(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】歯車加工方法
(51)【国際特許分類】
B23F 5/16 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
B23F5/16
(21)【出願番号】P 2019125503
(22)【出願日】2019-07-04
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 琳
(72)【発明者】
【氏名】小林 恒
(72)【発明者】
【氏名】大谷 尚
(72)【発明者】
【氏名】中野 浩之
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-134690(JP,A)
【文献】特表2014-516807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 1/00-23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物に、第一歯切り工具を用いて第一歯車の歯をスカイビング加工により加工する共に、第二歯切り工具を用いて前記工作物の軸方向に前記第一歯車から距離を隔てて配列された第二歯車の歯をスカイビング加工により加工する歯車加工方法であって、
前記第一歯切り工具又は前記第二歯切り工具の中心軸線と前記工作物の中心軸線とを平行な状態にし、前記第一歯切り工具又は前記第二歯切り工具の中心軸線と前記工作物の中心軸線とを含む第一平面を定義し、
前記第一平面に対し垂直であって前記第一歯切り工具又は前記第二歯切り工具の中心軸線を含む第二平面を定義し、
前記第二平面に対し垂直であって第一角度(交差角)が設定された前記第一歯切り工具又は前記第二歯切り工具の中心軸線を含む第三平面を定義し、
前記第一歯切り工具は、外周に複数の切れ刃を有する第一工具刃部と、前記第一工具刃部から工具軸方向に延びる第一工具軸部と、を有し、前記第一工具刃部の切れ刃のすくい面が前記第一工具軸部とは反対側に位置し、
前記第二歯切り工具は、外周に複数の切れ刃を有する第二工具刃部と、前記第二工具刃部から工具軸方向に延びる第二工具軸部と、を有し、前記第二工具刃部の切れ刃のすくい面が前記第二工具軸部側に位置し、
前記歯車加工方法は、
前記第一歯切り工具を用いて、前記第一歯車を、前記第二歯車側に向かって加工するための第一加工工程と、
前記第二歯切り工具を用いて、前記第二歯車を、前記第一歯車側に向かって加工するための第二加工工程と、を備え、
前記第一加工工程は、
前記第二平面において前記第一歯切り工具の中心軸線を前記工作物の中心軸線に対し前記第一角度を有する状態に設定する第一歯車第一角度設定工程と、
前記工具軸方向のうち前記第一歯切り工具の前記切れ刃のすくい面が向く方向において、前記第一工具刃部の周方向のうち加工点に位置する前記切れ刃よりも、前記加工点から最も遠い位置に位置する前記切れ刃が後方に位置するように、前記第三平面において前記第一歯切り工具の中心軸線を前記工作物の中心軸線に対し第二角度(傾斜角)を有する状態に設定する第一歯車第二角度設定工程と、
前記工作物の中心軸線回りへの前記工作物の回転と前記第一歯切り工具の中心軸線回りへの前記第一歯切り工具の回転とを同期させる第一歯車同期回転工程と、
前記第一歯切り工具を、前記工作物に対して、前記工作物の中心軸線方向のうち前記第一歯切り工具の先端側に位置する前記切れ刃のすくい面が向く方向に相対移動させて、前記第一歯車のうち前記第二歯車とは反対側から前記第二歯車側に向かって前記工作物に前記第一歯車の歯を加工する第一歯車加工工程と、を備え、
前記第二加工工程は、
前記第二平面において前記第二歯切り工具の中心軸線を前記工作物の中心軸線に対し前記第一角度を有する状態に設定する第二歯車第一角度設定工程と、
前記工具軸方向のうち前記第二歯切り工具の前記切れ刃のすくい面が向く方向において、前記第二工具刃部の周方向のうち加工点に位置する前記切れ刃よりも、前記加工点から最も遠い位置に位置する前記切れ刃が後方に位置するように、前記第三平面において前記第二歯切り工具の中心軸線を前記工作物の中心軸線に対し第二角度(傾斜角)を有する状態に設定する第二歯車第二角度設定工程と、
