、を繰り返し実施しながら、n回目の測定で試験用信号のステップレベルSL(n)がエラートレランスレベルEL以下となった状態を判定して測定を終了させる運用を想定したものである。さらにその運用においては、CP(
図30のステップS57参照)を設けてスループット測定値が急峻に低下する状況にあるか否かを予め設定した判定条件を用いてチェックし、ここでスループット測定値が急峻に低下する状況にある場合には、上述した特有の設定パターンを適用して次の回の試験用信号の出力レベルの設定を行う(同、ステップS58b参照)ことが前提となっている。
【0228】
ステップS51で設定するスタート出力レベルOL0、初期ステップレベルSL0としては、それぞれ、例えば、-75dBm、10dBを想定している。エラートレランスレベルELは、例えば、0.2dBを想定している。接続断判定閾値DTは、例えば、-90dBmを想定している。また、スループットの急峻低下領域の判定条件としては、例えば、スループット測定値が上述した基準値に対して95%を超えて99%以下の割合の範囲という条件を想定している。
【0229】
ステップS51での試験条件の設定が完了した後、統合制御装置10Cの受信感度試験制御部18-2は、測定回数nを+1インクリメントしたうえで(ステップS52)、N回目の測定に係るパラメータの設定、及びそれ以前に例えばOLレベルダウン処理を行うステップS58(ステップS58a、S58bを含む)やOLレベルアップ処理を行うステップS59で設定された出力レベルOLの値などの読み込む処理を行う(ステップS53)。引き続き、受信感度試験制御部18-2は、ステップS53で設定された(若しくは、読み取られた)測定に係るパラメータに基づいて試験用信号を送信させつつDUT100のスループットに関するn回目の測定を行うように制御する(ステップS54)。
【0230】
ステップS53、S54の制御(スループット測定制御)の具体例として、受信感度試験制御部18-2は、1回目の測定に関するパラメータとしては、ステップS51での試験条件の設定に基づいて、例えば、スタート出力レベルOL0を設定し、DUT100をスタート出力レベルOL0で駆動制御させつつスループット測定を実施する。
【0231】
次いで受信感度試験制御部18-2は、今回のスループット測定に係る前の回(前回)のスループット測定のときに対するステップレベルの間隔、すなわち、ステップレベルSL(n)がステップS51で設定されたエラートレランスレベルELよりも大きいかをチェックする(ステップS55)。ここでステップレベルSL(n)がエラートレランスレベルELよりも大きいと判定された場合(ステップS55でYES)、受信感度試験制御部18-2は、ステップS56へ移行し、スループット測定及びステップレベルのサーチ制御を続行する。なお、1回目のスループット測定に際しては、上述したようにスタート出力レベルOL0の試験用信号の送信から開始されており、前回の測定に対するSLの変化幅を有しないため、ステップS55の処理がスルーされてステップS56へと進む。
【0232】
ステップS56において、受信感度試験制御部18-2は、ステップS54で測定したDUT110のスループット(測定値)と予め設定したスループット閾値(Throughput threshold)とを比較し、スループットがスループット閾値以上か否かを判定する。ここではスループット閾値を95%とし、スループットが95%以上は許容範囲内(PASS)、95%を下回った場合を許容範囲外(FAIL)とする。
【0233】
ここで、スループットの測定値がスループット閾値以上であると判定されると(ステップS56で「PASS」の状態)、次いで低下状態判定部18cは、スループットの測定値が上記基準値に対して95%を超えて99%以下の割合の範囲という判定条件を満たすか否かを判定する(ステップS57)。ここでスループットの測定値が上記基準値に対して99%を超えており、上記判定条件を満たしていないと判定された場合(ステップS57でNO)、受信感度試験制御部18-2は、試験用信号の出力レベルを下げるOLレベル(出力レベル)ダウン処理(A)を実行する(ステップS58a)。OLレベルダウン処理(A)では、
図31(a)に示すように、次の回の出力レベルOL(n+1)を前の回のOL(OL(n)から初期ステップレベルSL0のステップで出力レベルを下げる処理を実行する。なお、1回目の出力レベルOL(1)としては、OL(1)=OL0が設定される。
【0234】
また、スループットの測定値が上記基準値に対して95%を超えて99%以下の割合の範囲(急峻低下領域a1)内にあり、上記判定条件を満たしていることが低下状態判定部18cにより判定された場合(ステップS57でYES)、受信感度試験制御部18-2は、OLレベルダウン処理(B)を実行する(ステップS58b)。OLレベルダウン処理(B)では、
