(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】医療用針
(51)【国際特許分類】
A61M 5/158 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
A61M5/158 500Z
(21)【出願番号】P 2019040645
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2022-03-04
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉井 裕介
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-257131(JP,A)
【文献】米国特許第05779679(US,A)
【文献】国際公開第2017/214415(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に針先を有する針部と、
先端から前記針部を露出可能で、かつ、前記針部を収容可能に構成されたケースと、
前記ケースから前記針先が所定の長さ突出する第1位置から、前記ケース内に前記針先が収容される第2位置まで、前記ケース内で前記針部を移動させる弾性部材を有する移動機構と、
前記移動機構に前記ケースの内面に対向するように設けられた湾曲部と、を備え、
前記移動機構は、
操作部と、前記操作部を前記針部に固定する固定部と、を有し、
前記ケースは、
前記針部が前記第1位置に位置している状態で、前記操作部を係合させる第1係合部と、前記針部が前記第2位置に位置している状態で、前記操作部を係合させる第2係合部と、を有し、
前記第2係合部は、前記ケースの内面に設けられ、
前記操作部は、
前記ケースの長手方向に沿って延び
る操作端を有し、当該操作
端の延在方向の一方端に前記第1係合部及び前記第2係合部と係合可能な凸部が設けられ、前記延在方向の他方端には、前記湾曲部が
前記他方端から前記ケースの長手方向に突出し、且つ、前記凸部の突出方向とは反対側に垂れ下がるように湾曲して配置され、
前記湾曲部
が前記ケースと接触して前記湾曲部に対して所定以上の力がかか
り、前記湾曲部がさらに湾曲
すると、
前記他方端が支点となって、前記凸部が前記ケースの内面に向けて変位
する、
医療用針。
【請求項2】
前記移動機構は、
前記凸部と前記第1係合部との係合を解除すると、前記弾性部材によって前記針部が前記第1位置から前記第2位置へと移動し、前記凸部が前記第2係合部と係合するように構成されている、
請求項1に記載の医療用針。
【請求項3】
前記操作部は
、前記固定部に接続された接続部
をさらに有し、
前記操作端は、前記ケースの長手方向に沿って
、前記接続部に固定されない前記一方端から前記接続部に接続される前記他方端へ延びるような板状であ
る、
請求項1に記載の医療用針。
【請求項4】
先端に針先を有する針部と、
先端から前記針部を露出可能で、かつ、前記針部を収容可能に構成されたケースと、
前記ケースから前記針先が所定の長さ突出する第1位置から、前記ケース内に前記針先が収容される第2位置まで、前記ケース内で前記針部を移動させる弾性部材を有する移動機構と、
前記移動機構に前記ケースの内面に対向するように設けられた湾曲部と、を備え、
前記移動機構は、
操作部と、前記操作部を前記針部に固定する固定部と、を有し、
前記ケースは、
前記針部が前記第1位置に位置している状態で、前記操作部を係合させる第1係合部と、前記針部が前記第2位置に位置している状態で、前記操作部を係合させる第2係合部と、を有し、
前記第2係合部は、前記ケースの内面に設けられ、
前記操作部は、
前記ケースの長手方向に沿って延び、当該操作部の延在方向の一方端に前記第1係合部及び前記第2係合部と係合可能な凸部が設けられ、前記延在方向の他方端には、前記湾曲部が上方位置から垂れ下がるように湾曲して配置され、
前記湾曲部は、当該湾曲部に対して所定以上の力がかかると、さらに湾曲可能であり、
前記湾曲部が前記ケースと接触することにより、前記凸部が前記ケースの内面に向けて変位可能に構成されており、
前記ケースにおける、前記湾曲部と対向する位置の内面形状は曲面となっており、前記針部が前記第2位置に存在するときに、前記湾曲部と面接触するように構成される、
医療用針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用針に関する。
