(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】ガス処理システム及びガス処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/06 20060101AFI20240109BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20240109BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20240109BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20240109BHJP
B01D 53/72 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B01D53/06
B01J20/18 B
B01J20/20 B
B01J20/34 B
B01J20/34 F
B01D53/72
(21)【出願番号】P 2019192636
(22)【出願日】2019-10-23
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】板山 繁
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特公昭46-026328(JP,B2)
【文献】特開平08-238419(JP,A)
【文献】特開昭55-064824(JP,A)
【文献】特公昭57-060051(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/00-53/96
B01J20/00-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物質を含有する被処理ガスから有機物質を除去して当該被処理ガスを清浄化するガス処理システムであって、
前記有機物質を吸着するマット状の吸着素子を多段に折り返して搬送する多段折搬送手段と、
前記多段折搬送手段にて搬送された前記吸着素子を、折り返しを開放して回転移動させて再び前記多段折搬送手段まで搬送する循環搬送手段と、
多段に折り返され
複数の層となった前記吸着素子の
当該複数の層全体の厚み方向に前記被処理ガスを通気させて、有機物質を吸着させる被処理ガス供給手段と、
多段の折り返しが開放され折り返しの無い前記吸着素子に、局所的に加熱ガスを当該吸着素子の厚み方向に通気させて、当該吸着素子から前記有機物質を脱着させる加熱ガス供給手段と、を備えたことを特徴とするガス処理システム。
【請求項2】
前記加熱ガスの通気方向は、垂直方向であることを特徴とする請求項1に記載のガス処理システム。
【請求項3】
前記加熱ガスは空気または不活性ガスであることを特徴とする請求項1または2に記載のガス処
理システム。
【請求項4】
前記吸着素子は、活性炭素繊維、活性炭、およびゼオライトからなる群から選ばれる少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載のガス処理システム。
【請求項5】
有機物質を含有する被処理ガスから有機物質を除去して当該被処理ガスを清浄化するガス処理方法であって、
前記有機物質を吸着するマット状の吸着素子を多段に折り返して搬送する多段折搬送工程と、
多段に折り返され
複数の層となった前記吸着素子の
当該複数の層全体の厚み方向に前記被処理ガスを通気させて、有機物質を吸着させる被処理ガス供給工程と、
前記多段折搬送工程にて搬送された前記吸着素子を、折り返しを開放して回転移動させる回転移動工程と、
多段の折り返しが開放され折り返しの無い前記吸着素子に、局所的に加熱ガスを当該吸着素子の厚み方向に通気させて、当該吸着素子から前記有機物質を脱着させる加熱ガス供給工程と、
加熱ガス供給工程後の前記吸着素子を、再び前記多段折搬送工程に移動させる再移動工程と、を含むことを特徴とするガス処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物質を含有する被処理ガスから有機物質を除去することで当該被処理ガスを清浄化するガス処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
各工場や研究施設等から排出されるガス(以下、被処理ガスという)に含有される有機物質には有害な性質を有する種類もあり、被処理ガスを大気中にそのまま排出することができない。そこで、ガス理装置を用いて被処理ガスに含まれる有機物質を除去することによって清浄化された処理ガスを排出している。
【0003】
従来、被処理ガスの処理方法としては活性炭等の吸着素子を用いた交換式吸着装置が広く用いられている。交換式吸着装置は有機物質を一定時間吸着し続けると、吸着素子の吸着能力が飽和に達し、連続的に処理性能を維持したい場合、交換もしくは一度装置より吸着素子を取り外して再生処理を行う必要がある。そのため、交換または取り外し再生のためガス処理工程を停止する必要があったり、作業労力やコストが増大したりするといった課題があった。
【0004】
