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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】回転電機のロータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/2726 20220101AFI20240109BHJP
   H02K 15/03 20060101ALI20240109BHJP
   H02K 1/28 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
H02K1/2726
H02K15/03 Z
H02K1/28 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020211799
(22)【出願日】2020-12-21
(65)【公開番号】P2022098321
(43)【公開日】2022-07-01
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】片桐 慶大
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-198682(JP,A)
【文献】特開平11-234975(JP,A)
【文献】特開2015-070786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
H02K 15/03
H02K 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒部材と、
前記筒部材内に配置された磁性体と、
前記筒部材の軸線方向の両端部の少なくとも一方に設けられるとともに前記軸線方向で前記磁性体と隣り合った状態で前記筒部材の内周面に固定される軸部材と、
前記筒部材と前記軸部材とを溶接する溶接部と、を備え、
前記軸部材は、前記筒部材の内周面に対して圧入される圧入部を有する回転電機のロータであって、
前記圧入部は、前記溶接部よりも前記磁性体から近い位置に配置され、
前記溶接部は、前記軸線方向で前記圧入部から離間していることを特徴とする回転電機のロータ。
【請求項2】
前記軸部材は、前記圧入部よりも前記筒部材の径方向における寸法が小さく、前記筒部材の内側に配置される小径部を有し、
前記小径部は、前記軸線方向で前記圧入部と前記溶接部との間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機のロータ。
【請求項3】
前記軸部材のうち少なくとも一つは、駆動力を出力する出力軸であり、
前記筒部材と前記出力軸とを溶接する前記溶接部は、前記軸線方向で前記圧入部から離間していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の回転電機のロータ。
【請求項4】
前記溶接部は、前記ロータの回転時に前記溶接部に作用する応力が極小値となるように前記軸線方向で前記圧入部から離間していることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の回転電機のロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機のロータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されているような回転電機のロータは、筒部材と、筒部材内に配置された磁性体と、筒部材の軸線方向の両端部の少なくとも一方に設けられるとともに軸線方向で磁性体と隣り合った状態で筒部材の内周面に固定される軸部材と、を備えている。筒部材は、ロータの回転によって遠心力を受ける磁性体の変形を抑制する。軸部材は、筒部材の内周面に対して圧入される圧入部を有する。そして、圧入部が筒部材の内周面に圧入されることにより、軸部材が筒部材の内周面に固定されている。ここで、軸部材における筒部材に対する固定をさらに強固なものとするために、圧入部における筒部材の内周面に対する圧入に加えて、例えば、軸部材を筒部材に対して溶接することにより接合することが考えられている。このように、ロータは、筒部材と軸部材とを溶接する溶接部を備えている場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-112849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、軸部材の圧入部が筒部材の内周面に圧入されていると、圧入部からの圧入応力が筒部材に作用する。ここで、溶接部が筒部材の軸線方向で圧入部から離間しておらず、溶接部が筒部材の軸線方向で圧入部と連続していると、圧入部から筒部材に作用した圧入応力が溶接部に伝達し易く、圧入部から筒部材に作用した圧入応力が溶接部に作用してしまう虞がある。