(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
G03G15/20 510
(21)【出願番号】P 2019230620
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】藤本 一平
(72)【発明者】
【氏名】山口 嘉紀
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉永 洋
【審査官】小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-169467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回動可能な無端ベルト状の定着部材と、
前記定着部材を加熱する熱源と、
前記定着部材の内側に配置される非回転のニップ形成部材と、
前記定着部材の熱移動を補助する熱移動補助部材と、
前記定着部材の外側で、前記ニップ形成部材と対向して配置され、該定着部材との間にニップ部を形成する加圧部材と、を備え、未定着画像を担持した記録媒体を前記ニップ部に通して定着を行う定着装置において、
前記熱移動補助部材は、前記定着部材と当接する当接部と、該当接部の前記定着部材の回動方向上流側及び下流側に延在した折曲部と、を有し、
前記折曲部は、前記熱移動補助部材の長手方向の中央部を含む領域に、短手方向の端辺までの長さを短縮する切欠部が形成されて
おり、
前記熱移動補助部材に形成された前記切欠部の長手方向の幅が、通紙可能な最小サイズの前記記録媒体の幅と略同一であることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
回動可能な無端ベルト状の定着部材と、
前記定着部材を加熱する熱源と、
前記定着部材の内側に配置される非回転のニップ形成部材と、
前記定着部材の熱移動を補助する熱移動補助部材と、
前記定着部材の外側で、前記ニップ形成部材と対向して配置され、該定着部材との間にニップ部を形成する加圧部材と、を備え、未定着画像を担持した記録媒体を前記ニップ部に通して定着を行う定着装置において、
前記熱移動補助部材は、前記定着部材と当接する当接部と、該当接部の前記定着部材の回動方向上流側及び下流側に延在した折曲部と、を有し、
前記折曲部は、前記熱移動補助部材の長手方向の中央部を含む領域に、短手方向の端辺までの長さを短縮する切欠部が形成されており、
前記熱源は、長手方向中央部を含む領域が発熱する中央熱源と、長手方向端部側の領域が発熱する端部熱源とを備え、
前記熱移動補助部材に形成された前記切欠部の長手方向の幅が、通紙可能な最小サイズの前記記録媒体の幅よりも大きく、かつ前記中央熱源の発熱領域の幅と略同一であることを特徴とする定着装置。
【請求項3】
前記熱移動補助部材と前記ニップ形成部材とを位置決め固定する位置決め部材を有し、
前記位置決め部材は、前記折曲部の前記切欠部が形成されていない領域に嵌合する部材であることを特徴とする請求項
1または2に記載の定着装置。
【請求項4】
回動可能な無端ベルト状の定着部材と、
前記定着部材を加熱する熱源と、
前記定着部材の内側に配置される非回転のニップ形成部材と、
前記定着部材の熱移動を補助する熱移動補助部材と、
前記定着部材の外側で、前記ニップ形成部材と対向して配置され、該定着部材との間にニップ部を形成する加圧部材と、を備え、未定着画像を担持した記録媒体を前記ニップ部に通して定着を行う定着装置において、
前記熱移動補助部材は、前記定着部材と当接する当接部と、該当接部の前記定着部材の回動方向上流側及び下流側に延在した折曲部と、を有し、
前記折曲部は、前記熱移動補助部材の長手方向の中央部を含む領域に、短手方向の端辺までの長さを短縮する切欠部が形成されており、
前記熱移動補助部材と前記ニップ形成部材とを位置決め固定する位置決め部材を有し、
前記位置決め部材は、前記折曲部の前記切欠部が形成されていない領域に嵌合する部材であることを特徴とする定着装置。
【請求項5】
前記熱源は、長手方向中央部を含む領域が発熱する中央熱源と、長手方向端部側の領域が発熱する端部熱源とを備え、
前記熱移動補助部材に形成された前記切欠部の長手方向の幅が、前記中央熱源の発熱領域の幅よりも大きく、かつ前記端部熱源の両側の発熱領域が含まれる最大幅よりも小さいことを特徴とする請求項
4に記載の定着装置。
【請求項6】
回動可能な無端ベルト状の定着部材と、
前記定着部材を加熱する熱源と、
前記定着部材の内側に配置される非回転のニップ形成部材と、
前記定着部材の熱移動を補助する熱移動補助部材と、
前記定着部材の外側で、前記ニップ形成部材と対向して配置され、該定着部材との間にニップ部を形成する加圧部材と、を備え、未定着画像を担持した記録媒体を前記ニップ部に通して定着を行う定着装置において、
