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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】内燃機関の燃料噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/40 20060101AFI20240109BHJP
   F02M 51/00 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
F02D41/40
F02M51/00 G
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020091464
(22)【出願日】2020-05-26
(65)【公開番号】P2021188525
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】今村 和哉
(72)【発明者】
【氏名】奥野 佳則
(72)【発明者】
【氏名】植田 大治
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0063694(US,A1)
【文献】特開2005-36788(JP,A)
【文献】特開2006-29109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00
F02M 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により駆動される駆動部(60)と、その駆動部の駆動に応じて噴孔(33)を開放させる弁体(32)とを有し、前記駆動部の通電時間に応じて噴射量を変化させ、かつ前記弁体のリフト量が所定の中間リフト量になる中間リフト状態とすることで最大噴射率を実現する燃料噴射装置(11)を備える燃料噴射システムに適用され、
前記通電時間と噴射量との関係を示す噴射特性データを用い噴射量に応じた通電時間を決定し、その通電時間により前記駆動部の通電を実施する燃料噴射制御装置(20)であって、
1回の噴射機会における前記駆動部の通電回数を決定し、その通電が行われる噴射期間において、前記中間リフト状態での最大噴射率の燃料噴射が実施されるように、各段の通電時間とそれら各通電の間のインターバル時間とを設定する時間設定部と、
前記時間設定部により設定された各段の通電時間とインターバル時間とに基づいて、前記駆動部に対する通電を実施する通電制御部と、
1回の噴射機会に少なくとも1段の通電を行う1段通電と2段の通電を行う2段通電とを実施する場合に、それら各通電での実際の噴射量である実噴射量を取得する噴射量取得部と、
前記噴射量取得部により取得した前記各通電での実噴射量に基づいて、前記噴射特性データの調整量を算出する特性調整部と、
を備え、
前記噴射量取得部は、前記1段通電と前記2段通電とを、噴射量を同じ目標噴射量とする調整点(P2,P3)で各々実施し、それら各調整点での実噴射量を取得し、
前記特性調整部は、前記目標噴射量が同じになる前記調整点の実噴射量に基づいて、前記1段通電の前記調整量と前記2段通電の前記調整量とを算出し、
前記時間設定部は、前記特性調整部により算出された前記調整量を用いて前記通電時間を設定する内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
通電により駆動される駆動部(60)と、その駆動部の駆動に応じて噴孔(33)を開放させる弁体(32)とを有し、前記駆動部の通電時間に応じて噴射量を変化させ、かつ前記弁体のリフト量が所定の中間リフト量になる中間リフト状態とすることで最大噴射率を実現する燃料噴射装置(11)を備える燃料噴射システムに適用され、
前記通電時間と噴射量との関係を示す噴射特性データを用い噴射量に応じた通電時間を決定し、その通電時間により前記駆動部の通電を実施する燃料噴射制御装置(20)であって、
1回の噴射機会における前記駆動部の通電回数を決定し、その通電が行われる噴射期間において、前記中間リフト状態での最大噴射率の燃料噴射が実施されるように、各段の通電時間とそれら各通電の間のインターバル時間とを設定する時間設定部と、
前記時間設定部により設定された各段の通電時間とインターバル時間とに基づいて、前記駆動部に対する通電を実施する通電制御部と、
1回の噴射機会に少なくとも1段の通電を行う1段通電と2段の通電を行う2段通電とを実施する場合に、それら各通電での実際の噴射量である実噴射量を取得する噴射量取得部と、
前記噴射量取得部により取得した前記各通電での実噴射量に基づいて、前記噴射特性データの調整量を算出する特性調整部と、
前記噴射特性データにおいて、前記1段通電を実施可能な範囲で複数の第1調整点(P1,P2)を設定するとともに、前記2段通電を実施可能な範囲で複数の第2調整点(P3,P4)を設定する調整点設定部と、
を備え、
前記噴射量取得部は、前記複数の第1調整点及び前記複数の第2調整点において前記1段通電と前記2段通電とを各々実施し、それら各通電での実噴射量を取得し、
前記特性調整部は、前記複数の第1調整点及び前記複数の第2調整点における実噴射量に基づいて、前記各通電での前記調整量を算出し、
前記時間設定部は、前記特性調整部により算出された前記調整量を用いて前記通電時間を設定する内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
通電により駆動される駆動部(60)と、その駆動部の駆動に応じて噴孔(33)を開放させる弁体(32)とを有し、前記駆動部の通電時間に応じて噴射量を変化させ、かつ前記弁体のリフト量が所定の中間リフト量になる中間リフト状態とすることで最大噴射率を実現する燃料噴射装置(11)を備える燃料噴射システムに適用され、
前記通電時間と噴射量との関係を示す噴射特性データを用い噴射量に応じた通電時間を決定し、その通電時間により前記駆動部の通電を実施する燃料噴射制御装置(20)であって、
1回の噴射機会における前記駆動部の通電回数を決定し、その通電が行われる噴射期間において、前記中間リフト状態での最大噴射率の燃料噴射が実施されるように、各段の通電時間とそれら各通電の間のインターバル時間とを設定する時間設定部と、
前記時間設定部により設定された各段の通電時間とインターバル時間とに基づいて、前記駆動部に対する通電を実施する通電制御部と、
1回の噴射機会に少なくとも1段の通電を行う1段通電と2段の通電を行う2段通電とを実施する場合に、それら各通電での実際の噴射量である実噴射量を取得する噴射量取得部と、
前記噴射量取得部により取得した前記各通電での実噴射量に基づいて、前記噴射特性データの調整量を算出する特性調整部と、
1回の噴射機会に複数段の通電を実施する場合に、2段目以降の通電開始時に生じる弁体リフトアップの応答遅れに対応する補正値を設定し、その補正値により、2段目以降の前記通電時間及び前記インターバル時間の少なくともいずれかを補正する補正部と、
を備え、
前記時間設定部は、前記特性調整部により算出された前記調整量を用いて前記通電時間を設定する内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記補正部は、前記燃料噴射装置に供給される燃料の圧力に基づいて、前記補正値を設定する請求項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記噴射量取得部は、前記2段通電における1段目の通電と2段目の通電との間のインターバル時間が、通電停止により前記弁体がリフトダウンに転じる際の応答遅れ時間よりも長い時間であり、かつ前記2段目の通電時間が、通電の再開により前記弁体がリフトアップに転じる際の応答遅れ時間よりも長い時間であるようにして、当該2段通電を実施する請求項1~のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記時間設定部は、前記燃料噴射装置に供給される燃料の圧力に基づいて、前記各段の通電時間を設定する請求項1~のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
前記時間設定部は、前記各段の通電時間を、後段の通電時には前段の通電時に比べて前記燃料噴射装置に供給される燃料の圧力が低下していることを加味して設定する請求項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項8】
