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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】中押し推進システムと中押し推進方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/06 20060101AFI20240105BHJP
【FI】
E21D9/06 311B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021027145
(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公開番号】P2022128753
(43)【公開日】2022-09-05
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000194756
【氏名又は名称】成和リニューアルワークス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】室賀 大二郎
(72)【発明者】
【氏名】岩下 篤
(72)【発明者】
【氏名】上原 一幸
(72)【発明者】
【氏名】二上 直永
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-048997(JP,A)
【文献】特開2012-233372(JP,A)
【文献】特開平10-212898(JP,A)
【文献】特開平10-299382(JP,A)
【文献】特開平09-324595(JP,A)
【文献】特開昭52-020618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00- 9/14
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切羽からの圧力を計測する圧力計を備えた推進機と、複数の前方ジャッキにより構成される前方ジャッキ群及び複数の後方ジャッキにより構成される後方ジャッキ群とを備え、該前方ジャッキと該後方ジャッキの伸長駆動と収縮駆動により該推進機を推進させ、該推進機の後方に複数の函体を順次設置する、中押し推進システムであって、
前記中押し推進システムは、制御装置をさらに有し、
前記制御装置は、
前記推進機による切羽保持圧力に関する、管理圧力範囲データが格納される、格納部と、
前記圧力計からの計測データと、前記管理圧力範囲データとを比較する、演算部と、
前記前方ジャッキの収縮駆動と前記後方ジャッキの伸長駆動の同時制御を実行し、前記計測データが前記管理圧力範囲データの範囲外となった場合には、前記計測データが前記管理圧力範囲データの範囲内となるように、前記前方ジャッキおよび/または前記後方ジャッキの駆動制御を実行する、駆動制御部と、を有し、
前記管理圧力範囲データには、二次管理圧力範囲データと、該二次管理圧力範囲データの範囲内にある一次管理圧力範囲データがあり、
前記制御装置は、手動モードと自動モードが選択可能に構成され、かつ、該手動モードから該自動モードへの切り替えは自動切り替えされるようになっており、
前記計測データが前記二次管理圧力範囲データの範囲外の場合に、前記手動モードが選択されて、制御対象となる前記前方ジャッキと前記後方ジャッキの全ての駆動が停止され、
前記計測データが前記二次管理圧力範囲データの範囲内となった段階で、前記手動モードから前記自動モードに自動切り替えされ、該計測データが、前記二次管理圧力範囲データの範囲内であって、かつ前記一次管理圧力範囲データの範囲外の場合に、前記駆動制御部により、前記前方ジャッキの収縮駆動もしくは前記後方ジャッキの伸長駆動を停止する制御が実行されることを特徴とする、中押し推進システム。
【請求項2】
前記格納部には、前記前方ジャッキ群の各前方ジャッキのストローク差、もしくは、前記後方ジャッキ群の各後方ジャッキのストローク差、もしくは、前記前方ジャッキと前記後方ジャッキのストローク差、に関する管理ストローク差範囲データが格納されており、
前記演算部では、前記ストローク差と、前記管理ストローク差範囲データとが比較され、
前記ストローク差が前記管理ストローク差範囲データの範囲外の場合に、前記駆動制御部により、制御対象となる前記前方ジャッキもしくは前記後方ジャッキのストローク量を調整する制御が実行されることを特徴とする、請求項1に記載の中押し推進システム。
【請求項3】
前記計測データが、前記二次管理圧力範囲データの範囲内であって、かつ前記一次管理圧力範囲データの上限値を超える場合は、前記駆動制御部により、前記後方ジャッキの伸長駆動を停止する制御が実行され、
前記計測データが、前記二次管理圧力範囲データの範囲内であって、かつ前記一次管理圧力範囲データの下限値を超える場合は、前記駆動制御部により、前記前方ジャッキの収縮駆動を停止する制御が実行されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の中押し推進システム。
【請求項4】
前記管理ストローク差範囲データには、二次管理ストローク差範囲データと、該二次管理ストローク差範囲データの範囲内にある一次管理ストローク差範囲データがあり、
前記駆動制御部により、
前記計測データが、前記一次管理圧力範囲データの範囲内にある場合において、
さらに、前記ストローク差が前記二次管理ストローク差範囲データの範囲外の場合には、制御対象となる前記前方ジャッキと前記後方ジャッキの全ての駆動を停止する制御が実行され、
さらに、前記ストローク差が前記二次管理圧力範囲データの範囲内であって、かつ前記一次管理ストローク差範囲データの範囲外の場合には、制御対象となる前記前方ジャッキもしくは前記後方ジャッキのストローク量を調整する制御が実行されることを特徴とする、請求項2又は請求項2に従属する請求項3に記載の中押し推進システム。
【請求項5】
前記前方ジャッキ群が、前記推進機の備える複数の方向制御ジャッキにより構成される方向制御ジャッキ群であり、前記後方ジャッキ群が、複数の元押しジャッキにより構成される元押しジャッキ群である第一形態、
前記前方ジャッキ群が、前記推進機の備える複数の方向制御ジャッキにより構成される方向制御ジャッキ群であり、前記後方ジャッキ群が、複数の中押しジャッキにより構成される中押しジャッキ群である第二形態、
前記前方ジャッキ群が、複数の中押しジャッキにより構成される中押しジャッキ群であり、前記後方ジャッキ群が、複数の元押しジャッキにより構成される元押しジャッキ群である第三形態、
