(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/02 20060101AFI20240109BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20240109BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20240109BHJP
G01C 21/34 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
F02D29/02 321A
F02D29/00 G
F02D29/02 L
B60W40/06
G01C21/34
(21)【出願番号】P 2020071072
(22)【出願日】2020-04-10
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】倉田 光次
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-218911(JP,A)
【文献】特開2005-069136(JP,A)
【文献】特開2011-080815(JP,A)
【文献】特開2006-046214(JP,A)
【文献】特開2002-276409(JP,A)
【文献】特開2016-094084(JP,A)
【文献】特開2019-125185(JP,A)
【文献】車で「ゲリラ豪雨」どう対処? 道路が冠水した場合の対策方法とは,くるまのニュース [online],日本,2019年06月07日,[2023年9月15日検索], https://kuruma-news.jp/post/149781
【文献】運転中ゲリラ豪雨、水害に遭遇したら覚えておくべき5つのこと,ベストカーweb[online],日本,2017年08月16日,[2023年9月15日検索], https://bestcarweb.jp/feature/column/1754
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/02
B60W 40/00
C01C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを自動停止及び自動再始動するアイドリングストップ機能を有する車両の運転支援装置であって、
路面が冠水してテールパイプの排気口から水が入り込む基準水位を記憶する記憶部と、
気象注意情報及びハザードマップに基づいて走行地域の路面水位を予測する予測部と、
基準水位及び路面水位に基づいてアイドリングストップ機能を強制解除する制御部と、を備え
、
前記制御部は、アイドリングストップ機能を強制解除した場合、アイドリング回転数を上昇させ、
前記テールパイプの排気口がエアクリーナの吸気口と同じ高さである場合に、前記制御部がアイドリング回転数の上昇を禁止することを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
エンジンを自動停止及び自動再始動するアイドリングストップ機能
と、出発地から目的地までの走行ルートを案内するナビゲーション機能と、を有する車両の運転支援装置であって、
路面が冠水してテールパイプの排気口から水が入り込む基準水位を記憶する記憶部と、
気象注意情報及びハザードマップに基づいて走行地域の路面水位を予測する予測部と、
基準水位及び路面水位に基づいてアイドリングストップ機能を強制解除する制御部と、を備え
、
走行ルートにアンダーパスが存在する場合、前記制御部は、アンダーパスの路面水位が基準水位よりも低くても、アンダーパスの手前でアイドリングストップ機能を強制解除することを特徴とする運転支援装置。
【請求項3】
基準水位は、前記テールパイプの排気口の高さよりも低く、水飛沫又は波によって前記テールパイプの排気口が被水する水位であることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記車両は遠心クラッチによってエンジン動力を後輪に伝達する車両であり、
前記制御部は、遠心クラッチの動力伝達回転数までの範囲でアイドリング回転数を上昇させることを特徴とする
請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項5】
前記車両は、出発地から目的地までの走行ルートを案内するナビゲーション機能を有しており、
走行ルートに基準水位以上の路面水位の地点が存在する場合、ナビゲーション機能によって走行ルートを許容時間内に目的地に到達可能な迂回ルートが存在すれば当該迂回ルートに設定し直すことを特徴とする請求項1から
