(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】接合部材
(51)【国際特許分類】
C08L 53/02 20060101AFI20240109BHJP
C08K 5/5425 20060101ALI20240109BHJP
C08K 5/01 20060101ALI20240109BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20240109BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
C08L53/02
C08K5/5425
C08K5/01
C08L23/10
C08J3/24 A CES
C08J3/24 CET
(21)【出願番号】P 2020049491
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】水野 正志
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-182387(JP,A)
【文献】特開昭58-132032(JP,A)
【文献】特開2018-059113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08J3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、(B)、(C)及び(D)を含む熱可塑性エラストマー組成物
よりなる接合部材。
成分(A):下記一般式(I)で示される数平均分子量が8000以下のシラン化合物
【化1】
(一般式(I)中、Xはアルコキシ基又はハロゲン基であり、Yはビニル基
又はメタクリロキシ
基を有する有機基であり、Rはアルキル基であり、nは0~2の整数である。)
成分(B):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、ブタジエンを含む少なくとも1個の重合体ブロックとを有するブロック共重合体、及び/又は該ブロック共重合体の水素添加物
成分(C):炭化水素系ゴム用軟化剤
成分(D):プロピレン系重合体
【請求項2】
前記一般式(I)のXがアルコキシ基である、請求項
1に記載の
接合部材。
【請求項3】
前記アルコキシ基がメトキシ基又はエトキシ基である、請求項
2に記載の
接合部材。
【請求項4】
前記一般式(I)のnが0である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の
接合部材。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマー組成物が、前記成分(B)100質量部に対して前記成分(A)を3~10質量部含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の
接合部材。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマー組成物が架橋剤反応生成物を含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の
接合部材。
【請求項7】
請求項
1~6のいずれか一項に記載の接合部材を備える自動車用複合成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法と、この熱可塑性エラストマー組成物よりなる接合部材、この接合部材を用いた自動車用複合成形体に関する。詳しくは、架橋ゴムへの融着性が良好かつ摺動性にも優れた熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法と、この熱可塑性エラストマー組成物よりなる接合部材と、この接合部材を用いた自動車用複合成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂及びスチレン-ブタジエンブロック共重合体を動的熱処理して得られる熱可塑性エラストマー組成物は、ゴム的な軟質材料としての特性を示しながらも加硫工程が不要であり、熱可塑性樹脂と同様の成形加工性を有するものである。このため、このような熱可塑性エラストマー組成物は、製造工程の合理化やリサイクル性等の観点から注目され、自動車部品、家電用品、医療用機器部品、電線、雑貨等の分野で広く使用されている。特に、この熱可塑性エラストマー組成物は、自動車用シール材や建材用シール材としての用途において多用されてきている。
【0003】
自動車用シール材や建材用シール材に用いられる部材は複雑な構造を有しており、部材同士を接合して、目的の部材が製造されている。部材同士を接合するために、接着剤等を用いるかわりに、接合部材を介して接合させる技術が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、動的架橋熱可塑性エラストマーよりなる部材同士を接合するために、特定の熱可塑性エラストマー組成物よりなる接合部材を用いる技術が開示されている。前記接合部材として用いられる熱可塑性エラストマー組成物は、特定粘度のスチレン-ブタジエン系非水添ブロック共重合体とスチレン-ブタジエン系水添ブロック共重合体と炭化水素系ゴム用軟化剤とポリプロピレン系樹脂を含むものである。特許文献1には、この熱可塑性エラストマー組成物は、エラストマーとして十分な引張性能を保ちつつ、優れた摺動性及び動的架橋熱可塑性エラストマーとの融着性を有し、成形加工性に加え、高温での圧縮永久歪(へたり性)も良好であると記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、架橋ゴム成形体同士を十分に融着させる自動車用複合成形体用の接合コーナー部材の熱可塑性エラストマーを得るための技術として、オレフィン系共重合ゴムと結晶性エチレン系共重合体及びポリプロピレン系樹脂を一定の比率で混合し、動的架橋する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-131722号公報
【文献】特開2003-155386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、過酷環境下においても異音や接着剥がれのない耐久性を有する架橋ゴム部材の需要が増している中で、接合部材を構成する熱可塑性エラストマー組成物には、摺動性及び架橋ゴムとの融着性が良好であることが求められている。
【0008】
上記特許文献1に記載されている熱可塑性エラストマー組成物からなる接合部材は、エラストマーよりなる部材への融着性は良好であるが、架橋ゴム部材への融着性が十分でないことがわかった。
【0009】
接着技術に関しては、熱可塑性エラストマーは、ポリプロピレン系樹脂(PP)をマトリクス相とし、ゴムをドメイン相とする海島構造をとっていることから、同じマトリクス相(海相)を有する熱可塑性エラストマー同士の熱融着は比較的容易であるが、マトリクス相にPPを有していない架橋ゴムと熱可塑性エラストマーとの熱融着は、一般に熱可塑性エラストマー同士の熱融着よりも難易度が高い。
【0010】
