IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ユニバンスの特許一覧

<>
  • 特許-パーキング機構 図1
  • 特許-パーキング機構 図2
  • 特許-パーキング機構 図3
  • 特許-パーキング機構 図4
  • 特許-パーキング機構 図5
  • 特許-パーキング機構 図6
  • 特許-パーキング機構 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】パーキング機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 63/34 20060101AFI20240105BHJP
   B60T 1/06 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
F16H63/34
B60T1/06 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023507514
(86)(22)【出願日】2021-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2021031169
(87)【国際公開番号】W WO2023026401
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】加藤 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山内 義弘
(72)【発明者】
【氏名】中條 泰雅
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-271047(JP,A)
【文献】特開2007-331654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 1/00-7/10
F16H 61/26-61/36
F16H 63/00-63/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転が入力される入力軸の回転を互いに異なる変速比で出力軸へ伝達する複数の動力伝達経路と、
前記複数の動力伝達経路の切替えを行うシフト装置と、を有する変速機を備える車両のパーキング機構であって、
前記複数の動力伝達経路の一つは摩擦クラッチを含み、
前記シフト装置は、前記摩擦クラッチをつないで前記複数の動力伝達経路の一つを成立させ、かつ、前記複数の動力伝達経路の別の一つを成立させる駐車モードを備えるパーキング機構。
【請求項2】
前記摩擦クラッチを作動する電動式のアクチュエータと、
前記アクチュエータの出力を前記摩擦クラッチへ伝達する動力伝達装置と、を備え、
前記動力伝達装置は、前記アクチュエータの出力がないときに前記摩擦クラッチの作動を保持する保持機構を備える請求項1記載のパーキング機構。
【請求項3】
前記アクチュエータは、前記動力伝達装置にトルクを伝える駆動ギヤを備え、
前記動力伝達装置は、前記駆動ギヤにかみ合う第1被動ギヤ及び第2被動ギヤがそれぞれ設けられた第1要素および第2要素を含み、
前記第1要素と前記第2要素との相対回転により前記第1要素および前記第2要素が軸方向に相対移動し前記駆動ギヤのトルクをスラスト力に変換し、
前記駆動ギヤと前記第1被動ギヤとのギヤ比と前記駆動ギヤと前記第2被動ギヤとのギヤ比とが異なる請求項2記載のパーキング機構。
【請求項4】
前記動力伝達装置は、前記摩擦クラッチから前記アクチュエータへの動力伝達経路に配置されたねじを備える請求項2記載のパーキング機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両のパーキング機構に関する。
【背景技術】
【0002】
モータが車輪を駆動する車両のパーキング機構として、特許文献1には、車輪の左右の取り付け軸にそれぞれ回転不能かつ軸方向に移動可能に配置された一対のギヤと、一対のギヤを軸方向に離間するばねと、駐車時に一対のギヤを軸方向に近づける機構と、駐車時にギヤに係合する爪と、を備える先行技術が開示されている。パーキング機構が作動するとギヤに爪が係合し、車輪の取り付け軸が回転できなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-94627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術はパーキング機構を構成するギヤや爪などの追加の部品を必要とする。さらに先行技術において上り坂や下り坂に駐車したときにパーキング機構を作動すると、車両に働く重力によって車輪が回転し、その力がギヤと爪に加わるので、過大な力を加えてギヤを軸方向に動かさないとパーキング機構の作動を解除できないという問題点がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、小さな力で解除できると共に追加の部品を不要にできる車両のパーキング機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明は、モータの回転が入力される入力軸の回転を互いに異なる変速比で出力軸へ伝達する複数の動力伝達経路と、複数の動力伝達経路の切替えを行うシフト装置と、を有する変速機を備える車両のパーキング機構である。複数の動力伝達経路の一つは摩擦クラッチを含む。シフト装置は、摩擦クラッチをつないで複数の動力伝達経路の一つを成立させ、かつ、複数の動力伝達経路の別の一つを成立させる駐車モードを備える。
【発明の効果】
【0007】
第1の態様によれば、モータの回転が入力される入力軸の回転を互いに異なる変速比で出力軸へ伝達する複数の動力伝達経路が、シフト装置によって切り替えられる。複数の動力伝達経路の一つは摩擦クラッチを含む。シフト装置は駐車モードにおいて、摩擦クラッチをつないで複数の動力伝達経路の一つを成立させ、かつ、複数の動力伝達経路の別の一つを成立させる。駐車モードでは循環トルクによって出力軸が回転できないので、変速機以外に、パーキング機構のための部品を不要にできる。さらに摩擦クラッチを切ることによってパーキング機構の作動を解除できる。
