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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 5/68 20060101AFI20240109BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240109BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20240109BHJP
   H02P 5/505 20160101ALI20240109BHJP
【FI】
H02P5/68
H02M7/48 E
H02M7/48 Z
H02P5/46 B
H02P5/505
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020158966
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022052527
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 悠祐
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇志
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-055760(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038317(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 5/68
H02M 7/48
H02P 5/46
H02P 5/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制動装置(90)において、通電方向に応じて制動方向もしくは非制動方向にトルクを出力する第1モータ(71)及び第2モータ(72)を駆動するモータ制御装置であって、
一つの筐体(600)内に収容されており、直流電源(Bt)の正極端子(Tp)と負極端子(Tn)との間に並列に接続された第1レッグ(51)、第2レッグ(52)及び第3レッグ(53)の三つのレッグを有し、各前記レッグは、前記正極端子に接続された正側スイッチ素子(S1H、S2H、S3H)と前記負極端子に接続された負側スイッチ素子(S1L、S2L、S3L)とが素子間接続点(N1、N2、N3)を介して直列接続されており、前記直流電源の電力を変換して前記第1モータ及び前記第2モータに供給可能な電力変換器(45)と、
各前記レッグの前記正側スイッチ素子及び前記負側スイッチ素子を操作し、前記第1モータ及び前記第2モータへの通電を制御する制御部(40)と、
を備え、
前記第1レッグの前記素子間接続点は、前記第1モータの一方の端子に接続され、
前記第3レッグの前記素子間接続点は、前記第2モータの一方の端子に接続され、
前記第2レッグの前記素子間接続点は、前記第1モータの他方の端子、及び、前記第2モータの他方の端子に接続され、
前記制御部が前記第1レッグの前記正側スイッチ素子から前記第2レッグの前記負側スイッチ素子に通電し、且つ、前記第3レッグの前記正側スイッチ素子から前記第2レッグの前記負側スイッチ素子に通電したとき、前記第1モータ及び前記第2モータは制動方向もしくは非制動方向のいずれか同じ方向にトルクを出力するように構成されており、
前記第1モータ又は前記第2モータの少なくとも一方に流れている、又は、流れると予測される電流の絶対値が電流閾値を超えているとき、前記制御部は、前記第2レッグの前記正側スイッチ素子及び前記負側スイッチ素子をスイッチング駆動するモータ制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第2レッグのスイッチング駆動において、前記正側スイッチ素子及び前記負側スイッチ素子の温度が互いに近づくようにスイッチングする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電力変換器の各スイッチ素子をPWM制御するものであり、
前記第2レッグのスイッチング周期に対する前記正側スイッチ素子のオン時間の比であるDUTY比を0%より大きく100%より小さい値に設定する請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、電流ピークのタイミングをずらすように前記第1モータ及び前記第2モータに通電する請求項1~3のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1モータ及び前記第2モータの停止から回転への起動のタイミングを所定時間ずらす請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1モータ及び前記第2モータのうち先に通電開始した一方のモータの電流値の絶対値が閾値を一旦超えた後に下回ったとき、他方のモータの通電を開始する請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記第2レッグは、前記第1レッグ及び前記第3レッグに比べ、受熱の少ない箇所、又は、放熱性の良い箇所に配置されている請求項1~6のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記第2レッグは、前記第2レッグと前記第1レッグとの距離(D21)、及び、前記第2レッグと前記第3レッグとの距離(D23)が、前記第1レッグと前記第3レッグとの距離(D13)よりも大きくなるように配置されている請求項7に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記第2レッグは、前記第1レッグ及び前記第3レッグに比べ、ヒートシンク又はコネクタ(58)までの距離が近い箇所に配置されている請求項7または8に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
