(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】微生物分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240109BHJP
【FI】
G01N27/62 V
(21)【出願番号】P 2020076954
(22)【出願日】2020-04-23
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福山 裕子
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/168740(WO,A1)
【文献】特開2019-138811(JP,A)
【文献】特開2019-138810(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0107864(US,A1)
【文献】特表平10-500573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 27/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を含む試料を質量分析して得られたマススペクトルから、10種類のタンパク質であるgns、YaiA、YibT、PPI、L25、L21、S8、L17、L15、S7及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1ないし10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比m/zを読み取るステップと、
前記読み取られた質量電荷比m/zに基づいて、前記試料に、サルモネラ(Salmonella)属菌の6種の血清型であるアバエテトゥバ(Abaetetuba)、アナタム(Anatum)、ニューポ-ト(Newport)、プーナ(Poona)、タラハシー(Tallahassee)、及びベッロール(Vellore)の少なくとも1種が含まれるか否かを識別する識別ステップ
を有する、微生物分析方法。
【請求項2】
微生物を含む試料を質量分析して得られたマススペクトルから、10種類のタンパク質であるgns、YaiA、YibT、PPI、L25、L21、S8、L17、L15、S7及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1ないし10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比m/zを読み取るステップと、
前記読み取られた質量電荷比m/zに基づいて、前記試料に、Salmonella属菌の6種の血清型であるAbaetetuba、Anatum、Newport、Poona、Tallahassee、及びVelloreの少なくとも1種が含まれるか、或いは、22種の血清型であるEnteritidis、Typhimurium、Minnesota、Infantis、Brandenburg、Rissen、Schwarzengrund、Montevideo、Mbandaka、Orion、Pullorum_Gallinarum、Abony、Choleraesuis、Saintpaul、Braenderup、Pakistan、Thompson、Altona、Istanbul、Manhattan、Senftenberg、及びAmsterdamの少なくとも1種が含まれるかを識別する識別ステップ
を有する、微生物分析方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の微生物分析方法において、
前記識別ステップにおいて、前記試料に、前記6種の血清型の少なくとも1種が含まれると識別された場合に、前記10種類のタンパク質及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1ないし10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比m/zから、前記試料に、前記6種の血清型のいずれの血清型が含まれるかを識別するステップを有する、微生物分析方法。
【請求項4】
微生物を含む試料を質量分析して得られたマススペクトルから、10種類のタンパク質であるgns、YaiA、YibT、PPI、L25、L21、S8、L17、L15、S7及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1ないし10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比m/zを読み取るステップと、
前記読み取られた質量電荷比m/zに基づいて、前記試料に、
Salmonella属菌の6種の血清型であるAbaetetuba、Anatum、Newport、Poona、Tallahassee、及びVelloreのいずれの血清型が含まれるかを識別するステップを有する、微生物分析方法。
【請求項5】
コンピュータに請求項1~4のいずれかに記載の各ステップを実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析におけるイオン化法の1つであるマトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI=Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)法は、レーザ光を吸収しにくい物質やタンパク質などレーザ光で損傷を受けやすい物質を分析するために、レーザ光で吸収し易く且つイオン化しやすいマトリックス物質を分析対象物質と混合し、これにレーザ光を照射することで分析対象物質をイオン化する手法である。一般にマトリックス物質は溶液として分析対象物質と混合される。そして、溶液中の溶媒を気化させることにより乾燥させ、分析対象物質を含んだ結晶を形成する。これにレーザ光を照射すると、マトリックス物質がレーザ光のエネルギーを吸収して急速に加熱され、気化する。その際、分析対象物質もマトリックス物質とともに気化し、その過程で分析対象物質がイオン化される。
