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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】銀光沢膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/023 20190101AFI20240105BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240105BHJP
   B32B 5/16 20060101ALI20240105BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B32B7/023
C09D201/00
B32B5/16
B32B27/18 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021085610
(22)【出願日】2021-05-20
(65)【公開番号】P2022008104
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2020092525
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021009675
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】片岡 大亮
(72)【発明者】
【氏名】黒田 雄介
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006946(JP,A)
【文献】特開2019-206735(JP,A)
【文献】特開2019-111707(JP,A)
【文献】特開2009-106903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
C09D 1/00 - 10/00
C01D101/00 -201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の上に積層された銀光沢膜であって、
前記基材の上に積層され、かつ銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(a)で形成された界面層(A)と、
この界面層(A)の上に積層され、銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(b1)および第1樹脂(b2)を含む第1相と、銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(b3)および第2樹脂(b4)を含み、銀を含む金属の含有割合が前記第1相よりも少ない第2相とに相分離した相分離構造を有する中間層(B)と、
この中間層(B)の上に積層され、かつ銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(c)で形成された表面層(C)とで形成された銀光沢膜。
【請求項2】
前記中間層(B)の相分離構造が海島構造である請求項1記載の銀光沢膜。
【請求項3】
前記第1相または前記第2相が分散相であり、かつ前記分散相の平均径が30~500nmである請求項2記載の銀光沢膜。
【請求項4】
前記表面層(C)および前記界面層(A)の平均厚みが、それぞれ10~200nmであり、かつ前記中間層(B)の平均厚みが、前記表面層(C)の平均厚みに対して25~250倍である請求項1~3のいずれか一項に記載の銀光沢膜。
【請求項5】
銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子、第1樹脂、第2樹脂および溶剤を含む液状組成物を基材の上に塗布する塗布工程と、前記液状組成物で形成された塗膜を乾燥させ、スピノーダル分解により相分離させて銀光沢膜を得る相分離工程とを含む請求項1~4のいずれか一項に記載の銀光沢膜の製造方法。
【請求項6】
基材の上に、請求項1~4のいずれか一項に記載の銀光沢膜が積層された装飾体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の被加飾体をメタリック加飾するための銀光沢膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタリック加飾は、例えば、自動車の内装・外装部品、エンブレム、電子機器、化粧品の容器、ゴルフクラブのシャフトなどの幅広い分野で必要とされており、高級感を得るために、金属に匹敵する程の高度な金属光沢が求められている。特に、銀は光の反射率が高いことから美しい金属光沢(メタリック性、光輝性、鏡面性)を有し、高度な意匠性に好適な金属として期待されている。
【0003】
被加飾体に金属光沢を付与するための手法としては、箔押し、蒸着、銀鏡反応を利用した銀鏡メッキ、クロムメッキのほか、光輝顔料としてアルミニウム顔料を用いたインクや、金属ナノ粒子を含むインクによる印刷や塗布によって、基材に金属光沢層を形成する方法が挙げられる。
【0004】
箔押し、蒸着、銀鏡メッキ、クロムメッキは、金属に近い金属光沢を付与することができるが、製造工程が複雑であることや、専用の設備が必要であることから製造コストの面で不利な方法である。また、銀鏡メッキは、メッキ特有の白化、クラック、発色のムラの発生や、メッキを施す部分以外の部分がメッキされてしまうことによる不良率も高い。さらに、クロムメッキは環境に対する負荷が大きい。これらの手法に対して、インクを用いた印刷や塗布などの方法は、製造コストが安価で、適用できる基材も幅広く選択できる。
【0005】
インクの中でも、アルミニウム顔料(光輝顔料)を用いたインクよりも、金属ナノ粒子を含むインクによる金属光沢層の方が、金属光沢性に優れている。
【0006】
特開2009-227736号公報(特許文献1)には、金属ナノ粒子と分散剤とで形成された金属コロイド粒子;および溶媒(B)を含み、前記分散剤がカルボキシル基を有する有機化合物および高分子分散剤を含むインクジェット印刷用インキ組成物が記載されている。この文献には、バインダー樹脂(ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの親水性高分子など)などの添加剤を添加してもよいことも記載されている。
【0007】
特開2017-149942号公報(特許文献2)には、銀ナノ粒子と、カルボキシル基又はその塩を有する分散剤と、水性溶媒とを含み、被印刷体に印字または印刷するためのインキ組成物であって、固形分換算で、銀ナノ粒子100質量部に対して、被膜形成能を有する水溶性または水分散性高分子を1~30質量部の割合で含むインキ組成物が開示されている。
【0008】
特開2018-153965号公報(特許文献3)には、基材と、前記基材上に形成された金属光沢層とを有する画像形成物において、前記金属光沢層は、金属ナノ粒子と、前記金属ナノ粒子の表面に吸着した高分子分散剤と、バインダー樹脂と、を含み、前記高分子分散剤は、酸価が1以上80以下の化合物であり、前記バインダー樹脂は、SP値が23.0以上26.0以下の樹脂である画像形成物が開示されている。この文献には、前記バインダー樹脂、けん化度が72以上85以下のポリビニルアルコールが記載されている。
【0009】
特開2018-145319号公報(特許文献4)には、水、沸点が250℃以下の水溶性有機溶剤、光輝性顔料、及びビニルポリマーを含む第一の樹脂粒子、ならびに第二の樹脂粒子を含有するインクが開示されている。この文献には、光輝性顔料として銀コロイド粒子分散液が記載されている。
【0010】
特開2019-116522号公報(特許文献5)には、粒子径Dav90が45nm以下である銀粒子、ポリオール、シリコーン系界面活性剤、樹脂を含むインクが開示されている。この文献には、前記インクが水溶性樹脂または水分散性樹脂を含むことが記載されている。
【0011】
特開2017-2219号公報(特許文献6)には、アルコール溶媒中に高分子分散剤を溶解させるとともに、酸化銀および炭酸銀から選択される少なくとも1種の銀化合物を分散させたアルコール溶液を用い、前記アルコール溶液中に超音波を照射することにより得られた、銀ナノ粒子の分散溶液からなる銀鏡膜層形成用組成液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2009-227736号公報
【文献】特開2017-149942号公報
【文献】特開2018-153965号公報
【文献】特開2018-145319号公報
【文献】特開2019-116522号公報
【文献】特開2017-2219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献1~6に開示されている金属ナノ粒子を用いたインクでは、バインダーなどの樹脂量を多くすると金属光沢(銀光沢)が得られなくなるため、高い金属光沢を得るためには樹脂量を極力少なくする必要があった。樹脂量を少なくすると、基材との密着性、耐擦過性が低下するため、上塗り層、下塗り層との併用が必要であった。すなわち、金属光沢性と密着性とはトレードオフの関係にあるため、簡便な方法で両特性を両立させるのは困難であった。
【0014】
従って、本発明の目的は、銀光沢性と密着性および耐擦過性とを両立できる銀光沢膜およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、基材(または被加飾体)の上に、銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(a)で形成された界面層(A)、銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(b1)および第1樹脂(b2)を含む第1相と、銀と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(b3)および第2樹脂(b4)を含み、銀の含有割合が前記第1相よりも少ない第2相とに相分離した相分離構造を有する中間層(B)、銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(c)で形成された表面層(C)が順次積層された構造を有することにより、銀光沢性と密着性および耐擦過性とを両立できることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明の銀光沢膜は、基材の上に積層された銀光沢膜であって、
前記基材の上に積層され、かつ銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(a)で形成された界面層(A)と、
この界面層(A)の上に積層され、銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(b1)および第1樹脂(b2)を含む第1相と、銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(b3)および第2樹脂(b4)を含み、銀を含む金属の含有割合が前記第1相よりも少ない第2相とに相分離した相分離構造を有する中間層(B)と、
この中間層(B)の上に積層され、かつ銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(c)で形成された表面層(C)とで形成されている。
【0017】
前記中間層(B)の相分離構造は海島構造であってもよい。前記第1相または前記第2相が分散相であり、かつ前記分散相の平均径が30~500nmであってもよい。前記表面層(C)および前記界面層(A)の平均厚みは、それぞれ10~200nmであってもよい。前記中間層(B)の平均厚みは、前記表面層(C)の平均厚みに対して25~250倍であってもよい。
