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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】投射光学系およびレーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/481 20060101AFI20240105BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20240105BHJP
   G02B 5/04 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
G01S7/481 A
G01C3/06 140
G02B5/04 C
G02B5/04 F
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021546510
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2020024120
(87)【国際公開番号】W WO2021053909
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2019170835
(32)【優先日】2019-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(74)【代理人】
【識別番号】100170922
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】村上 公博
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-075564(JP,A)
【文献】特開2004-006326(JP,A)
【文献】特開2007-096318(JP,A)
【文献】特開2016-085797(JP,A)
【文献】特開2019-009108(JP,A)
【文献】特開2013-164964(JP,A)
【文献】特開2015-099205(JP,A)
【文献】特開2010-016367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - 7/51
G01S 17/00 - 17/95
G01C 3/06
G02B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガウシアン分布に近似の強度で光を発光する面発光光源と、
前記面発光光源から出射された前記光の強度を投射角度の範囲において少なくとも一方向に均一化する光学素子と、を備え、
前記光学素子は、
前記光が入射する入射面が、前記均一化の方向において、互いに異なる屈折作用を持つ複数の領域に区分され、
前記均一化方向における投射光の外縁付近の強度分布に前記ガウシアン分布に近似の強度分布が反映されるよう、前記複数の領域のうち、少なくとも、前記均一化の方向の外縁部分の前記光が入射する最外領域が、前記面発光光源の発光面に対して平行な状態から前記均一化の方向に傾いた平面となっている、
ことを特徴とする投射光学系。
【請求項2】
請求項1に記載の投射光学系において、
前記最外領域に入射する前記光の半値全幅をθ1とし、前記複数の領域のうち前記最外領域に対して内側に隣り合う隣接領域に入射する前記光の半値全幅をθ2とする場合、前記最外領域に入射する前記光のピーク位置P1と前記隣接領域に入射する前記光のピーク位置P2との間の角度ピッチΔPが、(θ1+θ2)/4以上に設定されている、
ことを特徴とする投射光学系。
【請求項3】
請求項2に記載の投射光学系において、
前記角度ピッチΔPが、(θ1+θ2)/2以下に設定されている、
ことを特徴とする投射光学系。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の投射光学系において、
前記光学素子の前記入射面は、前記面発光光源に近づく方向に突出した凸型の形状である、
ことを特徴とする投射光学系。
【請求項5】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の投射光学系において、
前記光学素子の前記入射面は、前記面発光光源から離れる方向に凹んだ凹型の形状である、
ことを特徴とする投射光学系。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか一項に記載の投射光学系において、
前記複数の領域の全てが、前記面発光光源の発光面に対して平行な状態から前記均一化の方向に傾いた平面である、
ことを特徴とする投射光学系。
【請求項7】
請求項1ないし5の何れか一項に記載の投射光学系において、
前記複数の領域のうち中央の領域は、前記均一化の方向に湾曲した曲面である、
ことを特徴とする投射光学系。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか一項に記載の投射光学系において、
前記面発光光源は、複数のVCSELが発光領域に均等に配置されたVCSELアレイである、
ことを特徴とする投射光学系。
【請求項9】
請求項1ないし7の何れか一項に記載の投射光学系において、
前記面発光光源は、少なくとも1つのLEDが発光領域に配置されて構成されている、
ことを特徴とする投射光学系。
【請求項10】
請求項9に記載の投射光学系において、
前記面発光光源は、複数のLEDが発光領域に均等に配置されて構成されている、
ことを特徴とする投射光学系。
【請求項11】
請求項1ないし10の何れか一項に記載の投射光学系と、
前記投射光学系から投射された投射光が物体によって反射された反射光を受光する受光光学系と、を備える、
ことを特徴とするレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を投射する投射光学系および当該投射光学系を用いたレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前方領域に光を投射し、その反射光に基づいて、前方領域に存在する物体を検出するレーダ装置が知られている。この種のレーダ装置では、たとえば、水平方向に所定の広がり角で光が投射される。この場合、当該広がり角の全範囲において一様に物体検出が可能であることが好ましい。このため、この種のレーダ装置では、広がり角の略全範囲において、光の強度分布を均一化するための投射光学系が用いられる。
【0003】