特許文献2に記載されている熱可塑性エラストマー組成物よりなる接合部材は、架橋ゴムへの融着性は良好であるが、自動車用複合成形体の接合部材として必要な摺動性については言及されていない。
【0011】
このように、従来において、摺動性及び架橋ゴムへの融着性を両立し、自動車用複合成形体の接合部材として好適な熱可塑性エラストマー組成物は提供されていないのが現状である。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、摺動性に優れ、架橋ゴムへの融着性も良好な熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法と、この熱可塑性エラストマー組成物よりなる接合部材及びこの接合部材を用いた自動車用複合成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、ブタジエンを含む少なくとも1個の重合体ブロックとを有するブロック共重合体と炭化水素系ゴム用軟化剤とプロピレン系重合体と、特定分子量及び特定の構造のシラン化合物を含有する熱可塑性エラストマー組成物が、架橋ゴムへの融着性が良好になるばかりか摺動性の向上にも有効であるという、従来全く知られていなかった新規知見を得、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0015】
[1] 下記成分(A)、(B)、(C)及び(D)を含む熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):下記一般式(I)で示される数平均分子量が8000以下のシラン化合物
【0016】
【0017】
(一般式(I)中、Xはアルコキシ基又はハロゲン基であり、Yはビニル基、ビニレン基、メタクリロキシ基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ウレイド基、及びエポキシ基から選択される一つ以上の官能基を有する有機基であり、Rはアルキル基であり、nは0~2の整数である。)
成分(B):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、ブタジエンを含む少なくとも1個の重合体ブロックとを有するブロック共重合体、及び/又は該ブロック共重合体の水素添加物
成分(C):炭化水素系ゴム用軟化剤
成分(D):プロピレン系重合体
【0018】
[2] 前記一般式(I)のYが有する官能基がビニル基又はメタクリロキシ基である、[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0019】
[3] 前記一般式(I)のXがアルコキシ基である、[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0020】
[4] 前記アルコキシ基がメトキシ基又はエトキシ基である、[3]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0021】
[5] 前記一般式(I)のnが0である、[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0022】
[6] 前記成分(B)100質量部に対して前記成分(A)を3~10質量部含む、[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0023】
[7] 前記熱可塑性エラストマー組成物が架橋剤反応生成物を含む、[1]~[6]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0024】
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物よりなる接合部材。
【0025】
[9] [8]に記載の接合部材を備える自動車用複合成形体。
【0026】
[10] 下記成分(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)を溶融混練する工程を含む熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
成分(A):下記一般式(I)で示される数平均分子量が8000以下のシラン化合物
【0027】
【0028】
(一般式(I)中、Xはアルコキシ基又はハロゲン基であり、Yはビニル基、ビニレン基、メタクリロキシ基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ウレイド基、及びエポキシ基から選択される一つ以上の官能基を有する有機基であり、Rはアルキル基であり、nは0~2の整数である。)
成分(B):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、ブタジエンを含む少なくとも1個の重合体ブロックとを有するブロック共重合体、及び/又は該ブロック共重合体の水素添加物
成分(C):炭化水素系ゴム用軟化剤
成分(D):プロピレン系重合体
成分(E):架橋剤
【0029】
[11] 前記溶融混練する工程において、前記成分(B)100質量部に対して前記成分(E)を0.5~10.0質量部混合することを特徴とする[10]に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は摺動性に優れ、架橋ゴムへの融着性も良好であり、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いて、摺動性及び架橋ゴムへの融着性に優れた複合成形体用接合部材を良好な成形加工性のもとに得ることができる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなる接合部材は、その優れた摺動性及び架橋ゴムへの融着性と成形加工性から、自動車用シール材、建材用シール材として有用であり、特に自動車用グラスランチャンネル等の自動車用複合成形体の接合部材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明が適用される自動車用グラスランチャンネルの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0033】
〔熱可塑性エラストマー組成物〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、少なくとも下記成分(A)~(D)を含み、好ましくは、下記成分(E)の存在下で動的熱処理を行うことで製造される。
成分(A):下記一般式(I)で示される数平均分子量が8000以下のシラン化合物(以下、「シラン化合物(I)」と称す場合がある。)
【0034】
【0035】
(一般式(I)中、Xはアルコキシ基又はハロゲン基であり、Yはビニル基、ビニレン基、メタクリロキシ基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ウレイド基、及びエポキシ基から選択される一つ以上の官能基を有する有機基であり、Rはアルキル基であり、nは0~2の整数である。)