特許文献1のガス処理装置は円筒状に構成された吸着素子を備えており、吸着素子に被処理ガスを接触させることで、被処理ガス中の有機物質が吸着素子に吸着除去され、被処理ガスが処理済ガスとして排出される。また、特許文献2に記載のガス処理装置は循環移動する帯状の吸着素子を備えており、吸着素子に被処理ガスを接触させることで、被処理ガスが処理済ガスとして排出される。さらに文献1,2ともに吸着素子に加熱ガスを接触させることで、吸着素子に吸着していた有機物質が吸着素子から脱着され、脱着ガスとして排出される。このように、特許文献1や特許文献2に記載のガス処理装置は、基本的には吸着素子の交換の必要なく、被処理ガス中の有機物質を高効率で除去することができる。
【0005】
ここで、特許文献1や特許文献2に記載されたガス処理装置の吸着素子に活性炭素繊維を使用する場合、活性炭素繊維は吸着速度が速いため、被処理ガスを吸着素子に通気するのみで被処理ガス中の有機物質を高効率に除去することが可能であると知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公平1-011326号公報
【文献】特開平5-245336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、吸着素子に活性炭素繊維を使用する場合、一般に被処理ガスの通流方向に吸着素子の層長(厚み)を長くすることで、被処理ガス中の有機物質と吸着素子との接触時間が大きくなり、吸着効率が高くなることが知られている。また、吸着素子の量を減らし、吸着素子を回転移動させることで吸着素子の再生までの間隔時間を短くする技術もあるが、吸着性能を向上する目的で吸着素子の移動を速くすると脱着に要する時間も短くなり、脱着の効率が悪くなる課題があることがわかった。
【0008】
以上のことから、低ランニングコストで高効率かつ安定的にガス処理できるシステムが求められる。また、システムの最適化を図ることで、低イニシャルコストであるシステムとして提供可能となる為、検討の余地がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みなされ、その目的は、被処理ガスから有機物質を低コストで高効率かつ安定的に有機物質を除去できるガス処理システム等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、ついに本発明を完成するに到った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0011】
(1)有機物質を含有する被処理ガスから有機物質を除去して当該被処理ガスを清浄化するガス処理システムであって、
前記有機物質を吸着するマット状の吸着素子を多段に折り返して搬送する多段折搬送手段と、
前記多段折搬送手段にて搬送された前記吸着素子を、折り返しを開放して回転移動させて前記多段折搬送手段まで搬送する循環搬送手段と、
多段に折り返された前記吸着素子の厚み方向に前記被処理ガスを通気させて、有機物質を吸着させる被処理ガス供給手段と、
前記折り返しが開放された前記吸着素子に、局所的に加熱ガスを当該吸着素子の厚み方向に通気させて、当該吸着素子から前記有機物質を脱着させる加熱ガス供給手段と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
上記構成によると、吸着素子を多段に折り返すことにより層長を長くした(厚みを厚くした)吸着素子に被処理ガスを通気させて吸着を行うので、被処理ガスに含まれる有機物質を高効率で除去できる。また、折り返しを開放することで層長を短くした吸着素子に加熱ガスを通気させて脱着を行うので、圧力損失や温度ロスが減少される。よって、ランニングコストを低減して安定的に処理をすることができる。
なお、本明細書では、折り返しを開放するとは、折り返しを無くすことだけでなく、折り返す数を減らすことも含むものとする。
【0013】
本発明のガス処理システムは、さらに以下の構成であってもよい。
(2)前記加熱ガスは空気または不活性ガスであることを特徴とする(1)に記載のガス処理システム。
(3)前記吸着素子は、活性炭素繊維、活性炭、およびゼオライトからなる群から選ばれる少なくとも1つを含んでいることを特徴とする(1)または(2)に記載のガス処理システム。
【0014】
また、本発明に係るガス処理方法は以下の通りである。
(4)有機物質を含有する被処理ガスから有機物質を除去して当該被処理ガスを清浄化するガス処理方法であって、
前記有機物質を吸着するマット状の吸着素子を多段に折り返して搬送する多段折搬送工程と、
多段に折り返された前記吸着素子の厚み方向に前記被処理ガスを通気させて、有機物質を吸着させる被処理ガス供給工程と、
前記多段折搬送工程にて搬送された前記吸着素子を、折り返しを開放して回転移動させる回転移動工程と、
前記折り返しを開放された前記吸着素子に、局所的に加熱ガスを当該吸着素子の厚み方向に通気させて、当該吸着素子から前記有機物質を脱着させる加熱ガス供給工程と、
