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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】血清ビタミンD代謝物の濃度の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240109BHJP
   G01N 33/566 20060101ALI20240109BHJP
   G01N 33/493 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G01N33/53 H ZNA
G01N33/566
G01N33/493 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020124121
(22)【出願日】2020-07-21
(65)【公開番号】P2022020884
(43)【公開日】2022-02-02
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】串岡 拓也
(72)【発明者】
【氏名】榊 利之
(72)【発明者】
【氏名】真野 寛生
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-516540(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0266723(US,A1)
【文献】特開2016-163559(JP,A)
【文献】特表2014-506332(JP,A)
【文献】特表2017-526336(JP,A)
【文献】国際公開第2019/088200(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0228808(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0275909(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98,
C07K 19/00,
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンD受容体のビタミンD結合ドメインと、ルシフェラーゼ由来ドメインとを有する融合タンパク質を含むバイオセンサーを用いて算出した対象者の尿中ビタミンD代謝物濃度を指標として、血清ビタミンD代謝物の濃度を推定する方法(ただし、尿中ビタミンD代謝物および血清ビタミンD代謝物は、それぞれ尿中、血清中のビタミンD受容体に対して結合性を有する物質を意味する。)
【請求項2】
さらに、尿中カルシウム濃度、尿中マグネシウム濃度のいずれか、または両方を指標とすることを特徴とする請求項1に記載の血清ビタミンD代謝物の濃度を推定する方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の血清ビタミンD代謝物の濃度を推定する方法で血清ビタミンD代謝物の濃度を推定する手段を有し、
前記手段により推定された血清ビタミンD代謝物の濃度から、ビタミンD摂取量の過不足を判定し、対象者のビタミンD不足量を算出し、ビタミンD不足量を補うための経口組成物を提供するシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の尿中のビタミンD代謝物を指標として、非侵襲的に血清ビタミンD代謝物の濃度を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンDは、カルシウム恒常性や骨代謝に重要な栄養素であるとともに、免疫系、生殖、がん予防など、カルシウム代謝調節以外の生理作用にも関与することが報告されている。小児期においてビタミンDが欠乏すると、くる病や骨軟化症を引き起こす危険性がある。また、加齢に伴うビタミンDの欠乏は、骨粗鬆症、がん、糖尿病、動脈硬化、自己免疫疾患、さらには、アルツハイマー病やパーキンソン病等の脳疾患とも関連があると言われている。
皮膚で生合成もしくは経口摂取されたビタミンDは、肝臓で25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)に変換される。肝臓で変換された25(OH)Dは、ビタミンD結合蛋白(DBP)と結合して血中を循環する。25(OH)Dの血中半減期は約3週間と長く安定しているため、血清25(OH)D濃度はビタミンD充足度の指標として用いられている。
【0003】
現在、血清25(OH)D濃度は、液体クロマトグラフィー法、免疫測定法(例:CLEIA法、ECLIA法、CLIA法)、質量分析法(例:LC-MSMS)等により測定されている。
液体クロマトグラフィー法の場合、血液は夾雑物が多いため、分離条件が不適切であると血清25(OH)D濃度の濃度を過大評価してしまう可能性がある(非特許文献1)。
質量分析法の場合、血液の夾雑物がイオン増強効果やイオン抑制効果によって、血清25(OH)D濃度の濃度を過大評価(又は過小評価)してしまう可能性がある(非特許文献2)。
免疫測定法の場合、抗原反応、洗浄、ブロッキング、1次抗体/2次抗体反応、発色などの段階的な作業が必要となり、時間が掛かるだけなく操作が煩雑である(非特許文献3)。
また、いずれの測定方法も検体は血液であるため、対象者は針を穿刺して採血若しくは指先微量採血を要する。指先微量採血は、侵襲性は少ないが、対象者は煩わしさとともに精神的ストレスと苦痛を余儀なくされるうえ、感染症の危険性を伴う等の様々な問題がある。
【0004】
また、本発明者らは、発光酵素の1種であるルシフェラーゼ由来のドメインと、ビタミンD受容体のビタミンD結合ドメインとを有する融合タンパク質を含むバイオセンサーにより、ビタミンD、25(OH)D等のビタミンD代謝物を検量できることを報告している(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-163559号公報
【文献】国際公開第2019/088200号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Eisman J et al., Determination of vitamin D metabolites. Meth Enzymol 1978;52:388-98