前記熱移動補助部材は、前記定着部材と当接する当接部と、該当接部の前記定着部材の回動方向上流側及び下流側に延在した折曲部と、を有し、
前記折曲部は、前記熱移動補助部材の長手方向の中央部を含む領域に、短手方向の端辺までの長さを短縮する切欠部が形成されており、
前記切欠部は、前記熱移動補助部材の長手方向の中央部を含む領域にのみ形成され、前記熱移動補助部材の長手方向の両端部には形成されていないことを特徴とする定着装置。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれかに記載の定着装置を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置では、電子写真記録・静電記録・磁気記録等の画像形成プロセスにより画像が形成され、画像転写方式又は直接方式により未定着トナー画像が記録媒体に形成される。未定着トナー画像を定着させるための定着装置としては、記録媒体に形成されたトナー像を、無端ベルト状の定着部材(定着ベルト)と加圧ローラとの間のニップ部において加熱及び加圧し、定着処理を実行するものが知られている。
【0003】
ニップ部では加圧ローラが定着ベルトを介してニップ形成部材に押圧され、定着ベルトの内周面はニップ形成部材と摺動する。なお、ニップ形成部材は、定着ベルトの熱を拡散移動させる熱移動補助部材を備える態様が知られている。
【0004】
熱源による加熱範囲よりも小さなサイズの記録媒体が通紙される場合、非通紙領域は記録媒体に熱を奪われないため熱量過多(非通紙部温度上昇)となり、定着部材の劣化が進んで寿命が短くなるという問題があった。
これに対し、熱伝導率の大きい材料からなる熱移動補助部材を配設し、定着部材の長手方向の温度偏差を低減することで非通紙部温度上昇を抑制する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
一方、熱移動補助部材を設けることにより熱が拡散し、定着ベルトの端部温度が低下するという問題があった。
これに対し、定着部材端部の温度を検知する部材を設け、該端部温度検知部材が検知する対象部位の熱移動補助部材の熱容量を、該対象部位外よりも大きくする技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2の定着装置によれば、定着ベルトの長手方向におけるウォームアップ直後の温度を均一化することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、熱移動補助部材を熱伝導率の大きい材料で構成し、定着ベルトの長手方向温度偏差を低減することにより、小サイズの記録媒体の通紙時に生じる非通紙部温度上昇を抑制し、小サイズ紙の連続生産性を高めることができる。
【0007】
しかしながら、高い熱伝導率の熱移動補助部材は定着ベルトから熱を奪いやすいため、ウォームアップ時間が長くなる課題がある。
また、熱移動補助部材は定着ベルトとニップ部において摺動する部材であるため、定着装置に配設されたとき、定着ベルトに干渉することなく、安定した回転の障害とならないことが求められる。
【0008】
そこで本発明は、ウォームアップ時間を短縮するとともに、小サイズの記録媒体の連続通紙時における非通紙部温度上昇を防止することができ、かつ定着ベルトの安定した回転性が得られる定着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の定着装置は、回動可能な無端ベルト状の定着部材と、前記定着部材を加熱する熱源と、前記定着部材の内側に配置される非回転のニップ形成部材と、前記定着部材の熱移動を補助する熱移動補助部材と、前記定着部材の外側で、前記ニップ形成部材と対向して配置され、該定着部材との間にニップ部を形成する加圧部材と、を備え、未定着画像を担持した記録媒体を前記ニップ部に通して定着を行う定着装置において、前記熱移動補助部材は、前記定着部材と当接する当接部と、該当接部の前記定着部材の回動方向上流側及び下流側に延在した折曲部と、を有し、前記折曲部は、前記熱移動補助部材の長手方向の中央部を含む領域に、短手方向の端辺までの長さを短縮する切欠部が形成されており、前記熱移動補助部材に形成された前記切欠部の長手方向の幅が、通紙可能な最小サイズの前記記録媒体の幅と略同一であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ウォームアップ時間を短縮するとともに、小サイズの記録媒体の連続通紙時における非通紙部温度上昇を防止することができ、かつ定着ベルトの安定した回転性が得られる定着装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
