(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】感知センサ
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20240105BHJP
H03H 9/05 20060101ALI20240105BHJP
H03B 5/32 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
G01N5/02 A
H03H9/05
H03B5/32 H
(21)【出願番号】P 2021009853
(22)【出願日】2021-01-25
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茎田 啓行
(72)【発明者】
【氏名】塩原 毅
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-159784(JP,A)
【文献】特開2005-121632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/02
H03H 9/05
H03B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子を用いて試料液中の感知対象物を感知する感知センサにおいて、
圧電片に振動領域を形成するために前記圧電片の一面側及び他面側に互いに対向するように設けられ、外部の発振回路と接続される励振電極と、前記圧電片の他面側の周縁部に形成され、前記励振電極と電気的に接続された電極端子と、前記圧電片の一面側の励振電極の表面に設けられ、前記試料液中の感知対象物を吸着させる吸着層と、を備えた圧電振動子と、
前記振動領域に対向する位置に空間を形成するための凹部が形成され、前記凹部を覆う位置に前記圧電振動子を配置したとき前記電極端子と上下に重なった状態で接続される端子部と、前記端子部と電気的に接続され、前記発振回路に接続される接続端子部とを備えた配線基板と、
前記配線基板に向けて前記圧電振動子を押し当てるために設けられ、前記圧電振動子の周縁部に亘って設けられた押し当て部材と、
前記電極端子と前記端子部とが上下に重なって設けられている領域以外の前記圧電振動子の周縁部に亘って、前記配線基板と前記圧電振動子との隙間内に形成され、前記押し当て部材により前記配線基板に前記圧電振動子を押し当てたときに生じる前記圧電振動子の歪みを抑制するパッドと、を備えたことを特徴とする感知センサ。
【請求項2】
前記パッドは、前記圧電振動子の中央側から周縁側へ向かって放射状に延びるように形成されると共に、互いに間隔を開けて並べて配置された複数の線状パターンにより構成されることを特徴とする請求項1に記載の感知センサ。
【請求項3】
前記押し当て部材は、前記圧電振動子の前記吸着層が設けられている領域を囲み、当該圧電振動子に供給される試料液が流れる空間を形成するための流路形成部材として用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の感知センサ。
【請求項4】
前記試料液は、有機溶剤であり、前記流路形成部材は、エラストマー製であることを特徴とする請求項3に記載の感知センサ。
【請求項5】
前記端子部は、前記圧電振動子の周縁部と対向する位置から当該周縁よりも外側まで伸びる複数のスリットを備えた櫛歯状に構成され、
前記端子部と、前記電極端子と、は、前記スリットに進入した導電性接着剤により互いに接着され、電気的に接続されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の感知センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液中の感知対象物を圧電振動子に吸着させて検知する感知センサに関する。
【背景技術】
【0002】
試料液中の感知対象物を感知するにあたって、QCM(Quartz Crystal Microbalance)を利用した感知センサが知られている(例えば特許文献1)。QCMは励振電極の表面に感知対象物を吸着する吸着層が設けられた水晶振動子を用い、試料溶液中の感知対象物の吸着による質量負荷を、水晶振動子の周波数の変化として捉えて、感知対象物の検出、定量を行うものである。
【0003】