【文献】Qi Y et al., On the isobaric space of 25-hydroxyvitamin D in human serum:potential for interferences in liquid chromatography/tandem mass spectrometry, systematic errors and accuracy issues. Rap Commun Mass Spectrom 2015;29:1-9
【文献】Heijboer AC et al., Accuracy of 6 routine 25-hydroxyvitamin D assays:influence of vitamin D binding protein concentration. Clin Chem 2012;58:543-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非侵襲的な血清ビタミンD代謝物の濃度の推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の主な構成は、次のとおりである。
1.ビタミンD受容体のビタミンD結合ドメインと、ルシフェラーゼ由来ドメインとを有する融合タンパク質を含むバイオセンサーを用いて算出した対象者の尿中ビタミンD代謝物濃度を指標として、血清ビタミンD代謝物の濃度を推定する方法。
2.さらに、尿中カルシウム濃度、尿中マグネシウム濃度のいずれか、または両方を指標とすることを特徴とする1.に記載の血清ビタミンD代謝物の濃度を推定する方法。
3.1.または2.に記載の血清ビタミンD代謝物の濃度を推定する方法で推定された濃度から、ビタミンD摂取量の過不足を判定し、対象者のビタミンD不足量を算出し、ビタミンD不足量を補うための経口組成物を提供するシステム。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、尿中ビタミンD代謝物濃度を指標として、血清ビタミンD代謝物の濃度を推定することができ、採血が不要なため、対象者への負担を大幅に減らすことができる。尿サンプルは、店頭や自宅で採尿キットなどを用いた簡便な方法で採取することができ、採取したサンプルを郵送等することにより、対象者は病院等に行く必要がない。
バイオセンサーは、不純物が含まれていても正確にビタミンD代謝物の濃度を求めることができるため、尿検体の調製が容易である。また、バイオセンサーは、7.5倍程度に濃縮した尿検体を用いることができるため、測定誤差を小さくすることができる。
【0010】
本発明の推定方法により、ビタミンDが不足していることが判明した対象者は、日常の食事に加えてビタミンDを効率的に経口摂取することができるサプリメントやドリンク等の経口組成物の提供を受けることができる。さらに、対象者が経口組成物を一定期間摂取したに、再検査を気軽に行うことができ、摂取後の経過について気軽にモニタリングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】バイオセンサーを用いて算出した尿中ビタミンD代謝物濃度による血清ビタミンD代謝物濃度の推定。
図2】多変量モデルによる血清ビタミンD代謝物濃度の推定(尿中ビタミンD代謝物、尿中カルシウム)。
図3】多変量モデルによる血清ビタミンD代謝物濃度の推定(尿中ビタミンD代謝物、尿中マグネシウム)。
図4】多変量モデルによる血清ビタミンD代謝物濃度の推定(尿中ビタミンD代謝物、尿中カルシウム、尿中マグネシウム)。
図5】尿中カルシウム濃度による血清ビタミンD代謝物濃度の推定。
図6】多変量モデルによる血清ビタミンD代謝物濃度の推定(尿中ビタミンD代謝物、尿比重)。
図7】多変量モデルによる血清ビタミンD代謝物濃度の推定(尿中ビタミンD代謝物、尿・尿素窒素)。
図8】バイオセンサー法による尿検体の測定(希釈直線性試験)。
図9】バイオセンサー法による尿検体の測定(添加回収試験)。
図10】ELISA法による尿検体の測定(希釈直線性試験)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ビタミンD受容体のビタミンD結合ドメインと、ルシフェラーゼ由来ドメインとを有する融合タンパク質を含むバイオセンサーを用いて算出した対象者の尿中のビタミンD代謝物濃度を指標として、非侵襲的に血清ビタミンD代謝物の濃度を推定する方法に関する。
【0013】
本発明において、尿中ビタミンD代謝物濃度は、ビタミンD受容体のビタミンD結合ドメインと、ルシフェラーゼ由来ドメインとを有する融合タンパク質を含むバイオセンサーを用いて算出する。この融合タンパク質は、リンカー配列、LXLL配列(Xは、M、W、T、S、E、V、R、Q、K、L又はHであり、Xは、N、T、S、G、E、R、Q、Y又はKである)を有することもできる。このようなバイオセンサーとしては、特許文献1、2に記載のバイオセンサーを用いることができ、特許文献2に記載のバイオセンサーを用いることが好ましい。特許文献2に記載のバイオセンサーは、ビタミンD代謝物と結合すると発光が増加するタイプであり、迅速に高い精度でビタミンD代謝物の濃度を算出できる。
【0014】
本発明において、「ビタミンD代謝物」とは、ビタミンD受容体(VDR)に対して結合性を有する物質であり、例えば、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、25-ヒドロキシビタミンD3(カルシジオール)、1α,25-ジヒドロキシビタミンD3(カルシトリオール)、3-epiー25-ヒドロキシビタミンD3、25-ヒドロキシビタミンD3硫酸、25-ヒドロキシビタミンD3グルクロニド、17-ヒドロキシビタミンD3、20-ヒドロキシビタミンD3、22-ヒドロキシビタミンD3、1α,23,25-トリヒドロキシビタミンD3、23,25-ジヒドロキシビタミンD3、24,25-ジヒドロキシビタミンD3、1α,25R,ジヒドロキシビタミンD3-26,23S-ラクトン、(23S,25R)25-ヒドロキシビタミンD3-(26,23)-ラクトール、カルシトロン酸、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)、20-ヒドロキシビタミンD2、17,20-ジヒドロキシビタミンD2、17,20,24-トリヒドロキシビタミンD2、25-ヒドロキシビタミンD2(エルカルシジオール)、1α,25-ジヒドロキシビタミンD2、1α,24,25-トリヒドロキシビタミンD2、1α,24,25,28-テトラヒドロキシビタミンD2、1α,24,25,26-テトラヒドロキシビタミンD2、1α,25,26-トリヒドロキシ-24-オキソービタミンD2、1α,23,25,28-テトラヒドロキシ-24-オキソービタミンD2、1α-ヒドロキシビタミンD2、24,25-ジヒドロキシビタミンD2、24,25,28-トリヒドロキシビタミンD2、24,25,26-トリヒドロキシビタミンD2、24-ヒドロキシビタミンD2、3-epi-25-ヒドロキシビタミンD2、24,26-ジヒドロキシビタミンD2、1α,24-ジヒドロキシビタミンD2、1α,24,26-トリヒドロキシビタミンD2、26-アルデヒドー1α,24-ジヒドロキシビタミンD2、1α,24,ジヒドロキシ-26-カルボキシル-ビタミンD2、シトクロムP450ファミリーに属するCYP27A1、CYP2R1、CYP27B1、CYP24A1、CYP3A4、CYP11Å1及びUDP-グルクロン酸転移酵素、硫酸抱合酵素によって代謝された物質からなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上を組み合わせたものを挙げることができる。