前記三つのレッグのうちいずかの前記正側スイッチ素子もしくは前記負側スイッチ素子のうち一つ以上と直列に、又は、前記第1モータもしくは前記第2モータのうち一つ以上と直列に、電流検出器が設けられている請求項1~9のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項11】
一つの前記電流検出器(Rm1)は、前記第1レッグの前記素子間接続点と前記第2レッグの前記素子間接続点との間において前記第1モータと直列に配置されており、
他の一つの前記電流検出器(Rm2)は、前記第3レッグの前記素子間接続点と前記第2レッグの前記素子間接続点との間において前記第2モータと直列に配置されている請求項10に記載のモータ制御装置。
【請求項12】
前記三つのレッグの前記正側スイッチ素子の前記正極端子側における接続点を正側接続点(N0u)とし、前記三つのレッグの前記負側スイッチ素子の前記負極端子側における接続点を負側接続点(N0d)とすると、
前記電流検出器(R1u、R1d、R3u、R3d)は、
前記三つのレッグのうち少なくとも二つのレッグの前記素子間接続点と前記正側接続点との間、並びに、少なくとも二つのレッグの前記素子間接続点と前記負側接続点との間に配置されている請求項10に記載のモータ制御装置。
【請求項13】
前記正側スイッチ素子及び前記負側スイッチ素子の電流又は温度の定格について、
前記第2レッグの素子の定格は、前記第1レッグ及び前記第3レッグの素子の定格よりも大きく設定されている請求項1~12のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一式で用いられる二つの直流モータへの通電を制御する装置が知られている。
【0003】
例えば特許文献1、2に開示された装置では、各直流モータに対応するHブリッジ回路の一方のハーフブリッジ回路が共用され、三つのハーフブリッジ回路により電力変換器が構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5772726号公報
【文献】特許第6052028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2の「ハーフブリッジ回路」に相当する一対の正側(もしくは上アーム)スイッチ素子と負側(もしくは下アーム)スイッチ素子との組を本明細書では「レッグ」と表す。特許文献1、2に開示された3レッグ式のブリッジ回路は、一つの共有レッグと二つの非共有レッグとから構成される。3レッグ式のブリッジ回路では、二つのHブリッジ回路に比べスイッチ素子数が8個から6個に低減する。また、電力変換器の回路面積が低減する。
【0006】
しかし、二つのモータに同時に通電するとき、共有レッグには非共有レッグよりも大きな電流が流れるため、発熱による故障のおそれがある。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、二つの直流モータに対しブリッジ回路の一レッグを共有する構成において、共有レッグの発熱を低減するモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるモータ制御装置は、車両の制動装置(90)において、通電方向に応じて制動方向もしくは非制動方向にトルクを出力する第1モータ(71)及び第2モータ(72)を駆動する。このモータ制御装置は、電力変換器(45)と、制御部(40)と、を備える。
【0009】
電力変換器は、一つの筐体(600)内に収容されており、直流電源(Bt)の正極端子(Tp)と負極端子(Tn)との間に並列に接続された第1レッグ(51)、第2レッグ(52)及び第3レッグ(53)の三つのレッグを有する。各レッグは、正極端子に接続された正側スイッチ素子(S1H、S2H、S3H)と負極端子に接続された負側スイッチ素子(S1L、S2L、S3L)とが素子間接続点(N1、N2、N3)を介して直列接続されている。電力変換器は、直流電源の電力を変換して第1モータ及び第2モータに供給可能である。制御部は、各レッグの正側スイッチ素子及び負側スイッチ素子を操作し、第1モータ及び第2モータへの通電を制御する。
【0010】
第1レッグの素子間接続点は、第1モータの一方の端子に接続される。第3レッグの素子間接続点は、第2モータの一方の端子に接続される。第2レッグの素子間接続点は、第1モータの他方の端子、及び、第2モータの他方の端子に接続される。すなわち、第2レッグが共有レッグをなし、第1レッグ及び第3レッグが非共有レッグをなす。
【0011】
制御部が第1レッグの正側スイッチ素子から第2レッグの負側スイッチ素子に通電し、且つ、第3レッグの正側スイッチ素子から第2レッグの負側スイッチ素子に通電したとき、第1モータ及び第2モータは制動方向もしくは非制動方向のいずれか同じ方向にトルクを出力するように構成されている。
【0012】
制御部は、第1モータ又は第2モータの少なくとも一方に流れている、又は、流れると予測される電流の絶対値が電流閾値を超えているとき、第2レッグの正側スイッチ素子及び負側スイッチ素子をスイッチング駆動する。「流れると予測される電流」とは、例えば回路のスペックや実験データに基づいて予測される電流、或いは、過去から現在までの電流検出値の推移から予測される未来の電流を意味する。
【0013】
本発明では、第2レッグの正側スイッチ素子又は負側スイッチ素子の一方を常時ONするのでなく、還流電流が流れるようにスイッチング駆動する。これにより、最大の瞬時電流は変わらなくても、流れる電流が両スイッチ素子に時間的に分担されるため、一素子あたりの発熱を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態のモータ制御装置が適用される車両の制動装置の全体構成図。
図2図1のII部拡大図。
図3】各実施形態によるモータ制御装置の構成図。
図4】(a)正方向通電時、(b)逆方向通電時における発熱を説明する図。
図5】比較例1の通電方法を示すタイムチャート。
図6】比較例2の通電方法を示すタイムチャート。
