(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240109BHJP
H02M 1/08 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M1/08 A
(21)【出願番号】P 2020187231
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】神谷 和伸
(72)【発明者】
【氏名】モイセエフ セルゲイ
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-037119(JP,A)
【文献】特開2018-033259(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084254(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御端子と、印加電流が流れる第1印加端子及び第2印加端子とを有するスイッチング素子と、
前記スイッチング素子を駆動させるドライバ回路と、
前記印加電流が流れる駆動ラインと、
前記駆動ライン上に設けられた第1インダクタンス成分と、
前記ドライバ回路と前記制御端子とを接続する制御ラインと、
前記第2印加端子と前記ドライバ回路の基準電位とを接続するためのグランド配線と、
前記グランド配線上であって前記第1インダクタンス成分から発生する磁束が貫く位置に設けられた第2インダクタンス成分と、を備え、
前記第2インダクタンス成分は、前記印加電流が増加する場合には負のフィードバック電圧を発生させる一方、前記印加電流が減少する場合には正のフィードバック電圧を発生させるものであり、
前記ドライバ回路は、
前記グランド配線が接続され、前記フィードバック電圧が入力されるフィードバック入力端子と、
外部指令電圧が入力される外部入力端子と、
前記外部指令電圧又は当該外部指令電圧を変換することによって得られる変換指令電圧と、前記フィードバック電圧又は当該フィードバック電圧を変換することによって得られる変換フィードバック電圧とを加算し、その加算された加算電圧を前記制御端子に向けて出力する加算回路と、を備え
、
前記加算回路は、前記印加電流が増加する場合には、前記負のフィードバック電圧を加算することによって、前記加算電圧が小さくなるようにする一方、前記印加電流が減少する場合には、前記正のフィードバック電圧を加算することによって、前記加算電圧が大きくなるようにすることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記第2インダクタンス成分のインダクタンスは、前記第1インダクタンス成分のインダクタンスよりも大きい請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記駆動ラインは、前記第1インダクタンス成分が設けられている第1インダクタンス部を有し、
前記グランド配線は、前記第1インダクタンス部の隣に配置され且つ前記第2インダクタンス成分が設けられている第2インダクタンス部を有し、
前記第2インダクタンス部は、前記グランド配線における前記第2印加端子から前記ドライバ回路に向かう方向と前記第1インダクタンス部に流れる前記印加電流の方向とが同一となるように前記第1インダクタンス部に沿って延びている請求項1又は請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
中間配線によって互いに直列に接続された上アームスイッチング素子及び下アームスイッチング素子を有し、
前記スイッチング素子は、前記下アームスイッチング素子である請求項1~3のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
コンデンサを備え、
前記駆動ラインは、
前記上アームスイッチング素子が接続される正極母線と、
前記下アームスイッチング素子が接続される負極母線と、
前記中間配線と、
前記正極母線と前記コンデンサとを接続する第1コンデンサ接続線と、
前記負極母線と前記コンデンサとを接続する第2コンデンサ接続線と、
を含み、
前記第2インダクタンス成分は、前記正極母線、前記負極母線、前記中間配線、前記第1コンデンサ接続線及び前記第2コンデンサ接続線のうち少なくとも1つに含まれる寄生インダクタンスから発生する磁束が貫く位置に設けられている請求項4に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、スイッチング素子としてのIGBTを駆動させるドライバ回路が記載されている。特許文献1に記載のドライバ回路は、スイッチング損失の低減とサージ電圧又はサージ電流の低減との両立を図るために、印加電流としてのコレクタ電流が流れるエミッタ配線のインダクタンス分から誘起される誘起電圧をフィードバックさせるアクティブゲート制御を行っている。当該誘起電圧は、コレクタ電流が変化することによって誘起されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、サージの抑制と損失の低減とを好適に両立させるためには未だ改善の余地がある。
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、その目的はサージの抑制と損失の低減とを好適に両立させることができる電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する電力変換装置は、制御端子と、印加電流が流れる第1印加端子及び第2印加端子とを有するスイッチング素子と、前記スイッチング素子を駆動させるドライバ回路と、前記印加電流が流れる駆動ラインと、前記駆動ライン上に設けられた第1インダクタンス成分と、前記ドライバ回路と前記制御端子とを接続する制御ラインと、前記第2印加端子と前記ドライバ回路の基準電位とを接続するためのグランド配線と、前記グランド配線上であって前記第1インダクタンス成分から発生する磁束が貫く位置に設けられた第2インダクタンス成分と、を備え、前記第2インダクタンス成分は、前記印加電流が増加する場合には負のフィードバック電圧を発生させる一方、前記印加電流が減少する場合には正のフィードバック電圧を発生させるものであり、前記ドライバ回路は、前記グランド配線が接続され、前記フィードバック電圧が入力されるフィードバック入力端子と、外部指令電圧が入力される外部入力端子と、前記外部指令電圧又は当該外部指令電圧を変換することによって得られる変換指令電圧と、前記フィードバック電圧又は当該フィードバック電圧を変換することによって得られる変換フィードバック電圧とを加算し、その加算された加算電圧を前記制御端子に向けて出力する加算回路と、を備えていることを特徴とする。
【0006】
かかる構成によれば、第1インダクタンス成分に流れるドレイン電流の変化に伴って磁束が変化することにより第2インダクタンス成分からフィードバック電圧が発生する。そして、フィードバック電圧又はそのフィードバック電圧を変換することによって得られる変換フィードバック電圧が加算回路にフィードバックされ、加算電圧が制御端子に入力される。これにより、スイッチング素子のターンオン時又はターンオフ時におけるサージを抑制できる。