【0008】
第2の態様によれば、第1の態様において、電動式のアクチュエータが摩擦クラッチを作動する。アクチュエータの出力を摩擦クラッチへ伝達する動力伝達装置は、アクチュエータの出力がないときに摩擦クラッチの作動を保持する保持機構を備える。従ってアクチュエータの作動を停止しても摩擦クラッチがつながった状態を維持できる。
【0009】
第3の態様によれば、第2の態様において、アクチュエータは動力伝達装置にトルクを伝える駆動ギヤを備え、動力伝達装置は、駆動ギヤにかみ合う第1被動ギヤ及び第2被動ギヤがそれぞれ設けられた第1要素および第2要素を含む。駆動ギヤと第1被動ギヤとのギヤ比と駆動ギヤと第2被動ギヤとのギヤ比とが異なる。動力伝達装置は、第1要素と第2要素との相対回転により第1要素および第2要素が軸方向に相対移動し駆動ギヤのトルクをスラスト力に変換する。よって動力伝達装置がトルクをスラスト力に変換するときの動力損失を低減できる。
【0010】
第4の態様によれば、第2の態様において、動力伝達装置は、摩擦クラッチからアクチュエータへの動力伝達経路にねじが配置されている。ねじの摩擦を利用して動力伝達効率が設定されるので、保持機構の構造を簡易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)は第1実施の形態における変速機のスケルトン図であり、(b)は模式的に示した変速機の側面図である。
図2】クラッチの連結の組合せを示す図表である。
図3】かみあいクラッチの模式図である。
図4】(a)は前進1速のときのシフト装置の模式図であり、(b)は前進のドライブトルクを伝達するかみあいクラッチの模式図であり、(c)は前進のコースティングトルクを伝達するかみあいクラッチの模式図であり、(d)は後進のときのシフト装置の模式図であり、(e)は後進のドライブトルクを伝達するかみあいクラッチの模式図であり、(f)は後進のコースティングトルクを伝達するかみあいクラッチの模式図である。
図5】(a)はドライブトルクを伝達するかみあいクラッチの模式図であり、(b)はコースティングトルクを伝達するかみあいクラッチの模式図である。
図6】(a)は第2実施の形態における変速機のスケルトン図であり、(b)は模式的に示した変速機の側面図である。
図7】クラッチの連結の組合せを示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1(a)から図4(b)を参照して第1実施の形態における変速機10を説明する。図1(a)は第1実施の形態における変速機10のスケルトン図である。図1(b)は模式的に示した変速機10の側面図である。変速機10は車両に搭載される。変速機10は、駐車時に車輪が回転しないように車輪をロックするパーキング機構を含む。
【0013】
変速機10は、モータ11の動力が入力される入力軸12と、入力軸12と異なる軸上に配置された出力軸15と、入力軸12の回転を互いに異なる変速比で出力軸15へ伝達する複数の動力伝達経路と、を備えている。モータ11は、例えば発電機としても機能する電動機である。出力軸15は入力軸12と平行に配置されており、出力軸15と平行に配置された第1中間軸13及び第2中間軸14が、互いに異なる軸上に配置されている。モータ11の回転軸と入力軸12とを一体化しても良いし、モータ11の回転軸と入力軸12との間に歯車対やチェーンなどの伝達要素が介在しても良い。
【0014】
入力軸12には第1ギヤ16、摩擦クラッチ17及び第2ギヤ21が配置されている。第1ギヤ16は入力軸12に結合している。摩擦クラッチ17は、摩擦力によって駆動側と被動側との間の動力の伝達・遮断を行う。本実施形態では摩擦クラッチ17は湿式または乾式の多板クラッチである。
【0015】
摩擦クラッチ17は、入力軸12に相対回転可能に配置されたドラム18と、ドラム18と入力軸12との間でトルクを伝達するクラッチ板19と、クラッチ板19の相対運動面を押し付ける押付部材20と、クラッチ板19による動力の伝達を遮断する方向の力を押付部材20に加える戻しばね(図示せず)と、を備えている。第2ギヤ21はドラム18に結合している。
【0016】
摩擦クラッチ17を切ると、第2ギヤ21は入力軸12を空転する。摩擦クラッチ17が作動してクラッチ板19に発生する摩擦力が大きくなると、入力軸12の回転速度と第2ギヤ21(ドラム18)の回転速度との差が小さくなる。クラッチ板19に発生する摩擦力の大きさによって、入力軸12と第2ギヤ21との間に相対回転のある状態で第2ギヤ21が回転したり、入力軸12と同期して入力軸12と一体に第2ギヤ21が回転したりする。摩擦クラッチ17をつなぐと、第2ギヤ21は入力軸12と一体に回転する。
【0017】
摩擦クラッチ17はアクチュエータ22によって作動する。本実施形態では、アクチュエータ22はモータ(電動機)である。動力伝達装置23はアクチュエータ22の出力を摩擦クラッチ17へ伝達する。動力伝達装置23は第1要素25及び第2要素26を備えている。
【0018】
アクチュエータ22の回転軸に円筒状のウォームギヤ24が取り付けられている。ウォームギヤ24のトルクは、ウォームギヤ24に第1ウォームホイール25aがかみあう第1要素25、及び、ウォームギヤ24に第2ウォームホイール26aがかみあう第2要素26に伝達される。第1ウォームホイール25aは第1要素25の外周に設けられている。第2ウォームホイール26aは第2要素26の外周に設けられている。第1要素25及び第2要素26は、入力軸12に相対回転可能に支持されている。ウォームギヤ24と第1ウォームホイール25aとのギヤ比は、ウォームギヤ24と第2ウォームホイール26aとのギヤ比と異なる。第1要素25及び第2要素26にウォームギヤ24がトルクを伝えると、第1要素25及び第2要素26は僅かに相対回転する。第1要素25は入力軸12に対する軸方向(スラスト方向)の位置が固定されている。