成分(B):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、ブタジエンを含む少なくとも1個の重合体ブロックとを有するブロック共重合体、及び/又は該ブロック共重合体の水素添加物
成分(C):炭化水素系ゴム用軟化剤
成分(D):プロピレン系重合体
成分(E):架橋剤
【0036】
[メカニズム]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、摺動性に優れ、架橋ゴムへの融着性も良好であるという効果を奏する。
【0037】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物がこのような効果を奏する理由の詳細は定かではないが、シラン化合物(I)の添加によって熱可塑性エラストマー組成物の表面にシリル基が形成されることで、熱融着時の架橋ゴムとの接着表面での分子の絡み合い効果が促進され、融着性が向上したと考えられる。また、シラン化合物のシリル基が滑剤としても機能したことで、摺動性が向上したと考える。
【0038】
[成分(A)]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる成分(A)は、下記一般式(I)で示される数平均分子量が8000以下のシラン化合物である。
【0039】
【0040】
(一般式(I)中、Xはアルコキシ基又はハロゲン基であり、Yはビニル基、ビニレン基、メタクリロキシ基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ウレイド基、及びエポキシ基から選択される一つ以上の官能基を有する有機基であり、Rはアルキル基であり、nは0~2の整数である。)
【0041】
上記一般式(I)において、Yは、ビニル基、ビニレン基、メタクリロキシ基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ウレイド基、及びエポキシ基から選択される一つ以上の官能基を有する有機基である。
ビニル基を有する有機基としては、H2C=CH-という構造を持つ1価のものであればよい。
ビニレン基を有する有機基としては、-HC=CH-という構造を持つ2価のものであればよく、ブタジエンポリマーから誘導される有機基等が挙げられる。
メタクリロキシ基を有する有機基としては、3-メタクリロキシプロピル基、8-メタクリロキシオクチル基が挙げられる。
【0042】
成分(D)のプロピレン系重合体に示されるようなオレフィン系樹脂との相溶性の観点から、Yはビニル基を有する有機基、メタクリロキシ基を有する有機基であることが好ましい。
【0043】
上記一般式(I)において、Xは、アルコキシ基又はハロゲン基であり、好ましくはアルコキシ基である。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1~3のアルコキシ基が挙げられる。反応速度(加水分解速度)の観点からメトキシ基、エトキシ基が好ましい。ハロゲン基としては、Cl、Br、F等のハロゲン基が挙げられる。
【0044】
nは0~2の整数であるが、反応速度(加水分解速度)の観点から、nは0であることが好ましい。
なお、nが0又は1で一般式(I)中にXが2以上ある場合、複数のXは同一であってもよく、異なるものであってもよい。
【0045】
上記一般式(I)において、Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~3のアルキル基が挙げられる。
【0046】
上記一般式(I)で示されるシラン化合物(I)の数平均分子量は8000以下である。上記一般式(I)で示されるシラン化合物であっても数平均分子量が8000を超える高分子量のものでは、分子量が大き過ぎるために熱可塑性エラストマー組成物表面側に存在しにくく、このためシリル基を熱可塑性エラストマー組成物表面に形成し得ないことから、摺動性、融着性の改善効果を得ることはできない。摺動性と融着性の両立の観点から、シラン化合物(I)の数平均分子量は好ましくは1000以下、より好ましくは350以下である。シラン化合物(I)の数平均分子量の下限は170程度である。
なお、シラン化合物(I)の数平均分子量は、シラン化合物(I)がモノマーの場合は、シラン化合物(I)を構成する原子の原子量の合計に該当し、ポリマーの場合は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求めたポリスチレン換算の値である。
【0047】
シラン化合物(I)としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有シラン化合物;シラン変性ブタジエンポリマー等のビニレン基含有シラン化合物;3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のメタクリロキシ基含有シラン化合物;N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩等のアミノ基含有シラン化合物;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基含有シラン化合物;3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基含有シラン化合物;3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン等のウレイド含有シラン化合物;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有シラン化合物;が挙げられるが何らこれらに限定されるものではない。
【0048】
これらのシラン化合物(I)は市販品を用いることもでき、シラン化合物(I)の市販品としては、信越化学工業社のシランカップリング剤「KBM」シリーズ、「KBE」シリーズなどが挙げられる。
なお、これらのシランカップリング剤については、分子中に2個以上の異なった反応基、即ち、無機質材料と化学結合する反応基と、有機質材料と化学結合する反応基とを有することにより、有機質材料と無機質材料を結ぶ仲介役として働き、このため、樹脂とフィラーの複合化において混合時の分散性を高め、複合材料の機械的強度、耐水性、耐熱性、透明性、接着性などを向上させるとされているが、このような効果とは全く異なる「熱可塑性エラストマー組成物における摺動性と架橋ゴムへの融着性の向上」という異質の効果については知られていない。
【0049】
これらのうち、ビニル基含有シラン化合物、メタクリロキシ含有シラン化合物が好ましい。
【0050】
これらのシラン化合物(I)は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の成分(A)の含有量は、摺動性と架橋ゴムへの融着性の向上効果を十分に得る観点から、成分(B)100質量部に対して、好ましくは3~10質量部であり、より好ましくは5~9質量部、更に好ましくは6~8質量部である。成分(A)の含有量が上記下限以上であれば摺動性及び架橋ゴムへの融着性の向上効果に優れ、上記上限以下であれば、過剰なシラン化合物(I)のブリードによる外観劣化を抑制することができる。
【0052】
[成分(B)]