【
図2】本実施形態に係る定着装置の構成例を示す概略断面図である。
【
図3】従来の熱移動補助部材の一例を示す外観模式図である。
【
図4】熱移動補助部材が金属製の場合と樹脂製の場合のウォームアップ時間を比較したグラフである。
【
図5】第一の実施形態に係る熱移動補助部材の切欠部を示す説明図である。
【
図6】第二の実施形態に係る熱移動補助部材の切欠部を示す説明図である。
【
図7】第三の実施形態に係る熱移動補助部材の切欠部を示す説明図である。
【
図8】定着ベルトの非通紙部過昇温時に、加熱部材の温度制御を行った場合の定着ベルトの温度分布を示す説明図である。
【
図10】熱移動補助部材とニップ形成部材との位置決めの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る定着装置及び画像形成装置について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0013】
[画像形成装置]
図1は、本発明の実施形態にかかる画像形成装置の概略構成を説明する図である。
図1に示した画像形成装置100は、複数の色画像を形成する作像部がベルトの展張方向に沿って並置されたタンデム方式のカラープリンタある。なお、本発明はこの方式に限られず、またプリンタだけではなく複写機やファクシミリ装置などを対象とすることも可能である。
【0014】
画像形成装置100は、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色に分解された色にそれぞれ対応する像としての画像を形成可能な像担持体としての感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkを並設したタンデム構造が採用されている。
【0015】
画像形成装置100では、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに形成された可視像が、各感光体ドラムに対峙しながら矢印A1方向に移動可能な無端ベルトである中間転写体(以下、転写ベルトという)11に対して1次転写される。この1次転写工程の実行によってそれぞれの色の画像が重畳転写され、その後、記録媒体(例えば、記録シート等)Sに対して2次転写工程を実行することで一括転写される。
【0016】
各感光体ドラムの周囲には、感光体ドラムの回転に従い画像形成処理するための装置が配置されている。ブラック画像形成を行う感光体ドラム20Bkを代表として説明すると、感光体ドラム20Bkの回転方向に沿って画像形成処理を行う帯電装置30Bk、現像
装置40Bk、1次転写ローラ12Bkおよびクリーニング装置50Bkが配置されている。帯電後に行われる書き込み光Lbを用いた書き込みには、光書き込み装置8が用いられる。
【0017】
転写ベルト11に対する重畳転写では、転写ベルト11がA1方向に移動する過程において、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに形成された可視像が、転写ベルト11の同じ位置に重ねて転写される。このために、転写は、転写ベルト11を挟んで各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに対向して配設された1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkによる電圧印加によって、A1方向上流側から下流側に向けてタイミングをずらして行われる。
【0018】
各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkは、A1方向の上流側からこの順で並んでいる。各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkは、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの画像をそれぞれ形成するための画像ステーションに備えられている。
【0019】
画像形成装置100は、色毎の画像形成処理を行う4つの画像ステーションと、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkの上方に対向して配設され、転写ベルト11及び1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkを備えた転写ベルトユニット10と、転写ベルト11に対向して配設され転写ベルト11に従動し、連れ回りする2次転写ローラ5と、転写ベルト11に対向して配設され転写ベルト11をクリーニングするベルトクリーニング装置13と、これら4つの画像ステーションの下方に対向して配設された光書き込み装置8とを有している。