前記前方ジャッキ群が、推進方向前方にある複数の第一中押しジャッキにより構成される第一中押しジャッキ群であり、前記後方ジャッキ群が、推進方向後方にある複数の第二中押しジャッキにより構成される第二中押しジャッキ群である第四形態、のいずれか一種であることを特徴とする、請求項1乃至のいずれか一項に記載の中押し推進システム。
【請求項6】
切羽からの圧力を計測する圧力計を備えた推進機と、複数の前方ジャッキにより構成される前方ジャッキ群及び複数の後方ジャッキにより構成される後方ジャッキ群とを備え、該前方ジャッキと該後方ジャッキの伸長駆動と収縮駆動により該推進機を推進させ、該推進機の後方に複数の函体を順次設置する、中押し推進方法であって、
前記前方ジャッキの収縮駆動と前記後方ジャッキの伸長駆動の同時制御を実行し、
前記圧力計からの計測データと、前記推進機による切羽保持圧力に関する管理圧力範囲データとを随時比較し、該計測データが該管理圧力範囲データの範囲外となった場合に、前記計測データが前記管理圧力範囲データの範囲内となるように、前記前方ジャッキおよび/または前記後方ジャッキの駆動を制御し、
前記管理圧力範囲データには、二次管理圧力範囲データと、該二次管理圧力範囲データの範囲内にある一次管理圧力範囲データがあり、
前記計測データが、前記二次管理圧力範囲データの範囲外の場合に、制御対象となる前記前方ジャッキと前記後方ジャッキの全ての駆動を手動にて停止し、
前記計測データが前記二次管理圧力範囲データの範囲内となった段階で、制御対象となる前記前方ジャッキと前記後方ジャッキを自動制御し、前記計測データが、前記二次管理圧力範囲データの範囲内であって、かつ前記一次管理圧力範囲データの範囲外の場合に、前記前方ジャッキの収縮駆動もしくは前記後方ジャッキの伸長駆動を停止する自動制御を実行することを特徴とする、中押し推進方法。
【請求項7】
前記前方ジャッキ群の各前方ジャッキのストローク差、もしくは、前記後方ジャッキ群の各後方ジャッキのストローク差、もしくは前記前方ジャッキと前記後方ジャッキのストローク差が、該ストローク差に関する管理ストローク差範囲データの範囲外の場合に、制御対象となる該前方ジャッキもしくは該後方ジャッキのストローク量を調整することを特徴とする、請求項に記載の中押し推進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中押し推進システムと中押し推進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
元押しジャッキに加えて中押しジャッキを適用した従来の中押し推進方法(工法)は、小土被りで切羽の土水圧による影響の少ない環境下で施工が行われるのが一般的であること、元押しジャッキや中押しジャッキの断面寸法が比較的小さいことから、元押しジャッキや中押しジャッキを構成するそれぞれの複数のジャッキの同調に関しては、相互のジャッキストローク量の管理(各ジャッキのストローク差の管理)のみで対応が可能である。
しかしながら、このように各ジャッキのストローク差のみにより各ジャッキを同調させるシステムでは、例えば深度50m程度かそれ以深の大土被り下での施工や、高水圧下もしくは高水圧変動下における施工、長距離で急曲線線形の施工の際に、函体(推進管)の蛇行等による変位によって各ジャッキのストローク差が吸収され、その分だけ推進方向前方にある推進機の位置が後退する、所謂バックリングが懸念される。
このバックリングにより、推進機が切羽からの圧力(土水圧)を保持できなくなり、地山の崩壊や推進不能といった問題に繋がり得る。
【0003】
ここで、特許文献1には、先行の推進管ブロックと後行の反力管ブロック、中押しジャッキ装置を一組とし、必要な組数を管の推進方向に順次数珠繋ぎ状態に発進縦坑から連続させる、中押しジャッキの複数同時駆動による長距離推進工法が開示されている。この推進工法において、発進縦坑内の発進用ジャッキ装置は、推進管単位体を順次地中へ押し込む工程を繰り返して推進管ブロックもしくは反力管ブロックを順次構築し、先導掘進装置は、直後の反力管ブロックに反力をとった中押しジャッキ装置で一定ストローク推進させ、各組の推進管ブロックと反力管ブロックは、交互に反力管ブロックと推進管ブロックに役割を切り換え、中押しジャッキ装置で反力管ブロックに反力をとって推進管ブロックを推進させる工程を繰り返す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-84165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の長距離推進工法によれば、汎用のジャッキ装置を使用しながら、無限長の推進施工が可能であるとしている。しかしながら、ジャッキ装置にて函体を押し出す際に、切羽から作用する土水圧の変動を考慮しておらず、上記するように、大土被り下の施工、高水圧下や高水圧変動下における施工の際に生じ得る、バックリングを抑制することができない。
【0006】
本発明は、大土被り下の施工、高水圧下や高水圧変動下における施工の際に生じ得る、バックリングを抑制しながら、安全かつ高精度な推進施工を実現できる、中押し推進システムと中押し推進方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による中押し推進システムの一態様は、
切羽からの圧力を計測する圧力計を備えた推進機と、複数の前方ジャッキにより構成される前方ジャッキ群及び複数の後方ジャッキにより構成される後方ジャッキ群とを備え、該前方ジャッキと該後方ジャッキの伸長駆動と収縮駆動により該推進機を推進させ、該推進機の後方に複数の函体を順次設置する、中押し推進システムであって、
前記中押し推進システムは、制御装置をさらに有し、
前記制御装置は、
前記推進機による切羽保持圧力に関する、管理圧力範囲データが格納される、格納部と、
前記圧力計からの計測データと、前記管理圧力範囲データとを比較する、演算部と、
前記前方ジャッキの収縮駆動と前記後方ジャッキの伸長駆動の同時制御を実行し、前記計測データが前記管理圧力範囲データの範囲外となった場合には、前記計測データが前記管理圧力範囲データの範囲内となるように、前記前方ジャッキおよび/または前記後方ジャッキの駆動制御を実行する、駆動制御部と、を有することを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、中押し推進システムの有する制御装置が格納部と演算部と駆動制御部とを備え、切羽保持圧力に関する管理圧力範囲データが格納部に格納され、推進機の備える圧力計からの計測データと管理圧力範囲データが演算部にて比較され、計測データが管理圧力範囲データの範囲外となった場合に、計測データが管理圧力範囲データの範囲内となるように、駆動制御部にて前方ジャッキおよび/または後方ジャッキの駆動制御が実行されることより、大土被り下の施工、高水圧下や高水圧変動下における施工の際に生じ得る、バックリングを抑制しながら推進施工を行うことができる。