本発明で用いる成分(B)は、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、ブタジエンを含む少なくとも1個の重合体ブロックとを有するブロック共重合体、及び/又は該ブロック共重合体の水素添加物である。以下、成分(B)のブロック共重合体及び/又はその水素添加物を「(水添)ブロック共重合体」と記載する場合がある。
【0053】
ここで、「ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック」とは、ビニル芳香族化合物を主体とする単量体を重合したブロックを意味し、「ブタジエンを含む重合体ブロック」とは、ブタジエンを含む単量体を重合したブロックを意味する。また、「ビニル芳香族化合物を主体とする」とは、ビニル芳香族化合物を50モル%以上含むことを意味する。
【0054】
成分(B)のビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックを構成する単量体のビニル芳香族化合物は限定されないが、スチレン及び/又はα-メチルスチレンなどのスチレン誘導体が好ましい。中でも、スチレンを主体とすることが好ましい。なお、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックには、ビニル芳香族化合物以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
【0055】
成分(B)のブタジエンを含む重合体ブロックには、ブタジエン以外の単量体、例えばイソプレンが原料として含まれていてもよい。
【0056】
成分(B)のブロック共重合体における「ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック」の重量割合は限定されないが、5質量%上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、一方、55質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることが更に好ましい。
【0057】
成分(B)のブロック共重合体の化学構造は直鎖状、分岐状又は放射状等の何れであってもよいが、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体である場合が好ましく、機械的強度向上の観点から、より好ましくは下記式(1)の構造である。
【0058】
P-(Q-P)m (1)
(P-Q)n (2)
(式中Pはビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックを、Qはブタジエンを含む重合体ブロックをそれぞれ表し、mは1~5の整数を表し、nは2~5の整数を表す。
ブロックP、ブロックQがそれぞれ複数存在する場合に、それらの化合物単位はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0059】
式(1)又は(2)においてm及びnは、ゴム的高分子体としての秩序-無秩序転移温度を下げる点では大きい方がよいが、製造のしやすさ及びコストの点では小さい方がよい。
【0060】
本発明で用いる成分(B)は、組成物のゴム弾性の観点から、式(1)で表されるブロック共重合体であることが好ましく、mが3以下である式(1)で表されるブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(1)で表されるブロック共重合体が更に好ましく、mが1である式(1)で表されるブロック共重合体が最も好ましい。
【0061】
本発明で用いる成分(B)は、ブロックPと、ブロックQとを有するブロック共重合体の水素添加物であってもよい。この場合、式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物であることが好ましく、mが3以下である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物であることがより好ましく、mが2以下である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物であることが更に好ましく、mが1である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物が最も好ましい。
【0062】
成分(B)の(水添)ブロック共重合体の数平均分子量は限定されないが、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと略記する場合がある)により測定したポリスチレン換算の値として、100,000以上であることが好ましく、より好ましくは150,000以上、更に好ましくは200,000以上であり、600,000以下であることが好ましく、より好ましくは550,000以下、更に好ましくは500,000以下である。
【0063】
成分(B)のビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、ブタジエンを含む少なくとも1個の重合体ブロックとを有する(水添)ブロック共重合体としては、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、スチレン・イソプレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物等が挙げられる。
スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物としては、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体(SEBS)が挙げられる。
スチレン・イソプレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物としてはスチレン・エチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体(SEEPS)が挙げられる。
これらの中でも、高い流動性が得られ、融着性が良好になる傾向があることからスチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物が好ましい。
【0064】
成分(B)のブロック共重合体の市販品としては、台湾合成ゴム(TSRC)社製「TAIPOL(登録商標)-6151」、「TAIPOL(登録商標)-6159」、クレイトンポリマージャパン株式会社製「G1651」、「G1633」、クラレ社製「セプトン(登録商標)4099」等が挙げられる。
【0065】
上記の成分(B)の(水添)ブロック共重合体は、1種のみを用いてもよく、組成や物性の異なるものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0066】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(B)の含有率は、成分(B)~成分(D)の合計100質量%に対し、成形性の観点から、下限は、通常28.0質量%以上であり、28.5質量%以上であることが好ましく、29.3質量%以上であることがより好ましい。一方、上限は、通常40.0質量%以下であり、38.8質量%以下であることが好ましく、38.5質量%以下であることがより好ましい。
