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特許7413336ポリウレタン樹脂、塗料、構造物、及び物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】ポリウレタン樹脂、塗料、構造物、及び物品
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/44 20060101AFI20240105BHJP
   C08G 18/73 20060101ALI20240105BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20240105BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20240105BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20240105BHJP
   C09D 175/06 20060101ALI20240105BHJP
   D06N 3/14 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
C08G18/44
C08G18/73
C08G18/08 019
C08G18/32
C08G18/65
C09D175/06
D06N3/14 101
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021183237
(22)【出願日】2021-11-10
(62)【分割の表示】P 2020519637の分割
【原出願日】2019-05-14
(65)【公開番号】P2022022226
(43)【公開日】2022-02-03
【審査請求日】2021-11-12
(31)【優先権主張番号】P 2018092938
(32)【優先日】2018-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】名村 実公賢
(72)【発明者】
【氏名】伊能 諒平
(72)【発明者】
【氏名】福井 克幸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一弥
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-529594(JP,A)
【文献】特開2014-037552(JP,A)
【文献】特開2016-190947(JP,A)
【文献】特開2016-190948(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098771(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/019904(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/
C08G 71/
C09D175/
D06N 3/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール成分、イソシアネート成分を含むポリウレタン樹脂であって、
下記(1)~(3)を満たすポリウレタン樹脂。
(1)前記ポリオール成分ポリカーボネートジオール成分であり、前記イソシアネート成分として直鎖型脂肪族イソシアネート成分である1,5-ペンタメチレンジイソシアネートを含む。
(2)前記ポリカーボネートジオール成分は数平均分子量が500~3000であり、その構造中に炭素数3~10のジオール由来構造を含み、かつ炭素数10のジオール成分が必須である。
(3)前記イソシアネート成分が1,5-ペンタメチレンジイソシアネートである。
【請求項2】
1個以上の活性水素基を有し、かつ、親水基を有する化合物成分を含有してなり、酸価が5~40mgKOH/gである請求項1に記載のポリウレタン樹脂。
【請求項3】
さらに、短鎖ジオール成分及び/又は短鎖ジアミン成分を含む請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂。
【請求項4】
前記ポリオール成分、前記イソシアネート成分、前記短鎖ジオール成分、及び前記短鎖ジアミン成分からなる群から選択される少なくとも1種が、植物由来原材料から構成される請求項1~のいずれか1項に記載のポリウレタン樹脂。
【請求項5】
前記短鎖ジオール成分の割合がmol比で前記ポリオール成分に対して0.1~3倍量である請求項又はに記載のポリウレタン樹脂。
【請求項6】
前記ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が-50~-10℃である請求項1~のいずれか1項に記載のポリウレタン樹脂。
【請求項7】
前記ポリウレタン樹脂のtanδの極大値が-40~-10℃に温度範囲にある請求項1~のいずれか1項に記載のポリウレタン樹脂。
【請求項8】
フィルム化した際の当該フィルムの-10℃における100%モジュラスの物性値が20MPa以下である請求項1~のいずれか1項に記載のポリウレタン樹脂。
【請求項9】
フィルム化した際の当該フィルムの70℃、24時間オレイン酸浸漬後の100%モジュラスの物性値保持率が20%以上である請求項1~のいずれか1項に記載のポリウレタン樹脂。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリウレタン樹脂を含む塗料。
【請求項11】
さらに、イソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、及びエポキシ系架橋剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項10に記載の塗料。
【請求項12】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリウレタン樹脂を含む構造物。
【請求項13】
