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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F01P 11/08 20060101AFI20240109BHJP
   F01P 7/16 20060101ALI20240109BHJP
   F01M 5/00 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
F01P11/08 E
F01P7/16
F01M5/00 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020183638
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2022073572
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 卓央
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127915(JP,A)
【文献】特開平06-257430(JP,A)
【文献】特開2013-019313(JP,A)
【文献】特開2017-067015(JP,A)
【文献】特開2010-121455(JP,A)
【文献】特開2010-209742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 11/08
F01P 7/16
F01M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジン内を流通するオイルと前記エンジンの冷却水との間の熱交換に用いられるオイルクーラと、
前記エンジンと前記オイルクーラとを経由して前記冷却水を循環させる循環システムとを備え、
前記循環システムは、
前記エンジン内に設けられ、前記冷却水が流通する第1通路と、
一方端が前記第1通路の一方端に接続され、他方端が前記第1通路の他方端に接続される第2通路と、
前記第2通路に設けられ、前記第1通路の一方端に前記冷却水を圧送するウォータポンプと、
前記オイルクーラが設けられ、一方端が前記第1通路の一方端と前記第1通路の他方端との間に接続され、他方端が前記第1通路の他方端に接続される第3通路と、
前記第2通路における前記ウォータポンプと前記第2通路の他方端との間の第1の位置と、前記第3通路における前記オイルクーラから前記第3通路の一方端までのいずれかに位置する第2の位置とを接続する第4通路と、
前記冷却水の温度がしきい値よりも低い場合に前記第2通路と前記第4通路とを連通状態にし、前記冷却水の温度が前記しきい値よりも高い場合に前記第2通路と前記第4通路とを遮断状態にする分岐機構とを含む、エンジンシステム。
【請求項2】
前記第4通路の一方端は、前記第1通路における前記第3通路の一方端との接続位置に接続される、請求項1に記載のエンジンシステム。
【請求項3】
前記第4通路の一方端は、前記第3通路における前記第3通路の一方端から前記オイルクーラに向けて所定距離だけ離れた位置に接続される、請求項1に記載のエンジンシステム。
【請求項4】
前記循環システムは、
一方端が前記第1通路の他方端に接続され、他方端が前記第の位置に接続される第5通路と、
前記第5通路に設けられるラジエータとをさらに備え、
前記分岐機構は、前記冷却水の温度が前記しきい値よりも低い場合、前記第2通路と前記第5通路とを遮断状態にし、前記冷却水の温度が前記しきい値よりも高い場合に前記第2通路と前記第5通路とを連通状態にする、請求項1~3のいずれかに記載のエンジンシステム。
【請求項5】
前記第4通路は、前記エンジンにおいて使用されていない既存の通路を流用して設定される、請求項1~4のいずれかに記載のエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暖機時においてエンジンオイルを昇温させるエンジンシステムの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンには、エンジンの温度を一定に維持するために冷却水を循環させる循環システムが搭載される。このような循環システムにおいては、エンジンの暖機時に冷却水の温度(以下、水温と記載する場合がある。)をエンジンにおいて生じる熱により上昇させる。その結果、水温がエンジンオイルの温度よりも高くなる場合がある。そのため、エンジンオイルの温度を早期に増加させるため、オイルクーラを流通する冷却水の流量を調整する技術が公知である。
【0003】
