IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新東工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-超音波検査装置及び超音波検査方法 図1
  • 特許-超音波検査装置及び超音波検査方法 図2
  • 特許-超音波検査装置及び超音波検査方法 図3
  • 特許-超音波検査装置及び超音波検査方法 図4
  • 特許-超音波検査装置及び超音波検査方法 図5
  • 特許-超音波検査装置及び超音波検査方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】超音波検査装置及び超音波検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/48 20060101AFI20240109BHJP
   G01N 29/11 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G01N29/48
G01N29/11
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020171077
(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公開番号】P2021063803
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2019187887
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由華
(72)【発明者】
【氏名】山口 英二
(72)【発明者】
【氏名】堀江 永有太
(72)【発明者】
【氏名】大久保 水貴
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0242607(US,A1)
【文献】特開2005-128018(JP,A)
【文献】特開2008-107101(JP,A)
【文献】特開2006-201008(JP,A)
【文献】特開2015-125008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム層及びCFRP層から構成される複合材料を介して超音波が走査されて得られる前記超音波の基本波と二次高調波とを示す信号を、走査位置ごとに取得する取得部と、
走査位置ごとに、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値を算出する算出部と、
前記基本波振幅の二乗で除算した値に基づいて前記複合材料の欠陥の情報を出力する出力部と、
を備え
前記複合材料の欠陥は、前記アルミニウム層と前記CFRP層との間の接着界面に発生した亀裂である、
超音波検査装置。
【請求項2】
前記出力部は、前記複合材料の欠陥の情報として画像を出力する、請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記走査位置ごとに、前記二次高調波振幅を前記基本波振幅で除算した値を算出し、
前記出力部は、前記二次高調波振幅を前記基本波振幅で除算した値及び前記二次高調波振幅を前記基本波振幅の二乗で除算した値に基づいて、前記複合材料の欠陥の情報を出力する、請求項1又は請求項2に記載の超音波検査装置。
【請求項4】
前記算出部は、走査位置ごとに、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値と前記二次高調波振幅を前記基本波振幅で除算した値とを算出し、
前記出力部は、
前記二次高調波振幅を前記基本波振幅で除算した値に基づいて前記複合材料の欠陥の情報として画像を出力し、
前記二次高調波振幅を前記基本波振幅で除算した値に基づいて出力された画像と、前記二次高調波振幅を前記基本波振幅の二乗で除算した値に基づいて出力された画像とを比較し、欠陥の位置が一致する割合が所定値より低い場合は、欠陥を誤検出している旨を出力する、請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項5】
アルミニウム層及びCFRP層から構成される複合材料を介して超音波が走査されて得られる前記超音波の基本波と二次高調波とを示す信号を、走査位置ごとに取得するステップと、
前記走査位置ごとに、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値を算出するステップと、
前記基本波振幅の二乗で除算した値に基づいて前記複合材料の欠陥の情報を出力するステップと、
を備え、
前記複合材料の欠陥は、前記アルミニウム層と前記CFRP層との間の接着界面に発生した亀裂である、
る超音波検査方法。
【請求項6】
アルミニウム層及びCFRP層から構成される複合材料を介して超音波が走査されて得られる前記超音波の基本波と二次高調波とを示す信号を、走査位置ごとに取得する取得部と、
前記複合材料に関する画像を出力する出力部と、
を備え、
