(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】保護回路及び蓄電装置
(51)【国際特許分類】
H02H 9/04 20060101AFI20240109BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
H02H9/04 A
H02J7/00 S
(21)【出願番号】P 2019222966
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨士松 将克
(72)【発明者】
【氏名】藤田 清浩
(72)【発明者】
【氏名】服部 成輝
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 章正
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-040653(JP,A)
【文献】特開平05-276650(JP,A)
【文献】国際公開第2017/086113(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 9/04
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電素子から負荷へのパワーラインに位置する開閉器と、
前記開閉器に対して並列に接続され、前記開閉器がオープンして放電電流を遮断したときに発生するサージを吸収する第1保護素子と、
前記負荷に対し
て並列に接続され、前記開閉器がオープンして放電電流を遮断したときに発生する前記サージを前記負荷に還流する第2保護素子と、を備え
、
前記第1保護素子は、前記開閉器に対して並列に接続されたコンデンサと、前記開閉器に対して並列に接続されたツェナーダイオードと、を備える保護回路。
【請求項2】
前記第1保護素子によるサージの吸収は、前記第2保護素子によるサージの還流よりも、応答が速い請求項1に記載の保護回路。
【請求項3】
前記開閉器は、FETである
請求項1又は請求項2に記載の保護回路。
【請求項4】
駆動回路から前記開閉器の制御端子への信号ラインに抵抗を有する請求項1から
請求項3のいずれか一項に記載の記載の保護回路。
【請求項5】
請求項1から
請求項4のいずれか一項に記載の保護回路と、
前記蓄電素子と、を備える蓄電装置。
【請求項6】
請求項5に記載の蓄電装置であって、
前記蓄電装置は、
前記蓄電素子の電極にそれぞれ接続された一対の外部端子を有し、
前記第2保護素子は、フライホイールダイオードであり
、一対の前記外部端子に対して並列に接続されている、蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
保護回路及び蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電素子と負荷との間の電流をオンオフする開閉器を備えた蓄電装置が知られている。この種の蓄電装置は、回路に発生するサージから開閉器を保護する技術が用いられている。特許文献1の車両用発電機における整流器は、複数のMOSトランジスタが出力端子とアース(GND)との間に直列に接続されている。複数のツェナーダイオードは、車両用発電機の出力端子側がカソード、アース(GND)側がアノードとなるように直列に接続されている。ツェナーダイオードのブレークダウン電圧は、MOSトランジスタのブレークダウン電圧以下となるように設定されており、ロードダンプ時に、過電圧が発生すると、MOSトランジスタがブレークダウンする前にツェナーダイオードがブレークダウンする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スタータのロック電流や短絡電流を開閉器により遮断した場合、短時間に大きな電流変化があり、大きなサージが発生する。また、負荷のインダクタンスが大きい場合、小さな電流でも、同様に大きなサージが発生する。開閉器は、サージにより耐圧を超えた場合、不具合が発生することが懸念される。
【0005】