【0015】
本発明者らは、尿中のビタミンD代謝物の濃度と、血清ビタミンD代謝物の濃度が高い相関を有し、尿中ビタミンD代謝物の濃度を指標として、血清ビタミンD代謝物の濃度を推定できることを見出した。さらに、尿中ビタミンD代謝物濃度に加えて、尿中カルシウム濃度、尿中マグネシウム濃度のいずれか、または両方を指標とすることにより、さらに高い精度で血清ビタミンD代謝物の濃度を推定できることを見出した。
【0016】
尿中のビタミンD代謝物の濃度、または尿中のビタミンD代謝物の濃度と尿中カルシウム濃度、尿中マグネシウム濃度のいずれか、または両方とから、血清ビタミンD代謝物の濃度を推定する方法としては、回帰分析で導かれる推定式を用いることができ、この推定式は、一次式、多項式、対数式、指数式等とすることができる。一例として、下記推定式1、2が挙げられる。
【0017】
(推定式1)
Y=(α1)XVD+(δ1)
(Y=血清ビタミンD代謝物 nM(CLEIA法)、
VD=尿ビタミンD代謝物/クレアチニン pM/mg・dL-1(バイオセンサー法))
(α1)は、1~3が好ましく、1.5~2.5がより好ましい。(δ1)は、10~40が好ましく、20~30がより好ましい。
【0018】
(推定式2)
Y=(α2)XVD-(β2)Xca+(δ2)
(Y=血清ビタミンD代謝物 nM(CLEIA法)、
VD=尿ビタミンD代謝物/クレアチニン pM/mg・dL-1(バイオセンサー法)、
Xca=尿カルシウム/クレアチニン mg・dL-1/mg・dL-1
(α2)は、1~3が好ましく、1.5~2.5がより好ましい。(β2)は、3~15が好ましく、7~11がより好ましい。(δ2)は30~45が好ましく、33~41がより好ましい。
【0019】
(推定式3)
Y=(α3)XVD+(β3)Xmg+(δ3)
(Y=血清ビタミンD代謝物 nM(CLEIA法)
VD=尿ビタミンD代謝物/クレアチニン pM/mg・dL-1(バイオセンサー法)
Xmg=尿マグネシウム/クレアチニン mg・dL-1/mg・dL-1
(α3)は、1~4が好ましく、2~3がより好ましい。(β3)は、140~180が好ましく、150~170がより好ましい。(δ3)は、3~15が好ましく、7~11がより好ましい。
【0020】
(推定式4)
Y=(α4)XVD-(β4)Xca-(γ4)Xmg+(δ4)
(Y=血清ビタミンD代謝物 nM(CLEIA法)
VD=尿ビタミンD代謝物/クレアチニン pM/mg・dL-1(バイオセンサー法)
Xca=尿カルシウム/クレアチニン mg・dL-1/mg・dL-1
Xmg=尿マグネシウム/クレアチニン mg・dL-1/mg・dL-1
(α4)は、1~4が好ましく、2~3がより好ましい。(β4)は、4~13が好ましく、6~11がより好ましい。(γ4)は、90~140が好ましく、100~130がより好ましい。(δ4)は、20~30が好ましく、22~28がより好ましい。
【0021】
本発明の血清ビタミンD代謝物の濃度の推定方法は、治療的であっても非治療的であっても使用できる。治療的とは、例えば糖尿病の方が治療経過を観察するために、医療機関での治療と併用して使用するものであり、非治療的とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0022】
本発明において、尿を採取するタイミングとして、特に限定されるものではないが、1日の中で最初に食事を摂取するまでに採取することが好ましく、起床後すぐ(早朝)に採取する第1尿が特に好ましい。
【0023】
尿中成分濃度は食事や水分摂取、発汗などの影響を受けやすく、そのときの尿量によって大きく変動するため、24時間蓄尿を用いて測定する方法が一般的である。24時間蓄尿は対象者の負担が大きいため、随時尿を用いて対象者の負担を軽減した測定方法もある。随時尿を用いて測定する場合、前述のとおり、尿中成分濃度は食事や水分摂取、発汗などの影響を受けやすく、尿の濃さによって成分濃度が大きく変動するため、尿の濃度を補正する必要があり、その手段として、同時に測定したクレアチニン値との比率を求めるクレアチニン補正が行われる。
【0024】
本発明で用いる採尿容器は、病院や検査機関等で実施されている尿検査のために使用される尿中成分の変質を引き起こさない形状、材質であれば特に限定されず用いることができる。
【0025】
本発明により推定した血清ビタミンD代謝物の濃度から、ビタミンDの充足状態を、「ビタミンD不足・欠乏の判定指針」(一般社団法人日本内分泌学会)を参考に、血清ビタミンD代謝物濃度が30ng/ml以上をビタミンD充足状態、血清ビタミンD代謝物濃度が30ng/ml未満をビタミンD非充足状態、血清ビタミンD代謝物濃度が20ng/ml以上30ng/ml未満をビタミンD不足、血清ビタミンD代謝物濃度が20ng/ml未満をビタミンD欠乏と求めることができる。
対象者のビタミンD充足状態を求めることにより、対象者毎にビタミンD活性を有する化合物の配合量を最適化した経口組成物を提供することができ、対象者は1日に必要とするビタミンD化合物を摂取することができる。
【0026】
本発明で提供する経口組成物は、医薬品(医薬部外品を含む)や、栄養補助食品、栄養機能食品、特定保健用食品、機能性表示食品、病者用食品等の機能性食品、一般的な食品、食品添加剤として用いることができる。継続的な摂取が行いやすいように、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、チュアブル錠、口腔内崩壊錠、ドリンク剤、ゼリー状の形態を有することが好ましい。棒状、板状、グミ状に加工した食品や、一般的な食品形態に添加したものであってもよい。中でも錠剤、カプセル剤の形態が、摂取の簡便さの点からとくに好ましい。このような剤形を有する製剤は、慣用法によって調整することができ、ビタミンDの放出性を制御した、速放性、徐放性の製剤であってもよい。
