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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/343 20060101AFI20240109BHJP
   H01L 33/30 20100101ALI20240109BHJP
   H01L 33/10 20100101ALI20240109BHJP
【FI】
H01S5/343
H01L33/30
H01L33/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020066770
(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公開番号】P2021163919
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】吉本 晋
【審査官】八木 智規
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-316583(JP,A)
【文献】特開平11-330616(JP,A)
【文献】特開2019-91846(JP,A)
【文献】特開2019-33152(JP,A)
【文献】特表2014-508425(JP,A)
【文献】特開平9-36487(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/312413(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
H01L 21/205
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/469
H01L 21/86
H01L 33/00 -33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導電型を有する第1のIII-V族化合物半導体層と、
前記第1のIII-V族化合物半導体層上に配置され、量子井戸構造を含む発光層と、 前記発光層上に配置され、前記第1の導電型とは異なる第2の導電型を有する第2のIII-V族化合物半導体層と、
前記第1のIII-V族化合物半導体層上に配置される第1電極と、
前記第2のIII-V族化合物半導体層上に配置される第2電極と、を備え、
前記量子井戸構造は、交互に積層される井戸層とバリア層とを含み、
前記井戸層を構成する材料は、AlInGa1-x-yAsの組成式で表され、0<x≦1および0<y≦1を満たし、
前記バリア層を構成する材料は、AlGa1-zAsの組成式で表され、0<z≦1を満たし、
前記井戸層におけるAlの比率xと、前記バリア層におけるAlの比率zとの差の絶対値が0.05以下であり、
前記第1のIII-V族化合物半導体層は、前記量子井戸構造からの光を反射する第1反射層を含み、
前記第2のIII-V族化合物半導体層は、前記量子井戸構造からの光を反射する第2反射層を含む、発光素子。
【請求項2】
厚さ方向において、前記第1のIII-V族化合物半導体層から見て、前記発光層とは反対側に配置される基板をさらに備え、
前記基板を構成する材料は、GaAsであり、
前記井戸層を構成する材料は、AlInGa1-x-yAsの組成式で表され、0<x≦1および0<y<0.3を満たす、請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
厚さ方向において、前記第1のIII-V族化合物半導体層から見て、前記発光層とは反対側に配置される基板をさらに備え、
前記基板を構成する材料は、InPであり、
前記井戸層を構成する材料は、AlInGa1-x-yAsの組成式で表され、0<x≦1および0.4<y<0.6を満たす、請求項1に記載の発光素子。
【請求項4】
第1の導電型を有する第1のIII-V族化合物半導体層と、
前記第1のIII-V族化合物半導体層上に配置され、量子井戸構造を含む発光層と、 前記発光層上に配置され、前記第1の導電型とは異なる第2の導電型を有する第2のIII-V族化合物半導体層と、
前記第1のIII-V族化合物半導体層上に配置される第1電極と、
前記第2のIII-V族化合物半導体層上に配置される第2電極と、を備え、
前記量子井戸構造は、交互に積層される井戸層とバリア層とを含み、
前記井戸層を構成する材料は、Al In Ga 1-x-y Asの組成式で表され、0<x≦1および0<y≦1を満たし、
前記バリア層を構成する材料は、Al Ga 1-z Asの組成式で表され、0<z≦1を満たし、