図7】通電タイミングをずらした期間におけるスイッチ動作を説明する図。
図8】第1実施形態による通電方法を示すタイムチャート。
図9】モータ通電の印加電圧とトルク-回転速度特性との関係を示す図。
図10】第1実施形態による通電方法のフローチャート(1)。
図11】第1実施形態による通電方法のフローチャート(2)。
図12】第2実施形態による通電方法を示すタイムチャート。
図13】シャント抵抗の第1類配置例を示す図。
図14】シャント抵抗の第2類配置例を示す図。
図15】シャント抵抗のその他配置例(1)を示す図。
図16】シャント抵抗のその他配置例(2)を示す図。
図17】シャント抵抗のその他配置例(3)を示す図。
図18】第3実施形態による各レッグの素子定格を比較する図。
図19】第4実施形態による基板配置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のモータ制御装置の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態のモータ制御装置は、車両の制御装置において、駐車時に右左後輪をロックする二つの電動パーキングブレーキモータを駆動する「電動パーキングブレーキモータ制御装置」として機能する。
【0016】
[制動装置の全体構成]
最初に図1図2を参照し、車両の制動装置の全体構成について説明する。制動装置90は、「電動液圧制御機能」及び「電動パーキングブレーキ機能」を有する。自動車技術分野において一般に「電動液圧制御」は、「ESC」すなわち電動安定化制御に関連する制御として知られている。安定化制御には、狭義の制動制御の他、システムにより、アンチロックブレーキ制御、車両挙動安定化制御、坂道発進補助制御、トラクション制御、車両追従制御、車線逸脱回避制御、障害物回避制御等が含まれる場合がある。電動パーキングブレーキ(以下「EPB」)機能は、駐車時に車輪をロックする機能である。
【0017】
図1に示すように、制動装置90は、制動制御ECU10、液圧発生装置80、ブレーキペダル91、EPBスイッチ94、各車輪の制動部95R、95L、96R、96L、車輪速センサ97等を備える。また、図1に示す、いわゆる「モータ・オン・キャリパタイプ」の制動装置では、右左の後輪に一つずつ、計二つのEPBモータ71、72が設けられている。
【0018】
図1において太実線は液圧経路を示し、破線矢印は電気信号を示す。ブレーキペダル91が踏まれると、液圧発生装置80に液圧が供給されるとともに制動制御ECU10に電気信号が送信される。EPBスイッチ94が操作されると、制動制御ECU10内のEPBモータ制御装置400に電気信号が送信される。
【0019】
制動制御ECU10は、電動液圧制御に関する構成として、ESC(電動液圧)制御部20及びESC電力変換器25を含む。ESC制御部20は、ESC電力変換器25からの電力供給によりESCモータ83を回転させて液圧アクチュエータ85を駆動することで、液圧発生装置80の制動用液圧を制御する。代表的に液圧は油圧であり、液圧アクチュエータは油圧ポンプや油圧シリンダである。また、ESCモータ83は例えば三相モータであり、ESC電力変換器25は三相インバータ回路である。
【0020】
また制動制御ECU10は、EPB制御に関する構成として、EPB制御部40及びEPB電力変換器45を含む。EPB制御部40は、EPB電力変換器45からの電力供給により二つのEPBモータ71、72を駆動し、駐車時に右左の後輪をロックする。本実施形態では、EPBモータ71、72は直流モータで構成されている。EPB電力変換器45は、後述する「3レッグブリッジ回路」で構成されている。制動制御ECU10のうち、EPB制御部40及びEPB電力変換器45を含む部分を「EPBモータ制御装置400」と表す。
【0021】
液圧発生装置80の液圧アクチュエータ85は、ESCモータ83の出力により駆動され、前輪制動部95R、95L、及び、後輪制動部96R、96Lに制動用液圧を供給する。後輪制動部96R、96Lには、駐車時にそれぞれ第1EPBモータ71及び第2EPBモータ72の出力が作用する。車輪速センサ97は、各車輪の回転速度を検出して制動制御ECU10に通知する。
【0022】
図2に右後輪制動部96Rの構成を例示する。第1EPBモータ71の出力により後輪制動部96Rのブレーキパッド965がブレーキディスク966に押し付けられることにより、車輪がロックされる。また、停車時及び走行時を通じ、液圧発生装置80から供給される液圧によりブレーキパッド965がブレーキディスク966に押し付けられることにより、車輪がロックされる。
【0023】
[EPBモータ制御装置の構成]
次に図3を参照し、EPBモータ制御装置400の構成を説明する。以下では、図1の要素名称における「EPB」を省略する。つまり、EPBモータ制御装置400、EPB制御部40及びEPB電力変換器45を、「モータ制御装置400」、「制御部40」及び「電力変換器45」と表す。また、第1EPBモータ71を「第1モータ71」と表し、第2EPBモータ72を「第2モータ72」と表す。
【0024】
制御部40は、マイコン、駆動回路等で構成され、図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。制御部40は、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理や、専用の電子回路によるハードウェア処理による制御を実行する。
【0025】
電力変換器45は、直流電源Btの正極端子Tpと負極端子Tnとの間に並列に接続された第1レッグ51、第2レッグ52及び第3レッグ53の三つのレッグを有する。直流電源Btの電圧は例えば12[V]である。三つのレッグ51、52、53は一つの筐体600内に収容されており、例えば同一の基板上に実装されている。このように電力変換器45は、「3レッグブリッジ回路」で構成されており、直流電源Btの電力を変換して第1モータ71及び第2モータ72に供給可能である。
【0026】