請求項10又は11に記載の塗料を表面及び内部の少なくともいずれかに含む構造物。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の構造物を含む合成擬革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂、塗料、構造物、及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン系樹脂は、耐摩耗性、屈曲性、可撓性、柔軟性、加工性、接着性、耐薬品性等の諸物性に優れ、かつ各種加工法への適性にも優れるため、合成擬革(人工皮革と合成皮革の総称)用材料、各種コーティング剤、インキ、塗料などのバインダーとして、或いはフィルム、シートおよび各種成型物用材料として広く使用されており、種々の用途に適したポリウレタン系樹脂が提案されている。
【0003】
例えば、合成擬革の皮革様シートの製造工程においては、風合い向上の目的から、ウレタン樹脂を成膜したフィルムが使用されている。特に車輌内装材等の長期耐久消費材に使用される場合には、ウレタン樹脂合成時に使用されるポリオールとしてポリカーボネートポリオールを使用することが一般的である(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-108196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリカーボネートポリオールを単に使用する場合には、得られる皮革様シートは耐光性には優れるものの、屈曲性が悪化する場合があった。
特に、冷寒地における屈曲性、すなわち耐寒屈曲性を有する材料については見出されていなかった。
【0006】
このように、冷寒地における屈曲性(耐寒屈曲性)が求められている一方で、例えば、合成擬革のような柔軟な素材において、耐寒屈曲性を向上させようとすると、耐薬品性が低下してしまう。これは屈曲性向上に影響する樹脂骨格に薬品が浸透しやすくなるためであり、耐寒屈曲性と耐薬品性とはトレードオフの関係である。即ち、これらを両立することは困難であった。
【0007】
以上から、本発明は、優れた耐寒屈曲性及び耐薬品性を両立できるポリウレタン樹脂を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定の数平均分子量及び構造を有するポリカーボネートジオールを用い、イソシアネート成分のうち炭素数4~10の直鎖型脂肪族イソシアネート成分を特定量含むポリウレタン樹脂が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0009】
[1] ポリオール成分、イソシアネート成分を含むポリウレタン樹脂であって、下記(1)~(3)を満たすポリウレタン樹脂。
(1)前記ポリオール成分としてポリカーボネートジオール成分を含み、前記イソシアネート成分として直鎖型脂肪族イソシアネート成分を含む。
(2)前記ポリカーボネートジオール成分は数平均分子量が500~3000であり、その構造中に炭素数3~10のジオール由来構造を含む。
(3)前記イソシアネート成分のうち、10mol%以上が炭素数4~10の直鎖型脂肪族イソシアネート成分である。
[2] 1個以上の活性水素基を有し、かつ、親水基を有する化合物成分を含有してなり、酸価が5~40mgKOH/gである[1]に記載のポリウレタン樹脂。
[3] 前記ポリオール成分中の前記ポリカーボネートジオール成分の割合が50質量%以上である[1]又は[2]に記載のポリウレタン樹脂。
[4] 前記イソシアネート成分のうち、前記炭素数4~10の直鎖型脂肪族イソシアネート成分の割合が15mol%以上である[1]~[3]のいずれかに記載のポリウレタン樹脂。
[5] さらに、短鎖ジオール成分及び/又は短鎖ジアミン成分を含む[1]~[4]のいずれかに記載のポリウレタン樹脂。
[6] 前記ポリオール成分、前記イソシアネート成分、前記短鎖ジオール成分、及び前記短鎖ジアミン成分からなる群から選択される少なくとも1種が、植物由来原材料から構成される[1]~[5]のいずれかに記載のポリウレタン樹脂。
[7] 前記短鎖ジオール成分の割合がmol比で前記ポリオール成分に対して0.1~3倍量である[5]又は[6]に記載のポリウレタン樹脂。
[8] 前記ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が-50~-10℃である[1]~[7]のいずれかに記載のポリウレタン樹脂。
[9] 前記ポリウレタン樹脂のtanδの極大値が-40~-10℃に温度範囲にある[1]~[8]のいずれかに記載のポリウレタン樹脂。
[10] フィルム化した際の当該フィルムの-10℃における100%モジュラスの物性値が20MPa以下である[1]~[9]のいずれかに記載のポリウレタン樹脂。
[11] フィルム化した際の当該フィルムの70℃、24時間オレイン酸浸漬後の100%モジュラスの物性値保持率が20%以上である[1]~[10]のいずれかに記載のポリウレタン樹脂。
[12] [1]~[11]のいずれかに記載のポリウレタン樹脂を含む塗料。
[13] さらに、イソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、及びエポキシ系架橋剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む[12]に記載の塗料。
[14] [1]~[11]のいずれかに記載のポリウレタン樹脂を含む構造物。
[15] [12]又は[13]に記載の塗料を表面及び内部の少なくともいずれかに含む構造物。
[16] [14]又は[15]に記載の構造物を含む合成擬革。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた耐寒屈曲性及び耐薬品性を両立できるポリウレタン樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。なお本発明において、ポリウレタン樹脂とは、ポリウレタン樹脂及びポリウレタン-ウレア樹脂の総称である。
【0012】
[ポリウレタン樹脂]
本発明のポリウレタン樹脂はポリオール成分、イソシアネート成分を含むポリウレタン樹脂であって、下記(1)~(3)を満たすポリウレタン樹脂である。