駆動制御部は、上記制御の他にも、前方ジャッキの収縮駆動と後方ジャッキの伸長駆動の同時制御を実行するが、この同時制御も、推進機が切羽保持圧力を保持しながら前方ジャッキの収縮と後方ジャッキの伸長を同時に制御する同調制御である。すなわち、駆動制御部は、前方ジャッキの伸長駆動と収縮駆動、後方ジャッキの伸長駆動と収縮駆動の全ての駆動制御を実行するが、特に、全体システムを推進させる際の動作である、伸長姿勢の前方ジャッキの収縮駆動と、収縮姿勢の後方ジャッキの伸長駆動において、切羽保持圧力を保持しながら、双方のジャッキの同調駆動制御を実行する点に制御の特徴がある。
複数の前方ジャッキにより構成される前方ジャッキ群と、複数の後方ジャッキにより構成される後方ジャッキ群には、様々な形態がある。たとえば、前方ジャッキ群が、推進機の備える複数の方向制御ジャッキにより構成される方向制御ジャッキ群であり、後方ジャッキ群が、複数の中押しジャッキにより構成される中押しジャッキ群である形態や、前方ジャッキ群が、複数の中押しジャッキにより構成される中押しジャッキ群であり、後方ジャッキ群が、複数の元押しジャッキにより構成される元押しジャッキ群である形態等が挙げられる。
制御装置は、現在の制御対象の前方ジャッキと後方ジャッキを特定し、例えば、制御対象の前方ジャッキが方向制御ジャッキであり、後方ジャッキが中押しジャッキと特定した場合は、この二種類のジャッキの伸長駆動と収縮駆動の同調制御を実行する。
【0009】
また、本発明による中押し推進システムの他の態様において、
前記格納部には、前記前方ジャッキ群の各前方ジャッキのストローク差、もしくは、前記後方ジャッキ群の各後方ジャッキのストローク差、もしくは、前記前方ジャッキと前記後方ジャッキのストローク差、に関する管理ストローク差範囲データが格納されており、
前記演算部では、前記ストローク差と、前記管理ストローク差範囲データとが比較され、
前記ストローク差が前記管理ストローク差範囲データの範囲外の場合に、前記駆動制御部により、制御対象となる前記前方ジャッキもしくは前記後方ジャッキのストローク量を調整する制御が実行されることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、前方ジャッキ群の各前方ジャッキのストローク差や、前方ジャッキと後方ジャッキのストローク差等、様々な種類のジャッキのストローク差に関する管理ストローク差範囲データがさらに格納部に格納され、演算部において比較されたストローク差が管理ストローク差範囲データの範囲外の場合に、駆動制御部により、制御対象となる前方ジャッキもしくは後方ジャッキのストローク量を調整する制御が実行されることにより、例えば急曲線の施工の場合においても、制御対象となる複数のジャッキの各ストローク量を急曲線に応じたストローク量に制御でき、急曲線施工の際に生じ得る、バックリングを抑制しながら推進施工を行うことができる。
ここで、「ストローク量を調整する制御」に関し、後方ジャッキ群が伸長している場合には、後方ジャッキ群を構成する各後方ジャッキの中で、ストローク量の相対的に短い後方ジャッキを伸長させる制御等が実行され、また、前方ジャッキ群が収縮している場合には、前方ジャッキ群を構成する各前方ジャッキの中で、ストローク量の相対的に長い前方ジャッキを収縮させる制御等が実行される。
また、前方ジャッキ群と後方ジャッキ群のストローク量を調整する場合は、前方ジャッキ群の全ての前方ジャッキのストローク量を調整しながら収縮させたり、後方ジャッキ群の全ての後方ジャッキのストローク量を調整しながら伸長させる制御や、急曲線施工においては、例えば、前方ジャッキ群を構成する各前方ジャッキのストローク量をジャッキごとに固有のストローク量に調整する制御等が実行される。
【0011】
また、本発明による中押し推進システムの他の態様において、
前記管理圧力範囲データには、二次管理圧力範囲データと、該二次管理圧力範囲データの範囲内にある一次管理圧力範囲データがあり、
前記計測データが、前記二次管理圧力範囲データの範囲外の場合に、前記駆動制御部により、制御対象となる前記前方ジャッキと前記後方ジャッキの全ての駆動を停止する制御が実行され、
前記計測データが、前記二次管理圧力範囲データの範囲内であって、かつ前記一次管理圧力範囲データの範囲外の場合に、前記駆動制御部により、前記前方ジャッキの収縮駆動もしくは前記後方ジャッキの伸長駆動を停止する制御が実行されることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、管理圧力範囲データとして、二次管理圧力範囲データと、二次管理圧力範囲データの範囲内にある一次管理圧力範囲データがあり、相対的に危険側の二次管理値と相対的に安全側の一次管理値の二種類の管理値にてそれぞれに固有の制御を実行することにより、安全かつ効率的な推進方法を実行できる。ここで、二次管理圧力範囲データとしては、切羽圧力の限界値(100%)から限界値の70%程度の範囲に設定でき、一次管理圧力範囲データを切羽圧力の限界値の70%未満の範囲等に設定できる。
計測データが、二次管理圧力範囲データの範囲外の場合には、駆動制御部により、制御対象となる前方ジャッキと後方ジャッキの全ての駆動を停止する制御が実行されることにより、安全な推進施工を保証できる。尚、この全てのジャッキの駆動停止に関しては、制御装置に対して手動モードを選択できる構成を付与しておき、手動モードにて、切羽圧力が二次管理圧力範囲データの範囲内となるように各ジャッキを操作し、切羽圧力が二次管理圧力範囲データの範囲内となった段階で、制御装置が手動モードから自動モードに自動切り替えされるように制御装置が構成されていてもよい。
一方、計測データが、二次管理圧力範囲データの範囲内であって、かつ一次管理圧力範囲データの範囲外の場合には、駆動制御部により、前方ジャッキの収縮駆動もしくは後方ジャッキの伸長駆動を停止する制御が実行されることにより、全てのジャッキの駆動を停止することなく、安全な推進施工を保証できる。
【0013】
また、本発明による中押し推進システムの他の態様において、
前記計測データが、前記二次管理圧力範囲データの範囲内であって、かつ前記一次管理圧力範囲データの上限値を超える場合は、前記駆動制御部により、前記後方ジャッキの伸長駆動を停止する制御が実行され、