前記時間設定部は、前記燃料噴射装置に供給される燃料の圧力に基づいて、前記インターバル時間を設定する請求項1~のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項9】
前記燃料噴射装置への通電指令に応じて、通電開始当初の高電圧の印加と、その高電圧印加に続く低電圧の印加とを行う駆動回路(22)を備えており、
前記駆動回路は、各段の通電時において、前記高電圧の印加と前記低電圧の印加とをそれぞれ実施する請求項1~のいずれかに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の燃料噴射制御装置では、燃料噴射装置の通電に伴う弁体のリフトにより噴孔を開放し、燃料噴射を行わせるようにしている。また、燃料噴射装置として、弁体を中間リフト状態として燃料噴射を行う、いわゆるフライングニードル構造の燃料噴射装置が知られている。この燃料噴射装置では、弁体を上限ストッパに当接させないことで、弁体のバウンドに起因する噴射量ばらつきや、個体差及び経時変化による上限ストッパ位置のばらつきに起因する噴射量ばらつきを低減できるといったメリットが得られる。
【0003】
また、特許文献1には、1回の噴射機会において、弁体を中間リフト状態としたままで複数回の通電及び通電遮断を行い、これにより燃料噴射装置の大型化を抑制しつつ、多量の燃料噴射が可能になるとした技術が記載されている。この場合、第1通電が遮断された後、弁体が閉弁位置に到達する前に第2通電が開始されることで、第1通電及び第2通電を通じて燃料噴射が継続されるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2020/0063694号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、1回の噴射機会において、弁体を中間リフト状態としたままで複数回の通電及び通電遮断を行う場合において、燃料噴射量に誤差が生じることが考えられる。そのため、技術的に改善の余地があると考えられる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、燃料噴射制御を適正に実施することができる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明における内燃機関の燃料噴射制御装置は、
通電により駆動される駆動部と、その駆動部の駆動に応じて噴孔を開放させる弁体とを有し、前記駆動部の通電時間に応じて噴射量を変化させ、かつ前記弁体のリフト量が所定の中間リフト量になる中間リフト状態とすることで最大噴射率を実現する燃料噴射装置を備える燃料噴射システムに適用され、
前記通電時間と噴射量との関係を示す噴射特性データを用い噴射量に応じた通電時間を決定し、その通電時間により前記駆動部の通電を実施する燃料噴射制御装置であって、
1回の噴射機会における前記駆動部の通電回数を決定し、その通電が行われる噴射期間において、前記中間リフト状態での最大噴射率の燃料噴射が実施されるように、各段の通電時間とそれら各通電の間のインターバル時間とを設定する時間設定部と、
前記時間設定部により設定された各段の通電時間とインターバル時間とに基づいて、前記駆動部に対する通電を実施する通電制御部と、
1回の噴射機会に少なくとも1段の通電を行う1段通電と2段の通電を行う2段通電とを実施する場合に、それら各通電での実際の噴射量である実噴射量を取得する噴射量取得部と、
前記噴射量取得部により取得した前記各通電での実噴射量に基づいて、前記噴射特性データの調整量を算出する特性調整部と、
を備え、
前記時間設定部は、前記特性調整部により算出された前記調整量を用いて前記通電時間を設定する。
【0008】
上記構成の燃料噴射システムにおいて、燃料噴射装置では、通電により駆動部が駆動され、その駆動部の駆動に伴う弁体リフトにより噴孔が開放されて燃料噴射が行われる。この場合、駆動部の通電時間に応じて噴射量が変化し、弁体を中間リフト状態とすることで最大噴射率が実現される。弁体を中間リフト状態として燃料噴射を行う、いわゆるフライングニードル構造の燃料噴射装置では、弁体を上限ストッパに当接させないことで、弁体のバウンドに起因する噴射量ばらつき低減などのメリットが得られる。
【0009】
また、上記構成では、1回の噴射機会における駆動部の通電回数を決定し、その通電が行われる噴射期間において、中間リフト状態での最大噴射率の燃料噴射が実施されるように、各段の通電時間とそれら各通電の間のインターバル時間とを設定するようにした。また、それら各段の通電時間とインターバル時間とに基づいて、駆動部に対する通電を実施するようにした。この場合、1回の燃料噴射に対する複数の分割通電により弁体リフト量の増減を繰り返し行わせることで、燃料噴射装置の中間リフト領域を拡張することなく、弁体を所望の中間リフト状態に維持することができる。また、各段の通電において、最大噴射率での噴射を継続して実施することができ、燃料噴射量に線形性を持たせ、高精度な燃料噴射を実施することができる。
【0010】
ここで、1回の噴射機会において複数段の通電による燃料噴射を行う場合には、通電段数にかかわらず、通電時間に対する燃料噴射量の線形性が維持されることが望ましい。この点、1回の噴射機会に少なくとも1段通電と2段通電とを実施する場合に、それら各通電での実際の噴射量である実噴射量を取得し、それら各通電での実噴射量に基づいて、噴射特性データの調整量を算出するようにした。そして、噴射特性データの調整量の算出が行われた場合に、その調整量を用いて通電時間を設定するようにした。これにより、1回の噴射機会での通電段数が変更されても、それら各通電段数での燃料噴射を適正に実施することができる。その結果、燃料噴射制御を適正に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】燃料噴射システムの概要を示す構成図。
図2】燃料噴射装置の内部構造を示す断面図。
図3】燃料噴射の一連の処理を示すタイムチャート。
図4】(a)は燃圧と通電時間との関係を示す図、(b)は燃圧とインターバル時間との関係を示す図。
図5】通電時間及びインターバル時間の設定の概要を説明するためのタイムチャート。
図6】燃圧と補正値Cとの関係を示す図。
図7】燃料噴射制御の処理手順を示すフローチャート。
図8】燃圧と各閾値Th1~Th3との関係を示す図。
図9】通電時間と噴射量との関係を示す図。
図10】通電時間と噴射量との関係を示す図。
図11】各調整点での特性調整噴射を説明するためのタイムチャート。
図12】ノズルニードルのリフト量の推移を示すタイムチャート。
図13】特性調整処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、例えば車載ディーゼルエンジンを制御対象にしたコモンレール式燃料噴射システム(蓄圧式燃料噴射システム)において、燃料噴射装置による燃料噴射を制御する燃料噴射制御装置を具体化するものとしている。
【0013】
図1において、内燃機関としての4気筒ディーゼルエンジン(以下、エンジン10という)には気筒ごとに燃料噴射装置11が配設され、これら燃料噴射装置11は各気筒共通のコモンレール12(蓄圧配管)に接続されている。コモンレール12には燃料ポンプとしての高圧ポンプ13が接続されており、高圧ポンプ13の駆動に伴い燃料が高圧化され、噴射圧相当の高圧燃料がコモンレール12に連続的に蓄圧される。高圧ポンプ13は、エンジン10の回転に伴い駆動され、エンジン回転に同期して燃料の吸入及び吐出が繰り返し行われる。高圧ポンプ13には、その燃料吸入部に電磁駆動式の吸入調量弁(SCV)13aが設けられており、フィードポンプ14によって燃料タンク15から汲み上げられた低圧燃料は吸入調量弁13aを介して高圧ポンプ13の燃料室に吸入される。
【0014】
コモンレール12には、燃料噴射装置11に供給される燃料の圧力としてコモンレール12内の燃料圧力(燃圧)を検出する圧力センサ16が設けられている。なお、圧力センサ16は、各燃料噴射装置11において、コモンレール12の燃料流出口から燃料噴射装置11の噴孔33(図2参照)までの間のいずれかの位置に設けられていてもよい。具体的には、各燃料噴射装置11において、高圧燃料が流れる高圧燃料通路に圧力センサ16が設けられていてもよい。
【0015】