【0003】
こうしたMALDI法を利用した質量分析装置(MALDI-MS)は、タンパク質などの高分子化合物をあまり解離させることなく分析することが可能であり、しかも微量分析にも好適であることから、生命科学の分野で広く利用されている。生命科学分野におけるMALDI-MSの利用の一つに、MALDI-MSを用いた微生物の同定がある。これは、被検微生物を用いて得られたマススペクトルパターンに基づいて微生物の同定を行う方法であり、短時間で分析結果を得ることができることから、簡便且つ迅速な微生物の同定が可能である。
【0004】
例えば食中毒の代表的な原因細菌の一つに、グラム陰性通性嫌気桿菌の腸内細菌科に属するサルモネラがある。サルモネラ属にはSalmonella (以下「S.」と略す)enterica、S. bongori及びS. subterraneaの3つの菌種が属し、さらにS. entericaは6つの亜種に分類される。食中毒を引き起こす病原性サルモネラの多くは S. enterica subsp. entericaに属し、その亜種は更に多数の血清型に分類される。サルモネラ属菌の菌種や亜種、血清型の判別は、食中毒の感染経路の解明及び感染防止に重要であることから、近年、MALDI-MSを用いたサルモネラ属菌の識別が試みられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Appl. Microbiol. Biotechnol., Applied Microbiology and Biotechnology, Vol.101, No.23-24, pp.8557-8569, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MALDI-MSによるサルモネラ属菌の菌種や亜種、血清型の判別は、菌種や亜種、血清型が異なる菌体の間で、マススペクトル上での位置(質量電荷比、m/z値)や高さ(ピーク強度、mV値)が異なるピーク、すなわちバイオマーカーピークを検出することにより行う。細菌をはじめとする微生物の判別では、バイオマーカーピークとしてタンパク質のピークが用いられることが多い(非特許文献1)。
【0007】
一般的に近縁の微生物の場合、多くのタンパク質に由来するピークの質量電荷比は同じであるか、或いは近似する。従って、サルモネラ属菌を血清型のレベルで正確に判別するためには、バイオマーカーピークとして1種類のタンパク質由来のピークを選出するだけでは足りず、血清型の種類に応じた適切な、複数のタンパク質由来のピークを選出する必要があった。また、バイオマーカーピークを用いて識別できることが判明している血清型は限られており、より多くの血清型を識別することが求められている。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、MALDI-MSを用いた微生物分析方法において、サルモネラ属菌のより多くの血清型をできるだけ正確に識別できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る微生物分析方法は、
微生物を含む試料を質量分析して得られたマススペクトルから、10種類のタンパク質であるgns、YaiA、YibT、PPI、L25、L21、S8、L17、L15、S7及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1ないし10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比m/zを読み取るステップと、
前記読み取られたピークの質量電荷比m/zに基づいて、前記試料に、サルモネラ(Salmonella)属菌の6種の血清型であるアバエテトゥバ(Abaetetuba)、アナタム(Anatum)、ニューポート(Newport)、プーナ(Poona)、タラハシー(Tallahassee)、及びベッロール(Vellore)の少なくとも1種が含まれるか否かを識別する識別ステップを有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、試料に、これまで他のサルモネラ属菌と血清型と区別することが難しかったサルモネラ属菌の所定の6種の血清型のいずれかの菌が含まれることを識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る微生物の分析方法に用いられる微生物分析システムの概略的な全体構成図。
【
図2】微生物分析方法の手順の一例を示すフローチャート。
【
図3】サルモネラ属菌の6種類の血清型の各菌体を含む試料について得られた、10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比。
【
図4】サルモネラ属菌の22種類の血清型の各菌体を含む試料について得られた、10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比。
【
図5】第1グループに属する3種の血清型のサルモネラ属菌におけるタンパク質YaiA及びL25のマススペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る微生物分析方法は、
微生物を含む試料を質量分析して得られたマススペクトルから、10種類のタンパク質であるgns、YaiA、YibT、PPI、L25、L21、S8、L17、L15、S7及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1ないし10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比m/zを読み取るステップと、