前記画像は、前記走査位置それぞれに対応する画素値を有し、
前記画素値は、対応する前記走査位置における二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値に所定の画素値変換ルールを適用した値であ前記アルミニウム層と前記CFRP層との間の接着界面に発生した亀裂に関する情報を含む、
超音波検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波検査装置及び超音波検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、浸水非線形超音波法によって金属部材の欠陥を検出する装置を開示する。この装置は、水中に配置された金属部材に超音波(正弦バースト波)を送信し、透過した超音波を受信する。この装置は、透過した超音波の二次高調波振幅Aを基本波振幅(入射波振幅)Aで除算したA/Aの値に基づいて、金属部材の欠陥を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-106636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
浸水非線形超音波法においては、媒質である水を伝搬した超音波を用いて金属部材の欠陥を検出するため、水の非線形性が超音波の基本波振幅A及び二次高調波振幅Aに影響を与える。水の非線形性が与える影響は、基本波振幅A及び二次高調波振幅Aそれぞれに対して同一であるとは限らない。このため、特許文献1に記載の装置がA/Aの値に基づいて検出した検査対象の欠陥には、水の非線形性に由来した誤検出が含まれるおそれがある。
【0005】
本開示は、検査対象の欠陥の検査精度を向上できる超音波検査装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る超音波検査装置は、検査対象に媒質を介して超音波が走査されることで得られる超音波の基本波と二次高調波とを示す信号を、走査位置ごとに取得する取得部と、走査位置ごとに、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値を算出する算出部と、基本波振幅の二乗で除算した値に基づいて検査対象の欠陥の情報を出力する出力部とを備える。
【0007】
この超音波検査装置においては、検査対象を走査して得られる超音波の基本波と二次高調波とを示す信号が、取得部により走査位置ごとに取得される。そして、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値が、算出部により走査位置ごとに算出される。超音波の基本波振幅は、媒質の非線形性が反映された基本波振幅の一次関数として記述される。そして、超音波の二次高調波振幅は、媒質の非線形性が反映された基本波振幅の二次関数として記述される。つまり、超音波の二次高調波振幅と、超音波の基本波振幅を二乗した値とは、媒質の非線形性が振幅に与える影響が同程度となる。この超音波検査装置は、超音波の二次高調波振幅と超音波の基本波振幅を二乗した値との比を用いて、媒質の非線形性に由来する影響が低減された状態で二次高調波振幅と基本波振幅との関係を記述できる。よって、この超音波検査装置は、超音波の二次高調波振幅と超音波の基本波振幅との比(A/A)の値に基づいて検査対象の欠陥を検出する場合と比べて、検査対象の欠陥の検出精度を向上できる。
【0008】
一実施形態においては、出力部は、検査対象の欠陥の情報として画像を出力してもよい。この場合、超音波検査装置は、検査対象の欠陥の位置を可視化できる。
【0009】
一実施形態においては、算出部は、走査位置ごとに、二次高調波振幅を基本波振幅で除算した値を算出し、出力部は、二次高調波振幅を基本波振幅で除算した値及び二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値に基づいて、検査対象の欠陥の情報を出力してもよい。基本波振幅及び二次高調波振幅は、媒質と検査対象との界面における超音波の反射率、及び、検査対象の欠陥における超音波の反射率によって変化する。さらに、基本波振幅と二次高調波振幅とは、反射率が振幅に与える影響が同程度となる。この超音波検査装置は、超音波の基本波振幅と超音波の二次高調波振幅との比を用いて、反射率に由来する影響が低減された状態で超音波の基本波振幅と超音波の二次高調波振幅との関係を記述できる。よって、この超音波検査装置は、超音波の二次高調波振幅と超音波の基本波振幅との比を用いて、超音波の反射率が振幅に与える影響を低減できる。
【0010】
本開示の他の側面に係る超音波検査方法は、検査対象に媒質を介して超音波が走査されることで得られる超音波の基本波と二次高調波とを示す信号を、走査位置ごとに取得するステップと、走査位置ごとに、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値を算出するステップと、基本波振幅の二乗で除算した値に基づいて検査対象の欠陥の情報を出力するステップとを備える。
【0011】