本明細書では、サージから開閉器を保護する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
保護回路は、蓄電素子から負荷へのパワーラインに位置する開閉器と、前記開閉器に対して並列に接続され、前記開閉器がオープンして放電電流を遮断したときに発生するサージを吸収する第1保護素子と、前記負荷に対して前記並列に接続され、前記開閉器がオープンして放電電流を遮断したときに発生する前記サージを前記負荷に還流する第2保護素子と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
サージから開閉器を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図7】比較例としての蓄電装置の電気的構成を示すブロック図
【
図8】比較例としての電流遮断時の開閉器の電圧波形
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本実施形態の概要)
保護回路は、蓄電素子から負荷へのパワーラインに位置する開閉器と、前記開閉器に対して並列に接続され、前記開閉器がオープンして放電電流を遮断したときに発生するサージを吸収する第1保護素子と、前記負荷に対して前記並列に接続され、前記開閉器がオープンして放電電流を遮断したときに発生する前記サージを負荷に還流する第2保護素子と、を備える。
上記構成によれば、第1保護素子がサージを吸収し、第2保護素子がサージを負荷に還流させるため、どちらか一方の保護素子だけを用いる場合に比べて、放電電流を遮断した時に、開閉器に対して加わるサージを抑圧することが出来る。そのため、サージから開閉器を保護することが出来る。
【0010】
前記第1保護素子によるサージの吸収は、前記第2保護素子によるサージの還流よりも、応答が速くてもよい。このようにすれば、第2保護素子がサージを負荷に還流させるまでの間、開閉器に加わるサージを、第1保護素子により吸収できる。
【0011】
前記第1保護素子は、複数であって、前記開閉器に対して並列に接続されたコンデンサと、前記開閉器に対して並列に接続されたツェナーダイオードでもよい。
このようにすれば、コンデンサによりサージの立上りが緩やかになるようにサージを吸収し、コンデンサで吸収しきれないサージについてはツェナーダイオードにより吸収することができる。
【0012】
前記開閉器は、FET(電界効果トランジスタ)でもよい。FETは、機械式のリレーに比べて耐圧が低く、サージに対する対策が必要である。この技術の適用により、サージからFETを保護して故障の発生を抑制することが出来る。
【0013】
駆動回路から前記開閉器の制御端子への信号ラインに抵抗を有してもよい。制御端子への信号ラインに抵抗を設けた場合、抵抗がない場合に比べて、スイッチング時間が長くなる。そのため、電流変化が小さくなることから、サージを小さくすることが出来る。
【0014】
前記保護回路と、前記蓄電素子と、を備える蓄電装置とする。前記蓄電装置は、前記蓄電素子の電極に接続された一対の外部端子を有し、前記第2保護素子は、フライホイールダイオードであり、前記一対の外部端子の間に接続されていてもよい。第2保護素子を含む保護回路の全体を蓄電装置の内部に設けることが出来るため、負荷に依存せず、サージ対策が可能である。
【0015】
<実施形態1>
実施形態1について
図1から
図8を参照しつつ説明する。
図1に示すように、蓄電装置20は、自動二輪車10に搭載されるバッテリである。蓄電装置20は、エンジンEの動作中は、オルタネータ11(
図5)によって充電され、エンジンEの始動時は、スタータ12に電力を供給する。
【0016】
1.蓄電装置20の構成
蓄電装置20は、
図2に示すように、組電池21と、回路基板ユニット45と、収容体50とを備える。収容体50は、合成樹脂材料からなる本体51と蓋体56とを備えている。本体51は有底筒状である。本体51は、底面部52と、4つの側面部53とを備えている。4つの側面部53によって上端部分に上方開口部54が形成されている。
【0017】