前記井戸層におけるAlの比率xと、前記バリア層におけるAlの比率zとの差の絶対値が0.05以下であり、
厚さ方向において、前記第1のIII-V族化合物半導体層から見て、前記発光層とは反対側に配置される基板をさらに備え、
前記基板を構成する材料は、InPであり、
前記井戸層を構成する材料は、Al In Ga 1-x-y Asの組成式で表され、0<x≦1および0.4<y<0.6を満たす、発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GaAs(ガリウム砒素)製の基板上に井戸層であるAlInGaAs(アルミニウムインジウムガリウム砒素)層とバリア層であるAlGaAs(アルミニウムガリウム砒素)層とを含む量子井戸構造を形成し、適切な電極を形成することによって発光素子を得ることができる(たとえば、非特許文献1参照)。非特許文献1では、156μAの閾値電流で波長850nmのレーザ光を出射する発光素子が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】J.Ko,et al.、“AlInGaAs/AlGaAs strained-layer 850 nm vertical-cavity lasers with very low thresholds”、Electronics Letters、Vol.33、No.18、28th August 1997、p.1550-1551
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような量子井戸構造を有する発光素子では、通電によって短時間で発光強度が低下し、故障に至る場合がある。そこで、AlInGaAs製の井戸層とAlGaAs製のバリア層とを含む量子井戸構造を有する発光素子の寿命を長くすることができる発光素子を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に従った発光素子は、第1の導電型を有する第1のIII-V族化合物半導体層と、第1のIII-V族化合物半導体層上に配置され、量子井戸構造を含む発光層と、発光層上に配置され、第1の導電型とは異なる第2の導電型を有する第2のIII-V族化合物半導体層と、第1のIII-V族化合物半導体層上に配置される第1電極と、第2のIII-V族化合物半導体層上に配置される第2電極と、を備える。量子井戸構造は、交互に積層される井戸層とバリア層とを含む。井戸層を構成する材料は、AlInGa1-x-yAsの組成式で表され、0<x≦1および0<y≦1を満たす。バリア層を構成する材料は、AlGa1-zAsの組成式で表され、0<z≦1を満たす。井戸層におけるAl(アルミニウム)の比率xと、バリア層におけるAlの比率zとの差の絶対値が0.05以下である。
【発明の効果】
【0006】
上記発光素子によれば、AlInGaAs製の井戸層とAlGaAs製のバリア層とを含む量子井戸構造を有する発光素子の寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施の形態1における発光素子の構造を示す概略断面図である。
図2図2は、量子井戸構造の構造を示す概略断面図である。
図3図3は、量子井戸構造の厚さ方向におけるAlの濃度およびInの濃度を示す模式図である。
図4図4は、実施の形態1における発光素子の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図5図5は、実施の形態1における発光素子の製造方法を説明するための概略断面図である。
図6図6は、実施の形態1における発光素子の製造方法を説明するための概略断面図である。
図7図7は、実施の形態1における発光素子の製造方法を説明するための概略断面図である。
図8図8は、実施の形態2における発光素子の構造を示す概略断面図である。
図9図9は、量子井戸構造の構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示の発光素子は、第1の導電型を有する第1のIII-V族化合物半導体層と、第1のIII-V族化合物半導体層上に配置され、量子井戸構造を含む発光層と、発光層上に配置され、第1の導電型とは異なる第2の導電型を有する第2のIII-V族化合物半導体層と、第1のIII-V族化合物半導体層上に配置される第1電極と、第2のIII-V族化合物半導体層上に配置される第2電極と、を備える。量子井戸構造は、交互に積層される井戸層とバリア層とを含む。井戸層を構成する材料は、AlInGa1-x-yAsの組成式で表され、0<x≦1および0<y≦1を満たす。バリア層を構成する材料は、AlGa1-zAsの組成式で表され、0<z≦1を満たす。井戸層におけるAlの比率xと、バリア層におけるAlの比率zとの差の絶対値が0.05以下である。