【背景技術】
【0002】
採血、輸血、輸液等に用いられる医療用針として、従来、筒状ケースの内部にバネ部材が配設された医療用針が知られている(例えば、特許文献1参照。)。従来の医療用針によれば、ケースから露出させた状態の針先を、バネ部材の作用によってケース内に収容することができるため、医療用針を使用する者(医療従事者及び患者本人を含む。以下、使用者という。)が誤って使用後の医療用針を自分に刺してしまう事故(いわゆる誤刺)の発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の医療用針においては、針先をケース内に確実に収容するために、バネ部材として比較的強い反発力を有するバネを用いる場合がある。その場合、針先をケース内に確実に収容することが可能となる一方、ケース内に収容した針又は針の接続部分が勢いよくケース内面と接触することにともなって、比較的強い衝撃や衝突音が発生してしまい、使用者に不快感を与えることが懸念される。
【0005】
そこで、本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、針先をケース内に確実に収容しつつ、使用者の不快感を軽減した医療用針を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の医療用針は、先端に針先を有する針部と、先端から前記針部を露出可能で、かつ、前記針部を収容可能に構成されたケースと、前記ケースから前記針先が所定の長さ突出する第1位置から、前記ケース内に前記針先が収容される第2位置まで、前記ケース内で前記針部を移動させる弾性部材を有する移動機構と、前記移動機構に前記ケースの内面に対向するように設けられた湾曲部と、を備え、前記移動機構は、操作部と、前記操作部を前記針部に固定する固定部と、を有し、前記ケースは、前記針部が前記第1位置に位置している状態で、前記操作部を係合させる第1係合部と、前記針部が前記第2位置に位置している状態で、前記操作部を係合させる第2係合部と、を有し、前記第2係合部は、前記ケースの内面に設けられ、前記操作部は、前記ケースの長手方向に沿って延びる操作端を有し、当該操作端の延在方向の一方端に前記第1係合部及び前記第2係合部と係合可能な凸部が設けられ、前記延在方向の他方端には、前記湾曲部が前記他方端から前記ケースの長手方向に突出し、且つ、前記凸部の突出方向とは反対側に垂れ下がるように湾曲して配置され、前記湾曲部が前記ケースと接触して前記湾曲部に対して所定以上の力がかかり、前記湾曲部がさらに湾曲すると、前記他方端が支点となって、前記凸部が前記ケースの内面に向けて変位することを特徴としている。
本発明の医療用針は、先端に針先を有する針部と、先端から前記針部を露出可能で、かつ、前記針部を収容可能に構成されたケースと、前記ケースから前記針先が所定の長さ突出する第1位置から、前記ケース内に前記針先が収容される第2位置まで、前記ケース内で前記針部を移動させる弾性部材を有する移動機構と、前記移動機構に前記ケースの内面に対向するように設けられた湾曲部と、を備え、前記移動機構は、操作部と、前記操作部を前記針部に固定する固定部と、を有し、前記ケースは、前記針部が前記第1位置に位置している状態で、前記操作部を係合させる第1係合部と、前記針部が前記第2位置に位置している状態で、前記操作部を係合させる第2係合部と、を有し、前記第2係合部は、前記ケースの内面に設けられ、前記操作部は、前記ケースの長手方向に沿って延び、当該操作部の延在方向の一方端に前記第1係合部及び前記第2係合部と係合可能な凸部が設けられ、前記延在方向の他方端には、前記湾曲部が上方位置から垂れ下がるように湾曲して配置され、前記湾曲部は、当該湾曲部に対して所定以上の力がかかると、さらに湾曲可能であり、前記湾曲部が前記ケースと接触することにより、前記凸部が前記ケースの内面に向けて変位可能に構成されており、前記ケースにおける、前記湾曲部と対向する位置の内面形状は曲面となっており、前記針部が前記第2位置に存在するときに、前記湾曲部と面接触するように構成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医療用針によれば、上記の湾曲部を備えているため、弾性部材として比較的強い反発力を有するバネを用いたとしても、ケースと移動機構又は針部との接触による衝撃を緩和することができ、衝突音の発生を抑制することが可能となる。