【0019】
第1要素25に設けたカム面と第2要素26に設けたカム面との間に転動体27が少なくとも一つ配置されている。転動体27はボールやローラが例示される。転動体27は摩擦によって2つのカム面の間を斜面に沿って転がる。摩擦クラッチ17の戻しばね(図示せず)は、押付部材20を介して第2要素26を転動体27に押し付ける。
【0020】
アクチュエータ22を作動してウォームギヤ24を正方向に回転し、第1要素25と第2要素26とを相対回転すると、転動体27がカム面を転がり、押付部材20に第2要素26を押し付けるスラスト力が発生する。第2要素26が摩擦クラッチ17の戻しばねを押し返し、押付部材20がクラッチ板19を押し付けると、クラッチ板19に発生する摩擦力が大きくなる。アクチュエータ22を作動してウォームギヤ24を反対方向に回転すると、クラッチ板19に発生する摩擦力は小さくなる。
【0021】
ウォームギヤ24、第1ウォームホイール25a及び第2ウォームホイール26aは、摩擦クラッチ17からアクチュエータ22への動力伝達効率が負である保持機構を構成する。保持機構は、アクチュエータ22の出力がないときに摩擦クラッチ17の作動を保持する。動力伝達装置23がスラスト力を発生して摩擦クラッチ17をつないだ後、アクチュエータ22に電流を流さなくても、保持機構によりウォームギヤ24が回転しないようにできる。
【0022】
第1中間軸13には第3ギヤ28、第4ギヤ29及びかみあいクラッチ30が配置されている。第3ギヤ28は第1中間軸13に結合している。第3ギヤ28は第1ギヤ16と常時かみあう。第4ギヤ29は第1中間軸13に相対回転可能に配置されている。
【0023】
かみあいクラッチ30は、第1中間軸13と一体に回転するスリーブ31を備えている。スリーブ31にはシフトフォーク(図示せず)が配置されている。第1中間軸13に沿ってシフトフォークが移動すると、スリーブ31は第1中間軸13をスライドする。スリーブ31の軸方向の片方の端面に第1歯32(図2参照)が設けられている。スリーブ31の軸方向の両方の端面に歯を設ける場合に比べ、第1中間軸13の長さを短くできる。
【0024】
第4ギヤ29の軸方向の端面に設けられた第2歯33にスリーブ31の第1歯32がかみあうと、第4ギヤ29は第1中間軸13と一体に回転する。第1歯32と第2歯33とのかみあいが外れると、第4ギヤ29は第1中間軸13を空転する。
【0025】
第2中間軸14には第5ギヤ34、第6ギヤ35及びかみあいクラッチ36が配置されている。第5ギヤ34は第2中間軸14に結合している。第5ギヤ34は第1ギヤ16と常時かみあう。第6ギヤ35は第2中間軸14に相対回転可能に配置されている。第6ギヤ35は第2ギヤ21と常時かみあう。
【0026】
かみあいクラッチ36は、第2中間軸14と一体に回転するスリーブ37を備えている。スリーブ37にはシフトフォーク(図示せず)が配置されている。第2中間軸14に沿ってシフトフォークが移動すると、スリーブ37は第2中間軸14をスライドする。スリーブ37の軸方向の片方の端面に第1歯38(図4(a)参照)が設けられている。スリーブ37の軸方向の両方の端面に歯を設ける場合に比べ、第2中間軸14の長さを短くできる。
【0027】
第6ギヤ35の軸方向の端面に設けられた第2歯39にスリーブ37の第1歯38がかみあうと、第6ギヤ35は第2中間軸14と一体に回転する。第1歯38と第2歯39とのかみあいが外れると、第6ギヤ35は第2中間軸14を空転する。
【0028】
出力軸15には第7ギヤ40が配置されている。第7ギヤ40は出力軸15に結合している。第7ギヤ40は第4ギヤ29及び第6ギヤ35と常時かみあう。出力軸15を車輪の取り付け軸にしたり、出力軸15にさらに出力ギヤを配置したりして、車輪にトルクを伝える。出力軸15を車輪の取り付け軸にする場合には、出力軸15に差動装置を配置し、差動装置に第7ギヤ40を結合する。
【0029】
変速機10はシフト装置41(図4(a)参照)を備えている。変速機10は、シフト装置41によって摩擦クラッチ17及びかみあいクラッチ30,36をつなぎ変えて、入力軸12の回転を互いに異なる変速比で出力軸15へ伝達する。変速比は、1速段、2速段、3速段の順に小さい。
【0030】
図2は摩擦クラッチ17及びかみあいクラッチ30,36の連結の組合せを示す図表である。図2における1,R,2,3,N,Pは、シフト装置41の各モードを示し、1:1速、R:後進、2:2速、3:3速、N:ニュートラル、P:駐車モードである。図2において+はクラッチをつなぐことを示し、-はクラッチを切ることを示す(図7においても同じ)。
【0031】
1速のときは、シフト装置41はかみあいクラッチ30をつなぎ、摩擦クラッチ17及びかみあいクラッチ36を切る。変速機10は第1ギヤ16、第3ギヤ28、かみあいクラッチ30、第4ギヤ29を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。後進のときは、シフト装置41は1速段のときの回転の向きと反対向きの回転を、第1ギヤ16、第3ギヤ28、かみあいクラッチ30、第4ギヤ29を介して第7ギヤ40に伝達する。
【0032】
2速のときは、シフト装置41はかみあいクラッチ36をつなぎ、摩擦クラッチ17及びかみあいクラッチ30を切る。変速機10は第1ギヤ16、第5ギヤ34、かみあいクラッチ36、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。
【0033】
3速のときは、シフト装置41は摩擦クラッチ17をつなぎ、かみあいクラッチ30,36を切る。変速機10は摩擦クラッチ17、第2ギヤ21、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。3速における、摩擦クラッチ17、第2ギヤ21、第6ギヤ35及び第7ギヤ40の動力伝達経路を第1経路といい、2速における、第1ギヤ16、第5ギヤ34、かみあいクラッチ36、第6ギヤ35及び第7ギヤ40の動力伝達経路を第2経路という。ニュートラルのときは、シフト装置41は摩擦クラッチ17及びかみあいクラッチ30,36を切る。