収容体50は、組電池21と回路基板ユニット45を収容する。回路基板ユニット45は、回路基板46と回路基板46上に搭載される電子部品とを含み、組電池21の上部に配置されている。蓋体56は、本体51の上方開口部54を閉鎖する。蓋体56の周囲には外周壁57が設けられている。蓋体56には、円柱状の正極の外部端子58Aと、円柱状の負極の外部端子58Bとが固定されている。
【0018】
組電池21は12個の二次電池22を有する。二次電池22は、充放電可能な蓄電素子である。12個の二次電池22は、3並列で4直列に接続されている。二次電池22は、
図4に示すように、直方体形状のケース23内に電極体27を非水電解質と共に収容したものである。二次電池22は一例としてリチウムイオン二次電池である。ケース23は、ケース本体24と、その上方の開口部を閉鎖する蓋25とを有している。
【0019】
電極体27は、詳細については図示しないが、銅箔からなる基材に活物質を塗布した負極要素と、アルミニウム箔からなる基材に活物質を塗布した正極要素との間に、多孔性の樹脂フィルムからなるセパレータを配置したものである。これらはいずれも帯状で、セパレータに対して負極要素と正極要素とを幅方向の反対側にそれぞれ位置をずらした状態で、ケース本体24に収容可能となるように扁平状に巻回されている。
【0020】
正極要素には正極集電体28を介して正極の端子35Aが、負極要素には負極集電体30を介して負極の端子35Bがそれぞれ接続されている。正極集電体28及び負極集電体30は、平板状の台座部33と、この台座部33から延びる脚部34とからなる。台座部33には貫通孔が形成されている。脚部34は正極要素又は負極要素に接続されている。正極の端子35A及び負極の端子35Bは、端子本体部36と、その下面中心部分から下方に突出する軸部37とからなる。そのうち、正極の端子35Aの端子本体部36と軸部37とは、アルミニウム(単一材料)によって一体成形されている。負極の端子35Bにおいては、端子本体部36がアルミニウム製で、軸部37が銅製であり、これらを組み付けたものである。正極の端子35A及び負極の端子35Bの端子本体部36は、蓋25の両端部に絶縁材料からなるガスケット39を介して配置され、このガスケット39から外方へ露出されている。蓋25は、
図3に示すように、圧力開放弁41を有している。圧力開放弁41は、ケース23の内圧が制限値を超えた時に、開放して、ケース23の内圧を下げる。
【0021】
2.蓄電装置20の電気的構成
図5は蓄電装置20のブロック図である。蓄電装置20は、一対の外部端子58Aと外部端子58Bと、組電池21と、保護回路60とを備える。組電池21は、複数の二次電池22から構成されている。組電池21は、定格12Vである。
【0022】
組電池21の正極と外部端子58Aとの間、組電池21の負極と外部端子58Bの間は、それぞれ電力供給経路としてのパワーラインPLにより接続されている。
【0023】
この例では、蓄電装置20の負荷であるスタータ12が、一対の外部端子58A、58Bに対して接続されている。スタータ12は、モータ等から構成され、蓄電装置20から供給される電力により駆動して、エンジンEを始動させる。スタータ12は、抵抗成分Rとインダクタンス成分Lとを有している。一対の外部端子58A、58Bには、スタータ12と並列にオルタネータ11が接続されている。
【0024】
保護回路60は、回路基板46(
図2)上に実装されている。保護回路60は、
図5に示すように一対の第1開閉器61と第2開閉器62を備える。第1開閉器61と第2開閉器62は、直列に接続されている。第1開閉器61と第2開閉器62は、例えば比較的大電流の通電が可能なパワーFET(Field effect transistor)でもよい。この例では、パワーFETは、Nチャネルであるが、Pチャンネルでもよい。
【0025】
第1開閉器61と第2開閉器62とは、いわゆるバックツーバック接続(back-to-back接続)されており、2つの開閉器61、62のドレイン同士が接続されている。バックツーバック接続は、2つのFETのドレイン同士又はソース同士を接続する接続方法である。
【0026】
