(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】車載通信装置
(51)【国際特許分類】
H04B 1/3822 20150101AFI20240109BHJP
【FI】
H04B1/3822
(21)【出願番号】P 2020055821
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2019158037
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019158040
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000682
【氏名又は名称】弁理士法人ワンディ-IPパ-トナ-ズ
(72)【発明者】
【氏名】竹中 祐司
(72)【発明者】
【氏名】大見 則親
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 大輔
(72)【発明者】
【氏名】曽根 康介
(72)【発明者】
【氏名】山岸 傑
(72)【発明者】
【氏名】三木 祐太郎
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/124904(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/073108(WO,A1)
【文献】特開2009-177785(JP,A)
【文献】特開2007-267210(JP,A)
【文献】特開2011-191946(JP,A)
【文献】国際公開第2015/068726(WO,A1)
【文献】特開2004-208098(JP,A)
【文献】前畠 貴ほか,1ビットデジタルRF無線装置の開発,SEIテクニカルレビュー,住友電気工業株式会社,2013年01月,2013年1月号, No.182,pp.90-94,URL: https://sei.co.jp/technology/tr/bn182/pdf/sei10755.pdf
【文献】前畠 貴ほか,1ビットバンドパスデルタシグマ変調器の開発,電子情報通信学会2018年総合大会講演論文集 通信1,2018年03月06日,pp.S-17~S-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/00
H04B 1/3822
H04B 1/401
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される車載通信装置であって、
データを含むRF(Radio Frequency)信号を送信し、かつ通信方式を変更可能な無線通信部と、
前記車両の状態を示す状態情報を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記状態情報に基づいて、前記通信方式を変更する切り替え制御を行う制御部とを備え
、
前記無線通信部は、
アンテナと、
通信方式に応じたRF信号を生成して前記アンテナへ出力し、前記通信方式を変更可能な無線信号処理部とを含み、
前記制御部は、前記切り替え制御として、前記無線信号処理部の前記通信方式を変更し、
前記無線通信部は、さらに、前記無線信号処理部と前記アンテナとの間に接続されたフィルタを含み、
前記無線信号処理部は、1ビットのデジタル信号を前記RF信号として前記フィルタへ出力し、
前記無線通信部は、複数の前記フィルタを含み、
前記無線信号処理部は、1つのポートから複数の前記通信方式に応じた前記RF信号を並行して前記複数のフィルタへ出力可能であり、
前記制御部は、前記切り替え制御として、前記無線信号処理部が生成すべき前記RF信号の前記通信方式を1つ選択するかまたは複数選択するかを切り替え可能である、車載通信装置。
【請求項2】
前記取得部は、前記車両のイグニッション電源の状態を示す前記状態情報を取得し、
前記制御部は、前記状態情報が前記イグニッション電源のオフ状態を示す場合、前記切り替え制御において、リモートスタートに対応した前記通信方式を選択し、前記状態情報が前記イグニッション電源のオン状態を示す場合、前記切り替え制御において、リモートスタートに対応した前記通信方式とは異なる前記通信方式を選択する、請求項
1に記載の車載通信装置。
【請求項3】
前記無線信号処理部は、リモートスタート、ITS(Intelligent Transport System)、無線LAN(Local Area Network)およびTCU(Telematics Communication Unit)のうちのいずれか複数の
前記通信方式に応じた前記RF信号を出力可能である、請求項