図31(b)に示すように、前回の出力レベル(OLpre)をPASS判定時における最も小さい出力レベル(LowestPssOL)と定義したうえで、次の回のOLレベル(OL(n))を、前回の出力レベル(OLpre)からエラートレランスレベルELの2倍に相当するレベル(2EL)を下げた値(OLpre-2EL)に設定する処理を実行する。
【0235】
ステップS58a、またはステップS58bの処理を実行した後、受信感度試験制御部18-2は、測定回数nを+1インクリメントしたうえで(ステップS52)、n回目の測定に係るパラメータの設定及び読み込みを実施する(ステップS53)。これにより、ステップS58aの処理後には、前回のOLレベルから初期ステップレベルSL0=10dBだけレベルダウンさせたOLレベルが設定されるとともに、ステップS58bの処理後には、前回のOLレベルから2ELに相当する値をレベルダウンさせたOLレベルが設定され、それぞれ、当該設定されたOLレベルを有する試験用信号に基づくスループットの測定が実施される(ステップS54)。
【0236】
一方、上記ステップS56でスループット(測定値)がスループット閾値以下であると判定されると(ステップS56で「FAIL」の状態)、次いで受信感度試験制御部18-2は、ステップS59aでの判定処理を実行し、さらにその判定結果に基づいて試験用信号の出力レベルを上げるOLレベルアップ処理(A)、(B)、(C)のいずれかを実行する(ステップS59)。
【0237】
ステップS56で「FAIL」と判定された後、受信感度試験制御部18-2はまず、スループットの測定値が上記基準値に対して80%を超えているという判定条件を満たすか否かを判定する(ステップS59a)。
【0238】
ここでスループットの測定値が上記基準値に対して80%を超えており、上記判定条件を満たしていると判定された場合(ステップS59aでYES)、受信感度試験制御部18-2は、試験用信号の出力レベルを下げるOLレベルアップ処理(A)を実行する(ステップS59b)。
【0239】
OLレベルアップ処理(A)では、前回の出力レベル(OLpre)をFAIL判定時における最も小さい出力レベル(LowestFailOL)と定義したうえで、次の回のOLレベル(OL(n))を、前回の出力レベル(OLpre)からエラートレランスレベルELに相当するレベル(EL)を上げた値(OLpre+EL)に設定する処理を実行するようになっている。
【0240】
これに対し、スループットの測定値が上記基準値に対して80%以下で上記判定条件を満たしていないと判定された場合(ステップS59aでNO)、受信感度試験制御部18-2は、これまでに一度でもPASSしたことがあるか否かをチェックする(ステップS59c)。ここで一度でもPASSしたことがあると判定された場合(ステップS59cでYES)、OLレベルアップ処理(B)を実行する(ステップS59b)。OLレベルアップ処理(B)では、次の回の出力レベルOL(n+1)を前の回のOL(OL(n)からステップレベルSLの1/2のステップで出力レベルを上げる処理を実行する。
【0241】
また、一度もPASSしたことがないと判定された場合(ステップS59cでNO)、OLレベルアップ処理(C)を実行する(ステップS59c)。OLレベルアップ処理(C)では、次の回の出力レベルOL(n+1)を前の回の出力レベルOL(OL(n)からステップレベルSL0のステップで出力レベルを上げる処理を実行する。
【0242】
ステップS59の処理、すなわちOLレベルアップ処理(A)、(B)、(C)のいずれかの処理を実行した後、受信感度試験制御部18-2は、測定回数nを+1インクリメントしたうえで(ステップS52)、n回目の測定に係るパラメータの設定及び読み込みを実施する(ステップS53)。これにより、ステップS59の処理後には、前回のOLレベルからエラートレランスレベルELに相当する値をレベルアップさせたOLレベルが設定され、該設定されたOLレベルを有する試験用信号に基づくスループットの測定が実施される(ステップS54)。
【0243】
ステップS54でのスループット測定の実行後、受信感度試験制御部18-2は、今回のスループット測定に係る前回のスループット測定のときに対するステップレベルの間隔、すなわち、ステップレベルSL(n)がステップS51で設定されたエラートレランスレベルELよりも大きいかをチェックする(ステップS55)。ここでステップレベルSL(n)がエラートレランスレベルEL以下であると判定された場合(ステップS55でNO)、受信感度試験制御部18-2は、スループット測定及びステップレベルのサーチを停止し(ステップS60)、その後、一連の測定動作を終了する。
【0244】