前記工作物の中心軸線回りへの前記工作物の回転と前記第二歯切り工具の中心軸線回りへの前記第二歯切り工具の回転とを同期させる第二歯車同期回転工程と、
前記第二歯切り工具を、前記工作物に対して、前記工作物の中心軸線方向のうち前記第二歯切り工具の基端側に位置する前記切れ刃のすくい面が向く方向に相対移動させて、前記第二歯車のうち前記第一歯車とは反対側から前記第一歯車側に向かって前記工作物に前記第二歯車の歯を加工する第二歯車加工工程と、を備える、歯車加工方法。
【請求項2】
前記工作物は、前記第一歯車と前記第二歯車とが同軸で一体として形成されており、ねじれ角が中心軸に平行な線に対して対称となるダブルヘリカルギヤである、請求項1に記載の歯車加工方法。
【請求項3】
前記第一歯切り工具の前記第一工具刃部は、すくい面となる先端側が大径に形成され、すくい面とは反対側の基端側が小径に形成され、
前記第二歯切り工具の前記第二工具刃部は、すくい面となる基端側が大径に形成され、すくい面とは反対側の先端側が小径に形成される、請求項1又は2に記載の歯車加工方法。
【請求項4】
前記第一歯車及び前記第二歯車の歯形は、インボリュート曲線形状であり、
前記第一歯切り工具及び前記第二歯切り工具の刃形は、非インボリュート曲線形状である、請求項1~3のいずれか1項に記載の歯車加工方法。
【請求項5】
前記第一歯車加工工程は、前記第一歯車の歯底を基準に前記第一歯切り工具と前記工作物を相対移動させながら、前記第一歯切り工具の軸方向に前記第一歯切り工具と前記工作物を相対移動させ、
前記第二歯車加工工程は、前記第二歯車の歯底を基準に前記第二歯切り工具と前記工作物を相対移動させながら、前記第二歯切り工具の軸方向に前記第二歯切り工具と前記工作物を相対移動させる、請求項1~4のいずれか1項に記載の歯車加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コストの面から高速加工可能な歯車加工が望まれており、特許文献1に記載のようなスカイビング加工が知られている。スカイビング加工とは、歯切り工具の中心軸線と工作物の中心軸線とを歯車加工における交差角を有する状態とする。そして、歯切り工具及び工作物をそれぞれの中心軸線周りに同期回転させながら、歯切り工具を工作物の中心軸線方向に相対移動する加工である。スカイビング加工においては、工作物が1回転する間に、工作物の各歯溝の部分が、歯切り工具によって1回だけ加工される。
【0003】
このスカイビング加工では、予め設定された送り方向の終端位置まで歯切り工具を直進させて、工作物の所定の軸方向位置まで歯車を形成する。このとき、歯切り工具が工作物に対して交差角を有する状態にあるため、歯切り工具の切れ刃の先端が工作物において歯車を形成された軸方向位置から送り方向に突出することになる。そのため、工作物の形状によっては、突出した歯切り工具の切れ刃の先端部と工作物が干渉するおそれがある。
【0004】
特許文献2には、工作物の端面に歯切り工具の切れ刃の先端が収容される環状溝を予め形成したスカイビング加工方法が記載されている。これにより、歯切り工具の切れ刃の先端は、工作物において歯車を形成された軸方向位置から送り方向に突出しても、環状溝内に収容されるので、突出した歯切り工具の切れ刃の先端部と工作物との干渉を防止できる。
【0005】
しかし、このスカイビング加工方法は、工作物の端面に環状溝を形成できない場合に対応できないという問題がある。特許文献3には、交差角を変更するスカイビング加工方法が記載されている。このスカイビング加工方法によれば、歯切り工具の切れ刃の先端部と工作物との干渉の防止が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-171020号公報
【文献】特開2015-89600号公報