【0034】
駐車モードのときは、シフト装置41は摩擦クラッチ17及びかみあいクラッチ30をつなぎ、かみあいクラッチ36を切る。これがパーキング機構である。かみあいクラッチ30をつなぐと1速または後進の動力伝達経路が成立し、摩擦クラッチ17をつなぐと3速の動力伝達経路が成立する。変速比が異なる動力伝達経路が変速機10に同時に成立するので、循環トルクによって出力軸15が回転できなくなり、出力軸15に連係する車輪が回転できなくなる。
【0035】
図3はかみあいクラッチ30の模式図である。図3ではスリーブ31及び第4ギヤ29を軸直角方向から見たときの、スリーブ31に設けられた第1歯32、第4ギヤ29に設けられた第2歯33及びシフト装置41が模式的に図示されている。図3の矢印Fは、車両が前進するときにスリーブ31が回転する方向を示し、矢印Rは、車両が後進するときにスリーブ31が回転する方向を示す。シフト装置41はスリーブ31,37の軸方向の位置を設定する。以下、シフト装置41のうちスリーブ31の位置を設定する部分を説明する。
【0036】
シフト装置41は、スリーブ31に取り付けられたシフトフォーク(図示せず)と、シフトフォークに結合するシフトロッド31aと、シフトドラム42と、を備えている。シフトドラム42はモータ等のアクチュエータ(図示せず)により中心軸Oの周りを回転する。シフトドラム42の外周にはカム溝43が設けられている。シフトロッド31aに設けられた突起44はカム溝43の中に入っている。
【0037】
シフトドラム42は、シフトレバー(図示せず)の操作信号に基づき、或いはアクセルペダル(図示せず)の操作によるアクセル開度および車速信号等に基づき回転する。シフトドラム42(円筒カム)が回転すると、カム溝43に突起44がガイドされたシフトロッド31aを介して、スリーブ31は軸方向に移動する。
【0038】
シフト装置41は、ばね機構41aを備えている。本実施形態では、ばね機構41aは、シフトロッド31aの外周に設けられた複数の凹み41bと、凹み41bに係合するボール41cと、ボール41cを弾性力によって凹み41bに押し付けるばね41dと、を備えている。凹み41bは、軸方向に互いに向かい合う傾斜面を有する。
【0039】
スリーブ31がニュートラルの位置にあるとき、及び、スリーブ31に設けられた第1歯32と第2歯33とのかみ合いが最も深いときに、ボール41cは凹み41bの底に位置する。凹み41bの傾斜面をボール41cが乗り上げたり乗り越えたりするときに、ばね41dはシフトロッド31aに軸方向の力を加える。ばね機構41aは、ばね41dの弾性力によって、スリーブ31の軸方向の位置決めの補助や第1歯32と第2歯33とのかみあい外れの補助をする。
【0040】
第1歯32は、スリーブ31の中心軸の周りに、周方向に互いに間隔をあけて複数配置されている。第1歯32は、周方向の一方を向く第1面45と、周方向の他方を向く第2面49と、を備える。第2歯33は、第4ギヤ29の中心軸の周りに、周方向に互いに間隔をあけて複数配置されている。第2歯33は、周方向の一方を向く第4面55と、周方向の他方を向く第3面53と、を備える。第3面53は、スリーブ31が軸方向に移動して第1歯32と第2歯33とがかみあうときに、第1面45の少なくとも一部に対面する。第4面55は、スリーブ31が軸方向に移動して第1歯32と第2歯33とがかみあうときに、第2面49の少なくとも一部に対面する。
【0041】
第1面45は、第1面45と第3面53とを押し付ける方向のトルクを伝える第1部46と、第1部46の歯元側に隣接する第5部47と、を含む。第1部46は、歯元へ向かうにつれて第2面49へ近づくように傾斜している。第1部46は、第1面45と第3面53とを押し付ける方向のトルクを伝える。第5部47は、歯元へ向かうにつれて第2面49から離れるように傾斜している。第5部47は、第1面45と第3面53とを押し付ける方向のトルクに応じて第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力を発生する。
【0042】
第3面53は、第1面45と第3面53とを押し付ける方向のトルクを伝える第1部54を含む。第1部54は、歯元へ向かうにつれて第4面55へ近づくように傾斜している。第1部46,54は、第1面45と第3面53とを押し付ける方向のトルク(前進のドライブトルク)を伝える。
【0043】
第2面49は、第2部50と、第2部50の歯先側に位置する第3部52と、第2部50と第3部52との間に位置する第4部51と、を含む。第2部50は、歯先へ向かうにつれて第1面45から離れるように傾斜している。第3部52は、歯先へ向かうにつれて第1面45へ近づくように傾斜している。第4部51は、第2部50と第3部52とを接続している。
【0044】
第4面55は、第2部56と、第2部56の歯元側に位置する第3部58と、第2部56と第3部58との間に位置する第4部57と、を含む。第2部56は、歯元へ向かうにつれて第3面53へ近づくように傾斜している。第3部58は、歯元へ向かうにつれて第3面53から離れるように傾斜している。第4部57は、第2部56と第3部58とを接続している。第2部50,56は、第2面49と第4面55とを押し付ける方向のトルク(後進のドライブトルク)を伝える。第3部52,58は、第2面49と第4面55とを押し付ける方向のトルク(前進のコースティングトルク)に応じて第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力を発生する。
【0045】
図4(a)から図4(f)を参照して、前進1速、後進および前進1速のトルクを伝える第1歯32と第2歯33とのかみあいが外れるときの変速機10の動作を説明する。図4(a)から図4(c)は前進1速および後進の状態を示し、図4(d)から図4(f)は第1歯32と第2歯33とのかみあいが外れるときの状態を示す。
【0046】
