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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置の軸方向隙間測定方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 43/04 20060101AFI20240105BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240105BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20240105BHJP
   G01B 5/08 20060101ALI20240105BHJP
   G01B 5/02 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
F16C43/04
F16C19/18
B60B35/02 B
G01B5/08
G01B5/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021076381
(22)【出願日】2021-04-28
(62)【分割の表示】P 2019185251の分割
【原出願日】2019-10-08
(65)【公開番号】P2021139502
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 暢克
(72)【発明者】
【氏名】後藤 聡
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-021613(JP,A)
【文献】特開2006-144949(JP,A)
【文献】特開平10-185717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 43/04
F16C 19/18
B60B 35/02
G01B 5/08
G01B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
外周に軸方向に延びる小径段部を有したハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
を備えた車輪用軸受装置の軸方向隙間測定方法であって、
前記ハブ輪の前記小径段部に対して、前記内輪を、軸方向において前記内輪が前記ハブ輪に当接する手前の位置まで圧入し、前記内輪と前記ハブ輪との軸方向隙間を軸方向正隙間として測定する仮圧入工程と、
前記ハブ輪の前記小径段部に対して、前記内輪を、軸方向において前記内輪が前記ハブ輪に当接する位置まで圧入する圧入工程と、
前記圧入工程における前記内輪の軸方向への押込量を前記軸方向正隙間から引くことで、前記内輪の圧入後における前記内輪と前記ハブ輪との第1の軸方向負隙間を測定する第1の軸方向負隙間測定工程と、
前記第1の軸方向負隙間測定工程後に、前記小径段部のインナー側端部を前記内輪に加締める加締工程と、
前記圧入工程後から前記加締工程後までの前記内輪の外径の拡径量である第1の内輪外径拡径量を測定する第1の内輪外径拡径量測定工程と、
前記内輪の軸方向への押込量である内輪押込量と、前記内輪の外径拡径量である内輪外径拡径量との関係に基づき、前記圧入工程後から前記加締工程後までの前記内輪の軸方向への押込量を当該内輪押込量に当て嵌め、前記内輪外径拡径量を第2の内輪外径拡径量として算出する第2の内輪外径拡径量算出工程と、
前記第1の内輪外径拡径量と前記第2の内輪外径拡径量との差分である外径拡径量差分を算出する外径拡径量差分算出工程と、
前記内輪外径拡径量と、前記内輪と前記ハブ輪との軸方向隙間の減少量である軸方向隙間減少量との関係に基づき、前記外径拡径量差分算出工程において算出した前記外径拡径量差分を、当該内輪外径拡径量に当て嵌め、前記軸方向隙間減少量を第1の軸方向隙間減少量として算出する第1の軸方向隙間減少量算出工程と、
前記内輪押込量と前記軸方向隙間減少量との関係に基づき、前記圧入工程後から前記加締工程後までの前記内輪の軸方向における押込量を、当該内輪押込量に当て嵌め、前記軸方向隙間減少量を第2の軸方向隙間減少量として算出する第2の軸方向隙間減少量算出工程と、
前記第2の軸方向隙間減少量算出工程において算出した前記第2の軸方向隙間減少量に、前記第1の軸方向隙間減少量算出工程において算出した前記第1の軸方向隙間減少量を加えることにより、第3の軸方向隙間減少量を算出する第3の軸方向隙間減少量算出工程と、