たとえば、特開2017-67015号公報(特許文献1)には、冷却水が流通する各熱交換器への経路の冷却水の流量のバランスを各経路に設けられるバルブを用いて調整することによってエンジンの暖機を促進する技術が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-67015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、各熱交換器に対して流通する冷却水の流量をバルブを用いて調整する場合には、各熱交換器に接続される各経路に複数のバルブを設けることが求められるため、部品点数が増加したり、エンジンシステムの製造コストが上昇したりする場合がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、製造コストの上昇を抑制しつつ、エンジンの暖機時にエンジンオイルを適切に昇温させるエンジンシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のある局面に係るエンジンシステムは、エンジンと、エンジン内を流通するオイルとエンジンの冷却水との間の熱交換に用いられるオイルクーラと、エンジンとオイルクーラとを経由して冷却水を循環させる循環システムとを備える。循環システムは、エンジン内に設けられ、冷却水が流通する第1通路と、一方端が第1通路の一方端に接続され、他方端が第1通路の他方端に接続される第2通路と、第2通路に設けられ、第1通路の一方端に冷却水を圧送するウォータポンプと、オイルクーラが設けられ、一方端が第1通路の一方端と第1通路の他方端との間に接続され、他方端が第1通路の他方端に接続される第3通路と、第2通路におけるウォータポンプと第2通路の他方端との間の第1の位置と、第3通路におけるオイルクーラから第3通路の一方端までのいずれかに位置する第2の位置とを接続する第4通路と、冷却水の温度がしきい値よりも低い場合に第2通路と第4通路とを連通状態にし、冷却水の温度がしきい値よりも高い場合に第2通路と第4通路とを遮断状態にする分岐機構とを含む。
【0008】
このようにすると、冷却水の温度がしきい値よりも低い場合には、分岐機構において第2通路と第4通路とが連通状態になる。そのため、エンジンの暖機時にウォータポンプにより吐出された冷却水は、エンジン内の第1通路の一方端に流入し、第1通路の他方端に流通するとともに、第4通路を経由して第2通路に流通する。その結果、第3通路において一方端側の圧力が他方端側の圧力よりも低くなるため、オイルクーラには、第3通路の他方端から一方端へと冷却水が流通することになる。すなわち、オイルクーラには、エンジンの熱により温度が上昇した冷却水が供給されるため、オイルクーラ内のオイルの温度を早期に上昇させることができる。これにより、エンジンの暖機を早期に完了させることができる。一方、冷却水の温度がしきい値よりも高い場合には、分岐機構において第2通路と第4通路とが遮断状態になる。そのため、ウォータポンプにより吐出された冷却水は、エンジン内の第1通路に流入し、第1通路の他方端に流通するとともに、第3通路の一方端から他方端へと流通することになる。これにより、エンジンのオイルを適切に冷却することができる。このように複数の通路にバルブ等を設けことなくエンジンのオイルを適切に冷却することができるため、部品点数の増加を抑制するとともに製造コストの上昇を抑制することができる。
【0009】
ある実施の形態においては、第4通路の一方端は、第1通路における第3通路の一方端との接続位置に接続される。
【0010】
このようにすると、冷却水の温度がしきい値よりも低い場合に、オイルクーラにおいて、第3通路の他方端から一方端へと冷却水を流通させることができるため、オイルクーラ内のオイルの温度を早期に上昇させることができる。
【0011】
さらにある実施の形態においては、第4通路の一方端は、第3通路における第3通路の一方端からオイルクーラに向けて所定距離だけ離れた位置に接続される。
【0012】
このようにすると、冷却水の温度がしきい値よりも低い場合に、オイルクーラにおいて、第3通路の他方端から一方端へと冷却水を流通させることができるため、オイルクーラ内のオイルの温度を早期に上昇させることができる。
【0013】
さらにある実施の形態においては、循環システムは、一方端が第1通路の他方端に接続され、他方端が第の位置に接続される第5通路と、第5通路に設けられるラジエータとをさらに備える。分岐機構は、冷却水の温度がしきい値よりも低い場合、第2通路と第5通路とを遮断状態にし、冷却水の温度がしきい値よりも高い場合に第2通路と第5通路とを連通状態にする。
【0014】