請求項4のいずれか1項に記載の運転支援装置。
【請求項6】
アイドリングストップ機能の強制解除は、前記車両のメインスイッチがOFFから再びONになるまで継続されることを特徴とする請求項1から
請求項5のいずれか1項に記載の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止や燃費向上対策のために、一時停車時にエンジンを停止させるアイドリングストップ機能が知られている。アイドリングストップ機能を備えた車両として、自車両及び先行車両の走行状況に応じてアイドリングストップ機能を強制解除するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の車両は、交差点等において車両の再発進の遅れが生じないように、先行車両の有無、自車両の操舵方向、自車両の走行レーン等から自車両の走行状況を把握して、アイドリングストップ機能の継続又は強制解除を判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、大雨等で道路が冠水して水位が高くなったときに、アイドリングストップ機能によってエンジンが停止されると、エンジン不調が発生して再始動ができなくなる場合がある。特許文献1に記載の車両は、交差点等の走行状況に応じてアイドリングストップ機能が強制解除されるが、大雨等の非常時のアイドリングストップ機能の強制解除までは考慮されていない。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、道路が冠水したときにエンジン不調による再始動不能を防止することができる運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の運転支援装置は、エンジンを自動停止及び自動再始動するアイドリングストップ機能を有する車両の運転支援装置であって、路面が冠水してテールパイプの排気口から水が入り込む基準水位を記憶する記憶部と、気象注意情報及びハザードマップに基づいて走行地域の路面水位を予測する予測部と、基準水位及び路面水位に基づいてアイドリングストップ機能を強制解除する制御部と、を備え、前記制御部は、アイドリングストップ機能を強制解除した場合、アイドリング回転数を上昇させ、前記テールパイプの排気口がエアクリーナの吸気口と同じ高さである場合に、前記制御部がアイドリング回転数の上昇を禁止することで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様の運転支援装置によれば、走行地域の気象条件に応じて走行地域の路面水位が予測される。テールパイプの排気口から水が入り込まない路面水位の場合、アイドリングストップ機能は解除されずに、アイドリングストップ機能によって環境に配慮されると共に燃費が向上される。テールパイプの排気口から水が入り込む路面水位の場合、冠水した路面でエンジンが停止しないようにアイドリングストップ機能が強制解除される。エンジン不調によるエンジン再始動ができないという不具合が防止されるため、アイドリングストップ機能付きの車両を大雨等の非常時にも安心して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施例の路面を走行する車両の一例を示す図である。
【
図2】本実施例の運転支援装置を搭載した車両の制御ブロック図である。
【
図3】本実施例の運転支援装置を搭載した自動四輪車の一例を示す図である。
【
図4】本実施例の運転支援装置を搭載した鞍乗型車両の一例を示す図である。
【
図5】本実施例の走行ルートの一例を示す図である。
【
図6】本実施例の気象注意情報の一例を示す図である。
【
図7】本実施例のハザードマップの一例を示す図である。
【
図8】本実施例のアイドリングストップ機能の強制解除のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様の運転支援装置は、エンジンを自動停止及び自動再始動するアイドリングストップ機能を有している。運転支援装置の記憶部には、路面が冠水してテールパイプの排気口から水が入り込む基準水位が記憶されている。運転支援装置の予測部によって走行地域の気象注意情報及びハザードマップに基づいて路面水位が予測され、運転支援装置の制御部によって基準水位及び路面水位に基づいてアイドリングストップ機能が強制解除される。テールパイプの排気口から水が入り込まない路面水位の場合、アイドリングストップ機能は解除されずに、アイドリングストップ機能によって環境に配慮されると共に燃費が向上される。テールパイプの排気口から水が入り込む路面水位の場合、冠水した路面でエンジンが停止しないようにアイドリングストップ機能が強制解除される。エンジン不調によるエンジン再始動ができないという不具合が防止されるため、アイドリングストップ機能付きの車両を大雨等の非常時にも安心して使用することができる。