第1レッグ51は、正極端子Tpに接続された正側スイッチ素子S1Hと、負極端子Tnに接続された負側スイッチ素子S1Lとが素子間接続点N1を介して直列接続されている。第2レッグ52は、正極端子Tpに接続された正側スイッチ素子S2Hと、負極端子Tnに接続された負側スイッチ素子S2Lとが素子間接続点N2を介して直列接続されている。第3レッグ53は、正極端子Tpに接続された正側スイッチ素子S3Hと、負極端子Tnに接続された負側スイッチ素子S3Lとが素子間接続点N3を介して直列接続されている。正側スイッチ素子S1H、S2H、S3H、及び、負側スイッチ素子S1L、S2L、S3Lは、例えばMOSFETで構成されている。
【0027】
第1レッグ51の素子間接続点N1は、第1モータ71の一方の端子に接続される。第3レッグ53の素子間接続点N3は、第2モータ72の一方の端子に接続される。第2レッグ52の素子間接続点N2は、第1モータ71の他方の端子、及び、第2モータ72の他方の端子に接続される。制御部40は、各レッグ51、52、53の正側スイッチ素子S1H、S2H、S3H及び負側スイッチ素子S1L、S2L、S3Lを操作し、第1モータ71及び第2モータ72への通電を制御する。
【0028】
三つのレッグ51、52、53の正側スイッチ素子S1H、S2H、S3Hの正極端子Tp側における接続点を正側接続点N0uとする。また、三つのレッグ51、52、53の負側スイッチ素子S1L、S2L、S3Lの負極端子Tn側における接続点を負側接続点N0dとする。図3の構成例では、各レッグの素子間接続点N1、N2、N3と正側接続点N0uとの間、及び、各レッグの素子間接続点N1、N2、N3と負側接続点N0dとの間に「電流検出器」としてのシャント抵抗R1u、R1d、R2u、R2d、R3u、R3dが配置されている。電流検出に関する詳細は後述する。なお、図3のシャント抵抗の配置構成は、図14(b)に相当する。
【0029】
ここで、実線矢印で示すように、第1レッグ51の正側スイッチ素子S1Hから第1モータ71を通って第2レッグ52の負側スイッチ素子S2Lに流れる電流方向を正方向とする。同じく、第3レッグ53の正側スイッチ素子S3Hから第2モータ72を通って第2レッグ52の負側スイッチ素子S2Lに流れる電流方向を正方向とする。
【0030】
逆に、破線矢印で示すように、第2レッグ52の正側スイッチ素子S2Hから第1モータ71を通って第1レッグ51の負側スイッチ素子S1Lに流れる電流方向を負方向とする。同じく、第2レッグ52の正側スイッチ素子S2Hから第2モータ72を通って第3レッグ53の負側スイッチ素子S3Lに流れる電流方向を負方向とする。
【0031】
第1モータ71及び第2モータ72に「正方向に通電」するとは、第1レッグ51の正側スイッチ素子S1Hから第2レッグ52の負側スイッチ素子S2Lに通電し、且つ、第3レッグ53の正側スイッチ素子S3Hから第2レッグ52の負側スイッチ素子S2Lに通電することをいう。第1モータ71及び第2モータ72に「負方向に通電」するとは、第2レッグ52の正側スイッチ素子S2Hから第1レッグ51の負側スイッチ素子S1Lに通電し、且つ、第2レッグ52の正側スイッチ素子S2Hから第3レッグ53の負側スイッチ素子S3Lに通電することをいう。
【0032】
一構成例では、制御部40が正方向に通電したとき、第1モータ71及び第2モータ72はいずれも制動方向にトルクを出力し、制御部40が負方向に通電したとき、第1モータ71及び第2モータ72はいずれも非制動方向にトルクを出力する。モータ71、72が制動方向にトルクを出力すると、後輪制動部96R、96Lは車輪をロックし、非制動方向にトルクを出力すると、後輪制動部96R、96Lはロックを解除する。
【0033】
他の構成例では逆に、制御部40が正方向に通電したとき、第1モータ71及び第2モータ72はいずれも非制動方向にトルクを出力し、制御部40が負方向に通電したとき、第1モータ71及び第2モータ72はいずれも制動方向にトルクを出力してもよい。
【0034】
要するに本実施形態のモータ制御装置400は、制御部40が正方向に通電したとき、第1モータ71及び第2モータ72は制動方向もしくは非制動方向いずれかの同じ方向にトルクを出力するように構成されている。また、制御部40が負方向に通電したとき、第1モータ71及び第2モータ72は、正方向に通電したときとは反対方向にトルクを出力するように構成されている。
【0035】
次に図4を参照し、3レッグブリッジ回路構成の電力変換器45における課題について説明する。図4の上側には正方向通電時、下側には負方向通電時の電流経路及び電流量を示す。太いブロック矢印は、電流量が大きいことを表す。3レッグブリッジ回路では、二つのモータ71、72に同時に通電したとき、共有レッグである第2レッグ52のスイッチ素子S2H、S2Lに流れる電流が大きくなり、発熱による故障のおそれが生じる。
【0036】
そこで本実施形態では、二つの直流モータに対しブリッジ回路の一レッグを共有する構成において、共有レッグの発熱を低減することを目的とする。第1、第2実施形態では、通電方法の変更により共有レッグの発熱低減を図る。第3、第4実施形態では、通電方法に加え、さらにハード構成面での方策が付加される。
【0037】
(第1、第2実施形態)
図5図12を参照し、第1、第2実施形態による通電方法について、タイムチャートを中心に説明する。以下、通電方法の説明では、制御部、第1-第3レッグ、第1モータ、第2モータ等の符号の記載を省略する。図8及び図12のタイムチャートでは、単位時間毎に区切られた時間軸を用いて動作を模式的に示す。時間軸の一目盛は時間単位[τ]の2単位分(2τ)に相当し、各目盛には、t0、t2・・・というように偶数の時刻を記す。各目盛の中間の点が奇数の時刻に相当する。
【0038】
正側及び負側スイッチ素子は相補的にオン、オフすることを前提とし、縦軸における各レッグのDUTY比は、「スイッチング周期に対する正側スイッチ素子のオン時間の比」を意味する。DUTY比0%のとき、正側スイッチ素子がオフ、負側スイッチ素子がオンであり、DUTY比100%のとき、正側スイッチ素子がオン、負側スイッチ素子がオフである。各タイムチャートでは、第1レッグ及び第3レッグのDUTY比が100%のとき正方向に通電される例を示すが、逆に第1レッグ及び第3レッグのDUTY比が0%のとき正方向に通電されてもよい。その場合、図中の100%と0%とが反転する。