すると、溶接部を介した軸部材と筒部材との接合強度が低下して、回転電機のロータの信頼性が低下する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための回転電機のロータは、筒部材と、前記筒部材内に配置された磁性体と、前記筒部材の軸線方向の両端部の少なくとも一方に設けられるとともに前記軸線方向で前記磁性体と隣り合った状態で前記筒部材の内周面に固定される軸部材と、前記筒部材と前記軸部材とを溶接する溶接部と、を備え、前記軸部材は、前記筒部材の内周面に対して圧入される圧入部を有する回転電機のロータであって、前記圧入部は、前記溶接部よりも前記磁性体から近い位置に配置され、前記溶接部は、前記軸線方向で前記圧入部から離間している。
【0006】
これによれば、溶接部が筒部材の軸線方向で圧入部から離間しているため、圧入部から筒部材に作用した圧入応力が溶接部に伝達し難くなる。したがって、圧入部から筒部材に作用した圧入応力が溶接部に作用してしまうことが抑制されるため、溶接部を介した軸部材と筒部材との接合強度の低下を抑制することができる。その結果、回転電機のロータの信頼性を向上させることができる。
【0007】
上記回転電機のロータにおいて、前記軸部材は、前記圧入部よりも前記筒部材の径方向における寸法が小さく、前記筒部材の内側に配置される小径部を有し、前記小径部は、前記軸線方向で前記圧入部と前記溶接部との間に配置されているとよい。
【0008】
これによれば、小径部が、筒部材の軸線方向で圧入部と溶接部との間に配置されていることにより、筒部材の設計を変更することなく、溶接部を圧入部から離間することができる。
【0009】
上記回転電機のロータにおいて、前記軸部材のうち少なくとも一つは、駆動力を出力する出力軸であり、前記筒部材と前記出力軸とを溶接する前記溶接部は、前記軸線方向で前記圧入部から離間しているとよい。
【0010】
これによれば、筒部材と出力軸とを溶接する溶接部が、筒部材の軸線方向で圧入部から離間しているため、圧入部から筒部材に作用した圧入応力が、筒部材と出力軸とを溶接する溶接部に作用してしまうことが抑制される。したがって、負荷のかかり易い出力軸において、溶接部を介した出力軸と筒部材との接合強度の低下を抑制することができる。その結果、回転電機のロータの信頼性を向上させることができる。
【0011】
上記回転電機のロータにおいて、前記溶接部は、前記ロータの回転時に前記溶接部に作用する応力が極小値となるように前記軸線方向で前記圧入部から離間しているとよい。
ロータの回転時では、溶接部には、ロータの回転によって生じる遠心力に伴う応力が作用する。ここで、圧入部から筒部材に作用した圧入応力が溶接部に作用しないように溶接部を筒部材の軸線方向で圧入部から離間させると、溶接部には、ロータの回転によって生じる遠心力に伴う応力のみが作用するため、溶接部に作用する応力が極小値となる。そこで、溶接部を、ロータの回転時に溶接部に作用する応力が極小値となるように筒部材の軸線方向で圧入部から離間させた。これによれば、ロータが回転しても、溶接部に作用する応力が、ロータの回転によって生じる遠心力に伴う応力のみとなるため、軸部材と筒部材との接合強度の低下をさらに抑制することができる。その結果、回転電機のロータの信頼性をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態における回転電機を説明するための断面図。
図2】ロータの一部分を破断して示す断面図。
図3】第1溶接部から、筒部材における第1圧入部と筒部材の径方向で対向する部位までの間のそれぞれの位置でロータの回転時に作用する応力を計測した結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、回転電機のロータを具体化した一実施形態を図1図3にしたがって説明する。
図1に示すように、回転電機10は、筒状のハウジング11内に収容されている。ハウジング11は、有底筒状の第1ハウジング構成体12と、第1ハウジング構成体12に連結される板状の第2ハウジング構成体13と、を備えている。第1ハウジング構成体12及び第2ハウジング構成体13は金属製であり、例えば、アルミニウム製である。
【0015】
第1ハウジング構成体12は、板状の底壁12aと、底壁12aの外周部から筒状に延びる周壁12bと、を有している。第2ハウジング構成体13は、周壁12bにおける底壁12aとは反対側の開口を閉塞した状態で第1ハウジング構成体12に連結されている。
【0016】
第1ハウジング構成体12の底壁12aの内面には、円筒状のボス部12cが突出した状態で設けられている。ボス部12cの軸線は、第1ハウジング構成体12の周壁12bの軸線と一致している。また、第2ハウジング構成体13の内面には、円筒状のボス部13aが突出した状態で設けられている。ボス部13aの軸線は、第1ハウジング構成体12の周壁12bの軸線と一致している。よって、両ボス部12c,13aの軸線は一致している。