【0067】
[成分(C)]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる成分(C)は、炭化水素系ゴム用軟化剤である。
【0068】
成分(C)の炭化水素系ゴム用軟化剤としては、鉱物油系軟化剤、合成樹脂系軟化剤等が挙げられるが、他の成分との親和性の観点から鉱物油系軟化剤が好ましい。鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30~45%がナフテン系炭化水素であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素であるものが芳香族系オイルと各々呼ばれている。これらの中で、本発明においては、パラフィン系オイルを用いることが好ましい。
【0069】
成分(C)の炭化水素系ゴム用軟化剤の40℃における動粘度は特に限定されないが、好ましくは20cSt以上、より好ましくは50cSt以上であり、また、好ましくは800cSt以下、より好ましくは600cSt以下である。また、炭化水素系ゴム用軟化剤の引火点(COC法)は、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上である。
【0070】
成分(C)の炭化水素系ゴム用軟化剤は市販品として入手することができる。該当する市販品としては、例えば、JX日鉱日石エネルギー社製「日石ポリブテン(登録商標)HV」シリーズ、出光興産社製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW」シリーズが挙げられ、これらの中から該当品を適宜選択して使用することができる。
【0071】
成分(C)の炭化水素系ゴム用軟化剤は1種のみを用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0072】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物中の成分(C)の含有量の下限は、成分(B)100質量部に対し、成形性の観点から、通常100質量部以上であり、好ましくは102量部以上であり、より好ましくは104質量部以上である。また、成分(B)の含有量の上限は、成分(A)100質量部に対し、柔軟性の観点から、通常140質量部以下であり、好ましくは138質量部以下であり、より好ましくは136質量部以下である。
【0073】
[成分(D)]
本発明で用いる成分(D)のプロピレン系重合体(以下「プロピレン系重合体(D)」と称す場合がある。)としては、プロピレン系重合体(D)を構成する単量体単位中にプロピレン単位を50質量%以上含有するものであればよいが、耐熱性、剛性、結晶性、耐薬品性等の観点から、プロピレン系重合体(D)中のプロピレン単位の含有率は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。一方、プロピレン単位の含有率の上限については特に限定されず、100質量%であってもよい。
なお、成分(D)中のプロピレン単位、以下に記載する他の共重合成分の各構成単位の含有率は、赤外分光法により求めることができる。
【0074】
プロピレン系重合体(D)の種類は特に限定されず、具体的にはプロピレンの単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・エチレンブロック共重合体等のプロピレン・エチレン共重合体を挙げることができ、これらのいずれであっても使用することができる。
【0075】
プロピレン系重合体(D)のメルトフローレート(MFR)(JIS K7210、230℃、21.2N荷重)は、特に定めることはないが、通常0.05~200g/10分であり、0.05~100g/10分であることが好ましく、0.1~80g/10分であることがより好ましい。メルトフローレートを上記下限以上とすることで、成形性を良好にでき、得られる成形体の外観も良好なものとできる。また、上記上限以下とすることで、機械的特性、特に引張破壊強さを所望の範囲に維持しやすくなる。
【0076】
プロピレン系重合体(D)の融解ピーク温度は100~157℃であることが好ましい。
プロピレン系重合体(D)の融解ピーク温度が上記下限以上であると耐熱性の観点で好ましく、上記上限以下であると成分(B)との相溶性の観点で好ましい。
【0077】
なお、プロピレン系重合体(D)の融解ピーク温度は、JIS K7121に従い、以下の方法により測定することができる。
即ち、示差走査熱量計(エスエスアイ・ナノテクノロジー社製DSC6220)を用いて、以下の工程(1)~(3)を順に実施してポリプロピレン系樹脂の融解挙動を測定する。
各工程において横軸に時間、縦軸に融解熱量をプロットして融解曲線を取得し、工程(3)において観測されるピークのピークトップを融解ピーク温度とする。
工程(1):試料5mgを室温から100℃/分の速度で40℃から200℃まで昇温し、昇温終了後、3分間保持する。
工程(2):200℃から10℃/分の速度で40℃まで降温し、降温終了後、3分間保持する。
工程(3):40℃から10℃/分の速度で200℃まで昇温する。
【0078】
プロピレン系重合体(D)を製造するに際して使用される触媒については特に限定されないが、例えば、立体規則性触媒を使用する重合法が好ましい。立体規則性触媒としては、以下に限定されないが、例えば、チーグラー触媒やメタロセン触媒が挙げられる。これらの触媒の中でも、メタロセン触媒が好ましい。
【0079】
プロピレン系重合体(D)の製造方法としては、例えば、上記触媒の存在下に、不活性溶媒を用いたスラリー法、溶液法、実質的に溶媒を用いない気相法、あるいは重合モノマーを溶媒とするバルク重合法が挙げられる。例えば、スラリー法の場合には、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の不活性炭化水素又は液状モノマー中で行うことができる。重合温度は、通常-80~150℃であり、好ましくは40~120℃である。重合圧力は、1~60気圧が好ましい。得られるプロピレン系重合体(D)の分子量の調節は、水素又は他の公知の分子量調整剤で行うことができる。重合は連続式又はバッチ式反応で行い、その条件は通常用いられている条件でよい。更に重合反応は一段で行ってもよく、多段で行ってもよい。
【0080】
プロピレン系重合体(D)は、市販品を用いることができ、例えば、サンアロマー社製のポリプロピレンブロックコポリマー、日本ポリプロ社製のノバテック(登録商標)PP、ウェイマックス(WAYMAX(登録商標))が挙げられる。
【0081】
プロピレン系重合体(D)は1種のみを用いてもよく、共重合組成や物性等の異なる2種以上を混合して用いてもよい。