【0039】
第1、第2実施形態の説明に先立ち、図5図6のタイムチャートを参照し、比較例の通電方法について説明する。図5に示す比較例1では、各レッグは、DUTY比0%又は100%でのみ動作する。すなわち、各モータの回転中、対応するレッグのスイッチ素子は、常時オフ又は常時オンのいずれかとなる。また、比較例1では、第1モータ及び第2モータは停止から同時に回転開始(すなわち起動)し、且つ、同時に回転終了する。
【0040】
時刻t0~t12の期間には、第1レッグ及び第3レッグがDUTY比100%、第2レッグがDUTY比0%で通電され、第1モータ及び第2モータに正電流が流れる。時刻t16~t28の期間には、第1レッグ及び第3レッグがDUTY比0%、第2レッグがDUTY比100%で通電され、第1モータ及び第2モータに負電流が流れる。網掛け部に示すように、時刻t0直後の正電流、及び、時刻t16直後の負電流の絶対値は、電流閾値を超えている。
【0041】
つまり、第1モータ及び第2モータの電流ピークのタイミングが重なっており、第2レッグのスイッチ素子に大電流が流れる。また図の上部に、正電流通電時におけるモータ回転量θm1、θm2の変化を示す。比較例1では、初期位置θ0から制御目標θtgtまでの第1モータの回転量θm1の線と第2モータの回転量θm2の線とが重なっている。
【0042】
図6に示す比較例2では、各レッグは、比較例1と同様にDUTY比0%又は100%でのみ動作する。また、比較例2では、第1モータと第2モータとの起動タイミングを、所定時間として2τずらす。起動タイミングをずらすことの意義は、第1実施形態の説明において後述する。
【0043】
比較例1との相違点として、第3レッグのDUTY比は、時刻t0~t2で0%、時刻t12~t14で100%、時刻t16~t18で100%である。また、第1レッグのDUTY比は、時刻t28~t30で100%である。これにより、第1モータには時刻t0~t12の期間に正電流が流れるのに対し、第2モータには時刻t2~t14の期間に正電流が流れる。また、第1モータには時刻t16~t28の期間に負電流が流れるのに対し、第2モータには時刻t18~t30の期間に負電流が流れる。
【0044】
比較例2では、第2モータの通電期間の長さ(12τ)を維持したまま、第1モータの通電期間に対して所定時間オフセットさせる。そのため、初期位置θ0から制御目標θtgtまでの第1モータの回転量θm1の線と第2モータの回転量θm2の線とは平行になる。つまり、終了時間差Δeは、起動時間差Δsと等しい2τの長さとなる。そのため、EPBブレーキでの右左輪の制動タイミングにずれが生じる可能性がある。
【0045】
なお、通電タイミングをずらした期間におけるスイッチ動作の詳細について図7を参照して補足する。時刻t0~t2の期間には第3レッグの負側スイッチS3Lがオンするため、上側の図で破線の電流経路が形成される。また、時刻t16~t18の期間には第3レッグの正側スイッチS3Hがオンするため、下側の図で破線の電流経路が形成される。時刻t12~t14の期間、及び、時刻t28~t30の期間の第1レッグについても同様である。
【0046】
しかし、スイッチ素子の抵抗はモータ巻線の抵抗に比べて極めて小さいため、比較例2では破線経路に流れる電流が無視される。ただし、回路の抵抗値によって破線経路の電流が完全に無視できない場合、これらの期間において、第1レッグ又は第3レッグの正側スイッチ素子及び負側スイッチ素子を共にオフするように操作してもよい。
【0047】
次に図8を参照し、第1実施形態の通電方法について説明する。タイミングチャートの書式は、比較例の図5図6に準ずる。まず第1、第2実施形態に共通の事項として、制御部40はEPBスイッチ94が操作されると通電開始する。制御部40は、例えばモータに流れる電流が所定値以上、或いは、電流の積算値が所定値以上になったら、パーキングブレーキが十分にロック、又はロック解除したと判定し、通電を終了する。
【0048】
本実施形態では、共有レッグの発熱低減を図り、第1モータ又は第2モータの少なくとも一方に流れている、又は、流れると予測される電流の絶対値が電流閾値を超えているとき、制御部は、第2レッグの正側スイッチ素子及び負側スイッチ素子をスイッチング駆動する。「流れている電流」は、シャント抵抗等の電流検出器による電流検出値もしくは推定値、又は、電流と相関する他の物理量の検出値もしくは推定値に基づいて判断される。
【0049】
「流れると予測される電流」とは、例えば回路のスペックや実験データに基づいて予測される電流、或いは、過去から現在までの電流検出値の推移から予測される未来の電流を意味する。例えばモータ通電時のピーク電流が必ず電流閾値を超えることがわかっている場合、制御部は、モータ通電時に常にスイッチング駆動するようにしてもよい。
【0050】
比較例でも説明した通り、この通電方法では、制御部が電力変換器の各スイッチ素子をPWM制御し、DUTY比によりスイッチング駆動する構成を想定する。例えば第2レッグの正側スイッチ素子及び負側スイッチ素子の定格が同等であり、且つ、基板配置による受熱特性や放熱特性が同等であることを前提とする。この場合、正側スイッチ素子及び負側スイッチ素子のオン時間が略一致するように、スイッチング駆動のDUTY比が略50%に設定されることが好ましい。
【0051】
具体的に図8を参照すると、第1実施形態では、時刻t0~t3の期間、及び、時刻t11~t19の期間等において第2レッグのDUTY比が50%に設定され、スイッチング駆動される。特に第1実施形態の制御部は、後述の第2実施形態に対し、一方向の通電あたり一回、第2レッグをスイッチング駆動して電流及び発熱を分散させる。モータの動き始めには大電流が流れるが電圧は低い。つまり通電開始時には高電圧が必要ないため、第2レッグのDUTY比を50%にすることによる影響はないと考えられる。
【0052】