また、本発明の他の医療用針によれば、上記の他の弾性部材を備えているため、弾性部材として比較的強い反発力を有するバネを用いたとしても、ケースと移動機構又は針部との接触による衝撃を緩和することができ、衝突音の発生を抑制することが可能となる。
すなわち、本発明の医療用針及び本発明の他の医療用針は、針先をケース内に確実に収容しつつ、使用者の不快感を軽減した医療用針となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図2は、キャップ20を取り外した状態の、医療用針1の全体斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す医療用針1のA-A線断面図である。
【
図5】
図5は、針部10をケース30に収容した状態の、医療用針1の全体斜視図である。
【
図7】
図7は、
図6に示す医療用針1のB-B線断面図である。
【
図9】
図9A~
図9Cは、操作部70及び湾曲部90を説明するために示す図である。
図9Aは、操作部70及び湾曲部90の斜視図であり、
図9Bは、操作部70及び湾曲部90の左側面図(
図9Aに示すX方向から見た図)であり、
図9Cは、
図9Bに示す操作部70及び湾曲部90のE-E線断面図である。
【
図11】
図11A、
図11Bは、針部10と移動機構50との接続構造を説明するために示す図である。
図11Aは、針部10に装着された移動機構50の斜視図であり、
図11Bは、針部10が第1位置に存在するときの、移動機構50の周辺部分の内部構造を示す図である。
【
図12】
図12A、
図12Bは、変形例に係る医療用針1Aを説明するために示す図である。
図12Aは、針部10が第1位置にあるときの、医療用針1Aの内部構造を示す断面図であり、
図12Bは、針部10が第2位置にあるときの、医療用針1Aの内部構造を示す断面図である。
【
図13】
図13A、
図13Bは、他の実施形態に係る医療用針1Bを説明するために示す図である。
図13Aは、キャップ20Bを嵌めた状態の、医療用針1Bの断面図であり、
図13Bは、キャップ20Bを取り外した状態の、医療用針1Bの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の医療用針について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
【0015】
[実施形態]
まず、実施形態に係る医療用針1の全体構成と各部材の構成について、
図1~
図11を用いて説明する。
【0016】
なお、以下の説明において、
図2~
図4に示すように、ケース30から針先14が所定の長さ突出する位置を「第1位置」といい、
図5~
図7に示すように、ケース30内に針先14が収容される位置を「第2位置」という。
また、
図3に示す医療用針1において、針先14側を「先端側」といい、カバー部34側を「基端側」という。
【0017】
実施形態に係る医療用針1は、
図1~
図4に示すように、針部10と、針部10を覆うキャップ20と、針部10を収容可能に構成されたケース30と、ケース30の先端部に設けられた翼部40と、針部10をケース30の内部に収容するための移動機構50と、移動機構50の一部に設けられた湾曲部90とを備えている。
医療用針1は、例えば、採血、輸血、輸液等に際し、患者の皮膚に穿刺した状態で固定して使用される翼付針である。
【0018】
針部10は、中空の円管からなる針管12と、針管12の先端に位置する針先14とを有する。針部10は、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金等の金属材料で構成されている。針管12の基端部(針先とは反対側の端部)は、図示しないチューブと接続されている。
【0019】
使用前の医療用針1には、
図1に示すように、キャップ20が装着されている。キャップ20は、針部10を覆った状態でケース30の先端部に嵌合可能で、かつ、ケース30の先端部から取り外し可能に構成されている。
【0020】
ケース30は、
図2~
図7に示すように、両端が開口した筒状のベース部32と、ベース部32の基端側の開口に嵌合可能に構成されたカバー部34とを有する。
【0021】
ベース部32の先端には、
図5に示すように、例えば円形の開口33が設けられている。開口33の開口径は、針管12の外径よりも若干大きく設定されており、開口33を通じて針部10を露出可能に構成されている。また、
図4に示すように、ベース部32の内部には、針部10を収容するためのスペースとなる空間が、ベース部32の長手方向に沿って形成されており、ベース部32内に針部10を収容可能に構成されている(