ここで水晶振動子の表面に試料溶液を供給するにあたって、水晶振動子の表面に試料液を供給する空間を形成するため、水晶振動子の表面を囲む隙間を形成する部材を水晶振動子に押し当てている(例えば特許文献2)。このとき部材を押し当てる圧力が大きいと水晶振動子に機械的な歪みが生じ、水晶振動子の周波数特性が劣化してしまうおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-206792号公報
【文献】特開2012-008029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、周波数変化を利用して試料液中の感知対象物を検知する感知センサにおいて、圧電振動子の歪みを抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の感知センサは、圧電振動子を用いて試料液中の感知対象物を感知する感知センサにおいて、
圧電片に振動領域を形成するために前記圧電片の一面側及び他面側に互いに対向するように設けられ、外部の発振回路と接続される励振電極と、前記圧電片の他面側の周縁部に形成され、前記励振電極と電気的に接続された電極端子と、前記圧電片の一面側の励振電極の表面に設けられ、前記試料液中の感知対象物を吸着させる吸着層と、を備えた圧電振動子と、
前記振動領域に対向する位置に空間を形成するための凹部が形成され、前記凹部を覆う位置に前記圧電振動子を配置したとき前記電極端子と上下に重なった状態で接続される端子部と、前記端子部と電気的に接続され、前記発振回路に接続される接続端子部とを備えた配線基板と、
前記配線基板に向けて前記圧電振動子を押し当てるために設けられ、前記圧電振動子の周縁部に亘って設けられた押し当て部材と、
前記電極端子と前記端子部とが上下に重なって設けられている領域以外の前記圧電振動子の周縁部に亘って、前記配線基板と前記圧電振動子との隙間内に形成され、前記押し当て部材により前記配線基板に前記圧電振動子を押し当てたときに生じる前記圧電振動子の歪みを抑制するパッドと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の感知センサは、配線基板に向けて圧電振動子を押し当てるための押し当て部材が設けられる圧電振動子の周縁部に対応させて、配線基板と圧電振動子との隙間内にパッドを設けている。そのため押し当て部材によって押された圧電振動子の周縁をパッドにより支え、前記圧電振動子の歪みを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態に係る感知センサの分解斜視図である。
【
図3】前記感知センサの一部を拡大した縦断面図である。
【
図4】前記感知センサに用いられる配線基板の一部の平面図である。
【
図5】水晶振動子の表面側及び裏面側を示す平面図である。
【
図8】比較例に係る感知センサに配置したO-リングの影響を示す第1の説明図である。
【
図9】比較例に係る感知センサに配置したO-リングの影響を示す第2の説明図である。
【
図10】実施の形態に係る感知センサに配置したO-リングの影響を示す第1説明図である。
【
図11】実施の形態に係る感知センサに配置したO-リングの影響を示す第2の説明図である。
【
図12】感知センサの他の例を示す縦断面図である。
【
図13】他の例に係る感知センサに設けられた端子部の作用を示す第1の説明図である。
【
図14】他の例に係る感知センサの端子部の作用を示す第2の説明図である。
【
図15】他の実施形態に係る感知センサを示す平面図である。
【
図16】さらに他の実施形態に係る感知センサを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態に係る感知センサを用いた感知装置について説明する。本発明の感知装置は、例えば試料液である有機溶剤に含まれる感知対象物である金属を水晶振動子に吸着させて、水晶振動子の周波数変化により感知対象物を検出する。
初めにこの感知装置に設けられる測定部1について説明すると、
図1~
図3に示すように測定部1は、上面を矩形状に切り欠いた切り欠き部50が形成された基台5を備えている。この切り欠き部50内には、圧電振動子である円板状の水晶振動子4と、この水晶振動子4を裏面側から支持すると共に当該水晶振動子4との間で電気信号の授受を行うための配線基板3と、水晶振動子4の表面側に液を供給する空間を形成するためのO-リング8とが配置される。また切り欠き部50の底面には、水晶振動子4を振動させるための空間を形成する孔部51が形成されている。
図1~
図3中の符号6はO-リング8の上方側に配置されるカバー部材である。
【0010】