図9に、モータ通電の印加電圧とトルク-回転速度特性との関係を示す。起動時、すなわち回転速度が0のときのトルクは、電圧が高いほど大きくなる。電圧Vの時の高電圧域特性は、無負荷回転速度Noと起動時トルクTsとを結ぶ線で示される。電圧(1/2)Vの時の低電圧域特性は、無負荷回転速度(No/2)と起動時トルク(Ts/2)とを結ぶ線で示される。したがって、起動時の必要トルクが(Ts/2)であれば、DUTY比50%で起動可能である。また、矢印で示すように、起動後にDUTY比100%に変更することで、ロックまでの所要時間の短縮や上述比較例と同等のロックトルクの確保が可能となる。
【0053】
また、制御部は、電流ピークのタイミングをずらすように第1モータ及び第2モータに通電する。具体的に制御部は、第1モータ及び第2モータの停止から回転への起動のタイミングをずらす。図8に実線で示す例では、制御部は正方向通電時、時刻t0に第1モータを起動し、所定時間2τ後の時刻t2に第2モータを起動する。また、制御部は負方向通電時、時刻t16に第1モータを起動し、所定時間2τ後の時刻t18に第2モータを起動する。この点は、図6に示す比較例2と同様である。このように、起動タイミングをずらす量は固定値でもよい。
【0054】
或いは、二点鎖線で示すように、制御部は、第1モータ及び第2モータのうち先に通電開始した一方のモータ(この例では第1モータ)の電流の絶対値が閾値を一旦超えた後に下回ったとき、他方のモータ(この例では第2モータ)の通電を開始してもよい。
【0055】
また、図8の例では制御部は、第2モータの正電流値が閾値を下回った時刻t3に、第2レッグのDUTY比を50%から0%に移行し、負電流の絶対値が閾値を下回った時刻t19に、第2レッグのDUTY比を50%から100%に移行する。この例に限らず、DUTY比を50%から0%又は100%に移行するタイミングが固定値に設定されてもよい。
【0056】
さらに図8の例では、正方向通電から負方向通電へ移行する時刻t13~t16の期間等において、非共有レッグである第1レッグ51及び第3レッグ53もDUTY比50%でスイッチング駆動される。時刻t13~t16の期間、三つのレッグ51、52、53が同期してスイッチング駆動することで、モータ71、72に電流は流れない。なお、t12~t13における第1レッグ51のDUTY比0%の期間、t28~t29における第3レッグ53のDUTY比100%の期間について、比較例2と同様に図7の破線経路の電流は無視される。
【0057】
正方向通電時におけるモータ回転量θm1、θm2の変化を示す図において、第2レッグのDUTY比が50%である時刻t0~t3の期間は電圧が低いため、モータ回転量θm1、θm2の変化の傾きが相対的に小さくなる。したがって、モータ回転量θm1、θm2は折れ線状に表れる。また、比較例2に対し第2レッグのDUTY比が50%の期間が設けられ、第2モータが第1モータに比べてDuty比100%駆動の割合が大きくなる。そのため、第2モータの回転量θm2が第1モータの回転量θm1よりも早く増加し、制御目標θtgtに到達する終了時間差Δe(1τ)が起動時間差Δs(2τ)よりも小さくなる。
【0058】
以上のように第1実施形態では、第2レッグの正側スイッチ素子又は負側スイッチ素子の一方を常時ONするのでなく、還流電流が流れるようにスイッチング駆動する。これにより、最大の瞬時電流は変わらなくても、流れる電流が両スイッチ素子に時間的に分担されるため、一素子あたりの発熱を低減することができる。また、スイッチング駆動のDUTY比を50%とすることで、正側スイッチ及び負側スイッチの発熱がほぼ均等になり、発熱のピークを効果的に下げることができる。つまり、正側スイッチ素子及び負側スイッチ素子の温度が互いに近づくようにスイッチングされる。
【0059】
また、スイッチング駆動は、電流値が大きく電圧が低い期間にのみ実施することが好ましい。仮に、小電流高回転域でスイッチング駆動するとモータ回転数の低下を招くおそれがある。そこで、電流値が大きく電圧が低い期間にのみスイッチング駆動することで、小電流高回転域でのモータ回転数の低下を抑制することができる。
【0060】
さらに第1実施形態では、各モータにおける駆動電流が大きいタイミングが重ならないように通電タイミングをずらすことで、最大瞬時電流を低減することができる。よって、第2レッグの発熱が抑制される。また、終了時間差Δeが起動時間差Δsよりも小さくなるように通電することで、起動タイミングをずらしたとしても、EPBブレーキでの右左輪の制動タイミングのずれを小さくすることができる。
【0061】
続いて図10図11のフローチャートに、本実施形態による通電方法を示す。フローチャートの説明で、記号「S」はステップを意味する。図10のS11で制御部は、第1モータ又は第2モータの少なくとも一方に流れている、又は、流れると予測される電流の絶対値が電流閾値を超えているか判断する。
【0062】
S11でYESの場合、S12で制御部は、第2レッグの正側スイッチS2H及び負側スイッチS2Lの温度が互いに近づくようにスイッチング駆動する。具体的には、制御部は、第2レッグを例えばDUTY比50%でスイッチング駆動する。S11でNOの場合、S13で制御部は第2レッグに固定通電、すなわちDUTY比0%又は100%に相当する通電を行う。
【0063】
図11のS21ではEPBスイッチが操作されたか判断される。YESの場合、第1モータ及び第2モータの同時駆動を開始するためS22に移行する。S22で制御部は、電流ピークのタイミング、具体的には、停止から回転への起動タイミングをずらすように第1モータ及び第2モータに通電する。このとき、所定時間ずらすようにしてもよい。或いは、先に通電開始した一方のモータの電流の絶対値が閾値を一旦超えた後に下回ったとき、他方のモータの通電を開始してもよい。
【0064】
(第2実施形態)
次に図12を参照し、第2実施形態による通電方法について説明する。第2実施形態では、一方向の通電あたり初期及び終期の二回、第2レッグをスイッチング駆動して電流及び発熱を分散させる。
【0065】