(1)ポリオール成分としてポリカーボネートジオール成分を含み、イソシアネート成分として直鎖型脂肪族イソシアネート成分を含む。
(2)ポリカーボネートジオール成分は数平均分子量が500~3000であり、その構造中に炭素数3~10のジオール由来構造を含む。
(3)イソシアネート成分のうち、10mol%以上が炭素数4~10の直鎖型脂肪族イソシアネート成分である。
以下、ポリウレタン樹脂を構成する各成分についてより詳細に説明する。
【0013】
〔ポリオール成分〕
本発明におけるポリオール成分は、ポリカーボネートジオール成分を含むものであり、ポリカーボネートジオール成分となるポリカーボネートジオールとしては、少なくとも、数平均分子量が500~3000であり、その構造中に炭素数3~10のジオール由来構造を含むものを用いる。
ここで、「その構造中に炭素数3~10のジオール由来構造を含むもの」とは、加水分解時に炭素数3~10のジオールが得られるポリカーボネートジオールともいえ、例えば、下記式(1)又は式(2)で表されるポリカーボネートジオールを用いることが好ましい。
【0014】
【化1】

【0015】
上記式(1)中のmは3~10であり、nは数平均分子量が500~3000となる自然数である。例えば、後述の実施例で使用しているエタナコールUH-200(宇部興産製)は、m=6、数平均分子量が2000程度であり、nの理論値は13、14となる。
上記式(2)中のm、n、lはそれぞれ3~10であり、oとpはそれぞれ数平均分子量が500~3000となる自然数である。例えば、後述の実施例で使用しているベネビオールNL-2010DB(三菱化学製)は、m=4、n=4、l=10、(o+1):p=9:1で、数平均分子量が2000程度であり、oの理論値は13、14となる。
【0016】
本発明に用いるポリカーボネートジオールの数平均分子量としては、500~3000であり、好ましくは700~2700、より好ましくは900~2500である。数平均分子量が3000を超えると、耐薬品性が低下してしまい、500未満であると耐寒屈曲性が低下してしまう。
なお、数平均分子量は、ポリスチレン換算の数平均分子量であり、通常ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定により求めることができる。
【0017】
ポリオール成分中のポリカーボネートジオール成分の割合は50質量%以上であることが好ましい。ポリカーボネートジオール成分の割合が50質量%以上であると耐薬品性が向上する。このような観点から、ポリオール成分中のポリカーボネートジオール成分の割合は、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。
【0018】
本発明におけるポリオール成分は、ポリカーボネートジオール成分以外の他のポリオール成分を含んでもよい。他のポリオール成分としては、例えば、以下の(1)~(5)に示すポリオール(数平均分子量が500以上であるポリオール)が挙げられる。
【0019】
(1)ポリエーテルポリオール
ポリエーテルポリオールとしては、アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等)及び複素環式エーテル(テトラヒドロフラン等)のいずれかを重合又は共重合して得られるものが挙げられる。具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリテトラメチレングリコール(ブロック又はランダム)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール及びポリヘキサメチレングリコール等が挙げられる。
【0020】
(2)ポリエステルポリオール
ポリエステルポリオールとしては、脂肪族系ジカルボン酸類(例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸及びアゼライン酸等)、及び芳香族系ジカルボン酸(例えば、イソフタル酸及びテレフタル酸等)の少なくともいずれかと、低分子量グリコール類(例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール及び1,4-ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン等)と、を縮重合したものが挙げられる。
具体的にはポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリエチレン/ブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペートジオール、ポリ-3-メチルペンタンアジペートジオール及びポリブチレンイソフタレートジオール等が挙げられる。
【0021】
(3)ポリラクトンポリオール
ポリラクトンポリオールとしては、ポリカプロラクトンジオール及びポリ-3-メチルバレロラクトンジオール等が挙げられる。
(4)ポリオレフィンポリオール
ポリオレフィンポリオールとしては、ポリブタジエングリコール及びポリイソプレングリコール、又は、その水素化物等が挙げられる。
(5)ポリメタクリレートジオール
ポリメタクリレートジオールとしては、α,ω-ポリメチルメタクリレートジオール及びα,ω-ポリブチルメタクリレートジオール等が挙げられる。
【0022】
ポリオールの数平均分子量は500以上であれば特に制限はないが、500~4000程度が好ましい。これらのポリオールは単独或いは2種類以上を組み合わせて使用することができるが、長期耐久性の観点からポリカーボネートジオールを含むことが好ましい。
【0023】
〔イソシアネート成分〕
本発明におけるイソシアネート成分は、直鎖型脂肪族イソシアネート成分を含む。イソシアネート成分のうち、少なくとも10mol%以上が炭素数4~10の直鎖型脂肪族イソシアネート成分である。イソシアネート成分中、少なくとも10mol%以上が炭素数4~10の直鎖型脂肪族イソシアネートであると、ウレタン基間の凝集力が高く、環構造を持つイソシアネートと比べ立体障害が少ないことから本発明のポリウレタン樹脂を用いた塗料等に耐薬品性や耐寒屈曲性を付与することができる。
