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特許7413598大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置
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  • 特許-大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/843 20210101AFI20240105BHJP
   A61M 25/10 20130101ALI20240105BHJP
   A61M 60/139 20210101ALI20240105BHJP
   A61M 60/295 20210101ALI20240105BHJP
   A61M 60/497 20210101ALI20240105BHJP
   A61M 60/531 20210101ALI20240105BHJP
   A61M 60/554 20210101ALI20240105BHJP
【FI】
A61M60/843
A61M25/10 520
A61M25/10 546
A61M60/139
A61M60/295
A61M60/497
A61M60/531
A61M60/554
【請求項の数】 11
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023134830
(22)【出願日】2023-08-22
【審査請求日】2023-10-18
(31)【優先権主張番号】202211012827.5
(32)【優先日】2022-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519441590
【氏名又は名称】フーワイ ホスピタル オブ チャイニーズ アカデミー オブ メディカル サイエンシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タオ ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ユエジン ヤン
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-074483(JP,A)
【文献】特開平7-265411(JP,A)
【文献】特開平10-155909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/843
A61M 25/10
A61M 60/139
A61M 60/295
A61M 60/497
A61M 60/531
A61M 60/554
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテル(2)と、
それぞれ、前記カテーテル(2)を取り囲み、前記カテーテル(2)の長手方向に連続的に配置される第1のバルーン(4)および第2のバルーン(6)であって、前記第1のバルーン(4)は前記カテーテルの遠位部に位置するカウンターパルセーションバルーンであり、前記第2のバルーン(6)は前記第1のバルーン(4)の近位端に隣接して配置され、前記第1のバルーン(4)よりも前記カテーテル(2)の近位端寄りに位置するバルブバルーンである、第1のバルーン(4)および第2のバルーン(6)と、
心周期およびカテーテル末端(5)の動脈圧をモニタリングするモニタリング部と、
前記第1のバルーン(4)および第2のバルーン(6)にそれぞれ関連付けられ、空気を供給および抜き取るための空気ポンプと、
一端が前記第1のバルーン(4)連通し、他端が前記第1のバルーン(4)に関連付けられる前記空気ポンプと連通する第1の吸気管(3)と
一端が前記第2のバルーン(6)と連通し、他端が前記第2のバルーン(6)に関連付けられる前記空気ポンプと連通する第2の吸気管(7)と、
拡張期に前記第1のバルーン(4)を膨張させる一方で前記第2のバルーン(6)を収縮させ、収縮期に前記第1のバルーン(4)を収縮させる一方で前記第2のバルーン(6)を膨張させるように、前記モニタリング部によってモニタリングされた心周期およびカテーテル末端(5)の動脈圧に基づいて、前記第1のバルーン(4)および前記第2のバルーン(6)を膨張および収縮させるよう前記空気ポンプを制御するための制御部であって、前記第2のバルーン(6)は前記第1のバルーン(4)の膨張および収縮とは逆に同期して収縮および膨張する制御部と、を備える大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置であって、
前記第1のバルーン(4)は拡張期に完全に膨張し、収縮期に完全に収縮し、前記第2のバルーン(6)は拡張期に完全に収縮し、収縮期にその完全膨張体積の所定の割合までしか膨張できず、