正方向通電時のt0~t3の期間、第2レッグをDUTY比50%でスイッチングする点は、図8の第1実施形態と同様である。その後の通電終期において、第1モータではt8~t12の期間、第2モータではt10~t14の期間、正電流が電流閾値を超える。そこで制御部は、さらにt8~t14の期間、第2レッグをDUTY比50%でスイッチング駆動する。その結果、両モータが駆動停止する期間をはさんで、第2レッグは、t8~t19の期間にわたってDUTY比50%のスイッチング動作を継続する。
【0066】
負方向通電時も同様に、通電終期において、第1モータではt24~t28の期間、第2モータではt26~t30の期間、負電流の絶対値が電流閾値を超える。そこで制御部は、さらにt24以後の期間、第2レッグをDUTY比50%でスイッチング駆動する。第2実施形態では、第1実施形態に対し、通電終期の大電流による第2レッグの発熱をさらに低減することができる。
【0067】
[電流検出器の配置例]
次に図13図17を参照し、「電流検出器」としてのシャント抵抗の配置例について説明する。本実施形態において電流検出器は、第2レッグ52のスイッチング駆動の実施を判定するための電流検出に用いられる。各レッグに配置されるシャント抵抗の符号について、1文字目は「R」、2文字目はレッグの番号とし、3文字目は正側を「u」、負側を「d」とする。三つのレッグの正側接続点N0uと正極端子Tpとの間に配置されるシャント抵抗を「正極経路のシャント抵抗R0u」と表し、三つのレッグの負側接続点N0dと負極端子Tnとの間に配置されるシャント抵抗を「負極経路のシャント抵抗R0d」と表す。
【0068】
また、モータ71、72と直列に接続されるシャント抵抗の符号は「Rm1、Rm2」とする。各シャント抵抗に流れる電流は、シャント抵抗の「R」を「I」に代えた記号で表す。正極経路のシャント抵抗R0uに流れる電流を「正側合計電流I0u」といい、負極経路のシャント抵抗R0dに流れる電流を「負側合計電流I0d」という。
【0069】
図13に第1類の配置例として、第1モータ電流Im1及び第2モータ電流Im2を直接検出する構成を示す。図13(a)に示す基本構成461では、一つのシャント抵抗Rm1は、第1レッグ51の素子間接続点N1と第2レッグ52の素子間接続点N2との間において第1モータ71と直列に配置されている。他の一つのシャント抵抗Rm2は、第3レッグ53の素子間接続点N3と第2レッグ52の素子間接続点N2との間において第2モータ72と直列に配置されている。以下、「基本構成461」等の「構成」は、3レッグブリッジ回路(電力変換器)を意味する。
【0070】
図13(b)の構成462では、基本構成461に対し、正極経路のシャント抵抗R0u、及び、負極経路のシャント抵抗R0dが追加されている。シャント抵抗Rm1により第1モータ電流Im1が検出され、シャント抵抗Rm2により第2モータ電流Im2が検出される。
【0071】
図14に第2類の配置例として、第1レッグ51及び第3レッグ53に流れる電流を検出し、検出電流から第1モータ電流Im1及び第2モータ電流Im2を算出する構成を示す。図14(a)に示す基本構成471では、第1レッグ51及び第3レッグ53の素子間接続点N1、N3と正側接続点N0uとの間、並びに、第1レッグ51及び第3レッグ53の素子間接続点N1、N3と負側接続点N0dとの間、の四箇所にシャント抵抗R1u、R1d、R3u、R3dが配置されている。第2類の他の配置例では、三つのレッグ51、52、53のうち少なくとも二つのレッグの素子間接続点と正側接続点N0uとの間、並びに、少なくとも二つのレッグの素子間接続点と負側接続点N0dとの間にシャント抵抗が配置されていればよい。
【0072】
各シャント抵抗R1u、R1d、R3u、R3dにより、電流I1u、I1d、I3u、I3dが検出される。モータ電流Im1、Im2は、式(1.1)、(1.2)により算出される。
Im1=I1u-I1d ・・・(1.1)
Im2=I3u-I3d ・・・(1.2)
【0073】
基本構成471では第2レッグ52の電流I2u、I2dは直接検出されず、以下の式で算出可能である。「Im1+Im2≧0」のとき、第2レッグ52の正側電流I2uは、負側スイッチ素子S2Lのスイッチタイミングに応じて式(2.1a)で表される。負側電流I2dは式(2.2)で表される。
I2u=0(S2Lオン時),-Im1-Im2(S2Lオフ時)・・・(2.1a)
I2d=Im1+Im2+I2u ・・・(2.2)
【0074】
「Im1+Im2<0」のとき、第2レッグ52の正側電流I2uは、正側スイッチングS2Hのスイッチタイミングに応じて式(2.1b)で表される。負側電流I2dは式(2.2)で表される。
I2u=-Im1-Im2(S2Hオン時),0(S2Hオフ時)・・・(2.1b)
I2d=Im1+Im2+I2u ・・・(2.2)
【0075】
図14(b)の構成472では、基本構成471に対し、第2レッグ52の素子間接続点N2と正側接続点N0u及び負側接続点N0dとの間、の二箇所にシャント抵抗R2u、R2dが追加されており、第2レッグ52の電流I2u、I2dが直接検出される。
【0076】
図14(c)の構成473では、基本構成471に対し、正極経路のシャント抵抗R0u、及び、負極経路のシャント抵抗R0dが追加されており、正側合計電流I0u及び負側合計電流I0dが検出される。第2レッグ52の電流I2u、I2dは、式(3.1)、(3.2)によっても算出可能である。
I2u=I0u-I1u-I3u ・・・(3.1)
I2d=I0d-I1d-I3d ・・・(3.2)
【0077】
続いて図15図17に、シャント抵抗のその他の配置例を示す。その他の配置例は、モータ電流Im1、Im2を算出可能な構成に限らない。図13図14の配置例を包括して言えば、シャント抵抗は、三つのレッグ51、52、53のうちいのうちいずかの正側スイッチ素子もしくは負側スイッチ素子のうち一つ以上と直列に、又は、第1モータ71もしくは第2モータ72のうち一つ以上と直列に設けられている。正極経路及び負極経路のシャント抵抗R0u、R0dは、三つのレッグ51、52、53の正側スイッチ素子もしくは負側スイッチ素子に対して共通に、直列に設けられていると解釈される。図15図17には、接続点N1、N2、N3、N0u、N0dの符号の図示を省略する。