【0007】
特に、本構成によれば、フィードバック電圧は、印加電流が増加する場合には負となる一方、印加電流が減少する場合には正となる。これにより、フィードバック電圧を反転させて加算回路に入力させる必要がない。したがって、反転に係る構成を省略することができる。
【0008】
上記電力変換装置について、前記第2インダクタンス成分のインダクタンスは、前記第1インダクタンス成分のインダクタンスよりも大きいとよい。
かかる構成によれば、フィードバック電圧を大きくすることができるため、フィードバック効果の向上を図ることができる。
【0009】
上記電力変換装置について、前記駆動ラインは、前記第1インダクタンス成分が設けられている第1インダクタンス部を有し、前記グランド配線は、前記第1インダクタンス部の隣に配置され且つ前記第2インダクタンス成分が設けられている第2インダクタンス部を有し、前記第2インダクタンス部は、前記グランド配線における前記第2印加端子から前記ドライバ回路に向かう方向と前記第1インダクタンス部に流れる前記印加電流の方向とが同一となるように前記第1インダクタンス部に沿って延びているとよい。
【0010】
かかる構成によれば、第1インダクタンス部が第2インダクタンス部の隣に配置されているため、両者の離間距離が短くなり易い。これにより、両インダクタンス成分の間で相互作用が生じ易い。したがって、フィードバック電圧を大きくすることができる。
【0011】
また、グランド配線における第2印加端子から前記ドライバ回路に向かう方向と第1インダクタンス部に流れる印加電流の方向とが同一となるように第2インダクタンス部が第1インダクタンス部に沿って延びているため、フィードバック電圧は、印加電流が増加する場合には負となる一方、印加電流が減少する場合には正となる。これにより、比較的容易な構成で上述した効果を得ることができる。
【0012】
上記電力変換装置について、中間配線によって互いに直列に接続された上アームスイッチング素子及び下アームスイッチング素子を有し、前記スイッチング素子は、前記下アームスイッチング素子であるとよい。
【0013】
かかる構成によれば、下アームスイッチング素子においてサージの抑制と損失の低減とを好適に両立させることができる。
上記電力変換装置について、コンデンサを備え、前記駆動ラインは、前記上アームスイッチング素子が接続される正極母線と、前記下アームスイッチング素子が接続される負極母線と、前記中間配線と、前記正極母線と前記コンデンサとを接続する第1コンデンサ接続線と、前記負極母線と前記コンデンサとを接続する第2コンデンサ接続線と、を含み、前記第2インダクタンス成分は、前記正極母線、前記負極母線、前記中間配線、前記第1コンデンサ接続線及び前記第2コンデンサ接続線のうち少なくとも1つに含まれる寄生インダクタンスから発生する磁束が貫く位置に設けられているとよい。
【0014】
かかる構成によれば、正極母線、負極母線、中間配線、第1コンデンサ接続線及び第2コンデンサ接続線の少なくとも1つに含まれる寄生インダクタンスを用いてフィードバック電圧を発生させることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、サージの抑制と損失の低減とを好適に両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】電力変換装置の電気的構成の概要を示す回路図。
【
図2】駆動基板上に実装されたスイッチング素子、ドライバ回路及び駆動ラインなどを模式的に示す正面図。
【
図3】スイッチング素子及びドライバ回路を模式的に示す回路図。
【
図4】フィードバック電圧によるフィードバックがない条件下におけるターンオン時のインバータ電流、ソース-ドレイン間電圧、フィードバック電圧及び加算電圧を示すグラフ。
【
図5】フィードバック電圧によるフィードバックがある条件下におけるターンオン時のインバータ電流、ソース-ドレイン間電圧、フィードバック電圧及び加算電圧を示すグラフ。
【
図6】フィードバック電圧によるフィードバックがある条件下においてフィードバックがない場合と同等のサージが生じるようにゲート抵抗の抵抗値が調整されたインバータ電流、ソース-ドレイン間電圧、フィードバック電圧及び加算電圧を示すグラフ。
【
図7】フィードバック電圧によるフィードバックがない条件下におけるターンオフ時のインバータ電流、ソース-ドレイン間電圧、フィードバック電圧及び加算電圧を示すグラフ。
【
図8】フィードバック電圧によるフィードバックがある条件下におけるターンオフ時のインバータ電流、ソース-ドレイン間電圧、フィードバック電圧及び加算電圧を示すグラフ。
【
図9】フィードバック電圧によるフィードバックがある条件下においてフィードバックがない場合と同等のサージが生じるようにゲート抵抗の抵抗値が調整されたインバータ電流、ソース-ドレイン間電圧、フィードバック電圧及び加算電圧を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、電力変換装置の一実施形態について説明する。なお、以下の記載は、電力変換装置の一例を示すものであり、電力変換装置が本実施形態の内容に限定されるものではない。
【0018】
本実施形態の電力変換装置10は、例えば車両200に搭載されており、車両200に設けられている電動モータ201を駆動するのに用いられる。
本実施形態の電動モータ201は、車両200の車輪を回転させるための走行用モータである。本実施形態の電動モータ201は、3相コイル202u,202v,202wを有している。3相コイル202u,202v,202wは例えばY結線されている。3相コイル202u,202v,202wが所定のパターンで通電されることにより、電動モータ201が回転する。なお、3相コイル202u,202v,202wの結線態様は、Y結線に限られず任意であり、例えばデルタ結線でもよい。
【0019】
図1に示すように、車両200は蓄電装置203を有している。本実施形態の電力変換装置10は、入力端子10a,10bを備えており、当該入力端子10a,10bに蓄電装置203が接続されている。詳細には、第1入力端子10aは、蓄電装置203の高圧側である正極端子(+端子)に接続されており、第2入力端子10bは、蓄電装置203の低圧側である負極端子(-端子)に接続されている。これにより、蓄電装置203の直流電力が電力変換装置10に入力される。
【0020】
電力変換装置10は、入力端子10a,10bに入力される蓄電装置203の直流電力を電動モータ201が駆動可能な交流電力に変換するインバータ装置である。換言すれば、電力変換装置10は、蓄電装置203を用いて電動モータ201を駆動させる駆動装置とも言える。なお、蓄電装置203の電圧を電源電圧Vdcとする。
【0021】