前記大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置が大動脈内にセットされた後、前記制御部が、クリニカルフィードバックによって示唆される循環不全に対するサポート効果に基づいて、その完全膨張体積に対する、膨張した前記第2のバルーン(6)の体積の割合を調節することを特徴とする大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置。
【請求項2】
前記大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置が大動脈内にセットされた後、前記第2のバルーン(6)が先ず収縮期に完全に膨張し、その後、前記制御部が、その完全膨張体積に対する、膨張した前記第2のバルーン(6)の体積の割合を調節することを特徴とする請求項1に記載の大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置。
【請求項3】
前記制御部が、前記モニタリング部によってモニタリングされた動脈圧およびクリニカルフィードバックによって示唆される循環不全に対するサポート効果に基づいて、その完全膨張体積に対する、膨張した前記第2のバルーン(6)の体積の割合を調節することを特徴とする請求項に記載の大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置。
【請求項4】
複数の離散的な数値ポイントが、その完全膨張体積に対する、膨張した前記第2のバルーン(6)の体積の割合を調節する時に取り得る値のオプションとして前記制御部に予め設定されていることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置。
【請求項5】
各離散的な数値ポイントの間の間隔ステップが同一であることを特徴とする請求項に記載の大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置。
【請求項6】
前記間隔ステップは少なくとも5%であることを特徴とする請求項に記載の大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置。
【請求項7】
膨張した前記第2のバルーン(6)は、その完全膨張体積の100%または75%または50%または25%または0%に達することができることを特徴とする請求項に記載の大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置。
【請求項8】
膨張した前記第2のバルーン(6)は、その完全膨張体積の100%または85%または65%または35%または0%に達することができることを特徴とする請求項に記載の大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置。
【請求項9】
連続した数値範囲が、その完全膨張体積に対する、膨張した前記第2のバルーン(6)の体積の割合を調節する時に取り得る値の範囲として前記制御部に予め設定されていることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置。
【請求項10】
前記連続した数値範囲内に、その完全膨張体積に対する、膨張した前記第2のバルーン(6)の体積の割合を設定した後、その完全膨張体積に対する、膨張した前記第2のバルーン(6)の体積の割合の調節を一定の間隔ステップの倍数で行うことを特徴とする請求項に記載の大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置。
【請求項11】
前記間隔ステップは少なくとも5%であることを特徴とする請求項10に記載の大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大動脈内バルーンパンピング(IABP)は、現在、臨床で広く効果的に応用されている機械的補助循環装置である。バルーンが装着されたカテーテルを、動脈系を通して下行胸部大動脈の近位端または左鎖骨下動脈開口の遠位端に留置し、心周期に合わせてバルーンを膨張および収縮させ、大動脈内で血液を時相的に変化させることにより、機械的に循環を補助する心臓カテーテル治療法である。これにより、大動脈インピーダンスを減少させ、心拍出量と大動脈拡張期圧を増加させる一方、心筋の酸素消費量を減少させ、酸素供給量を増加させ、心機能を改善するという目的を実現することができる。
【0003】