【0009】
本発明者は、通電によって短時間で発光強度が低下する原因およびその対策について検討した。その結果、以下のような知見を得て、本開示に想到した。井戸層を構成する材料におけるAlの比率(モル比)と、バリア層を構成する材料におけるAlの比率(モル比)とに差があると、井戸層の厚さ方向においてAlの濃度(モル%)が均一とならず、局所的にAlの濃度(モル%)が低くなる領域が形成される場合がある。このような場合、発光素子への通電によって、当該領域にIn原子が移動し、局所的にバンドギャップが小さい領域が形成される。バンドギャップが小さい領域にキャリアが集中することで、発光素子の劣化が加速度的に進行してしまう。その結果、短時間で発光素子の発光強度が低下し、故障に至ってしまう。
【0010】
本開示の発光素子における量子井戸構造では、井戸層を構成する材料が、AlInGa1-x-yAsの組成式で表され、0<x≦1および0<y≦1を満たす。バリア層を構成する材料が、AlGa1-zAsの組成式で表され、0<z≦1を満たす。井戸層におけるAlの比率xと、バリア層におけるAlの比率zとの差の絶対値が0.05以下である。井戸層におけるAlの比率xおよびバリア層におけるAlの比率zが上記関係を有する程度にまで、比率xと比率zとの差を小さくすることで、井戸層において局所的にAlの濃度(モル%)が低くなる領域が形成され難くなり、In原子の移動を低減することができる。その結果、発光素子の発光強度を低下し難くすることができる。したがって、本開示の発光素子によれば、AlInGaAs製の井戸層とAlGaAs製のバリア層とを含む量子井戸構造を有する発光素子の寿命を長くすることができる。
【0011】
上記発光素子において、第1のIII-V族化合物半導体層は、量子井戸構造からの光を反射する第1反射層を含んでもよい。第2のIII-V族化合物半導体層は、量子井戸構造からの光を反射する第2反射層を含んでもよい。このような構成を採用することで、厚さ方向に発光素子からの光を出射することができる。
【0012】
上記発光素子において、厚さ方向において、第1のIII-V族化合物半導体層から見て、発光層とは反対側に配置される基板をさらに備えてもよい。基板を構成する材料は、GaAs(ガリウム砒素)であってもよい。井戸層を構成する材料は、AlInGa1-x-yAsの組成式で表され、0<x≦1および0<y<0.3を満たしてもよい。このような構成を採用することで、基板と井戸層との間の格子定数の差に起因する井戸層の結晶性の悪化を抑制することができる。
【0013】
上記発光素子において、厚さ方向において、第1のIII-V族化合物半導体層から見て、発光層とは反対側に配置される基板をさらに備えてもよい。基板を構成する材料は、InP(インジウムリン)であってもよい。井戸層を構成する材料は、AlInGa1-x-yAsの組成式で表され、0<x≦1および0.4<y<0.6を満たしてもよい。このような構成を採用することで、基板と井戸層との間の格子定数の差に起因する井戸層の結晶性の悪化を抑制することができる。
【0014】
[本願発明の実施形態の詳細]
次に、本開示に係る発光素子の実施の形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1における発光素子の構造を示す概略断面図である。図1において、Z軸方向は厚さ方向である。図1を参照して、実施の形態1における発光素子1は、基板10と、DBR(Distributed Bragg Reflector)61と、第1バッファ層62と、第1のIII-V族化合物半導体層20と、発光層30と、第2のIII-V族化合物半導体層40と、第1電極51と、第2電極52と、を備える。
【0016】
基板10を構成する材料は、III-V族化合物半導体である。本実施の形態では、基板10は、GaAs製である。具体的には、基板10を構成する材料として、例えばアンドープのGaAsが採用される。
【0017】
基板10の主面10A上にDBR61が配置される。DBR61は、基板10の主面10Aに接触する。DBR61は、発光層30からの光を反射する。DBR61は、屈折率の異なる第1の層(図示せず)と第2の層(図示せず)とが交互に積層された構造を有する。本実施の形態では、第1の層を構成する材料は、Al0.9Ga0.1Asである。第2の層を構成する材料は、Al0.16Ga0.84Asである。第1の層および第2の層を構成する材料として、例えばアンドープのAl0.9Ga0.1AsおよびAl0.16Ga0.84Asが採用される。