加熱ガス供給工程後の前記吸着素子を、再び前記多段折搬送工程に移動させる再移動工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガス処理システムは、吸着処理ではマット状の吸着素子を折り返すことにより層長を長くでき、被処理ガスに含まれる有機物質を高効率で除去できる。更に吸着素子を長くしても折り返すことで装置サイズも縮小できる。また、脱着処理では吸着素子の折り返しを開放することで層長を短くできるので、脱着における圧力損失や温度ロスが減少される。よって、本発明のガス処理システムは、被処理ガス中の有機物質を高効率で連続的に除去するとともに、吸着素子の再生エネルギーの削減を低ランニングコストで安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態のガス処理システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態のガス処理システムの変形例の構成を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態のガス処理システムの別の変形例の構成を示す図である。
【
図4】実施例と比較例における吸着処理により排出される処理ガス中の有機溶剤濃度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する構成、部分、材料等については、同じ符号を付し、一度説明したものは適宜省略する。
【0018】
図1は、本実施の形態のガス処理システム1Aの構成図である。
図1に示すように、ガス処理システム1Aは、吸着素子130に被処理ガスを通気接触させ、被処理ガスに含有する有機物質を吸着除去して被処理ガスを清浄化し、有機物質が吸着された吸着素子130に加熱ガスを通気接触させ再生する機構を持つシステムである。ガス処理システム1Aは、吸着処理を行う吸着処理装置100と再生処理を行う再生処理装置200とを備えて構成されている。以下に各構成について説明する。
【0019】
(吸着素子)
吸着素子130は、被処理ガスに含有される有機物質を吸脱着するマット状の材料から成る。吸着素子130は環状に形成されており、吸着処理装置100と再生装置200とを循環搬送される。
【0020】
吸着素子130は、有機物質を吸脱着する材料から成り、活性炭素繊維を含んでいることが好ましい。活性炭素繊維は表面にミクロ孔を有する繊維状構造であるため、特定の分子サイズの有機物質を優先的に吸着しやすく、なおかつ有機物質の吸着速度も速く、他の吸着材と比べて極めて高い吸着効率を実現できる材料だからである。また、吸着素子130は活性炭またはゼオライトを含んでいてもよい。
【0021】
吸着素子130として利用可能な活性炭素繊維の物性は、特に限定されるものではないが、BET比表面積が700~2500m2/g、細孔容積が0.4~0. 9cm3/g、平均細孔径が15~18Åであるものが好ましい。これは、BET比表面積が700m2/g未満、細孔容積が0.4m3/g未満、平均細孔径が15Å未満のものでは、有機物質の吸着量が低くなるからである。他方、BET比表面積が2500m2/gを超え、細孔容積が0.9m3/gを超え、平均細孔径が18Åを超えるのものでは、細孔径が大きくなることで分子量の小さな物質等の吸着能力が低下したり、強度が弱くなったり、材料コストが高くなって経済的に不利になったりするからである。
【0022】
(吸着処理装置)
吸着処理装置100は、送風機(被処理ガス供給手段)110と、吸着槽120とを備えている。送風機110は、被処理ガスを配管ライン1から吸着槽120へ導入する。吸着漕120は、内部に吸着素子130を搬送する多段折搬送ローラー(多段折搬送手段)140を有している。
【0023】
多段折搬送ローラー140は、吸着素子130を多段に折り返して搬送し、再生処理装置200へと移動させる。
【0024】
送風機110は、被処理ガスを、配管ラインL1から吸引し、配管ラインL2から多段に折り返された吸着素子130の厚み方向に導入して通気させる。
【0025】
吸着処理装置100では、多段に折り返された吸着素子130にその厚み方向に被処理ガスを通気接触させると、被処理ガス中に含有された有機物質が吸着素子130に吸着し、被処理ガスは清浄化された処理ガスとして配管ラインL3から排出される。吸着素子130は、本実施の形態では、吸着槽120内で多段に折り返されて10層になっているが、この層数は限定されない。また、吸着処理装置100では多段折搬送ローラー140を9本有しているが、数に限定はない。また搬送についても限定せず、連続搬送であってもよいし定期搬送であってもよい。
【0026】
(再生処理装置)
再生処理装置200は、循環搬送ローラー(循環搬送手段)201と脱着装置(加熱ガス供給手段)210とを備えている。
【0027】
循環搬送ローラー201は、吸着処理装置100から搬出された吸着素子130を、折り返しを開放して、再生処理装置200へと搬送し、さらに再度吸着処理装置100へと返送する。再生処理装置200では循環搬送ローラー201を2本有しているが、数に限定はない。循環搬送ローラー201は、多段折搬送ローラー140と連動して吸着素子130の搬送を行う。
【0028】