このようにすると、冷却水の温度がしきい値よりも低い場合には、第2通路と第5通路とが遮断状態になるため、ラジエータを経由して冷却水が流通することが抑制されるため、冷却水の温度を早期に上昇させることができる。一方、冷却水の温度がしきい値よりも高い場合には、第2通路と第5通路とが連通状態になるため、ラジエータを経由して冷却水が流通するため、冷却水の温度を適切な温度で維持することができる。
【0015】
さらにある実施の形態においては、第4通路は、前記エンジンにおいて使用されていない既存の通路を流用して設定される。
【0016】
このようにすると、エンジンが仕様の異なるエンジンシステムの共通部品として用いられる場合に、エンジンには、使用されない冷却水の通路が形成される場合がある。そのため、そのような既存の通路を流用して第4通路を設定することにより、製造コストの上昇を抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によると、製造コストの上昇を抑制しつつ、エンジンの暖機時にエンジンオイルを適切に昇温させるエンジンシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施の形態に係るエンジンシステムの概略構成の一例を示す図である。
図2】冷間時の分岐機構の動作を説明するための図である。
図3】温間時の分岐機構の動作を説明するための図である。
図4】熱交換量と水量との関係を説明するための図である。
図5】冷間時のエンジン内における冷却水の流通経路を説明するための図である。
図6】冷間時のエンジンシステム内における冷却水の流通経路を説明するための図である。
図7】温間時のエンジンシステム内における冷却水の流通経路を説明するための図である。
図8】分岐通路と分岐弁との構成の有無による流量の変化について説明するための図である。
図9】変形例に係るエンジンシステムの構成を説明するための図である。
図10】他の変形例に係るエンジンシステムの構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0020】
図1は、本実施の形態に係るエンジンシステム1の概略構成の一例を示す図である。エンジンシステム1は、循環システム2と、エンジン10と、オイルクーラ14と、過給機16と、EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置22とを備える。エンジンシステム1は、たとえば、車両等の移動体に搭載される。循環システム2は、エンジン10とオイルクーラ14と、過給機16と、EGR装置22とを経由して冷却水を循環させる。なお、循環システム2を用いた冷却水の供給先としては上述の機器に特に限定されるものではない。循環システム2は、たとえば、ウォータアウトレット12と、ラジエータ18と、ヒータコア20と、ウォータポンプ24と、分岐機構26と、エンジン10内および各熱交換器およびウォータポンプ24を接続し、冷却水が流通可能な冷却水通路とを含む。
【0021】
エンジン10は、気筒を含むディーゼルエンジンあるいはガソリンエンジン等の内燃機関である。エンジン10は、シリンダヘッド10aとシリンダブロック10bとを含む。シリンダヘッド10aには、気筒の頭頂部分と冷却水を流通する冷却水通路10cとが形成される。冷却水通路10cは、一方端から他方端までシリンダヘッド10aを貫通するように形成される。また、シリンダブロック10bには、気筒の側壁部分と冷却水を流通する冷却水通路10dとが形成される。冷却水通路10dは、一方端から他方端までシリンダブロック10bを貫通するように形成される。冷却水通路10dの一方端は、エンジン10の外部の冷却水通路24aの一方端と接続可能に構成される。エンジン10内に形成される冷却水通路10c,10dは、エンジン内のウォータジャケット、パイプあるいはチューブ等によって構成される。エンジン10の外部の冷却水通路24aは、たとえば、パイプやチューブ等の管部材によって構成される。
【0022】
シリンダヘッド10aとシリンダブロック10bとが組み合わされることによって、エンジン10の気筒が形成されるとともに、冷却水通路10cの一方端と冷却水通路10dの他方端とが連通状態になる。冷却水通路10cおよび10dによって構成される通路が「第1通路」に相当する。
【0023】
さらに、冷却水通路10dの一方端と他方端との間の所定の位置には、エンジン10内に形成される冷却水通路10eの一方端と、エンジン10内に形成される冷却水通路10fの一方端とが接続される。また、冷却水通路10eの他方端には、エンジン10の外部の冷却水通路14bが接続される。冷却水通路10fの他方端には、エンジン10の外部の分岐通路30が接続される。
【0024】