炭素数4~10の直鎖型脂肪族イソシアネートとしては、例えば、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(1,5-ペンタメチレンジイソシアネート)、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,7-ヘプタメチレンジイソシアネート、1,8-オクタメチレンジイソシアネート等が挙げられ、これらの中でも、本発明のポリウレタン樹脂を用いた塗料等の耐薬品性や耐寒屈曲性をより向上させる観点から、炭素数4~8の直鎖型脂肪族イソシアネートが好ましく、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートがより好ましい。
【0024】
イソシアネート成分のうち、炭素数4~10の直鎖型脂肪族イソシアネート成分の量は、好ましくは15mol%以上、より好ましくは25mol%以上、更に好ましくは35mol%以上、より更に好ましくは45mol%以上である。
【0025】
本発明におけるイソシアネート成分は、炭素数4~10の直鎖型脂肪族イソシアネート以外のイソシアネート成分を含んでもよく、例えば、トルエン-2,4-ジイソシアネート、4-メトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-イソプロピル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-クロル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-ブトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、2,4-ジイソシアネートジフェニルエーテル、4,4’-メチレンビス(フェニレンイソシアネート)(MDI)、ジュリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ベンジジンジイソシアネート、o-ニトロベンジジンジイソシアネート及び4,4’-ジイソシアネートジベンジル等の芳香族ジイソシアネート;メチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加MDI及び水素添加XDI等の脂環式ジイソシアネート;或いはこれらのジイソシアネート化合物と低分子量のポリオールやポリアミンを末端がイソシアネートとなるように反応させて得られるポリウレタンプレポリマー等が挙げられる。
【0026】
〔鎖伸長剤等〕
本発明のポリウレタン樹脂は、短鎖ジオール成分、短鎖ジアミン成分を含むことが好ましく、水性の場合はこれに加え1個以上の活性水素を有しかつ親水性基を有する化合物成分を含むことが好ましい。
【0027】
(短鎖ジオール)
短鎖ジオール成分となる短鎖ジオールは数平均分子量が500未満の化合物であり、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール及びネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール類及びそのアルキレンオキサイド低モル付加物(数平均分子量500未満)、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のアルキレンエーテルグリコール;1,4-ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン及び2-メチル-1,1-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式系グリコール類及びそのアルキレンオキサイド低モル付加物(数平均分子量500未満)、キシリレングリコール等の芳香族グリコール類及びそのアルキレンオキサイド低モル付加物(数平均分子量500未満)、ビスフェノールA、チオビスフェノール及びスルホンビスフェノール等のビスフェノール類及びそのアルキレンオキサイド低モル付加物(数平均分子量500未満)、及びC1~C18のアルキルジエタノールアミン等のアルキルジアルカノールアミン類等の化合物が挙げられる。これらの中でも、脂肪族グリコール類が好ましい。
【0028】
本発明のポリウレタン樹脂が短鎖ジオールを含有する場合、短鎖ジオールの割合は、mol比でポリオール成分に対して0.1~3倍量であることが好ましく、0.1~2倍量であることがより好ましく、0.1~1倍量であることが更に好ましい。短鎖ジオールの割合が上記範囲内であると本発明のウレタン樹脂の耐薬品性、及び機械物性が向上する。
【0029】
(短鎖ジアミン)
短鎖ジアミン成分となる短鎖ジアミンとしては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン及びオクタメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン化合物、フェニレンジアミン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-メチレンビス(フェニルアミン)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及び4,4’-ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ジアミン化合物、シクロペンタンジアミン、シクロヘキシルジアミン、4,4-ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,4-ジアミノシクロヘキサン及びイソホロンジアミン等の脂環式ジアミン化合物、ヒドラジン、カルボジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド等のヒドラジン類等が挙げられる。これらの中でも、耐久性向上の観点から、エチレンジアミンがより好ましい。
【0030】
本発明においては、石油資源枯渇の懸念解消の観点、環境配慮の観点から、ポリウレタン樹脂を構成するポリオール成分、イソシアネート成分、短鎖ジオール成分、及びジアミン成分からなる群から選択される少なくとも1種が、植物由来原材料から構成されることが好ましい。