ステップS60において、測定結果出力部18eは、測定動作を終了したときのスループット測定回数をN回として、1回目からN回目までのスループット測定結果の変遷を示す情報等、それまでの測定結果を含む測定画面130c(
図37参照)を表示部13に表示する。
【0245】
図30に示した一連の測定制御によれば、CPに当たる処理タイミング(ステップS57参照)でスループットの測定値が基準値に対して95%を超えて99%以下の割合の範囲内という判定条件を満たすか否かを判定し、スループットの測定値が当該判定条件を満たしているときには、ステップS58bに進み、当該判定条件を満たしていないときのステップS58aでの設定パターンには依存しない特有の設定パターンにより前回のOLレベルから2ELに相当する値をレベルダウンさせるレベルダウン処理(B)を実行する。レベルダウン処理(B)は、受信感度試験に係る試験用信号の送受信回数を低減し、エラートレランスレベルELによる受信感度試験の終了条件(ステップS55参照)を満たす状態により少ないスループット測定回数で到達するように作用する。
【0246】
【0247】
図32は、本実施形態に係る測定装置1Cによる出力レベル可変設定制御(
図30参照)により測定回数に応じて設定される試験用信号の出力レベルと関連パラメータのデータ例を示している。
図32の例においては、例えば全部で4回の測定回数のそれぞれに対応して、その回の試験用信号の出力レベル、測定されたスループット、スループット測定値の急峻低下領域の判定条件に基づく判定結果、前回の測定と今回の測定間の出力レベルの変動幅、次の回の出力レベルの設定処理種別、次の回の試験用信号の出力レベルとの関係が示されている。
【0248】
図34には、本実施形態に係る測定装置1CによるDUT100の受信感度試験に係る測定回数と試験用信号の出力レベルに関する特性C11、及び測定回数とスループット(測定値)に関する特性C12が示されている。特性C11、C12は、それぞれ、
図33に示すデータ例(左から1、3~5列目参照)に基づくものである。すなわち、
図34において、特性C11は、符号P11~P14で示す全部で4回のスループット測定(出力レベル可変設定)が行われて受信感度試験が終了した例を挙げている。
【0249】
図34における特性C11、並びに
図32、
図33(左から1、2~3列目参照)に示されるように、本実施形態に係る測定装置1Cでは、1回目は特性C11の測定点P11においてDUT100を出力レベルOL(1)=-75dBmとして試験を開始し、このとき測定されたスループットはスループット閾値よりも高い値となって許容範囲内(PASS)の判定であったため、スループット測定値の急峻低下領域の判定条件に基づく判定処理に移行する。ここで、スループット測定値が急峻低下領域a1の領域外につき当該判定条件を満たしていないとの判定結果(「NO」)が得られ、OLレベルダウン処理(A)(
図10のステップS8a参照)へと進む。
【0250】
OLレベルダウン処理(A)では、出力レベルOL(1)=-75dBmからステップレベルSL(1)としての初期ステップレベルSL0(=-10dB)をレベルダウンさせる設定が実施され、2回目の出力レベルOL(2)として、(OL(1)-SL(1))=-85dBmが設定される。
【0251】
続いて2回目は特性C11の測定点P12においてDUT100を出力レベルOL(2)=-85dBmとして試験を続行し、このとき測定されたスループットはスループット閾値よりも高い値となって許容範囲内(PASS)の判定であったため、スループット測定値の急峻低下領域の判定条件に基づく判定処理に移行する。ここで、スループット測定値が急峻低下領域a1の領域内の値であって当該判定条件を満たしているとの判定結果(「YES」)が得られ、OLレベルダウン処理(B)(
図30のステップS58b、
図31(b)参照)に移行する。
【0252】
OLレベルダウン処理(B)では、出力レベルOL(2)=-85dBmからエラートレランスレベルELの2倍の値である2EL=0.4dBをレベルダウンさせる設定が行われ、3回目の出力レベルOL(3)として、(OL(2)-2EL)=-85.4dBmが設定される。
【0253】
続いて3回目は特性C11の測定点P13においてDUT100を出力レベルOL(3)=-85.4dBmとして試験を続行し、このとき測定されたスループットはスループット閾値よりも低い値となって許容範囲外(FAIL)の判定となったことによりOLレベルアップ処理(A)(
図30のステップS59b参照)に移行する。
【0254】
OLレベルアップ処理(A)では、出力レベルOL(3)=-85.4dBmからエラートレランスレベルELの値である0.2dBをレベルアップさせる設定が行われ、4回目の出力レベルOL(4)として、(OL(3)+EL)=-85.2dBmが設定される。
【0255】