前記第1の軸方向負隙間測定工程において測定した前記第1の軸方向負隙間に、前記第3の軸方向隙間減少量算出工程において算出した前記第3の軸方向隙間減少量を加えることにより、前記車輪用軸受装置の軸方向負隙間を算出する軸方向負隙間算出工程とを備える、
ことを特徴とする車輪用軸受装置の軸方向隙間測定方法。
【請求項2】
前記第1の内輪外径拡径量測定工程では、
前記内輪の軸方向におけるインナー側端面と前記内側軌道面との間の外周面のうち、前記インナー側端面よりも前記内側軌道面に近い位置で前記第1の内輪外径拡径量を測定する
ことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置の軸方向隙間測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置の軸方向隙間測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。このような車輪用軸受装置においては、軸受装置を構成する転動体と軌道輪との間に予圧が付与されている。
【0003】
軸受装置に予圧を付与することにより、軸受装置の剛性を高めるとともに振動および騒音を抑制することができる。しかし、予圧を過大に付与すると回転トルクの増加や寿命の低下を招く原因となり得るため、軸受装置に適正な予圧が付与されているかどうかを確認することが重要である。
【0004】
軸受装置に付与されている予圧を確認する方法としては、例えば特許文献1に開示されるように、複列に転動体が設けられた転がり軸受において、ハブ輪とハブ輪に圧入された内輪との間の軸方向における負隙間を測定することによって、当該軸受に付与された予圧を測定する予圧測定方法が知られている。
【0005】
上述のように、軸方向における負隙間を測定する場合、軸方向の負隙間はハブ輪を加締める際に内輪が軸方向へ押し込まれることによって変化するため、ハブ輪の加締め前後における内輪の押し込み量に基づいて、軸方向の負隙間を求めることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-185717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本出願人の鋭意研究の結果、ハブ輪を加締める際には内輪の外径が拡径し、内輪の外径が拡径することにより、軸方向の負隙間が影響を受けて変動することが判明した。これにより、ハブ輪の加締め前後における軸方向の負隙間の変化量を、内輪の押し込み量のみに基づいて求めるだけでは、軸方向における負隙間を高精度に測定することが困難であることがわかった。
【0008】
そこで、本発明においては、車輪用軸受装置における軸方向の負隙間を高精度に測定することができる、車輪用軸受装置の軸方向隙間測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、第一の発明は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、外周に軸方向に延びる小径段部を有したハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、を備えた車輪用軸受装置の軸方向隙間測定方法であって、前記ハブ輪の前記小径段部に対して、前記内輪を、軸方向において前記内輪が前記ハブ輪に当接する位置まで圧入する圧入工程と、前記圧入工程後における前記内輪と前記ハブ輪との第1の軸方向負隙間を測定する第1の軸方向負隙間測定工程と、前記第1の軸方向負隙間測定工程後に、前記小径段部のインナー側端部を前記内輪に加締める加締工程と、前記圧入工程後から前記加締工程後までの前記内輪の軸方向への押込量である内輪押込量を測定する内輪押込量測定工程と、前記圧入工程後から前記加締工程後までの前記内輪の外径の拡径量である第1の内輪外径拡径量を測定する第1の内輪外径拡径量測定工程と、前記内輪押込量測定工程において測定した前記内輪押込量と、前記内輪の軸方向への押込量と前記内輪の外径拡径量との関係とから、第2の内輪外径拡径量を算出する第2の内輪外径拡径量算出工程と、前記第1の内輪外径拡径量と前記第2の内輪外径拡径量との差分である外径拡径量差分を算出する外径拡径量差分算出工程と、前記外径拡径量差分算出工程において算出した前記外径拡径量差分と、前記