前記読み取られた質量電荷比m/zに基づいて、前記試料に、サルモネラ(Salmonella)属菌の6種の血清型であるAbaetetuba、Anatum、Newport、Poona、Tallahassee、及びVelloreの少なくとも1種が含まれるか否かを識別する識別ステップとを有する。
【0013】
非特許文献1では、サルモネラ属菌の22種の血清型の識別に有効なバイオマーカーとして12種類のタンパク質(gns, YaiA, YibT, PPI, L25, L21, S8, L17, L15, S7, YciF, SodA)が報告されているが、本発明は、そのうち10種類のタンパク質(gns, YaiA, YibT, PPI, L25, L21, S8, L17, L15, S7)をバイオマーカーとして用いることで、新たに、6種の血清型の少なくとも1種の菌体が試料に含まれるか否かの識別が可能となることを見出したものである。
【0014】
6種の血清型の少なくとも1種の菌体が試料に含まれる場合、その試料について得られたマススペクトルに存在するピークの少なくとも一つは10種類のタンパク質のいずれかに由来するピークであることが分かっている。前記10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比の範囲は既知であるため、試料について得られたマススペクトル上の10種類のタンパク質のそれぞれに対応する各質量電荷比範囲にピークが存在するか否かを判断し、10種類のタンパク質の少なくとも1種類に対応する質量電荷比範囲にピークが存在する場合には6種の血清型の少なくとも1種の菌体が前記試料に含まれる可能性があり、存在しない場合には前記6種の血清型の菌体がいずれも前記試料に含まれないと判断することができる。
【0015】
また、本発明に係る微生物分析方法は、
微生物を含む試料を質量分析して得られたマススペクトルから、10種類のタンパク質であるgns、YaiA、YibT、PPI、L25、L21、S8、L17、L15、S7及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1ないし10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比m/zを読み取るステップと、
前記読み取られた質量電荷比m/zに基づいて、前記試料に、サルモネラ(Salmonella)属菌の6種の血清型であるAbaetetuba、Anatum、Newport、Poona、Tallahassee、及びVelloreの少なくとも1種が含まれるか否か、或いは、22種の血清型であるEnteritidis、Typhimurium、Minnesota、Infantis、Brandenburg、Rissen、Schwarzengrund、Montevideo、Mbandaka、Orion、Pullorum_Gallinarum、Abony、Choleraesuis、Saintpaul、Braenderup、Pakistan、Thompson、Altona、Istanbul、Manhattan、Senftenberg、及びAmsterdamの少なくとも1種が含まれるかを識別する識別ステップとを有する。
【0016】
6種の血清型の少なくとも1種の菌体、或いは22種の血清型の少なくとも1種の菌体が試料に含まれる場合、その試料について得られたマススペクトルに存在するピークの少なくとも一つは10種類のタンパク質のいずれかに由来するピークであることが分かっている。前記10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比の範囲は既知であるため、まずは試料について得られたマススペクトル上の10種類のタンパク質のそれぞれに対応する各質量電荷比範囲にピークが存在するか否かを判断する。
【0017】
10種類のタンパク質の少なくとも1種類に対応する各質量電荷比範囲にピークが存在する場合は、そのピークの質量電荷比m/zの値を読み取る。そして、質量電荷比m/zの値を読み取った後は、その質量電荷比m/zの値、もしくは複数の質量電荷比m/zの値の組み合わせに基づいて、前記試料に、6種の血清型の少なくとも1種の菌体、或いは22種の血清型の少なくとも1種の菌体が含まれると判断することができる。
【0018】
上述した微生物分析方法において、前記試料に、6種の血清型の少なくとも1種のサルモネラ属菌が含まれると識別された場合は、前記10種類のタンパク質及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1ないし10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比m/zに基づいて、前記試料に含まれるサルモネラ属菌の血清型が前記6種の血清型のいずれであるかを識別することができる。
【0019】
また、本発明に係る微生物分析方法は、
微生物を含む試料を質量分析して得られたマススペクトルから、10種類のタンパク質であるgns、YaiA、YibT、PPI、L25、L21、S8、L17、L15、S7及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1ないし10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比m/zを読み取るステップと、
前記読み取られた質量電荷比m/zに基づいて、前記試料に、前記6種の血清型のいずれの血清型が含まれるかを識別するステップを有する。
【0020】
本発明の微生物分析方法に用いられる質量分析装置としては、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI=Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)法を利用した質量分析装置(MALDI-MS)が好ましい。また、MALDI-MSとしては、MALDI飛行時間型質量分析装置(MALDI-TOFMS)を用いることが好ましい。MALDI-TOFMSは測定可能な質量電荷比の範囲が非常に広いため、微生物の構成成分であるタンパク質のような高質量分子の分析に適したマススペクトルを取得することができる。