【0018】
DBR61の基板10とは反対側の主面61A上に第1バッファ層62が配置される。第1バッファ層62は、DBR61の主面10Aに接触する。第1バッファ層62を構成する材料は、AlGaAsである。具体的には、第1バッファ層62を構成する材料として、例えばアンドープのAl0.16Ga0.84Asが採用される。
【0019】
第1バッファ層62のDBR61とは反対側の主面62A上に第1のIII-V族化合物半導体層20が配置される。本実施の形態では、第1のIII-V族化合物半導体層20の導電型はn型である。第1のIII-V族化合物半導体層20は、第1反射層としての第1DBR63と、第1コンタクト層64と、第1反射層としての第2DBR65と、を含む。
【0020】
第1DBR63は、第1バッファ層62の主面62A上に間隔をあけて複数配置される。第1DBR63は、第1バッファ層62の主面62Aに接触する。第1DBR63は、発光層30からの光を反射する。第1DBR63は、屈折率の異なる第3の層(図示せず)と第4の層(図示せず)とが交互に積層されている。第3の層を構成する材料は、Al0.9Ga0.1Asである。第4の層を構成する材料は、Al0.16Ga0.84Asである。具体的には、第3の層および第4の層を構成する材料として、例えばn型のAl0.9Ga0.1Asおよびn型のAl0.16Ga0.84Asが採用される。第3の層および第4の層に含まれるn型不純物として、例えばSi(珪素)などを採用することができる。
【0021】
第1DBR63の第1バッファ層62とは反対側の主面63A上に第1コンタクト層64が配置される。第1コンタクト層64は、第1DBR63の主面63Aに接触する。第1コンタクト層64を構成する材料は、AlGaAsである。具体的には、第1コンタクト層64を構成する材料として、例えばn型のAl0.1Ga0.9Asが採用される。第1コンタクト層64に含まれるn型不純物として、例えばSi(珪素)などを採用することができる。
【0022】
第1コンタクト層64の第1DBR63とは反対側の主面64A上に第2DBR65が配置される。第2DBR65は、第1コンタクト層64の主面64Aに接触する。第2DBR65は、発光層30からの光を反射する。第2DBR65は、屈折率の異なる第5の層(図示せず)と第6の層(図示せず)とが交互に積層されている。第5の層を構成する材料は、Al0.88Ga0.12Asである。第6の層を構成する材料は、Al0.16Ga0.84Asである。具体的には、第5の層および第6の層を構成する材料として、例えばn型のAl0.88Ga0.12Asおよびn型のAl0.16Ga0.84Asが採用される。第5の層および第6の層に含まれるn型不純物として、例えばSi(珪素)などを採用することができる。
【0023】
第1のIII-V族化合物半導体層20上に発光層30が配置される。発光層30は、第2バッファ層66と、量子井戸構造67と、第3バッファ層68と、を含む。第2バッファ層66は、第2DBR65の第1コンタクト層64とは反対側の主面65A上に配置される。第2バッファ層66は、第2DBR65の主面65Aに接触する。第2バッファ層66を構成する材料は、AlGaAsである。具体的には、第2バッファ層66を構成する材料として、例えばアンドープのAlGaAsが採用される。
【0024】
第2バッファ層66の第2DBR65とは反対側の主面66A上に量子井戸構造67が配置される。量子井戸構造67は第2バッファ層66の主面66Aに接触する。図2を参照して、量子井戸構造67は、交互に積層される井戸層671とバリア層672とを含む。井戸層671の厚みは、例えば3nm以上7nm以下である。バリア層672の厚みは、例えば3nm以上7nm以下である。本実施の形態では、4つの井戸層671と、厚さ方向(Z軸方向)において井戸層671同士の間に配置される3つのバリア層672とを含む。井戸層671は、第2バッファ層66の主面66Aに接触する。井戸層671は、量子井戸構造67の第2バッファ層66とは反対側の主面67Aを構成するように配置される。
【0025】