内輪の外径拡径量と前記内輪と前記ハブ輪との軸方向隙間の減少量である軸方向隙間減少量との関係とから、第1の軸方向隙間減少量を算出する第1の軸方向隙間減少量算出工程と、前記内輪押込量と、前記内輪の軸方向への押込量と前記内輪と前記ハブ輪との軸方向隙間の減少量である軸方向隙間減少量との関係とから、第2の軸方向隙間減少量を算出する第2の軸方向隙間減少量算出工程と、前記第2の軸方向隙間減少量算出工程において算出した前記第2の軸方向隙間減少量に、前記第1の軸方向隙間減少量算出工程において算出した前記第1の軸方向隙間減少量を加えることにより、第3の軸方向隙間減少量を算出する第3の軸方向隙間減少量算出工程と、前記第1の軸方向隙間測定工程において測定した前記第1の軸方向負隙間に、前記第3の軸方向隙間減少量を加えることにより、第2の軸方向負隙間を算出する第2の軸方向負隙間算出工程とを備える、ことを特徴とする車輪用軸受装置の軸方向隙間測定方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
即ち、第一の発明によれば、軸方向負隙間を高精度に測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】軸方向隙間測定方法が実施される車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
図2】軸方向隙間測定方法のフローを示す図である。
図3】内輪がハブ輪の小径段部に仮圧入された状態の車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
図4】内輪がハブ輪の小径段部に圧入された状態の車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
図5】ハブ輪が内輪に加締められている状態の車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
図6】ハブ輪が内輪に加締められるときに内輪の外径が拡径する様子を示す側面断面図である。
図7】ハブ輪を内輪に加締めた状態の車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
図8】内輪押込量の測定位置および内輪外径拡径量の測定位置を示す側面断面図である。
図9】内輪押込量と内輪外径拡径量との関係を示す図である。
図10】内輪外径拡径量と軸方向隙間減少量との関係を示す図である。
図11】内輪押込量と軸方向隙間減少量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[車輪用軸受装置]
以下に、図1を用いて、本発明に係る軸方向隙間測定方法が実施される車輪用軸受装置の一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。
【0014】
図1に示す車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は第3世代と称呼される構成を備えており、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ輪3および内輪4と、転動列である二列のインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6と、インナー側シール部材9およびアウター側シール部材10とを具備する。ここで、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、軸方向とは、車輪用軸受装置1の回転軸に沿った方向を表す。
【0015】
外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材9が嵌合可能なインナー側開口部2aが形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材10が嵌合可能なアウター側開口部2bが形成されている。外輪2の内周面には、インナー側の外側軌道面2cと、アウター側の外側軌道面2dとが形成されている。外輪2の外周面には、外輪2を車体側部材に取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体的に形成されている。車体取り付けフランジ2eには、車体側部材と外輪2とを締結する締結部材(ここでは、ボルト)が挿入されるボルト孔2gが設けられている。