ECU20は、CPUや各種メモリ(RAM、ROM等)からなる周知のマイコン21(マイクロコンピュータ)を備えた電子制御ユニットであり、ROM内に記憶されている制御プログラムにより各種制御を実施する。マイコン21には、上述した圧力センサ16の検出信号の他、エンジン回転速度を検出する回転速度センサや、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ、車速を検出する車速センサなどの各種センサから検出信号が逐次入力される。そして、マイコン21は、エンジン回転速度やアクセル開度等のエンジン運転情報に基づいて、燃料噴射態様として燃料噴射量及び噴射時期を決定し、それに応じて燃料噴射装置11による燃料噴射を制御する。かかる燃料噴射制御により、各気筒において燃料噴射装置11から燃焼室への燃料噴射が制御される。
【0016】
ECU20において、マイコン21は通電指令信号として通電パルスを生成し、その通電パルスを駆動回路22に出力する。周知のとおり、駆動回路22は、高電圧の高圧電源と低電圧の低圧電源とを有しており、通電パルスの立ち上がりに伴う通電開始当初には、燃料噴射装置11を高速で開弁させるべく駆動部(後述する電気アクチュエータ60)に高電圧を印加し、その後、印加電圧を高電圧から低電圧に切り替えることで、燃料噴射装置11を開弁状態に保持する。
【0017】
また、ECU20は、エンジン運転情報に基づいて、コモンレール12内の燃圧の目標値を設定するとともに、その目標燃圧と実際の燃圧(実燃圧)との偏差に基づいて、実燃圧を目標燃圧に一致させるようフィードバック制御を実施する。
【0018】
ここで、図2を参照して、燃料噴射装置11の構造について説明する。なお、図2では、上下方向が燃料噴射装置11の軸方向を示しており、図の下側が燃料噴射装置11の先端側となっている。
【0019】
燃料噴射装置11において、ボディ31の内部には、固定プレート40が一体に設けられており、その固定プレート40よりも先端側に、弁体としてのノズルニードル32が往復動可能な状態で収容されている。ボディ31の先端部には複数の噴孔33が形成されている。ノズルニードル32の先端部がボディ31のシート部31aに当接することにより噴孔33が閉鎖され、燃料噴射が停止される。また、ノズルニードル32の先端部がシート部31aから離れることにより噴孔33が開放され、燃料噴射が行われる。
【0020】
ボディ31及び固定プレート40には、固定プレート40を貫通するようにして高圧通路34が形成されている。高圧通路34は、ノズルニードル32の周囲部分を介して燃料噴射装置11の先端部、すなわち噴孔33に達するまでの範囲で設けられており、この高圧通路34を介して、コモンレール12から供給される高圧燃料が噴孔33に導かれる。
【0021】
固定プレート40の先端側端面(図の下端面)には円筒状のシリンダ35が取り付けられており、そのシリンダ35内に、ノズルニードル32の上端部が摺動可能に挿入されている。ノズルニードル32は、シリンダ35の先端側に設けられたスプリング36により、閉弁方向に付勢されている。シリンダ35内においてノズルニードル32の上方に圧力制御室37が設けられている。圧力制御室37には高圧燃料が充填可能になっており、圧力制御室37に高圧燃料が充填されている状態では、その高圧燃料により、ノズルニードル32の閉弁状態が維持されるようになっている。
【0022】
固定プレート40には、圧力制御室37に高圧燃料を流入させる流入通路41と、圧力制御室37から燃料を流出させる流出通路42とが形成されている。流入通路41は、高圧通路34から分岐して設けられており、その下流部分(すなわち圧力制御室37に通じる部分)には燃料流量を制限するオリフィスが形成されている。また、流出通路42の下流部分(すなわち後述する低圧室64に通じる部分)には燃料流量を制限するオリフィスが形成されている。
【0023】
圧力制御室37内には、円板形状の可動プレート50が配置されている。可動プレート50は、固定プレート40の下端面に対向するようにして配置され、かつ圧力制御室37内を図の上下方向に移動可能となっている。可動プレート50には、流出通路42と圧力制御室37とを連通させる連通路51が形成されている。連通路51の下流部分には燃料流量を制限するオリフィスが形成されている。可動プレート50は、固定プレート40に当接した状態で流入通路41の出口部分を閉鎖するが、連通路51のオリフィスを介して圧力制御室37と流出通路42との連通を維持するものとなっている。圧力制御室37内には、可動プレート50を固定プレート40の側に押し付けるスプリング38が設けられている。
【0024】
可動プレート50は、その外径がシリンダ35の内径よりも小さいため、可動プレート50の外周面とシリンダ35の内周面との間には隙間が形成されている。したがって、可動プレート50が固定プレート40から離れた状態では、可動プレート50の外周の隙間を介して、流入通路41内の高圧燃料が圧力制御室37(詳しくはノズルニードル32の上面側)に流入する。
【0025】
また、ボディ31の内部において固定プレート40よりも反先端側には、駆動部としての電気アクチュエータ60が収容されている。電気アクチュエータ60は、ソレノイドコイル61と、弁部材としての制御弁62と、付勢部材としてのスプリング63とを有している。制御弁62は、低圧室64内において図の上下方向に移動可能となっている。ソレノイドコイル61の非通電時には、スプリング63の付勢力により制御弁62が固定プレート40に押し当てられた状態で保持され、燃料噴射装置11が閉弁状態で保持される。
【0026】
また、ソレノイドコイル61が通電されると、それに伴い、スプリング63の付勢力に抗して制御弁62が固定プレート40から離間する。そして、制御弁62の移動により、固定プレート40の流出通路42と可動プレート50の連通路51とを介して圧力制御室37内の高圧燃料が低圧室64に流出し、それに伴いノズルニードル32が開弁側に移動する。これにより、噴孔33が開状態となり、燃料噴射が開始される。このとき、ノズルニードル32が閉弁位置からリフトすることで噴射率(すなわち単位時間当たりの噴射量)が徐々に増加する。そして、ニードルリフト量が、シート部31aの開口面積(すなわちシート部31aとノズルニードル32との間の隙間面積)と噴孔33の総断面積とが等しくなる所定リフト量になると噴射率が最大噴射率となり、ニードルリフト量が所定リフト量に到達した以後は、最大噴射率となる状態が維持される。
【0027】
本実施形態の燃料噴射装置11では、ニードルリフト量が、最大噴射率が実現される所定リフト量に到達した時点で、ノズルニードル32が開弁側の上限ストッパ(例えば可動プレート50)に当たっておらず、中間リフト状態(フローティング状態)で燃料噴射が行われる。燃料噴射装置11は、ニードルリフト量が所定の中間リフト量になることで最大噴射率となり、その状態での燃料噴射を実現する、いわゆるフライングニードル構造を有するものとなっている。
【0028】
そして、ソレノイドコイル61の通電が停止され、スプリング63の付勢力により制御弁62が固定プレート40に当接すると、流出通路42が閉鎖され、その状態で流入通路41からの高圧燃料により可動プレート50が押し下げられる。これにより、圧力制御室37に高圧燃料が流入し、ノズルニードル32が閉弁側に押し下げられて噴孔33が閉状態に戻る。
【0029】
なお、電気アクチュエータ60において、ピエゾ素子を有してなる駆動部を用いることも可能である。すなわち、燃料噴射装置11として、ピエゾ駆動式の燃料噴射装置を用いることも可能である。
【0030】
フライングニードル構造の燃料噴射装置11を用いて燃料噴射を行う構成では、ノズルニードル32を上限ストッパに当接させないことで、ノズルニードル32のバウンドに起因する噴射量ばらつきや、個体差及び経時変化による上限ストッパ位置のばらつきに起因する噴射量ばらつきを低減できるといったメリットが得られる。ただしその反面、1回の噴射機会において噴射可能な燃料量に制限が生じることが懸念される。この場合、ノズルニードル32を上限ストッパに到達させない制約に起因して噴射期間が制限される一方で、噴射期間を長くしようとすれば、閉弁位置から上限ストッパまでのリフト領域の拡張が必要となり、燃料噴射装置11の大型化を招くことが懸念される。
【0031】
そこで本実施形態では、燃料噴射装置11の1回の噴射機会における通電回数を決定し、その通電が行われる噴射期間において、中間リフト状態での最大噴射率の燃料噴射が実施されるように、各段の通電時間Tqとそれら各通電の間のインターバル時間TINTとを設定する。そして、その設定した各段の通電時間Tqとインターバル時間TINTとに基づいて、電気アクチュエータ60に対する通電を実施することとしている。