【0027】
本発明の経口組成物に配合するビタミンD活性を有する化合物としては、当技術分野で知られているビタミンD3類似体やビタミンD2類似体等を用いることができ、限定されるものではないが、ビタミンD2 (エルゴカルシフェロール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、25-ヒドロキシビタミンD2(エルカルシジオール)、25-ヒドロキシビタミンD3(カルシジオール)、1α,24-ジヒドロキシビタミンD2、1α,2-ジヒドロキシビタミンD4、1α,24-ジヒドロキシビタミンD2、1α,25-ジヒドロキシビタミンD3(カルシトリオール)、1αヒドロキシビタミンD2(ドキセルカルシフェロール)、1αヒドロキシビタミンD3(カルシドール)、1α,25-ジヒドロキシビタミンD2、1α,25-ジヒドロキシビタミンD4及び1α,24,25-ジヒドロキシビタミンD2、セオカルシトール、カルシポトリオール、22-オキサカルシトリオール(マキサカルシトール)からなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上を組み合わせたものを挙げることができる。
【0028】
本発明で提供する経口組成物は、ビタミンD活性を有する化合物以外にも、ビタミンD活性を有する化合物の生体利用率を高めるための補助成分を配合することができ、例えば、他のビタミン、カルシウム等のミネラル、アミノ酸、魚油といった栄養素を配合することができる。また、ビタミンD活性を有する化合物の生体利用率を高めるための製剤的加工を加えることができる。
【実施例
【0029】
(臨床試験プロトコール内容)
年齢が20歳以上65歳未満の健康な男女を被験者として臨床試験を実施した。
以下の除外規準に抵触しない23名を最終解析対象とした。
・消化器疾患、腎疾患、肝機能疾患を有する者
・同意取得時から検査終了まで服薬の予定がある者
・妊娠、授乳中の者
・習慣的に喫煙をしている者
・検査日に月経の者
・その他試験責任者による本試験への参加が適切でないと判断された者
本臨床試験は倫理的配慮として、倫理的、科学的及び医学的妥当性の観点からファンケル臨床研究倫理審査委員会に当該試験を行うことの適否についての審査を受け、最新の「ヘルシンキ宣言に基づく倫理原則」及び「人を対象とする医学系試験に関する倫理指針(文部科学省・厚生労働省)」に則り、試験計画書を遵守して実施した。
本臨床試験の実施に際しては、事前に被験者全員に試験の主旨を十分に説明したうえで、本人の自由意思で書面による参加の同意を得た。
【0030】
本臨床試験は、オープン試験として行い、被験者から早朝第一尿の採尿及び早朝空腹時の採血を実施した。
血液は肘窩静脈から血清分離剤入り採血管で採取した。採取した血液は、よく混和した後に30分から1時間静置し血餅を確認後、3000rpm、10分の条件下で遠心分離することで血清成分を分離した。溶血の有無を目視で確認し、溶血の有無を症例報告書に記載した。分離した血清成分を測定まで-80℃で保存した。
尿は、採尿ボトルを被験者に渡し、部分尿を採取した。
【0031】
・血清ビタミンD代謝物の測定(化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法))
分離した血清成分を用いてCLEIA法により、血清ビタミンD代謝物の測定を行った。CLEIA法は、臨床検査受託機関(株式会社LSIメディエンス)に依頼し、測定した。
【0032】
・尿カルシウム、尿マグネシウム、尿比重、尿・尿素窒素、尿クレアチニンの測定
臨床検査受託機関(株式会社LSIメディエンス)に依頼し、測定を行った。なお、本発明においては、尿中ビタミンD代謝物の濃度はクレアチニン濃度で除した値を用いた。
【0033】
・ビタミンD代謝物の測定(バイオセンサー法)
バイオセンサー法を用いて、血清ビタミンD代謝物及び、尿中ビタミンD代謝物を測定した。
【0034】
(血清検体調製)
血清50μLに対して5倍量のアセトニトリルを添加し、1分間ボルテックスミキサーを用いて混合後、1500×g、10分、4℃の条件で遠心分離する事で夾雑物を除去し、上澄み液を100μL回収した。
回収検体に、25%のアセトニトリルを含む酢酸バッファー(pH5.0)を添加し、アセトニトリル濃度が30%となるように調整後、Oasis Prime HLB(Waters社製)を用いて固相抽出を行った。Oasis Prime HLBは、酢酸エチル2mL、メタノール2mL、超純水2mLの順で平衡化後、検体をロードした。その後、超純水2mL、60%メタノール2mL、ヘキサン1mLの順で洗浄を行い、酢酸エチル2mLで溶出させ、溶出液を回収した。溶出液は遠心エバポレーターを用いて乾固させた後に、エタノールを150μL添加した。
【0035】
(尿検体調製)
尿500μLに対して、β-グルクロニダーゼ溶液を等量加えて転倒混和した後に、37℃で2時間保温した。β-グルクロニダーゼ溶液は、β-グルクロニダーゼ(SIGMA社製)を100mM酢酸バッファー(pH5.0)で1000unit/mLとなるように溶解して作製した。β-グルクロニダーゼ処理を行った尿に対して2倍量のアセトニトリルを添加し、1分間ボルテックスミキサーを用いて混合後、1500×g、10分、4℃の条件で遠心分離する事で夾雑物を除去し、上澄み液を回収した。
回収検体に超純水を添加し、アセトニトリル濃度が30%となるように調整後、Oasis Prime HLB(Waters社製)を用いて固相抽出を行った。Oasis Prime HLBは、酢酸エチル2mL、メタノール2mL、超純水2mLの順で平衡化後、検体をロードした。その後、超純水2mL、60%メタノール2mL、ヘキサン1mLの順で洗浄を行い、酢酸エチル2mLで溶出させ、溶出液を回収した。溶出液は遠心エバポレーターを用いて乾固させた後に、エタノールを100μL添加した。
【0036】
(バイオセンサー法による測定条件)
25(OH)D標準品(フナコシ社製)を2.5mMとなるようエタノールにて調整後、0.78、1.56、3.12、6.25、12.5、25、50nMとなるようエタノールにて適宜希釈し、標準溶液とした。
トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris、富士フイルム和光純薬社製)を超純水で溶解し、塩酸(HCl、富士フイルム和光純薬社製)でpHが7.4になるように調整した後に、1M Tris-HCl溶液を作製し、これを超純水で希釈し、25mM Tris-HCl溶液を作製した。