【0016】
ハブ輪3のインナー側端部には、外周面にアウター側端部よりも縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3における小径段部3aのアウター側端部には肩部3eが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、ハブ輪3と車輪又はブレーキ部品とを締結するためのハブボルトが圧入されるボルト孔3fが設けられている。
【0017】
ハブ輪3には、外輪2のアウター側の外側軌道面2dに対向するようにアウター側の内側軌道面3cが設けられている。ハブ輪3における車輪取り付けフランジ3bの基部側には、アウター側シール部材10が摺接するリップ摺動面3dが形成されている。アウター側シール部材10は、外輪2とハブ輪3とによって形成された環状空間のアウター側開口端に嵌合している。ハブ輪3は、車輪取りつけフランジ3bよりもアウター側の端部にアウター側端面3gを有している。
【0018】
ハブ輪3の小径段部3aには、内輪4が設けられている。内輪4は、圧入および加締加工によりハブ輪3の小径段部3aに固定されている。内輪4は、転動列であるインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6に予圧を付与している。内輪4は、インナー側端部にインナー側端面4bを有しており、アウター側端部にアウター側端面4cを有している。ハブ輪3のインナー側端部には、内輪4のインナー側端面4bに加締められた加締部3hが形成されている。
【0019】
ハブ輪3のインナー側において、内輪4の外周面には内側軌道面4aが形成されている。内側軌道面4aは、外輪2のインナー側の外側軌道面2cに対向している。
【0020】
転動列であるインナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、転動体である複数のボール7が保持器8によって保持されることにより構成されている。インナー側ボール列5は、内輪4の内側軌道面4aと、外輪2のインナー側の外側軌道面2cとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列6は、ハブ輪3の内側軌道面3cと、外輪2のアウター側の外側軌道面2dとの間に転動自在に挟まれている。
【0021】
車輪用軸受装置1においては、外輪2と、ハブ輪3および内輪4と、インナー側ボール列5と、アウター側ボール列6とによって複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、車輪用軸受装置1は複列円錐ころ軸受によって構成されていてもよい。
【0022】
[軸方向隙間測定方法]
次に車輪用軸受装置1の軸方向隙間測定方法について説明する。図2に示すように、本実施形態における軸方向隙間測定方法は、仮圧入工程(S01)、圧入工程(S02)、第1の軸方向負隙間測定工程(S03)、加締工程(S04)、内輪押込量測定工程(S05)、第1の内輪外径拡径量測定工程(S06)、第2の内輪外径拡径量算出工程(S07)、外径拡径量差分算出工程(S08)、第1の軸方向隙間減少量算出工程(S09)、第2の軸方向隙間減少量算出工程(S10)、第3の軸方向隙間減少量算出工程(S11)、および第2の軸方向負隙間算出工程(S12)を備えている。軸方向隙間測定方法の各工程について、以下に説明する。
【0023】
(仮圧入工程)
図3に示すように、ハブ輪3は、軸方向が垂直方向となり、アウター側端面3gが下方に位置する姿勢で、支持台11に載置されている。支持台11にはハブ輪3のアウター側端面3gが接地している。支持台11に載置されたハブ輪3には、外輪2がインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6を介して回転可能に装着されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材10が嵌合されている。ハブ輪3と外輪2との間にはグリースが充填されている。
【0024】