【0020】
光書き込み装置8は、光源としての半導体レーザ、カップリングレンズ、fθレンズ、トロイダルレンズ、折り返しミラーおよび偏向手段としての回転多面鏡などを装備している。光書き込み装置8は、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに対して色毎に対応した書き込み光Lbを出射して感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに静電潜像を形成するよう構成されている。書き込み光Lbは、
図1では、便宜上、ブラック画像の画像ステーションのみを対象として符号が付けてあるが、その他の画像ステーションも同様である。
【0021】
画像形成装置100には、感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkと転写ベルト11との間に向けて搬送される記録媒体Sを積載した給紙カセットとしてのシート給送装置61が設けられている。また、シート給送装置61から搬送されてきた記録媒体Sを、画像ステーションによるトナー像の形成タイミングに合わせた所定のタイミングで、各感光体ドラムと転写ベルト11との間の転写部に向けて繰り出すレジストローラ対4が設けられている。また、記録媒体Sの先端がレジストローラ対4に到達したことを検知するセンサが設けられている。
【0022】
また、画像形成装置100には、トナー像が転写された記録媒体Sにトナー像を定着させるためのローラ定着方式の定着ユニットとしての定着装置200と、定着済みの記録媒体Sを画像形成装置100の本体外部に排出する排出ローラ7が備えられている。また、画像形成装置100の本体上部には、排出ローラ7により画像形成装置100の本体外部に排出された記録媒体Sを積載する排紙トレイ17が備えられている。また、排紙トレイ17の下側には、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色のトナーを充填されたトナーボトル9Y、9C、9M、9Bkが備えられている。
【0023】
転写ベルトユニット10は、転写ベルト11、1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkの他に、転写ベルト11が掛け回されている駆動ローラ72及び従動ローラ73を有している。
【0024】
従動ローラ73は、転写ベルト11に対する張力付勢手段としての機能も備えており、このため、従動ローラ73には、バネなどを用いた付勢手段が設けられている。このような転写ベルトユニット10と、1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkと、2次転写ローラ5と、クリーニング装置13とで転写装置71が構成されている。
【0025】
シート給送装置61は、画像形成装置100の本体下部に配設されており、最上位の記録媒体Sの上面に当接する給送ローラ3を有している。給送ローラ3が図中反時計回りに回転駆動されることにより、最上位の記録媒体Sをレジストローラ対4に向けて給送するようになっている。
【0026】
転写装置71に装備されているクリーニング装置13は、詳細な図示を省略するが、転写ベルト11に対向、当接するように配設されたクリーニングブラシとクリーニングブレードとを有している。クリーニング装置13は、転写ベルト11上の残留トナー等の異物をクリーニングブラシとクリーニングブレードとにより掻き取り、除去して、転写ベルト11をクリーニングするようになっている。
クリーニング装置13はまた、転写ベルト11から除去した残留トナーを搬出し廃棄するための排出手段を有している。
【0027】
[定着装置]
図2は、本発明の実施形態に係る定着装置を示す概略構成図である。
図2に示した定着装置200は、回動可能な無端ベルト状の定着部材(以下、「定着ベルト」ともいう)201と、定着部材201を加熱する熱源202と、定着部材201の内側に配置される非回転のニップ形成部材206と、定着部材201の熱移動を補助する熱移動補助部材216と、定着部材201の外側で、ニップ形成部材206と対向して配置され、該定着部材201との間にニップ部Nを形成する加圧部材(加圧ローラ)203と、を備え、未定着画像を担持した記録媒体Sをニップ部Nに通して定着を行う。
【0028】
定着ベルト201は、複数の熱源(ハロゲンヒータ)202A,202Bにより内周側から輻射熱で直接加熱される。