【0031】
(1個以上の活性水素を有しかつ親水性基を有する化合物)
本発明のウレタン樹脂は、上記各化合物以外の化合物であって、1個以上の活性水素を有しかつ親水性基を有する化合物に由来する成分を含有してもよい。1個以上の活性水素を有しかつ親水性基を有する化合物としては、ポリウレタン樹脂の水分散性を付与する成分として使用される公知の化合物を使用できる。
当該化合物において、活性水素とは、イソシアネート基と反応する水素原子であり、水酸基、メルカプト基、アミノ基等の水素原子が挙げられ、これらの中では水酸基の水素原子が好ましい。また、親水性基は、水分散性を付与するための官能基であり、アニオン性、カチオン性のいずれでもよいが、アニオン性であることが好ましい。アニオン性の親水性基としては、カルボキシル基、スルホ基、燐酸基等が挙げられ、これらの中ではカルボキシル基が好ましい。
【0032】
親水性基がアニオン性である当該化合物としては、スルホン酸系、カルボン酸系、燐酸系等の親水性基を有するものを用いることができ、例えばジメチロールプロパン酸、ジメチロールブタン酸、乳酸、グリシン等のカルボン酸化合物、タウリン、スルホイソフタル酸系ポリエステルジオール等のスルホン酸化合物を挙げることができる。
これらの中では、2価アルコールのカルボン酸化合物、特にジメチロールプロパン酸、ジメチロールブタン酸等のジメチロールアルカン酸を用いることが好ましい。
【0033】
親水性基は、中和剤により中和させて塩としてもよい。アニオン性の親水性基に対する中和剤としては、アンモニア水、有機アミン、例えばエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン等のアルキルアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-フェニルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、2-アミノ-2-エチル-1-プロパノール等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等を挙げることができる。これらの中では、トリエチルアミン等の3級アルキルアミン、水酸化ナトリウム、ジメチルアミノエタノール等の3級アルカノールアミンが好ましい。
なお、上記で例示したアルカノールアミンは鎖伸長停止剤として使用することもできる。
【0034】
本発明のウレタン樹脂が前記1個以上の活性水素を有しかつ親水性基を有する化合物に由来する成分を含有する場合において、ポリウレタン樹脂の酸価が5~40mgKOH/gであることが好ましい。酸価が上記範囲内であると、水中に安定して分散することが可能になる。このような観点から、酸価は10~35mgKOH/gが好ましく、10~25mgKOH/gがより好ましい。
【0035】
ポリウレタン樹脂中のバイオマス比率(植物由来原材料の比率)は、石油資源枯渇の懸念解消の観点、環境配慮の観点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましい。
【0036】
以上は好ましい成分の例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。したがって、上述の例示成分のみならず、その他現在市販されていて、市場から容易に入手できる化合物は、いずれも使用することができる。
【0037】
〔ポリシロキサン化合物〕
ポリシロキサン化合物は、ポリウレタン樹脂をポリシロキサン変性する際に用いられる。ポリシロキサン変性することで本発明のポリウレタン樹脂を用いた塗料等の耐摩耗性を向上させることができる。ポリシロキサン化合物としては、以下の(1)~(4)の構造の化合物が使用できる。
【0038】
(1)アミノ変性ポリシロキサン
【化2】






【0039】
(2)エポキシ変性ポリシロキサン
下記エポキシ化合物はポリオール、ポリアミド、ポリカルボン酸等と反応させ末端活性水素を有するようにして使用することができる。
【化3】





【0040】
(3)アルコール変性ポリシロキサン
【化4】






【0041】
(4)メルカプト変性ポリシロキサン
【化5】



【0042】
上記(1)~(4)のポリシロキサン化合物は好ましい化合物の一例であり、これらの例示の化合物に限定されるものではない。上記の中ではアルコール変性ポリシロキサンが好ましく、下記化合物がより好ましい。
【化6】
【0043】
〔ウレタン樹脂のガラス転移温度〕
本発明のウレタン樹脂のガラス転移温度は、-50~-10℃であることが好ましい。ウレタン樹脂のガラス転移温度が上記範囲内であると、耐寒屈曲性がより向上する。この観点から、本発明のウレタン樹脂のガラス転移温度は、-50~-20℃が好ましく、-50~-30℃がより好ましい。ガラス転移温度は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0044】
〔tanδの極大値〕
本発明のウレタン樹脂のtanδの極大値(ピーク温度)は、-40~-10℃の温度範囲にあることが好ましい。ウレタン樹脂のtanδの極大値が上記温度範囲にあると、屈曲時のエネルギーが吸収されやすくなり、割れ等が生じず耐寒屈曲性がより向上する。この観点から、本発明のウレタン樹脂のtanδの極大値は、好ましくは-40~-15℃の温度範囲、より好ましくは-40~-25℃の温度範囲である。tanδの極大値は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0045】
〔100%モジュラス〕
本発明のウレタン樹脂をフィルム化した際の当該フィルムの-10℃における100%モジュラスの物性値は、20MPa以下であることが好ましい。100%モジュラスの物性値が20MPa以下であると耐寒屈曲性が向上する。100%モジュラスの物性値は、好ましくは15MPa以下、より好ましくは10MPa以下である。100%モジュラスの物性値は実施例に記載の方法により測定することができる。