電力変換装置10は、第1入力端子10aに接続される正極母線LN1と、第2入力端子10bに接続される負極母線LN2と、スイッチング素子11と、を有している。正極母線LN1は、第1入力端子10aを介して蓄電装置203の正極端子に接続されており、負極母線LN2は、第2入力端子10bを介して蓄電装置203の負極端子に接続されている。
【0022】
本実施形態の電力変換装置10は、スイッチング素子11を複数有しており、詳細には、u相コイル202uに対応するu相スイッチング素子11u1,11u2と、v相コイル202vに対応するv相スイッチング素子11v1,11v2と、w相コイル202wに対応するw相スイッチング素子11w1,11w2と、を備えている。
【0023】
各スイッチング素子11u1,11u2,11v1,11v2,11w1,11w2(以下、「各スイッチング素子11u1~11w2」という。)は、例えばパワースイッチング素子であり、一例としてはMOSFETである。各スイッチング素子11u1~11w2が「スイッチング素子」に対応する。スイッチング素子11u1~11w2は、還流ダイオード(ボディダイオード)Du1~Dw2を有している。
【0024】
各u相スイッチング素子11u1,11u2は互いに直列に接続されている。詳細には、u相上アームスイッチング素子11u1とu相下アームスイッチング素子11u2とがu相中間配線LNuを介して接続されており、そのu相中間配線LNuはu相コイル202uに接続されている。u相上アームスイッチング素子11u1は、正極母線LN1に接続されており、u相下アームスイッチング素子11u2は、負極母線LN2に接続されている。これにより、u相スイッチング素子11u1,11u2の直列接続体に対して蓄電装置203の直流電力が入力される。負極母線LN2は、第2入力端子10bを介して基準電位V0に接続されている。
【0025】
なお、他のスイッチング素子11v1,11v2,11w1,11w2の接続態様は、対応するコイルが異なる点を除いて、u相スイッチング素子11u1,11u2と同様である。詳細には、v相上アームスイッチング素子11v1とv相下アームスイッチング素子11v2とがv相中間配線LNvを介して接続されており、そのv相中間配線LNvはv相コイル202vに接続されている。w相上アームスイッチング素子11w1とw相下アームスイッチング素子11w2とがw相中間配線LNwを介して接続されており、そのw相中間配線LNwはw相コイル202wに接続されている。
【0026】
本実施形態の電力変換装置10は、コンデンサC0と、コンデンサC0と正極母線LN1とを接続する第1コンデンサ接続線LNc1と、コンデンサC0と負極母線LN2とを接続する第2コンデンサ接続線LNc2と、を備えている。これにより、コンデンサC0は、蓄電装置203に接続されるとともに各スイッチング素子11u1~11w2に接続されている。
【0027】
図1及び
図2に示すように、電力変換装置10は、スイッチング素子11を駆動させるドライバ回路12と、スイッチング素子11が実装される駆動基板13と、を備えている。本実施形態では、ドライバ回路12は駆動基板13に実装されている。本実施形態の駆動基板13は、例えば多層基板である。ただし、これに限られず、駆動基板13の具体的な構成は任意である。
【0028】
本実施形態のドライバ回路12は所謂ゲートドライバ回路である。本実施形態の電力変換装置10は、複数のスイッチング素子11に対応させてドライバ回路12を複数有している。詳細には、電力変換装置10は、複数のスイッチング素子11u1~11w2に対応させて複数のドライバ回路12u1~12w2を有している。ドライバ回路12u1~12w2は、スイッチング素子11u1~11w2のゲートに接続されており、ゲート電圧を制御することによりスイッチング素子11u1~11w2をON/OFFさせる。
【0029】
図1に示すように、電力変換装置10は、ドライバ回路12を制御する変換制御装置14を備えている。本実施形態の変換制御装置14はインバータ制御装置である。変換制御装置14は、外部からの指令(例えば要求回転速度)に基づいて、電動モータ201に流れる目標電流を決定し、その目標電流が流れるための外部指令電圧Vpを導出する。そして、変換制御装置14は、外部指令電圧Vpをドライバ回路12に向けて出力する。
【0030】
本実施形態では、変換制御装置14は、スイッチング素子11u1~11w2ごとに外部指令電圧Vpを導出し、各ドライバ回路12u1~12w2に外部指令電圧Vpを出力する。これにより、各スイッチング素子11u1~11w2が個別に制御される。
【0031】
外部指令電圧Vpは所定のパルス幅を有するパルス電圧である。例えば、外部指令電圧Vpは、LOWからHIに切り替わり、一定期間HI状態を維持した後に、HIからLOWに切り替わる。以降の説明において、LOWからHIの切り替わりを「立ち上がり」といい、HIからLOWの切り替わりを「立ち下がり」という。
【0032】
なお、本実施形態の変換制御装置14は、駆動基板13に実装されている。ただし、これに限られず、変換制御装置14は、駆動基板13とは別の基板に実装されていてもよい。
【0033】
ドライバ回路12u1~12w2は、それぞれ個別に入力される外部指令電圧Vpに基づいて、スイッチング素子11u1~11w2に対してゲート電圧を印加する。これにより、各スイッチング素子11u1~11w2が周期的にON/OFFし、蓄電装置203の直流電力が3相の交流電力に変換されて電動モータ201に供給される。すなわち、変換制御装置14は、スイッチング素子11u1~11w2をPWM制御するものである。
【0034】
ここで、変換制御装置14は、同一相の上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子とが同時にON状態とならない範囲内で各上アームスイッチング素子11u1,11v1,11w1の少なくとも1つと各下アームスイッチング素子11u2,11v2,11w2の少なくとも1つとをON状態にする。これにより、正極母線LN1及び負極母線LN2と、各中間配線LNu,LNv,LNwのうち少なくとも1つと、各コイル202u~202wのうち少なくとも1つとにインバータ電流Ivが流れる。また、インバータ電流Ivは、第1コンデンサ接続線LNc1と第2コンデンサ接続線LNc2とにも流れる。
【0035】
本実施形態では、正極母線LN1、負極母線LN2、中間配線LNu,LNv,LNw及び両コンデンサ接続線LNc1,LNc2が、印加電流としてのインバータ電流Ivが流れる駆動ラインLNxに対応する。
【0036】
次にスイッチング素子11u1~11w2及びドライバ回路12u1~12w2について詳細に説明する。
ここで、各スイッチング素子11u1~11w2は基本的に同一構成であり、各ドライバ回路12u1~12w2は基本的に同一の構成である。このため、以下では、各スイッチング素子11u1~11w2のうち1つのスイッチング素子11(u相下アームスイッチング素子11u2)と、それに対応するドライバ回路12(下アームu相ドライバ回路12u2)とを中心に説明する。
【0037】
図2に示すように、スイッチング素子11は、素子本体20と、素子本体20に取り付けられたゲート端子21、ドレイン端子22及びソース端子23と、を備えている。