また、定着ベルト201の温度を検知するため、温度センサ230A,230Bが取り付けられ、非接触で定着ベルト201の温度を検知し、その検知温度によってそれぞれの熱源202A,202Bの点灯率を制御し、定着ベルト201の温度を所望の温度に制御している。すなわち、温度センサ230A,230Bによる検知温度がそれぞれ所定の検知目標温度となるように、制御手段がそれぞれの熱源202A,202Bの発熱(熱源への通電)を制御する。
以下、複数の熱源を区別しないときは、単に「熱源202」と表す。
【0029】
図2の定着ベルト201の内側には、加圧ローラ203に対向して配置されたニップ形成部材206と、ニップ形成部材206の定着ベルト201の内面に対向する面を覆う熱移動補助部材216と、ニップ形成部材206を加圧ローラ203からの加圧力に対抗して保持するステー部材207とを有している。
ニップ形成部材206は、定着ベルト201を介して加圧ローラ203との間でニップ部Nを形成し、定着ベルト内面と熱移動補助部材216を介して間接的に摺動するようになっている。ニップ部Nにトナー像が担持された記録媒体Sを通過させることにより記録媒体上のトナーを熱により溶融させ加圧により記録媒体に定着させる。
【0030】
熱移動補助部材216の定着ベルト201との接触面には、摩擦係数の低い摺動コーティングが施されている。摺動コーティングとしては、例えば、フッ素コーティングや、耐摩耗性の高いDLC(ダイヤモンドライクカーボン)等のガラスコーティング等が挙げられる。
【0031】
また、熱移動補助部材216の定着ベルト201との接触面には潤滑剤が塗布される。潤滑剤としては、耐熱温度の高いフッ素グリスもしくはシリコーンオイルが適当である。フッ素グリスは基油となるフッ素オイルに増ちょう剤を分散させてゲル状にした潤滑剤であり、粘度がオイルより高いため摺動部からの流出対策として有効である。
【0032】
熱移動補助部材216は、熱が局所的に留まることを防止し、積極的に長手方向に熱を移動させて長手方向の温度不均一性を低減するために設けられている。
このため、熱移動補助部材216の材料としては、短時間で熱移動が可能な材料が好ましく、例えば、熱伝導率の高い銅、アルミニウム、銀等が挙げられる。これらのうち、コスト面、入手性、熱伝導率特性、加工性を総合的に考慮すると、銅が最も好ましい。
本実施形態では、熱移動補助部材216の定着ベルト201に直接接触する面がニップ形成面となる。
なお、本実施形態に係る熱移動補助部材216の詳細については後述する。
【0033】
定着ベルト201は、ニッケルやSUSなどの金属ベルトやポリイミドなどの樹脂材料を用いた無端ベルトまたはフィルムで構成される。ベルトの表層はPFAまたはPTFE層などの離型層を有し、トナーが付着しないように離型性を持たせている。ベルトの基材とPFAまたはPTFE層の間にはシリコーンゴムの層などで形成された弾性層があっても良い。シリコーンゴム層がない場合は熱容量が小さくなり、定着性が向上するが、未定着画像を押し潰して定着させるときにベルト表面の微小な凹凸が画像に転写されて画像のベタ部にユズ肌状の光沢ムラ(ユズ肌画像)が残るという不具合が生じ得る。これを改善するにはシリコーンゴム層を100[μm]以上設ける必要がある。シリコーンゴム層の変形により、微小な凹凸が吸収されユズ肌画像が改善する。
【0034】
定着ベルト201の熱移動補助部材216と摺動する面には、上述のように摺動コーティングを施すことができるが、この場合耐熱性や耐摩耗性を考慮し、ポリイミドやポリアミドイミドなどの材料を選択することができる。
【0035】
ステー部材207はニップ部N側と反対側が起立した起立部を有した形状となっており、起立部を隔て、熱源202A、202Bが配置され、定着ベルト201は熱源202によりニップ部以外の領域で内面側から輻射熱で直接加熱される。
【0036】
定着ベルト201の内部にはニップ形成部材206とニップ部Nを支持するための支持部材としてのステー部材207を設け、加圧ローラ203により圧力を受けるニップ形成部材206の撓みを防止し、軸方向で均一なニップ幅を得られるようにしている。このステー部材207は両端部で保持部材としてのフランジに保持固定され位置決めされている。
また、熱源202とステー部材207の間に反射部材209を備え、熱源202からの輻射熱などによりステー部材207が加熱されてしまうことによる無駄なエネルギー消費を抑制している。
【0037】
また、反射部材209を設けることで、お互いのヒータが相手のガラス管を加熱しないようにすることで、効率的に定着ベルト201を加熱することができる。反射部材209は、熱源202の熱を吸収しないように、放射率が低い材料で形成されている。
なお、反射部材209を備える代わりに、ステー部材207表面に断熱もしくは鏡面処理を行っても同様の効果を得ることが可能となる。