井戸層671を構成する材料は、AlInGa1-x-yAsの組成式で表され、0<x≦1および0<y≦1を満たす。本実施の形態では、井戸層671を構成する材料は、AlInGa1-x-yAsの組成式で表され、0<x≦1および0<y<0.3を満たす。本実施の形態では、井戸層671を構成する材料として、例えばアンドープのAlInGa1-x-yAs(0<x≦1および0<y<0.3)が採用される。バリア層672を構成する材料は、AlGa1-zAsの組成式で表され、0<z≦1を満たす。本実施の形態では、バリア層672を構成する材料として、例えばアンドープのAlGa1-zAs(0<z≦1)が採用される。井戸層671におけるAlの比率xとバリア層672におけるAlの比率zとの差の絶対値が0.05以下である。比率xと比率zとの差の絶対値は、好ましくは0.03以下であり、より好ましくは0.01以下であり、さらに好ましくは0である。
【0026】
図3は、量子井戸構造67の厚さ方向(Z軸方向)におけるAlの濃度およびInの濃度を示す模式図である。図3において、縦軸は、Alの濃度(モル%)およびInの濃度(モル%)を示す。横軸は、量子井戸構造67の厚さ方向(Z軸方向)における第2バッファ層66からの距離を示す。図3を参照して、井戸層671の厚さ方向(Z軸方向)において、バリア層672から離れるにしたがってInの濃度S(モル%)が高くなり、Inの濃度S(モル%)が最大となる領域Wが形成されている。本実施の形態では、井戸層671におけるAlの濃度S(モル%)と、バリア層672におけるAlの濃度S(モル%)とが均一となっている。
【0027】
図1を参照して、第3バッファ層68は、量子井戸構造67の主面67A上に配置される。第3バッファ層68は、量子井戸構造67の主面67Aに接触する。第3バッファ層68を構成する材料は、AlGaAsである。具体的には、第3バッファ層68を構成する材料は、例えばアンドープのAlGaAsである。
【0028】
第2のIII-V族化合物半導体層40は、量子井戸構造67の主面67A上に第3バッファ層68を挟んで配置される。本実施の形態では、第2のIII-V族化合物半導体層40の導電型はp型である。第2のIII-V族化合物半導体層40は、電流狭窄構造71と、第2反射層としての第3DBR72と、第4バッファ層73と、第2コンタクト層74と、を含む。
【0029】
電流狭窄構造71は、第1の部分711と、一対の絶縁体層712とを含む。第1の部分711は、一対の絶縁体層712の間に配置される。第1の部分711を構成する材料は、AlGaAsである。具体的には、第1の部分711を構成する材料として、例えばp型のAl0.98Ga0.02Asが採用される。絶縁体層712を構成する材料は、Alの酸化物である。
【0030】
第3DBR72は、電流狭窄構造71の第3バッファ層68とは反対側の主面71A上に配置される。第3DBR72は、電流狭窄構造71の主面71Aに接触する。第3DBR72は、発光層30からの光を反射する。第3DBR72は、屈折率の異なる第7の層(図示せず)と第8の層(図示せず)とが交互に積層されている。第7の層を構成する材料は、Al0.16Ga0.84Asである。第8の層を構成する材料は、Al0.9Ga0.1Asである。具体的には、第7の層および第8の層を構成する材料として、例えばp型のAl0.16Ga0.84Asおよびp型のAl0.9Ga0.1Asが採用される。第5の層および第6の層に含まれるp型不純物として、例えばC(炭素)などを採用することができる。
【0031】
第4バッファ層73は、第3DBR72の電流狭窄構造71とは反対側の主面72A上に配置される。第4バッファ層73は、第3DBR72の主面72Aに接触する。第4バッファ層73を構成する材料は、AlGaAsである。具体的には、第4バッファ層73を構成する材料として、p型のAl0.16Ga0.84Asが採用される。第4バッファ層73に含まれるp型不純物として、例えばC(炭素)などを採用することができる。
【0032】
第2コンタクト層74は、第4バッファ層73の第3DBR72とは反対側の主面73A上に配置される。第2コンタクト層74は、第4バッファ層73の主面73Aに接触する。第2コンタクト層74を構成する材料は、GaAsである。具体的には、第2コンタクト層74を構成する材料として、p型のGaAsが採用される。第2コンタクト層74に含まれる不純物として、例えばC(炭素)などを採用することができる。
【0033】
発光素子1には、第1DBR63および第1コンタクト層64を貫通し、第1バッファ層62に到達する一対の溝81A,81Bが形成されている。すなわち、一対の溝81A,81Bによって、発光素子1の隣り合う単位構造が分離されている。発光素子1には、第2DBR65、発光層30および第2のIII-V族化合物半導体層40を貫通し、第1コンタクト層64に到達するトレンチ82が形成されている。トレンチ82は側壁82Aと底壁82Bによって取り囲まれている。トレンチ82の側壁82Aにおいて、第2DBR65、発光層30および第2のIII-V族化合物半導体層40が露出している。また、トレンチ82の底壁82Bは、第1コンタクト層64内に位置している。つまり、トレンチ82の底壁82Bにおいて第1コンタクト層64が露出している。このようにして、第2DBR65、発光層30および第2のIII-V族化合物半導体層40によってメサ83が形成されている。