【0018】
本発明には、銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子、第1樹脂、第2樹脂および溶剤を含む液状組成物を基材の上に塗布する塗布工程と、前記液状組成物で形成された塗膜を乾燥させ、スピノーダル分解により相分離させて銀光沢膜を得る相分離工程とを含む前記銀光沢膜の製造方法も含まれる。
【0019】
本発明には、基材の上に前記銀光沢膜が積層された装飾体も含まれる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、基材または被加飾体の上に、銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(a)で形成された界面層(A)、銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(b1)および第1樹脂(b2)を含む第1相と、銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(b3)および第2樹脂(b4)を含み、銀を含む金属の含有割合が前記第1相よりも少ない第2相とに相分離した相分離構造を有する中間層(B)、銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(c)で形成された表面層(C)が順次積層された構造を有しているため、銀光沢膜の銀光沢性と密着性および耐擦過性とを両立できる。詳しくは、被加飾体に対して、上塗り層や下塗り層などを別途形成することなく、高い密着性で銀光沢膜を形成できるため、簡便な方法で密着性を向上でき、耐擦過性も向上できる。さらに、膜表面が銀を含むナノ粒子が密な表面層を形成しているため、光の遮蔽性(非透過性)も大きく、銀光沢(鏡面)を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施例1で得られた銀光沢膜断面の透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す。
図2図2は、図1のTEM像における表面付近の拡大像である。
図3図3は、図1のTEM像における基材との界面付近の拡大像である。
図4図4は、図1のTEM像における膜厚みの中心付近の拡大像である。
図5図5は、実施例2で得られた銀光沢膜断面のTEM像を示す。
図6図6は、図5のTEM像における表面付近の拡大像である。
図7図7は、図5のTEM像における基材との界面付近の拡大像である。
図8図8は、図5のTEM像における膜厚みの中心付近の拡大像である。
図9図9は、実施例3で得られた銀光沢膜断面のTEM像を示す。
図10図10は、図9のTEM像における表面付近の拡大像である。
図11図11は、図9のTEM像における基材との界面付近の拡大像である。
図12図12は、図9のTEM像における膜厚みの中心付近の拡大像である。
図13図13は、実施例4で得られた銀光沢膜断面のTEM像を示す。
図14図14は、図13のTEM像における表面付近の拡大像である。
図15図15は、図13のTEM像における基材との界面付近の拡大像である。
図16図16は、図13のTEM像における膜厚みの中心付近の拡大像である。
図17図17は、実施例5で得られた銀光沢膜断面のTEM像を示す。
図18図18は、図17のTEM像における表面付近の拡大像である。
図19図19は、図17のTEM像における基材との界面付近の拡大像である。
図20図20は、図17のTEM像における膜厚みの中心付近の拡大像である。
図21図21は、実施例6で得られた銀光沢膜断面のTEM像を示す。
図22図22は、図21のTEM像における表面付近の拡大像である。
図23図23は、図21のTEM像における基材との界面付近の拡大像である。
図24図24は、図21のTEM像における膜厚みの中心付近の拡大像である。
図25図25は、実施例7で得られた銀光沢膜断面のTEM像を示す。
図26図26は、図25のTEM像における表面付近の拡大像である。
図27図27は、図25のTEM像における基材との界面付近の拡大像である。
図28図28は、図25のTEM像における膜厚みの中心付近の拡大像である。
図29図29は、実施例8で得られた銀光沢膜断面のTEM像を示す。
図30図30は、図29のTEM像における表面付近の拡大像である。
図31図31は、図29のTEM像における基材との界面付近の拡大像である。
図32図32は、図29のTEM像における膜厚みの中心付近の拡大像である。
図33図33は、比較例1で得られた銀光沢膜断面のTEM像を示す。
図34図34は、図33のTEM像における表面付近の拡大像である。
図35図35は、図33のTEM像における基材との界面付近の拡大像である。
図36図36は、図33のTEM像における膜厚みの中心付近の拡大像である。
図37図37は、比較例2で得られた銀光沢膜断面のTEM像を示す。
図38図38は、図37のTEM像における表面付近の拡大像である。
図39図39は、図37のTEM像における基材との界面付近の拡大像である。
図40図40は、図37のTEM像における膜厚みの中心付近の拡大像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[銀光沢膜]
本発明の銀光沢膜は、被加飾体(基材)の上に、界面層(A)、中間層(B)、表面層(C)が順次積層された構造を有しており、このような積層構造により、金属光沢性(銀光沢性)と耐擦過性とを両立できるメカニズムは、以下のように推定できる。
【0023】
すなわち、中間層(B)では、相対的に複合体ナノ粒子を多く含む相と、少量しか含まない相とに相分離した相分離構造(海島構造、共連続構造など)が形成されるとともに、表面層(C)および界面層(A)では複合体ナノ粒子が配列または配向する構造を有することによって、遮蔽効果(非透過性)が高くなり、高度な銀光沢(鏡面)が発現している。
【0024】
これに対して、樹脂成分が1種類のみである従来の銀光沢膜では、膜の内部では、全体に亘って、銀を含むナノ粒子などの金属粒子が均一に分散する(銀を含むナノ粒子が偏在しない)ため、光を遮蔽できるような金属粒子が集中する領域がないため、光が透過し易く、銀光沢が得られないと推測できる。なお、樹脂成分の相分離はない場合であっても、金属粒子と樹脂成分とが相分離することがあり、この場合は、白濁が生じて金属光沢を消失していると推定できる。
【0025】
また、銀光沢膜では、銀光沢性に加えて密着性および耐擦過性も必要となる。樹脂成分(バインダー)を用いることで密着性および耐擦過性を向上できるが、その反面、樹脂成分を多くするほど銀の割合が減るために、銀による光の遮蔽効果が減少して銀光沢は低下する。本発明では、中間層において、2種類の樹脂成分によって複合体ナノ粒子が偏在し、光を遮蔽できる相(相対的に複合体ナノ粒子を多く含む相)が形成されるため、多量の樹脂成分を配合しても、高い銀光沢が発現する。すなわち、高度な銀光沢を維持したまま、多量の樹脂成分を配合することにより、密着性、耐擦過性を向上できる。さらに、上塗りや下塗りは不要となり、シンプルな構造となって生産性も向上する上に、様々な被加飾体(基材または成形体)に塗布することが可能となる。
【0026】
これに対して、従来の銀光沢膜では、樹脂成分の割合が少ないと(銀に対する樹脂成分の量が約10質量%以下になると)、光沢性は高いが、密着性、耐擦過性が低くなり、上塗り層および下塗り層が必要になる場合が多かった。一方、樹脂成分の割合が多いと(銀に対する樹脂成分の量が約10質量%以上になると)、密着性および耐擦過性は向上するが、光沢性は低下した。そのため、従来の銀光沢性インクでは、銀に対する樹脂量を少量に留める必要があり、銀に対する樹脂成分の量は、多くても10質量%程度であり、シンプルな構造で密着性および耐擦過性を向上することはできなかった。
【0027】
(A)界面層
界面層(A)は、銀を含む金属(銀含有金属)と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(a)で形成されており、前記複合体ナノ粒子(a)が基材との界面において配列または配向することにより、銀を含む金属が密な薄膜(銀含有金属薄膜)を形成している。本発明では、基材との界面において、このような界面層(A)が形成されることにより、透明基材などにおいては裏面からの銀光沢性を向上できる。
【0028】
界面層(A)の平均厚みは300nm以下であってもよく、例えば3~300nm、好ましくは10~200nm、さらに好ましくは10~100nm、より好ましくは15~50nm、最も好ましくは20~40nmである。界面層(A)の平均厚みが厚すぎると、密着性が低下する虞がある。
【0029】
なお、本願において、界面層(A)の平均厚みは、銀光沢膜断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0030】
(a)複合体ナノ粒子
前記複合体ナノ粒子(a)において、銀を含む金属と保護コロイドとの複合形態は、特に限定されず、銀含有金属ナノ粒子の表面に付着または配位した複合体であってもよく、銀含有金属ナノ粒子の表面を被覆した複合体であってもよい。銀含有金属ナノ粒子は、保護コロイド(または分散剤)に対する配位性が高いため、保護コロイドが銀含有金属ナノ粒子の表面に配位することにより、銀含有金属ナノ粒子を被覆した複合体であってもよい。銀含有金属ナノ粒子は、保護コロイドで複合化されていると、銀含有金属ナノ粒子の分散安定性を向上できるとともに、樹脂成分との親和性を調整し易くなり、相分離構造を形成できる。
【0031】
(銀含有金属ナノ粒子)
銀含有金属ナノ粒子はナノメーターサイズである。銀含有金属ナノ粒子の数平均粒径(数平均一次粒径)は、例えば1~100nm(例えば2~80nm)、好ましくは3~70nm(例えば4~50nm)、さらに好ましくは5~40nm(特に10~30nm)である。
【0032】
銀含有金属ナノ粒子は、前記平均粒径を有するとともに、200nm以下の範囲で広い粒度分布を示すが、200nmを超える粗大粒子を殆ど含んでいなくてもよい。そのため、前記銀含有金属ナノ粒子の最大一次粒径は、例えば、200nm以下、好ましくは150nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。
【0033】
銀含有金属ナノ粒子において、一次粒子径が100nm以上の粒子の割合は、質量基準で、例えば10質量%以下(例えば0~8質量%)、好ましくは5質量%以下(例えば0.01~3質量%)、さらに好ましくは1質量%以下(例えば0.02~0.5質量%)である。
【0034】
なお、本願において、銀含有金属ナノ粒子の粒径および粒度分布は、透過型電子顕微鏡を用いて測定でき、平均粒径は、任意の10個の平均値として示す。
【0035】
(銀を含む金属)
銀を含む金属(銀含有金属)は、銀単体であってもよく、銀と他の金属との合金であってもよい。他の金属としては、銀と合金化できれば特に限定されないが、例えば、Cr、Mo、W、Ni、Pd、Pt、Cu、Au、Zn、In、Sn、Pbなどが挙げられる。これら他の金属は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これら他の金属のうち、Cuが好ましい。
【0036】
銀含有金属のうち、銀の割合は、銀含有金属中50質量%以上であってもよく、例えば90質量%以上、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上、より好ましくは99質量%以上であり、最も好ましくは100質量%(銀単体)である。銀の割合が低すぎると、銀光沢性が低下する虞がある。
【0037】
(保護コロイド)