素子本体20は例えば直方体形状である。素子本体20は、駆動基板13の厚さ方向と直交するX方向の両端面である第1側面20a及び第2側面20bを有している。第2側面20bは、第1側面20aとは反対側の側面である。X方向は、両側面20a,20bと交差(本実施形態では直交)する方向ともいえる。
【0038】
ドレイン端子22は、第1側面20aに設けられている。本実施形態では、ドレイン端子22は1つであり、第1側面20aの一方向、詳細にはY方向に亘ってタブ状に形成されている。Y方向は、駆動基板13の厚さ方向及びX方向の双方に直交する方向である。
【0039】
本実施形態では、ソース端子23は複数設けられている。ゲート端子21及び複数のソース端子23は、スイッチング素子11におけるドレイン端子22とは反対側の部分に設けられている。詳細には、ゲート端子21及び複数のソース端子23は、第2側面20bに設けられている。この場合、ゲート端子21及び複数のソース端子23は、素子本体20を介してドレイン端子22とX方向に対向しているともいえる。すなわち、X方向は、ドレイン端子22とソース端子23との対向方向ともいえる。
【0040】
ゲート端子21及び複数のソース端子23は、第2側面20bにおいて所定のピッチでY方向に配列されている。換言すれば、Y方向は、複数のソース端子23の配列方向ともいえる。
【0041】
ゲート端子21に所定の閾値以上のゲート電圧が印加されると、スイッチング素子11のソース-ドレイン間にインバータ電流Ivが流れる。すなわち、本実施形態のインバータ電流Ivは、ドレイン端子22及び複数のソース端子23に流れるドレイン電流ともいえる。
【0042】
本実施形態では、インバータ電流Ivは、ドレイン端子22から素子本体20内を通って複数のソース端子23に向けて流れる。このため、インバータ電流Ivは、スイッチング素子11内をX方向に流れることとなる。すなわち、X方向は、スイッチング素子11内を流れる電流の方向ともいえる。なお、ソース端子23の数は任意である。本実施形態では、ゲート端子21が「制御端子」に対応する。
【0043】
ここで、スイッチング素子11のソース-ドレイン間には、スイッチング素子11にインバータ電流Ivを流すための電圧であるソース-ドレイン間電圧Vdsが印加される。本実施形態のソース-ドレイン間電圧Vdsは、スイッチング素子11がOFF状態である場合には電源電圧Vdcとなり、スイッチング素子11がON状態である場合には0Vとなる。
【0044】
図2に示すように、本実施形態では、u相上アームスイッチング素子11u1とu相下アームスイッチング素子11u2とはX方向に離間して配列されている。X方向は、u相上アームスイッチング素子11u1とu相下アームスイッチング素子11u2との配列方向ともいえ、Y方向は、両u相スイッチング素子11u1,11u2の配列方向及び駆動基板13の厚さ方向の双方に対して直交する方向ともいえる。
【0045】
v相上アームスイッチング素子11v1及びv相下アームスイッチング素子11v2と、w相上アームスイッチング素子11w1及びw相下アームスイッチング素子11w2とについても同様である。
【0046】
本実施形態では、正極母線LN1、負極母線LN2、各中間配線LNu,LNv,LNw及び両コンデンサ接続線LNc1,LNc2は、駆動基板13に形成された配線パターンによって構成されている。正極母線LN1、負極母線LN2、各中間配線LNu,LNv,LNw及び両コンデンサ接続線LNc1,LNc2は、寄生インダクタンスを含む。
【0047】
正極母線LN1は、u相上アームスイッチング素子11u1のX方向の両側のうちドレイン端子22がある方に配置されており、詳細には駆動基板13における第1側面20aの側方に形成されている。u相上アームスイッチング素子11u1のドレイン端子22は、正極母線LN1に接続されている。
【0048】
u相上アームスイッチング素子11u1とu相下アームスイッチング素子11u2とを接続するu相中間配線LNuは、u相上アームスイッチング素子11u1のX方向の両側のうち複数のソース端子23がある方に配置されており、詳細には駆動基板13における第2側面20bの側方に形成されている。u相中間配線LNuの一部は、u相上アームスイッチング素子11u1とu相下アームスイッチング素子11u2との間に配置されている。u相上アームスイッチング素子11u1の複数のソース端子23がu相中間配線LNuに接続されているとともに、u相下アームスイッチング素子11u2のドレイン端子22がu相中間配線LNuに接続されている。また、u相中間配線LNuは、電動モータ201(詳細にはu相コイル202u)に接続される。
【0049】
負極母線LN2は、u相下アームスイッチング素子11u2のX方向の両側のうち複数のソース端子23がある方に配置されており、詳細には駆動基板13における第2側面20bの側方に形成されている。u相下アームスイッチング素子11u2の複数のソース端子23は負極母線LN2に接続されている。
【0050】
かかる構成によれば、u相上アームスイッチング素子11u1がON状態である場合、u相上アームスイッチング素子11u1を介して正極母線LN1からu相中間配線LNuに向けてインバータ電流Ivが流れる。また、u相下アームスイッチング素子11u2がON状態である場合、u相下アームスイッチング素子11u2を介してu相中間配線LNuから負極母線LN2に向けてインバータ電流Ivが流れる。
【0051】
図2に示すように、第1コンデンサ接続線LNc1は、正極母線LN1に接続されており、正極母線LN1から負極母線LN2に向けてX方向に延びている。
第2コンデンサ接続線LNc2は、負極母線LN2に接続されており、負極母線LN2から正極母線LN1に向けてX方向に延びている。第1コンデンサ接続線LNc1と第2コンデンサ接続線LNc2とはY方向に離間して対向配置されている。第2コンデンサ接続線LNc2は、第1コンデンサ接続線LNc1に対してu相中間配線LNuとは反対側に配置されている。
【0052】
本実施形態のコンデンサC0は、両コンデンサ接続線LNc1,LNc2に跨って配置されており、両コンデンサ接続線LNc1,LNc2の双方に接続されている。これにより、インバータ電流Ivは、両コンデンサ接続線LNc1,LNc2を通ってコンデンサC0に流れる。
【0053】
図2及び
図3に示すように、電力変換装置10は、駆動基板13に形成された制御ラインとしてのゲート配線LNgを備えている。ゲート配線LNgは、例えば駆動基板13の表面層と中間層とに形成されており、第2コンデンサ接続線LNc2の下方を通って、ドライバ回路12とゲート端子21とを接続している。
【0054】
電力変換装置10は、ソース端子23とドライバ回路12の基準電位V0’とを接続するためのグランド配線LNyを備えている。グランド配線LNyは、ソース端子23が接続されている負極母線LN2と、ドライバ回路12とを接続しており、ドライバ回路12内にてドライバ回路12の基準電位V0’に接続されている。これにより、ソース端子23に対して基準電位V0’を印加することができる。
【0055】