【0017】
回転電機10は、ステータ14と、ロータ15と、を備えている。ステータ14は、第1ハウジング構成体12の周壁12bの内周面に固定される円筒状のステータコア14aと、ステータコア14aに巻回されるコイル14bと、を有する。ロータ15は、ハウジング11において、ステータ14の径方向内側に回転可能な状態で配置されている。
【0018】
図2に示すように、ロータ15は、筒部材16と、磁性体である永久磁石17と、軸部材としての第1軸部材18及び第2軸部材19と、を備えている。本実施形態においては、筒部材16はインコネル製である。筒部材16は、筒部材16の軸線が直線状に延びる筒状である。筒部材16の肉厚は均一である。
【0019】
永久磁石17は、中実円柱状である。永久磁石17は、筒部材16内に配置されている。永久磁石17の軸線は、筒部材16の軸線と一致している。永久磁石17は、永久磁石17の径方向に着磁されている。永久磁石17は、筒部材16の内周面160に圧入されている。永久磁石17における軸線が延びる方向の長さは、筒部材16における軸線が延びる方向の長さよりも短い。永久磁石17の軸線方向両側に位置する両端面17a,17bは、永久磁石17の軸線方向に対して直交する方向に延びる平坦面である。
【0020】
永久磁石17の端面17aは、筒部材16の内側に位置している。よって、筒部材16の第1端部16aは、永久磁石17の端面17aよりも軸線方向へ突出している。また、永久磁石17の端面17bは、筒部材16の内側に位置している。よって、筒部材16の軸線方向の第2端部16bは、永久磁石17の端面17bよりも軸線方向へ突出している。
【0021】
第1軸部材18は、筒部材16の第1端部16aに設けられている。第1軸部材18は、鉄製である。第1軸部材18は、圧入部としての第1圧入部18a、小径部としての第1小径部18b、第1フランジ部18c、及び第1軸部18dを有している。第1圧入部18aは、円柱状である。第1圧入部18aは、筒部材16の第1端部16aに圧入されている。よって、第1軸部材18は、筒部材16の内周面160に固定されている。第1軸部材18の軸線は、永久磁石17の軸線と一致している。
【0022】
第1小径部18bは、円柱状である。第1小径部18bは、第1圧入部18aにおける永久磁石17とは反対側の端面から突出している。第1小径部18bの外径は、第1圧入部18aの外径よりも小さい。したがって、第1小径部18bは、第1圧入部18aよりも筒部材16の径方向における寸法が小さい。第1小径部18bの軸線は、第1圧入部18aの軸線と一致している。第1小径部18bは、筒部材16の内周面160に対して隙間嵌めされている。したがって、第1小径部18bは、筒部材16の内側に配置されている。なお、図2及び図3では、第1小径部18bと筒部材16の内周面160との間の隙間を誇張して示している。
【0023】
第1フランジ部18cは、円柱状である。第1フランジ部18cは、第1小径部18bにおける第1圧入部18aとは反対側の端部に連続している。第1フランジ部18cの外径は、第1圧入部18aの外径よりも大きい。第1軸部18dは、円柱状である。第1軸部18dは、第1フランジ部18cにおける第1小径部18bとは反対側の端部に連続している。第1軸部18dの外径は、第1フランジ部18cの外径よりも小さい。
【0024】
第2軸部材19は、筒部材16の第2端部16bに設けられている。第2軸部材19は、鉄製である。第2軸部材19は、圧入部としての第2圧入部19a、及び第2軸部19bを有している。第2圧入部19aは、円柱状である。第2圧入部19aは、筒部材16の第2端部16bに圧入されている。よって、第2軸部材19は、筒部材16の内周面160に固定されている。第2軸部材19の軸線は、永久磁石17の軸線と一致している。
【0025】
第2小径部19c第2軸部19bは、円柱状である。第2軸部19bは、第2圧入部19aにおける永久磁石17とは反対側の端面から突出している。第2小径部19c第2軸部19bの外径は、第2圧入部19aの外径よりも小さい。第2軸部19bの軸線は、第2圧入部19aの軸線と一致している。第2軸部19bにおける第2圧入部19a側の部位は、筒部材16の内側に配置されており、第2軸部19bにおけるその他の部位は、筒部材16から突出している。したがって、第2軸部19bにおける第2圧入部19a側の部位は、第2圧入部19aよりも筒部材16の径方向における寸法が小さく、筒部材16の内側に配置される小径部としての第2小径部19cである。第2小径部19cは、筒部材16の内周面160に対して隙間嵌めされている。なお、図2では、第2小径部19cと筒部材16の内周面160との間の隙間を誇張して示している。
【0026】