保護コロイドは、分散剤であってもよく、非揮発性分散剤である場合が多い。特に、保護コロイドは、カルボキシル基またはその塩を有する高分子分散剤を含むのが好ましい。なお、本願において、カルボキシル基には、酸無水物基の形態であるカルボキシル基も含まれる。
【0038】
前記高分子分散剤(または高分子型分散剤)は、少なくともカルボキシル基を有し、銀含有金属ナノ粒子を分散可能であればよく、両親媒性の高分子分散剤(またはオリゴマー型分散剤)であってもよい。
【0039】
前記高分子分散剤としては、通常、塗料、インキ分野などで着色剤の分散に用いられている高分子分散剤が例示できる。代表的な高分子分散剤(両親媒性の高分子分散剤)としては、親水性モノマーで形成された親水性ユニット(または親水性ブロック)を含む水溶性または水分散性樹脂が含まれる。
【0040】
前記親水性モノマーとしては、例えば、カルボキシル基含有単量体((メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸などの不飽和多価カルボン酸またはその酸無水物など)、スルホ基を有する単量体(スチレンスルホン酸など)、ヒドロキシル基含有単量体(2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ビニルフェノールなど)などの付加重合性モノマー;エチレンオキシドなどの縮合重合性モノマーなどが例示できる。前記縮合重合性モノマーは、ヒドロキシル基などの活性水素(例えば、前記ヒドロキシル基)との反応により、親水性ユニット(またはブロック)を形成していてもよい。親水性モノマーは、単独でまたは2種以上組み合わせて親水性ユニット(またはブロック)を形成していてもよい。好ましい親水性モノマーは、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、エチレンオキシドである。
【0041】
なお、前記高分子分散剤は、少なくともカルボキシル基を有していればよく、前記親水性モノマーの官能基、例えば、酸基(スルホ基)、ヒドロキシル基を有していてもよい。これらの官能基は、単独でまたは2種以上組み合わせて高分子分散剤に導入してもよい。
【0042】
高分子分散剤は、少なくとも親水性ユニット(または親水性ブロック)を含んでいてもよく、親水性モノマーの単独または共重合体(例えば、ポリアクリル酸またはその塩など)であってもよく、親水性モノマーと疎水性モノマーとのコポリマーであってもよい。疎水性モノマー(非イオン性モノマー)としては、(メタ)アクリル酸エステル[(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸C1-20アルキル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸シクロアルキル、(メタ)アクリル酸フェニルなどの(メタ)アクリル酸アリール、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-フェニルエチルなどの(メタ)アクリル酸アラルキルなど]などの(メタ)アクリル系モノマー;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン系モノマー;α-C2-20オレフィン(エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ドデセンなど)などのオレフィン系モノマー;酢酸ビニル、酪酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル系モノマーなどの付加重合性モノマー;プロピレンオキシドなどのC3-6アルキレンオキシドなどの縮合重合性モノマーが挙げられる。疎水性モノマーは、単独でまたは2種以上組み合わせて疎水性ユニットを構成していてもよい。
【0043】
コポリマー(例えば、親水性モノマーと疎水性モノマーとのコポリマー)の高分子分散剤は、ランダムコポリマー、交互共重合体、ブロックコポリマー(例えば、親水性モノマーで構成された親水性ブロックと、疎水性モノマーで構成された疎水性ブロックとで構成されたコポリマー)、櫛型コポリマー(または櫛型グラフトコポリマー)などであってもよい。前記ブロックコポリマーの構造は、特に限定されず、ジブロック構造、トリブロック構造(ABA型、BAB型)などであってもよい。また、前記櫛型コポリマーにおいて、主鎖は、前記親水性ブロックまたは前記疎水性ブロックで形成してもよく、親水性ブロックおよび疎水性ブロックで形成してもよい。親水性ブロックおよび疎水性ブロックのブロック共重合体は、銀光沢性も向上できる。
【0044】
なお、前記のように、親水性ユニットは、親水性ブロック(ポリエチレンオキシドなどのポリアルキレンオキシドなど)で形成することもできる。親水性ブロック(ポリアルキレンオキシドなど)と疎水性ブロック(ポリオレフィンブロックなど)とは、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ウレタン結合などの連結基を介して結合していてもよい。これらの結合は、例えば、疎水性ブロック(ポリオレフィンなど)を変性剤[不飽和カルボン酸またはその無水物((無水)マレイン酸など)、ラクタムまたはアミノカルボン酸、ヒドロキシルアミン、ジアミンなど]で変性した後、親水性ブロックを導入することにより形成してもよい。また、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水性基を有するモノマー(前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなど)から得られるポリマーと、前記縮合系の親水性モノマー(エチレンオキシドなど)とを反応(または結合)させることにより、櫛型コポリマー(主鎖が疎水性ブロックで構成された櫛型コポリマー)を形成してもよい。
【0045】
さらに、共重合成分として、親水性の非イオン性モノマーを使用することにより、親水性と疎水性とのバランスを調整してもよい。このような成分としては、2-(2-メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(例えば、数平均分子量200~1,000)などのエチレンオキシユニットを有するモノマーまたはオリゴマーなどを例示できる。また、親水性基(カルボキシル基など)を変性(例えば、エステル化)することにより親水性と疎水性とのバランスを調整してもよい。
【0046】
カルボキシル基を有する高分子分散剤において、カルボキシル基は塩や酸無水物基であってもよく、例えば、少なくとも一部のカルボキシル基は、塩(アミンとの塩、金属塩など)を形成していてもよいが、カルボキシル基などの酸基が塩を形成していない高分子分散剤[すなわち、遊離のカルボキシル基を有する高分子分散剤]を好適に使用できる。
【0047】
カルボキシル基を有する高分子分散剤の酸価は、例えば1mgKOH/g以上(例えば2~100mgKOH/g)、好ましくは3mgKOH/g以上(例えば4~90mgKOH/g)、さらに好ましくは5mgKOH/g以上(例えば6~80mgKOH/g)、より好ましくは7mgKOH/g以上(例えば8~50mgKOH/g)であってもよく、通常3~30mgKOH/g(特に5~20mgKOH/g)である。なお、このような高分子分散剤において、アミン価は0(またはほぼ0)であってもよい。
【0048】
なお、前記高分子分散剤において、官能基の位置は、特に限定されず、主鎖であってもよく、側鎖であってもよく、主鎖および側鎖に位置していてもよい。このような官能基は、例えば、親水性モノマーまたは親水性ユニット由来の官能基(例えば、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、エチレンオキサイドなどの共重合により導入された官能基)であってもよい。
【0049】
カルボキシル基を有する高分子分散剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0050】
なお、高分子分散剤として、特開2004-207558号公報などに記載の高分子分散剤(高分子量顔料分散剤)を使用してもよい。また、高分子分散剤は、合成してもよく、市販品を用いてもよい。以下に、市販の高分子分散剤(または少なくとも両親媒性の分散剤で構成された分散剤)を具体的に例示すると、ソルスパース13240、ソルスパース13940、ソルスパース32550、ソルスパース31845、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000、ソルスパース41090などのソルスパースシリーズ[アビシア(株)製];ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック164、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック191、ディスパービック192、ディスパービック193、ディスパービック194、ディスパービック2001、ディスパービック2015、ディスパービック2050などのディスパービックシリーズ[ビックケミー(株)製];EFKA-46、EFKA-47、EFKA-48、EFKA-49、EFKA-1501、EFKA-1502、EFKA-4540、EFKA-4550、ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453[EFKAケミカル(株)製];アジスパーPB711、アジスパーPAl11、アジスパーPB811、アジスパーPB821、アジスパーPW911などのアジスパーシリーズ[味の素(株)製];フローレンDOPA-158、フローレンDOPA-22、フローレンDOPA-17、フローレンTG-700、フローレンTG-720W、フローレン-730W、フローレン-740W、フローレン-745Wなどのフローレンシリーズ[共栄社化学(株)製];ジョンクリル678、ジョンクリル679、ジョンクリル62などのジョンクリルシリーズ[ジョンソンポリマー(株)製]などが挙げられる。代表的な高分子分散剤には、ディスパービック190、ディスパービック194、ディスパービック2015などが挙げられる。
【0051】
前記高分子分散剤の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したとき、ポリスチレン換算で、例えば1,500~100,000、好ましくは2,000~80,000(例えば2,000~60,000)、さらに好ましくは3,000~50,000(例えば5,000~30,000)、より好ましくは7,000~20,000である。
【0052】
カルボキシル基を有する高分子分散剤は、ヒドロキシル基を有さない高分子分散剤であってもよい。
【0053】
保護コロイドの割合は、銀含有金属100質量部に対して、例えば0.1~100質量部(特に1~50質量部)である。カルボキシル基を有する高分子分散剤の割合は、銀含有金属100質量部に対して、例えば0.1~60質量部(例えば1~50質量部)程度の範囲から選択でき、通常2~40質量部(例えば2.5~30質量部)、さらに好ましくは3~25質量部(特に5~20質量部)である。
【0054】
なお、本願において、複合体ナノ粒子(a)中の保護コロイドの割合は、慣用の方法、例えば、熱分析(例えば、熱重量/示差熱同時分析など)により、測定することができる。
【0055】