図1に示すように配線基板3は、概略矩形に構成され、その長辺方向一端が後述する励振電極42A、42B及び共通電極43を発振回路に接続するための接続端子部31となっている。以下の説明では、
図1に示す配線基板3の長辺の接続端子部31側の一端を後方、その反対側の他端前方として説明する。
配線基板3の前方寄りの位置には、基台5側の孔部51と共に、水晶振動子4を振動させるための空間を形成する貫通孔32が形成されている。
【0011】
図1に示すように、配線基板3の表面側には長さ方向に伸びる3本の配線25~27が設けられており、各配線25~27の一端は、接続端子部31において、夫々端子部252、262、272が形成されている。配線基板3に水晶振動子4が設置される領域を拡大して示す平面図である
図4も参照すると、各配線25~27の他端には、端子部251、261、271が形成されている。各251、261、271は、既述の貫通孔32の外縁にて、水晶振動子4の裏面側の周縁部と夫々対向する位置に設けられている。
また配線基板3の表面における水晶振動子4の前方側の周縁部の下方には、当該水晶振動子4を支持するためのダミー端子281が設けられている。ダミー端子281及び端子部251、261、271は、水晶振動子4の周方向等間隔にこの順で配置されている。
【0012】
端子部251、261及び271と、ダミー端子281と、は、ほぼ同じ構成となっている。ここでは、一例として
図4に向かって右側に配置された端子部251を例に説明する。平面視したとき、端子部251は、水晶振動子4の周縁部よりも外側位置にて、水晶振動子4の周方向に沿って延び、既述の配線25と接続された基部21を備えている。さらに端子部251は、一端が基部21に接続され、水晶振動子4の径方向に伸びる複数の線状電極22を備えている。線状電極22は基部21の伸びる方向に複数本等間隔に配置され、隣り合う線状電極の間は隙間(スリット)24が形成されていることにより、端子部251は櫛歯状に構成されている。線状電極22は、その先端側が水晶振動子4の下面と接するように配置され、その基端側が、水晶振動子4の外方に配置された基部21に接続されている。従ってスリット24は、水晶振動子4の裏面側の周縁部に対向する位置から、水晶振動子4の周縁部よりも外側の位置まで延在するように形成されている。
【0013】
また
図4に示す様に、水晶振動子4の周縁部の下方における、ダミー端子281及び端子部251の間、端子部251及び端子部261の間、端子部261及び端子部271の間、端子部271及びダミー端子281の間には、夫々複数のパッド23が水晶振動子4の周方向に並べて配置されている。本例において、各パッド23は、線状電極22と同様に水晶振動子4の径方向に伸びるように配置され線状電極22と同じ大きさ、同じ厚さの線状パターンとして構成されている。これはパッド23を、端子部251、261、271、ダミー端子281、配線25、26、27、及び端子部252、262、272と同時に配線基板3にパターニングすることで形成することができる。またパッド23は、端子部251と、電極端子45Aとを合わせた厚さに形成してもよい。その場合には、配線基板3に端子部251、261、271、ダミー端子281、配線25、26、27、及び端子部252、262、272をパターニングすることとは、別に配線基板3にパッド23をパターニングすることで形成できる。
また、隣り合うパッド23の配置間隔についても、各々、既述の線状電極22と同じ間隔となっている。即ち水晶振動子4の周縁部の下方には、線状電極22及びパッド23が水晶振動子4の周縁部に沿って等間隔に並べて配置された状態となっている。
【0014】
続いて水晶振動子4の構成について説明する。
図5(a)、(b)は夫々水晶振動子4の一面側(表面側)及び他面側(裏面側)を示す平面図である。
図5(a)、(b)に示すように水晶振動子4は、例えばATカット圧電片である円板状の水晶片41を備えている。
図5(b)に示すように水晶片41の裏面側には、例えばAu(金)により形成される半円状の励振電極42A、42Bが設けられている。また
図5(a)に示すように水晶片41の表面側には、励振電極42A及び42Bと対向するように円形の共通電極43が設けられている。この水晶振動子4における励振電極42A及び共通電極43で挟まれた領域は、第1の振動領域61となり、励振電極42B及び共通電極43で挟まれた領域は、第2の振動領域62となる。
【0015】