大動脈内バルーンパンピング(IABP)は、冠動脈の灌流を増加させ、心室後負荷を低減させることによって患者の血行動態を改善するために様々な状況に適用され、これらの要因により、心機能と心筋酸素需給比が改善される。この役割は非常に穏やかであり、一般的に、心拍出量は20%以上増加することはない。大動脈内バルーンパンピング(IABP)の適応としては、血行動態が不安定な急性心筋虚血、術後心原性ショック、進行性心不全の治療、心臓移植前の移行、ハイリスク患者の心臓手術前、手術中、手術後の低心拍出量症候群の補助などがある。
【0004】
大動脈内バルーンパンピング装置は、バルーンカテーテルと、バルーンカテーテル駆動部としてのカウンターパルセーションマシンと、を備える。バルーンカテーテルは、空気供給カテーテルと、カテーテルに固定された円筒形バルーンとからなる。バルーンカテーテルの選択基準は、バルーン膨張後に大動脈内腔の90%~95%を遮断し、且つ、バルーン体積が心臓ストローク量の50%よりも大きいものとされる。カウンターパルセーションマシンは、モニタリング部と、制御部と、真空ポンプと、空気コンプレッサと、を備える。空気供給カテーテルは細長い円筒形バルーンを真空ポンプおよび空気コンプレッサと連通させる。モニタリング部と制御部は互いに連携し、所与のパラメータに従ってECGまたは圧力信号を自動的に識別し、膨張と収縮の時相を自動的に調整し、カウンターパルセーションパラメータを自動調節して、最良のカウンターパルセーション效果を実現し、故障や異常なストロークがある場合に自動的に停止する。
【0005】
心臓拡張時にバルーンは膨張し、心臓収縮時にバルーンは収縮する。こうして二重の血行動態の効果が生じる。一方では、バルーンが拡張期に膨張すると、血液空間が占有される。この場合、大動脈弁が既に閉じているため、膨張したバルーンが、大動脈の遠位側と近位側の両方に血液を迅速に送り込み、バルーンの遠位(心臓)側に血液が送り込まれることで、大動脈基部の拡張期圧が上昇し、心臓と脳への冠動脈と脳動脈の血液供給が増え、バルーンの近位(末梢)側に血液が送り込まれることで、全身の末梢灌流が増加し、拡張期末梢圧が高くなり、心臓循環がサポートされる。他方では、収縮期前にバルーンを収縮させ、大動脈負圧を瞬時に発生させて左心室の仕事負荷(心臓後負荷)を大幅に低下させることで、心拍出量を増加させ、心筋酸素消費量を減少させ、左室駆出量と循環血液供給量を改善する。
【0006】
バルーンのカウンターパルセーションは通常、バルーン先端で記録される動脈波形によってトリガーされるか、または、心電図のQRS波形によって時間と共に制御される。バルーンのカウンターパルセーションは、各心周期の拡張期と収縮期のそれぞれにおいて、非常に早い時点で膨張および収縮させる必要がある。理想的には、大動脈弁が閉じた直後の拡張期にバルーンを膨張させ、心電図のT波の終わりや動脈波形の初期下降波に対応させる。一方、大動脈弁が開く直前、即ち左心室から駆出されようとする収縮期にバルーンを収縮させるのが好ましく、心電図上のQRS波または動脈波形の下降波の終わりに対応させる。収縮期における早すぎる収縮は有効性を低下させる可能性がある。
【0007】
現在、臨床用のIABPカテーテルは、心周期に合わせてバルーンを膨張および収縮させて、大動脈内に送り出される血液を穏やかに増加させることしかできず、血液を一方向に前方に移動させたり、血液を積極的に駆動させたりすることはできない。
【0008】
1993年8月24日出願の日本国特許出願、名称「バルーンパンピングシステム」、公開番号H05212109には、拡張期に両方のバルーンが膨張し、収縮期には一方のバルーンが収縮し、バルブバルーンが少し遅れて(数ミリ秒)収縮するバルーンパンピングシステムが開示されている。拡張期には、バルーンは一方向弁を通して、大きなパンピングバルーンと小さなバルブバルーンが同時に膨張するように膨張する一方、収縮期には、一方向弁を通して、大きなパンピングバルーンが最初に収縮し、続いて小さなバルブバルーンが収縮するように収縮する。
【0009】
1987年6月17日に出願された米国特許US4902272号、名称「動脈内心臓サポートシステム」は、カテーテルの長手方向に前方および後方にそれぞれ配置された第1のバルーンおよび第2のバルーンからなり、第1のバルーンはカテーテルの遠位端に配置されたパンピングバルーンであり、第2のバルーンは第1のバルーンよりもカテーテルの近位端に近い位置に配置されたバルブバルーンである動脈内心臓サポートシステムを開示している。心臓拡張期が始まり、第1のバルーンが膨張するとき、第2のバルーンはすでに膨張した状態にあり、収縮を開始していない。第2のバルーンが収縮を開始するとき、第1のバルーンは膨張したままであり、収縮状態にないため、同時に膨張を始めることはない。第2のバルーンが膨張を開始するとき、第1のバルーンは膨張したままであり、収縮を開始しない。心臓の収縮期も同様である。したがって、第1のバルーンと第2のバルーンが同時に、かつ、逆に、一方を膨張させ、他方を収縮させるようなことはない。