【文献】特開2018-79558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の特許文献3に記載のスカイビング加工による歯車加工方法において、歯切り工具の切れ刃の先端部と工作物との干渉を防止するには、交差角が小さくなる傾向にあり、歯車の諸元によっては加工できないという問題がある。さらに、歯切り工具の切れ刃の先端部と工作物との干渉を防止するには、歯切り工具が小径になる傾向にあり、工具寿命が短くなり、加工精度が悪化するという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、歯切り工具の切れ刃の先端部と工作物との干渉を防止して歯車を加工できる歯車加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様は、工作物に、第一歯切り工具を用いて第一歯車の歯をスカイビング加工により加工する共に、第二歯切り工具を用いて前記工作物の軸方向に前記第一歯車から距離を隔てて配列された第二歯車の歯をスカイビング加工により加工する歯車加工方法であって、
前記第一歯切り工具又は前記第二歯切り工具の中心軸線と前記工作物の中心軸線とを平行な状態にし、前記第一歯切り工具又は前記第二歯切り工具の中心軸線と前記工作物の中心軸線とを含む第一平面を定義し、
前記第一平面に対し垂直であって前記第一歯切り工具又は前記第二歯切り工具の中心軸線を含む第二平面を定義し、
前記第二平面に対し垂直であって第一角度(交差角)が設定された前記第一歯切り工具又は前記第二歯切り工具の中心軸線を含む第三平面を定義し、
前記第一歯切り工具は、外周に複数の切れ刃を有する第一工具刃部と、前記第一工具刃部から工具軸方向に延びる第一工具軸部と、を有し、前記第一工具刃部の切れ刃のすくい面が前記第一工具軸部とは反対側に位置し、
前記第二歯切り工具は、外周に複数の切れ刃を有する第二工具刃部と、前記第二工具刃部から工具軸方向に延びる第二工具軸部と、を有し、前記第二工具刃部の切れ刃のすくい面が前記第二工具軸部側に位置し、
前記歯車加工方法は、
前記第一歯切り工具を用いて、前記第一歯車を、前記第二歯車側に向かって加工するための第一加工工程と、
前記第二歯切り工具を用いて、前記第二歯車を、前記第一歯車側に向かって加工するための第二加工工程と、を備え、
前記第一加工工程は、
前記第二平面において前記第一歯切り工具の中心軸線を前記工作物の中心軸線に対し前記第一角度を有する状態に設定する第一歯車第一角度設定工程と、
前記工具軸方向のうち前記第一歯切り工具の前記切れ刃のすくい面が向く方向において、前記第一工具刃部の周方向のうち加工点に位置する前記切れ刃よりも、前記加工点から最も遠い位置に位置する前記切れ刃が後方に位置するように、前記第三平面において前記第一歯切り工具の中心軸線を前記工作物の中心軸線に対し第二角度(傾斜角)を有する状態に設定する第一歯車第二角度設定工程と、
前記工作物の中心軸線回りへの前記工作物の回転と前記第一歯切り工具の中心軸線回りへの前記第一歯切り工具の回転とを同期させる第一歯車同期回転工程と、
前記第一歯切り工具を、前記工作物に対して、前記工作物の中心軸線方向のうち前記第一歯切り工具の先端側に位置する前記切れ刃のすくい面が向く方向に相対移動させて、前記第一歯車のうち前記第二歯車とは反対側から前記第二歯車側に向かって前記工作物に前記第一歯車の歯を加工する第一歯車加工工程と、を備え、
前記第二加工工程は、
前記第二平面において前記第二歯切り工具の中心軸線を前記工作物の中心軸線に対し前記第一角度を有する状態に設定する第二歯車第一角度設定工程と、
前記工具軸方向のうち前記第二歯切り工具の前記切れ刃のすくい面が向く方向において、前記第二工具刃部の周方向のうち加工点に位置する前記切れ刃よりも、前記加工点から最も遠い位置に位置する前記切れ刃が後方に位置するように、前記第三平面において前記第二歯切り工具の中心軸線を前記工作物の中心軸線に対し第二角度(傾斜角)を有する状態に設定する第二歯車第二角度設定工程と、
前記工作物の中心軸線回りへの前記工作物の回転と前記第二歯切り工具の中心軸線回りへの前記第二歯切り工具の回転とを同期させる第二歯車同期回転工程と、
前記第二歯切り工具を、前記工作物に対して、前記工作物の中心軸線方向のうち前記第二歯切り工具の基端側に位置する前記切れ刃のすくい面が向く方向に相対移動させて、前記第二歯車のうち前記第一歯車とは反対側から前記第一歯車側に向かって前記工作物に前記第二歯車の歯を加工する第二歯車加工工程と、を備える、歯車加工方法にある。