表面側の共通電極43には、配線44の一端が接続され、この配線44は水晶振動子4の周縁部に向けて伸びるように設けられている。配線44の他端側は水晶振動子4の裏面側に回り込み、当該裏面側の周縁部に設けられた電極端子44Aと接続されている。また水晶振動子4の裏面側に設けられた励振電極42A及び42Bには、夫々配線45、46の一端が接続され、各配線45、46は、水晶振動子4の周縁部に向けて伸びるように設けられている。各配線45、46の他端側は水晶振動子4の裏面側の周縁部に設けられた電極端子45A、46Aと接続されている。
なお水晶片41の裏面側前方に形成されている電極は水晶振動子4を配線基板3に固定したときに水晶片41の前後の高さを揃えるためのダミー電極47である。また共通電極43の表面における第1の振動領域61に対応する領域には、例えば有機溶剤に含まれる金属成分などの感知対象物を吸着するための吸着層48が形成されている。
【0016】
上述の構成を備える水晶振動子4は、
図1~
図4に示すように、配線基板3の貫通孔32を覆う位置に配置される。この状態において、電極端子44A、45A、及び46Aと、ダミー電極47と、は夫々配線基板3側の貫通孔32の周縁部側の端子部261、251、271及びダミー端子281に対応するように配置されている。
図2、
図3に示すように水晶振動子4は、裏面側の励振電極42A、42Bが配線基板3の貫通孔32に臨み、第1及び第2の振動領域61、62に対向する位置には、第1及び第2の振動領域61、62を振動させるための空間が形成される。そして水晶振動子4を配置した配線基板3は、基台5の孔部51に貫通孔32が望むように配置されると共に、基台5の切り欠き部50から接続端子部31が外部へ向けて突出するように配置される。これにより電極端子44A、45A、及び46Aと、端子部261、251、271及びダミー端子281と、は互いに上下に重なるように配置された状態となる。
【0017】
図1~
図4に示すように水晶振動子4の表面側には、水晶振動子4の表面側の周縁部の全周に亘って押し当てられ、水晶振動子4を配線基板3に押し当てる押し当て部材であるO-リング8が配置される。O-リング8は、例えばパーフロロエラストマーなどの比較的固いゴム材料で構成されている。このO-リング8には、水晶振動子4上に配置された際に、その内側に共通電極43を収めることができる直径を有するものが使用される。配線基板3、水晶振動子4及びO-リング8は、感知センサに相当する。
【0018】
さらに
図1~
図3に示すようにO-リング8の上方を覆うようにカバー部材6が配置される。カバー部材6は、処理液を導入するための液供給管6Aと、処理液を排出するための液排出管6Bと、が設けられている。そしてO-リング8の上方にカバー部材6を設置したときに、O-リング8は、カバー部材6の下面側によって水晶振動子4の表面側の周縁部に押し当てられる。さらに水晶振動子4は、このO-リング8を介して配線基板3に押し当てられて固定される。このとき水晶振動子4の表面と、O-リング8及びカバー部材6の下面によって囲まれた空間が形成される。この空間には、カバー部材6に設けられた液供給管6A、液排出管6Bの下端が接続される。これにより液供給管6Aから供給される試料液が共通電極43の表面に供給され、さらに液排出管6Bから排出される一連の流路が形成される。即ちO-リング8は、水晶振動子4の表面に試料液が流れる空間を形成する流路形成部材に相当する。
【0019】
このように構成された測定部1は、配線基板3の接続端子部31が図示しない感知装置の本体に接続される。その結果、
図6に示すように水晶振動子4に設けられた励振電極42A及び共通電極43に挟まれた第1の振動領域61が第1の発振回路63に接続されて発振する。また水晶振動子4の励振電極42B及び共通電極43に挟まれた第2の振動領域62が第2の発振回路64に接続されて発振する。本実施の形態に係る感知センサを用いた感知装置では、データ処理部66と第1の発振回路63とを接続するチャンネル1と、データ処理部66と第2の発振回路64とを接続するチャンネル2とを例えばスイッチ部65により交互に切り替えて間欠発振を行う。
【0020】
上述の動作により、2つの発振回路63、64からの周波数信号を時分割して後段側のデータ処理部66に取り込み、第1及び第2の振動領域61、62の発振周波数を並行して求めることができる。第1の発振回路63からの出力をチャンネル1、第2の発振回路64からの出力をチャンネル2とすると、例えば1秒間をn分割(nは偶数)し、各チャンネルの発振周波数を1/n秒の処理で順次求めることにより、1秒間に少なくとも1回以上周波数を取得しているため、実質同時に各チャンネルの周波数を取得することができる。データ処理部66に取り込まれた周波数信号は、例えばディジタル値として処理される。こうして得られたディジタル値の周波数データに基づいて、例えば、感知対象物となる金属の有無や濃度などを特定するための演算が行われる。