第1圧入部18aの外径と第2圧入部19aの外径とは等しい。また、第1小径部18bと第2小径部19cの外径とは等しい。第1軸部材18の軸線と第2軸部材19の軸線とは一致している。
【0027】
第1圧入部18aにおける第1小径部18bとは反対側の端面180aは、第1軸部材18の軸線が延びる方向に対して直交する方向に延びる平坦面である。第1圧入部18aの端面180aは、永久磁石17の端面17aに面接触している。したがって、第1軸部材18は、筒部材16の軸線方向で永久磁石17と隣り合った状態で筒部材16の内周面に固定されている。
【0028】
第2圧入部19aにおける第2小径部19cとは反対側の端面190aは、第2軸部材19の軸線が延びる方向に対して直交する方向に延びる平坦面である。第2圧入部19aの端面190aは、永久磁石17の端面17bに面接触している。したがって、第2軸部材19は、筒部材16の軸線方向で永久磁石17と隣り合った状態で筒部材16の内周面に固定されている。
【0029】
図1に示すように、第1軸部材18の第1軸部18dは、ボス部13aの内側を通過するとともに第2ハウジング構成体13を貫通してハウジング11の外へ突出している。ボス部13aの内周面と第1軸部18dの外周面との間には、第1軸受21が設けられている。そして、第1軸部材18は、第1軸受21を介してボス部13aに支持されることにより、ハウジング11に回転可能な状態で支持されている。
【0030】
第1軸部材18の第1軸部18dにおける第1小径部18bとは反対側の端部には、インペラ23が取り付けられている。インペラ23は、第1軸部材18と一体回転可能である。よって、インペラ23は、第1軸部材18の回転が駆動力として伝達されることにより駆動する。したがって、インペラ23が取り付けられた第1軸部材18は、駆動力を出力する出力軸である。
【0031】
第2軸部材19の第2軸部19bは、ボス部12cの内側に挿入されている。ボス部12cの内周面と第2軸部19bの外周面との間には、第2軸受22が設けられている。そして、第2軸部材19は、第2軸部19bが第2軸受22を介してボス部12cに支持されることにより、ハウジング11に回転可能な状態で支持されている。
【0032】
図2に示すように、ロータ15は、筒部材16と第1軸部材18とを溶接する溶接部としての第1溶接部30を備えている。筒部材16と第1軸部材18とは、第1溶接部30を介して接合されている。第1溶接部30は、筒部材16の第1端部16aの開口端面と第1フランジ部18cとの境界を接合するように形成されている。具体的には、第1溶接部30は、筒部材16の第1端部16aの開口端面と、第1フランジ部18cにおける筒部材16の軸線方向で筒部材16の第1端部16aの開口端面と対向する部位と、をそれぞれ溶融させて、溶融した部位同士が固化することで接合された部分である。よって、第1溶接部30は、筒部材16の軸線方向において、筒部材16の第1端部16aの開口端面と第1フランジ部18cとの境界を跨いだ両側に広がるように形成されており、筒部材16の第1端部16aと第1フランジ部18cとの間に配置されている。筒部材16の軸線方向における第1溶接部30の中央は、第1溶接部30によって筒部材16と第1フランジ部18cとを接合する前の筒部材16の第1端部16aの開口端面と第1フランジ部18cとの境界に対応している。
【0033】
筒部材16の軸線方向において、第1圧入部18a、第1小径部18b、及び第1溶接部30は、永久磁石17から筒部材16の第1端部16aに向けてこの順に並んで配置されている。つまり、第1圧入部18aは、第1溶接部30よりも永久磁石17から近い位置に配置されている。よって、第1小径部18bは、第1圧入部18aと第1溶接部30との間に配置されている。したがって、第1溶接部30は、筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aから離間している。
【0034】
ロータ15は、筒部材16と第2軸部材19とを溶接する溶接部としての第2溶接部31を備えている。筒部材16と第2軸部材19とは、第2溶接部31を介して接合されている。第2溶接部31は、筒部材16の内周面160と第2小径部19cの外周面とを接合するように形成されている。具体的には、第2溶接部31は、筒部材16の第2端部16bの開口縁における筒部材16の径方向で第2小径部19cと対向する部位と、第2小径部19cにおける筒部材16の径方向で筒部材16の第2端部16bの開口縁と対向する部位と、をそれぞれ溶融させて、溶融した部位同士が固化することで接合された部分である。よって、第2溶接部31は、筒部材16の第2端部16bと第2小径部19cとの間に配置されている。したがって、軸線方向において、第2圧入部19a、第2小径部19c、及び第2溶接部31は、永久磁石17から筒部材16の第2端部16bに向けてこの順に並んで配置されている。つまり、第2圧入部19aは、第2溶接部31よりも永久磁石17から近い位置に配置されている。よって、第2小径部19cは、第2圧入部19aと第2溶接部31との間に配置されている。したがって、第2溶接部31は、軸線方向で第2圧入部19aから離間している。