また、フィルム化した際の当該フィルムの70℃、24時間オレイン酸浸漬後の100%モジュラスの物性値保持率が20%以上であることが好ましい。100%モジュラスの物性値保持率が20%以上であると耐薬品性が向上する。100%モジュラスの物性保持率は、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上である。当該物性値保持率は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0046】
(ポリウレタン樹脂の製造方法)
本発明に係るポリウレタン樹脂の製造方法については特に限定されず、従来公知のポリウレタンの製造方法を用いることができる。すなわち、高分子ポリオールとポリイソシアネート、および必要に応じて添加される短鎖ジオール、短鎖ジアミン等の鎖伸長剤、ポリシロキサン化合物、水性の場合はさらに1個以上の活性水素基を有しかつ親水性基を有する化合物と反応させ、その後、必要に応じて中和剤や鎖伸長剤、停止剤等を反応させて製造することができる。
【0047】
上記製造方法においては、必要であれば有機溶剤あるいは水を用いてもよい。
有機溶剤としては、例えば、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族系炭化水素溶剤(トルエン、キシレン、スワゾール(コスモ石油株式会社製の芳香族系炭化水素溶剤)、ソルベッソ(エクソン化学株式会社製の芳香族系炭化水素溶剤)等)、脂肪族系炭化水素溶剤(n-ヘキサン等)が挙げられる。これらの中でも、取り扱い性の観点から、N,N-ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、及びテトラヒドロフラン等が好ましい。
【0048】
<添加剤>
本発明のポリウレタン樹脂は、必要に応じて添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、マット剤、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系等)、光安定剤(ヒンダードアミン系等)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系等)、ガス変色安定剤(ヒドラジン系等)、金属不活性剤等が挙げられる。
【0049】
マット剤としては、樹脂粒子、シリカ粒子、タルク、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、アルミナシリケート、モレキュラーシーブ、カオリン、雲母、及びマイカ等が挙げられる。本発明のポリウレタン樹脂がマット剤を含有する場合、表皮材となる被膜を艶消し調とすることができる。
【0050】
[塗料]
本発明の塗料はポリウレタン樹脂を含むものであって、ポリウレタン樹脂を構成するイソシアネート成分として炭素数4~10の直鎖型脂肪族イソシアネートを用いているため、塗膜の耐薬品性や耐寒屈曲性を向上させることができる。
【0051】
本発明の塗料は、耐薬品性を向上させる観点から、ポリウレタン樹脂以外にイソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、及びエポキシ系架橋剤からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0052】
架橋剤の使用量が多すぎると、膜の脆化や、未反応の架橋剤による可塑化等の不具合を引き起こす場合がある。このため、架橋剤の使用量は、ポリウレタン樹脂100質量部に対して、架橋剤固形分換算で10質量部以下とすることが好ましく、1.0~7.5質量部とすることがさらに好ましい。
【0053】
[構造物]
本発明の構造物は、本発明のポリウレタン樹脂を含む構造物、又は、本発明の塗料を表面及び内部の少なくともいずれかに含む構造物である。当該構造物としては、合成擬革などが挙げられる。
【0054】
具体的な合成擬革としては、基材、表皮層または、基材、接着層、表皮層からなる合成擬革あるいはそれらの最表皮に表面処理層を有する合成擬革がある。合成擬革に使用される合成擬革用基材としては、織物、不織布、スポンジ等が挙げられる。
上記合成擬革は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、離型紙上に、表皮層を形成するための表皮剤として、本発明に係るポリウレタン樹脂を、コンマコート、ナイフコート、ロールコート等の公知の方法にて塗布する。これを適宜乾燥し、表皮層を形成する。この表皮層上に、接着剤として公知のポリウレタン樹脂接着剤を、コンマコート、ナイフコート、ロールコート等の公知の方法にて塗布する。これを乾燥後、合成擬革用基材と圧着せしめる。さらに、熟成等を行い離型紙から剥離して合成擬革が得られる。
【0055】
構造物の一例として、基材に本発明のポリウレタン樹脂を塗布して作製する方法について説明する。
<基材>
上記基材としては下記のような樹脂を用いたフィルムや合成皮革が挙げられる。また、基材が発泡基材であってもよい。
樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、熱可塑性ポリオレフィン等のオレフィン系樹脂、エチレンプロピレンジエン系樹脂、スチレンアクリロニトリル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ノルボルネン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルホルマール系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、エンジニアプラスチック、生分解性プラスチック等が挙げられる。
特に自動車用の内装材用としては、ポリ塩化ビニル樹脂、熱可塑性ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリプロピレン等が挙げられる。
また、基材が発泡基材である場合、塩化ビニル樹脂のような基材を使用することができる。
基材の厚さは0.2~0.8mmであることが好ましく、基材が発泡基材であって、これを発泡させる場合の発泡後の厚さは0.3~4.5mmであることが好ましい。