この超音波検査方法においては、検査対象を走査して得られる超音波の基本波と二次高調波とを示す信号が、走査位置ごとに取得される。そして、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値が算出される。つまり、この超音波検査方法は、超音波の二次高調波振幅と超音波の基本波振幅を二乗した値との比を用いることで、媒質の非線形性に由来する影響が低減された状態で二次高調波振幅と基本波振幅との関係を記述できる。よって、この超音波検査方法は、検査対象の欠陥の検出精度を向上できる。
また、本開示の他の側面に係る超音波検査装置は、検査対象に媒質を介して超音波が走査されて得られる超音波の基本波と二次高調波とを示す信号を、走査位置ごとに取得する取得部と、検査対象に関する画像を出力する出力部と、を備え、画像は、走査位置それぞれに対応する画素値を有し、画素値は、対応する走査位置における二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値に所定の画素値変換ルールを適用した値である。この超音波検査装置においては、検査対象を走査して得られる超音波の基本波と二次高調波とを示す信号が、取得部により走査位置ごとに取得される。そして、出力部により検査対象に関する画像が出力される。画像は、走査位置それぞれに対応する画素値を有し、画素値は、対応する走査位置における二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値に所定の画素値変換ルールを適用した値となる。このため、この超音波検査装置は、超音波の二次高調波振幅と超音波の基本波振幅を二乗した値との比を用いて、媒質の非線形性に由来する影響が低減された状態で二次高調波振幅と基本波振幅との関係を可視化することができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る超音波検査装置によれば、検査対象の欠陥の検出精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】超音波検査装置システムの一例を示す概要図である。
図2図1の超音波検査装置の機能を示すブロック図である。
図3】検査対象7を走査する超音波の伝搬経路を説明する概要図である。
図4】検査対象の欠陥の情報の一例である。
図5】超音波検査方法の処理を示すフローチャートである。
図6】検査対象7を走査する超音波の複数の伝搬経路を説明する概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は繰り返さない。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。「上」「下」「左」「右」の語は、図示する状態に基づくものであり、便宜的なものである。
【0015】
[超音波検査システムの構成]
図1は、超音波検査装置システムの一例を示す概要図である。図中のX方向及びY方向が水平方向であり、Z方向が垂直方向を示す。X方向、Y方向及びZ方向は、3次元空間の直交座標系における互いに直交する軸方向である。超音波検査システム100は、制御装置1、パルス発生器2、分波器3、駆動部4、超音波探触子5、水槽6、検査対象7、高周波フィルタ8、パルス受信器9及び超音波検査装置10を備える。超音波検査システム100は、検査対象7を超音波で走査して、検査対象7の欠陥の情報を出力する。
【0016】
制御装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などの演算装置、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶装置、及び通信装置などを有する汎用コンピュータで構成される。制御装置1は、パルス発生器2、駆動部4及び超音波検査装置10に接続される。
【0017】
パルス発生器2は、電圧を発生して超音波探触子5に超音波を発生させる。パルス発生器2は、制御装置1からの指示に応じて電圧の波形を変更する。パルス発生器2は、分波器3を介して超音波探触子5及び高周波フィルタ8に接続される。パルス発生器2は、超音波探触子5に電圧に応じた超音波を発生させる。一例として、パルス発生器2は、超音波探触子5に正弦バースト波を発生させる。正弦バースト波は、瞬間的に発生する正弦波の超音波である。正弦バースト波の振幅又は周波数は、パルス発生器2が発生した電圧の波形によって定まる。
【0018】
駆動部4は、水槽6の上方に配置され、超音波探触子5を移動させる複数の可動軸を備える。複数の可動軸は、例えば、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向のボールねじ機構によって構成される。ボールねじ機構は、サーボモータによって駆動される。駆動部4は、制御装置1からの指示に応じて超音波探触子5を移動させる。駆動部4は、制御装置1に超音波探触子5の位置情報をフィードバックする。
【0019】