ウォータアウトレット12は、エンジン10内の冷却水通路10cの他方端に接続される。ウォータアウトレット12は、冷却水の供給対象となる複数の機器と冷却水通路を介して接続される。ウォータアウトレット12からラジエータ18やヒータコア20に対して冷却水が流通したり、ウォータアウトレット12において過給機16から冷却水が合流したりする。
【0025】
オイルクーラ14は、エンジン10内を流通するオイルと冷却水との間で熱交換を行なうための熱交換器である。オイルクーラ14内には、オイルが流通するオイル通路と冷却水が流通する通路とが設けられる。オイルクーラ14内の通路の一方端には、冷却水通路14aの一方端が接続される。冷却水通路14aの他方端は、ウォータアウトレット12に接続される。さらに、オイルクーラ14内の通路の他方端には、冷却水通路14bの一方端が接続される。
【0026】
過給機16は、エンジン10に対する過給動作を行なう機器であって、たとえば、ターボチャージャであってもよいし、スーパーチャージャであってもよい。過給機16内には、冷却水が流通する通路が設けられる。過給機16の冷却水の流出口には、冷却水通路16aの一方端が接続される。冷却水通路16aの他方端は、ウォータアウトレット12に接続される。さらに、過給機16の冷却水の流出口には、冷却水通路16bの一方端が接続される。冷却水通路16bは、冷却水通路24aから分岐しており、冷却水通路16bの他方端は、冷却水通路24aに接続される。
【0027】
ラジエータ18は、冷却水と空気との間で熱交換を行なうための熱交換器である。ラジエータ18は、冷却水が流通する複数の通路と通路間に設けられるフィン等の部材(図示せず)とによって構成されるコア部と、コア部に送風するラジエータファン(図示せず)とによって構成される。ラジエータ18の冷却水の流入口には、冷却水通路18aの一方端が接続される。冷却水通路18aの他方端は、ウォータアウトレット12に接続される。ラジエータ18の冷却水の流出口には、冷却水通路18bの一方端が接続される。冷却水通路18bの他方端は、分岐機構26に接続される。冷却水通路18aから冷却水通路18bまでの通路が「第3通路」に相当する。
【0028】
ヒータコア20は、暖房に用いられる熱交換器である。ヒータコア20内には、冷却水が流通する通路が設けられる。ヒータコア20の冷却水の流入口には、冷却水通路24dの一方端が接続される。冷却水通路24dの他方端は、ウォータアウトレット12に接続される。さらに、ヒータコア20の冷却水の流出口には、冷却水通路24cの一方端が接続される。冷却水通路24cの他方端は、分岐機構26に接続される。
【0029】
EGR装置22は、エンジン10の排気をエンジン10の吸気側に循環させる機器であって、排気と冷却水との間で熱交換を行なうための熱交換器を含む。そのため、EGR装置22内には、冷却水が流通する通路が設けられる。EGR装置22の冷却水の流出口には、冷却水通路22aの一方端が接続される。冷却水通路22aは、冷却水通路24dに合流しており、冷却水通路22aの他方端は、冷却水通路24dに接続される。EGR装置22の冷却水の流入口には、冷却水通路22bの一方端が接続される。冷却水通路22bは、冷却水通路10dから分岐しており、冷却水通路22bの他方端は、冷却水通路10dに接続される。
【0030】
ウォータポンプ24は、流入口から吸引した冷却水を流出口から吐出する。ウォータポンプ24の流出口には、冷却水通路24aの他方端に接続される。ウォータポンプ24の流入口には、冷却水通路24bの一方端が接続される。冷却水通路24bの他方端は、分岐機構26に接続される。
【0031】
ウォータポンプ24の流出口から吐出されることによって冷却水通路24a内の水圧が増加し、各冷却水通路に冷却水を流通させる。ウォータポンプ24は、エンジン10の作動時に動作する。ウォータポンプ24は、エンジン10の動力を用いて動作するようにしてもよいし、あるいは、電動モータ等のアクチュエータを用いて動作するようにしてもよい。冷却水通路24aから冷却水通路24dまでの通路が「第2通路」に相当する。
【0032】
分岐通路30の一方端は、エンジン10内の冷却水通路10fの他方端に接続される。さらに、分岐通路30の他方端は、分岐機構26に接続される。なお、分岐通路30の断面積および冷却水通路10fの断面積は、たとえば、冷却水通路14a,14bと同程度であって、冷却水通路10c,10dよりも小さい。分岐通路30の断面積および冷却水通路10fの断面積は、冷間時のウォータポンプ24の作動時に分岐通路30および冷却水通路10fに冷却水が流通する場合において、オイルクーラ14にて所定の流量が生じるように実験的あるいは設計的に設定される。冷却水通路10fおよび分岐通路30によって構成される通路が「第4通路」に相当する。
【0033】