【0011】
本発明に係る歯車加工方法によれば、歯切り工具の中心軸線を工作物の中心軸線に対し傾斜させているので、歯切り工具の切れ刃の先端が工作物において歯車を形成された軸方向位置から送り方向に突出する量を小さく設定できる。このため、歯切り工具を小径化しなくても、歯切り工具の切れ刃の先端部と工作物との干渉を防止して歯車を加工できる。よって、工具寿命を向上でき、高精度な加工を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図1の歯車加工装置で加工する第一歯車及び第二歯車を有するダブルヘリカルギヤを示す図である。
【
図3A】
図2のダブルヘリカルギヤの第一歯車を加工する第一歯切り工具の斜視図である。
【
図3B】
図2のダブルヘリカルギヤの第二歯車を加工する第二歯切り工具の斜視図である。
【
図3C】
図3A(
図3B)の第一歯切り工具(第二歯切り工具)を中心軸線に直角な方向から見た部分断面図である。
【
図4A】第一歯切り工具で工作物を加工するときに必要な交差角を付ける前の配置状態を工作物の径方向に見た図である。
【
図5A】第一歯切り工具で工作物を加工するときに必要な交差角を付けた後の配置状態を工作物の径方向に見た図である。
【
図6A】第一歯切り工具で工作物を加工するときに必要な交差角及び傾斜角を付けた後の配置状態を、交差角の判別が可能な工作物の径方向に見た図である。
【
図6B】第一歯切り工具で工作物を加工するときに必要な交差角及び傾斜角を付けた後の配置状態を、傾斜角の判別が可能な工作物の径方向に見た図である。
【
図7A】第二歯切り工具で工作物を加工するときに必要な交差角及び傾斜角を付けた後の配置状態を、交差角の判別が可能な工作物の径方向に見た図である。
【
図7B】第二歯切り工具で工作物を加工するときに必要な交差角及び傾斜角を付けた後の配置状態を、傾斜角の判別が可能な工作物の径方向に見た図である。
【
図8A】第一歯切り工具の工具刃に逃げ角がない場合、第一歯切り工具で工作物を加工するときに必要なオフセット角、交差角及び傾斜角を付けた後の配置状態を工作物の径方向に見た図である。
【
図9】歯車加工装置に用いる歯切り工具の設計方法を説明するためのフローチャートである。
【
図10A】インボリュート曲線形状の刃形を有する歯切り工具を傾斜角を付けて加工したときの歯車の歯形(破線)と、非インボリュート曲線形状の刃形を有する歯切り工具を傾斜角を付けて加工したときの歯車の歯形(実線)を示す図である。
【
図10B】歯切り工具の切れ刃において、インボリュート曲線形状の刃形(破線)と、修正した非インボリュート曲線形状の刃形(実線)を示す図である。
【
図11】歯車加工方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1.歯車加工装置10の構成)
歯車加工装置の構成について図を参照して説明する。
図1に示すように、歯車加工装置10は、例えば、工作物Wと加工用工具Tの相対的な位置及び姿勢を変化させる駆動軸として、3つの直進軸及び2つの回転軸を有する。本例では、歯車加工装置10は、直進軸としての直交3軸(X軸,Y軸,Z軸)、並びに、回転軸としてのA軸及びB軸を有する。A軸は、基準状態においてX軸線回りの回転軸であり、B軸は、基準状態においてY軸線回りの回転軸である。さらに、歯車加工装置10は、歯切り工具Tを自身の中心軸線回りに回転可能なCt軸、及び、工作物Wを自身の中心軸線回りに回転可能なCw軸を有する。つまり、歯車加工装置は、Ct軸及びCw軸を含めると7軸マシニングセンタとなる。
【0014】
歯車加工装置10は、歯切り工具Tを支持して回転可能な工具主軸11と、工作物Wを支持して回転可能であり、工具主軸11と相対移動可能な工作物主軸12を備える。さらに、歯切り工具Tを収容可能な工具マガジン13と、工具主軸11に対し一の歯切り工具Tを他の歯切り工具Tに交換する工具交換装置14と、歯車の歯の加工の動作制御を行う制御装置15等を備える。
【0015】
