(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】弁装置
(51)【国際特許分類】
F16K 5/02 20060101AFI20240105BHJP
【FI】
F16K5/02 Z
(21)【出願番号】P 2023554053
(86)(22)【出願日】2023-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2023008818
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2022043994
(32)【優先日】2022-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】但野 光
(72)【発明者】
【氏名】柳 得徳
【審査官】笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-92176(JP,A)
【文献】特開2017-223299(JP,A)
【文献】特開2015-148288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用の冷却液を制御するための弁装置であって、
回転軸を中心に回転可能な軸部と、前記軸部のうち前記回転軸に沿う第1方向の端部に連結され、外周面に第1開口を有する第1流路が形成されたロータと、を含む弁部材と、
前記弁部材を収容する収容部と、前記第1開口に連通可能な第2開口を前記収容部の内周面に有する第2流路と、が形成されたハウジングと、
前記ロータの外周面と前記収容部の内周面との間に設置された第1シールであって、前記第2開口に対して前記第1方向に位置する第1部分と、前記第2開口に対して前記第1方向とは反対側の第2方向に位置する第2部分とを含む第1シールと、
前記第2部分に対して前記第2方向に位置し、前記弁部材の外周面と前記収容部の内周面との間に設置された第2シールとを備え、
前記弁部材は、前記弁部材の外周面と前記収容部の内周面と前記第2部分と前記第2シールとに囲まれた第1空間と、前記第1流路とを連通する連通路を有する
弁装置。
【請求項2】
前記ロータは、前記第2方向に向く第2面を含み、
前記連通路は、前記第2面から前記第1流路の内壁面まで前記ロータを通過して前記回転軸に沿って延在する
請求項1の弁装置。
【請求項3】
自動車用の冷却液を制御するための弁装置であって、
回転軸を中心に回転可能な軸部と、前記軸部のうち前記回転軸に沿う第1方向の端部に連結され、外周面に第1開口を有する第1流路が形成されたロータと、を含む弁部材と、
前記弁部材を収容する収容部と、前記第1開口に連通可能な第2開口を前記収容部の内周面に有する第2流路と、が形成されたハウジングと、
前記ロータの外周面と前記収容部の内周面との間に設置された第1シールであって、前記第1開口に対して前記第1方向に位置する第1部分と、前記第1開口に対して前記第1方向とは反対側の第2方向に位置する第2部分とを含む第1シールと、
前記第2部分に対して前記第2方向に位置し、前記弁部材の外周面と前記収容部の内周面との間に設置された第2シールとを備え、
前記ハウジングは、前記弁部材の外周面と前記収容部の内周面と前記第2部分と前記第2シールとに囲まれた第1空間と、前記第2流路とを連通する連通路を有する
弁装置。
【請求項4】
前記ロータの外周面は、前記第1方向の端部における外径が前記第2方向の端部における外径を下回る円錐面を含み、
前記第1シールは、前記円錐面に接触する
請求項1から請求項3の何れかの弁装置。
【請求項5】
前記弁部材を前記第1方向に付勢する弾性体を具備する
請求項4の弁装置。
【請求項6】
前記ロータの外周面は、前記第1方向の端部における外径が前記第2方向の端部における外径を上回る円錐面を含み、
前記第1シールは、前記円錐面に接触する
請求項1から請求項3の何れかの弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を制御するための弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の流路を切替える弁装置が従来から提案されている。例えば特許文献1には、回転可能な軸と、軸の一端に連結された弁体と、弁体を収容する本体と、を具備する切替弁が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上の構成において、弁体および本体の間のシールと、軸および本体の間のシールとに挟まれた空間が密閉された構成では、シールから当該空間に液体が漏出することで当該空間の圧力が上昇する現象(以下「蓄圧」という)が発生し得る。以上の事情を考慮して、本発明のひとつの態様は、回転可能な弁部材とハウジングとの間の空間における蓄圧を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のひとつの態様に係る弁装置は、自動車用の冷却液を制御するための弁装置であって、回転軸を中心に回転可能な軸部と、前記軸部のうち前記回転軸に沿う第1方向の端部に連結され、外周面に第1開口を有する第1流路が形成されたロータと、を含む弁部材と、前記弁部材を収容する収容部と、前記第1開口に連通可能な第2開口を前記収容部の内周面に有する第2流路と、が形成されたハウジングと、前記ロータの外周面と前記収容部の内周面との間に設置された第1シールであって、前記第2開口に対して前記第1方向に位置する第1部分と、前記第2開口に対して前記第1方向とは反対側の第2方向に位置する第2部分とを含む第1シールと、前記第2部分に対して前記第2方向に位置し、前記弁部材の外周面と前記収容部の内周面との間に設置された第2シールとを備え、前記弁部材は、前記弁部材の外周面と前記収容部の内周面と前記第2部分と前記第2シールとに囲まれた第1空間と、前記第1流路とを連通する連通路を有する。
【0006】
本発明の他の態様に係る弁装置は、自動車用の冷却液を制御するための弁装置であって、回転軸を中心に回転可能な軸部と、前記軸部のうち前記回転軸に沿う第1方向の端部に連結され、外周面に第1開口を有する第1流路が形成されたロータと、を含む弁部材と、前記弁部材を収容する収容部と、前記第1開口に連通可能な第2開口を前記収容部の内周面に有する第2流路と、が形成されたハウジングと、前記ロータの外周面と前記収容部の内周面との間に設置された第1シールであって、前記第1開口に対して前記第1方向に位置する第1部分と、前記第1開口に対して前記第1方向とは反対側の第2方向に位置する第2部分とを含む第1シールと、前記第2部分に対して前記第2方向に位置し、前記弁部材の外周面と前記収容部の内周面との間に設置された第2シールとを備え、前記ハウジングは、前記弁部材の外周面と前記収容部の内周面と前記第2部分と前記第2シールとに囲まれた第1空間と、前記第2流路とを連通する連通路を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転可能な弁部材とハウジングとの間の空間における蓄圧を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態における弁装置の構成を例示する断面図である。