塩化ナトリウム(NaCl、富士フイルム和光純薬社製)を超純水で溶解し、2.5M NaCl溶液を作製した。
ジチオスレイトール(DTT、富士フイルム和光純薬社製)を超純水で溶解し、1M DTT溶液を作製した。
ウシ血清アルブミン(BSA、SIGMA社製)500mgを超純水で溶解し、100mg/mL BSA溶液を作製した後に、0.22μmフィルターでろ過を行った。これを、25mM Tris-HCl溶液で希釈し、1mg/mL BSA溶液を作製した。
【0037】
バイオセンサータンパク質は、1mg/mL BSA溶液で100倍に希釈した。
バイオセンサー反応液の組成は、Tris-HCl(pH7.4)及び、NaCl、DTT、BSAの各々の終濃度が、25mM及び、62.5mM、1.25mM、0.125mMとなるように調製した。
【0038】
白色96ウェルプレート(Nunc FluoroNunc/LumiNunc 96-Well Plates、Thermo Scientific社製)を用いて発光測定を行った。
1ウェル毎に、バイオセンサー反応液を75μL、バイオセンサータンパク質を各2μL(pET11d-N-6×His-XhoI-LBD(VDR 121-427aa)-BamHI-SmBit-tag-NotI及び、pET11d-N-6×His-XhoI-ATG-LgBit-SalI-NHPMLMNLLKDNtag-NotI)、標準溶液または試料溶液を1μL添加した後に、室温で30分間インキュベーションして、バイオセンサータンパク質とリガンド物質を反応させた。
その後、発光基質溶液(Nano-Glo Live Cell Assay System、Promega社製)を20μL添加し、室温で15分間インキュベーションした後に、マイクロプレートリーダー(Infinite M Plex、TECAN社製)を用いて発光強度を測定した。
試料溶液の濃度は、標準溶液から算出した回帰式に発光強度を代入し、希釈倍率を乗ずることで算出した。
【0039】
(LgBiT-NHPMLMNLLKDNおよびLBD-SmBiTバイオセンサータンパク質の作製方法)
実施例で使用したバイオセンサータンパク質の作製方法について以下に詳細に記載する。なお、LgBiT-NHPMLMNLLKDNおよびLBD-SmBiTの内、ルシフェラーゼドメインは、LgBiTとSmBitであり、ビタミンD結合ドメインは、LBDである。NHPMLMNLLKDNは、2つのドメイン以外の配列を意味する。

pET11d-N-6×His-XhoI-LBD(VDR 121-427aa)-BamHI-SmBit-tag-NotI及びpET11d-N-6×His-XhoI-ATG-LgBit-SalI-NHPMLMNLLKDNtag-NotIバイオセンサーを発現させるためのベクターの作製
【0040】
製造1:ヒトVDR(hVDR)遺伝子のクローニング
ヒト急性単球性白血病由来のTHP-1細胞からtRNAを抽出し、逆転写して合成したcDNAを鋳型とし、プライマー1および2(配列番号1および2)を用い、PCRによってヒトVDRを増幅した。PCRは、反応1(94℃ 2分後、98℃ 10秒、56℃ 30秒、68℃ 1分、30サイクル;鋳型DNA10ng、MgSO1.5mM、dNTPs0.2mM、KOD-plus neo-DNA polymerase(TOYOBO)0.2U、10xPCR Buffer for KOD plus neo)、プライマー各0.3μM、最終液量10μLの条件で行った。
PCR産物1μLを1%アガロースゲルにより電気泳動した結果、目的の位置(約1.3kb)に特異的な増幅が認められた(以下、1%アガロースゲルでの電気泳動は、単に電気泳動と略称する)。
【0041】
電気泳動による目的断片の増幅確認後、Zero blunt TOPO PCR Cloning Kit(Invitrogen)の取り扱い説明書に従い、PCR産物をpCR Blunt II-TOPO ベクターにクローニングし、塩化カルシウム法により大腸菌HST08株を形質転換し、カナマイシン30μg/mLを含むLB寒天培地(ポリペプトン10g、イーストエキストラクト5g、NaCl5gおよび寒天15gを蒸留水1Lに溶解)に塗布した。
得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、2mLのLB液体培地(カナマイシン30μg/mL含有)に植菌し、37℃、200rpmで16時間振盪培養を行った。その後、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを抽出し、プラスミド濃度を260nmの吸光度を用いて測定し、鋳型DNAとした。サイクルシークエンス反応は、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いて行った。配列解析の結果、hVDRをコードする遺伝子であることが確認できた。
このプラスミドをpCR-Blunt II-TOPO-hVDRと命名した。
【0042】
配列番号1:
5’-AATTCTCGAGATGGAGGCAATGGCGGCCAGCACTTC-3’
配列番号2:
5’-ATATGCGGCCGCTCAGGAGATCTCATTGCCAAACAC-3’
【0043】
製造2:LgBiTおよびSmBiTのクローニング
pBiT.1-N[TK/LgBiT] vector(Promega社)を鋳型とし、プライマー3および4(配列番号3および4)を用い、PCRによってXhoI-ATG-LgBiT-SalIを増幅した。PCRは、反応1(94℃ 2分後、98℃ 10秒、56℃ 30秒、68℃ 20秒、30サイクル;鋳型DNA10ng、MgSO1.5mM、dNTPs0.2mM、KOD-plus neo-DNA polymerase(TOYOBO)0.2U、10xPCR Buffer for KOD plus neo)、プライマー各0.3μM、最終液量10μLの条件で行った。
PCR産物1μLを電気泳動した結果、目的の位置(約400bp)に特異的な増幅が認められた。
【0044】
電気泳動による目的断片の増幅確認後、Zero blunt TOPO PCR Cloning Kit(Invitrogen)の取り扱い説明書に従い、PCR産物をpCR Blunt II-TOPO ベクターにクローニングし、塩化カルシウム法により大腸菌HST08株を形質転換し、カナマイシン30μg/mLを含むLB寒天培地(ポリペプトン10g、イーストエキストラクト5g、NaCl5gおよび寒天15gを蒸留水1Lに溶解)に塗布した。