1に記載の車載通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車載通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において提供すべき通信サービスの増加を考慮した技術が開発されている。たとえば、特許文献1(特開2009-177785号公報)には、以下のような技術が開示されている。すなわち、車載用無線通信装置は、周波数の異なる複数のアンテナと合波回路と分波回路と前記周波数の異なる複数のアンテナに対応する複数の無線機とを備え、前記複数のアンテナは前記合波回路または前記分波回路の何れかに接続され、さらに接続された前記合波回路または前記分波回路と共に車両のルーフ上、フロントガラス上部、リアガラス上部のいずれかに設置され、前記複数の無線機は、前記アンテナとは逆の前記分波回路または合波回路の何れかに無線機側アンテナケーブルにより接続され、前記合波回路と分波回路は、ピラー内を通して配索されているアンテナ装置側アンテナケーブルにより接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】前畠 貴、外3名、”SEIテクニカルレビュー 2013年1月号 No.182 1ビットデジタルRF無線装置の開発”、住友電気工業株式会社、2013年1月、P.90-94
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の異なる通信方式において信号処理回路またはアンテナ等を共用する技術が開発されている一方で、提供すべき通信サービスが増加する傾向にある車載環境において、どのようなタイミングで通信方式を切り替えるかが課題となっている。
【0006】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、車両において複数の異なる通信方式に対して信号処理回路またはアンテナ等を共用する場合に、適切に通信方式の切り替えを行うことが可能な車載通信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の車載通信装置は、車両に搭載される車載通信装置であって、データを含むRF信号を送信し、かつ通信方式を変更可能な無線通信部と、車両の状態を示す状態情報を取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記状態情報に基づいて、前記通信方式を変更する切り替え制御を行う制御部とを備える。
【0008】
本開示の一態様は、このような特徴的な処理部を備える車載通信装置として実現され得るだけでなく、かかる特徴的な処理をステップとする方法として実現され得たり、かかるステップをコンピュータに実行させるためのプログラムとして実現され得る。また、本開示の一態様は、車載通信装置の一部または全部を実現する半導体集積回路として実現され得たり、車載通信装置を含むシステムとして実現され得る。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、車両において複数の異なる通信方式に対して信号処理回路またはアンテナ等を共用する場合に、適切に通信方式の切り替えを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態に係る車載通信システムおよび車載通信装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施の形態に係る車載通信装置における無線通信部の例1の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施の形態に係る車載通信装置における無線通信部の例2の構成を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施の形態に係る車載通信装置における無線通信部の例3の構成を示す図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施の形態に係る車載通信装置における無線通信部の例4の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示の実施の形態に係る車載通信装置は、車両に搭載される車載通信装置であって、データを含むRF信号を送信し、かつ通信方式を変更可能な無線通信部と、車両の状態を示す状態情報を取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記状態情報に基づいて、前記通信方式を変更する切り替え制御を行う制御部とを備える。
【0013】