前記計測データが、前記二次管理圧力範囲データの範囲内であって、かつ前記一次管理圧力範囲データの下限値を超える場合は、前記駆動制御部により、前記前方ジャッキの収縮駆動を停止する制御が実行されることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、計測データが、二次管理圧力範囲データの範囲内であって、かつ一次管理圧力範囲データの上限値を超える場合には、駆動制御部により、後方ジャッキの伸長駆動を停止する制御が実行され、一次管理圧力範囲データの下限値を超える場合には、前方ジャッキの収縮駆動を停止する制御が実行されることにより、全てのジャッキの駆動を停止することなく、安全な推進施工を保証できる。
【0015】
また、本発明による中押し推進システムの他の態様において、
前記管理ストローク差範囲データには、二次管理ストローク差範囲データと、該二次管理ストローク差範囲データの範囲内にある一次管理ストローク差範囲データがあり、
前記駆動制御部により、
前記計測データが、前記一次管理圧力範囲データの範囲内にある場合において、
さらに、前記ストローク差が前記二次管理ストローク差範囲データの範囲外の場合には、制御対象となる前記前方ジャッキと前記後方ジャッキの全ての駆動を停止する制御が実行され、
さらに、前記ストローク差が前記二次管理圧力範囲データの範囲内であって、かつ前記一次管理ストローク差範囲データの範囲外の場合には、制御対象となる前記前方ジャッキもしくは前記後方ジャッキのストローク量を調整する制御が実行されることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、管理ストローク差範囲データに、二次管理ストローク差範囲データと、二次管理ストローク差範囲データの範囲内にある一次管理ストローク差範囲データがあり、切羽圧力が一次管理圧力範囲データの範囲内にあることを前提として、ストローク差が二次管理ストローク差範囲データの範囲外の場合に、制御対象となる前方ジャッキと後方ジャッキの全ての駆動を停止する制御を実行し、ストローク差が二次管理圧力範囲データの範囲内であって、かつ一次管理ストローク差範囲データの範囲外の場合に、制御対象となる前方ジャッキもしくは後方ジャッキのストローク量を調整する制御を実行することにより、安全かつ高精度な推進施工を実現できる。
【0017】
また、本発明による中押し推進システムの他の態様において、
前記前方ジャッキ群が、前記推進機の備える複数の方向制御ジャッキにより構成される方向制御ジャッキ群であり、前記後方ジャッキ群が、複数の元押しジャッキにより構成される元押しジャッキ群である第一形態、
前記前方ジャッキ群が、前記推進機の備える複数の方向制御ジャッキにより構成される方向制御ジャッキ群であり、前記後方ジャッキ群が、複数の中押しジャッキにより構成される中押しジャッキ群である第二形態、
前記前方ジャッキ群が、複数の中押しジャッキにより構成される中押しジャッキ群であり、前記後方ジャッキ群が、複数の元押しジャッキにより構成される元押しジャッキ群である第三形態、
前記前方ジャッキ群が、推進方向前方にある複数の第一中押しジャッキにより構成される第一中押しジャッキ群であり、前記後方ジャッキ群が、推進方向後方にある複数の第二中押しジャッキにより構成される第二中押しジャッキ群である第四形態、のいずれか一種であることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、様々な形態の前方ジャッキ群と後方ジャッキ群を制御対象としながら、高精度な推進施工を実現できる。例えば、立坑から推進機が発進する際は、立坑に元押しジャッキ群を備える元押し装置が設置され、立坑から推進機が発進し、推進機と元押し装置の間に立坑から函体が供給されることから、前方ジャッキ群が推進機の備える方向制御ジャッキ群となり、後方ジャッキ群が元押し装置の備える元押しジャッキ群となる。推進機の推進により、複数の函体が地盤内に継ぎ足されながら元押しジャッキにて元押しされるが、長距離推進の場合には元押し装置のみによる推力では推力不足になり得ることから、立坑を介して、継ぎ足される函体の後方に中押し装置が供給され、中押しジャッキによる推力が追加される。
従って、中押しジャッキの追加により、制御装置による制御対象は、推進機の備える方向制御ジャッキと、中押し装置の備える中押しジャッキと、元押し装置の備える元押しジャッキとなるが、制御装置による同調制御では、前後関係にある二種類の装置の備えるジャッキが制御対象になり、上記する第一形態乃至第三形態が存在する。
また、長距離推進の場合には、複数の中押し装置が立坑を介して供給されることから、前後関係にある二種類の装置としては、前方の中押し装置と後方の中押し装置のそれぞれのジャッキが制御対象となり得ることから、上記する第四形態が存在する。
【0019】
また、本発明による中押し推進方法の一態様は、
切羽からの圧力を計測する圧力計を備えた推進機と、複数の前方ジャッキにより構成される前方ジャッキ群及び複数の後方ジャッキにより構成される後方ジャッキ群とを備え、該前方ジャッキと該後方ジャッキの伸長駆動と収縮駆動により該推進機を推進させ、該推進機の後方に複数の函体を順次設置する、中押し推進方法であって、
前記前方ジャッキの収縮駆動と前記後方ジャッキの伸長駆動の同時制御を実行し、
前記圧力計からの計測データと、前記推進機による切羽保持圧力に関する管理圧力範囲データとを随時比較し、該計測データが該管理圧力範囲データの範囲外となった場合に、前記計測データが前記管理圧力範囲データの範囲内となるように、前記前方ジャッキおよび/または前記後方ジャッキの駆動を制御することを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、推進機の備える圧力計からの計測データと、切羽保持圧力に関する管理圧力範囲データが比較され、計測データが管理圧力範囲データの範囲外となった場合に、計測データが管理圧力範囲データの範囲内となるように、前方ジャッキおよび/または後方ジャッキの駆動制御が実行されることより、大土被り下の施工、高水圧下や高水圧変動下における施工の際に生じ得る、バックリングを抑制しながら推進施工を行うことができる。
【0021】
また、本発明による中押し推進方法の他の態様において、