【0032】
図3は、燃料噴射装置11のノズルニードル32を、リフト上限Lmaxに到達する以前の中間リフト量でリフト動作させ、その状態で燃料噴射を行わせる際の挙動を説明するためのタイムチャートである。図3では、前後2段の通電期間で燃料噴射装置11の通電を行う際の挙動を示しており、その前後2段の通電により1回分の燃料噴射が行われるものとなっている。ここでは、1段目の通電パルスによる通電時間をTq1、2段目の通電パルスによる通電時間をTq2、1段目及び2段目の通電パルスの間のインターバル時間をTINTとしている。
【0033】
図3において、タイミングt1では、1段目の通電パルスが立ち上げられ、その通電開始に伴い燃料噴射が開始される。このとき、通電開始当初には、燃料噴射装置11のノズルニードル32を高速で開弁させるべく、ソレノイドコイル61への高電圧の印加により高電流の通電が行われ、その後、印加電圧を高電圧から低電圧に切り替えることで、ノズルニードル32を開弁状態に保持する保持電流の通電が行われる。
【0034】
タイミングt1の通電開始後において、ノズルニードル32のリフト量(ニードルリフト量)が徐々に増加する。このとき、ニードルリフト量は通電の継続時間に比例して増加変化する。また、ノズルニードル32のリフトに伴い噴射率が上昇する。そして、タイミングt2では、ニードルリフト量が、シート部31aの開口面積と噴孔33の総断面積とが等しくなる所定リフト量に到達し、噴射率が最大噴射率となる。なお図3では、噴射率が最大噴射率となるニードルリフト量(すなわち、シート部31aの開口面積と噴孔33の総断面積とが等しくなるニードルリフト量)をリフト下限Lminとしている。タイミングt2以降、最大噴射率となる状態が維持される。
【0035】
通電開始から所定の通電時間Tq1が経過したタイミングt3では、通電パルスの立ち下げに伴い通電が一旦停止される。これにより、ニードルリフト量が上昇から下降に転じる。このとき、ニードルリフト量は、燃料噴射装置11のリフト上限Lmaxに到達することなく、上昇から下降に転じる。
【0036】
タイミングt3以降において、ニードルリフト量は通電停止の継続時間に比例して減少変化する。ただしこの場合、ニードルリフト量がリフト下限Lminよりも大きいリフト量になっているため、1段目の通電停止後も最大噴射率となる状態が維持される。つまり、リフト下限Lminからリフト上限Lmaxまでの範囲が中間リフト領域Rfであり、ニードルリフト量が中間リフト領域Rf内にあることで、最大噴射率となる状態が維持される。
【0037】
その後、通電停止から所定のインターバル時間TINTが経過したタイミングt4では、2段目の通電パルスが立ち上げられ、ニードルリフト量が再び増加に変化する。このとき、タイミングt4では、ニードルリフト量がリフト下限Lminに到達する以前に、ソレノイドコイル61への通電が再開される。2段目の通電時にも、1段目の通電時と同様に、通電開始当初における高電圧の印加と、その後の低電圧印加への切り替えが行われる。タイミングt4の通電再開後において、ニードルリフト量が再び通電の継続時間に比例して増加変化し、最大噴射率となる状態もそのまま維持される。
【0038】
2段目の通電開始から所定の通電時間Tq2が経過したタイミングt5では、通電パルスの立ち下げに伴い通電が停止され、ニードルリフト量が上昇から下降に転じる。その後、ニードルリフト量は、タイミングt6でリフト下限Lminを下回り、さらにタイミングt7でゼロになる。これにより、1回分の燃料噴射が終了される。
【0039】
上記1回分の燃料噴射に際し、1段目の通電開始に伴い燃料噴射が開始されて噴射率が最大噴射率に到達した以後に、2段目の通電終了に伴い噴射率が低下し始めるまでの期間(t2~t6の期間)では、ニードルリフト量がLmin~Lmaxの中間リフト領域Rf内で保持され、その結果として、同期間において噴射率が最大噴射率で保持される。これにより、燃料噴射装置11において、ノズルニードル32の中間リフト状態を保持したままでの噴射期間の延長を可能にし、所望量への燃料噴射量の増量を実現できるものとなっている。
【0040】
なお、図示は略すが、1回分の燃料噴射を、前後3段又はそれよりも多段の通電により実施することも可能である。この場合にも上記同様、各段の通電において、ニードルリフト量が中間リフト領域Rf内で保持され、その結果として、最大噴射率での燃料噴射が継続的に実施されるものであればよい。
【0041】
次に、1回分の燃料噴射を多段の通電により実現する燃料噴射制御において、各段の通電時間Tqとインターバル時間TINTとを設定する具体的な処理内容を説明する。ここでは、1回分の燃料噴射を3段の通電により実現する3段通電モードでの事例について説明する。
【0042】
ECU20は、各段の通電時間Tq及びインターバル時間TINTの設定に先立ち、今回の燃料噴射での要求噴射量Qrと、要求噴射量Qrに対応する燃料噴射装置11の通電時間Tr(総通電時間)とを算出する。要求噴射量Qrは、1燃焼分の総噴射量である。ただし、1燃焼行程でメイン噴射とそれに先立つプレ噴射とが実施される場合には、分割対象となる要求噴射量Qrがメイン噴射での噴射量であってもよい。周知のとおり、要求噴射量Qrは、エンジン回転速度や負荷等のエンジン運転状態と燃圧(レール圧)とに基づいて算出され、通電時間Trは、要求噴射量Qrを、エンジン回転速度に応じて時間換算することで算出される。
【0043】
そして、ECU20は、要求噴射量Qr(又は通電時間Tr)が所定値以上である場合に多段の分割通電を実施することとし、各段の通電時間Tq及びインターバル時間TINTを設定する。例えば3段の分割通電を行う場合、1段目~3段目の通電時間Tq1,Tq2,Tq3と、インターバル時間TINT1,TINT2とを設定する。
【0044】
1段目の通電時間Tq1は、最初の通電開始からニードルリフト量が中間リフト領域Rf(Lmin~Lmax)の所定リフト量になるまでの通電時間として設定される。換言すれば、1段目の通電時間Tq1は、ゼロリフト位置(閉弁位置)から、リフト上限Lmax近傍の所定位置までのニードルリフトアップに要する通電時間として設定される。
【0045】
また、2,3段目の通電時間Tq2,Tq3は、いずれも中間リフト領域Rfでのニードルリフト量の上昇変化を可能とする通電時間として設定される。より詳しくは、2段目の通電時間Tq2は、中間リフト領域Rfにおいてリフト下限Lmin又はその近傍の所定位置から、リフト上限Lmax近傍の所定位置までのニードルリフトアップに要する通電時間として設定される。3段目の通電時間Tq3は、今回の燃料噴射において最終段の通電に要する時間であり、1段目通電及び2段目通電の後の残り通電時間として設定される。
【0046】
各段の通電時間Tqは、各段の通電開始後においてニードルリフト位置がリフト上限Lmaxに到達することのない時間として設定される。この場合、通電が段数を増やすことにより、ノズルニードル32が上限ストッパに到達しない状態を維持しつつ、一度に噴射可能な噴射量を増やすことができる。
【0047】
ノズルニードル32のリフトアップの速度(開弁速度)は燃圧に依存して変化する。そのため、各段の通電時間Tq1~Tq3は、燃圧に応じて設定されることが望ましい。例えば、図4(a)の関係を用いて各段の通電時間Tq1~Tq3が設定されるとよい。図4(a)では、各段の通電時間Tq1~Tq3について、燃圧が高いほど通電時間を短くようにした関係が示されている。1段目の通電時にはゼロリフト位置(閉弁位置)からノズルニードル32がリフトするため、その分を加味して、1段目の通電時間Tq1が、2段目及び3段目の通電時間Tq2,Tq3に比べて長い時間で定められている。
【0048】
また、各段の通電の間となるインターバル時間TINT1,TINT2はいずれも、中間リフト領域Rfでのニードルリフト量の下降変化を可能とする通電休止時間として設定される。より詳しくは、各インターバル時間TINT1,TINT2は、中間リフト領域Rfにおいてリフト上限Lmax近傍の所定位置から、リフト下限Lmin又はその近傍の所定位置までのニードルリフトダウンに要する通電休止時間として設定される。
【0049】