このような構成により、車両において提供される各種通信サービスに対応する通信方式を、車両の状態に応じて切り替えることができるため、車両の現在の状態に対応する無線機能を動的に実装することができる。これにより、車両において提供すべき通信サービスの増加に伴う無線回路およびアンテナ等の増加を抑制することができ、部品の配置スペース、車重および製造コスト等を低減することができる。したがって、車両において複数の異なる通信方式に対して信号処理回路またはアンテナ等を共用する場合に、適切に通信方式の切り替えを行うことができる。
【0014】
(2)好ましくは、前記無線通信部は、アンテナと、通信方式に応じたRF信号を生成して前記アンテナへ出力し、前記通信方式を変更可能な無線信号処理部とを含み、前記制御部は、前記切り替え制御として、前記無線信号処理部の前記通信方式を変更する。
【0015】
このような構成により、プロセッサおよびD/Aコンバータ等、RF信号を生成するための部品を共用し、部品点数を削減することができる。また、たとえばアンテナを追加するだけの低コストで、通信サービスの増加に対応することができる。
【0016】
(3)より好ましくは、前記無線通信部は、さらに、前記無線信号処理部と前記アンテナとの間に接続されたフィルタを含み、前記無線信号処理部は、1ビットのデジタル信号を前記RF信号として前記フィルタへ出力する。
【0017】
このような構成により、プロセッサ等を共用しながら、D/Aコンバータを不要とし、部品点数をさらに削減することができる。
【0018】
(4)より好ましくは、前記無線通信部は、複数の前記フィルタを含み、前記無線信号処理部は、1つのポートから複数の通信方式に応じた前記RF信号を並行して前記複数のフィルタへ出力可能であり、前記制御部は、前記切り替え制御として、前記無線信号処理部が生成すべき前記RF信号の前記通信方式を1つ選択するかまたは複数選択するかを切り替え可能である。
【0019】
このような構成により、ポート数が削減された簡易な構成において、1つの通信方式に従って無線通信が行われている状態と複数の通信方式に従って無線通信が行われている状態とを切り替えることができ、車両の状態に応じたより多様な通信方式の提供を実現することができる。
【0020】
(5)好ましくは、前記取得部は、前記車両のイグニッション電源の状態を示す前記状態情報を取得し、前記制御部は、前記状態情報が前記イグニッション電源のオフ状態を示す場合、前記切り替え制御において、リモートスタートに対応した前記通信方式を選択し、前記状態情報が前記イグニッション電源のオン状態を示す場合、前記切り替え制御において、リモートスタートに対応した前記通信方式とは異なる前記通信方式を選択する。
【0021】
このような構成により、イグニッション電源の状態に着目した適切な通信方式の選択が可能となる。
【0022】
(6)より好ましくは、前記無線信号処理部は、リモートスタート、ITS、無線LANおよびTCUのうちのいずれか複数の通信方式に応じた前記RF信号を出力可能である。
【0023】
このような構成により、車両において広く用いられる有用な通信方式の、車両の状態に応じた切り替えを行うことができる。
【0024】
(7)好ましくは、前記無線通信部は、共振周波数を変更可能なアンテナと、RF信号を生成して前記アンテナへ出力する無線信号処理部とを含み、前記制御部は、前記切り替え制御として、前記アンテナの共振周波数を変更する。
【0025】
このような構成により、複数の通信方式に対応するアンテナを共用することができ、たとえばシャークフィンアンテナの小型化に寄与することができる。
【0026】
以下、本開示の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。また、以下に記載する実施の形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0027】
図1は、本開示の実施の形態に係る車載通信システムおよび車載通信装置の構成を示す図である。
図1を参照して、車載通信システム301は、車載通信装置101と、複数のECU(Electronic Control Unit)202とを備える。なお、車載通信システム301は、1つのECU202を備える構成であってもよい。車載通信システム301は、車両401に搭載される。
【0028】
車載通信装置101は、車内通信部1と、無線通信部2と、制御部3と、記憶部4とを含む。たとえば、車内通信部1、無線通信部2および制御部3の一部または全部は、CPU(Central Processing Unit)およびDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサによって実現される。記憶部4は、たとえば不揮発性メモリである。
【0029】