【0038】
加圧ローラ203は芯金205に弾性ゴム層204があり、離型性を得るために表面に離型層(PFAまたはPTFE層)が設けてある。加圧ローラ203は、画像形成装置に設けられたモータなどの駆動源からギヤを介して駆動力が伝達され回転する。また、加圧ローラ203は、スプリングなどにより定着ベルト201側に押し付けられており、弾性ゴム層204が押し潰されて変形することにより、所定のニップ幅を有している。加圧ローラ203は中空のローラであっても良く、加圧ローラ203にハロゲンヒータなどの加熱源を有していても良い。弾性ゴム層204はソリッドゴムでも良いが、加圧ローラ203内部にヒータが無い場合は、スポンジゴムを用いても良い。スポンジゴムの方が、断熱性が高まり定着ベルトの熱が奪われにくくなるので、より望ましい。
【0039】
定着ベルト201は加圧ローラ203により連れ回り回転する。
図2の場合は加圧ローラ203が駆動源により回転し、ニップ部Nでベルトに駆動力が伝達されることにより定着ベルト201が回転する。定着ベルト201はニップ部Nで挟み込まれて回転し、ニップ部以外では両端部でフランジにガイドされ、走行する。
上記のような構成により安価で、ウォームアップが速い定着装置を実現することが可能となる。
【0040】
[熱移動補助部材]
従来の熱移動補助部材216の形状の一例を
図3に示す。
熱移動補助部材216は、定着ベルト201と当接する当接部216aと、定着ベルト201の回動方向上流側及び下流側に延在した折曲部216b、216cを有し、短手方向端部が定着ベルト201と干渉しないよう、長手方向に垂直な横断面でコの字形状(凹状断面)となっている。
【0041】
熱移動補助部材216の定着ベルト201の回動方向上流側(ニップ部入口側)の折曲部216bは、下流側(ニップ部出口側)の折曲部216cに比べてゆるやかな曲面となっている。折曲部216bが急峻な形状であると、角部が定着ベルト201内面に対して線接触し、この線接触部が定着ベルト201の内面に高負荷を与え、歪みや破損を発生させてしまうことがある。
【0042】
一方、下流側(ニップ部出口側)には、定着装置に配設されたとき加圧ローラ203側へ突出する突出部216dを有する。突出部216dを有することにより、定着ベルト201の走行軌跡がニップ部出口において加圧ローラ203側へ向けられ、搬送される記録媒体の分離性を高めることができる。
【0043】
熱移動補助部材216の長手方向の長さは、加圧ローラ203よりも長くすることにより、熱移動補助部材216の長手方向端部エッジが加圧ローラ203に接触するのを防止することができる。
【0044】
熱移動補助部材216はニップ部に配置されることから強度が要求され、厚みとしては0.6mm~1.0mmであることが好ましい。
【0045】
上述のように、熱移動補助部材216は、長手方向に垂直な横断面がコの字形状(凹状断面)であり、長手方向の長さが加圧ローラ203よりも長く、かつ一定の厚みを有する部材とすることにより、熱容量が大きくなってしまうという課題があった。
【0046】
図4は、熱移動補助部材216が金属製の場合と樹脂製の場合のウォームアップ時間を比較したグラフである。
図4に示すように、熱移動補助部材216が金属製の場合、熱源により加熱された定着ベルト201の熱をニップ部で熱移動補助部材216が奪ってしまうため、樹脂製の場合と比べて定着ベルト201の昇温速度が遅く、ウォームアップ時間が長くなってしまう。これは、熱移動補助部材216として、熱伝導率の高い材料(例えば、アルミニウム、銅等)を用いた場合に顕著になる。
【0047】
熱移動補助部材216が金属製の場合、熱容量を小さくするために切欠部を設けることは有効である。しかしながら、切欠部を設けることにより均熱性は低下してしまうため、熱源であるハロゲンヒータの配熱分布や通紙される記録媒体の幅に応じて、切欠部の形成位置やサイズを適宜設定する必要がある。
【0048】
また、切欠部を定着ベルト201に当接する領域に形成すると、エッジが当接するなどして安定した回動を阻害するおそれがある。そこで、本発明に係る定着装置が備える熱移動補助部材216は、定着ベルト201とは当接しない折曲部に切欠部を形成することにより、定着ベルト201の回動を阻害することなく熱容量の低減を実現している。
【0049】
本実施形態に係る熱移動補助部材216は、
図9に示すように、定着ベルト201と当接する当接部216aと、当接部216aの定着ベルト201の回動方向上流側及び下流側に延在した折曲部216b、216cと、を有し、折曲部216b、216cは、熱移動補助部材の長手方向の中央部を含む領域に、短手方向の端辺までの長さを短縮する切欠部217が形成されている。