【実施例】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本実施例について詳細に説明する。
図1は、本実施例の路面を走行する車両の一例を示す図である。
【0011】
図1(A)に示すように、車両10には、地球温暖化防止や燃費向上対策のためにアイドリングストップ機能が備えられている。アイドリングストップ機能は、エンジン停止条件を満たしたときにエンジンを一時停止し、エンジン再始動条件を満たしたときにスタータによってエンジンを再始動させている。例えば、交差点で車両10が信号待ちしていると、アイドリングストップ機能が作動して車両10のエンジンが一時停止される。信号の切り替わり後に、車両10のブレーキ解除やアクセルペダルが踏み込まれると、スタータが作動して車両10のエンジンが再始動される。
【0012】
しかしながら、
図1(B)に示すように、大雨等で道路が冠水して路面水位が十分に高くなった場合に、アイドリングストップ機能によってエンジンが停止されると、エンジン不調によって車両10のエンジンが再始動しないおそれがある。また、路面水位が十分に高くなる前でも、他車両の走行によって車両10が大量の水を浴びる可能性が高い。このような場合でも、アイドリングストップ機能が作動したために、エンジンが再始動しないおそれがある。エンジンが再始動しないと交通渋滞の原因になるだけでなく、冠水した路面上で車両10が立ち往生するおそれがある。
【0013】
交差点以外でも、路面水位が高い中を車両10が走行して、ブレーキをかけると水の抵抗を受けて速度が予想以上に低下することがある。アイドリングストップ機能のエンジン停止条件は速度要素をパラメータにすることが多く、冠水した路面上を車両10が走行するときにエンジン停止条件が成立し易い。一般的に路面水位は急激に増加することが多く、大雨等の非常時には、アイドリング機能を解除するといった冷静な行動をユーザがとることが難しい。ユーザの意図に反して、アイドリングストップ機能が作動するといった状況になりかねない。
【0014】
エンジンが再始動しなくなる理由は、車両10のテールパイプ(排気管)11から水が逆流して排気できなくなるからである。テールパイプ11に水が入り込むと、大幅な修理が必要になったり、エンジンまで水が到達すると修理不能になったりすることがある。一方で、エンジンが作動し続けていれば、テールパイプ11の排気によって水が逆流し難い。特に、通常よりもエンジンのアイドリング回転数を高めに移行できれば、水の逆流に対して排気抵抗が増加するため、テールパイプ11に水が逆流し難くなってエンジン不調を防止することができる。
【0015】
各自治体にはハザードマップが整備され、気象予測も時間単位でなされ、気象衛星を利用している現在では気象予測の予測精度も高くなっている。情報提供の環境は飛躍的に向上しているが、この情報が気象変化に対する車両安全のための運転支援に有効活用されているとまでは言えない。そこで、本実施例の運転支援装置25(
図2参照)は、気象注意情報及びハザードマップを取得して車両の走行地域の路面水位を予測して、冠水した路面でエンジンが停止しないように、路面水位が高くなる前にアイドリングストップ機能を強制解除している。
【0016】
以下、
図2から
図4を参照して、運転支援装置を搭載した車両について説明する。
図2は、本実施例の運転支援装置を搭載した車両の制御ブロック図である。
図3は、本実施例の運転支援装置を搭載した自動四輪車の一例を示す図である。
図4は、本実施例の運転支援装置を搭載した鞍乗型車両の一例を示す図である。なお、
図2のブロック図には、車両の制御ブロックが簡略化して記載されているが、車両が通常備える機能ブロックについては備えているものとする。
【0017】
図2に示すように、車両10には、アイドリングストップ機能を提供するアイドリングストップ装置21と、ナビゲーション機能を提供するナビゲーション装置24と、気象変化に応じた運転支援機能を提供する運転支援装置25とが設けられている。アイドリングストップ機能は、車両10のエンジン15を自動停止及び自動再始動する機能である。ナビゲーション機能は、出発地から目的地まで車両10を案内する機能である。運転支援機能は、車両10の走行地域の気象条件に応じて、アイドリングストップ機能を強制解除する機能である。
【0018】