得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、2mLのLB液体培地(カナマイシン30μg/mL含有)に植菌し、37℃、200rpmで16時間振盪培養を行った。その後、QIAprep Spin Miniprep Kit (QIAGEN)を用いてプラスミドを抽出し、プラスミド濃度を260nmの吸光度を用いて測定し、鋳型DNAとした。サイクルシークエンス反応は、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit Applied Biosystems)を用いて行った。配列解析の結果、XhoI-ATG-LgBiT-SalIをコードする遺伝子であることが確認できた。
このプラスミドをpCR-Blunt II-TOPO-XhoI-ATG-LgBiT-SalIと命名した。
【0045】
次に、プライマー5と6(配列番号5と6)各10μM、10×PNK buffer、1mM ATP、1U T4 PNKを混合し、37℃で1時間半反応後、95℃ 10分、75℃ 10分後、37℃まで温度を低下させて、BamHI-SmBiT-TAG-NotIをコードする2本鎖断片を作製した。なお、BamHI-SmBiT-TAG-NotIをコードする2本鎖断片の作製に必要なプライマー5と6(配列番号5と6)は、Promega社の許可を得て作製した。
【0046】
配列番号3:
5’-ATATCTCGAGATGGTCTTCACACTCGAAGATTTC-3’
配列番号4:
5’-ATATGTCGACACTGTTGATGGTTACTCGGAACAG-3’
配列番号5:
5’-GATCCGTGACCGGCTACCGGCTGTTCGAGGAGATTCTGTAGC-3’
配列番号6:
5’-GGCCGCTACAGAATCTCCTCGAACAGCCGGTAGCCGGTCACG-3’
【0047】
製造3:pIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalIおよびpIRES2-BamHI-SmBiT-TAG-NotI vectorの作製
製造2で作製したpCR-Blunt II-TOPO-XhoI-ATG-LgBiT-SalI vectorを、制限酵素XhoI/SalIで処理後、得られたXhoI-ATG-LgBiT-SalI断片を、pIRES2-AcGFP vectorのXhoI/SalIサイトに組み込んだ。
得られたプラスミドDNAを、pIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalIと命名した。
同様にして、製造2で作製したBamHI-SmBiT-TAG-NotIの2本鎖断片を、pIRES2-AcGFP vectorのBamHI/NotIサイトに組み込んだ。
得られたプラスミドDNAを、pIRES2-BamHI-SmBiT-TAG-NotI vectorと命名した。
【0048】
製造4:pIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIおよびpIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotI vectorの作製
製造1で作製した、pCR-Blunt II-TOPO-hVDRを鋳型とし、プライマー7および8(配列番号7および8)を用い、PCRによってXhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHIを増幅した。PCRは、反応1(94℃ 2分後、98℃ 10秒、56℃ 30秒、68℃ 40秒、30サイクル;鋳型DNA10ng、MgSO1.5mM、dNTPs0.2mM、KOD-plus neo-DNA polymerase(TOYOBO)0.2U、10xPCR Buffer for KOD plus neo)、プライマー各0.3μM、最終液量10μLの条件で行った。
PCR産物1μLを電気泳動した結果、目的の位置(約1000bp)に特異的な増幅が認められた。
【0049】
PCR産物は、制限酵素XhoI/BamHIで処理し、電気泳動後に目的のDNA断片をアガロースゲルから抽出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて精製した。
プライマー9と10(配列番号9と10)各10μM、10×PNK buffer、1mM ATP、1U T4 PNKを混合し、37℃で1時間半反応後、95℃ 10分、75℃ 10分後、37℃まで温度を低下させて、SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIをコードする2本鎖断片を作製した。
これらをインサート断片とした。
【0050】
製造3で作製したpIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalIのSalI/NotIサイトに、上述のインサート断片(SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotI)を組み込んだ。
得られたプラスミドDNAを、pIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIと命名した。
同様に、製造3で作製したpIRES2-BamHI-SmBiT-TAG-NotI vectorのXhoI/BamHIサイトに、上述のインサート断片(XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI)を組み込んだ。
得られたプラスミドDNAを、pIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotI vectorと命名した。
【0051】
配列番号7:
5’-ATCTCGAGatgCGGCCCAAGCTGTCTGAGGAGCAGCAG-3’
配列番号8:
5’-AATTGGATCCGGAGATCTCATTGCCAAACACTTCG-3’
配列番号9:
5’-TCGACAACCACCCGATGCTCATGAACCTTCTTAAAGATAATTAAGC-3’
配列番号10:
5’-GGCCGCTTAATTATCTTTAAGAAGGTTCATGAGCATCGGGTGGTTG-3’
【0052】
製造5:大腸菌でバイオセンサータンパク質を発現させるためのベクター作製