ここで、
図3に示すように、電力変換装置10は、例えばゲート配線LNgと負極母線LN2とに接続されたゲート-ソース間抵抗R1及びゲート-ソース間コンデンサC1を備えている。ゲート-ソース間抵抗R1及びゲート-ソース間コンデンサC1は、ゲート配線LNg及び負極母線LN2を介してゲート端子21及びソース端子23に接続されている。更に、ゲート-ソース間抵抗R1及びゲート-ソース間コンデンサC1は、負極母線LN2及びグランド配線LNyを介してドライバ回路12の基準電位V0’に接続されている。
【0056】
ゲート-ソース間抵抗R1及びゲート-ソース間コンデンサC1は、例えば駆動基板13に実装されている。ただし、これに限られず、ドライバ回路12内に搭載されていてもよい。なお、図示の都合上、
図2においては、ゲート-ソース間抵抗R1及びゲート-ソース間コンデンサC1を省略する。
【0057】
図2及び
図3に示すように、電力変換装置10は、第1インダクタンス成分L1と、第2インダクタンス成分L2と、を備えている。
第1インダクタンス成分L1は、インバータ電流Ivが流れる駆動ラインLNx上に設けられており、本実施形態では駆動ラインLNxのうちの第2コンデンサ接続線LNc2上に設けられている。本実施形態では、第1インダクタンス成分L1は、第2コンデンサ接続線LNc2に含まれる寄生インダクタンスによって構成されている。
【0058】
第2インダクタンス成分L2は、第1インダクタンス成分L1から発生する磁束が貫く位置に設けられている。第2インダクタンス成分L2は、インバータ電流Ivの変化に伴う磁束の変化によってフィードバック電圧Vfbを発生させる。フィードバック電圧Vfbは、インバータ電流Ivが増加する場合には正電圧であり、インバータ電流Ivが減少する場合には負電圧である。第2インダクタンス成分L2は、第1インダクタンス成分L1と磁気結合しているとも言えるし、第1インダクタンス成分L1と協働してトランスを構成するものとも言える。
【0059】
本実施形態では、グランド配線LNyは、第2コンデンサ接続線LNc2に沿って延びた延設部30を有している。延設部30は、第2コンデンサ接続線LNc2の隣に配置されている。詳細には、延設部30は、第2コンデンサ接続線LNc2に対してY方向の隣に配置されており、X方向に延びている。つまり、第2コンデンサ接続線LNc2と延設部30とは、Y方向に並んで配置されている。
【0060】
第2インダクタンス成分L2は、延設部30に設けられている。詳細には、第2インダクタンス成分L2は、延設部30に含まれる寄生インダクタンスによって構成されている。本実施形態では、延設部30が「第2インダクタンス部」に対応する。
【0061】
延設部30は、グランド配線LNyにおけるソース端子23からドライバ回路12に向かう方向と第2コンデンサ接続線LNc2に流れるインバータ電流Ivの方向とが同一となるように第2コンデンサ接続線LNc2に沿って延びている。詳細には、第2コンデンサ接続線LNc2では負極母線LN2からコンデンサC0に向けてインバータ電流Ivが流れることに対応させて、延設部30は、第2コンデンサ接続線LNc2に対してY方向にずれた位置において負極母線LN2からコンデンサC0に向けて延びている。これにより、第2インダクタンス成分L2は、インバータ電流Ivが増加する場合には負のフィードバック電圧Vfbを発生させる一方、インバータ電流Ivが減少する場合には正のフィードバック電圧Vfbを発生させる。
【0062】
本実施形態では、第2インダクタンス成分L2のインダクタンスは、第1インダクタンス成分L1のインダクタンスよりも大きい。詳細には、延設部30の幅W1は、第2コンデンサ接続線LNc2の幅W2よりも狭くなっており、グランド配線LNyの延設部30に含まれる寄生インダクタンスが第2コンデンサ接続線LNc2に含まれる寄生インダクタンスよりも大きくなっている。これにより、フィードバック電圧Vfbは、第1インダクタンス成分L1にて発生する電圧よりも大きい。
【0063】
かかる構成によれば、スイッチング素子11がON状態となり、インバータ電流Ivが流れると、第1インダクタンス成分L1から磁束が発生する。本実施形態では、第1インダクタンス成分L1は第2コンデンサ接続線LNc2の寄生インダクタンスによって構成されているため、第2コンデンサ接続線LNc2の周囲に磁束が発生する。上記磁束は、インバータ電流Ivが変化することによって変化する。これにより、第2インダクタンス成分L2からフィードバック電圧Vfbが発生する。なお、念の為に説明すると、グランド配線LNyに流れる電流は、駆動ラインLNxに流れる電流よりも充分に小さい。
【0064】
次にドライバ回路12について説明する。
図3に示すように、ドライバ回路12は、外部入力端子51と、出力端子52と、フィードバック入力端子53と、を備えている。
【0065】
外部入力端子51は、変換制御装置14と電気的に接続されている。外部入力端子51には、変換制御装置14からの外部指令電圧Vpが入力される。
出力端子52は、ドライバ回路12からゲート電圧(換言すればゲート電流)を出力するための端子である。ゲート配線LNgによって出力端子52とゲート端子21とが電気的に接続されており、出力端子52から出力されるゲート電圧は、ゲート配線LNgを介してゲート端子21に入力される。
【0066】
フィードバック入力端子53は、フィードバック電圧Vfbが入力される端子である。フィードバック入力端子53は、グランド配線LNyに接続されている。これにより、グランド配線LNy上に設けられた第2インダクタンス成分L2にて発生したフィードバック電圧Vfbがフィードバック入力端子53に印加される。ドライバ回路12内にてフィードバック入力端子53は基準電位V0’に接続されている。
【0067】
ドライバ回路12は、外部入力端子51から入力される外部指令電圧Vpと、フィードバック入力端子53に入力されるフィードバック電圧Vfbとに基づいて、加算電圧Vadを生成し、その加算電圧Vadをゲート電圧として出力端子52から出力するように構成されている。
【0068】
加算電圧Vadを出力するドライバ回路12の一例について以下に説明する。
本実施形態のドライバ回路12は、外部指令電圧Vpを変換指令電圧Vptに変換する指令変換回路55と、変換指令電圧Vpt及びフィードバック電圧Vfbを加算する加算回路57と、を備えている。
【0069】
指令変換回路55は、外部入力端子51から入力された外部指令電圧Vpに含まれるノイズを低減させつつ、所定の増幅率で外部指令電圧Vpを増幅させることにより外部指令電圧Vpを変換指令電圧Vptに変換する。そして、指令変換回路55は、変換指令電圧Vptを加算回路57に向けて出力する。なお、増幅率は「1」を含む。指令変換回路55の具体的な構成は任意であり、例えばオペアンプを有する非反転増幅回路でもよい。
【0070】
加算回路57は、指令変換回路55とフィードバック入力端子53とに接続されているとともに出力端子52に接続されている。加算回路57には、変換指令電圧Vptとフィードバック電圧Vfbとが入力される。加算回路57は、変換指令電圧Vptとフィードバック電圧Vfbとを加算し、その加算された加算電圧Vadを出力端子52に向けて出力する。これにより、ゲート端子21にゲート電圧としての加算電圧Vadが入力される。