工具主軸11は、図示しないベッド上において把持装置11aを介して歯切り工具Tを歯切り工具Tの中心軸線回り(Ct軸)に回転可能に支持する。さらに、工具主軸11は、ベッド上においてX軸線方向及びY軸線方向へ移動可能である。従って、歯切り工具Tは、歯切り工具Tの中心軸線回り(Ct軸)に回転可能となり、ベッドに対してX軸線方向及びY軸線方向へ移動可能となる。
【0016】
工作物主軸12は、ベッド上においてチャック12aを介して工作物Wを工作物Wの中心軸線回り(Cw軸)に回転可能に支持する。さらに、工作物主軸12は、ベッド上においてチルトテーブル12bにA軸回転可能(チルト(傾斜)可能)に、且つ、ベッド上においてターンテーブル12cにB軸回転可能に支持される。
【0017】
そして、チルトテーブル12bに支持される工作物主軸12は、ベッド上においてZ軸線方向へ移動可能である。従って、工作物Wは、工作物Wの中心軸線Cw回りに回転可能となり、ベッドに対してA軸回転可能、B軸回転可能、Z軸線方向へ移動可能となる。
【0018】
制御装置15は、歯切り工具T(工具主軸11)の中心軸線回りのCt軸回転及び工作物W(工作物主軸12)の中心軸線回りのCw軸回転をそれぞれ制御し、工作物W(工作物主軸12)のA軸回転及びB軸回転をそれぞれ制御する。また、歯切り工具T(工具主軸11)のX軸線方向及びY軸線方向への移動をそれぞれ制御し、工作物W(工作物主軸12)のZ軸線方向への移動を制御する。また、工具交換装置14の工具交換動作を制御する。ここで、以下の説明において、A軸回転中心を軸線Aと称し、B軸回転中心を軸線Bと称し、Ct軸回転中心を軸線Ctと称し、Cw軸回転中心を軸線Cwと称する。
【0019】
(2.工作物W)
本例の歯車加工装置10では、
図2に示す自動車の減速機に使われる一般的なダブルヘリカルギヤWGをスカイビング加工で形成する場合を例に説明する。このダブルヘリカルギヤWGは、第一歯車G1と、第一歯車G1と同軸で隙間dをあけて一体部位として形成される第二歯車G2を備える。第一歯車G1及び第二歯車G2は、同一形状でねじれ角が対称となるように形成される。第一歯車G1は、第一歯切り工具T1(
図3A参照)により押し加工で形成される。第二歯車G2は、第二歯切り工具T2(
図3B参照)により引き加工で形成される。
【0020】
(3.歯切り工具T)
図3Aに示すように、第一歯切り工具T1の工具刃Tc1は、外周に複数の切れ刃Tcc1を有する円錐台形状であり、第一歯切り工具T1の工具軸Ta1は、小径端面Tb1に一体部位として形成される。
図3Bに示すように、第二歯切り工具T2の工具刃Tc2は、第一歯切り工具T1の工具刃Tc1と同一形状であり、第二歯切り工具T2の工具軸Ta2は、大径端面Td2に一体部位として形成される。
【0021】
第一歯切り工具T1の工具刃Tc1の大径端面Td1における切れ刃Tcc1の形状は、本例では非インボリュート曲線形状に形成される。同様に、第二歯切り工具T2の工具刃Tc2の大径端面Td2における切れ刃Tcc2の形状は、本例では非インボリュート曲線形状に形成される。そして、
図3Cに示すように、切れ刃Tcc1(Tcc2)には、中心軸線Ctと直角な平面に対し角度γ傾斜したすくい角が大径端面Td1(Td2)側に設けられ、中心軸線Ctと平行な直線に対し角度δ傾斜した前逃げ角が工具周面側に設けられる。切れ刃Tcc1(Tcc2)は、両側の刃すじTe1(Te2)の中央を通る直線Leを径方向に見たとき、中心軸線Ctに対し角度β傾斜したねじれ角を有する。
【0022】
(4.歯車加工方法の概要)
自動車の省エネ対策として部品軽量化が要求されているが、ダブルヘリカルギヤWGにおいては上記隙間dを狭小化して部品軽量化を図ることが求められている。しかし、ダブルヘリカルギヤWGにおいて上記隙間dを狭小化すると、第一歯車G1を第一歯切り工具T1で押し加工する際に、第一歯切り工具T1の切れ刃Tcc1の先端が、第二歯車G2が形成される円筒部位と干渉するおそれがある。また、第二歯車G2を第二歯切り工具T2で引き加工する際に、第二歯切り工具T2の切れ刃Tcc2の先端が、形成済みの第一歯車G1と干渉するおそれがある。以下に説明する歯車加工方法は、当該干渉が発生しない方法である。
【0023】
先ず、
図4A,
図4Bに示すように、第一歯切り工具T1の中心軸線Ctと工作物Wの中心軸線Cwを平行な状態にする。そして、第一歯切り工具T1の中心軸線Ctと工作物Wの中心軸線Cwを含む第一平面S1を定義する。