アイドリングストップ装置21には、エンジン15を始動するメインスイッチ22と、アイドリング機能を手動で解除するアイドリングストップOFFスイッチ23と、アイドリング機能を強制解除する運転支援装置25とが接続されている。メインスイッチ22によってエンジン15が始動される度に、アイドリングストップ機能がONに設定される。通常時には、アイドリングストップOFFスイッチ23がユーザによって押されることでアイドリングストップ機能が解除される。大雨等の非常時には、運転支援装置25によって自動的にアイドリングストップ機能が解除される。
【0019】
ナビゲーション装置24には、マップ情報及びGPS(Global Positioning System)情報が入力される。ナビゲーション装置24に出発地、目的地、経由地等が入力されることで、出発地から目的地までの走行ルートが設定される。また、加速度センサ等の各種センサ類の検出結果とGPS情報から走行ルート上の自車両の現在地が特定される。自車両の現在地から走行ルート上の各地点への到達時刻が予測され、各地点への到達時刻がナビゲーション装置24から運転支援装置25に出力される。走行ルート上の各地点への到達時刻は車両10の走行中に定期的に更新される。
【0020】
運転支援装置25には、記憶部26と、予測部27と、制御部28とが設けられている。記憶部26には、路面が冠水してテールパイプ11(
図3(B)参照)の排気口から水が入り込む基準水位が記憶されている。基準水位は、テールパイプ11の排気口の高さよりも低く、他車両の走行による水飛沫又は波によってテールパイプ11の排気口が被水する水位である。基準水位は、車両10の下部形状等に応じて異なるため、車両10毎に実験的、経験的又は理論的に求められた水位が使用される。なお、記憶部26には、基準水位としてテールパイプ11の排気口の高さが記憶されてもよい。
【0021】
予測部27には、走行地域の気象注意情報及びハザードマップが入力される。気象注意情報には、大雨情報、洪水情報、浸水情報、台風情報、高潮情報等による想定水量が含まれている。ハザードマップには、走行地域の各地点の想定水量に対する路面水位情報が含まれている。走行ルート上の各地点への到達時刻の気象注意情報とハザードマップに基づいて、車両10が走行ルートの各地点に到達する前に路面水位が予測される。例えば、降水量100[mm/H]の大雨情報が発令された走行地域で、ハザードマップの降水量100[mm/H]で水位50[cm]の地点の路面水位は50[cm]と予測される。
【0022】
なお、本実施例における路面水位の上昇は、台風及び低気圧による大雨、いわゆるゲリラ豪雨等の局所的な大雨、高潮による低地(海抜が低い地域)への浸水のように、気象条件が関係するもの全般が想定されている。また、気象注意情報には、上記の情報に加えて、突発的な豪雨発生に関する緊急情報や、気象条件の変化だけでなく、ダムの緊急放流情報が含まれてもよい。さらに、気象注意情報及びハザードマップは、公的機関や民間事業者が提供している情報は全て対象になるが、ユーザ自身や車両メーカー等が独自に提供している情報も含まれる。
【0023】
制御部28には、記憶部26から基準水位が入力され、予測部27から走行ルート上の各地点の路面水位が入力される。基準水位及び路面水位に基づいてアイドリングストップ機能を強制解除の有無が判定される。路面水位が基準水位よりも低い場合には、テールパイプ11(
図3参照)の排気口から水が入り込まないため、アイドリングストップ機能の強制解除が不要と判定される。路面水位が基準水位以上の場合には、テールパイプ11の排気口から水が入り込むため、アイドリングストップ機能の強制解除が必要と判定されて、制御部28からアイドリングストップ装置21に強制OFF信号が出力される。
【0024】
アイドリングストップ装置21は、強制OFF信号に基づいてアイドリングストップ機能を強制解除して、路面水位が高い中を車両10が走行したときにアイドリングストップ機能が作動することを防止している。例えば、テールパイプ11の高さが路面から40[cm]に設定され、基準水位がテールパイプ11の高さから10[cm]低い30[cm]に設定されている。この場合、車両10が路面水位30[cm]以上と予測された地点に到達する前に、制御部28によってアイドリングストップ装置21のアイドリングストップ機能が強制解除される。
【0025】