【0082】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物中の成分(D)の含有量の下限は、成分(B)100質量部に対し、成形性の観点から、通常60質量部以上であり、70質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることがより好ましい。一方、成分(D)の含有量の上限は、成分(B)100質量部に対し、成形品として十分な柔軟性のある硬度を得るという観点から通常140質量部以下であり、130質量部以下であることが好ましく、120質量部以下であることがより好ましい。
【0083】
[成分(E)]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(E)の架橋剤の存在下で動的熱処理を行うことにより得られる架橋剤反応生成物を含むものが好ましい。成分(E)の架橋剤の存在下で動的熱処理を行って、成分(B)の少なくとも一部を架橋することで、ゴム弾性を良好なものとすることができる。
【0084】
架橋剤としては、有機過酸化物、フェノール樹脂、その他の架橋助剤等を用いることができる。これらの架橋剤は1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい
【0085】
架橋剤として用いることのできる有機過酸化物としては、芳香族系有機過酸化物及び脂肪族系有機過酸化物のいずれも使用することが可能である。具体的には、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等のジアルキルパーオキシド類;t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)-3-ヘキシン等のパーオキシエステル類;アセチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、p-クロロベンゾイルパーオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキシド等のヒドロパーオキシド類が挙げられる。これらの中でも、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。これらの有機過酸化物は1種類のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
架橋剤として用いることのできるフェノール樹脂としては、アルキルフェノールホルムアルデヒド、臭化アルキルフェノールノールホルムアルデヒド等が挙げられる。これらのフェノール樹脂は1種類のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
有機過酸化物及びフェノール樹脂以外の架橋助剤としては、例えば、硫黄、p-キノンジオキシム、p-ジニトロソベンゼン、1,3-ジフェニルグアニジン等の過酸化物用助剤;塩化第一錫・無水物、塩化第一錫・二水和物、塩化第二鉄等のフェノール樹脂用架橋助剤;ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート等の多官能ビニル化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
成分(E)の使用量の下限は、成分(B)の合計100質量部に対して架橋反応及びシラン変性を十分に進行させる観点から、好ましくは0.5質量部以上であり、より好ましくは1.0質量部以上であり、更に好ましくは1.5質量部以上である。一方、成分(E)の使用量の上限は、成分(B)の合計100質量部に対し、架橋反応を制御する観点から、好ましくは10.0質量部以下であり、より好ましくは9.0質量部以下であり、更に好ましくは8.0質量部以下である。
【0089】
[その他の成分]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造には、成分(A)~(E)以外に本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分を原料として用いることができる。
【0090】
その他の成分としては、例えば、成分(B)及び成分(D)以外の熱可塑性樹脂やエラストマー等の樹脂、酸化防止剤、充填材、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、分散剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、金属不活性化剤、分子量調整剤、防菌剤、防黴材、蛍光増白剤等の各種添加物を挙げることができる。これらは任意のものを単独又は併用して用いることができる。
【0091】
成分(B)及び成分(D)以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のポリオキシメチレン系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリオレフィン樹脂(だだし、成分(D)に該当するものを除く。)を挙げることができる。また成分(B)及び成分(D)以外のエラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマー(ただし、成分(B)に該当するものを除く);ポリエステル系エラストマー;ポリブタジエンを挙げることができる。
【0092】
滑剤(以下、「成分(F)」と称す場合がある。)としては、例えば、シリコーンオイル、シリコーンマスターバッチ、液体シロキサンワックスが挙げられる。滑剤を用いる場合、滑剤は、成分(B)の合計100質量部に対して、通常0.5~50質量部、好ましくは1~25質量部の範囲で用いられる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)を用いることによる摺動性の向上効果によって滑剤の使用量を抑えることができるので、滑剤は、より好ましくは、成分(B)の合計100質量部に対して20質量部以下の少量添加とすることにより、融着性の低下を抑えながら、優れた摺動性が得られる。
【0093】
酸化防止剤(以下、「成分(G)」と称す場合がある。)としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤を用いる場合、酸化防止剤は、成分(B)の合計100質量部に対して、通常0.01~3.0質量部、好ましくは0.15~0.6質量部の範囲で用いられる。上記範囲であると良好な熱安定性が得られる。
【0094】
充填材としては、例えば、ガラス繊維、中空ガラス球、炭素繊維、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、チタン酸カリウム繊維、シリカ、金属石鹸、二酸化チタン、カーボンブラックが挙げられる。充填材を用いる場合、充填材は、成分(B)の合計100質量部に対して、通常0.3~100質量部で用いられる。
【0095】
[熱可塑性エラストマー組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、好ましくは、成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)及びその他の成分等を所定量含有する組成物を架橋剤である成分(E)の存在下で動的熱処理して得られる。
【0096】