保護コロイドは、必要であれば、他の分散剤を含んでいてもよく、他の分散剤は、無機化合物であってもよいが、通常、有機化合物である。他の分散剤としては、例えば、アルカノール類(ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、オクタデカノールなどのC6-20アルカンモノオール)、アルデヒド類(カプリルアルデヒド、ラウリルアルデヒド、パルミトアルデヒドなどのC6-20脂肪族アルデヒド)、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、高級脂肪酸またはその塩、スルホン酸類(アルカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸などのアレーンスルホン酸など)が挙げられる。これらの他の分散剤は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。
【0056】
他の分散剤の割合は、前記高分子分散剤100質量部に対して、例えば0.1~100質量部、好ましくは0.5~50質量部、さらに好ましくは1~30質量部である。
【0057】
前記複合体ナノ粒子の製造方法は、特に限定されず、慣用の方法、例えば、銀含有金属が銀単体である場合、銀ナノ粒子に対応する銀化合物を、保護コロイドおよび還元剤の存在下、溶媒中で還元することにより調製できる。具体的な製造方法としては、例えば、特開2010-80442号公報や特開2010-229544号公報に記載の方法などが挙げられる。
【0058】
(B)中間層
中間層(B)は、銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(b1)および第1樹脂(b2)を含む第1相と、銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(b3)および第2樹脂(b4)を含み、銀含有金属の含有割合が前記第1相よりも少ない第2相とに相分離した相分離構造を有している。銀含有金属の濃度が異なる相分離構造を有することにより、樹脂成分の割合を高めても、銀光沢性を向上でき、銀光沢性と密着性および耐擦過性とを両立できる。
【0059】
(第1相)
第1相において、前記複合体ナノ粒子(b1)は、好ましい態様も含め、前記界面層(A)の項で記載された前記複合体ナノ粒子(a)と同様であり、通常、前記複合体ナノ粒子(a)と同一である。
【0060】
第1樹脂(b2)としては、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン系樹脂などが挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましく、(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂が特に好ましい。
【0061】
(メタ)アクリル系樹脂は、特に限定されないが、例えば(メタ)アクリル系単量体の単独または共重合体、(メタ)アクリルポリオール、変性(メタ)アクリル系樹脂であってもよい。
【0062】
(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸C1-20アルキル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸シクロアルキル;(メタ)アクリル酸フェニルなどの(メタ)アクリル酸アリール;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-フェニルエチルなどの(メタ)アクリル酸アラルキル;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシC1-4アルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリル系単量体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸C1-4アルキル;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシC2-3アルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0063】
(メタ)アクリル系樹脂は、これらの単量体の単独重合体であってもよいが、共重合体が好ましい。共重合体としては、2種以上の前記(メタ)アクリル系単量体の共重合体であってもよく、前記(メタ)アクリル系単量体と共重合性単量体との共重合体であってもよい。共重合性単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン系単量体;α-C2-20オレフィン(エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ドデセンなど)などのオレフィン系単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル系単量体などの付加重合性単量体などが挙げられる。これらの共重合性単量体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、スチレンなどのスチレン系単量体が好ましい。
【0064】
(メタ)アクリル系樹脂が(メタ)アクリル系単量体とスチレン系単量体との共重合体(特に、メタクリル系単量体とスチレン系単量体との共重合体)である場合、(メタ)アクリル系単量体とスチレン系単量体とのモル比は、前者/後者=95/5~5/95、好ましくは90/10~10/90、さらに好ましくは80/20~20/80、より好ましくは70/30~30/70である。
【0065】
(メタ)アクリルポリオールとしては、分子内に2以上の水酸基を有する(メタ)アクリル系ポリマーであれば、特に制限されず、例えば、前記(メタ)アクリル系樹脂の単量体としてヒドロキシC2-3アルキル(メタ)アクリレートを含む(メタ)アクリル系樹脂であってもよい。
【0066】
変性(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、ポリエステル(メタ)アクリレートなどのポリエステル変性(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン(メタ)アクリレートなどのポリウレタン変性(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ(メタ)アクリレートなどのエポキシ変性(メタ)アクリル系樹脂、シリコーン(メタ)アクリレートなどのシリコーン変性(メタ)アクリル系樹脂などが挙げられる。これらの変性(メタ)アクリル系樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0067】
これらの(メタ)アクリル系樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、銀含有金属ナノ粒子(特に、複合体ナノ粒子)に対する親和性が高く、かつ用途に応じて硬化剤によって硬化し易い点から、水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂(特に、イソシアネート硬化型(メタ)アクリル系樹脂などの複数の水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂)が好ましく、水酸基およびスチレン単位を有する(メタ)アクリル系樹脂(例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート-メチル(メタ)アクリレート-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート-スチレン共重合体など)が特に好ましい。なお、水酸基の位置は、特に限定されず、主鎖であってもよく、側鎖であってもよく、主鎖および側鎖に位置していてもよい。
【0068】
(メタ)アクリル系樹脂の水酸基価は、例えば1mgKOH/g以上(例えば2~400mgKOH/g)、好ましくは3mgKOH/g以上(例えば4~300mgKOH/g)、さらに好ましくは5mgKOH/g以上(例えば6~200mgKOH/g)、より好ましくは7mgKOH/g以上(例えば8~150mgKOH/g)であってもよく、通常10~150mgKOH/g(特に50~100mgKOH/g)である。
【0069】
後述する第2樹脂(b4)が(メタ)アクリル系である場合、第1樹脂(b2)の(メタ)アクリル系樹脂の水酸基価は、15mgKOH/g以上であってもよく、例えば15~400mgKOH/g、好ましくは30~300mgKOH/g、さらに好ましくは50~200mgKOH/g、より好ましくは70~150mgKOH/g、最も好ましくは80~100mgKOH/gである。
【0070】
(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したとき、ポリスチレン換算で、例えば1,000~100,000、好ましくは2,000~80,000(例えば3,000~50,000)、さらに好ましくは5,000~30,000(例えば10,000~20,000)、より好ましくは12,000~16,000である。
【0071】
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は、例えば0~120℃、好ましくは40~110℃、より好ましくは50~100℃、最も好ましくは60~90℃である。なお、本願において、ガラス転移温度は、示差走査熱量計を用いて測定できる。
【0072】
(メタ)アクリル系樹脂は、カルボキシル基またはその塩を有さない(メタ)アクリル系樹脂であってもよい。
【0073】
ポリビニルアセタール系樹脂は、ポリ酢酸ビニルをケン化したポリビニルアルコールと、アルデヒド(特に、n-ブチルアルデヒド)とを反応(アセタール化反応)させて得られる。アセタール化反応において、ポリビニルアルコールを完全にアセタール化(特に、ブチラール化)することはできないため、水酸基が残存し、またケン化の際にも少量のアセチル基が残存するため、ポリビニルアセタール系樹脂は、構成単位中にアセタール基、水酸基、アセチル基を有している。
【0074】
すなわち、前記ポリビニルアセタール系樹脂は、構成単位として、下記式(1)で表されるビニルアセタール単位、下記式(2)で表されるビニルアルコール単位、下記式(3)で表されるビニルエステル単位を含む。
【0075】
【化1】
【0076】
(式中、Rは水素原子または炭化水素基である)。
【0077】
前記式(1)において、Rで表される炭化水素基には、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基が含まれる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、ヘキシル基、2-エチルブチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル基などが挙げられる。シクロアルキル基としては、例えば、ヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。Rとして、これらの炭化水素基および水素原子は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0078】
これらのうち、Rとしては、水素原子またはアルキル基が好ましく、直鎖状または分岐鎖状C1-5アルキル基がさらに好ましく、直鎖状C2-4アルキル基がより好ましく、プロピル基が最も好ましい。すなわち、ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルホルマール系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂(ブチラール系樹脂)が好ましく、ポリビニルブチラール系樹脂が特に好ましい。
【0079】