制御部28は、アイドリングストップ機能を強制解除した場合に、制御信号等によってエンジン15のアイドリング回転数を所定割合(例えば、2割)だけ上昇させている。路面水位が基準水位よりも高い場合でも、テールパイプ11の排気口の排気圧力を高めることで排気口からの浸水が抑えられる。アイドリングストップ機能の強制解除は、路面水位が高いと予測された地点に接近した地点(例えば、100[m]手前)で実施されてもよいし、路面水位が高いと予測された地点から十分に離れた地点(例えば、1[km]手前)で実施されてもよい。
【0026】
アイドリングストップ機能の強制解除は、車両10のメインスイッチ22がOFFになった状態から再びONになるまで継続されることが好ましい。走行地域から雨雲が去っても時間差で路面水位が上昇することがあるため、アイドリングストップ機能の強制解除が継続されることで、冠水した路面でのエンジン15の停止が防止される。
【0027】
ナビゲーション機能によって設定された走行ルートにアンダーパスが存在する場合には、アンダーパスの路面水位が基準水位よりも低くても、制御部28によってアンダーパスの手前でアイドリングストップ機能が強制解除される。例えば、冠水し易いアンダーパスでエンジン15が停止しないように、アンダーパスに接近した地点(例えば、100[m]手前)でアイドリングストップ機能が強制解除される。アンダーパスの形状は大小様々であるため、どの程度の降水量でアイドリングストップ機能を強制解除するかはユーザの判断に任せてもよい。
【0028】
走行ルートに基準水位以上の路面水位の地点が存在する場合、ナビゲーション機能によって走行ルートが許容時間内に目的地に到達可能な迂回ルートに設定し直される。この場合、ナビゲーション機能は、ハザードマップの浸水区域を避けた迂回ルートを検討して車両10に対して迂回ルートを案内する。水位が高いルートを迂回した安全なルートを車両10が走行することができる。この場合、アイドリングストップ機能が強制解除された後に迂回ルートが設定されてもよいし、アイドリングストップ機能が強制解除されずに迂回ルートが設定されてもよい。
【0029】
アイドリングストップ装置21、ナビゲーション装置24、運転支援装置25の各部の処理は、プロセッサを用いてソフトウェアによって実現されてもよいし、集積回路等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現されてもよい。プロセッサを用いる場合には、プロセッサがメモリに記憶されているプログラムを読み出して実行することで各種処理が実施される。プロセッサとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)が使用される。また、メモリは、用途に応じてROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の一つ又は複数の記憶媒体によって構成されている。
【0030】
図3に示すように、車両10は自動四輪車であり、車両10の後側にテールパイプ11が設けられ、車両10の前側にエアクリーナ12が設けられている。テールパイプ11の排気口よりもエアクリーナ12の吸気口が高い位置に設けられており、路面水位が基準水位に達してもエアクリーナ12の吸気口が路面水位の上方に位置している。このため、アイドリングストップ機能を強制解除したときに、エンジン15のアイドリング回転数を上昇させても、エアクリーナ12の吸気口から水が入り込まず、テールパイプ11の排気口から水が入り込むことが防止される。
【0031】
図4に示すように、他の車両30は鞍乗型車両であり、このような鞍乗型車両にも運転支援装置25(
図2参照)を適用することができる。例えば、他の車両30は、スクータ型車両のように遠心クラッチ(不図示)によってエンジン動力を後輪に伝達する車両でもよい。他の車両30の制御部28(
図2参照)は、遠心クラッチの動力伝達回転数までの範囲でアイドリング回転数を上昇させる。これにより、遠心クラッチでの動力伝達を遮断した状態で他の車両30の発進を抑えつつ、排気圧力を高めてテールパイプ31の排気口から水が入り込むことが防止される。
【0032】
一般に、エアクリーナの吸気口は、テールパイプよりも高い位置に設けられているため、エンジンのアイドリング回転数を上昇させることは有効である。しかしながら、小型のスクータ型車両のように、路面からのテールパイプの排気口の高さがエアクリーナの吸気口の高さと同じ高さである場合には、吸気口から水が入り込まないようにアイドリング回転数の上昇を禁止してもよい。テールパイプの排気口とエアクリーナの吸気口の高さが同じとは、完全に同じ高さである必要はなく、実質的に同じと見做せる程度に同じ高さであればよい。
【0033】
図5から
図7を参照して、路面水位の予測処理の一例について説明する。
図5は、本実施例の走行ルートの一例を示す図である。
図6は、本実施例の気象注意情報の一例を示す図である。