続いて4回目は特性C11の測定点P14においてDUT100を出力レベルOL(4)=-85.2dBmとして試験を続行する。その際、今回の出力レベルOL(4)と3回目のときに設定された出力レベルOL(3)と差(絶対値)が(85.2-85.4)=0.2dBであり、当該差の値がエラートレランスレベルEL以下となって、出力レベルの可変設定制御(受信感度試験)の終了条件(SL(n)≧EL;
図30のステップS55でNO)を満たし、当該受信感度試験が終了となる。
【0256】
特性C11、並びに
図32、
図33(左から1、3~5列目参照)に示されるように、本実施形態に係る測定装置1Cでは、CPにてスループットの測定値が急峻低下領域a1内にあるか否かをチェックし、スループットの測定値が急峻低下領域a1内にあるときには、次の回の出力レベルを設定する際のレベルダウン処理(
図30のステップS58b参照)、及びレベルアップ処理(同、ステップS59参照)についてはエラートレランスレベルEL単位で実施することで、4回の測定で受信感度試験を実現することができる。
【0257】
これに対し、上述したCPと、スループットの測定値が急峻低下領域a1内にあるときにエラートレランスレベルEL単位でレベルダウン、またはレベルアップを行う技術を導入していない既存の試験用信号の出力レベル制御においては、例えば、
図34に特性C13(合わせて、
図33の左から1、2列目参照)として示すように、受信感度試験を終えるまでに測定点P31~P39を経た合計9回の測定が必要となる。本実施形態に係るCPと、
図30のステップS58bでのレベルダウン処理、及びステップS59bでのレベルアップ処理を導入した試験用信号の出力レベル制御によれば、既存の試験用信号の出力レベル制御に対して2.25(=9/4)倍の測定回数の低減効果が見込めることとなる。
【0258】
CPと、スループットの測定値が急峻低下領域a1内にあるときにエラートレランスレベルEL単位でレベルダウン、またはレベルアップを行う技術を導入した本実施形態に係る出力レベルの可変設定制御(
図30参照)における出力レベルと測定されたスループットに関する特性の一例を
図35に示している。
図35に示すグラフによれば、CPと、スループットの測定値が急峻低下領域a1内にあるときにエラートレランスレベルEL単位でレベルダウン、またはレベルアップを行う技術を導入したことにより、2回目の測定点のスループット測定値が急峻に低下する点で、スループットの高い点を省略することができていることが理解できる。
【0259】
図37は、本実施形態に係る測定装置1CによるDUT100の受信感度試験結果の表示例を示す図である。
図30に示すフローチャートに沿ったDUT100の受信感度試験動作制御中、統合制御装置10Cの表示部13には、例えば、
図37に示す画面構成を有するにおける測定画面130cが表示されている。測定画面130cは、DUT100のスループット(受信感度)の測定結果を測定回数に対応して表示する試験結果表示領域131cを有している。本実施形態に係る測定装置1Cによれば、測定画面130c上の試験結果表示領域131cには、
図34に示す特性C11のステップレベルSLの変動を伴う4回のスループット測定の測定結果が、図中上から下方向への時間経過に合わせて時間順に配列された態様で表示されている。
【0260】
本実施形態に係る測定装置1CによるDUT100の受信感度試験結果(
図37参照)の表示例と比較する意味で、従来装置における測定画面150(
図28参照)に着目すると、該測定画面150の試験結果表示領域151aには、ステップレベルSLのリニアな変動を伴う、例えば、10回のスループット測定の測定結果が、図中上から下方向への時間経過に合わせて時間順に配列された態様で表示されている。
【0261】
上述したように、本実施形態に係る測定装置1Cにおいて、受信感度試験制御部18-2は、所定のエラートレランスレベルEL、及び初期ステップレベルSL0を設定する試験条件設定部18a1と、送受信ごとにDUT100の受信能力に関するスループットを測定するスループット測定部18bと、測定されたスループットが、スループットが急峻に低下する急峻低下領域内の予め設定した割合まで低下した状態であるか否かを判定する低下状態判定部18cと、スループットの測定結果が所定の閾値を超えているか否かの比較結果と、低下状態判定部18cによる低下した状態であるか否かの判定結果に応じて試験用信号の出力レベルを前の回よりも異なるように設定する設定処理であって、低下した状態であると判定された場合には、試験用信号の出力レベルを前の回に対してエラートレランスレベルEL単位でレベルダウン、またはレベルアップさせる処理を含む設定処理を行う出力レベル可変設定部18d2と、前の回との出力レベルとの変動幅が試験条件設定部18a1により設定されたエラートレランスレベルELを超えているときには送受信を続行し、前の回との出力レベルとの変動幅がエラートレランスレベルELの範囲内となったときには当該試験結果を出力する測定結果出力部18eと、を有している。