各インターバル時間TINTは、各段の通電の停止後においてニードルリフト位置がリフト下限Lminを下回ることのない時間として設定される。この場合、中間リフト領域Rf(Lmin~Lmax)では、噴孔33から噴出される時間当たりの燃料量が一定であるため、通電休止期間でのノズルニードル32の閉弁速度が一定となる。そのため、通電停止時のニードルリフト量をL1、ニードル閉弁速度をVncとすれば、インターバル時間TINTは次の式(1)の関係を満たす時間として求められるとよい。
TINT=(L1-Lmin)/Vnc …(1)
この場合、前段の通電停止時のニードルリフト位置と後段の通電開始時のニードルリフト位置とが一定であれば、インターバル時間TINTは一定の値として設定される。
【0050】
なお、インターバル時間TINTが長過ぎると、ニードルリフト位置がリフト下限Lminを下回る。この場合、燃料噴射装置11においてシート部31aの流量絞りが生じることで噴射率が最大噴射率よりも低下し、通電時間に対する燃料噴射量の制御線形性が損なわれる。この点、インターバル時間TINTを、上記式(1)で求められる時間を最長時間としてその時間又はそれ未満で求めることにより、通電時間に対する燃料噴射量の制御線形性を保つことができる。
【0051】
ノズルニードル32のリフトダウンの速度(閉弁速度)は燃圧に依存して変化する。そのため、各インターバル時間TINT1,TINT2は、燃圧に応じて設定されることが望ましい。例えば、図4(b)の関係を用いて各インターバル時間TINT1,TINT2が設定されるとよい。図4(b)では、各インターバル時間TINT1,TINT2について、燃圧が高いほど通電休止の時間を短くようにした関係が示されている。
【0052】
通電時間Tr(総通電時間)と各段の通電時間Tq1,Tq2,Tq3とは次の式(2)の関係であるとよい。
Tr=Tq1+Tq2+Tq3 …(2)
この場合、上述したとおり、1段目の通電時間Tq1は、ゼロリフト位置(閉弁位置)からリフト上限Lmax近傍の所定位置までのニードルリフトに要する通電時間として設定され、2段目の通電時間Tq2は、リフト下限Lmin近傍の所定位置からリフト上限Lmax近傍の所定位置までのニードルリフトに要する通電時間として設定される。そして、3段目の通電時間Tq3は、次の式(3)の関係から設定される。
Tq3=Tr-(Tq1+Tq2) …(3)
次に、各段の通電時間Tq1~Tq3の設定について補足説明をする。
【0053】
図5は、いずれも同じ噴射量の燃料噴射を行う際に、1段通電で1回の燃料噴射を実施する1段通電モードと、3段の分割通電で1回の燃料噴射を実施する3段通電モードとについてそれぞれの通電の態様を示すタイムチャートである。図5には、1段通電モードでのニードルリフト量の変化を一点鎖線で示し、3段通電モードでのニードルリフト量の変化を実線で示している。1段通電モードでは、通電時間Trでの1回の通電で要求噴射量分の燃料噴射を実施する。1段通電モードでも、3段通電モードと同様に、ニードルリフト量がリフト下限Lminよりも大きくなる領域で噴射率が最大噴射率となり、かつ、ノズルニードル32が上限ストッパに到達することなくフライングニードル状態での燃料噴射が行われることを想定している。なお、図5に示すリフト上限Lmaxは、多段の分割通電を行う場合のリフト上限位置であり、1段通電を行う場合のリフト上限はLmax位置よりも高リフト側にあることを想定している。
【0054】
まず1段通電モードを説明する。1段通電を実施する場合には、通電開始から通電時間Trが経過するまでの期間で連続的に通電が行われる。この場合、通電開始タイミングであるタイミングt11から、時間に略比例してニードルリフト量が増加し、通電停止後には時間に略比例してニードルリフト量が減少する。噴射率は、タイミングt1で増加し始め、タイミングt12~t13の期間で最大噴射率で保持された後、タイミングt14でゼロとなる。
【0055】
これに対して、3段通電モードで3段通電を実施する場合には、3回の通電と2回の通電休止とが交互に行われる。この場合、通電開始タイミングであるタイミングt11以降において、通電及び通電休止の繰り返しにより、時間に略比例するニードルリフト量の増加と、時間に略比例するニードルリフト量の減少とが交互に生じる。
【0056】
ここで、3段通電モードで1段目の通電が終了されたタイミングtx1から、3段目の通電が終了されたタイミングtx2までの期間を期間TDとし、その期間TDについて、1段通電モードでの通電と3段通電モードでの通電とを対比する。
【0057】
この場合、期間TDのうち「TD1」は、1段通電モードでの通電期間(リフトアップ期間)に相当する期間であり、これは、2段目の通電時間Tq2と3段目の通電時間Tq3とを足し合わせた期間に相当する。また、期間TDのうち「TD2」は、1段通電モードでの通電休止期間(リフトダウン期間)に相当する期間であり、これは、1回目のインターバル時間TINT1と2回目のインターバル時間TINT2とを足し合わせた期間に相当する。
【0058】
こうした関係によれば、1段通電モード及び3段通電モードのいずれにおいても、期間TDの終了タイミングtx2が、3段分の通電時間Tq1,Tq2,Tq3による通電と、2回分のインターバル時間TINT1,TINT2による通電休止とを実施し終えたタイミングとなる。そのため、終了タイミングtx2では、1段通電モード及び3段通電モードのそれぞれでニードルリフト量(ノズルニードル32のリフト位置)が同じになり、その後、噴射率が最大噴射率を下回るタイミングt13とニードルリフト量がゼロになるタイミングt14も、1段通電モード及び3段通電モードでそれぞれ同じになっている。
【0059】
以上から、通電時間Tr(総通電時間)と各段の通電時間Tq1,Tq2,Tq3との関係が、上記式(2)として定められている。
【0060】
また、燃料噴射装置11による実際の作動時には、2段目以降の通電開始時においてノズルニードル32がリフトダウンからリフトアップに転じる際に、ノズルニードル32の応答遅れが生じることが考えられるため、その応答遅れを考慮して各段の通電時間Tqやインターバル時間TINTを設定することが望ましい。この場合、応答遅れ分の補正値Cを用い、次の式(4)により3段目の通電時間Tq3が設定されるとよい。
Tq3=Tr-(Tq1+Tq2)+C …(4)
上記のとおり応答遅れ分の補正を行うことにより、通電時間Tqに対する噴射量応答の線形性が維持される。なお、補正値Cは、図6の関係を用い、燃圧に基づいて求められるとよい。
【0061】
ノズルニードル32の応答遅れ分の補正として、2段目以降の通電時間Tqの補正に代えて、インターバル時間TINTの補正を行う構成であってもよい。この場合、応答遅れ分を考慮して、インターバル時間TINTを減補正するとよい。
【0062】
図7は、燃料噴射装置11の通電駆動により実施される燃料噴射制御の処理手順を示すフローチャートであり、本処理は所定周期でECU20のマイコン21により繰り返し実施される。
【0063】
図7において、ステップS11では、エンジン回転速度や負荷等のエンジン運転状態と燃圧(レール圧)とに基づいて、要求噴射量Qrを算出する。続くステップS12では、要求噴射量Qrをエンジン回転速度に応じて時間換算することで、通電時間Trを算出する。このとき、通電時間と噴射量との関係を示す噴射特性データを用い、要求噴射量Qrに基づいて通電時間Trが算出される。
【0064】
その後、ステップS13では、要求噴射量Qrが所定の閾値Th1未満であるか否かを判定する。閾値Th1は、今回の燃料噴射を1段通電モードで実施するか、2段以上の多段通電モードで実施するかを切り替える閾値である。なお、ステップS13において、判定パラメータとして、要求噴射量Qrに代えて通電時間Trを用いることも可能である。
【0065】
要求噴射量Qrが閾値Th1未満であれば、ステップS14に進む。ステップS14では、今回、1段通電モードでの燃料噴射を実施する旨を決定する。そして、続くステップS15では、ステップS12で算出した通電時間Trに基づいて1段通電の通電パルスを生成し、続くステップS16では、その通電パルスを出力する。この場合、マイコン21から駆動回路22に1段の通電パルスが出力され、駆動回路22において、通電パルスの立ち上がりタイミング及び立ち下がりタイミングに応じて燃料噴射装置11の通電と通電遮断とが行われる。
【0066】
また、要求噴射量Qrが閾値Th1以上であれば、ステップS21に進む。ステップS21では、今回、多段通電モードでの燃料噴射を実施する旨を決定する。
【0067】