分岐機構26は、サーモスタット26aと分岐弁26bとを含む。サーモスタット26aは、冷却水の温度(以下、水温と記載する場合がある。)に応じて動作する。分岐弁26bは、サーモスタット26aの動作に連動して動作する。すなわち、分岐機構26は、サーモスタット26aの動作によって分岐弁26bが連動して動作することによって、冷却水通路24bと分岐通路30との間の連通状態と遮断状態とを切替えたり、冷却水通路18bと冷却水通路24bとの間の連通状態と遮断状態とを切替えたりする。なお、分岐機構26において、サーモスタット26aおよび分岐弁26bの動作の有無にかかわらず、冷却水通路24bと冷却水通路24cとの間は連通状態が維持される。
【0034】
以下、分岐機構26の詳細な構成と、水温に応じた分岐機構26の動作とについて図2および図3を用いて詳細に説明する。
【0035】
水温がしきい値以下である場合(以下、冷間時と記載する場合がある)においてサーモスタット26aは、冷却水通路18bを遮断状態にするとともに、分岐弁26bは、分岐通路30を連通状態にして分岐通路30内の冷却水を冷却水通路24bに流通可能な状態にする。
【0036】
図2は、冷間時の分岐機構26の動作を説明するための図である。図2に示すように、冷間時の分岐機構26において、冷却水通路24bおよび冷却水通路24cは、連通状態となる。
【0037】
サーモスタット26aは、弁体26cと、スプリング26dと、スピンドル26eとを含む。弁体26cは、初期位置において冷却水通路18bの端部を塞ぐように設けられる。スプリング26dは、弁体26cに対して冷却水通路18bの端部を塞ぐ側に付勢力を付与している。スピンドル26eは、弁体26cの移動方向が図2の紙面における上下方向になるように制限する。弁体26cの下方には、分岐弁26bが設けられる。そのため、分岐弁26bは、弁体26cの移動に連動して上下方向に移動する。また、弁体26cが初期位置である場合には、分岐通路30の端部から離隔した位置が分岐弁26bの初期位置になる。
【0038】
冷間時においては、弁体26cは、スプリング26dからの付勢力によって初期位置に制限されるため、冷却水通路18bの端部が弁体26cによって塞がれる。そのため、冷却水通路18bが遮断状態になる。このとき、分岐弁26bは、分岐通路30の端部から離隔した位置になるため、分岐通路30と冷却水通路24bとは連通状態になる。
【0039】
このとき、ウォータポンプ24の動作時(すなわち、エンジン10の動作時)においては、流入口付近の圧力が低下するため、冷却水通路24cからに加えて分岐通路30から冷却水が冷却水通路24bに流通する。
【0040】
一方、水温がしきい値よりも高い場合(以下、温間時と記載する場合がある)においてサーモスタット26aは、冷却水通路18bと冷却水通路24bとを連通状態にするとともに、分岐弁26bは、サーモスタット26aと連動して動作し、分岐通路30を遮断状態にする。
【0041】
図3は、温間時の分岐機構26の動作を説明するための図である。図3における分岐機構26の構成は、図2における分岐機構26の構成と同様である。そのため、それらの詳細な説明は繰り返さない。
【0042】
水温が上昇すると、サーモスタット26aの弁体26c内におけるスピンドル26eとの接触部分の部材(たとえば、ワックス等)が膨張し、スピンドル26eを上方に押し下げる力が作用する。スピンドル26eが固定されているため、弁体26cの位置が相対的に下がる。そのため、サーモスタット26aが開弁状態になり、冷却水通路18bと冷却水通路24bとが連通状態になる。分岐弁26bは、弁体26cとともに下方に移動し、分岐通路30の端部を塞ぐ位置になるため、分岐通路30が遮断状態になる。
【0043】
このとき、ウォータポンプ24の動作時においては、流入口付近の圧力が低下するため冷却水通路24cからに加えて冷却水通路18bから冷却水が冷却水通路24bに流通し、分岐通路30から冷却水通路24bに冷却水が流通しない状態になる。
【0044】
以上のような構成を有するエンジンシステム1において、エンジン10の暖機時に水温をエンジン10において生じる熱により上昇させる。その結果、水温がエンジンオイルの温度よりも高くなる場合がある。そのため、エンジンオイルと冷却水との熱交換が可能なオイルクーラ14に流通する冷却水の流量や温度を調整することによって、エンジンオイルの温度を早期に増加させることができる。
【0045】
図4は、熱交換量と水量(流量)との関係を説明するための図である。図4の縦軸は、熱交換量を示す。図4の横軸は、水量を示す。図4のLN1は、水温がA℃である場合の水量と熱交換量との関係を示す図である。図4のLN2は、水温がB℃(>A℃)である場合の水量と熱交換量との関係を示す図である。