【0034】
第1電極51は、第1のIII-V族化合物半導体層20上に配置される。第1電極51は、第1コンタクト層64に接触する。第1電極51を構成する材料は、金属などの導電体である。具体的には、第1電極51を構成する材料として、例えば、Au(金)/Ge(ゲルマニウム)を採用することができる。第1電極51は、第1コンタクト層64にオーミック接触している。
【0035】
第2電極52は、第2のIII-V族化合物半導体層40上に配置される。第2電極52は、第2のIII-V族化合物半導体層40上に配置される。第2電極52は、第2コンタクト層74に接触する。第2電極52を構成する材料は、金属などの導電体である。具体的には、第2電極52を構成する材料として、例えば、Ti(チタン)/Pt(白金)を採用することができる。第2電極52は、第2コンタクト層74にオーミック接触している。
【0036】
この発光素子1に対して順方向に電圧が印加されると、第1のIII-V族化合物半導体層20から電子が発光層30へ注入されると共に、第2のIII-V族化合物半導体層40から正孔が発光層30へ注入される。そして、発光層30における量子井戸構造67内において、電子と正孔とが再結合し、発光する。本実施の形態では、上記構造の量子井戸構造67が採用されることにより、赤外線が放出される。
【0037】
ここで、本実施の形態における量子井戸構造67では、井戸層671を構成する材料が、AlInGa1-x-yAsの組成式で表され、0<x≦1および0<y≦1を満たす。バリア層672を構成する材料が、AlGa1-zAsの組成式で表され、0<z≦1を満たす。井戸層671におけるAlの比率xと、バリア層672におけるAlの比率zとの差の絶対値は0.05以下である。このように比率xと比率zとの差を小さくすることで、井戸層671において局所的にAlの濃度(モル%)が低くなる領域が形成され難くなり、In原子の移動を低減することができる。その結果、発光素子1の発光強度が低下し難くなっている。したがって、本実施の形態における発光素子1によれば、AlInGaAs製の井戸層671とAlGaAs製のバリア層672とを含む量子井戸構造67を有する発光素子1の寿命が長くなっている。
【0038】
上記実施の形態において、第1のIII-V族化合物半導体層20は、量子井戸構造67からの光を反射する第1DBR63および第2DBR65を含む。第2のIII-V族化合物半導体層40は、量子井戸構造67からの光を反射する第3DBR72を含む。このような構成を採用することで、量子井戸構造67の主面67Aに垂直な方向(Z軸方向)に発光素子1からの光を出射することができる。
【0039】
上記実施の形態において、発光素子1は、量子井戸構造67の主面67Aに垂直な方向(Z軸方向)において、第1のIII-V族化合物半導体層20から見て、量子井戸構造67とは反対側に配置される基板10を備える。基板10は、GaAs製である。井戸層671を構成する材料は、AlInGa1-x-yAsの組成式で表され、0<x≦1および0<y<0.3を満たす。このような構成を採用することで、基板10と井戸層671との間の格子定数の差に起因する井戸層671の結晶性の悪化を抑制することができる。
【0040】
次に、図4図6を参照して、本実施の形態における発光素子1の製造方法の概要について説明する。
【0041】
図4を参照して、本実施の形態における発光素子1の製造方法では、まず工程(S10)として基板準備工程が実施される。この工程(S10)では、GaAs製の基板10が準備される。図5を参照して、基板10の表面が研磨された後、洗浄等のプロセスを経て主面10Aの平坦性および清浄性が確保された基板10が準備される。
【0042】
次に、図4を参照して、工程(S20)としてエピ層形成工程が実施される。この工程(S20)では、図5を参照して、工程(S10)において準備された基板10の主面10A上に、DBR61、第1バッファ層62、第1DBR63、第1コンタクト層64、第2バッファ層66、量子井戸構造67、第3バッファ層68、第1の部分711、第3DBR72、第4バッファ層73および第2コンタクト層74が形成される。このエピ層の形成は、たとえば有機金属気相成長により実施することができる。有機金属気相成長によるエピ層の形成は、たとえば基板加熱用のヒータを備えた回転テーブル上に基板10を載置し、基板10をヒータにより加熱しつつ基板上に原料ガスを供給することにより実施することができる。