切欠部217は、少なくとも折曲部216b及び216cのいずれか一方に形成されていればよいが、折曲部216b及び216cのいずれにも形成されていることが好ましい。
切欠部217を折曲部216b及び216cの両方に形成することで、定着ベルト201の回動を阻害することなく、更に熱容量を大きく低減することができる。
【0050】
図9(A)及び
図9(B)に基づき、本実施形態に係る熱移動補助部材216の切欠部217について説明する。
図9(A)は熱移動補助部材216の外観斜視図、
図9(B)は本実施形態に係る定着装置の要部構成図である。
まず、熱移動補助部材216の短手方向と平行な直線上に以下の点A~Dを規定する。
・点A:折曲部216bの定着ベルト201の回動方向上流側端辺上の点
・点B:折曲部216cの定着ベルト201の回動方向下流側端辺上の点
・点C:当接部216aの定着ベルト201の回動方向上流側端辺上の点
・点D:当接部216aの定着ベルト201の回動方向下流側端辺上の点
そして、点Aと点Cの間の長さをL1、点Bと点Dの間の長さをL2としたとき、熱移動補助部材216の長手方向中央部を含む一定の領域に、L1及び/又はL2が短縮された領域を有する。当該領域が切欠部217に相当する。
【0051】
定着ベルト201は円筒状の部材であり、加圧ローラ203からの加圧により内側に変形するため、ニップ部Nの出口から一旦外側へ膨らむ軌道をとり、熱移動補助部材216から離れる。その後定着ベルト201の長手方向両端部に配置されるフランジ部材により引張られることにより熱移動補助部材216の上記点C及び点Dで接触する。
このとき、特に点Cにおける当接は、定着ベルト201が熱移動補助部材216に強く接触し、しごかれるようになるため破損しやすくなる。そのため、点Cにおける接触圧が小さくなるように熱移動補助部材216の形状を工夫することが好ましい。
【0052】
なお、点Cと点Dの間の長さはいずれの領域においても短縮されない。これにより、定着ベルト201と当接部216aとの接触位置や接触面積は変化しないため、定着ベルト201の安定した回動が維持される。
また切欠部217は、
図9に示すように折曲部216b、216cに形成されることにより、定着ベルト201の内周面が切欠部端部のエッジで傷つくことがない。
【0053】
L1及び/又はL2の長さを0に近づけることにより、すなわち切欠部217の短手方向の長さを長くすることにより、熱容量を低減し、ウォームアップ時間を短縮することができる。
【0054】
熱移動補助部材216の切欠部217が形成された領域は、他の領域に比べて均熱性が低下することとなる。均熱性低下による弊害を防止するため、切欠部217の幅や形成位置は、熱源の配熱分布や通紙される記録媒体の紙幅に応じて適宜設定する必要がある。
以下、熱移動補助部材216に形成さえる切欠部217の長手方向の幅について
図5~
図7に基づき説明する。
【0055】
(第一の実施形態)
第一の実施形態に係る熱移動補助部材216を
図5に示す。
図5の上部は、熱源202を構成する中央熱源Ha及び端部熱源Hbの長手方向における発熱領域を示す模式図である。中央熱源Haは長手方向中央部を含む領域が発熱し、端部熱源Hbは長手方向端部側の領域が発熱する。
【0056】
図5に示す熱移動補助部材216に形成された切欠部217の長手方向の幅P1は、通紙可能な最小サイズの記録媒体Sの幅と略同一である。なお、本実施形態の最小サイズの通紙幅としては、はがきサイズの記録媒体を基準としている。
【0057】
小サイズの記録媒体を通紙した場合の非通紙部過昇温は、熱源202による被加熱範囲内の通紙幅の外側で発生する。よって、最小通紙幅内において過昇温が生じることはなく、当該最小通紙幅内に切欠部217を形成して均熱性が低下しても問題とならない。
【0058】
(第二の実施形態)
第二の実施形態に係る熱移動補助部材216を
図6に示す。
図6の上部は、
図5と同様、熱源202を構成する中央熱源Ha及び端部熱源Hbの長手方向における発熱領域を示す模式図である。
【0059】
図6に示す熱移動補助部材216に形成された切欠部217の長手方向の幅P2は、通紙可能な最小サイズの記録媒体Sの幅よりも大きく、かつ中央熱源Haの発熱領域Qの幅と略同一である。
【0060】
本実施形態において、はがきサイズの記録媒体Sを通紙した場合、その通紙幅の外側で少なくとも中央熱源Haの発熱領域Qにおいて非通紙部昇温が発生する。このような場合は、端部熱源Hbの点灯量を低下させるか、端部熱源Hbをオフにする制御を行うことにより非通紙部昇温の発生を抑制することができる。
【0061】
ここで、非通紙部昇温時における定着ベルト201の温度分布について
図8に基づき説明する。