以下の特許文献1には、レーザダイオードの前方に、プリズム形状の光学素子を配置することにより、レーザダイオードから出射されたレーザ光の広がり角を広げつつ、強度分布を均一化する投射光学系が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-75564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のレーダ装置では、投射光の光量を高めることにより、物体検出が可能な距離を広げることができる。この場合、面発光光源を用いることにより、投射光の光量を高めることができる。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の構成において面発光光源を用いた場合、光源の発光領域が点光源から広がるため、光学素子の光軸の外側の広い範囲から光が入射する。このため、光学素子に対する軸外成分の影響により、広がり角の境界付近を急峻に均一強度に立ち上げることができなくなる。
【0007】
この問題を解消する方法として、面発光光源を点光源と見なし得る程度まで、面発光光源と光学素子との距離を広げる方法を用い得る。しかし、この方法では、大きく広がった光が光学素子に入射するため、光学素子が大型化し、結果、レーダ装置の大型化を招く。
【0008】
かかる課題に鑑み、本発明は、面発光光源を用いて投射光の光量を高めつつ、投射光の広がり角の境界付近において、投射光の強度を急峻に均一強度に高めることが可能な投射光学系およびレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、投射光学系に関する。本態様に係る投射光学系は、ガウシアン分布に近似の強度で光を発光する面発光光源と、前記面発光光源から出射された前記光の強度を投射角度の範囲において少なくとも一方向に均一化する光学素子と、を備える。ここで、前記光学素子は、前記光が入射する入射面が、前記均一化の方向において、互いに異なる屈折作用を持つ複数の領域に区分され、前記均一化方向における投射光の外縁付近の強度分布に前記ガウシアン分布に近似の強度分布が反映されるよう、前記複数の領域のうち、少なくとも、前記均一化の方向の外縁部分の前記光が入射する最外領域が、前記面発光光源の発光面に対して平行な状態から前記均一化の方向に傾いた平面となっている。
【0010】
光学素子の入射面に設定された複数の領域のうち、最も外側の最外領域に入射した光が、光学素子を透過した後の投射光の外縁を形成する。この最外領域を平面にすることにより、最外領域に入射した光の強度分布(ガウシアン分布に近似の強度分布)のうち側方の強度分布を、投射光の外縁の強度分布に反映させることができる。これにより、投射光の外縁の強度分布が、緩やかになることを抑制できる。よって、投射光の広がり角の境界付近において、投射光の強度を急峻に均一強度に高めることができ、結果、均一強度の範囲を広げることができる。
【0011】
本発明の第2の態様は、レーダ装置に関する。本態様に係るレーダ装置は、第1の態様に係る投射光学系と、前記投射光学系から投射された投射光が物体によって反射された反射光を受光する受光光学系と、を備える。
【0012】
第2の態様に係るレーダ装置によれば、第1の態様に係る投射光学系を備えるため、均一な強度分布で投射光が投射される角度範囲を広げることができる。よって、物体検出の精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のとおり、本発明によれば、面発光光源を用いて投射光の光量を高めつつ、投射光の広がり角の境界付近において、投射光の強度を急峻に均一強度に高めることが可能な投射光学系およびレーダ装置を提供できる。
【0014】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施形態に記載されたものに何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施形態に係る、レーダ装置の構成を示す斜視図である。
図2図2(a)は、実施形態に係る、面発光光源の構成を模式的に示す斜視図である。図2(b)は、実施形態に係る、発光ユニットの構成を模式的に示す斜視図である。図2(c)は、実施形態に係る、ファーフィールドにおける投射光の強度分布を示す図である。図2(d)は、実施形態に係る、複数の発光ユニットからの光により投射光が構成されることを模式的に示す図である。
図3図3(a)~(c)は、それぞれ、実施形態に係る、光学素子の構成を示す斜視図、上面図および背面図である。
図4図4(a)は、実施形態に係る、面発光光源から出射された投射光が光学素子によって屈折される様子を模式的に示す図である。図4(b)は、実施形態に係る、検証1における投射光の強度分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
図5図5(a)は、実施形態に係る、検証2において変数となるパラメータを説明する図である。図5(b)は、実施形態に係る、検証2における投射光の強度分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
図6図6(a)~(d)は、それぞれ、実施形態に係る、検証2における投射光の強度分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
図7図7(a)、(b)は、それぞれ、変更例1に係る、光学素子の構成を示す斜視図および上面図である。図7(c)、(d)は、それぞれ、変更例2に係る、光学素子の構成を示す斜視図および上面図である。
図8図8(a)、(b)は、それぞれ、変更例1および変更例2に係る、面発光光源から出射された投射光が光学素子によって屈折される様子を模式的に示す図である。
図9図9(a)は、変更例1に係る、検証3において変数となるパラメータを説明する図である。図9(b)は、変更例1に係る、検証3における投射光の強度分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
図10図10(a)~(d)は、それぞれ、変更例1に係る、検証3における投射光の強度分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
図11図11(a)は、実施形態に係る、面発光光源と光学素子との距離が所定の距離に設定された場合に、投射光が光学素子によって屈折される様子を模式的に示す図である。図11(b)は、実施形態に係る、面発光光源と光学素子との距離が所定の距離から広げられた場合に、投射光が光学素子によって屈折される様子を模式的に示す図である。
図12図12(a)は、変更例2に係る、面発光光源と光学素子との距離が所定の距離に設定された場合に、投射光が光学素子によって屈折される様子を模式的に示す図である。図12(b)は、変更例2に係る、面発光光源と光学素子との距離が所定の距離から広げられた場合に、投射光が光学素子によって屈折される様子を模式的に示す図である。
図13図13(a)、(b)は、それぞれ、実施形態および変更例2の構成において、面発光光源と光学素子との距離が大きくなった場合の最外領域を透過する光束の強度分布の変化を説明する図である。