シフトドラム42は、シフトドラム42の中心軸Oが、シフトロッド31a(図3参照)、入力軸12(図1参照)、第1中間軸13、第2中間軸14及び出力軸15と平行に配置されている。図4(a)及び図4(d)において、N:ニュートラル、1:1速、R:後進である。図4(b)、図4(c)、図4(e)及び図4(f)の矢印Fは前進のときにスリーブ31が回転する方向を示し、矢印Rは後進のときにスリーブ31が回転する方向を示す。
【0047】
中心軸Oの周りにシフトドラム42が回転すると、カム43に沿って突起44が移動し、それに伴いシフトロッド31a及びスリーブ31が軸方向に移動する。カム43の「N」の部分に突起44が位置すると、第1歯32は第2歯33にかみあわない。カム43の「1」又は「R」の部分に突起44が位置すると、第1歯32は第2歯33とかみあう(図4(a))。
【0048】
図4(b)に示すように、第1歯32から第2歯33へ前進のドライブトルクが伝わるときは、第5部47が、第1面45と第3面53とを押し付ける方向のトルクに応じて第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力を発生し、第2歯33の第1部54に第1歯32の第1部46が接する位置にスリーブ31が位置する。この位置を第1位置という。第5部47による第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力によって、ばね機構41a(図3参照)は、第4ギヤ29にスリーブ31を近づける弾性エネルギーを蓄える。第1歯32及び第2歯33は、第1部46,54を押し付けて前進のドライブトルクを伝える。
【0049】
図4(c)に示すように、第1歯32及び第2歯33に前進のコースティングトルクが作用すると、第1歯32の第2面49と第2歯33の第4面55との間の周方向の隙間の分だけ第1歯32と第2歯33とが相対回転する間に、ばね機構41aが蓄えた弾性エネルギーの解放による軸方向の弾性力によってシフトロッド31aが移動し、「1」の部分のカム溝43と突起44との間の隙間の分だけスリーブ31が第4ギヤ29に近づく。これにより第2歯33の第2部56に第1歯32の第2部50が接する位置にスリーブ31が位置する。この位置を第2位置という。第1歯32及び第2歯33は、第2部50,56を押し付けて前進のコースティングトルクを伝える。これにより前進のコースティングトルクが伝わるときのモータ11による回生エネルギーを確保できる。
【0050】
図4(d)に示すように、前進1速から前進2速へシフトアップをするときは、シフト装置41はシフトドラム42を回転して(矢印方向)、カム溝43の「1」の部分にある突起44を「N」の部分に近づけ、さらに摩擦クラッチ17(図1参照)を回転係合し、入力軸12のトルクの一部を第2ギヤ21から第6ギヤ35へ伝える。第6ギヤ35の回転が第7ギヤ40に伝わると第4ギヤ29が回転し、変速比の違いによって、第4ギヤ29の回転速度がスリーブ31の回転速度より大きくなる。これにより第1歯32及び第2歯33に前進のコースティングトルクが作用する。
【0051】
カム溝43の傾斜に沿って突起44及びシフトロッド31aが軸方向に移動し、第2歯33の第3部52に第1歯32の第3部58が接する位置にスリーブ31が位置すると、第3部52,58が接し、第2面49と第4面55とを押し付ける方向のトルクに応じて第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力を発生する。シフトドラム42の回転に伴い、第1歯32と第2歯33とのかみあいがスムーズに外れる(図4(f))。
【0052】
後進のときはシフトドラム42が回転してカム43の「R」の部分に突起44が位置する。これにより第2歯33の第2部56に第1歯32の第2部50が接する第2位置にスリーブ31が位置する。後進のときは、モータ11は前進のときの回転と反対方向に回転する。第1歯32及び第2歯33は、第2部50,56を押し付けて後進のドライブトルクを伝える(図4(c))。
【0053】
第1歯32及び第2歯33に後進のコースティングトルクが作用すると、第1歯32の第1面45に第2歯33の第3面53が接する(図4(b))。第1面45の第5部47に第3面53が接すると、第1面45と第3面53とを押し付ける方向のトルクに応じて、第1面45の第5部47が、第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力を発生する。「R」の部分のカム43と突起44との間の隙間の分だけ、突起44及びシフトロッド31aが軸方向に移動し、スリーブ31を第1位置に設定する。ばね機構41aの復元力は、第1歯32と第2歯33とのかみあいの維持に寄与する。第1歯32及び第2歯33は、第1部46,54を押し付けて後進のコースティングトルクを伝える。よってモータ11による回生エネルギーを確保できる。スリーブ31を第4ギヤ29から離す推力に、ばね機構41aの復元力を利用しても良い。
【0054】
変速機10によれば、第1歯32と第2歯33とがかみあう第1位置または第2位置にスリーブ31の位置をシフト装置41が設定し、第1歯32と第2歯33とがかみあう位置を変えることにより、ドライブトルクもコースティングトルクも伝達できる。さらに第1歯32と第2歯33とのかみあいをスムーズに外すことができる。また、モータ11の1速段(前進)用の回転と反対方向にモータ11を回転すると後進ができる。よって後進用のギヤ等の機構を省略できる。
【0055】
図5(a)及び図5(b)はかみあいクラッチ36の模式図である。図5(a)及び図5(b)ではスリーブ37及び第6ギヤ35を軸直角方向から見たときの、スリーブ37に設けられた第1歯38、及び、第6ギヤ35に設けられた第2歯39が模式的に図示されている。図5(a)及び図5(b)の矢印Fは、スリーブ37が回転する方向を示す。
【0056】