前記前方ジャッキ群の各前方ジャッキのストローク差、もしくは、前記後方ジャッキ群の各後方ジャッキのストローク差、もしくは前記前方ジャッキと前記後方ジャッキのストローク差が、該ストローク差に関する管理ストローク差範囲データの範囲外の場合に、制御対象となる該前方ジャッキもしくは該後方ジャッキのストローク量を調整することを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、前方ジャッキ群の各前方ジャッキのストローク差や、前方ジャッキと後方ジャッキのストローク差等、様々な種類のジャッキのストローク差に関する管理ストローク差範囲データと、制御対象のジャッキのストローク差が比較され、ストローク差が管理ストローク差範囲データの範囲外の場合に、制御対象となる前方ジャッキもしくは後方ジャッキのストローク量を調整する制御が実行されることにより、例えば急曲線の施工の場合においても、制御対象となる複数のジャッキの各ストローク量を急曲線に応じたストローク量に制御でき、急曲線施工の際に生じ得る、バックリングを抑制しながら推進施工を行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の中押し推進システムと中押し推進方法によれば、大土被り下の施工、高水圧下や高水圧変動下における施工の際に生じ得る、バックリングを抑制しながら、安全かつ高精度な推進施工を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態に係る中押し推進方法の一例の工程図であり、かつ、実施形態に係る中押し推進システムの一例を示す側面図である。
図2図1に続いて、実施形態に係る中押し推進方法の一例の工程図である。
図3図2に続いて、実施形態に係る中押し推進方法の一例の工程図である。
図4図3に続いて、実施形態に係る中押し推進方法の一例の工程図である。
図5図4に続いて、実施形態に係る中押し推進方法の一例の工程図である。
図6図5に続いて、実施形態に係る中押し推進方法の一例の工程図である。
図7】中押し推進システムを構成する制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図8】制御装置の機能構成の一例を示す図である。
図9】実施形態に係る中押し推進方法の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施形態に係る中押し推進システムと中押し推進方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0026】
[実施形態に係る中押し推進システムと中押し推進方法]
図1乃至図9を参照して、実施形態に係る中押し推進システムと中押し推進方法の一例について説明する。ここで、図1乃至図6は順に、実施形態に係る中押し推進方法の一例の工程図であり、かつ、実施形態に係る中押し推進システムの一例を示す側面図である。また、図7は、中押し推進システムを構成する制御装置のハードウェア構成の一例を示す図であり、図8は、制御装置の機能構成の一例を示す図である。さらに、図9は、実施形態に係る中押し推進方法の一例のフローチャートである。
【0027】
中押し推進システム60は、切羽からの圧力(切羽圧力P)を計測する圧力計12と、制御装置20とを備えた推進機10と、地盤G内に造成された立坑Tの内部に設置される元押し装置30とを少なくとも有し、図1に示すように、立坑Tから推進機10が発進する発進段階では、推進機10と元押し装置30のみを基本構成とする。そして、推進施工が進行する過程で、立坑Tから中押し装置が供給され、図3に示すように、推進機10と元押し装置30の間に中押し装置40(第一中押し装置)が介在してあらたな中押し推進システム60が形成され、推進施工がさらに進行する過程で、立坑Tから別途の中押し装置が供給され、図5に示すように、第一中押し装置40と元押し装置30の間に別途の中押し装置50(第二中押し装置)が介在してさらに新たな中押し推進システム60が形成される。図示例の中押し推進システム60は、二基の中押し装置40,50を備えているが、推進長や必要推力等との関係で、一基の中押し装置を備えるシステムであってもよいし、三基以上の中押し装置を備えるシステムであってもよい。
【0028】
推進機10の備える方向制御装置15は、複数の方向制御ジャッキ16により構成される方向制御ジャッキ群を有し、元押し装置30は、複数の元押しジャッキ31により構成される元押しジャッキ群を有する。図1に示すように、図示例の中押し推進システム60は、推進機10の内部に制御装置20を備える。制御装置20は、刻々変化する切羽圧力Pに関する計測データを圧力計12から受信し、受信した切羽圧力Pに応じて、制御対象である各ジャッキの駆動を制御する。尚、制御装置20の構成や制御内容については、以下で詳説するが、制御装置20は、元押し装置30が備えていてもよいし、例えば地上にある管理棟に格納されていてもよい。
【0029】
図示例の中押し推進システム60は、地盤Gにおいて、例えば深度50m程度かそれ以深の大土被り下での施工や、高水圧下もしくは高水圧変動下における施工、さらには、長距離で急曲線線形の施工に好適である。ここで、図示例の立坑Tは、地上から造成されているが、それ以外の形態であってもよい。例えば、地中において、本線トンネルとランプトンネルを繋いで拡幅区間を施工するに当たり、地中に施工済みのランプトンネルの内部から下方に立坑を造成し、立坑から発進した推進機が、本線トンネルとランプトンネルを環状に包囲するように掘進することにより、本線トンネルとランプトンネルを包囲して複数の函体により構成される推進トンネルを施工する形態であってもよい。
【0030】
立坑Tに元押し装置30が設置され、推進機10が推進位置に位置決めされた後、方向制御ジャッキ16を伸長駆動することにより、推進機10を切羽圧力Pを受けながら所定の推進方向であるX1方向に推進させる。この推進機10の推進により、方向制御装置15と元押し装置30との間に形成された空間に対し、立坑Tを介して函体70がX2方向に供給される。図示例では、方向制御装置15と元押し装置30との間に二基の函体70が供給されている。ここで、函体70は、例えば正面視矩形(長方形、正方形)もしくは円形で、RC(Reinforced Concrete)製、もしくは鋼製の函体である。
【0031】
次に、図2に示すように、伸長姿勢の方向制御ジャッキ16をY1方向に収縮駆動させると同時に、収縮姿勢の元押しジャッキ31をY2方向に伸長駆動させることにより、函体70をY3方向に推進させる。
【0032】
図1図2においては、推進方向であるX1方向において、方向制御ジャッキ16が相対的に前方位置にあることから前方ジャッキとなり、方向制御ジャッキ群は前方ジャッキ群となる。一方、元押しジャッキ31は相対的に後方位置にあることから後方ジャッキとなり、元押しジャッキ群は後方ジャッキ群となる。そして、制御装置20による制御対象のジャッキは、方向制御ジャッキ16と元押しジャッキ31となる。
【0033】
前方ジャッキである方向制御ジャッキ16を伸長駆動させることにより推進機10を掘進させ、方向制御ジャッキ16の収縮駆動と元押しジャッキ31の伸長駆動が制御装置20によって同調制御されることにより、複数の函体70が元押し装置30にて推進され、最後尾の函体70と元押し装置30との間に函体70が供給され、これを繰り返すことにより、推進機10の掘進と複数の函体70の推進が行われる。