【0016】
ただし、図面はもっぱら説明のためのものであって、この発明の範囲を限定するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。便宜上、各図には互いに直交するX、Y、Z軸が付記されている。X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向は、それぞれ、レーダ装置1の幅方向、高さ方向および前後方向である。レーダ装置1は、Z軸正方向に投射光を出射する。
【0018】
図1は、レーダ装置1の構成を示す斜視図である。図1には、上面カバーが外された状態のレーダ装置1が示されている。
【0019】
レーダ装置1は、2つの投射光学系10と、受光光学系20と、2つのヒートシンク30と、2つの冷却ファン40と、2つの回路基板50と、筐体60と、を備える。筐体60は、直方体形状からなっており、内部に、レーダ装置1の各構成部品を収容する空間を有する。
【0020】
投射光学系10は、面発光光源11と、光学素子12と、窓部材13とを備える。面発光光源11は、矩形の発光領域からZ軸方向に、ガウシアン分布(ファーフィールドの強度分布)の強度分布で、所定波長の投射光L1を出射する。面発光光源11は、たとえば、赤外の波長帯の投射光L1を出射する。光学素子12は、面発光光源11から出射された投射光L1の投射角をX軸方向に広げるとともに、X軸方向における投射光L1の強度分布を均一化する。窓部材13は、透光性の部材であって、筐体60に形成された投射光L1の通過口61を閉塞するように、筐体60前面の枠部62に装着される。窓部材13は、投射光L1の波長帯を選択的に透過させるフィルタであってもよい。
【0021】
図1の構成では、受光光学系20をX軸方向に挟むように、2つの投射光学系10が配置されている。2つの投射光学系10の構成は、同じである。2つの投射光学系10からそれぞれ投射された投射光L1は、受光光学系20の前方において重なる。これら投射光L1が重なった投射領域は、X軸方向に長い略長方形の形状である。
【0022】
受光光学系20は、集光レンズ21と、光検出器22とを備える。集光レンズ21は、レーダ装置1の前方に存在する物体によって反射された投射光L1の反射光R1を、光検出器22の受光面に集光させる。集光レンズ21は、必ずしも1つのレンズでなくてもよく、複数のレンズが組み合わされた構成であってもよい。受光光学系20は、投射光L1の波長帯のみを透過させるフィルタを含んでいてもよい。あるいは、投射光L1の波長帯が赤外の波長帯に含まれる場合、光検出器22は、赤外の波長帯のみに検出感度を有する構成であってもよい。
【0023】
光検出器22は、縦横に複数の画素(光センサ)が並んだ構成である。たとえば、各画素にAPD(アバランシェフォトダイオード)が配置された2次元APDアレイが、光検出器22として用いられる。あるいは、各画素にSPAD(シングルフォトンアバランシェダイオード)が配置された2次元SPADアレイが、光検出器22として用いられてもよい。
【0024】
ヒートシンク30は、面発光光源11で生じた熱を放射する。面発光光源11は、ヒートシンク30の前面に設置されている。冷却ファン40は、筐体60の背面から空気を取り込む。冷却ファン40で取り込まれた空気は、筐体60内を循環して、筐体60側面の排気口63から排気される。筐体60内を空気が循環する際に、ヒートシンク30の熱が空気に移動する。これにより、面発光光源11が冷却される。なお、冷却用の空気は、63を吸気口とし、冷却ファン40から排出する逆方向の循環にしてもよい。
【0025】
2つの回路基板50は、それぞれ、左側および右側の面発光光源11および冷却ファン40を駆動するための駆動回路が実装されている。2つの回路基板50の一方に、物体検出のための制御を行う制御回路51が実装されていてもよい。制御回路51が他の回路基板に実装されていてもよい。
【0026】
物体検出動作時に、制御回路51は、2つの面発光光源11をパルス発光させる。そして、制御回路51は、光検出器22の各画素からの検出信号を参照し、各画素において反射光R1が受光されたか否かを判定する。制御回路51は、投射光L1の投射領域のうち、反射光R1を受光した画素に対応する位置に物体が存在することを判定する。また、制御回路51は、面発光光源11の発光タイミングと反射光R1の受光タイミングの時間差に基づいて、物体までの距離を算出してもよい。
【0027】
図2(a)は、面発光光源11の構成を模式的に示す斜視図である。図2(b)は、発光ユニット111の構成を模式的に示す斜視図である。
【0028】
図2(a)に示すように、面発光光源11は、複数の発光ユニット111を備える。ここでは、6つの発光ユニット111が、ベース113に設置されている。発光ユニット111の数は、6つに限るものではない。各発光ユニット111は、配線112によって接続されて電源が供給される。発光ユニット111間の接続は、直列接続であってよく、あるいは並列接続であってもよい。
【0029】
図2(b)に示すように、発光ユニット111は、ベース111b上面の発光領域RA2に多数の光源111aが均等に配置され、各々が直列または並列に電気的に配線された状態で構成されている。光源111aは、垂直共振器面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)である。光源111aが、VCSEL以外の光源であってもよい。たとえば、光源111aがLED(Light Emitting Diode)であってもよい。各光源111aは、出射光軸に対称なガウシアン分布で光L0を出射する。光源111aの強度分布は、出射光軸を中心とする何れの径方向においても同じである。
【0030】
また、一般的に、LEDは、VCSELに比べて、大きな発光面積を有することから、たとえば、発光ユニット111や面発光光源11が、LEDのアレイ構成ではなく、単体のLEDで構成されていてもよい。すなわち、光源111aがLEDである場合、面発光光源11の発光領域と同程度の発光面積を有する1つのLEDが面発光光源11の発光領域に配置されてもよく、面発光光源11の発光領域よりも小さい発光面積を有する2つ以上のLEDが面発光光源11の発光領域に均等に配置されてもよい。
【0031】
図2(a)に示すように、6つの発光ユニット111が集積されることにより、発光領域RA1を面発光領域とする面発光光源11が構成される。発光領域RA1は、たとえば、縦横の辺が数mm~数10mmである。発光領域RA1には、略均等に光源111aが配置される。発光ユニット111がX軸方向のみに1次元に並ぶように配置されて面発光光源11が構成されてもよい。また、光源111aがX軸方向のみに1次元に並んだ構成であってもよい。
【0032】