図7参照)。
【0022】
ベース部32の先端側の外面には、
図8A~
図8Cに示すように、針部10が第1位置に存在するときに、後述する操作部70の凸部76と係合する第1係合部36が設けられている。第1係合部36は、例えば、ベース部32の内部空間と連通する角孔である。また、ベース部32の基端側(先端部とは反対側)の内面には、針部10が第2位置に存在するときに、操作部70の凸部76と係合する第2係合部38が設けられている。第2係合部38は、例えば、ベース部32の内面に設けられた段差であり、ベース部32の先端側から基端側に向けて、ベース部32の内面位置が高くなるように設定された段差である。
【0023】
カバー部34には、針部10に接続されたチューブ(図示せず。)を通すための開口35が設けられている(
図4参照)。
【0024】
翼部40は、
図2に示すように、ベース部32の先端部における両側面にそれぞれ接続配置された一対の翼部材であって、把持部42と、把持部42の厚みよりも薄く形成された薄肉部44とを有する。把持部42は、ベース部32と薄肉部44との接続部分を軸として所定角度回動可能に構成されている。
【0025】
移動機構50は、
図4及び
図7に示すように、ベース部32の内部空間に配置されるバネ60と、操作部70と、操作部70を針部10に固定する固定部80とを有する。
【0026】
弾性部材としてのバネ60は、例えば金属製のコイルバネであって、ベース部32の内部空間に圧縮された状態で配置されている。バネ60の先端側の端縁は、ベース部32の先端側の内面に当接しており、バネ60の基端側の端縁は、操作部70の先端側の面と当接している(
図11(b)参照)。
【0027】
操作部70は、
図9A~
図9Cに示すように、例えば円管状の連結部72と、連結部72の上方に配置された操作端74とを有する。連結部72の内面のうち先端側の内面は、連結部72における他の部分に比べて小径化されている。また、当該小径化された部分の内面下方位置には、長手方向に沿った溝73が設けられている。
【0028】
操作端74は、連結部72の上方位置において、略U字状(略くの字状)の部材が横になるように配置された部材である。操作端74の上方部分は、例えばレバー状(棒状)に形成されている。操作端74の下方部分は、連結部72に接続固定されているが、操作端74の上方部分の先端側は、固定されておらず自由端となっている。操作端74の上方部分の先端には、第1係合部36及び第2係合部38と係合可能な凸部76が設けられている。凸部76の平面形状は、第1係合部36の開口形状と対応しており、例えば略四角形である。操作端74の上方部分は、例えば、上方から力が加わると下方に撓むような弾性を有し、かつ、上方から力が加わらないときには、第1係合部36との係合状態を維持するよう、その姿勢が保たれている(上向きに付勢されている)。
【0029】
固定部80は、
図10A~
図10Cに示すように、例えば円管状の部材であり、針部10を挿通可能に構成されている。固定部80の長手方向に沿った中央部には、鍔部82が2つ並設されている。2つの鍔部82の配置間隔(長手方向に沿った距離)は、連結部72の小径化された部分の長さ(長手方向に沿った長さ)と同等となるように設定されている。鍔部82の外径は、連結部72の小径化された部分の内径よりも、若干大きくなるように設定されている。固定部80の管外径は、連結部72に挿入可能な寸法に設定されている。また、固定部80の外面の下方には、連結部72の溝73に対応する突起83が設けられており、溝73と嵌合可能に構成されている。
【0030】
湾曲部90は、
図9A及び
図9Cに示すように、操作端74における上方部分の基端側(凸部76の位置とは反対側)に接続されている。湾曲部90は、例えばバナナ状(ノ字状)に、操作端74の上方位置から垂れ下がるように湾曲しており、湾曲部90に対して所定以上の力がかかると、さらに湾曲する(撓むように曲がる)ように構成されている。
【0031】
また、カバー部34における、湾曲部90と対向する位置の内面形状は、
図4に示すように曲面となっており、針部10が第2位置に存在するときに、湾曲部90とフィットする(適合する)ようになっている(
図7参照)。
【0032】