【0071】
加算回路57の具体的な構成は任意である。例えば、加算回路57は、変換指令電圧Vptが伝送されるラインと、フィードバック電圧Vfbが伝送されるラインとが接続されるように構成されているとよい。また、加算回路57は、変換指令電圧Vptとフィードバック電圧Vfbとが合わさった電圧を増幅することにより加算電圧Vadを生成する電圧増幅回路を有しているとよい。
【0072】
なお、加算回路57は、加算電圧Vadを維持しつつ、ゲート端子21に必要な電流を供給するために電流増幅回路を有していてもよい。
図3に示すように、ドライバ回路12は、加算回路57と出力端子52との間に設けられたゲート抵抗Rgを備えている。ゲート抵抗Rgの抵抗値に応じて、スイッチング素子11の立ち上がり/立ち下がりの傾きが変化する。
【0073】
ちなみに、u相上アームスイッチング素子11u1及びu相上アームドライバ回路12u1についても同様である。この場合、例えば、グランド配線LNyは、u相中間配線LNuとu相上アームドライバ回路12u1とを接続する。また、グランド配線LNyの少なくとも一部は、第1コンデンサ接続線LNc1に含まれる寄生インダクタンスから発生する磁束が貫く位置、又は、正極母線LN1に含まれる寄生インダクタンスから発生する磁束が貫く位置に設けられているとよい。例えば、グランド配線LNyは、第1コンデンサ接続線LNc1又は正極母線LN1の隣に配置され且つその配線に沿って延びている部分を有するとよい。または、グランド配線LNyの少なくとも一部は、u相中間配線LNuに含まれる寄生インダクタンスから発生する磁束が貫く位置に設けられていてもよい。
【0074】
次に
図4~
図9を用いて本実施形態の作用について説明する。
図4は、フィードバック電圧Vfbによるフィードバックがない条件下におけるターンオン時のインバータ電流Iv、ソース-ドレイン間電圧Vds、フィードバック電圧Vfb及び加算電圧Vadを示すグラフである。
図5は、フィードバック電圧Vfbによるフィードバックがある条件下におけるターンオン時のインバータ電流Iv、ソース-ドレイン間電圧Vds、フィードバック電圧Vfb及び加算電圧Vadを示すグラフである。
図6は、フィードバック電圧Vfbによるフィードバックがある条件下においてフィードバックがない場合と同等のサージが生じるようにゲート抵抗Rgの抵抗値が調整されたインバータ電流Iv、ソース-ドレイン間電圧Vds、フィードバック電圧Vfb及び加算電圧Vadを示すグラフである。
【0075】
図7は、フィードバック電圧Vfbによるフィードバックがない条件下におけるターンオフ時のインバータ電流Iv、ソース-ドレイン間電圧Vds、フィードバック電圧Vfb及び加算電圧Vadを示すグラフである。
図8は、フィードバック電圧Vfbによるフィードバックがある条件下におけるターンオフ時のインバータ電流Iv、ソース-ドレイン間電圧Vds、フィードバック電圧Vfb及び加算電圧Vadを示すグラフである。
図9は、フィードバック電圧Vfbによるフィードバックがある条件下においてフィードバックがない場合と同等のサージが生じるようにゲート抵抗Rgの抵抗値が調整されたインバータ電流Iv、ソース-ドレイン間電圧Vds、フィードバック電圧Vfb及び加算電圧Vadを示すグラフである。
【0076】
図4~
図9では、インバータ電流Ivを実線で示し、ソース-ドレイン間電圧Vdsを破線で示し、フィードバック電圧Vfbを二点鎖線で示し、加算電圧Vadを一点鎖線で示す。
【0077】
まず、
図4~
図6を用いてスイッチング素子11のターンオン時について説明する。
図4及び
図5に示すように、加算電圧Vadが立ち上がることに伴って、ソース-ドレイン間電圧Vdsが立ち下がり始める一方、インバータ電流Iv(ドレイン電流)が流れ始める。この場合、
図4に示すように、フィードバック電圧Vfbによるフィードバックがない場合には、インバータ電流Ivが立ち上がる際にサージが発生する。
【0078】
これに対して、フィードバック電圧Vfbによるフィードバックがある場合、インバータ電流Ivが変化(詳細には増加)することに起因して第1インダクタンス成分L1から発生する磁束が変化する。これにより、
図5の二点鎖線に示すように、第2インダクタンス成分L2からフィードバック電圧Vfbが発生する。この場合、フィードバック電圧Vfbは負電圧である。
【0079】
そして、変換指令電圧Vptとフィードバック電圧Vfbとが加算され、その加算電圧Vadがスイッチング素子11のゲート端子21に入力される。この場合、負のフィードバック電圧Vfbが加算されているため、加算電圧Vadは小さくなる。これにより、加算電圧VadにおけるLOWからHIへの立ち上がりの傾きは緩やかになる。これにより、
図5の実線に示すように、インバータ電流Ivが立ち上がる際のサージが抑制される。
【0080】
また、
図6に示すように、フィードバックがない場合と同等のサージが生じるようにゲート抵抗Rgの抵抗値を調整すると、フィードバックがない場合と比較して、インバータ電流Ivの立ち上がりの傾きを大きくすることができる。これにより、ターンオン時における損失が低減される。
【0081】
次に、
図7~
図9を用いてスイッチング素子11のターンオフ時について説明する。
図7及び
図8に示すように、加算電圧Vadが立ち下がることに伴って、ソース-ドレイン間電圧Vdsが立ち上がり始める一方、インバータ電流Iv(ドレイン電流)が小さくなり始める。この場合、
図7の破線に示すように、フィードバック電圧Vfbによるフィードバックがない場合には、ソース-ドレイン間電圧Vdsが立ち上がる際にサージが発生する。
【0082】
これに対して、フィードバック電圧Vfbによるフィードバックがある場合、インバータ電流Ivが小さくなることに伴って、第1インダクタンス成分L1にて発生する磁束が変化する。これにより、
図8の二点鎖線に示すように、第2インダクタンス成分L2からフィードバック電圧Vfbが発生する。この場合、フィードバック電圧Vfbは正電圧である。
【0083】
そして、変換指令電圧Vptとフィードバック電圧Vfbとが加算され、その加算電圧Vadがスイッチング素子11のゲート端子21に入力される。この場合、正のフィードバック電圧Vfbが加算されているため、加算電圧Vadは大きくなる。これにより、
図8の一点鎖線に示すように、加算電圧VadにおけるHIからLOWへの立ち下がりの傾きは緩やかになる。これにより、
図8の破線に示すように、ソース-ドレイン間電圧Vdsが立ち上がる際のサージが抑制される。
【0084】
また、
図9に示すように、フィードバックがない場合と同等のサージが生じるようにゲート抵抗Rgの抵抗値を調整すると、フィードバックがない場合と比較して、インバータ電流Ivの立ち下がりの傾きを大きくすることができる。これにより、損失が低減される。
【0085】
以上詳述した本実施形態によれば以下の効果を奏する。