ポリビニルアセタール系樹脂は、前記式(1)~(3)で表される構成単位に加えて、他の構成単位をさらに含んでいてもよい。他の構成単位としては、ラジカル重合性基を有する共重合性単量体由来の単位であればよい。
【0080】
共重合性単量体としては、例えば、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニルなどのC3-8アルカン酸-ビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテルなどのC1-6アルキル-ビニルエーテル;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ヘキセンなどのα-C2-6オレフィン;(メタ)アクリル酸およびその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピルなどの(メタ)アクリル酸C1-6アルキルエステル;(メタ)アクリルアミド;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸などの不飽和スルホン酸などが挙げられる。これらの共重合性単量体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0081】
また、ポリビニルアセタール系樹脂は、慣用の方法で修飾または変性されたポリビニルアセタール系樹脂であってもよい。
【0082】
ポリビニルアセタール系樹脂中における前記式(1)で表される単位の割合(アセタール化度)は5~95モル%(例えば10~90モル%)程度であり、用途に応じて、例えば20~90モル%、好ましくは30~85モル%であってもよく、また50モル%以上(例えば50~90モル%)、好ましくは60モル%以上(例えば60~85モル%)、さらに好ましくは70モル%以上(例えば70~80モル%)であってもよい。また、アセタール化度は、例えば9~98質量%、好ましくは25~95質量%、さらに好ましくは35~90質量%であってもよく、55質量%以上(例えば55~95質量%)、好ましくは65質量%以上(例えば65~90質量%)、さらに好ましくは70質量%以上(例えば70~80質量%)である。アセタール化度が小さすぎると、銀光沢性が低下する虞があり、逆に高すぎると、ポリビニルアセタール系樹脂の調製が困難となる虞がある。
【0083】
ポリビニルアセタール系樹脂中における前記式(2)で表される単位(水酸基を有する単位)の割合は10~50モル%(例えば15~40モル%)であってもよく、好ましくは20~35モル%、さらに好ましくは23~27モル%である。また、ポリビニルアセタール系樹脂中における前記式(2)で表される単位の割合は5~40質量%(例えば12~30質量%)であってもよく、好ましくは15~25質量%、さらに好ましくは18~23質量%である。式(2)で表される単位の割合が少なすぎると、樹脂成分としてポリビニルアセタール系樹脂を単独で使用した場合、銀光沢性が低下する虞があり、逆に多すぎても同様である。ポリビニルアセタール系樹脂は、銀含有金属ナノ粒子(特に、複合体ナノ粒子)に対する親和性が高く、かつ用途に応じて硬化剤によって硬化し易い点から、水酸基を有する単位を含むのが好ましい。
【0084】
ポリビニルアセタール系樹脂中における前記式(3)で表される単位(アセチル基を有する単位)の割合は、例えば15モル%以下、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下である。また、ポリビニルアセタール系樹脂中における前記式(3)で表される単位の割合は、例えば20質量%以下、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。前記式(3)で表される単位の割合が多すぎると、銀光沢性が低下する虞がある。
【0085】
ポリビニルアセタール系樹脂中における前記式(1)~(3)で表される構成単位の合計割合は、例えば80モル%以上、好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上であり、より好ましくは100モル%である。
【0086】
ポリビニルアセタール系樹脂中における共重合性単量体由来の割合は、例えば20モル%以下、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下である。
【0087】
なお、本願において、ポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度および各単位の割合は、慣用の方法を用いて測定でき、例えば、滴定法、IR法、NMR法などを用いて測定できる。また、ブチラール系樹脂の場合は、JIS K 6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法で測定できる。
【0088】
ポリビニルアセタール系樹脂(特に、ブチラール系樹脂)の重量平均分子量は、例えば5,000~100,000、好ましくは7,000~70,000、さらに好ましくは10,000~40,000、より好ましくは12,000~20,000である。分子量が小さすぎると、銀光沢膜の機械的特性が低下する虞があり、逆に高すぎると、製膜性が低下する虞がある。
【0089】
なお、本願において、ポリビニルアセタール系樹脂の重量平均分子量は、JIS K 0124-2011に記載の方法に準じ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。
【0090】
ポリビニルアセタール系樹脂(特に、ブチラール系樹脂)のガラス転移温度は50~130℃程度の範囲から選択でき、例えば60~125℃、好ましくは70~120℃、さらに好ましくは80~115℃、より好ましくは90~115℃である。ガラス転移温度が低すぎると、銀光沢膜の機械的特性が低下する虞があり、逆に高すぎると、製膜性が低下する虞がある。
【0091】
なお、本願において、ポリビニルアセタール系樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定できる。
【0092】
ポリビニルアセタール系樹脂(特に、ブチラール系樹脂)の10質量%溶液粘度(溶媒:トルエン/エタノール(質量比)=50/50)は、温度20℃において、回転粘度型(BM型)で測定したとき、2~20,000mPa・s(特に10~10,000mPa・s)程度の範囲から選択でき、用途に応じて、例えば5~1,000mPa・s(例えば10~500mPa・s)、好ましくは20~400mPa・s(例えば25~300mPa・s)、さらに好ましくは50~250mPa・s(例えば70~200mPa・s)であってもよく、また例えば3~150mPa・s(例えば5~100mPa・s)、好ましくは10~50mPa・s(特に10~30mPa・s)である。粘度が低すぎると、銀光沢膜の機械的特性が低下する虞があり、逆に高すぎると、製膜性が低下する虞がある。
【0093】
なかでも、銀光沢性に優れる点から、(メタ)アクリル系樹脂が最も好ましい。
【0094】
第1相において、銀含有金属の割合は、第1樹脂(b2)100質量部に対して、例えば20~20,000質量部、好ましくは50~10,000質量部、さらに好ましくは100~5,000質量部である。銀含有金属の割合が少なすぎると、遮蔽性が低下する虞があり、多すぎると、密着性および耐擦過性が低下する虞がある。
【0095】
(第2相)
第2相において、前記複合体ナノ粒子(b3)は、好ましい態様も含め、前記界面層(A)の項で記載された前記複合体ナノ粒子(a)と同様であり、通常、前記複合体ナノ粒子(a)と同一である。
【0096】
第2樹脂(b4)としては、特に限定されず、前記第1相の第1樹脂(b2)として例示された樹脂などが挙げられる。前記樹脂のうち、第1樹脂(b2)よりも銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子に対する親和性が低い樹脂が好ましく、(メタ)アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂が特に好ましい。
【0097】
(メタ)アクリル系樹脂としては、前記第1樹脂(b2)の(メタ)アクリル系樹脂として例示された樹脂などが挙げられる。
【0098】
前記第1樹脂(b2)が(メタ)アクリル系樹脂である場合、第2樹脂(b4)の(メタ)アクリル系樹脂は、第1樹脂(b2)の(メタ)アクリル系樹脂よりも低い水酸基価を有するのが好ましい。
【0099】
第2樹脂(b4)の(メタ)アクリル系樹脂の水酸基価は、70mgKOH/g以下であってもよく、例えば1~50mgKOH/g、好ましくは2~30mgKOH/g、さらに好ましくは3~20mgKOH/g、より好ましくは5~15mgKOH/g、最も好ましくは8~12mgKOH/gである。
【0100】
シリコーン系樹脂は、特に制限されず、シリコーン系レジンであってもよく、シリコーン系オリゴマーであってもよい。これらのうち、密着性および耐擦過性を向上できる点から、シリコーン系レジンが好ましい。
【0101】
シリコーン系レジンは、ポリオルガノシロキサン骨格を有する熱可塑性樹脂、硬化性樹脂(未架橋樹脂)または硬化樹脂(架橋樹脂)であればよい。ポリオルガノシロキサン骨格は、Si-O結合(シロキサン結合)を有する直鎖状、分岐鎖状または網目状の化合物であって、式:R SiO(4-a)/2(式中、Rは置換基を示し、係数aは0~3の数である)で表される単位で構成されている。シリコーン系レジンとしては、前記式で表される各単位である単官能性のM単位(一般的にR SiO1/2で表される単位)、二官能性のD単位(一般的にR SiO2/2で表される単位)、三官能性のT単位(一般的にRSiO3/2で表される単位)、四官能性のQ単位(一般的にSiO4/2で表される単位)のうち、通常、T単位を主単位として含むポリオルガノシロキサンが使用される。
【0102】
前記式において、置換基Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのC1-10アルキル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基などのハロゲン化C1-10アルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基などのC2-10アルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基などのC6-20アリール基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC3-10シクロアルキル基、ベンジル基、フェネチル基などのC6-12アリール-C1-4アルキル基などが挙げられる。これらの置換基は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0103】
これらのうち、Rとしては、メチル基、プロピル基などのC1-4アルキル基、フェニル基、ナフチル基などのC6-10アリール基が好ましく、C1-3アルキル基、C6-8アリール基がさらに好ましく、メチル基、フェニル基が最も好ましい。さらに、Rとしては、単独で使用するよりも、(メタ)アクリル系樹脂との相溶性を向上できる点から、二種以上組み合わせて使用する方が好ましく、C1-4アルキル基とC6-10アリール基がさらに好ましく、C1-3アルキル基とC6-8アリール基との組み合わせがより好ましく、メチル基とフェニル基との組み合わせが最も好ましい。
【0104】
1-4アルキル基とC6-10アリール基とを組み合わせる場合、両者のモル比は、C1-4アルキル基/C6-10アリール基=30/1~1/30程度の範囲から選択でき、例えば20/1~1/10、好ましくは10/1~1/5、さらに好ましくは8/1~1/1、より好ましくは5/1~1.5/1、最も好ましくは3/1~2/1である。