【0024】
次に、
図5A,
図5Bに示すように、第一平面S1に対し垂直であって第一歯切り工具T1の中心軸線Ctを含む第二平面S2を定義する。そして、第二平面S2において第一歯切り工具T1の中心軸線Ctを工作物Wの中心軸線Cwに対し交差角θ(第一角度)を有する状態に設定する。この交差角θは、工作物Wに加工する歯車の歯のねじれ角及び第一歯切り工具T1のねじれ角に基づいて調整される。
【0025】
次に、
図6A,
図6Bに示すように、第二平面S2に対し垂直であって交差角θが設定された第一歯切り工具T1の中心軸線Ctを含む第三平面S3を定義し、第三平面S3において第一歯切り工具T1の中心軸線Ctを工作物Wの中心軸線Cwに対し傾斜角α(第二角度)を有する状態に設定する。
【0026】
そして、工作物Wの回転と第一歯切り工具T1の回転とを同期させ、第一歯切り工具T1を工作物Wに対して工作物Wの中心軸線Cw方向に相対移動させて第一歯車G1の歯を加工する。当該相対移動のとき、歯切り工具Tの中心軸線Ctは、
図6BにおけるCt2へ向かって移動する。つまり、歯切り工具Tは、Y軸方向に移動する。ここで、歯切り工具Tと工作物Wの心間距離Dは、歯切り工具Tの中心軸線Ctと工作物Wの中心軸線の基準点Cw0との距離である。つまり、当該相対移動においては、心間距離Dを変化させながら(第一歯車G1の歯底を基準)、工作物WをZ軸方向に移動する。歯切り工具Tの中心軸線がCt2に位置する状態において、心間距離はD2となる。これにより、第一歯切り工具T1の切れ刃Tcc1の先端と、第二歯車G2が形成される円筒部位との干渉を防止できる。
【0027】
また、
図7A,
図7Bに示すように、第二歯切り工具T2は、第一歯切り工具T1の配置を対称に配置する。そして、工作物Wの回転と第二歯切り工具T2の回転とを同期させ、第二歯切り工具T2を工作物Wに対して工作物Wの中心軸線Cw方向に相対移動させて第二歯車G2の歯を加工する。これにより、第二歯切り工具T2の切れ刃Tcc2の先端と、第一歯車G1との干渉を防止できる。
【0028】
また、第一歯切り工具T1に前逃げ角δが形成されていない場合、
図8A,
図8Bに示すように、第一平面S1上の第一歯切り工具T1と工作物Wの加工点Pcを、工作物Wの周方向にオフセット角φだけずれた位置(オフセット位置)に移動する(加工点Pco)。これは、前逃げ角を確保するために行う一般的な方法である。
【0029】
そして、工作物Wの回転と第一歯切り工具T1の回転とを同期させ、第一歯切り工具T1を工作物Wに対して工作物Wの中心軸線Cw方向に相対移動させて第一歯車G1の歯を加工する。これにより、第一歯切り工具T1の切れ刃の先端と、第二歯車G2が形成される円筒部位との干渉を防止できる。第二歯車G2の歯の加工も同様に可能である。
【0030】
(5.歯切り工具の設計方法)
次に、第一歯切り工具T1の設計方法について、
図9のフローチャートを参照して説明する。なお、第二歯切り工具T2の設計方法も同様であるので、その説明は省略する。
【0031】
先ず、工作物Wの諸元に基づいて、工作物Wを表す点群データを作成する(ステップS1)。工作物Wの諸元は、例えば、歯数、歯丈、歯厚、ねじれ角等)である。例えば、CADシステムにおいて、工作物Wの諸元を入力することにより、工作物Wを表す点群データ(CADデータ)が作成される。次に、傾斜角αの初期設定を行う(ステップS2)。傾斜角αの初期値は、0°とする。傾斜角αが0°の状態は、
図5A及び
図5Bに示す状態が初期状態となる。
【0032】
次に、工作物Wと歯切り工具Tの切れ刃の先端との干渉の有無を判定することができる干渉シミュレーションを行う(ステップS3)。干渉シミュレーションは、工作物Wを表す点群データ、歯切り工具Tの切れ刃の外形データ、交差角θ及び傾斜角αを用いる。そして、干渉シミュレーションは、歯切り工具Tの切れ刃の外形データが第一歯車G1の歯形加工の終点に位置する状態において、歯切り工具Tと第二歯車G2との干渉の有無を判定する。なお、歯切り工具Tの切れ刃の外形データは、単なる外形を表す円形状としてもよいし、実切れ刃に対応する凹凸形状としてもよい。交差角θは、工作物Wの諸元に基づいて予め設定された値である。