続くステップS22では、要求噴射量Qrに応じて多段通電の段数を決定する。このとき、上述した閾値Th1よりも大きい1又は複数の閾値を定めておき、要求噴射量Qrと各閾値との比較の結果に応じて多段通電の段数を決定する。例えば、閾値Th1に加え、閾値Th2,Th3を定めておき(Th1<Th2<Th3)、要求噴射量QrがTh1~Th2の範囲に入っていれば2段通電モードとし、要求噴射量QrがTh2~Th3の範囲に入っていれば3段通電モードとし、要求噴射量QrがTh3以上であれば4段通電モードとする。なお、多段通電の段数は4以上であってもよい。
【0068】
各閾値Th1~Th3は、各段の通電モードでの燃料噴射を実施する場合の各々の最大噴射量である。つまり、要求噴射量Qrが閾値Th1以上となる場合には、要求噴射量Qrが1段通電モードでの最大噴射量を超えるとして、2段又はそれ以上の段数の通電モードとする。また、要求噴射量Qrが閾値Th2以上となる場合には、要求噴射量Qrが2段通電モードでの最大噴射量を超えるとして、3段又はそれ以上の段数の通電モードとする。
【0069】
各閾値Th1~Th3は、それぞれ燃圧に応じて可変設定される構成であってもよい。例えば、図8の関係を用い、燃圧が高いほど、各閾値Th1~Th3を大きい値に設定する。
【0070】
その後、ステップS23では、ステップS12で算出した通電時間Trに基づいて、多段通電での各段の通電時間Tqとインターバル時間TINTとを設定する。2段通電モードでは、2つの通電時間Tq1,Tq2と1つのインターバル時間TINTとを設定する。3段通電モードでは、3つの通電時間Tq1,Tq2,Tq3と2つのインターバル時間TINT1,TINT2とを設定する。4段以上の通電モードについても同様である。
【0071】
各段の通電時間Tq及びインターバル時間TINTは、燃圧に基づいてそれぞれ設定されるとよい。このとき、図4(a)の関係を用い、燃圧に基づいて各段の通電時間Tqが設定されるとよい。また、図4(b)の関係を用い、燃圧に基づいて各インターバル時間TINTが設定されるとよい。
【0072】
ここで、多段の通電が実施される場合には、前段の通電による燃料噴射に伴い、後段の通電時において燃圧の低下が生じていることが考えられる。そして、燃圧の差異は、ノズルニードル32のリフト動作に影響を及ぼす。そのため、後段の通電時には、前段の通電時に比べて、燃圧が低下していることを加味して、各段の通電時間Tqを設定するとよい。つまり、1段目の通電時の燃圧をPAとすると、2段目の通電時の燃圧をPA-ΔP1、3段目の通電時の燃圧をPA-(ΔP1+ΔP2)とするとよい。ΔP1は、1段目の通電に伴う燃料噴射分の燃圧低下量であり、ΔP2は、2段目の通電に伴う燃料噴射分の燃圧低下量である。なお、燃圧PAは、今回の要求噴射量Qrを算出する時点での圧力センサ16の検出圧力であるとよい。
【0073】
その後、ステップS24では、2段目以降の通電開始時に生じるニードルリフトアップの応答遅れに対応する補正値Cを設定し、その補正値Cにより、2段目以降の通電時間Tq及びインターバル時間TINTの少なくともいずれかを補正する。この場合、最終段の通電時間Tqを補正値Cにより補正するとよい。その他、最終段以外の中間段の通電時間Tqを補正値Cにより補正したり、インターバル時間TINTを補正値Cにより補正したりする構成であってもよい。
【0074】
補正値Cは、燃圧に基づいて設定されるとよい。このとき、図6の関係を用い、燃圧に基づいて補正値Cが設定されるとよい。ただし、補正値Cは、予め定めた固定値であってもよい。補正値Cは、各気筒の燃料噴射装置11の個体差を反映して、燃料噴射装置11ごとに定められた値であってもよい。
【0075】
その後、ステップS25では、都度の通電モードに応じて複数の通電パルスを生成する。このとき、2段通電モードでは、通電時間Tq1,Tq2とインターバル時間TINTとに基づいて、前後2段の通電パルスを生成する。3段通電モードでは、通電時間Tq1~Tq3とインターバル時間TINT1,TINT2とに基づいて、前後3段の通電パルスを生成する。4段以上の通電モードについても同様である。
【0076】
その後、ステップS26では、その通電パルスを出力する。この場合、マイコン21から駆動回路22に、都度の段数分の通電パルスが出力され、駆動回路22において、各段に通電パルスの立ち上がりタイミング及び立ち下がりタイミングに応じて燃料噴射装置11の通電と通電遮断とが行われる。
【0077】
また本実施形態では、多段の分割通電を行う場合において、通電段数の異なる各燃料噴射での噴射量のばらつきを低減すべく、噴射量特性の調整を行う構成としている。この場合、ECU20は、1回の噴射機会に1段の通電を行う1段通電と2段の通電を行う2段通電とを各々実施し、それら各通電での実噴射量を取得する。そして、各通電での実噴射量に基づいて、通電時間と噴射量との関係を示す噴射特性データの調整量を算出する。なお、燃料噴射制御では、噴射特性データを用い、都度の要求噴射量に基づいて通電時間が決定される。
【0078】
詳しくは、図9に示すように、通電時間と噴射量との関係を示す噴射特性データにおいて、X1は1段通電を実施可能な通電時間範囲、X2は2段通電を実施可能な通電時間範囲であり、通電時間範囲X1で2つの調整点P1,P2が定められているとともに、通電時間範囲X2で2つ調整点P3,P4が定められている。これら各調整点P1~P4はそれぞれ、噴射特性データである基本特性線上において所定の通電時間と噴射量とからなる座標点として定められている。調整点P1,P2が「第1調整点」に相当し、調整点P3,P4が「第2調整点」に相当する。
・調整点P1において通電時間はTq11、噴射量はQ1である。
・調整点P2において通電時間はTq12、噴射量はQ2である。
・調整点P3において通電時間はTq13+Tq21、噴射量はQ3である。
・調整点P4において通電時間はTq14+Tq22、噴射量はQ4である。
【0079】
各調整点P1~P4のうち調整点P2,P3での燃料噴射は、それぞれ1段通電、2段通電であり通電形態が異なるが、総通電時間と噴射量とが同じとなっている。つまり、「Tq12=Tq13+Tq21」、「Q2=Q3」である。要するに、調整点P2での燃料噴射と調整点P3での燃料噴射とは同じ目標噴射量で各々実施されるものとなっている。
【0080】
各調整点P1~P4での燃料噴射では、燃料噴射装置11の個体差や経時変化などに起因して、各調整点P1~P4で実噴射量のずれが生じることが考えられる。具体的には、図10に示すように、各調整点P1~P4を含む基本特性線の噴射量に対して実噴射量のずれが生じることが考えられる。この場合、各調整点P1~P4において噴射量ずれΔQ1,ΔQ2,ΔQ3,ΔQ4が生じている。本実施形態では、各調整点P1~P4での噴射量ずれΔQ1~ΔQ4に基づいて噴射特性データの調整量を算出する。なお、噴射特性データの調整は、各気筒の燃料噴射装置11ごとに行われるとよい。
【0081】
図10において、基本特性線の噴射量に対して実噴射量が過多となるずれが生じている場合には、噴射特性データの調整量として、通電時間Tqが短縮される調整量(調整時間)が算出されるとよい。また、基本特性線の噴射量に対して実噴射量が過少となるずれが生じている場合には、噴射特性データの調整量として、通電時間Tqが延長される調整量(調整時間)が算出されるとよい。これらの調整量は、噴射量ずれの大きさに応じた値として算出されるとよい。
【0082】
図11は、各調整点P1~P4での特性調整のための燃料噴射を説明するためのタイムチャートである。図11において、(a)は調整点P1での燃料噴射を示し、(b)は調整点P2での燃料噴射を示し、(c)は調整点P3での燃料噴射を示し、(d)は調整点P4での燃料噴射を示しており、これら各燃料噴射について通電パルス、ニードルリフト、噴射率の推移を各々示している。なお、噴射率の時間積分値が燃料噴射量に相当し、図11では、各調整での燃料噴射量をハッチングを付けて示している。
【0083】
調整点P1での燃料噴射時には、通電時間を「Tq11」とする1段通電での燃料噴射が行われる。この燃料噴射は、ニードルリフトがリフト下限Lminに到達しない微少量噴射であり、噴射量はQ1である。
【0084】
調整点P2での燃料噴射時には、通電時間を「Tq12」とする1段通電での燃料噴射が行われる。この燃料噴射は、ニードルリフトがリフト上限Lmax付近となる燃料噴射であり、噴射量はQ2である。なお、調整点P2での燃料噴射は、ニードルリフトがリフト下限Lminからリフト上限Lmaxまでの範囲に入るように行われる。