【0105】
シリコーン系レジンは、ストレートシリコーン系レジン(未変性シリコーン系レジン)であってもよく、変性シリコーン系レジンであってもよい。変性シリコーン系レジンとしては、例えば、アルキド樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などの他の樹脂で変性されたシリコーン系レジンなどが挙げられる。
【0106】
具体的に好ましいシリコーン系レジンとしては、置換基Rがメチル基などのC1-4アルキル基であるC1-4アルキル系シリコーンレジン(例えば、メチル系シリコーンレジンなどのC1-3アルキル系シリコーンレジンなど)、置換基Rがフェニル基などのC6-10アリール基であるC6-10アリール系シリコーンレジン(例えば、フェニル系シリコーンレジンなどのC6-8アリール系シリコーンレジン)、置換基RがC1-4アルキル基とC6-10アリール基との組み合わせであるC1-4アルキルC6-10アリール系シリコーンレジン(例えば、メチルフェニル系シリコーンレジン、プロピルフェニル系シリコーンレジンなどのC1-3アルキルC6-8アリール系シリコーンレジンなど)などが挙げられる。これらのシリコーン系レジンは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。密着性および耐擦過性を向上できる点から、C1-4アルキルC6-10アリール系シリコーンレジンなどのアルキルアリール系シリコーンレジンが好ましく、メチルフェニル系シリコーンレジンなどのC1-2アルキルC6-8アリール系シリコーレジンが特に好ましい。
【0107】
中間層(B)において、第2樹脂(b4)は、第1樹脂(b2)よりも、銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子に対する親和性が低いため、第2相は、第1相よりも銀含有金属(特に、銀含有金属ナノ粒子)の含有割合が小さい。
【0108】
第2相において、銀含有金属の割合は、第2樹脂(b4)100質量部に対して10,000質量部以下であってもよく、例えば0~5,000質量部、好ましくは0~3,000質量部、さらに好ましくは0~2,000質量部である。銀含有金属の割合が多すぎると、密着性および耐擦過性が低下する虞がある。
【0109】
(中間層(B)の組成)
第1樹脂(b2)の割合は、固形分換算で、銀光沢膜の銀含有金属[すなわち、複合体ナノ粒子(a)、(b1)、(b3)および(c)に含まれる銀含有金属の総量であり、以下同様]100質量部に対して、例えば1~50質量部、好ましくは3~40質量部、さらに好ましくは5~30質量部、より好ましくは10~25質量部、最も好ましくは15~20質量部である。第1樹脂(b2)の割合が少なすぎると、密着性および耐擦過性が低下する虞があり、多すぎると、銀光沢性が低下する虞がある。
【0110】
第1樹脂(b2)と第2樹脂(b4)との質量比は、固形分換算で、前者/後者=97/3~3/97程度の範囲から選択でき、例えば95/5~5/95、好ましくは90/10~10/90(例えば80/20~30/70)、さらに好ましくは75/25~40/60、より好ましくは70/30~50/50(特に65/35~55/45)である。第1樹脂(b2)の割合が少なすぎると、銀光沢性および密着性が低下する虞があり、多すぎても同様の虞がある。
【0111】
第1樹脂(b2)および第2樹脂(b4)の合計割合は、銀光沢膜の銀含有金属100質量部に対して1~500質量部程度の範囲から選択でき、例えば5~300質量部(例えば10~250質量部)、好ましくは5~200質量部(例えば10~200質量部)、さらに好ましくは10~100質量部(例えば10~50質量部)、より好ましくは20~50質量部(特に25~35質量部)である。合計割合が少なすぎると、密着性および耐擦過性が低下する虞があり、多すぎると、銀光沢性が低下する虞がある。
【0112】
(b5)硬化剤
中間層は、前記複合体ナノ粒子および樹脂に加えて、硬化剤(b5)をさらに含んでいてもよい。硬化剤(b5)としては、慣用の硬化剤、例えば、イソシアネート系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、イミダゾール系硬化剤などが挙げられる。これらのうち、イソシアネート系硬化剤が好ましく、ポリイソシアネートが特に好ましい。ポリイソシアネートなどのイソシアネート系硬化剤は、(メタ)アクリル系樹脂が官能基(特に、水酸基)を有する場合に特に有効である。
【0113】
ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート[プロピレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、リジンジイソシアネート(LDI)などのジイソシアネート;1,6,11-ウンデカントリイソシアネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネートなどのトリ又はポリイソシアネート]、脂環族ポリイソシアネート[シクロヘキサン1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソシアネート、水添ビス(イソシアナトフェニル)メタンなどのジイソシアネート;ビシクロヘプタントリイソシアネートなどのトリまたはポリイソシアネートなど]、芳香族ポリイソシアネート[フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ビス(イソシアナトフェニル)メタン(MDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、1,3-ビス(イソシアナトフェニル)プロパンなどのジイソシアネート;トリ又はポリイソシアネート]などが挙げられる。
【0114】
ポリイソシアネートは、多量体(二量体や三量体、四量体など)、アダクト体、変性体(ビウレット変性体、アロハネート変性体、ウレア変性体など)などの誘導体や、複数のイソシアネート基を有するウレタンオリゴマーなどであってもよい。ポリイソシアネートの変性体または誘導体としては、例えば、ポリイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネートなど)と多価アルコール(トリメチロールプロパンやペンタエリスリトールなど)とのアダクト体、前記ポリイソシアネートのビウレット体、前記ポリイソシアネート(例えば、脂肪族ポリイソシアネート)の多量体(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートの三量体などのイソシアヌレート環を有するポリイソシアネートなど)などが例示できる。
【0115】
これらのポリイソシアネートは単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリイソシアネートのうち、脂肪族ポリイソシアネートまたはその誘導体(例えば、HDIまたはその三量体など)、芳香族ポリイソシアネート(TDI、MDIなど)などが汎用される。
【0116】
硬化剤(b5)の割合は、第1樹脂(b2)100質量部に対して、例えば10~200質量部、好ましくは20~150質量部、さらに好ましくは25~100質量部である。
【0117】
(b6)他の金属ナノ粒子
中間層(B)は、前記複合体ナノ粒子および樹脂に加えて、他の金属ナノ粒子(b6)をさらに含んでいてもよい。他の金属ナノ粒子(b6)としては、例えば、周期表第8族金属(鉄、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、イリジウム、白金など)、周期表第1B族金属(銅、金など)、周期表第3B族金属(アルミニウム、ガリウム、インジウムなど)および周期表第4B族金属(ゲルマニウム、スズ、鉛など)などであってもよい。なお、金属(金属原子)は、保護コロイドに対する配位性の高い金属、例えば、周期表第8族金属、周期表第1B族金属などである場合が多い。他の金属粒子(b6)の割合は、銀光沢膜の銀含有金属100質量部に対して100質量部以下であり、好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0118】
(b7)他の成分
中間層(B)は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分(b7)として、慣用の添加剤、例えば、可塑剤(または造膜助剤)、光沢付与剤、金属腐食防止剤(防錆剤)、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤など)、界面活性剤(アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、特に、アニオン性界面活性剤および/またはノニオン性界面活性剤)、分散安定化剤、増粘剤または粘度調整剤、保湿剤、チクソトロピー性賦与剤、レベリング剤、浸透剤、消泡剤、pH調整剤、キレート剤、表面張力調整剤、着色剤(染顔料など)、色相改良剤、染料定着剤、殺菌剤、防カビ剤、防腐剤、酸素吸収剤などを含んでいてもよい。なお、界面活性剤は、アセチレングリコール系界面活性剤、ポリシロキサン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などであってもよい。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。他の成分(b7)の割合は、銀光沢膜の銀含有金属100質量部に対して50質量部以下であり、好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0119】
(中間層(B)の構造)
中間層(B)は、第1相と、この第1相よりも銀含有金属の含有割合が少ない第2相とに相分離した相分離構造を有していればよい。
【0120】
第1相と第2相との比率(断面における面積比率)は、第1相/第2相=97/3~10/90程度の範囲から選択でき、例えば95/5~20/80、好ましくは90/10~30/70、さらに好ましくは80/20~40/60、より好ましくは70/30~50/50、最も好ましくは65/35~55/45である。第1相の割合が少なすぎると、銀光沢性および密着性が低下する虞があり、多すぎても同様の虞がある。
【0121】
なお、本願において、前記比率は、銀光沢膜断面の透過型電子顕微鏡(TEM)像に基づいて測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0122】
前記相分離構造は、海島構造であってもよく、共連続構造であってもよい。これらのうち、海島構造が好ましい。
【0123】
中間層(B)が海島構造である場合、海部を構成する連続相(マトリックス相)は、第1相であってもよく、第2相であってもよい。これらのうち、第2相が連続相であるのが好ましい。銀含有金属の含有割合が少ない第2相が連続相を形成することにより、分散相に前記複合体ナノ粒子(b1)を凝集させて遮蔽性を向上できる。
【0124】
海島構造において、分散相の平均径は、例えば5~3,000nm、好ましくは10~1,000nm、さらに好ましくは100~800nm、より好ましくは300~600nm、最も好ましくは400~500nmである。分散相の平均径が小さすぎると、遮蔽性が低下する虞があり、大きすぎると、密着性および耐擦過性が低下する虞がある。なお、本願において、分散相の形状が異方形状である場合、長径と短径との平均値を各分散相の径とする。
【0125】