【
図3】対比例2における弁装置の構成を例示する断面図である。
【
図4】第2実施形態における弁装置の構成を例示する断面図である。
【
図5】第2実施形態における第1シールの側面図である。
【
図6】第3実施形態における弁装置の構成を例示する断面図である。
【
図7】第4実施形態における弁装置の構成を例示する断面図である。
【
図8】第5実施形態における弁装置の構成を例示する断面図である。
【
図9】第5実施形態の変形例における弁装置の構成を例示する断面図である。
【
図10】第6実施形態における弁装置の構成を例示する断面図である。
【
図11】第6実施形態における弁装置の構成を例示する断面図である。
【
図12】変形例における弁装置の構成を例示する断面図である。
【
図13】変形例における弁装置の構成を例示する断面図である。
【
図14】変形例における弁装置の構成を例示する断面図である。
【
図15】変形例における弁装置の構成を例示する断面図である。
【
図16】変形例における弁装置の構成を例示する断面図である。
【
図17】変形例における弁装置の構成を例示する断面図である。
【
図18】変形例における弁装置の構成を例示する断面図である。
【
図19】変形例における弁装置の構成を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A:第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る弁装置100の構成を例示する断面図である。弁装置100は、液体が流動する流路を制御する切替弁である。具体的には、弁装置100は、例えば自動車用の冷却液(例えば冷却水)を制御するマルチコントロールバルブとして自動車に搭載される。
【0010】
図1に例示される通り、弁装置100は、弁部材Bとハウジング30と第1シール40と第2シール50とバネ61とを具備する。弁部材Bは、回転軸Cを中心とした回転により冷却液の流路を切替える回転弁である。ハウジング30は、弁部材Bを収容および支持する構造体である。第1シール40および第2シール50は、弁部材Bとハウジング30との間に設置された弾性体である。
【0011】
以下の説明においては、回転軸Cに沿う一方向を「第1方向Z1」と表記し、第1方向Z1とは反対の方向を「第2方向Z2」と表記する。例えば、第1方向Z1は鉛直方向の下方であり、第2方向Z2は鉛直方向の上方である。また、回転軸Cを中心とした任意の直径の仮想円における円周の方向を「周方向」と表記し、当該仮想円の半径の方向を「径方向」と表記する。
【0012】
弁部材Bは、軸部10とロータ20とを具備する。軸部10およびロータ20は、例えば各種の樹脂材料により一体的に形成される。軸部10は、回転軸Cを中心に回転可能な円柱状の部分である。回転軸Cは、軸部10の中心軸に相当する。軸部10のうち第1方向Z1の端部はロータ20に連結される。軸部10のうち第2方向Z2の端部は、モータ(図示略)に対して直接的または間接的に連結される。軸部10は、モータの動作に連動して回転軸Cを中心に回転する。なお、ロータ20とは別体で構成された軸部10が、当該ロータ20に固定されてもよい。
【0013】
ロータ20は、回転軸Cを中心として軸部10とともに回転可能な回転体である。ロータ20の外面Uは、第1面F1と第2面F2と外周面Qbとを含む。第1面F1および第2面F2は、回転軸Cに垂直な円形状の平面である。第1面F1は、第1方向Z1に向く下面であり、第2面F2は、第2方向Z2に向く上面である。軸部10は、第2面F2の中央から第2方向Z2に突出する。
【0014】
ロータ20の外周面Qbは、円柱面21と円錐面22とを含む。円錐面22は、円柱面21に対して第1方向Z1に位置し、第1面F1に連続する。円柱面21は、円錐面22に対して第2方向Z2に位置し、第2面F2に連続する。円錐面22は、第2方向Z2に向けて拡径するテーパ状の回転面である。すなわち、円錐面22のうち第1方向Z1の端部Ea1における外径Da1は、当該円錐面22のうち第2方向Z2の端部Ea2における外径Da2を下回る(Da1<Da2)。
【0015】
ロータ20には第1流路23と鉛直流路24とが形成される。第1流路23は、回転軸Cに直交する方向(例えば径方向)に延在する流路である。第1流路23は、第1開口O1を有する。第1開口O1は、ロータ20の外周面Qbに形成された円形状の開口である。具体的には、第1開口O1は、円錐面22に形成される。周方向に相互に間隔をあけて複数の第1開口O1が形成される。なお、以下の説明においては、複数の第1開口O1のうち1個の第1開口O1に便宜的に着目する。鉛直流路24は、第1流路23から第1方向Z1に延在する流路である。具体的には、鉛直流路24は、第1流路23の内壁面から第1面F1までロータ20を通過して回転軸Cに沿って延在する。
【0016】
また、ロータ20には連通路25が形成される。連通路25は、第1流路23の内壁面から第2面F2までロータ20を通過して回転軸Cに沿って延在する流路である。すなわち、ロータ20の内部の第1流路23と当該ロータ20の外部空間とが、連通路25を介して相互に連通する。
【0017】
ハウジング30には収容部Rが形成される。収容部Rは、弁部材Bを収容する空間である。ハウジング30における収容部Rの内面Hは、円柱面31と第3面F3と内周面Haと第4面F4とを含む。円柱面31は、軸部10の外周面Qaに間隔をあけて対向する回転面である。第3面F3は、回転軸Cに直交する円環状の平面であり、ロータ20の第2面F2に間隔をあけて対向する。
【0018】
バネ61は、弁部材B(ロータ20)を第1方向Z1に付勢する弾性体である。バネ61は、第2面F2と第3面F3との間に設置される。具体的には、バネ61は、軸部10を包囲するように設置されたコイルバネである。
【0019】
内周面Haは、円柱面32と円錐面33とを含む。第3面F3は、円柱面31と円柱面32とを連結する。円柱面32は、弁部材Bの外周面Q(Qa,Qb)に間隔をあけて対向する回転面である。円柱面32は、第3面F3と円錐面33とを連結する。
【0020】