【0043】
図5を参照して、まず基板10の主面10Aに接触するようにDBR61が形成される。DBR61は、アンドープのAl0.9Ga0.1As製の第1の層と、アンドープのAl0.16Ga0.84As製の第2の層とが交互に積層することによって形成される。Alの原料ガスとしては、例えばTMAl(トリメチルアルミニウム)等を用いることができ、Gaの原料ガスとしては、例えばTMGa(トリメチルガリウム)等を用いることができ、Asの原料ガスとしては、例えばAsH(アルシン)等を用いることができる。
【0044】
次に、DBR61の主面61Aに接触するようにアンドープのAl0.16Ga0.84As製の第1バッファ層62が形成される。第1バッファ層62の形成は、上記DBR61の形成に引き続いて有機金属気相成長により実施することができる。
【0045】
次に、第1バッファ層62の主面62Aに接触するように第1DBR63が形成される。第1DBR63は、n型のAl0.9Ga0.1As製の第3の層と、n型のAl0.16Ga0.84As製の第4の層とが交互に積層することによって形成される。第1DBR63の主面63Aに接触するようにn型のAl0.1Ga0.9As製の第1コンタクト層64が形成される。第1コンタクト層64の主面64Aに接触するように第2DBR65が形成される。第2DBR65は、n型のAl0.88Ga0.12As製の第5の層と、n型のAl0.16Ga0.84As製の第6の層とが交互に積層することによって形成される。このようにして、第1のIII-V族化合物半導体層20が形成される。第1のIII-V族化合物半導体層20の形成は、上記第1コンタクト層64の形成に引き続いて有機金属気相成長により実施することができる。n型不純物としてSiを添加する場合、例えばSi(ジシラン)を原料ガスに添加することができる。
【0046】
次に、第1コンタクト層64の主面64Aに接触するようにアンドープのAlGaAs製の第2バッファ層66が形成される。第2バッファ層66の主面66Aに接触するように量子井戸構造67が形成される。図2および図5を参照して、量子井戸構造67は、アンドープのAlInGa1-x-yAs(0<x≦1および0<y<0.3)製の井戸層671と、アンドープのAlGa1-zAs(0<z≦1)製のバリア層672とが交互に積層することによって形成される。量子井戸構造67の主面67Aに接触するようにアンドープのAlGaAs製の第3バッファ層68が形成される。このようにして、発光層30が形成される。発光層30の形成は、上記第1のIII-V族化合物半導体層20の形成に引き続いて有機金属気相成長により実施することができる。井戸層671の形成では、Alの原料ガスとして、例えばTMAl(トリメチルアルミニウム)等を用いることができ、Inの原料ガスとして、例えばTMIn(トリメチルインジウム)等を用いることができ、Gaの原料ガスとして、例えばTMGa(トリメチルガリウム)等を用いることができ、Asの原料ガスとして、例えばAsH(アルシン)等を用いることができる。
【0047】
次に、第3バッファ層68の主面68Aに接触するようにp型のAl0.98Ga0.02As製の第1の部分711が形成される。そして、第1の部分711の主面71Aに接触するように第3DBR72が形成される。第3DBR72は、p型のAl0.9Ga0.1As製の第7の層とp型のAl0.16Ga0.84As製の第8の層とが交互に積層することによって形成される。第3DBR72の主面72Aに接触するようにp型のAl0.16Ga0.84As製の第4バッファ層73が形成される。第4バッファ層73の主面73Aに接触するようにp型のGaAs製の第2コンタクト層74が形成される。第3バッファ層68、第1の部分711、第3DBR72、第4バッファ層73および第2コンタクト層74の形成は、発光層30の形成に引き続いて有機金属気相成長により実施することができる。p型不純物としてCを添加する場合、例えばCBr(四臭化炭素)を原料ガスに添加することができる。以上のようにして半導体積層体2が得られる。
【0048】