【0046】
たとえば、水温がA℃である場合には、図4のLN1に示すように、水量が多くなるほど熱交換量が多くなる。水温がB℃である場合にも、同様に、図4のLN2に示すように、水量が多くなるほど熱量交換量が多くなる。さらに、水温がA℃である場合と、B℃である場合とで比較した場合に、同じ水量に対して熱交換量は、水温が高くなるほど多くなる。このように、エンジンオイルの温度を速やかに増加させるためには、水量に加えて高い温度の冷却水をオイルクーラ14に流通させることが求められる。
【0047】
そのため、エンジンシステム1に含まれる各熱交換器に対して流通する冷却水の流量や流通方向をバルブを用いて変化させることが考えられる。しかしながら、この場合、各熱交換器に接続される各経路に複数のバルブを設けることが求められるため、部品点数が増加したり、エンジンシステム1の製造コストが上昇したりする場合がある。
【0048】
そこで、本実施の形態においては、エンジンシステム1は、上述のように分岐機構26と分岐通路30と備えるものとする。
【0049】
このようにすると、複数の通路にバルブ等を設けことなくエンジンのオイルを適切に冷却することができるため、部品点数の増加を抑制するとともに製造コストの上昇を抑制することができる。
【0050】
以下に、図5図8を用いて、本実施の形態に係るエンジンシステム1による作用について説明する。
【0051】
図5は、冷間時のエンジン10内における冷却水の流通経路を説明するための図である。図6は、冷間時のエンジンシステム1内における冷却水の流通経路を説明するための図である。
【0052】
冷間時においては、図2を用いて説明したように、分岐機構26において分岐弁26bは、分岐通路30の端部から離隔した位置になるため、分岐通路30と冷却水通路24bとが連通状態になる。このような状態において、ウォータポンプ24から冷却水が吐出されると、冷却水は、図5の(1)の矢印に示すように、冷却水通路10dから冷却水通路10cへと流通するとともに、図5の(3)の矢印に示すように、冷却水通路10dから冷却水通路10fを経由して分岐通路30に流通する。このとき、分岐通路30を流通する冷却水は、冷却水通路24bに流通するため、図5(2)に示すように、冷却水通路14b内の冷却水が分岐通路30に流通することによって、冷却水通路14b内の圧力の増加が抑制される。そのため、冷却水通路14b内の冷却水は、オイルクーラ14に向けて流通しない。
【0053】
一方、冷却水通路10cに冷却水が流通すると、ウォータアウトレット12の圧力が増加し、図6に示すように、ウォータアウトレット12からラジエータ18およびヒータコア20に冷却水が流通する。このとき、冷却水通路14b内の圧力の増加が抑制されるため、冷却水通路14a内の圧力が冷却水通路14b内の圧力よりも高くなる。その結果、冷却水通路14aからオイルクーラ14に向けて冷却水が流通する。冷却水通路14aには、冷却水通路10cにおいて暖められた冷却水が供給されるため、オイルクーラ14には、冷却水通路14aからオイルクーラ14に向けて冷却水が流通する場合よりも高い温度の冷却水(すなわち、高い熱交換量が得られる冷却水)がオイルクーラ14に供給されることになる。これにより、エンジン10のオイルの温度を早期に増加させることができるため、エンジン10の暖機の早期完了が図られる。
【0054】
図7は、温間時のエンジンシステム内における冷却水の流通経路を説明するための図である。分岐機構26において、冷却水の温度がしきい値を超えると、図3を用いて説明したように、分岐弁26bは、分岐通路30の端部を塞ぐ位置になるため、図7の破線矢印に示すように、分岐通路30と冷却水通路24bとが遮断状態になる。このような状態において、図7に示すように、ウォータポンプ24から冷却水通路24aに冷却水が吐出されると、冷却水は、冷却水通路10dから冷却水通路10cへと流通するとともに、分岐通路30と冷却水通路24bとが遮断状態になることによって、冷却水通路14b内の圧力が上昇する。その結果、冷却水通路14b内の圧力が冷却水14a内の圧力よりも大きくなり、冷却水通路14bからオイルクーラ14を経由した冷却水通路14aへの冷却水の流通が生じる。そのため、ウォータアウトレット12における冷却水よりも低い温度の冷却水がオイルクーラ14に供給される。すなわち、冷却水通路14aから冷却水通路14bへと冷却水が流通する場合よりも、オイルクーラ14においてエンジン10のオイルを冷却することができる。
【0055】