【0010】
本出願人の2019年11月8日付け中国登録特許CN110876673B、名称「大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置」において、大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置が開示されており、カテーテルの遠位端に位置する第1の「ポンプ」バルーンと、カテーテルの近位端に位置する第2の「バルブ」バルーンとが、カテーテルの長手方向に沿って連続して配置されており、第2のバルーンは、第1のバルーンの膨張および収縮とは逆に同期して収縮および膨張し、拡張期には第1のバルーンが膨張する一方で第2のバルーンが収縮し、収縮期には第1のバルーンが収縮する一方で第2のバルーンが膨張する。
【0011】
しかし、臨床的には、血液を一方向に送り出すことができる大動脈内バルーン駆動パンピングカテーテルを提供する必要性があるだけでなく、様々な臨床的循環不全の必要性に応じて、様々な強度の循環サポートの投与を調節できるようにしたいという要望があるが、これは現在の従来技術では全く考慮されていない。
【発明の概要】
【0012】
上記技術課題を解決するために、本発明は、大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置を提供することを目的とする。当該大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置は、カテーテルと、カテーテルを取り囲み、カテーテルの長手方向に連続的に配置される第1のバルーンおよび第2のバルーンであって、第1のバルーンはカテーテルの遠位に位置するカウンターパルセーションバルーンであり、第2のバルーンは第1のバルーンの近位端に隣接して配置され、第1のバルーンよりもカテーテルの近位端寄りに位置するバルブバルーンである、第1のバルーンおよび第2のバルーンと、心周期およびカテーテル末端の動脈圧をモニタリングするモニタリング部と、第1のバルーンおよび第2のバルーンにそれぞれ関連付けられ、空気を供給および抜き取るための空気ポンプと、一端が第1のバルーンおよび第2のバルーンとそれぞれ連通し、他端がそれぞれ関連付けられる空気ポンプと連通する第1の吸気管および第2の吸気管と、拡張期に第1のバルーンを膨張させる一方で第2のバルーンを収縮させ、収縮期に第1のバルーンを収縮させる一方で第2のバルーンを膨張させるように、モニタリング部によってモニタリングされた心周期およびカテーテル末端の動脈圧に基づいて、第1のバルーンおよび第2のバルーンを膨張および収縮させるよう空気ポンプを制御するための制御部であって、第2のバルーンは第1のバルーンの膨張および収縮とは逆に同期して収縮および膨張する制御部と、を備え、第1のバルーンは拡張期に完全に膨張し、収縮期に完全に収縮し、第2のバルーンは収縮時(拡張期)に完全に収縮し、膨張時(収縮期)にその完全膨張体積の所定の割合までしか膨張できない、大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置。
【0013】
よって、本発明は、第2のバルーンの膨張程度が調節可能な調節可能式大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテルを提供する。
【0014】
拡張期に、第1のバルーンを膨張させ、第2の(バルブ)バルーンを収縮させることによって、以下の効果がもたらされる:第1のバルーンの膨張、それ自体により、血液が大動脈の近位(心臓)側と遠位(末梢)側の両方に送り込まれるため、大動脈基部の拡張期圧が上昇し、心筋と脳への冠動脈と脳動脈の両方の血液供給が増え、末梢では全身への血液供給と灌流が促進される。
【0015】
収縮期に、第1のバルーンを収縮させ、第2のバルーンを膨張させることによって、以下の血液駆動効果がもたらされる:第1のバルーンが収縮すると、血液空間が急速に空になって大動脈内の圧力が低下し、その後、駆出心臓から大動脈に血液が吸い込まれる。これは、遠位大動脈からの血液の逆流を止めるために、第1バルーンの収縮と第2バルーンの遮断の組み合わせによって生じる駆出心臓と空になっている大動脈との間の最大圧力差により、上流の心臓の血液を大動脈に著しく送り込み、次の心周期の拡張期に血液を下流前方に向かって送り出す。その結果、血液循環は強められ、押し出され、駆動されるだけでなく、一方向の前方に保たれ、循環不全や虚脱さえも積極的かつ強力に正常循環状態をサポートすることができる。
【0016】