プライマー11および12(配列番号11および12)各10μM、10×PNK buffer、1mM ATP、1U T4 PNKを混合し、37℃で1時間半反応後、95℃ 10分、75℃ 10分後、37℃まで温度を低下させて2本鎖断片を作製した。pET-11d(Novagen社)ベクターのNcoI/BamHIサイトに、得られた2本鎖断片を組み込み、得られたプラスミドDNAをpET-11d-N-6×Hisベクターと命名した。
次に、プライマー13および14(配列番号13および14)各10μM、10×PNK buffer、1mM ATP、1U T4 PNKを混合し、37℃で1時間半反応後、95℃ 10分、75℃ 10分後、37℃まで温度を低下させて2本鎖断片を作製した。前述のpET-11d-N-6×HisベクターにNotIサイトを挿入するために、得られた2本鎖断片をpET-11d-N-6×HisベクターのXhoIサイトに組み込み、pET-11d-N-6×His-XhoI/NotIベクターを作製した。
【0053】
配列番号11:
5’-CATGCGCGGAAGCCATCACCATCACCATCACGGATCCCTCGAGAGGCCT-3’
配列番号12:
5’-GATCAGGCCTCTCGAGGGATCCGTGATGGTGATGGTGATGGCTTCCGCG-3’
配列番号13:
5’-TCGAGGAATTCGCGGCCGCGTCGACG-3’
配列番号14:
5’-TCGACGTCGACGCGGCCGCGAATTCC-3’
【0054】
製造6:大腸菌発現ベクターへのクローニング
製造4で作製したpIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIおよびpIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotIを、XhoI/NotIで処理してインサート断片を切り出したものを、実施例5で作製したpET-11d-N-6×His-XhoI/NotIベクターのXhoI/NotIサイトに組み込んだ。
得られたプラスミドDNAをpET-11d-N-6×His-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIおよびpET-11d-N-6×His-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotIと命名した。
【0055】
(プラスミドDNAを用いたタンパク質の発現)
pET11d-N-6×His-XhoI-LBD(VDR 121-427aa)-BamHI-SmBit-tag-NotI及びpET11d-N-6×His-XhoI-ATG-LgBit-SalI-NHPMLMNLLKDNtag-NotIバイオセンサータンパク質の発現
pET11d-N-6×His-XhoI-LBD(VDR 121-427aa)-BamHI-SmBit-tag-NotI及びpET11d-N-6×His-XhoI-ATG-LgBit-SalI-NHPMLMNLLKDNtag-NotIプラスミドDNAを用いて、塩化カルシウム法により大腸菌BL21(DE3)株を形質添加し、アンピシリン100μg/mLを含むLB寒天培地に塗布した。
得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、5mLのLB液体培地(アンピシリン100μg/mL含有)に植菌し、37℃、200rpmで16時間振とう培養を行った。
150μLの大腸菌培養液は、100mLのLB液体培地(アンピシリン100μg/mL含有)に植え継いで37℃でOD600=0.4まで培養し、0.1mM Isopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside(IPTG、ナカライテスク社製)を添加し、15℃、3時間培養することでタンパク質を発現させた。
【0056】
培養後、4℃、5000×g、10分間の条件で遠心分離を行い、菌体を回収した。
菌体は、25mM Tis-HCl(pH7.4)、10mM DTT、プロテアーゼ阻害剤カクテル(ナカライテスク社製)を含む溶液に懸濁後、氷上で20秒間×7回の超音波破砕処理を行った。
その後、4℃、20000×g、30分間の条件で遠心分離を行い、上清を回収してバイオセンサータンパク質溶液とした。
【0057】
・ビタミンD代謝物の測定(ELISA法)
ELISA法を用いて、尿中ビタミンD代謝物を測定した。
なお、ELISA法により尿中ビタミンD濃度を測定するためのキットは市販されていない。そのため、血中ビタミンD濃度測定用である25(OH)VitaminD ELISA Kit(Enzo社;ADI-900-215)を用いて、尿中ビタミンD濃度の測定を行った。
なお、ビタミンD代謝物のひとつである25(OH)D3を基準とした場合、尿中25(OH)D3濃度は、通常数pg/mL~数十pg/mLであるため、当該ELISA Kitの適正感度1.98ng/mLにするためには、尿を100~1000倍に濃縮する必要がある。ELISA法で尿中のビタミンD代謝物濃度を測定することは、大変な作業負荷がかかり、また、濃縮倍率が多いため測定誤差が生じやすい。具体的な測定方法を以下に示す。
【0058】
(尿検体調製)
尿20mLに対して、β-グルクロニダーゼ溶液を等量加えて転倒混和した後に、37℃で2時間保温した。
β-グルクロニダーゼ溶液は、β-グルクロニダーゼ(SIGMA社製)を100mM酢酸バッファー(pH5.0)で1000unit/mLとなるように溶解して作製した。
β-グルクロニダーゼ処理を行った尿に対して2倍量のアセトニトリルを添加し、1分間ボルテックスミキサーを用いて混合後、1500×g、10分、4℃の条件で遠心分離する事で夾雑物を除去し、上澄み液を回収した。
回収検体に超純水を添加し、アセトニトリル濃度が30%となるように調整後、Oasis Prime HLB(Waters社製)を用いて固相抽出を行った。
Oasis Prime HLBは、酢酸エチル2mL、メタノール2mL、超純水2mLの順で平衡化後、検体をロードした。
その後、超純水2mL、60%メタノール2mL、ヘキサン1mLの順で洗浄を行い、酢酸エチル2mLで溶出させ、溶出液を回収した。
溶出液は遠心エバポレーターを用いて乾固させた後に、当該ELISA Kitに添付のサンプル希釈液を200μL添加した。
【0059】
Dissociatin Bufferを、ロバ,抗ヒツジポリクローナル抗体が固相化された96ウェルプレートに対して、1ウェルあたり90μLとなるよう添加した。