さらに、温間時においては、サーモスタット26aの弁体26cが冷却水通路18bの端部を塞ぐ初期位置から移動するため、冷却水通路24bと冷却水通路18bとが連通状態になる。そのため、冷却水通路10cからウォータアウトレット12に到達した冷却水のうちの一部の冷却水は、冷却水通路18aを流通してラジエータ18において空気との熱交換によって冷却されるとともに、分岐機構26を経由して冷却水通路24bを流通する。また、冷却水通路10cからウォータアウトレット12に到達した冷却水のうちのその他の冷却水は、冷却水通路24d、ヒータコア20、冷却水通路24cおよび分岐機構26を経由して冷却水通路24bを流通する。
【0056】
図8は、分岐通路30と分岐弁26bとの構成の有無による冷間時の流量の変化について説明するための図である。図8の縦軸は、冷却水の流量を示す。図8の紙面中央の縦軸よりも左側には、分岐通路30を有しない場合のオイルクーラ14とEGR装置22と過給機16とヒータコア20とへの冷却水の流量が示される。図8の紙面中央の縦軸よりも右側には、分岐通路30を有する場合の上述した各熱交換器への冷却水の流量が示される。なお、図8に示す流量は、分岐通路30と分岐弁26bとを有しない場合の各熱交換器における冷却水の流通方向を正方向として示すものとする。この場合、分岐通路30と分岐弁26bの有無によって、オイルクーラ14における流通方向が逆方向になる。一方、分岐通路30と分岐弁26bの有無にかかわらず流量の大きさは同程度に維持される。また、その他の熱交換器においては、流量についても流通方向についても同程度に維持される。分岐通路30と分岐弁26bとを有する場合にはオイルクーラにおいて冷間時に流通方向が逆方向になることによってウォータアウトレット12からの冷却水がオイルクーラ14に供給されるため、分岐通路30と分岐弁26bとを有しない場合と比較して、流量を維持しつつ高い温度の冷却水がオイルクーラ14に供給される。そのため、分岐通路30と分岐弁26bとを有しない場合よりもオイルクーラ14におけるオイルと冷却水との熱交換量が増加するため、エンジン10の暖機の早期完了が図られる。
【0057】
以上のようにして、本実施の形態に係るエンジンシステム1によると、水温がしきい値よりも低い場合には、分岐機構26において冷却水通路24bと分岐通路30とが連通状態になる。そのため、エンジン10の暖機時にウォータポンプ24により吐出された冷却水は、エンジン10内の冷却水通路10dに流入し、冷却水通路10cからウォータアウトレット12に流通するとともに、分岐通路30を経由して冷却水通路24bに流通する。その結果、冷却水通路14b内の圧力が冷却水通路14a内の圧力よりも低くなるため、オイルクーラ14には、冷却水通路14aから冷却水通路14bへと冷却水が流通することになる。すなわち、オイルクーラ14には、エンジン10の熱により温度が上昇した冷却水が供給されるため、オイルクーラ14内のオイルの温度を早期に上昇させることができる。これにより、エンジン10の暖機を早期に完了させることができる。一方、冷却水の温度がしきい値よりも高い場合には、分岐機構26において冷却水通路24bと分岐通路30とが遮断状態になる。そのため、ウォータポンプ24により吐出された冷却水は、エンジン10内の冷却水通路10dに流入し、冷却水通路10cからウォータアウトレット12に流通するとともに、冷却水通路14bから冷却水通路14cへと流通することになる。これにより、エンジン10のオイルを適切に冷却することができる。さらに、上述したようなエンジンシステム1の構成により、複数の冷却水通路にバルブ等を設けことなくエンジン10のオイルを適切に冷却することができるため、部品点数の増加を抑制するとともに製造コストの上昇を抑制することができる。したがって、製造コストの上昇を抑制しつつ、エンジンの暖機時にエンジンオイルを適切に昇温させるエンジンシステムを提供することができる。
【0058】
さらに、温間時においては、冷却水は、ラジエータ18を経由して流通するため、冷却水の温度を適切な温度で維持することができる。
【0059】
以下、変形例について記載する。
上述の実施の形態においては、エンジン10内に冷却水通路10fが形成されるとともに、冷却水通路10fが分岐通路30に接続されて第4通路が形成されるものとして説明したが、第4通路は、たとえば、エンジン10において使用されていない既存の通路を流用して設定されるようにしてもよい。
【0060】
エンジン10を共通の部品としてエンジンシステム1について複数の仕様が設定される場合がある。複数の仕様としては、たとえば、図1で説明したヒータコア20を有する仕様と、ヒータコア20を有しない仕様とを含む。そのため、エンジン10は、共通部品としていずれの仕様にも対応するように複数の冷却水通路が形成されるため、いずれかの仕様のエンジンシステム1においては、使用されない冷却水通路を有することになる。そのため、エンジンシステム1のエンジン10において使用されていない既存の通路を流用して第4通路を設定することによって冷却水通路10fおよび分岐通路30を新規に設定する場合と比較して製造コストの増加を抑制することが可能となる。