円錐面33は、第2方向Z2に向けて拡径するテーパ状の回転面である。すなわち、円錐面33のうち第1方向Z1の端部Eb1における外径Db1は、当該円錐面22のうち第2方向Z2の端部Eb2における外径Db2を下回る(Db1<Db2)。円錐面33は、所定の間隔をあけてロータ20の円錐面22に対向する。すなわち、回転軸Cに対する円錐面22の角度と円錐面33の角度とは同等である。円錐面33は、円柱面32と第4面F4とを連結する。第4面F4は、回転軸Cに直交する円形状の平面であり、ロータ20の第1面F1に間隔をあけて対向する。すなわち、第4面F4は、収容部Rにおいて第2方向Z2に向く底面である。
【0021】
ハウジング30には第2流路34と第3流路35とが形成される。第2流路34は、回転軸Cに直交する方向(すなわち径方向)に延在する流路である。第2流路34は、第2開口O2を有する。第2開口O2は、収容部Rの内周面Haに形成された円形状の開口である。具体的には、収容部Rの円錐面33に第2開口O2が形成される。周方向に相互に間隔をあけて複数の第2開口O2が形成される。なお、以下の説明においては、複数の第2開口O2のうち1個の第2開口O2に便宜的に着目する。第3流路35は、収容部Rから第1方向Z1に延在する流路である。
【0022】
弁部材Bが回転軸Cを中心とした所定の回転角度にある状態(以下「連通状態」という)では、1個の第1開口O1と1個の第2開口O2とが径方向にみて相互に重複する。具体的には、連通状態においては第1流路23と第2流路34とが直線状に連通する。すなわち、第1開口O1と第2開口O2とは相互に連通可能である。
【0023】
第1シール40は、ロータ20の外面Uと収容部Rの内面Hとの間に設置された弾性体である。具体的には、第1シール40は、ロータ20の外周面Qbと収容部Rの内周面Haとの間に設置される。第1シール40は、外周面Qbと内周面Haとの間隔を封止するとともにロータ20を弾性的に支持する。第1シール40の材料としては、例えば、クロロプレンゴム(CR)またはポリウレタンゴム(PUR)等の各種のゴム材料が例示される。
【0024】
図2は、第1シール40の側面図である。
図2に例示される通り、第1シール40は、第1部分41と第2部分42と複数の連結部43とを含む。第1部分41および第2部分42は、円環状の部分である。第1部分41の外径は第2部分42の外径を下回る。複数の連結部43は、第1部分41と第2部分42とを相互に連結する部分である。複数の連結部43は、第1部分41および第2部分42の周方向に沿って相互に間隔をあけて配置される。
【0025】
図1に例示される通り、第1シール40の内周面には突起45が形成される。具体的には、第1部分41および第2部分42の各々の内周面には、周方向に延在する突起45が形成され、各連結部43の内周面には、当該連結部43に沿って延在する突起45が形成される。なお、第1シール40の内周面は、例えばPTFE(polytetrafluoroethylene)樹脂等の低摩擦材料により被膜されてもよい。第1シール40の全体が、例えばPTFE樹脂等の低摩擦材料により形成されてもよい。
【0026】
図1に例示される通り、ハウジング30の円錐面33には、周方向に延在する溝36が形成される。第1シール40は、円錐面33の溝36に設置される。すなわち、第1シール40の外周面は、ハウジング30の円錐面33に接触する。他方、第1シール40の内周面は、ロータ20の円錐面22に接触する。具体的には、第1シール40の内周面の突起45が、円錐面22に接触する。以上の通り、第1シール40は、ロータ20の円錐面22とハウジング30の円錐面33との間に設置される。
【0027】
弁部材Bがバネ61により第1方向Z1に付勢されることでロータ20は第1シール40に押付けられる。したがって、第1シール40とロータ20との面圧(接触圧)を充分に維持できる。例えば、ロータ20の外周面Qbと第1シール40との間の面圧が、収容部R内の冷却液の圧力を上回るように、弾性係数等のバネ61の特性が設定される。
【0028】
第1シール40は、ハウジング30に対して固定される。他方、ロータ20は、外周面Qb(円錐面22)が第1シール40の内周面に接触した状態で回転する。すなわち、ロータ20の外周面Qbは第1シール40の内周面に対して摺動する。
【0029】
図1に例示される通り、第1シール40の第1部分41は、第1開口O1および第2開口O2に対して第1方向Z1に位置する。すなわち、回転軸C上における第1部分41の位置は、回転軸C上における第1開口O1および第2開口O2の位置よりも第1方向Z1に位置する。他方、第2部分42は、第1開口O1および第2開口O2に対して第2方向Z2に位置する。すなわち、回転軸C上における第2部分42の位置は、回転軸C上における第1開口O1および第2開口O2の位置よりも第2方向Z2に位置する。以上の説明から理解される通り、径方向に沿う側面視において、第1シール40における第1部分41と第2部分42との間に、複数の第1開口O1と複数の第2開口O2とが位置する。
【0030】
第2シール50は、軸部10の外周面Qaと収容部Rの内周面Ha(具体的には円柱面31)との間に設置され、外周面Qaと内周面Haとの間隔を封止する。第2シール50は、第1シール40の第2部分42に対して第2方向Z2に位置する。すなわち、回転軸C上における第2シール50の位置は、回転軸C上における第2部分42の位置よりも第2方向Z2に位置する。径方向に沿う側面視において第1部分41と第2シール50との間に第2部分42が位置する。
【0031】
以上の構成において、例えば、複数の第2開口O2のうち弁部材Bの回転角度に応じて第1開口O1に連通した第2開口O2を介して、第2流路34から第1流路23に冷却液が供給され、当該冷却液は第1流路23から鉛直流路24と第3流路35とを介して外部に排出される。また、例えば第3流路35から鉛直流路24を介して第1流路23に供給された冷却液は、複数の第2開口O2のうち弁部材Bの回転角度に応じて第1開口O1に連通した第2開口O2を介して、第1流路23から第2流路34に排出される。以上の通り、弁部材Bの角度に応じて冷却液が制御される。
【0032】
図1から理解される通り、ロータ20の外面U(F1,F2,Qb)とハウジング30の内面Hとは、直接的には接触しない。したがって、ロータ20は、第1面F1が収容部Rの第4面F4に接触しない状態で、バネ61により第1シール40に押圧される。すなわち、バネ61からロータ20に作用する押圧力は、ロータ20からハウジング30に対して直接的には作用せず、第1シール40により受止められる。
【0033】
ロータ20の第1面F1とハウジング30の第4面F4とが相互に接触する構成(以下「対比例1」という)においては、ロータ20の円錐面22とハウジング30の円錐面33との間隔(以下「封止間隔」という)が弁部材Bまたはハウジング30の寸法誤差に依存する。例えば、回転軸Cに沿うロータ20の寸法が設計値を下回る場合には、封止間隔が設計値を上回る。また、回転軸Cに沿うロータ20の寸法が設計値を上回る場合には、封止間隔が設計値を下回る。したがって、ロータ20の円錐面22とハウジング30の円錐面33とから第1シール40に作用する面圧(接触圧)が、弁部材Bまたはハウジング30の寸法の誤差に影響されるという問題がある。例えば、封止間隔が公差内の最大寸法にある場合に適切な面圧が第1シール40に作用するように設計された構成では、封止間隔が公差内の最小寸法にある場合の面圧が過大となる。他方、封止間隔が公差内の最小寸法にある場合に適切な面圧が第1シール40に作用するように設計された構成では、封止間隔が最大寸法にある場合の面圧が不足する。