複数のECU202は、たとえば、自動運転ECU(Electronic Control Unit)、センサ、ナビゲーション装置、セントラルゲートウェイ、ヒューマンマシンインタフェース、およびカメラ等である。
【0030】
車内通信部1は、CAN(Controller Area Network)(登録商標)の通信規格に従って、ECU202とデータの送受信を行う。なお、車載通信システム301では、CANの通信規格に従ってデータの送受信が行われる構成に限らず、たとえば、イーサネット(登録商標)、FlexRay(登録商標)、MOST(Media Oriented Systems Transport)(登録商標)およびLIN(Local Interconnect Network)等の通信規格に従ってデータの送受信が行われる構成であってもよい。
【0031】
たとえば、車内通信部1は、ECU202からCANフレームを受信し、受信したCANフレームに格納されたデータを記憶部4に保存するか、または無線通信部2へ出力する。
【0032】
無線通信部2は、車内通信部1から受けたデータを含む、すなわち車両401において生成された情報を含む、RF信号を生成して送信する。なお、無線通信部2は、車載通信装置101が生成したデータを含むRF信号を生成して送信する構成であってもよい。また、無線通信部2は、送信機能に加えて、他の装置から送信されたRF信号を受信し、受信したRF信号に含まれるデータを取得して車内通信部1へ出力する構成であってもよい。
【0033】
車内通信部1は、車両401の状態を示す状態情報を取得する。より詳細には、ECU202は、車両401の状態を示す状態情報を生成し、生成した状態情報をCANフレームに格納して車載通信装置101へ送信する。状態情報は、たとえば、車両401の、位置、走行する道路の種別、イグニッション電源の状態、アクセサリ電源の状態、またはドアロックの状態を示す。
【0034】
車内通信部1は、取得部として、ECU202から受信したCANフレームに含まれる状態情報を取得して記憶部4に保存する。
【0035】
無線通信部2は、通信方式を変更可能である。たとえば、無線通信部2は、リモートスタート、ITS(Intelligent Transport System)無線、無線LAN(Local Area Network)、TCU(Telematics Communication Unit)およびラジオのうちのいずれか複数の通信方式に応じたRF信号を出力可能である。一例として、各通信方式におけるキャリア周波数は、リモートスタートが920MHzであり、ITS無線が日本および米国でそれぞれ760MHzおよび5.9GHzであり、無線LANが2.4GHzであり、TCUが800MHzである。
【0036】
たとえば、無線通信部2は、TCUの機能を有している場合、LTE(Long Term Evolution)または3G等の通信規格に従って、車両401の外部の無線基地局と無線通信を行うことが可能である。
【0037】
制御部3は、車内通信部1によって取得された状態情報に基づいて、無線通信部2の通信方式を変更する切り替え制御を行う。制御部3は、たとえば記憶部4における状態情報を参照し、1または複数の通信方式を示す制御情報を無線通信部2へ出力する。
【0038】
[無線通信部の例1]
図2は、本開示の実施の形態に係る車載通信装置における無線通信部の例1の構成を示す図である。
図2を参照して、無線通信部2は、無線信号処理部11と、フィルタ12,13と、アンテナ14,15とを含む。無線通信部2は、いわゆるソフトウェア無線(SDR:Software Defined Radio)の通信機の一例である。
【0039】
無線信号処理部11は、車内通信部1から受けたデータに対して変調等の各種信号処理を行い、処理後のデータを含むアナログ信号であるRF信号を生成する。このRF信号は、所定の周波数帯域においてスペクトルを有し、かつ他の帯域におけるノイズレベルの小さい信号である。無線信号処理部11は、生成したRF信号を、フィルタおよびアンテナ経由で、車両401外の無線基地局等の装置または車両401内のスマートフォン等の装置へ送信する。
【0040】
一例として、無線信号処理部11は、リモートスタート、ITS、無線LANおよびTCUのうちのいずれか2つの通信方式に応じたRF信号を出力可能である。無線信号処理部11は、通信方式を変更可能であり、通信方式に応じたRF信号を生成して対応のアンテナへ出力する。すなわち、無線信号処理部11は、複数の通信方式の中から選択した1つの通信方式に従うRF信号を対応のアンテナへ出力する。
【0041】