【0034】
上記するように、大土被り下での施工や、高水圧下もしくは高水圧変動下における施工においては、推進機10の蛇行等による変位によって方向制御ジャッキ16や元押しジャッキ31のストローク差が吸収され、その分だけ推進方向前方にある推進機10の位置が後退するバックリングが懸念され、このバックリングにより、推進機10が切羽圧力Pを保持できなくなり、地山の崩壊や推進不能といった問題に繋がり得る。そこで、中押し推進システム60では、圧力計12により計測される切羽圧力Pに関する計測データに基づき、制御装置20により、前方ジャッキ(図1、2では、方向制御ジャッキ16)と後方ジャッキ(図1,2では元押しジャッキ31)の同調制御が実行され、バックリングを抑制しながら推進施工が行われる。
【0035】
推進施工が進行し、図3に示すように、方向制御装置15と元押し装置30の間に第一中押し装置40が介在すると、制御装置20により同調制御される制御対象のジャッキの組み合わせは、前方ジャッキである方向制御ジャッキ16と後方ジャッキである第一中押しジャッキ41の組み合わせと、前方ジャッキである第一中押しジャッキ41と後方ジャッキである元押しジャッキ31の組み合わせとなる。
【0036】
図3図4に示す例では、図3に示すように伸長姿勢の方向制御ジャッキ16と収縮姿勢の第一中押しジャッキ41から、図4に示すように、方向制御ジャッキ16をY4方向に収縮駆動させると同時に、収縮姿勢の第一中押しジャッキ41をY5方向に伸長駆動させることにより、これらの間にある複数の函体70をY6方向に推進させる。
【0037】
次いで、図示を省略するが、前方ジャッキである伸長姿勢の第一中押しジャッキ41と、後方ジャッキである収縮姿勢の元押しジャッキ31に関し、第一中押しジャッキ41を収縮駆動させると同時に、収縮姿勢の元押しジャッキ31を伸長駆動させることにより、これらの間にある複数の函体70を同様に推進させる。
【0038】
このように、前方ジャッキと後方ジャッキが随時入れ替わる推進施工において、中押し推進システム60では、圧力計12により計測される切羽圧力Pに関する計測データに基づき、制御装置20により、前方ジャッキと後方ジャッキの同調制御が実行され、バックリングを抑制しながら推進施工が行われる。
【0039】
推進施工がさらに進行し、図5に示すように、第一中押し装置40と元押し装置30の間に別途の第二中押し装置50が介在すると、制御装置20により同調制御される制御対象のジャッキの組み合わせは、前方ジャッキである方向制御ジャッキ16と後方ジャッキである第一中押しジャッキ41の組み合わせと、前方ジャッキである第一中押しジャッキ41と後方ジャッキである第二中押しジャッキ51の組み合わせと、前方ジャッキっである第二中押しジャッキ51と後方ジャッキである元押しジャッキ31の組み合わせとなる。
【0040】
図5図6に示す例では、図5に示すように伸長姿勢の第二中押しジャッキ51と収縮姿勢の元押しジャッキ31から、図6に示すように、第二中押しジャッキ51をY7方向に収縮駆動させると同時に、収縮姿勢の元押しジャッキ31をY8方向に伸長駆動させることにより、これらの間にある複数の函体70をY9方向に推進させる。
【0041】
次に、図7乃至図9を参照して、制御装置20の構成を説明するとともに、前方ジャッキと後方ジャッキの同調制御方法(中押し推進方法)に関して詳説する。
【0042】
図7に示すように、制御装置20は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)等の情報処理装置(コンピュータ)により構成される。制御装置20を構成するコンピュータは、接続バス26により相互に接続されているCPU(Central Processing Unit)21、主記憶装置22、補助記憶装置23、入出力IF(interface)24、及び通信IF25を備えている。主記憶装置22と補助記憶装置23は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0043】
CPU21は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU21は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU21は、コンピュータからなる制御装置20の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU21は、例えば、補助記憶装置23に記憶されたプログラムを主記憶装置22の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0044】
主記憶装置22は、CPU21が実行するコンピュータプログラムや、CPU21が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置22は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置23は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置23には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF25を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。外部装置等には、例えば、元押し装置30の備える元押しジャッキ31(アクチュエータ)、中押し装置40,50の備える中押しジャッキ41,51(アクチュエータ)の他、ネットワークに接続する管理棟や施工会社の本支店にある設計担当者等の有するパーソナルコンピュータ(図示せず)等が含まれる。
【0045】
補助記憶装置23は、例えば、主記憶装置22を補助する記憶領域として使用され、CPU21が実行するコンピュータプログラムや、CPU21が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置23は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置23として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示され、着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0046】