【0034】
対比例1とは対照的に、第1実施形態においては、ロータ20の第1面F1が収容部Rの第4面F4に接触しない状態で、当該ロータ20がバネ61により第1シール40に押圧される。すなわち、第1面F1が第4面F4に突当たることなくロータ20がバネ61により第1方向Z1に付勢される。したがって、弁部材Bまたはハウジング30の寸法の誤差に関わらず、第1シール40に対して適切な面圧を作用させることが可能である。すなわち、第1シール40に作用する面圧を、バネ61の機械的な特性(例えば弾性係数)に応じて決定できる。
【0035】
なお、対比例1の構成において、封止間隔が公差内の最大寸法である場合に第1シール40に適切な面圧が作用する設計を採用した場合には、封止間隔が公差内の最小寸法である場合に第1シール40に過大な面圧が作用する結果となる。すなわち、ロータ20の摺動抵抗が過大となる。以上の状態においてロータ20を回転させるには過大なトルクが必要である。第1実施形態においては、前述の通り、封止間隔の寸法誤差に関わらず第1シール40に適切な面圧が作用する。すなわち、第1シール40に過大な面圧が作用する可能性が低減され、結果的にロータ20の摺動抵抗を適切な範囲に抑制できる。したがって、ロータ20の回転に必要なトルクが低減されるという利点もある。
【0036】
また、第1実施形態においては、第1シール40が、回転軸C上における位置が相違する第1部分41と第2部分42とを含む。したがって、第1シール40が第1部分41および第2部分42の一方のみで構成される形態と比較して、ロータ20の姿勢を安定的に維持することが可能である。
【0037】
図1に図示された空間Sは、弁部材Bの外周面Q(Qa,Qb)と収容部Rの内面Hと第1シール40の第2部分42と第2シール50とに囲まれた空間である。すなわち、空間Sは、外周面Qと内面Hとの間の空間のうち第2部分42と第2シール50との間の空間である。前述の連通路25は、空間Sと第1流路23とを連通させる流路である。すなわち、空間Sは、連通路25を介して第1流路23に連通する。空間Sは「第1空間」の一例である。
【0038】
図3には、連通路25が形成されない構成(以下「対比例2」という)が図示されている。対比例2において、空間Sは密閉された状態にある。しかし、ロータ20の回転に必要なトルクの低減をシール性能よりも優先させる設計上の観点から、第1シール40を介した冷却液の若干の漏出は許容される場合がある。また、切替弁においては、第1シール40を介して漏出した冷却液が、切替弁による流路の切替時に他の流路に流入することで結果的に循環されるため、冷却液の若干の漏出は特段の問題にならない。以上の事情を背景として、
図3に破線の矢印で図示される通り、第1流路23および第2流路34を流動する冷却液が第1シール40の第2部分42とロータ20の外周面Qbとの間から空間Sに漏出する場合がある。空間Sは密閉された状態にあるから、空間Sに冷却液が進入することで空間S内の圧力が上昇する。すなわち、空間Sに蓄圧が発生する。蓄圧が進行すると、第1シール40または第2シール50に過度な圧力が作用し、結果的に変形等の問題が発生する可能性がある。また、空間S内の蓄圧によりロータ20が下方に押圧されるため、第1シール40がロータ20により過度に押圧される場合がある。第1シール40がロータ20により過度に押圧されることで、ロータ20と第1シール40との摺動抵抗が増加する可能性がある。
【0039】
対比例2とは対照的に、第1実施形態においては、空間Sと第1流路23とが連通路25により相互に連通する。したがって、空間Sに対する冷却液の漏出に起因した圧力の上昇は発生しない。すなわち、第1実施形態によれば、対比例2と比較して空間Sにおける蓄圧を抑制できる。したがって、空間S内の蓄圧に起因した第1シール40または第2シール50の変形と摺動抵抗の増加とが抑制される。第1実施形態においては特に、ロータ20の第2面F2から第1流路23まで回転軸Cに沿って延在するように連通路25が形成される。したがって、例えば連通路25がロータ20内において曲折する形態と比較して、連通路25の形成が容易であるという利点がある。
【0040】
第1実施形態において、弁部材Bのロータ20の表面のうち、収容部R内の冷却液から第1方向Z1の圧力が作用する第1領域の第1面積S1は、冷却液から第2方向Z2の圧力が作用する第2領域の第2面積S2を上回る(S1>S2)。第1領域は、例えば第2面F2を含む領域である。第1領域は、回転軸Cに直交する平面(例えば第2面F2)のほか、冷却液の圧力のうち第1方向Z1の成分が作用する傾斜面も含む。また、第2領域は、例えば第1面F1を含む領域である。第2領域は、回転軸Cに直交する平面(例えば第1面F1)のほか、冷却液の圧力のうち第2方向Z2の成分が作用する傾斜面も含む。
【0041】
ロータ20の表面の全域に同等の圧力が作用する場合を想定する。第1面積S1は第2面積S2を上回るから、冷却液から第1領域に作用する第1方向Z1の押圧力は、冷却液から第2領域に作用する第2方向Z2の押圧力を上回る。すなわち、第1方向Z1の第1方向Z1の押圧力と第2方向Z2の押圧力との差分に相当する合力が、弁部材Bを第1方向Z1に付勢するように作用する。したがって、弁部材Bを第1方向Z1に適度に付勢するために必要なバネ61の弾性力が低減される。すなわち、第1面積S1と第2面積S2とが同等である構成と比較して、弁部材Bを第1方向Z1に付勢するバネ61が小型化される。なお、第1面積S1と第2面積S2との差異により弁部材Bを第1方向Z1に充分に付勢できる場合には、バネ61が省略されてもよい。以上の通り、弁部材Bを第1方向Z1に付勢するバネ61が不要化または小型化される結果、弁装置100を小型化することが可能である。すなわち、第1実施形態によれば、弁部材Bを付勢するための構成(例えばバネ61)に起因した小型化の制約を低減できる。
【0042】
第1実施形態においては特に、第1シール40がロータ20の円錐面22に接触する。以上の構成においては、第1面積S1と第2面積S2との差異により弁部材Bが第1方向Z1に付勢されることで、ロータ20が第1シール40に押付けられる。したがって、ロータ20の外周面Qbと第1シール40との間の面圧を確保し易い。すなわち、第1実施形態によれば、第1シール40による冷却液のシール性能を高い水準に維持できる。
【0043】