仮圧入工程(S01)においては、支持台11に載置されたハブ輪3の小径段部3aに、内輪4を仮圧入する。内輪4の仮圧入は、内輪4を上方から小径段部3aに圧入し、内輪4のアウター側端面4cがハブ輪3の肩部3eに当接する手前で圧入を停止することにより行われる。ここで、内輪4の圧入作業は、例えば、油圧シリンダ又はエアシリンダ等の押込装置を用いて所定の圧力を作用させた状態で行われる。内輪4の仮圧入が完了した時点では、内輪4のアウター側端面4cとハブ輪3の肩部3eとの間には軸方向正隙間G0が存在している。なお、軸方向正隙間G0は、押込装置を用いて内輪4を仮圧入する前に、予め設定しておくことができる。
【0025】
仮圧入工程(S01)においては、軸方向正隙間G0と、内輪4の仮圧入後における、ハブ輪3のアウター側端面3gと内輪4のインナー側端面4bとの間の軸方向寸法H0とを測定する。軸方向寸法H0は、ダイヤルゲージ等の計測器12により測定することができる。
【0026】
(圧入工程)
仮圧入工程(S01)の後に圧入工程(S02)を実施する。図4に示すように、圧入工程(S02)においては、内輪4のアウター側端面4cがハブ輪3の肩部3eに当接する位置まで、内輪4を小径段部3aに圧入する。また、内輪4の小径段部3aへの圧入が完了した後に、内輪4の圧入後におけるハブ輪3のアウター側端面3gと内輪4のインナー側端面4bとの間の軸方向寸法H1を、計測器12により測定する。さらに、内輪4の小径段部3aへの圧入が完了した後に、内輪4の外径寸法D1を、計測器13により測定する。
【0027】
(第1の軸方向負隙間測定工程)
圧入工程(S02)の後に、第1の軸方向負隙間測定工程(S03)を実施する。第1の軸方向負隙間測定工程(S03)においては、軸方向寸法H0から軸方向寸法H1を引いた値を、軸方向正隙間G0から引くことで、内輪4の圧入後における内輪4とハブ輪3との第1の軸方向負隙間G1を求める(G1=G0-(H0-H1))。
【0028】
(加締工程)
第1の軸方向負隙間測定工程(S03)の後に加締工程(S04)を実施する。図5に示すように、加締工程(S04)においては、ハブ輪3における小径段部3aのインナー側端部を、加締具15によって内輪4のインナー側端面4bに加締める加締加工を行う。加締加工は、例えば揺動加締加工により行うことができる。
【0029】
加締加工を実施する場合、図6(a)に示す加締加工を開始する前の状態から、加締具15を小径段部3aのインナー側端部に当接させて加締加工を開始すると、図6(b)に示すように、小径段部3aが加締具15により外径側へ押し広げられる。また、小径段部3aに圧入されている内輪4の外周面4sが小径段部3aによって外径側へ拡径される。
【0030】
その後、小径段部3aが加締具15により加締められると、図6(c)に示すように、内輪4は軸方向におけるアウター側へ押し込まれるとともに、さらに外径側へ拡径される。つまり、加締加工を実施することにより、内輪4は、所定の押込量だけ軸方向へ押し込まれるとともに、所定の拡径量だけ外径側へ拡径される。このように、ハブ輪3の加締加工により内輪4が拡径されると、内輪4の軸方向への押込量が同じであっても、内輪4の拡径量に応じて内輪4とハブ輪3との軸方向負隙間に変動が生じる。
【0031】
図7に示すように、加締工程(S04)においては、小径段部3aの内輪4に対する加締加工が完了した後に、加締加工完了後におけるハブ輪3のアウター側端面3gと内輪4のインナー側端面4bとの間の軸方向寸法H2を、測定器12により測定する。また、加締加工完了後における内輪4の外径寸法D2を、計測器13により測定する。
【0032】
(内輪押込量測定工程)
加締工程(S04)の後に内輪押込量測定工程(S05)を実施する。内輪押込量測定工程(S05)においては、内輪4の圧入が完了した圧入工程(S02)後から、小径段部3aの加締加工が完了した加締工程(S04)後までの内輪4の軸方向における押込量Lを測定する。具体的には、押込量Lは、圧入工程(S02)において測定した軸方向寸法H1から、加締工程(S04)において測定した軸方向寸法H2を引くことにより求める(L=H1-H2)。
【0033】
この場合、軸方向寸法H1、H2は、計測器12の接触子を内輪4のインナー側端面4bに当接させて計測しており、図8に示すように、内輪4の押込量Lの測定位置は、内輪4のインナー側端面4bとなっている。
【0034】
(第1の内輪外径拡径量測定工程)
内輪押込量測定工程(S05)の後に第1の内輪外径拡径量測定工程(S06)を実施する。第1の内輪外径拡径量測定工程(S06)においては、圧入工程(S02)後から加締工程(S04)後までの内輪4の外径の拡径量である第1の内輪外径拡径量DE1を測定する。具体的には、第1の内輪外径拡径量DE1は、加締工程(S04)において測定した外径寸法D2から、圧入工程(S02)において測定した外径寸法D1を引くことにより求める(DE1=D2-D1)。