ここで、第1および第2のバルーンの収縮および膨張も心臓拡張期と同様に同時に作用するが、収縮期における第2のバルーンの膨張は、制御部の制御の下で、100%または75%または50%または25%または0%といった、完全膨張体積の所定の割合にのみ達することができる。第2のバルーンはバルブバルーンとして機能し、その完全な膨張は最適な膨張遮断と循環サポート効果を意味し、第1のカウンターパルセーションバルーンの収縮によってもたらされる吸引ポンプ効果を高め、前方の血流が送り戻されないようにする。しかしながら、患者の循環不全の程度によって必要とされる循環サポートの程度が異なることを考慮すると、第2(バルブ)バルーンの膨張体積を、その完全膨張体積の所定の割合にのみ設定することが必要である(さらに、完全膨張体積に対する、膨張した第2(バルブ)バルーンの体積の割合は、複数の調節可能なレベルオプションに設定することができる)。これにより、収縮期に第1バルーンが収縮したときに遠位(末梢)大動脈の前方の血流を逆流させることができ、様々な程度の循環不全患者のニーズや完全に回復または休止する前に循環機能が改善した患者の過渡的なニーズを満たすことができる。これにより、循環不全の程度が異なる患者に対して、より正確で適切な循環サポートが可能になる。
【0017】
第1のバルーンおよび第2のバルーンは、第1の吸気管および第2の吸気管を介して、それぞれ関連する空気ポンプと連通している。吸気管とカテーテルの配置には多数の実施形態があり得る。
【0018】
本発明の大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置の一つの実施形態によれば、第1の吸気管はカテーテルを取り囲み、第2のバルーンを通ってそれと共に延びる。好ましくは、第2のバルーンを通って延びた後、第1の吸気管および第1の吸気管に取り囲まれたカテーテルは、第2の吸気管と平行に延びる。あるいは、別の好ましい実施形態では、第2バルーンを通って延びた後、第1吸気管は第2吸気管に取り囲まれ、第2吸気管と共に延びる。
【0019】
本発明の大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置の別の実施形態によれば、それぞれ第2のバルーンを通って延びた後、カテーテルと第1の吸入管は第2の吸入管と平行に延びる。
【0020】
本発明の大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置の実施形態によれば、第1のバルーンは第2のバルーンの長さよりも長い長さを有する。第1のバルーンと第2のバルーンは、連続的な作用の過程において異なる役割を果たす。第1のバルーンは、主に血液ポンプのためのカウンターパルセーションバルーンとして機能する一方、第2のバルーンは、血液が下流に向かって移動するための第1のバルーンの収縮時に血液の逆流を止めるためのバルブバルーンにとして機能する。第1のバルーンの膨張によって拡張された体積は、上流の心臓の血液を大動脈に吸引し、大動脈の血液を下流前方に向かって移動させる効果を決定する。短い第2バルーンは、第1バルーンの収縮時には「バルブ」として血液の逆流を止め、収縮時にはより多くの血液を下流に促進するのに役立つ。
【0021】
好ましくは、第1のカウンターパルセーションバルーンの長さは第1のバルーンおよび第2のバルーンの全長の10分の9である。
【0022】
本発明の大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置の好ましい実施形態によれば、大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置が大動脈内にセットされた後、第2のバルーンが先ず収縮期に完全に膨張し、その後、制御部が、その完全膨張体積に対する、膨張した第2のバルーンの体積の割合を調節する。これは、クリニカルフィードバックによって示唆される循環不全に対するサポート効果の評価に基づいて設定することもできるし、または、臨床的血行動態(動脈血圧および末梢組織灌流)フィードバックによって示唆される循環不全に対するサポート効果に基づいて、その完全膨張体積に対する、膨張した第2バルーンの体積の割合に随時調節することもできる。
【0023】
好ましくは、制御部が、モニタリング部によってモニタリングされた動脈圧およびクリニカルフィードバックによって示唆される循環不全に対するサポート効果に基づいて、その完全膨張体積に対する、膨張した第2のバルーンの体積の割合レベルオプションを設定する。
【0024】