B:第2実施形態
本開示の第2実施形態を説明する。なお、以下に例示する各形態において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0044】
図4は、第2実施形態における弁装置100の構成を例示する断面図である。第2実施形態の弁装置100は、第1実施形態と同様に、自動車用の冷却液(例えば冷却水)を制御するマルチコントロールバルブとして自動車に搭載される。
図4に例示される通り、弁装置100は、第1実施形態と同様に、弁部材Bとハウジング30と第1シール40と第2シール50とを具備する。第2実施形態の弁装置100においては、弁部材Bにおけるロータ20の構成が第1実施形態とは相違する。
【0045】
第2実施形態のロータ20は、外面Uを有する回転体である。外面Uは、第1面F1と第2面F2と外周面Qbとを含む。第1実施形態と同様に、第1面F1は第1方向Z1に向く下面であり、第2面F2は第2方向Z2に向く上面である。軸部10は、第2面F2の中央から第2方向Z2に突出する。
【0046】
ロータ20の外周面Qbは、円錐面26と円柱面27とを含む。円錐面26は、円柱面27に対して第2方向Z2に位置し、第2面F2に連続する。円錐面26は、第1方向Z1に向けて拡径するテーパ状の回転面である。すなわち、円錐面26のうち第1方向Z1の端部Ea1における外径Da1は、当該円錐面26のうち第2方向Z2の端部Ea2における外径Da2を上回る(Da1>Da2)。円柱面27は、円錐面26に対して第1方向Z1に位置し、第1面F1に連続する。
【0047】
第1実施形態と同様に、第2実施形態のロータ20には第1流路23と鉛直流路24とが形成される。第1流路23は、ロータ20の外周面Qbに形成された第1開口O1を有する。鉛直流路24は、第1流路23から第1方向Z1に延在する流路である。具体的には、鉛直流路24は、第1流路23の内壁面から第1面F1までロータ20を通過して回転軸Cに沿って延在する。
【0048】
第2実施形態におけるハウジング30の収容部Rは、内面Hを有する。内面Hは、円柱面31と第3面F3と内周面Haと第4面F4とを含む。円柱面31および第3面F3は第1実施形態と同様である。内周面Haは、円錐面37と円柱面38とを含む。第3面F3は、円柱面31と円錐面37とを連結する。
【0049】
円錐面37は、第1方向Z1に向けて拡径するテーパ状の回転面である。すなわち、円錐面37のうち第1方向Z1の端部Eb1における外径Db1は、当該円錐面37のうち第2方向Z2の端部Eb2における外径Db2を上回る(Db1>Db2)。円錐面37は、所定の間隔をあけてロータ20の円錐面26に対向する。すなわち、回転軸Cに対する円錐面26の角度と円錐面37の角度とは同等である。円錐面37は、第3面F3と円柱面38とを連結する。
【0050】
円柱面38は、ロータ20の外周面Qbに間隔をあけて対向する回転面である。円柱面38は、円錐面37と第4面F4とを連結する。第4面F4は、回転軸Cに直交する円形状の平面であり、ロータ20の第1面F1に間隔をあけて対向する。
【0051】
第1実施形態と同様に、第2実施形態のハウジング30には第2流路34と第3流路35とが形成される。第2流路34は、収容部Rの内周面Haに形成された第2開口O2を有する。具体的には、収容部Rの円錐面37に第2開口O2が形成される。弁部材Bが回転軸Cを中心とした所定の回転角度にある連通状態では、1個の第1開口O1と1個の第2開口O2とが径方向にみて相互に重複する。すなわち、第2実施形態においても第1実施形態と同様に、第1開口O1と第2開口O2とは相互に連通可能である。第3流路35は、収容部Rから第1方向Z1に延在する流路である。
【0052】
第1シール40は、ロータ20の外周面Qbと収容部Rの内周面Haとの間に設置された弾性体である。
図5は、第1シール40の側面図である。
図5に例示される通り、第1シール40は、第1実施形態と同様に、第1部分41と第2部分42と複数の連結部43とを含む。第1シール40の内周面に突起45が形成される点は、第1実施形態と同様である。第1実施形態においては第1部分41の外径が第2部分42の外径を下回るのに対し、第2実施形態においては、第1部分41の外径が第2部分42の外径を上回る。
【0053】
第1シール40は、ハウジング30の円錐面37に形成された溝36に設置される。すなわち、第1シール40の外周面は、ハウジング30の円錐面37に接触する。他方、第1シール40の内周面は、ロータ20の円錐面26に接触する。具体的には、第1シール40の内周面の突起45が、円錐面26に接触する。第1実施形態と同様に、第1シール40はハウジング30に対して固定され、ロータ20の外周面Qbは第1シール40の内周面に対して摺動する。
【0054】
第2シール50は、第1実施形態と同様に、軸部10の外周面Qaと収容部Rの内周面Ha(具体的には円柱面31)との間に設置され、外周面Qaと内周面Haとの間隔を封止する。第2シール50は、第1シール40の第2部分42に対して第2方向Z2に位置する。すなわち、径方向に沿う側面視において第1部分41と第2シール50との間に第2部分42が位置する。
【0055】
第1実施形態と同様に、第2実施形態のロータ20には連通路25が形成される。連通路25は、第1流路23の内壁面から第2面F2までロータ20を通過して回転軸Cに沿って延在する流路である。すなわち、第1流路23とロータ20の外部の空間Sとが連通路25を介して相互に連通する。空間Sは、第1実施形態と同様に、外周面Qbと内周面Haとの間の空間のうち第1シール40の第2部分42と第2シール50との間の空間である。
【0056】
以上に説明した通り、第2実施形態においては、空間Sと第1流路23とが連通路25により相互に連通するから、空間Sに対する冷却液の漏出に起因した圧力の上昇は発生しない。すなわち、第2実施形態においても第1実施形態と同様に、
図3の対比例2と比較して空間S内の蓄圧を抑制できる。
【0057】
第2実施形態において、弁部材Bのロータ20の表面のうち、収容部R内の冷却液から第1方向Z1の圧力が作用する第1領域の第1面積S1は、冷却液から第2方向Z2の圧力が作用する第2領域の第2面積S2を下回る(S1<S2)。したがって、ロータ20の表面の全域に同等の圧力が作用する場合を想定すると、冷却液から第1領域に作用する第1方向Z1の押圧力は、冷却液から第2領域に作用する第2方向Z2の押圧力を下回る。すなわち、第1方向Z1の押圧力と第2方向Z2の押圧力との差分に相当する合力が、弁部材Bを第2方向Z2に付勢するように作用する。したがって、第2実施形態においては、弁部材Bを第2方向Z2に付勢するバネ等の構成を省略できる。すなわち、第2実施形態においても第1実施形態と同様に、弁部材Bを付勢するための構成に起因した小型化の制約を低減できる。ただし、押圧力の差分だけでは第2方向Z2の付勢が不充分である場合には、ロータ20を第2方向Z2に付勢するバネが設置されてもよい(