超音波探触子5は、パルス発生器2から電圧を受けて超音波を発生する。超音波探触子5は、内部に圧電素子を有する探触面を備える。電圧を受けた超音波探触子5は、探触面から電圧に応じた超音波を発生する。超音波探触子5は、探触面が超音波を受信すると、受信した超音波を示す電気信号を発生する。電気信号は、電圧値の変化によるアナログ信号である。
【0020】
水槽6は、その内部に水6aを貯留する。検査対象7は、水6a中で水槽6の内部の試料置台6bに支持される。水6aは、超音波探触子5が発生する超音波を検査対象7に伝搬させる媒質として機能する。一例として、検査対象7は、アルミニウム層71と、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)層72から構成される複合材料である。検査対象7は、伝搬した超音波を反射する。試料置台6bは、検査対象7に伝搬した超音波が水槽6に伝搬しないよう、検査対象7を支持する。
【0021】
超音波探触子5は、検査対象7に超音波を照射する。また、超音波探触子5は、検査対象7が反射した超音波を受信する。超音波探触子5が照射する超音波をUとすると、検査対象7から反射された超音波は、超音波Uの周波数と同一の周波数を有する基本波と、超音波Uの周波数のn倍(nは自然数)の周波数を有するn次高調波とを含む。超音波探触子5が超音波Uを検査対象7に照射して、検査対象7から反射された超音波を受信することを、走査という。検査対象7を走査して得られる超音波は、少なくとも基本波及び二次高調波を含む。
【0022】
超音波探触子5は、所定の位置で検査対象7を超音波で走査する。その後、駆動部4は超音波探触子5を移動させる。超音波探触子5は、移動された位置で再び検査対象7を超音波で走査する。駆動部4は、所定の経路に沿って超音波探触子5を移動させる。制御装置1が制御する経路は、XY平面において、検査対象7を網羅的に超音波で走査するように制御装置1によって予め設定される。
【0023】
超音波探触子5は、高周波フィルタ8及びパルス受信器9を介して、超音波検査装置10に接続される。超音波探触子5は、検査対象7を走査して得られる超音波を、電気信号として超音波検査装置10に送信する。
【0024】
高周波フィルタ8は、例えば、可変抵抗器及び可変コンデンサを有する電気回路を備える。高周波フィルタ8は、超音波探触子5から送信された電気信号から、所定周波数より低い低周波成分を低減する。超音波探触子5から送信された電気信号は、検査対象7を走査して得られる超音波を示す成分のほか、電源電圧の変動及び放射電波などの外乱に因る成分を含む。検査対象7を走査して得られる超音波を示す電気信号は、高周波成分を多く含むため、高周波フィルタ8を通過する。一方、電源電圧の変動及び放射電波などの外乱は、低周波成分を多く含むため、高周波フィルタ8によって低減される。
【0025】
パルス受信器9は、検査対象7を走査して得られる超音波を示す電気信号を、高周波フィルタ8を介して受信する。パルス受信器9は、例えば、オペアンプ及びA/D(アナログデジタル変換器)を有する電気回路を備える。パルス受信器9は、受信した電気信号の電圧値の変化を、デジタル信号に変換する。デジタル信号は、電圧値の矩形波である。パルス受信器9は、基本波及び二次高調波を示すデジタル信号を、超音波検査装置10に送信する。
【0026】
超音波検査装置10は、検査対象7を走査して得られる超音波に基づいて、検査対象7の欠陥の情報を出力する。
【0027】
[超音波検査装置の構成]
図2は、図1の超音波検査装置の機能を示すブロック図である。超音波検査装置10は、取得部11、算出部12及び出力部13を備える。超音波検査装置10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などの演算装置、ROM(ReadOnly Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶装置、及び通信装置などを有する汎用コンピュータで構成される。
【0028】
取得部11は、パルス受信器9から送信されたデジタル信号に基づいて、超音波探触子5が検査対象7を走査して得られる超音波の基本波及び二次高調波を取得する。また、取得部11は、制御装置1から、駆動部4がフィードバックした超音波探触子5の位置情報を取得する。取得部11は、取得された超音波の基本波及び二次高調波と、駆動部4からフィードバックされた位置情報とを照合して、超音波探触子5が検査対象7を走査して得られる超音波の基本波及び二次高調波と、超音波探触子5が検査対象7を走査する際の位置情報を関連付ける。つまり、取得部11は、超音波探触子5の経路の走査位置ごとに、基本波及び二次高調波を示す信号を取得する。
【0029】
算出部12は、取得部11により取得された基本波及び二次高調波を示す信号から、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値を算出する。以下、検査対象7の欠陥の情報を出力するための原理について説明する。
【0030】