循環不全患者の血行動態の安定性および循環サポート効果の安定性を確保するために、一旦、その完全膨張体積に対する、膨張した第2バルーンの体積の割合が調節および設定されると、原則として一定期間、その割合が維持され、再び任意に調節されることはないものと理解されたい。また、完全膨張体積に対する、膨張した第2バルーンの体積の割合について、複数のプリセット値(例えば、100%、75%、50%、25%、0%)を、臨床選択の値のオプションとして制御部に記憶させておくことで、迅速かつ安定した再現可能な調節効果を得ることができる。大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置全体、そのカテーテル、バルーン、および吸気管は、医療および健康要求に従って使い捨てでなければならない。一方、大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置に接続された空気ポンプ、モニタリング部、制御部は、従来の大動脈内バルーン駆動ポンプ(IABP)装置と同じであり、これらは合わせて、ベッドサイドで取り外し可能な一体の装置として提供される。
【0025】
したがって、有利には、複数の離散的な数値ポイント(複数の操作レベルのオプションに対応)が、完全膨張体積に対する、膨張した第2のバルーンの体積の割合が調節される時に取り得る値のオプションとして制御部に予め設定されている。各離散的な数値ポイント間の間隔ステップは、患者への応急処置の場合に容易かつ迅速に標準化された操作を容易にできるよう同一である。
【0026】
好ましくは、膨張した第2のバルーンの体積が、完全膨張体積の100%または75%または50%または25%あるいは0%に達することができる、5つのレベルオプションを、臨床選択のために設定することが可能である。また、完全膨張体積に対する、第2バルーンが達する体積の割合を、100%または85%または65%または35%または0%を含む5つのレベルオプションとして設定することも可能である。ただし、理解されるべきは、100%レベルオプションは大動脈内デュアルバルーン駆動ポンプモードであり、0%レベルオプションは従来の単純なIABPモードであり、即ち、調節可能な大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテルとして、第2バルーンの膨張程度を、その境界値に設定することで、従来技術における単純な大動脈内バルーンポンプカテーテル(IABP)および本出願人の中国登録特許CN110876673Bによって提案された大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル(IADBP)の機能を実現することも可能であり、臨床患者のニーズに合わせて操作しやすいオプションを提供することができる。勿論、その完全膨張時の体積に対する、膨張した第2バルーンの体積の割合の所定値として100%としないことも可能である。この場合、本発明は、単に調節可能な大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテルを提供することになるが、この場合、第2バルーンの体積が完全膨張体積の100%に達しないため、本出願人が中国登録特許CN110876673Bで提案した大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル(IADBP)と同等にはなり得ない。
【0027】
また、完全膨張時の体積に対する、膨張した第2バルーンの体積の割合を連続的な値の範囲として予め設定しておき、クリニカルフィードバックによって示唆される循環不全に対するサポート効果に基づいて、各心周期中に第2バルーンの膨張程度を、一定の間隔ステップの倍数(例えば、5%または5%の倍数)で、即ち、完全膨張時の体積に対する、膨張した第2バルーンの体積の割合で増減することによってわずかに調節することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1の実施形態による大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置の局部断面図である。
図2】本発明の第2の実施形態による大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置の局部断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態による大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、実施形態を用いて図面と合わせて本発明の大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置について詳細に説明する。なお、図面は例示的に説明するためであり、本発明を限定するものだと理解されるべきではない。
【0030】
大動脈デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置は、カテーテル2のガイドワイヤ1によってガイドされ、大動脈内の所定位置に到達した後、ガイドワイヤ1がカテーテル2から抜ける。
【0031】