キャップ20、ベース部32、カバー部34、翼部40、操作部70、固定部80及び湾曲部90は、プラスチック材料(例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレンなど。)からなる。ベース部32と翼部40、及び操作部70と湾曲部90は、射出成形することによってそれぞれ一体成形されている。カバー部34は、ベース部32とは別体として成形された後、ベース部32の基端側の開口に嵌合固定されている。
【0033】
ここで、針部10と移動機構50との接続構造について、
図11A及び
図11Bを用いて説明する。
【0034】
まず、
図11A及び
図11Bに示すように、針部10と固定部80とが、固定部80に針部10を通した状態で例えば接着剤を用いて接続固定されている。また、固定部80には、操作部70の連結部72が挿通固定されている。このとき、固定部80に設けられた2つの鍔部82の間に、連結部72の小径化された部分が位置するように配置されているとともに、連結部72の溝部73に対して固定部80の突起83を嵌合させている。これにより、連結部72と固定部80とを、長手方向及び回転方向の位置を合わせた状態で位置固定することができる。また、バネ60は、固定部80の外周面に配置されているが、針部10及び固定部80とは接触せず、操作部70と接触するように配置されている。バネ60は、例えば操作部70の先端側の面に接着して固定してもよいし、接着等しないで装填してもよい。
【0035】
次に、医療用針1の使用方法について説明する。
医療用針1を使用する際には、まず、
図1に示すように、キャップ20が装着された状態の医療用針1から、キャップ20を取り外し、針先14を露出させる(
図2参照)。
そして、翼部40の把持部42を把持した状態で、患者の皮膚に針先14を穿刺する。穿刺後は、必要に応じて、把持部42を広げて把持部42の上からテープ止めを行う。
【0036】
患者の皮膚から針先14を抜く際は、操作部70の凸部76を押下して、操作部70(凸部76)と第1係合部36との係合を解除する。係合が解除された操作部70は、バネ60の作用によって針部10とともに第1位置から第2位置へと移動し、患者の皮膚から針先14が引き抜かれる。このとき、湾曲部90の作用によって、湾曲部90とカバー部34との接触による衝撃が緩和され、衝突音の発生も抑制される。また、操作部70の凸部76が第2係合部38と係合することによって、操作部70における先端側への移動が規制される一方、湾曲部90がカバー部34と接触することによって、操作部70における基端側への移動が規制されることから、操作部70ひいては針部10を、第2位置に確実に固定することが可能となる。
なお、患者の皮膚から針先14を抜くにあたって、先に患者の皮膚から針先14を抜いた後で、操作部70の凸部76を押下して、針部10をケース30内に収容してもよい。
【0037】
以上のように構成された実施形態に係る医療用針1においては、針部10が第2位置へと移動したときの、ケース30と移動機構50との接触による衝撃を和らげる緩衝機構(湾曲部90)を備えているため、弾性部材(バネ60)として比較的強い反発力を有するバネを用いたとしても、ケース30と移動機構50との接触による衝撃を緩和することができ、衝突音の発生を抑制することが可能となる。
すなわち、実施形態に係る医療用針1は、針先14をケース30内に確実に収容しつつ、使用者の不快感を軽減した医療用針となる。
【0038】
実施形態に係る医療用針1においては、上述した湾曲部90を用いているため、上述の優れた医療用針を、比較的簡易な構成で実現することができる。
【0039】
実施形態に係る医療用針1においては、
図7に示すように、湾曲部90がカバー部34と接触して湾曲すると、湾曲部90と操作端74との接続部分(
図9Aに示す符号Pの部分)が支点となって、湾曲部90とは反対側に位置する凸部76が、上方に向けて変位してベース部32の内面により近付く(第2係合部38にさらに食い込む)こととなる。すなわち、凸部76と第2係合部38とがより強固に係合し合うことから、操作部70ひいては針部10を、より確実に第2位置に固定することが可能となる。
【0040】
実施形態に係る医療用針1においては、使用者が直接手で触れることができないベース部32の内面に、第2係合部38が設けられているため、誤刺が発生するリスクをさらに低減することが可能となる。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0042】
上記実施形態においては、湾曲部90が、操作部70の基端側に配置されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、