図3は、検査対象7を走査する超音波の伝搬経路を説明する概要図である。超音波探触子5(図1参照)から発信された超音波は、水6aからアルミニウム層71に透過する。水6aからアルミニウム層71に透過した超音波は、接着界面7aにて反射する。接着界面7aにて反射した超音波は、アルミニウム層71から水6aに透過する。水6aを伝搬した超音波は、超音波探触子5に受信される。ここで、フックの法則に従う線形連続体の超音波縦波音速Cは、一般的に、材料密度ρ、縦弾性係数Ε及びポアソン比νを用いて、以下の数式(1)で示される。
【数1】
【0031】
しかし、原子間力によって定まる応力とひずみの関係は非線形性を示す。ひずみεの二次項まで考慮すると、応力σは、水の非線形性の影響を受けた伝搬経路の二次弾性定数C1W及び水の非線形性の影響を受けた伝搬経路の三次弾性定数C2Wを用いて、以下の数式(2)によって示される。
【数2】
【0032】
数式(2)に従う弾性体の一次元波動方程式の変位uは、以下の数式(3)で与えられる。
【数3】

kは波数、xは伝搬距離、ωは角周波数、tは時間、iは虚数単位を示す。A1Wは水6aの非線形性の影響を受けた超音波探触子5の発信する超音波Uと同一の周波数の基本波振幅を示す。
【0033】
図3に示される伝搬経路によって検査対象7を走査して得られる超音波の基本波振幅A及び二次高調波振幅Aは、数式(3)に基づいて、以下の数式(4)及び数式(5)によって示される。
【数4】

【数5】

Rは接着界面7aの反射率、Tは水6aからアルミニウム層71への透過率、Tはアルミニウム層71から水6aへの透過率、αはクラッピングによる信号を示す。
【0034】
二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値は、数式(4)及び数式(5)によって、以下の数式(6)で示される。
【数6】

検査対象7を走査して得られる超音波の二次高調波振幅と超音波の基本波振幅を二乗した値との比を示す数式(6)は、右辺第一項から水6aの非線形性の影響を受けたA1Wの項が消去される。また、クラッピングによる信号αを含む右辺第二項は、十分に小さい。これにより、水6aの非線形性の影響を低減した値が、算出部12に算出される。算出部12は、超音波探触子5の経路の走査位置ごとに、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値を算出する。
【0035】
出力部13は、算出部12で算出された二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値に基づいて、超音波探触子5の経路の走査位置ごとに、検査対象7の欠陥の情報を出力する。検査対象7の欠陥とは、検査対象7の内部に発生した弾性定数が不連続に変化する箇所であり、例えば、アルミニウム層71とCFRP層72との間の接着界面7aに発生した微細な亀裂である。数式(6)右辺第一項の、水の非線形性の影響を受けた三次弾性定数C2Wと水の非線形性の影響を受けた二次弾性定数C1Wとの比は、検査対象7の欠陥の状態に応じて変化するため、欠陥の情報を含む。欠陥の状態とは、例えば、接着界面7aに発生した微細な亀裂の幅及び面積である。よって、数式(6)で示される二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値には、水6aの非線形性の影響を低減した、検査対象7の欠陥の情報が含まれる。出力部13は、数式(6)で示される二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値に、所定の画素値変換ルールを適用し、変換された画素値に基づいて画像を生成する。例えば、出力部13は、走査位置ごとに得られた値に所定の変換係数を乗算して画素値に変換し、変換された画素値に基づいて画像を生成してもよい。つまり、画像は、走査位置それぞれに対応する画素値を有する。所定の画素値変換ルールの具体的な一例として、グレースケールの画像の生成手順を説明する。最初に、出力部13は、走査位置と画像に含まれる画素位置とを対応付ける。次に、出力部13は、画像の階調を欠陥の情報に対応付ける。出力部13は、走査位置それぞれで得られた欠陥の情報のレンジ(範囲)がグレースケールの画像の階調に収まり、かつ、欠陥の情報と階調とが比例するように、欠陥の情報と階調とを対応付ける。例えば、出力部13は、欠陥の情報の最小値を最も光が弱い階調(黒)と対応付けし、欠陥の情報の最大値を最も光が強い階調(白)と対応付ける。階調を8ビットで表現する場合、画素値0は、欠陥の情報の最小値であり、健全な箇所のA/A と対応する。画素値255は、欠陥の情報の最大値であり、欠陥のある箇所のA/A と対応する。この変換ルールにより、白色に近い色の位置ほど欠陥のある箇所であることを示す画像が出力されることになる。出力部13は、走査位置に対応する画像信号を電気的に分割することで、より細かい走査位置に対応した画像信号に変換してもよい。この場合、健全な箇所(黒)と欠陥がある箇所(白)との境界値の精度を高めることができる。また、出力部13は、健全な箇所のA/A を基準に閾値を設定し、自動的に欠陥がある箇所を示してもよい。例えば、出力部13は、閾値として健全な箇所のA/A を予め設定し、閾値よりも大きいA/A に対応する画素値を欠陥がある箇所として示すことができる。