図2(d)に示すように、全ての光源111aから出射される光L0によって投射光L1が構成される。多数の光源111aからの光L0が重なることにより、投射光L1は、ファーフィールドにおいて均一なガウシアン分布となる。図2(c)は、ファーフィールドにおける投射光L1の強度分布を示している。ファーフィールドにおける投射光L1の強度分布は、出射光軸(中心軸)に対称なガウシアン分布となる。投射光L1の強度分布は、出射光軸を中心とする何れの径方向においても同じである。
【0033】
なお、このように、多数の光源111aからの光L0を重ねられて投射光L1が形成されることにより、個々の光源111aのファーフィールドパターンおよび出力のばらつきが均一化されるといった効果もある。
【0034】
図3(a)~(c)は、それぞれ、光学素子12の構成を示す斜視図、上面図および背面図である。
【0035】
光学素子12は、プリズム形状の光透過性の部材からなっている。光学素子12は、入射面12aがZ軸負方向(面発光光源11に近づく方向)に突出した凸型の形状である。光学素子12の出射面(Z軸正側の面)はZ軸に垂直な平面である。光学素子12は、X軸方向に対称な形状である。入射面12aは、X軸方向(投射光L1を均一化する方向)に複数の領域121、122に区分されている。すなわち、入射面12aは、中央の2つの領域121と、これら領域121の外側に配置された2つの領域122を有する。
【0036】
2つの領域121のX軸方向の幅は、互いに同一かつ一定である。また、2つの領域122のX軸方向の幅は、互いに同一かつ一定である。領域121、122は、何れも平面である。2つの領域121は、XY平面に平行な状態(面発光光源11の発光面に平行な状態)から同じ角度だけXZ平面に平行な方向(投射光L1の均一化の方向)に傾いている。また、2つの領域122は、XY平面に平行な状態(面発光光源11の発光面に平行な状態)から同じ角度だけXZ平面に平行な方向(投射光L1の均一化の方向)に傾いている。領域122の傾き角は、領域121の傾き角よりも大きい。したがって、領域121と領域122は、X軸方向(投射光L1の均一化の方向)において、互いに異なる屈折作用を持つ。
【0037】
光学素子12は、入射面12aが面発光光源11の発光面に正対向するように配置される。すなわち、光学素子12の中心軸A1が面発光光源11の発光領域RA1の中心に一致し、且つ、光学素子12の出射面(Z軸側の面)が面発光光源11の発光面に平行となるように、光学素子12が配置される。
【0038】
図4(a)は、面発光光源11から出射された投射光L1が光学素子12によって屈折される様子を模式的に示す図である。
【0039】
図4(a)に示すように、面発光光源11の発光面11aから出射された投射光L1は、X軸方向に均等に入射面12aに掛かるように、入射面12aに入射する。投射光L1は、中央の2つの領域121、12に対し、X軸方向の幅の全ての領域に入射し、側方の2つの領域12、122には、X軸方向の幅の一部の領域122aに入射する。領域121、122aに入射した投射光L1は、各領域の傾き角に応じた屈折作用を受ける。
【0040】
ここで、上記のように面発光光源11は、多数の光源111aが集積された構成であるため、領域121、122aに入射する投射光L1の光線は、各光源111aからの光の広がり角をもって各領域に入射する。このため、領域121、122aに入射した光線は、その広がり角と領域121、122aの傾き角に応じた屈折作用とにより決定される屈折角で屈折される。これにより、光線の進行方向が決定される。
【0041】
ここで、領域122aの傾き角は、領域121よりも大きいため、領域122aに入射した光線群L12a、L12bは、領域121に入射した光線群L11よりも大きく屈折される。このため、中央の2つの領域121に入射した各光線は、光学素子12を透過した後の投射光L1のうち、X軸方向中央付近の角度範囲の光束を構成する。また、側方の2つの領域122aに入射した各光線は、光学素子12を透過した後の投射光L1のうち、X軸方向外縁付近の角度範囲の光束を構成する。
【0042】
ここで、側方の2つの領域122aに入射した各光線は、光源111aから出射される際の広がり角に応じて、進行方向が異なる。図4(a)の光線群L12a、L群12bは、この様子を示している。Z軸方向に対して光学素子12の中心方向に傾いた方向に領域122aに入射した光線は、領域122aによって、さらに光学素子12の中心方向に傾く方向に屈折される。
【0043】
したがって、領域122aに入射した投射光L1は、領域122aに対し、光軸方向(光学素子12の内側)に傾いて入射した光線群のうち最も大きく屈折された光線群L12aと、領域122aに対し、光軸方向から離れる方向(光学素子12の外側)に傾いて入射した光線群のうち最も小さく屈折された光線群L12bとの間の角度範囲を進む。よって、投射光L1のX軸方向の端部付近の光束は、光線群L12a付近の光束によって形成される。
【0044】
ここで、上記のように、面発光光源11は、多数の光源111aが略均等に配置された構成であるため、面発光光源11から領域121、122aに入射する光束の強度分布もそれぞれが略ガウシアン分布になる。また光が入射する領域121、122aが曲率を持たない平面であることから、投射光L1のX軸方向の外縁付近の強度分布は、領域122aに入射する光束の強度分布(ガウシアン分布)がそのまま反映される。
【0045】
このように、入射面が曲率を持たない平面であることで領域122aに入射する光束の強度分布(ガウシアン分布)が投射光L1のX軸方向の外縁付近の強度分布にそのまま反映されるため、投射光L1の外縁の強度分布が、緩やかになることを抑制できる。よって、投射光L1の広がり角の境界付近において、投射光L1の強度を急峻に均一強度に高めることができ、結果、均一強度の範囲を広げることができる。
【0046】
<検証1>
発明者は、上記構成の光学素子12を用いることにより、投射光L1の外縁付近の強度分布を急峻に立ち上げることができることをシミュレーションにより検証した。以下、この検証結果について説明する。
【0047】
図4(b)は、投射光L1の強度分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0048】
このシミュレーションでは、領域121、122aにガウシアン分布で光が入射することを想定した。各領域を透過する光束のガウシアン分布の半値全幅(FWHM)は、13.5°とした。光学素子12の入射面12aの分割数は、図3(a)~(c)と同様、4つとした。分割された4つの領域121、122は、上記と同様、平面とした。光学素子12を透過した後の投射光L1のX軸方向の広がり角は30°とした。また、領域122aと領域121との間の角度ピッチ(各領域を透過した光束のピーク強度間の角度差)を10°とした。
【0049】