(1)電力変換装置10は、スイッチング素子11と、スイッチング素子11を駆動させるドライバ回路12と、を備えている。スイッチング素子11は、印加電流としてのインバータ電流Ivが流れるドレイン端子22及びソース端子23と、制御端子としてのゲート端子21と、を備えている。
【0086】
電力変換装置10は、インバータ電流Ivが流れる駆動ラインLNxと、駆動ラインLNx上に設けられた第1インダクタンス成分L1と、ドライバ回路12とゲート端子21とを接続する制御ラインとしてのゲート配線LNgと、を備えている。電力変換装置10は、ソース端子23とドライバ回路12の基準電位V0’とを接続するためのグランド配線LNyと、グランド配線LNy上に設けられた第2インダクタンス成分L2と、を備えている。
【0087】
第2インダクタンス成分L2は、第1インダクタンス成分L1から発生する磁束が貫く位置に設けられている。第2インダクタンス成分L2は、インバータ電流Ivが増加する場合には負のフィードバック電圧Vfbを発生させる一方、インバータ電流Ivが減少する場合には正のフィードバック電圧Vfbを発生させる。
【0088】
ドライバ回路12は、外部指令電圧Vpが入力される外部入力端子51と、フィードバック電圧Vfbが入力されるフィードバック入力端子53と、を備えている。ドライバ回路12は、外部指令電圧Vpを変換することによって得られる変換指令電圧Vptと、フィードバック電圧Vfbとを加算し、その加算された加算電圧Vadをゲート端子21に向けて出力する加算回路57を備えている。
【0089】
かかる構成によれば、第1インダクタンス成分L1に流れるインバータ電流Ivの変化に伴って磁束が変化することにより第2インダクタンス成分L2からフィードバック電圧Vfbが誘起される。そして、フィードバック電圧Vfbが変換指令電圧Vptに加算され、その加算された加算電圧Vadがゲート端子21に入力される。これにより、スイッチング素子11のターンオン時又はターンオフ時におけるサージを抑制できる。
【0090】
また、ゲート抵抗Rgの抵抗値を調整することにより、サージが許容範囲内に収まる範囲内で、ターンオン時のインバータ電流Ivの立ち上がりの傾き、又は、ターンオフ時のソース-ドレイン間電圧Vdsの立ち上がりの傾き大きくすることができる。これにより、損失の低減を図ることができる。したがって、サージの抑制と損失の低減とを好適に両立させることができる。
【0091】
特に、本構成によれば、フィードバック電圧Vfbは、インバータ電流Ivが増加する場合には負となる一方、インバータ電流Ivが減少する場合には正となる。これにより、フィードバック電圧Vfbを反転させて加算回路57に入力させる必要がない。したがって、反転に係る構成を省略することができる。
【0092】
また、第1インダクタンス成分L1にて生じる逆起電力をフィードバックさせる構成では、例えば第1インダクタンス成分L1が小さい場合、逆起電力も小さくなるため、フィードバック効果(詳細にはサージ抑制効果)が小さくなり、所望のフィードバック効果が得られない場合があり得る。かといって、第1インダクタンス成分L1にはインバータ電流Ivが流れる関係上、逆起電力を大きくしようとして第1インダクタンス成分L1を大きくすると、損失やサージが大きくなる。
【0093】
この点、本構成によれば、フィードバック電圧Vfbは第2インダクタンス成分L2に依存するため、第2インダクタンス成分L2を調整することにより、所望のフィードバック電圧Vfbを得ることができる。また、第2インダクタンス成分L2にはインバータ電流Ivが流れないため、第2インダクタンス成分L2にて生じる損失は小さくて済む。これにより、損失を抑制しつつ所望のフィードバック効果を得ることができる。
【0094】
(2)第2インダクタンス成分L2は、第1インダクタンス成分L1よりも大きい。かかる構成によれば、フィードバック電圧Vfbを大きくすることができ、フィードバック効果の向上を図ることができる。
【0095】
上記効果について詳述すると、例えば第1インダクタンス成分L1が小さい場合、逆起電力も小さくなるため、フィードバック効果(詳細にはサージ抑制効果)が小さくなり、所望のフィードバック効果が得られない場合があり得る。かといって、第1インダクタンス成分L1にはインバータ電流Ivが流れる関係上、逆起電力を大きくしようとして第1インダクタンス成分L1を大きくすると、損失やサージが大きくなる。
【0096】
この点、本構成によれば、フィードバック電圧Vfbは第2インダクタンス成分L2に依存するため、第2インダクタンス成分L2を調整することにより、所望のフィードバック電圧Vfbを得ることができる。また、第2インダクタンス成分L2にはインバータ電流Ivが流れないため、第2インダクタンス成分L2にて生じる損失は小さくて済む。これにより、損失を抑制しつつ所望のフィードバック効果を得ることができる。
【0097】
(3)駆動ラインLNxは、第1インダクタンス成分L1が設けられている第1インダクタンス部としての第2コンデンサ接続線LNc2を有している。グランド配線LNyは、第2インダクタンス成分L2が設けられている第2インダクタンス部としての延設部30を有している。延設部30は、第2コンデンサ接続線LNc2の隣に配置されている。延設部30は、グランド配線LNyにおけるソース端子23からドライバ回路12に向かう方向と第2コンデンサ接続線LNc2に流れるインバータ電流Ivの方向とが同一となるように第2コンデンサ接続線LNc2に沿って延びている。
【0098】
かかる構成によれば、第2インダクタンス成分L2が設けられた延設部30が、第1インダクタンス成分L1が設けられた第2コンデンサ接続線LNc2の隣に配置されているため、両者の離間距離が短くなり易い。これにより、両インダクタンス成分L1,L2の間で相互作用が生じ易い。したがって、フィードバック電圧Vfbを大きくすることができる。また、フィードバック電圧Vfbは、インバータ電流Ivが増加する場合には負となる一方、インバータ電流Ivが減少する場合には正となる。これにより、比較的容易な構成によって(1)などの効果を得ることができる。
【0099】
(4)電力変換装置10は、スイッチング素子11が実装された駆動基板13を備えている。延設部30及び第2コンデンサ接続線LNc2は、駆動基板13に形成された配線パターンによって構成されている。かかる構成において、第1インダクタンス成分L1は、第2コンデンサ接続線LNc2に含まれる寄生インダクタンスによって構成されており、第2インダクタンス成分L2は、延設部30に含まれる寄生インダクタンスによって構成されている。延設部30の幅W1は、第2コンデンサ接続線LNc2の幅W2よりも狭い。これにより、第2インダクタンス成分L2を、第1インダクタンス成分L1よりも大きくすることができる。
【0100】
(5)電力変換装置10は、中間配線LNu,LNv,LNwによって互いに直列に接続された上アームスイッチング素子11u1,11v1,11w1及び下アームスイッチング素子11u2,11v2,11w2と、コンデンサC0と、を備えている。
【0101】