【0085】
調整点P3での燃料噴射時には、通電時間を「Tq13,Tq21」とする2段通電での燃料噴射が行われる。この燃料噴射は、噴射量を、調整点P2での燃料噴射と同量の噴射量Q3とし、かつ1段目の通電終了時と2段目の通電開始時及び終了時に、ニードルリフトがリフト下限Lminからリフト上限Lmaxまでの領域内にとどまるようにして行われる。
【0086】
調整点P4での燃料噴射時には、通電時間を「Tq14,Tq22」とする2段通電での燃料噴射が行われる。この燃料噴射は、噴射量を、調整点P2,P3での燃料噴射よりも多量の噴射量Q4とし、かつ1段目の通電終了時と2段目の通電開始時及び終了時に、ニードルリフトがリフト下限Lminからリフト上限Lmaxまでの領域内にとどまるようにして行われる。
【0087】
2段通電を実施する場合には、1段目の通電停止に伴いノズルニードル32がリフトアップからリフトダウンに転じる際に、ノズルニードル32の応答遅れが生じるとともに、2段目の通電開始に伴いノズルニードル32がリフトダウンからリフトアップに転じる際に、ノズルニードル32の応答遅れが生じることが考えられる。図12は、ノズルニードル32のリフト量の推移を示すタイムチャートであり、通電停止時には応答遅れ時間Td1が生じ、通電再開時には応答遅れ時間Td2が生じる。
【0088】
この場合、仮に2段通電でのインターバル時間TINTを、1段目の通電停止時の応答遅れ時間Td1よりも短い時間にすると、応答遅れ分の調整が不十分になることが懸念される。また、2段通電での2段目の通電時間Tq2を、通電再開時の応答遅れ時間Td2よりも短い時間にすると、やはり応答遅れ分の調整が不十分になることが懸念される。そのため、噴射特性データの調整時において、2段通電でのインターバル時間TINTを、1段目の通電停止時の応答遅れ時間Td1よりも長い時間としている。また、2段通電での2段目の通電時間Tq2を、通電再開時の応答遅れ時間Td2よりも長い時間としている。これら応答遅れ時間Td1,Td2は、適合値として予め定められているとよい。
【0089】
図13は、噴射特性データを調整する特性調整処理の手順を示すフローチャートであり、本処理は所定周期でECU20のマイコン21により繰り返し実施される。
【0090】
図13において、ステップS31では、調整点P1での燃料噴射を実施するか否かを判定し、ステップS41では、調整点P2での燃料噴射を実施するか否かを判定し、ステップS51では、調整点P3での燃料噴射を実施するか否かを判定し、ステップS61では、調整点P4での燃料噴射を実施するか否かを判定する。そして、これら各ステップでの判定結果に基づいて、各調整点P1~P4での燃料噴射を適宜実施する。
【0091】
ここで、ECU20は、噴射特性の調整のための各燃料噴射(各調整点P1~P4での燃料噴射)を、以下のいずれかの場合に実施するとよい。
・車両製造工場又は車両修理工場において外部装置から特性調整指令が入力される場合に、その特性調整指令に基づいて噴射特性の調整のための各燃料噴射を実施する。噴射特性の調整結果がECU20内のバックアップRAMに保存される構成では、例えばバッテリの交換時に、特性調整指令に基づいて噴射特性の調整のための各燃料噴射が実施されるとよい。
・車両のコースト走行時に、噴射特性の調整のための各燃料噴射を実施する。具体的には、車両走行時において、アクセルオフに伴い動力伝達系のクラッチを遮断しコースト走行を行う場合、すなわちエンジン10での燃料の燃焼が車両走行に影響を及ぼさない状況下で、噴射特性の調整のための各燃料噴射を実施する。この場合、1回のコースト走行時に、1又は複数の調整点の各燃料噴射が実施されるとよい。また、車両のトリップごとに、各調整点P1~P4での各燃料噴射が実施されるとよい。
【0092】
調整点P1での燃料噴射を実施する場合、ステップS32では、調整点P1での噴射条件として、通電時間をTq11、噴射量をQ1とする条件を設定し、その条件で燃料噴射を実施する。
【0093】
その後、ステップS33では、調整点P1での燃料噴射を実施した際の実噴射量を取得する。実噴射量は、例えば燃料噴射装置11に供給される燃料において燃料噴射に伴い生じる圧力変化に基づいて推定されるとよい。具体的には、ECU20は、圧力センサ16により検出された検出燃圧から、燃料噴射装置11の燃料噴射に伴い生じる燃圧変化量を算出し、その燃圧変化量に基づいて実噴射量を推定する。その他、燃料噴射装置11からの噴射燃料の燃焼に伴い生じる回転速度変化量(例えば所定クランク角度ごとの瞬時回転速度の変化量)を算出し、その回転速度変化量に基づいて実噴射量を推定することも可能である。
【0094】
その後、ステップS34では、調整点P1において、目標噴射量である噴射量Q1とステップS33で取得した実噴射量との差に基づいて、噴射特性の調整量を算出する。このとき、例えば図10のように調整点P1で通電時間に対する噴射量が過多になっていれば、調整量として、通電時間を短くする調整時間が算出される。
【0095】
また、調整点P2での燃料噴射を実施する場合、ステップS42では、調整点P2での噴射条件として、通電時間をTq12、噴射量をQ2とする条件を設定し、その条件で燃料噴射を実施する。その後、ステップS43では、調整点P2での燃料噴射を実施した際の実噴射量を取得する。
【0096】
その後、ステップS44では、調整点P2において、目標噴射量である噴射量Q2とステップS43で取得した実噴射量との差に基づいて、噴射特性の調整量を算出する。このとき、例えば図10のように調整点P2で通電時間に対する噴射量が過少になっていれば、調整量として、通電時間を長くする調整時間が算出される。
【0097】
また、調整点P3での燃料噴射を実施する場合、ステップS52では、調整点P3での噴射条件として、通電時間をTq13,Tq21、噴射量をQ3とする条件を設定し、その条件で燃料噴射を実施する。その後、ステップS53では、調整点P3での燃料噴射を実施した際の実噴射量を取得する。
【0098】
その後、ステップS54では、調整点P3において、目標噴射量である噴射量Q3とステップS53で取得した実噴射量との差に基づいて、噴射特性の調整量を算出する。このとき、例えば図10のように調整点P3で通電時間に対する噴射量が過多になっていれば、調整量として、通電時間を短くする調整時間が算出される。
【0099】
また、調整点P4での燃料噴射を実施する場合、ステップS62では、調整点P4での噴射条件として、通電時間をTq14,Tq22、噴射量をQ4とする条件を設定し、その条件で燃料噴射を実施する。その後、ステップS63では、調整点P4での燃料噴射を実施した際の実噴射量を取得する。
【0100】
その後、ステップS64では、調整点P4において、目標噴射量である噴射量Q4とステップS63で取得した実噴射量との差に基づいて、噴射特性の調整量を算出する。このとき、例えば図10のように調整点P4で通電時間に対する噴射量が過多になっていれば、調整量として、通電時間を短くする調整時間が算出される。
【0101】
ステップS65では、各調整点P1~P4での調整量を全て算出したか否かを判定する。そして、ステップS65を肯定すると後続のステップS66に進み、否定すると本処理を一旦終了する。
【0102】
ステップS66では、調整点P1~P4ごとに算出した調整量を用いて、噴射特性データの調整を実施する。具体的には、各調整点P1~P4において調整量として調整時間が算出されている場合に、調整点P1,P2での各調整時間を線形補間し、その補間データを1段通電での調整量として保存する。また、調整点P3,P4での各調整時間を線形補間し、その補間データを2段通電での調整量として保存する。このとき、目標噴射量が同量の噴射量Q2,Q3である調整点P2,P3では、同一点になるようにして調整量が算出される。
【0103】
なお、噴射特性データの調整を、1段通電での燃料噴射と2段通電での燃料噴射とに加え、3段通電での燃料噴射についても実施してもよい。この場合、2段通電での燃料噴射と3段通電での燃料噴射とで、各々の調整点として目標噴射量が同じになる調整点を定めておき、それら各調整点で実噴射量が一致するように噴射特性データの調整が行われるとよい。
【0104】
通電段数の異なる各燃料噴射(例えば1段通電及び2段通電の燃料噴射)において、それぞれ3つ以上の調整点が設定される構成であってもよい。また、噴射特性データの調整量として、噴射量を調整する調整噴射量を算出する構成であってもよい。