第1開閉器61のゲートG(制御端子)は、ゲート抵抗RG1を介して、第1駆動回路71に接続されている。つまり、第1駆動回路71からゲートGへの信号ラインにゲート抵抗RG1を有している。第1開閉器61のソースは、負極の外部端子58Bに接続されている。また、第1開閉器61のゲートGと基準電位(組電池21の負極)の間には抵抗RAが接続されている。
【0027】
第2開閉器62のゲートG(制御端子)は、ゲート抵抗RG2を介して、第2駆動回路72に接続されている。つまり、第2駆動回路72からゲートGへの信号ラインにゲート抵抗RG2を有している。第2開閉器62のソースは、シャント抵抗RSを介して組電池21の負極に電気的に接続されている。シャント抵抗RSには電流計75が並列に接続されている。電流計75は、蓄電装置20の電流を検出する。また、第2開閉器62のゲートGと基準電位(組電池21の負極)の間には抵抗RBが接続されている。
【0028】
第1駆動回路71は、管理部70からの制御信号に基づき、第1開閉器61にゲート信号GS1を出力して第1開閉器61のオープン、クローズを切り替える。第2駆動回路72は、管理部70からの制御信号に基づき、第2開閉器62にゲート信号GS2を出力して第2開閉器62のオープン、クローズを切り替える。
【0029】
ゲートGにハイレベルの電圧が印加されると、第1開閉器61はクローズし、ロウレベルの電圧が印加されると、第1開閉器61はオープンする。第2開閉器62も同様である。
【0030】
蓄電装置20は、管理部70と、電圧検出回路74を有している。電圧検出回路74は、各二次電池22の電圧と、組電池21の総電圧を検出する。
【0031】
管理部70は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリを備える。管理部70は、二次電池22の電圧等に基づいて蓄電装置20の監視処理を行うとともに、駆動回路71、72に制御信号を出力し、第1開閉器61及び第2開閉器62のオープン、クローズを制御する。
【0032】
第1開閉器61及び第2開閉器62の双方がクローズの場合、組電池21は充電、放電の双方が可能である。管理部70は、正常時、第1開閉器61及び第2開閉器62をクローズ(normally close)に制御する。管理部70は、蓄電装置20の異常を検出した場合、第1開閉器61及び第2開閉器62のオープン、クローズを切り換えることで充放電を制御する。
【0033】
電流計75により過電流を検出した場合、管理部70は、第1駆動回路71を介して第1開閉器61をオープン、第2駆動回路72を介して第2開閉器62をオープンする。第1開閉器61と第2開閉器62をオープンすることで、過電流を遮断できる。
【0034】
電圧検出回路74及び電流計75の検出結果により過充電を検出した場合、管理部70は、第1駆動回路71を介して第1開閉器61をオープン、第2駆動回路72を介して第2開閉器62をクローズする。第1開閉器61をオープンし、第2開閉器62をクローズすることで、充電を遮断し、放電のみ行うことが出来る。この場合、放電電流は、第1開閉器61の寄生ダイオード及び第2開閉器62のドレイン-ソースの電流経路で流れる。第1開閉器61は、放電の遮断機能はなく、蓄電装置20の充電を遮断するスイッチである。
【0035】
電圧検出回路74及び電流計75の検出結果により過放電を検出した場合、管理部70は、第1駆動回路71を介して第1開閉器61をクローズ、第2駆動回路72を介して第2開閉器62をオープンする。第1開閉器61をクローズし、第2開閉器62をオープンすることで、放電電流を遮断し、充電電流のみ受け入れることが出来る。この場合、充電電流は、第1開閉器61のドレイン-ソース及び第2開閉器62の寄生ダイオードの電流経路で流れる。第2開閉器62は、充電電流の遮断機能はなく、蓄電装置20の放電電流を遮断する。
【0036】
3.サージを吸収するための構成
一対の開閉器61及び開閉器62をオープンして電流を遮断すると、スタータ12のインダクタンス成分による逆起電力によりサージが発生する。以下、サージを吸収するための構成について説明する。
【0037】