図7参照)。
【0058】
第2実施形態においては特に、第1シール40がロータ20の円錐面26に接触する。以上の構成においては、第1面積S1と第2面積S2との差異により弁部材Bが第2方向Z2に付勢されることで、ロータ20が第1シール40に押付けられる。したがって、ロータ20の外周面Qbと第1シール40との間の面圧を確保し易い。すなわち、第1実施形態によれば、第1シール40による冷却液のシール性能を高い水準に維持できる。
【0059】
C:第3実施形態
図6は、第3実施形態における弁装置100の構成を例示する断面図である。第3実施形態の弁装置100は、第2実施形態の弁装置100にバネ62を追加した構成である。バネ62は、第1実施形態のバネ61と同様に、第2面F2と第3面F3との間に設置された弾性体である。バネ62は、軸部10を包囲するように設置されたコイルバネであり、弁部材Bを第1方向Z1に付勢する。
【0060】
第2実施形態においては、第1面積S1が第2面積S2を下回る構成により、弁部材Bが第2方向Z2に過度に付勢される場合が想定される。以上の状態では、第1シール40に対してロータ20が過剰に押付けられる。第3実施形態においては、弁部材Bがバネ62により第1方向Z1に付勢される。すなわち、第1面積S1が第2面積S2を下回る構成による第2方向Z2の付勢を第1方向Z1に押返すように、バネ62が作用する。したがって、ロータ20が第1シール40に対して過剰に押付けられる可能性を低減できる。すなわち、第3実施形態によれば、第1シール40とロータ20との間の面圧を適度な範囲に調整できる。
【0061】
D:第4実施形態
図7は、第4実施形態における弁装置100の構成を例示する断面図である。第4実施形態の弁装置100は、第2実施形態の弁装置100にバネ63を追加した構成である。バネ63は、弁部材B(ロータ20)を第2方向Z2に付勢する弾性体である。バネ63は、第1面F1と第4面F4との間に設置される。
【0062】
第4実施形態において、ロータ20の外面U(F1,F2,Qb)とハウジング30の内面Hとは、直接的には接触しない。したがって、ロータ20は、第2面F2が第3面F3に接触しない状態で、バネ63により第1シール40に押圧される。すなわち、バネ63からロータ20に作用する押圧力は、ロータ20からハウジング30に対して直接的には作用せず、第1シール40により受止められる。したがって、第1実施形態と同様に、弁部材Bまたはハウジング30の寸法の誤差に関わらず、第1シール40に対して適切な面圧を作用させることが可能である。
【0063】
E:第5実施形態
図8は、第5実施形態における弁装置100の構成を例示する断面図である。第1実施形態においては、空間Sと第1流路23とを連通する連通路25がロータ20に形成された構成を例示した。第5実施形態においては、連通路25と同様に作用する連通路28がハウジング30に形成される。連通路28以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0064】
図8に例示される通り、第5実施形態のハウジング30は、空間Sと第2流路34とを連通する連通路28を有する。連通路28は、収容部Rの内面H(具体的には円柱面32)から第2流路34の内壁面までの流路である。
【0065】
第5実施形態においては、空間Sと第2流路34とが連通路28により相互に連通する。したがって、空間Sに対する冷却液の漏出に起因した圧力の上昇は発生しない。すなわち、第5実施形態によれば、第1実施形態と同様に、
図3の対比例2と比較して空間Sにおける蓄圧を抑制できる。
【0066】
なお、
図8においては、第2方向Z2に向けて拡径するロータ20を備える第1実施形態を基礎としたが、第1方向Z1に向けて拡径するロータ20を備える第2実施形態においても、第5実施形態と同様の構成が採用される。具体的には、
図9に例示される通り、第2実施形態の構成において、空間Sと第2流路34とを連通する連通路28がハウジング30に形成されてもよい。また、第3実施形態のバネ62が
図9の構成に追加されてもよい。
【0067】
F:第6実施形態
図10および
図11は、第6実施形態における弁装置100の構成を例示する断面図である。第6実施形態の弁装置100においては、ロータ20(弁部材B)が回転軸Cの方向(Z1,Z2)に移動可能である。具体的には、第6実施形態のロータ20は、
図10に図示される第1位置と
図11に図示される第2位置との間で、回転軸Cに沿って移動可能である。第2位置は、第1位置と比較して第2方向Z2の位置である。すなわち、第2位置は第1位置よりも上方の位置である。第1位置は、ロータ20が移動可能な範囲の下端に相当し、第2位置は、当該範囲の上端に相当する。
【0068】
図10および
図11に例示される通り、第6実施形態のハウジング30は、第1実施形態と同様の要素に加えて突起部71を含む。突起部71は、第4面F4から第2方向Z2に突出する部分である。突起部71は、第4面F4と一体に形成される。ただし、ハウジング30とは別体で構成された突起部71が第4面F4に固定されてもよい。また、第6実施形態におけるロータ20の第1面F1(下面)には凹部72が形成される。凹部72は、突起部71を収容可能な形状および寸法に形成された窪みである。
【0069】
ロータ20が第1位置にある状態(以下「第1状態」という)においては、
図10に例示される通り、突起部71は、回転軸Cの方向にみて凹部72の内側に位置する。第1状態において、突起部71の頂面は凹部72の底面に接触しない。すなわち、第1状態においては、第1実施形態と同様に、ロータ20の外面Uはハウジング30の内面Hに接触しない。ハウジング30の内面Hは、突起部71の表面(例えば頂面)を含む。すなわち、第1状態においては、第1面F1は、第4面Fおよび突起部71の頂面の何れにも接触しない。したがって、第1実施形態と同様に、ロータ20は、第1面F1が収容部Rの第4面F4に接触しない状態で、バネ61により第1シール40に押圧される。すなわち、バネ61からロータ20に作用する押圧力は、ロータ20からハウジング30に対して直接的には作用せず、第1シール40により受止められる。
【0070】
第1位置から第2方向Z2にロータ20を移動し、回転軸Cを中心としてロータ20を所定の角度に回転させると、
図11に例示される通り、ロータ20の第1面F1が突起部71の頂面に接触した状態となる。ロータ20はバネ61により第1方向Z1に付勢されるが、第1面F1が突起部71の頂面に接触することでロータ20の第1方向Z1の移動が阻止される。以上のようにロータ20の外面U(第1面F1)がハウジング30の内面H(突起部71の頂面)に接触した状態におけるロータ20の位置が第2位置である。すなわち、ロータ20が第2位置にある状態(以下「第2状態」という)においては、ロータ20の第1面F1は突起部71の頂面に接触する。