本発明において「動的熱処理」とは架橋剤の存在下で溶融状態又は半溶融状態で混練することを意味する。この動的熱処理は、溶融混練によって行うのが好ましく、そのための溶融混練装置としては、例えば非開放型バンバリーミキサー、ミキシングロール、ニーダー、二軸押出機が用いられる。これらの中でも二軸押出機を用いることが好ましい。この二軸押出機を用いた製造方法の好ましい態様としては、複数の原料供給口を有する二軸押出機の原料供給口(ホッパー)に各成分を供給して動的熱処理を行うものである。
【0097】
動的熱処理を行う際の温度は、通常80~300℃、好ましくは100~250℃である。また、動的熱処理を行う時間は通常0.1~30分である。
【0098】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を二軸押出機により動的熱処理を行うことにより製造する場合においては、二軸押出機のバレル半径(R(mm))、スクリュー回転数(N(rpm))及び吐出量(W(kg/時))の間に下記式(i)の関係を保ちながら押出することが好ましく、下記式(ii)の関係を保ちながら押出することがより好ましい。
2.6<NW/R3<22.6 (i)
3.0<NW/R3<20.0 (ii)
【0099】
二軸押出機のバレル半径(R(mm))、スクリュー回転数(N(rpm))及び吐出量(W(kg/時))との間の前記関係が上記下限値より大きいことが熱可塑性エラストマー組成物を効率的に製造するために好ましい。一方、前記関係が上記上限値より小さいことが、剪断による発熱を抑え、外観不良の原因となる異物が発生しにくくなるために好ましい。
【0100】
[熱可塑性エラストマー組成物の物性]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、JIS K7210の規格に準拠した方法で測定温度230℃、測定荷重21.2Nで測定したメルトフローレート(MFR)が10g/10分以上であることが成形性の観点から好ましく、より好ましくは15g/10分以上であり、更に好ましくは20g/10分以上である。また、成形性の観点から、メルトフローレート(MFR)は、150g/10分以下であることが好ましく、145g/10分以下であることがより好ましく、140g/10分以下であることが更に好ましい。
【0101】
〔成形体・用途〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、通常、熱可塑性エラストマー組成物に用いられる成形方法、例えば、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形の各種成形方法により、成形体とすることができ、これらの中でも射出成形が好適である。また、これらの成形を行った後に積層成形、熱成形等の二次加工を行った成形体とすることもできる。
【0102】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形体は、表皮、ウェザーストリップ、天井材、内装シート、バンパーモール、サイドモール、エアスポイラー、エアダクトホース、シール材等の自動車部品;止水材、目地材、窓枠、シール材等の土木・建材部品;ゴルフクラブのグリップ部、テニスラケットのグリップ部等のスポーツ用品;ホースチューブ、ガスケット等の工業用部品;ホース、パッキン類等の家電部品;医療用容器、ガスケット、パッキン等の医療用部品;容器、パッキン等の食品用部品;医療用機器部品;電線;雑貨等の広汎な分野に適用することができる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形体は以上に挙げたものの中でも自動車用シール材、建材用シール材として好適であり、自動車用シール材、特に自動車用グラスランチャンネルとして好適である。
【0103】
〔接合部材〕
本発明の接合部材は、上述の本発明の熱可塑性エラストマー組成物よりなるものであり、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を溶融混練し、混練物を射出成形することにより製造される。
【0104】
特に本発明の接合部材は、自動車用グラスランチャンネル等の自動車用複合成形体に用いられる接合部材として好適である。
図1は、自動車用複合成形体3としての自動車用グラスランチャンネルの一例を示す斜視図であり、架橋ゴム部材1A,1Bを、本発明の接合部材2よりなるコーナー部で融着一体化させたものである。
【0105】
このような複合成形体3は、例えば、予め製作された架橋ゴム部材1A,1Bの接合端側を射出成形用金型に挿入し、この金型内に本発明の熱可塑性エラストマー組成物を射出成形してコーナー部の接合部材2を成形すると共に、架橋ゴム部材1A,1Bの端面と融着一体化することにより製造することができる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0107】
〔原材料〕
以下の実施例及び比較例で使用した原材料は以下の通りである。
【0108】
[成分(A):シラン化合物(I)]
<A-1>
ビニルトリエトキシシラン(数平均分子量190.3)/信越化学工業社製「KBE-1003」
<A-2>
ビニルトリメトキシシラン(数平均分子量148.2)/信越化学工業社製「KBM-1003」
<A-3>
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(数平均分子量248.4)/信越化学工業社製「KBM-503」
<A-4>
8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン(数平均分子量318.5)/信越化学工業社製「KBM-5803」
<A-5>
ブタジエンポリマー変性シラン(数平均分子量6200)/信越化学工業社製「X-12-1267B-ES」
【0109】
[成分(a):比較のシラン化合物]
<a-1>
スチレン-ブタジエンポリマー変性シラン(数平均分子量9500)/信越化学工業社製「X-12-1281B-ES」
【0110】
上記A-1~A-5及びa-1の構造は以下の通りである。
【0111】
【0112】
[成分(B):水添ブロック共重合体]
<B-1>
スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物(前記式(1)の構造を有する。スチレン(ブロックP)含有率:32質量%、数平均分子量:200,000)/台湾合成ゴム(TSRC)社製「TAIPOL-6151」
【0113】
[成分(C):炭化水素系ゴム用軟化剤]
<C-1>
パラフィン系ゴム用軟化剤(40℃の動粘度:95.5cSt、引火点:272℃)/出光興産株式会社製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」
【0114】
[成分(D)/プロピレン系重合体]
<D-1>
プロピレン・エチレンランダム共重合体(MFR(JIS K7210):30g/10分(230℃、21.2N)、融解ピーク温度:155℃、プロピレン単位含有率:98質量%)/日本ポリプロ株式会社製「ノバテック(登録商標)PP MG03BD」
【0115】
[成分(E):架橋剤]
<E-1>