一対の開閉器61及び開閉器62は、ソース-ドレイン間の耐圧Vdss(例えば40[V])を超えるサージが発生すると、寄生ダイオードのアバランシェ降伏が発生することによる不具合が懸念される。そのため、一対の開閉器61、62を備えて蓄電装置20を保護する保護回路60に対して、保護素子を設けている。保護素子は、サージ電圧を耐圧Vdss以下に抑えて一対の開閉器61、62をサージから保護する素子である。
【0038】
保護回路60は、一対の開閉器61及び開閉器62と、コンデンサ63(「第1保護素子」の一例)と、ツェナーダイオード65(「第1保護素子」の一例)と、フリーホイールダイオード66(「第2保護素子」の一例)と、を備える。
【0039】
コンデンサ63は、一方のリード部(端子)が第1開閉器61のソースSに接続され、他方のリード部(端子)が第2開閉器62のソースに接続されている。コンデンサ63は、一対の開閉器61及び開閉器62に対して並列に接続されている。コンデンサ63は、セラミックを誘電体とするセラミックコンデンサでもよい。本実施形態のセラミックコンデンサの容量は10μFである。
【0040】
コンデンサ63は、ツェナーダイオード65やフリーホイールダイオード66が働くまでの短時間の高周波サージを基準電位(組電池の負極)にバイパスさせる。コンデンサ63は、セラミックコンデンサに限られず、電気分解によって陽極にできる酸化皮膜を誘電体としたアルミ電解コンデンサ、陽極にタンタルを用いたタンタルコンデンサ、有機電解液を使用し、活性炭電極表面に形成される電気二重層を誘電体とする電気二重層コンデンサ等を用いてもよい。
【0041】
ツェナーダイオード65には、ツェナーダイオード64が直列に接続されている。一対のツェナーダイオード64、65は、互いのカソードが同電位で接続されている。
【0042】
ツェナーダイオード64のアノードは、第1開閉器61のソースSに接続され、他方のツェナーダイオード65のアノードは、第2開閉器62のソースSに接続されている。各ツェナーダイオード64、65のツェナー電圧、つまり、逆方向の降伏電圧は、第1開閉器61及び第2開閉器のドレイン-ソース間の耐圧Vdssよりも低い。この例では、各ツェナーダイオード64、65のツェナー電圧は、27[V]である。
【0043】
ツェナーダイオード65は、放電遮断時のサージに対し、開閉器62のドレイン-ソース間の電圧を、定電圧にする定電圧ダイオードであり、開閉器62のドレイン-ソース間の電圧を耐圧Vdss以下に抑える。
【0044】
一対のツェナーダイオード64、65が互いに対向する向きで配置されるため、充電遮断時と放電遮断時の双方について、サージを吸収することができる。
【0045】
フリーホイールダイオード(還流ダイオード)66は、一対の外部端子58A及び外部端子58Bに対して並列に接続されている。つまり、アノードを負極の外部端子58Bに接続し、カソードを正極の外部端子58Aに接続している。フリーホイールダイオード66は、放電電流を遮断した時に発生するサージを、負荷であるスタータ12に還流させる役割を果たす。
【0046】
フリーホイールダイオード66は、正常時に逆方向の電流を流さないように、ツェナー電圧は、外部端子58A、58B間の正常時の最大電圧よりも高い。
【0047】
ツェナーダイオード64、65及びフリーホイールダイオード66の電流量や定格電力は、例えば、最大ロック電流や短絡電流を遮断した時に発生するサージを、2つの素子で吸収できるように選定してもよい。
【0048】
4.保護回路60の動作
スタータ12がロックすると、蓄電装置20にロック電流(例えば500[A]以上)が流れる。電流計75が閾値を超える過電流を検出すると、管理部70は、一対の開閉器61及び開閉器62をオープンして、パワーラインPLの電流を遮断する。このとき、スタータ12のインダクタンス成分Lにより、サージ電圧:L×dI/dtが発生する。Lが5μH、遮断時間が5μsecの場合、サージ電圧は、500[V]であり、開閉器61、62の耐電圧をオーバーする。
【0049】
2つの開閉器61、62をオープンして放電電流を遮断した場合、発生するサージに対して、第1開閉器61の寄生ダイオードは順方向であるため、第1開閉器61のドレイン-ソース間の電圧は寄生ダイオードの電圧降下分とほぼ等しい。一方、第2開閉器62の寄生ダイオードは逆方向であるため、ドレイン-ソース間の電圧は、サージにより上昇する。従って、放電電流の遮断時は、第2開閉器62の電圧上昇を抑える必要である。