折り返しを開放するとは、折り返しを無くすことだけでなく、折り返す数を減らすことも含むものとする。よって、本実施形態では、折り返しにより10層となった吸着素子130を1層にして脱着処理をしているが、ローラーの配置により、10層よりも少ない数例えば2層や3層で脱着処理をしてもよい。
【0029】
脱着装置210は、吸着素子130に加熱ガスを通気接触させることで、吸着素子130に吸着した有機物質を脱着する。加熱ガスは配管ラインL4から導入され、脱着された有機物質を含有する脱着ガスは、配管ラインL5から排出される。脱着に使用する加熱ガスは、空気でも不活性ガスでもよく、特に限定しないが、好適には加熱空気を利用できる。空気は外気を取り入れて加熱するだけで利用できるからである。しかし、被処理ガス中の溶剤によっては、安全面を考慮して加熱した不活性ガスを使用してもよい。
【0030】
本実施形態では、脱着装置210で脱着した後、吸着処理装置100に吸着素子130を搬送しており、吸着槽120内で搬送経路上流にある吸着素子130ほど脱着したてである。
【0031】
ここで、ガス処理システム1Aにおいて、被処理ガス中の有機物質の種類や濃度などで吸着素子の搬送速度や脱着条件を変更するのが好ましい。例えば、有機物質の沸点によって脱着ガスの温度を変更してもよい。また、例えば、吸着においては、被処理ガス中の有機物質の濃度が高い場合は、搬送速度を上げ、濃度が低い場合は搬送速度を下げてもよい。また、脱着においては、脱着効率が悪いと長く脱着領域(脱着装置210の脱着に供される位置)に滞留させたいため、搬送速度を下げてしてもよい。吸着は早く搬送すると高効率、脱着はゆっくり搬送すると高効率であるため、例えば吸着効率向上のため搬送速度は上げ、脱着領域を広げるようにしてもよい。また、これらを組み合わせて変更してもよい。これらは例示であり、これ以外で変更してもよい。
【0032】
(変形例)
再生処理装置200は、系外へ脱着ガスを排出する場合、環境汚染等を考慮し、後処理を行う手段を備えることが好ましい。後処理を行う手段としては特に限定しない。
【0033】
(変形例1)
吸着素子130より脱着された有機物質を含む脱着ガスの後処理手段として冷却方法による凝縮液化回収を行う回収装置220を備えた再生処理装置200を有するガス処理システム1Bを
図2に示す。ガス処理システム1Bは、ガス処理システム1Aの変形例であり、
図2に示すように、ガス処理システム1Aの構成に加え、再生処理装置200の中に脱着後のガスを冷却することで有機溶剤を凝縮させ液化回収する回収装置220を備える。液化された有機溶剤は配管ラインL6から回収する。再生処理装置200の外に回収装置220が設けられていてもよい。
【0034】
ガス処理システム1Bでは、回収装置220を備えることにより、吸着素子130に付着した有機物質が凝縮し液化回収される。回収装置220では、冷却水による冷却を行うものとするが、その他の冷媒(冷水またはエチレングリコール等の冷却目的に使用できる薬品など)を用いてもよい。なお、ガス処理システム1Bにおいて、回収装置220以外の構成はガス処理システム1Aと同様の構成であるため、説明は省略する。
【0035】
(変形例2)
さらに別の脱着ガスの後処理手段として燃焼処理を行う燃焼装置230を備えた再生処理装置200を有するガス処理システム1Cを
図3に示す。ガス処理システム1Cは、ガス処理システム1Aの別の変形例であり、
図2に示すように、ガス処理システム1Aの構成に加え、吸着素子130より脱着された有機物質を燃焼による酸化分解を行う燃焼装置230を備える。酸化分解されたガスは、配管ラインL6から排出する。再生処理装置200の外に燃焼装置230が設けられていてもよい。
【0036】
燃焼装置230で脱着ガスの燃焼処理を行う方法としては触媒反応処理方法や直接燃焼処理方法など、他の燃焼方法であってもよい。なお、ガス処理システム1Cにおいて、燃焼処理装置230以外の構成はガス処理システム1Aと同様の構成であるため、説明は省略する。
【0037】
以上において説明した本実施形態のガス処理システム1A及びその変形例のガス処理システム1B,1Cおいては、吸着処理装置100と多段に折り返して搬送される吸着素子130とにより被処理ガス中の有機物質を除去し、清浄な処理ガスとして排出する。それとともに、再生処理装置200では、折り返しが開放された吸着素子120を再生する。吸着処理装置100では、吸着素子130を多段に折り返すことにより層長を長く(厚みを厚く)して被処理ガスを通気させて吸着を行うので、被処理ガスに含まれる有機物質を高効率で除去できる。他方、再生処理装置200では、吸着素子130の折り返しを開放することで層長を短くして加熱ガスを通気させて脱着を行うので、圧力損失や温度ロスを減少することができる。そのため、イニシャルコスト、ランニングコストを削減したシステムを実現することができる。
【0038】