【0036】
図4は、検査対象の欠陥の情報の一例である。図4の(A)は、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値を実験に基づいて算出し、算出された値に基づいて出力された検査対象7の欠陥の情報である。検査対象7の欠陥の情報は、出力部13によって、超音波探触子5の経路の走査位置に対応する二次元平面に画像として出力される。図4の(B)は、二次高調波振幅を基本波振幅で除算した値を実験に基づいて算出し、算出された値に基づいて出力された検査対象7の欠陥の情報である。図4の(A)は、図4の(B)と比べて、円状に広がる検査対象7の欠陥の情報が正確に可視化されることが確認された。画像に含まれる画像値に対して、上述した画素値変換ルールの逆手順を適用し、全ての画素値が対応する走査位置におけるA/A に変換される場合、当該画像は、本開示の手法を用いて生成された画像であるといえる。
【0037】
[超音波検査装置の動作]
図5は、超音波検査方法の処理を示すフローチャートである。図5に示されるフローチャートは、超音波検査装置10によって実行される。
【0038】
図5に示されるように、最初に、超音波検査装置10は、超音波探触子5が検査対象7を走査する位置、検査対象7を走査して得られる超音波の基本波及び二次高調波を取得する、取得処理(ステップS11)を行う。取得処理(ステップS11)は、パルス受信器9から出力されるデジタル信号及び駆動部4からのフィードバックに基づく。
【0039】
続いて、超音波検査装置10は、超音波探触子5が検査対象7を走査する位置ごとに、取得した基本波及び二次高調波から、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値を算出する、算出処理(ステップS12)を行う。算出処理(ステップS12)では、数式(6)に関して上述したように、水6aの非線形性の影響を低減した検査対象7の欠陥の情報が算出される。
【0040】
続いて、超音波検査装置10は、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値に基づいて、検査対象7の欠陥の情報を出力する、出力処理(ステップS13)を行う。接着界面7aが含む微小な亀裂の幅及び面積などの、検査対象7の欠陥の情報は、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値の変化によって、出力される。検査対象7の欠陥の情報は、例えば、画像として出力される。出力処理(ステップS13)が終了すると、図5に示されるフローチャートは終了する。
【0041】
[実施形態のまとめ]
超音波検査装置10、及び超音波検査方法によれば、超音波探触子5が検査対象7を走査して得られる超音波の基本波及び二次高調波を示す信号が、超音波探触子5の経路の走査位置ごとに取得部11に取得される。超音波探触子5の経路の走査位置ごとに、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値が、算出部12に算出される。二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値に基づいて、水6aの非線形性の影響が低減された、検査対象7の接着界面7aの欠陥の情報が、出力部13から出力される。このように、超音波検査装置10は、水6aの非線形性の影響を低減した検査対象7の欠陥を出力できる。よって、この超音波検査装置10及び超音波検査方法は、超音波の二次高調波振幅と超音波の基本波振幅との比(A/A)の値に基づいて検査対象7の欠陥を検出する場合と比べて、検査対象7の欠陥の検出精度を向上できる。
【0042】
出力部13は、検査対象7の欠陥の情報として画像を出力できる。超音波検査装置10は、検査対象7の欠陥を可視化できる。
【0043】
[変形例]
以上、種々の例示的実施形態について説明してきたが、上記の例示的実施形態に限定されることなく、様々な省略、置換、及び変更がなされてもよい。
【0044】
出力部13は、検査対象7の欠陥の情報を画像で出力しなくてもよい。出力部13は、例えば、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値の変化をグラフで出力してもよい。出力部13は、検査対象7の欠陥の情報に基づいた検査結果を出力してもよい。検査結果は、例えば、検査対象7の良品又は不良品の判定結果であってもよい。
【0045】
算出部12は、超音波探触子5の経路の走査位置ごとに、走査して得られる超音波の二次高調波振幅を基本波振幅で除算した値を算出し、出力部13は、二次高調波振幅を基本波振幅で除算した値及び二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値に基づいて、検査対象7の欠陥の情報を出力してもよい。以下、検査対象7の欠陥の情報を出力するための原理について説明する。
【0046】