第1歯38は、スリーブ37の中心軸の周りに、周方向に互いに間隔をあけて複数配置されている。第1歯38は、周方向の一方を向く第1面59と、周方向の他方を向く第2面60と、を備える。第2歯39は、第6ギヤ35の中心軸の周りに、周方向に互いに間隔をあけて複数配置されている。第2歯39は、周方向の一方を向く第4面65と、周方向の他方を向く第3面64と、を備える。第3面64は、スリーブ37が軸方向に移動して第1歯38と第2歯39とがかみあうときに、第1面59の少なくとも一部に対面する。第4面65は、スリーブ37が軸方向に移動して第1歯38と第2歯39とがかみあうときに、第2面60の少なくとも一部に対面する。
【0057】
第1面59は、歯元へ向かうにつれて第2面60へ近づくように傾斜している。第3面64は、歯元へ向かうにつれて第4面65へ近づくように傾斜している。第1面59及び第3面64は、第1面59と第3面64とを押し付ける方向のトルク(ドライブトルク)を伝える。
【0058】
第2面60は、第7部61と、第7部61の歯先側に位置する第3部63と、第7部61と第3部63との間に位置する第4部62と、を含む。第7部61及び第3部63は、歯先へ向かうにつれて第1面59へ近づくように傾斜している。第4部62は、第7部61と第3部63とを接続している。
【0059】
第4面65は、第7部66と、第7部66の歯元側に位置する第3部68と、第7部66と第3部68との間に位置する第4部67と、を含む。第7部66及び第3部68は、歯元へ向かうにつれて第3面64から離れるように傾斜している。第4部67は、第7部66と第3部68とを接続している。第7部61,66は、第2面60と第4面65とを押し付ける方向のトルク(コースティングトルク)に応じて第6ギヤ35とスリーブ37とを軸方向に離す推力を発生する。
【0060】
図1(a)に戻って変速機10の動作を説明する。1速のときは、変速機10は第1ギヤ16、第3ギヤ28、かみあいクラッチ30、第4ギヤ29を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。第1ギヤ16の回転に伴い、第1ギヤ16にかみあう第5ギヤ34及び第2中間軸14も回転する。第7ギヤ40にかみあう第6ギヤ35は、第2中間軸14の周りを相対回転し、第6ギヤ35にかみあう第2ギヤ21は、入力軸12の周りを相対回転する。
【0061】
1速から2速への変速動作は、まず摩擦クラッチ17をすべらしながら作動し、駆動側と被動側との間に相対回転のある状態で、入力軸12のトルクの一部を第2ギヤ21から第6ギヤ35へ伝える。第6ギヤ35の回転が第7ギヤ40に伝わると第4ギヤ29が回転し、変速比の違いによって、第4ギヤ29の回転速度がスリーブ31の回転速度より大きくなる。第1歯32の第1部46と第2歯33の第1部54とが離れ、第1歯32の第3部52に第2歯33の第3部58が押し付けられると(図4(e))、第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力が発生し、第1歯32と第2歯33とのかみあいが外れる(図4(f))。
【0062】
かみあいクラッチ36のスリーブ37の回転速度と第6ギヤ35の回転速度との差が小さくなったときにスリーブ37を軸方向に移動し、第1歯38と第2歯39とをかみあわせる。かみあいクラッチ36をつなぐと同時に摩擦クラッチ17を切ると、第1ギヤ16、第5ギヤ34、かみあいクラッチ36、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する2速が成立する。入力軸12のトルクの一部が、摩擦クラッチ17によって出力軸15へ伝達されるので、変速動作時の出力軸15のトルク低下を低減し、シームレスシフトを実現できる。
【0063】
2速から3速への変速動作は、摩擦クラッチ17を連結し、入力軸12のトルクを第2ギヤ21から第6ギヤ35へ伝える。変速比の違いによって、第6ギヤ35の回転速度がスリーブ37の回転速度より大きくなると、第1歯38の第1面59と第2歯39の第3面64とが離れる。第1歯38の第7部61に第2歯39の第7部66が押し付けられると(図5(b))、第6ギヤ35とスリーブ37とを軸方向に離す推力が発生し、第1歯38と第2歯39とのかみあいが外れる。これにより摩擦クラッチ17、第2ギヤ21、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する3速が成立する。
【0064】
2速から3速の変速動作時に、摩擦クラッチ17によってトルクが出力軸15へ伝達されるので、出力軸15のトルク低下を低減し、シームレスシフトを実現できる。摩擦クラッチ17をつないで2速から3速へ切替えられるので、変速動作時の衝撃を低減できる。
【0065】
変速機10は、変速比が最も小さい変速段(本実施形態では3速)が成立する第1経路に摩擦クラッチ17が配置されているので、摩擦クラッチ17によって第1経路の駆動側と被動側との相対速度を同調できる。よってシフトアップのときの第2経路(本実施形態では2速の動力伝達経路)から第1経路の切替えを簡易にできる。
【0066】
モータ11が接続された入力軸12に摩擦クラッチ17が配置されているので、摩擦クラッチ17を切ることにより変速機10とモータ11とを切り離すことができる。モータ11を切り離すことで変速機10の慣性モーメントを低減し、変速動作時の衝撃を低減できる。
【0067】
変速機10は、入力軸12、第1中間軸13及び第2中間軸14にそれぞれ1つずつクラッチ(摩擦クラッチ17及びかみあいクラッチ30,36)が配置されている。よって各軸にクラッチを2つ以上並べて配置する場合に比べ、変速機10の軸方向の長さを短くできる。
【0068】
1速のときは、第1ギヤ16、第3ギヤ28、第4ギヤ29を介して第7ギヤ40に回転を伝達し、2速のときは、第1ギヤ16、第5ギヤ34、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達し、3速のときは、第2ギヤ21、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。変速機10は2枚または3枚のギヤを介して第7ギヤ40に回転を伝達するので、小型化できる。
【0069】