図4(b)において、横軸は、投射光L1のX軸方向の放射角度であり、縦軸は、投射光L1の規格化された強度分布である。領域121、122aを透過した光束の強度分布が破線で示されている。中央の2つの破線の強度分布は、2つの領域121を透過した光束の強度分布であり、側方の2つの破線の強度分布は、2つの領域122aを透過した光束の強度分布である。4つの破線の強度分布が加算されて、実線で示された投射光L1全体の強度分布が得られる。
【0050】
図4(b)に示すように、領域122aを透過した光束の強度分布のうち、外側の強度分布(一点鎖線で囲んだ部分)が、投射光L1の外縁付近の強度分布にそのまま反映された。これにより、投射光L1の外縁付近の強度分布を、均一な強度分布まで急峻に立ち上げることができ、均一な強度分布の範囲を広く確保できた。すなわち、上記実施形態の構成の光学素子12を用いることにより、面発光光源11を用いて光量を確保しながら、投射光L1の放射角を±30°に拡張でき、且つ、広い範囲で投射光L1の強度分布を均一化できることを確認できた。
【0051】
<検証2>
次に、発明者は、領域121、122aを透過する光束のガウシアン分布の半値全幅と、これら光束の角度ピッチ(ピーク強度間の角度差)との関係を変化させた場合の投射光L1の強度分布の変化をシミュレーションにより検証した。
【0052】
図5(a)は、この検証において変数となるパラメータを説明する図である。図5(a)のグラフは、図4(b)のグラフと同じである。
【0053】
図5(a)において、θ1は、最も外側の領域(最外領域)を透過した光束の半値全幅であり、θ2は、最外領域に隣り合う内側の領域(隣接領域)を透過した光束の半値全幅である。P1、P2は、それぞれ、最外領域および隣接領域を透過した光束のピーク強度の角度位置であり、ΔPは、これらピーク強度の角度位置間の角度差(角度ピッチ)である。
【0054】
この検証においても、上記検証1と同様、光学素子12を透過した後の投射光L1のX軸方向の広がり角(放射角)は±30°とした。また、半値全幅θ1、θ2の変化に応じて、入射面12aの分割数を変更した。分割された各領域は、上記実施形態と同様、何れも平面とした。各領域を透過する光束の強度分布はガウシアン分布であると想定した。
【0055】
図6(a)~(d)は、シミュレーション結果を示す図である。図6(a)~(d)において、縦軸、横軸、実線および破線の内容は、図4(b)と同様である。
【0056】
図6(a)では、半値全幅θ1、θ2を10°とし、角度ピッチΔPを10°に設定した。すなわち、角度ピッチΔPと半値全幅θ1、θ2の関係は、以下の式のように設定した。
【0057】
ΔP=(θ1+θ2)/2 … (1)
【0058】
また、光学素子12の入射面12aは、上記と同様、4つの領域に区分した。
【0059】
図6(a)では、最も外側の光束の強度分布(ガウシアン分布)が投射光L1の強度分布にそのまま反映された。これにより、投射光L1の外縁範囲W2の強度分布を急峻に立ち上げ得ることが確認できた。また、均一範囲W1において強度分布がやや変動することが確認できた。このことから、角度ピッチΔPを上記式(1)の値以上の大きくすると均一範囲W1の均一化に支障が生じることが分かった。
【0060】
図6(b)では、半値全幅θ1、θ2を10°とし、角度ピッチΔPを7.5°に設定した。すなわち、角度ピッチΔPと半値全幅θ1、θ2の関係は、以下の式のように設定した。
【0061】
ΔP=(θ1+θ2)/2.7 … (2)
【0062】
また、光学素子12の入射面12aは、5つの領域に区分した。このため、中央の領域は、面発光光源11の発光面11aに平行であった。
【0063】
図6(b)においても、最も外側の光束の強度分布(ガウシアン分布)が投射光L1の強度分布にそのまま反映された。これにより、投射光L1の外縁範囲W2の強度分布を急峻に立ち上げ得ることが確認できた。また、図6(a)に比べて、均一範囲W1における強度分布の変動が顕著に抑制された。このことから、角度ピッチΔPを上記式()の値に設定することにより、良好な投射光L1の強度分布が得られることが確認できた。
【0064】
なお、図6(b)の検証結果では、均一範囲W1の幅が、図6(a)に比べてやや小さくなった。このことから、均一範囲W1を広げるためには、角度ピッチΔPを上記式(1)の値に近づけることが好ましいと言える。
【0065】
図6(c)では、半値全幅θ1、θ2を10°とし、角度ピッチΔPを5°に設定した。すなわち、角度ピッチΔPと半値全幅θ1、θ2の関係は、以下の式のように設定した。
【0066】
ΔP=(θ1+θ2)/4 … (3)
【0067】
また、光学素子12の入射面12aは、7つの領域に区分した。このため、中央の領域は、面発光光源11の発光面に平行であった。
【0068】
図6(c)では、最も外側の光束の強度分布(ガウシアン分布)の外側の範囲に、その内側の光束の強度分布(ガウシアン分布)の一部が掛かったため、投射光L1の外縁範囲W2の強度分布が、図6(b)に比べてやや緩やかになった。このため、外縁範囲W2がやや広がり、均一範囲W1がやや小さくなった。
【0069】
図6(d)では、半値全幅θ1、θ2を10°とし、角度ピッチΔPを0.5°に設定した。すなわち、角度ピッチΔPと半値全幅θ1、θ2の関係は、以下の式のように設定した。
【0070】
ΔP=(θ1+θ2)/20 … (4)
【0071】
また、光学素子12の入射面12aは、61の領域に区分した。このため、中央の領域は、面発光光源11の発光面に平行であった。
【0072】
図6(d)では、分割数が多いため、入射面12aは、曲面と略等価である。この条件では、投射光L1の外縁付近において複数の光束の強度分布が重なり合うため、外縁付近の強度分布がかなり緩やかになった。この結果から、入射面が曲面では急峻な強度分布が得られないことがわかる。
【0073】
図5(b)は、図6(a)~(d)の検証結果を統合したグラフである。便宜上、図5(b)には、各グラフの左側の境界付近の強度分布が示されている。
【0074】
この検証結果から、角度ピッチΔPを(θ1+θ2)/4以上に設定することにより、投射光L1の境界付近の強度分布の急峻性を確保できることが分かる。よって、角度ピッチΔPは、(θ1+θ2)/4以上に設定することが好ましいと言える。
【0075】
また、この検証結果および図6(a)の検証結果から、角度ピッチΔPが(θ1+θ2)/2を超えると、均一範囲W1における強度分布の均一性が劣化することが分かる。よって、角度ピッチΔPは、(θ1+θ2)/2以下に設定することが好ましいと言える。
【0076】
なお、図4(b)に示した検証1では、角度ピッチΔPが(θ1+θ2)/2.7となる。この場合も、図5(b)の実線のグラフと同様、投射光L1の境界付近における強度分布の急峻性と、均一範囲W1における強度分布の均一性を確保できている。
【0077】
<実施形態の効果>
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
【0078】