【0056】
<製造方法>
本発明のポリウレタン樹脂を基材に塗布し、80~140℃で乾燥、及び必要により架橋することで被膜が形成して製造される。
基材が発泡基材の場合、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂基材シートの場合、加熱により、塩化ビニル発泡層組成物中の発泡剤を発泡させ、塩化ビニル発泡層を形成する工程(発泡工程)が含まれる。例えば、この工程の前に基材シート上に本発明のポリウレタン樹脂をスプレー塗装やグラビア塗装等により塗工して塗膜を形成する。その後、80~140℃で1~3分間乾燥して被膜とした後、130~230℃で発泡処理を施す。さらに、意匠性を付与するために、この表面処理層側に紋形状が彫刻されているエンボスロールを、表面が加熱(100~190℃)されている状態で押し当てることにより、表面に紋模様が形成された合成樹脂表皮材(例えば、自動車用の座席シート)とされる(紋模様形成工程)。
なお、接着性の劣る熱可塑性樹脂基材に本発明のポリウレタン樹脂を塗布する場合には、塗料との密着性を高めるため、プライマー処理をしたりしてもよい。
また、発泡工程及び紋模様形成工程のそれぞれは、塗膜を形成する工程に先立って行ってもよく、表面処理層形成工程の後に行ってもよい。すなわち、発泡前の基材にポリウレタン樹脂を塗布した後、加熱発泡させる方法と、発泡後の基材にポリウレタン樹脂を塗布する方法があるが、表面処理層の均一塗工性及び接着強度向上の理由によりポリウレタン樹脂を塗布後発泡させる方法が好ましい。
上記のようにして形成される被膜の膜厚は2~30μmが好ましい。
【実施例
【0057】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、以下にある「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0058】
<PU1~15の製造>
本実施例で使用するポリウレタン樹脂及びシロキサン変性ポリウレタン樹脂であるPU1~15を下記のようにして製造した。
【0059】
撹拌機、冷却管、温度計、窒素吹き込み管及びマンホールを備えた反応容器を窒素ガスで置換した後、バイオマスPCジオール(ベネビオールNL-2010DB、三菱化学製、数平均分子量2000、バイオマス比率5.4%、式(2)に該当)又は非バイオマスPCジオール(エタナコールUH-200、宇部興産製、数平均分子量2000、式(1)に該当)と、1,3-ブタンジオールと、DMF(ジメチルホルムアミド)とを用いて、溶液濃度80%にし、70℃に加温した。なお、PU8及びPU15に関しては両末端ポリシロキサンジオール(化合物a)も同時に配合した。
ここにイソホロンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネートあるいは1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(バイオマス比率 重量比70%のものを使用)を所定量(NCO/OH=1.4)、NCO%が理論値の90~98%となるまで反応を行い、溶液濃度を30%に希釈し、50℃以下に冷却後、IPDA(イソホロンジアミン)を残存NCO%と当量の90%~100%モル量投入して鎖伸長を行い、残NCOはイソプロピルアルコールで反応停止した。これにより、本例に使用するポリウレタン溶液及びシロキサン変性ポリウレタン樹脂溶液、PU1~15を得た。
【0060】
<PUD1~15の製造>
次に、本例に使用する水系ポリウレタン樹脂及び水系シロキサン変性ポリウレタン樹脂であるPUD1~15を下記のようにして製造した。
【0061】
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管及びマンホールを備えた反応容器を窒素ガスで置換した後、バイオマスPCジオール(ベネビオールNL-2010DB、三菱化学製、数平均分子量2000、式(2)に該当)又は非バイオマスPCジオール(エタナコールUH-200、宇部興産製、数平均分子量2000、式(1)に該当)と、1,3-ブタンジオールと、ジメチロールプロパン酸とアセトンとを所定量加え、均一に溶解させ、溶液濃度を80%とした。なお、PUD8及びPUD15に関しては両末端ポリシロキサンジオール(化合物a)も同時に配合した。
続いて、イソホロンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネートあるいは1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(バイオマス比率 重量比70%のものを使用)を所定量(NCO/OH=1.4)の当量比で加えて80℃で反応を行い、NCO%が理論値の90~98%となるまで反応を行い、溶液濃度を60%に希釈し、50℃に冷却し、固形分に対し20%となるイオン交換水と、中和剤(トリエチルアミン)を所定量(親水基-COOHと当量となる量)加え、系内を均一に乳化させ、エチレンジアミン(残存NCO%の100%モル量)を投入して鎖伸長し水で停止した。最後に、系内のアセトンを真空脱気し、ポリウレタン樹脂及びシロキサン変性ポリウレタン樹脂の水分散体であるPUD1~15を得た。
【0062】
JIS K-1557に準拠した滴定法により酸価を測定し、樹脂1gあたりの酸成分となる官能基の含有量を、KOHのmg当量で表1に示す。なお、単位はmgKOH/gである。
【0063】
PU1、PU14、PUD1、PUD14はバイオマス素材を使用していないタイプであり、PUD1~15は揮発性有機化合物の環境への影響を考慮すべく有機溶剤比率を5%以下とした(VOC対策)。得られた樹脂溶液及び樹脂分散液について、安定性を下記基準にしたがって5段階評価した。結果を表1に示す。
【0064】
<評価基準>
(樹脂溶液安定性)
5:室温で流動性がある。
4:室温で流動性があるが、白濁する。
3:室温で一部流動性が失われる。
2:室温で大部分流動性が失われる。
1:室温で流動性が完全に失われる。
【0065】
(樹脂分散液安定性)