【0033】
そして、工作物Wと歯切り工具Tの切れ刃の先端との干渉が有るときは(ステップS4:No)、傾斜角αを微小角度(例えば、1°)だけ変更し(ステップS5)、ステップS3に戻って再度干渉シミュレーションを行う。そして、干渉が無い状態となるまで、傾斜角αを変更し続ける。
【0034】
ステップS3において、工作物Wと歯切り工具Tの切れ刃の先端との干渉が無いときは(S3:Yes)、その時の傾斜角αを決定する(ステップS6)。次に、歯切り工具Tの切れ刃の点群データを作成する(ステップS7)。歯切り工具Tの切れ刃の点群データは、工作物Wの諸元に基づいて決定された歯切り工具Tの諸元に基づいて決定される。ここでは、歯切り工具Tの切れ刃の点群データは、初期形状としてインボリュート形状の歯面を有するデータとされている。
【0035】
次に、第一歯車Gを加工するための歯車加工シミュレーションを行う(ステップS8)。歯車加工シミュレーションは、工作物Wの素材を表す点群データ及び歯切り工具Tの点群データを、交差角θ及び傾斜角αを有する状態に初期配置して、歯切り工具Tを工作物Wの中心軸線Cw方向に相対移動させる。当該相対移動は、
図6Bに示すように、心間距離Dを変化させながら、工作物WをZ軸方向に移動する動作である。
【0036】
次に、歯車加工シミュレーションで工作物Wに加工した第一歯車Gの歯形と、第一歯車G1の設計上の歯形とを比較して、両者の差異を取得する。そして、当該差異に基づいて、第一歯車G1の設計上の歯形を加工できるようにするための歯切り工具Tの切れ刃の点群データを修正する(ステップS9)。
【0037】
図10Aに示すように、第一歯車G1の設計上の歯形GFD(図示実線)と、歯車加工シミュレーションによる第一歯車Gの歯形GFS(図示破線)とが異なる。例えば、設計上の歯形GFDと歯車加工シミュレーションにおける歯形GFSとの差異の傾向に基づいて、歯切り工具Tの切れ刃の点群データを修正する。歯切り工具Tの切れ刃の点群データは、初期においてインボリュート曲線形状としていたため、修正後は非インボリュート曲線形状となる。
【0038】
つまり、
図10Bに示すように、シミュレーション初期における歯切り工具Tの切れ刃のインボリュート曲線形状の刃形TFM(図示破線)が修正されて、非インボリュート曲線形状の刃形TFP(図示実線)を第一歯切り工具T1の切れ刃Tcc1の刃形TFPとして決定される。以上により、設計上の第一歯車G1の歯形GFDの加工を可能な第一歯切り工具T1の設計が完了する。
【0039】
(6.歯車加工方法)
次に、歯車加工装置10の制御装置15の動作(歯車加工方法)について
図11のフローチャートを参照して説明する。なお、工具主軸11には、第一歯切り工具T1が装着されているものとする。また、工具マガジン13には、第二歯切り工具T2が収容されているものとする。また、工作物主軸12には、ダブルヘリカルギヤWGを形成するための2つの円筒部位を備える工作物Wが支持されているものとする。
【0040】
制御装置15に、工作物Wの諸元データ、歯切り工具Tの諸元データ、交差角θ、上述した干渉シミュレーション及び歯車加工シミュレーションにて決定した加工条件(傾斜角α)、その他の加工条件を入力する。そして、制御装置15は、工具主軸11の移動用の図略のボールねじ機構及び駆動モータを駆動制御して、工具主軸11に支持される第一歯切り工具T1をX軸線方向及びY軸線方向へそれぞれ移動させる。また、工作物主軸12の移動用の図略のボールねじ機構及び駆動モータを駆動制御して、工作物主軸12に支持される工作物WをZ軸線方向へ移動させる。そして、
図4A,
図4Bに示すように、工具主軸11に支持される第一歯切り工具T1の中心軸線Ctと工作物主軸12に支持される工作物Wの中心軸線Cwとを平行な状態に設定する(ステップS11)。
【0041】
そして、制御装置15は、ターンテーブル12c用の図略の駆動モータを駆動制御して、工作物主軸12に支持される工作物WをB軸線回りに回転させる。そして、
図5A,
図5Bに示すように、第一歯切り工具T1の中心軸線Ctを工作物Wの中心軸線Cwに対し交差角θ(第一角度)を有する状態に設定する(ステップS12、第一角度設定工程)。