【0078】
図15(a)の構成481では、各レッグの負側スイッチ素子S1L、S2L、S3Lと直列にシャント抵抗R1d、R2d、R3dが設けられている。図15(b)の構成482では、構成481に対し、さらに正極経路のシャント抵抗R0uが設けられている。
【0079】
図16(a)の構成483では、各レッグの正側スイッチ素子S1H、S2H、S3Hと直列にシャント抵抗R1u、R2u、R3uが設けられている。図16(b)の構成484では、構成483に対し、さらに負極経路のシャント抵抗R0dが設けられている。
【0080】
図17(a)の構成485では、正極経路及び負極経路のシャント抵抗R0u、R0dのシャント抵抗R0u、R0dが設けられている。図17(b)の構成486では、正極経路のシャント抵抗R0uのみが設けられている。図17(c)の構成487では、負極経路のシャント抵抗R0dのみが設けられている。
【0081】
(第3、第4実施形態)
次に図18図19を参照し、第1、第2実施形態による通電方法に加え、ハード構成面での発熱低減の方策を付加した第3、第4実施形態について説明する。第3、第4実施形態は、共有レッグである第2レッグが、非共有レッグである第1、第3レッグに比べて発熱してもよいようにする点に着目したものである。
【0082】
第3実施形態では、正側スイッチ素子及び負側スイッチ素子の電流又は温度の定格について、第2レッグ52の素子の定格は、第1レッグ51及び第3レッグ53の素子の定格よりも大きく設定されている。図18に示すように、第2レッグ52の素子の電流定格は、第1レッグ51及び第3レッグ53の素子の電流定格の約2倍である。或いは、第2レッグ52の素子の定格温度は、第1レッグ51及び第3レッグ53の素子の定格温度よりも高い。具体的には、第2レッグ52の素子として第1レッグ51及び第3レッグ53よりも体格の大きい素子が用いられる。
【0083】
これにより、第2レッグ52の要求仕様に合わせて全素子の定格を一律に大きくするよりも回路面積やコストを抑えられる。さらに、熱による故障が発生する場合、第1レッグ51又は第3レッグ53のうち一方の素子が先に故障すると推側されるため、一故障で二つのモータ71、72が同時に駆動できなくなる可能性を下げることができる。
【0084】
第4実施形態では、基板におけるレッグの配置に関し、第2レッグ52は、第1レッグ51及び第3レッグ53に比べ、受熱の少ない箇所、又は、放熱性の良い箇所に配置されている。例えば図19に示すように、基板50の一方の端部にはヒートシンク(又はコネクタ)58が設けられており、その近傍にヒートシンク(又はコネクタ)58側から、第2レッグ52、第1レッグ51、第3レッグ53の順に配置されている。第3レッグ53に対しヒートシンク(又はコネクタ)58と反対側には、その他の発熱部品59(例えばシャント抵抗等)が配置されている。
【0085】
第2レッグ52は、第2レッグ52と第1レッグ51との距離D21、及び、第2レッグ52と第3レッグ53との距離D23が、第1レッグ51と第3レッグ53との距離D13よりも大きくなる(D21>D13、D23>D13)ように配置されている。すなわち、三つのレッグ51、52、53間の相互の受熱やその他の発熱部品59からの受熱に対し、第2レッグ52は最も受熱の少ない箇所に配置されている。
【0086】
また第2レッグ52は、第1レッグ51及び第3レッグ53に比べ、ヒートシンク(又はコネクタ)58までの距離が近い箇所、すなわち放熱性の良い箇所に配置されている。第4実施形態では、第2レッグ52の発熱低減や放熱に有利となるように基板配置を工夫することで、第3実施形態と組み合わせる場合でも、第2レッグ52の素子の定格増加を少なくすることができる。或いは、第3実施形態と組み合わせず、全てのレッグ51、52、53に同じ定格の素子を用いることが許容される。
【0087】
(その他の実施形態)
(a)第2レッグのスイッチング駆動におけるDUTY比は50%に限らず、0%より大きく100%より小さい値であればよい。例えば、第2レッグの正側スイッチ素子及び負側スイッチ素子の温度が略一致するようにDUTY比が設定されてもよい。具体的には、基板配置による周辺素子の発熱等による受熱特性の差を考慮し、受熱しやすい側の素子の発熱を減らし、受熱しにくい側の素子により多く電流を流すようにすることで全体最適を図ることが好ましい。
【0088】
(b)スイッチング駆動の制御方式はPWM制御に限らない。例えば、予め設定されたスイッチングパターンのうちいずれかが条件に応じて選択されるようにしてもよい。
【0089】
(c)共有レッグに加えて非共有レッグもDUTY駆動する場合、共有レッグのスイッチング回数が非共有レッグよりも少なくなるようにしてもよい。これにより、共有レッグのスイッチングロスが相対的に低減され、より効果的に共有レッグの発熱を抑えられる。或いは、スイッチング回数を減らすことに代えて、キャリア周波数を下げてもよく、キャリアと同期して所定のDUTY駆動を繰り返すようにしてもよい。
【0090】
(d)上記実施形態において、シャント抵抗等の電流検出値に基づきモータ電流を検出又は算出することに加え、温度検出器を用いて環境温度やスイッチ素子の温度を検出してもよい。例えば、環境温度やスイッチ素子の温度に応じて、温度が高いほど電流閾値を下げ、第2レッグのスイッチング駆動をより積極的に行うようにしてもよい。
【0091】
(e)電流検出器はシャント抵抗に限らず、他の電流検出器が用いられてもよい。
【0092】
本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【0093】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0094】
400・・・(EPB)モータ制御装置、
40 ・・・(EPB)制御部、
45 ・・・(EPB)電力変換器、
600・・・筐体、
71 ・・・第1モータ、
72 ・・・第2モータ
90 ・・・車両の制動装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19