5:室温で沈降、分離を生じない。
4:室温で一部沈降または分離が生じる。
3:室温で大部分沈降または分離が生じる。
2:室温で一部ゲル化が生じる。
1:室温で著しい沈降、分離、ゲル化などが生じる。
【0066】
【表1】
【0067】
表1中の略語は下記のとおりである。
(1)PCジオール:ポリカーボネートジオール
(2)Siジオール:下記式で表される化合物a(nは整数、数平均分子量1,900)
【0068】
【化7】
【0069】
(3)1,3BD:1,3-ブタンジオール
(4)IPDA:イソホロンジアミン
(5)IPDI:イソホロンジイソシアネート
(6)1,5PDI:1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(植物由来)
(7)HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
(8)EDA:エチレンジアミン
(9)ポリオール:PCジオール及びSiジオール
【0070】
(実施例1~28、比較例1,2)
<樹脂物性>
表2に下記方法で行った試験結果を示す。
(1)フィルム試料作製
まず、離型紙上にポリウレタン樹脂を塗布して130℃で2分間乾燥させて被膜を形成し、厚さ50μm、長さ60mm、幅10mmの試験片を作製した。
【0071】
(2)フィルム物性測定(-10℃)
上記フィルムについて、オートグラフ(島津製作所(株)製、型番:AGS-J)、恒温槽(島津製作所(株)製、型番:TCR1-200)DG0141014)を用いて、-10℃時の100%モジュラスを測定した。
【0072】
(3)耐オレイン酸性試験
上記フィルムをオレイン酸に70℃で24時間浸漬した後、(2)と同様の手法により室温で物性を測定した。100%モジュラス保持率は、下記の式から計算した。
(オレイン酸浸漬後フィルム100%モジュラス)÷(オレイン酸浸漬前フィルム100%モジュラス)
【0073】
(4)動的粘弾性
動的粘弾性装置(01dB-Metravib社製、型番:DMA-50)を使用して、上記フイルムから動的粘弾性挙動を測定、解析し、ガラス転移温度:Tg(E’から算出)、tanδピーク値温度を得た。測定条件は以下の通りである。
条件:周波数:10Hz、昇温温度:5℃/min、温度レンジ:-110℃~250℃(軟化するまで)
【0074】
【表2】
【0075】
(実施例29~56、比較例3、4)
<合成擬革物性>
表3に下記方法で行った試験結果を示す。
(1)合成擬革作製
[表皮層配合]
1.油性配合
・PU1~PU15 100部
・セイカセブンBS-780(s)ブラック(大日精化工業製)20部
・DMF 所定量(固形分が20%となる量)
2.水性配合
・PUD1~15 100部
・セイカセブンDW-1780ブラック(大日精化工業製)20部
【0076】
[接着層配合]
1.油性配合
・レザミンUD-8351(ポリウレタン樹脂接着剤、大日精化工業製)100部
・C-50架橋剤(イソシアネート系架橋剤、大日精化工業製) 10部
2.水性配合
・レザミンD-1060(ポリウレタン樹脂接着剤、大日精化工業製)100部
・レザミンD-65(イソシアネート系架橋剤、大日精化工業製) 10部
【0077】
上記表皮層配合を離型紙上に塗布し、乾燥して厚み20μmの表皮層を形成した。形成した表皮層上に、上記接着層配合液を塗布して、厚み20μmの接着剤層を形成し、これをドライラミネート(150℃、クリアランス=0)の条件に合わせて起毛布上に転写後、50℃で48時間熟成し、実施例29~56、比較例3、4の合成擬革を得た。
【0078】
(2)耐オレイン酸性試験
上記合成擬革にオレイン酸1mlを滴下し80℃で24時間静置した後、外観を以下の通り評価した。
A:目視で外観に変化なし
B:目視でわずかに膨潤
C:目視で溶解
【0079】
(3)耐寒屈曲性試験
上記合成擬革を用いて、デマッチャ試験機(安田精機製作所製、型番:NO.119-L DEMATTIA FLEXING TESTER)を用い、幅50mm、長さ150mm(評価範囲100mm)の試験シートを用いて、-10℃環境下、屈曲範囲72~108%、-10℃低温下にて屈曲試験を行った。評価指標は下記のとおりとした。
A:30000回後で割れなし
B:10000回後で割れなし、30000回後で割れあり
C:10000回後で割れあり
【0080】
【表3】
【0081】
(実施例57~84、比較例5、6)
<塗料物性>
表4に下記方法で行った試験結果を示す。
(1)表面処理剤作製
PU1~PU15、PUD1~PUD15のそれぞれとマット剤と架橋剤とを下記表4に示す割合で配合し、実施例57~84、比較例5、6の表面処理剤を得た。
なお、マット剤及び架橋剤の詳細は下記のとおりである。
1.マット剤
・ポリウレタン樹脂粒子:アートパールC-400透明(根上工業(株)製、体積平均粒子径15μm、Tg=-13℃)
・シリカ粒子:ACEMATT TS-100(エボニック社製、体積平均粒子径9.5μm)
【0082】
2.架橋剤
油性:C-50架橋剤(大日精化工業製、イソシアネート系架橋剤)
水性:エポクロスWS-500((株)日本触媒製、オキサゾリン系架橋剤、Tg=16℃、オキサゾリン基当量=220)
【0083】
(2)塗装物作製
各実施例、比較例で得られた表面処理剤をPVCシートにバーコータを用いて塗布し、130℃の乾燥機で2分間乾燥させ、被膜厚さ10μmの試験シートを作製した。
【0084】
(3)耐オレイン酸性試験
上記試験シートにオレイン酸1mlを滴下し、80℃24時間後の外観を以下の通り評価した。
A:目視で外観に大きな変化なし
B:目視で軽度の塗膜の傷、剥離
C:目視で著しい塗膜剥離
【0085】
(4)耐寒屈曲性試験
上記試験シートを用いて、合成擬革における耐寒屈曲試験と同様な方法で屈曲試験を行った。評価指標は下記のとおりとした。
A:10000回後で白化なし、割れなし
B:10000回後で白化あり、割れなし
C:10000回後で白化あり、割れあり
【0086】
【表4】
【0087】
実施例及び比較例の結果より明らかなように、本発明によれば、優れた耐寒屈曲性及び耐薬品性を両立できるポリウレタン樹脂を提供することができる。