【0021】
次に、本発明に係る微生物分析方法に用いられる微生物分析システムの一実施形態について説明する。
図1は、微生物分析システムの概略的な全体構成を示している。このシステムは、大別して質量分析部10と微生物判別部20とから成る。質量分析部10は、マトリックス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI)によって試料中の分子や原子をイオン化するイオン化部11と、イオン化部11から出射された各種イオンを質量電荷比に応じて分離する飛行時間型質量分離器(TOF)12を備える。
【0022】
TOF12は、イオン化部11からイオンを引き出してTOF12内のイオン飛行空間に導くための引き出し電極13と、イオン飛行空間で質量分離されたイオンを検出する検出器14とを備える。
【0023】
微生物判別部20の実体は、ワークステーションやパーソナルコンピュータ等のコンピュータであり、中央演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)21にメモリ22、LCD(Liquid Crystal Display)等から成る表示部23、キーボードやマウス等から成る入力部24、ハードディスクやSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置から成る記憶部30が互いに接続されている。記憶部30には、OS(Operating System)31、スペクトル作成プログラム32、種決定プログラム33、及び血清型決定プログラム35(本発明に係るプログラム)が記憶されると共に、第1データベース34及び第2データベース36が格納されている。微生物判別部20は、更に、外部装置との直接的な接続や、外部装置等とのLAN(Local Area Network)などのネットワークを介した接続を司るためのインターフェース(I/F)25を備えており、該インターフェース25によりネットワークケーブルNW(又は無線LAN)を介して質量分析部10に接続されている。
【0024】
図1においては、血清型決定プログラム35に係るように、スペクトル取得部37、m/z読み取り部38、及び血清型判定部39が示されている。これはいずれも基本的にはCPU21が
血清型決定プログラム35を実行することによりソフトウェア的に実現される機能手段である。なお、血清型決定プログラム35は必ずしも単体のプログラムである必要はなく、例えば種決定プログラム33や、質量分析部10を制御するためのプログラムの一部に組み込まれた機能であってもよく、その形態は特に問わない。なお、種決定プログラム33としては、例えば、従来のフィンガープリント法による微生物識別を行うプログラム等を利用することができる。
【0025】
また、
図1では、ユーザが操作する端末にスペクトル作成プログラム32、種決定プログラム33、及び血清型決定プログラム35、第1データベース34、及び第2データベース36を搭載する構成としたが、これらの少なくとも一部又は全部を前記端末とコンピュータネットワークで接続された別の装置内に設け、前記端末からの指示に従って前記別の装置内に設けられたプログラムによる処理及び/又はデータベースへのアクセスが実行される構成としてもよい。
【0026】
記憶部30の第1データベース34には、既知微生物に関する質量リストが多数登録されている。この質量リストは、ある微生物細胞を質量分析した際に検出されるイオンの質量電荷比を列挙したものであり、該質量電荷比の情報に加えて、少なくとも、前記微生物細胞が属する分類群(科、属、種など)の情報(分類情報)を含んでいる。こうした質量リストは、予め各種の微生物細胞を前記質量分析部10によるものと同様のイオン化法及び質量分離法によって実際に質量分析して得られたデータ(実測データ)に基づいて作成することが望ましい。
【0027】
前記実測データから質量リストを作成する際には、まず、前記実測データとして取得されたマススペクトルから所定の質量電荷比範囲に現れるピークを抽出する。このとき、前記質量電荷比範囲を4,000~30,000程度とすることにより、主にタンパク質由来のピークを抽出することができる。また、ピークの高さ(相対強度)が所定の閾値以上のものだけを抽出することにより、不所望のピーク(ノイズ)を除外することができる。そして、抽出されたピークの質量電荷比(m/z)を細胞毎にリスト化し、前記分類情報等を付加した上で第1データベース34に登録する。なお、培養条件による遺伝子発現のばらつきを抑えるため、実測データの採取に用いる各微生物細胞は、予め培養環境を規格化しておくことが望ましい。
【0028】
記憶部30の第2データベース36には、既知微生物を種よりも下位の分類である血清型で識別するためのマーカータンパク質に関する情報が登録されている。該マーカータンパク質に関する情報としては、少なくとも既知微生物における該マーカータンパク質の質量電荷比(m/z)の情報が含まれる。なお、第2データベース36には、血清型以外の下位の分類(例えば亜種、病原型、株)などで識別するためのマーカータンパク質に関する情報が登録されていてもよい。
【0029】
本実施形態における第2データベース36には、被検微生物が、以下に示す第1グループに属するサルモネラ属菌であるか、或いは第2グループに属するサルモネラ属菌であるかを判定するため、又は第1グループに属するサルモネラ属菌のいずれであるか、或いは第2グループに属するサルモネラ属菌のいずれであるかを判定するためのマーカータンパク質に関する情報として、少なくとも10種類のタンパク質であるgns、YaiA、YibT、PPI、L25、L21、S8、L17、L15、S7にそれぞれ対応した質量電荷比範囲と該質量電荷比範囲の値である1又は複数の質量電荷比の値が記憶されている。