分散相の平均ピッチ(隣接する分散相の中心間の距離の平均値)は、例えば5~2,500nm、好ましくは10~2,000nm、さらに好ましくは100~1,500nm、より好ましくは300~1,000nm、最も好ましくは500~700nmである。分散相の平均ピッチが小さすぎると、密着性および耐擦過性が低下する虞があり、大きすぎると、遮蔽性が低下する虞がある。
【0126】
銀光沢膜断面の観察方法としては、特に限定されず、通常の構造解析に用いられる手法を用いることができる。観察方法としては、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、電子線マイクロアナライザ(EPMA)、走査型プローブ顕微鏡(SPM)等による形態・構造観察;蛍光X線やエネルギー分散型X線分光法(EDX)、波長分散型X線分光法(WDX)、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy-Loss Spectroscopy(EELS))等による構成元素の解析を行うことができる。これらのうち、特に微細構造まで観察できる点から、透過型電子顕微鏡(TEM)観察が好ましい。観察に供する試料は、観察や分析に適するように、適宜加工して用いることができ、例えば、ミクロトーム等を用いて薄片試料を作製してもよい。
【0127】
そのため、本願において、銀光沢膜断面における島構造の構造、サイズおよび分布状態は、銀光沢膜断面のTEM像に基づいて、観察および測定でき、サイズについては、任意の10カ所の平均値である。詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。さらに、TEM像では、銀含有金属ナノ粒子は、濃色であるため、容易に確認でき、中間層においては、銀含有金属ナノ粒子の凝集部を分散相とする。
【0128】
中間層(B)の平均厚みは、例えば0.05~100μm、好ましくは0.1~30μm、さらに好ましくは0.5~20μm、より好ましくは1~10μm、最も好ましくは5~7μmである。中間層(B)の平均厚みが薄すぎると、光の遮蔽性が低下したり、密着性および耐擦過性が低下する虞があり、厚すぎると、銀光沢性が低下する虞がある。
【0129】
中間層(B)の平均厚みは、表面層(C)の平均厚みに対して2倍以上(例えば3~1,000倍)であってもよく、例えば5~500倍、好ましくは10~300倍、さらに好ましくは25~250倍、より好ましくは25~100倍、最も好ましくは30~50倍である。中間層(B)の厚み比が小さすぎると、密着性および耐擦過性が低下する虞があり、大きすぎると、銀光沢性が低下する虞がある。
【0130】
なお、本願において、中間層(B)の平均厚みは、銀光沢膜断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより測定でき、任意の3カ所の平均値である。
【0131】
(C)表面層
表面層(C)は、銀を含む金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子(c)で形成されており、前記複合体ナノ粒子(c)が銀光沢膜の表面部において配列または配向することにより、銀含有金属が密な薄膜(銀薄膜)を形成している。本発明では、銀光沢膜の表面において、このような表面層(C)が形成されることにより、銀光沢性を向上できる。
【0132】
前記複合体ナノ粒子(c)は、好ましい態様も含め、前記界面層(A)の項で記載された前記複合体ナノ粒子(a)と同様であり、通常、前記複合体ナノ粒子(a)と同一である。
【0133】
表面層(C)の平均厚みは、例えば3~300nm(例えば10~250nm)、好ましくは5~200nm、さらに好ましくは10~100nm、より好ましくは15~50nm、最も好ましくは20~40nmである。表面層(C)の平均厚みが薄すぎると、銀光沢性が低下する虞があり、厚すぎると、耐擦過性が低下する虞がある。
【0134】
なお、本願において、表面層(C)の平均厚みは、銀光沢膜断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0135】
[銀光沢膜の製造方法]
本発明の銀光沢膜は、銀含有金属と保護コロイドとの複合体ナノ粒子、第1樹脂、第2樹脂および溶剤を含む液状組成物を被加飾体(基材)の上に塗布する塗布工程、前記液状組成物で形成された塗膜を乾燥させ、スピノーダル分解により相分離させて銀光沢膜を得る相分離工程を経て得られる。
【0136】
(塗布工程)
塗布工程において、基材の種類は、特に制限はなく、用途に応じて樹脂基板、金属基板、ガラス基板、セラミックス基板、紙などを利用できる。
【0137】
液状組成物は、前記複合体ナノ粒子、第1樹脂、第2樹脂および溶剤を慣用の方法で混合することにより調製できる。混合方法としては、慣用の攪拌装置を利用でき、例えば、攪拌脱泡装置を利用してもよい。液状組成物に溶剤を配合することにより、スピノーダル分解による相分離を促進できるとともに、製膜性も向上できる。
【0138】
溶剤は、極性有機溶媒を含むのが好ましい。極性有機溶媒としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのC1-4アルカノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールなど)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルカンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどのアルカントリオール、ペンタエリスリトールなどのアルカンテトラオールなど)、アミド類(ホルムアミド、アセトアミドなどのアシルアミド類、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのモノ又はジC1-4アシルアミド類など)、ピロリドン類(2-ピロリドン、3-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチル-3-ピロリドンなど)、ケトン類(アセトン、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン、イソホロンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、有機カルボン酸類(酢酸など)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミルなどの酢酸エステルなど)、アルキレングリコールモノアルキルエーテル(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールなどのC2-6アルキレングリコールモノC1-4アルキルエーテルなど)、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテル(メチルカルビトール、エチルカルビトール、プロピルカルビトール、ブチルカルビトールなどのジC2-6アルキレングリコールモノC1-4アルキルエーテルなど)、セロソルブアセテート類(エチルセロソルブアセテートなどのC1-4アルキルセロソルブアセテート類)、カルビトールアセテート類(メチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテートなどのC1-4アルキルカルビトールアセテートなど)、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。これらの極性有機溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0139】
極性有機溶媒の割合は、溶剤中50質量%以上であってもよく、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0140】
溶剤は、極性溶媒に加えて、無極性溶媒をさらに含んでいてもよい。無極性溶媒としては、例えば、ヘキサン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、テトラリンなどの脂環族炭化水素などが挙げられる。無極性有機溶媒の割合は、極性有機溶媒100質量部に対して50質量部以下(例えば0.1~50質量部程度)であってもよく、好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0141】
これらの溶剤のうち、アルコール類、エステル類、アルキレングリコールモノアルキルエーテルおよびジアルキレングリコールモノアルキルエーテルから選択される1種以上を含むのが好ましく、脂肪族カルボン酸C1-6アルキルエステル、アルキレングリコールモノアルキルエーテルおよびジアルキレングリコールモノアルキルエーテルから選択される1種以上を含むのがさらに好ましい。なかでも、溶剤は、アルキレングリコールモノアルキルエーテルとジアルキレングリコールモノアルキルエーテルとの組み合わせが好ましく、C2-6アルキレングリコールモノC1-3アルキルエーテルとジC2-6アルキレングリコールモノC1-3アルキルエーテルとの組み合わせがさらに好ましく、C4-6アルキレングリコールモノC1-2アルキルエーテルとジC2-4アルキレングリコールモノC1-2アルキルエーテルとの組み合わせが最も好ましい。
【0142】
溶剤がアルキレングリコールモノアルキルエーテルとジアルキレングリコールモノアルキルエーテルとの組み合わせである場合、前記複合体ナノ粒子は、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテルに分散させた分散液の形態で、第1樹脂、第2樹脂およびアルキレングリコールモノアルキルエーテルと混合してもよい。
【0143】
溶剤がアルキレングリコールモノアルキルエーテルとジアルキレングリコールモノアルキルエーテルとの組み合わせである場合、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテルの割合は、アルキレングリコールモノアルキルエーテル100質量部に対して100質量部以下であってもよく、例えば0.01~50質量部、好ましくは0.1~30質量部、さらに好ましくは0.5~20質量部、より好ましくは1~15質量部、最も好ましくは2~10質量部である。ジアルキレングリコールモノアルキルエーテルの割合が多すぎると、相分離構造を促進する効果が低下する虞がある。ジアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、原料としての複合体ナノ粒子を分散させるための分散媒由来の極性溶媒であってもよい。
【0144】
溶剤の割合は、前記複合体ナノ粒子の銀含有金属100質量部に対して、例えば50~500質量部、好ましくは80~400質量部、さらに好ましくは100~300質量部、より好ましくは120~250質量部、最も好ましくは150~200質量部である。溶剤の割合が少なすぎると、相分離構造を形成するのが困難となる上に、製膜性が低下する虞があり、多すぎると、生産性や製膜性が低下する虞がある。
【0145】
塗布方法としては、特に制限されず、慣用のコーティング方法、例えば、フローコーティング法、ディスペンサーコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、キャスト法、バーコーティング法、カーテンコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、ディッピング法、スリット法、フォトリソグラフィ法、インクジェット法、オフセット印刷法などを利用できる。
【0146】
塗膜の平均厚み(乾燥厚み)は、例えば0.05~100μm、好ましくは0.1~30μm、さらに好ましくは0.5~10μm、より好ましくは1~5μmである。