図1は本発明の第1の実施形態による大動脈デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置の局部断面図である。図示されるように、第1のバルーン4および第2のバルーン6が、カテーテル2を取り囲み、カテーテル2の長手方向に連続的に配置され、第1のバルーン4の位置は第2のバルーン6の位置よりもカテーテルの遠位寄りである。第1の吸気管3および第2の吸気管7の一端が、第1のバルーン4および第2のバルーン6とそれぞれ連通し、他端がそれぞれバルーンに関連付けられる、空気を供給および抜き取るための空気ポンプ(未図示)と連通する。
【0032】
図2は本発明の第2の実施形態による大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置の局部断面図である。本発明の第1の実施形態との主な違いは、第1のバルーン4から突出する第1の吸気管3は、第1のバルーン4および第2のバルーン6を貫通するカテーテル2を取り囲まずに、第2のバルーン6を単独で貫通している点である。第2のバルーン6を貫通する第1の吸気管3、カテーテル2、第2のバルーン6から突出する第2の吸気管7は図示されるように平行に延びる。
【0033】
本発明の大動脈デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置は更に、未図示のモニタリング部と、制御部と、を備える。モニタリング部は、心周期およびカテーテル末端5の動脈圧をモニタリングするためのものであり、制御部は、モニタリング部によってモニタリングされた心周期およびカテーテル末端5の動脈圧に基づいて、第1のバルーン4および第2のバルーン6を膨張および収縮させるよう空気ポンプを制御するためのものであり、第1のバルーン4が、拡張期に周期的に膨張して大動脈の血流空間を占有し、血液を第1のバルーンの両側に押し出す一方、収縮期に収縮して空間を作り、心臓から送り出された血液を積極的に抽出するため、心拍出量が増加し、第2のバルーン6が、収縮期に膨張して大動脈の遠位端を遮断し、第1のバルーンが収縮する時に大動脈の遠位端の血流が戻るのを防ぎ、拡張期に収縮して第1のバルーンの膨張によって生じた血流を下流に押し出す。
【0034】
この実施形態において、第1のバルーン4から突出する第1の吸気管3は第2のバルーン6を貫通してカテーテル2を取り囲んでカテーテル2と共に延び、そして、第2のバルーン6から突出する第2の吸気管7と平行に延びる。第1の吸気管3および第2の吸気管7のそれぞれに関連付けられる空気ポンプは、例えばヘリウムガスを第1のバルーン4および第2のバルーン6内に供給して、後者を膨張させることができる。膨張の全工程は130ms以内に完成しなければならないが、空気ポンプは、第1のバルーン4が拡張期に膨張し、収縮期に収縮する一方、第2のバルーン6が収縮期に膨張し、拡張期に収縮するように制御される。拡張期に、第1のバルーン4の膨張と第2のバルーン6の収縮は同期して行われ、収縮期に、第1のバルーン4の収縮と第2のバルーン6の膨張は同期して行われる。
【0035】
拡張期に、第1のバルーン4の膨張、それ自体により、血液が大動脈のバルーンの遠位(心臓)側と近位(末梢)側の両方に送り込まれるため、大動脈基部の拡張期圧と冠動脈の血液および心筋酸素供給が増加すると同時に、血液が下流に押し出され、全身に供給される。第2のバルーン6は、拡張期に収縮し、第1のバルーンの膨張によって生じた血液が下流に押し出される。
【0036】
収縮期に、第1のバルーン4の収縮により生じた負圧で、収縮により生じた大動脈腔内に血液が引き込まれ、その結果、心臓の駆出抵抗、即ち、心臓後負荷が減少し、心臓から排出される血液量が増加する。第2のバルーン6の膨張は、第1のバルーン4の収縮時と同時に行われるため、第2のバルーン6は、血液が腔内へ逆流するのを阻止する弁を形成し、第1のバルーン4の収縮によって起こるパンピング効果が第2のバルーン6から下流に向かう血液に影響を与えない。
【0037】
ここで、空気ポンプは、第1のバルーン4の膨張および収縮と、第2のバルーン6の収縮および膨張とが同期するように制御される。即ち、拡張期に、第1のバルーン4が膨張する一方で、第2のバルーン6が収縮し、収縮期に、第1のバルーン4が収縮する一方で、第2のバルーン6が膨張し、第2のバルーン6は第1のバルーン4の膨張および収縮とは逆に同期して収縮および膨張する。ここで、第1のバルーン4は拡張期に完全に膨張し、収縮期に完全に収縮し、第2のバルーン6は拡張期に完全に収縮し、収縮期にその完全膨張体積の所定の割合までしか膨張できない。所定の割合は、100%、0%、または0%と100%の間の任意の中間値とすることができる。
【0038】