【0021】
以上説明した感知装置の作用について説明する。初めに、流路内を大気雰囲気とした状態にて、スイッチ部65を切り替えて、第1及び第2の振動領域61、62における発振周波数f1、f2を安定させる。
【0022】
続いて液供給管6Aを介して水晶振動子4の表面に緩衝液を供給すると、各発振周波数f1、f2は夫々低下していく。そして、これら発振周波数f1、f2がある値に落ち着くまで、スイッチ部65を切り替えつつ緩衝液の供給を継続し、試料液供給前の発振周波数f10、f20を取得する。
【0023】
その後液供給管6Aから供給する液を例えば有機溶剤である試料液に切り替え、水晶振動子4への試料液の供給を開始する。試料液は、液供給管6Aの下端部に到達するとO-リング8で囲まれた流路を流れ液排出管6Bに向かって通流していく。このように試料液を液供給管6Aから供給し、液排出管6Bから排出するように流した状態とすると、試料液である有機溶剤に含まれる感知対象物である金属が吸着層48に接触して吸着して、第1の振動領域61の発振周波数f1が低下していく。
【0024】
そして第1及び第2の振動領域61、62にて取得された試料液供給後の発振周波数F1、F2と試料液供給前の発振周波数f10、f20との差分値(周波数変化量)Δf1、Δf2を夫々算出し、差分値(Δf2-Δf1)を取得する。この差分値(Δf2-Δf1)は、第1の振動領域61における金属の吸着量に応じた発振周波数f1の変化量に相当するため、差分値(Δf2-Δf1)の変化に基づいて試料液中の金属の有無の判定及び濃度の測定を行うことができる。
【0025】
以上に説明した構成を備える感知センサにおいて、配線基板3と水晶振動子4との間にパッド23を設ける必要性について説明する。
図7~
図9は、パッド23及び櫛歯状の端子部251、261、271、及びダミー端子281が設けられていない、従来構成の感知センサの例を示している。
ここで有機溶剤を試料液とするときに水晶振動子4の表面に試料液を流すための空間を形成する部材には、有機溶剤に対して耐性の強い材料、例えばパーフロロエラストマーなどの材料からなる部材を用いることが好ましい。このような有機溶剤に対して耐性の強い材料は、材質が固く変形しにくい。そのため水晶振動子4に押し当てると水晶振動子4に比較的大きな圧力が加わる。
【0026】
このとき例えば
図7に示す従来の感知センサにおいては、例えば端子部251、261、271の表面に塗布された導電性接着剤9を介して、電極端子44A、45A、46Aと、端子部251、261、271とを貼り合わせるように水晶振動子4を設置する。その後、水晶振動子4の表面から端子部261、251、271にかけてさらに導電性接着剤9を塗布して水晶振動子4を配線基板3に固定する。このとき水晶片41の裏面から配線基板3の表面(端子部251、261、271の以外の部位)の部位との間には、高さh0の隙間が形成される。
【0027】
このように導電性接着剤9を介して水晶振動子4を設けると、水晶片41の裏面から配線基板3の表面までの隙間が比較的大きくなってしまう。この水晶振動子4の表面に、固く変形しにくい材料からなるO-リング8を押し当てると、水晶振動子4が大きな力が加わってしまう。このとき水晶片41と配線基板3との隙間が大きいと、
図8に示すように水晶片41が大きく歪んでしまう。
【0028】
また端子部251、261、271と電極端子44A、45A、46Aとが上下に重なる領域にO-リング8を重ねるように設置した場合には、これらの端子(端子部251、261、271、電極端子44A、45A、46A)により圧電振動子4を支えることができるようにも思える。しかしながら
図9に示すように、端子部251、261、271及び電極端子44A、45A、46Aが配置されていない領域にて、水晶片41の歪みが発生してしまう。
このように水晶振動子4が大きく歪んでしまうと、水晶振動子4の特性が変わってしまい、感知対象物の吸着に伴う発振周波数の変化を正確に検出することが困難になってしまうおそれがある。
【0029】
本実施の形態に係る感知センサにおいては、
図10に示すように配線基板3における水晶振動子4の周縁部と対向する領域の全周に亘って、水晶振動子4の径方向に伸びる線状パターンからなる多数のパッド23を設けている。そして水晶振動子4の周縁部にO-リング8を配置している。この構成により、配線基板3と水晶振動子4との隙間の少なくとも一部がこれらのパッド23によって塞がれた状態となる。即ち