【0105】
噴射特性データの調整量の算出が行われた場合には、その調整量を用いて通電時間Tqが設定される。具体的には、上述した図7の燃料噴射制御処理のステップS23において、各段の調整量を用いて各段の通電時間Tqが設定される。図7のステップS12において、1段通電での調整量を用いて通電時間Trを算出してもよい。なお、噴射特性データの調整処理ではノズルニードル32の応答遅れ分が修正される。そのため、ステップS24の応答遅れ補正を省略する構成としてもよい。
【0106】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0107】
燃料噴射装置11による燃料噴射に際し、1回の噴射機会における通電回数を決定し、その通電が行われる噴射期間において、中間リフト状態での最大噴射率の燃料噴射を実施するように、各段の通電時間Tqとインターバル時間TINTとを設定するとともに、それら各段の通電時間Tqとインターバル時間TINTとに基づいて各段の通電を実施するようにした。この場合、1回の燃料噴射に対する複数の分割通電によりニードルリフト量の増減を繰り返し行わせることで、燃料噴射装置11の中間リフト領域Rfを拡張することなく、ノズルニードル32を所望の中間リフト状態に維持することができる。また、各段の通電期間において、最大噴射率での噴射を継続して実施することができ、燃料噴射量に線形性を持たせ、高精度な燃料噴射を実施することができる。
【0108】
また、1回の噴射機会において複数段の通電による燃料噴射を行う場合には、通電段数にかかわらず、通電時間Tqに対する燃料噴射量の線形性が維持されることが望ましい。この点、1回の噴射機会に少なくとも1段通電と2段通電とを実施する場合に、それら各通電での実噴射量に基づいて、噴射特性データの調整量を算出するようにした。そして、噴射特性データの調整量の算出が行われた場合に、その調整量を用いて通電時間Tqを設定するようにした。これにより、1回の噴射機会での通電段数が変更されても、それら各通電段数での燃料噴射を適正に実施することができる。その結果、燃料噴射制御を適正に実施することができる。
【0109】
1段通電と2段通電との噴射特性の調整に際し、噴射量を同じ目標噴射量とする調整点P2,P3で各々燃料噴射を実施した時の実噴射量を取得し、その調整点P2,P3の実噴射量に基づいて、1段通電の調整量と2段通電の調整量とを算出する構成とした。これにより、通電段数が1段及び2段で適宜変更されても、いずれも同様でかつ優れた線形特性を維持することができる。
【0110】
通電段数の異なる各燃料噴射(1段通電の燃料噴射、2段通電の燃料噴射)について、それぞれに複数の調整点を設定し、それら複数の調整点での噴射量ずれに基づいて噴射特性データの調整量を算出する構成とした。この場合、通電段数の異なる各燃料噴射において、線形補間等により噴射特性データを適正に調整することができる。
【0111】
噴射特性データの調整に際し、2段通電でのインターバル時間TINTを、1段目の通電停止時の応答遅れ時間よりも長い時間とし、かつ2段目の通電時間Tq2を、通電再開時の応答遅れ時間よりも長い時間として2段通電を実施するようにした。これにより、1段目の通電停止時及び2段目の通電開始時にノズルニードル32の応答遅れが生じることを考慮しつつ、噴射特性データの調整を適正に実施することができる。
【0112】
燃料噴射装置11では、都度の燃圧に応じて、通電開始に伴うノズルニードル32の開弁速度が変化する。この場合、燃圧に基づいて各段の通電時間Tqを設定することで、ノズルニードル32の開弁速度を加味しつつ、各段の通電期間においてノズルニードル32を所望の中間リフト状態に維持することができる。
【0113】
1回の噴射機会において複数段の通電を行う場合には、前段の通電時と後段の通電時とで燃料噴射に伴う燃圧の低下が生じる。この場合、各段の通電時間Tqを、後段の通電時には前段の通電時に比べて燃圧(燃料噴射装置11の噴射燃料の圧力)が低下していることを加味して設定することで、多段通電による燃料噴射制御において一層の精度向上を図ることができる。
【0114】
燃料噴射装置11では、都度の燃圧に応じて、通電終了に伴うノズルニードル32の閉弁速度が変化する。この場合、燃圧に基づいてインターバル時間TINTを設定することで、ノズルニードル32の閉弁速度を加味しつつ、各段の通電期間においてノズルニードル32を所望の中間リフト状態に維持することができる。
【0115】
燃料噴射装置11による実際の作動時には、2段目以降の通電開始時においてノズルニードル32がリフトダウンからリフトアップに転じる際に、ノズルニードル32の応答遅れが生じ、これにより通電時間Tqに対する噴射量応答の線形性が損なわれることが懸念される。この点、2段目以降の通電開始時に生じるニードルリフトアップの応答遅れに対応する補正値Cを設定し、その補正値Cにより、2段目以降の通電時間Tq及びインターバル時間TINTの少なくともいずれかを補正するようにしたため、通電時間Tqに対する噴射量応答の線形性を維持でき、制御性を向上できる。
【0116】
燃料噴射装置11では、都度の燃圧に応じて、2段目以降の通電開始時におけるノズルニードル32の応答遅れの程度(応答遅れ時間)が変化する。この場合、都度の燃圧に基づいて補正値Cを設定することにより、都度の燃圧に依らず、通電時間Tqに対する噴射量応答の線形性を確保することができる。
【0117】
各段の通電時において、駆動回路22が高電圧の印加と低電圧の印加とをそれぞれ実施する構成にした。これにより、2段目以降の通電開始時においてノズルニードル32がリフトダウンからリフトアップに転じる際のノズルニードル32の応答遅れを抑制できる。そのため、通電時間に対する噴射量応答の線形性を向上させる上で好適な構成を実現できる。
【0118】
(他の実施形態)
上記実施形態を例えば次のように変更してもよい。
【0119】
・上記実施形態では、各段の通電時間Tqとインターバル時間TINTとを共に燃圧に基づいて可変に設定する構成としたが、このうち通電時間Tqだけを燃圧に基づいて可変に設定する構成としてもよい。つまり、燃料噴射装置11において、通電による開弁動作時には圧力制御室37内の高圧燃料が低圧室64に流出するため、圧力制御室37での燃圧低下の速度が高圧側と低圧側との圧力差に応じたものとなり、ノズルニードル32のリフト動作に関して燃圧依存度が大きくなる。それに比べると、通電休止時にはノズルニードル32のリフト動作に関して燃圧依存度が小さくなる。そのため、通電時間Tqだけを燃圧に基づいて可変に設定する構成としてもよい。
【0120】
・上記実施形態では、1回の噴射機会において多段の通電を実施するための構成として、要求噴射量Qrに対応する通電パルスを複数に分割する構成としたが、これを変更してもよい。通電パルス自体は複数に分割することなく1パルスのままとし、その1パルス内に、インターバル時間TINTに相当する通電休止期間を設ける構成であってもよい。
【0121】
・上記実施形態では、1段通電と2段通電との噴射特性の調整に際し、調整点P2,P3の目標噴射量Q2,Q3を同量(Q2=Q3)としたが、これを変更してもよい。例えば、調整点P2,P3の目標噴射量Q2,Q3を「Q2>Q3」とする。つまり、1段通電の調整点に、2段通電の調整点よりも噴射量の多い調整点を含ませるようにする。この場合、1段通電において調整点P1,P2による調整が行われる区間と、2段通電において調整点P3,P4による調整が行われる区間とを互いに重複させることができ、噴射特性の調整を一層適正に実施することができる。なお、調整点P2,P3の目標噴射量Q2,Q3を「Q2<Q3」とすることも可能である。
【0122】
・噴射特性データの調整に関して、上記構成では、1段通電での2つの調整点P1,P2を設定するとともに、2段通電での2つの調整点P3,P4を設定したが、これを変更し、これら各調整点P1~P4のうち、目標噴射量が同じ調整点P2,P3のみで噴射特性データの調整を実施するようにしてもよい。
【0123】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0124】
10…エンジン(内燃機関)、11…燃料噴射装置、32…ノズルニードル(弁体)、33…噴孔、60…電気アクチュエータ(駆動部)、20…ECU(燃料噴射制御装置)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13