【0035】
この場合、外径寸法D1、D2は、計測器13の接触子を内輪4の外周面4sに当接させて計測しており、図8に示すように、第1の内輪外径拡径量DE1の測定位置は、内輪4の外周面4sとなっている。
【0036】
本実施形態においては、特に内輪4の軸方向におけるインナー側端面4bと内側軌道面4aとの間の外周面4sのうち、インナー側端面4bよりも内側軌道面4aに近い位置で、第1の内輪外径拡径量DE1を測定している。具体的には、外周面4sの、軸方向におけるインナー側端面4bと内側軌道面4aとの間の範囲Rのなかで、軸方向の中間点Roよりも内側軌道面4a側に位置する部分を、第1の内輪外径拡径量DE1の測定箇所としている。
【0037】
(第2の内輪外径拡径量算出工程)
第1の内輪外径拡径量測定工程(S06)の後に第2の内輪外径拡径量算出工程(S07)を実施する。第2の内輪外径拡径量算出工程(S07)においては、内輪押込量測定工程(S05)において測定した内輪押込量Lと、図9に示す内輪4の軸方向への押込量である内輪押込量と内輪4の外径拡径量である内輪外径拡径量との関係とから、第2の内輪外径拡径量DE2を算出する。具体的には、内輪押込量Lを、図9に示す内輪押込量と内輪外径拡径量との関係に当て嵌めることにより第2の内輪外径拡径量DE2を算出する。
【0038】
なお、図9に示す内輪押込量と内輪外径拡径量との関係は、車輪用軸受装置1の所定のサンプルについて、内輪押込量と内輪外径拡径量とを実際に測定すること等により求めたものである。また、この内輪押込量と内輪外径拡径量との関係は、車輪用軸受装置1の仕様毎に求めることができる。
【0039】
(外径拡径量差分算出工程)
第2の内輪外径拡径量算出工程(S07)の後に、外径拡径量差分算出工程(S08)を実施する。外径拡径量差分算出工程(S08)においては、図9に示すように、第1の内輪外径拡径量測定工程(S06)において測定した第1の内輪外径拡径量DE1と、第2の内輪外径拡径量算出工程(S07)において算出した第2の内輪外径拡径量DE2との差分である外径拡径量差分ΔDEを算出する(ΔDE=DE2-DE1)。
【0040】
(第1の軸方向隙間減少量算出工程)
外径拡径量差分算出工程(S08)の後に、第1の軸方向隙間減少量算出工程(S09)を実施する。第1の軸方向隙間減少量算出工程(S09)においては、図10に示すように、外径拡径量差分算出工程(S08)において算出した外径拡径量差分ΔDEと、内輪4の外径拡径量である内輪外径拡径量と内輪4とハブ輪3との軸方向隙間の減少量である軸方向隙間減少量との関係とから、第1の軸方向隙間減少量ΔGaを算出する。具体的には、外径拡径量差分ΔDEを、図10に示す内輪外径拡径量と軸方向隙間減少量との関係に当て嵌めることにより第1の軸方向隙間減少量ΔGaを算出する。
【0041】
つまり、第1の軸方向隙間減少量算出工程(S09)においては、外径拡径量差分ΔDEを、図10に示す内輪外径拡径量と軸方向隙間減少量との関係を用いて第1の軸方向隙間減少量ΔGaに換算している。
【0042】
なお、図10に示す内輪外径拡径量と軸方向隙間減少量との関係は、図9に示した内輪押込量と内輪外径拡径量との関係を求めるときに用いた車輪用軸受装置1のサンプルと同じサンプルについて、内輪外径拡径量と軸方向隙間減少量とを実際に測定すること等により求めたものである。また、この内輪外径拡径量と軸方向隙間減少量との関係は、車輪用軸受装置1の仕様毎に求めることができる。
【0043】
(第2の軸方向隙間減少量算出工程)
第1の軸方向隙間減少量算出工程(S09)の後に、第2の軸方向隙間減少量算出工程(S10)を実施する。第2の軸方向隙間減少量算出工程(S10)においては、図11に示すように、内輪押込量測定工程(S05)において測定した内輪押込量Lと、内輪4の軸方向への押込量である内輪押込量と内輪4とハブ輪3との軸方向隙間の減少量である軸方向隙間減少量との関係とから、第2の軸方向隙間減少量ΔGbを算出する。具体的には、内輪押込量Lを、図11に示す内輪押込量と軸方向隙間減少量との関係に当て嵌めることにより第2の軸方向隙間減少量ΔGbを算出する。
【0044】