【0071】
第2状態においては、ロータ20の円錐面22とハウジング30の円錐面33との間隔(封止間隔)が、第1状態と比較して拡大する。封止間隔の拡大により、円錐面22は第1シール40から離間する。したがって、ロータ20およびハウジング30から第1シール40に作用する面圧は、第1状態における面圧を下回る。すなわち、ロータ20の摺動抵抗が第1状態と比較して低下する。したがって、第2状態においては、ロータ20を回転させるために必要なトルクが第1状態と比較して低減される。以上の説明から理解される通り、第2位置は、ロータ20の回転により流路を切替えるための暫定的または過渡的な位置に相当する。なお、第2状態において、ロータ20の円錐面22が第1シール40に接触した状態に維持されてもよい。
【0072】
第6実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。例えば、第1状態においては、ロータ20の第1面F1が収容部Rの第4面F4に接触しない状態で、当該ロータ20がバネ61により第1シール40に押圧される。したがって、弁部材Bまたはハウジング30の寸法の誤差に関わらず、第1シール40に対して適切な面圧を作用させることが可能である。また、第6実施形態においては、第1面F1が突起部71の頂面に接触することでロータ20が第2位置に保持されるから、ロータ20を回転させるために必要なトルクを低減できる。
【0073】
第6実施形態の例示から理解される通り、本発明においては、第1面F1と第4面F4とが接触しない状態が恒常的に成立している必要はない。具体的には、ロータ20から第1シール40に作用する面圧を所定の範囲内に維持すべき状態(すなわちシール時)において第1面F1と第4面F4とが接触していなければ充分であり、他の状態においては第1面F1と第4面F4とが接触してもよい。
【0074】
G:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0075】
(1)前述の各形態においては、軸部10の外周面Qaと収容部Rの内面H(円柱面31)との間に第2シール50が設置された形態を例示したが、第2シール50が設置される位置は以上の例示に限定されない。例えば、
図12に例示される通り、ロータ20の外周面Qbと収容部Rの内周面Ha(円柱面32)との間に第2シール50が設置されてもよい。
図14の構成における空間Sは、ロータ20の外周面Qb(円柱面27)と収容部Rの内周面Ha(円柱面32)と第1シール40(第2部分42)と第2シール50とに囲まれた空間である。したがって、連通路25は、ロータ20の外周面Qb(円柱面27)から第1流路23の内壁面まで形成される。なお、
図14においては第1実施形態を変形した形態を例示したが、第2実施形態から第6実施形態にも同様の構成が採用される。
【0076】
(2)前述の各形態においては、ロータ20の鉛直流路24とハウジング30の第3流路35とが恒常的に連通する形態を例示したが、鉛直流路24と第3流路35との連通/遮断が弁部材Bの回転により切替わる形態も想定される。例えば、
図13に例示される通り、鉛直流路24と第3流路35とが、回転軸Cに対して径方向に離間した位置に形成される。
図13の構成において、ハウジング30の第4面F4には、第3流路35を包囲する第3シール39が設置される。第3シール39は、ロータ20の第1面F1とハウジング30の第4面F4との間に設置される。以上の構成において、鉛直流路24が第3シール39の内側に位置する状態では、鉛直流路24と第3流路35とが相互に連通する。他方、鉛直流路24が第3シール39の外側に位置する状態では、鉛直流路24と第3流路35とが遮断される。すなわち、弁部材Bの回転角度に応じて、鉛直流路24と第3流路35との連通/遮断が切替わる。
【0077】
(3)第3実施形態(
図6)においては、第1面積S1が第2面積S2を下回る構成による第2方向Z2の付勢に対抗するように、弁部材Bがバネ62により第1方向Z1に付勢される形態を例示した。同様の構成は、第1実施形態にも採用される。第1実施形態においては、第1面積S1が第2面積S2を上回る構成により、弁部材Bが第1方向Z1に付勢される。したがって、
図14に例示される通り、弁部材Bを第2方向Z2に付勢するバネ64が設置される。バネ64は、ロータ20の第1面F1とハウジング30の第4面F4との間に設置された弾性体である。
図14の構成によれば、第1シール40に対してロータ20が過剰に押付けられる可能性が低減される。すなわち、第1シール40とロータ20との間の面圧を適度な範囲に調整できる。
【0078】
(4)
図15に例示される通り、連通路25に圧力調整弁80が設置されてもよい。圧力調整弁80は、当該圧力調整弁80を挟んで相互に隣合う2個の流路の圧力差を調整するための弁機構である。前述の通り、連通路25は、第1流路23と空間Sとを連通する。したがって、圧力調整弁80は、第1流路23と空間Sとの圧力差を調整する。例えば、圧力調整弁80の特性は、第1流路23と空間Sとの圧力差が目標値に維持されるように事前に設定される。
【0079】
図15の構成においては、第1実施形態において前述した通り、ロータ20の表面のうち冷却液から第1方向Z1の圧力が作用する第1領域の第1面積S1が、第2方向Z2の圧力が作用する第2領域の第2面積S2を上回る(S1>S2)。したがって、冷却液から第1領域に作用する第1方向Z1の押圧力は、冷却液から第2領域に作用する第2方向Z2の押圧力を上回る。圧力調整弁80により第1流路23と空間Sとの圧力差を調整することで、第1領域に作用する押圧力と第2領域に作用する押圧力との関係が調整される。したがって、第1面積S1と第2面積S2との差異により弁部材Bに作用する付勢力を、圧力調整弁80により調整できる。
【0080】
なお、以上の説明においては、圧力調整弁80により第1流路23と空間Sとの圧力差を目標値に維持したが、
図15に例示される制御装置81が、圧力調整弁80の特性(例えば第1流路23と空間Sとの圧力差)を動的に制御してもよい。例えば、制御装置81は、第1流路23または空間Sの圧力に応じて圧力調整弁80を動的に制御する。以上の構成によれば、第1流路23または空間Sの圧力が経時的に変化した場合でも、第1面積S1と第2面積S2との差異に応じた目標の付勢力が弁部材Bに作用するように、第1流路23と空間Sとの圧力差を圧力調整弁80により調整できる。なお、第1流路23または空間Sの圧力は、例えば収容部Rに設置された圧力センサにより測定される。
【0081】
なお、
図15においては第1実施形態に圧力調整弁80を追加した形態を例示したが、第2実施形態から第6実施形態にも同様の構成が採用される。例えば第5実施形態(