入出力IF24は、制御装置20に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF24には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。制御装置20は、入出力IF24を介して、入力デバイスを操作する操作者からの操作指示等を受け付ける。
【0047】
また、入出力IF24には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続される。例えば、制御装置20において、圧力計12から随時送信される切羽圧力に関する計測データや、所定時間ごとの水圧変動量、以下で詳説する、管理圧力範囲データや管理ストローク差範囲データが表示される。特に、相互に対比される、切羽圧力に関する計測データと管理圧力範囲データが並列表示され、計測データが管理圧力範囲データの範囲外の場合に計測データが赤点灯表示されたり、さらにブザー表示されるのがよい。同様に、制御対象のジャッキのストローク差データと管理ストローク差範囲データが並列表示され、ストローク差データが管理ストローク差範囲データの範囲外の場合にストローク差データが赤点灯表示されたり、さらにブザー表示されるのがよい。
【0048】
通信IF25は、制御装置20が接続するネットワークとのインターフェイスである。通信IF25は、インターネット等の公衆ネットワーク、携帯電話網等の無線ネットワーク、VPN(Virtual Private Network)等の専用ネットワーク、LAN(Local Area Network)等、様々なネットワークを介して、元押しジャッキ31や中押しジャッキ41,51に対しては制御信号を送信し、管理棟等におけるパーソナルコンピュータ等に対しては切羽圧力に関する計測データや制御装置20による各ジャッキの制御内容(制御対象のジャッキのストローク量や、制御対象の前方ジャッキと後方ジャッキのストローク差等)に関するデータを送信する。
【0049】
図8に示すように、制御装置20は、CPU21によるプログラムの実行により、少なくとも、入力部202、演算部204、駆動制御部206、及び格納部208の各種機能を提供する。尚、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0050】
入力部202には、圧力計12により計測された、切羽圧力に関する計測データが随時入力され、入力部202を介して格納部208に随時格納される。また、入力部202には、制御対象である各ジャッキのストローク量が入力される。
【0051】
入力部202にはさらに、各種の管理値が入力される。具体的には、推進機10による切羽保持圧力に関する管理圧力範囲データとして、二次管理圧力範囲データと、二次管理圧力範囲データの範囲内にある一次管理圧力範囲データが入力され、格納部208に格納される。ここで、二次管理圧力範囲データは、例えば切羽圧力の限界値(100%)から限界値の70%程度の範囲に設定され、一次管理圧力範囲データは、例えば切羽圧力の限界値の70%未満の範囲に設定される。
【0052】
入力部202に入力される他の管理値としては、前方ジャッキ群の各前方ジャッキのストローク差、もしくは、後方ジャッキ群の各後方ジャッキのストローク差、もしくは、前方ジャッキと後方ジャッキのストローク差、に関する管理ストローク差範囲データとして、二次管理ストローク差範囲データと、二次管理ストローク差範囲データの範囲内にある一次管理ストローク差範囲データである。入力部202に入力された各管理ストローク差範囲データも、格納部208に格納される。
【0053】
入力部202にはその他、後方ジャッキの伸長量の限界値や、前方ジャッキに関する規定の収縮完了値等が入力される。
【0054】
図9においては、中押し推進システム60の推進施工の過程で、制御装置20による制御対象の前方ジャッキが伸長駆動し、後方ジャッキが収縮駆動している状態となった段階で、掘進完了とする(ステップS100)。例えば、立坑Tから推進機10が推進を開始する図1に示す状態、推進機10による推進施工の途中段階である、図3図5に示す状態はいずれも、掘進完了の状態である。
【0055】
中押し推進システム60が掘進を完了した後、圧力計12から切羽圧力に関する計測データをデータ取得し(入力部202へ入力)、また、掘進完了時における制御対象の各ジャッキのストローク量等に関するデータを入力部202にデータ入力する(ステップS102)。
【0056】
次に、ステップS102において入力部202に入力(取得)された、切羽圧力に関する計測データや制御対象の各ジャッキのストローク量に基づき、図8に示すように、制御装置20の演算部204では、各種の演算処理を実行し、演算部204における各種の演算処理の結果に基づいて、駆動制御部206により、前方ジャッキの収縮駆動と、後方ジャッキの伸張駆動の同時制御が実行される(ステップS104)。図1から図2への推進施工、図3から図4への推進施工、及び図5から図6への推進施工はいずれも、前方ジャッキの収縮駆動と、後方ジャッキの伸張駆動の同時制御により実行される。
【0057】
前方ジャッキの収縮駆動と、後方ジャッキの伸張駆動の同時制御が実行された際に、圧力計12から取得した切羽圧力に関する計測データと、管理圧力範囲データとが演算部204において比較演算される。
【0058】
より具体的には、図9に示すように、まず、切羽圧力が二次管理圧力範囲データの範囲内か否かの比較を行う(ステップS106)。この比較演算の結果、切羽圧力が二次管理圧力範囲データの範囲外の場合は、制御対象の全てのジャッキの駆動を停止する(ステップS108)。
【0059】
例えば、図1から図2へ移行する施工段階では、前方ジャッキである方向制御ジャッキ16を収縮駆動し、後方ジャッキである元押しジャッキ31を伸長駆動した際に、切羽圧力が二次管理圧力範囲データの範囲外の場合は、ここでの制御対象である全ての方向制御ジャッキ16と元押しジャッキ31の駆動を停止する制御を実行する。また、図3から図4へ移行する施工段階では、前方ジャッキである方向制御ジャッキ16を収縮駆動し、後方ジャッキである中押しジャッキ41を伸長駆動した際に、切羽圧力が二次管理圧力範囲データの範囲外の場合は、ここでの制御対象である全ての方向制御ジャッキ16と中押しジャッキ41の駆動を停止する制御を実行する。
【0060】
ここで、ステップS108における制御対象の全てのジャッキの駆動停止に関しては、制御装置20に対して手動モードを選択できる構成を付与しておき、手動モードにて、切羽圧力が二次管理圧力範囲データの範囲内となるように制御対象の各ジャッキを操作し、切羽圧力が二次管理圧力範囲データの範囲内となった段階で、制御装置が手動モードから自動モードに自動切り替えされるように制御装置20が構成されていてもよい。
【0061】