キットに添付の標品または、調製した尿検体を、10μL/ウェルとなるよう添加し、室温で5分間インキュベーションした後に、1×25(OH)VitaminD3 Conjugateを50μL添加した。25(OH)VitaminD AntiBodyを、50μL/ウェルとなるよう添加し、室温で60分間インキュベーションした。
1×Wash buffer 4を、325μL/ウェルとなるよう添加し吸引する作業を3回繰り返しおこなった。pNpp Substrateを、200μL/ウェル添加し、室温で30分間インキュベーションした。
Stop Solutionを50μL添加した後に、マイクロプレートリーダー(VERSAmax、モレキュラーデバイス社製)を用いて、405nmの吸光度を測定した。
試料溶液の濃度は、標準溶液から算出した回帰式に吸光度を代入し、算出した。
【0060】
(解析方法)
統計解析は、統計処理ソフトJMP 14(SAS Institute Japan社)及びExcel(Microsoft社)を用いて行い、血清ビタミンD代謝物濃度の推定式を求めた。得られた推定式を表1に示す。
【0061】
【表1】
【実施例1】
【0062】
バイオセンサー法を用いて算出した尿中ビタミンD代謝物の濃度と、CLEIA法により求めた血清ビタミンD代謝物の濃度との間には高い相関関係(推定式1:R2=0.3427、図1)があることを確認できた。また、バイオセンサー法を用いて算出した尿中ビタミンD代謝物の濃度と、バイオセンサー法により求めた血清ビタミンD代謝物の濃度との間にも高い相関関係(R2=0.381)があることを確認できた。
【実施例2】
【0063】
バイオセンサー法を用いて測定した尿中ビタミンD代謝物濃度と尿中カルシウム濃度とを指標として求めた血清ビタミンD代謝物濃度の推定値(推定式2より算出)と、CLEIA法により測定した血清ビタミンD代謝物濃度との間には高い相関関係(r2=0.5411、図2)があることを確認できた。
【実施例3】
【0064】
バイオセンサー法を用いて測定した尿中ビタミンD代謝物濃度と尿中マグネシウム濃度とを指標として求めた血清ビタミンD代謝物濃度の推定値(推定式3より算出)と、CLEIA法により測定した血清ビタミンD代謝物濃度との間には、高い相関関係(r2=0.4237、図3)があることを確認できた。
【実施例4】
【0065】
バイオセンサー法を用いて測定した尿中ビタミンD代謝物濃度と尿中カルシウム濃度と尿中マグネシウム濃度を指標として求めた血清ビタミンD代謝物濃度の推定値(推定式4より算出)と、CLEIA法により測定した血清ビタミンD代謝物濃度との間には、高い相関関係(r2=0.5848、図4)があることを確認できた。
【比較例1】
【0066】
尿中カルシウム濃度と、CLEIA法で測定した血清ビタミンD代謝物濃度との間には相関(推定式5:R2=0.2013、図5)がないことが確認できた。
【比較例2】
【0067】
バイオセンサー法を用いて測定した尿中ビタミンD代謝物濃度と尿比重とを指標として求めた血清ビタミンD代謝物濃度の推定値(推定式6より算出)と、CLEIA法により測定した血清ビタミンD代謝物濃度との間の相関関係は、指標として尿中カルシウム濃度を用いた場合の相関関係(r2=0.5411)よりも低い相関関係(r2=0.3582、図6)であることを確認できた。
【比較例3】
【0068】
バイオセンサー法を用いて測定した尿中ビタミンD代謝物濃度と、尿中尿素窒素濃度とを指標として求めた血清ビタミンD代謝物濃度の推定値(推定式7より算出)と、CLEIA法により測定した血清ビタミンD代謝物濃度との間の相関関係は、指標として尿中カルシウム濃度を用いた場合の相関関係(r2=0.5411)よりも低い相関関係(r2=0.3427、図7)であることを確認できた。
【0069】
(添加回収試験)
尿検体に含まれる成分による干渉の有無を確認するため、添加回収試験を行った。各検体に濃度既知の25(OH)D標準品(フナコシ社製)を添加した。その添加量が測定値に正しく反映されるかを確認した。添加回収率が100%に近い程、正確に測定できることを意味する。
添加回収率(%)=実測値÷理論値×100
理論値:25(OH)Dを添加していない検体濃度と添加した標品既知濃度を足した値
【0070】
試験1(希釈直線性試験:バイオセンサー法)
尿検体は、バイオセンサー法の尿検体調製に従って固相抽出まで実施した後に、測定時の希釈倍率が7.5倍(希釈率0.13)、10倍(希釈率0.1)、12.5倍(希釈率0.08)、15倍(希釈率0.067)となるようにエタノールで希釈し、バイオセンサー法の分析条件に従って測定した。結果を図8に示す。
希釈直線性の結果より、少なくとも7.5倍以上希釈することで、良好な直線性が得られた(R2=0.9937)。
【0071】
試験2(添加回収試験:バイオセンサー法)
尿検体は、バイオセンサー法の尿検体調製に従って固相抽出まで実施した後に、標品の既知濃度が20pM及び200pMとなるように、尿検体に標品を添加した。
尿検体は、測定時の希釈倍率が7.5倍、10倍、12.5倍、15倍となるようにエタノールで希釈し、バイオセンサー法の分析条件に従って測定した。結果を図9に示す。
添加回収試験の結果より、低濃度(20pM)及び高濃度(200pM)の標品を添加した時の回収率は、±15%以内でいずれも良好であった。これらの結果より、バイオセンサー法では、尿検体に含まれる成分による干渉を受けずに高い感度でビタミンD代謝物を測定できることが確認できた。
【0072】
試験3(希釈直線性試験:ELISA法)
尿検体は、ELISA法の尿検体調製に従って固相抽出まで実施した後に、標品の既知濃度が50ng/mLとなるように、尿検体に標品を添加した。
濃縮倍率が100倍~0.781125倍となるように、当該ELISA Kitに添付のサンプル希釈液で希釈した。結果を図10に示す。
希釈直線性の結果より、濃縮倍率が100倍から0.781125倍の範囲では、直線性が得られず(R2=0.8205)、濃縮倍率が50倍から0.781125倍の範囲では、ELISA法の定量下限値未満であった。
これらの結果より、ELISA法では、尿中ビタミンD代謝物を測定するための感度がバイオセンサー法よりも低いため尿の濃縮を行う必要があり、濃縮を行うと尿検体に含まれる成分による干渉を強く受けてしまい、尿中ビタミンD代謝物の濃度を測定することができないことを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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