図7は、本実施例のハザードマップの一例を示す図である。
【0034】
図5に示すように、ナビゲーション装置24(
図2参照)に出発地Ps及び目的地Pgが入力されると、出発地Psから目的地Pgまでの走行ルートRが設定される。走行ルートRが設定されると、走行ルートR上の各地点への到達時刻が算出される。本実施例では、出発地Psの出発時刻が11:30であり、目的地Pgの到達時刻が13:30である。この予定では、車両10が、出発地Psがある走行地域A1内の各地点を11:30-12:00に通過し、走行地域A2内の各地点を12:00-13:00に通過し、目的地Pgがある走行地域A3の各地点を13:00-13:30に通過する。
【0035】
図6(A)は、出発日の前日の20XX年Y月1日の13:00の降水量の予測分布を示している。降水量の予測分布は走行地域A1-A3の西側に位置しており、走行地域A1-A3の降水量は20[mm/H]以下と予測される。
図6(B)は、出発日の20XX年Y月2日の7:00の降水量の予測分布を示している。降水量の予測分布は未だ走行地域A1-A3の西側に位置しており、走行地域A1-A3の降水量は20[mm/H]以下と予測される。予測分布内には大雨を示す降水量100[mm/H]の予測域が含まれている。
【0036】
図6(C)は、出発日の20XX年Y月2日の13:00の降水量の予測分布を示している。予測分布は東側に移動して走行地域A1-A3に重なっており、降水量50[mm/H]の予測域に走行地域A1が含まれ、降水量80[mm/H]の予測域に走行地域A2が含まれ、降水量100[mm/H]の予測域に走行地域A3が含まれている。上記したように、13:00には車両10(
図2参照)が走行地域A3に入る予定であるため、走行地域A3内の走行ルートR上の各地点の気象注意情報として降水量100[mm/H]が予測される。
【0037】
図7(A)は、走行地域A3の一部の洪水・内水ハザードマップを示している。洪水・内水ハザードマップには、降水量100[mm/H]にて路面水位20[cm]の予測域B1、降水量100[mm/H]にて路面水位30[cm]の予測域B2、降水量100[mm/H]にて路面水位50[cm]の予測域B3が設定されている。走行ルートR上の地点P1-P5のうち地点P4が予測域B1、地点P5が予測域B3に含まれている。13:00の走行地域A3の降水量は100[mm/H]であるため、地点P4の路面水位は20[cm]、地点P5の路面水位は50[cm]と予測される。
【0038】
図7(B)は、走行地域A3の一部のため池ハザードマップを示している。ため池ハザードマップには、降水量80[mm/H]にて路面水位30[cm]の予測域C1、降水量80[mm/H]にて路面水位50[cm]の予測域C2が設定されている。走行ルートR上の地点P1-P5のうち地点P2が予測域C1、地点P3が予測域C2に含まれている。ため池ハザードマップは降水量80[mm/H]の路面水位であるが、13:00の走行地域A3の降水量は80[mm/H]よりも大きい。このため、地点P2の路面水位は30[cm]以上、地点P3の路面水位は50[cm]以上と予測される。
【0039】
そして、車両10の基準水位が30[cm]に設定されている場合には、走行ルートR上の地点P2に車両10が到達する前に、運転支援装置25(
図2参照)によってアイドリングストップ機能が強制解除される。例えば、車両10が地点P1に到達したときに、アイドリングストップ機能が強制解除されてもよい。これにより、路面水位が高い走行ルートRの地点P2-P5を車両10が走行中に、アイドリングストップ機能によってエンジン15(
図2参照)が停止することが防止される。なお、洪水・内水ハザードマップ及びため池ハザードマップは1つのハザードマップとして運転支援装置25に入力されてもよい。
【0040】
図8を参照して、アイドリングストップ機能の強制解除処理の流れについて説明する。
図8は、本実施例のアイドリングストップ機能の強制解除のフローチャートである。なお、
図8のフローチャートは一例を示すものであり、処理の順序が入れ替わってもよい。また、ここでは、
図2の符号を適宜使用して説明する。
【0041】
図8に示すように、メインスイッチ22がONになると、エンジン15が始動すると共にアイドリングストップ装置21によってアイドリングストップ機能がONに設定される(ステップS01)。次に、ナビゲーション装置24によって出発地から目的地までの走行ルートが設定される(ステップS02)。走行ルートが設定されると、走行ルートが通る走行地域が決定されると共に、走行ルート上の各地点への到達時刻が決定される。なお、走行ルート及び走行ルート上の各地点への到達時刻は、車両10の走行状況に応じて定期的に更新される。