制御部3は、切り替え制御として、無線信号処理部11の通信方式を変更する。より詳細には、無線信号処理部11は、制御部3から受けた制御情報の示す通信方式に応じて、変調方式、キャリア周波数、およびデータレート等の通信パラメータを変更することにより、たとえば、複数の通信方式のうちのいずれか1つの通信方式を選択する。無線信号処理部11は、制御情報が通信方式1を示す場合、通信方式1に従うRF信号を、対応のポートP1経由でフィルタ12へ出力する。また、無線信号処理部11は、制御情報が通信方式2を示す場合、通信方式2に従うRF信号を、対応のポートP2経由でフィルタ13へ出力する。
【0042】
フィルタ12,13は、異なる通信方式に対応して設けられ、無線信号処理部11とアンテナ14,15との間にそれぞれ接続されている。フィルタ12,13は、たとえばBPF(Band Pass Filter)であり、無線信号処理部11から受けたRF信号の周波数成分のうち、所定の周波数帯域外の成分を減衰させる。フィルタ12,13の通過帯域は互いに異なる。フィルタ12,13を通過したRF信号は、アンテナ14,15へそれぞれ伝送される。
【0043】
なお、無線信号処理部11は、3種類以上の通信方式に対応するRF信号を出力可能であってもよい。この場合、無線通信部2は、フィルタおよびアンテナを、通信方式に対応してそれぞれ3つ以上含む。そして、無線信号処理部11は、3種類以上の通信方式の中から選択した1つの通信方式に従うRF信号を対応のフィルタへ出力する。
【0044】
車内通信部1は、たとえば車両401のイグニッション電源の状態を示す状態情報を取得する。制御部3は、状態情報が前記イグニッション電源のオン状態を示す場合およびオフ状態を示す場合において互いに異なる通信方式を選択する。具体的には、制御部3は、状態情報がイグニッション電源のオフ状態を示す場合、切り替え制御において、リモートスタートに対応した通信方式を選択する。また、制御部3は、状態情報がイグニッション電源のオン状態を示す場合、切り替え制御において、リモートスタートに対応した通信方式とは異なる通信方式たとえばITSを選択する。
【0045】
すなわち、イグニッション電源のオフ状態、すなわち車両401のエンジンが始動していない状態においてITSを利用する必要性は低いことから、エンジン始動後においてITSの通信方式を選択する。また、イグニッション電源のオン状態、すなわち車両401のエンジンが始動した後の状態においてリモートスタートを利用する必要はないことから、エンジン始動前においてリモートスタートの通信方式を選択する。
【0046】
[無線通信部の例2]
図3は、本開示の実施の形態に係る車載通信装置における無線通信部の例2の構成を示す図である。
図3を参照して、無線通信部2は、無線信号処理部21と、フィルタ22~25と、アンテナ26~29とを含む。無線通信部2は、いわゆるソフトウェア無線の通信機の一例である。具体的には、無線通信部2は、たとえば、非特許文献1(前畠 貴、外3名、”SEIテクニカルレビュー 2013年1月号 No.182 1ビットデジタルRF無線装置の開発”、住友電気工業株式会社、2013年1月、P.90-94)に記載された1ビットデジタル無線装置と同様の機能を有する。
【0047】
無線信号処理部21は、車内通信部1から受けたデータに対して変調等の各種信号処理を行い、処理後のデータを含むRF信号を生成する。より詳細には、無線信号処理部21は、1次変調として直交変調を行い、2次変調としてバンドパスデルタシグマ変調を行うことにより、1ビットのデジタル信号をRF信号として生成する。このRF信号は、所定の周波数帯域においてスペクトルを有し、かつ他の帯域におけるノイズレベルが当該スペクトルのレベルと同等の信号である。このRF信号では、振幅および位相の情報が時間軸上におけるビット列の疎密となって現れる。
【0048】
無線信号処理部21は、生成したRF信号を、フィルタ22~25およびアンテナ26~29経由で、車両401外の無線基地局等の装置または車両401内のスマートフォン等の装置へ送信する。一例として、無線信号処理部21は、リモートスタート、ITS、無線LANおよびTCUの通信方式に応じたRF信号を出力可能である。
【0049】
フィルタ22~25は、異なる通信方式に対応して設けられ、無線信号処理部21とアンテナ26~29との間にそれぞれ接続されている。フィルタ22~25は、たとえばBPFであり、無線信号処理部21から受けたRF信号の周波数成分のうち、所定の周波数帯域外の成分を減衰させる。フィルタ22~25の通過帯域は互いに異なる。フィルタ22~25を通過したRF信号は、アンテナ26~29へそれぞれ伝送される。
【0050】
無線信号処理部21は、通信方式を変更可能であり、通信方式に応じたRF信号を生成して対応のアンテナへ出力する。すなわち、無線信号処理部21は、複数の通信方式の中から選択した1または複数の通信方式に従うRF信号をそれぞれ対応のアンテナへ出力する。