【0030】
<第1グループ>
(1) S. Abaetetuba, ATCC35640
(2) S. Anatum, ATCC9270
(3) S. Newport, ATCC6962
(4) S. Poona, NCTC 4840
(5) S. Tallahassee, ATCC12002
(6) S. Vellore, ATCC15611
【0031】
<第2グループ>
(1) S. Enteritidis, GTC08914
(2) S. Typhimurium, NBRC13245
(3) S. Minnesota, NBRC15182
(4-1) S. Infantis, ATCC BAA-1675
(4-1) S. Infantis, jfrlSe1402-1
(5) S. Brandenburg, jfrlSe1402-3
(6) S. Rissen, jfrlSe1402-6
(7) S. Schwarzengrund, HyogoSO12004
(8) S. Montevideo, jfrlSe1409-6
(9-1) S. Mbandaka, jfrlSe1402-13
(9-2) S. Mbandaka, jfrlSe1402-14
(10) S. Orion, jfrlSe1402-7
(11) S. Pullorum_Gallinarum, NBRC3163
(12) S. Abony, NBRC100797
(13) S. Choleraesuis, NBRC105684
(14) S. Saintpaul, ATCC9712
(15) S. Braenderup, GTC09492
(16) S. Pakistan, GTC09493
(17) S. Thompson, ATCC BAA-1738
(18) S. Altona, jfrlSe1409-1
(19) S. Istanbul, jfrlSe1409-2
(20) S. Manhattan, HyogoSO11001
(21) S. Senftenberg, jfrlSe1409-3
(22) S. Amsterdam, jfrlSe1409-21
【0032】
上記第1グループには6種の血清型に分類される6種類のサルモネラ属菌が属する。また、上記第2グループには22種の血清型に分類される24種類のサルモネラ属菌が属する。22種の血清型のうち血清型Infantis、血清型Mbandakaにはそれぞれ2種類のサルモネラ属菌が含まれる。血清型が同じサルモネラ属菌には枝番1,2を付けた同じ番号を付している。
【0033】
第2データベース36に記憶されるマーカータンパク質の質量電荷比の値としては、各マーカータンパク質の塩基配列をアミノ酸配列に翻訳することにより求められた計算質量と、実測により検出される質量電荷比を比較して選別することが望ましい。なお、マーカータンパク質の塩基配列は、シークエンスによって決定するほか、公共のデータベース、例えばNCBI(国立生物工学情報センター:National Center for Biotechnology Information)のデータベース等から取得したものを用いることもできる。前記アミノ酸配列から計算質量を求める際には、翻訳後修飾としてN-末端メチオニン残基の切断を考慮することが望ましい。具体的には、最後から2番目のアミノ酸残基がGly, Ala, Ser, Pro, Val, Thr, 又はCysである場合に、N-末端メチオニンが切断されるものとして前記理論値を算出する。また、MALDI-TOF MSで実際に観測されるのはプロトンが付加した分子であるため、そのプロトンの分も加味して前記計算質量(すなわち各タンパク質をMALDI-TOF MSで分析した場合に得られるイオンの質量電荷比の理論値)を求めることが望ましい。
【0034】
次に、上記の微生物分析システムを用いたサルモネラ属菌の血清型の分析手順についてフローチャートを参照しつつ説明を行う。
【0035】
まず、ユーザは被検微生物の構成成分を含む試料を調製し、質量分析部10にセットして質量分析を実行させる。このとき、前記試料としては、細胞抽出物、又は細胞抽出物からリボソームタンパク質等の細胞構成成分を精製したものの他、菌体や細胞懸濁液をそのまま使用することもできる。
【0036】
スペクトル作成プログラム32は、質量分析部10の検出器14から得られる検出信号をインターフェース25を介して取得し、該検出信号に基づいて被検微生物のマススペクトルを作成する(ステップ101)。
【0037】
次に、種決定プログラム33が、前記被検微生物のマススペクトルを第1データベース34に収録されている既知微生物の質量リストと照合し、被検微生物のマススペクトルに類似した質量電荷比パターンを有する既知微生物の質量リスト、例えば被検微生物のマススペクトル中の各ピークと所定の誤差範囲で一致するピークが多く含まれている質量リストを抽出する(ステップ102)。種決定プログラム33は、続いてステップ102で抽出した質量リストと対応付けて第1データベース34に記憶された分類情報を参照することで、該質量リストに対応した既知微生物が属する生物種を特定する(ステップ103)。そして、この生物種がサルモネラ属菌でなかった場合(ステップ104でNoの場合)は、該生物種を被検微生物の生物種として表示部23に出力し(ステップ110)、分析処理を終了する。一方、前記生物種がサルモネラ属菌であった場合(ステップ104でYesの場合)は、続いて血清型決定プログラム35による分析処理に進む。なお、あらかじめ他の方法で、試料中にサルモネラ属菌が含まれることが判定されている場合は、マススペクトルを用いた種決定プログラムを利用せずに、血清型決定プログラム35に進めばよい。
【0038】