【0147】
なお、本発明では、下塗り層、上塗り層を形成することなく、銀光沢性と密着性および耐擦過性とを両立できるが、用途に応じて、下塗り層および/または上塗り層を併用してもよい。
【0148】
(相分離工程)
相分離工程では、塗膜を乾燥させることにより、溶剤の揮発に伴って、スピノーダル分解によって、銀含有金属を多量に含む第1相と、銀含有金属を少量含む第2相とに相分離する。
【0149】
塗膜の乾燥方法としては、加熱して乾燥する方法が好ましく、相分離構造を形成し易い点から、予備加熱処理と本加熱処理とを組み合わせた二段階で加熱処理して乾燥する方法が好ましい。
【0150】
予備加熱処理において、予備加熱温度は、例えば40~80℃、好ましくは45~70℃、さらに好ましくは45~60℃、より好ましくは45~55℃である。予備加熱時間は、例えば1~100分、好ましくは3~60分、さらに好ましくは5~30分である。
【0151】
本加熱処理において、本加熱温度は、例えば60~150℃、好ましくは65~120℃、さらに好ましくは70~90℃、より好ましくは75~85℃である。本加熱時間は、例えば30~240分、好ましくは80~180分、さらに好ましくは100~150分である。
【実施例
【0152】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の例において、インク組成物の調製方法および評価試験の測定方法を以下に示す。
【0153】
[使用した材料]
アクリル樹脂A:東亞合成(株)製「ARUFON UH2170」、スチレンアクリル系樹脂、不揮発分98%以上、水酸基価88mgKOH/g、ガラス転移温度60℃
アクリル樹脂B:DIC(株)製「WXU-880」、イソシアネート硬化型アクリル樹脂、不揮発分50%、水酸基価10mgKOH/g、ガラス転移温度90℃
アクリル樹脂C:DIC(株)製「ZU-582」、イソシアネート硬化型アクリル樹脂、不揮発分50%、水酸基価46mgKOH/g
ポリビニルブチラール樹脂:積水化学工業(株)製「エスレックKS-10」、アセタール化度70モル%以上、アセチル基3モル%以下、水酸基25モル%、10質量%溶液粘度(温度20℃、回転粘度型(BM型)、溶媒=トルエン/エタノール=50/50(質量比))10~30mPa・s、ガラス転移温度106℃、重量平均分子量17,000
シリコーン樹脂A:信越化学工業(株)製「KR211」、メチルフェニル系シリコーンレジン
シリコーン樹脂B:DOW東レ(株)製「RSN6018」、プロピルフェニル系シリコーンレジン
硬化剤:DIC(株)製「バーノックDN902S」、イソシアネート化合物。
【0154】
[光沢度]
アピアランスアナライザー(コニカミノルタジャパン(株)製「Rhopoint IQ-S」)を用い、20°光沢度を測定し、以下の基準に従いランク付け(A、B、C)した。なお、光沢度の値が400以上であると目視で金属光沢(鏡面)を確認することができるため、ランクA、Bを合格とした。
【0155】
ランクA:光沢度が600以上(合格)
ランクB:光沢度が400以上600未満(合格)
ランクC:光沢度が400未満(不合格)。
【0156】
[光非透過性]
紫外可視近赤外分光光度計((株)島津製作所製「UV-3100PC」)、積分球ISR-3100を用い、380~780nmの波長域の可視光透過率を測定した。ブランク測定(大気)の積分値に対する透過率の積分値を、380~780nmの波長域における透過率を積分して求め、以下の基準に従い評価した。ブランク測定に対する透過率の積分値は、小さい方が膜の透過性が低く、優れている。
【0157】
○:透過率の積分値が1.0%以下(合格)
△:透過率の積分値が1.0%より大きく5.0%以下(合格)
×:透過率の積分値が5.0%より大きい(不合格)。
【0158】
[密着性]
硬化膜に対し、セロテープ(登録商標)を貼り、勢いよく剥離し、以下の基準で評価した。
【0159】
○:膜に剥離がない(合格)
×:膜に剥離がある(不合格)。
【0160】
[耐擦過性]
硬化膜に対し、摩擦摩耗試験機を用い、乾いた木綿で、荷重500gおよび10往復する摩擦試験を行った。摩擦試験後の硬化膜の20°光沢度を測定し、摩擦試験前後での光沢度の低下率を求め、以下の基準に従い耐擦過性を評価した。
【0161】
〇:光沢度の低下率が20%未満(合格)
△:光沢度の低下率が20%以上50%未満(合格)
×:光沢度の低下率が50%以上(不合格)。
【0162】
[総合判定]
光沢度、光非透過性、密着性、耐擦過性の結果から、優劣判定を行い、A、B判定を合格とした。
【0163】
A判定:光沢度がランクA、光非透過性、密着性、耐擦過性が合格
B判定:光沢度がランクB、光非透過性、密着性、耐擦過性が合格
C判定:光沢度がランクC、または光非透過性、密着性、耐擦過性のいずれかが不合格。
【0164】
[膜の断面観察]
得られた銀光沢膜から試料を切り出し、汎用の包埋樹脂であるエポキシ樹脂で試料を包埋し、ミクロトームにて切削断面を露出させてSEM観察を行った。さらに、微細な構造観察を行うため、ミクロトームにて切削断面を露出した後、100nm以下程度の厚みで超薄切片を作製し、TEM観察を行なって、以下の方法により、分散相のサイズ(平均径および平均ピッチ)を測定した。
【0165】
(表面層および界面層の平均厚み)
表面付近、界面付近のTEM拡大像において、銀ナノ粒子が配列している層の厚みを測定した。任意の3カ所について測定した層の厚みの平均値を平均厚みとした。
【0166】
(分散相の平均径)
銀ナノ粒子が凝集している分散相(島)について長径と短径を測定し、その平均値を分散相(島)の径とした。そして、任意の10個の分散相(島)について算出した径の平均値を分散相の平均径とした。
【0167】
(分散相の平均ピッチ)
分散相の長径と短径との交点を分散相の中心とし、隣接する分散相の中心間の距離を測定した。任意の10カ所について測定した中心間の距離の平均値を、分散相の平均ピッチとした。
【0168】
(第1相と第2相との比率)
断面のTEM像に対し、画像処理ソフト「ImageJ」(https://imagej.Nih.gov/ij/より入手可能)を用いて、第1相と第2相とを2値化した。2値化した前記画像処理像により、第1相および第2相の面積をそれぞれ求め、第1相と第2相との比率を算出した。なお、本実施例では、前記比率を算出するに当たり、表面層および界面層を除外せずに算出したため、第1相の比率には表面層および界面層の面積も含まれている。
【0169】
実施例1~8および比較例1~2
(銀ナノ粒子分散液の調製方法)
硝酸銀66.8g、カルボキシル基を有する高分子分散剤(ビックケミー社製「ディスパービック190」、顔料親和性基を有する高分子量ブロック共重合物の溶液、溶媒:水、不揮発成分40%、酸価10mgKOH/g、アミン価0)7.2gを、イオン交換水100gに投入し、激しく攪拌し、懸濁液を得た。この懸濁液に対して、ジメチルアミノエタノール(富士フイルム和光純薬工業(株)製)100gを水温が50℃を超えないように徐々に加えた後、水温50℃のウォーターバス中で4時間加熱攪拌した。
【0170】
銀ナノ粒子分散液に過剰量のメタノールを入れて攪拌し、その後、遠心分離により銀ナノ粒子を沈降させ、上澄み液を除去した。再度、メタノールを加えて攪拌し、その後、遠心分離により銀ナノ粒子を沈降させ、上澄み液を除去した。得られた沈殿を含んだメタノール液にジエチレングリコールモノブチルエーテルを加え、エバポレータで混入したメタノールを除去することで銀含有量が70質量%の銀ナノ粒子分散液を得た。この分散液について、透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製)で銀ナノ粒子の粒径を確認したところ、一次粒子の個数平均粒子径は約20nmであった。
【0171】
(メタリックインク組成物の調製方法)
表1に示す割合で、得られた銀ナノ粒子分散液、樹脂、溶剤を、攪拌脱泡装置(クラボウ(株)製「マゼルスター」)を用いて攪拌混合し、メタリックインク組成物を調製した。なお、表のアクリル樹脂の量は、固形分換算の含有量である。メタリックインク組成物をガラス基板に20μmのアプリケーターで塗布した。その後、50℃のホットプレートで10分間加熱後、80℃のホットプレートで120分間加熱した。
【0172】
得られた銀光沢膜の評価結果を表1に示す。
【0173】
【表1】
【0174】
表1の結果から明らかなように、実施例の銀光沢膜では、銀光沢性および光非透過性と密着性および耐擦過性とを両立できたのに対して、比較例の銀光沢膜では、銀光沢性および光透過性が低かった。
【0175】
詳しくは、実施例1~5、8の銀光沢膜では、銀光沢性および光非透過性と密着性および耐擦過性とを両立できた。また、実施例6、7の銀光沢膜では、銀光沢性および光非透過性と密着性および耐擦過性とを実用レベルで両立できた。
【0176】
実施例1~4で得られた銀光沢膜の断面写真を図1~16に示す。実施例1~4の銀光沢膜では、全体像を示す図1、5、9および13ならびに膜内部の拡大像である図4、8、12および16から明らかなように、膜内部では、銀ナノ粒子(写真中の濃色粒子)が凝集した領域(分散相)と、銀ナノ粒子の凝集が少ない領域(連続相)とに相分離していた。すなわち、全体像および膜内部の拡大像から明らかなように、膜内部では銀ナノ粒子が凝集した領域(第1相)と銀ナノ粒子の凝集が少ない領域(第2相)とに相分離した相分離構造を有していた(銀ナノ粒子は分散相に偏在した構造を有していた)。相分離構造は、海島構造であり、銀ナノ粒子が凝集した第1相が分散相を形成し、銀ナノ粒子の凝集が少ない第2相が連続相を形成していた。さらに、表面付近の拡大像である図2、6、10および14ならびに基材との界面付近の拡大像である図3、7、11および15から明らかなように、表面および基材との界面では、銀ナノ粒子が整列して薄肉の連続層(薄肉層)を形成していた。連続層の平均厚みは、19~171nmの範囲であった。表面層に対する中間層の平均厚みの最小値は、27倍であった。
【0177】
実施例5~8で得られた銀光沢膜の断面写真を図17~32に示す。実施例5~8の銀光沢膜では、全体像を示す図17、21、25および29ならびに膜内部の拡大像である図20、24、28および32から明らかなように、膜内部では、銀ナノ粒子(写真中の濃色粒子)が凝集した領域(連続相)と、銀ナノ粒子の凝集が少ない領域(分散相)とに相分離していた。さらに、表面付近の拡大像である図18、22、26および30ならびに基材との界面付近の拡大像である図19、23、27および31から明らかなように、表面および基材との界面では、銀ナノ粒子が整列して薄肉の連続層(薄肉層)を形成していた。すなわち、膜内部は、海島構造の相分離構造を有しており、銀ナノ粒子が凝集した第1相が連続相を形成し、銀ナノ粒子の凝集が少ない第2相が分散相を形成していた。表面層に対する中間層の平均厚みの最大値は、200倍であった。
【0178】
比較例1~2の銀光沢膜では、実施例の銀光沢膜に対して銀光沢性および光非透過性が低かった。
【0179】
比較例1~2で得られた銀光沢膜の断面写真を図33~40に示す。図33~40から明らかなように、比較例1~2では、膜全体において、銀ナノ粒子が均一に分散しており、表面および基材との界面に、膜内部と異なる銀ナノ粒子の配列は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明の銀光沢膜は、各種の被加飾体(成形体)の装飾性を向上させるために利用でき、例えば、自動車の内装や外装部品、エンブレム、携帯電話、ノートパソコン、ゴルフクラブのシャフト、化粧品の容器などの加飾、塗装用途などに利用できる。
図1
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