【0051】
制御部3は、切り替え制御として、無線信号処理部21の通信方式を変更する。より詳細には、無線信号処理部21は、制御部3から受けた制御情報の示す通信方式に応じて、変調方式、キャリア周波数、およびデータレート等の通信パラメータを変更することにより、たとえば、複数の通信方式のうちのいずれか1つの通信方式を選択する。無線信号処理部21は、制御情報が通信方式1を示す場合、通信方式1に従うRF信号を、対応のポートP11経由でフィルタ22へ出力する。また、無線信号処理部21は、制御情報が通信方式2、3または4を示す場合、通信方式2、3または4に従うRF信号を、対応のポートP12経由でフィルタ23~25へ出力する。そして、フィルタ23~25のうちの選択された通信方式に対応するフィルタを通過したRF信号が、対応のアンテナへ伝送される。
【0052】
あるいは、たとえば、無線信号処理部21は、1つのポートP12から複数の通信方式に応じたRF信号を並行して複数のフィルタ23~25へ出力可能である。
【0053】
この場合、制御部3は、切り替え制御として、無線信号処理部21が生成すべきRF信号の通信方式を1つ選択するかまたは複数選択するかを切り替え可能である。より詳細には、無線信号処理部21は、制御情報が通信方式2~4のうちのいずれか2つまたは全部を示す場合、当該制御情報の示す複数の通信方式に従うRF信号を重畳して、対応のポートP12経由でフィルタ23~25へ出力する。
【0054】
なお、無線信号処理部21は、2種類または4種類以上の通信方式に対応するRF信号を並行して出力可能であってもよい。この場合、無線通信部2は、1つのポートからのRF信号を受けるフィルタおよびアンテナを、通信方式に対応してそれぞれ2つまたは4つ以上含む。
【0055】
また、無線信号処理部21は、複数の通信方式に従うRF信号を重畳して出力する構成に限らず、各通信方式のRF信号を時分割で出力する構成であってもよい。また、無線通信部2は、ポートP11、フィルタ22およびアンテナ26を含まない構成であってもよい。
【0056】
車内通信部1は、たとえば車両401のイグニッション電源の状態を示す状態情報を取得する。制御部3は、状態情報がイグニッション電源のオフ状態を示す場合、切り替え制御において、リモートスタートに対応した通信方式を選択する。また、制御部3は、状態情報がイグニッション電源のオン状態を示す場合、切り替え制御において、ITS、無線LANおよびTCUに対応した通信方式を選択する。
【0057】
たとえば、ポートP11がITSに対応し、ポートP12がリモートスタート、無線LANおよびTCUに対応する場合、無線信号処理部21は、イグニッション電源のオフ状態において、ポートP12からリモートスタートに対応する通信方式のRF信号を出力する。一方、無線信号処理部21は、イグニッション電源のオン状態において、ポートP11からITSに対応する通信方式のRF信号を出力し、ポートP12から無線LANに対応する通信方式のRF信号およびTCUに対応する通信方式のRF信号を重畳して出力する。
【0058】
すなわち、イグニッション電源のオフ状態、すなわち車両401のエンジンが始動していない状態において、ITS、無線LANおよびTCUを利用する必要性は低いことから、エンジン始動後においてITS、無線LANおよびTCUの通信方式を選択する。また、イグニッション電源のオン状態、すなわち車両401のエンジンが始動した後の状態において、リモートスタートを利用する必要はないことから、エンジン始動前においてリモートスタートの通信方式を選択する。
【0059】
[変形例1]
無線通信部2の例1および例2において、車内通信部1は、車両401が一般道に位置するかまたは高速道に位置するかを示す状態情報を取得する。制御部3は、状態情報が一般道を示す場合、切り替え制御において、ITSに対応した通信方式を選択し、また、状態情報が高速道路を示す場合、切り替え制御において、無線LANおよびTCUの少なくともいずれか一方に対応した通信方式を選択する。
【0060】
すなわち、車両401が一般道に位置する場合、交差点等においてITSを利用する必要性が高いことから、ITSの通信方式を選択する。また、車両401が高速道に位置する場合、交差点等が存在せずITSを利用する必要性が低いことから、無線LANまたはTCUの通信方式を選択する。
【0061】
なお、制御部3は、状態情報が示す車両401の地域または国等に応じて無線通信部2の通信方式を変更する構成であってもよい。
【0062】
[変形例2]