【0042】
さらに、制御装置15は、チルトテーブル12b用の図略の駆動モータを駆動制御して、工作物主軸12に支持される工作物WをA軸線回りに回転させる。そして、
図6A,
図6Bに示すように、第一歯切り工具T1の中心軸線Ctを第一歯車G1の中心軸線Cwに対し傾斜角(第二角度)を有する状態に設定する(ステップS13、第二角度設定工程)。
【0043】
そして、制御装置15は、工具主軸11の回転用の図略の駆動モータ及び工作物主軸12の回転用の図略の駆動モータを駆動制御して、工具主軸11に支持される第一歯切り工具T1及び工作物主軸12に支持される工作物Wを同期回転させる(ステップS14、同期回転工程)。そして、工具主軸11及び工作物主軸12の各移動用のボールねじ機構及び駆動モータを駆動制御して、工具主軸11に支持される第一歯切り工具T1を、工作物主軸12に支持される工作物Wの中心軸線Cw方向に移動させ、第一歯車G1を加工する制御を開始する(ステップS15、歯車加工工程)。このときの加工動作は、
図6Bに示すように、心間距離Dを変化させながら、工作物WをZ軸方向に移動する動作である。
【0044】
そして、制御装置15は、第一歯車G1の加工が完了したか否かを判断し(ステップS16)、第一歯車G1の加工が完了した場合は、工具交換装置14で第一歯切り工具T1を第二歯切り工具T2に交換する(ステップS17)。そして、以下では、第一歯切り工具T1の設定と同様の処理を行う。すなわち、工具主軸11に支持される第二歯切り工具T2の中心軸線Ctと工作物主軸12に支持される工作物Wの中心軸線Cwとを平行な状態にする(ステップS18)。
【0045】
そして、第二歯切り工具T2の中心軸線Ctを工作物Wの中心軸線Cwに対し交差角θ(第一角度)を有する状態に設定し、傾斜角(第二角度)を有する状態に設定する(ステップS19,S20、第一角度設定工程、第二角度設定工程)。そして、工具主軸11に支持される第二歯切り工具T2及び工作物主軸12に支持される工作物Wを同期回転させ(ステップS21、同期回転工程)、第二歯車G1を加工する制御を開始する(ステップS22、歯車加工工程)。このときの加工動作は、
図7Bに示すように、心間距離Dを変化させながら、工作物WをZ軸方向に移動する動作である。そして、制御装置15は、第二歯車G2の加工が完了したか否かを判断し(ステップS23)、第二歯車G2の加工が完了した場合は、全ての処理を終了する。
【0046】
上述の歯車加工方法によれば、第一、第二歯切り工具T1,T2の中心軸線Ctを工作物Wの中心軸線Cwに対し傾斜させているので、第一、第二歯切り工具T1,T2の切れ刃Tcc1,Tcc2の先端が工作物Wにおいて第一、第二歯車G1,G2を形成された軸方向位置から送り方向に突出する量を小さく設定できる。このため、第一、第二歯切り工具T1,T2を小径化しなくても、第一、第二歯切り工具T1,T2の切れ刃Tcc1,Tcc2の先端部と工作物Wとの干渉を防止して第一、第二歯車G1,G2を加工できる。よって、工具寿命を向上でき、高精度な加工を維持できる。
【0047】
(7.その他)
上記においては、工具主軸11が、工作物主軸12に対しX軸線方向及びY軸線方向へ移動可能に構成し、工作物主軸12が、工具主軸11に対しZ軸線方向へ移動可能に構成した。しかし、工具主軸11と工作物主軸12とは、相対移動可能な構成としてもよい。工作物主軸12が、工具主軸11に対しA軸線回りに回転可能(チルト(傾斜)可能)且つB軸線回りに回転可能な構成としたが、工具主軸11が、工作物主軸12に対しA軸線と平行な軸線回りに回転可能(チルト(傾斜)可能)且つB軸線と平行な軸線回りに回転可能な構成としてもよい。また、工作物Wは、円筒部材の外周に歯車の歯を加工するものとしたが、円筒部材の内周に歯車の歯を加工するものでもよい。
【符号の説明】
【0048】
T1:第一歯切り工具、 Tc1:工具刃、 Tcc1:切れ刃、 T2:第二歯切り工具、 Tc2:工具刃、 Tcc2:切れ刃、 S1:第一平面、 S2:第二平面、 S3:第三平面、 W:工作物、 G1:第一歯車、 G2:第二歯車、 Ct:歯切り工具の中心軸線、 Cw:工作物の中心軸線、 θ:交差角、 α:傾斜角