図12A及び
図12Bに示すように、湾曲部90Aが、ケース30Aにおけるカバー部34Aの内面であって、操作部70と対向する位置に設けられていてもよいし、図示による説明は省略するが、針部における基端側の位置に設けられていてもよい。また、移動機構とケースの双方の対向部に、湾曲部が設けられていてもよい。
【0043】
上記実施形態においては、湾曲部90の形状が、バナナ状(ノ字状)に湾曲したものを例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。湾曲部として、例えば山状、谷状、波状等、バナナ状以外の形状に屈曲する部材を用いてもよいし、蛇腹上に折り畳まれる部材を用いてもよい。また、湾曲部に代えて、例えば、コイルバネや板バネ等のバネ、ゴム、スポンジ、クッション材等の弾性部材(他の弾性部材)を用いてもよい。
【0044】
上記実施形態においては、針部10が金属材料で構成されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば樹脂材料からなる針等、金属材料以外の材料からなる針を用いてもよい。
【0045】
上記実施形態においては、ケース30におけるベース部32とカバー部34とが、別体として成形されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ベース部とカバー部が一体として成形されていてもよい。
【0046】
上記実施形態においては、第1係合部36が、ベース部32の内部空間と連通する角孔である場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。操作部と係合可能であれば、他の形状を採用してもよい。第2係合部38についても同様に、操作部と係合可能であれば、段差以外の形状を採用してもよい。
【0047】
上記実施形態においては、操作部70の操作端74が、略U字状(略くの字状)の部材である場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばI字状(棒状)等、他の形状を採用してもよい。操作端74の上方部分についても同様に、レバー状(棒状)以外の形状を採用してもよい。
【0048】
上記実施形態においては、移動機構50のバネ60(弾性部材)としてコイルバネを用いるとともに、当該コイルバネが操作部70の先端側に配置されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、引きバネが操作部の基端側に配置されていてもよい。また、バネに代えて、ゴム等を用いてもよい。
【0049】
上記実施形態においては、患者の皮膚に穿刺した状態で固定して使用される翼付針を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、持続的な点滴静注を行う際に用いられる留置針等にも、本発明を適用可能である。
【0050】
上記実施形態においては、使用者が誤って凸部76を押下しないために、キャップ20を装着した際、キャップ20によって凸部76が覆われるように構成されていたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、
図13A及び
図13Bに示すように、キャップ20Bの開口端に棒状の差込部22Bが設けられており、ケース30Bの差込口39を介して、凸部76の下に形成される空間77に差込部22Bを挿入できるように構成されていてもよい。
図13Aに示すように、空間77に差込部22Bを挿入した状態では、凸部76の下方向への移動が規制されるため、使用者が誤って凸部76を押下したとしても凸部76と第1係合部36との係合は解除されず、操作部70が第1位置から第2位置へと移動することはない。一方、針部10をケース30B内に収容したいときには、
図13Bに示すように、空間77から差込部22Bを抜き取ることにより、凸部76の下方向への移動規制が解除され、上述した医療用針1と同様の方法で使用することができる。なお、差込部22Bの形状は、棒状に限定されず、例えば板状であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1,1A,1B 医療用針
10 針部
20,20B キャップ
30,30A,30B ケース
36 第1係合部
38 第2係合部
40 翼部
50 移動機構
60 バネ
70 操作部
80 固定部
90,90A 湾曲部