【0061】
図9は、変形例に係るエンジンシステム1の構成を説明するための図である。図9に示すエンジンシステム1の構成は、図1に示したエンジンシステム1の構成と比較してエンジン10内の冷却水通路の構成が異なる。それ以外の構成については、以下に説明する場合を除き、図1に示すエンジンシステム1の構成と同様である。そのため、それらの詳細な説明は繰り返さない。
【0062】
図9に示すように、エンジン10には、ヒータコア20を有しないエンジンシステム1に対応するために、エンジン10内に通路10g,10hが形成されている。通路10gは、シリンダヘッド10aに形成されており、通路10gの一方端は、冷却水通路10cの一方端から他方端までのいずれかの位置に接続される。通路10gの他方端は、シリンダブロック10bに形成された通路10hの一方端に接続される。通路10hの他方端は、分岐通路30の一方端に接続される。
【0063】
そのため、ヒータコア20を有するエンジンシステム1においては、このような既存の通路10g,10hのうちの通路10gを封鎖状態にするとともに、冷却水通路10dの一方端から他方端までのいずれかの位置から図9の破線に示すように通路10hの一方端から他方端までのいずれかの位置に接続する通路10iを形成する。通路10iと通路10hとによって冷却水通路10fが形成される。
【0064】
このようにエンジン10において使用されていない既存の通路10g,10hを流用して第4通路を設定することにより、冷却水通路10fと分岐通路30とを新規に設定する場合と比較してエンジンシステム1の製造コストの増加を抑制することができる。
【0065】
さらに上述の実施の形態においては、冷却水通路10dに接続される冷却水通路10eの端部と、冷却水通路10dに接続される冷却水通路10fと端部とが対向する位置関係である場合を一例として説明したが、冷却水通路10fの端部は、冷却水通路10eにおける冷却水通路10dに接続される一方端から他方端までのいずれかの位置に接続されてもよいし、あるいは、冷却水通路14bのいずれかの位置に接続されてもよいものとする。
【0066】
より具体的には、冷却水通路10fの端部は、冷却水通路10eの一方端からオイルクーラ14までのいずれかに位置に接続されればよく、たとえば、冷却水通路10eの一方端からオイルクーラ14に向けて所定距離だけ離れた位置に接続されるようにしてもよい。
【0067】
図10は、他の変形例に係るエンジンシステム1の構成を説明するための図である。図10に示すエンジンシステム1の構成は、図1に示したエンジンシステム1の構成と比較してエンジン10内の冷却水通路の構成が異なる。それ以外の構成については、以下に説明する場合を除き、図1に示すエンジンシステム1の構成と同様である。そのため、それらの詳細な説明は繰り返さない。
【0068】
図10に示すように、他の変形例におけるエンジンシステム1においては、冷却水通路10eの冷却水通路10dに接続される一方端から他方端までの間であって、一方端から所定距離だけ離れた位置において冷却水通路10fの端部と接続されるようにしてもよい。
【0069】
このようにすると、冷却水の温度がしきい値よりも低いエンジン10の暖機時には、オイルクーラ14において冷却水通路14aから冷却水通路14bへの方向に冷却水を流通させることができる。そのため、エンジン10により暖められた冷却水をオイルクーラに供給することができるため、エンジン10のオイルの温度を早期に増加させて、エンジン10の暖機を早期に完了することができる。
【0070】
なお、上記した変形例は、その全部または一部を組み合わせて実施してもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
1 エンジンシステム、2 循環システム、10 エンジン、10a シリンダヘッド、10b シリンダブロック、10c,10d,10e,10f,14a,14b,14c,16a,16b,18a,18b,20f,22a,24a,24b,24c,24d 冷却水通路、10g,10h,10i 通路、12 ウォータアウトレット、14 オイルクーラ、16 過給機、18 ラジエータ、20 ヒータコア、22 EGR装置、24 ウォータポンプ、26 分岐機構、26a サーモスタット、26b 分岐弁、26c 弁体、26d スプリング、26e スピンドル、30 分岐通路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10