図8,
図9)において、ハウジング30に形成された連通路28に圧力調整弁80が設置される。圧力調整弁80は、第2流路34と空間Sとの圧力差を調整する。
【0082】
(5)バネ61がロータ20を付勢する付勢力を調整できる構成が想定される。
図16には、可動部30aがハウジング30に設置された形態が例示されている。可動部30aは、外周面にネジ溝が形成された円筒状の部材であり、ハウジング30の円柱面31に挿入される。可動部30aの内周面と軸部10の外周面Qaとの間に第2シール50が設置される。
【0083】
ハウジング30の円柱面31には、可動部30aの外周面のネジ溝に噛合うネジ溝が形成される。回転軸Cを中心として可動部30aを回転させることで、可動部30aは回転軸Cの方向に移動する。
図16に例示される通り、可動部30aの下面とロータ20の第2面F2との間にバネ61が設置される。したがって、回転軸Cに沿って可動部30aを移動させることでバネ61の全長が変化する。すなわち、可動部30aを移動させることで、バネ61からロータ20に作用する付勢力を調整できる。
【0084】
図16に例示される制御装置82が、回転軸Cの方向に可動部30aを移動させてもよい。例えば、制御装置82は、弁装置100の状態に応じて可動部30aを移動させる。弁装置100の状態とは、例えば、ロータ20またはハウジング30から第1シール40に作用する面圧、収容部R内の圧力、またはバネ61からロータ20に作用する付勢力である。弁装置100の状態は、例えば収容部Rに設置された各種のセンサにより測定される。以上の構成によれば、弁装置100の状態が経時的に変化した場合でも、可動部30aの移動によりバネ61の付勢力を調整することで、弁装置100を適切な状態に維持できる。例えば、第1シール40の経年変化により面圧が低下した場合に、可動部30aを第1方向Z1に移動させることで第1シール40に対する面圧を回復することが可能である。
【0085】
なお、以上の説明においては可動部30aを移動させる形態を例示したが、バネ61からロータ20に作用する付勢力を調整するための構成は任意であり、以上の例示には限定されない。また、以上の説明においてはバネ61の付勢力を調整したが、前述の各形態において例示した任意のバネ(62,63,64)も、同様の構成により調整される。
【0086】
(6)前述の各形態においては、バネ61としてコイルバネを例示したが、バネ61の種類は任意であり、以上の例示には限定されない。例えば板バネ等の任意の形態の弾性体が、バネ61として採用される。また、ロータ20を付勢する付勢体は、バネ61に限定されない。例えばゴム等の他の種類の弾性体が、バネ61の代わりに(またはバネ61とともに)、ロータ20の付勢に利用されてもよい。なお、以上の説明においてはバネ61に着目したが、前述の各形態に例示した他のバネ(62,63,64)についても同様に変形される。
【0087】
(7)前述の各形態においては、
・構成A:空間Sが第1流路23または第2流路34に連通する構成と、
・構成B:第1面積S1と第2面積S2との差異により弁部材Bを付勢する構成と
・構成C:ロータ20の外面Uがハウジング30の内面Hに接触しない状態でロータ20がバネ61により第1シール40に押圧される構成と
を例示した。構成Aと構成Bと構成Cとは、相互に独立に成立し得る。
【0088】
例えば、構成Aに着目すると、
図17に例示される通り、鉛直流路24および第3流路35が形成されない構成も想定される。
図17の構成においては、ロータ20の第1面F1とハウジング30の第4面F4との間の空間に冷却液は充填されないから、第1面F1に冷却液からの圧力は作用しない。すなわち、構成Aにおいて、冷却液からの圧力が第1面F1に作用することは省略されてよい。
【0089】
また、構成Aにとって、第1面積S1と第2面積S2との関係は不問である。したがって、
図18に例示される通り、外周面Qbが単純な円柱面である円柱状のロータ20が採用されてもよい。
図18の構成においては、ハウジング30の内周面Haも円柱面で構成され、第1シール40の第1部分41と第2部分42とは同径である。
図18の構成においても、空間Sと第1流路23とを連通する連通路25が形成されるから、第1実施形態と同様に、
図3の対比例2と比較して空間Sにおける蓄圧を抑制できるという効果が実現される。
【0090】
(8)構成Cにおいて、ロータ20の外面Uとハウジング30の内面Hとを接触させないための構成は、前述の各形態の例示に限定されない。例えば、
図19に例示される通り、ロータ20の外周面Qbが単純な円柱面である構成において、当該ロータ20の第1面F1とハウジング30の第4面F4との間に第4シール90が設置されてもよい。
図19の構成においても、ロータ20は、第1面F1が第4面F4に接触しない状態で、バネ61により第4シール90に押圧される。すなわち、バネ61からロータ20に作用する押圧力が第1シール40により受止められる。したがって、第1実施形態と同様に、弁部材Bまたはハウジング30の寸法の誤差に関わらず、第4シール90に対して適切な面圧を作用させることが可能である。
【0091】
(9)本願における「第n」(nは自然数)という記載は、各要素を表記上において区別するための形式的かつ便宜的な標識(ラベル)としてのみ使用され、如何なる実質的な意味も持たない。したがって、「第n」という表記について、各要素の位置または製造の順番に関する限定的な解釈の余地はない。
【符号の説明】
【0092】
100…弁装置、10…軸部、20…ロータ、21,31,32,38…円柱面、22,26,37…円錐面、23…第1流路、24…鉛直流路、25,28…連通路、27…円柱面、30…ハウジング、33…円錐面、34…第2流路、35…第3流路、36…溝、39…第3シール、40…第1シール、41…第1部分、42…第2部分、43…連結部、50…第2シール、61,62,63,64…バネ、71…突起部、72…凹部、81,82…制御装置。
【要約】
弁装置は、弁部材とハウジングと第1シールと第2シールとを備える。弁部材は、回転軸を中心に回転可能な軸部と、軸部のうち回転軸に沿う第1方向の端部に連結され、外周面に第1開口を有する第1流路が形成されたロータとを含む。ハウジングには、弁部材を収容する収容部と、第1開口に連通可能な第2開口を収容部の内周面に有する第2流路と、が形成される。第1シールは、ロータの外周面と収容部の内周面との間に設置され、第2開口に対して第1方向に位置する第1部分と、第2開口に対して第1方向とは反対側の第2方向に位置する第2部分とを含む。第2シールは、第2部分に対して第2方向に位置し、弁部材の外周面と収容部の内周面との間に設置される。弁部材は、弁部材の外周面と収容部の内周面と第2部分と第2シールとに囲まれた第1空間と、第1流路とを連通する連通路を有する。