【0042】
走行ルートが通る走行地域に気象注意情報又は緊急気象注意情報が発令されている場合(ステップS03でYes)、走行地域内の各地点への到達時刻に基づいて、運転支援装置25によって走行地域の気象注意情報が取得されると共に、当該走行地域のハザードマップが取得される(ステップS04)。気象注意情報には走行地域の想定水量が含まれ、ハザードマップには各地点の想定水量に対する路面水位情報が含まれている。次に、走行地域の気象注意情報とハザードマップに基づいて、走行ルート上の各地点の路面水位が予測される(ステップS05)。
【0043】
次に、路面水位の比較処理とアンダーパスの検索処理が並行して実施される。路面水位の比較処理では、運転支援装置25によって走行ルート上の各地点の路面水位と判定閾値である基準水位が比較される(ステップS06)。基準水位は、他車両の走行による水飛沫や波による被水だけでなく、荷物の積載、同乗者の乗車状態を考慮した水位に設定されてもよい。路面水位が基準水位以上の地点がある場合(ステップS06でYes)、車両10が当該地点に到達する前に運転支援装置25によってアイドリングストップ機能が強制解除される(ステップS08)。
【0044】
アンダーパスの検索処理では、気象注意情報を取得した走行地域内の走行ルート上のアンダーパスが検索される(ステップS07)。走行ルート上にアンダーパスが存在する場合(ステップS07でYes)、車両10がアンダーパスに到達する前に運転支援装置25によってアイドリングストップ機能が強制解除される(ステップS08)。アイドリングストップ機能が強制解除されると、アイドリング回転数が上昇される(ステップS09)。これにより、排気圧力の増加によってテールパイプ11(
図1参照)の排気口からの水の入り込みが防止される。
【0045】
そして、メインスイッチ22がOFFになるまでステップS03からステップS09の処理が繰り返される(ステップS10でNo)。メインスイッチ22がOFFになると(ステップS10でYes)、車両10が駐車されるため、アイドリングストップ機能の強制解除処理が終了される。なお、本フローチャートでは、路面水位が基準水位以上の地点がある場合(ステップS06でYes)、アイドリングストップ機能を強制解除したが、ナビゲーション装置24によって走行ルートを許容時間内に目的地に到達可能な迂回ルートが存在すれば当該迂回ルートに設定し直してもよい。
【0046】
以上、本実施例によれば、走行地域の気象条件に応じて走行地域の路面水位が予測されて、テールパイプ11の排気口から水が入り込まない路面水位の場合、アイドリングストップ機能は解除されずに、アイドリングストップ機能によって環境に配慮されると共に燃費が向上される。テールパイプ11の排気口から水が入り込む路面水位の場合、冠水した路面でエンジン15が停止しないようにアイドリングストップ機能が強制解除される。エンジン不調によるエンジン再始動ができないという不具合が防止されるため、アイドリングストップ機能付きの車両10を大雨等の非常時にも安心して使用することができる。
【0047】
なお、本実施例では、ナビゲーション機能によって走行ルートが設定され、運転支援装置によって走行ルートが通る走行地域の気象注意情報及びハザードマップが取得される構成にしたが、運転支援装置はこの構成に限定されない。運転支援装置は、走行中に車両の現在地の気象注意情報及びハザードマップを取得してもよい。さらに、運転支援装置は、車両が駐車されるユーザの居住地の気象注意情報及びハザードマップを取得してもよい。すなわち、走行地域とは、車両が走行予定の地域だけでなく、車両が走行中の地域、車両が走行開始する地域を含んでいる。
【0048】
また、本実施例では、運転支援装置によって走行ルート上の各地点、すなわち走行地域の各地点の路面水位が推定されたが、運転支援装置によって走行地域の所定区域毎に路面水位が推定されてもよいし、走行地域の全体的な路面水位が推定されてもよい。
【0049】
また、本実施例では、気象注意情報及びハザードマップは、車両に搭載されたアンテナを介して運転支援装置に取得されてもよいし、携帯電話等の携帯機器を介して運転支援装置に取得されてもよい。また、携帯機器に運転支援用のプログラムをインストールすることで、携帯機器を運転支援装置として使用してもよいし、ECU(Electronic Control Unit)に運転支援用のプログラムをインストールすることで、ECUを運転支援装置として使用してもよい。このプログラムは、記憶媒体に記憶される。記憶媒体は、特に限定されないが、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等の非一過性の記憶媒体でもよい。