【0262】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1Cは、測定されたスループットが急峻低下領域a1内の割合まで低下した状態において、試験用信号の出力レベルをエラートレランスEL単位でレベルダウン、またはレベルアップさせながら前回と今回の出力レベルの変化幅のチェックが実行される。これにより、スループットが急峻低下領域a1内の予め設定された割合まで低下した状態を意識することなく全期間を通して初期ステップレベル由来のステップ変動幅で出力レベルのレベルダウン、またはレベルアップを実行する場合に比べて、送受信の回数を減らことができ、測定時間の大幅な短縮が可能となる。
【0263】
また、本実施形態に係る測定装置1Cにおいて、低下状態判定部18cは、スループットの測定結果が所定の閾値を超えているとの判定結果が得られたときに、スループットが急峻に低下する急峻低下領域内の予め設定した割合まで低下した状態であるか否かを判定する処理を実行し、出力レベル可変設定部18d2は、スループットの測定結果が閾値を超えているとの比較結果が得られたときには、スループットが急峻に低下する急峻低下領域内の予め設定した割合まで低下した状態であるか否かの判定結果に応じて、試験用信号の出力レベルを、前の回からエラートレランスレベルELの2倍の値をレベルダウンさせる処理と、前の回から初期ステップレベルSL0に対応する値をレベルダウンさせる処理をそれぞれ実行するとともに、スループットの測定結果が閾値を超えていないとの上記比較結果が得られたときには、前の回からエラートレランスELの値をレベルアップさせる処理を実行する構成である。
【0264】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、測定されたスループットが急峻低下領域内の予め設定された割合まで低下した状態において、前の回からエラートレランスレベルELの2倍の値をレベルダウンさせた出力レベルでの送受信と、前の回からエラートレランスレベルELの値をレベルアップさせた出力レベルでの送受信が連続して実施され、その間のステップ変動幅が設定されたエラートレランスレベルEL以下となって直ちに測定が終了となる。これにより、受信感度試験の試験結果を極めて短時間で得ることが可能になる。
【0265】
また、本実施形態に係る測定装置1Cにおいて、試験条件設定部18a1は、1回目の送受信によりスループット測定部18bにより測定されたスループットの値を基準値(100%)とし、低下した状態であるか否かを判定する判定条件として、95%を超えて99%以下の割合の範囲を設定し、低下状態判定部18cは、測定されたスループットが上記割合の範囲内にあるか否かに応じて低下した状態であるか否かを判定する。
【0266】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1Cは、測定されたスループットが急峻な低下を示す95%を超えて99%以下の割合の範囲内の値であるときには、初期ステップレベル変由来のステップ変動幅で出力レベルのレベルダウン、またはレベルアップ処理を行うことをやめて送受信の回数を減らすことができ、測定時間も大幅に短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0267】
以上のように、本発明に係る移動端末試験装置及び移動端末試験方法は、EIS測定におけるピーク電力の測定精度を向上させつつ、受信感度試験も含めた測定時間を短縮可能であるという効果を奏し、5G無線端末等の移動端末を対象とするミリ波帯測定に合わせて移動端末からの受信電力のピークを探索する移動端末試験装置及び移動端末試験方法全般に有用である。
【符号の説明】
【0268】
1、1B、1C 測定装置(移動端末試験装置)
5 試験用アンテナ
10 統合制御装置(測定制御手段)
13 表示部
16 DUT走査制御部(回転制御手段)
16a DUT走査制御テーブル(保持手段)
18、18-1、18-2 受信感度試験制御部(受信感度試験実行手段)
18c 低下状態判定部(低下判定手段)
18d、18d1、18d2 出力レベル可変設定部(出力レベル設定手段)
18e 測定結果出力部(測定結果出力手段)
19 ピーク電力測定制御部(ピーク電力測定手段)
19b ピーク電力候補選出部(候補選出手段)
19c ピーク電力判定部(判定手段)
20 NRシステムシミュレータ(測定制御手段)
50 OTAチャンバ(電波暗箱)
51 内部空間
56 DUT走査機構(ポジショナ)
100 DUT(被試験対象、移動端末)
PSa 測定ポジション(第1の方位)
PSb 測定ポジション(第2の方位)