図11に示すように、水晶片41と、パッド23が設けられた配線基板3との隙間の高さh1は、
図9に示す従来例よりも小さくなる(h1<h0)。従ってO-リング8を介して水晶振動子4を配線基板3側に押し当てる力が加わった場合であっても、水晶片41の歪みを従来例と比較して小さく抑制することができる。
【0030】
また
図10に示すように、端子部251、261、271と電極端子44A、45A、46Aとが上下に重なるように配置された位置にO-リング8を配置することにより、導電性接着剤9を用いずに水晶振動子4を固定することができる。この結果、
図7に示す従来例と比較して、端子部251、261、271と電極端子44A、45A、46Aとの間に導電性接着剤9の層が形成されない。そのため水晶片41と配線基板3との隙間の高さがより小さくなり、水晶振動子4が大きく屈曲することを抑制することができる。
【0031】
また水晶振動子4と、パッド23との間に細かな埃などの異物が入り込むと水晶振動子4が部分的に浮いてしまうおそれがある。この点、複数のパッド23を等間隔に配置することで、隣り合うパッド23同士の間にクリアランスが形成され、水晶振動子4と、パッド23との間に細かな埃などの異物が入り込む確率を低減させることができる。
【0032】
一方で、O-リング8を用いて水晶振動子4を配線基板3側に押し当てる場合であっても、導電性接着剤9を用いて端子部251、261、271と電極端子44A、45A、46Aとを接着することを排除するものではない。この場合には、スリット24が形成された端子部251、261、271及びダミー端子281を用いることにより、
図7~
図9の従来構成に示す導電性接着剤9の層の形成を抑えることができる。
【0033】
例えば
図12に示す例は、スリット24が形成された端子部251、261、271上に水晶振動子4を配置して、その後、表面側の周縁部と端子部251、261、271の上面側から導電性接着剤9を塗布した例を示している。端子部251、261、271には、水晶振動子4の下方から水晶振動子4の外側まで伸びるスリット24が形成されている。このため、
図13に示すように導電性接着剤9が端子部251に形成されたスリット24に進入して水晶振動子4の下方に潜り込むことができる。この状態において導電性接着剤9は、
図14に示すように電極端子45Aに接触すると共に、端子部251の側面に接触している。そのため電極端子45Aと、端子部251と、を接着しつつ、電気的に接続することができる。
【0034】
このようにスリット24が形成された端子部251、261、271を用いる場合には、電極端子44A、45A、46Aと端子部251、261、271との間に導電性接着剤9の層が形成されることを抑制できる。この結果、水晶片41と配線基板3との隙間が大きくなることを抑制しつつ、電極端子44A、45A、46Aと端子部251、261、271とを確実に電気的に接続することができる。
【0035】
本発明の実施形態に係る感知センサの他の例について説明する。例えば
図15に示すように水晶振動子4の周縁部に沿って延びる帯状のパッド25を設けてもよい。このようなパッド25を設ける場合にも水晶振動子4におけるO-リング8が押し合てられる領域に対向する配線基板3側の面の高低差を小さくすることができるため同様の効果を得ることができる。また、
図15中に併記するように、スリットが形成されていない端子部253、263、273、ダミー端子283を設けてもよい。また
図15に示すパッド25と端子部253、263、273及びダミー端子283との間の領域に、絶縁性のパッドを形成して、水晶振動子4と配線基板3との間の環状の隙間全体をカバーしてもよい。
【0036】
また水晶振動子4は円板状の構成に限らず、例えば矩形板状の水晶振動子400であってもよい。
図16は、矩形板状の水晶振動子400が設置される配線基板300を示している。
図16に示すように矩形の水晶振動子400の周縁部に沿って、パッド26を並べて配置する。そしてパーフロロエラストマー製の矩形環状のパッキン800を水晶振動子400の周縁部に押し当てて、水晶振動子4の表面に試料液を流す空間を形成する。このような感知センサにおいても本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 測定部
3 配線基板
4 水晶振動子
8 O-リング
31 接続端子部
41 水晶片
43 共通電極
42A、42B 励振電極
48 吸着膜
61 第1の振動領域
62 第2の振動領域