血清型決定プログラム35では、まず血清型判定部39がマーカータンパク質である10種類のタンパク質gns、YaiA、YibT、PPI、L25、L21、S8、L17、L15、S7の質量電荷比範囲(つまり、10個の質量電荷比範囲)をそれぞれ第2データベース36から読み出す(ステップ105)。続いてスペクトル取得部37が、ステップ101で作成された被検微生物のマススペクトルを取得する。そして、m/z読み取り部38が、該マススペクトル上において、前記の各マーカータンパク質に関連付けて第2データベース36に記憶された質量電荷比範囲にピークが現れているか否かを判別する(ステップ106)。
【0039】
ここで第2データベース36に記憶された10個の質量電荷比範囲のいずれにもピークが現れていなかった場合(ステップ106でNoの場合)は、試料に含まれるサルモネラ属菌が第1グループ及び第2グループのいずれでもない血清型として表示部23に出力し(ステップ110)、識別処理を終了する。
【0040】
一方、前記10個の質量電荷比範囲の少なくとも一つにピークが現れていた場合(ステップ106でYes)は、そのピークを、該ピークが存在する質量電荷比範囲のマーカータンパク質に対応するピークとして選出し、その質量電荷比を読み取る(ステップ107)。その後、血清型判定部39が、この読み取った質量電荷比と前記第2データベース36から読み出した各マーカータンパク質の質量電荷比の値を比較して両者が所定の許容誤差範囲内で一致するか否かを判断する(ステップ108)。このとき、質量電荷比範囲に含まれる質量電荷比として複数の値が第2データベース36に記憶されている場合は、いずれの値と一致するか判断する。その結果、第2データベース36に記憶されている質量電荷比の中に読み取った質量電荷比の値と一致する値が存在した場合には、その結果に基づき、被検微生物が第1グループに属する血清型又は第2グループに属する血清型のいずれかである、もしくは第1グループ及び第2グループに属する血清型のうちのいずれであるかを判定し(ステップ109)、その旨を被検微生物の識別結果として表示部23に出力する(ステップ110)。
【0041】
なお、予め他の方法で試料に含まれるサルモネラ属菌が第1グループ及び第2グループのいずれかであると判定されている場合は、ステップ106におけるピークの存在有無の判定を省略して次のステップ107に進めばよい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明に係る微生物分析方法の効果を実証するために行った実験について説明するが、これらは単なる例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
1.サルモネラ属菌の培養
上述した第1グループに属する6種類のサルモネラ属菌、及び上述した第2グループに属する24種類のサルモネラ属菌の計30種類のサルモネラ属菌を、LB寒天培地を用いて37℃で20時間培養した。
【0044】
2.マトリックス溶液の作製
以下の2種類のマトリックス溶液を作製した。
(2-1) エタノールにマトリックス物質であるシナピン酸(SA)を25mg/mL含むように溶解して、マトリックス溶液(飽和溶液)を作製した。このマトリックス溶液を「SA-1」とする。
(2-2) 50%のアセトニトリル(ACN)及び0.6%のトリフルオロ酢酸(TFA)を含む水溶液に、SAを25mg/mL、メチレンジホスホン酸(MDPNA)を1%、界面活性剤であるデシル-β-D-マルトピラノシド(decyl-β-D-maltopyranoside、DMP)を1mM、それぞれ含むように溶解して、マトリックス溶液を作製した。このマトリックス溶液を「SA-2」とする。
マトリックス溶液SA-1及びSA-2に用いたSAは富士フイルム和光純薬工業株式会社製、MDPNA及びDMPはシグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製のものを用いた。
【0045】
3.マトリックス・微生物懸濁液の調製
(3-1) LB寒天培地で培養した30種類のサルモネラ属菌をそれぞれ約1mgずつ微量天秤で秤量してチューブに入れ、そこにマトリックスSA-2溶液を加えて菌濃度が1mg/0.075mL(約1×107CFU/μL)になるように調製し、それをニードルで懸濁した。
(3-2) チューブに1分間、超音波振動を与え、得られた懸濁液を遠心分離(12000rpm、5min)して遠心上清液を得た。
【0046】
4.MALDI-MSによる分析
(4-1) MALDI用サンプルプレートの各ウェルにマトリックス溶液SA-1を0.5μLずつ滴下した(プリコート)。
(4-2) 続いて、マトリックス溶液SA-1がプリコートされた各ウェルに、上記の遠心上清液を1μLずつ滴下し、自然乾燥させた。
(4-3) (4-2)で得られたMALDI用サンプルプレートを、MALDI-MS(AXIMA Performance, 株式会社島津製作所製)に挿入し、リニアモード(ポジティブイオンモード)で測定した。測定データは、全てラスター分析により取得した。ラスター分析は、上述の質量分析装置が備える自動測定機能であり、サンプルプレートの各ウェル内の試料に対して、予め設定されたポイント数、ショット数でレーザ照射し、マススペクトルデータを取得する手法である。
【0047】
5.結果
測定データに対してサルモネラ属菌の自己キャリブレーションを適用し、得られたマススペクトルについて、10種類のタンパク質(gns, YaiA, YibT, PPI, L25, L21, S8, L17, L15, S7)に由来するピークの質量電荷比m/zを読み取った。ここで、自己キャリブレーションとは、サルモネラ属菌自身のいくつかの帰属済みのピークを内部標準としてキャリブレーションを行うことをいう。
その結果を
図3~
図5に示す。
図3は、上述した第1グループに属する6種類のサルモネラ属菌について得られた結果であり、
図4は第2グループに属する24種類のサルモネラ属菌について得られた結果である。また