光学素子12の入射面12aに設定された複数の領域121、122のうち、最も外側の領域122(最外領域)に入射した光が、光学素子12を透過した後の投射光の外縁を形成する。この領域122(最外領域)を平面にすることにより、たとえば図4(a)に示すように、領域122(最外領域)に入射した光の強度分布(ガウシアン分布)のうち側方の強度分布を、投射光L1の外縁の強度分布に反映させることができる。これにより、投射光L1の外縁の強度分布が、緩やかになることを抑制できる。よって、投射光L1の広がり角(放射角度)の境界付近において、投射光L1の強度を急峻に均一強度に高めることができ、結果、均一強度の範囲(均一範囲W1)を広げることができる。または、均一強度の範囲を一定として考えた場合、均一強度範囲内の光エネルギーを高めることができ、その結果、光利用効率が上がることになる。
【0079】
上記のように、角度ピッチΔPは、(θ1+θ2)/4以上に設定されることが好ましい。これにより、投射光L1の境界付近における強度分布の急峻性を確保でき、均一範囲W1を広く設定できる。
【0080】
また、上記のように、角度ピッチΔPは、(θ1+θ2)/2以下に設定されることが好ましい。これにより、均一範囲W1における均一性の劣化を抑制できる。
【0081】
上記実施形態では、面発光光源11が、複数のVCSELが発光領域RA1に均等に配置されたVCSELアレイからなっている。これにより、面発光光源11の総光量(発光パワー)を効果的に高めることができる。
【0082】
なお、このように光源として面発光光源11を用いると、発光面積が大きくなるため、目の網膜上のエネルギー密度が低下することから、アイセーフを確保しつつ、より高いパワーでの光投射が可能となる。また、図1の構成では、投射光学系10が離れて2つ配置されているため、それぞれの光源が人の目の網膜上で、離れた位置に結像する。この結像位置の差が一定以上あれば、それぞれの光源に対して独立にアイセーフ条件を満たせばよいことになるため、これによってもアイセーフを確保しつつ、より高いパワーでの光投射が可能となる。また、投射光学系10が2つ配置されているため、万一、一方の面発光光源11に不具合が生じても、前方領域に投射光L1を投射でき、物体検出を継続することができる。
【0083】
図1に示したレーダ装置1によれば、上記構成の投射光学系10を備えるため、均一な強度分布で投射光L1が投射される角度範囲(均一範囲W1)を効率的に広げることができる。よって、物体検出の精度を高め、測距距離を延ばすことができる。
【0084】
<変更例1、2>
レーダ装置1の構成は、上記実施形態に示した構成以外に、種々の変更が可能である。
【0085】
たとえば、上記実施形態では、光学素子12の入射面12a中央付近に、平面からなる2つの領域121が設定されたが、光学素子12の入射面12a中央付近に、投射光L1の均一化の方向(X軸方向)に湾曲した曲面が設定されてもよい(以下、「変更例1」として示す)。
【0086】
また、上記実施形態では、光学素子12の入射面12aが、面発光光源11に近づく方向に突出した凸型の形状であったが、光学素子12の入射面12aが、面発光光源11から離れる方向に凹んだ凹型の形状であってもよい(以下、「変更例2」として示す)。
【0087】
図7(a)、(b)は、変更例1に係る、入射面12a中央付近に、投射光L1の均一化の方向(X軸方向)に湾曲した曲面が設定された場合の光学素子12の構成を示す斜視図および平面図である。また、図7(c)、(d)は、変更例2に係る、入射面12aが、面発光光源11から離れる方向に凹んだ凹型の形状である場合の光学素子12の構成を示す斜視図および平面図である。
【0088】
図7(a)、(b)の構成において、入射面12aは、X軸方向に3つの領域122、123に区分されている。このうち、中央の領域123は、X軸方向のみに湾曲した曲面である。領域123の形状は、球面または非球面のシリンドリカル形状である。領域123は、X軸方向に対称な形状である。領域122は、上記実施形態の領域122と同様、X軸方向に傾斜した平面である。光学素子12は、X軸方向に対称な形状である。
【0089】
図7(c)、(d)の構成において、入射面12aは、X軸方向に3つの領域124、125に区分されている。このうち、中央の領域124は、X軸方向のみに湾曲した曲面である。領域124の形状は、球面または非球面のシリンドリカル形状である。領域124は、X軸方向に対称な形状である。領域125は、X軸方向に傾斜した平面である。ここでは、入射面12aが凹型の形状であるため、2つの領域125は、上記実施形態の領域122とは反対方向に傾斜している。光学素子12は、X軸方向に対称な形状である。
【0090】
図8(a)は、面発光光源11から出射された投射光L1が、変更例1に係る光学素子12によって屈折される様子を模式的に示す図である。図8(b)は、面発光光源11から出射された投射光L1が、変更例2に係る光学素子12によって屈折される様子を模式的に示す図である。
【0091】
図8(a)を参照して、変更例1の光学素子12は、図4(a)の構成において、2つの領域121が、傾き角が徐々に変化する多数の領域に置き換えられた場合と等価な構成である。したがって、この場合も、図4(a)の光学素子12と同様、外側の2つの領域122aに入射した光線群L12a、L12bの放射角が中央の領域123に入射した光線群L13の放射角よりも大きくなる。このため、2つの領域122aに入射した光束が、投射光L1のX軸方向外縁付近の角度範囲の光束を構成する。
【0092】
図8(b)を参照して、変更例2の光学素子12では、領域125の傾き角が領域124の傾き角よりも大きい。このため、面発光光源11から入射面12aに入射する投射光L1のうち、外側の領域125aに入射する光束の光線群L15a、L15bは、中央の領域124に入射する光束の光線群L14よりも、放射角が大きくなる。よって、2つの領域125aに入射した光束が、投射光L1のX軸方向外縁付近の角度範囲の光束を構成する。
【0093】
このように、変更例1、2においても、最も外側の領域(2つの領域122aおよび2つの領域125a)に入射した光束が投射光L1の外縁付近の光束を構成するため、これらの領域を透過した光束におけるガウシアン分布の外側の範囲が、投射光L1の境界付近の強度分布に反映される。よって、変更例1、2においても、上記実施形態と同様、投射光L1の境界付近の強度分布を均一強度に急峻に立ち上げることができる。
【0094】
図7(c)、(d)に示した変更例2の構成において、領域124が、複数の平面に置き換えられてもよい。たとえば、入射面12aの形状が、図3(a)~(c)に示した入射面12aがZ軸方向に折り返された形状であってもよい。この構成においても、外縁の領域125aに入射した光束が投射光L1の外縁付近の光束を構成するため、図8(b)の場合と同様、投射光L1の境界付近の強度分布を均一強度に急峻に立ち上げることができる。