モータ11を止めて停車した後、駐車モードが選択されると、シフト装置41が作動して摩擦クラッチ17をつなぐ。変速機10に1速または後進が成立した状態で停車した場合は、摩擦クラッチ17をつなぐだけで、変速機10の循環トルクによって出力軸15及び車輪をロックできる。よって駐車モードの選択から車輪のロックまでを短時間で完結できる。
【0070】
摩擦クラッチ17がつながるときは、駆動側から被動側へトルクを徐々に伝えて、被動側が衝撃なく係合する。従って車両が完全に停止していないときに駐車モードが選択されても、出力軸15及び車輪の回転が急停止しないようにできるので、摩擦クラッチ17によって車輪を緩やかにロックできる。
【0071】
駐車モードの選択が解除されると、摩擦クラッチ17が切れる。そうすると第2ギヤ21は入力軸12を空転するので、第2ギヤ21にかみあう第6ギヤ35、第6ギヤ35にかみあう第7ギヤ40、及び、第7ギヤ40にかみあう第4ギヤ29は第2ギヤ21に拘束されなくなる。よって第4ギヤ29の第2歯33とスリーブ31の第1歯32とのかみあいを小さい力で外すことができる。
【0072】
駐車モードの選択が解除され、摩擦クラッチ17が切れたときは、スリーブ31の第1歯32は第4ギヤ29の第2歯33にかみあっているので、第4ギヤ29と第7ギヤ40との間にトルクを伝達できる状態にある。従ってモータ11を正方向に回転すると車両は1速で前進し、モータ11を逆方向に回転すると車両は後進する。よって駐車モードの選択の解除から車両の発進までを短時間で完結できる。
【0073】
図6(a)及び図6(b)を参照して第2実施の形態における変速機70を説明する。第1実施形態では、3速段における動力伝達経路に摩擦クラッチ17が配置される場合について説明した。これに対し第2実施形態では、2速段における動力伝達経路に摩擦クラッチ17が配置される場合について説明する。第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図6(a)は第2実施の形態における変速機70のスケルトン図である。図6(b)は模式的に示した変速機70の側面図である。
【0074】
変速機70は、アクチュエータ22の出力を摩擦クラッチ17へ動力伝達装置71が伝達する。動力伝達装置71は第1要素75及び第2要素77を備えている。
【0075】
アクチュエータ22の回転軸に駆動ギヤ24aが取り付けられている。駆動ギヤ24aは、互いに歯数が僅かに異なる2つのギヤからなる。駆動ギヤ24aのトルクは、駆動ギヤ24aに第1被動ギヤ72がかみあう第1要素75、及び、駆動ギヤ24aに第2被動ギヤ73がかみあう第2要素77に伝達される。第1被動ギヤ72及び第1要素75は、軸方向に延びる内筒74で連結されている。第2被動ギヤ73及び第2要素77は、軸方向に延びる外筒76で連結されている。外筒76は内筒74の径方向の外側に位置する。内筒74の外周面および外筒76の内周面に、互いにかみあうねじ79(保持機構)が設けられている。ねじ79は、ねじ79の中心軸が、入力軸12と同軸上に配置されている。
【0076】
第1被動ギヤ72、第2被動ギヤ73、内筒74、第1要素75、外筒76、第2要素77は、入力軸12に相対回転可能に支持されている。駆動ギヤ24aと第1被動ギヤ72とのギヤ比は、駆動ギヤ24と第2被動ギヤ73とのギヤ比と異なる。第1被動ギヤ72及び第2被動ギヤ73を介して第1要素75及び第2要素77に駆動ギヤ24aがトルクを伝えると、第1要素75及び第2要素77は僅かに相対回転する。第2要素77は入力軸12に対する軸方向の位置が固定されている。
【0077】
第1要素75に設けたカム面と第2要素77に設けたカム面との間に転動体78が少なくとも一つ配置されている。転動体78はボールやローラが例示される。転動体78は摩擦によって2つのカム面の間を斜面に沿って転がる。摩擦クラッチ17の戻しばね(図示せず)は、押付部材20を介して第1要素75を転動体78に押し付ける。
【0078】
アクチュエータ22を作動して駆動ギヤ24aを正方向に回転し、第1要素75と第2要素77とを相対回転すると、転動体78がカム面を転がり、押付部材20に第1要素75を押し付けるスラスト力が発生する。第1要素75が摩擦クラッチ17の戻しばねを押し返し、押付部材20がクラッチ板19を押し付けると、クラッチ板19に発生する摩擦力が大きくなる。アクチュエータ22を作動して駆動ギヤ24aを反対方向に回転すると、クラッチ板19に発生する摩擦力は小さくなる。
【0079】
ねじ79の摩擦によって、摩擦クラッチ17からアクチュエータ22への動力伝達効率が負になるように設定されている。アクチュエータ22の作動を停止しても摩擦クラッチ17がつながった状態を維持できるので、アクチュエータ22の消費電力を低減できる。
【0080】
図7は摩擦クラッチ17及びかみあいクラッチ30,36の連結の組合せを示す図表である。1速のときは、変速機70はかみあいクラッチ30をつなぎ、摩擦クラッチ17及びかみあいクラッチ36を切る。変速機70は第1ギヤ16、第3ギヤ28、かみあいクラッチ30、第4ギヤ29を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。第1ギヤ16の回転に伴い、第1ギヤ16にかみあう第5ギヤ34及び第2中間軸14も回転する。第7ギヤ40にかみあう第6ギヤ35は、第2中間軸14の周りを相対回転し、第6ギヤ35にかみあう第2ギヤ21は、入力軸12の周りを相対回転する。
【0081】
後進のときは、変速機70は1速段のときの回転の向きと反対向きの回転を、第1ギヤ16、第3ギヤ28、かみあいクラッチ30、第4ギヤ29を介して第7ギヤ40に伝達する。
【0082】