図5は、第1グループに属する3種の血清型Abaetetuba、Newport、Velloreのサルモネラ属菌におけるタンパク質YaiA、L25のマススペクトルを示している。なお、
図3において「-」は少なくとも今回はピークが検出されなかったことを示している。
【0048】
図3及び
図4から分かるように、10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比の値の中には、複数の血清型で共通するものが含まれるものの、10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比から選択される1ないし複数の値の組み合わせから、第1グループと第2グループの中のいずれの血清型であるか識別する、あるいは候補を絞り込むことができる。このとき、質量電荷比の組み合わせが複数の血清型に重複する場合は、その複数種まで血清型の候補を絞り込むことができる。
【0049】
具体的には、被検微生物がサルモネラ属菌であってその血清型が第1グループ又は第2グループに属する血清型であることが分かっている場合、マーカータンパク質Gnsに対応する質量電荷比の値が「6542」であるとき、又はL25に対応する質量電荷比の値が「10569」であるときは血清型が第1グループのVelloreであり、マーカータンパク質YaiAに対応する質量電荷比の値が「7097」であるときは血清型が第1グループのNewportであるか第2グループのTyphimuriumであると識別される。
【0050】
被検微生物がサルモネラ属菌であってその血清型が第1グループ又は第2グループに属する血清型であることが分かっている場合、マーカータンパク質YibTに対応する質量電荷比の値が「7894」であるときは血清型が第1グループのTallahassee又はVelloreであり、L21に対応する質量電荷比の値が「11593」であるときは血清型が第1グループのPoona又はVelloreであると識別される。
【0051】
被検微生物がサルモネラ属菌であってその血清型が第1グループ又は第2グループに属する血清型であることが分かっている場合、マーカータンパク質YaiAに対応する質量電荷比の値が「7110」であるときは血清型が第2グループのPullorum_Gallinarumであり、PPIに対応する質量電荷比の値が「10216」であるときは血清型が第2グループのOrionであり、L15に対応する質量電荷比の値が「14948」であるときは血清型が第2グループのAltonaであると識別される。
【0052】
被検微生物がサルモネラ属菌であってその血清型が第1グループ又は第2グループに属する血清型であることが分かっている場合、マーカータンパク質YibTに対応する質量電荷比の値が「8023」であるときは血清型が第2グループのBraenderup又はThompsonであり、L25に対応する質量電荷比の値が「10528」であるときは血清型が第2グループのBraenderup、Manhattan、又はAmsterdamであると識別され、さらに、マーカータンパク質Gnsに対応する質量電荷比の値が「6511」であるときは血清型が第2グループのInfantis、Mbandaka、Manhattan、Senftenberg、Amsterdamのいずれかであると識別される。
【0053】
また、被検微生物がサルモネラ属菌であってその血清型が第1グループに属する血清型であることが分かっている場合、マーカータンパク質L21に対応する質量電荷比が「11565」であり、S7に対応する質量電荷比が「17474」であるとき、あるいはマーカータンパク質10種の質量電荷比の組み合わせが
図3のNo.1の行に示される数値の組み合わせであるときは血清型がAbaetetubaであると識別される。また、被検微生物がサルモネラ属菌であってその血清型が不明な場合、マーカータンパク質10種の質量電荷比の組み合わせが
図3のNo.1の行の数値の組み合わせであるときは血清型がAbaetetubaである可能性が確認される(候補の絞り込みができる)。
【0054】
被検微生物がサルモネラ属菌であってその血清型が第1グループに属する血清型であることが分かっている場合、マーカータンパク質L21に対応する質量電荷比が「11579」であり、YaiAに対応する質量電荷比が「7111」であり、YibTに対応する質量電荷比が「7993」であるとき、あるいはマーカータンパク質10種の質量電荷比の組み合わせが
図3のNo.2の行に示される数値の組み合わせであるときは血清型がAnatumであると識別される。また、被検微生物がサルモネラ属菌であってその血清型が不明な場合は、マーカータンパク質10種の質量電荷比の組み合わせが
図3のNo.2の行の数値の組み合わせであるときは血清型がAnatumである可能性が確認される(候補の絞り込みができる)。
【0055】
被検微生物がサルモネラ属菌であってその血清型が第1グループに属する血清型であることが分かっている場合、マーカータンパク質YaiAに対応する質量電荷比が「7097」であるとき、あるいはマーカータンパク質10種の質量電荷比の組み合わせが
図3のNo.3の行に示される数値の組み合わせであるときは血清型がNewportであると識別される。また、被検微生物がサルモネラ属菌であってその血清型が不明な場合は、マーカータンパク質10種の質量電荷比の組み合わせが
図3のNo.3の行の数値の組み合わせであるときは、血清型はNewportである可能性が確認される(候補の絞り込みができる)。
【0056】
被検微生物がサルモネラ属菌であってその血清型が第1グループに属する血清型であることが分かっている場合、マーカータンパク質S7に対応する質量電荷比が「17460」であるとき、あるいはマーカータンパク質10種の質量電荷比の組み合わせが
図3のNo.4の行に示される数値の組み合わせであるときは血清型がPoonaであると識別される。また、被検微生物がサルモネラ属菌であってその血清型が不明な場合は、マーカータンパク質10種の質量電荷比の組み合わせが