【0095】
<検証3>
発明者は、変更例の構成において、領域123、122aを透過する光束のガウシアン分布の半値全幅と、これら光束の角度ピッチ(ピーク強度間の角度差)との関係を変化させた場合の投射光L1の強度分布の変化をシミュレーションにより検証した。
【0096】
図9(a)は、この検証において変数となるパラメータを説明する図である。
【0097】
図9(a)において、横軸は、投射光L1のX軸方向の放射角度であり、縦軸は、投射光L1の規格化された強度分布である。領域123、122aを透過した光束の強度分布が破線で示されている。中央の破線の強度分布は、領域123を透過した光束の強度分布であり、側方の2つの破線の強度分布は、2つの領域122aを透過した光束の強度分布である。3つの破線の強度分布が加算されて、実線で示された投射光L1全体の強度分布が得られる。
【0098】
図9(a)において、θ1は、最も外側の領域(最外領域)を透過した光束の半値全幅であり、θ2は、最外領域に隣り合う中央の領域(隣接領域)を透過した光束の半値全幅である。P1、P2は、それぞれ、最外領域および隣接領域を透過した光束のピーク強度の角度位置であり、ΔPは、これらピーク強度の角度位置間の角度差(角度ピッチ)である。
【0099】
この検証においても、上記検証1と同様、光学素子12を透過した後の投射光L1のX軸方向の広がり角(放射角)は±30°とした。各領域を透過する光束の強度分布はガウシアン分布であると想定した。なお、図9(a)に示したグラフでは、半値全幅θ1、θ2がそれぞれ10°、17°に設定され、角度ピッチΔPが10°に設定されている。すなわち、半値全幅θ1、θ2と角度ピッチΔPとの間には、上記式(2)の関係がある。
【0100】
図10(a)~(d)は、シミュレーション結果を示す図である。図10(a)~(d)において、縦軸、横軸、実線および破線の内容は、図9(a)と同様である。
【0101】
図10(a)では、半値全幅θ1、θ2を10°とし、角度ピッチΔPを10°に設定した。すなわち、角度ピッチΔPと半値全幅θ1、θ2の関係は、上記式(1)に従って設定した。
【0102】
図10(b)では、半値全幅θ1、θ2をそれぞれ10°、17°とし、角度ピッチΔPを10°に設定した。すなわち、角度ピッチΔPと半値全幅θ1、θ2の関係は、上記式(2)に従って設定した。図10(b)のグラフは、図9(a)のグラフと同じである。
【0103】
図10(c)では、半値全幅θ1、θ2をそれぞれ10°、30°とし、角度ピッチΔPを10°に設定した。すなわち、角度ピッチΔPと半値全幅θ1、θ2の関係は、上記式(3)に従って設定した。
【0104】
図10(d)では、半値全幅θ1、θ2をそれぞれ10°、190°とし、角度ピッチΔPを10°に設定した。すなわち、角度ピッチΔPと半値全幅θ1、θ2の関係は、上記式(4)に従って設定した。
【0105】
図10(a)~(c)の検証では、上記実施形態の検証2における図6(a)~(c)の検証結果と同様の傾向の検証結果が得られた。これに対し、図10(d)の検証では、上記実施形態の検証2における図6(d)の検証結果よりも、顕著に境界付近の立ち上がりが緩やかな強度分布となった。
【0106】
図9(b)は、図10(a)~(d)の検証結果を統合したグラフである。便宜上、図9(b)には、各グラフの左側の境界付近の強度分布が示されている。
【0107】
これらの検証から、変更例1の構成においても、角度ピッチΔPを(θ1+θ2)/4以上に設定することにより投射光L1の境界付近の強度分布を急峻に立ち上げることができ、また、角度ピッチΔPを(θ1+θ2)/2以下に設定することにより投射光L1の均一範囲W1における強度分布の変動を抑制できることを確認できた。変更例2の構成においても、同様の検証結果が得られるものと想定され得る。
【0108】
次に、面発光光源11と光学素子12との距離が変化した場合に、光学素子12の入射面12aが凸型である場合と凹型である場合とで、投射光L1の境界付近の強度分布にどのような差異が生じるかについて検討する。
【0109】
図11(a)、(b)は、実施形態の構成(入射面12aが凸型)において、面発光光源11と光学素子12との距離が変化した場合に、面発光光源11から出射された投射光L1が光学素子12によって屈折される様子を模式的に示す図である。
【0110】
図11(b)に示すように、面発光光源11と光学素子12との距離が大きくなると、領域122に入射する光束の範囲(領域122a)が広がる。このとき、面発光光源11の各光源111aから出射される光は所定の出射角で広がるため、面発光光源11と光学素子12との距離が大きくなるに従って、領域122aに入射する光線群は、光軸方向から離れる方向(光学素子12の外側)に傾いて入射する光線群の比率が高まる。このため、投射光L1の境界付近を構成する光線群L12aの光量が、面発光光源11と光学素子12との距離が大きくなるに従って減少し、これに伴い、光線群L12bの光量が増加する。
【0111】
図12(a)、(b)は、変更例2の構成(入射面12aが凹型)において、面発光光源11と光学素子12との距離が変化した場合に、面発光光源11から出射された投射光L1が光学素子12によって屈折される様子を模式的に示す図である。
【0112】
図12(b)に示すように、面発光光源11と光学素子12との距離が大きくなると、領域125に入射する光束の範囲(領域125a)が広がる。このとき、面発光光源11の各光源111aから出射される光は所定の出射角で広がるため、面発光光源11と光学素子12との距離が大きくなるに従って、領域125aに入射する光線群は、光軸方向から離れる方向(光学素子12の外側)に傾いて入射する光線群の比率が高まる。変更例2では、入射面12aが凹型であるため、実施形態の構成と異なり、領域125aによって外側方向に最も大きく屈折された光線群L15bが投射光L1の境界付近を構成する。したがって、変更例2では、投射光L1の境界付近を構成する光線群L15bの光量が、面発光光源11と光学素子12との距離が大きくなるに従って増加し、これに伴い、光線群L15aの光量が減少する。
【0113】
図13(a)、(b)は、それぞれ、実施形態および変更例2の構成において、面発光光源11と光学素子12との距離が大きくなった場合の最外領域を透過する光束の強度分布の変化を説明する図である。
【0114】
便宜上、図13(a)には、実施形態の構成において、X軸負側の領域122を透過した光束の強度分布が示され、図13(b)には、変更例2の構成において、X軸正側の領域125を透過した光束の強度分布が示されている。実線は、面発光光源11と光学素子12との距離が広げられる前の強度分布を示し、破線は、面発光光源11と光学素子12との距離が広げられた後の強度分布を示している。
【0115】