【0050】
図7の比較例(コンデンサ63、ツェナーダイオード64、65とフリーホイールダイオード66が設けられていない回路)では、
図8に示すように、開閉器61及び開閉器62をオープンして電流を遮断したときのサージにより、開閉器62のドレイン-ソース間電圧が急激に上昇する(
図8の試験では47[V])。そのため、開閉器62に不具合が発生する可能性がある。
【0051】
図5に示す本実施形態の保護回路60は、コンデンサ63、ツェナーダイオード64、65及びフリーホイールダイオード66を有しており、これら3種の素子が、放電電流を遮断したときに発生するサージから第2開閉器62を保護する。
【0052】
コンデンサ63によるサージの吸収は、他の2つの保護素子に比べて、応答が最も速い。ツェナーダイオード65によるサージの吸収と、フリーホイールダイオード66によるサージの還流は、(1)式に示すように応答時間Ta、Tbに差があり、ツェナーダイオード65が先に働いてサージを吸収し、その後、フリーホイールダイオード66が働いてサージをスタータ12に還流する。
【0053】
Ta<Tb・・・・・(1)
Taは、サージの発生後、ツェナーダイオード65がサージを吸収するまでの時間である。Taは一例として、数usecである。
Tbは、サージの発生後、フリーホイールダイオード66がサージをスタータ12に還流させるまでの時間である。Tbは一例として、約40usecである。
【0054】
フリーホイールダイオード66の応答時間Tbが、ツェナーダイオード65の応答時間Taに比べて遅い理由は、二次電池22や配線のインダクタンス成分Lによる逆起電力により、サージ発生直後、組電池21の正極の電圧が高いことが原因の一つと推察される。
【0055】
図6は、第2開閉器62のゲート電圧の波形と、第2開閉器62のドレイン-ソース間の電圧の波形である。
【0056】
時刻t0で電流を遮断した後、第2開閉器62のドレイン-ソース間には、サージが加わるため、電圧が上昇するが、コンデンサ63により立ち上がりが緩やかになる(
図5の(i),
図6のt0)。そして、コンデンサ63が充電されると、ツェナーダイオード64、65にサージが流れ、ツェナーダイオード65により定電圧とされることで、サージが吸収される(
図5の(ii)、
図6のTa)。これにより、第2開閉器62のドレイン-ソース間電圧の上昇が抑制され(
図6では37[V])、第2開閉器62(パワーFET)のドレイン-ソース間の電圧は、耐圧Vdss(40[V])の範囲に抑えることができる。
【0057】
そして、時刻t0で電流を遮断してから応答時間Tbがほぼ経過すると、フリーホイールダイオード66が働いて、サージは、フリーホイールダイオード66を流れて、スタータ12に還流する(
図5の(iii))。フリーホイールダイオード66を通じて、サージをスタータ12に還流させることで、第2開閉器62に加わるサージを低減することが出来るため、第2開閉器62のドレイン-ソース間の電圧上昇を抑制できる。
【0058】
5.本実施形態の作用、効果
本実施形態によれば、コンデンサ63及びツェナーダイオード65でサージを吸収し、フリーホイールダイオード66によりサージをスタータ12に還流させる。これにより、放電電流が遮断されたときに発生するサージから開閉器61及び開閉器62を保護することが出来る。
【0059】
コンデンサ63及びツェナーダイオード65(第1保護素子)によるサージの吸収は、フリーホイールダイオード66(第2保護素子)によるサージの還流より、応答が速い。
このようにすれば、電流遮断によるサージの発生後、フリーホイールダイオード66が働き始めるまでの間、第2開閉器62に加わるサージを、コンデンサ63及びツェナーダイオード65(第1保護素子)が吸収するので、第2開閉器62の電圧が上昇することを抑制することが出来、ドレイン-ソース間の電圧を、耐圧Vsdd以下に抑制できる。また、フリーホイールダイオード66が働き始めると、サージはフリーホイールダイオード66を通ってスタータ12に還流するので、ツェナーダイオード65が定格電力をオーバーして、故障することを抑制できる。