図3のNo.4の行の数値の組み合わせであるときは血清型がPoonaである可能性が確認される(候補の絞り込みができる)。
【0057】
被検微生物がサルモネラ属菌であってその血清型が第1グループに属する血清型であることが分かっている場合、マーカータンパク質Gnsに対応する質量電荷比が「6483」であり、YibTに対応する質量電荷比が「7894」であるとき、あるいはマーカータンパク質10種の質量電荷比の組み合わせが
図3のNo.5の行に示される数値の組み合わせであるときは血清型がTallahasseeであると識別される。また、被検微生物がサルモネラ属菌であってその血清型が不明な場合は、マーカータンパク質10種の質量電荷比の組み合わせが
図3のNo.5の数値の組み合わせであるときは血清型がTallahasseeである可能性が確認される(候補の絞り込みができる)。
【0058】
第一グループに属する菌を分析し、マーカータンパク質Gnsに対応する質量電荷比が「6542」であるとき、又はL25に対応する質量電荷比が「10569」であるとき、あるいはマーカータンパク質10種の質量電荷比の組み合わせが
図3のNo.6の行に示される数値の組み合わせであるときは、血清型はVelloreであると識別される。また、被検微生物がサルモネラ属菌であってその血清型が不明な場合、マーカータンパク質Gnsに対応する質量電荷比が「6542」であるとき、又はL25に対応する質量電荷比が「10569」であるとき、あるいはマーカータンパク質10種の質量電荷比の組み合わせが
図3のNo.6の行に示される数値の組み合わせであるときは血清型がVelloreである可能性が確認される(候補の絞り込みができる)。
【0059】
このように、被検微生物がサルモネラ属菌であってその血清型が第1グル-プ又は第2グループに属する血清型であることが分かっている場合、あるいは第1グル-プに属することが分かっている場合、あるいは第1及び第2グループに属する血清型であるか否かが不明な場合、いずれの場合も、10種のマーカータンパク質及びこれらの任意の組み合わせから成る群から選択される1ないし複数種類に由来するピークの質量電荷比から、血清型を識別したり、あるいは幾つかの血清型の候補に絞り込んだりすることができる。
【0060】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
(第1項)一態様の微生物分析方法は、
微生物を含む試料を質量分析して得られたマススペクトルから、10種類のタンパク質であるgns、YaiA、YibT、PPI、L25、L21、S8、L17、L15、S7及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1ないし10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比m/zを読み取るステップと、
前記読み取られた質量電荷比m/zに基づいて、前記試料に、Salmonella属菌の6種の血清型であるAbaetetuba、Anatum、Newport、Poona、Tallahassee、及びVelloreの少なくとも1種が含まれるかを識別する識別ステップと
を有する。
【0061】
第1項に記載の微生物分析方法によれば、試料に含まれる微生物が、これまで他のサルモネラ属菌の血清型と区別することが難しかったサルモネラ属菌の所定の6種の血清型のいずれかであることを容易に識別することができる。
【0062】
(第2項)第1項に記載の微生物分析方法において、前記識別ステップに代えて、
前記読み取られた質量電荷比m/zに基づいて、前記試料に、Salmonella属菌の6種の血清型であるAbaetetuba、Anatum、Newport、Poona、Tallahassee、及びVelloreの少なくとも1種が含まれるか、或いは、22種の血清型であるEnteritidis、Typhimurium、Minnesota、Infantis、Brandenburg、Rissen、Schwarzengrund、Montevideo、Mbandaka、Orion、Pullorum_Gallinarum、Abony、Choleraesuis、Saintpaul、Braenderup、Pakistan、Thompson、Altona、Istanbul、Manhattan、Senftenberg、及びAmsterdamの少なくとも1種が含まれるかを識別する識別ステップを有する。
【0063】
第2項に記載の微生物分析方法によれば、試料に含まれる微生物が、サルモネラ属菌の所定の6種の血清型のいずれか、或いは22種の血清型のいずれかであることを容易に識別することができる。
【0064】
(第3項)第1項又は第2項に記載の微生物分析方法において、
前記識別ステップにおいて、前記試料に、前記6種の血清型の少なくとも1種が含まれると識別された場合に、前記10種類のタンパク質及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1ないし10種類のタンパク質に由来するピークの質量電荷比m/zから、前記試料に、前記6種の血清型のいずれの血清型が含まれるかを識別するステップを有する。
【0065】
第3項に記載の微生物分析方法によれば、試料に含まれる微生物が、サルモネラ属菌の前記6種類の血清型のいずれであるかを特定することができる。
【0066】
(第4項)第1項に記載の微生物分析方法において、前記識別ステップに代えて、
前記読み取られた質量電荷比m/zに基づいて、前記試料に、前記6種の血清型のいずれの血清型が含まれるかを識別するステップを有する。
【0067】
第4項に記載の微生物分析方法によれば、試料に含まれる微生物が、これまで他のサルモネラ属菌の血清型と区別することが難しかったサルモネラ属菌の所定の6種の血清型のいずれであることを特定することができる。
【0068】
(第5項)別の一態様に係るプログラムは、上記第1項~第4項のいずれかに記載の各ステップを実行させる。