2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン40質量部と炭酸カルシウム60質量部の混合物/化薬アクゾ株式会社製「カヤヘキサAD40C」
<E-2>
ジビニルベンゼン55質量部とエチルビニルベンゼン45質量部の混合物/和光純薬工業社製「ジビニルベンゼン」
【0116】
[成分(F):滑剤]
<F-1>
シリコーンオイル/信越化学工業社製「KF96-100CS」
【0117】
[成分(G):酸化防止剤]
<G-1>
フェノール系酸化防止剤/BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」
【0118】
[評価方法]
以下の実施例及び比較例における熱可塑性エラストマー組成物の評価方法は以下の通りである。
【0119】
なお、以下の(1)~(4),(6)の測定には、各熱可塑性エラストマー組成物を用い、インラインスクリュウタイプ射出成形機(東芝機械社製「IS130」)にて、射出圧力50MPa、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件で射出成形して得られたシート(横120mm、縦80mm、肉厚2mm)を使用した。
【0120】
(1)硬度デュロA:ISO 7619に準拠して、試験片に針を押し付けてから15秒後の値を測定した。
硬度デュロAは35~98、特に40~95の範囲であることが好ましい。
【0121】
(2)切断時引張応力:ISO37 Type1A(試験速度500mm/min)の切断時引張応力の測定法に準拠した手順で行った。
【0122】
(3)切断時伸び:ISO37 Type1A(試験速度500mm/min)の切断時伸びの測定法に準拠した手順で行った。
【0123】
(4)静摩擦係数と動摩擦係数
射出成形して得られたシート(横120mm、縦80mm、肉厚2mm)を縦63mm×横63mmの大きさに切り出し、そのテストピースを、ガラス板(縦110mm×横110mm×厚み3mm)の上にセットし、その上に荷重500gを載せて100mm/minの速度で30mm分移動させることで、静摩擦係数と動摩擦係数を測定した。動摩擦係数については、下記基準で評価した。
○:動摩擦係数 0.70未満
△:動摩擦係数 0.70以上0.80未満
×:動摩擦係数 0.80以上
(測定条件)
機器:新東科学社製「トライボギア Type:HEIDON-38」
測定モード:一定荷重測定
測定時温度:23℃
測定圧子:ASTM平面圧子
【0124】
(5)架橋ゴムとの融着強度
厚さ2mmの架橋ゴムシート(エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、型番:EB270NE 亜木津工業社製)を10cm×5cmの大きさに切り出し、110ton射出成形機の金型内に装填し、各熱可塑性エラストマー組成物をシリンダー温度220℃、金型温度50℃設定で前記金型内に射出し、インサート成形法により、複合成形体を得た。該複合成形体をJIS3号ダンベルで打ち抜き、200mm/minの引張速度で引張り、融着強度及び融着伸びを測定した。
融着強度については、下記基準で評価した。
○:融着強度 2.0MPa以上
△:融着強度 1.8MPa以上2.0MPa未満
×:融着強度 1.8MPa未満
本評価は、架橋ゴムシートを用いた融着性の評価であるが、この評価結果から、
図1に示したような複合成形体にした際の融着性の良否も評価できる。
【0125】
(6)圧縮永久歪:ISO 815に準拠して、70℃、22時間、25%圧縮の条件で測定した。
70℃、22時間、25%圧縮の条件で測定した圧縮永久歪みは、68%以下であることが好ましい。
【0126】
[実施例/比較例]
<実施例1>
(A1-1)6.7質量部、(B-1)100質量部、(C-1)133質量部、(D-1)100質量部、(E-1)2.9質量部(2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン40質量部と炭酸カルシウム60質量部の混合物)、(E-2)2.0質量部(ジビニルベンゼン55質量部とエチルビニルベンゼン45質量部の混合物)、(F-1)10質量部、(G-1)0.3質量部をヘンシェルミキサーにて1分間ブレンドして混合物を得た。この混合物を、同方向二軸押出機(日本製鋼所製「TEX30α」、L/D=46、シリンダーブロック数:13)の供給部へ合計15kg/hの速度で投入し、110~220℃の範囲で昇温させ溶融混練を行い、ペレット化して熱可塑性エラストマー組成物を製造した。
得られた熱可塑性エラストマー組成物について、JIS K7210の規格に準拠した方法で測定温度230℃、測定荷重21.2Nでメルフローレート(MFR)を測定すると共に、前述の(1)~(6)の評価を行った。評価結果を表-1に示す。
【0127】
<実施例2~6及び比較例1、2>
表-1に記載の成分(A)~(E)の成分割合とした以外は実施例1と同様にして実施し、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物について、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表-1に示す。
【0128】
なお、表-1中、成分(E-1)については、実際の配合量ではなく、成分(E-1)のうちの2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンのみの配合量(実配合量の40質量%)で示し、成分(E-2)についても、実際の配合量ではなく、成分(D-2)のうちのジビニルベンゼンのみの配合量(実配合量の55質量%)で示す。
【0129】
【0130】
<評価結果>
表-1に示す通り、実施例1~6は、「摺動性(動摩擦係数)」、「架橋ゴム部材との融着性」の評価において優れている。
【0131】
比較例1は、成分(A)を用いず、更に成分(E-1)の一部を減らした例であるが、「摺動性(動摩擦係数)」、「架橋ゴム部材との融着性」の評価が劣っている。
比較例2は、数平均分子量が8000を超えるシラン化合物を用いた例であるが、「摺動性(動摩擦係数)」、「架橋ゴム部材との融着性」の評価が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、表皮、ウェザーストリップ、天井材、内装シート、バンパーモール、サイドモール、エアスポイラー、エアダクトホース、シール材等の自動車部品;止水材、目地材、窓枠、シール材等の土木・建材部品;ゴルフクラブのグリップ部、テニスラケットのグリップ部等のスポーツ用品;ホースチューブ、ガスケット等の工業用部品;ホース、パッキン類等の家電部品;医療用容器、ガスケット、パッキン等の医療用部品;容器、パッキン等の食品用部品;医療用機器部品;電線;雑貨等の広汎な分野で用いることができる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は以上に挙げたものの中でも自動車用シール材、建材用シール材として好適であり、自動車用シール材、特に自動車用グラスランチャンネルとして好適である。
【符号の説明】
【0133】
1A,1B 架橋ゴム部材
2 接合部材
3 複合成形体