【0035】
次に、本実施形態の作用について説明する。
ここで、本発明者らは、例えば、第1溶接部30から第1圧入部18aに近づくにつれて、ロータ15の回転時に筒部材16に作用する応力が徐々に増大していくことを実験等によって見出した。図3では、第1溶接部30から、筒部材16における第1圧入部18aと筒部材16の径方向で対向する部位までの間のそれぞれの位置でロータ15の回転時に作用する応力を計測した結果を示している。
【0036】
図3の縦軸は、第1溶接部30から、筒部材16における第1圧入部18aと筒部材16の径方向で対向する部位までの間のそれぞれの位置でロータ15の回転時に作用する応力を示している。図3の横軸は、第1溶接部30から、筒部材16における第1圧入部18aと筒部材16の径方向で対向する部位までの間のそれぞれの位置を座標系で示している。座標「0」は、第1溶接部30に対応している。具体的には、座標「0」は、第1溶接部30によって筒部材16と第1フランジ部18cとを接合する前の筒部材16の第1端部16aの開口端面と第1フランジ部18cとの境界に対応している。したがって、座標「0」は、筒部材16の軸線方向において、第1溶接部30の中央に対応している。そして、図3では、座標が大きくなるにつれて、第1溶接部30から第1圧入部18aに近づくことを意味している。なお、図3では、筒部材16における第1圧入部18aの端面180aと筒部材16の径方向で重なる部位に対応する位置を、座標「8」としている。
【0037】
図3において実線L1で示すように、例えば、座標「0」から座標「1」までの間での応力は、極小値σminであり、その値は一定である。座標「1」に対応する筒部材16の部位は、第1溶接部30よりも第1圧入部18a寄りに位置する部位である。したがって、第1溶接部30全体が、座標「1」に対応する筒部材16の部位よりも筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aから離間している。そして、座標「1」から座標が大きくなっていき、座標「8」に近づくにつれて応力が徐々に大きくなっていく。したがって、座標「1」に対応する筒部材16の部位から第1圧入部18aに近づくにつれて、ロータ15の回転時に筒部材16に作用する応力が徐々に増大していく。
【0038】
ここで、第1軸部材18の第1圧入部18aが筒部材16の内周面160に圧入されていると、第1圧入部18aからの圧入応力が筒部材16に作用する。したがって、筒部材16において、筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aに近いほど、第1圧入部18aから筒部材16に作用した圧入応力が伝達し易くなっている。また、筒部材16には、ロータ15の回転時では、ロータ15の回転によって生じる遠心力に伴う応力も作用する。
【0039】
図3において実線L1で示すように、座標「1」から座標が大きくなるにつれて応力が徐々に大きくなっているため、座標「1」に対応する筒部材16の部位から第1圧入部18a側の部位では、第1圧入部18aから筒部材16に作用した圧入応力が作用していることが想定される。
【0040】
一方で、座標「0」から座標「1」までの間では、応力が極小値σminであり、その値は一定であるため、座標「1」に対応する筒部材16の部位から第1溶接部30までの間の部位では、第1圧入部18aから筒部材16に作用した圧入応力が作用しておらず、ロータ15の回転によって生じる遠心力に伴う応力のみが作用していることが想定される。
【0041】
このように、本実施形態では、第1小径部18bを、第1圧入部18aと第1溶接部30との間に配置して、第1溶接部30を、筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aから離間させ、ロータ15の回転時に作用する応力が極小値σminである座標「0」が第1溶接部30に対応するようにした。すなわち、第1溶接部30は、ロータ15の回転時に第1溶接部30に作用する応力が極小値σminとなるように筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aから離間している。これにより、第1圧入部18aから筒部材16に作用した圧入応力が第1溶接部30に伝達し難くなる。したがって、第1圧入部18aから筒部材16に作用した圧入応力が第1溶接部30に作用してしまうことが抑制されるため、第1溶接部30を介した第1軸部材18と筒部材16との接合強度の低下が抑制される。
【0042】