なお、図11に示す内輪押込量と軸方向隙間減少量との関係は、図9に示した内輪押込量と内輪外径拡径量との関係を求めるときに用いた車輪用軸受装置1のサンプルと同じサンプルについて、内輪押込量と軸方向隙間減少量とを実際に測定すること等により求めたものである。また、この内輪押込量と軸方向隙間減少量との関係は、車輪用軸受装置1の仕様毎に求めることができる。
【0045】
(第3の軸方向隙間減少量算出工程)
第2の軸方向隙間減少量算出工程(S10)の後に、第3の軸方向隙間減少量算出工程(S11)を実施する。第3の軸方向隙間減少量算出工程(S11)においては、図11に示すように、第2の軸方向隙間減少量算出工程(S10)において算出した第2の軸方向隙間減少量ΔGbに、第1の軸方向隙間減少量算出工程(S09)において算出した第1の軸方向隙間減少量ΔGaを加えることにより、第3の軸方向隙間減少量ΔGcを算出する(ΔGc=ΔGb+ΔGa)。
【0046】
つまり、第3の軸方向隙間減少量算出工程(S11)においては、内輪押込量測定工程(S05)において測定した内輪押込量Lに対応する第2の軸方向隙間減少量ΔGbを、外径拡径量差分ΔDEに対応する第1の軸方向隙間減少量ΔGaを用いて補正することにより、第3の軸方向隙間減少量ΔGcを得ている。
【0047】
(第2の軸方向負隙間算出工程)
第3の軸方向隙間減少量算出工程(S11)の後に、第2の軸方向負隙間算出工程(S12)を実施する。第2の軸方向負隙間算出工程(S12)においては、第1の軸方向負隙間測定工程(S03)において測定した第1の軸方向負隙間G1に、第3の軸方向隙間減少量ΔGcを加えることにより、第2の軸方向負隙間G2を算出する。
【0048】
軸方向隙間測定方法においては、第2の軸方向負隙間算出工程(S12)において算出した第2の軸方向負隙間G2を、車輪用軸受装置1の加締加工後における内輪4とハブ輪3との軸方向負隙間の測定結果として用いる。
【0049】
軸方向隙間測定方法における測定結果である第2の軸方向負隙間G2は、加締加工前後における内輪4の押込量と、ハブ輪を加締加工する際の内輪4の外径拡径量とに基づいて求めたものである。
【0050】
車輪用軸受装置1の軸方向負隙間は、ハブ輪3を加締加工する際に拡径された内輪4の外径の影響を受けて変動するが、軸方向隙間測定方法において測定した第2の軸方向負隙間G2は、内輪4の押込量に加えて内輪4の外径拡径量を考慮した測定値となっている。
【0051】
従って、軸方向隙間測定方法においては、第2の軸方向負隙間G2を、内輪4の押込量のみに基づいて求めた場合に比べて、高精度に測定することが可能となっている。
【0052】
また、軸方向隙間測定方法においては、上述のように第1の内輪外径拡径量DE1を、内輪4の軸方向におけるインナー側端面4bと内側軌道面4aとの間の外周面4sのうち、インナー側端面4bよりも、軸方向負隙間を生じさせる内側軌道面4aに近い位置で測定している。従って、内輪4の押込量を、内輪4の外径拡径量を用いて高精度に補正することができ、車輪用軸受装置1の軸方向負隙間をさらに高精度に測定することが可能となっている。
【0053】
なお、本実施形態においては従動輪用の車輪用軸受装置1について説明したが、本軸方向隙間測定方法は、ハブ輪を加締加工する仕様の駆動輪用の車輪用軸受装置にも適用することができる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0055】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
2c (インナー側の)外側軌道面
2d (アウター側の)外側軌道面
3 ハブ輪
3a 小径段部
3c 内側軌道面
4 内輪
4a 内側軌道面
5 インナー側ボール列
6 アウター側ボール列
7 ボール
DE1 第1の内輪外径拡径量
DE2 第2の内輪外径拡径量
G1 第1の軸方向負隙間
G2 第2の軸方向負隙間
L 内輪押込量
S02 圧入工程
S03 第1の軸方向負隙間測定工程
S04 加締工程
S05 内輪押込量測定工程
S06 第1の内輪外径拡径量測定工程
S07 第2の内輪外径拡径量算出工程
S08 外径拡径量差分算出工程
S09 第1の軸方向隙間減少量算出工程
S10 第2の軸方向隙間減少量算出工程
S11 第3の軸方向隙間減少量算出工程
S12 第2の軸方向負隙間算出工程
ΔDE 外径拡径量差分
ΔGa 第1の軸方向隙間減少量
ΔGb 第2の軸方向隙間減少量
ΔGc 第3の軸方向隙間減少量
図1
図2
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図11