このように、まず、切羽圧力と二次管理圧力範囲データ(二次管理値)とを比較し、切羽圧力が例えば限界値(危険側)である二次管理圧力範囲データの範囲外である場合に、制御対象の全てのジャッキの駆動を停止することにより、バックリングの発生と、バックリングに起因する切羽における地山の崩壊や推進不能といった問題の発生を防止できる。
【0062】
一方、ステップS106において、切羽圧力が二次管理圧力範囲データの範囲内の場合は、次に、切羽圧力が一次管理圧力範囲データの範囲内か否かの比較を行う(ステップS110)。この比較演算の結果、切羽圧力が一次管理圧力範囲データの範囲外の場合は、二つのケースごとに固有の制御を実行する。
【0063】
具体的には、切羽圧力が一次管理圧力範囲データの下限値を超える場合は、駆動制御部206により、前方ジャッキの収縮駆動を停止する制御を実行する(ステップS112)。一方、切羽圧力が一次管理圧力範囲データの上限値を超える場合は、駆動制御部206により、後方ジャッキの伸張駆動を停止する制御を実行する(ステップS114)。
【0064】
ステップS112,S114による制御により、バックリングの発生防止は勿論のこと、より一層安全な推進施工を実現できる。
【0065】
ステップS110において、切羽圧力が一次管理圧力範囲データの範囲内である場合は、次に、切羽圧力に関する管理からジャッキのストローク差に関する管理に移行する。
【0066】
まず、制御装置20の演算部204では、上記するように、切羽圧力に関する計測データと、管理圧力範囲データとを比較する演算処理に加えて、前方ジャッキ群の各前方ジャッキのストローク差、もしくは、後方ジャッキ群の各後方ジャッキのストローク差、もしくは前方ジャッキと後方ジャッキのストローク差と、これらのストローク差に関する管理ストローク差範囲データとを比較する演算処理をさらに実行する。
【0067】
図9に示すフローチャートに戻り、制御対象のジャッキのストローク差が二次管理ストローク差範囲データの範囲内か否かの比較を行う(ステップS116)。この比較演算の結果、制御対象のジャッキのストローク差が二次管理ストローク差範囲データの範囲外の場合は、制御対象の全てのジャッキの駆動を停止する(ステップS118)。
【0068】
ここで、ステップS118における制御対象の全てのジャッキの駆動停止に関しても、ステップS108と同様に、制御装置20に対して手動モードを選択できる構成を付与しておき、手動モードにて、制御対象のジャッキのストローク差が二次管理ストローク差範囲データの範囲内となるように制御対象の各ジャッキを操作し、制御対象のジャッキのストローク差が二次管理ストローク差範囲データの範囲内となった段階で、制御装置が手動モードから自動モードに自動切り替えされるように制御装置20が構成されていてもよい。
【0069】
このように、推進機10が切羽圧力を保持することを前提として、次に、制御対象のジャッキのストローク差が例えば限界値(危険側)である二次管理ストローク差範囲データの範囲外の場合に、制御対象の全てのジャッキの駆動を停止することにより、例えば急曲線線形の施工におけるバックリングの発生を防止できる。
【0070】
一方、ステップS116において、制御対象のジャッキのストローク差が二次管理ストローク差範囲データの範囲内の場合は、次に、制御対象のジャッキのストローク差が一次管理ストローク差範囲データの範囲内か否かの比較を行う(ステップS120)。この比較演算の結果、制御対象のジャッキのストローク差が一次管理ストローク差範囲データの範囲外の場合は、制御装置20の駆動制御部206により、制御対象の各ジャッキのストローク量を調整する(ステップS122)。
【0071】
制御対象の各ジャッキのストローク量の調整に関し、後方ジャッキ群が伸長している場合には、後方ジャッキ群を構成する各後方ジャッキの中で、ストローク量の相対的に短い後方ジャッキを伸長させる制御等が実行され、また、前方ジャッキ群が収縮している場合には、前方ジャッキ群を構成する各前方ジャッキの中で、ストローク量の相対的に長い前方ジャッキを収縮させる制御等が実行される。また、前方ジャッキ群と後方ジャッキ群のストローク量を調整する場合は、前方ジャッキ群の全ての前方ジャッキのストローク量を調整しながら収縮させたり、後方ジャッキ群の全ての後方ジャッキのストローク量を調整しながら伸長させる制御や、急曲線施工においては、例えば、前方ジャッキ群を構成する各前方ジャッキのストローク量をジャッキごとに固有のストローク量に調整する制御等が実行される。
【0072】
このように、制御対象の各ジャッキのストローク差に基づく管理においても、二段階の管理値に基づいてそれぞれに固有のジャッキ制御を実行することにより、例えば急曲線の施工においては、制御対象となる複数のジャッキの各ストローク量を急曲線に応じたストローク量に制御でき、急曲線施工の際に生じ得る、バックリングを抑制しながら、計画線形に沿った高精度な推進施工を実現することができる。
【0073】
ステップS120において、制御対象のジャッキのストローク差が一次管理ストローク差範囲データの範囲内にある場合は、次に、後方ジャッキの伸長量が限界値以下であるか否か、及び、前方ジャッキが規定の収縮完了値となっているか否かが、さらに演算部204にて比較演算される(ステップS124)。
【0074】
ステップS124において、条件を満たす場合は、制御対象の全てのジャッキの駆動を停止する。そして、続く推進施工においては、前方ジャッキの伸長駆動があらたに開始され、後方ジャッキの収縮駆動によって函体の推進が行われて掘進完了となり(ステップS100)、図9に示すフローチャートに沿う一連の制御が再度実行されることになる。
【0075】
一方、ステップS124において、条件を満たさない場合は、ステップS104に戻り、制御対象の前方ジャッキの収縮駆動と後方ジャッキの伸長駆動が再度実行される。
【0076】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0077】
10:推進機
12:圧力計
15:方向制御装置(方向制御ジャッキ群)
16:方向制御ジャッキ
20:制御装置
202:入力部
204:演算部
206:駆動制御部
208:格納部
30:元押し装置(元押しジャッキ群)
31:元押しジャッキ
40:中押し装置(第一中押し装置、中押しジャッキ群)
41:中押しジャッキ(第一中押しジャッキ)
50:中押し装置(第二中押し装置、中押しジャッキ群)
51:中押しジャッキ(第二中押しジャッキ)
60:中押し推進システム
70:函体
G:地盤
T:立坑
K:切羽
P:切羽圧力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9