なお、第2溶接部31から筒部材16における第2圧入部19aと筒部材16の径方向で対向する部位までの間のそれぞれの位置でロータ15の回転時に作用する応力も、図3と同様な計測結果が得られる。したがって、第2溶接部31においても、第2小径部19cを、第2圧入部19aと第2溶接部31との間に配置して、第2溶接部31を、筒部材16の軸線方向で第2圧入部19aから離間させ、ロータ15の回転時に作用する応力が極小値σminである座標「0」が第2溶接部31に対応するようにした。すなわち、第2溶接部31は、ロータ15の回転時に第2溶接部31に作用する応力が極小値σminとなるように筒部材16の軸線方向で第2圧入部19aから離間している。これにより、第2圧入部19aから筒部材16に作用した圧入応力が第2溶接部31に伝達し難くなる。したがって、第2圧入部19aから筒部材16に作用した圧入応力が第2溶接部31に作用してしまうことが抑制されるため、第2溶接部31を介した第2軸部材19と筒部材16との接合強度の低下が抑制される。
【0043】
上記実施形態では以下の効果を得ることができる。
(1)第1溶接部30が筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aから離間しているため、第1圧入部18aから筒部材16に作用した圧入応力が第1溶接部30に伝達し難くなる。また、第2溶接部31が筒部材16の軸線方向で第2圧入部19aから離間しているため、第2圧入部19aから筒部材16に作用した圧入応力が第2溶接部31に伝達し難くなる。したがって、第1圧入部18aから筒部材16に作用した圧入応力が第1溶接部30に作用してしまうこと、及び第2圧入部19aから筒部材16に作用した圧入応力が第2溶接部31に作用してしまうことが抑制される。このため、第1溶接部30を介した第1軸部材18と筒部材16との接合強度の低下、及び第2溶接部31を介した第2軸部材19と筒部材16との接合強度の低下を抑制することができる。その結果、回転電機10のロータ15の信頼性を向上させることができる。
【0044】
(2)第1小径部18bが、筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aと第1溶接部30との間に配置されていることにより、筒部材16の設計を変更することなく、第1溶接部30を第1圧入部18aから離間することができる。また、第2小径部19cが、筒部材16の軸線方向で第2圧入部19aと第2溶接部31との間に配置されていることにより、筒部材16の設計を変更することなく、第2溶接部31を第2圧入部19aから離間することができる。
【0045】
(3)筒部材16と第1軸部材18とを溶接する第1溶接部30が、筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aから離間しているため、第1圧入部18aから筒部材16に作用した圧入応力が、筒部材16と第1軸部材18とを溶接する第1溶接部30に作用してしまうことが抑制される。したがって、負荷のかかり易い第1軸部材18において、第1溶接部30を介した第1軸部材18と筒部材16との接合強度の低下を抑制することができる。その結果、回転電機10のロータ15の信頼性を向上させることができる。
【0046】
(4)第1圧入部18aから筒部材16に作用した圧入応力が第1溶接部30に作用しないように第1溶接部30を筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aから離間させると、第1溶接部30には、ロータ15の回転によって生じる遠心力に伴う応力のみが作用するため、第1溶接部30に作用する応力が極小値となる。そこで、第1溶接部30を、ロータ15の回転時に第1溶接部30に作用する応力が極小値σminとなるように筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aから離間させた。これによれば、ロータ15が回転しても、第1溶接部30に作用する応力が、ロータ15の回転によって生じる遠心力に伴う応力のみとなるため、第1軸部材18と筒部材16との接合強度の低下をさらに抑制することができる。また、第2圧入部19aから筒部材16に作用した圧入応力が第2溶接部31に作用しないように第2溶接部31を筒部材16の軸線方向で第2圧入部19aから離間させると、第2溶接部31には、ロータ15の回転によって生じる遠心力に伴う応力のみが作用するため、第2溶接部31に作用する応力が極小値となる。そこで、第1溶接部30を、ロータ15の回転時に第1溶接部30に作用する応力が極小値σminとなるように筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aから離間させた。これによれば、ロータ15が回転しても、第1溶接部30に作用する応力が、ロータ15の回転によって生じる遠心力に伴う応力のみとなるため、第1軸部材18と筒部材16との接合強度の低下をさらに抑制することができる。その結果、回転電機10のロータ15の信頼性をさらに向上させることができる。