大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置が大動脈内にセットされた後、制御部が、クリニカルフィードバックによって示唆される循環不全に対するサポート効果の評価に基づいて、その完全膨張体積に対する、膨張した第2のバルーン6の体積の割合を設定する。大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置の大動脈内のパンピング過程において、第2のバルーン6は常にこの所定の割合によって規定されるのと同じ程度に膨張する。その後、制御部が、クリニカルフィードバックによって示唆される循環サポート効果に基づいて、その完全膨張体積に対する、膨張した第2のバルーンの体積の割合を調節することもできる。一般的に、その完全膨張体積に対する、膨張した第2のバルーンの体積の割合は、デフォルトで100%、即ちIADBPモードに維持されるべきであり、これは大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテルを留置(大動脈内にセット)した後に、循環不全の状態および循環サポート効果に基づいて調節することができる。調節は制御部からの指令により簡易かつ迅速に行うことができる。
【0039】
特に、複数の離散的な数値ポイントまたは連続的な数値範囲が、その完全膨張体積に対する、膨張した第2のバルーンの体積の割合の取り得る値の範囲として制御部に予め設定されることにより、臨床使用時に、循環不全の状態および循環サポート効果に基づいて、第2のバルーンの膨張程度を、定性的に(即ち、予め設定された離散的な数値ポイントにより規定される様々なレベルオプションに分割して)または定量的に調節することが容易になる。例えば、その完全膨張体積に対する、膨張した第2のバルーンの体積の割合の取り得る可能な数値範囲のセットとして、0%または25%または50%または75%または100%を、または、0%または35%または65%または85%または100%を、予め設定する。上記の第1セットの予め設定された離散的な数値ポイント(レベルオプション)の間の間隔ステップはすべて均等に25%である。等間隔ステップ設定が簡単で正確な臨床操作を容易にすることが明らかであるため、これら予め設定された離散的な数値ポイント(レベルオプション)の間の間隔ステップを等しく設定することが、より有利であると理解されたい。
【0040】
複数の連続した数値範囲が、その完全膨張体積に対する、膨張した第2のバルーンの体積の割合の取り得る値の範囲として制御部に予め設定されていれば、循環不全の状態および循環サポート効果に基づいて、所定の間隔ステップまたはその倍数で、その完全膨張体積に対する、膨張した第2のバルーンの体積の割合を一時的に調節することが可能となる。例えば、先ずデフォルトで100%に設定し、そして、連続した数値範囲100%~30%から一定の体積割合X%を選択し、さらに調節が必要な場合には、間隔ステップ5%または5%の倍数でこの体積割合を調節する。所定の間隔ステップで、このような定量的な調節を行うことは、臨床使用者が調節量と調節效果の間のフィードバック経験を迅速に確立するのに役立つ。
【0041】
以上、好ましい実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明の技術的思想と範囲はここに開示されている内容に限定されない。当業者は、本発明の教示に基づいて、実施形態によってではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の技術的思想と範囲から逸脱することなく、より多くの実施形態および応用を推測することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 ガイドワイヤ
2 カテーテル
3 第1の吸気管
4 第1のバルーン
5 カテーテル末端
6 第2のバルーン
7 第2の吸気管
【要約】      (修正有)
【課題】本発明は大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置に関する。
【解決手段】大動脈内デュアルバルーン駆動パンピングカテーテル装置の制御部は、拡張期に第1のバルーン4を膨張させる一方で第2のバルーンを収縮させ、収縮期に第1のバルーンを収縮させる一方で第2のバルーンを膨張させるように、モニタリング部によってモニタリングされた心周期およびカテーテル末端5の動脈圧に基づいて、第1のバルーンおよび第2のバルーンを膨張および収縮させるよう空気ポンプを制御する制御部であって、第2のバルーンは第1のバルーンの膨張および収縮とは逆に同期して収縮および膨張し、第1のバルーンは拡張期に完全に膨張し、収縮期に完全に収縮し、第2のバルーンは拡張期に完全に収縮し、収縮期にその完全膨張体積の所定の割合までしか膨張できない。
【選択図】図1
図1
図2
図3