駆動ラインLNxは、上アームスイッチング素子11u1,11v1,11w1が接続される正極母線LN1と、下アームスイッチング素子11u2,11v2,11w2が接続される負極母線LN2と、を含む。駆動ラインLNxは、中間配線LNu,LNv,LNwと、正極母線LN1とコンデンサC0とを接続する第1コンデンサ接続線LNc1と、負極母線LN2とコンデンサC0とを接続する第2コンデンサ接続線LNc2と、を含む。
【0102】
第2インダクタンス成分L2は、正極母線LN1、負極母線LN2、中間配線LNu,LNv,LNw、第1コンデンサ接続線LNc1及び第2コンデンサ接続線LNc2のうち少なくとも1つ(本実施形態では第2コンデンサ接続線LNc2)の寄生インダクタンスから発生する磁束が貫く位置に設けられている。
【0103】
かかる構成によれば、正極母線LN1、負極母線LN2、中間配線LNu,LNv,LNw及び両コンデンサ接続線LNc1,LNc2のうち少なくとも1つに含まれる寄生インダクタンスを用いてフィードバック電圧Vfbを発生させることができる。
【0104】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。また、技術的に矛盾が生じない範囲内で、上記実施形態と下記各別例とを適宜組み合わせてもよい。
○ 第1インダクタンス成分L1は、第2コンデンサ接続線LNc2に含まれる寄生インダクタンスによって構成されていたが、これに限られず、例えば第2コンデンサ接続線LNc2上に設けられた専用のコイルによって構成されていてもよい。
【0105】
○ 第1インダクタンス成分L1は、負極母線LN2に含まれる寄生インダクタンスによって構成されてもよいし、中間配線LNu,LNv,LNwのいずれかに含まれる寄生インダクタンスによって構成されていてもよい。
【0106】
○ 第2インダクタンス成分L2は、第1インダクタンス成分L1から発生する磁束が貫く位置に設けられていれば、その具体的な位置は任意である。例えば、第2インダクタンス成分L2は、負極母線LN2の隣に配置されていてもよい。この場合、負極母線LN2に含まれる寄生インダクタンスから発生する磁束が第2インダクタンス成分L2を貫く。すなわち、第2インダクタンス成分L2は、正極母線LN1、負極母線LN2、中間配線LNu,LNv,LNw、第1コンデンサ接続線LNc1及び第2コンデンサ接続線LNc2の少なくとも1つに含まれる寄生インダクタンスから発生する磁束が貫く位置に設けられていればよい。
【0107】
○ 第2インダクタンス成分L2がグランド配線LNyに含まれる寄生インダクタンスによって構成されている場合、上記寄生インダクタンスを大きくするために、第2コンデンサ接続線LNc2の隣においてグランド配線LNyが渦巻状又はジグザグ状に形成されていてもよい。また、グランド配線LNyの一部が局所的に幅狭に形成されていてもよい。
【0108】
○ 第2インダクタンス成分L2を構成するものは、駆動基板13に形成される配線パターンの寄生インダクタンスに限られず、インダクタンスを有するものであれば任意である。例えば、第2インダクタンス成分L2は、駆動基板13に実装される専用のコイルによって構成されていてもよい。
【0109】
○ ドライバ回路12は、フィードバック電圧Vfbを変換フィードバック電圧Vftに変換し、その変換された変換フィードバック電圧Vftを加算回路57に向けて出力するフィードバック変換回路を有していてもよい。この場合、加算回路57は、変換指令電圧Vptと変換フィードバック電圧Vftとを加算するとよい。
【0110】
○ 指令変換回路55を省略してもよい。この場合、加算回路57には、外部指令電圧Vpが入力される。加算回路57は、外部指令電圧Vpと、フィードバック電圧Vfb又はフィードバック電圧Vfbを変換することによって得られる変換フィードバック電圧Vftとを加算するとよい。
【0111】
すなわち、加算回路57は、外部指令電圧Vp又は変換指令電圧Vptのいずれか一方と、フィードバック電圧Vfb又は変換フィードバック電圧Vftのいずれか一方とが入力されればよい。つまり、加算回路57は、外部指令電圧Vp又は変換指令電圧Vptと、フィードバック電圧Vfb又は変換フィードバック電圧Vftとを加算するものであればよい。
【0112】
○ 第1インダクタンス成分L1のインダクタンスと、第2インダクタンス成分L2のインダクタンスとの大小関係は任意である。例えば、両インダクタンスは同一でもよいし、第1インダクタンス成分L1のインダクタンスが第2インダクタンス成分L2のインダクタンスよりも大きくてもよい。
【0113】
○ スイッチング素子11は、MOSFETに限られず任意であり、例えばIGBTでもよい。この場合、スイッチング素子11のゲート端子が「制御端子」に対応し、スイッチング素子11のコレクタ-エミッタ間を流れるコレクタ電流が「印加電流」に対応し、コレクタ端子及びエミッタ端子が「印加端子」に対応する。
【0114】
○ 各スイッチング素子11u1~11w2はインバータを構成していたが、これに限られず、任意であり、例えば蓄電装置203の直流電力を異なる電圧の直流電力に変換するDC/DCコンバータを構成してもよい。すなわち、電力変換装置10は、インバータに限られず、DC/DCコンバータ、AC/ACコンバータ、AC/DCインバータ等任意である。換言すれば、電力変換装置10は、直流電力又は交流電力を直流電力又は交流電力に変換するものでもよい。
【0115】
○ 実施形態では、全スイッチング素子11u1~11w2についてフィードバック電圧Vfbのフィードバックが行われる構成となっていたが、これに限られない。例えば、下アームスイッチング素子11u2,11v2,11w2についてフィードバック電圧Vfbのフィードバックが行われる一方、上アームスイッチング素子11u1,11v1,11w1についてはフィードバックが行われない構成でもよいし、その逆でもよい。
【0116】
○ 負荷は電動モータ201に限られず任意である。
○ 電力変換装置10は、車両200以外に搭載されてもよい。すなわち、電力変換装置10は、車両200に設けられた負荷以外の負荷を駆動させるものでもよい。
【符号の説明】
【0117】
10…電力変換装置、11(11u1~11w2)…スイッチング素子、12(12u1~12w2)…ドライバ回路、13…駆動基板、21…ゲート端子(制御端子)、22…ドレイン端子(第1印加端子)、23…ソース端子(第2印加端子)、30…延設部、51…外部入力端子、52…出力端子、53…フィードバック入力端子、55…指令変換回路、56…フィードバック変換回路、57…加算回路、200…車両、201…電動モータ(負荷)、203…蓄電装置、LNx…駆動ライン、LN1…正極母線、LN2…負極母線、LNu,LNv,LNw…中間配線、C0…コンデンサ、LNc1…第1コンデンサ接続線、LNc2…第2コンデンサ接続線、LNy…グランド配線、Vp…外部指令電圧、Vpt…変換指令電圧、Vf…フィードバック電圧、Vad…加算電圧、V0…基準電位、V0’…ドライバ回路の基準電位、L1…第1インダクタンス成分、L2…第2インダクタンス成分、Iv…インバータ電流(印加電流)。