図8中、実線は端部熱源Hbの点灯量を低下させるか、オフにする制御を行った場合の温度分布を示し、破線はそのような制御を行わなかった場合の温度分布を示している。
図8に示すように、端部熱源Hbの制御を行った場合は、中央熱源Haによる発熱領域Qの外側において過昇温が発生することなく、温度勾配も大きくなっている。
よって、
図6の実施形態のように中央熱源Haの発熱領域Qに対応する部位に切欠部217を形成し、当該部分の均熱性が低下しても、外側(端部側)領域において熱拡散が十分に行われることにより非通紙部昇温の発生を抑制可能であることがわかる。
【0062】
(第三の実施形態)
第三の実施形態に係る熱移動補助部材216を
図7に示す。
図7の上部は、
図5及び
図6と同様、熱源202を構成する中央熱源Ha及び端部熱源Hbの長手方向における発熱領域を示す模式図である。
【0063】
図7に示す熱移動補助部材216に形成された切欠部217の長手方向の幅P3は、中央熱源Haの発熱領域の幅Qよりも大きく、かつ端部熱源Hbの両側の発熱領域が含まれる最大幅Rよりも小さい。
【0064】
図7の実施形態態様では切欠部217の幅P3が大きく、熱移動補助部材216の均熱性はやや損なわれるが、一方で定着装置のウォームアップ時間は短縮される。
【0065】
本発明者らは、熱移動補助部材216による熱拡散について、通紙される記録媒体の紙幅の内側方向へも熱の移動がみられ、その領域が約20mmであることを確認した。
よって、所望の生産性を確保することが求められる通紙サイズの紙幅に対し、両側約20mm減じた幅を基準に切欠部217を形成すればよい。このとき、通紙サイズは想定される最大の記録媒体(例えば、ダブルレターサイズ等の長尺な記録媒体)を基準とすることができる。
なお、切欠部217の幅は、ウォームアップ時間の短縮とのバランスで適宜選択、設計することができる。
【0066】
[位置決め部材]
図10は、熱移動補助部材216とニップ形成部材206の位置決め方法を示す説明図である。
図10(A)は熱移動補助部材216とニップ形成部材206の外観斜視図、
図10(B)はX1-X1断面図、
図10(C)はX2-X2断面図、
図10(D)はニップ形成部材206側から見た平面図である。
図10(A)中のX1-X1は切欠部217を含む短手方向の断面であり、X2-X2は切欠部217が形成されていない領域の短手方向の断面である。
【0067】
熱移動補助部材216はニップ形成部材206に対し、ニップ部Nを形成する当接面216aにおいてのみ当接し、側面の折曲げ部216b、216cは当接しないことが好ましい。接触面積を小さくすることで、熱移動補助部材216の熱がニップ形成部材206に拡散してウォームアップ時間が長くなるのを防ぐことができる。
この場合、ニップ形成部材206を固定するために位置決め部材218を配設し、短手方向の位置を固定することが好ましい。
【0068】
図10に示すように、本実施形態の定着装置は、熱移動補助部材216とニップ形成部材206とを位置決め固定する位置決め部材218を有し、位置決め部材218は、熱移動補助部材216の折曲部(216b、216c)の切欠部217が形成されていない領域に嵌合する部材である。
【0069】
位置決め部材218は、熱移動補助部材216に対する接触面積が小さいことが好ましく、例えば、
図10(C)及び(D)に示すように、熱移動補助部材216の切欠部217が形成されていない折曲部216b、216cに嵌合するような部材が挙げられる。
なお、位置決め部材218は、長手方向中央部に対して対称になるよう、少なくとも一対配置することが好ましい。
【0070】
切欠部217が形成されていない領域においては、熱移動補助部材216の均熱性が要求される。これに対し、位置決め部材218が設けられた領域は、熱移動補助部材216の熱が位置決め部材218を介してニップ形成部材206に拡散されることになるが、非通紙部の熱を逃がす効果も得られるため、ウォームアップ時間に影響しない限り、均熱性が維持される観点では好ましい。
【0071】
上述の実施形態に係る熱移動補助部材216を備えることにより、本発明に係る定着装置はウォームアップ時間を短縮するとともに、小サイズの記録媒体の連続通紙時における非通紙部温度上昇を防止することができ、かつ定着ベルトの安定した回転性が得られる。
【符号の説明】
【0072】
100 画像形成装置
200 定着装置
201 定着ベルト
202 熱源
203 加圧ローラ
206 ニップ形成部材
216 熱移動補助部材
216a 当接部
216b 折曲部(ニップ部入口側)
216c 折曲部(ニップ部出口側)
217 切欠部
218 位置決め部材
【先行技術文献】
【特許文献】
【0073】
【文献】特開2016-33636号公報
【文献】特開2018-169467号公報