図6は、検査対象7を走査する超音波の複数の伝搬経路を説明する概要図である。検査対象7を走査して得られる超音波の伝搬経路として、アルミニウム層71と水6aの間の外部界面7bで反射する場合と、検査対象7の接着界面7aの健全部で反射する場合、及び検査対象7の接着界面7aの欠陥部で反射する場合がある。アルミニウム層71と水6aの間の外部界面7bの反射率をR、検査対象7の接着界面7aの健全部の反射率をRとする。いずれの界面も非線形性は無いため、クラッピングによる信号α=0として、A/A 及びA′/Aは、以下の数式(7)及び数式(8)で示される。
【数7】

【数8】

′は、検査対象7の接着界面7aの健全部で反射した超音波の基本波振幅を示す。A2′は、検査対象7の接着界面7aの健全部で反射した超音波の二次高調波振幅を示す。数式(7)と数式(8)との比は、以下の数式(9)で示される。
【数9】
【0047】
数式(4)により、アルミニウム層71と水6aの間の外部界面7bで反射した基本波の振幅と、検査対象7の接着界面7aの健全部から反射した基本波の振幅との比は、以下の数式(10)で示される。
【数10】

ここで、数式(9)を数式(10)で変形すると、以下の数式(11)が得られる。
【数11】

数式(11)の両辺を整理すると、以下の数式(12)が得られる。
【数12】
【0048】
検査対象7の接着界面7aの欠陥部の反射率をR、検査対象7の接着界面7aの欠陥部で反射した超音波の基本波振幅をA″、検査対象7の接着界面7aの欠陥部で反射した超音波の二次高調波振幅をA″とする。A″/A″を上述した数式の変形と同様に求めると、以下の数式(13)が得られる。
【数13】

数式(13)の両辺を整理して、αを含む項をA(α)でまとめると、以下の数式(14)が得られる。
【数14】

数式(12)及び数式(14)が示す、超音波を走査して得られる超音波の二次高調波振幅と超音波の基本波振幅との比は、超音波が検査対象7の外部界面7b、内部の接着界面7a又は欠陥部のいずれにおいて反射されても、A(α)の項を除いて、一定値になることを表す。つまり、異なる伝搬経路で反射された超音波の基本波振幅及び超音波の二次高調波振幅は、超音波の二次高調波振幅と超音波の基本波振幅の比をとることで、反射率に由来する影響が低減された状態で超音波の基本振幅と超音波の二次高調波振幅との関係を記述できる。
【0049】
算出部12は、超音波探触子5の経路の走査位置ごとに超音波の二次高調波振幅を超音波の基本波振幅で除算した値及び超音波の二次高調波振幅を超音波の基本波振幅の二乗で除算した値を算出する。
【0050】
出力部13は、算出部12で算出された超音波の二次高調波振幅を超音波の基本波振幅で除算した値、及び二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値に基づいて、検査対象7の欠陥の情報を出力する。具体的には、出力部13は、二次高調波振幅を基本波振幅で除算した値に基づいて出力された画像と、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値に基づいて出力された画像とを比較する。出力部13は、画像を比較して、欠陥の位置が一致する割合が任意の値より低い場合は、超音波の反射率が振幅に与える影響によって欠陥を誤検出している旨を出力する。よって、この超音波検査装置10は、超音波の二次高調波振幅と超音波の基本波振幅との比、及び超音波の二次高調波振幅と超音波の基本波振幅を二乗した値との比に基づいて、超音波の反射率が振幅に与える影響を低減できる。
【0051】
取得部11は、検査対象7を透過して走査する超音波を取得してもよい。以下、検査対象7の欠陥の情報を出力するための原理について説明する。
【0052】
検査対象7を走査する超音波は、アルミニウム層71と水6aの間の外部界面7b、検査対象7の接着界面7a、及びCFRPと水6aの間を透過する。この場合、検査対象7を透過した基本波振幅及び二次高調波振幅は、以下に示す数式(15)及び数式(16)によって示される。
【数15】

【数16】
【0053】
はアルミニウム層71からCFRP層72への透過率を示す。TはCFRP層72から水6aへの透過率を示す。検査対象7を透過して走査する超音波を取得した場合、二次高調波振幅を基本波振幅の二乗で除算した値は、数式(15)及び数式(16)によって、以下の数式(17)で示される。
【数17】

数式(17)において、超音波の二次高調波振幅と超音波の基本波振幅を二乗した値との比は、数式(6)と同様に、右辺第一項から水6aの非線形性の影響を受けたA1Wの項が消えたことを示す。よって、取得部11が検査対象7を透過して走査する超音波を取得する場合も、検査対象7で反射して走査する超音波を取得する場合と同様に、超音波検査装置10は、水6aの非線形性の影響を低減した検査対象7の欠陥を出力できる。
【符号の説明】
【0054】
100…超音波検査システム、1…制御装置、2…パルス発生器、3…分波器、4…駆動部、5…超音波探触子、6…水槽、7…検査対象、8…高周波フィルタ、9…パルス受信器、10…超音波検査装置、11…取得部、12…算出部、13…出力部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6