1速から2速への変速動作は、摩擦クラッチ17をつなぎ、入力軸12のトルクを第2ギヤ21から第6ギヤ35へ伝える。第6ギヤ35の回転が第7ギヤ40に伝わると第4ギヤ29が回転し、変速比の違いによって、第4ギヤ29の回転速度がスリーブ31の回転速度より大きくなる。第1歯32の第1部46と第2歯33の第1部54とが離れ、第1歯32の第3部52に第2歯33の第3部58が押し付けられると(図4(e))、第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力が発生し、第1歯32と第2歯33とのかみあいが外れる(図4(f))。これにより摩擦クラッチ17、第2ギヤ21、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する2速が成立する。
【0083】
2速から3速への変速動作は、摩擦クラッチ17を切りながら(摩擦力を小さくしながら)、かみあいクラッチ36のスリーブ37の回転速度と第6ギヤ35の回転速度との差が小さくなったときにスリーブ37を軸方向に移動し、第1歯38と第2歯39とをかみあわせる。かみあいクラッチ36をつなぐと同時に摩擦クラッチ17を切ると、第1ギヤ16、第5ギヤ34、かみあいクラッチ36、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する3速が成立する。変速機70においても第1実施形態と同様にシームレスシフトを実現できる。
【0084】
ニュートラルのときは、変速機70は摩擦クラッチ17及びかみあいクラッチ30,36を切る。駐車モードのときは、変速機70は摩擦クラッチ17及びかみあいクラッチ30をつなぎ、かみあいクラッチ36を切る。かみあいクラッチ30をつなぐと1速または後進の動力伝達経路が成立し、摩擦クラッチ17をつなぐと2速の動力伝達経路が成立する。変速比が異なる動力伝達経路が変速機70に同時に成立するので、循環トルクによって出力軸15が回転できなくなり、出力軸15に連係する車輪が回転できなくなる。
【0085】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0086】
実施形態では、第1ギヤ16、第2ギヤ21、第3ギヤ28、第4ギヤ29、第5ギヤ34、第6ギヤ35及び第7ギヤ40によって入力軸12のトルクが出力軸15に伝達される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。変速機10,70にギヤ以外の伝達要素を採用することは当然可能である。ギヤ以外の伝達要素は、チェーンとスプロケット、ベルトとプーリーが例示される。
【0087】
実施形態では、入力軸12と出力軸15とが異なる軸上に配置される変速機10,70について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。入力軸12と出力軸15とが同軸上に配置される変速機においても、摩擦クラッチをつなぐことによって変速比が異なる2つの動力伝達経路が同時に成立する場合は、それをパーキング機構にできる。
【0088】
実施形態では、前進3段と後進1段の機構をもつ変速機を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。前進2段や前進4段以上の機構をもつ変速機に、実施形態における技術を適用することは当然可能である。入力軸12と出力軸15との間に配置する中間軸の数は、変速段の数に応じて適宜設定できる。
【0089】
実施形態では、多板クラッチを例示して摩擦クラッチ17を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。他の摩擦クラッチを採用することは当然可能である。他の摩擦クラッチは、単板クラッチ、円すいクラッチが例示される。
【0090】
実施形態では、駐車モードにおいてかみあいクラッチ30及び摩擦クラッチ17をつないで出力軸15をロックする場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。駐車モードにおいてかみあいクラッチ36及び摩擦クラッチ17をつないで出力軸15をロックすることは当然可能である。但し、1速または後進が成立した状態で停車した場合は、かみあいクラッチ30はつながっているので、摩擦クラッチ17をつなぐだけで出力軸15及び車輪をロックできる。駐車モードの選択から車輪のロックまでを短時間で完結できるので好ましい。さらに摩擦クラッチ17を切ると、車両は1速で前進または後進できる。駐車モードの選択の解除から車両の発進までを短時間で完結できるので好ましい。
【0091】
実施形態では、互いにかみあう第1歯32,38の第2面49,60及び第2歯33,39の第4面55,65が、第2面49,60と第4面55,65とを押し付ける方向のトルク(コースティングトルク)に応じて第1歯32,38と第2歯33,39とを軸方向に離す推力を発生する面である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2面49,60及び第4面55,65が推力を発生しない面であっても、かみあいを外すときに、スリーブ31,37に外力を加えて第1歯32,38と第2歯33,39とを引き離せば良い。
【0092】
第2実施形態では、動力伝達装置71において、第1被動ギヤ72と第1要素75とを連結する内筒74と、第2被動ギヤ73と第2要素77とを連結する外筒76と、の間を締結するねじ79が配置される場合について説明したが、これに限られるものではない。ねじ79に代えて、摩擦クラッチ17からアクチュエータ22への動力伝達効率が負になるように、駆動ギヤ24、第1被動ギヤ25a及び第2被動ギヤ26aの諸元や歯面の表面粗さを設定することは当然可能である。
【符号の説明】
【0093】
10,70 変速機(パーキング機構)
11 モータ
12 入力軸
15 出力軸
17 摩擦クラッチ
22 アクチュエータ
23,71 動力伝達装置
24 ウォームギヤ(保持機構の一部)
24a 駆動ギヤ
25a 第1ウォームホイール(保持機構の一部)
26a 第2ウォームホイール(保持機構の一部)
41 シフト装置
72 第1被動ギヤ
73 第2被動ギヤ
75 第1要素
77 第2要素
79 ねじ(保持機構)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7