無線通信部2の例1および例2において、車内通信部1は、車両401のドアが施錠された状態であるかまたは開錠された状態であるかを示す状態情報を取得する。制御部3は、状態情報が施錠を示す場合、切り替え制御において、リモートスタートに対応した通信方式を選択し、また、状態情報が開錠を示す場合、切り替え制御において、ITS、無線LANおよびTCUのうちの少なくともいずれか1つに対応した通信方式を選択する。
【0063】
すなわち、車両401のドアが施錠された状態において、ITS、無線LANおよびTCUを利用する必要性は低いことから、リモートスタートの通信方式を選択する。また、車両401のドアが開錠された状態において、リモートスタートを利用する必要性は低いことから、ITS、無線LANまたはTCUの通信方式を選択する。
【0064】
[無線通信部の例3]
図4は、本開示の実施の形態に係る車載通信装置における無線通信部の例3の構成を示す図である。
図4を参照して、無線通信部2は、無線信号処理部31,32と、フィルタ33,34と、合成回路35と、マルチバンドアンテナ36とを含む。
【0065】
無線信号処理部31,32は、車内通信部1から受けたデータに対して変調等の各種信号処理を行い、処理後のデータを含むアナログ信号であるRF信号を生成する。このRF信号は、所定の周波数帯域においてスペクトルを有し、かつ他の帯域におけるノイズレベルの小さい信号である。無線信号処理部31,32は、ソフトウェア無線の通信機のような通信方式を変更する機能を有しておらず、互いに異なる特定の通信方式に従うRF信号を出力する。
【0066】
無線信号処理部31,32は、生成したRF信号を、フィルタ33,34、合成回路35およびマルチバンドアンテナ36経由で、車両401外の無線基地局等の装置または車両401内のスマートフォン等の装置へ送信する。
【0067】
フィルタ33,34は、異なる通信方式に対応して設けられる。フィルタ33,34は、たとえばBPFであり、無線信号処理部31,32から受けたRF信号の周波数成分のうち、所定の周波数帯域外の成分を減衰させる。フィルタ33,34の通過帯域は互いに異なる。フィルタ33,34を通過したRF信号は、合成回路35へ伝送される。
【0068】
合成回路35は、フィルタ33を通過したRF信号およびフィルタ34を通過したRF信号を合成してマルチバンドアンテナ36へ出力する。
【0069】
マルチバンドアンテナ36は、共振周波数を変更可能である。制御部3は、切り替え制御として、マルチバンドアンテナ36の共振周波数を変更する。より詳細には、マルチバンドアンテナ36は、制御部3から受けた制御情報の示す通信方式に応じて、たとえば、スイッチ等を用いたアンテナ長の変更、またはマッチング回路におけるバラクタダイオードへの印加電圧の変更を行うことにより、共振周波数を変更する。変更後の共振周波数に対応するRF信号が、マルチバンドアンテナ36から出力される。これにより、無線通信部2において、複数の通信方式のうちのいずれか1つの通信方式が選択される。
【0070】
なお、無線通信部2は、3種類以上の通信方式に対応する無線信号処理部を含む構成であってもよい。この場合、無線通信部2は、フィルタを、通信方式に対応して3つ以上含み、また、マルチバンドアンテナ36は、3つ以上の共振周波数のうちのいずれか1つを選択可能である。
【0071】
[無線通信部の例4]
図5は、本開示の実施の形態に係る車載通信装置における無線通信部の例4の構成を示す図である。
図5を参照して、無線通信部2は、無線信号処理部41と、フィルタ42,43と、合成回路44と、マルチバンドアンテナ45とを含む。
【0072】
無線信号処理部41は、車内通信部1から受けたデータに対して変調等の各種信号処理を行い、処理後のデータを含むRF信号を生成する。より詳細には、無線信号処理部41は、
図3に示す無線信号処理部21と同様に、非特許文献1に記載された1ビットデジタル無線装置と同様の機能を有する。無線信号処理部41は、1次変調として直交変調を行い、2次変調としてバンドパスデルタシグマ変調を行うことにより、1ビットのデジタル信号をRF信号として生成する。無線信号処理部41は、たとえば通信方式を変更する機能を有しておらず、互いに異なる特定の通信方式に従うRF信号を重畳して出力する。
【0073】
無線信号処理部41は、生成したRF信号を、フィルタ42,43、合成回路44およびマルチバンドアンテナ45経由で、車両401外の無線基地局等の装置または車両401内のスマートフォン等の装置へ送信する。
【0074】
フィルタ42,43は、異なる通信方式に対応して設けられる。フィルタ42,43は、たとえばBPFであり、無線信号処理部41から受けたRF信号の周波数成分のうち、所定の周波数帯域外の成分を減衰させる。フィルタ42,43の通過帯域は互いに異なる。フィルタ42,43を通過したRF信号は、合成回路44へ伝送される。