実施形態の構成では、面発光光源11と光学素子12との距離が広がると、上記のように、投射光L1の境界付近を構成する光線群L12aの光量が減少し、光線群L12bの光量が増加する。このため、図13(a)に示すように、X軸負側の領域122を透過した光束の強度分布は、面発光光源11と光学素子12との距離が広がることにより、外側の範囲(+30°側の範囲)がより急峻となり、内側の範囲(0°側の範囲)がより緩やかになる。ここでは、外側の範囲が投射光L1の外縁付近の強度分布に反映されるため、投射光L1の外縁付近の強度分布は、面発光光源11と光学素子12との距離が広がるに応じて急峻となる。
【0116】
これに対し、変更例2の構成では、面発光光源11と光学素子12との距離が広がると、上記のように、投射光L1の境界付近を構成する光線群L15bの光量が増加し、光線群L15aの光量が減少する。このため、図13(b)に示すように、X軸正側の領域125を透過した光束の強度分布は、面発光光源11と光学素子12との距離が広がることにより、外側の範囲(-30°側の範囲)がより緩やかとなり、内側の範囲(0°側の範囲)がより急峻になる。ここでは、外側の範囲が投射光L1の外縁付近の強度分布に反映されるため、投射光L1の外縁付近の強度分布は、面発光光源11と光学素子12との距離が広がるに応じて緩やかとなる。
【0117】
このように、変更例2の構成(入射面12aが凹型)の場合は、光学素子12を所定の位置からZ軸正方向に移動させると、投射光L1の外縁付近における強度分布の急峻性が低下する。これに対し、実施形態の構成(入射面12aが凸型)の場合は、光学素子12を所定の位置からZ軸正方向に移動させることにより、投射光L1の外縁付近における強度分布の急峻性を向上させることができる。
【0118】
したがって、実施形態の構成では、光学素子12の位置をZ軸方向に調整することにより、投射光L1の外縁付近の強度分布の急峻性を調整できる。よって、実施形態の構成によれば、均一範囲W1の平坦度の調整と個々の光源111aのファーフィールドパターンの個体差の補正を行いつつ、投射光L1の外縁付近の強度分布の急峻性を所望の状態に設定することができる。
【0119】
<変更例1、2の効果>
変更例1のように、中央の領域123がX軸方向(投射光L1の均一化の方向)に湾曲した曲面であっても、図8(a)を参照して説明したように、投射光L1の外縁付近の強度分布を均一強度に急峻に立ち上げることができ、均一範囲W1を広く確保できる。
【0120】
なお、図5(b)と図9(b)とを比較すると、実施形態のように全ての領域を平面に設定した方が、変更例2のように中央の領域を曲面に設定した場合に比べて、均一範囲W1の境界位置をより外側の角度位置に設定でき、均一範囲W1をより広く確保できることが分かる。よって、均一範囲W1をより広く確保するためには、入射面12aの全ての領域が平面であることが好ましいと言える。
【0121】
また、変更例2のように、入射面12aが面発光光源11から離れる方向に凹んだ凹型の形状であっても、図8(b)を参照して説明したように、投射光L1の外縁付近の強度分布を均一強度に急峻に立ち上げることができ、均一範囲W1を広く確保できる。
【0122】
ただし、図11(a)~図13(b)を参照して説明したとおり、実施形態のように入射面12aが凸型の形状であれば、光学素子12の位置をZ軸方向に調整することにより、投射光L1の外縁付近の強度分布の急峻性を向上させることができるため、適宜、均一範囲W1の平坦度の調整と個々の光源111aのファーフィールドパターンの個体差の補正を行いつつ、投射光L1の外縁付近の強度分布の急峻性を所望の状態に設定することができる。よって、この点において、光学素子12の入射面12aは、凹型よりも凸型の形状が好ましいと言える。
【0123】
<その他の変更例>
上記実施形態および変更例1、2では、X軸方向においてのみ入射面12aを複数の領域に区分し、そのうち少なくとも最外の領域を平面に設定したが、この構成をさらにY軸方向にも適用して、入射面12aを構成してもよい。これにより、投射光L1をX軸方向とY軸方向の両方において均一化でき、両方向の外縁付近における強度分布を均一強度に急峻に立ち上げることができる。
【0124】
また、上記実施形態では、レーダ装置1に2つの投射光学系10が設置されたが、レーダ装置1に設置される投射光学系10の数は2つに限られるものではなく、1つまたは3つ以上の投射光学系10がレーダ装置1に設置されてもよい。
【0125】
また、上記実施形態および変更例1、2の各図において、入射面12aに設定された各領域の傾き角および曲率は、説明の便宜上示されたものであって、これら領域の傾き角および曲率は、各図に示されたものに限定されるものではない。各領域の傾き角および曲率は、投射光L1の強度分布を外縁付近で急峻に立ち上げることができ、均一範囲W1の平坦度を適正に確保できるように設定されればよい。
【0126】
また、入射面12aの区分数は、上記実施形態および変更例1、2に示した区分数に限られるものではなく、両側に最外領域を設定でき且つその内側に隣接領域を設定できる限りにおいて、他の区分数に設定されてもよい。また、曲面の領域と平面の領域の組み合わせ方法は、上記変更例1、2に示した組み合わせ方法に限られるものではなく、両側の最外領域が平面である限りにおいて、他の組み合わせ方法が用いられてもよい。
【0127】
また、入射面12aで区分される各面の面積は、各面を通過する光束が形成するガウシアン分布の強度(大きさ)に作用するため、各面を通過して前方に投射されるガウシアン分布を合成した強度分布が平坦になるように最適化し、設定されればよい。
【0128】
また、上記実施形態および変更例1、2に示した光学素子の出射面は光源の発光面に対して平行な平面としたが、凹面または凸面にすることで投射角度範囲に対する拡大縮小作用を持たせてもよい。
【0129】
また、上記では、光学素子に組み合わせる光源111aがガウシアン分布で発光することを前提に説明したが、光学素子12の各面を通過して前方に投射される光束群を合成して得られる強度分布が、平坦な分布を実現できる範囲であれば、光源111aの強度分布が多少ガウシアン分布から崩れていても許容することができる。
【0130】
また、上記実施形態は、投射光学系10がレーダ装置1に適用されたが、本発明に係る投射光学系は、レーダ装置1以外の装置にも、均一強度で投射光を投射する他の装置に適宜適用され得る。
【0131】
この他、本発明の実施形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0132】
1 レーダ装置
10 投射光学系
11 面発光光源
11a 発光面
12 光学素子
12a 入射面
20 受光光学系
121、122、123、124、125 領域
111a 光源(VCSEL)
RA1 発光領域
図1
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