【0047】
(5)例えば、筒部材16と第1軸部材18を溶接する際に、溶接する部位に過大な圧入応力が作用していると、筒部材16の第1端部16aと第1フランジ部18cとがずれた状態で溶接されて、溶接不良が起こる虞がある。これに対して、溶接する部位を筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aから離間させると、溶接する部位に作用する圧入応力が低減される。その結果、筒部材16の第1端部16aと第1フランジ部18cとがずれ難くなるため、溶接不良が起こり難くなる。
【0048】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0049】
○ 実施形態において、第1軸部材18が第1小径部18bを有しておらず、例えば、筒部材16における第1圧入部18aが圧入される部分と第1溶接部30との間の部位の内径を大きくすることにより、第1溶接部30を、筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aから離間させてもよい。また、第2軸部材19が第2小径部19cを有しておらず、例えば、筒部材16における第2圧入部19aが圧入される部分と第2溶接部31との間の部位の内径を大きくすることにより、第2溶接部31を、筒部材16の軸線方向で第2圧入部19aから離間させてもよい。
【0050】
○ 実施形態において、磁性体としては、永久磁石17に限らず、例えば、積層コア、アモルファスコア、又は圧粉コア等であってもよい。
○ 実施形態において、第2軸部材19の第2軸部19bにおける第2小径部19cとは反対側の端部にもインペラ23が取り付けられる構成であってもよい。インペラ23は、第2軸部材19と一体回転可能である。よって、インペラ23は、第2軸部材19の回転が駆動力として伝達されることにより駆動する。したがって、インペラ23が取り付けられた第2軸部材19は、駆動力を出力する出力軸である。要は、第1軸部材18及び第2軸部材19のうちの少なくとも一つが、駆動力を出力する出力軸であればよい。
【0051】
○ 実施形態において、筒部材16は、例えば、ニッケル合金のような金属製でもよい。
○ 実施形態において、第1圧入部18aの端面180aと永久磁石17の端面17aとは、面接触していたが、第1圧入部18aの端面180aと永久磁石17の端面17aとは、離間していてもよい。また、第2圧入部19aの端面190aと永久磁石17の端面17bとは、面接触していたが、第2圧入部19aの端面190aと永久磁石17の端面17bとは、離間していてもよい。
【0052】
○ 実施形態において、ロータ15の回転時に第1溶接部30に作用する応力が極小値σminとなる位置であれば、第1溶接部30の位置を第1圧入部18aに近づけてもよい。例えば、第1溶接部30の中央が、図3において実線L1で示す座標「0」よりも座標「1」寄りに対応するようにしてもよい。このとき、第1溶接部30全体が、座標「1」に対応する筒部材16の部位よりも筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aから離間した状態を維持しつつも、第1溶接部30の位置を第1圧入部18aに近づける必要がある。
【0053】
○ 実施形態において、第1溶接部30の位置を、ロータ15の回転時に第1溶接部30に作用する応力が極小値σminよりも大きい応力となる位置に変更してもよい。例えば、第1溶接部30の中央が、図3において実線L1で示す座標「1」よりも第1圧入部18aに近い座標に対応するようにしてもよい。この場合、第1溶接部30が筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aから離間している必要がある。この場合であっても、例えば、第1溶接部30が筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aから離間しておらず、第1溶接部30が筒部材16の軸線方向で第1圧入部18aと連続している場合に比べると、第1圧入部18aから筒部材16に作用した圧入応力が第1溶接部30に伝達し難くなる。
【符号の説明】
【0054】
10…回転電機、15…ロータ、16…筒部材、17…磁性体である永久磁石、18…軸部材であるとともに出力軸である第1軸部材、18a…圧入部としての第1圧入部、18b…小径部としての第1小径部、19…軸部材としての第2軸部材、19a…圧入部としての第2圧入部、19c…小径部としての第2小径部、30…溶接部としての第1溶接部、31…溶接部としての第2溶接部。
図1
図2
図3