【0075】
合成回路44は、フィルタ42を通過したRF信号およびフィルタ43を通過したRF信号を合成してマルチバンドアンテナ45へ出力する。
【0076】
マルチバンドアンテナ45は、共振周波数を変更可能である。制御部3は、切り替え制御として、マルチバンドアンテナ45の共振周波数を変更する。より詳細には、マルチバンドアンテナ45は、制御部3から受けた制御情報の示す通信方式に応じて、たとえば、スイッチ等を用いたアンテナ長の変更、またはマッチング回路におけるバラクタダイオードへの印加電圧の変更を行うことにより、共振周波数を変更する。変更後の共振周波数に対応するRF信号が、マルチバンドアンテナ45から出力される。これにより、無線通信部2において、複数の通信方式のうちのいずれか1つの通信方式が選択される。
【0077】
なお、無線信号処理部41は、3種類以上の通信方式に対応するRF信号を出力可能であってもよい。この場合、無線通信部2は、フィルタを、通信方式に対応して3つ以上含み、また、マルチバンドアンテナ45は、3つ以上の共振周波数のうちのいずれか1つを選択可能である。
【0078】
無線通信部の例3および例4において、車内通信部1は、たとえば、車両401が他のITS無線装置からの通信指示を受けたかまたはTCUサーバの通信指示を受けたかを示す状態情報を取得する。制御部3は、状態情報がITSの通信指示を示す場合、切り替え制御において、ITSに対応した通信方式を選択し、また、状態情報がTCUの通信指示を示す場合、切り替え制御において、TCUに対応した通信方式を選択する。
【0079】
すなわち、日本においてキャリア周波数の近いITSの通信方式およびTCUの通信方式を切り替え対象とする、マルチバンドアンテナにより適合した車載通信装置を実現することができる。
【0080】
なお、上述した無線通信部2の各例における切り替え制御の具体例を、無線通信部2の他の例に適用してもよい。
【0081】
ところで、複数の異なる通信方式において信号処理回路またはアンテナ等を共用する技術が開発されている一方で、提供すべき通信サービスが増加する傾向にある車載環境において、どのようなタイミングで通信方式を切り替えるかが課題となっている。
【0082】
本開示の実施の形態に係る車載通信装置では、無線通信部2は、データを含むRF信号を送信し、かつ通信方式を変更可能である。車内通信部1は、車両401の状態を示す状態情報を取得する。制御部3は、車内通信部1によって取得された状態情報に基づいて、無線通信部2の通信方式を変更する切り替え制御を行う。
【0083】
このような構成により、車両401において提供される各種通信サービスに対応する通信方式を、車両401の状態に応じて切り替えることができるため、車両401の現在の状態に対応する無線機能を動的に実装することができる。これにより、車両401において提供すべき通信サービスの増加に伴う無線回路およびアンテナ等の増加を抑制することができ、部品の配置スペース、車重および製造コスト等を低減することができる。したがって、本開示の実施の形態に係る車載通信装置では、車両において複数の異なる通信方式に対して信号処理回路またはアンテナ等を共用する場合に、適切に通信方式の切り替えを行うことができる。
【0084】
なお、本開示の実施の形態に係る車載通信装置の各例の構成要素および動作のうち、一部または全部を適宜組み合わせることも可能である。
【0085】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0086】
以上の説明は、以下に付記する特徴を含む。
[付記1]
車両に搭載される車載通信装置であって、
データを含むRF信号を送信し、かつ通信方式を変更可能な無線通信部と、
車両の状態を示す状態情報を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記状態情報に基づいて、前記通信方式を変更する切り替え制御を行う制御部とを備え、
前記制御部は、前記状態情報が前記イグニッション電源のオン状態を示す場合およびオフ状態を示す場合において互いに異なる通信方式を選択する、車載通信装置。
【符号の説明】
【0087】
1 車内通信部
2 無線通信部
3 制御部
4 記憶部
11 無線信号処理部
12,13 フィルタ
14,15 アンテナ
21 無線信号処理部
22~25 フィルタ
26~29 アンテナ
31,32 無線信号処理部
33,34 フィルタ
35 合成回路
36 マルチバンドアンテナ
41 無線信号処理部
42,43 フィルタ
44 合成回路
45 マルチバンドアンテナ
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301 車載通信システム