【0050】
また、本実施例の運転支援装置は、自動四輪車だけでなく、自動二輪車、自動三輪車等の他の車両に採用されてもよい。
【0051】
以上の通り、本実施例の運転支援装置(25)は、エンジン(15)を自動停止及び自動再始動するアイドリングストップ機能を有する車両(10)の運転支援装置であって、路面が冠水してテールパイプ(11)の排気口から水が入り込む基準水位を記憶する記憶部(26)と、気象注意情報及びハザードマップに基づいて走行地域の路面水位を予測する予測部(27)と、基準水位及び路面水位に基づいてアイドリングストップ機能を強制解除する制御部(28)と、を備えている。この構成によれば、走行地域の気象条件に応じて走行地域の路面水位が予測される。テールパイプの排気口から水が入り込まない路面水位の場合、アイドリングストップ機能は解除されずに、アイドリングストップ機能によって環境に配慮されると共に燃費が向上される。テールパイプの排気口から水が入り込む路面水位の場合、冠水した路面でエンジンが停止しないようにアイドリングストップ機能が強制解除される。エンジン不調によるエンジン再始動ができないという不具合が防止されるため、アイドリングストップ機能付きの車両を大雨等の非常時にも安心して使用することができる。
【0052】
本実施例の運転支援装置において、基準水位は、テールパイプの排気口の高さよりも低く、水飛沫又は波によってテールパイプの排気口が被水する水位である。この構成によれば、他車両の走行に伴う水飛沫や波等によってテールパイプの排気口から水が入り込む場合に、アイドリングストップ機能が強制解除されてエンジンストップを防止することができる。
【0053】
本実施例の運転支援装置において、制御部は、アイドリングストップ機能を強制解除した場合、アイドリング回転数を上昇させる。この構成によれば、アイドリング回転数が上昇されることで、テールパイプの排気口の排気圧力が高められて排気口からの水の進入を抑えることができる。
【0054】
本実施例の運転支援装置において、車両は遠心クラッチによってエンジン動力を後輪に伝達する車両であり、制御部は、遠心クラッチの動力伝達回転数までの範囲でアイドリング回転数を上昇させる。この構成によれば、遠心クラッチの動力伝達を遮断した状態で車両の発進を抑えつつ、排気圧力を高めてテールパイプの排気口からの水の進入を抑えることができる。
【0055】
本実施例の運転支援装置において、テールパイプの排気口がエアクリーナの吸気口と同じ高さである場合に、制御部がアイドリング回転数の上昇を禁止する。この構成によれば、アイドリング回転数を上昇させないことで、エアクリーナの吸気口の吸気圧力が下げられて吸気口からの水の進入を抑えることができる。
【0056】
本実施例の運転支援装置において、車両は、出発地から目的地までの走行ルートを案内するナビゲーション機能を有しており、走行ルートにアンダーパスが存在する場合、制御部は、アンダーパスの路面水位が基準水位よりも低くても、アンダーパスの手前でアイドリングストップ機能を強制解除する。この構成によれば、冠水し易いアンダーパスでエンジンストップしないように、アイドリングストップ機能が強制解除される。
【0057】
本実施例の運転支援装置において、車両は、出発地から目的地までの走行ルートを案内するナビゲーション機能を有しており、走行ルートに基準水位以上の路面水位の地点が存在する場合、ナビゲーション機能によって走行ルートを許容時間内に目的地に到達可能な迂回ルートが存在すれば当該迂回ルートに設定し直す。この構成によれば、水位が高いルートを迂回した安全なルートを車両が走行することができる。
【0058】
本実施例の運転支援装置において、アイドリングストップ機能の強制解除は、車両のメインスイッチがOFFから再びONになるまで継続される。この構成によれば、想定よりも遅れて路面水位が上昇することがあるため、アイドリングストップ機能の強制解除が継続されることで、冠水した路面でのエンジンストップが防止される。
【0059】
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0060】
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【符号の説明】
【0061】
10:車両
11:テールパイプ
12:エアクリーナ
15:エンジン
21:アイドリングストップ装置
24:ナビゲーション装置
25:運転支援装置
26:記憶部
27:予測部
28:制御部