【0060】
第1保護素子は、複数であって、一対の開閉器61及び開閉器62に対して、並列に接続されたコンデンサ63と、一対の開閉器61及び開閉器62に対して、並列に接続されたツェナーダイオード65と、を備える。このようにすれば、コンデンサ63によりサージの立上りが緩やかになるようにサージを吸収し、コンデンサ63で吸収しきれないサージについては、ツェナーダイオード65で吸収することができる。
【0061】
開閉器61及び開閉器62のゲートGには、ゲート抵抗RG1及びゲート抵抗RG2が接続されている。ゲート抵抗RG1、RG2を設けた場合、抵抗がない場合に比べて、スイッチング時間が長くなる。そのため、電流変化が小さくなることから、サージを小さくすることが出来る。また、ゲート抵抗RG1、RG2の抵抗値を任意の値にすることにより、サージの波形や時定数を調節することができる。サージの波形を緩やかにすることで、開閉器の電圧上昇を抑制することができる。ゲート抵抗RG1,RG2の抵抗値を変えることでコンデンサ63と同様の効果を得ることができる。
【0062】
<他の実施形態>
本明細書に記載された技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、蓄電素子の一例として、二次電池22を例示した。蓄電素子は、二次電池22に限らず、キャパシタでもよい。二次電池22は、リチウムイオン二次電池に限らず他の非水電解質二次電池でもよい。また、鉛蓄電池などを使用することも出来る。蓄電素子は、複数を直並列に接続する場合に限らず、直列の接続や、単セルの構成でもよい。
【0063】
(2)上記実施形態では、蓄電装置20をエンジン始動用とした。蓄電装置20の使用用途は、特定の用途に限定されない。蓄電装置20は、移動体用(車両用や船舶用、無人搬送車(AGV)など)や、産業用(無停電電源システムや太陽光発電システムの蓄電装置)など、種々の用途に使用してもよい。
【0064】
(3)上記実施形態では、蓄電装置20として二輪車用を例に説明したが、これに限られず、例えば電気自動車やハイブリッド自動車等の車両の蓄電装置でもよい。
【0065】
(4)上記実施形態では、第1開閉器61と第2開閉器62に対して2種類の第1保護素子を並列に接続した。つまり、コンデンサ63と、一対のツェナーダイオード64、65を並列に接続した。第1保護素子は、コンデンサとツェナーダイオードのうち、いずれか一方だけでもよい。
【0066】
(5)第1保護素子は、コンデンサ63やツェナーダイオード64、65に代えて、バリスタを用いてもよい。バリスタは、2つの電極を有し、両電極間の電圧が低い場合には電気抵抗が高いが、ある程度以上に電圧が高くなると急激に電気抵抗が低くなる性質を有する電子部品である。
【0067】
(6)実施形態1では、ツェナーダイオード65と直列にツェナーダイオード64を設けたが、ツェナーダイオード64を廃止して、ツェナーダイオード6のみにしてもよい。
【0068】
(7)実施形態1では、第1保護素子によるサージの吸収は、第2保護素子によるサージの還流よりも、応答が速かった。応答速度は同じでもよい。
【0069】
(8)実施形態1では、第1開閉器61と第2開閉器62を設けたが、第1開閉器61は廃止して、第2開閉器62のみ設けてもよい。第2開閉器62により、放電電流のみ遮断してもよい。開閉器は、FET等の半導体スイッチに限らず、リレーなど機械式の接点を有する機械スイッチでもよい。
【0070】
(9)実施形態1では、第1開閉器61と第2開閉器62を、組電池21の負極に配置したが、正極に配置してもよい。
【符号の説明】
【0071】
10: 自動二輪車
12: スタータ(負荷)
20: 蓄電装置
21: 組電池
22: 二次電池
58A: 正極の外部端子
58B: 負極の外部端子
60: 保護回路
61: 第1開閉器
62: 第2開閉器
63: コンデンサ(第1保護素子)
64、65: ツェナーダイオード(第1保護素子)
66: フリーホイールダイオード(第2保護素子)
71: 第1駆動回路
72: 第2駆動回路
L: インダクタンス成分
PL: パワーライン
R: 抵抗成分