本実施形態のガス処理システム1A及びその変形例のガス処理システム1B,1Cの処理対象となる被処理ガスに含まれる有機物質は、特に限定されないが、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレインなどのアルデヒド類、メチルエチルケトン、ジアセチル、メチルイソブチルケトン、アセトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル類、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのグリコール類、酢酸、プロピオン酸などの有機酸、フェノール類、トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどの芳香族有機化合物、1,4-ジオキサン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのエーテル類、アクリロニトリルなどの二トリル類、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、トリクロロエチレン、エピクロロヒドリンなどの塩素有機化合物、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミドの有機化合物などを指す。被処理ガスは、これらを1種または多種が含んでいてよい
【実施例】
【0039】
上記実施の形態にて説明した本発明に係るガス処理システムの詳細を、さらに以下の実施例を用いて説明する。しかし、本発明は以下実施例に限定されるものでない。なお、実施例中に示した特性の評価は下記の方法により測定した。
【0040】
(BET比表面積)
BET比表面積は、液体窒素の沸点(-195.8℃)雰囲気下、相対圧力0.0~0.15の範囲で上昇させたときの試料への窒素吸着量を数点測定し、BETプロットにより料単位質量あたりの表面積(m2/g)を求めた。
【0041】
(細孔容積)
細孔容積は、相対圧0.95における窒素ガスの気体吸着法により測定した。
【0042】
(平均細孔径)
平均細孔径は、以下の式で求めた。
dp=40000Vp/S(ただし、dp:平均細孔径(Å))
Vp:細孔容積(cc/g)
S:BET比表面積(m2/g)
【0043】
(有機物質濃度評価)
被処理ガス及び処理ガスの有機物質の濃度はガスクロマトグラフ法により測定した。
【0044】
(脱着温度評価)
加熱ガスを通流した時の吸着素子入口・出口の温度をK熱電対で測定した。
【0045】
[実施例]
実施例のガス処理システムとして、上記実施の形態にて説明した
図1に示すガス処理システム1Aを使用した。平均細孔径14Å、BET比表面積1100m
2/g、全細孔容積0.5cm
3/gの活性炭素繊維を使用したφ43mmで厚み10mmの吸着素子を作成した。この吸着素子を多段折搬送ローラーで折り返して10枚となるように吸着槽120内に充填した。被処理ガスとして、酢酸エチル2000ppmの含有ガスを1L/minで通気した。通気後、処理ガスの酢酸エチル濃度が100ppmに到達したのは28分後であった。
【0046】
脱着は、120℃の加熱空気を100mL/minで流し、吸着素子の出口温度が入口温度と同等になるまで行った。
【0047】
[比較例]
比較例では、吸着シートを折り返しなしで搬送する従来型の処理装置(例えば、特許文献2参照)に、実施例と同じ吸着素子を2層重ねたものを1シートとして配置した装置を用いた。この装置に、被処理ガスとして酢酸エチル2000ppmの含有ガスを1L/minで通気した。通気後、処理ガスの酢酸エチル濃度が100ppmに到達したのは5.5分後であった。脱着については、実施例と同条件で行った。
【0048】
処理ガス(清浄化ガス)における酢酸エチル濃度の変化のグラフを
図4に示す。
図4のグラフにおいて、縦軸は酢酸エチル濃度(ppm)横軸は時間(分)である。
図4に示すように、実施例は比較例に対して、処理ガス中の有機溶剤の濃度が上がるまでの時間が長く、多量の有機物を高効率かつ安定的に除去できていることがわかる。
【0049】
上記開示した実施の形態、各変形例、および実施例はすべて例示であり制限的なものではない。また、実施の形態、各変形例、および実施例を適宜組み合わせた形態も本発明の範疇に含まれる。つまり、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって有効であり、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内のすべての変更・修正・置き換え等を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、基本的に吸着素子の交換が必要なく多量の有機物を高効率かつ安定的に除去できると共に、吸着素子の再生エネルギーの削減を低ランニングコストで安定的に実現することができる。よって、例えば、研究所や工場等のガス処理に利用でき、産業界に大いに寄与できる。
【符号の説明】
【0051】
1A,1B,1C:ガス処理システム
100:吸着処理装置
110:送風機(被処理ガス供給手段)
120:吸着槽
130:吸着素子
140:多段折搬送ローラー(多段折搬送手段)
200:再生処理装置
201:循環搬送ローラー(循環搬送手段)
210:脱着装置(加熱ガス供給手段)
220:回収装置
230:燃焼装置
L1~L6:配管ライン