次に、図4を参照して、工程(S30)としてトレンチ形成工程が実施される。この工程(S30)では、図5および図6を参照して、上記工程(S10)および(S20)によって作製された半導体積層体2に、第2DBR65、発光層30、第1の部分711、第3DBR72、第4バッファ層73および第2コンタクト層74を貫通し、第1コンタクト層64に到達するトレンチ82が形成される。さらに、第1DBR63および第1コンタクト層64を貫通し、第1バッファ層62に到達する一対の溝81A,81Bが形成される。トレンチ82は、たとえば第2コンタクト層74の主面74A上にトレンチ82の形状に対応する開口を有するマスクを形成した上で、エッチングを実施することにより形成することができる。また、一対の溝81A,81Bは、第1コンタクト層64の主面64A上に溝81A,81Bに対応する開口を有するマスク層を形成した上で、エッチングを実施することにより形成することができる。
【0049】
次に、図4を参照して、工程(S40)として電流狭窄構造形成工程が実施される。この工程(S40)では、図6および図7を参照して、工程(S30)によってトレンチ82が形成された半導体積層体2において、第1の部分711の一部が酸化され、第1の部分711を挟むように一対の絶縁体層712が形成される。このようにして、電流狭窄構造71が形成される。電流狭窄構造形成工程は、例えばトレンチ82が形成された半導体積層体2が酸化炉に設置され、酸素(O)と水素(H)との混合ガスを供給しつつ加熱することによって実施される。このようにして、第2のIII-V族化合物半導体層40が形成される。
【0050】
次に、図4を参照して、工程(S50)として電極形成工程が実施される。この工程(S50)では、図1および図7を参照して、工程(S40)によって電流狭窄構造71が形成された半導体積層体2に、第1電極51および第2電極52が形成される。具体的には、たとえば第1電極51および第2電極52を形成すべき領域に対応する位置に開口を有するマスクを半導体積層体2上に形成し、たとえば蒸着法により適切な導電体からなる第1電極51および第2電極52を形成する。以上の工程により、本実施の形態における発光素子1が完成する。
【0051】
(実施の形態2)
次に本開示に係る発光素子1の他の実施の形態である実施の形態2における発光素子1について説明する。実施の形態2の発光素子1は基本的に実施の形態1の発光素子1と同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかしながら、実施の形態2では、基板を構成する材料および井戸層を構成する材料におけるInの比率が、実施の形態1の場合とは異なっている。以下、実施の形態2の場合とは異なっている点について主に説明する。
【0052】
図8を参照して、本実施の形態では、基板11は、InP製である。具体的には、基板11を構成する材料として、例えばアンドープのInPが採用される。図9を参照して、量子井戸構造67は、交互に積層される井戸層673とバリア層674とを含む。本実施の形態において、井戸層673を構成する材料は、AlInGa1-x-yAsの組成式で表され、0<x≦1および0.4<y<0.6を満たす。バリア層674を構成する材料は、実施の形態1と同様である。このような構成を採用することで、基板11と井戸層673との間の格子定数の差に起因する井戸層673の結晶性の悪化を抑制することができる。
【0053】
上記実施の形態2の発光素子1によっても、実施の形態1と同様に、AlInGaAs製の井戸層673とAlGaAs製のバリア層674とを含む量子井戸構造67を有する発光素子1の寿命を長くすることができる。
【0054】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本開示の発光素子は、AlInGaAs製の井戸層とAlGaAs製のバリア層とを含む量子井戸構造を有する発光素子の寿命を長くすることが求められる場合において特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0056】
1 発光素子
2 半導体積層体
10,11 基板
10A,61A,62A,63A,64A,65A,66A,67A,68A,71A,72A,73A,74A 主面
20 第1のIII-V族化合物半導体層
30 発光層
40 第2のIII-V族化合物半導体層
51 第1電極
52 第2電極
61 DBR
62 第1バッファ層
63 第1DBR
64 第1コンタクト層
65 第2DBR
66 第2バッファ層
67 量子井戸構造
68 第3バッファ層
71 電流狭窄構造
72 第3DBR
73 第4バッファ層
74 第2コンタクト層
81A,81B 溝
82 トレンチ
82A 側壁
82B 底壁
83 メサ
671,673 井戸層
672,674 バリア層
711 第1の部分
712 絶縁体層
,S 濃度
W 領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9